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特許7605232回収方法、電極の製造方法及び回収システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】回収方法、電極の製造方法及び回収システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
H01M10/54
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023008046
(22)【出願日】2023-01-23
(65)【公開番号】P2024104039
(43)【公開日】2024-08-02
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-186150(JP,A)
【文献】特開2008-204755(JP,A)
【文献】国際公開第2013/114621(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質と結着材とを含む電極合材を備えた処理対象電極から前記電極活物質を回収する回収方法であって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む第1処理液と、水を含む第2処理液とを、前記処理対象電極に接触させ、前記処理対象電極から前記電極活物質を分離する分離工程を含む、
回収方法。
【請求項2】
前記分離工程では、前記第1処理液が前記処理対象電極に接触した状態で、前記第2処理液を前記処理対象電極に接触させる、請求項1に記載の回収方法。
【請求項3】
前記分離工程では、前記還元状態の芳香族炭化水素化合物の濃度が0.1mol/L以上0.5mol/L以下の前記第1処理液を用いる、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項4】
前記分離工程では、前記処理対象電極を前記第1処理液に接触させる接触時間を1分以上20分以下とする、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項5】
前記結着材は、フッ素含有高分子を含む、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項6】
前記電極活物質は、前記金属イオンを含む酸化物である、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項7】
前記芳香族炭化水素化合物は、式(1)~(2)の化合物のうちの1以上である、請求項1又は2に記載の回収方法。
【化1】
【請求項8】
前記第1処理液は、ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル(DEE)、ジグライム(G2)、トリグライム(G3)、テトラグライム(G4)のうち1以上を含む、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の回収方法で回収した前記電極活物質を用いて新たな電極を作製する電極作製工程を含む、
電極の製造方法。
【請求項10】
電極活物質と結着材とを含む電極合材を備えた処理対象電極から前記電極活物質を回収する回収システムであって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む第1処理液と、水を含む第2処理液とを、前記処理対象電極に接触させ、前記処理対象電極から前記電極活物質を分離する分離処理を実行する分離部を備えた、
回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、回収方法、電極の製造方法及び回収システムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極のリサイクル方法としては、電極から活物質粉末を回収し、短時間のアニールを伴う水熱処理または固体合成のいずれかの異なる再生処理を行い、再生された電極材料をスラリー化し、新しい電池の製造に使用する方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Green Chem.,2018,20,851-862
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電極からの活物質粉末の分離回収については十分に検討されておらず、電極から活物質をより容易に分離回収することが望まれていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、電極から活物質をより容易に分離回収することができる新規な回収方法、電極の製造方法及び回収システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、所定の第1処理液と、水を含む第2処理液とを、電極に接触させると、活物質をより容易に分離回収できることを見いだし、本開示を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する回収方法は、
電極活物質と結着材とを含む電極合材を備えた処理対象電極から前記電極活物質を回収する回収方法であって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む第1処理液と、水を含む第2処理液とを、前記処理対象電極に接触させ、前記処理対象電極から前記電極活物質を分離する分離工程を含む、
ものである。
【0008】
本開示の電極の製造方法は、
上述の回収方法で回収した前記電極活物質を用いて新たな電極を作製する電極作製工程を含む、
ものである。
【0009】
本開示の回収システムは、
電極活物質と結着材とを含む電極合材を備えた処理対象電極から前記電極活物質を回収する回収システムであって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む第1処理液と、水を含む第2処理液とを、前記処理対象電極に接触させ、前記処理対象電極から前記電極活物質を分離する分離処理を実行する分離部を備えた、
ものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の回収方法、電極の製造方法及び回収システムでは、電極から活物質をより容易に分離回収することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む第1処理液は、フッ素含有高分子などの結着材に対して電子を供与することで、結着材の炭化を進めると同時に結着性を低下させる。さらに、水を含む第2処理液は、この結着性を低下させる反応を促進させる。これにより、処理対象電極から電極活物質を容易に分離回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】回収システム50及び分離処理の一例を示す説明図。
図2】分離処理における処理対象電極10の様子の一例を示す説明図。
図3】Li-Naphによる結着材等の還元に関する反応式。
図4】Li-Naphの水との反応に関する反応式。
図5】実験例1~6の分離工程で得られた粉末のXRDパターン。
図6】実験例7~10の分離工程で得られた粉末のXRDパターン。
図7】実験例11~16の分離工程で得られた粉末のXRDパターン。
図8】実験例17~22の分離工程で得られた粉末のXRDパターン。
図9】実験例45~50の分離工程で得られた粉末のXRDパターン。
図10】実験例51の分離工程で得られた粉末のXRDパターン。
図11】実験例1~22の分離工程で得られた粉末のXRDパターンにおけるLiNi1/3Co1/3Mn1/32の003面のピーク。
図12】実験例45~50の分離工程で得られた粉末のXRDパターンにおけるLiFePO4の111面のピーク。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の回収方法、電極の製造方法及び回収システムは、蓄電デバイス用の電極に関する。蓄電デバイスは、例えば、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムやナトリウムのアルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池、空気電池などが挙げられる。キャリアイオンとしての金属イオンは、例えば、Li、Na、Kなどのアルカリ金属イオンや、Mg、Ca、Srなどの第2族イオン(アルカリ土類金属イオン)などが挙げられ、このうちリチウムイオンが好ましい。このうち、蓄電デバイスとしては、リチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池が好ましい。ここでは、蓄電デバイスがリチウム二次電池であるものとして主として説明する。蓄電デバイスは、例えば、リチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵放出する負極活物質を有する負極と、正極及び負極の間に介在しリチウムイオンを伝導する電解液と、を備えるものとしてもよい。この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えるものとしてもよい。
【0013】
正極は、正極活物質と結着材とを含む正極合材を備えるものとしてもよい。正極合材は、集電体の表面に形成されていてもよい。正極合材には、正極活物質及び結着材のほか、導電材などが含まれるものとしてもよい。正極は、例えば正極活物質と結着材と必要に応じて導電材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む化合物が挙げられ、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物が好ましい。正極活物質は、例えば、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物などを用いることができる。あるいは、正極活物質は、リン酸鉄リチウムとしてもよい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。
【0014】
結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系のカルボキシメチルセルロース(CMC)やスチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリビニルアルコールなどの水分散体等を用いることもできる。
【0015】
導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維などの炭素材料、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0016】
負極は、負極活物質と結着材とを含む負極合材を備えるものとしてもよい。負極合材は、集電体の表面に形成されていてもよい。負極合材には、負極活物質及び結着材のほか、導電材などが含まれるものとしてもよい。負極は、例えば負極活物質と結着材と必要に応じて導電材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、例えば、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極の結着材や導電材、溶剤、塗布方法、集電体としては、それぞれ、正極で例示したもののうち1以上などを用いることができる。
【0017】
電解液は、例えば、支持塩を溶解した電解液とすることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6やLiBF4、などのリチウム塩が挙がられる。電解液の溶媒は、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類等が挙げられる。また、電解液は、固体のイオン伝導性ポリマーや、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0018】
[回収方法]
本開示の回収方法は、電極活物質と結着材とを含む電極合材を備えた処理対象電極から電極活物質を回収する方法である。この回収方法は、第1処理液と、第2処理液と、を処理対象電極に接触させ、処理対象電極から電極活物質を分離する分離工程を含む。この電極の処理方法は、分離工程の前後で電極活物質の結晶構造の破壊が抑制される条件で行ってもよい。
【0019】
(処理対象電極)
処理対象電極は、上述した蓄電デバイスの正極でもよいし負極でもよいが、正極であることが好ましい。処理対象電極は、後述する第1処理液に含まれる金属イオンと同種の金属イオンを含む酸化物であることが好ましく、リチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましく、リチウムとニッケルとマンガンとコバルトとを含む複合酸化物や、リチウムと鉄とを含む複合酸化物であることがより好ましい。また、処理対象電極に含まれる結着材は、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素含有高分子(含フッ素樹脂)を含むことが好ましい。処理対象電極は、電極の製造工程で余った端材などの新品でもよいし、使用済み品でもよい。この処理対象電極において、電極活物質はキャリアイオンを吸蔵放出可能な状態であることが好ましく、失活していないものであることが好ましい。
【0020】
(処理液)
第1処理液は、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む。この第1処理液は、次式(1)及び式(2)のうち1以上である芳香族炭化水素化合物を含むものとしてもよい。また、第1処理液は、次式(3)及び式(4)のうち1以上により得られたものとしてもよい。即ち、芳香族炭化水素化合物に金属を反応させ、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むものとしてもよい。金属は、芳香族炭化水素化合物と反応するよう反応性が高いものが好ましく、アルカリ金属や第2族元素の金属などが好ましい。この第1処理液は、ナフタレン、ビフェニル、オルトターフェニル、アントラセン及びパラターフェニルのうち1以上である芳香族炭化水素化合物を含むものとしてもよい。芳香族炭化水素化合物としては、ナフタレンやビフェニルが好ましい。また、第1処理液は、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンのうち1以上である金属イオンを含むものとしてもよい。この金属イオンのうち、リチウムイオンがより好ましい。
【0021】
この第1処理液は、エーテル系化合物である第1溶媒を含むものとしてもよい。この第1溶媒は、例えば、環状エーテル系化合物としてもよいし、鎖状エーテル系化合物としてもよい。この第1溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン(DOL)、ジオキサン(DOX)、ジエチルエーテル(DEE)、ジメトキシエタン(DME)、ジグライム(G2)、トリグライム(G3)、テトラグライム(G4)のうち1以上が挙げられ、このうちDMEやTHFがより好ましく、DMEが更に好ましい。第1処理液は、例えば、式(5)~(7)に示すように、第1溶媒をDMEとし、ナフタレン、ビフェニル、オルトターフェニルのいずれかにLi金属を反応させたものが好ましい。このような第1処理液を用いると、電極から電極活物質が分離しやすく、その際、電極活物質の結晶構造の破壊も抑制される。
【0022】
この第1処理液において、還元状態の芳香族炭化水素化合物の第1処理液全体に対する濃度は、処理対象電極から電極活物質をより確実に分離する観点から、0.05mol/L以上としてもよく、0.1mol/L以上としてもよく、0.15mol/L以上としてもよく、0.20mol/L以上としてもよい。また、この濃度は、還元状態の芳香族炭化水素化合物の使用量を低減する観点や、電極活物質の結晶構造の破壊を抑制する観点から、2mol/L以下としてもよく、1mol/L以下としてもよく、0.5mol/L以下としてもよい。
【0023】
【化1】
【0024】
【化2】
【0025】
【化3】
【0026】
この第1処理液は、結着材に対して電子を供与することで、結着材の炭化を進めると同時に結着性を低下させる機能を有すると考えられる。この第1処理液は、電極活物質に対して電子とキャリアイオンとを供与することにより、容量劣化した処理対象電極の容量を回復させる機能を有するものとしてもよい。
【0027】
この第1処理液は、蓄電デバイスの電解液に用いられる溶媒を第2溶媒として含むものとしてもよい。第2溶媒としては、上述蓄電デバイスで電解液の溶媒として例示したものが挙げられる。なお、第1処理液は、第2溶媒を含むか否かで、褐色液体か濃緑色液体化のいずれかを示し、還元力が変化するものと推察される。第2溶媒を含まないほど還元力が高く、第2溶媒を多く含むほど還元力が穏和になるため、所望の還元力に応じて、第2溶媒を添加するか否かやその添加量を適宜決定すればよい。
【0028】
第2処理液は、水を含むものであればよいが、水をより多く含む方が好ましい。第2処理液は、例えば、水を50質量%以上含むものとしてもよく、水を80質量%以上含むものとしてもよく、水を90質量%以上含むものとしてもよい。第2処理液は、水としてもよい。
【0029】
(分離工程)
分離工程では、第1処理液と、第2処理液とを処理対象電極に接触させる分離処理を行う。分離工程では、例えば、第1処理液を処理対象電極に接触させる第1処理と、第2処理液を処理対象電極に接触させる第2処理と、を行うものとしてもよい。分離工程では、第1処理液を処理対象電極に接触させた状態で、第2処理液を処理対象電極に接触させるものとしてもよい。以下では、分離工程において、第1処理によって第1処理液が処理対象電極に接触した状態としてから、第2処理によって第2処理液を処理対象電極に接触させる場合について主に説明する。
【0030】
第1処理では、処理対象電極を第1処理液に接触させる。こうした第1処理によって、処理対象電極の結着材の結着力が低下すると考えられる。処理対象電極に第1処理液を接触させる方法は、特に限定されず、例えば、処理対象電極を第1処理液に浸漬させる方法としてもよいし、処理対象電極に第1処理液を噴霧や滴下などにより塗布する方法としてもよい。第1処理では、処理対象電極を第1処理液に浸漬させて撹拌してもよい。第1処理を行う処理時間は、特に限定されるものではないが、処理対象電極の内部の結着材まで第1処理液を行き渡らせる観点から、例えば、10秒以上としてもよいし、1分以上としてもよいし、2分以上としてもよく、5分以上としてもよい。また、第1処理を行う処理時間は、処理時間を短縮する観点や、電極活物質の結晶構造の破壊を抑制する観点から、例えば、1時間以下としてもよく、30分以下としてもよく、20分以下としてもよく、15分以下としてもよい。なお、この処理時間は、第1処理が浸漬の場合には、浸漬時間としてもよい。また、この処理時間は、処理対象電極が第1処理液に接触してから、第2処理液に接触するまでの時間としてもよい。第1処理において、第1処理液の使用量は、特に限定されるものではないが、処理対象電極の内部の結着材まで第1処理液を行き渡らせる観点から、例えば、電極合材の質量の0.1倍以上としてもよいし、0.2倍以上としてもよいし、0.5倍以上としてもよい。また、第1処理液の使用量は、芳香族炭化水素化合物の使用量を低減する観点などから、例えば、電極合材の質量の10倍以下としてもよく、5倍以下としてもよく、3倍以下としてもよい。第1処理では、還元状態の芳香族炭化水素化合物の濃度が0.5mol/L以下の第1処理液を用いることが好ましい。還元状態の芳香族炭化水素化合物の濃度が低いほど、第1処理液の還元力が穏和であり、電極活物質の結晶構造の破壊などをより抑制できる。第1処理を行うときの処理温度は、特に限定されるものではないが、例えば、10℃以上60℃以下の範囲としてもよいし、20℃以上40℃以下の範囲としてもよい。処理温度は、室温近傍(20℃~25℃)が望ましい。この第1処理では、使用済みの第1処理液をろ過することなどにより、第1処理後の処理対象電極や電極活物質を含む粉末から、不要な第1処理液を除去してもよい。
【0031】
第2処理では、第1処理によって第1処理液が接触した状態の処理対象電極に、第2処理液を接触させる。こうした第2処理によって、処理対象電極の結着材の結着力がより低下すると考えられる。処理対象電極に第2処理液を接触させる方法は、特に限定されず、例えば、処理対象電極を第2処理液に浸漬させる方法としてもよいし、処理対象電極に第2処理液を噴霧や滴下などにより塗布する方法としてもよい。第2処理では、処理対象電極を第2処理液に浸漬させて撹拌してもよい。第2処理を行う処理時間は、特に限定されるものではないが、処理対象電極の内部の結着材まで第2処理液を行き渡らせる観点から、例えば、10秒以上としてもよいし、1分以上としてもよいし、2分以上としてもよい。また、第2処理を行うときの処理時間は、処理時間を短縮する観点から、例えば、1時間以下としてもよく、30分以下としてもよく、15分以下としてもよく、5分以下としてもよい。なお、この処理時間は、第2処理が浸漬の場合には、浸漬時間としてもよい。また、この処理時間は、処理対象電極が第2処理液に接触してから、第2処理液の除去が開始されるまでの時間としてもよい。第2処理において、第2処理液の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、処理対象電極の内部の結着材まで第2処理液を行き渡らせる観点から、例えば、電極合材の質量の0.1倍以上としてもよいし、0.2倍以上としてもよいし、0.5倍以上としてもよい。また、第2処理液の使用量は、例えば、電極合材の質量の10倍以下としてもよく、5倍以下としてもよく、3倍以下としてもよい。第2処理を行うときの処理温度は、特に限定されるものではないが、例えば、10℃以上60℃以下の範囲としてもよいし、20℃以上40℃以下の範囲としてもよい。処理温度は、室温近傍(20℃~25℃)が望ましい。この第2処理では、使用済みの第2処理液をろ過することなどにより、第2処理後の処理対象電極や電極活物質を含む粉末から、不要な第2処理液を除去してもよい。
【0032】
この分離工程では、第1処理及び第2処理の後に、芳香族炭化水素化合物を溶解可能な溶媒を含む洗浄液で、処理対象電極及び電極活物質を含む粉末のうちの1以上を洗浄する溶媒洗浄を行うものとしてもよい。こうした溶媒洗浄により、第1処理液に起因する芳香族炭化水素化合物などが除去される。芳香族炭化水素化合物を溶解可能な溶媒としては、例えば、上述したエーテル系化合物が挙げられる。洗浄液に用いる溶媒は、第1処理液に含まれるエーテル系化合物と同じでも異なってもよい。
【0033】
この分離工程では、第1処理及び第2処理の後に、水を含む洗浄水で、処理対象電極及び電極活物質を含む粉末のうちの1以上を洗浄する水洗浄を行うものとしてもよい。こうした水洗浄により、第1処理液に起因する金属イオンなどを除去することができると考えられる。
【0034】
この分離工程では、電極活物質と結着材とを含む電極合材を備えた処理対象電極に、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、金属イオンとを含む第1処理液と、水を含む第2処理液とを接触させるだけで、処理対象電極から電極活物質を分離できる。例えば、図1,2に示すように、処理対象電極10を第1処理液20へ接触させる第1処理を行うと、図3Aに示すような反応が進行し、正極合材14に含まれる結着材の結着力が減少する。さらに、第1処理液20が接触した状態の処理対象電極10を、第2処理液25へ接触させる第2処理を行うと、図4に示すような反応が進行し、正極合材14に含まれる結着材の結着力の減少が促進される。それにより、処理対象電極10が、集電体12と、電極活物質16と、合材部材18とに分解する。合材部材18には、正極活物質以外の導電材や結着材の成分などが含まれる。こうして、この分離工程では、処理対象電極から電極活物質を分離できる。なお、第1処理の条件によっては、第1処理だけで処理対象電極10が集電体12と電極活物質16と合材部材18とに分解することがあるが、第2処理を行うことで、第1処理をより穏和な条件で行っても、処理対象電極10を集電体12と電極活物質16と合材18とに分解することができる。それにより、芳香族炭化水素化合物の使用量や処理時間を低減でき、処理対象電極から効率よく電極活物質を分離できる。また、第1処理をより穏和な条件で行うことで、第1処理による電極活物質16の結晶構造の破壊もより抑制されるため、好ましい。
【0035】
この分離工程では、容量劣化した処理対象電極の容量を回復させてもよい。例えば、容量劣化した処理対象電極10に対して上述の第1処理を行うと、図3Aに示す反応のほかに、図3Bに示すような反応が進行し、正極活物質の充放電活性が回復する。これを利用して、分離工程において、処理対象電極からの電極活物質の分離を行うと同時に、電極活物質の容量を回復させることができる。
【0036】
この回収方法では、例えば、処理対象電極の劣化度を判定し、その結果に応じて、電極活物質を処理対象電極から分離して回収するか、分離せずに電極のままで回収するかを切り替えてもよい。例えば、電極の状態での再利用が不可能なほどに劣化している場合には、上述の分離工程により処理対象電極から分離された電極活物質を回収し、電極の状態での再利用が可能な程度の劣化度の場合には、上述の分離工程のうち、第1処理によって容量回復を行い、第2処理は省略し、容量回復した電極活物質を、処理対象電極から分離することなく回収してもよい。こうすれば、処理対象電極の劣化度に応じて、より適切な状態で電極活物質を回収できる。処理対象電極の劣化度は、例えば、処理対象電極を取り出す前の蓄電デバイスを用いて判定してもよく、例えば、初期容量に対する劣化後の容量の割合などで定義してもよいし、交流インピーダンスに基づいて推定してもよい。
【0037】
この回収方法で回収した電極活物質は、X線回折(XRD)測定によって得られたXRDパターンにおいて、未使用の電極活物質を測定したときにピーク強度が最大強度I0となる2θでのピーク強度Iが、最大強度I0の0.2倍以上であることが好ましい。このピーク強度Iは、最大強度I0の0.5倍以上が好ましく、0.7倍以上がより好ましい。このピーク強度Iは、I0以下と考えられるが、その値が大きいほど、活物質の結晶構造の破壊が抑制されていると考えられ、好ましい。なお、例えば、最大強度I0となるピークは、電極活物質がLiNi1/3Co1/3Mn1/32の場合には003面のピーク(2θ=18.7°)であり、電極活物質がLiFePO4の場合には111面のピーク(2θ=25.6°)であるものとしてもよい。
【0038】
[電極の製造方法]
本開示の電極の製造方法は、上述した電極の処理方法で前記処理対象電極から分離された電極活物質を用いて新たな電極を作製する電極作製工程を含む。電極作製工程では、電極活物質と、必要に応じて結着材や導電材とを混合して得られた電極合材を集電体に塗布して電極を作製してもよい。この電極の製造方法において、結着材や導電材、溶剤、塗布方法、集電体としては、それぞれ、正極で例示したもののうち1以上などを用いることができる。
【0039】
[回収システム]
本開示の回収システムは、電極活物質と結着材とを含む電極合材を備えた処理対象電極から前記電極活物質を回収する回収システムである。この回収システムは、第1処理液と、第2処理液とを、処理対象電極に接触させ、処理対象電極から電極活物質を分離する分離処理を実行する分離部を備える。図1の回収システム50は、この回収システムの一例であり、分離部30を備えている。
【0040】
分離部30は、処理対象電極10から電極活物質16を分離する設備又は装置である。この分離部30では、第1処理液20と、第2処理液25とを、処理対象電極10に接触させて、処理対象電極10から電極活物質16を分離する。回収システム50では、分離部30は、第1処理によって第1処理液20が処理対象電極10に接触した状態としてから、第2処理によって第2処理液25を処理対象電極10に接触させて、処理対象電極10から電極活物質16を分離するように構成されている。分離部30では、例えば、上述した分離工程で説明した処理を実行するものとしてもよい。
【0041】
この回収システム50は、例えば、回収システム50全体を制御する図示しない制御部を備えていてもよい。また、この回収システムは、処理対象電極の劣化度を判定する図示しない判定部を備えていてもよい。この回収システム50において、制御部は、例えば、判定部を制御して処理対象電極10の劣化度を判定し、その結果に応じて分離部30を制御して、電極活物質16を処理対象電極10から分離して回収するか、分離せずに電極のままで回収するかを切り替えてもよい。判定部は、処理対象電極10を取り出す前の蓄電デバイスを用いて判定するように構成されていてもよく、例えば、容量に基づいて劣化度を判定するように構成されていてもよいし、交流インピーダンスに基づいて劣化度を推定するように構成されていてもよい。
【0042】
以上説明した本実施形態の回収方法、電極の製造方法及び回収システムでは、電極から活物質をより容易に分離回収することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む第1処理液は、フッ素含有高分子などの結着材に対して電子を供与することで、結着材の炭化を進めると同時に結着性を低下させる。さらに、水を含む第2処理液は、この結着性を低下させる反応を促進させる。これにより、処理対象電極から電極活物質を容易に分離回収できる。なお、第1処理の条件によっては、第1処理だけで処理対象電極から電極活物質が分離することがあるが、第2処理を行うことで、第1処理をより穏和な条件で行っても、処理対象電極から電極活物質が分離する。それにより、芳香族炭化水素化合物の使用量や処理時間を低減でき、処理対象電極から効率よく電極活物質を分離回収できる。また、第1処理をより穏和な条件で行うことで、第1処理による活物質の結晶構造の破壊もより抑制されるため、好ましい。
【0043】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。例えば、上述した実施形態において、処理対象電極として使用済み品を用いた場合などには、分離工程の前、分離工程の後、電極作製工程の後などに、キャリアイオンとなる金属イオンを電極活物質に導入する導入工程を行ってもよい。
【0044】
本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 電極活物質と結着材とを含む電極合材を備えた処理対象電極から前記電極活物質を回収する回収方法であって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む第1処理液と、水を含む第2処理液とを、前記処理対象電極に接触させ、前記処理対象電極から前記電極活物質を分離する分離工程を含む、
回収方法。
[2] 前記分離工程では、前記第1処理液が前記処理対象電極に接触した状態で、前記第2処理液を前記処理対象電極に接触させる、[1]に記載の回収方法。
[3] 前記分離工程では、前記還元状態の芳香族炭化水素化合物の濃度が0.1mol/L以上0.5mol/L以下の前記第1処理液を用いる、[1]又は[2]に記載の回収方法。
[4] 前記分離工程では、前記処理対象電極を前記第1処理液に接触させる接触時間を1分以上20分以下とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の回収方法。
[5] 前記結着材は、フッ素含有高分子を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の回収方法。
[6] 前記電極活物質は、前記金属イオンを含む酸化物である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の回収方法。
[7] 前記芳香族炭化水素化合物は、式(1)~(2)の化合物のうちの1以上である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の回収方法。
[化1]
[8] 前記第1処理液は、ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル(DEE)、ジグライム(G2)、トリグライム(G3)、テトラグライム(G4)のうち1以上を含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の回収方法。
[9] [1]~[8]のいずれか1つに記載の回収方法で回収した前記電極活物質を用いて新たな電極を作製する電極作製工程を含む、
電極の製造方法。
[10] 電極活物質と結着材とを含む電極合材を備えた処理対象電極から前記電極活物質を回収する回収システムであって、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む第1処理液と、水を含む第2処理液とを、前記処理対象電極に接触させ、前記処理対象電極から前記電極活物質を分離する分離処理を実行する分離部を備えた、
回収システム。
【実施例
【0045】
以下には、本開示の電極の処理方法を具体的に検討した例を実験例として説明する。なお、実験例1~22,45~53が本開示の実施例に相当し、実験例23~44が参考例に相当する。
【0046】
[実験例1~6]
(処理対象電極)
正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/32(NCM、戸田工業製)を92質量%、導電材としてのアセチレンブラック(デンカ株式会社製)を5質量%、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ製)を3質量%の割合で含む正極合材を、目付量7mg/cm2となるようにアルミ集電箔の片面に形成して、電極を作製し、これを処理対象電極とした。
【0047】
(処理液)
不活性雰囲気下において、1,2-ジメトキシエタン(DME)溶媒に対して1.00mol/Lになるようにナフタレンを溶解させ、その後、ナフタレンの濃度と同濃度となるようにリチウム金属を加えて撹拌し、上記式(5)に示すような反応により、リチウムナフタレニド(Li-Naph)の濃度が1.00mol/Lの濃緑色のアニオンラジカル液体組成物を調製した。調製したアニオンラジカル液体組成物を、第1処理液とした。また、水を、第2処理液とした。
【0048】
(分離工程)
調製した第1処理液10mL(約10g)に対して、処理対象電極を20cm2加えて浸漬させ、実験例1では5分、実験例2では10分、実験例3では15分、実験例4では30分、実験例5では45分、実験例6では60分、攪拌した(第1処理)。その後、容器から、第1処理液と処理対象電極から剥離した電極合材とを漏斗に移し、真空ポンプを使って吸引ろ過を行なった。次に、処理対象電極の残った容器に水を入れて撹拌することにより処理対象電極の水洗を行った(第2処理)。その後、容器から、水と処理対象電極から剥離した電極合材とを先ほどの漏斗に移して吸引ろ過を行った。そして、先ほどと同様の水洗と、水の代わりにTHFを用いた溶媒洗浄とを交互に繰り返した。なお、第2処理の後の水洗は、残存するリチウムイオンを除去する目的で行い、溶媒洗浄は、残存するナフタレンを除去する目的で行った。こうして、電極合材が剥離された処理対象電極(集電箔)と、処理対象電極から分離された粉末(電極活物質)を得た。
【0049】
(剥離状態の評価)
電極合材が剥離された処理対象電極を、目視で確認し、電極合材が剥離された部分の割合を大まかに評価した。その結果を表1に示した。評価は、電極合材がほぼ完全剥離した場合を「A」、電極合材が約5割剥離した場合を「B」、約2割剥離した場合を「C」とした。
【0050】
(結晶状態の評価)
得られた粉末を、120℃で真空乾燥したのち、X線回折測定装置(Ultima IV、リガク製)を用いてX線回折(XRD)測定を行い、結晶構造を確認した。XRD測定では、CuKα(波長1.54051Å)を用いて、印加電圧40kV、電流30mA、サンプリング幅0.020°/min.、スキャン速度5°min.-1で15°から50°(2θ)の角度範囲にて測定した。そして、得られたXRDパターンに基づいて、結晶状態を評価した。その結果を表1に示した。評価は、LiNi1/3Co1/3Mn1/32の003面のピーク(2θ=18.7°)がある場合を、結晶構造の破壊が抑制されたと判断して「A」とし、LiNi1/3Co1/3Mn1/32の003面のピークがない場合を、結晶構造が破壊されたと判断して「B」とした。その際、未使用のLiNi1/3Co1/3Mn1/32の003面のピークの強度を1.00として規格化し、各実験例の粉末の対応するピークの強度が0.2以上となる場合にピークあり、0.2未満となる場合にピークなしと判断した。
【0051】
[実験例7~22]
第1処理液のLi-Naphの濃度を1.00mol/Lから0.50mol/Lに変更した以外は、実験例1,2,5,6と同様に実験例7~10を行った。また、第1処理液のLi-Naphの濃度を0.25mol/Lとした以外は、実験例1~6と同様に実験例11~16を行った。また、第1処理液のLi-Naphの濃度を0.10mol/Lとした以外は、実験例1~6と同様に実験例17~22を行った。
【0052】
[実験例23~44]
分離工程において、第1処理の後、第2処理及び水洗を省略して、THFを用いた溶媒洗浄を行った以外は、実験例1~22と同様に実験例23~44を行った。
【0053】
[実験例45~50]
処理対象電極の正極活物質をLiNi1/3Co1/3Mn1/32からLiFePO4に変更した以外は、実験例1~6と同様に実験例45~50を行った。なお、結晶状態の評価は、LiFePO4の111面のピーク(2θ=25.6°)がある場合を、結晶構造の破壊が抑制されたと判断して「A」とし、LiFePO4の111面のピークがない場合を、結晶構造が破壊されたと判断して「B」とした。その際、未使用のLiFePO4の111面のピークの強度を1.00として規格化し、各実験例の粉末の対応するピークの強度が0.2以上となる場合にピークあり、0.2未満となる場合にピークなしと判断した。
【0054】
[実験例51~53]
第1処理液の溶媒をDMEからテトラヒドロフラン(THF)に変更した。また、第1処理において、処理対象電極を第1処理液に浸漬させるのに代えて、処理対象電極に第1処理液160mgを噴霧した。その後、噴霧処理後の処理対象電極を、全てが浸るように水に1分間浸漬させる第2処理を行った。それら以外は実験例1と同様に実験例51を行った。また、第1処理液の噴霧量を160mgから110mgに変更した以外は、実験例51と同様に実験例52を行った。また、第1処理液の噴霧量を160mgから46mgに変更した以外は実験例51と同様に実験例53を行った。なお、処理対象電極20cm2に含まれる正極活物質の質量は70mgであり、正極合材の質量は76.1mgであった。正極合材の質量に対する第1処理液の噴霧量の比は、実験例51では2.1、実験例52では1.4、実験例53では0.6であった。
【0055】
[結果と考察]
表1~4に、実験例1~22,23~44,45~50,51~53について、活物質、第1処理、第2処理、剥離状態及び結晶状態をまとめた。表5に、実験例1~44について、剥離状態に対する、第2処理の有無、第1処理液のLi-Naph濃度及び第1処理の処理時間の影響をまとめた。表6に、実験例1~22について、結晶状態に対する、第1処理液のLi-Naph濃度及び第1処理の処理時間の影響をまとめた。表7に、実験例45~50について、結晶状態に対する、第1処理液のLi-Naph濃度及び第1処理の処理時間の影響をまとめた。図5~10に、実験例1~6,7~10,11~16,17~22,45~50,51について、分離工程で得られた粉末のXRDパターンを示した。図11に、実験例1~22の分離工程で得られた粉末のXRDパターンにおけるLiNi1/3Co1/3Mn1/32の003面のピークを示した。図12に、実験例45~50の分離工程で得られた粉末のXRDパターンにおけるLiFePO4の111面のピークを示した。
【0056】
表1,2,5に示すように、実験例1~44において、第2処理を行わなかった実験例23~44では、Li-Naph濃度が1.00mol/Lの第1処理液を用いた場合には電極合材が完全剥離したが、Li-Naph濃度が0.50mol/Lの第1処理液を用いた場合には5割程度、Li-Naph濃度が0.25mol/L以下の第1処理液を用いた場合には2割程度しか電極合材が剥離しなかった。一方、第2処理を行った実験例1~22では、いずれも、電極合材が完全に剥離し、処理対象電極から電極活物質をより容易に分離できることがわかった。このことから、第2処理を行うことで、より容易に電極活物質を分離できることがわかった。ただし、Li-Naph濃度が0.1mol/Lの実験例17~22では、電極合材が粉末ではなく薄片として剥離したことから、電極活物質を合材部材とも分離して回収する必要がある場合には、Li-Naph濃度は0.1mol/L超過が好ましいと推察された。
【0057】
表3に示すように、第2処理を行った実験例45~50では、正極活物質をLiFePO4としたが、いずれも電極合材が完全に剥離した。このことから、正極活物質の種類は特に限定されないことがわかった。また、表4に示すように、第2処理を行った実験例51~53では、第1処理を浸漬でなく噴霧で行ったが、いずれも電極合材が完全に剥離した。このことから、処理対象電極を第1処理液と接触させる方法は特に限定されないことがわかった。同様に、処理対象電極を第2処理液と接触させる方法も特に限定されないと推察された。
【0058】
表1,2,6,7に示すように、第1処理液のLi-Naph濃度が低いほど、また、第1処理の処理時間が短いほど、結晶構造が破壊しにくく、リサイクルに適しており、好ましいことがわかった。こうした観点から、Li-Naphの濃度は、例えば0.5mol/L以下が好ましいことがわかった。また、第1処理の処理時間は20分以下が好ましいことがわかった。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示は、蓄電デバイスの技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 処理対象電極、12 集電体、14 正極合材、16 電極活物質、18 合材部材、20 第1処理液、25 第2処理液、30 分離部、50 回収システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12