(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】捩り振動低減装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/30 20060101AFI20241217BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20241217BHJP
F16F 15/34 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
F16F15/30 U
F16F15/134 A
F16F15/30 E
F16F15/34
(21)【出願番号】P 2022022648
(22)【出願日】2022-02-17
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】石橋 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】末永 真一郎
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0195047(US,A1)
【文献】特開2011-012705(JP,A)
【文献】特開2002-039210(JP,A)
【文献】特開2010-084946(JP,A)
【文献】特開2009-292477(JP,A)
【文献】特開平04-244633(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0018272(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第04031312(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/30
F16F 15/134
F16F 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
慣性体の慣性モーメントによりトルクの脈動を低減するマスダンパと、入力側回転部材と出力側回転部材とが相対的に回動することによって圧縮される弾性体を備え、前記弾性体が圧縮されることにより前記入力側回転部材と前記出力側回転部材との間で伝達されるトルクの脈動を低減するバネダンパとが、所定の軸線方向に並んで配置された捩り振動低減装
置であって、
前記入力側回転部材側から挿入されて前記所定の軸線方向に前記慣性体と前記入力側回転部材とを固定するボルトを備え、
前記入力側回転部材は、前記ボルトの頭の高さ方向の少なくとも一部を収容するように前記マスダンパ側に窪んだ収容部を備
え、
前記マスダンパと前記バネダンパとの間で伝達されるトルクを制限するトルクリミッタを更に備え、
前記トルクリミッタは、前記所定の軸線方向に積層して一体化された二つのプレートを備え、
前記二つのプレートは、前記所定の軸線方向で前記マスダンパに積層して配置され、
前記入力側回転部材は、前記二つのプレートのうちの前記マスダンパに接触した内側プレートを挟んで前記マスダンパとは反対側に積層された外側プレートを含み、
前記収容部は、前記外側プレートを貫通した貫通孔を含む
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項2】
請求項1に記載の捩り振動低減装
置であって、
前記収容部の深さは、前記ボルトの頭の高さ以下に形成されている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項3】
請求項1に記載の捩り振動低減装
置であって、
前記所定の軸線方向における前記ボルトの頭の先端よりも前記バネダンパの端部が前記マスダンパ側に位置し、
前記所定の軸線方向における前記収容部の端部よりも前記バネダンパの端部が前記マスダンパ側に位置する
ように構成されている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項4】
請求項1ない
し3のいずれか一項に記載の捩り振動低減装
置であって、
前記入力側回転部材は、前記収容部を有する部分の板厚が、他の部分の板厚よりも厚く形成されている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項5】
請求項1ない
し3のいずれか一項に記載の捩り振動低減装
置であって、
前記入力側回転部材は、前記バネダンパにトルクを伝達する駆動側回転部材と、前記所定の軸線方向において前記駆動側回転部材に一体化された慣性部材とを含み、
前記収容部は、前記慣性部材に形成されている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、慣性体の慣性モーメントによってトルクの脈動を低減するマスダンパと、弾性体を介して二つのプレートを回転方向に連結することによりトルクの脈動を低減するバネダンパとを備えた捩り振動低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マスダンパとバネダンパとを備えた捩り振動低減装置が記載されている。この捩り振動低減装置は、エンジンに連結された環状の第1回転部材に、トルクリミッタを介してバネダンパが連結され、更に、そのバネダンパの出力側の回転部材である第2回転部材に、マスダンパとして機能する環状の慣性体を連結している。トルクリミッタは、第1回転部材と一体に回転するプレートと、そのプレートの一方の側面に摩擦接触する中間部材と、プレートを中間部材側に押圧する皿バネと、皿バネを挟んでプレートとは反対側に配置されかつ第1回転部材にボルト止めされた環状プレートとによって構成されている。また、第1回転部材と第2回転部材とは軸線方向に並んで配置されていて、第2回転部材の側面のうち第1回転部材とは反対側を向いた側面に、慣性体がボルト止めされている。
【0003】
特許文献2ないし特許文献4には、エンジンに連結されたフレキシブルプレートと、フレキシブルプレートの側面に当接したリング部材と、出力軸と一体に回転するハブフランジと、リング部材とハブフランジとを円周方向に弾性的に連結するとともに、両部材の間の捩り振動を減衰する減衰部と、ハブフランジに一体化されたイナーシャ部材とによって構成された振動低減装置が記載されている。上記のフレキシブルプレートと、減衰部と、イナーシャ部材とは軸線方向に並んで配置されていて、フレキシブルプレートの側面のうちの減衰部とは反対側を向いた側面に、弧状に形成されたイナーシャ部材がリベットによって固定されている。また、フレキシブルプレートとリング部材とは、フレキシブルプレート側から挿入されたボルトによって固定されていて、イナーシャ部材には、そのボルト頭に対応した切り欠きが形成されている。なお、特許文献3に記載されたハブフランジに一体化されたイナーシャ部材は、クラッチ機構の入力部材として機能するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-292477号公報
【文献】特開平7-224892号公報
【文献】特開平7-224896号公報
【文献】特開平7-224897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された振動低減装置は、回転中心軸線方向に並んで第1回転部材、バネダンパ、および慣性体の順に配置されている。また、そのバネダンパの出力側の回転部材である第2回転部材と慣性体とは、慣性体側から挿入されたボルトによって固定され、そのボルト頭が、慣性体から突出している。すなわち、振動低減装置の軸線方向の長さは、第1回転部材、バネダンパ、慣性体の厚み、およびボルト頭の突出量に応じた長さとなり、その軸線方向の長さを短縮するために改善の余地があった。
【0006】
また、特許文献2ないし4に記載された振動低減装置の軸線方向の長さは、慣性体、フレキシブルプレート、減衰部、およびハブフランジに一体化されたイナーシャ部材の厚みに応じた長さとなる。すなわち、減衰部の入力側の慣性モーメントを増加させるために慣性体を設けることにより、振動低減装置の軸線方向の長さが長くなっており、振動低減装置の軸線方向の長さを短縮するために改善の余地があった。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、軸線方向の長さを短縮することができる振動低減装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は、慣性体の慣性モーメントによりトルクの脈動を低減するマスダンパと、入力側回転部材と出力側回転部材とが相対的に回動することによって圧縮される弾性体を備え、前記弾性体が圧縮されることにより前記入力側回転部材と前記出力側回転部材との間で伝達されるトルクの脈動を低減するバネダンパとが、所定の軸線方向に並んで配置された捩り振動低減装置であって、前記入力側回転部材側から挿入されて前記所定の軸線方向に前記慣性体と前記入力側回転部材とを固定するボルトを備え、前記入力側回転部材は、前記ボルトの頭の高さ方向の少なくとも一部を収容するように前記マスダンパ側に窪んだ収容部を備え、前記マスダンパと前記バネダンパとの間で伝達されるトルクを制限するトルクリミッタを更に備え、前記トルクリミッタは、前記所定の軸線方向に積層して一体化された二つのプレートを備え、前記二つのプレートは、前記所定の軸線方向で前記マスダンパに積層して配置され、前記入力側回転部材は、前記二つのプレートのうちの前記マスダンパに接触した内側プレートを挟んで前記マスダンパとは反対側に積層された外側プレートを含み、前記収容部は、前記外側プレートを貫通した貫通孔を含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、この発明では、前記収容部の深さは、前記ボルトの頭の高さ以下に形成されていてよい。
【0010】
また、この発明では、前記所定の軸線方向における前記ボルトの頭の先端よりも前記バネダンパの端部が前記マスダンパ側に位置し、前記所定の軸線方向における前記収容部の端部よりも前記バネダンパの端部が前記マスダンパ側に位置するように構成されていてよい。
【0012】
また、この発明では、前記入力側回転部材は、前記収容部を有する部分の板厚が、他の部分の板厚よりも厚く形成されていてよい。
【0013】
そして、この発明では、前記入力側回転部材は、前記バネダンパにトルクを伝達する駆動側回転部材と、前記所定の軸線方向において前記駆動側回転部材に一体化された慣性部材とを含み、前記収容部は、前記慣性部材に形成されていてよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、マスダンパとバネダンパとが所定の軸線方向に並んで配置され、そのバネダンパの入力側回転部材側からボルトが挿入されて、慣性体と入力側回転部材とが固定される。したがって、慣性体側にボルトの頭が突出することを抑制できる。すなわち、ボルトの頭が慣性体から突出することによる捩り振動低減装置の軸線方向の長さが長くなることを抑制できる。また、入力側回転部材には、ボルトの頭の少なくとも一部を収容するようにマスダンパ側に窪んだ収容部が形成されている。したがって、入力側回転部材からのボルトの頭の突出量を低減することができ、捩り振動低減装置の軸線方向の長さが長くなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施形態における捩り振動低減装置の正面図である。
【
図4】カバープレートにボルト頭が挿入される貫通孔を形成した例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態における振動低減装置の一例を説明するための正面図を
図1に示し、
図1におけるII-II線に沿う断面図を
図2に示し、さらに、
図2におけるIII部の拡大図を
図3に示してある。
【0017】
図1および
図2に示すように振動低減装置1は、慣性体の慣性モーメントによってトルクの脈動(捩り振動)を低減するマスダンパ2と、弾性体が圧縮されることによりトルクの脈動(捩り振動)を低減するバネダンパ3とによって構成されている。これらのマスダンパ2とバネダンパ3とは、後述するクランクシャフト5の回転中心軸線C方向に並んで配置されている。
【0018】
図2に示すようにマスダンパ2は、環状に形成されたフライホイール4によって構成されている。すなわち、フライホイール4が慣性体として機能する。
【0019】
このフライホイール4の内周側の側面には、図示しないエンジンのクランクシャフト5が当接していて、エンジンとは反対側から挿入されたボルト6によってクランクシャフト5とフライホイール4とが一体化されている。また、フライホイール4の外周部の板厚は、エンジンとは反対側に突出するように内周部の板厚よりも厚く形成されている。このようにフライホイール4の外周部の板厚を厚くすることにより、フライホイール4の質量が増加し、またフライホイール4の慣性モーメントが増加する。つまり、マスダンパ2の捩り振動低減効果を向上させることができる。
【0020】
フライホイール4には、そのフライホイール4とバネダンパ3との間で伝達されるトルクを制限するためのトルクリミッタ7が設けられている。このトルクリミッタ7は、従来のトルクリミッタと同様に構成することができ、予め定められた所定トルク以上のトルクが作用した場合に、入力側回転部材と出力側回転部材とが相対回転することによって伝達するトルクを制限する摩擦係合機構によって構成されている。
【0021】
図2および
図3に示すようにトルクリミッタ7は、フライホイール4に一体化されたサポートプレート8およびカバープレート9と、カバープレート9に対向して配置されたプレッシャプレート10と、プレッシャプレート10をカバープレート9側に押圧する皿バネ11と、プレッシャプレート10とカバープレート9との間に配置された駆動側回転部材12とによって構成されている。上記サポートプレート8およびカバープレート9が、この発明の実施形態における「二つのプレート」に相当し、カバープレート9が、この発明の実施形態における「外側プレート」に相当する。
【0022】
上記サポートプレート8は、プレス加工などによって成形されていて、その外周側の側面が、フライホイール4の外周側の端面に接触し、フライホイール4に接触した部分よりも内周側の部分が、フライホイール4側に屈曲して形成されている。すなわち、サポートプレート8の内周側のエッジが、フライホイール4の外周部の内側に位置するように、サポートプレート8が屈曲して形成されている。
【0023】
カバープレート9は、この発明の実施形態における「入力側回転部材」に相当するものであり、サポートプレート8を挟んでフライホイール4とは反対側に設けられている。すなわち、カバープレート9とサポートプレート8とが、クランクシャフト5の回転中心軸線C方向に積層して配置され、かつそれらのカバープレート9とサポートプレート8とが、マスダンパ2として機能するフライホイール4に積層して配置されている。
【0024】
カバープレート9もサポートプレート8と同様にプレス加工によって成形することができ、その外周側の板厚は、内周側の板厚よりも厚く形成されている。具体的には、フライホイール4とは反対側の側面が、平滑面に形成され、フライホイール4側の側面のうちの外周側の部分が、内周側の部分よりもフライホイール4側に突出するように、カバープレート9の外周側の板厚が厚く形成されている。言い換えると、外周部がフライホイール4側に湾曲し、そのように湾曲したことによって内周部よりもフライホイール4側に外周部が窪み、その窪んだ部分にボルト頭13aを収容しつつ板厚を増加させた肉厚部が形成されている。なお、カバープレート9の内径は、サポートプレート8の内径よりも小さく形成されている。
【0025】
その外周側の部分が、カバープレート9側からボルト13によってフライホイール4に固定されている。そのカバープレート9における外周部には、
図3に示すようにボルト頭13aの少なくとも一部を収容する凹部14が形成されている。すなわち、凹部14は、ボルト頭13aの径よりも開口径が大きく形成されている。言い換えると、ボルト頭13aを収容する凹部14以外の板厚を、ボルト頭13aの高さに応じて厚く形成している。この凹部14の深さは、ボルト頭13aの高さ以上であることが好ましいが、
図3に示すようにボルト頭13aの少なくとも一部を収容することができればよい。この凹部14が、この発明の実施形態における「収容部」に相当する。
【0026】
なお、サポートプレート8とカバープレート9とは、
図1に示すように円周方向に所定の間隔を空けてリベット15によって固定され、また出荷時におけるエンジンの検査を行うために、カバープレート9、サポートプレート8、およびフライホイール4を貫通した貫通孔16が、円周方向に所定の間隔を空けて形成されている。
【0027】
上述したようにサポートプレート8の内周側の部分がフライホイール4側に屈曲し、カバープレート9の外周側の部分がフライホイール4側に突出するように板厚が厚く形成されている。言い換えると、カバープレート9のサポートプレート8側を向いた側面の外周部が、サポートプレート8側に湾曲して形成されている。したがって、サポートプレート8とカバープレート9との内周側の部分は、回転中心軸線C方向に離隔している。
【0028】
上記のカバープレート9の内周側の側面に対向してプレッシャプレート10が配置され、そのプレッシャプレート10を押圧するようにサポートプレート8とプレッシャプレート10との間に皿バネ11が配置されている。すなわち、皿バネ11によってプレッシャプレート10をカバープレート9側に押圧している。そのプレッシャプレート10とカバープレート9との間に、バネダンパ3にトルクを伝達するための駆動側回転部材12が挟まれている。なお、駆動側回転部材12の両側面には、プレッシャプレート10やカバープレート9との摩擦力を向上させるための摩擦材17が取り付けられている。
【0029】
したがって、皿バネ11によってプレッシャプレート10を押圧することにより、プレッシャプレート10とカバープレート9との間で駆動側回転部材12が挟持され、その挟圧力とプレッシャプレート10やカバープレート9と駆動側回転部材12(具体的には、摩擦材17)との間の摩擦係数とに応じた摩擦力が生じ、その摩擦力に基づくトルクを上限としてカバープレート9と駆動側回転部材12との間でトルクが伝達される。
【0030】
上記の駆動側回転部材12には、バネダンパ3が連結されている。このバネダンパ3は、従来のバネダンパと同様に、入力されるトルクの脈動(捩り振動)を減衰して出力するように構成されている。
図2に示すバネダンパ3は、駆動側回転部材12と、その駆動側回転部材12と同心円上にかつ相対回転可能に設けられた従動側回転部材18とを備えている。
【0031】
駆動側回転部材12の両側面には、一対の円環板状のドライブプレート19がリベット20によって連結されている。このドライブプレート19には、円周方向に所定の長さを有する窓孔21が形成され、その窓孔21に円周方向に伸縮可能に配置されたコイルスプリング22が収容されている。このコイルスプリング22が、この発明の実施形態における「弾性体」に相当する。なお、一対のドライブプレート19は、外周側から窓孔21に向けて互いに離隔するように形成されていて、その窓孔21側のエッジ同士が、コイルスプリング22の外径とほぼ同一の距離、離隔している。
【0032】
また、従動側回転部材18は、捩り振動低減装置1の出力部材である伝動軸23にスプライン係合した中空軸24と、上記一対のドライブプレート19の間に形成された環状の間隙に向けて中空軸24の外周面から外方に突出した鍔部25とによって構成されている。この鍔部25は、駆動側回転部材12と従動側回転部材18とが相対的に回動した場合に、窓孔21の円周方向の壁面との間でコイルスプリング22を圧縮するように構成されている。
【0033】
したがって、駆動側回転部材12と従動側回転部材18とが相対的に回動することによってコイルスプリング22が圧縮され、その圧縮量に応じて駆動側回転部材12と従動側回転部材18との間で伝達されるトルクの脈動を吸収して減衰するように構成されている。なお、一対のドライブプレート19の内周部と鍔部25の内周部との回転中心軸線C方向の隙間には、複数のプレートおよび摩擦材を積層しかつ挟圧することによってトルクを伝達する摩擦係合装置26が設けられている。
【0034】
上述したようにバネダンパ3側からボルト13を挿入してカバープレート9とフライホイール4とを固定することによって、フライホイール4側にボルト頭13aが突出することを抑制できる。すなわち、ボルト頭13aがフライホイール4から突出することによる捩り振動低減装置1の回転中心軸線C方向の長さが長くなることを抑制できる。また、ボルト頭13aを収容する凹部14をカバープレート9に形成することによって、ボルト頭13aの突出量を低減することができる。より具体的には、
図2に示すように捩り振動低減装置1の回転中心軸線C方向の出力側(
図2における右側)に最も突出した部材は、ドライブプレート19またはコイルスプリング22となっていて、そのドライブプレート19やコイルスプリング22よりもボルト頭13aが回転中心軸線C方向に突出することを抑制できる。言い換えると、ボルト頭13aを収容する凹部14を形成することによって、カバープレート9の板厚を厚く形成することができる。このカバープレート9は、フライホイール4と一体に回転するものであって、マスダンパ2の慣性体としての機能を有している。したがって、カバープレート9の板厚を厚く形成することによって慣性体の質量を増加させて慣性モーメントを向上させることができる。さらに、カバープレート9の外周部分の質量を増加させることができるため、質量の増加量に対する振動低減効果をより一層向上させることができる。
【0035】
なお、上述したようにカバープレート9の外周側の板厚を内周側の板厚よりも厚く形成したものに限らず、カバープレート9を一定の板厚に形成するとともに、その外周部分をフライホイール4側に屈曲して形成し、その外周部分の側面に、慣性部材としての他のプレートを溶接や接着あるいはリベット止めなどによって一体化することにより、ボルト頭13aを収容する凹部を有する慣性体を追加して設けてもよい。
【0036】
また、
図2に示すようにカバープレート9とサポートプレート8とはリベット15によって一体化されている。これは、トルクリミッタ7とバネダンパ3とをユニット化した後に、そのユニット化されたトルクリミッタ7とバネダンパ3とをフライホイール4に組み付けることができるようにするためである。したがって、サポートプレート8のみをフライホイール4にボルト固定してもよい。具体的には、
図4に示すようにカバープレート9にボルト頭13aの外径よりも大きい貫通孔27を形成し、ボルト頭13aとサポートプレート8の側面とが接触するように、フライホイール4にサポートプレート8を固定してもよい。
【0037】
このようにカバープレート9に貫通孔27を形成することにより、ボルト頭13aの突出量を低減することができるため、その分、フライホイール4の板厚を増加させることができ、捩り振動低減装置1の回転中心軸線C方向の長さが長くなることを抑制しつつ、マスダンパ2の振動低減効果を向上させることができる。
【0038】
なお、この発明の実施形態における収容部は、ボルト頭13aの少なくとも一部を収容することができるように構成されていればよく、収容部の深さはボルト頭13aの高さを上限として定めてもよい。そのようにボルト頭13aの高さを上限として収容部の深さを定めることによって、例えば、伝動軸23と平行にカウンタシャフトを設け、そのカウンタシャフトに取り付けられたギヤなど、捩り振動低減装置1の外周部と軸線方向で並んで配置される部材との干渉を抑制できるため、捩り振動低減装置1を含む装置全体としての軸長を短縮することができる。
【0039】
また、収容部の深さは、ボルト頭13aの高さよりも深くてもよい。すなわち、収容部の開口端の位置が、捩り振動低減装置1の回転中心軸線C方向に最も突出した部材の端部よりも窪んでいればよい。具体的には、
図2に示すようにバネダンパ3が回転中心軸線C方向に最も突出している場合には、捩り振動低減装置1の回転中心軸線C方向におけるバネダンパ3を構成する部材の端部まで、カバープレート9の板厚を厚くし、そのカバープレート9に凹部14などの収容部を形成してもよい。
【0040】
さらに、ボルト頭13aが、捩り振動低減装置1の回転中心軸線C方向に最も突出している場合には、ボルト頭13aの端部まで、カバープレート9の板厚を厚くし、そのカバープレート9に凹部14などの収容部を形成してもよい。すなわち、捩り振動低減装置1の回転中心軸線C方向におけるボルト頭13aの先端よりもバネダンパ3の端部がマスダンパ2側に位置している場合には、凹部14の端部よりもバネダンパ3の端部がマスダンパ2側に位置するように構成してもよい。
【0041】
またさらに、カバープレート9の外周側の板厚を円周方向で均一に厚く形成してもよく、部分的に厚く形成してもよい。あるいは、上述したようにカバープレート9に慣性部材としての他のプレートを溶接や接着あるいはリベット止めなどによって一体化させる場合には、例えば、三つの円弧状のプレートを円周方向に並んで取り付けるなど、複数のプレートをカバープレート9に取り付けてもよい。
【0042】
そして、この発明の実施形態における捩り振動低減装置は、マスダンパとバネダンパとの間にトルクリミッタを備えていなくてもよい。そのようにトルクリミッタを備えていない捩り振動低減装置の場合には、バネダンパの入力側回転部材となる駆動側回転部材12をマスダンパにボルト固定し、そのプレートにボルト頭を収容する凹部などの収容部を形成すればよい。
【符号の説明】
【0043】
1 捩り振動低減装置
2 マスダンパ
3 バネダンパ
4 フライホイール
6,13 ボルト
7 トルクリミッタ
8 サポートプレート
9 カバープレート
12 駆動側回転部材
13a ボルト頭
14 凹部
16,27 貫通孔
18 従動側回転部材
22 コイルスプリング
C 回転中心軸線