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特許7605138ジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/26 20060101AFI20241217BHJP
   C07D 215/12 20060101ALI20241217BHJP
   C07D 241/42 20060101ALI20241217BHJP
   C07D 237/30 20060101ALI20241217BHJP
   C07D 215/16 20060101ALI20241217BHJP
   C07D 277/64 20060101ALI20241217BHJP
   C07D 233/70 20060101ALI20241217BHJP
   C07D 213/84 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C07D213/26
C07D215/12
C07D241/42
C07D237/30
C07D215/16
C07D277/64
C07D233/70
C07D213/84
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021575816
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2021003821
(87)【国際公開番号】W WO2021157590
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2020019210
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】野村 好廷
(72)【発明者】
【氏名】安樂 英一郎
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-167047(JP,A)
【文献】LOSKA, R. et al.,Mendeleev Communications,2006年,Vol.16, No.3,pp.161-163
【文献】LOSKA,R. et al.,ORGANIC LETTERS,2013年,Vol.15, No.22,pp.5706-5709
【文献】LOSKA,R. et al.,Chem.Eur.J.,2008年,Vol.14,pp.2577-2589
【文献】MAILEY,E.A. et al.,The Journal of Organic Chemistry,1968年,Vol. 33, No. 8,pp.3343-3344
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素溶媒、エステル溶媒およびエーテル溶媒から選択される溶媒中、式(I):
【化1】
で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物を、テトラフルオロエチレンと反応させることを特徴とする、式(II):
【化2】
で表される部分構造を有するジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物の製造方法であって、
式(I)で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物が、式(IA)または(IB):
【化3】
[式中、
1a はCR 1a またはNを示し;
1b はCR 1b またはNを示し;
1c はCR 1c またはNを示し;
1d はCR 1d またはNを示し;
1a 、R 1b 、R 1c およびR 1d は、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C 1-6 アルキル基、C 1-6 ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C 1-6 アルコキシ基、C 1-6 ハロアルコキシ基、スルファニル基、C 1-6 アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C 1-6 アルキルアミノ基、ジ-C 1-6 アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C 1-6 アルコキシ-カルボニル基、C 6-10 アリール基またはC 7-16 アラルキル基を示すか、あるいはR 1a およびR 1b 、R 1b およびR 1c 、またはR 1c およびR 1d が一緒になって、ハロゲン原子、シアノ基、C 1-6 アルキル基、C 1-6 ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C 1-6 アルコキシ基、C 1-6 ハロアルコキシ基、スルファニル基、C 1-6 アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C 1-6 アルキルアミノ基、ジ-C 1-6 アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C 1-6 アルコキシ-カルボニル基、C 6-10 アリール基およびC 7-16 アラルキル基から選択される置換基で置換されていてもよいC 6-10 アレーンを形成してもよく;
2a はCR 2a 、N、NR 2a 、SまたはOを示し;
2b はCR 2b またはNを示し;
2c はCR 2c 、N、NR 2c 、SまたはOを示し;
2a 、R 2b およびR 2c は、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C 1-6 アルキル基、C 1-6 ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C 1-6 アルコキシ基、C 1-6 ハロアルコキシ基、スルファニル基、C 1-6 アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C 1-6 アルキルアミノ基、ジ-C 1-6 アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C 1-6 アルコキシ-カルボニル基、C 6-10 アリール基またはC 7-16 アラルキル基を示すか、あるいはR 2a およびR 2b 、またはR 2b およびR 2c が一緒になって、ハロゲン原子、シアノ基、C 1-6 アルキル基、C 1-6 ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C 1-6 アルコキシ基、C 1-6 ハロアルコキシ基、スルファニル基、C 1-6 アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C 1-6 アルキルアミノ基、ジ-C 1-6 アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C 1-6 アルコキシ-カルボニル基、C 6-10 アリール基およびC 7-16 アラルキル基から選択される置換基で置換されていてもよいC 6-10 アレーンを形成してもよい。]
で表されるN-オキシド芳香族複素環化合物である、製造方法
【請求項2】
反応が、100~300℃の範囲内で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
反応が、0.1~10.0MPaの範囲内で行われる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
反応が、pH5.0~8.0緩衝液の存在下で行われる、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
式(I)で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物が、式(IA)であり、かつ式中のR1aおよびR1b、R1bおよびR1c、またはR1cおよびR1dが一緒になって、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基およびC7-16アラルキル基から選択される置換基で置換されていてもよいC6-10アレーンを形成している、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
式(I)で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物が、式(IA)であり、かつ式中のR1a、R1b、R1cおよびR1dが、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基である、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
式(I)で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物が、式(IB)であり、かつ式中のR2aおよびR2b、またはR2bおよびR2cが一緒になって、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基およびC7-16アラルキル基から選択される置換基で置換されていてもよいC6-10アレーンを形成している、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
式(I)で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物が、式(IB)であり、かつ式中のR2a、R2bおよびR2cが、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基である、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素含有アルキル基置換芳香族複素環化合物、特にジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物は、医薬品または農薬品の合成中間体として有用である。
【0003】
フッ素含有アルキル基置換芳香族複素環化合物の製造法としては、
N,N-ジメチルホルムアミドおよび水中、1工程または2工程で、キノリンN-オキシドをヘキサフルオロプロペン(CF=CFCF)と室温で反応させることにより、2-(1,2,2,2-テトラフルオロエチル)キノリンを製造する方法(非特許文献1、スキーム5);
N,N-ジメチルホルムアミド中、キノリンN-オキシドをヘキサフルオロプロペン(CF=CFCF)と室温で反応させることにより、2-(1,2,2,2-テトラフルオロエチル)キノリンを製造する方法(非特許文献2、スキーム1および表1);
が知られている。
【0004】
いずれの文献にも、ジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物の製造や、テトラフルオロエチレン(CF=CF)との反応については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Chem. Eur. J. 2008, vol.14, pp2577-2589
【文献】Mendeleev Commun. 2006, pp 161-163
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、簡便かつ安価な方法で、収率よくジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の溶媒中、下記式(I)で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物をテトラフルオロエチレンと反応させることにより、1工程で、簡便かつ安価な方法で、副生物が少なくかつ収率よく下記式(II)で表される部分構造を有するジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]
芳香族炭化水素溶媒、エステル溶媒およびエーテル溶媒から選択される溶媒中、式(I):
【0009】
【化1】
【0010】
で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物(以下、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)ともいう)を、テトラフルオロエチレンと反応させることを特徴とする、式(II):
【0011】
【化2】
【0012】
で表される部分構造を有するジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物(以下、ジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物(II)ともいう)の製造方法。
[2]
反応が、100~300℃の範囲内で行われる、上記[1]に記載の製造方法。
[3]
反応が、0.1~10.0MPaの範囲内で行われる、上記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]
反応が、pH5.0~8.0緩衝液の存在下で行われる、上記[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
式(I)で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物が、式(IA)または(IB):
【0013】
【化3】
【0014】
[式中、
1aはCR1aまたはNを示し;
1bはCR1bまたはNを示し;
1cはCR1cまたはNを示し;
1dはCR1dまたはNを示し;
1a、R1b、R1cおよびR1dは、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基を示すか、あるいはR1aおよびR1b、R1bおよびR1c、またはR1cおよびR1dが一緒になって、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基およびC7-16アラルキル基から選択される置換基で置換されていてもよいC6-10アレーンを形成してもよく;
2aはCR2a、N、NR2a、SまたはOを示し;
2bはCR2bまたはNを示し;
2cはCR2c、N、NR2c、SまたはOを示し;
2a、R2bおよびR2cは、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基を示すか、あるいはR2aおよびR2b、またはR2bおよびR2cが一緒になって、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基およびC7-16アラルキル基から選択される置換基で置換されていてもよいC6-10アレーンを形成してもよい。]
で表されるN-オキシド芳香族複素環化合物(以下、N-オキシド芳香族複素環化合物(IA)または(IB)ともいう)である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
[6]
式(I)で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物が、式(IA)であり、かつ式中のR1aおよびR1b、R1bおよびR1c、またはR1cおよびR1dが一緒になって、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基およびC7-16アラルキル基から選択される置換基で置換されていてもよいC6-10アレーンを形成している、上記[5]に記載の製造方法。
【0016】
[7]
式(I)で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物が、式(IA)であり、かつ式中のR1a、R1b、R1cおよびR1dが、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基である、上記[5]に記載の製造方法。
【0017】
[8]
式(I)で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物が、式(IB)であり、かつ式中のR2aおよびR2b、またはR2bおよびR2cが一緒になって、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基およびC7-16アラルキル基から選択される置換基で置換されていてもよいC6-10アレーンを形成している、上記[5]に記載の製造方法。
【0018】
[9]
式(I)で表される部分構造を有するN-オキシド芳香族複素環化合物が、式(IB)であり、かつ式中のR2a、R2bおよびR2cが、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基である、上記[5]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特定の溶媒中、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)にテトラフルオロエチレンを流入するという簡便かつ安価な方法で、副生物が少なくかつ収率よく、しかも1工程で、ジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物(II)を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本明細書中で用いられる基の定義について詳述する。特記しない限り基は、以下の定義を有する。
【0021】
本明細書中、式で表される化合物を、「化合物」に式の番号を付して示す。例えば、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」と示す。
本明細書中「~」または「-」で表される数値範囲は、「~」または「-」の前後の数字を下限値または上限値とする数値範囲を意味する。
本明細書中、元素記号「C」に「-」の前後の数字で数値範囲を付したものを任意の基の名称に付して示す場合には、「-」の前後の数字を下限値または上限値とする整数個の炭素数である任意の基をそれぞれを示している。例えば、炭素数が1~3個であるアルキル基を「C1-3アルキル基」と示すことがあるが、これは、-CH、-C、-C等のそれぞれを示している。他の基についても同様である。
【0022】
本明細書中、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を意味する。
【0023】
本明細書中、「C1-6アルキル基」とは、炭素数1~6の、直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素基を意味する。「C1-6アルキル基」としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル等が挙げられ、C1-4アルキル基が好ましい。
【0024】
本明細書中、「C1-4アルキル基」とは、炭素数1~4の、直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素基を意味する。「C1-4アルキル基」としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチルが挙げられる。
【0025】
本明細書中、「C1-6アルコキシ基」とは、式R11O-(ここで、R11は、C1-6アルキル基を表す。)で表される基を意味する。「C1-6アルコキシ基」としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブチルオキシ、イソブチルオキシ、sec-ブチルオキシ、tert-ブチルオキシ、ペンチルオキシ、へキシルオキシ等が挙げられ、C1-4アルコキシ基が好ましい。
【0026】
本明細書中、「C1-6ハロアルキル基」とは、「C1-6アルキル基」中の水素原子の1個以上が、ハロゲン原子で置換された基を意味する。「C1-6ハロアルキル基」としては、例えば、フルオロメチル、2-フルオロエチル、3-フルオロプロピル、4-フルオロブチル、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、クロロメチル、2-クロロエチル、ブロモメチル、2-ブロモエチル、ヨードメチル、2-ヨードエチル等が挙げられ、トリフルオロメチルが好ましい。
【0027】
本明細書中、「C1-6ハロアルコキシ基」とは、「C1-6アルコキシ基」中の水素原子の1個以上が、ハロゲン原子で置換された基を意味する。「C1-6ハロアルコキシ基」としては、例えば、ブロモメトキシ、2-ブロモエトキシ、3-ブロモプロポキシ、4-ブロモブトキシ、ヨードメトキシ、2-ヨードエトキシ、3-ヨードプロポキシ、4-ヨードブトキシ、フルオロメトキシ、2-フルオロエトキシ、3-フルオロプロポキシ、4-フルオロブトキシ、トリブロモメトキシ、トリクロロメトキシ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、ペルフルオロエトキシ、ペルフルオロプロポキシ、ペルフルオロイソプロポキシ、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエトキシが挙げられる。
【0028】
本明細書中、「C1-6アルキルスルファニル基」とは、式R11S-(ここで、R11は、C1-6アルキル基を表す。)で表される基を意味する。「C1-6アルキルスルファニル基」としては、メチルスルファニル、エチルスルファニル、プロピルスルファニル、イソプロピルスルファニル、ブチルスルファニル、イソブチルスルファニル、sec-ブチルスルファニル、tert-ブチルスルファニル、ペンチルスルファニル、へキシルスルファニル等が挙げられ、C1-4スルファニル基が好ましい。
【0029】
本明細書中、「モノ-C1-6アルキルアミノ基」とは、式R11NH-(ここで、R11は、C1-6アルキル基を表す。)で表される基を意味する。「モノ-C1-6アルキルアミノ基」としては、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、ブチルアミノ、イソブチルアミノ、sec-ブチルアミノ、tert-ブチルアミノ、ペンチルアミノ、へキシルアミノ等が挙げられ、モノ-C1-4アルキルアミノ基が好ましい。
【0030】
本明細書中、「ジ-C1-6アルキルアミノ基」とは、式R11 N-(ここで、2つのR11は、それぞれ独立して、C1-6アルキル基を表す。)で表される基を意味する。「ジ-C1-6アルキルアミノ基」としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、N-エチル-N-メチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジブチルアミノ、ジイソブチルアミノ、ジsec-ブチルアミノ、ジtert-ブチルアミノ、ジペンチルアミノ、ジへキシルアミノ等が挙げられ、ジ-C1-4アルキルアミノ基が好ましい。
【0031】
本明細書中、「C1-6アルコキシ-カルボニル基」とは、式R11OC(=O)-(ここで、R11は、C1-6アルキル基を表す。)で表される基を意味する。「C1-6アルコキシ-カルボニル基」としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec-ブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、へキシルオキシカルボニル等が挙げられ、C1-4アルコキシ-カルボニル基が好ましい。
【0032】
本明細書中、「C6-10アリール基」とは、炭素数6~10の、芳香族性を有する炭化水素基を意味する。「C6-10アリール基」としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチルが挙げられ、フェニルが好ましい。
【0033】
本明細書中、「C7-16アラルキル基」とは、「C6-10アリール基」で置換された「C1-6アルキル基」を意味する。「C7-16アラルキル基」としては、ベンジル、1-フェニルエチル、2-フェニルエチル、3-フェニルプロピル、4-フェニルブチル、(1-ナフチル)メチル、(2-ナフチル)メチル等が挙げられ、ベンジルが好ましい。
【0034】
本明細書中、「C6-10アレーン」とは、炭素数6~10の、芳香族性を有する炭化水素環を意味する。「C6-10アレーン」としては、ベンゼンおよびナフタレンが挙げられ、ベンゼンが好ましい。
本明細書中、「置換されていてもよいC6-10アレーン」の置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基およびC7-16アラルキル基が挙げられる。
【0035】
以下、本発明の製造方法を説明する。
本発明では、ジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物(II)は、芳香族炭化水素溶媒、エステル溶媒およびエーテル溶媒から選択される溶媒中、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)を、テトラフルオロエチレンと反応させることにより製造される。その反応機構は、例えばプロトン源が存在し、それが水である場合は、以下の通りである。
【0036】
【化4】
【0037】
N-オキシド芳香族複素環化合物(I)の具体例としては、以下のN-オキシド芳香族複素環化合物(IA)および(IB)が挙げられる。
【0038】
【化5】
【0039】
[式中、
1aはCR1aまたはNを示し;
1bはCR1bまたはNを示し;
1cはCR1cまたはNを示し;
1dはCR1dまたはNを示し;
1a、R1b、R1cおよびR1dは、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基を示すか、あるいはR1aおよびR1b、R1bおよびR1c、またはR1cおよびR1dが一緒になって、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基およびC7-16アラルキル基から選択される置換基で置換されていてもよいC6-10アレーンを形成してもよく;
2aはCR2a、N、NR2a、SまたはOを示し;
2bはCR2bまたはNを示し;
2cはCR2c、N、NR2c、SまたはOを示し;
2a、R2bおよびR2cは、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基を示すか、あるいはR2aおよびR2b、またはR2bおよびR2cが一緒になって、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基およびC7-16アラルキル基から選択される置換基で置換されていてもよいC6-10アレーンを形成してもよい。]
1a、R1b、R1cおよびR1dは、好ましくは、独立してそれぞれ、水素原子、シアノ基またはC1-6アルキル基であるか、あるいはR1aおよびR1b、R1bおよびR1c、またはR1cおよびR1dが一緒になって、C1-6アルコキシ-カルボニル基で置換されていてもよいC6-10アレーンを形成してもよい。
2a、R2bおよびR2cは、好ましくは、独立してそれぞれ、水素原子、C1-6アルキル基またはC7-16アラルキル基であるか、あるいはR2aおよびR2b、またはR2bおよびR2cが一緒になって、C6-10アレーンを形成してもよい。
【0040】
式(IB)において、結合R2a-R2bおよび結合R2b-R2cの一方が単結合であり、他方が二重結合である。但し、X2aがSまたはOのとき、結合R2a-R2bが単結合であり、結合R2b-R2cが二重結合である。また、X2cがSまたはOのとき、結合R2a-R2bが二重結合であり、結合R2b-R2cが単結合である。
【0041】
N-オキシド芳香族複素環化合物(IA)の具体例としては、以下のN-オキシド芳香族複素環化合物(IA-a)~(IA-e)が挙げられる。
【0042】
【化6】
【0043】
[式中の各記号は前記と同義である。]
中でも、(IA-a)、(IA-b)、(IA-d)が好ましい。
N-オキシド芳香族複素環化合物(IA)の好適な具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0044】
【化7】
【0045】
[式中、
1aa、R1bb、R1ccおよびR1ddは、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基を示し;
n個のR1eeは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基を示し;
nは、0~4の整数を示す。]
1aa、R1bb、R1ccおよびR1ddは、好ましくは、独立してそれぞれ、水素原子、シアノ基またはC1-6アルキル基であり;
n個のR1eeは、好ましくは、独立してそれぞれ、C1-6アルコキシ-カルボニル基であり;
nは、0または1である。
【0046】
N-オキシド芳香族複素環化合物(IB)の具体例としては、以下のN-オキシド芳香族複素環化合物(IB-a)~(IB-ff)が挙げられる。
【0047】
【化8】
【0048】
【化9】
【0049】
[式中の各記号は前記と同義である。]
中でも、(IB-e)、(IB-u)、(IB-w)が好ましい。
N-オキシド芳香族複素環化合物(IB)の好適な具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0050】
【化10】
【0051】
[式中、R2aa、R2bbおよびR2ccは、独立してそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基を示し;
n個のR2eeは、独立してそれぞれ、ハロゲン原子、シアノ基、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、スルファニル基、C1-6アルキルスルファニル基、アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリール基またはC7-16アラルキル基を示し;
nは、0~4の整数を示す。]
2aa、R2bbおよびR2ccは、好ましくは、独立してそれぞれ、水素原子、C1-6アルキル基またはC7-16アラルキル基であり;
nは、0である。
【0052】
N-オキシド芳香族複素環化合物(I)は、市販品を使用してもよく、あるいは自体公知の方法で製造することもできる。
【0053】
テトラフルオロエチレン(CF=CF)は、公知の方法で製造することができる。テトラフルオロエチレンは大気圧下、室温で気体であるため、流入により反応系に添加される。この際、窒素ガスで希釈したテトラフルオロエチレンを流入してもよい。テトラフルオロエチレンの使用量は、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)1モルに対して、通常1~100モル、好ましくは1~10モルである。
【0054】
当該反応はプロトン源を利用して行われ、プロトン源は、反応の開始時点から存在してもよく、反応の途中で添加してもよく、反応過程で発生した化合物(例えばフッ化水素)であってもよいが、反応速度の観点からは、反応の開始時点から存在するのが好ましい。
プロトン源としては、無機酸、有機酸、水などが挙げられ、具体的には、フッ化水素、塩化水素、アンモニウム塩、水、緩衝溶液などが挙げられる。中でも水、フッ化水素が好ましい。また、水は原料のN-オキシド芳香族複素環化合物(I)に水和している水分子でもよい。フッ化水素は、反応過程で発生するフッ化水素分子でもよい。
プロトン源の使用量は、適宜選択可能であるが、例えば前記水や緩衝溶液の場合は、後述する溶媒に対して0.05~0.5倍容量であるのが好ましい。また、プロトン源が例えば前記水和している水分子である場合は、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)1モルに対して、1~10モルが好ましい。また、プロトン源が例えば前記反応過程で発生するフッ化水素分子である場合は、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)1モルに対して、1モルが好ましい。
【0055】
当該反応は、添加剤存在下で実施しても良い。
【0056】
当該反応は、芳香族炭化水素溶媒、エステル溶媒およびエーテル溶媒から選択される溶媒下で行われる。当該溶媒を使用することにより、テトラフルオロエチレンを良好に溶解でき、副生物が少なくかつ収率よくジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物(II)を製造できる。
芳香族炭化水素溶媒としては、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン等が挙げられる。
エステル溶媒としては、酢酸ブチル、酢酸オクチル等が挙げられる。
エーテル溶媒としては、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。
当該反応で使用される溶媒は、反応温度の点から、80℃以上の沸点を有する溶媒であることが好ましく、100℃以上の沸点を有する溶媒であることがより好ましく、110℃以上の沸点を有する溶媒であることが特に好ましい。このような溶媒としては、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、酢酸ブチル、酢酸オクチル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられ、中でも、トルエン、キシレン、酢酸ブチルが好ましい。
溶媒の使用量は、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)に対して、通常100~1000倍容量、好ましくは100~200倍容量である。
【0057】
反応は、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)、プロトン源および溶媒の混合物に、流通系でテトラフルオロエチレンを流入しながら行ってもよく、あるいはN-オキシド芳香族複素環化合物(I)、プロトン源および溶媒の混合物にテトラフルオロエチレンを流入した後、密閉系で行ってもよい。反応効率、収率および副生物低減の点から、反応は密閉系で行うことが好ましく、0.1~100.0MPaの範囲内、特に0.1~10.0MPaの範囲内で行うのが好ましい。
N-オキシド芳香族複素環化合物(I)が式(IA)であり、かつR1aおよびR1b、R1bおよびR1c、またはR1cおよびR1dが一緒になって上記C6-10アレーンを形成している場合は、反応が進みやすく、かつ反応速度が上がる点から、0.1~10.0MPaの範囲内、更には0.1~1.0MPaの範囲内、特に0.1~0.5MPaの範囲内の加圧下で行うのがよい。
一方、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)が式(IA)であり、かつ上記C6-10アレーンを形成していない場合は、上記圧力範囲でもよく、反応時間が短くなる点から、0.1~30.0MPaの範囲内、更には1.5~3.0MPaの範囲内、特に2.0~2.5MPaの範囲内の加圧下で行うのもよい。
テトラフルオロエチレンの流入前には、予め反応系を脱気しておくことが好ましい。また、反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0058】
当該反応は、pH5.0~8.0緩衝液の存在下で行うことが好ましく、pH5.0~7.0の緩衝液の存在下で行うことがより好ましい。これにより副生物の生成が低減され、収率が向上する。当該緩衝液としては、リン酸緩衝溶液(pH7.0~7.5)が挙げられる。当該緩衝液の使用量は、例えば、リン酸緩衝溶液(pH7.0~7.5)の場合、上記溶媒に対して0.05~0.5倍容量であるのが好ましい。
【0059】
反応は、通常100℃以上、好ましくは100~300℃の範囲内で行うのが好ましい。
N-オキシド芳香族複素環化合物(I)が式(IA)であり、かつR1aおよびR1b、R1bおよびR1c、またはR1cおよびR1dが一緒になって上記C6-10アレーンを形成している場合は、反応が進みやすい点から、100~200℃の範囲内、特に100~150℃の範囲内で行うのがよい。
一方、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)が式(IA)であり、かつ上記C6-10アレーンを形成していない場合は、上記温度範囲でもよく、反応が進みやすい点から、200~300℃の範囲内、特に200~250℃の範囲内で行うのもよい。
【0060】
反応時間は、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)の種類や反応温度にもよるが、通常12~120時間、好ましくは24~48時間である。
【0061】
反応終了後、常法に従って、反応混合物から濃縮、晶出、再結晶、蒸留、溶媒抽出、分溜、クロマトグラフィー等の分離手段により、目的とするジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物(II)を単離および/または精製できる。
【0062】
テトラフルオロエチレンとN-オキシド芳香族複素環化合物(I)を反応させる容器としては、反応に悪影響を与えない範囲で特に制限はなく、例えば金属製容器等を用いることができる。なお、本発明は反応条件下、気体状態のオレフィンを扱うので、気密が可能な耐圧容器が好ましい。また反応進行と共に生成する化合物が、反応容器の金属と反応することで反応阻害剤となるおそれがあるため、PFAなどで樹脂ライニング、もしくはグラスライニングされている容器が好ましい。
【0063】
このようにして得られたジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物(II)は、医薬品または農薬品の合成中間体として有用であり、種々の医薬品または農薬品に導くことができる。
【実施例
【0064】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
[分析方法]
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。核磁気共鳴スペクトル(NMR)は、日本電子社製JNM-AL300を用いて測定した。H-NMRは、テトラメチルシランを基準として300MHzで測定した。
質量分析(LC-MS)は、アジレント・テクノロジー社製の液体クロマトグラフマススペクトルシステム(LCMS6120B)を用いて測定した。質量分析(GC-MS)は、株式会社島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP5000V2またはGCMS-QP2010Ultra)を用いて、電子イオン化法(EI)により求めた。
【0065】
実施例1
【0066】
【化11】
【0067】
容積が25cmのPFAでライニングされたSUS製リアクターに、トルエン(10ml)と水(1ml)を加えて攪拌し、25℃に保った。その後、キノリンN-オキシド(109mg、0.751mmol、化合物1)を入れて、真空減圧脱気を行った。窒素ガスで50%に希釈したテトラフルオロエチレンを反応器圧力が0.1MPaになるまで流入したのちに、140℃で48時間加熱攪拌し続けた。反応終了後の粗液のH-NMRおよびGC-MSを測定して、化合物2を33%の収率で得た。
上記化合物(2)のH-NMRおよびGC-MSを以下に示す。
H-NMR(CDCl)δ 8.34 (d, 1H), 8.15 (d, 1H), 7.90 (d, 1H), 7.80 (dd, 1H), 7.74 (d, 1H), 7.65 (dd, 1H), 6.79 (t, 1H)
GC-MS(EI):[M+]=179
【0068】
実施例2
【0069】
【化12】
【0070】
容積が25cmのSUS製リアクターに、酢酸ブチル(10ml)と、りん酸二水素ナトリウム(NaHPO)とりん酸水素二ナトリウム(NaHPO)で調製した0.1mol/l、pH7.0りん酸緩衝液(1ml)を加えて攪拌し、25℃に保った。その後、キノリンN-オキシド(109mg、0.751mmol、化合物1)を入れて、真空減圧脱気を行った。窒素ガスで50%に希釈したテトラフルオロエチレンを反応器圧力が0.1MPaになるまで流入したのちに、140℃で150時間加熱攪拌し続けた。反応終了後の粗液をH-NMRで定量したところ、化合物2を43%の収率で得た。
【0071】
比較例1
【0072】
【化13】
【0073】
容積が25cmのSUS製リアクターに、DMF(10ml)と水(1ml)を加えて攪拌し、25℃に保った。その後、キノリンN-オキシド(109mg、0.751mmol、化合物1)を入れて、真空減圧脱気を行った。窒素ガスで50%に希釈したテトラフルオロエチレンを反応器圧力が0.1MPaになるまで流入したのちに、140℃で48時間加熱攪拌し続けた。反応終了後の粗液をH-NMRで定量したところ、化合物2を与えず、化合物3を56%の収率で得た。化合物3の構造決定は富士フイルムワコーケミカル(株)より購入した化合物3とのスペクトル一致を確認することで行った。
【0074】
参考例1
【0075】
【化14】
【0076】
トルエンと水を無くして、無溶媒条件下に変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様にして化合物1から化合物2および3を含む粗液を得た。反応終了後の粗液のH-NMRおよびGC-MSを測定して、化合物2を13%の収率で得た。
【0077】
実施例3
【0078】
【化15】
【0079】
トルエンと水を酢酸ブチルに変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様にして化合物4から化合物5を含む粗液を得た。反応終了後の粗液のH-NMRおよびGC-MSを測定して、化合物5を62%の収率で得た。なお、本実施例では、化合物4の水和体原料を用いた。
上記化合物(5)のH-NMRおよびGC-MSを以下に示す。
H-NMR(CDCl)δ 9.19 (s, 1H), 8.14 - 8.23(m, 2H), 7.84 - 7.91 (m, 2H), 6.84 (t,1H)
GC-MS(EI):[M+]=180
【0080】
実施例4
【0081】
【化16】
【0082】
トルエンと水を酢酸ブチルに変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様にして化合物6から化合物7を含む粗液を得た。反応終了後の粗液のH-NMRおよびGC-MSを測定して、化合物7を56%の収率で得た。なお、本実施例では、化合物6の水和体原料を用いた。
上記化合物(7)のH-NMRおよびGC-MSを以下に示す。
H-NMR(CDCl)δ 9.62 (s, 1H), 8.22(m, 2H), 8.08 (m, 2H), 7.28 (t,1H)
GC-MS(EI):[M+]=180
【0083】
実施例5
【0084】
【化17】
【0085】
容積が300cmのPFAでライニングされたSUS製リアクターに、キシレン(30ml)と水(3ml)を加えて攪拌し、25℃に保った。その後、ピリジンN-オキシド(336.4mg、3.54mmol、化合物8)を入れて、凍結脱気を行った。窒素ガスで50%に希釈したテトラフルオロエチレンを反応器圧力が0.3MPaになるまで流入したのちに、250℃で8時間加熱攪拌し続けた。反応終了後の粗液のGC-MSを測定して、化合物9を49%の収率で得た。構造同定は、富士フイルムワコーケミカル(株)より購入した化合物9とのスペクトル一致を確認することで行った。
GC-MS(EI):[M+]=129
【0086】
実施例6
【0087】
【化18】
【0088】
実施例1に記載の方法と同様にして化合物10から化合物11を含む粗液を得た。反応終了後の粗液のH-NMRおよびLC-MSを測定して、化合物11を78%の収率で得た。
上記化合物(11)のH-NMRおよびLC-MSを以下に示す。
H-NMR(CDCl)δ 8.63 (d, 1H), 8.34-8.43(m, 2H), 8.18 (d, 1H), 7.79 (d,1H), 6.78 (t,1H), 4.02(s,3H)
LC-MS:[M+1]=238
【0089】
実施例7
【0090】
【化19】
【0091】
トルエンをキシレンに変えた以外は、実施例1に記載の方法と同様にして化合物12から化合物13を含む粗液を得た。反応終了後の粗液のH-NMRおよびGC-MSを測定して、化合物13を60%の収率で得た。
上記化合物(13)のH-NMRおよびGC-MSを以下に示す。
H-NMR(DMSO)δ 7.38-7.70 (m, 3H), 8.20(m, 1H), 8.26 (m, 1H)
GC-MS(EI):[M+]=186
【0092】
実施例8
【0093】
【化20】
【0094】
実施例1に記載の方法と同様にして化合物14から化合物15と16を含む粗液を得た。反応終了後の粗液のH-NMRおよびLC-MSを測定して、化合物15を38%の収率で得た。
上記化合物(15)のH-NMRおよびLC-MSを以下に示す。
H-NMR(CDCl)δ 7.27-7.39 (m, 5H), 6.70 (t, J = 52.9 Hz, 1H), 5.27 (s, 2H), 2.19 (s, 3H), 1.98 (s, 3H)
LC-MS:[M+1]=237
【0095】
実施例9
【0096】
【化21】
【0097】
実施例1に記載の方法と同様にして化合物17から化合物18を含む粗液を得た。反応終了後の粗液のH-NMRおよびGC-MSを測定して、化合物18を26%の収率で得た。
上記化合物(18)のH-NMRおよびGC-MSを以下に示す。
H-NMR(CDCl)δ 8.55 (d, 1H), 7.62(s, 1H), 7.39 (d, 1H), 6.64 (t,1H), 1.34 (s,9H)
GC-MS(EI):[M+]=185
【0098】
実施例10
【0099】
【化22】
【0100】
実施例1に記載の方法と同様にして化合物19から化合物20を含む粗液を得た。反応終了後の粗液のH-NMRおよびGC-MSを測定して、化合物20を20%の収率で得た。
上記化合物(20)のH-NMRおよびGC-MSを以下に示す。
H-NMR(CDCl)δ 8.87 (d, 1H), 7.88(s, 1H), 7.73-7.59 (m, 1H), 6.68 (t,1H)
GC-MS(EI):[M+]=154
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、特定の溶媒中、N-オキシド芳香族複素環化合物(I)にテトラフルオロエチレンを流入するという簡便かつ安価な方法で、副生物が少なくかつ収率よく、しかも1工程で、ジフルオロメチル置換芳香族複素環化合物(II)を製造できる。
【0102】
本出願は、日本で2020年2月6日に出願された特願2020-019210号を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含される。