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特許7605173制御装置、制御方法、プログラム、非接触電力伝送システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、プログラム、非接触電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20241217BHJP
   H02J 50/90 20160101ALI20241217BHJP
【FI】
H02J50/12
H02J50/90
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022065842
(22)【出願日】2022-04-12
(65)【公開番号】P2023156150
(43)【公開日】2023-10-24
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池村 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】津下 聖悟
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊哉
【審査官】三橋 竜太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-119759(JP,A)
【文献】特開2016-195512(JP,A)
【文献】特開2022-009773(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002839(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受電装置に電力を非接触で送電する送電装置の制御装置であって、
前記受電装置は、所定の契機でスイッチング制御による受電電力の抑制制御を実施するように構成されており、
前記制御装置は、
前記送電装置が備えるインバータの出力電流及び出力電圧に基づいて前記受電装置が前記抑制制御を実施しているか否かを判定する判定処理と、
前記判定処理の結果に基づいて前記送電装置の送電電力を制御する電力制御処理と、
を実行するように構成されている
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記判定処理は、
前記出力電流と前記出力電圧の振幅比及び位相差を算出することと、
前記振幅比と前記位相差の組の座標位置が所定の範囲に含まれていないことを受けて、前記受電装置が前記抑制制御を実施していると判定することと、
を含む
ことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の制御装置であって、
送電の対象となることが予測される前記受電装置について、諸元情報及び前記受電装置を特定する識別情報を取得する処理と、
送電を開始する前に前記識別情報に基づいて送電の対象とする前記受電装置を特定する処理と、
をさらに実行するように構成され、
前記判定処理は、特定した前記受電装置についての前記諸元情報に基づいて前記所定の範囲を定めることをさらに含む
ことを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の制御装置であって、
前記電力制御処理は、前記受電装置が前記抑制制御を実施していると判定されるとき、前記送電電力を減らすように制御することを含む
ことを特徴とする制御装置。
【請求項5】
受電装置に電力を非接触で送電する送電装置の制御方法であって、
前記受電装置は、所定の契機でスイッチング制御による受電電力の抑制制御を実施するように構成されており、
前記制御方法は、
前記送電装置が備えるインバータの出力電流及び出力電圧に基づいて前記受電装置が前記抑制制御を実施しているか否かを判定することと、
前記受電装置が前記抑制制御を実施しているか否かの判定の結果に基づいて前記送電装置の送電電力を制御することと、
を含む
ことを特徴とする制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の制御方法であって、
前記受電装置が前記抑制制御を実施しているか否かを判定することは、
前記出力電流と前記出力電圧の振幅比及び位相差を算出することと、
前記振幅比と前記位相差の組の座標位置が所定の範囲に含まれていないことを受けて、前記受電装置が前記抑制制御を実施していると判定することと、
を含む
ことを特徴とする制御方法。
【請求項7】
受電装置に電力を非接触で送電する送電装置の制御についてのプログラムであって、
前記受電装置は、所定の契機でスイッチング制御による受電電力の抑制制御を実施するように構成されており、
前記プログラムは、
前記送電装置が備えるインバータの出力電流及び出力電圧に基づいて前記受電装置が前記抑制制御を実施しているか否かを判定する判定処理と、
前記判定処理の結果に基づいて前記送電装置の送電電力を制御する処理と、
をコンピュータに実行させるように構成されている
ことを特徴とするプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムであって、
前記判定処理は、
前記出力電流と前記出力電圧の振幅比及び位相差を算出することと、
前記振幅比と前記位相差の組の座標位置が所定の範囲に含まれていないことを受けて、前記受電装置が前記抑制制御を実施していると判定することと、
を含む
ことを特徴とするプログラム。
【請求項9】
所定の契機でスイッチング制御による受電電力の抑制制御を実施するように構成された受電装置と、
前記受電装置に電力を非接触で伝送する送電装置と、
少なくとも1つのプロセッサと、
前記少なくとも1つのプロセッサと結合され、複数の実行可能なインストラクションを格納するメモリと、
を含み、
前記複数の実行可能なインストラクションは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
前記送電装置が備えるインバータの出力電流及び出力電圧に基づいて前記受電装置が前記抑制制御を実施しているか否かを判定する判定処理と、
前記判定処理の結果に基づいて前記送電装置の送電電力を制御する処理と、
を実行させるように構成されている
ことを特徴とする非接触電力伝送システム。
【請求項10】
請求項9に記載の非接触電力伝送システムであって、
前記判定処理は、
前記出力電流と前記出力電圧の振幅比及び位相差を算出することと、
前記振幅比と前記位相差の組の座標位置が所定の範囲に含まれていないことを受けて、前記受電装置が前記抑制制御を実施していると判定することと、
を含む
ことを特徴とする非接触電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、受電装置に電力を非接触で送電する送電装置の制御装置、制御方法、及び制御についてのプログラムに関する。また送電装置から受電装置に電力を非接触で伝送する非接触電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、送電装置から受電装置に電力を非接触で伝送する非接触電力伝送システムが提案されている。非接触電力伝送システムに関して、受電電力が過度に大きくなることによる過電圧の発生等から受電装置や充電対象のバッテリを保護するため、スイッチング制御により受電電力を抑制する技術が考えられている。
【0003】
特許文献1には、送電側からの電力をワイヤレスに(非接触で)受電する受電コイル及び受電コイルに接続される受電側共振コンデンサを有する受電側共振回路と、受電コイルが受電した電力を整流して負荷に出力する整流回路と、整流回路の出力電圧を検知する受電側電圧検知部と、受電側共振回路の出力部と整流回路の出力部との間に接続されるスイッチング素子及び受電側共振回路の出力部とスイッチング素子との間に挿入される整流素子を有する短絡回路と、受電側電圧検知部が検知した出力電圧の値があらかじめ設定された基準電圧値を超えたときスイッチング素子を動作させる制御回路と、を備えるワイヤレス受電装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6361818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スイッチング制御が長期間行われると、スイッチング損失が増大し、電力効率が低下することとなる。またスイッチングデバイスの熱損失が増加するため、冷却装置の大型化等によりコストが大きくなる。このため、受電電力を抑制するためのスイッチング制御の期間を低減することが望ましい。受電装置におけるスイッチング制御の期間を低減するためには、受電装置の状態に応じて送電装置の送電電力を制御することが考えられる。しかしながら、非接触電力伝送システムを適用する環境によっては、送電装置が受電装置と常時通信を行うことが困難であり、送電装置が受電装置の状態を適切に取得することができない虞がある。
【0006】
本開示の1つの目的は、上記の課題を鑑み、受電装置と常時通信を行うことを要することなく、受電装置の状態に応じて送電電力を制御することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の開示は、受電装置に電力を非接触で送電する送電装置の制御装置に関する。ここで、受電装置は、所定の契機でスイッチング制御による受電電力の抑制制御を実施するように構成されている。
【0008】
第1の開示に係る制御装置は、送電装置が備えるインバータの出力電流及び出力電圧に基づいて受電装置が抑制制御を実施しているか否かを判定する判定処理と、判定処理の結果に基づいて送電装置の送電電力を制御する電力制御処理と、を実行するように構成されている。
【0009】
第2の開示は、第1の開示に係る制御装置に対して、さらに以下の特徴を有する制御装置に関する。
【0010】
判定処理は、出力電流と出力電圧の振幅比及び位相差を算出することと、振幅比と位相差の組の座標位置が所定の範囲に含まれていないことを受けて、受電装置が抑制制御を実施していると判定することと、を含んでいる。
【0011】
第3の開示は、第2の開示に係る制御装置に対して、さらに以下の特徴を有する制御装置に関する。
【0012】
第3の開示に係る制御装置は、送電の対象となることが予測される受電装置について、諸元情報及び受電装置を特定する識別情報を取得する処理と、送電を開始する前に識別情報に基づいて送電の対象とする受電装置を特定する処理と、をさらに実行するように構成されている。また判定処理は、特定した受電装置についての諸元情報に基づいて所定の範囲を定めることをさらに含んでいる。
【0013】
第4の開示は、第1乃至第3の開示に係る制御装置に対して、さらに以下の特徴を有する制御装置に関する。
【0014】
電力制御処理は、受電装置が抑制制御を実施していると判定されるとき、送電電力を減らすように制御することを含んでいる。
【0015】
第5の開示は、受電装置に電力を非接触で送電する送電装置の制御方法に関する。ここで、受電装置は、所定の契機でスイッチング制御による受電電力の抑制制御を実施するように構成されている。
【0016】
第5の開示に係る制御方法は、送電装置が備えるインバータの出力電流及び出力電圧に基づいて受電装置が抑制制御を実施しているか否かを判定することと、受電装置が抑制制御を実施しているか否かの判定の結果に基づいて送電装置の送電電力を制御することと、を含んでいる。
【0017】
第6の開示は、第5の開示に係る制御方法に対して、さらに以下の特徴を有する制御方法に関する。
【0018】
受電装置が抑制制御を実施しているか否かを判定することは、出力電流と出力電圧の振幅比及び位相差を算出することと、振幅比と位相差の組の座標位置が所定の範囲に含まれていないことを受けて、受電装置が抑制制御を実施していると判定することと、を含んでいる。
【0019】
第7の開示は、受電装置に電力を非接触で送電する送電装置の制御についてのプログラムに関する。ここで、受電装置は、所定の契機でスイッチング制御による受電電力の抑制制御を実施するように構成されている。
【0020】
第7の開示に係るプログラムは、送電装置が備えるインバータの出力電流及び出力電圧に基づいて受電装置が抑制制御を実施しているか否かを判定する判定処理と、判定処理の結果に基づいて送電装置の送電電力を制御する処理と、をコンピュータに実行させるように構成されている。
【0021】
第8の開示は、第7の開示に係るプログラムに対して、さらに以下の特徴を有するプログラムに関する。
【0022】
判定処理は、出力電流と出力電圧の振幅比及び位相差を算出することと、振幅比と位相差の組の座標位置が所定の範囲に含まれていないことを受けて、受電装置が抑制制御を実施していると判定することと、を含んでいる。
【0023】
第9の開示は、送電装置から受電装置に電力を非接触で伝送する非接触電力伝送システムに関する。
【0024】
第9の開示に係る非接触電力伝送システムは、所定の契機でスイッチング制御による受電電力の抑制制御を実施するように構成された受電装置と、受電装置に電力を非接触で伝送する送電装置と、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのプロセッサと結合され、複数の実行可能なインストラクションを格納するメモリと、を含んでいる。そして複数の実行可能なインストラクションは、少なくとも1つのプロセッサに、送電装置が備えるインバータの出力電流及び出力電圧に基づいて受電装置が抑制制御を実施しているか否かを判定する判定処理と、判定処理の結果に基づいて送電装置の送電電力を抑制する処理と、を実行させるように構成されている。
【0025】
第10の開示は、第9の開示に係る非接触電力伝送システムに対して、さらに以下の特徴を有する非接触電力伝送システムに関する。
【0026】
判定処理は、出力電流と出力電圧の振幅比及び位相差を算出することと、振幅比と位相差の組の座標位置が所定の範囲に含まれていないことを受けて、受電装置が抑制制御を実施していると判定することと、を含んでいる。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、送電装置に備えるインバータの出力電流及び出力電圧に基づいて受電装置が抑制制御を実施しているか否かを判定する。そして、判定の結果に基づいて送電装置の送電電力を制御する。これにより、受電装置と常時通信を行うことを要することなく、受電装置が抑制制御を実施しているか否かを判定して、送電電力を制御することができる。延いては、受電装置が抑制制御を実施する期間を低減することができる。さらには、電力効率の低下とスイッチング制御に伴う熱損失を抑制し、コストの低減と受電装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態に係る非接触電力伝送システムの構成例を示す回路図である。
図2】スイッチング制御としてPWM制御を採用する場合のアクティブ整流器にかかる電圧の例を示すグラフである。
図3】車両に備えるバッテリを車両が走行しながら充電する充電システムに非接触電力伝送システムを適用する場合を示す概念図である。
図4】インバータの出力電流及び出力電圧を示すグラフである。
図5】PWM制御によりデューティを増加させたときのゲインと位相差の組の2次元プロットの例を示すグラフである。
図6図3に示す場合において送電制御装置が所定の範囲を定めるための処理を実行する際の例を示す概念図である。
図7】本実施形態に係る送電制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
図8】本実施形態に係る送電制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲などの数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数が特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構成等は、特に明示した場合や原理的に明らかにそれに特定される場合を除いて、本開示に係る思想に必ずしも必須のものではない。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を附しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0030】
1.非接触電力伝送システム
本実施形態は、送電装置から受電装置に電力を非接触で伝送する非接触電力伝送システムに関する。図1は、本実施形態に係る非接触電力伝送システムの構成例を示す回路図である。図1は、DC電源1が供給する電力によりバッテリ2を充電する充電システムに非接触電力伝送システムを適用する場合を示している。つまり、DC電源1は送電装置110に電力を供給し、送電装置110から受電装置210に非接触で電力が送電される。そして、受電装置210の受電電力によりバッテリ2の充電が行われる。
【0031】
DC電源1及び送電装置110は、典型的には、地面、床面、壁面等に定置される。受電装置210及びバッテリ2は、典型的には、充電の対象となる携帯端末や車両等の移動体に搭載される。バッテリ2は、典型的には、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等の再充電可能な二次電池である。
【0032】
図1に示す非接触電力伝送システムは、送電装置110に含まれる送電コイル116と、受電装置210に含まれる受電コイル216と、が互いに磁界共振することにより、送電コイル116から受電コイル216に電力が伝送される。つまり、磁界共振方式による電力伝送が行われる。
【0033】
送電装置110は、平滑コンデンサ111と、インバータ112と、イミタンスフィルタ114と、送電回路115と、を含んでいる。ここで、インバータ112、イミタンスフィルタ114、及び送電回路115はそれぞれ縦続接続するように構成されている。
【0034】
インバータ112は、直流電力を所定の周波数の交流電力に変換して出力する。インバータ112の出力電力は、イミタンスフィルタ114を介して送電回路115に供給される。
【0035】
インバータ112は、スイッチングデバイス113を含む単相フルブリッジ回路により構成される。またインバータ112は、送電制御装置100と接続している。送電制御装置100は、検出装置120(例えば、電流計や電圧計)から取得する情報に基づいて、スイッチングデバイス113のスイッチング制御を行う制御装置である。これにより、インバータ112の出力電力の周波数と大きさが制御される。延いては、送電装置110の送電電力が制御される。特に、インバータ112の出力電力の周波数は、送電回路115の共振周波数と同等となるように調整される。この意味で、送電回路115の共振周波数は「駆動周波数」と言い換えることもできる。なお、送電装置110が検出装置120から取得する情報は、少なくともインバータ112の出力電流及び出力電圧を含んでいる。
【0036】
イミタンスフィルタ114は、インバータ112の出力電力の電磁ノイズを低減する。イミタンスフィルタ114は、コイルとコンデンサにより構成されており、ローパスフィルタとして機能する。また送電装置110のインピーダンスを調整する。
【0037】
送電回路115は、送電コイル116と、共振コンデンサ117と、により構成される共振回路である。送電コイル116は、インバータ112から送電回路115に共振周波数の電力が供給されることにより、受電コイル216と磁界共振する。これにより、送電コイル116から受電コイル216に電力が伝送される。
【0038】
受電装置210は、平滑コンデンサ211と、アクティブ整流器212と、イミタンスフィルタ214と、受電回路215と、を含んでいる。ここで、アクティブ整流器212、イミタンスフィルタ214、及び受電回路215はそれぞれ縦続接続するように構成されている。
【0039】
受電回路215は、受電コイル216と、共振コンデンサ217と、により構成される共振回路である。受電回路215の共振周波数は、送電回路115の共振周波数と同等となるように構成されている。受電コイル216は、送電コイル116と磁界共振し、送電コイル116から伝送される電力を受電する。
【0040】
イミタンスフィルタ214は、受電回路215が受電する電力の電磁ノイズを低減する。イミタンスフィルタ214は、コイルとコンデンサにより構成されており、ローパスフィルタとして機能する。また受電装置210のインピーダンスを調整する。
【0041】
アクティブ整流器212は、受電回路215が受電する電力を直流電力に変換して出力する。アクティブ整流器212の出力電力は、平滑コンデンサ211を介してバッテリ2に供給される。つまり、アクティブ整流器212の出力電力が、受電装置210の受電電力となる。
【0042】
アクティブ整流器212は、スイッチングデバイス213を含む単相全波整流回路により構成される。またアクティブ整流器212は、受電制御装置200と接続している。受電制御装置200は、検出装置220から取得する情報に基づいて、スイッチングデバイス213のスイッチング制御を行う制御装置である。これにより、アクティブ整流器212の出力電力(受電装置210の受電電力)が制御される。
【0043】
より具体的には、受電制御装置200は、スイッチングデバイス213のオンオフを切り替えることで、アクティブ整流器212において一時的に短絡回路を形成する。短絡回路を形成するとき、アクティブ整流器212の出力電力は、バッテリ2にほとんど供給されない。従って、スイッチング制御により一時的に短絡回路を形成することで、アクティブ整流器212の出力電力(受電装置210の受電電力)を抑制することができるのである。つまり、受電制御装置200は、スイッチング制御による受電電力の「抑制制御」を実施する。抑制制御を実施していることは、一時的に短絡回路が形成されていることから、受電装置210が「短絡モード」であると言い換えることもできる。
【0044】
抑制制御は、典型的には、受電装置210やバッテリ2の保護を目的として、受電電力が受電装置210やバッテリ2の定格により定まる上限を超えないように実施される。この場合、例えば、受電電力が上限を超えたこと又は超えることが予測されることを契機として、抑制制御が実施される。
【0045】
特に、受電制御装置200は、スイッチング制御としてPWM制御を採用することで、抑制制御を実施することができる。この場合、PWM制御のデューティが、短絡回路を形成する期間と対応する。図2は、スイッチング制御としてPWM制御を採用する場合のアクティブ整流器212にかかる電圧の例を示すグラフである。図2には、抑制制御を実施していない場合のグラフ(破線)と、PWM制御による抑制制御を実施する場合のグラフ(実線)と、が示されている。このように、PWM制御による抑制制御では、デューティ(Duty)を増加させることで、短絡回路が形成される期間が増加し、受電電力の抑制をより強めることができる。
【0046】
以上説明するように、本実施形態に係る非接触電力伝送システムが構成される。なお、図1に示す非接触電力伝送システムでは、送電装置110は、DC電源1から電力が供給されるが、AC電源から電力が供給されるように構成されていても良い。この場合、送電装置110の入力段にコンバータを備えることで、図1と同様に構成することができる。
【0047】
また本実施形態に係る非接触電力伝送システムは、複数の送電装置110又は複数の受電装置210を含んでいても良い。例えば、車両に備えるバッテリ2を車両が走行しながら充電する充電システムに非接触電力伝送システムを適用する場合が考えられる。図3に、非接触電力伝送システムを車両3が走行しながら充電する充電システムに適用する場合の例を示す。図3に示す例では、車両3が走行路に連なって配置する複数の送電装置110を通過する際に、車両3に備える受電装置210が非接触で電力を受電することでバッテリ2の充電が行われる。図3では、2つの送電装置110が図示されているが、さらに多くの送電装置110がより長い距離にわたって配置されていても良い。またこの場合、同様の車両3が複数存在し得ることを考えれば、非接触電力伝送システムは、複数の受電装置210を含む。
【0048】
ところで、受電装置210における抑制制御が長期間実施されると、スイッチング制御に伴うスイッチング損失が増大し、電力効率が低下することとなる。またスイッチングデバイスの熱損失が増加するため、冷却装置の大型化等によりコストが大きくなる。このため、受電装置210における抑制制御の期間を低減することが望ましい。
【0049】
受電装置210における抑制制御の期間を低減するために、受電装置210の状態に応じて送電装置110の送電電力を制御することが考えられる。しかしながら、非接触電力伝送システムを適用する環境によっては、送電装置110が受電装置210と常時通信を行うことは困難であり、送電装置110が受電装置210の状態を適切に取得することができない虞がある。例えば、図3に示す例では、1つの送電装置110が送電を行う期間が非常に短いことが想定されるため、通信により受電装置210の状態を取得する場合の制御の遅れが無視できない。
【0050】
このことに対して、本開示に係る発明者らは、インバータ112の出力電流及び出力電圧の特性から、受電装置210が抑制制御を実施しているか否かを判定することができることを見出した。本実施形態に係る非接触電力伝送システムでは、この特性を利用して、送電制御装置100が実行する処理に特徴を有している。以下、インバータ112の出力電流及び出力電圧の特性と本実施形態に係る送電制御装置100の特徴について説明する。
【0051】
2.インバータの出力電流及び出力電圧の特性
図4に示すように、インバータ112の出力電流及び出力電圧は、送電装置110及び受電装置210のインピーダンスに応じて、互いに振幅と位相が異なる。このため、インバータ112の出力電流及び出力電圧について、振幅比及び位相差を与えることができる。ただし以下において、振幅比は、出力電流の振幅に対する出力電圧の振幅の比(出力電圧の振幅/出力電流の振幅)とする。このとき、振幅比は「ゲイン」と呼ぶこともできる。つまり、ゲインの単位はΩである。
【0052】
本開示に係る発明者らは、送電コイル116と受電コイル216との間の結合係数を一定(送電装置110と受電装置210の相対位置を一定)として、受電装置210においてPWM制御のデューティを増加させたとき、ゲインと位相差の組の2次元プロットが特定の曲線を描くことに着目した。
【0053】
図5に、結合係数が異なる3つの場合(大(実線)、中(破線)、小(一点鎖線))について、デューティ(Duty)を増加させたときのゲインと位相差の組の2次元プロットの例を示す。図5に示すように、デューティを増加させたときのゲインと位相差の組の2次元プロットは特定の曲線を描く。この曲線は、送電装置110及び受電装置210の回路情報から定まる。ここで回路情報として、回路構成、駆動周波数、送電コイル116及び受電コイル216のインダクタンス、抵抗値、コンデンサ容量、電源電圧等が例示される。ただし、結合係数を異ならせると異なる曲線を描くこととなる。非接触電力伝送システムでは、一般に、結合係数は都度変化することが想定される。
【0054】
一方で、本開示に係る発明者らは、それぞれの曲線の始点であるデューティがゼロの点(抑制制御を実施していない場合の点、図5において三角印で図示)を結ぶように所定の範囲10を定めることができることを見出した。ここで、所定の範囲10は、計測誤差の範囲を考慮して定められて良い。所定の範囲10は、その定め方から結合係数に依存することはない。またゲインと位相差の組の2次元プロットが描く特定の曲線が送電装置110及び受電装置210の回路情報から定まることから、送電装置110と受電装置210の組について所定の範囲10を一意に定めることができる。所定の範囲10は、例えば、図5に示すようなマップ情報としてあらかじめ管理することができる。
【0055】
所定の範囲10が定められれば、インバータ112の出力電流及び出力電圧に基づいて、受電装置210が抑制制御を実施しているか否かを判定することができる。つまり、ゲインと位相差の組の座標位置が所定の範囲10に含まれていないとき、受電装置210が抑制制御を実施していると判定することができる。
【0056】
本実施形態に係る送電制御装置100は、上記の特性を利用して、インバータ112の出力電流及び出力電圧に基づいて、受電装置210が抑制制御を実施しているか否かを判定する処理(判定処理)を実行する。インバータ112の出力電流及び出力電圧は、送電装置110において取得することができる。従って、受電装置210と常時通信を行うことを要することなく、受電装置210が抑制制御を実施しているか否かを判定して、送電電力を制御することができる。
【0057】
ところで、非接触電力伝送システムが複数の送電装置110又は複数の受電装置210を含む場合は、送電装置110と受電装置210の組によって所定の範囲10が異なることが想定される。このため、本実施形態に係る送電制御装置100は、次のような処理を実行するように構成されていても良い。
【0058】
まず、送電制御装置100は、送電の対象となることが予測される受電装置210について、諸元情報及び受電装置210を特定する情報(識別情報)を取得する処理を実行する。ここで、諸元情報は、受電装置210の回路情報を含む。識別情報は、例えば、受電装置210のID情報である。あるいは、受電装置210を搭載する移動体のID情報である。送電制御装置100は、取得した諸元情報と識別情報を対応させて管理する。なお情報の取得は、例えば、広域通信等により送電装置110と受電装置210が互いに離れた地点において行われて良い。
【0059】
次に、送電制御装置100は、送電を開始する前に事前に取得した識別情報に基づいて送電の対象とする受電装置210を特定する処理を実行する。例えば、いずれかの受電装置210が送電装置110の近傍となるとき、受電装置210からID情報を取得し、事前に取得したID情報と照合することにより送電の対象とする受電装置210を特定する。この場合、受電装置210からのID情報の取得は、例えば、狭域通信により行われて良い。このように受電装置210を特定することで、識別情報についての通信を行うだけで、送電の対象とする受電装置210の諸元情報を参照することができる。
【0060】
そして、送電制御装置100は、判定処理において、特定した受電装置210についていの諸元情報に基づいて所定の範囲10を定める。これは、例えば、特定した受電装置210の識別情報から対応する諸元情報を参照し、送電装置110の諸元情報と受電装置210の諸元情報からゲインと位相差の組の2次元プロットを算出することで行うことができる。
【0061】
このように送電制御装置100が処理を実行することで、非接触電力伝送システムが複数の送電装置110又は複数の受電装置210を含む場合においても、送電の対象となる受電装置210に対する所定の範囲10を送電を開始する前にあらかじめ管理することができる。延いては、受電装置210と常時通信を行うことを要することなく、受電装置210が抑制制御を実施しているか否かを判定して、送電電力を制御することができる。
【0062】
図6は、図3に示す場合において、送電制御装置100が上述する処理を実行する際の例を示す概念図である。図6に示す例において、送電制御装置100は、複数の送電装置110が連なって配置される道路を走行することが予測される車両3(例えば、車両3の走行計画から予測する)と広域通信を行い、識別情報として車両3の車両IDを、諸元情報として車両3が備える受電装置210の回路情報を取得する。ここで広域通信として、例えば、LTEや4G等が例示される。次に、車両3が送電装置110にさしかかるとき、送電制御装置100は、車両3と狭域通信を行い、車両IDを取得する。これにより、送電制御装置100は、送電の対象とする受電装置210を特定し、送電の対象とする受電装置210の回路情報を取得することができる。ここで狭域通信として、例えば、RF-IDが例示される。そして、送電制御装置100は、送電の対象とする受電装置210に対して所定の範囲10を定め、送電を開始する。
【0063】
3.送電制御装置が実行する処理
以下、図7を参照して、本実施形態に係る送電制御装置100が実行する処理について説明する。図7は、本実施形態に係る送電制御装置100が実行する処理を示すフローチャートである。図7に示すフローチャートは、対象とする受電装置210について所定の処理周期毎に繰り返し実行される。なお、以下の説明においては、送電の対象とする受電装置210についての所定の範囲10はあらかじめ定められ管理されているとする。
【0064】
ステップS100で、送電制御装置100は、検出装置120からインバータ112の出力電流及び出力電圧を取得する。
【0065】
ステップS100の後、処理はステップS110に進む。
【0066】
ステップS110で、送電制御装置100は、ステップS100において取得した出力電流及び出力電圧についてフィルタリング処理を実行する。これにより、出力電流及び出力電圧の基本波成分を抽出する。なお、フィルタリング処理は、公知の好適な技術を採用して良い。
【0067】
ステップS110の後、処理はステップS120に進む。
【0068】
ステップS120で、送電制御装置100は、出力電流と出力電圧のゲイン及び位相差を算出する。
【0069】
ステップS120の後、処理はステップS130に進む。
【0070】
ステップS130(判定処理)で、送電制御装置100は、ステップS120において算出したゲインと位相差の組の座標位置が所定の範囲10に含まれているか否かを判定する。つまり、受電装置210が抑制制御を実施しているか否かを判定する。送電制御装置100は、ステップS130の判定の結果に基づいて送電装置110の送電電力を制御する処理(電力制御処理)を実行する(ステップS140又はステップS150)。
【0071】
ゲインと位相差の組の座標位置が所定の範囲10に含まれている場合(ステップS130;Yes)、つまり受電装置210が抑制制御を実施していないと判定する場合、送電制御装置100は、送電電力を維持または増やすようにインバータ112のスイッチング制御を行う(ステップS140)。ゲインと位相差の組の座標位置が所定の範囲10に含まれていない場合(ステップS130;No)、つまり受電装置210が抑制制御を実施していると判定する場合、送電制御装置100は、送電電力を減らすようにインバータ112のスイッチング制御を行う(ステップS150)。
【0072】
このように送電制御装置100により処理が実行される。またこのように本実施形態に係る送電制御装置100により、送電装置110の制御方法が実現される。さらに本実施形態に係る制御方法は、送電装置110の制御についてのプログラムに適用することも可能である。
【0073】
4.送電制御装置の構成
以下、図8を参照して、本実施形態に係る送電制御装置100の構成について説明する。図8は、本実施形態に係る送電制御装置100の概略構成を示すブロック図である。送電制御装置100は、メモリ101と、プロセッサ105と、通信装置106と、を備えるコンピュータである。メモリ101は、プロセッサ105と結合し、複数の実行可能なインストラクション104と、処理の実行に必要な種々のデータ102と、を格納している。ここでインストラクション104は、プログラム103により与えられる。この意味で、メモリ101は、「プログラムメモリ」呼ぶこともできる。またメモリ101が格納するデータ102として、所定の範囲10を与えるマップ情報が例示される。
【0074】
通信装置106は、送電制御装置100の外部の装置と情報を送受信する装置である。例えば、通信装置106は、車両3と広域通信又は狭域通信を行う装置である。通信装置106が受信する情報として、インバータ112の出力電流及び出力電圧、受電装置210の諸元情報や識別情報が例示される。さらに、通信装置106を介して所定の範囲10を与えるマップ情報を取得しても良い。通信装置106が受信する情報は、データ102としてメモリ101に格納される。
【0075】
インストラクション104は、プロセッサ105に図7に示す処理を実行させるように構成されている。つまり、インストラクション104に従ってプロセッサ105が動作することにより、データ102に基づいて図7に示す処理の実行が実現される。
【0076】
5.効果
以上説明したように、本実施形態によれば、インバータ112の出力電流及び出力電圧に基づいて受電装置210が抑制制御を実施しているか否かを判定する。そして、判定の結果に基づいて送電装置110の送電電力を制御する。これにより、受電装置210と常時通信を行うことを要することなく、受電装置210が抑制制御を実施する期間を低減することができる。延いては、電力効率の低下とスイッチング制御に伴う熱損失を抑制することができる。さらには、コストの低減と受電装置210の小型化を図ることができる。
【0077】
なお、本実施形態では、磁界共振方式の非接触電力伝送システムについて説明したが、電磁誘導方式等の他の方式の非接触電力伝送システムについても同様に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 DC電源
10 所定の範囲
100 送電制御装置
101 メモリ
103 プログラム
104 インストラクション
105 プロセッサ
110 送電装置
116 送電コイル
200 受電制御装置
210 受電装置
216 受電コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8