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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】NOxセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
G01N27/416 331
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022052420
(22)【出願日】2022-03-28
(65)【公開番号】P2023145123
(43)【公開日】2023-10-11
【審査請求日】2024-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】加山 竜三
(72)【発明者】
【氏名】河野 翔太
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-267885(JP,A)
【文献】特表2002-513934(JP,A)
【文献】特開2021-039088(JP,A)
【文献】特開平10-318979(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0133116(US,A1)
【文献】特開2023-145122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス(G)に含まれるNOxを検出するセンサ素子(1)と、上記センサ素子を加熱するヒータ(H)と、上記センサ素子及び上記ヒータの動作を制御すると共に、上記センサ素子からの信号に基づいてNOx濃度を算出するセンサ制御部(10)と、を備えるNOxセンサ(S)であって、
上記センサ素子は、
ガス導入部(3)を介して上記被測定ガスが導入され、固体電解質体(11)を室壁とする被測定ガス室(2)と、
上記被測定ガス室において、導入されるガス流れの上流側に配置される第1セル電極(21)を有し、上記被測定ガス中のH2O濃度と相関を有する第1信号(Ip)を出力する第1セル(1p)、及び、上記第1セルよりも下流側に配置される第2セル電極(22)を有し、上記被測定ガス中のNOx濃度及びH2O濃度に応じた第2信号(Is)を出力する第2セル(1s)と、を有しており、
上記センサ制御部は、
上記第2信号に基づくNOx濃度基準値(C1)を算出するNOx濃度基準値算出部(101)と、
上記第1信号又は外部情報に基づいて、H2O濃度又はH2O濃度と相関を有する濃度情報を含むH2O濃度情報(Ci)を検出するH2O濃度情報検出部(102)と、
上記第2セルの温度(Ts)と相関を有する第2セル温度情報(Ti)を検出する第2セル温度情報検出部(103)と、
上記NOx濃度基準値を、上記H2O濃度情報及び上記第2セル温度情報に基づくオフセット補正値(C2)を用いて補正するNOx濃度補正部(104)と、を有する、NOxセンサ。
【請求項2】
上記被測定ガス室において、上記第1セルは、上記被測定ガスに含まれる酸素を、上記固体電解質体を介して排出するのに伴い、上記第1信号を出力するものであり、
上記被測定ガス室に導入されるガス流れに対して、上記第1セルよりも下流側に、上記被測定ガスに残存する残存酸素濃度に対応する第3信号(Im)を出力する第3セル(1m)が、上記第2セルと並列に配置されている、請求項1に記載のNOxセンサ。
【請求項3】
上記第2セル温度情報は、上記第2セル又は上記第3セルのセルインピーダンス(Zac)である、請求項2に記載のNOxセンサ。
【請求項4】
上記第2セル温度情報は、上記第3セルから出力される上記第3信号である、請求項2に記載のNOxセンサ。
【請求項5】
上記第2セル温度情報は、上記ヒータのヒータ抵抗である、請求項1又は2に記載のNOxセンサ。
【請求項6】
上記第2セル温度情報は、上記センサ素子の外部における上記被測定ガスの流速及び温度に基づいて取得される、請求項1又は2に記載のNOxセンサ。
【請求項7】
上記センサ制御部は、上記第1セル及び上記第2セルへの印加電圧を制御する検出制御部(200)と、上記ヒータへの通電により、上記第1セルの温度(Tp)を制御するヒータ制御部(300)とを、さらに備える、請求項1~6のいずれか1項に記載のNOxセンサ。
【請求項8】
上記第2セル電極は、Rhを含む電極材料にて構成されており、
上記検出制御部は、上記第2セルへの印加電圧を、0.35V以上に制御する請求項7に記載のNOxセンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中のNOx濃度を検出するためのNOxセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のNOxセンサは、固体電解質体を用いたセンサ素子を備えており、センサ素子の内部へ被測定ガスとなる排ガスを導入し、窒素酸化物(NOx)の分解に起因して固体電解質体を流れる電流を測定することにより、NOx濃度を検出している。一般に、センサ素子は、固体電解質体の表面に電極が形成された複数のセルを有し、例えば、ガス流れの上流側に設けられるポンプセルにて被測定ガス中の酸素(O2)をポンピングし、所定の低酸素濃度に調整した上で、下流側に設けられるセンサセルにて被測定ガスに含まれるNOxを検出する。
【0003】
一方、NOx濃度の検出において、被測定ガスに含まれる水分(H2O)が誤差要因となることがある。その対策として、特許文献1には、エンジンの運転条件により定まる空気過剰率あるいはA/F値から排ガス中の水分量を推定し、推定された水分量に応じてガス濃度検出信号を補正する方法が提案されている。また、酸素ポンプ作用を利用する形式のガスセンサにおいては、酸素を汲み出す第1セルから得られる信号と排ガス中の酸素濃度及び水分量との相関関係を利用して、NOxを分解する第2セルから得られる信号を、マップを用いて又はアナログ回路上で補正する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3372186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のガスセンサは、エンジン情報又はセンサ情報から、排ガス中の水分量を推定し又は水分量に相当する値を取得して、水分量に対応する補正量を用いて、NOxガス濃度検出出力を補正している。その前提として、NOxガス濃度検出出力とNOxガス濃度との間に直線関係があることが示され、水分量による補正をしない場合には、感度には影響がないものの、オフセットが変化するとされている。ところが、負荷条件によって温度条件がより広範囲で変動すると、必ずしも水分量に基づくオフセットが一定とならないことが判明した。これは、水分量とオフセットの関係が、負荷条件によって異なるセンサ周辺の温度環境やセンサ制御の影響を受けるためと推測され、水分量に起因する誤差が適切に補正されずに、NOxガス濃度の検出精度が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、周辺環境変化等の影響を抑制し、被測定ガスに含まれる水分量に基づく補正をより精度よく行って、NOx濃度の検出精度を向上可能なNOxセンサを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
被測定ガス(G)に含まれるNOxを検出するセンサ素子(1)と、上記センサ素子を加熱するヒータ(H)と、上記センサ素子及び上記ヒータの動作を制御すると共に、上記センサ素子からの信号に基づいてNOx濃度を算出するセンサ制御部(10)と、を備えるNOxセンサ(S)であって、
上記センサ素子は、
ガス導入部(3)を介して上記被測定ガスが導入され、固体電解質体(11)を室壁とする被測定ガス室(2)と、
上記被測定ガス室において、導入されるガス流れの上流側に配置される第1セル電極(21)を有し、上記被測定ガス中のH2O濃度と相関を有する第1信号(Ip)を出力する第1セル(1p)、及び、上記第1セルよりも下流側に配置される第2セル電極(22)を有し、上記被測定ガス中のNOx濃度及びH2O濃度に応じた第2信号(Is)を出力する第2セル(1s)と、を有しており、
上記センサ制御部は、
上記第2信号に基づくNOx濃度基準値(C1)を算出するNOx濃度基準値算出部(101)と、
上記第1信号又は外部情報に基づいて、H2O濃度又はH2O濃度と相関を有する濃度情報を含むH2O濃度情報(Ci)を検出するH2O濃度情報検出部(102)と、
上記第2セルの温度(Ts)と相関を有する第2セル温度情報(Ti)を検出する第2セル温度情報検出部(103)と、
上記NOx濃度基準値を、上記H2O濃度情報及び上記第2セル温度情報に基づくオフセット補正値(C2)を用いて補正するNOx濃度補正部(104)と、を有する、NOxセンサにある。
【発明の効果】
【0008】
上記構成のNOxセンサにおいて、センサ制御部は、センサ素子の動作とヒータの動作を制御すると共に、センサ素子からの信号に基づいて、NOx濃度を算出する。第2セルから第2信号が入力されると、NOx濃度基準値算出部において、予め知られる第2信号とNOx濃度との関係に基づいて、NOx濃度基準値が算出される。H2O濃度情報検出部は、第1セルから入力される第1信号又はセンサ素子の外部情報に基づくH2O濃度情報を検出する。また、第2セル温度情報検出部は、入力される第2セル温度情報に基づいて、対応する第2セルの温度を検出する。NOx濃度補正部は、H2O濃度情報及び第2セル温度情報に基づいて、オフセット補正値を算出し、NOx濃度基準値を補正する。
【0009】
ここで、センサ素子の周辺環境は、被測定ガスの排出環境によって変動し、被測定ガスに含まれる水分量が変動すると共に、負荷条件によって被測定ガスの温度や流量も変動する。そのために、センサ制御部によってヒータによる温度制御が実施されていても、第2信号が出力される第2セルの温度が、ヒータによる制御温度から外れる場合があり、オフセットの要因となっていることが判明した。そのような場合でも、NOx濃度補正部において、H2O濃度情報と第2セル温度情報とに基づいてオフセット補正値が算出され、第2セルの温度を考慮したオフセット補正値を用いて、NOx濃度基準値を補正するので、NOx濃度をより精度よく算出することができる。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、周辺環境の変化等の影響を抑制し、被測定ガスに含まれる水分量に基づく補正をより精度よく行って、NOx濃度の検出精度を向上可能なNOxセンサを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1における、NOxセンサの全体概略構成図。
図2】実施形態1における、NOxセンサの主要部であるセンサ素子の概略構成を示す長手方向断面図とそのI-I線断面図。
図3】実施形態1における、NOxセンサのセンサ制御部の主要部構成を示すブロック図。
図4】実施形態1における、NOxセンサの取り付け状態を示す全体構成図とその一部拡大断面図。
図5】実施形態1における、センサ素子のポンプセル電流とO2濃度及びH2O濃度の関係を示す図。
図6】実施形態1における、センサ素子のオフセット補正前のNOx出力とH2O濃度の関係を示す図。
図7】実施形態1における、センサ素子のオフセット補正後のNOx出力とH2O濃度の関係を示す図。
図8】実施形態1における、センサ素子の電極材料とガス種の吸着エネルギの関係を示す図。
図9】実施形態1における、センサ素子のポンプセル電流とO2濃度及びH2O濃度の関係を示す図。
図10】実施形態1における、センサ制御部のNOx濃度算出部の主要部構成を示すブロック図。
図11】実施形態1における、センサ素子のオフセット補正値とH2O濃度の関係を示す図。
図12】実施形態1における、センサ素子のオフセット補正値とO2濃度の関係を示す図。
図13】実施形態1における、オフセット補正値算出マップを取得するための試験装置の概略構成図と燃焼前後のガス組成式を示す図。
図14】実施形態1における、センサ制御部のヒータ制御部による通電制御を説明するための図で、センサ素子の主要部断面図。
図15】実施形態1における、排ガス中のO2濃度とH2O濃度の関係を示す図。
図16】実施形態1における、排ガス中のO2濃度とH2O濃度の関係における燃料性状の影響を示す図。
図17】実施形態2における、センサ制御部のNOx濃度算出部による算出処理手順を示すフローチャート図。
図18】実施形態2における、センサ制御部の検出制御部により印加される電圧と出力される電流の関係を示すタイムチャート図。
図19】実施形態2における、センサ素子に印加される電圧と出力される電流の関係を示す模式図。
図20】実施形態2における、センサセル温度とセルインピーダンスの関係を示す図。
図21】実施形態3における、センサ制御部のNOx濃度算出部の主要部構成を示すブロック図。
図22】実施形態3における、センサ素子のセンサセル温度情報の検出原理を説明するための模式図。
図23】実施形態3における、センサセル温度とモニタセル電流の関係を示す図。
図24】実施形態3における、センサセルへの印加電圧とNOx出力の関係を示す図。
図25】実施形態3における、センサセル温度とヒータ抵抗の関係を示す図。
図26】実施形態3における、ヒータ抵抗とヒータ温度及びヒータ温度とセンサセル温度の関係を示す図。
図27】実施形態4における、センサ制御部のNOx濃度算出部の主要部構成を示すブロック図。
図28】実施形態4における、センサ制御部のNOx濃度算出部に用いられるO2濃度換算マップ図。
図29】実施形態4における、センサ制御部のNOx濃度算出部に用いられるH2O濃度換算マップ図及び大気中H2O濃度換算マップ図。
図30】実施形態5における、センサ素子の取り付け構造を示す断面図。
図31】実施形態5における、センサ素子のセンサセル温度と排ガス温度及び排ガス流速との関係を示す図。
図32】実施形態5における、センサ素子のチャンバ構造とNOx出力オフセットの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
NOxセンサに係る実施形態1について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本形態のNOxセンサSは、センサ素子1と、センサ素子1を加熱するヒータHと、センサ制御部10とを備える。図4の全体図(右図)に示すように、センサ素子1が収容されるセンサ本体1Aは、例えば、車両用エンジン等の内燃機関の排ガス通路EXに設置され、センサ素子1を用いて、被測定ガスである排ガスG中に含まれる窒素酸化物(すなわち、NOx)を検出する。センサ制御部10は、排ガス通路EXの外部に設置されて、センサ素子1による検出動作及びヒータHによる加熱動作を制御すると共に、センサ素子1からの出力に基づいてNOx濃度を算出する。
【0013】
図1図2に示すように、センサ素子1は、例えば、固体電解質体11を用いた限界電流式センサとして構成されており、第1セルであるポンプセル1pと、第2セルであるセンサセル1sと、を有している。センサ素子1には、ガス検出部となる一端側(例えば、図4の右図における下端側)の内部に、固体電解質体11を室壁とする被測定ガス室2が形成されており、センサ素子1の外部から、ガス導入部3を介して、被測定ガス室2へ排ガスGが導入される。センサ素子1は、センサセル1sと並設される第3セルとしてのモニタセル1mを備えることもできる。
【0014】
図4の左図に示すように、排ガスGは、センサ素子1の長手方向をガス流れ方向Xとして、その先端部に設けられるガス導入部3から、被測定ガス室2に導入される。被測定ガス室2において、ポンプセル1pは、ガス流れの上流側に配置され、排ガスG中の酸素濃度を調整しつつ、排ガスG中の酸素濃度に対応する信号であり、H2O濃度と相関を有する第1信号を出力するように構成される。センサセル1sは、ポンプセル1pよりも下流側に配置されて、酸素濃度が調整された排ガスG中のNOx濃度及びH2O濃度に応じた第2信号を出力する。固体電解質体11を挟んで被測定ガス室2と反対側には、基準ガス室4が配置される。センサ素子1の外表面には、ガス検出部の全体を覆って、多孔質保護層5が形成される。
【0015】
図2に示すように、具体的には、ポンプセル1pは、被測定ガス室2に面する固体電解質体11の表面に、第1セル電極であるポンプ電極21を有し、酸素ポンピングを行って、排ガスG中の酸素濃度を所定の低濃度に調整する。このとき、ポンプ電極21の触媒作用により、排ガスGに含まれる酸素(すなわち、O2)が還元されて、酸化物イオン(すなわち、O2-)となり、固体電解質体11の内部を伝導して、基準ガス室4側へ排出される。その際にポンプセル1pを流れる電流(以下、ポンプセル電流と称する)Ipは、調整前の排ガスG中の酸素濃度(以下、適宜、O2濃度と称する)に対応するものとなり、H2O濃度と相関を有する第1信号として、センサ制御部10へ出力される。
【0016】
センサセル1sは、被測定ガス室2に面する固体電解質体11の表面に、第2セル電極であるセンサ電極22を有し、O2濃度が調整された排ガスGに含まれるNOxを検出する。このとき、排ガスGにH2Oが含まれる場合には、センサ電極22の触媒作用により、NOxが分解されると共にH2Oが分解されて、NOx及びH2Oに起因する酸化物イオンが、固体電解質体11の内部を伝導して、基準ガス室4側へ排出される。その際にセンサセル1sを流れる電流(以下、センサセル電流と称する)Isは、排ガスG中のNOx濃度及びH2O濃度に応じたものとなり、第2信号としてセンサ制御部10へ出力される。
【0017】
NOxセンサSは、例えば、NOxを浄化するための選択的触媒還元(すなわち、SCR:Selective Catalytic Reduction)システムに用いられて、触媒下流側におけるNOx濃度を検出し、触媒上流側への還元剤の供給量制御等に利用される。その場合に、排ガスGにNOxと共に水分(すなわち、H2O)が混在すると、センサ素子1からの出力は、本来のNOxに基づく出力に、H2Oに基づく出力が上乗せされたものとなる。排ガスG中のH2Oは、主にエンジンにおける燃料の燃焼に起因するものであり、排ガスG中のO2と相関を有する。そのため、H2O濃度又はO2濃度を用いて、NOx出力のオフセット量を推定して、NOx濃度の補正を行うことが可能であり、さらに、H2Oに基づく出力の温度特性を考慮することにより、オフセット補正を適切に行うことができる。
【0018】
図1図3に示すように、センサ制御部10は、センサ素子1又は外部装置等と通信可能に構成されており、機能的に、NOx濃度算出部100と、検出制御部200と、ヒータ制御部300と、を備える。NOx濃度算出部100は、センサ素子1から出力される第1信号、第2信号や外部情報に基づいて、H2Oに起因するNOx出力の誤差(以下、NOx出力誤差と称する)を補正して、NOx濃度を算出する。検出制御部200は、センサ素子1による検出動作が、適切に実施されるように制御し、また、ヒータ制御部300は、センサ素子1が検出に適した温度となるように、ヒータHによる加熱動作を制御する。検出制御部200及びヒータ制御部300による制御の詳細については、後述する。
【0019】
NOx濃度算出部100は、NOx濃度基準値算出部101と、H2O濃度情報検出部102と、第2セル温度情報検出部であるセンサセル温度情報検出部103と、NOx濃度補正部104と、を有する。NOx濃度基準値算出部101には、第2信号であるセンサセル電流Isが入力され、センサセル電流Isに基づくNOx濃度基準値C1が算出される。H2O濃度情報検出部102には、第1信号であるポンプセル電流Ip又は外部情報が入力され、ポンプセル電流Ip又は外部情報に基づいて、H2O濃度又はH2O濃度と相関を有する濃度情報を含むH2O濃度情報Ciが検出される。センサセル温度情報検出部103には、第2セル温度情報として、センサセル1sの温度(以下、センサセル温度と称する)Tsと相関を有するセンサセル温度情報Tiを検出する。
【0020】
NOx濃度補正部104は、検出されたH2O濃度情報Ci及びセンサセル温度情報Tiに基づくオフセット補正値C2を算出し、このオフセット補正値C2を用いて、NOx濃度基準値C1を補正する。具体的には、NOx濃度補正部104は、オフセット補正値算出部104Aを有し、予め取得されるセンサセル電流Isのオフセット量と、H2O濃度情報Ci及びセンサセル温度情報Tiとの関係に基づいて、オフセット補正値C2を算出するための補正マップ又は補正式等を記憶している。
【0021】
このように、NOx濃度算出部100は、センサセル1sからの出力であるセンサセル電流Isに基づいて、NOx濃度基準値C1を算出する一方、ポンプセル電流Ip又は外部情報に基づくH2O濃度情報Ciを検出する。図5に示すように、ポンプセル電流Ipから知られるO2濃度は、排ガスG中のH2O濃度と相関を有し、H2O濃度が増加するほどO2濃度が減少する概略反比例の関係にある。この関係を利用してO2濃度をH2O濃度に換算し、あるいは、外部からの情報に基づくH2O濃度を取得して、H2O濃度情報Ciをすることができる。また、センサセル温度Tsと相関を有するセンサセル温度情報Tiを検出し、これら検出情報を用いてオフセット補正値C2を算出する。
【0022】
図6に示すように、センサセル電流Isに基づくNOx濃度(単位:ppm)は、雰囲気中の水分に起因するオフセットを示し、モデルガス中のNOx濃度が実質的にゼロであっても、H2O濃度(単位:%)の増加と共に、センサ出力が増加する。このNOx出力誤差は、さらに、雰囲気温度によっても変動し、モデルガスの温度が70℃、200℃、500℃と上昇するほど、同じH2O濃度におけるセンサ出力が大きくなる温度特性を示す。そのために、車両用のNOxセンサSのように、導入される排ガスGの温度変化が大きい使用環境においては、H2O濃度に基づく出力補正のみでは、十分な補正精度が得られないおそれがある。
【0023】
ここで、センサ制御部10は、センサ素子1のガス検出部となる一端側を、内蔵されるヒータHを用いて、所定温度となるように加熱制御している。ところが、図6中に示すように、センサセル温度Tsが、ポンプセル1pの制御温度(例えば、600℃)に対して、高温側に(例えば、600℃~650℃の範囲で)変動することが判明した。この温度変動により、例えば、アイドリング時のような低負荷条件では、センサセル温度Tsは、ポンプセル1pと同等温度に制御可能であるものの、より高負荷の運転条件では、制御温度に追従させることが難しくなる。
【0024】
図1において、ヒータHは、基準ガス室4を挟んで被測定ガス室2の室壁となる固体電解質体11に対向し、ポンプセル1pとセンサセル1sとが配置される領域を、熱伝達により加熱可能となっている。ただし、固体電解質体11の全体を均一に加熱することは難しく、また、本形態のように、ポンプセル1pとセンサセル1sとがガス流れ方向Xに縦列する構成では、排ガスGや周囲との熱授受に違いが生じることから、排ガスGの温度の影響を受けやすくなる。そのために、排ガスGの温度が高くなると、センサセル温度Tsが、ポンプセル1pの制御温度と一致しなくなり、また、センサセル1sが高温となることで、H2Oの分解が促進されて、センサセル電流Isが増加するものと推測される。
【0025】
これに対して、図7に示すように、NOx濃度補正部104において、H2O濃度情報Ci及びセンサセル温度情報Tiに基づくオフセット補正を行った場合には、H2O濃度やセンサセル温度Tsによらず、センサセル電流Isが、モデルガスのNOx濃度とほぼ一致している。このように、センサ出力の補正に際して、ヒータHによる制御温度と、NOx濃度が検出されるセンサセル1sの温度とのずれに着目し、センサセル温度Tsを考慮したオフセット補正値C2を用いることにより、NOx濃度をより精度よく算出することができる。
【0026】
2O濃度情報検出部102において検出されるH2O濃度情報Ciは、H2O濃度又はH2O濃度と相関を有する濃度情報、例えば、O2濃度の情報等を含むものであればよい。O2濃度の情報が、センサ素子1から入力されるポンプセル電流Ipに基づいて取得される場合には、排ガスG中のO2濃度(%)と一定の関係にある、空燃比(A/F)、空気過剰率(λ=空燃比/理論空燃比)、当量比(φ=1/λ)等であってもよい。
【0027】
また、H2O濃度情報Ciは、このようなセンサ素子1の内部情報に限らず、センサ素子1の外部にて取得される外部情報であってもよい。外部情報は、エンジンの運転情報や搭載環境等の情報を含み、これらの外部情報に基づいて、H2O濃度情報検出部102においてH2O濃度を算出してもよいし、これらの外部情報に基づいて推定されたH2O濃度又はO2濃度の推定値を、外部情報として取得してもよい。
【0028】
センサセル温度情報検出部103において検出されるセンサセル温度情報Tiは、センサセル温度Tsと相関を有する情報を含むものであればよい。このような情報としては、例えば、センサ素子1の内部で取得されるインピーダンス情報、抵抗値情報等が挙げられる。インピーダンス情報としては、例えば、センサセル1sから入力されるセンサセル電流Is、又はモニタセル1mから入力される第3信号としてのモニタセル電流Imに基づく、セルインピーダンスZacの検出値とすることができる。
【0029】
また、センサ素子1の内部情報に限らず、センサ素子1の外部にて取得される外部情報であってもよい。外部情報としては、例えば、エンジンの運転情報や、センサ素子1の周囲の排ガス情報等の情報を含み、これらの外部情報に基づいて、センサセル温度情報検出部103においてセンサセル温度Tsを算出してもよいし、これらの外部情報に基づいて推定されたセンサセル温度Tsの推定値を、外部情報として取得してもよい。
【0030】
2O濃度情報検出部102又はセンサセル温度情報検出部103において、外部情報は、例えば、図示しない車両用エンジン制御ユニット(すなわち、Engine Control Unit;以下、ECUと称する)からの情報として、センサ制御部10へ入力される。センサ制御部10は、通信部やマイクロコンピュータ(以下、マイコンと称する)、センサ素子1やECUと接続される各種端子等を備えるセンサ制御ユニットとして構成されており、センサ素子1からの内部情報又はECUからの外部情報に基づいて、NOx濃度算出部100において、NOx濃度が算出される。
【0031】
なお、ECUには、図示しないエアフローメータにより検出される吸入空気量や、エンジン回転数センサ、アクセル開度センサ等からの検出信号が入力されており、これら入力情報に基づいて、エンジンEの運転状態を知り、車両全体を制御している。
【0032】
このように、センサ制御部10において、NOx濃度算出部100が、センサセル温度Tsを考慮したオフセット補正を行うNOx濃度補正部104を備えることにより、排ガスG中の水分に起因するNOx出力誤差を適切に補正して、NOx濃度を精度よく算出することができる。
以下、NOxセンサSの構成例及びセンサ制御部10による制御の詳細について、説明する。
【0033】
(NOxセンサSの全体構成)
図4において、NOxセンサSのセンサ本体1Aは、筒状のハウジングS1の内側にセンサ素子1が挿通保持され、ハウジングS1の外周ねじ部が、排ガス通路EXの通路壁EX1に固定されている。センサ本体1Aは、センサ素子1の先端側が排ガス通路EXの内部に突出位置して、素子カバーS2内に収容され、センサ素子1の基端側が排ガス通路EXの外部に突出位置して、大気カバーS3内に収容される。センサ制御部10は、センサ本体1Aの基端側に引き出されるリード線S4を介して、センサ素子1と電気的に接続される。
【0034】
素子カバーS2は、底面を有する二重筒構造となっており、外側カバー及び内側カバーの側面及び底面には、図示しない複数のガス流通孔が設けられる。これにより、排ガス通路EXを流通する排ガスGが、素子カバーS2の内部に取り込まれて、ガス検出部となるセンサ素子1の先端側が、被測定ガスである排ガスGに晒される。また、筒状の大気カバーS3の側面には、図示しない複数のガス流通孔が設けられる。これにより、基準ガスである大気Aが、大気カバーS3の内部に取り込まれ、センサ素子1の基端側に到達可能となっている。
【0035】
図4中に拡大して示すように、センサ素子1の先端側に到達した排ガスGは、ガス導入部3から被測定ガス室2の内部へ取り込まれて、基端側へ移動する。被測定ガス室2には、ガス流れ方向Xの上流側にポンプセル1pが、下流側にセンサセル1s及びモニタセル1mが配置され、基準ガス室4に取り込まれる大気Aを基準ガスとして、排ガスG中のNOxを検出する。
【0036】
(センサ素子1の構成)
図2において、センサ素子1は、3セル構造の積層型素子であり、ガス流れ方向Xと直交する方向(すなわち、図2の上下方向)を積層方向として、遮蔽層13、スペーサ層12、固体電解質体11、及び、ヒータ絶縁層61が、この順で配置される。固体電解質体11の一方の表面側には、スペーサ層12と、遮蔽層13とが配置されて、被測定ガス室2となる空間が形成される。また、固体電解質体11のもう一方の表面側には、ヒータHを構成するヒータ絶縁層61との間に、基準ガス室4となる空間が形成される。
【0037】
被測定ガス室2は、スペーサ層12の先端面(すなわち、図2における左端面)に埋設される拡散抵抗層31を介して、排ガスGが存在する素子カバーS2(例えば、図4参照)内の空間と連通している。拡散抵抗層31は、その外側に配置される多孔質保護層5の一部と共に、被測定ガス室2へのガス導入部3を構成し、所定の拡散抵抗下で排ガスGが導入されるように調整されている。多孔質保護層5は、センサ素子1のガス検出部となる先端側の表面全体を覆って形成されており、被毒物質等からセンサ素子1を保護している。
【0038】
センサ素子1のガス検出部には、ポンプセル1p、センサセル1s及びモニタセル1mが設けられ、各セルは、それぞれ固体電解質体11を挟んで対向する一対の電極を有する。被測定ガス室2において、固体電解質体11の表面には、ガス流れ方向Xの上流側に、ポンプセル1pのポンプ電極21が配置され、その下流側に、センサセル1sのセンサ電極22及びモニタセル1mのモニタ電極23が配置される。基準ガス室4において、固体電解質体11の表面には、これら電極21、22、23と対向する位置に、共通の電極となる基準電極41が設けられる。
【0039】
共通の基準電極41が配置される基準ガス室4は、センサ素子1の基端側(例えば、図2における右端側)まで延びており、図示しない端面に開口する基準ガス導入口を介して、大気Aが存在する大気カバーS3(例えば、図4参照)内の空間と連通している。基準ガス室4の底壁となるヒータ絶縁層61の内部には、通電により発熱する発熱体62が埋設されて、ヒータHを構成している。発熱体62は、ポンプセル1p、センサセル1s及びモニタセル1sの電極が形成される部位に対応して配置され、ガス検出部となる素子先端側の全体を加熱可能となっている。
【0040】
これにより、各セルの一対の電極は、その一方の電極21、22、23が、被測定ガス室2に導入される排ガスGに晒され、もう一方の電極41が、基準ガス室4に導入される大気Aに晒される。このとき、各セルの一対の電極間に電圧を印加することにより、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質体11を介して、排ガスGに含まれる酸素を基準ガス室4側へ汲み出し又は基準ガス室4側から汲み入れる酸素ポンピングが可能になる。また、ヒータHを作動させることにより、各セルが活性となる温度以上に加熱して、酸素ポンピングを安定して実施可能になる。
【0041】
被測定ガス室2において、ポンプセル1pのポンプ電極21は、ガス流れ方向Xの上流側に大面積で形成される。拡散抵抗層31を通過した排ガスGがポンプ電極21と接触すると、その触媒作用により酸素が分解されて、基準電極41側へ排出される。ポンプセル1pにより低酸素濃度に調整された排ガスGは、下流側のセンサ電極22及びモニタ電極23へ到達し、センサ電極22において、NOxに起因する酸素が残存酸素と共に酸素ポンピングにより排出される。また、モニタ電極23において残存酸素が酸素ポンピングにより排出される。
【0042】
センサ電極22及びモニタ電極23は、ガス流れ方向Xにおいて同等となる位置に並設され、ポンプ電極21よりも小面積の同一形状に形成される。これにより、排ガスGの流れに対して、センサ電極22とモニタ電極23が同等条件となり、センサセル1sとモニタセル1mの出力を比較することにより、NOx出力に含まれる残存酸素の影響を取り除くことができる。
【0043】
固体電解質体11は、酸化物イオン伝導性を有するジルコニア系の固体電解質材料によって構成される。ジルコニア系の固体電解質材料としては、例えば、イットリア等の安定化剤を含有する部分安定化ジルコニア又は安定化ジルコニアを用いることができる。また、拡散抵抗層31、多孔質保護層5は、例えば、アルミナ等のセラミックス材料にて構成される。ヒータ絶縁層61、遮蔽層13、スペーサ層12は、アルミナ等の絶縁性セラミックス材料を用いて構成することができる。
【0044】
ポンプセル1p、センサセル1s及びモニタセル1mの電極は、貴金属又は貴金属合金材料とジルコニア系固体電解質とを含む多孔質サーメット電極とすることができる。センサセル1sのセンサ電極22は、検出しようとするNOxに対して分解活性を有する電極材料を用いて構成される。このような電極としては、例えば、白金及びロジウムを含む電極(以下、Pt-Rh電極と称する)を用いることができる。
【0045】
図8に示すように、各セルの電極を構成する貴金属元素は、排ガスGに含まれるガス種に対して、それぞれ異なる吸着エネルギ(分解性)を示し、ガス吸着性の高い順に、Rh>Pt>Auとなっている。また、ガス種から見たとき、貴金属元素に対する吸着エネルギ(分解性)は、O2>NO>H2Oの順となっている。そのため、これら貴金属元素の組み合わせや金属比率を変更し、各セルに印加される電圧を調整することによって、各セルにおいて所望のガスを選択的に分解することが可能になる。
【0046】
ポンプセル1pのポンプ電極21は、酸素の分解活性を有し、NOx分解活性が低い電極材料を用いて構成される。このような電極としては、例えば、白金及び金を含む電極(以下、Pt-Au電極と称する)を用いることができる。モニタセル1mのモニタ電極23も、ポンプ電極21と同様の電極材料を用いて構成される。また、基準電極41は、例えば、白金を含む電極(以下、適宜、Pt電極と称する)として構成することができる。
【0047】
これにより、ヒータHによってセンサ素子1を所定の温度に加熱し、各セルの電極間に所定の電圧を印加することにより、ポンプセル1pにて所定の低酸素濃度に調整された排ガスG中のNOxを、センサセル1sにて検出することができる。また、センサ電極22に用いられるPt-Rh電極と、モニタ電極23に用いられるPt-Au電極とのガス吸着性の違いを利用して、センサセル1sとモニタセル1mから出力される電流の差分値をNOx出力とすることで、排ガスGに残留する酸素の影響をキャンセルすることができる。
【0048】
ただし、センサ電極22を構成するPt-Rh電極に含まれるRhが、NOx及びO2に加えてH2Oに対しても分解活性を有することから、センサ電極22に到達する排ガスG中にH2Oが含まれる場合には、これらの分解に起因する出力誤差が生じることになる。この出力誤差は、センサ制御部10のNOx濃度算出部100にて、予め取得したオフセット補正情報を用いて、出力補正を行う。センサ制御部10による各部の制御と出力補正について、次に説明する。
【0049】
(センサ制御部10の構成)
図1において、センサ制御部10は、センサ素子1の各セルからの出力電流を検出する電流検出部10Aと、電流検出部10Aにて検出されるポンプセル電流Ip、センサセル電流Is及びモニタセル電流Imに基づいて、NOx濃度を算出するNOx濃度算出部100と、を有する。また、センサ制御部10は、センサ素子1によるNOx検出を制御する検出制御部200と、ヒータHによるセンサ素子1の加熱を制御するヒータ制御部300と、を備える。
【0050】
センサ素子1の各セルは、検出端子P-及び検出端子S-、M-を介して、センサ制御部10と接続され、ヒータHの発熱体62の両端は、一対のヒータ端子H+、H-に接続されている。センサ制御部10は、一対の通信用端子CAN+、CAN-を介して、図示しないECUと接続されており、ECUからの指令を受けて、NOx検出処理を行い、検出結果を出力可能となっている。また、センサ制御部10は、電源端子VB及びグランド端子GNDを介して、図示しない車両用バッテリ及びグランドと、それぞれ接続されており、センサ制御部10の各種回路やセンサ素子1のヒータH等への給電が可能となっている。
【0051】
NOx濃度算出部100は、記憶部や演算部を備えるマイコン等にて構成されており、電流検出部10Aから入力されるセンサ素子1の内部情報を用いて、予め記憶されたプログラムを実行すると共に所定の演算を行って、NOx濃度を算出する。電流検出部10Aは、検出端子P-を介して、ポンプセル1pのポンプ電極21に接続されると共に、検出端子S-、M-を介して、センサセル1sのセンサ電極22及びモニタセル1mのモニタ電極23に接続されている。電流検出部10Aは、例えば、電流検出用の抵抗を用いた検出回路を含み、抵抗の両端電位差から各セルの出力電流を検出可能に構成される。検出される出力電流は、アナログ/デジタル変換回路においてデジタル信号に変換されて、NOx濃度算出部100の各部へ入力される。
【0052】
検出制御部200は、ポンプセル1p、センサセル1s及びモニタセル1mによる検出動作を、それぞれ制御する。検出制御部200は、例えば、各セルの一対の電極間に電圧を印加するための電圧印加回路を備えており、制御指令に基づいて所定の電圧信号を生成し、共通端子COM+を介して、共通の基準電極41側に印加することができる。印加電圧は、例えば、ポンプセル1pの酸素ポンピングにより、被測定ガス室2内のO2濃度が所定の低濃度となるように、各セルを流れる電流が限界電流特性を示す範囲で調整される。
【0053】
ヒータ制御部300は、センサ素子1に内蔵されるヒータHへの通電を制御する。ヒータ制御部300は、例えば、電源端子VBに接続されるスイッチ回路を備えており、制御指令に基づいてスイッチ回路がオンオフ駆動されることにより、ヒータ端子H+、H-を介して、ヒータHへの給電を制御可能となっている。これにより、ヒータHにより加熱されるセンサ素子1の各セルが、NOx検出に適した温度に維持される。
【0054】
図3において、NOx濃度算出部100は、NOx濃度基準値算出部101と、H2O濃度情報検出部102と、センサセル温度情報検出部103と、NOx濃度補正部104と、を有する。NOx濃度算出部100は、NOx濃度基準値算出部101において、電流検出部10Aにて検出されるセンサセル電流Is及びモニタセル電流Imに基づいて、NOx濃度基準値C1を算出する。具体的には、センサセル電流Is及びモニタセル電流Imの差分値を算出して、残存酸素の影響を取り除いたNOx出力を算出し、予め試験等を行って取得したNOx出力とNOx濃度との関係に基づいて、対応するNOx濃度基準値C1を算出する。
【0055】
図9中に実線で示されるように、センサ素子1からのNOx出力である差分値[Is-Im]と、分析計等によって計測される実際のNOx濃度(計測値)とは、本来であれば、ゼロ点を通る直線で表される関係となる。一方、図8中に点線で示されるように、NOx出力にH2Oに起因する誤差が含まれる場合には、実際に検出される出力電流に基づく差分値(検出値)は、計測値に対して誤差が上乗せされた出力となる。そのため、NOx濃度基準値算出部101は、実線で表される対応関係を、予めマップ化し又は算出式として記憶しておき、差分値(検出値)に対応する値を、NOx出力誤差を補正する前のNOx濃度基準値C1として取得する。
【0056】
NOx濃度補正部104は、NOx濃度基準値C1に含まれる誤差を補正して、本来のNOx濃度を算出する。このとき、上述したように、NOx濃度基準値C1に含まれる誤差は、H2O濃度に応じて増減し、また、温度特性を有することから、NOx濃度補正部104には、これらの情報に基づくオフセット補正値C2を算出する、オフセット補正値算出部104Aが設けられる。
【0057】
具体的には、図10に示されるように、H2O濃度情報Ciを、H2O濃度情報検出部102において検出すると共に、センサセル温度情報Tiを、センサセル温度情報検出部103にて検出する。H2O濃度情報検出部102では、例えば、ポンプセル1pから入力されるポンプセル電流Ipに基づいて、H2O濃度情報Ciを検出し、センサセル温度情報検出部103では、例えば、モニタセル1mから入力されるモニタセル電流Imに基づいて、センサセル温度情報Tiを検出する。
【0058】
2O濃度情報Ciは、例えば、ポンプセル電流Ipから知られるH2O濃度であり、センサセル温度情報Tiは、例えば、モニタセル電流Imから知られるモニタセル1mのセルインピーダンスZacとすることができる。これら情報Ci、Tiは、オフセット補正値算出部104Aに入力されて、オフセット補正を行うためのオフセット補正値C2の算出に用いられる。
【0059】
図11に示すように、オフセット補正値算出部104Aには、予め試験等を行って取得されたオフセット補正値算出マップが記憶されている。マップは、H2O濃度情報Ci及びセンサセル温度情報Tiと、オフセット補正値C2との関係の一例として、排ガスG中のH2O濃度範囲(例えば、0%~約13%)に対応するオフセット補正値C2を、センサ素子1の搭載環境における温度毎に示している。図示されるように、オフセット補正値C2は、H2O濃度が増加するほど、また、搭載環境温度が高くなるほど、大きな値となる。
【0060】
このような算出マップを用いることにより、H2O濃度情報Ci及びセンサセル温度情報Tiに応じたオフセット補正値C2が得られ、上述したように、NOx出力誤差を適切に補正することが可能になる(例えば、図5参照)。なお、ここでは、便宜的に、搭載環境にてセンサセル温度Tsが取り得る温度範囲の上下限に相当する低温及び高温の温度域と、その中間となる中温の温度域における関係を示すが、例えば、搭載環境温度範囲の全体に対応させたマップ値等を用いて補正を行うようにしてももちろんよい。
【0061】
図12に示すように、算出マップは、排ガスG中のH2O濃度とO2濃度との関係から、O2濃度範囲(例えば、0%~約21%)に対応するオフセット補正値C2を、センサ素子1の搭載環境における温度毎に示したものであってもよい。その場合には、上述した図11の関係とは逆に、オフセット補正値C2は、O2濃度が増加するほど小さな値となり、また、搭載環境温度が高くなるほど、大きな値となる。排ガスG中のH2O濃度とO2濃度との関係については、後述する。
【0062】
算出マップは、例えば、図13に示す試験装置400を用いて取得することができる。試験装置400は、排ガスGを模したモデルガスG1を生成するガス混合部401と、ガス混合部401に接続される排ガス管402を備える。ガス混合部401には、N2ガス、O2ガス及びCO2ガス他の各種ガスの供給管403が接続され、バルブ403Aの開度を調整することにより、モデルガスG1中のガス混合比率やガス流量を調整可能となっている。排ガス管402は、ガス混合部401との接続部の外周囲にヒータ404が配置されて、流入するモデルガスG1を所定の温度に加熱可能となっており、ヒータ404よりも下流側の排ガス管402には、ガスセンサSのセンサ本体1Aが取り付けられ、その下流に配置される熱電対405及びガス濃度計測部406によって、モデルガスG1の温度や各種ガス濃度が計測可能となっている。
【0063】
このような試験装置400において、以下の条件で、ガスセンサSによるNOx濃度の測定を行い、NOx出力とモデルガスG1の計測値と対比させることで、図10に示した算出マップを得た。
2O濃度:可変(0%~約13%)
ガス温度:可変(70℃、200℃、500℃)
ガス流量:設定値
制御温度:600℃(ポンプセル温度Tp)
モデルガスG1は、ガス混合比率を変更することにより、H2O濃度が0%~約13%の範囲(すなわち、O2濃度が約21%~0%の範囲)となるように、ガス温度を70℃~500℃の範囲で3段階に変更した。ガス流量は、モデルガスG1中の各種ガスの流量をそれぞれ調整することにより、H2O濃度によらず同一流量となるように調整した。
【0064】
また、ガスセンサSは、図示しないセンサ制御部10に接続されており、制御温度となるポンプセル温度Tpが一定となるように、ヒータ制御部300による制御を行った。この制御温度を600℃として、ガス温度を70℃~500℃の範囲で変化させたとき、センサ素子1のセンサセル温度Tsは、以下のように変化した。
ガス温度:70℃→センサセル温度Ts:600℃
ガス温度:200℃→センサセル温度Ts:620℃
ガス温度:500℃→センサセル温度Ts:650℃
【0065】
図14に示すように、センサ制御部10は、ポンプセル温度Tpを、例えば、ポンプセル1pのセルインピーダンスZpに基づいて検出することができる。ヒータ制御部300は、例えば、検出されたポンプセル温度Tpと所定の制御温度とを比較して、ヒータ通電用のデューティ比を設定し、ヒータHをデューティ駆動する。このとき、ポンプセル1pが温度制御される一方で、センサセル1sは成り行きの温度制御となる。この要因(1)として、センサ素子1が取り付けられる排ガス通路EXの通路壁EX1(例えば、図4参照)への熱引けがあり、また、要因(2)として、センサ素子1の周囲に存在する排ガスGとの間の熱授受がある。
【0066】
被測定ガス室2において、センサセル1sは、ポンプセル1pよりもガス流れの下流側、センサ素子1の基端側に位置することから、これら要因(1)、(2)の影響が、ポンプセル1pとは異なる。また、ヒータHの発熱体62によるポンプセル1p及びセンサセル1sの加熱は、必ずしも均一にはなされない。そのために、例えば、排ガスGのガス温度が比較的高い場合には、排ガスGに晒されて熱交換しやすいポンプセル1pを基準として温度制御すると、センサセル1sからの熱引けが進まずに、温度差が生じやすくなる可能性がある。
【0067】
そのような場合においても、NOx濃度補正部104において、H2O濃度に基づくNO出力誤差の温度特性を考慮することにより、上述したオフセット補正値算出マップを用いて、オフセット補正を良好に行うことができる。また、ポンプセル1pのセルインピーダンスZpを用いて、ポンプセル温度Tpを応答性よく制御できるので、ポンプセル1pにおける酸素ポンピングによる酸素の排出を良好に行い、H2O濃度情報Ciに対応するポンプセル電流Ipを精度よく検出することができる。このように、H2O濃度情報Ci及びセンサセル温度情報Tiに基づくオフセット補正によって、NOx濃度を精度よく算出可能となる。
【0068】
ここで、図13中に式(1)として示すように、未燃混合気には、炭化水素系の燃料(Cmno)と、空気過剰率λに応じた量の空気とが含まれており、空気には、大気中水蒸気濃度xに応じた量の水蒸気(以下、大気中水蒸気と称する)が含まれる。また、図13中に式(2)として示すように、既燃ガスである排ガスGは、燃料の燃焼により酸素が消費されて、空気過剰率λに応じた余剰の酸素が残り、二酸化炭素(すなわち、CO2)と水蒸気(以下、燃料由来水蒸気と称する)が生成する。排ガスGに含まれる水蒸気(以下、排ガス中水蒸気と称する)は、燃料由来水蒸気と、大気中水蒸気に基づく水蒸気(以下、空気由来水蒸気と称する)からなり、空気由来水蒸気は、空気過剰率λと大気中水蒸気濃度xに応じて定まる。
【0069】
この関係から、空気過剰率λが1を超えて大きくなるほど、排ガスG中のO2濃度が増加し、相対的にH2O濃度が減少する。あるいは、空気過剰率λが小さくなるほど、O2濃度が減少し、相対的にH2O濃度が増加する。したがって、ポンプセル1pにおいて酸素の排出に伴うポンプセル電流Ipを検出することにより、排ガスG中のO2濃度、さらには、H2O濃度を知ることができる。このとき、大気中水蒸気濃度xを考慮することが望ましく、実際の計測値又は推定値等を用いることもできるが、必ずしも容易ではない。一方、燃料由来水蒸気の振れ幅(例えば、約13%)に対して、大気中水蒸気濃度x(例えば、0.5%~3.5%)の影響は比較的軽微であるため、好適には、周辺環境に基づく一定の基準値(例えば、2%)を設定するとよい。
【0070】
図15に示すように、排ガスG中のO2濃度と排ガスG中のH2O濃度との関係を、大気中水蒸気濃度xを0%又は2%として、上記式(1)、(2)の関係に基づいて算出し、実際の車両試験による評価結果と比較した。車両試験は、燃料のH/C比(Cmnoにおけるn/m比)を1.886として、空気過剰率λを変化させることにより、排ガスG中のO2濃度を変化させ、排ガスGに含まれる実際のH2O濃度を測定した。その結果、大気中水蒸気濃度xを2%とした場合の特性線で示される関係と、ほぼ一致した。このように、大気中水蒸気濃度xの基準値を設定することで、容易にH2O濃度を算出することができる。なお、この基準値は、ガスセンサSの搭載環境に応じて、例えば、地域や気候により異なる大気中水蒸気濃度xのばらつき等を考慮して、任意に設定することができる。
【0071】
また、図16に示すように、エンジンに用いられる燃料性状が異なると、そのH/C比によって、排ガス中水蒸気も変動することから、O2濃度とH2O濃度との関係が変化する。図13中の式(2)において、燃料由来水蒸気は[n/2]で表され、燃料が酸素を含まず、H/C比が大きいほど、燃料由来水蒸気が増加する。そのため、H/C比(例えば、1.8~2.2)に応じて、図16における特性線の傾きが変化し、また、図中に矢印で示すように、大気中水蒸気濃度xが0%から4%に増加することで、特性線が増加方向にシフトする。そのため、好適には、燃料性状を考慮して、排ガスG中のH2O濃度を算出するのがよい。具体的には、基準となるO2濃度とH2O濃度との関係において、上記式(2)における空気由来水蒸気の項から、以下の算出式に基づく空気由来水蒸気を加算して、排ガス中水蒸気を算出することができる。
空気由来水蒸気=[m+(n/4)-(O/2)]×[x/(100-x)/0.209]
【0072】
このように、本形態によれば、H2O濃度情報Ciとセンサセル温度情報Tiとを用いることにより、ポンプセル1pを酸素ポンピングに適した状態に制御しつつ、負荷条件の変化等によるセンサセル1sの温度変動に対応して、適切なオフセット補正が可能になる。これにより、低負荷条件から高負荷条件までの広範囲な運転条件において、排ガスG中の水分に起因する出力の温度特性を補正し、NOx濃度を精度よく算出することができる。
【0073】
(実施形態2)
NOxセンサに係る実施形態2について、図面を参照して説明する。本形態では、上述したセンサ制御部10による検出制御と、NOx濃度算出について、具体的な手順の一例を示す。図17は、NOx濃度算出部100にて実施されるオフセット補正の手順を示すフローチャートであり、図18には、検出制御部200にてNOx検出のために実施されるの印加電圧制御のタイムチャートを示す。本形態のNOxセンサSにおいて、センサ素子1の基本構成及びセンサ制御部10の基本制御は、上記実施形態1と同様であり、以下、相違点を中心に説明する。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0074】
図17のフローチャートの実施に先立ち、センサ制御部10は、上記図1に示したヒータ制御部300を駆動させて、センサ素子1のヒータHへ通電し、ポンプセル温度Tpに基づくフィードバック制御を開始する。また、検出制御部200を駆動させて、所定の電圧信号を生成し、センサ素子1の共通電極41側へ印加する。なお、図17のフローチャートにおいて、ステップS1、ステップS2は、それぞれ、H2O濃度情報検出部102、センサセル温度情報検出部103に対応する。また、ステップS3は、オフセット補正値算出部104Aに対応し、ステップS4、ステップS5は、NOx濃度基準値算出部101に対応し、ステップS6は、NOx濃度補正部104に対応する。
【0075】
図17のフローチャートが開始されると、ステップS1において、ポンプセル1pのポンプセル電流Ipが、H2O濃度情報Ciとして検出される。検出制御部200により、所定の直流電圧が印加されると、ポンプセル1pにおいて酸素ポンピングにより、被測定ガス室2の酸素が排出され、所定の低濃度に調整される。このとき流れるポンプセル電流Ipは、上記図5に示したように、排ガスG中のO2濃度及びH2O濃度と、一定の関係を有することから、検出されたポンプセル電流Ipを、O2濃度又はH2O濃度に変換することなく、H2O濃度情報Ciとしてオフセット補正値の算出に用いることができる。
【0076】
図18の上段に示すように、検出制御部200は、各セルの一対の電極間に、酸素ポンピングのための所定の直流電圧を印加すると共に、一定の周期で、モニタセル1mのセルインピーダンスZac検出のための所定の交流電圧を印加する。このように、周期的に印加電圧を切り替え、図18の下段に示すように、所定の検出タイミングt1、t2において、対応する出力電流を検出することにより、オフセット補正のためのH2O濃度情報Ci及びセンサセル温度情報Tiを、センサ構成を大きく変更することなく取得することができる。
【0077】
t1は、セルインピーダンスZacを検出するためのZac検出タイミングであり、交流の印加電圧の変化Δv(単位V)と、対応する出力電流の変化Δi(単位A)との比率から、セルインピーダンスZac(=Δv/Δi)を算出することができる。また、t2は、ガス濃度に応じた電流を検出するための濃度検出タイミングであり、直流の印加電圧により、酸素が基準電極41側へ排出されるのに伴って発生する電流を検出することができる。このとき、モニタセル1mでは、モニタ電極23において、残存酸素が分解することによる電流が発生する。また、センサセル1sでは、センサ電極22において、NOx及び残存酸素が分解すると共に、H2Oの分解による電流が発生する。
【0078】
ここで、図19に示されるように、センサ素子1の各セルは、ジルコニア系材料からなる固体電解質体11の抵抗(R)成分と容量(C)成分が、一対の電極間に電気的に並列に接続されたモデル図で表される。このうち、固体電解質体11の抵抗成分(R)は、その温度と相関を有することが知られており、上記図18に示したように、強制的に電圧(Δv)を印加し、発生した電流(Δi)を検出することで、素子内部の交流抵抗(R)を測定することが可能になる。
【0079】
ステップS2では、モニタセル1mのセルインピーダンスZacが、センサセル温度情報Tiとして検出される。この検出は、検出制御部200により、インピーダンス検出のための所定の交流電圧が印加されるZac検出タイミングt1にて実施される。図20に示されるように、モニタセル1mのセルインピーダンスZacは、センサセル1sのセルインピーダンスZacとほぼ一致し、センサセル温度Ts(例えば、500℃~700℃)が上昇するほど、セルインピーダンスZac(例えば、200Ω~2500Ω)が低くなると共に、その低下率が緩やかになる関係を示している。
【0080】
したがって、モニタセル1mのセルインピーダンスZacを、センサセル温度Tsに対応するセンサセル温度情報Tiとして、好適に用いることができる。なお、図20に示される関係から、モニタセル1mのセルインピーダンスZacに代えて、センサセル1sのセルインピーダンスZacを用いることもでき、その場合には、NOx出力に対応するセンサセル1sの温度を直接検出できる利点がある。ただし、図18中に示すように、ガス濃度を検出する際の電流検出レンジは、nAオーダであるのに対し、インピーダンス検出に必要な電流検出レンジは、μA~mAオーダであるため、両方に対応するようにすると出力電流の検出に必要な電流検出レンジが大きくなり、低電流側の電流の検出精度が低下するおそれがある。
【0081】
電流検出レンジについて補足すると、最大電流検出幅と分解能の関係は、以下のようになり、検出回路のADコンバータのビット数に依存する。
最大電流検出幅=最小電流検出値(分解能)×AD(Bit数)
つまり、分解能を細かくしようとすると、最大電流検出幅が小さくなり、例えば、分解能1nA、12BitADコンバータでは、最大電流検出幅が4096nA(=1nA×212)となる。一方、セルインピーダンスZac検出はμA~mA(10-3~10-6A)オーダの出力であるため、センサセル1sでnAの出力電流を検出しようとすると、分解能を維持したままでは、対応することができない。
【0082】
そのため、好適には、モニタセル1mのセルインピーダンスZacを用いることで、センサセル1sをnAオーダの電流検出に適した構成とすることができ、電流検出レンジを広げる必要がないので、NOx検出への影響を抑制することができる。
【0083】
次いで、ステップS3において、H2O濃度情報Ci及びセンサセル温度情報Tiに基づいて、オフセット補正値C2が算出される。H2O濃度情報Ciとしては、ステップS1で検出されたポンプセル電流Ipが、センサセル温度情報Tiとしては、ステップS2で検出されたモニタセル1mのセルインピーダンスZacとが用いられ、これら情報とオフセット補正値C2との関係を、予め算出マップ又は算出式等として記憶しておくことができる。
【0084】
ステップS4では、センサセル1sのセンサセル電流Isと、モニタセル1mのモニタセル電流Imが、センサセル温度情報Tiとして検出される。この検出は、検出制御部200により、所定の直流電圧が印加される濃度検出タイミングt2にて実施される。これにより、続くステップS5において、センサセル電流Isとモニタセル電流Imとの差分値[Is-Im]に対応するNOx濃度基準値C1が、上記図9に示した関係に基づいて算出される。
【0085】
その後、ステップS6において、ステップS5にて算出されたNOx濃度基準値C1から、ステップS5にて算出されたNOx濃度基準値C1から、ステップS3にて算出されたオフセット補正値C2が減算されることにより、NOx濃度が算出されると、本処理は一旦終了される。
【0086】
このような手順で、NOx濃度補正部104において、センサ素子1からの入力信号に基づくH2O濃度情報Ciとセンサセル温度情報Tiとを用いて、オフセット補正値C2を算出し、NOx濃度基準値C1に含まれる出力誤差を補正することができる。また、センサ素子1が、3セル構造である場合には、モニタセル1mからの出力電流を利用して、セルインピーダンスZacを検出することにより、センサセル1sにおけるNOx検出を妨げることなく、効率よい電流検出を行い、回路構成を最適化して、精度よいNOx濃度の検出が可能になる。
【0087】
このとき、図18に示されるように、検出制御部200は、モニタセル1mに対して、残存酸素の監視のために、所定の直流電圧を印加する一方、周期的に、所定の交流電圧を印加して、インピーダンス検出のためのモニタセル電流Imを出力ささせる。NOx濃度算出部100は、所定の検出タイミングt1において、直流の印加電圧に対応して発生するモニタセル電流Imを取得し、センサセル温度情報検出部103は、所定の検出タイミングt2において、交流の印加電圧に対応して発生するモニタセル電流Imを取得することができる。
【0088】
NOx濃度補正部104は、NOx濃度基準値算出部101から入力されるNOx濃度基準値C1を、H2O濃度情報検出部102から入力されるO2濃度と、センサセル温度情報検出部103から入力されるモニタセル1mのセルインピーダンスZacを用いて補正し、NOx濃度を算出する。
【0089】
(実施形態3)
NOxセンサに係る実施形態3について、図面を参照して説明する。図21にブロック図を示すように、本形態は、上述したセンサ制御部10のNOx濃度算出部100にて実施されるオフセット補正の他の例であり、センサセル温度情報Tiとして、モニタセル1mから出力されるモニタセル電流Imを用いている。それ以外のセンサ素子1の基本構成及びセンサ制御部10の基本制御は、上記実施形態2と同様であり、以下、相違点を中心に説明する。
【0090】
図21において、NOx濃度算出部100は、H2O濃度情報検出部102に入力されるポンプセル電流Ipを、H2O濃度情報Ciとして検出する。上記図5に示したように、ポンプセル電流Ipは、被測定ガス室2に導入される排ガスG中のO2濃度に相当し、H2O濃度と相関を有することから、H2O濃度情報Ciとして用いられ、NOx濃度補正部104のオフセット補正値算出部104Aへ出力される。
【0091】
また、NOx濃度算出部100は、センサセル温度情報検出部103に入力されるモニタセル電流Imを、センサセル温度情報Tiとして検出し、オフセット補正値算出部104Aへ出力する。上記図4に示したように、被測定ガス室2のガス流れに対して、モニタセル1mとセンサセル1sとは同等位置にあり、ヒータHにより同等温度に加熱されている。そのため、モニタセル1mの温度は、実質的にセンサセル温度Tsに相当する。上記実施形態では、温度に対応するパラメータとしてセルインピーダンスZacを用いたが、これに代えて、モニタセル電流Imを用いることができる。
【0092】
図22に示すように、センサ素子1において、ポンプセル1pの一対の電極21、41間に、酸素ポンピングのための所定のポンプ電圧(例えば、約0.4V)が印加されるとき、センサセル1s及びモニタセル1mの一対の電極間にも、同等の電圧が印加される。これにより、センサセル1s及びモニタセル1mでは、センサ電極22及びモニタ電極23側から基準電極41側へ、自由電子(すなわち、図中のe-)の移動が生じ、それに伴う電流の流れ(すなわち、図中に点線矢印で示す)が逆方向に生じる。この電流の流れが、温度依存性を有すると考えられることから、センサセル温度情報Tsとして利用することができる。
【0093】
図23に示すように、モニタセル電流Imは、センサセル1sの温度と相関があり、温度上昇に比例して自由電子の移動が促進されて電流が増加している。また、H2O濃度が高い場合には、電流が増加すると共に、特性線の傾きが変化しており、例えば、600℃前後から700℃前後の温度範囲において、モニタセル電流Imは、30nA程度(H2O濃度0%)から50nA程度(H2O濃度13%)の増加を示している。そのため、モニタセル電流Imは、H2O濃度とも相関があり、自由電子の移動と共にH2Oの分解が生じることに伴い電流が増加していると推測される。
【0094】
ここで、上記図8に示したように、モニタセル1mのモニタ電極23に用いられるPt-Au電極は、H2Oの分解活性が低い電極として構成されており、H2O濃度が低い条件では、H2Oの分解による影響はほとんど生じない。ただし、セル温度又はH2O濃度が高くなると、H2Oの分解による出力が増加することから、好適には、H2O濃度を考慮した補正を行うことで、センサセル温度Tsを精度よく検出できる。その場合には、H2O濃度情報検出部102にて検出されるH2O濃度情報Ci(例えば、ポンプセル電流Ip)を補正に用いることができる。
【0095】
図21において、NOx濃度補正部104は、オフセット補正値算出部104Aに入力されるポンプセル電流Ipと、モニタセル電流Imとを用い、予め取得したH2O濃度情報Ciとセンサセル温度情報Tiの関係を示す算出マップ等に基づいて、オフセット補正値C2を算出する。センサセル温度情報Tiであるモニタセル電流Imは、予めH2O濃度に応じた補正を行ってもよいし、H2O濃度毎に用意された算出マップ等を用いてもよい。
【0096】
このように、センサセル温度情報Tiをモニタセル電流Imとしてもよく、取得されたオフセット補正値C2を用いて、NOx濃度基準値C1をオフセット補正することにより、NOx濃度を精度よく算出することができる。なお、モニタセル電流Imと同様に、センサセル電流Isも温度依存性を有すると考えられるが、センサ電極22がRhを含むために、H2Oに対する分解活性がモニタ電極23よりも高く、H2Oによる電流増加分と温度による電流増加分とを分離することが難しい。これに対して、モニタ電極23では、H2Oの分解が少ないため、センサセル温度情報Tiとして利用することが可能になる。
【0097】
ここで、図24に示すように、センサ素子1において、センサセル1sの一対の電極22、41間に印加される電圧(Vs;単位V)を可変させると、NOx出力は、H2O濃度に応じて増加する。例えば、H2O濃度が13%の場合には、印加電圧が0.35V以上になると、NOx出力が急増する。H2O濃度が0%の場合は、印加電圧によるNOx出力は、ほとんど変化していないことから、H2Oが存在する場合に、印加電圧が高くなることでH2Oの分解が促進されると考えられる。そのため、センサ電極22がPt-Rh電極である場合には、印加電圧をH2Oが分解されない電圧範囲に設定し、あるいは、電極材料や合金比率を変更する等の調整が必要となる。
【0098】
そのような場合でも、上述したように、NOx濃度補正部104にて、H2O濃度情報Ci及びセンサセル温度情報Tiを用いたオフセット補正を行うことにより、H2O濃度によらず、また、センサセル温度Tsが変動しても、好適な補正を行うことができる。その場合には、センサ電極22がRhを含む電極であり、印加電圧が0.35V以上に設定されるのがよく、オフセット補正を効果的に行うことができる。また、Rhを含むセンサ電極22に0.35V以上の電圧を印加することにより、電極寿命の向上が期待される。印加電圧は、好適には、0.45V程度ないしそれ以下の範囲で、適宜設定することができ、高精度かつ長寿命なNOxセンサSを実現可能となる。
【0099】
また、図25に示すように、センサセル温度情報Tiとして、センサセル1sを加熱するヒータHのヒータ抵抗を用いることもできる。センサ素子1において、ヒータHは、その発熱体62への通電により温度制御されており、ヒータ絶縁層61及び固体電解質体11を介して(例えば、図1参照)、熱伝達により加熱されるセンサセル1sの温度と、一定の関係にある。具体的には、図26の上図に示すように、ヒータ温度が常温(20℃)から最大温度Ta(単位:℃)の範囲で制御されるとき、ヒータ抵抗の範囲は、例えば、2Ω~8Ω程度となり、図26の下図に示すように、ヒータ温度の範囲(常温~Ta)に対して、センサセル温度Tsは、例えば、常温から最大温度Tb(単位:℃;Tb<Ta)の範囲で、ヒータ温度に比例して温度上昇する。
【0100】
この関係から、図25に示すヒータ抵抗とセンサセル温度Tsとの関係が得られ、ヒータ抵抗に応じて、例えば、常温~700℃程度の範囲のセンサセル温度Tsを検出することができる。また、ヒータ抵抗は、ヒータ制御のために温度情報が常時取得されていることから、センサセル温度情報Tiを取得するための回路構成の変更等が不要であり、従来の構成を利用して、センサセル温度情報Tiを考慮したオフセット補正が容易にできる。このように、センサセル温度情報Tiは、モニタセル電流ImやセルインピーダンスZacに限らず、センサセル温度Tsと相関を有し、センサセル温度Tsを推測可能な情報であればよい。
【0101】
(実施形態4)
NOxセンサに係る実施形態4について、図面を参照して説明する。
上記実施形態では、NOx濃度算出部100において、センサ素子1からの検出信号等の内部情報を用いて、H2O濃度情報Ciを取得したが、図27にブロック図を示すように、センサ素子1の外部情報を用いて、排ガスG中のH2O濃度を推定し(以下、H2O濃度推定値と称する)、H2O濃度情報Ciとすることもできる。外部情報は、具体的には、エンジンの各部からECUに入力される検出信号に基づく運転情報や、エンジン燃焼に用いられる燃料性状等の燃料情報、ガスセンサSの外部環境に基づく環境情報等、排ガスGに含まれるH2O濃度に影響する情報を用いることができる。本形態のNOxセンサSにおいて、センサ素子1の基本構成及びセンサ制御部10の基本制御は、上記実施形態1と同様であり、以下、相違点を中心に説明する。
【0102】
図27のブロック図は、NOx濃度算出部100のH2O濃度情報検出部102において、H2O濃度情報Ciを取得するために実施される手順[A]~手順[C]を示している。手順[A]では、エンジンの運転情報に基づいて、エンジンの燃焼室における未燃混合気のO2濃度を算出し、手順[B]では、未燃混合気の燃焼により生じるH2O濃度を算出し、さらに、手順[C]において、排ガスG中のH2O濃度を算出する。手順[A]は、変形例としての手順[a]によって、O2濃度を算出してもよい。以下、各手順について、説明する。
【0103】
手順[A]において、H2O濃度情報検出部102は、エンジンの運転情報として、ECUにて取得されるトルクと回転数とを用い、O2濃度換算マップ111を用いて、O2濃度を算出する。図28に示すように、O2濃度換算マップ111は、予め試験等を行って取得された関係をマップ化したものである。図中には、O2濃度5%、10%、15%となる領域を一例として示しており、トルクが大きいほど又は回転数が低いほど、O2濃度が低下する関係にある。取得されたO2濃度は、手順[B]にて用いられる。
【0104】
手順[A]に代えて、手順[a]を用いる場合には、エンジンの運転情報として、吸入空気量と燃料噴射量とを用い、エンジンが、排ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation;EGR)システムを採用している場合には、吸入空気量にEGRガス量を加算して用いる。これら情報を用いて、演算部112において、予め知られる関係に基づく演算を行って、A/F値を算出する。次いで、O2濃度換算マップ113を用いて、A/F値をO2濃度に変換する。取得されたO2濃度は、手順[B]にて用いられる。
【0105】
手順[B]では、手順[A]又は手順[a]において取得したO2濃度と、エンジンに用いられる燃料のH/C比とから、H2O濃度換算マップ114を用いて、燃料の燃焼により生じたと推定されるH2O濃度を算出する。算出されたH2O濃度は、手順[C]の演算部116において、大気中のH2O濃度が加算されて、排ガスG中のH2O濃度が算出され、H2O濃度推定値として出力される。大気中のH2O濃度は、大気中H2O算出部115にて取得される。
【0106】
図29の上図に示すように、H2O濃度換算マップ114において、O2濃度とH2O濃度の関係は、使用される燃料によって異なり、ここでは、以下の2種の燃料を例示する。
HVO(水素バイオディーゼル燃料) C/H=2.151
軽油(品質規格EN590) C/H=1.886
上述したように、燃料性状によって、燃料のH/C比が異なると燃焼により生成する水蒸気量も異なる(例えば、図16参照)。その場合には、上記図13中に示した式に基づいて、例えば、C/H=1.886の軽油が完全燃焼した場合には、H2O濃度12.5%となり、C/H=2.151のHVOが完全燃焼した場合には、H2O濃度13.6%となる。このように、H/C比によって、O2濃度とH2O濃度の相関がわずかに変わることから、好適には、使用される燃料に応じて予め取得した関係に基づくマップを用いて、燃料性状を考慮したH2O濃度を算出することが望ましい。
【0107】
また、大気中H2O算出部115において、大気中のH2O濃度は、ECUにて取得されるNOxセンサSの環境情報等から、温度と気圧と湿度とを用いて算出される。図29の下図に示すように、大気中の最大水蒸気濃度は、温度と気圧によって定まり、例えば、大気圧であるときに、図示の関係となる。このとき、最大水蒸気濃度は、温度が高くなるほど最大水蒸気濃度が増加する関係となり、さらに、湿度情報を用いることで、大気中のH2O濃度を算出することができる。例えば、図中に示すように、大気圧で28℃、湿度50%の場合には、最大水蒸気濃度の50%に対応する約2%が、大気中のH2O濃度となる。
【0108】
このようにして、手順[A]~手順[C]によりH2O濃度推定値が算出され、H2O濃度情報Ciとして、NOx濃度補正部104へ出力される。NOx濃度補正部104では、上記実施形態と同様にして、H2O濃度情報Ciとセンサセル温度情報Tiとを用いて、NOx濃度基準値C1をオフセット補正する。このように、外部情報に基づいて、H2O濃度情報CiとなるH2O濃度を算出する場合には、エンジンの運転情報のみならず、燃料情報や環境情報等を考慮することで、高い精度で排ガスG中のH2O濃度を推定することができる。
【0109】
(実施形態5)
NOxセンサに係る実施形態5について、図面を参照して説明する。
上記実施形態では、NOx濃度算出部100において、センサ素子1からの検出信号等の内部情報を用いて、センサセル温度情報Tiを取得したが、センサ素子1の外部情報を用いて、センサセル温度Tsを推定し(以下、センサセル温度推定値と称する)、センサセル温度情報Tiとすることもできる。外部情報としては、エンジンの運転情報や環境情報等の種々の情報を用いることができる。本形態のNOxセンサSにおいて、センサ素子1の基本構成及びセンサ制御部10の基本制御は、上記実施形態1と同様であり、以下、相違点を中心に説明する。
【0110】
本形態では、具体的には、センサ素子1の外部における被測定ガス情報である排ガス情報に基づいて、センサセル温度Tsを推定することができる。排ガス情報には、センサ素子1の搭載位置付近における排ガスGのガス温度やガス流量等のエンジンの運転に関する情報が含まれる。これらガス温度やガス流量は、例えば、ECUからの情報として、センサ制御部10のセンサセル温度情報検出部103に入力される。
【0111】
図30に示すように、NOxセンサSのセンサ本体1Aは、ハウジングS1が、排ガス通路EXの通路壁EX1に固定されており、ハウジングS1に収容されるセンサ素子1は、排ガス通路EX内に位置している。上述したように、センサ素子1の各部の温度は、必ずしも同等温度とはならず、その要因(1)として、ハウジングS1から通路壁EX1への熱引けがあり、また要因(2)として、排ガスGとの間の熱授受が挙げられる。このとき、排ガスGのガス温度やガス流量によって、排ガスGとの間の熱授受が変化し、例えば、素子カバーS2から導入されて、センサ素子1の先端へ到達する排ガスGのガス温度やガス当たりが変化する。これにより、センサ素子1の制御温度を維持するために、ヒータ制御部300によるヒータHへの投入電力量が変化すると、熱引けと熱授受のバランスがくずれやすくなる。
【0112】
その場合に、上記14に示したように、センサ素子1の内部において、ポンプセル1pの下流側に位置するセンサセル1sの温度は、排ガスGのガス温度やガス流量の影響を受けて、ヒータHの制御温度から外れやすくなる。そこで、図31に示すように、予め試験等を行って、センサ素子1の搭載位置における排ガス温度及び排ガス流量と、センサセル温度Tsとの関係を取得し、マップ化しておくことにより、排ガス情報に基づいてセンサセル温度推定値を取得することができる。
【0113】
このようにして取得されたセンサセル温度推定値は、センサセル温度情報Tiとして、NOx濃度補正部104へ出力される。NOx濃度補正部104では、上記実施形態と同様にして、H2O濃度情報Ciとセンサセル温度情報Tiとを用いて、NOx濃度基準値C1をオフセット補正する。このように、センサセル温度情報Tiについても、外部情報に基づいて取得することができ、ポンプセル1pの温度を基準としてヒータ制御されるNOxセンサSにおいて、ポンプセル1pの下流側に位置するセンサセル1sの温度を、高い精度で推定することができる。
【0114】
ここで、図32に示すように、センサ素子1の内部構造と、NOx出力オフセットの関係を、エンジンの運転条件を変えて比較した。図中の1チャンバは、上記図4に示したように、単一空間からなる被測定ガス室2に、ポンプセル1pとセンサセル1s及びモニタセル1mが配置されるセンサ素子1であり、負荷条件によって、NOx出力オフセットが大きく変化した。図中の複数チャンバは、被測定ガス室2が複数に区画されて、ポンプセル1pと、センサセル1s及びモニタセル1mとが、別チャンバに配置されるセンサ素子1であり、NOx出力オフセットの変化は、より小さい。
【0115】
運転条件は、WLTCモードによる走行試験において、アイドリング状態に相当する低負荷条件と、130km/h走行状態に相当する高負荷条件とにおけるセンサ出力を測定した。また、各条件において、排ガスG中のO2濃度を分析計にて測定したところ、以下のようになった。
低負荷条件:O2濃度10%、排ガス温度130℃
高負荷条件:O2濃度9%、排ガス温度350℃
【0116】
測定されたO2濃度は、各条件においてほぼ一致することから、NOx出力オフセットの変化は、実質的に、センサセル1sにおけるH2Oの分解反応が温度特性を有することを示していると考えられる。その理由は必ずしも明らかではないが、1チャンバのセンサ素子1において、上述した排ガスGとの熱授受やヒータHの制御の影響で、センサセル1sの温度が上昇しやすくなり、特に高負荷側において、NOx出力オフセットが増加すると推測される。そのような場合でも、上記各実施形態のように、センサ制御部10のNOx濃度算出部100において、オフセット補正を行うことにより、低負荷条件から高負荷条件まで、NOx濃度を精度よく算出することができる。
【0117】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。また、各実施形態における構成を組み合わせたり、一部を変更したりしてもよく、例えば、上記実施形態4のH2O濃度情報Ciと上記実施形態5のセンサセル温度情報Tiとを組み合わせてもよい。また、NOxセンサSは、車両用エンジンからの排ガスGに限らず、各種内燃機関等から排出されるガスを被測定ガスとするNOx検出に適用することができる。
【符号の説明】
【0118】
1 センサ素子
1p ポンプセル(第1セル)
1s センサセル(第2セル)
101 NOx濃度基準値算出部
102 H2O濃度情報検出部
103 センサセル温度情報検出部
104 NOx濃度補正部
2 被測定ガス室
Ip ポンプセル電流(第1信号)
Is センサセル電流(第2信号)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
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図32