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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20241217BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20241217BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/22
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022008742
(22)【出願日】2022-01-24
(65)【公開番号】P2023107507
(43)【公開日】2023-08-03
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 堅滋
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-106477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するインバータと、
前記インバータが有する複数のスイッチング素子の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記複数のスイッチング素子のうち直列接続された上下アームのスイッチン素子が同時にオフ状態となるデッドタイムにおいて前記モータの電圧指令値を補正するデッドタイム補正制御を実行するモータ駆動装置であって、
前記制御部は、
前記デッドタイム補正制御を実行する際、前記モータの電流指令値を用いて前記モータの相電流を推定するとともに、その推定された前記相電流の推定値に基づいて前記電圧指令値の補正量を決定し、
前記モータの相電流を推定する際、下記式(1)により算出される電流のリプル量を前記モータの電流指令値に加算し、その加算した値を前記相電流の推定値とする
ことを特徴とするモータ駆動装置。
電流のリプル量=インバータの電圧÷モータのインダクタンス×(キャリア周期/2)・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インバータにおける複数のスイッチング素子のうち直列接続された上下アームのスイッチング素子が同時にオフ状態となるデッドタイムにおいて、電圧指令値と実電圧との差を補償するために、電圧指令値を補正するデッドタイム補正制御を実行することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2021/171679号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、デッドタイム補正制御時にスイッチング素子を制御するための指令信号を生成する際、モータの相電流を検出する電流センサにより検出した三相検出電流を用いて演算を行う。しかしながら、モータの相電流はモータのトルクや回転数に依存して変化する。そのため、その検出値である三相検出電流を用いたデッドタイム補正制御では、正確な補正を行うことができない虞がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、デッドタイムにおける補正制御をより正確に行うことができるモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、モータを駆動するインバータと、前記インバータが有する複数のスイッチング素子の動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記複数のスイッチング素子のうち直列接続された上下アームのスイッチン素子が同時にオフ状態となるデッドタイムにおいて前記モータの電圧指令値を補正するデッドタイム補正制御を実行するモータ駆動装置であって、前記制御部は、前記デッドタイム補正制御を実行する際、前記モータの電流指令値を用いて前記モータの相電流を推定するとともに、その推定された前記相電流の推定値に基づいて前記電圧指令値の補正量を決定することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、デッドタイム補正制御において、電流指令値に基づいて推定した値を用いて電圧指令値の補正量を決定するので、モータのトルクや回転数に依存することなく電圧指令値を補正することができる。
【0008】
また、前記制御部は、前記モータの相電流を推定する際、下記式(1)により算出される電流のリプル量を前記モータの電流指令値に加算し、その加算した値を前記相電流の推定値としてもよい。
電流のリプル量=インバータの電圧÷モータのインダクタンス×(キャリア周期/2)・・・(1)
【0009】
この構成によれば、相電流を推定する際、電流リプルを考慮した推定値を算出することができる。そのため、相電流の推定値がリプル量を含むものとなり、その推定値を用いて電圧指令値の補正量を決定することによって、より正確なデッドタイム補正制御を実施することが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、デッドタイム補正制御において、電流指令値に基づいて推定した相電流の推定値を用いて電圧指令値の補正量を決定する。これにより、モータのトルクや回転数に依存することなく、より正確なデッドタイム補正制御を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態におけるモータ駆動装置を模式的に示す図である。
図2図2は、制御部の機能構成を模式的に示す図である。
図3図3は、デッドタイム中に正電流が流れることによる電圧降下を説明するための図である。
図4図4は、デッドタイム中に負電流が流れることによる電圧上昇を説明するための図である。
図5図5は、デッドタイム補正制御を実施する際の相電流と相電圧との関係を示す図である。
図6図6は、電流指令値と電流リプルとにより相電流を推定することを説明するための図である。
図7図7は、相電流の推定値を用いてデッドタイム補正制御を実施した際の電流波形を示す図である。
図8図8は、比較例におけるデッドタイム補正制御時の各波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態におけるモータ駆動装置について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
図1は、実施形態におけるモータ駆動装置を模式的に示す図である。モータ駆動装置1は、直流電源2と、インバータ3と、モータ4と、制御部5とを備える。また、モータ駆動装置1の電気回路には、平滑コンデンサCが設けられている。
【0014】
直流電源2は、充放電が可能な直流電源である。この直流電源2は、例えばニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池により構成されている。直流電源2はインバータ3側に電力を放電し、あるいはインバータ3側から供給される電力を充電する。力行時には、直流電源2に蓄えられた電力をモータ4に供給することができる。回生時には、モータ4が発電機として機能するため、モータ4で発電された電力を直流電源2に充電することができる。
【0015】
インバータ3は、直流電源2から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ4に供給する電力変換装置である。このインバータ3は三相の電流をモータ4のコイルに通電できるよう、複数のスイッチング素子を有するインバータ回路によって構成されている。インバータ回路は相ごとにスイッチング素子およびダイオードを備え、スイッチング素子がスイッチング動作することによって直流電力を交流電力に変換する。スイッチング動作は、スイッチング素子のONとOFFとを切り替わることである。スイッチング素子は絶縁ゲート型バイポーラトランジスタにより構成される。
【0016】
このインバータ3は、各相(U相、V相、W相)の上下アーム3a,3b,3cを構成する六つの半導体素子モジュールによって構成される。各相の上下アーム3a,3b,3cは、それぞれに二つのスイッチング素子と二つのダイオードとを備える。
【0017】
U相の上下アーム3aは、スイッチング素子T1とダイオードD1とが並列に接続された上アーム31と、スイッチング素子T2とダイオードD2とが並列に接続された下アーム32とによって構成される。上アーム31と下アーム32とは直列接続されており、その接続点にモータ4のU相コイルが接続されている。
【0018】
V相の上下アーム3bは、スイッチング素子T3とダイオードD3とが並列に接続された上アーム33と、スイッチング素子T4とダイオードD4とが並列に接続された下アーム34bとによって構成される。上アーム33と下アーム34とは直列接続されており、その接続点にモータ4のV相コイルが接続されている。
【0019】
W相の上下アーム3cは、スイッチング素子T5とダイオードD5とが並列に接続された上アーム35と、スイッチング素子T6とダイオードD6とが並列に接続された下アーム36とによって構成される。上アーム35と下アーム36とは直列接続されており、その接続点にモータ4のW相コイルが接続されている。
【0020】
モータ4は、インバータ3から供給される電力によって駆動する。このモータ4はインバータ3を介して直流電源2と電気的に接続されている。また、モータ4は三相のコイル(U相、V相、W相のコイル)を介してインバータ3と電気的に接続されている。この三相のコイルに電流が流れることによってモータ4が駆動する。また、モータ4は電動機としてだけではなく発電機としても機能する。そして、モータ4は車両に搭載された場合には走行用動力源として機能する。
【0021】
制御部5は、インバータ3の動作を制御する電子制御装置によって構成される。この電子制御装置は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェースを備えたマイクロコンピュータを含んで構成されている。制御部5はROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。制御部5には各種センサからの信号が入力される。制御部5に入力される信号として、モータ4の相電流を検出する電流センサからの相電流と、モータ4の回転角を検出する回転角センサからの回転角などを挙げることができる。そして、制御部5は各種センサから入力された信号に基づいて各種の制御を実行する。例えば制御部5は回転角センサから入力されたモータ4の回転角に基づいてモータ4の電気角と電気角速度と回転数とを演算する。
【0022】
また、制御部5はインバータ3の動作を制御する際、インバータ3のスイッチング素子を制御するための信号をインバータ3に出力する。この信号には、複数のスイッチング素子のうち制御対象となるスイッチング素子のオン状態とオフ状態とを切り替えるためのゲート信号が含まれる。このように制御部5はインバータ3を制御することによってモータ4に印加する電圧および電流を制御する。そして、制御部5がゲート信号を生成する際の機能構成が図2に例示されている。
【0023】
図2は、制御部の機能構成を模式的に示す図である。制御部5は、d軸電流指令値idcomおよびq軸電流指令値iqcomに基づいて各相の電圧指令値Vu,Vv,Vwを生成し、その電圧指令値に応じたゲート信号を生成してインバータ(INV)3に出力する。
【0024】
この制御部5は、電流指令生成部と、3相/dq軸変換部と、PI制御部と、dq軸/3相変換部と、加算器と、電圧指令補正部10と、PWM信号変換部と、を備える。
【0025】
電流指令生成部は、トルク指令値に応じたd軸電流指令値idcomおよびq軸電流指令値iqcomを生成してPI制御部に出力する。トルク指令値はアクセル開度と車速とに基づいて算出される。例えば、別の制御装置により算出されたトルク指令値が制御部5に入力されるように構成されている。
【0026】
3相/dq軸変換部は、V相電流ivおよびW相電流iwをモータ4の電気角に基づいてd軸電流idおよびq軸電流iqに変換してPI制御部に出力する。3相/dq軸変換部には、電流センサで検出したモータ4のV相電流ivおよびW相電流iwが入力されるとともに、回転角センサで検出したモータ4の回転角に基づいて演算されたモータ4の電気角が入力される。3相/dq軸変換部は電流フィードバック系として機能する。
【0027】
PI制御部は、d軸電流指令値idcomとd軸電流idとの偏差、およびq軸電流指令値iqcomとq軸電流iqとの偏差に応じて、所定ゲインによるPI演算(比例積分演算)を行ってd軸電圧指令値Vdcomおよびq軸電圧指令値Vqcomを出力する。このPI制御部にはフィードバック情報としてd軸電流idおよびq軸電流iqが3相/dq軸変換部から入力される。そして、PI制御部は電流指令値に対する実測値の偏差を算出して、d軸電圧指令値Vdcomおよびq軸電圧指令値Vqcomをdq軸/3相変換部に出力する。
【0028】
dq軸/3相変換部は、d軸電圧指令値Vdcomおよびq軸電圧指令値Vqcomと、モータ4の電気角速度とに基づいて三相の電圧指令値Vu,Vv,Vwを生成する。三相の電圧指令値Vu,Vv,Vwはdq軸/3相変換部から加算器に出力される。
【0029】
加算器は、dq軸/3相変換部から入力される三相の電圧指令値Vu,Vv,Vwに、電圧指令補正部10から入力される補正値を加算してPWM信号変換部に出力する。
【0030】
PWM信号変換部は、加算器から入力された三相の電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいて、インバータ3の各相スイッチング素子におけるゲート信号を生成する。そして、PWM信号変換部は各相のゲート信号をインバータ3に出力する。
【0031】
電圧指令補正部10は、デッドタイム補正を行う補正部である。インバータ3では上下アームの短絡を防止するために、上下アームを構成するスイッチング素子が同時にオフとなる期間(デッドタイム)が設定される。デッドタイム中におけるインバータ3の出力電圧は、インバータ3を流れる電流により決まる。そのため、デッドタイム中には、図3および図4に示すように、電圧指令値と出力電圧とに差が発生する。図3に示すように、デッドタイムにおいて相電流が正方向に流れる場合、電圧指令値に対して相電圧が下がる。図4に示すように、デッドタイムにおいて相電流が負方向に流れる場合には、電圧指令値に対して相電圧が上がる。これを補正するために、制御部5はデッドタイム補正制御を実行する。つまり、制御部5は、複数のスイッチング素子のうち直列接続された上下アームのスイッチン素子が同時にオフ状態となるデッドタイムにおいて電圧指令値を補正するデッドタイム補正制御を実行する。そして、デッドタイム中は、図3および図4に示すように、相電流が流れる方向に応じて相電圧の変化方向が決まるため、補正制御としては、図5に示すように、相電流が流れる方向に応じて電圧指令値を増加もしくは減少させる補正を行うことにより、相電圧を適切な値(狙いの電圧)に制御することが可能である。図5では、補正を実施した場合と、補正を実施しない場合とが比較のために例示されている。
【0032】
図5に示す例では、補正を実施しない場合、細い実線で示す「狙いの電圧」を出力電圧として得たい際に、その「狙いの電圧」をそのまま電圧指令値して電圧が制御される。しかしながら、図3および図4に示すようにデッドタイム中は、電圧指令値に対して出力電圧が乖離する。そのため、未補正の場合には、図5に破線で示す出力電圧となる。このように本来の狙いとは異なる電圧が出力される。
【0033】
そこで、電圧指令補正部10は、デッドタイム補正制御において相電流が流れる方向に応じて電圧指令値の補正量を決定する。例えば図5に示す「狙いの電圧」を出力電圧として得たい場合、図3および図4に示すデッドタイム中の電圧変化を考慮して、図5に太い実線で示す「補正後の電圧指令」を電圧指令値として生成する。制御部5では、デッドタイム中、狙いの電圧を出力電圧に得るために、相電流が正方向に流れる際には補正後の電圧指令値が狙いの電圧よりも大きい値に補正された状態となり、相電流が負方向に流れる際には補正後の電圧指令値が狙いの電圧よりも小さい値に補正された状態となる。これを実現するために、電圧指令補正部10は電圧指令値の補正量を加算器に出力する。なお、図3および図4には、V相の相電流に関する内容と、V相の上アーム33と下アーム34とが両方ともOFFとなる状態が例示されている。
【0034】
具体的には、電圧指令補正部10は、デッドタイム中に相電流が正方向に流れる場合、電圧指令値の補正量を正の値に決定する。そして、制御部5は電圧指令値に正の補正量を加算して、補正後の電圧指令値を補正前よりも大きな値にする。また、電圧指令補正部10は、デッドタイム中に相電流が負方向に流れる場合、電圧指令値の補正量を負の値に決定する。そして、制御部5は電圧指令値に負の補正量を加算して、補正後の電圧指令値を補正前よりも小さな値にする。これにより、図5に太い実線で示す補正後の電圧指令値によって電圧制御が実施されることになり、図5に細い実線で示す狙いの電圧を出力電圧として得ることができる。なお、図2では、補正後の電圧指令値と狙いの電圧との関係を示す波形について、狙いの電圧が破線で示されている。
【0035】
このようにデッドタイム補正制御では相電流の方向を特定することが重要である。制御部5は、相電流の方向を特定する際、電流センサにより検出した相電流(センサ値)における電流の方向を用いるのではなく、相電流の推定値における電流の方向を用いる。相電流はモータ4のトルクや回転数に依存する。そのため、そのセンサ値を用いると相電流の方向を正確に判定することが難しい場合がある。そこで、制御部5では、モータ4のトルクや回転数に依存しない値として、相電流の推定値を用いて相電流の方向を特定する。その際、制御部5は、電流指令値を用いて相電流を推定する。さらに、この制御部5は、相電流を推定する際に、電流リプルを考慮して相電流の推定値を決定する。
【0036】
具体的には、制御部5はモータ4の相電流を推定する際、下記式(1)により算出されるリプル量をモータ4に対する相電流指令値に加算し、その加算した値を相電流の推定値とする。
電流のリプル量=インバータの電圧÷モータのインダクタンス×(キャリア周期/2)・・・(1)
【0037】
上記式(1)におけるインバータの電圧は、インバータ3に印加される電圧である。制御部5はd軸電圧指令値Vdcomとq軸電圧指令値Vqcomとを用いて上記式(1)におけるインバータの電圧を算出する。上記式(1)におけるモータのインダクタンスは、モータ4内のコイルのインダクタンスである。上記式(1)におけるキャリア周期は、キャリア信号の周期である。すなわち、キャリア周期はインバータ3をスイッチングする周期である。
【0038】
制御部5は、デッドタイム補正制御において、図6に示すように、相電流指令値に電流リプルを加算して相電流の推定値を算出して、その推定された相電流の推定値に基づいて電圧指令値の補正量を決定する。すなわち電圧指令補正部10が相電流の推定値により電圧指令値の補正量を決定する。その際、電圧指令補正部10は、推定した相電流における電流の方向に基づいて電圧指令値の補正量を決定する。そして、電圧指令補正部10により決定された補正量が三相の電圧指令値Vu,Vv,Vwに加算される。つまり、制御部5は、デッドタイム補正制御時に、電流指令値と演算値であるリプル量とに基づいて推定した相電流を用いて電圧指令値の補正量を決定し、その補正量に応じて電圧指令値を補正する。
【0039】
その結果、制御部5がデッドタイム補正制御を実施すると、図7に示すように、q軸電流指令値iqcomとq軸電流iqとについて、q軸電流iqの電気6次の振動を低減することができる。このようにデッドタイム中にq軸電流iqの電気6次の振動が低減することにより、相電流の波形において0アンペア付近の電流の乱れを抑制することができる。一方、図8に示すような比較例のデッドタイム補正制御では、q軸電流iqとd軸電流idとに電気6次の振動が発生し、相電流の0アンペア付近に電流の乱れが発生する。
【0040】
図8に例示する比較例は、デッドタイム補正制御時に電圧指令値の補正量を決定する際、電流センサで検出した相電流(センサ値)をそのまま用いる。相電流の時間変化量は、モータトルクやモータ回転数による影響で変化する。正弦波で表される相電流は、モータトルクが増加すると振幅が大きくなるように変化するため、時間あたりの変化量が大きくなる。同様に、相電流は、モータ回転数が増加すると周期が短くなるように変化するため、時間あたりの変化量が大きくなる。そのため、相電流のセンサ値を用いる場合、相電流が流れる方向の正負を正確に判定することが難しい。また、マイコンで認識できる電流と実電流(リプルあり)との間には乖離が生じる。マイコンが電流を認識できるのはAD変換器を起動したときだけであるため、マイコンは電流すべてを認識できるわけではない。すなわち、マイコンが認識できる電流はAD変換器が起動中の電流となるため、マイコンは実電流(リプルあり)を正確に認識することができない。そのため、実電流に含まれるリプル量は、キャリア周期とモータインダクタンスとインバータ電圧(PCU電圧)とにより変化するものの、この変化もマイコンでは認識できない。そこで、制御部5では、デッドタイム補正制御時に電圧指令値の補正量を決定する際、電流指令値を用いて推定した相電流の推定値を用いる。そのため、制御部5によれば、推定された相電流における電流が流れる方向の正負によってデッドタイム補正量を決定することができる。
【0041】
以上説明したように、実施形態によれば、デッドタイム補正制御において電圧指令値の補正量を決定する際に、電流指令値と電流リプルとに基づいて算出した相電流の推定値を用いることにより、モータ4のトルクや回転数に依存せず、電圧指令値の補正量を決定することができる。これにより、より正確なデッドタイム補正制御を行うことができる。
【0042】
なお、モータ駆動装置1がインバータ3を制御する例について説明したが、これに限定されない。つまり、モータ駆動装置1は、インバータ3と昇圧コンバータとを含むパワーコントロールユニット(PCU)を対象にデッドタイム補正制御を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 モータ駆動装置
2 直流電源
3 インバータ
4 モータ
5 制御部
10 電圧指令補正部
C 平滑コンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8