(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチックの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 70/48 20060101AFI20241217BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20241217BHJP
B29C 70/32 20060101ALI20241217BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B29C70/48
F16J12/00 A
B29C70/32
B29C39/10
(21)【出願番号】P 2022030714
(22)【出願日】2022-03-01
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八田 健
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/072074(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/48
F16J 12/00
B29C 70/32
B29C 39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックの製造方法であって、
繊維材料を用いた基体を金型の内部の基体収容部に配置して、前記金型を閉じる型締工程と、
閉じられた前記金型の樹脂供給口から樹脂材料を供給して、前記樹脂供給口と前記基体収容部とを連通する樹脂供給路に設けられる樹脂貯留部に貯留する樹脂貯留工程であって、前記樹脂供給路において前記樹脂貯留部よりも前記基体収容部に近い位置に設けられ、開度を調節可能なゲート部を全閉にした状態で、前記樹脂材料を前記樹脂貯留部に貯留する樹脂貯留工程と、
前記ゲート部を予め定められた第一開度にした状態で前記樹脂貯留部に貯留された前記樹脂材料を加圧して、前記樹脂材料を前記基体収容部に供給する充填工程と、を備える、
繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化プラスチックの製造方法であって、
さらに、前記充填工程の後に、前記ゲート部の開度を前記第一開度よりも小さい第二開度にした状態で前記樹脂貯留部に貯留された前記樹脂材料を加圧して、前記樹脂材料を前記基体に含浸させる含浸工程、を備える、
繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記樹脂材料は、二液性エポキシ樹脂であり、
前記樹脂貯留工程では、主剤と、硬化剤とを衝突混合させて供給する、
繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記基体は、流体を貯留するための容器を含み、
前記充填工程は、さらに、
前記容器の内圧と、前記樹脂材料を加圧する圧力とを取得し、
取得した前記容器の内圧と前記樹脂材料を加圧する圧力との差圧が予め定められた閾値以上となるように前記樹脂材料を加圧して、前記樹脂材料を前記基体収容部に供給する工程を含む、
繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
繊維強化プラスチック製造装置であって、
開閉可能な金型であって、繊維材料を用いた基体を収容可能な基体収容部、前記金型の内部に樹脂材料を導入するための樹脂供給口、前記樹脂供給口と前記基体収容部とを連通する樹脂供給路、および前記樹脂供給路に設けられ、供給された前記樹脂材料を貯留するための樹脂貯留部、を有する金型と、
前記樹脂供給口から前記金型の内部に樹脂材料を供給する樹脂供給部と、
前記樹脂貯留部に貯留された前記樹脂材料を加圧して、前記樹脂材料を前記基体収容部に供給するための加圧部と、
前記樹脂供給路において前記樹脂貯留部よりも前記基体収容部に近い位置に設けられ、開度を調節可能なゲート部と、
前記樹脂供給部、前記加圧部、および前記ゲート部を制御可能な制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記ゲート部を全閉にした状態で前記樹脂供給口から前記樹脂材料を供給して前記樹脂貯留部に貯留し、
前記ゲート部を予め定められた第一開度にした状態で前記加圧部を制御して前記基体収容部に前記樹脂材料を供給する、
繊維強化プラスチック製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載の繊維強化プラスチック製造装置であって、
前記制御部は、前記ゲート部を
前記第一開度にした状態で前記基体収容部に前記樹脂材料を供給した後に、さらに、前記ゲート部の開度を前記第一開度よりも小さい第二開度にした状態で前記加圧部を制御して前記樹脂貯留部に貯留された前記樹脂材料を加圧して、前記樹脂材料を前記基体に含浸させる、
繊維強化プラスチック製造装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の繊維強化プラスチック製造装置であって、
前記ゲート部は、前記基体収容部の外縁のうちの少なくとも一部に沿って長尺な形状を有する、
繊維強化プラスチック製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載の繊維強化プラスチック製造装置であって、
前記樹脂貯留部は、前記ゲート部の長手方向に沿って配列される第一樹脂貯留部および第二樹脂貯留部を含む、
繊維強化プラスチック製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維強化プラスチックの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂溜まりに貯留されている樹脂材料を加圧装置により加圧し、金型内のランナを介してプリフォームに供給してプリフォームの繊維層に樹脂材料を含浸させる繊維強化プラスチックの製造方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、完成した繊維強化プラスチックにおいて、繊維の浮きや配列の乱れなどが発生することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、繊維強化プラスチックの製造方法が提供される。この繊維強化プラスチックの製造方法は、繊維材料を用いた基体を金型の内部の基体収容部に配置して、前記金型を閉じる型締工程と、閉じられた前記金型の樹脂供給口から樹脂材料を供給して、前記樹脂供給口と前記基体収容部とを連通する樹脂供給路に設けられる樹脂貯留部に貯留する樹脂貯留工程であって、前記樹脂供給路において前記樹脂貯留部よりも前記基体収容部に近い位置に設けられ、開度を調節可能なゲート部を全閉にした状態で、前記樹脂材料を前記樹脂貯留部に貯留する樹脂貯留工程と、前記ゲート部を予め定められた第一開度にした状態で前記樹脂貯留部に貯留された前記樹脂材料を加圧して、前記樹脂材料を前記基体収容部に供給する充填工程と、を備える。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、基体収容部への樹脂材料の供給時に、高圧の樹脂材料が基体の繊維層に衝突することを抑制または防止することができ、基体の繊維材料の浮きや配列の乱れなどの不具合を抑制または防止することができる。
(2)上記形態の繊維強化プラスチックの製造方法において、さらに、前記充填工程の後に、前記ゲート部の開度を前記第一開度よりも小さい第二開度にした状態で前記樹脂貯留部に貯留された前記樹脂材料を加圧して、前記樹脂材料を前記基体に含浸させる含浸工程、を備えてよい。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、樹脂材料を加圧しながら基体の繊維層に含浸させることにより、基体に空隙が発生することを抑制または防止することができる。
(3)上記形態の繊維強化プラスチックの製造方法において、前記樹脂材料は、二液性エポキシ樹脂であってもよい。前記樹脂貯留工程では、主剤と、硬化剤とを衝突混合させて供給してよい。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、樹脂材料の硬化の開始タイミングを把握しやすくなり、樹脂材料の粘度の上昇タイミングを推定することが容易となる。
(4)上記形態の繊維強化プラスチックの製造方法において、前記基体は、流体を貯留するための容器を含んでよい。前記充填工程は、さらに、前記容器の内圧と、前記樹脂材料を加圧する圧力とを取得し、取得した前記容器の内圧と前記樹脂材料を加圧する圧力との差圧が予め定められた閾値以上となるように前記樹脂材料を加圧して、前記樹脂材料を前記基体収容部に供給する工程を含んでよい。
この形態の繊維強化プラスチックの製造方法によれば、基体収容部への樹脂材料の供給時に、樹脂材料の圧送圧力による基体の変形などの不具合を抑制することができる。
(5)本開示の他の形態によれば、繊維強化プラスチック製造装置が提供される。この繊維強化プラスチック製造装置は、開閉可能な金型であって、繊維材料を用いた基体を収容可能な基体収容部、前記金型の内部に樹脂材料を導入するための樹脂供給口、前記樹脂供給口と前記基体収容部とを連通する樹脂供給路、および前記樹脂供給路に設けられ、供給された前記樹脂材料を貯留するための樹脂貯留部、を有する金型と、前記樹脂供給口から前記金型の内部に樹脂材料を供給する樹脂供給部と、前記樹脂貯留部に貯留された前記樹脂材料を加圧して、前記樹脂材料を前記基体収容部に供給するための加圧部と、前記樹脂供給路において前記樹脂貯留部よりも前記基体収容部に近い位置に設けられ、開度を調節可能なゲート部と、前記樹脂供給部、前記加圧部、および前記ゲート部を制御可能な制御部と、を備える。前記制御部は、前記ゲート部を全閉にした状態で前記樹脂供給口から前記樹脂材料を供給して前記樹脂貯留部に貯留し、前記ゲート部を予め定められた第一開度にした状態で前記加圧部を制御して前記基体収容部に前記樹脂材料を供給する。
この形態の繊維強化プラスチック製造装置によれば、基体収容部への樹脂材料の供給時に、高圧の樹脂材料が基体の繊維層に衝突することを抑制または防止することができ、基体の繊維材料の浮きや配列の乱れなどの不具合を抑制または防止することができる。
(6)上記形態の繊維強化プラスチック製造装置において、前記制御部は、前記ゲート部を前記第一開度にした状態で前記基体収容部に前記樹脂材料を供給した後に、さらに、前記ゲート部の開度を前記第一開度よりも小さい第二開度にした状態で前記加圧部を制御して前記樹脂貯留部に貯留された前記樹脂材料を加圧して、前記樹脂材料を前記基体に含浸させてよい。
この形態の繊維強化プラスチック製造装置によれば、樹脂材料を加圧しながら基体の繊維層に含浸させることにより、基体に空隙が発生することを抑制または防止することができる。
(7)上記形態の繊維強化プラスチック製造装置において、前記ゲート部は、前記基体収容部の外縁のうちの少なくとも一部に沿って長尺な形状を有してよい。
この形態の繊維強化プラスチック製造装置によれば、基体収容部への樹脂材料の供給時に、樹脂材料の圧送圧力を分散させることができ、高圧の樹脂材料が基体の繊維層に衝突することをより確実に抑制または防止することができる。
(8)上記形態の繊維強化プラスチック製造装置において、前記樹脂貯留部は、前記ゲート部の長手方向に沿って配列される第一樹脂貯留部および第二樹脂貯留部を含んでよい。
この形態の繊維強化プラスチック製造装置によれば、基体の長手方向に沿った各部に対して、複数の樹脂貯留部から樹脂材料を圧送することができ、基体の部位ごとでの樹脂材料の含浸ばらつきを低減または防止することができる。
本開示は、繊維強化プラスチックの製造方法や繊維強化プラスチックの製造装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、繊維強化樹脂層の形成方法、ガスタンクの製造方法、繊維強化プラスチックの製造装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】繊維強化プラスチック製造装置の内部構成を示す概略断面図。
【
図5】本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法を示す工程図。
【
図7】樹脂貯留工程での加圧機構およびゲート機構の駆動状況を示す説明図。
【
図9】充填工程での加圧機構およびゲート機構の駆動状態を示す説明図。
【
図10】充填工程における基体の内圧と基体収容部の内圧との関係を示す説明図。
【
図12】含浸工程での加圧機構およびゲート機構の駆動状況を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、ガスタンク100の構成を示す説明図である。
図1には、ガスタンク100の中心軸AXを境界に、ガスタンク100の外観と断面図とが模式的に示されている。ガスタンク100は、本開示の第1実施形態としての繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)を用いて形成される繊維強化樹脂層19を備えている。
図1ならびに
図1以降の各図に示すX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向とも呼ぶ。
【0009】
ガスタンク100は、10~70MPaの高圧な流体を収容するための貯蔵容器である。ガスタンク100は、任意の形状で形成することができ、
図1の例では、ガスタンク100は、中心軸AXに沿って長尺な略円柱形状の外観形状を有している。ガスタンク100の軸方向は、Y軸方向と一致する。
【0010】
本実施形態において、ガスタンク100は、例えば、車両用の燃料電池や定置用の燃料電池に供給する水素ガスを貯蔵するために使用される。ガスタンク100は、ライナ10と、ライナ10の両端に配置された口金16,17と、ライナ10および口金16,17の外周面上に形成された繊維強化樹脂層19とを備えている。ガスタンク100は、水素ガスのほか、酸素や天然ガスなどの種々の流体を収容してもよい。
【0011】
ライナ10は、流体を密封するための内部空間を有する容器である。ライナ10は、例えば、ナイロン、ポリアミド、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポキシ、ポリスチレン等のガスバリア性を有する樹脂で形成されている。ライナ10は、円筒状の一つの胴部12と、中心軸AXに沿って胴部12の両端に配置される半球状の二つのドーム部14とを備えている。ドーム部14の頂部には、開口が設けられている。ライナ10は、樹脂に代えて、金属によって形成されてもよい。
【0012】
口金16,17は、ライナ10の各ドーム部14の頂部に設けられる開口に、ライナ10の両端から外部に向かって突出するように装着されている。口金16は、例えば、ガスタンク100へのガスの充填、あるいは、ガスタンク100からのガスの放出のために用いられる。口金17は、封止されており、製造時の芯出し等に用いられる。
【0013】
繊維強化樹脂層19は、ライナ10を補強するための補強層である。繊維強化樹脂層19は、本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法により製造された繊維強化プラスチックを用いて形成されている。本実施形態では、繊維強化樹脂層19は、後述するように、繊維材料を用いた基体(「繊維プリフォーム」とも呼ばれる。)を金型内に配置し、いわゆるRTM(Resin Transfer Molding)法により、その金型内に樹脂を加圧充填して繊維材料に含浸させ、硬化させることによって形成されている。
【0014】
図2は、基体20を模式的に示す説明図である。基体20は、ライナ10および口金16,17の外表面上に繊維束18を巻き回されることによって形成される。具体的には、口金16,17に図示しないシャフトが接続されて芯出しが行われ、シャフトを介して回転された状態のライナ10および口金16,17の外表面上に繊維束18が巻き回されることで基体20が形成される。ライナ10および口金16,17の外表面上に形成される繊維束18が巻き回された層を、「繊維層」とも呼ぶ。本実施形態では、繊維材料としてカーボン繊維が用いられる。繊維材料は、カーボン繊維のほか、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、高強度ポリエチレン繊維等を用いることができ、これらの複数種類の繊維が組み合わせられてもよい。
【0015】
本実施形態では、繊維束18は、胴部12の外周面にヘリカル巻きによって巻き付けられ、ドーム部14の外周面にブレーディング巻きによって巻き付けられている。繊維束18は、例えば10層から20層程度の複数の層が形成できる程度に巻き付けられる。ヘリカル巻きとは、繊維束18を、ライナ10の中心軸AXに対して予め定められた巻付角度θ1で胴部12の外周面全体に巻き付けた後、更にライナ10の中心軸AXに対して予め定められた巻付角度θ2で交差させて巻き付ける方法を意味する。ブレーディング巻きとは、繊維束18を互い違いに編まれるように巻き付ける方法を意味する。
図2の例では、ライナ10の中心軸AXに対して巻付角度θ1及び巻付角度θ2で巻き付けられている。
【0016】
巻付角度θ1,θ2は、任意に設定することができる。巻付角度θ1,θ2は、例えば、ライナ10にかかる応力を考慮して設定されることが好ましい。本実施形態において、巻付角度θ1は、例えば、54.7度近傍で設定され、巻付角度θ2は、例えば、-54.7度で設定されている。なお、繊維束18は、上記の方法には限らず、胴部12に対してブレーディング巻きで巻き付けられ、ドーム部14に対してヘリカル巻きによって巻き付けられてもよい。繊維束18は、ライナ10に対してヘリカル巻きまたはブレーディング巻きのいずれか一方のみを用いて巻き付けられてもよい。
【0017】
図3、
図4を参照して、本実施形態の繊維強化プラスチック製造装置200(以下、単に「製造装置200」とも呼ぶ。)の構成について説明する。
図3は、繊維強化プラスチック製造装置200の内部構成を示す概略断面図である。
図4は、下金型52の概略構成を上面視で示す平面図である。
図3では、基体20を配置した状態が模式的に示され、
図4には、基体20を配置していない状態が模式的に示されている。なお、
図3に示す断面図は、
図4のIII-III位置の断面である。
【0018】
製造装置200は、RTM法を用いて、基体20の繊維層に樹脂材料を含浸させ、さらに、含浸させた樹脂材料を硬化させることによって繊維強化プラスチックを形成する。繊維強化プラスチックを用いた繊維強化樹脂層19がライナ10の外周面上に形成されることにより、ガスタンク100が製造される。
【0019】
図3に示すように、製造装置200は、制御部80と、金型50と、樹脂供給部40と、加圧機構60と、ゲート機構70と、を備えている。制御部80は、中央演算処理装置(CPU)と、記憶装置とを有するマイクロコンピュータである。記憶装置は、たとえば、RAM、ROM、ハードディスクドライブ(HDD)である。HDDまたはROMには本実施形態において提供される機能を実現するための各種プログラムが格納されており、HDDまたはROMから読み出された各種プログラムはRAM上に展開され、CPUによって実行される。記憶装置には、上述した各センサの検出結果が格納される。また、制御部80は、経過時間をカウントするための図示しないタイマを備えている。タイマは、ハードウェアまたはソフトウェアのいずれで構成されてもよい。制御部80は、各センサの検出結果およびタイマの計時結果を用いて、樹脂供給部40、加圧機構60、ゲート機構70、ならびにガス供給機構90の制御を行う。制御部80は、タイマに代えて、タイムサーバから経過時間を取得してもよい。
【0020】
金型50は、上金型51と、下金型52と、基体20を収容するための基体収容部54とを備えている。金型50は、制御部80による制御のもとで、図示しない駆動装置によって上金型51と、下金型52とが開閉される。本開示において、「金型」とは、上金型51と、下金型52とが閉じた状態を意味する。なお、本実施形態では、金型50には、シャフトを取り付けられた状態の基体20が収容される。
【0021】
上金型51は、樹脂供給口510と、上基体収容部514とを備えている。樹脂供給口510は、金型50に設けられる樹脂材料の導入口である。本実施形態では、樹脂供給口510は、上金型51のうち下金型52との対向する面に設けられた開口である。樹脂供給口510には、樹脂供給部40が取り付けられている。上基体収容部514は、上金型51のうち下金型52と対向する面に設けられる凹部である。
【0022】
下金型52は、
図3および
図4に示すように、シャフト収容部521,523と、下基体収容部524と、樹脂貯留部526と、第二樹脂供給路525と、第三樹脂供給路527と、第四樹脂供給路528とを備えている。下基体収容部524は、下金型52のうち上金型51と対向する面に設けられる凹部である。
図3に示すように、型締めされた状態の金型50では、下基体収容部524の内周面と、上基体収容部514の内周面とによって基体収容部54が規定される。基体収容部54は、基体20の外形と略同じ形状の空間を形成しており、基体20を収容することができる。
【0023】
シャフト収容部521,523は、基体20を基体収容部54に収容する際に、口金16,17に接続されたシャフトを収容する。シャフト収容部523には、ガス供給機構90が設けられている。ガス供給機構90は、制御部80による制御のもとで、口金16に接続されたシャフトの内部空間を介して、基体20のライナ10内にガスを供給する。供給するガスとしては、例えば、窒素を用いることができる。ガス供給機構90は、ライナ10の内圧を検出するための圧力センサ33を備えている。
【0024】
樹脂貯留部526は、下金型52に形成された略円柱形状の凹部である。樹脂貯留部526には、ピン62が収容されている。
図4に示すように、本実施形態において、樹脂貯留部526は、複数であり、互いに同じ構成を有する第一樹脂貯留部526A、第二樹脂貯留部526B、第三樹脂貯留部526C、第四樹脂貯留部526D、ならびに第五樹脂貯留部526Eを含んでいる。本開示において、樹脂貯留部526A~526Eを区別しない場合には、「樹脂貯留部526」と呼称して説明する。樹脂貯留部526は、円柱形状には限らず、角柱形状や多角形などの種々の形状を採用することができる。
【0025】
樹脂貯留部526A~526Eは、基体20の長手方向であるY軸方向に沿って配列されている。具体的には、ライナ10のうち2つのドーム部14ならびに胴部12に個別に対応する位置に配列される。このように構成された製造装置200によれば、基体20の長手方向に沿った各部に対して、複数の樹脂貯留部526から樹脂材料を圧送することができるので、基体20の長手方向に沿った各部に対して、樹脂材料を充分に送り込むことができ、基体20の部位ごとでの樹脂材料の含浸ばらつきを低減または防止することができる。ただし、樹脂貯留部526は、5つには限らず、2以上の任意の数で設けられてもよく、例えば、樹脂材料が充分に含浸できる場合には1つであってもよい。
【0026】
基体収容部54には、圧力センサ32が備えられている。本実施形態では、上基体収容部514の内壁面に3つの圧力センサ32が備えられている。圧力センサ32は、基体収容部54の内壁の一部として機能するとともに、基体収容部54内に充填された樹脂材料の内圧を検出することができる。樹脂材料の内圧は、基体20が基体収容部54に設置されている状態では、樹脂材料が基体20の外周に付与する外圧に相当する。本実施形態では、圧力センサ32の検出結果を、後述するピン62により樹脂貯留部526から圧送される樹脂材料の圧送圧力として取り扱う。圧力センサ32による基体収容部54の内圧の検出結果は、制御部80に送信される。なお、圧力センサ32の数は、3つには限らず1つであってもよく、2以上の任意の数であってもよい。圧力センサ32は、上基体収容部514の内壁面に代えて、またはそれとともに、下基体収容部524の内壁面に設けられてもよい。圧力センサ32は、基体収容部54には限らず、例えば、樹脂供給路や樹脂貯留部526などの金型50の内部空間の任意の位置に配置されてもよい。また、例えば、樹脂材料に対してピン62による樹脂材料の圧送圧力を検出するためのセンサを加圧機構60が備える場合などには、圧力センサ32は省略されてもよい。
【0027】
第二樹脂供給路525、第三樹脂供給路527、ならびに第四樹脂供給路528は、下金型52に形成された凹状の溝であり、樹脂供給口510と基体収容部54とを連通する「樹脂供給路」として機能する。第二樹脂供給路525は、
図4に示すように、第一樹脂貯留部526Aに接続されている流路である。第二樹脂供給路525は、型締めされた状態の金型50において、樹脂供給口510と、第一樹脂貯留部526Aとを連通する。第三樹脂供給路527は、樹脂貯留部526A~526Eのそれぞれの間をY軸方向に沿って接続する流路である。第四樹脂供給路528は、樹脂貯留部526A~526Eのそれぞれと、基体収容部54とを接続する樹脂材料の流路である。なお、第四樹脂供給路528は、基体収容部54との境界CPとなる位置に、後述するように、ゲート機構70のゲート部72を備えている。境界CPとは、第四樹脂供給路528の端部のうち樹脂貯留部526よりも基体収容部54に近い方の端部を意味する。ゲート部72は、第四樹脂供給路528において樹脂貯留部526よりも基体収容部54に近い任意の位置に設けることもできる。
【0028】
樹脂供給部40は、制御部80による制御のもとで、樹脂供給口510から金型50の内部に樹脂材料を供給する。本実施形態では、樹脂材料として、二液性エポキシ樹脂が用いられる。エポキシ樹脂には、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、可撓性エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、高分子型エポキシ樹脂、ならびにビフェニル型エポキシ樹脂などの任意の種類のエポキシ樹脂が用いられてよい。硬化剤としては、アミン系、酸無水物系、ならびに潜在性硬化剤系などの種々の硬化剤が用いられてよい。ただし、樹脂材料は、二液性エポキシ樹脂には限定されず、一液性エポキシ樹脂であってもよい。エポキシ樹脂には、硬化剤のほか、例えば、三級アミン、イミダゾール類、リン化合物、熱塩基発生剤などの硬化触媒が混合されてもよい。樹脂材料は、エポキシ樹脂には限定されず、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリエステル樹脂、ならびにポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を用いてもよい。繊維強化プラスチックが充分な強度を有する場合には、熱硬化性樹脂に代えて、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィドなどの熱可塑性樹脂が用いられてもよい。
【0029】
樹脂供給部40は、主剤としてのエポキシ樹脂を供給するための主剤供給部41と、硬化剤を供給するための硬化剤供給部42と、主剤供給路43と、硬化剤供給路44と、衝突混合部46とを備えている。主剤供給部41および硬化剤供給部42は、ポンプなどの図示しない圧送装置をそれぞれ備えており、主剤と硬化剤とをそれぞれ高速高圧で圧送する。主剤供給路43は、主剤供給部41と衝突混合部46とを接続する主剤の流路であり、硬化剤供給路44は、硬化剤供給部42と衝突混合部46とを接続する硬化剤の流路である。衝突混合部46は、主剤供給路43と硬化剤供給路44との接続位置に形成される空間である。衝突混合部46は、樹脂供給口510と接続されており、樹脂供給部40から供給される樹脂材料を金型50内へと導く第一樹脂供給路として機能する。衝突混合部46の長さは、樹脂材料の硬化開始タイミングと金型50内への樹脂材料の導入タイミングとを近くさせる観点から、短いことが好ましい。主剤供給部41から主剤供給路43を介して供給される主剤と、硬化剤供給部42から硬化剤供給路44を介して供給される硬化剤とは、衝突混合部46において高速高圧の状態で互いに衝突するいわゆる衝突混合によって混合される。これにより、主剤と硬化剤との混合時間を短縮し、生産性を向上させている。衝突混合部46で衝突混合された樹脂材料は、樹脂供給口510から金型50の内部、具体的には第二樹脂供給路525へと導かれる。
【0030】
加圧機構60は、制御部80による制御のもとで、樹脂貯留部526内の樹脂材料を加圧して基体収容部54に送り込む。加圧機構60は、ピン62と、駆動部64と、軸部66とを備えている。ピン62は、軸部66を介して駆動部64と接続されるいわゆるピストンである。駆動部64は、モータや油圧シリンダなどである。
【0031】
ピン62は、樹脂貯留部526に収容されている。ピン62は、
図3に示すように、略円板形状を有しており、
図4に示すように、平面視において樹脂貯留部526の外形と略一致する円形形状を有している。本開示において、「平面視」とは、対象物をZ軸方向に沿って見た状態を意味する。ピン62の側面には、樹脂貯留部526内の樹脂が軸部66側へ移動することを規制するためのシール部材が設けられてもよい。
【0032】
ピン62は、駆動部64による軸部66の駆動により、
図3に示す方向DPに沿って、上金型51に向かう方向DP1と、上金型51から離間する方向DP2とに樹脂貯留部526を往復移動することができる。
図3の例では、ピン62は、方向DP2の端部に位置し、ピン62が樹脂貯留部526の底面に当接した初期位置の状態である。ピン62は、樹脂貯留部526を移動することにより樹脂材料を加圧する加圧部として機能する。ピン62のうち上金型51と対向する上面62Tは、樹脂貯留部526に貯留された樹脂材料と当接する部分であり、樹脂材料に圧力を伝達する部分である。ピン62を方向DP1に沿って移動させることにより、樹脂貯留部526に満たされた樹脂材料を上面72Tで加圧し、基体収容部54へと送り込むことができる。
【0033】
本実施形態では、加圧機構60は、さらに、ピン62の変位を検出するための変位センサ34と、駆動部64の出力トルクを検出するためのトルクセンサ36とを備えている。変位センサ34と、トルクセンサ36とによる検出結果は、制御部80に出力される。制御部80は、トルクセンサ36の検出結果を用いて、駆動部64の出力トルクを制御することで、ピン62による樹脂材料の圧送圧力を調節することができる。
【0034】
変位センサ34は、方向DPにおけるピン62の位置情報を取得する。ピン62の位置情報とは、例えば、ピン62の位置や座標であってもよく、軸部66の位置や移動量、駆動部64の駆動時間、消費電力、回転数ならびに出力トルクなど、ピン62の位置もしくはピン62の変位を検出できる種々の情報が含まれる。
【0035】
ゲート機構70は、制御部80による制御のもとで、第四樹脂供給路528と基体収容部54との境界CPにおける第四樹脂供給路528の開度を調節する。ゲート機構70は、
図3に示すように、ゲート部72と、駆動部74と、軸部76とを備えている。ゲート部72は、軸部76を介して駆動部74と接続されている。駆動部74は、例えば、モータや油圧シリンダなどである。
【0036】
ゲート部72は、
図3に示すように、断面視で略平板形状を有しており、下金型52内のゲート収容部78に収容されている。ゲート部72は、上金型51に設けられていてもよい。ゲート部72は、
図4に示すように、平面視では、基体収容部54の外縁の少なくとも一部に沿って長尺な形状を有している。本実施形態では、平面視において、ゲート部72は、基体収容部54の短手方向(
図4の例においてX軸方向)における片側において基体収容部54の外縁に沿って設けられている。本実施形態では、ゲート部72は、平面視において基体収容部54の長手方向(
図4の例においてY軸方向)に沿って一つの長尺な形状を有している。ただし、ゲート部72は、一つの長尺な形状には限らず、例えば、円柱、角柱、多面体などの複数のゲート部72が、第四樹脂供給路528と基体収容部54との複数の境界CPのそれぞれに個別に設けられてもよい。また、ゲート部72は、基体収容部54の短手方向における片側には限らず、両側に備えられてもよく、基体収容部54の周囲全体を囲むように備えられてもよい。ゲート部72の側面には、樹脂供給路中の樹脂が軸部76側へ移動することを規制するためのシール部材が設けられてもよい。
【0037】
ゲート部72は、駆動部74による軸部76の駆動により、
図3に示す方向DGに沿って、上金型51に向かう方向DG1と、上金型51から離間する方向DG2とにゲート収容部78を往復移動可能である。ゲート部72を方向DG1に沿って移動させることにより、第四樹脂供給路528の開度を調節することができる。
図3の例では、ゲート部72は、方向DG2の端部に位置し、ゲート部72の上面72Tが第四樹脂供給路528の底面といわゆる面一となる全開状態である。また、ゲート部72を方向DG1の端部まで移動させることにより、上面72Tは、上金型51の下面と当接し、第四樹脂供給路528は、全閉状態となる。この状態では、基体収容部54への樹脂の供給は停止される。ゲート部72が全閉でない状態では、ゲート部72は、複数の第四樹脂供給路528間を接続する樹脂材料の流路としても機能する。
【0038】
本実施形態では、ゲート機構70は、さらに、ゲート部72の変位を検出するための変位センサ37と、駆動部74の出力トルクを検出するためのトルクセンサ38とを備えている。変位センサ37と、トルクセンサ38との検出結果は、制御部80に出力される。変位センサ37およびトルクセンサ38の構成は、上述した加圧機構60の変位センサ34およびトルクセンサ36の構成とそれぞれ同じであるため説明を省略する。
【0039】
図3に方向D1で示すように、樹脂供給部40から供給された樹脂材料は、第一樹脂供給路としての衝突混合部46を流動して、樹脂供給口510を介して第二樹脂供給路525に供給され、方向D2で示すように、第二樹脂供給路525を介して第一樹脂貯留部526Aに供給される。第一樹脂貯留部526Aに貯留された樹脂材料は、
図4に方向D3で示すように、第三樹脂供給路527を介して第二樹脂貯留部526B~第五樹脂貯留部526Eに供給される。ゲート部72が全閉でない状態では、樹脂貯留部526に貯留された樹脂材料は、方向D4で示すように、基体収容部54へと供給される。ゲート部72が全閉でない状態では、ゲート部72は、複数の第四樹脂供給路528間を接続する樹脂材料の流路としても機能し、樹脂供給路の一部としても機能する。この場合には、樹脂材料は、方向D5で示すように、ゲート部72の上面72Tの上を流通する。
【0040】
図5は、本実施形態の繊維強化プラスチックの製造方法を示す工程図である。工程S10では、基体20が準備される。具体的には、口金16,17にシャフトを取り付けた状態のライナ10の外周面に繊維束18を巻き回すことにより、ライナ10の外周面に繊維層を形成した基体20を形成することにより、基体20が準備される。工程S20では、基体20を金型50の基体収容部54に配置し、金型50の型締めを行う型締工程が実行される。具体的には、制御部80は、金型50の図示しない駆動装置を制御して上金型51の型閉じを行い、さらに金型50の型締めを行う。金型50の型締めとは、金型50の型閉じ後に、型閉じ時の圧力よりも大きい圧力で、金型50を閉じる向きに金型50を加圧する工程を意味する。ただし、工程S20において型閉じのみが行われてもよい。なお、本実施形態では、シャフトを取り付けられた状態の基体20が基体収容部54に収容されるように型締めされる。
【0041】
工程S30では、制御部80は、樹脂材料を金型50の内部の樹脂貯留部526へと供給する樹脂貯留工程を行う。本実施形態では、制御部80は、ゲート部72が全閉の状態で、樹脂材料を供給し、樹脂貯留部526A~526Eのすべてに樹脂材料を充填させる。
【0042】
図6は、樹脂貯留工程の詳細を示す工程図である。
図7は、樹脂貯留工程での加圧機構60およびゲート機構70の駆動状況を示す説明図である。工程S302では、制御部80は、ゲート機構70の駆動部74を制御して、ゲート部72を、
図7に示す全閉状態にする。これにより、基体収容部54への樹脂材料の供給を停止させる。また、このとき、制御部80は、加圧機構60の駆動部64を制御することにより、ピン62を初期位置にして樹脂貯留部526の底面に当接させている。なお、ゲート部72の全閉状態が初期位置の状態とされる場合には工程S302を省略してよい。
【0043】
工程S304では、制御部80は、樹脂供給部40を制御して樹脂材料を樹脂供給口510から金型50内へと供給する。より具体的には、制御部80は、樹脂供給部40の主剤供給部41および硬化剤供給部42を制御して、エポキシ樹脂と硬化剤とを射出して衝突混合部46で衝突混合させて、樹脂供給口510から金型50の内部の第二樹脂供給路525へと供給する。制御部80は、少なくともこの樹脂供給部40によって樹脂材料の供給が開始されるタイミングで計時を開始している。制御部80は、予め定められた体積の樹脂材料を、例えば20秒などの予め定められた時間をかけて金型50内へと供給する。第二樹脂供給路525へと供給された樹脂材料は、さらに、第三樹脂供給路527、第四樹脂供給路528、ならびに樹脂貯留部526など、基体収容部54以外の金型50内の各部に充填される。
【0044】
図5に戻り、工程S40では、制御部80は、加圧機構60とゲート機構70とを制御して、樹脂貯留部526に充填された樹脂材料を送り出して基体収容部54に充填する充填工程を行う。本実施形態では、制御部80は、ゲート機構70を制御してゲート部72を第一開度にした上で、加圧機構60を制御してピン62の加圧により樹脂材料を基体収容部54に送り出す。本実施形態では、第一開度は、ゲート部72の開度が全開にされた応対である。ただし、第一開度は、全開には限らず、樹脂材料を基体収容部54へと送出可能な任意の開度で設定されてもよい。第一開度は、樹脂材料の流量を大きくする観点から大きいことが好ましい。
【0045】
図8は、充填工程の詳細を示す工程図である。
図9は、充填工程での加圧機構60およびゲート機構70の駆動状態を示す説明図である。工程S402では、制御部80は、駆動部74を制御して、
図9に示す全開状態にする。
【0046】
工程S403では、制御部80は、ガス供給機構90を制御して、基体20のライナ10内に窒素の供給を開始する。工程S404では、圧力センサ33から基体20の内圧を取得する。工程S406では、加圧機構60の駆動部64を制御して、ピン62の方向DP1への移動を開始し、樹脂貯留部526の樹脂材料の加圧を開始する。本実施形態では、複数の樹脂貯留部526のそれぞれのピン62を互いに同期させて移動させる。ただし、複数の樹脂貯留部526のそれぞれのピン62を同期させず、各ピン62が個別に移動するように制御してもよい。このように構成することで、基体20の各部に供給する樹脂材料の圧送圧力を、基体20の部位ごとに調節することができる。工程S408では、圧力センサ32から基体収容部54の内圧を取得する。なお、工程S404および工程S408は、0.1秒ごとなど、所定の単位時間ごとに繰り返し実行されてよい。
【0047】
工程S410では、制御部80は、取得した基体20の内圧から基体収容部54の内圧を差し引くことで、基体20の内圧と基体収容部54の内圧との差圧を算出する。本実施形態では、制御部80は、1秒ごとなど予め定められた単位時間ごとに繰り返し差圧を算出する。差圧は、例えば、基体20の内圧と、基体収容部54の内圧を取得するたびに算出されてもよい。制御部80は、算出した差圧が予め定められた閾値以上となる状態を維持しながら、ピン62を方向DP1へ移動させて樹脂貯留部526の樹脂材料を加圧する。工程S412では、制御部80は、例えば、変位センサ34から取得したピン62の位置情報を用いて、例えば
図9に示す予め定められた位置にピン62が到達したと判定すると、充填工程を終了する。ただし、これに限らず、基体収容部54内に供給された樹脂材料の体積、基体収容部54の内圧、ピン62の移動開始時点からの経過時間などを用いて充填工程の終了条件が設定されてもよい。
【0048】
図10は、充填工程における基体20の内圧と、基体収容部54の内圧との関係を示す説明図である。
図10には、圧力センサ33により得られる基体20の内圧の変化を示すグラフG1と、圧力センサ32により得られる基体収容部54の内圧の変化を示すグラフG2と、樹脂材料の粘度変化を示すグラフG3とが示されている。グラフの横軸は、時間軸であり、左側の縦軸は、圧力を示し、右側の縦軸は、粘度を示している。
【0049】
図10に示すように、基体20の内圧と基体収容部54の内圧との差圧GPが所定の閾値以上となる状態を維持しながら、基体20への窒素の供給と、ピン62の方向DP1への移動とが継続されている。換言すれば、制御部80は、樹脂材料の圧送により基体収容部54に付与される外圧が基体20の内圧を超えない状態を維持しながら、ピン62を移動させる。本実施形態では、粘度が上昇し始める時間T1までに、基体20の内圧と、基体収容部54の内圧とがそれぞれ目標値TG1,TG2に到達するように、基体20への窒素の供給と、ピン62の方向DP1への移動とを制御している。目標値TG1,TG2は、例えば、含浸工程に必要な樹脂材料の圧送圧力である。
【0050】
図5に戻り、工程S50では、制御部80は、基体20の繊維層に樹脂材料を含浸させる含浸工程を行う。本実施形態では、制御部80は、ゲート部72が第二開度の状態で、基体収容部54の樹脂材料を加圧することで基体20に含浸させる。第二開度とは、ゲート部72が全閉よりも大きい開度かつ第一開度よりも小さい開度である。
【0051】
図11は、含浸工程の詳細を示す工程図である。
図12は、含浸工程での加圧機構60およびゲート機構70の駆動状況を示す説明図である。工程S502では、制御部80は、駆動部74を制御して、ゲート部72を
図12に示す第二開度の状態にする。本実施形態では、第二開度におけるゲート部72の上面72Tから上金型51までの距離(開口面積)L2は、
図9で示した上面72Tから上金型51までの距離(開口面積)L1の約4分の1となるように設定されている。ただし、距離L2は、距離L1の4分の1には限らず、5分の1、2分の1、3分の1、3分の2などの任意の割合を用いて設定されてもよい。
【0052】
工程S504では、基体20の内圧と基体収容部54の内圧との差圧GPが予め定められた閾値以上となる状態を維持しながら、ピン62を、充填工程の終了時点の位置からさらに方向DP1に移動させる。本実施形態では、含浸工程でのピン62による樹脂材料の圧送圧力は、充填工程終了時点でのピン62による樹脂材料の圧送圧力と同じ圧力で設定されている。ただし、これには限定されず、含浸工程での圧送圧力が充填工程での圧送圧力よりも高く設定されるなど、含浸工程と充填工程とで異なる圧力で制御されてもよい。工程S506では、終了条件が満たされることにより、含浸工程は終了する。含浸工程の終了条件としては、例えば、変位センサ34の検出結果を用いて所定の期間内のピン62の変位がないと判定した場合、樹脂材料の粘度上昇を検知した場合、
図10で示した粘度上昇が開始する時間T1もしくはそれよりも後の任意の時間に到達した場合、基体収容部54の内圧が所定値に到達した場合、などが挙げられる。
【0053】
図5に戻り、工程S60では、樹脂材料を硬化させる。金型50を型締めした状態で所定時間経過させることにより樹脂材料を硬化させる。本実施形態では、制御部80は、金型50内への樹脂材料の供給開始タイミングから予め定められた時間が経過することにより、樹脂材料の硬化が完了したと判定する。予め定められた時間は、例えば600秒など、二液性エポキシ樹脂が充分に硬化するために必要な時間で設定されている。工程S70では、制御部80は、金型50の図示しない駆動装置を駆動させて、上金型51を開く型開き工程を行う。樹脂材料が含浸され硬化した状態の基体20が、例えばイジェクタなどにより押し出されることによって、型開きされた状態の金型50から取り出される。この結果、繊維強化プラスチックによる補強層が形成されたガスタンク100が得られる。
【0054】
以上、説明したように、本実施形態によれば、樹脂貯留工程では、ゲート部72を全閉にした状態で樹脂貯留部526に樹脂材料を充填したうえで、充填工程により樹脂貯留部526に貯留された樹脂材料が基体収容部54に供給される。樹脂貯留工程において基体収容部54への樹脂材料の供給を停止しつつ、樹脂貯留部526に樹脂材料の貯留を完了させることができる。ここで、ゲート部72が用いられない場合には、樹脂供給部40による高速高圧による樹脂材料が基体収容部54へと供給されることになる。また、ゲート部72が用いられない場合には、基体収容部54への樹脂材料の供給の開始時期タイミングが成り行きとなる。したがって、ゲート部72が用いられない場合と比較して、樹脂材料を樹脂貯留部526に一旦貯留したうえで基体収容部54への圧送を開始することにより、樹脂材料の供給の開始時期タイミングを調節することができる。また、例えば低速低圧など、樹脂材料の供給が安定する条件を用いて、基体収容部54に対する樹脂材料の供給を開始させることができる。したがって、例えば、基体収容部54への樹脂材料の供給時に、高圧の樹脂材料が基体20の繊維層に衝突することを抑制または防止することができ、繊維層に含まれる繊維材料の配列の乱れや繊維材料がライナ10から剥離するなどの不具合を抑制または防止することができる。
【0055】
本実施形態によれば、ゲート部72は、基体収容部54の外形のうち、基体収容部54の短手方向(
図4の例においてX軸方向)における片側において、基体収容部54の外縁に沿って長尺な形状を有している。基体収容部54と第四樹脂供給路528との境界CPにおける樹脂供給路を基体収容部54の外縁に沿って広げることができ、樹脂材料の圧送時において境界CPでの樹脂材料の圧力が基体収容部54の外縁に沿って発散されやすくなる。したがって、基体収容部54への樹脂材料の供給時に、樹脂材料の圧送圧力が集中することを抑制することができ、高圧の樹脂材料が基体20の繊維層に衝突することをより確実に抑制または防止することができる。
【0056】
本実施形態によれば、樹脂貯留部526は、基体収容部54の長手方向に沿って配列される第一樹脂貯留部526Aおよび第二樹脂貯留部526Bを含む。複数の樹脂貯留部526を基体収容部54の長手方向に沿って配列させることにより、長尺な基体20の複数の部位に対して、複数の樹脂貯留部526から樹脂材料を圧送することができるので、基体20の長手方向に沿った各部に対して、樹脂材料を充分に送り込むことができ、基体20の部位ごとでの樹脂材料の含浸ばらつきを低減または防止することができる。
【0057】
本実施形態によれば、さらに、充填工程の後の含浸工程において、ゲート部72の開度を第一開度よりも小さい第二開度にした状態で樹脂貯留部526に貯留された樹脂材料を加圧して、基体20に樹脂材料を含浸させる。ゲート部72を開けた状態で基体20に樹脂材料を含浸させることにより、ピン62による樹脂材料の圧送圧力を含浸中の基体収容部54の樹脂材料に伝達することができる。したがって、樹脂材料を加圧しながら基体20の繊維層に含浸させることにより、基体20の繊維層内に空隙が発生することを抑制または防止することができる。また、含浸工程が、ゲート部72の開度が全開時よりも小さい状態で行われることにより、基体収容部54の樹脂材料が、ゲート部72の上面72Tから上金型51までの空間、すなわち第四樹脂供給路528に対して逆流することを抑制することができる。したがって、樹脂材料の逆流により、基体20の繊維層に含まれる繊維材料がライナ10から引き剥がされる不具合を抑制または防止することができる。また、ゲート部72が全閉されないため、繊維材料が、例えばゲート部72と上金型51との間に挟み込まれるといった不具合を抑制または防止することができる。
【0058】
本実施形態によれば、樹脂材料には、二液性エポキシ樹脂が用いられる。したがって、樹脂材料の硬化の開始タイミングを把握しやすくなり、樹脂材料の粘度の上昇タイミングを推定することが容易となる。また、本実施形態では、樹脂貯留工程では、主剤と、硬化剤とを衝突混合させて供給する。主剤と硬化剤との混合を高速化することにより繊維強化プラスチックの生産性を向上させることができる。
【0059】
本実施形態によれば、基体20は、流体を貯留可能なライナ10を含んでいる。充填工程では、圧力センサ33によりライナ10の内圧と、圧力センサ32によりピン62が樹脂材料を加圧する圧力とを取得し、取得したライナ10の内圧とピン62が樹脂材料を加圧する圧力との差圧GPが予め定められた閾値以上となるように、樹脂貯留部526に貯留された樹脂材料を加圧する。したがって、基体収容部54への樹脂材料の供給時に、樹脂材料の圧送圧力による基体20の変形などの不具合を抑制することができる。
【0060】
B.他の実施形態:
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0061】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
10…ライナ、12…胴部、14…ドーム部、16,17…口金、18…繊維束、19…繊維強化樹脂層、20…基体、32…圧力センサ、33…圧力センサ、34…変位センサ、36…トルクセンサ、37…変位センサ、38…トルクセンサ、40…樹脂供給部、41…主剤供給部、42…硬化剤供給部、43…主剤供給路、44…硬化剤供給路、46…衝突混合部、50…金型、51…上金型、52…下金型、54…基体収容部、60…加圧機構、62…ピン、62T…上面、64…駆動部、66…軸部、70…ゲート機構、72…ゲート部、72T…上面、74…駆動部、76…軸部、78…ゲート収容部、80…制御部、90…ガス供給機構、100…ガスタンク、200…繊維強化プラスチック製造装置、510…樹脂供給口、514…上基体収容部、521,523…シャフト収容部、524…下基体収容部、525…第二樹脂供給路、526…樹脂貯留部、526A…第一樹脂貯留部、526B…第二樹脂貯留部、526C…第三樹脂貯留部、526D…第四樹脂貯留部、526E…第五樹脂貯留部、527…第三樹脂供給路、528…第四樹脂供給路、AX…中心軸、CP…境界