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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電極の製造方法、および電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20241217BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20241217BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241217BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241217BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/02 Z
H01M4/139
H01M4/13
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022142946
(22)【出願日】2022-09-08
(65)【公開番号】P2024038714
(43)【公開日】2024-03-21
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】召田 智也
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206401(JP,A)
【文献】特表2018-537839(JP,A)
【文献】特表2022-538822(JP,A)
【文献】特開2019-036497(JP,A)
【文献】国際公開第2014/112329(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110085806(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)活物質層を形成すること、および
(b)前記活物質層の表面にレーザ加工を施すことにより、前記活物質層の前記表面に溝を形成すること、
を含み、
前記レーザ加工において、
200ns以下のパルス幅を有するパルスレーザが使用され、
雰囲気圧力は、980hPa以上であり、かつ
アシストガスの風速は、5m/s以下である、
電極の製造方法。
【請求項2】
前記パルスレーザの照射によって、前記活物質層の前記表面が改質されることにより、
ナノ構造体が生成され、かつ
前記ナノ構造体が、前記溝の内面に堆積することにより、ナノ構造体層が形成される、
請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
活物質層を含み、
前記活物質層の表面に溝が形成されており、
前記溝の内面の少なくとも一部は、ナノ構造体層によって被覆されており、
前記ナノ構造体層は、ナノ構造体を含
前記活物質層は、第1化学組成を有し、
前記ナノ構造体は、第2化学組成を有し、
前記第2化学組成は、前記第1化学組成に比して、酸素および炭素の組成比が小さい、
電極。
【請求項4】
前記ナノ構造体層は、1~10μmの厚さを有する、
請求項3に記載の電極。
【請求項5】
前記ナノ構造体は、10~300nmのフェレ径を有する、
請求項3に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極の製造方法、および電極に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013-097925号公報(特許文献1)は、活物質層の表面にレーザを照射することにより、凹部を形成することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-097925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に電池の電極は、活物質層を含む。活物質層は多孔質である。活物質層には、電解液が浸透し得る。電解液の浸透が不十分であると、例えばサイクル特性等が低下する可能性がある。電解液の浸透を促進するため、活物質層の表面に溝(凹部)を形成することが提案されている。すなわち、溝が電解液の流路となることにより、電解液の浸透が促進され得る。ただし、サイクル特性の改善に留まらず、更なる性能改善が求められている。
【0005】
そこで本開示は、反応抵抗の低減を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0007】
1.電極の製造方法は、下記(a)および(b)を含む。
(a)活物質層を形成する。
(b)活物質層の表面にレーザ加工を施すことにより、活物質層の表面に溝を形成する。レーザ加工において、200ns以下のパルス幅を有するパルスレーザが使用される。雰囲気圧力は、980hPa以上である。かつアシストガスの風速は、5m/s以下である。
【0008】
一般にレーザ加工においては、加工対象の変質により、副産物が生成し得る。副産物は加工部に堆積し得る。通常、コンタミ防止等の観点から、副産物は除去される。すなわち、レーザ加工時に使用されるアシストガスが、副産物を吹き飛ばすことにより、副産物が除去され得る。また、減圧雰囲気中においては、吸引により副産物が除去され得る。
【0009】
従来、例えばマイクロ秒パルスレーザにより、溝を形成することが提案されている。本開示の新知見によると、200ns以下のパルス幅を有するパルスレーザが活物質層に照射されることにより、副産物としてナノ構造体が発生し得る。ナノ構造体は、アシストガス等により容易に除去され得る。
【0010】
しかし特定条件下においては、ナノ構造体が除去されずに、溝の内面に堆積し得る。本開示の更なる新知見によると、溝の内面にナノ構造体が堆積することにより、反応抵抗の低減が期待される。ナノ構造体の堆積により、活物質層の表面積が顕著に増大し得る。すなわち、反応面積が顕著に増大し、反応抵抗が低減し得ると考えられる。
【0011】
さらに、電解液の浸透がいっそう促進され得る。溝の内面において、ナノ構造体の集合体が微細な凹凸を形成することにより、毛細管現象が発生するためと考えられる。
【0012】
2.上記「1」に記載の電極の製造方法において、パルスレーザの照射によって、活物質層の表面が改質されることにより、ナノ構造体が生成されてもよい。ナノ構造体が、溝の内面に堆積することにより、ナノ構造体層が形成されてもよい。
【0013】
ナノ構造体層が形成されることにより、例えば、毛細管現象の促進が期待される。
【0014】
3.電極は、活物質層を含む。活物質層の表面に溝が形成されている。溝の内面の少なくとも一部は、ナノ構造体層によって被覆されている。ナノ構造体層は、ナノ構造体を含む。
【0015】
溝の内面がナノ構造体層で被覆されていることにより、活物質層の表面積が顕著に増大し得る。その結果、反応面積が増大し、反応抵抗が低減し得ると考えられる。さらに、ナノ構造体層において、毛細管現象が発生し、電解液の浸透が促進されることも期待される。
【0016】
4.上記「3」に記載の電極において、ナノ構造体層は、例えば1~10μmの厚さを有していてもよい。
【0017】
5.上記「3」または「4」に記載の電極において、ナノ構造体は、例えば10~300nmのフェレ径を有していてもよい。
【0018】
6.上記「3」~「5」のいずれか1項に記載の電極において、活物質層は、第1化学組成を有する。ナノ構造体は、第2化学組成を有する。第2化学組成は、第1化学組成に比して、酸素および炭素の組成比が小さい。
【0019】
ナノ構造体は、活物質層から形成されると考えられる。ナノ構造体の形成過程で、活物質層の構成成分のうち、酸素および炭素の一部が消失する可能性がある。
【0020】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、非制限的である。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。
図2図2は、本実施形態における電極の概略図である。
図3図3は、本実施形態における電極の概略断面図である。
図4図4は、No.1における活物質層の断面SEM画像である。
図5図5は、ナノ構造体層の拡大像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<用語およびその定義等>
「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0023】
「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならないという意味」ではなく、許容的な意味「する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0024】
例えば「m~n%」等の数値範囲は、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。さらに数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0025】
各種方法に含まれる複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0026】
幾何学的な用語(例えば「平行」、「垂直」、「直交」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「平行」は、厳密な意味での「平行」から多少ずれていてもよい。幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本開示の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0027】
全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値であり得る。全ての数値は有効数字で表示され得る。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。一般に測定回数が多い程、平均値の信頼性が向上することが期待される。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差等を含み得る。
【0028】
化合物が化学量論的組成式(例えば「LiCoO2」等)によって表現されている場合、該化学量論的組成式は該化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0029】
活物質層およびナノ構造体の化学組成(「第1化学組成」および「第2化学組成」)は、SEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectrometry)により特定され得る。
【0030】
「フェレ径」は、ナノ構造体の二次元画像(例えばSEM画像等)において測定される。20個以上のナノ構造体における最大フェレ径の算術平均が「フェレ径」とみなされる。
【0031】
「電極」は、正極および負極の総称である。電極は、正極、負極、またはバイポーラ電極であってもよい。電極は、電池用である。リチウムイオン電池は、電池の一例に過ぎない。本開示は、任意の電池系に適用され得る。
【0032】
<電極の製造方法>
図1は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態における電極の製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。本製造方法は、「(a)活物質層の形成」および「(b)レーザ加工」を含む。
【0033】
図2は、本実施形態における電極の概略図である。本製造方法においては、電極100が製造される。電極100は、活物質層20の表面に溝1を有する。
【0034】
《(a)活物質層の形成》
本製造方法は、活物質層20を形成することを含む。活物質層20は、任意の方法により形成され得る。例えば、基材10の表面に、活物質層20が形成されてもよい。
【0035】
基材10は、活物質層20を支持する。基材10は、例えば、シート状であってもよい。基材10は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。基材10は、例えば、集電体であってもよい。基材10は、例えば、金属箔であってもよい。金属箔は、例えば、Al、Cu、Ni、Cr、およびFeからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。基材10は、例えば、Al箔、Al合金箔、Cu箔等を含んでいてもよい。
【0036】
例えば、基材10の表面に塗料が塗布されることにより、活物質層20が形成されてもよい。例えば、活物質、導電材、バインダ、および分散媒が混合されることにより、塗料が形成されてもよい。分散媒は、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、酪酸ブチル、テトラリン等を含んでいてもよい。例えば、ダイコータ等により塗料が塗布されてもよい。例えば、熱風乾燥炉等により、塗料が乾燥されてもよい。塗料の乾燥後、活物質層20が圧縮されてもよい。例えば、ロールプレス装置により、活物質層20が圧縮されてもよい。活物質層20は、例えば、10~1000μmの厚さを有するように形成されてもよい。活物質層20は、例えば、1~4g/cm3の密度を有するように形成されてもよい。
【0037】
活物質は、電極反応を生起する。活物質は、正極活物質であってもよい。正極活物質は、任意の成分を含み得る。正極活物質は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、Li(NiCoMnAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。
【0038】
活物質は、負極活物質であってもよい。負極活物質は、任意の成分を含み得る。負極活物質は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、Si、SiOx(0<x<2)、Si基合金、Sn、SnOx(0<x<2)、Li、Li基合金、およびLi4Ti512からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。SiOx(0<x<2)は、例えばMg等がドープされていてもよい。合金系活物質(例えばSi等)が、炭素系活物質(例えば黒鉛等)に担持されることにより、複合材料が形成されてもよい。
【0039】
導電材は、活物質層20内に電子伝導パスを形成し得る。導電材の配合量は、100質量部の活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック(CB)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンフレーク(GF)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。CBは、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)、およびファーネスブラックからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0040】
バインダは、固体材料同士を結合し得る。バインダの配合量は、100質量部の活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0041】
《(b)レーザ加工》
本製造方法は、活物質層20の表面にレーザ加工を施すことにより、活物質層20の表面に溝1を形成することを含む。本製造方法においては、特定条件でレーザ加工が実施される。特定条件が実現可能である限り、任意のレーザ加工装置が使用され得る。
【0042】
パルスレーザのパルス幅は、200ns以下である。パルス幅が200nsを超えると、ナノ構造体が生成しない可能性がある。パルス幅は、例えば、100ns以下、または50ns以下であってもよい。パルス幅は、例えば、100fs以上、10ps以上、1ns以上、または10ns以上であってもよい。パルス幅が10~100nsである時、ナノ構造体の生成量が多い傾向がある。
【0043】
レーザ加工は、雰囲気圧力が制御可能なチャンバ内で実施され得る。例えば、真空ポンプにより、チャンバ内が減圧され得る。雰囲気圧力は、980hPa以上である。雰囲気圧力が980hPa未満であると、ナノ構造体が堆積せず、系外に排出される可能性がある。雰囲気圧力は、例えば、1200hPa以下、1100hPa以下、1050hPa以下、1013hPa以下、または1005hPa以下であってもよい。雰囲気圧力は、例えば980~1005hPaであってもよい。
【0044】
アシストガスは、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等を含んでいてもよい。アシストガスの風速は、5m/s以下である。アシストガスの風速が5m/sを超えると、ナノ構造体が堆積せず、系外に排出される可能性がある。アシストガスの風速は、例えば、3m/s以下、1m/s以下、またはゼロであってもよい。すなわち、レーザ加工時、アシストガスが使用されなくてもよい。
【0045】
レーザは、基本波、また高調波であってもよい。レーザの波長は、例えば、100~1100nmであってもよい。レーザの出力は、例えば、0.01~10W、または0.1~1kWであってもよい。レーザのビーム径は、例えば、1~100μmであってもよい。
【0046】
<電極>
溝1の形成により、電極100が完成し得る(図2参照)。電極100は、基材10と活物質層20とを含む。活物質層20は、基材10の表面に配置されている。活物質層20は、基材10の片面のみに配置されていてもよい。活物質層20は、基材10の表裏両面に配置されていてもよい。電極100の周縁において、基材10が活物質層20から露出していてもよい。基材10が活物質層20から露出した部分に、例えば、集電部材(リード、端子)等が接続されてもよい。
【0047】
活物質層20の表面には、溝1が形成されている。溝1は、例えば、点状の窪みであってもよい。溝1は、例えば、線状の凹部であってもよい。溝1は、例えば、活物質層20の表面に沿って線状に延びていてもよい。溝1が線状に延びることにより、広範囲にわたって、電解液の浸透の促進が期待される。溝1は、例えば、直線状に延びていてもよい。溝1は、例えば、曲線状に延びていてもよい。溝1は、分岐していてもよい。
【0048】
溝1は、例えば、活物質層20の表面を横断するように延びていてもよい。溝1は、例えば、活物質層20を幅方向(X軸方向)に横断してもよいし、または長さ方向(Y軸方向)に横断してもよい。溝1は、例えば、活物質層20の側面に開口部を有していてもよい。開口部から溝1内に電解液が流入し得る。開口部の形成により、電解液の浸透が促進され得る。
【0049】
活物質層20に、単一の溝1が形成されていてもよいし、複数の溝1が形成されていてもよい。複数の溝1は、例えば、万線状に形成されていてもよい。「万線」は、平行線の集合を示す。複数の溝1は、例えば、格子状に形成されていてもよい。
【0050】
隣接する溝1同士の間隔(ピッチ)は、例えば、0.1~10mmであってもよい。溝1の長さは、例えば、1~5000mm、または1~1000mmであってもよい。
【0051】
図3は、本実施形態における電極の概略断面図である。図3には、溝1が延びる方向(延在方向)と直交する断面が示されている。溝1は、任意の断面形状を有し得る。溝1の断面形状は、例えば、V字状、U字状、矩形状、台形状等であってもよい。溝1の断面は、例えば、底部1bと側壁1sとを有していてもよい。底部1bは、平面であってもよいし、曲面であってもよいし、または点であってもよい。底部1bは、2個の側壁1sと接続している。2個の側壁1sは、例えば、線対称であってもよいし、線対称でなくてもよい。側壁1sは、例えば、活物質層20の表面に対して垂直に延びていてもよいし、活物質層20の表面に対して傾斜していてもよい。
【0052】
開口部の幅1wは、例えば、10~1000μm、100~500μm、または300~500μmであってもよい。溝1の深さ1dは、例えば、10~100μm、または50~100μmであってもよい。活物質層20の厚さ20tに対する、溝1の深さ1dの比は、例えば、0.1~0.9、または0.3~0.7であってもよい。
【0053】
溝1の内面の少なくとも一部は、ナノ構造体層2によって被覆されている。ナノ構造体層2は、溝1の内面の全部を被覆していてもよい。ナノ構造体層2は、溝1の内面の一部を被覆していてもよい。ナノ構造体層2は、溝1の外側まで延びていてもよい。ナノ構造体層2は、活物質層20の表面の一部を被覆するように延びていてもよい。活物質層20において、溝1の内面を除く部分には、ナノ構造体が存在していなくてもよい。
【0054】
ナノ構造体層2は、ナノ構造体の集合体である。ナノ構造体層2は、溝1の内面にナノ構造体が堆積することにより形成され得る。ナノ構造体層2は、例えば、1~10μm、または3~10μmの厚さを有していてもよい。
【0055】
ナノ構造体層2は、ナノレベルの凹凸を有し得る。ナノ構造体層2の形成により、反応面積が顕著に増大し得る。これにより反応抵抗の低減が期待される。さらに、ナノ構造体層2において毛細管現象が発生することにより、電解液の浸透の促進も期待される。
【0056】
ナノ構造体層2を形成する個々のナノ構造体は、任意の形状を有し得る。ナノ構造体は、例えば、ナノ粒子であってもよい。ナノ構造体は、例えば、球状、ロッド状、フレーク状または繊維状等であってもよい。すなわちナノ構造体は、例えば、ナノスフィア、ナノロッド、ナノキューブ、ナノプレート、ナノファイバー、ナノチューブ等であってもよい。個々のナノ構造体は、それぞれ分離独立していてもよい。隣接するナノ構造体同士が結合していてもよい。
【0057】
ナノ構造体は、例えば10~300nm、または50~150nmのフェレ径を有していてもよい。ナノ構造体は、ナノレベルの凹凸を形成し得る。ナノ構造体が形成する凹凸のピッチ(隣接する凸同士の間隔)は、例えば10~300nmであってもよい。
【0058】
ナノ構造体は、活物質層20と異なる化学組成を有し得る。すなわち、活物質層20は、第1化学組成を有する。ナノ構造体は、第2化学組成を有する。第2化学組成は、第1化学組成に比して、酸素および炭素の組成比が小さくてもよい。例えば、電極100が正極である場合、第2化学組成は、第1化学組成に比して、遷移金属(例えば、Ni、Co、Al等)の組成比が大きくてもよい。
【0059】
化学組成の変化は、パルスレーザの照射により引き起こされると考えられる。例えば正極活物質から酸素の一部が放出されることにより、酸素の組成比が低減する可能性がある。例えば、導電材から炭素の一部が放出されることにより、炭素の組成比が低減する可能性がある。
【実施例
【0060】
<試料の作製>
《(a)活物質層の形成》
下記材料が準備された。
基材:Al箔
活物質:Li(NiCoMn)O2
導電材:AB
バインダ:PVdF
分散媒:NMP
【0061】
活物質、導電材、バインダおよび分散媒が混合されることにより、塗料が形成された。塗料が基材の表面に塗布されることにより、活物質層が形成された。
【0062】
《(b)レーザ加工》
各種条件のレーザ加工が活物質層の表面に施されることにより、No.1~10に係る電極が製造された(下記表1参照)。
【0063】
<評価>
活物質層の断面がSEMで観察されることにより、ナノ構造体の有無が確認された。結果は下記表1に示される。さらに電極を含む評価用電池が製造された。評価用電池は、リチウムイオン電池である。評価用電池の電池性能が確認された。結果は下記表1に示される。
【0064】
【表1】
【0065】
<結果>
No.2、3においては、ナノ構造体が確認できなかった。雰囲気圧力が980hPa未満であるため、真空引きにより、ナノ構造体が系外に排出されたと考えられる。
【0066】
No.6、7、9においては、ナノ構造体が確認できなかった。アシストガスの風速が5m/sを超えているため、ナノ構造体が吹き飛ばされることにより、ナノ構造体が系外に排出されたと考えられる。
【0067】
No.10においては、ナノ構造体が確認できなかった。No.10においては、パルス幅が200nsを超えるパルスレーザが使用されている。
【0068】
No.1、4、5、8においては、溝の内面にナノ構造体が確認された。これらの試料においては、パルス幅が200ns以下であり、雰囲気圧力が980hPa以上であり、かつアシストガスの風速が5m/s以下である。No.1、4、5、8(ナノ構造体あり)は、No.2、3、6、7、9、10(ナノ構造体なし)に比して、電池性能が向上していた。
【0069】
図4は、No.1における活物質層の断面SEM画像である。活物質層20の表面に溝1が形成されている。ナノ構造体層2が溝1の内面を被覆している。ナノ構造体層2は、1~10μmの厚さを有している。
【0070】
図5は、ナノ構造体層の拡大像である。ナノ構造体層2は、ナノ構造体の集合体である。個々のナノ構造体は、10~300nmのフェレ径を有している。ナノ構造体層2は、ナノレベルの凹凸を有している。ナノ構造体層2の形成により、表面積が顕著に増大するため、反応抵抗が低減し、電池性能が向上していると考えられる。
【0071】
ナノ構造体の化学組成は、活物質層20の化学組成に比して、酸素および炭素の組成比が小さかった。
【符号の説明】
【0072】
1 溝、1b 底部、1d 深さ、1s 側壁、1w 幅、2 ナノ構造体層、10 基材、20 活物質層、20t 厚さ、100 電極。
図1
図2
図3
図4
図5