(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】照明装置、プロジェクタ装置
(51)【国際特許分類】
G03B 21/14 20060101AFI20241217BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20241217BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20241217BHJP
F21V 9/40 20180101ALI20241217BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20241217BHJP
H04N 5/74 20060101ALI20241217BHJP
F21Y 101/00 20160101ALN20241217BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20241217BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20241217BHJP
【FI】
G03B21/14 Z
G03B21/00 D
F21S2/00 350
F21V9/40 400
G02F1/01 D
H04N5/74 A
F21Y101:00 300
F21Y115:10
F21Y115:30
(21)【出願番号】P 2022550381
(86)(22)【出願日】2021-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2021027015
(87)【国際公開番号】W WO2022059329
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2024-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2020155533
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 真吾
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 裕幸
【審査官】川俣 郁子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031187(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/144950(WO,A1)
【文献】特表2012-530263(JP,A)
【文献】特開2019-21471(JP,A)
【文献】国際公開第2008/047800(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21K9/00-9/90
F21S2/00-45/70
F21V1/00-15/04
G02F1/00-1/125
1/21-7/00
G03B21/00-21/10
21/12-21/13
21/134-21/30
33/00-33/16
H04N5/66-5/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子を有する光源部と、
前記光源部からの入射光に対し空間光位相変調を施すことで、像面において複数の再生像を間隔を空けて生成する空間光位相変調器と、
前記複数の再生像を別々の投射レンズを介して投射面上に重畳投射する投射部と、を備える
照明装置。
【請求項2】
前記空間光位相変調器は、位相変調面を前記再生像ごとに等分して形成される領域よりも広い領域の入射光を用いて各前記再生像を生成する
請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記空間光位相変調器における位相変調パターンを制御することにより前記再生像の位置又は形状を変化させる制御部を備えた
請求項1に記載の照明装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記再生像の面内方向位置を変化させる
請求項3に記載の照明装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記再生像の投射距離に応じて前記再生像の面内方向における間隔を変化させる
請求項4に記載の照明装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記再生像の光軸方向位置を変化させる
請求項3に記載の照明装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記再生像の投射距離に応じて前記再生像の光軸方向位置を変化させる
請求項6に記載の照明装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記再生像の形状を変化させる
請求項3に記載の照明装置。
【請求項9】
光軸方向における前記像面と前記投射レンズとの間に拡散板が配置された
請求項1に記載の照明装置。
【請求項10】
前記像面における前記再生像の面内方向間隔を拡大する方向に前記空間光位相変調器からの入射光線を屈曲させる屈曲光学素子を備えた
請求項1に記載の照明装置。
【請求項11】
発光素子を有する光源部と、
前記光源部からの入射光に対し空間光位相変調を施すことで、像面において複数の再生像を間隔を空けて生成する空間光位相変調器と、
前記複数の再生像を別々の投射レンズを介して投射面上に重畳投射する投射部と、
前記像面において前記再生像に対する空間光強度変調を施す空間光強度変調器と、を備える
プロジェクタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、照明装置、及びプロジェクタ装置に関するものであり、特には、光エネルギー密度の低減により安全性を高めるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非照明物に対し光を照射する照明装置が広く普及している。照明装置の一例としては、所定の配光パターン(光強度分布パターン)による光を照射するヘッドランプ等の車両用灯具や、光源からの入射光に対し例えば液晶パネル等の空間光変調器により光強度分布を与えて生成した像を所定の投射面に投射するプロジェクタ装置等を挙げることができる。
【0003】
なお、関連する従来技術については下記特許文献1を挙げることができる。特許文献1の
図14には、光源が発したレーザ光をコリメートして回折光学素子、及び投射レンズを介して被照明領域に照射する構成において、回折光学素子として、複数の要素回折部が二次元配列されたものを用い、投射レンズとして、複数の単位レンズが二次元配列されたものを用いるものとし、回折光学素子における隣接しない要素回折部がそれぞれ同一の照明範囲を照明するように構成することで、被照明領域の各点に入射されるコヒーレント光の入射方向が広範囲となるようにして、コヒーレント光の安全性を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、投射する再生像の生成は、光源からの光に対して空間光強度変調を施すことで行うことができる。或いは、再生像の生成は、光源からの光に対し空間光位相変調を施すことで行うこともできる。強度変調により再生像を生成する場合は、光源からの光の一部を遮光又は減光することで光強度分布を実現するが、位相変調による再生像の生成ではそのような遮光や減光が行われないため光の利用効率を高めることができる。
【0006】
一方、例えばプロジェクタ装置のように像面において生成した再生像を投射レンズを介して投射面に投射する場合、投射レンズの瞳位置(焦点面)において光エネルギー密度が高まることになる。安全性を高める上では、このような瞳位置における光エネルギー密度の低減を図ることが望ましい。特に、再生像の生成を上記した位相変調により行う場合には、該光エネルギー密度がより高まる傾向となるため、対策を講じることが有効である。
【0007】
本技術は上記の事情に鑑み為されたものであり、再生像の生成を空間光位相変調器を用いて行う場合において、瞳位置における光エネルギー密度の低減を図り、安全性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術に係る照明装置は、発光素子を有する光源部と、前記光源部からの入射光に対し空間光位相変調を施すことで、像面において複数の再生像を間隔を空けて生成する空間光位相変調器と、前記複数の再生像を別々の投射レンズを介して投射面上に重畳投射する投射部と、を備えるものである。
これにより、投射面に対する再生像の投射は、投射レンズごとに分散されたそれぞれの瞳位置を介して行われる。
【0009】
上記した本技術に係る照明装置においては、前記空間光位相変調器は、位相変調面を前記再生像ごとに等分して形成される領域よりも広い領域の入射光を用いて各前記再生像を生成する構成とすることが考えられる。
これにより、位相変調面を再生像の数に応じて等分して形成される領域ごとに再生像を個別に生成する場合よりも、瞳位置における各光線の径を拡大化することが可能となる。
【0010】
上記した本技術に係る照明装置においては、前記空間光位相変調器における位相変調パターンを制御することにより前記再生像の位置又は形状を変化させる制御部を備えた構成とすることが考えられる。
再生像の位置の変化としては、面内方向位置の変化や光軸方向位置の変化が考えられ、面内方向位置の変化によっては再生像の投射領域の位置調整が可能となり、光軸方向位置の変化によってはフォーカス調整が可能となる。また、再生像の形状の変化によっては光学収差の補正が可能となる。
【0011】
上記した本技術に係る照明装置においては、前記制御部は、前記再生像の面内方向位置を変化させる構成とすることが考えられる。
これにより、各再生像の投射領域の位置調整を行うことが可能となる。
【0012】
上記した本技術に係る照明装置においては、前記制御部は、前記再生像の投射距離に応じて前記再生像の面内方向における間隔を変化させる構成とすることが考えられる。
これにより、投射距離が変化しても各再生像の投射領域にずれが生じないようにすることが可能となる。
【0013】
上記した本技術に係る照明装置においては、前記制御部は、前記再生像の光軸方向位置を変化させる構成とすることが考えられる。
これにより、投射像のフォーカス調整を行うことが可能となる。
【0014】
上記した本技術に係る照明装置においては、前記制御部は、前記再生像の投射距離に応じて前記再生像の光軸方向位置を変化させる構成とすることが考えられる。
これにより、投射距離の変化に応じた投射像のフォーカスずれを補償することが可能となる。
【0015】
上記した本技術に係る照明装置においては、前記制御部は、前記再生像の形状を変化させる構成とすることが考えられる。
これにより、レンズ歪み等の光学収差を補正するように再生像の形状を変化させることが可能となる。
【0016】
上記した本技術に係る照明装置においては、光軸方向における前記像面と前記投射レンズとの間に拡散板が配置された構成とすることが考えられる。
拡散板により、投射レンズに入射する各光線の光束径の拡大化が図られる。
【0017】
上記した本技術に係る照明装置においては、前記像面における前記再生像の面内方向間隔を拡大する方向に前記空間光位相変調器からの入射光線を屈曲させる屈曲光学素子を備えた構成とすることが考えられる。
例えば、プリズム等の屈曲光学素子により像面における再生像の面内方向間隔を拡大する。
【0018】
また、本技術に係るプロジェクタ装置は、発光素子を有する光源部と、前記光源部からの入射光に対し空間光位相変調を施すことで、像面において複数の再生像を間隔を空けて生成する空間光位相変調器と、前記複数の再生像を別々の投射レンズを介して投射面上に重畳投射する投射部と、前記像面において前記再生像に対する空間光強度変調を施す空間光強度変調器と、を備えるものである。
このようなプロジェクタ装置によっても、上記した本技術に係る照明装置と同様の作用が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本技術に係る第一実施形態としての照明装置が有する光学系の概略構成例を示した斜視図である。
【
図2】第一実施形態としての照明装置が有する光学系における位相変調器5の後段部分の概略構成と位相変調器5の制御系の構成とを示した図である。
【
図3】液晶パネルを厚み方向に平行な面で切断した断面の様子を示した図である。
【
図4】空間光位相変調器の位相分布と入射光の光線の進行方向の変化との関係を例示した図である。
【
図5】位相変調面を再生像ごとに区分けする手法についての説明図である。
【
図6】再生像ごとの区分けを行った場合における位相分布の波面の形状を概略的に示した図である。
【
図7】再生像ごとの区分けを行った場合における光線の様子を例示した図である。
【
図8】再生像ごとの区分けをしない場合における位相分布の波面形状の例を概略的に示した図である。
【
図9】再生像ごとの区分けをしない場合における光線の様子を例示した図である。
【
図10】第二実施形態としての照明装置の構成例を説明するための図である。
【
図11】測距ユニットを再生像の投射光学系との光軸間距離をある程度空けて配置した場合の例を示した図である。
【
図12】投射距離に応じた各再生像の面内方向間隔の調整例についての説明図である。
【
図13】同じく、投射距離に応じた各再生像の面内方向間隔の調整例についての説明図である。
【
図14】投射距離に応じた各再生像の光軸方向位置の調整例についての説明図である。
【
図15】第二実施形態としての制御を実現するために実行すべき具体的な処理手順の例を示したフローチャートである。
【
図16】実施形態としてのプロジェクタ装置の構成例を説明するための図である。
【
図17】屈曲光学素子を用いる例についての説明図である。
【
図18】屈曲光学素子の適用により生じたスペースに測距ユニットを配置した例の説明図である。
【
図19】空間光位相変調器を傾斜配置する場合の問題点についての説明図である。
【
図20】拡散板を適用する例についての説明図である。
【
図21】アフォーカル光学系を適用する例についての説明図である。
【
図22】複数の空間光位相変調器を用いる場合の例の説明図である。
【
図23】同じく、複数の空間光位相変調器を用いる場合の例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照し、本技術に係る実施形態を次の順序で説明する。
<1.第一実施形態>
(1-1.照明装置の構成、及び実施形態としての再生像投射手法)
(1-2.位相変調による再生像生成手法について)
(1-3.複数再生像の生成手法について)
<2.第二実施形態>
<3.第三実施形態(プロジェクタ装置への適用)>
<4.変形例>
<5.実施形態のまとめ>
<6.本技術>
【0021】
<1.第一実施形態>
(1-1.照明装置の構成、及び実施形態としての投射手法)
図1及び
図2は、本技術に係る第一実施形態としての照明装置1の構成例を説明するための図であり、
図1は、照明装置1が有する光学系の概略構成例を示した斜視図であり、
図2は、該光学系における位相変調器5の後段部分の概略構成と位相変調器5の制御系の構成とを示した図である。
【0022】
先ず、
図1に示す光学系の構成として、照明装置1は、光源部2、ミラー3、ミラー4、位相変調器5、ミラー6、ミラー7、及び投射レンズ部8を備えている。図中の矢印は光の経路を示しており、光源部2より発せられた光は、ミラー3、ミラー4、位相変調器5、ミラー6、ミラー7を介した後、投射レンズ部8に入射する。
この照明装置1は、位相変調器5が光源部2からの入射光に対する空間光位相変調を行うことで、投射面Sp上に所望の像(光強度分布)を再生するように構成されている。このような照明装置1は、例えば、車両用のヘッドランプ(前照灯)等への各種灯具への適用が考えられる。ヘッドランプへの適用の場合、位相変調器5による空間光位相変調によってハイビーム又はロービームの照射範囲を変化させるという構成を採ること等が考えられる。
【0023】
ここで、以下の説明では、投射レンズ部8による像の投射方向(投射面Spに直交する方向)をZ方向と定義する。また、Z方向に直交する面(つまり投射面Spに平行な面)をX-Y面とする。照明装置1が水平に配置された状態において、X方向は水平方向、Y方向は垂直方向にそれぞれ一致する方向であるとする。
【0024】
光源部2は、一又は複数の発光素子を有し、位相変調器5への入射光の光源として機能する。光源部2が有する発光素子としては、例えばレーザ発光素子を挙げることができる。なお、発光素子にはLED(Light Emitting Diode)、放電ランプ等を用いることもできる。
【0025】
位相変調器5は、例えば反射型の液晶パネルで構成され、入射光に対して空間光位相変調を施す。具体的に本例では、光源部2より発せられミラー3、4を介して入射する光について空間光位相変調を施す。
【0026】
なお、位相変調器5としては反射型ではなく透過型の空間光位相変調器を用いることも可能である。
なお以下、「空間光位相変調」については「位相変調」と略称することもある。
【0027】
ここで、本実施形態の照明装置1において、位相変調器5は入射光に対する位相変調により、
図2に示す像面Siにおいて複数の再生像Imを間隔を空けて生成する。具体的に本例では、四つの再生像Imを生成する。
【0028】
投射レンズ部8は、像面Siにおいて生成される再生像Imと同数の投射レンズ8aを有しており(つまり本例では四つ:
図1を参照)、各投射レンズ8aは、生成された再生像Imのうち対応する一つの再生像Imを投射面Spに投射する。このとき、各投射レンズ8aには非球面レンズが用いられており、各投射レンズ8aは、それぞれ対応する再生像Imを投射面Sp上に重畳投射する。具体的に、本例における各投射レンズ8aは、投射面Sp上の同一の領域にそれぞれの再生像Imを重畳投射するように構成されている。
これにより、像面Siにおいては複数の再生像Imが生成されるが、投射面Sp上における投射像としては、これら再生像Imが重畳された単一の像となる。
なお本例において、投射レンズ部8は、各投射レンズ8aが一体に形成された構成とされる。
【0029】
ここで、
図2に示す像面Siは、光源側の焦点位置(焦点面)と換言できるものである。
図2では、再生像Imにおける各点を通過する光線のうち、像中心を通過する光線と像高が最も高い位置を通過する光線とを抽出して示している。図示のように各光線は、位相変調器5より収束光の状態でミラー6、7を介して像面Siに導かれ、像面Siにおいて焦点を結ぶ。像面Siにおいて焦点を結んだ後の各光線は、発散光の状態で投射レンズ8aに入射する。投射レンズ8aに入射した各光線は、平行光に変換されると共に、像中心の光線以外の光線の進行方向が該像中心の光線側に屈曲されることで、瞳位置Sfにおいて各光線の主光線同士が交差する。
瞳位置Sfを介した各光線のうち、像中心の光線同士は、投射面Sp上の同一位置に投射される(図中「p1」の組)。同様に、再生像Imにおける中心以外の各位置を通過する光線についても、それぞれ再生像Im内の同じ位置の光線同士は、投射面Sp上のそれぞれ同一位置に投射される(図中「p2」「p3」の組)。
【0030】
上記のように位相変調器5が像面Siにおいて複数の再生像Imを間隔を空けて生成し、それら再生像Imを別々の投射レンズ8aを介して投射面Sp上に重畳投射する構成としたことで、投射面Spに対する再生像Imの投射は、投射レンズ8aごとに分散されたそれぞれの瞳位置Sfを介して行われる。
従って、再生像Imの生成を位相変調器5を用いて行う場合において、瞳位置Sfにおける光エネルギー密度の低減を図り、安全性の向上を図ることができる。
【0031】
本例では、位相変調器5による位相変調パターンは、制御部9によって任意に設定可能とされる。
制御部9は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置を有するマイクロコンピュータを備えて構成され、照明装置1の全体制御を行う。
制御部9は、像面Siにおいて複数の再生像Imを間隔を空けて生成するための位相変調パターン(位相分布)を位相変調器5に設定する。具体的に、制御部9は、上記の位相変調パターンを実現するための画素単位の駆動信号値を位相変調器5に指示して、光源部2からの入射光に対する空間光位相変調を実行させる。
【0032】
(1-2.位相変調による再生像生成手法について)
図3及び
図4を参照し、位相変調による再生像Imの生成手法について説明しておく。
図3は、液晶パネルで構成された位相変調器5による光の屈折作用についての説明図である。なお、
図3では透過型液晶パネルの例で説明するが、反射型液晶パネルを用いた場合も同様の屈折作用が得られる。
【0033】
図3では、液晶パネルを厚み方向に平行な面で切断した断面の様子として、3画素分の領域の断面の様子を示している。図示のように位相変調器5としての液晶パネルは、液晶層の両端に画素ごとに一対の画素電極が形成されている。
この液晶パネルにおいては、画素ごとに電極間に印加する電圧を制御可能とされ、この印加電圧の値により液晶層における液晶分子の傾きを変化させることができる。液晶分子の傾きの状態により屈折率の差が生じ、液晶層を通過する光の光路長が変化することで、位相差を生じさせることができる。例えば図示の例において、最も上段に示す画素の液晶分子の傾き状態では、光路長が長く(屈折率が高く)なり、以降、中段の画素、下段の画素にかけて光路長が順に短く(屈折率が低く)なる。
図中では、液晶パネルへの入射光の偏光方向を両矢印により表し、光の進行に伴う波面の変化の様子を縦線により表しているが、上記のような画素ごとの光路長の設定により、この場合の入射光の波面は、液晶層内を進行するに従って図示のように鉛直状態から徐々に後傾していくことになる。この結果、この場合の入射光の進行方向は、図中の白抜き矢印で示すように、パネル厚み方向に平行な方向から、上向きの方向に変化されることになる。
【0034】
このように位相変調器5では、画素ごとの光路長の設定(すなわち位相の設定)により入射光の進行方向を変化させることができる。
図4では、集光(フレネル)レンズとしての位相分布を設定した場合(
図4A)と、回折(プリズム)レンズとしての位相分布を設定した場合(
図4B)について、それぞれ位相分布の波面の様子と、光線の進行方向の変化の様子(点線矢印)を示している。
図4Aに示す集光レンズの場合、位相分布の波面は略球面状とされ、入射した光線は、位相分布の波面の法線方向に進行するように屈折される。このため、図示のような集光作用が得られる。
図4Bに示す回折レンズの場合、位相分布の波面は図示のように略直線状となり、入射した光線はそれぞれ同方向に屈折される。このため、図示のように面内位置移動の作用が得られる。
【0035】
上記のような光の屈折作用により、像面Si上において、光線密度が高まる部分と疎となる部分とを形成することが可能となる。すなわち、位相変調器5の位相変調パターンの設定によって、像面Si上に所望の光強度分布(つまり像)を生成することが可能となるものである。
【0036】
なお、所望の再生像Imを生成するための位相分布を求める手法としては、例えば下記参考文献1に開示の手法に代表されるようなFreeform法等を挙げることができる。
参考文献1:特表2017-520022号公報
【0037】
(1-3.複数再生像の生成手法について)
ここで、上述のように本実施形態では、像面Siにおいて複数の再生像Imを生成するが、本例においてこれらの再生像Imは、位相変調面を再生像Imごとに区分けせずに生成する。
この点について、
図5から
図9を参照して説明する。
【0038】
図5は、複数の再生像Imの生成にあたり、位相変調器5の位相変調面Smを再生像Imごとに区分けする手法について説明するための図である。
ここで、位相変調面Smは、位相変調器5における位相変調可能部分の出射面を意味するものとする。位相変調可能部分とは、入射光に対する位相変調が可能とされた部分を意味する。
【0039】
生成する四つの再生像Imをそれぞれ「A」「B」「C」「D」とする。再生像Imごとの区分けをする手法では、
図5Aから
図5Dに示すように、生成する再生像Imごとに位相変調面Smを等分し(形成されるそれぞれの領域を領域a、b、c、dとする)、該等分された領域ごとに、それぞれ対応する一つの再生像Imを像面Siにおいて生成する。
【0040】
図6は、再生像Imごとの区分けを行った場合における位相分布の波面の形状を概略的に示している。なお
図6では代表して、領域a及び領域bについてのみ位相分布の波面の形状を例示している。
この
図6に例示するように、再生像Imごとの区分けを行う手法は、再生像Imごとに等分した領域ごとに、それぞれ再生像Imを生成するための位相分布パターンを設定して位相変調を行う手法となる。
【0041】
図7は、再生像Imごとの区分けを行った場合における光線の様子を例示した図である。なお、
図7では「A」から「D」の四つの再生像Imのうち何れか一つの再生像Imについての光線のみを示している。
再生像Imごとの区分けを行った場合、各再生像Imは、位相変調面Smの全域のうちその1/4の領域に対して入射した光を用いて生成されることになる。一つの再生像Imの生成につき利用可能な位相変調面Smの領域が比較的狭いため、位相変調器5から像面Siに到達されるまでの間の各光線の径が狭まる傾向となり、その結果、瞳径は小さくなる。
【0042】
瞳径が小さくなることは、瞳位置Sfにおける光エネルギー密度が高まることを意味する。そこで、本例では、複数の再生像Imを、再生像Imごとの区分けをせずに生成する手法を採る。
【0043】
図8は、再生像Imごとの区分けをしない場合における位相分布の波面形状の例を概略的に示している。
図中では、「A」「B」それぞれの再生像Imを生成するための位相分布の波面形状の例を概略的に示しているが、この図に例示するように、再生像Imごとの区分けを行わないものとすれば、各再生像Imの生成は、
図5のように等分された領域の範囲内に制限されず、該領域の範囲を超えたより広い領域への入射光を用いて生成することが可能となる。
【0044】
本例では、再生像Imごとの区分けをしないことで、位相変調面Smを再生像Imごとに等分して形成される領域よりも広い領域の入射光を用いて、各再生像Imを生成するようにしている。
すなわち、本例の制御部9は、このように位相変調面Smを再生像Imごとに等分して形成される領域よりも広い領域の入射光を用いて各再生像Imを生成することが可能となるように計算された位相変調パターンを位相変調器5に設定して、光源部2からの入射光に対する位相変調を実行させる。
【0045】
図9は、再生像Imごとの区分けをしない場合、すなわち、位相変調面Smを再生像Imごとに等分して形成される領域よりも広い領域の入射光を用いて各再生像Imを生成する手法を採った場合における光線の様子を例示した図である。なお、
図9においても先の
図7と同様に、「A」から「D」の四つの再生像Imのうち何れか一つの再生像Imについての光線のみを示している。
【0046】
この場合の再生像Imは、等分された領域よりも広い領域の入射光を用いて生成されるため、
図7の場合と比較して、位相変調器5から像面Siに到達されるまでの間の各光線の径が広くなる傾向となり、結果、瞳径の拡大化を図ることができる。
瞳径の拡大化が図られることで、瞳位置Sfにおける光エネルギー密度の低減を図ることができ、安全性を高めることができる。
【0047】
<2.第二実施形態>
続いて、第二実施形態について説明する。
第二実施形態は、再生像Imの位置又は形状を変化させるものである。
図10は、第二実施形態としての照明装置1Aの構成例を説明するための図である。なお、
図10では先の
図2と同様、光学系の構成については位相変調器5よりも後段の構成のみを示している。光学系における光源部2を始めとした他の部分については
図1の場合と同様となることから図示は省略している。
また以下の説明において、既に説明済みとなった部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
第一実施形態としての照明装置1との相違点は、測距センサ10と集光レンズ11が追加された点と、制御部9に代えて制御部9Aが設けられた点である。
測距センサ10は、Z方向における物体までの距離を測定する。測距センサ10としては、例えば間接ToF(Time of Flight)方式や直接ToF(Direct ToF)方式による測距センサや、ストラクチャードライト(Structured Light)方式による測距センサ等を用いることができる。本例では、間接ToF方式による測距センサ10が用いられている。この場合、測距センサ10は、投射レンズ部8を介して投射され、物体で反射された光を受光して該物体までの距離の測定を行う。
集光レンズ11は、物体からの反射光を集光して測距センサ10のセンサ面上に導く。
【0049】
ここで、本例において、測距センサ10と集光レンズ11とで構成される測距ユニットは、その光軸が、投射レンズ部8の光軸、すなわち各再生像Imを重畳投射する投射光学系の光軸と一致するように配置されている。
図11では、該測距ユニットを、投射光学系との光軸間距離をある程度空けて配置した場合を例示しているが、このような配置であると、測距ユニットによる視野(測距視野)と再生像Imの投射領域とにずれが生じ、測距視野内において、測距のための光が非照射となるいわば影の領域が形成されてしまう。
上記のように投射光学系と光軸が一致するように測距ユニットを配置することで、このような影の領域が生じてしまうことの防止を図ることができる。
【0050】
図10において、制御部9Aは、測距センサ10により測定される投射面Spまでの距離(以下「投射距離」と表記する)に応じて、以下で説明するように各再生像Imの面内方向位置や光軸方向位置を変化させるための位相変調パターンの制御を行う点が制御部9とは異なる。
【0051】
ここで、各再生像Imが投射面Sp上の同一領域に重畳投射されている状態において、投射距離が変化することによっては、投射面Sp上での各再生像Imの投射領域にずれが生じることになる。すなわち、投射像にボケ(解像感の低下)が生じてしまう。
【0052】
そこで、本例では、
図12及び
図13に例示するように、投射距離に応じて像面Si上における各再生像Imの面内方向間隔を変化させる。
図12では、投射距離200mmの場合に対応して像面Siにおいて設定されるべき各再生像Imの中心間距離の例を、
図13では、投射距離2000mmの場合に対応して像面Siにおいて設定されるべき各再生像Imの中心間距離の例をそれぞれ示している。
具体的に、この場合の例では、
図12Aに示す投射距離=200mmの場合に対応した各再生像Imの中心間距離は、
図12Bに示すようにX方向、Y方向共に6.54mmであるのに対し、
図13Aに示す投射距離=2000mmの場合に対応した各再生像Imの中心間距離は、
図13Bに示すようにX方向、Y方向共に6.26mmである。
この例のように、投射距離が大きくなるに従って、像面Si上における各再生像Imの中心間距離を広げるようにする。これにより、投射距離が変化しても、各再生像Imの投射領域にずれが生じないようにすることが可能となり、投射距離によって投射像の解像感が低下してしまうことの防止を図ることができる。
【0053】
また、本例では、このような各再生像Imの中心間距離の制御と共に、各再生像Imの形状を変化させる制御も行う。具体的には、レンズ歪み補正が実現されるように、各再生像Imの形状を変化させる制御を行う。なお、ここで言うレンズ歪みは、投射レンズ8aによるレンズ歪みである。
この場合、レンズ歪みとしては糸巻型の収差として現れるため、レンズ歪み補正としては、本来矩形であるべき再生像の形状を樽型に歪ませるように変化させることで行う(
図12B、
図13Bを参照)。
【0054】
また、本例では、投射距離に応じて各再生像Imの光軸方向位置を変化させる制御を行う。すなわち、
図14において方向D1や方向D2として表す方向に各再生像Imを移動させるものである。これは、投射像のフォーカス調整を行うことに相当する。
【0055】
具体的に、制御部9Aは、投射距離が短くなるに従って、各再生像Imを投射レンズ部8から遠ざかる方向(方向D2)に移動させる。
これにより、投射距離の変化に応じた投射像のフォーカスずれを補償することが可能となる。
【0056】
図15は、上記により説明した第二実施形態としての制御を実現するために制御部9Aが実行すべき具体的な処理手順の例を示したフローチャートである。
先ず、制御部9AはステップS101で、初期設定距離の読み込みを行う。ここで言う初期設定距離とは、投射距離の初期設定値である。この初期設定距離を示す情報は、制御部9Aが読み出し可能な記憶装置に格納されており、ステップS101で制御部9Aは、該記憶装置に記憶された初期設定距離の情報を読み込む処理を行う。
【0057】
ステップS101に続くステップS102で制御部9Aは、距離に応じた位相変調パターンを取得する。すなわち、ステップS101で読み込んだ初期設定距離に応じた位相変調パターン、或いは以降で説明するステップS106で更新された距離に応じた位相変調パターンを取得する。
ここでの位相変調パターンとしては、先の
図12から
図14を参照して説明したような投射距離に応じた各再生像Imの面内方向間隔の調整やフォーカス調整(光軸方向位置の調整)、及びレンズ歪み補正が実現されるように計算された位相変調パターンが用いられる。
本例において、投射距離ごとの位相変調パターンを示す情報は、制御部9Aが読み出し可能な記憶装置に格納されており、制御部9Aは該記憶装置に記憶された位相変調パターンの情報を読み出して取得する。
【0058】
ステップS102に続くステップS103で制御部9Aは、取得した位相変調パターンによる位相変調実行制御を行う。すなわち、取得した位相変調パターンを位相変調器5に設定して位相変調を実行させる。
【0059】
そして、続くステップS104で制御部9Aは、測距処理として、測距センサ10による測距を実行させ、さらに次のステップS105で設定距離と測距値が等しいか否か、すなわち、ステップS104の測距処理で測定された距離の値が設定距離(ステップS101の初期設定距離、又は以降で説明するステップS106で更新される距離の値)と等しいか否かを判定する。
【0060】
ステップS105において、設定距離と測距値が等しいと判定した場合、制御部9AはステップS107に処理を進める。
一方、ステップS105において、設定距離と測距値が等しくないと判定した場合、制御部9AはステップS106に進み、設定距離を測距値に更新し、ステップS107に処理を進める。
【0061】
ステップS107で制御部9Aは、連続して投射距離調整をするか否かを判定する。このステップS107の判定処理は、先のステップS103で初期設定距離に応じた位相変調を実行させた以降において、投射距離が変化し得る状態にあるか否かを判定する処理として機能する。
連続して投射距離調整をするか否かの判定の具体例としては種々考えられる。例えば、制御部9AがZ方向における任意位置に投射面Spの位置を設定する機能を有する場合には、制御部9Aは、該機能により投射距離を変化させるべき状態にあるか否かを判定する処理として行う。或いは、ユーザが照明装置1Aの配置位置を調整することに伴い投射距離が変化するケースも考えられ、その場合には、例えば、該配置位置の調整モード中であるか否かの判定として行うこと等が考えられる。
【0062】
ステップS107において、連続して投射距離調整をするとの判定結果が得られた場合、制御部9AはステップS102に戻る。これにより、投射距離が変化する状態が継続し得ると推定される場合において、測距により投射距離が変化したと判定された際には(S105:No)、変化後の投射距離に応じた位相変調パターンで生成された再生像Imの投射が行われる(S102、S103)。すなわち、変化後の投射距離に応じた各再生像Imの面内方向間隔の調整やフォーカス調整が実現される。なお、投射距離がステップS104の測距前の値から変化しない場合には、該測距前の値に応じた位相変調パターンで生成された再生像Imの投射状態が継続されることになる。
【0063】
一方、ステップS107において、連続して投射距離調整をしないとの判定結果が得られた場合、制御部9AはステップS108に進み、距離に応じた位相変調パターンを取得した上で、続くステップS109において、取得した位相変調パターンによる位相変調実行制御を行う。これらステップS108の取得処理、ステップS109の制御処理は、それぞれ上述したステップS102の取得処理、ステップS103の制御処理と同内容の処理であり、重複説明は避ける。
制御部9Aは、ステップS109の制御処理を実行したことに応じて
図15に示す一連の処理を終える。
【0064】
なお、上記では投射距離(ステップS101の初期設定距離も含む)に応じた位相変調パターンの取得処理として、予め記憶装置に記憶された位相変調パターンの情報を読み出して取得する例を挙げたが、勿論、投射距離に応じた位相変調パターンは、上述したFreeform法等に基づいた計算を行うことによって取得することも可能である。
【0065】
<3.第三実施形態(プロジェクタ装置への適用)>
第三実施形態は、これまで説明した実施形態としての照明装置をプロジェクタ装置に適用するものである。
図16は、第一実施形態としての照明装置1を適用したプロジェクタ装置20の構成例を説明するための図である。なお、
図16においても先の
図2と同様、光学系の構成については位相変調器5よりも後段の構成のみを示し、光源部2を始めとした光学系の他の部分については
図1の場合と同様となることから図示は省略している。
【0066】
図示のようにプロジェクタ装置20は、第一実施形態の照明装置1と比較して、像面Siの位置に強度変調器21が設けられると共に、制御部9に代えて制御部9Bが設けられた点が異なる。
【0067】
強度変調器21は、例えば透過型の液晶パネルで構成され、入射光に対し空間光強度変調(以下「強度変調」と略称することもある)を施す。具体的に、強度変調器21は、像面Siの位置に配置されることで、位相変調器5による位相変調により生成される各再生像Imに対する強度変調を施す。
【0068】
制御部9Bは、制御部9と同様にCPU、ROM、RAM等の記憶装置を有するマイクロコンピュータを備えて構成され、目標画像に基づき位相変調器5の位相分布(位相変調パターン)の計算、及び強度変調器21の光強度分布(強度変調パターン)の計算を行うと共に、計算した位相分布に基づき位相変調器5による位相変調動作を制御し、また計算した光強度分布に基づき強度変調器21による強度変調動作を制御する。
【0069】
図示のように制御部9Bは、位相パターン計算部22と強度パターン計算部23とを有する。位相パターン計算部22は、目標画像としての光強度分布を有する複数の再生像Im(本例では四つ)が像面Siにおいて間隔を空けて生成されるようにするための位相変調パターンを計算する。
強度パターン計算部23は、目標画像の光強度分布を投射面Sp上に再生するために強度変調器21に設定されるべき強度変調パターンを計算する。具体的に、強度パターン計算部23は、目標画像と、位相パターン計算部22で計算された位相変調パターンとを入力し、これら目標画像と位相変調パターンとに基づいて強度変調器21の強度変調パターンを計算する。より具体的に、強度パターン計算部23は、位相パターン計算部22より入力した位相変調パターンから求まる各再生像Imの光強度分布と、目標画像の光強度分布との差分が解消されるようにするための強度変調器21の強度変調パターンを計算する。これは、位相変調により生成される再生像Imは目標画像における高周波成分の再現性が低下する傾向となるため、該高周波成分を補うための強度変調パターンを計算することに相当する。
【0070】
制御部9Bは、位相パターン計算部22により計算した位相変調パターンにより位相変調器5による位相変調動作を実行させ、強度パターン計算部23により計算した強度変調パターンにより強度変調器21による強度変調動作を実行させる。
【0071】
ここで、従来のプロジェクタ装置では、光源からの光に空間光強度変調器による空間光強度変調を施すことで再生像を得るようにしていたが、空間光強度変調では光源からの入射光の一部を遮蔽又は減光することになるため、光の利用効率が低く、高コントラスト化を図り難いという事情があった。
【0072】
これに対し、
図16のように照明装置1、すなわち空間光位相変調によって所望の光強度分布を再生するという照明装置を適用したプロジェクタ装置とすることで、光の利用効率の向上を図り、投射像のコントラスト向上を図ることができる。
図16に示す構成において、位相変調器5の位相変調によって強度変調器21の変調面に目標画像に応じた光強度分布を再生することは、強度変調器21による強度変調が行われる前に、目標画像の大まかな光強度分布を形成しておくことに相当し、いわば、液晶ディスプレイにおけるバックライトのエリア分割駆動に似た制御となる。ただし、ここでの光強度分布は位相変調により形成されるものであるため、光源からの光の利用効率の低下防止が図られるものとなる。
この場合の強度変調器21は、位相変調器5によって再生されたいわば低周波画像の再生像Imのディテールを整えて、投射面Sp上に目標画像に応じた光強度分布を再生するように機能する。これにより、投射像の解像度低下の抑制を図りつつ、投射像の高コントラスト化を図ることができる。
【0073】
なお、プロジェクタ装置としては、第二実施形態としての照明装置1Aを適用した構成を採ることもできる。その場合、位相パターン計算部22では、各再生像Imの面内方向間隔の調整やフォーカス調整のための位相変調パターンの計算を測距センサ10により測定された距離(投射距離)に応じて行う。
【0074】
また、上記では強度変調器21として透過型の液晶パネルを用いる例を挙げたが、反射型の液晶パネルやDMD等の反射型の空間光変調器を用いることもできる。
【0075】
<4.変形例>
ここで、実施形態としては上記で説明した具体例に限定されるものではなく、多様な変形例としての構成を採り得る。
例えば、光学系について、
図17に示すような屈曲光学素子15を設けた構成を採ることもできる。屈曲光学素子15は、像面Siにおける再生像Imの面内方向間隔を拡大する方向に位相変調器5からの入射光線を屈曲させるもので、例えばプリズムを用いることができる。
再生像Imの面内方向間隔を拡大することで、各再生像Imを重畳投射する投射光学系の光軸近傍に配置することが要請される部品がある場合に、該部品を配置するスペースの拡大化を図ることが可能となり、該部品を配置し易くなる。
例えば、
図18に例示するように、第二実施形態で説明した測距ユニット(測距センサ10及び集光レンズ11)を光軸近傍の位置に配置し易くなる。
【0076】
なお、屈曲光学素子15により再生像Imの面内方向間隔を拡大する場合には、
図17や
図18に示す投射レンズ部8’のように、各投射レンズ8aを別体とした構成を採ることもできる。
【0077】
また、再生像Imの面内方向間隔の拡大により生じたスペースに配置する部品としては、上記した測距ユニットに限定されるものではなく、例えば画像撮像を行うイメージセンサと撮像用のレンズとで構成される撮像ユニット等、他の部品とすることもできる。
【0078】
また、これまでの説明では、位相変調器5として反射型の液晶パネルを用いる例を説明したが、位相変調器5に反射型の空間光位相変調器を用いる場合には、位相変調面Smを入射光軸に直交する状態から傾斜させた状態で配置することになる。このため、
図19A、
図19Bに例示するように、位相変調面Smのどの領域で変調を受けるかによって、位相変調面Smから再生像Imまでの距離が異なるものとなる。
具体的に、
図19A、
図19Bでは、位相変調面Smが入射光軸に直交する面Soに対して傾斜するように位相変調器5が配置されることを示しているが、この場合において、
図19Aに示す領域A1で変調を受けた光と、
図19Bに示す領域A2で変調を受けた光との間で、位相変調面Smから再生像Imまでの距離(光路長)が異なってしまう。具体的には、
図19Aよりも
図19Bの方が再生像Imまでの距離が長くなる。
そこで、このように位相変調器5を傾斜配置する場合の距離の差がキャンセルされるように計算された位相変調パターンを用いて、再生像Imの生成を行う。これにより、各再生像ImのZ方向における位置を揃えることができる。
【0079】
また、光学系の構成については、
図20や
図21に示すような構成を採ることもできる。
図20は、拡散板16を適用する例である。
具体的には、光軸方向における像面Siと投射レンズ8aとの間となる位置に拡散板16を配置するものである。
この拡散板16により、投射レンズ8aに入射する各光線の光束径の拡大化が図られ、その結果、瞳径の拡大化を図ることができる。
【0080】
図21は、アフォーカル光学系17を適用する例である。
図示のようにアフォーカル光学系17を像面Siの手前に配置することで、各再生像Imを拡大するものである。
【0081】
また、これまでの説明では、複数の再生像Imの生成にあたり位相変調器5を一つのみ用いる例を挙げたが、
図22及び
図23に例示するように、複数の位相変調器5を設け、個々の位相変調器5がそれぞれ像面Si上で複数の再生像Imを間隔を空けて生成する構成とすることもできる。ここで、
図23では、
図22で示す各光線のうち、一つの位相変調器5が出力する光線のみを抽出して示している。
このように複数の位相変調器5を設けて各位相変調器5がそれぞれ複数の再生像Imを生成する構成とすることで、光源部2からの光を複数の位相変調器5に分散して入射させることができ、光エネルギー密度の低減を図ることができる。従って、位相変調器5の長寿命化を図ることができる。
【0082】
また、図示による説明は省略するが、光源波長に応じた複数の位相変調器5を設け、各々の位相変調器5が像面Si上に複数の再生像Imを間隔を空けて生成し、それらの再生像Imを投射面Sp上で重畳させる構成を採ることもできる。例えば、光源としてR(赤色)、G(緑色)、B(青色)それぞれの光源を設けると共に、位相変調器5としてもR、G、Bそれぞれの位相変調器5を設けるものとし、各位相変調器5がそれぞれ対応する色の光源からの入射光に基づき、像面Si上に複数の再生像Imを間隔を空けて生成し、それらの再生像Imを投射レンズ部8により投射面Sp上で重畳させる構成とすることが考えられる。
【0083】
<5.実施形態のまとめ>
以上で説明してきたように実施形態としての照明装置(同1、1A、プロジェクタ装置20)は、発光素子を有する光源部(同2)と、光源部からの入射光に対し空間光位相変調を施すことで、像面において複数の再生像を間隔を空けて生成する空間光位相変調器(位相変調器5)と、複数の再生像を別々の投射レンズを介して投射面上に重畳投射する投射部(同8、8’)と、を備えるものである。
これにより、投射面に対する再生像の投射は、投射レンズごとに分散されたそれぞれの瞳位置を介して行われる。
従って、再生像の生成を空間光位相変調器を用いて行う場合において、瞳位置における光エネルギー密度の低減を図り、安全性の向上を図ることができる。
【0084】
また、実施形態としての照明装置においては、空間光位相変調器は、位相変調面を再生像ごとに等分して形成される領域よりも広い領域の入射光を用いて各再生像を生成している。
これにより、位相変調面を再生像の数に応じて等分して形成される領域ごとに再生像を個別に生成する場合よりも、瞳位置における各光線の径を拡大化することが可能となる。
従って、瞳径の拡大化が図られ、瞳位置における光エネルギー密度の低減を図ることができ、安全性を高めることができる。
【0085】
さらに、実施形態としての照明装置においては、空間光位相変調器における位相変調パターンを制御することにより再生像の位置又は形状を変化させる制御部(同9A)を備えている。
再生像の位置の変化としては、面内方向位置の変化や光軸方向位置の変化が考えられ、面内方向位置の変化によっては再生像の投射領域の位置調整が可能となり、光軸方向位置の変化によってはフォーカス調整が可能となる。また、再生像の形状の変化によっては光学収差の補正が可能となる。
上記構成によれば、これら再生像の調整や補正が位相変調パターンの制御により行われるため、該調整や補正のための光学素子を空間光位相変調器とは別途に設ける必要をなくすことが可能であり、光学系の小型化を図ることができる。
【0086】
さらにまた、実施形態としての照明装置においては、制御部は、前記再生像の面内方向位置を変化させている。
これにより、各再生像の投射領域の位置調整を行うことが可能となる。
従って、何らかの要因により再生像の投射領域が所望の位置からずれてしまう場合であっても、投影領域の位置を該所望の位置に一致させるように補正することができる。
【0087】
また、実施形態としての照明装置においては、制御部は、再生像の投射距離に応じて再生像の面内方向における間隔を変化させている。
これにより、投射距離が変化しても各再生像の投射領域にずれが生じないようにすることが可能となる。
従って、投影距離の変化によって投射面において再生像の解像感が低下してしまうことの防止を図ることができる。
【0088】
さらに、実施形態としての照明装置においては、制御部は、再生像の光軸方向位置を変化させている。
これにより、投射像のフォーカス調整を行うことができる。
【0089】
さらにまた、実施形態としての照明装置においては、制御部は、再生像の投射距離に応じて再生像の光軸方向位置を変化させている。
これにより、投射距離の変化に応じた投射像のフォーカスずれを補償することが可能となる。
従って、投影距離の変化によって投射面において再生像の解像感が低下してしまうことの防止を図ることができる。また、再生像のフォーカス調整にあたりレンズを駆動するための構成を設ける必要がなくなり、光学系の小型化を図ることができる。
【0090】
また、実施形態としての照明装置においては、制御部は、再生像の形状を変化させている。
これにより、レンズ歪み等の光学収差を補正するように再生像の形状を変化させることが可能となる。
再生像の光学収差補正を再生像生成のための空間光位相変調器により行うことができ、補正のための別途の光学素子を設ける必要がなくなり、光学系の小型化を図ることができる。
【0091】
さらに、実施形態としての照明装置においては、光軸方向における像面と投射レンズとの間に拡散板(同16)が配置されている。
拡散板により、投射レンズに入射する各光線の光束径の拡大化が図られる。
従って、瞳径の拡大化を図ることができ、瞳位置における光エネルギー密度の低減により安全性の向上を図ることができる。
【0092】
さらにまた、実施形態としての照明装置においては、像面における再生像の面内方向間隔を拡大する方向に空間光位相変調器からの入射光線を屈曲させる屈曲光学素子(同15)を備えている。
例えば、プリズム等の屈曲光学素子により像面における再生像の面内方向間隔を拡大する。
再生像の面内方向間隔を拡大することで、各再生像を重畳投射する投射光学系の光軸近傍に配置することが要請される部品がある場合に、該部品を配置するスペースの拡大化を図ることが可能となり、該部品を配置し易くなる。例えば、測距センサを配置する場合においては、測距の視野と再生像の投影領域とのずれ防止のために測距センサを光軸近傍の位置に配置することが要請されるが、その場合に、測距センサの配置の容易性を高めることができる。
【0093】
また、実施形態としてのプロジェクタ装置(同20)は、発光素子を有する光源部(同2)と、光源部からの入射光に対し空間光位相変調を施すことで、像面において複数の再生像を間隔を空けて生成する空間光位相変調器(位相変調器5)と、複数の再生像を別々の投射レンズを介して投射面上に重畳投射する投射部(同8、8’)と、像面において再生像に対する空間光強度変調を施す空間光強度変調器(強度変調器21)と、を備えるものである。
このようなプロジェクタ装置によっても、上記した実施形態としての照明装置と同様の作用が得られる。
従って、空間光位相変調により生成した再生像に空間光強度変調を施して投射面に投射するプロジェクタ装置について、瞳位置における光エネルギー密度の低減を図り、安全性の向上を図ることができる。
【0094】
なお、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。
【0095】
<6.本技術>
なお本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)
発光素子を有する光源部と、
前記光源部からの入射光に対し空間光位相変調を施すことで、像面において複数の再生像を間隔を空けて生成する空間光位相変調器と、
前記複数の再生像を別々の投射レンズを介して投射面上に重畳投射する投射部と、を備える
照明装置。
(2)
前記空間光位相変調器は、位相変調面を前記再生像ごとに等分して形成される領域よりも広い領域の入射光を用いて各前記再生像を生成する
前記(1)に記載の照明装置。
(3)
前記空間光位相変調器における位相変調パターンを制御することにより前記再生像の位置又は形状を変化させる制御部を備えた
前記(1)又は(2)に記載の照明装置。
(4)
前記制御部は、前記再生像の面内方向位置を変化させる
前記(3)に記載の照明装置。
(5)
前記制御部は、前記再生像の投射距離に応じて前記再生像の面内方向における間隔を変化させる
前記(4)に記載の照明装置。
(6)
前記制御部は、前記再生像の光軸方向位置を変化させる
前記(3)から(5)の何れかに記載の照明装置。
(7)
前記制御部は、前記再生像の投射距離に応じて前記再生像の光軸方向位置を変化させる
前記(6)に記載の照明装置。
(8)
前記制御部は、前記再生像の形状を変化させる
前記(3)から(7)の何れかに記載の照明装置。
(9)
光軸方向における前記像面と前記投射レンズとの間に拡散板が配置された
前記(1)から(8)の何れかに記載の照明装置。
(10)
前記像面における前記再生像の面内方向間隔を拡大する方向に前記空間光位相変調器からの入射光線を屈曲させる屈曲光学素子を備えた
前記(1)から(9)の何れかに記載の照明装置。
(11)
発光素子を有する光源部と、
前記光源部からの入射光に対し空間光位相変調を施すことで、像面において複数の再生像を間隔を空けて生成する空間光位相変調器と、
前記複数の再生像を別々の投射レンズを介して投射面上に重畳投射する投射部と、
前記像面において前記再生像に対する空間光強度変調を施す空間光強度変調器と、を備える
プロジェクタ装置。
【符号の説明】
【0096】
1,1A 照明装置
2 光源部
3,4,6,7 ミラー
5 位相変調器
8,8’ 投射レンズ部
8a 投射レンズ
9,9A,9B 制御部
10 測距センサ
11 集光レンズ
Sp 投射面
Si 像面
Sf 瞳位置
Im 再生像
Sm 位相変調面
15 屈曲光学素子
16 拡散板
17 アフォーカル光学系
20 プロジェクタ装置
21 強度変調器