(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20241217BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01M10/48 101
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2022092121
(22)【出願日】2022-06-07
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】永井 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】井口 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】磯部 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡西 大輔
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-061119(JP,A)
【文献】特開2010-049917(JP,A)
【文献】特開2009-277366(JP,A)
【文献】特開2017-157280(JP,A)
【文献】特開2016-035805(JP,A)
【文献】特開2015-202005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を有する二次電池と、
前記二次電池の電圧および温度を検出する検出装置と、
前記二次電池の通電時における、前記二次電池の電圧と、前記二次電池の温度と、前記電解液の減少量との関係を示す第1情報、および、前記二次電池の保存時における、前記二次電池の電圧と、前記二次電池の温度と、前記電解液の減少量との関係を示す第2情報を記憶する記憶装置と、
前記電解液の減少量を示す第1指標を算出する制御装置とを備え、
前記第1指標は、前記二次電池の通電による前記電解液の減少量を示す第2指標と、前記二次電池の保存による前記電解液の減少量を示す第3指標とを含み、
前記制御装置は、
前記二次電池の通電時においては、前記検出装置により検出された電圧および温度と、前記第1情報とに基づいて前記第2指標を算出し、
前記二次電池の保存時においては、前記検出装置により検出された電圧および温度と、前記第2情報とに基づいて前記第3指標を算出する、電源装置。
【請求項2】
前記第1情報は、温度毎に実施された前記二次電池のサイクル試験の結果に基づいて作成され、
前記第2情報は、温度毎かつ電圧毎に実施された前記二次電池の保存試験の結果に基づいて作成される、請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1指標が第1閾値以上である場合、警告を報知するための指令を出力する、請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第1指標が、前記第1閾値未満であり、かつ、前記第1閾値よりも小さい第2閾値以上である場合、前記二次電池の入出力電力を制限するための指令を出力する、請求項3に記載の電源装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第1指標が、前記第2閾値未満であり、かつ、前記第2閾値よりも小さい第3閾値以上である場合、前記二次電池の上限電圧値を制限するための指令を出力する、請求項4に記載の電源装置。
【請求項6】
前記二次電池は、アスペクト比率が1.5以上である電極体を含み、
前記電極体は、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータを積層して構成されており、
前記セパレータは、前記正極および前記負極と、前記セパレータとを接着させる機能を有する機能層を含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-157280号公報(特許文献1)は、リチウムイオン電池の非水電解液の分解により発生するガスの量を検出し、検出されたガスの量、および、予め設定された非水電解液の分解量とガスの発生量との相関関係に基づいて、非水電解液の分解量を推定する電池パックを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-157280号公報
【文献】特開2021-061119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、アスペクト比率が比較的大きく、かつ、電極とセパレータとが接着されている電極体を有するような二次電池では、電解液の分解により発生するガスが電極体内に残留しやすいことが知られている。そのため、特許文献1に開示された技術では、上記のような電極体を収容した二次電池の電解液の分解量(減少量)を精度よく推定することができない可能性がある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、二次電池の電解液の減少量を精度よく推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示に係る電源装置は、電解液を有する二次電池と、二次電池の電圧および温度を検出する検出装置と、二次電池の通電時における、二次電池の電圧と、二次電池の温度と、電解液の減少量との関係を示す第1情報、および、二次電池の保存時における、二次電池の電圧と、二次電池の温度と、電解液の減少量との関係を示す第2情報を記憶する記憶装置と、電解液の減少量を示す第1指標を算出する制御装置とを備える。第1指標は、二次電池の通電による電解液の減少量を示す第2指標と、二次電池の保存による電解液の減少量を示す第3指標とを含む。制御装置は、二次電池の通電時においては、検出装置により検出された電圧および温度と、第1情報とに基づいて第2指標を算出し、二次電池の保存時においては、検出装置により検出された電圧および温度と、第2情報とに基づいて第3指標を算出する。
【0007】
上記構成によれば、二次電池の通電時には、検出された電圧および温度と、第1情報とに基づいて第2指標が算出され、二次電池の保存時には、検出された電圧および温度と、第2情報とに基づいて第3指標が算出される。第2指標と第3指標と積算していくことにより電解液の減少量を示す第1指標を算出し、第1指標に基づいて電解液の減少量を推定することができる。このように、検出された電圧および温度を用いて電解液の減少量を推定できるので、電解液を有する種々の二次電池に対して、電解液の減少量を精度よく推定することができる。
【0008】
(2)ある実施の形態においては、第1情報は、温度毎に実施された二次電池のサイクル試験の結果に基づいて作成される。第2情報は、温度毎かつ電圧毎に実施された二次電池の保存試験の結果に基づいて作成される。
【0009】
上記構成によれば、第1情報および第2情報を適切に作成できる。よって、第1情報および第2情報を用いることで、第2指標および第3指標を精度よく算出することができる。ゆえに、第1指標を精度よく算出することができるので、二次電池の電解液の減少量を精度よく推定することができる。
【0010】
(3)ある実施の形態においては、制御装置は、第1指標が第1閾値以上である場合、警告を報知するための指令を出力する。
【0011】
第1閾値は、たとえば、電解液がゼロであることを示す値に一定のマージンを加えた値に設定される。第1指標が第1閾値以上である場合に警告を報知するための指令が出力されるので、ユーザに警告を行なうことができる。
【0012】
(4)ある実施の形態においては、制御装置は、第1指標が、第1閾値未満であり、かつ、第1閾値よりも小さい第2閾値以上である場合、二次電池の入出力電力を制限するための指令を出力する。
【0013】
上記構成によれば、第1指標が、第1閾値未満であっても、第2閾値以上であるような場合には、二次電池の入出力電力が制限されるので、電解液の減少を緩やかにすることができる。
【0014】
(5)ある実施の形態においては、制御装置は、第1指標が、第2閾値未満であり、かつ、第2閾値よりも小さい第3閾値以上である場合、二次電池の上限電圧値を制限するための指令を出力する。
【0015】
上記構成によれば、第1指標が、第2閾値未満であっても、第3閾値以上であるような場合には、二次電池の上限電圧値が制限されるので、電解液の減少を緩やかにすることができる。
【0016】
(6)ある実施の形態においては、二次電池は、アスペクト比率が1.5以上である電極体を含む。電極体は、正極、負極、および正極と負極との間に配置されるセパレータを積層して構成されている。セパレータは、正極および負極と、セパレータとを接着させる機能を有する機能層を含む。
【0017】
アスペクト比率が比較的大きく(1.5以上)、かつ、電極とセパレータとが接着されているような電極体を有する二次電池においても、電解液の減少量を精度よく推定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、二次電池の電解液の減少量を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態に係る車両の概略的な構成を示す図である。
【
図2】電池の構成を詳細に説明するための図である。
【
図3】第1マップの作成方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0021】
<電力システムの全体構成>
図1は、本実施の形態に係る車両1の概略的な構成を示す図である。本実施の形態に係る車両1は、車両外部の電源(図示せず)から直流電力の供給を受けて、車載のバッテリ11を充電する直流充電が可能に構成された電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)である。車両1の種類は、電池パックが搭載される車両であればよく、電気自動車に限定されない。車両1は、ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)であってもよいし、プラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)であってもよいし、燃料電池車(FCEV:Fuel Cell Electric Vehicle)であってもよい。また、車両1は、車両外部の電源から交流電力の供給を受けて、車載のバッテリ11を充電する交流充電が可能に構成されてもよい。
【0022】
車両1は、電池パック10と、パワーコントロールユニット(以下「PCU(Power Control Unit)」とも称する)30と、モータジェネレータ40と、動力伝達ギヤ50と、駆動輪55と、インレット60と、報知装置70と、ECU(Electronic Control Unit)80とを備える。
【0023】
電池パック10とPCU30とは電力線PL1,NL1により電気的に接続されている。電池パック10は、バッテリ11と、システムメインリレー(SMR:System Main Relay)装置13と、電圧監視モジュール16と、電流センサ17と、温度センサ18と、電池ECU20とを含む。なお、電池パック10は、本開示に係る「電源装置」の一例に相当する。
【0024】
バッテリ11は、駆動電源(すなわち動力源)として車両1に搭載される。バッテリ11は、積層された複数の電池12を含んで構成される。電池12は、たとえば、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の二次電池である。電池12は、正極と負極との間に液体電解質(電解液)を有する電池であればよく、非水系電解質電池であってもよいし、水系電解質電池であってもよい。
【0025】
図2は、電池12の構成を詳細に説明するための図である。
図2において、電池12は、その内部を透視して示されている。電池12は、筐体121と、蓋体122と、正極端子123と、負極端子124と、電極体125(破線で示す)とを含む。
【0026】
筐体121は、角型形状(略直方体形状)を有する。以下では、筐体121の長辺方向(幅方向)をx軸方向とし、奥行方向(厚み方向)をy軸方向とし、短辺方向(高さ方向)をz軸方向とする。
【0027】
蓋体122は、筐体121の上面を封止する。正極端子123および負極端子124の各々の一方端は、蓋体122から外部に突出している。正極端子123および負極端子124の各々の他方端は、筐体121の内部において、内部正極端子および内部負極端子(いずれも図示せず)にそれぞれ電気的に接続されている。
【0028】
図2に示されるように、蓋体122に上面を封止された状態において、筐体121は、筐体幅Wx、筐体奥行(厚み)Wy、筐体高さ(正極端子123および負極端子124を除く)Wzを有する。本実施の形態に係る電池12のアスペクト比率Arは、以下の式(1)により表わされる。
【0029】
アスペクト比率Ar=筐体幅Wx/筐体高さWz ・・・(1)
本実施の形態に係る電池12の筐体121は、アスペクト比率Arが1.5以上となるように構成されている。さらに、筐体121に収容される電極体125も、アスペクト比率が1.5以上となるように構成されている。
【0030】
電極体125は、正極126と負極127とがセパレータ128を介して積層され、その積層体が捲回されることにより形成されている。電極体125は、その捲回軸が筐体121の幅方向(x軸方向)に延在するように筐体121に収容されている。電解液は、筐体121に注入され、電極体125に含浸しており、主に電極体125の内部に保持されている。なお、
図2では電極体125が捲回型である例を示すが、電極体125は積層型であってもよい。
【0031】
正極126、負極127、セパレータ128および電解液には、リチウムイオン二次電池の正極、負極、セパレータおよび電解液として公知の構成および材料をそれぞれ用いることができる。なお、セパレータ128は、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の接着機能を有するバインダを含んで構成されている。
【0032】
再び
図1を参照し、システムメインリレー装置13は、バッテリ11とPCU30とを電気的に接続する電力線PL1,NL1に設けられる。システムメインリレー装置13は、SMR14,15を含む。SMR14の一端は、バッテリ11の正極端子と電気的に接続され、他端は、PCU30と電気的に接続される。SMR15の一端は、バッテリ11の負極端子と電気的に接続され、他端は、PCU30と電気的に接続される。
【0033】
電圧監視モジュール16は、バッテリ11に含まれる複数の電池12の各々の電圧Vbを検出し、その検出結果を示す信号を電池ECU20に出力する。
【0034】
電流センサ17は、バッテリ11の正極端子とSMR14との間に設けられ、バッテリ11に入出力される電流Ibを検出する。電流センサ17は、検出結果を示す信号を電池ECU20に出力する。
【0035】
温度センサ18は、バッテリ11に含まれる複数の電池12の各々の温度Tbを検出し、その検出結果を示す信号を電池ECU20に出力する。
【0036】
電池ECU20は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ21と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ22と、各種信号を入出力する入出力ポート(図示せず)とを含む。電池ECU20は、各センサ(電圧監視モジュール16、電流センサ17、温度センサ18)からの信号の入力ならびにメモリ22に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、ECU80と協調しながらバッテリ11を管理する。実施の形態において電池ECU20により実行される主要な処理としては、バッテリ11に含まれる複数の電池12の各々の電解液の減少量を示す指標を算出する処理(以下「推定処理」とも称する)が挙げられる。電池ECU20による推定処理の詳細については後述する。
【0037】
PCU30は、たとえば、インバータと、コンバータ(いずれも図示せず)とを含む。PCU30は、ECU80からの制御信号に従って、電池パック10(バッテリ11)とモータジェネレータ40との間で双方向の電力変換を実行する。
【0038】
モータジェネレータ40は、たとえば永久磁石がロータ(図示せず)に埋設された三相交流回転電機である。モータジェネレータ40のロータは、動力伝達ギヤ50を介して駆動輪55に機械的に接続される。モータジェネレータ40は、バッテリ11からの供給電力を用いて駆動する。また、モータジェネレータ40は回生制動によって発電することも可能である。モータジェネレータ40によって発電された交流電力は、PCU30により直流電力に変換されてバッテリ11に充電される。
【0039】
インレット60は、外部電源(たとえば、充電スタンド等)に電気的に接続された充電ケーブルの先端に設けられたコネクタを接続可能に構成される(いずれも図示せず)。外部電源からインレット60に供給された電力は、電力線PL2,NL2および電力線PL1,NL1を介して、電池パック10(バッテリ11)に供給される。なお、電力線PL2,NL2には、図示しない充電リレーが設けられている。
【0040】
報知装置70は、表示装置および音声出力装置のうちの少なくとも1つを含んで構成される。報知装置70は、ECU80からの指令に従って、表示装置に情報を表示させたり、音声出力装置に音声出力(たとえば情報の読み上げ)をさせたりする。たとえば、ナビゲーション装置が報知装置70の機能を備えるように構成されてもよい。
【0041】
ECU80は、CPUなどのプロセッサ81と、ROMおよびRAMなどのメモリ82と、各種信号を入出力する入出力ポート(図示せず)とを含む。ECU80は、車両1に設けられた各センサからの信号の入力ならびにメモリ82に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両1が所望の状態となるように機器類を制御する。ECU80は、たとえば、PCU30を制御することによってバッテリ11の充放電を制御する。
【0042】
ここで、二次電池では、その使用(通電)および保存に伴って電解液が消費されることが知られている。電解液量が減少し、電解液量が不足すると、電極と電解液とが介さない部分が生じ、化学反応が生じにくくなり得る。そのため、電池容量の低下および内部抵抗の増加が生じ得る。よって、電解液の減少量を監視することが求められる。
【0043】
そこで、本実施の形態に係る車両1では、電池ECU20は、推定処理を実行し、各電池12の電解液の減少量を示す指標Easumを算出する。具体的には、電池ECU20は、予め定められた周期(たとえば、制御周期)毎に各電池12の電圧Vb、電流Ib、および各電池12の温度Tb(以下、総称して「検出データ」とも称する)を取得し、これらに基づいて、各電池12について指標Easumを算出する。そして、電池ECU20は、指標Easumに基づいて、バッテリ11の上限電圧を制限するための指令をECU80に出力したり、バッテリ11の入出力電力を制限するための指令をECU80に出力したり、警告を報知するための指令をECU80に出力したりする。
【0044】
電池ECU20のメモリ22には、バッテリ11の通電時における電池12の単位時間あたりの電解液の減少量を示す指標Ea1を算出するための第1マップ、および、バッテリ11の保存時における電池12の電解液の単位時間あたりの減少量を示す指標Ea2を算出するための第2マップが予め記憶されている。第1マップおよび第2マップは、実験結果に基づいて予め作成することができる。なお、単位時間は、上述の予め定められた周期(たとえば、制御周期)である。第1マップは本開示に係る「第1情報」の一例に相当する。第2マップは本開示に係る「第2情報」の一例に相当する。また、指標Easumは、本開示に係る「第1指標」の一例に相当する。指標Ea1は、本開示に係る「第2指標」の一例に相当する。指標Ea2は、本開示に係る「第3指標」の一例に相当する。
【0045】
図3は、第1マップの作成方法を説明するための図である。
図3の横軸は、サイクル試験の実行回数(サイクル数)を示し、縦軸は、サイクル維持率(容量維持率)および抵抗増加率を示す。グラフG1は、サイクル数とサイクル維持率との関係を示すグラフである。グラフG2は、サイクル数と抵抗増加率との関係を示すグラフである。
【0046】
本発明者らは、電池12の保証温度内において、温度別に通電サイクル試験を実施した。サイクル試験では、下限電圧Vx、上限電圧Vy(>Vx)、所定の電流レート(たとえば、1C以下)で充放電サイクルを繰り返し行なった。なお、1C以下のような、充放電による発熱を無視できる程度の電流レートを設定することにより、所望の温度に対する実験結果を得ることができる。本発明者らは、サイクル試験において、容量維持率と内部抵抗の増加率を監視しながら、サイクル途中で電池の解体を行ない、電解液の残量を調査した。ある温度についてのサイクル試験の実験結果として、
図3に示すグラフG1,G2を含む実験結果を得た。
【0047】
グラフG2に示されるように、サイクル数と抵抗増加率との関係には、抵抗増加率が急増する変曲点Pが存在することがわかった。そして、本発明者らは、変曲点Pにおいて、電解液量がゼロとなることを見い出した。この実験結果を用いれば、グラフG2の変曲点Pに至るまでのサイクル数に基づき、電圧と温度との組に対する単位時間あたりの電解液の減少量をマップ化することができる。たとえば、
図3の実験結果が、ある温度Taにおけるサイクル試験のものであれば、マップは、電圧Vx~Vyと温度Taとの各組に対する単位時間あたりの電解液の減少量を示す。電圧Vx~Vyと温度Taとの各組に対する単位時間あたりの電解液の減少量は、各組とも同じ値に設定されてもよいし、高電圧にあるほど電解液の消費が多くなることに鑑みて、高い電圧を含む組ほどその値が大きくなるように設定されてもよい。
【0048】
温度Ta以外の他の温度(保証温度内の温度)に対しても、上記と同様の実験を行なうことによって、各温度における、電圧Vx~Vyとの組に対する単位時間あたりの電解液の減少量をマップ化することができる。これらを用いて、第1マップが作成される。すなわち、電池12の保証温度を温度Tx~Tyとすると、第1マップは、通電時における、電圧Vy~Vxと温度Tx~Tyとの各組に対する単位時間あたりの電解液の減少量を示す。
【0049】
図4は、第1マップの一例を示す図である。第1マップは、たとえば、高温かつ高電圧であるほど、電解液の減少量が大きくなる傾向を示す。
【0050】
また、本発明者らは、電池12の保証温度内において、温度別かつ電圧別に電池の保存試験を実施した。保存試験では、特定の温度および特定の電圧を維持しながら、サイクル試験と同様に容量維持率と内部抵抗の増加率を監視しながら、途中で電池の解体を行ない、電解液の残量を調査した。第1マップの作成手順と同様にして、保存試験の実験結果に基づき、第2マップを作成することができる。第2マップは、保存時における、電圧Vy~Vxと温度Tx~Tyとの各組に対する単位時間あたりの電解液の減少量を示す。
【0051】
電池ECU20は、予め定められた周期(たとえば、制御周期)毎に電圧Vbおよび温度Tbを取得し、電圧Vbおよび温度Tbを引数として、第1マップまたは第2マップに照会させることにより、指標Ea1または指標Ea2を算出する。たとえば、電池ECU20は、今回取得された電圧Vbおよび温度Tbがバッテリ11の通電時のものであれば、電圧Vbおよび温度Tbを引数として、第1マップに照会させて指標Ea1を算出する。たとえば、電池ECU20は、今回取得された電圧Vbおよび温度Tbがバッテリ11の保存時のものであれば、電圧Vbおよび温度Tbを引数として、第2マップに照会させて指標Ea2を算出する。そして、電池ECU20は、今回算出した指標Ea1または指標Ea2を指標Easumに加算して、指標Easumを更新する。指標Easumを更新して監視することにより、各電池12の電解液の減少量を監視することが可能となる。そして、電池ECU20は、指標Easumに応じて、バッテリ11の上限電圧を制限するための指令をECU80に出力したり、バッテリ11の入出力電力を制限するための指令をECU80に出力したり、警告を報知するための指令をECU80に出力したりする。以下、
図5を参照しながら詳細に説明する。
【0052】
図5は、推定処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、電池ECU20の起動とともに開始され、制御周期毎に繰り返し実行される。各ステップは、電池ECU20によるソフトウェア処理により実現されるが、電池ECU20内に作製されたハードウェア(電気回路)により実現されてもよい。以下、ステップを「S」と略す。
【0053】
S1において、電池ECU20は、電圧監視モジュール16、電流センサ17、および温度センサ18から、各電池12の電圧Vb、電流Ib、および各電池12の温度Tbをそれぞれ取得する(検出データを取得する)。
【0054】
S2において、電池ECU20は、S1で取得した検出データ(複数の電圧Vb、電流Ib、複数の温度Tb)が、バッテリ11の通電時(放電時または充電時)のものであるか、バッテリ11の保存時のものであるかを判断する。具体的には、電池ECU20は、S1で取得した電流Ibに基づいて、バッテリ11の状態(通電中または保存中)を判断する。電池ECU20は、電流Ibがゼロでなければ(S2においてNO)、通電中(すなわち、S1で取得された検出データは、バッテリ11の通電時のものである)と判断して、処理をS3に進める。一方、電池ECU20は、電流Ibがゼロであれば(S2においてYES)、保存中(すなわち、S1で取得された検出データは、バッテリ11の保存時のものである)と判断して、処理をS4に進める。
【0055】
S3において、電池ECU20は、メモリ22から第1マップを読み出す。そして、電池ECU20は、電池12毎に、S1で取得された電圧Vbおよび温度Tbを引数として、第1マップに照会させて、今回の制御周期(単位時間)における電解液の減少量を示す指数Ea1を算出する。その後、電池ECU20は、処理をS5に進める。
【0056】
S4において、電池ECU20は、メモリ22から第2マップを読み出す。そして、電池ECU20は、電池12毎に、S1で取得された電圧Vbおよび温度Tbを引数として、第2マップに照会させて、今回の制御周期(単位時間)における電解液の減少量を示す指数Ea2を算出する。その後、電池ECU20は、処理をS5に進める。
【0057】
S5において、電池ECU20は、電池12毎の、通電時における指数Ea1および保存時における指数Ea2のこれまでの累積総和である指数Easumをメモリ22から読み出す。電池ECU20は、電池12毎に、S3で算出した指数Ea1またはS4で算出した指数Ea2を、今回分(今回の単位時間における電解液の減少量)として、指数Easumに加算する。指数Easumは、電池12毎に用意される。
【0058】
以下のS6,8,10において、電池ECU20は、電池12毎に、指数Easumを各閾値と比較する。電池ECU20のメモリ22には、第1閾値Tth1、第2閾値Tth2(<Tth1)、第3閾値Tth3(<Tth2)が記憶されている。第1閾値Tth1、第2閾値Tth2、第3閾値Tth3の順に小さな値となるように、各々の値が設定されている。第1閾値Tth1は、車両1のユーザに警告を行なうか否かを判断するための閾値である。第1閾値Tth1は、たとえば、電池12の電解液量がゼロを示す値に一定のマージンを持たせた値に設定することができる。第2閾値Tth2は、バッテリ11の入出力電力を制限するか否かを判断するための閾値である。第2閾値Tth2は、第1閾値Tth1にさらにマージンを持たせた値に設定することができる。第3閾値Tth3は、バッテリ11の上限電圧を制限するか否かを判断するための閾値である。第3閾値Tth3は、第2閾値Tth2にさらにマージンを持たせた値に設定することができる。各閾値に対するマージンの大きさは、バッテリ11(電池12)の仕様等に基づいて適宜設定することができる。
【0059】
S6において、電池ECU20は、メモリ22から第1閾値Tth1を読み出し、各電池12の指数Easumを第1閾値Tth1とそれぞれ比較する。電池ECU20は、各電池12の指数Easumのうちの少なくともいずれか1つが第1閾値Tth1より大きい場合(S6においてYES)、処理をS7に進める。電池ECU20は、各電池12の指数Easumのすべてが第1閾値Tth1以下である場合(S6においてNO)、処理をS8に進める。
【0060】
S7において、電池ECU20は、警告を報知するための指令をECU80に出力する。これにより、ECU80は、報知装置70を制御して、報知装置70に警告を報知させる。警告の内容は、たとえば、バッテリ11の点検を受けることを促す警告、バッテリ11の交換を促す警告などであってよい。報知装置70は、表示装置への表示による警告を行なってもよいし、音声出力装置からの音声出力による警告を行なってもよいし、表示装置による警告と音声出力装置による警告との両方による警告を行なってもよい。
【0061】
S8において、電池ECU20は、メモリ22から第2閾値Tth2を読み出し、各電池12の指数Easumを第2閾値Tth2とそれぞれ比較する。電池ECU20は、各電池12の指数Easumのうちの少なくともいずれか1つが第2閾値Tth2より大きい場合(S8においてYES)、処理をS9に進める。電池ECU20は、各電池12の指数Easumのすべてが第2閾値Tth2以下である場合(S8においてNO)、処理をS10に進める。
【0062】
S9において、電池ECU20は、バッテリ11の入出力電力を制限するための指令をECU80に出力する。これにより、ECU80は、バッテリ11の入出力電力を予め設定された入出力制限値に制限することを決定する。したがって、これ以降、バッテリ11の入出力電力が制限される。
【0063】
S10において、電池ECU20は、メモリ22から第3閾値Tth3を読み出し、各電池12の指数Easumを第3閾値Tth3とそれぞれ比較する。電池ECU20は、各電池12の指数Easumのうちの少なくともいずれか1つが第3閾値Tth3より大きい場合(S10においてYES)、処理をS11に進める。電池ECU20は、各電池12の指数Easumのすべてが第3閾値Tth3以下である場合(S10においてNO)、処理をリターンに進める。
【0064】
S11において、電池ECU20は、バッテリ11の上限電圧を制限するための指令をECU80に出力する。これにより、ECU80は、バッテリ11の上限電圧を予め設定された上限制限値に制限することを決定する。したがって、これ以降、バッテリ11の上限電圧が制限される。
【0065】
以上のように、本実施の形態では、バッテリ11の通電時における電池12の電解液の単位時間あたりの減少量を示す指標Ea1を算出するための第1マップ、および、バッテリ11の保存時における電池12の電解液の単位時間あたりの減少量を示す指標Ea2を算出するための第2マップが予め実験により作成され、電池ECU20のメモリ22に記憶される。電池ECU20は、単位時間毎に、電圧監視モジュール16、電流センサ17および温度センサ18から、各電池12の電圧Vb、電流Ibおよび各電池の温度Tbをそれぞれ取得する(検出データを取得する)。電池ECU20は、電流Ibに基づいて、取得された検出データがバッテリ11の通電時のものか保存時のものかを判断する。検出データが通電時のものであれば、電池ECU20は、電池12毎に、電圧Vbおよび温度Tbを引数として、第1マップに基づいて指標Ea1を算出する。検出データが保存時のものであれば、電池ECU20は、電池12毎に、電圧Vbおよび温度Tbを引数として、第2マップに基づいて指標Ea2を算出する。電池ECU20は、今回算出した指標Ea1または指標Ea2を指標Easumに加算して、指標Easumを更新する。単位時間毎に指標Ea1または指標Ea2を算出して、指標Easumを更新することにより、各電池12の電解液の減少量を監視することができる。検出された電圧および温度を用いて電解液の減少量を推定できるので、電池12の電解液の減少量を精度よく推定することができる。
【0066】
たとえば、電解液の分解により発生するガスを検出することにより、電解液の減少量を推定する手法が公知であるが、アスペクト比率Arが大きく(たとえば、1.5以上)、かつ、セパレータが接着機能を有するバインダを含むような電池では、ガスが電極体内に残留しやすい。そのため、電池の電解液の減少量を精度よく推定することができない。本実施の形態に係る上記手法であれば、アスペクト比率Arが大きく(たとえば、1.5以上)、かつ、セパレータが接着機能を有するバインダを含むような電池であっても、電池の電解液の減少量を精度よく推定することができる。
【0067】
また、電池ECU20は、各電池12の指数Easumのうちの少なくともいずれか1つが第1閾値Tth1を超えた場合、警告を報知するための指令をECU80に出力する。これにより、ECU80が報知装置70を制御して、報知装置70に警告を報知させる。よって、車両1のユーザに警告をすることができる。これにより、ユーザは、バッテリ11に対して適切な対応をとることができる。
【0068】
さらに、電池ECU20は、各電池12の指数Easumのうちの少なくともいずれか1つが第1閾値Tth1未満であり、かつ、第2閾値Tth2を超えた場合、バッテリ11の入出力電力を制限するための指令をECU80に出力する。これにより、ECU80がバッテリ11の入出力電力を制限することを決定する。よって、バッテリ11の入出力電力が制限されるので、電解液の減少を緩やかにすることができる。
【0069】
さらに、電池ECU20は、各電池12の指数Easumのうちの少なくともいずれか1つが第2閾値Tth2未満であり、かつ、第3閾値Tth3を超えた場合、バッテリ11の上限電圧を制限するための指令をECU80に出力する。これにより、ECU80が、バッテリ11の上限電圧を制限することを決定する。よって、バッテリ11の上限電圧が制限されるので、電解液の減少を緩やかにすることができる。
【0070】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 車両、10 電池パック、11 バッテリ、12 電池、13 システムメインリレー装置、14,15 SMR、16 電圧監視モジュール、17 電流センサ、18 温度センサ、20 電池ECU、21 プロセッサ、22 メモリ、30 PCU、40 モータジェネレータ、50 動力伝達ギヤ、55 駆動輪、60 インレット、70 報知装置、80 ECU、81 プロセッサ、82 メモリ、121 筐体、122 蓋体、123 正極端子、124 負極端子、125 電極体、126 正極、127 負極、128 セパレータ。