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特許7605234プレス成形方法及びプレス成形品の形状評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】プレス成形方法及びプレス成形品の形状評価方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/30 20060101AFI20241217BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20241217BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B21D22/30 B
C21D9/00 A
C21D1/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023018089
(22)【出願日】2023-02-09
(62)【分割の表示】P 2021078342の分割
【原出願日】2021-05-06
(65)【公開番号】P2023062023
(43)【公開日】2023-05-02
【審査請求日】2023-02-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】仲本 平
(72)【発明者】
【氏名】石渡 亮伸
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-110957(JP,A)
【文献】LIM, Hojun,"Time-dependent Springback",International Journal of Material Forming,フランス,European Scientific Association for Material Formi,2008年04月03日,Issue 1,157-160
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/30
C21D 9/00
C21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形品を金型から離型した瞬間にスプリングバックした後における前記プレス成形品の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮するプレス成形方法であって、
前記金型を用いて、金属板をプレス成形品にプレス成形するプレス成形工程と、
該プレス成形したプレス成形品を前記金型から離型する離型工程と、
該離型され、スプリングバックした後におけるプレス成形品を、外部からの強制を受けずに室温よりも高い所定温度Aまで加熱し、該所定温度Aで30分間未満の所定時間保持し、スプリングバックした後のプレス成形品における残留応力が時間の経過とともに徐々に緩和する現象を促進し、スプリングバックしたプレス成形品の時間経過による形状変化を速やかに生じさせる離型後加熱保持工程(前記プレス成形工程と仕上げ工程としてのトリミング工程との間に、中間成形品である前記プレス成形品を加熱して金属板における変形部分の残留応力を減衰させる加熱工程である場合を除く)と、
該加熱保持したプレス成形品を所定温度B(B<A)まで冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
前記所定温度Aを130℃~150℃とし、かつ、前記所定時間を1分間以上3分間以下とすることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形方法。
【請求項3】
プレス成形した後に他部品と組み立て加工されるプレス成形品の形状を評価するプレス成形品の形状評価方法であって、
金型を用いて、金属板をプレス成形品にプレス成形するプレス成形工程と、
該プレス成形したプレス成形品を前記金型から離型する離型工程と、
該離型され、スプリングバックした後におけるプレス成形品を、外部からの強制を受けずに室温よりも高い所定温度Aまで加熱し、該所定温度Aで30分間未満の所定時間保持し、スプリングバックした後のプレス成形品における残留応力が時間の経過とともに徐々に緩和する現象を促進し、スプリングバックしたプレス成形品の時間経過による形状変化を速やかに生じさせる離型後加熱保持工程と、
該加熱保持したプレス成形品を所定温度B(B<A)まで冷却する冷却工程と、
該冷却後のプレス成形品の形状を測定する形状測定工程と、
該測定したプレス成形品の形状が予め設定した所定の範囲内であれば、該プレス成形品を前記組み立て加工に供すると判定する形状判定工程と、を含むことを特徴とするプレス成形品の形状評価方法。
【請求項4】
前記所定温度Aを130℃~150℃とし、かつ、前記所定時間を1分間以上3分間以下とすることを特徴とする請求項3に記載のプレス成形品の形状評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形方法及びプレス成形品の形状評価方法に関し、特に、金型から離型した瞬間にスプリングバックした後の時間経過に伴って形状が変化するプレス成形品のプレス成形方法及びプレス成形品の形状評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形は金属部品を低コストかつ短時間に製造することができる方法であり、多くの自動車部品の製造に用いられている。近年では、自動車の衝突安全性能の向上と車体の軽量化を両立するため、より高強度な金属板が自動車部品としてプレス成形される。
【0003】
高強度な金属板をプレス成形する場合の主な課題の一つにスプリングバックによる寸法精度の悪化がある。スプリングバックとは、プレス成形により金型を用いて金属板を変形させる際に、プレス成形品に発生した残留応力が駆動力となり、金型から離型したプレス成形品がプレス成形前の金属板の形状にバネのように瞬間的に戻ろうとする現象のことをいう。
【0004】
プレス成形により発生するプレス成形品の残留応力は高強度な金属板(例えば、高張力鋼板)ほど大きくなるため、スプリングバックによるプレス成形品の形状変化も大きくなる。したがって、高強度な金属板ほどスプリングバック後のプレス成形品の形状を既定の寸法内に収めることが難しくなる。そこで、スプリングバックによるプレス成形品の形状変化を精度よく予測する技術が開発されてきた。
【0005】
スプリングバックによるプレス成形品の形状変化の予測には、有限要素法によるプレス成形シミュレーションを利用することが一般的である。
当該プレス成形シミュレーションにおける手順としては、まず、金型を用いて金属板を成形下死点までプレス成形する過程のプレス成形解析を行い、プレス成形品に発生する残留応力を予測する第1段階(例えば特許文献1)と、金型から取り出したプレス成形品がスプリングバックにより形状が変化するスプリングバック解析を行い、力のモーメントと残留応力との釣り合いがとれるプレス成形品の形状を予測する第2段階(例えば特許文献2)に分けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許5795151号公報
【文献】特許5866892号公報
【文献】特開2013-113144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者らは、プレス成形シミュレーションにより予測されたプレス成形品の形状と実際にプレス成形されたプレス成形品の形状とを比較していた際に、プレス成形シミュレーションによる形状予測精度が低くなるプレス成形品があることに気がついた。
【0008】
そこで、プレス成形シミュレーションにおいて形状予測精度が低くなるプレス成形品とその原因を調査したところ、例えば、金属板が曲げられた曲げ部を有するプレス成形品においては、プレス成形直後(金型から離型しスプリングバックした直後)と数日経過した後とでは形状が異なることを発見した。
【0009】
プレス成形品の時間経過に伴う形状変化の一例を図9に示す。
図9(a)に一例として示すようなハット断面形状のプレス成形品1は、図9(b)に示すように、金型から離型した瞬間にスプリングバックが発生し、成形下死点形状(図9(b)中の点線)に比べて縦壁部4の壁開きが増加する形状変化が生じるが(図9(b)中の破線)、スプリングバックした後においても、時間経過に伴って縦壁部4の壁開きがさらに増加する形状変化が生じる(図9(b)中の実線)。
【0010】
このようなスプリングバックした後のプレス成形品の時間経過に伴う形状変化は、クリープ現象のように外部から高い荷重を受け続ける構造部材が徐々に変形する現象(例えば特許文献3)と類似しているように思われるが、上記のように外部から荷重を受けていない状態のプレス成形品で起こる現象はこれまでに知られていなかった。
【0011】
そのため、スプリングバックによる形状変化を見込んで設計した金型を用いる方法や、スプリングバックに寄与する部位を特定して該スプリングバックを低減するように対策する方法だけでは、スプリングバックした後のプレス成形品のさらなる形状変化を低減することができない。さらに、プレス成形品が他の部品と組立加工される場合においては、当該プレス成形品が時間経過に伴って形状変化が生じると、次工程において支障を来してしまう。そのため、スプリングバックした後のプレス成形品の時間経過に伴う形状変化に関して何らかの対策を施す必要があることが判明した。
【0012】
プレス成形品の時間経過に伴う形状変化に関する対策として、次工程で他部品と組み立て加工される前に、金型から離型してスプリングバックしたプレス成形品を放置して形状変化がほとんど生じない状態にすることが考えられる。
しかしながら、形状変化がほとんど生じない状態にするために要する時間を調査したところ、少なくとも30分間以上といった長時間を要することが判明した。そのため、プレス成形品を離型して直ぐに、次工程での他部品との組み立て加工に送れなかったり、プレス成形品の形状測定結果に基づく金型の調整に時間を要するなど、工程上の時間的な制約が生じる。このため、金型から離型してスプリングバックしたプレス成形品の時間経過による形状変化を速やかに生じさせることが望まれていた。
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、プレス成形してスプリングバックした後の時間経過に伴うプレス成形品の形状変化に要する時間を短縮するとともに、スプリングバックした後の時間経過に伴うプレス成形品の形状変化を低減するプレス成形方法、及び、次工程で他部品と組み立て加工される前にプレス成形品の形状変化に要する時間を短縮して該プレス成形品の形状を評価するプレス成形品の形状評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明に係るプレス成形方法は、プレス成形品を金型から離型した瞬間にスプリングバックした後における前記プレス成形品の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮するものであって、
前記金型を用いて、金属板を前記プレス成形品にプレス成形するプレス成形工程と、
プレス成形した前記プレス成形品を前記金型から離型する離型工程と、
離型した前記プレス成形品を前記金型に嵌め込み、該プレス成形品を成形下死点形状に合わせて固定する離型後金型嵌め込み工程と、
前記金型に嵌め込みした前記プレス成形品を、室温よりも高い所定温度Aまで加熱し、該所定温度Aで30分間未満の所定時間保持する加熱保持工程と、
加熱保持した前記プレス成形品を所定温度B(B<A)まで冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0015】
(2)本発明に係るプレス成形方法は、プレス成形品を金型から離型した瞬間にスプリングバックした後における前記プレス成形品の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮するものであって、
前記金型を用いて、金属板を前記プレス成形品にプレス成形するプレス成形工程と、
該プレス成形したプレス成形品を前記金型から離型する離型工程と、
該離型したプレス成形品の全部又は一部を、前記金型と同じ形状の別の金型を含め、予め定めた所定の形状に保持可能な治具に嵌め込み、該プレス成形品の全部又は一部を該所定の形状に合わせて固定する離型後治具嵌め込み工程と、
該治具に嵌め込んだプレス成形品を、室温よりも高い所定温度Aまで加熱し、該所定温度Aで30分間未満の所定時間保持する加熱保持工程と、
該加熱保持したプレス成形品を所定温度B(B<A)まで冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0016】
(3)本発明に係るプレス成形方法は、プレス成形品を金型から離型した瞬間にスプリングバックした後における前記プレス成形品の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮するものであって、
前記金型を用いて、金属板を前記プレス成形品にプレス成形するプレス成形工程と、
該プレス成形したプレス成形品を前記金型から離型する工程と、
該離型しスプリングバックした後の形状を測定または計算により予測し、前記離型したプレス成形品の全部又は一部を、前記離型しスプリングバックした後の形状と同じ形状に保持可能な治具に嵌め込み、該プレス成形品の全部又は一部を前記スプリングバックした後の形状に合わせて固定する離型後治具嵌め込み工程と、
該治具に嵌め込んだプレス成形品を、室温よりも高い所定温度Aまで加熱し、該所定温度Aで30分間未満の所定時間保持する加熱保持工程と、
該加熱保持したプレス成形品を所定温度B(B<A)まで冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0017】
(4)本発明に係るプレス成形方法は、プレス成形品を金型から離型した瞬間にスプリングバックした後における前記プレス成形品の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮するものであって、
前記金型を用いて、金属板を前記プレス成形品にプレス成形するプレス成形工程と、
該プレス成形したプレス成形品を前記金型から離型する離型工程と、
該離型したプレス成形品を室温よりも高い所定温度Aまで加熱し、該所定温度Aで30分間未満の所定時間保持する離型後加熱保持工程と、
該加熱保持したプレス成形品を所定温度B(B<A)まで冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0018】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、
前記所定温度Aを130℃~150℃とし、かつ、前記所定時間を1分間以上3分間以下とすることを特徴とするものである。
【0019】
(6)本発明に係るプレス成形品の形状評価方法は、プレス成形した後に他部品と組み立て加工されるプレス成形品の形状を評価するものであって、
金型を用いて、金属板を前記プレス成形品にプレスするプレス成形工程と、
該プレス成形したプレス成形品を前記金型から離型する離型工程と、
該離型したプレス成形品を室温よりも高い所定温度Aまで加熱し、該所定温度Aで30分間未満の所定時間保持する離型後加熱保持工程と、
該加熱保持したプレス成形品を所定温度B(B<A)まで冷却する冷却工程と、
該冷却後のプレス成形品の形状を測定する形状測定工程と、
該測定したプレス成形品の形状が予め設定した所定の範囲内であれば、該プレス成形品を前記組み立て加工に供すると判定する形状判定工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0020】
(7)上記(6)に記載のものにおいて、
前記所定温度Aを130℃~150℃とし、かつ、前記所定時間を1分間以上3分間以下とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、金型を用いて金属板をプレス成形品にプレス成形し、該プレス成形したプレス成形品を前記金型から離型した瞬間にスプリングバックした後、前記プレス成形品を前記金型に嵌め込んで成形下死点形状に合わせて固定した状態で、又は、前記プレス成形品の全部又は一部を予め定めた所定の形状に保持可能な治具に嵌め込んで該所定の形状に合わせて固定した状態で室温よりも高い所定温度Aに加熱して所定時間保持し、その後、所定温度B(B<A)まで冷却することにより、前記プレス成形品における残留応力の緩和を室温のみで行うよりも時間を短縮することができるので、金型から再度離型してスプリングバックした後の前記プレス成形品の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮することができ、さらに再度の離型後の形状変化を軽減できる。
【0022】
また、本発明においては、次工程で他部品と組み立て加工される前に、金型から離型したプレス成形品を所定温度Aに加熱して所定時間保持し、その後、所定温度B(B<A)まで冷却してから該プレス成形品の形状を測定し、該測定したプレス成形品の形状が予め設定した所定の範囲内であれば、該プレス成形品を次工程に供すると判定することにより、前記プレス成形品の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮し、次工程での不具合を効率良く回避することができる。
このように、本発明によれば、工程上の時間的な制約を緩和できるので、プレス成形品の製造及び組み立て加工の生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態1に係るプレス成形方法の各工程の流れを示すフロー図である。
図2】スプリングバックした直後のプレス成形品の時間経過に伴う縦壁部の壁開きの変化量Xkの経時変化を測定した結果の一例である。
図3】プレス成形品を所定温度Aまで加熱した場合において、室温での壁開きの変化量(○)と同程度となるための所定温度Aでの必要保持時間を求めた結果(●)の一例である。
図4】高温炉に装入して所定温度Aまで加熱して保持するプレス成形品において、各所定温度Aまでの加熱時間、各所定温度Aにおいて十分に形状変化させるために要する保持時間、及び各所定温度Aから室温(25℃)までの冷却時間、を示すグラフである。
図5】本発明の実施の形態1の他の態様に係るプレス成形方法の各工程の流れを示すフロー図である。
図6】本発明の実施の形態2に係るプレス成形方法の各工程の流れを示すフロー図である。
図7】本発明の実施の形態3に係るプレス成形方法の各工程の流れを示すフロー図である。
図8】本発明の実施の形態4に係るプレス成形品の形状評価方法の各工程の流れを示すフロー図である。
図9】本発明の実施の形態1~実施の形態4及び実施例において対象としたハット断面形状のプレス成形品を示す図である((a)斜視図、(b)成形下死点形状、スプリングバック直後の形状及び時間経過後の形状)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明者らは、前述の課題を解決するために、金型から離型してスプリングバックしたプレス成形品の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮する手法を確立するため、図9(a)に示すハット断面形状のプレス成形品1を対象として、時間経過に伴って形状が変化する原因について種々の検討を行った。
【0025】
その結果、発明者らは、時間の経過とともに応力が徐々に緩和して減少する応力緩和現象に着目し、スプリングバックした直後のプレス成形品1においても、残留応力が時間の経過とともに外部からの強制を受けずに徐々に緩和することで、プレス成形品1においては力のモーメントと釣り合うように形状が変化していることを突き止めた。
【0026】
前述のとおり、外部から強制を受けずにプレス成形品の形状が変化する現象は、外部から高い荷重を受け続ける構造部材が徐々に変形するクリープ現象とは異なり、これまでに知られておらず、発生メカニズムも解明されていない。
一方、加工した金属部品の残留応力を開放させるには『ひずみ取り』と称する熱処理が行われており、このひずみ取りに伴って金属部品の形状が変化することが知られている。
【0027】
そこで、発明者らは、温度に着目し、スプリングバックした後のプレス成形品における残留応力が時間の経過とともに外部からの強制を受けずに徐々に緩和する現象に及ぼす温度の影響について検討を行った。
【0028】
当該検討では、図9(a)に示すようなハット断面形状のプレス成形品1を例とし、成形下死点までプレス成形したプレス成形品1を金型から離型した後、パンチ肩R部3を局部的に50℃、150℃又は200℃まで加熱し、プレス成形品1の時間経過に伴う形状変化を測定し、加熱せず室温(25℃)のまま時間経過したプレス成形品1の形状変化と比較した。
【0029】
ここでは、プレス成形品1の形状変化として縦壁部4の壁開きを対象とし、図9(b)に示すように、スプリングバック直後のプレス成形品1を基準とし、時間経過後のプレス成形品1の縦壁部4における天板部2からプレス成形方向に距離Hsの位置の幅方向の変化量を縦壁部の壁開きの変化量Xkとして測定した。
【0030】
図2に、離型してスプリングバックした直後から2日間経過するまでの縦壁部4の壁開きの変化量Xkの測定結果を示す。
図2に示すように、離型してスプリングバックした直後(0.1s未満)の変化量Xkは0.05mmであり、プレス成形品1を加熱せずに室温(25℃)のまま放置することで変化量Xkは増加し、30分間経過した時点で0.75mmとなった。その後も時間の経過とともに変化量Xkは徐々に増加し、二日間経過した時点で0.83mmとなり、ほぼ一定となった。
これに対し、プレス成形品1を金型から離型した後に加熱した場合においては、加熱せずに室温(25℃)のまま形状変化させた場合と比べると、プレス成形品の形状変化がより短時間で生じた。さらに、加熱した温度が高いほど、形状変化はより短時間で生じることが分かった。
【0031】
この結果から、金属部品を50℃~200℃の温度領域まで加熱すれば、プレス成形品の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮できることを見出した。なお、加熱する温度を200℃までとしたのは、200℃以上に加熱しても、形状変化に要する時間は短縮せず、加熱時間と冷却時間が長くなり、かえって工程上の時間的な制約を発生させることになるからである。
【0032】
さらに、50℃~200℃に加熱した場合について、室温で30分間放置したときの変化量(=0.75mm)と同じ変化量Xkになるまでの各温度における必要保持時間を求めた結果を図3に示す。
図3に示すように、室温(25℃)で30分間放置した時の変化量Xkになるまでの必要保持時間は、加熱した時の温度が高くなるほど短くなり、120℃で5分を下回り、150℃前後から飽和し始め、150℃以上では1分未満であった。
【0033】
このように、加熱するときの所定温度Aが高くなるほど、必要保持時間を短くすることは可能である。しかしながら、プレス成形品を一定の雰囲気に維持された高温炉に装入して加熱する場合、プレス成形品を所定温度Aまで加熱させるための加熱時間及び所定温度Aから室温(25℃)まで冷却させるための冷却時間は、加熱する所定温度Aが高いほど長くなる。
【0034】
図4に、一例として、板厚1.5mmの鋼板を金属板として用いたプレス成形品1を雰囲気温度250℃の高温炉に装入して加熱する場合において、各所定温度Aまでの加熱時間、各所定温度Aにおいて形状変化に要する保持時間、及び各所定温度Aから室温(25℃)までの冷却時間を示す。ここで、各所定温度Aにおける保持時間は、図3に示した結果から与えた。
【0035】
図4より、加熱時間及び冷却時間を考慮すると、スプリングバック直後のプレス成形品を高温炉に装入し、プレス成形品の残留応力を緩和させて形状変化がもはやほとんど生じない状態にするのに必要な時間(加熱時間+保持時間+冷却時間)が最小となる所定温度の好適範囲は130℃~150℃であるという知見が得られた。
【0036】
さらに、130℃~150℃の所定温度Aの範囲における保持時間は、130℃のときの3分間が最長であり、150℃のときの1分間が最短であるので、130℃~150℃の所定温度Aで1分間以上3分間以下保持すれば、室温(25℃)で30分間以上放置したときと同等の形状変化が得られるという知見が得られた。
【0037】
本発明は、上記の知見に基づいたものであり、以下、実施の形態1~実施の形態4にて説明する。
なお、実施の形態1~実施の形態4においては、図9に一例として示すような、天板部2と、縦壁部4とフランジ部6とを有してなるハット断面形状であって、曲げ稜線部として、天板部2と縦壁部4とを接続するパンチ肩R部3と、縦壁部4とフランジ部6とを接続するダイ肩R部5と、を有するプレス成形品1を例として説明する。
【0038】
[実施の形態1]
本発明の実施の形態1に係るプレス成形方法は、金型から離型した瞬間にスプリングバックしたプレス成形品1(図9)の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮するものであって、図1に示すように、プレス成形工程S1と、離型工程S3と、離型後金型嵌め込み工程S5と、加熱保持工程S7と、冷却工程S9と、を含むものである。
【0039】
<プレス成形工程>
プレス成形工程S1は、金型を用いて、金属板をプレス成形品1にプレス成形する工程である。
プレス成形工程S1で用いる金型は、例えば、ダイとパンチとを備えてなり、ダイをパンチ側に成形下死点まで相対移動させてプレス成形できるものであれば、特に限定はない。
【0040】
<離型工程>
離型工程S3は、プレス成形工程S1においてプレス成形したプレス成形品1を金型から離型する工程である。
離型工程S3において金型から離型したプレス成形品1は、離型した瞬間にスプリングバックし、図9(b)の破線に示すような、縦壁部4の壁開きが生じる。
【0041】
<離型後金型嵌め込み工程>
離型後金型嵌め込み工程S5は、離型工程S3において金型から離型したプレス成形品1を、プレス成形工程S1においてプレス成形に用いた金型に嵌め込み、プレス成形品1を成形下死点形状に合わせて固定する工程である。
ここで、成形下死点形状とは、プレス成形工程S1で用いた金型の成形下死点におけるプレス成形品1の形状のことをいう(以下、同じ)。
【0042】
<加熱保持工程>
加熱保持工程S7は、金型に嵌め込みしたプレス成形品1を、室温よりも高い所定温度Aまで加熱し、所定温度Aで30分間未満の所定時間保持する工程である。
【0043】
加熱保持工程S7は、前述した図3及び図4に示したように、プレス成形品1を加熱する所定温度Aを130℃~150℃とし、かつ、所定時間を1分間以上3分間以下とすることが好ましい。
【0044】
また、加熱保持工程S7においてプレス成形品1を加熱する手段は、特に限定はなく、例えば、雰囲気温度が一定に保持された高温炉にプレス成形品1を固定した金型ごと装入して加熱する手段や、高周波誘導加熱を用いて金型に固定されたプレス成形品1を加熱する手段であってもよい。
【0045】
<冷却工程>
冷却工程S9は、加熱保持工程S7において所定温度Aで加熱保持したプレス成形品1を室温まで冷却する工程である。なお、冷却後のプレス成形品1の温度は室温にこだわらず、前記の加熱する所定温度Aより低い所定温度B(B<A)とするとよい。
冷却工程S9における冷却方式は、自然空冷でも、冷却ファン等により積極的に通風させる強制空冷のいずれでもよいが、強制空冷の方が冷却時間を短縮できるので好ましい。
【0046】
以上、本実施の形態1に係るプレス成形方法によれば、離型した瞬間にスプリングバックしたプレス成形品1を金型に嵌め込んで成形下死点形状に固定し、室温よりも高い所定温度Aに加熱して30分間未満の所定時間保持することで、室温で行うよりも短時間でプレス成形品1における残留応力を緩和させることができる。
さらに、本実施の形態1に係るプレス成形方法によれば、金型に嵌め込んで加熱保持したプレス成形品1を再び金型から離型しスプリングバックした後の時間経過に伴う形状変化を低減することができる。
【0047】
なお、本実施の形態1に係るプレス成形方法は、離型後金型嵌め込み工程S5において、プレス成形品1のプレス成形に用いた金型により、プレス成形品1の全体を成形下死点形状に固定するものであった。
もっとも、本実施の形態1に係るプレス成形方法の他の態様として、離型後金型嵌め込み工程S5及び加熱保持工程S7に代えて、図5に示すように、離型後治具嵌め込み工程S11及び加熱保持工程S13を含むものであってもよい。
【0048】
<離型後治具嵌め込み工程>
離型後治具嵌め込み工程S11は、離型工程S3において離型したプレス成形品1の全部又は一部を、プレス成形工程で用いた金型と同じ形状とする、別の金型を含め予め定めた所定の形状に保持可能な治具に嵌め込み、プレス成形品1の全部又は一部を該所定の形状に合わせて固定する工程である。
【0049】
また、プレス成形工程の金型と同じ形状だけでなく、予め定めた所定の形状として、例えば、プレス成形品1の目標形状(製品として規定した形状)、あるいは、成形下死点からスプリングバックした後の形状などの下死点形状と目標形状との間の中間形状とすればよい。
【0050】
なお、スプリングバックした後の形状は、離型しスプリングバックした後のプレス成形品1の形状を測定又は計算により予測すればよい。この場合、離型したプレス成形品1の全部又は一部を、離型しスプリングバックした後の形状と同じ形状に保持可能な治具に嵌め込み、該プレス成形品1の全部又は一部を前記スプリングバックした後の形状に合わせて固定する。
【0051】
また、治具を用いてプレス成形品1の所定の形状に保持するとは、プレス成形品1の全体を所定の形状に保持する治具を用いてもよいし、プレス成形品1の一部、例えばパンチ肩R部3のみ、を所定の形状に保持する治具を用いてもよい。
【0052】
<加熱保持工程>
加熱保持工程S13は、離型後治具嵌め込み工程S11において治具に嵌め込んだプレス成形品1を、室温よりも高い所定温度Aまで加熱し、該所定温度Aで30分間未満の所定時間保持する工程である。
【0053】
このように、本実施の形態1に係るプレス成形方法の他の態様においても、残留応力の緩和を促進することができるので、スプリングバックした後の時間経過に伴う形状変化を短時間で行い、さらには、その後の形状変化を抑制することができる。
【0054】
なお、本実施の形態1の他の態様の加熱保持工程S13は、プレス成形品1を加熱する所定温度Aを130℃~150℃とし、かつ、所定時間を1分間以上3分間以下とすることが好ましい。
【0055】
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2に係るプレス成形方法は、一例として図9(a)に示すようなプレス成形品1を金型から離型した瞬間にスプリングバックした後におけるプレス成形品1の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮するものであって、図6に示すように、プレス成形工程S21と、離型工程S23と、離型後加熱保持工程S25と、冷却工程S27と、を含むものである。
ここで、プレス成形工程S21及び離型工程S23は、前述した実施の形態1のプレス成形工程S1及び離型工程S3と同様であるため、ここではこれらの説明は割愛し、以下、離型後加熱保持工程S25及び冷却工程S27について説明する。
【0056】
<離型後加熱保持工程>
離型後加熱保持工程S25は、離型工程S23において離型したプレス成形品1を室温よりも高い所定温度Aまで加熱し、該所定温度Aで30分間未満の所定時間保持する工程である。
【0057】
離型後加熱保持工程S25においては、所定温度Aで所定時間保持することで、プレス成形品1を形状変化させることができる。
【0058】
なお、離型後加熱保持工程S25における所定温度Aは130℃~150℃の範囲とし、所定時間は1分間以上3分間以下とするのが好ましい。
【0059】
<冷却工程>
冷却工程S27は、離型後加熱保持工程S25において加熱して所定温度Aで所定時間保持したプレス成形品1を室温まで冷却する工程である。
冷却工程S27における冷却方式は、自然空冷でも、冷却ファン等により積極的に通風させる強制空冷のいずれでもよいが、強制空冷の方が冷却時間を短縮できるので好ましい。
なお、冷却後のプレス成形品の温度は、室温にこだわらず、前記の加熱する所定温度Aより低い所定温度B(B<A)とすればよい。
【0060】
このように、本実施の形態2に係るプレス成形方法によれば、室温よりも高い所定温度Aに加熱して所定時間保持することで、組み立て加工に供する前に、プレス成形品1の時間経過に伴う応力緩和による形状変化を室温で行うよりも短時間で生じさせることができるので、プレス成形品1を次工程の他部品との組み立て加工に供する前の形状変化のための待ち時間等、工程上の時間的な制約を緩和できる。
【0061】
[実施の形態3]
本発明の実施の形態3に係るプレス成形方法は、一例として図9(a)に示すようなプレス成形品1を金型から離型した瞬間にスプリングバックした後におけるプレス成形品1の時間経過に伴う形状変化に要する時間を短縮するものであって、図7に示すように、プレス成形工程S31と、離型前加熱保持工程S33と、冷却工程S35と、離型工程S37と、を含むものである。なお、プレス成形工程S31は、前述した実施の形態1のプレス成形工程S1、と同様であるため、以下、離型前加熱保持工程S33、冷却工程S35及び離型工程S37と、について説明する。
【0062】
<離型前加熱保持工程>
離型前加熱保持工程S33は、プレス成形工程S31において金型を用いてプレス成形品1をプレス成形した後、金型から離型せずに成形下死点位置で室温よりも高い所定温度Aに加熱し、該所定温度Aで30分間未満の所定時間保持する工程である。
【0063】
<冷却工程>
冷却工程S35は、離型前加熱保持工程S33において加熱保持したプレス成形品1を、室温まで冷却する工程である。
冷却工程S35においては、プレス成形品1を成形下死点形状に固定する金型ごと冷却する。なお、冷却後のプレス成形品1の温度は、室温にこだわらず、前記の加熱する所定温度Aより低い所定温度B(B<A)とすればよい。
【0064】
<離型工程>
離型工程S37は、冷却工程S35において冷却したプレス成形品1を金型から離型する工程である。
【0065】
本実施の形態3に係るプレス成形方法によれば、成形下死点までプレス成形したプレス成形品を金型から離型せずに成形下死点形状で固定し、室温よりも高い所定温度Aに加熱して30分間未満の所定時間保持することで、室温で金型内に保持した場合と比べて、金型内で保持する時間を短縮してもプレス成形品の残留応力を緩和することができ、金型から離型しスプリングバックした後の時間経過に伴う形状変化を十分に低減することができる。
【0066】
[実施の形態4]
本発明の実施の形態4に係るプレス成形品の形状評価方法は、一例として図9(a)に示したような、プレス成形した後に他部品と組み立て加工されるプレス成形品1の形状をプレス成形品の組み立て加工に供する前に評価するものであって、図8に示すように、プレス成形工程S41と、離型工程S43と、離型後加熱保持工程S45と、冷却工程S47と、形状測定工程S49と、形状判定工程S51と、を含むものである。
【0067】
ここで、プレス成形工程S41及び離型工程S43は前述した実施の形態1のプレス成形工程S1及び離型工程S3と同様であり、離型後加熱保持工程S45及び冷却工程S47は前述した実施の形態2の離型後加熱保持工程S25及び冷却工程S27と同様であるため、以下、形状測定工程S49と、形状判定工程S51と、について説明する。
【0068】
<形状測定工程>
形状測定工程S49は、冷却工程S47において冷却した後のプレス成形品1の形状を測定する工程である。
【0069】
プレス成形品1を所定温度A及び所定時間で加熱保持して形状変化させてから形状を測定するようにした理由は、室温よりも高い所定温度Aに加熱することで、プレス成形品1における残留応力を室温よりも短時間で緩和させ、応力緩和による形状変化を速やかに生じさせるためである。
【0070】
<形状判定工程>
形状判定工程S51は、形状測定工程S49において測定したプレス成形品1の形状が予め設定した所定の範囲内であれば、プレス成形品1を組み立て加工に供すると判定する工程である。
【0071】
形状判定工程S51における予め設定した所定の範囲内とは、他部品との組み立て加工において不具合が生じない程度の範囲内で適宜設定すればよい。
【0072】
このように、本実施の形態4に係るプレス成形品の形状評価方法によれば、プレス成形したプレス成形品1を離型して室温よりも高い所定温度Aに加熱して所定時間保持し、時間経過に伴う応力緩和による形状変化を室温よりも短時間で十分にさせてから所定温度B(B<A)まで冷却してその形状を測定し、該測定したプレス成形品1の形状が予め設定した所定の範囲内であれば次工程に供すると判定するので、工程上の時間的な制約を緩和でき、さらに、プレス成形した後に組み立て加工されるまでの間にプレス成形品1に形状変化が生じて次工程で不具合が発生することを防ぐことができる。
【0073】
なお、本発明に係るプレス成形方法及びプレス成形品の形状評価方法は、ブランクとして用いる金属板や、プレス成形品の形状及び種類等を特に制限するものではなく、プレス成形品の残留応力が高くなる金属板を用いてプレス成形した自動車部品に対してより有効である。
【0074】
具体的には、ブランクに関しては、引張強度が440~1470MPaであることが好ましい。
引張強度が440MPa未満の金属板は、プレス成形品内部の残留応力が低いため経時変化の影響が相対的に小さくなるため、本発明を用いる利点が少ない。ただし、自動車外板などの部品剛性が低い部品に対しては残留応力の変化による形状変化を受けやすくなるため、引張強度が440MPa未満の金属板であっても本発明を適用することが望ましい。
【0075】
一方、金属板の引張強度の上限は特にないが、1470MPaを超える金属板は延性が乏しいため、例えばプレス成形品1を対象とする場合、プレス成形する過程においてパンチ肩R部3やダイ肩R部5での割れが発生し、プレス成形することができない場合がある。
【0076】
また、プレス成形品の形状に関しても、本発明は、図9に示すようなハット断面形状のプレス成形品1を対象とするものに限定されるものではなく、例えば、Z字断面形状、コ字断面形状又はL字断面形状のプレス成形品等、残留応力が高くなる部位を有する形状のプレス成形品に本発明を好ましく適用することができる。
【0077】
プレス成形品の種類としては、剛性が低いドアやルーフ、フード等の外板部品、高強度の金属板を使うAピラーやBピラー、ルーフレール、サイドレール、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、クロスメンバー等の骨格部品といった自動車部品に、本発明を適用することが好ましい。
【実施例
【0078】
本発明に係るプレス成形方法の作用効果を確認するための実験を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0079】
実験では、まず、以下の表1に示す機械的特性を持つ金属板を用い、図9(a)に示すように、天板部2と縦壁部4とフランジ部6とを有するハット断面形状のプレス成形品1を対象とした。プレス成形品1の成形下死点形状は、天板部2の幅LTを50mm、成形高さHを50mm、縦壁部4の傾斜角度θvを3°、パンチ肩R部3の曲率半径及び曲げ角度を5mm及び95°、ダイ肩R部5の曲率半径R及び曲げ角度を5mm及び95°とした。
【0080】
【表1】
【0081】
そして、発明例として、金型から離型してスプリングバックしたプレス成形品1を金型に戻して成形下死点形状に所定温度Aで所定時間保持した場合と、成形下死点までプレス成形したプレス成形品1をそのまま離型せずに金型内にて所定温度Aで所定時間保持した場合と、のそれぞれについて、離型してスプリングバックした後のプレス成形品1の時間経過に伴う形状変化を測定した。
【0082】
また、従来例として、成形下死点までプレス成形したプレス成形品1を金型内で保持せずに離型した場合、及び、比較例として、離型してスプリングバックしたプレス成形品1を金型に戻して成形下死点形状に室温(25℃)で所定時間保持した場合と、金型から離型せずに金型内にて室温(25℃)で所定時間保持した場合と、のそれぞれについても、離型してスプリングバックした後のプレス成形品1の時間経過に伴う形状変化を測定した。
【0083】
なお、プレス成形品1の時間経過に伴う形状変化として、図9(b)に示すように、プレス成形品1の天板部2の長手方向中央を成形下死点形状と一致させて、天板部2からプレス成形方向に距離Hs=40mmの位置の幅方向の距離(縦壁部4の壁開きの変化量Xk)を測定した。
【0084】
表2に、プレス成形品1のプレス成形直後(離型してスプリングバックした直後)と、金型で所定時間保持した後に離型してからの各経過時間において縦壁部4の壁開きの変化量Xkを測定した結果を示す。ここで、表2に示す変化量Xkは、金型から離型してスプリングバックした直後のプレス成形品1の形状を基準としたものである。
【0085】
【表2】
【0086】
従来例は、成形下死点までプレス成形したプレス成形品1を金型から離型して室温で放置したものである。縦壁部4の変化量Xkは、プレス成形直後(離型してスプリングバックした直後)から2日後では1.7mmであった。
【0087】
比較例1は、最初に離型してスプリングバックしたプレス成形品1を金型に戻して室温で保持してから再び離型し、さらに該プレス成形品1を金型に戻すことを繰り返したものである。縦壁部4の変化量Xkは、最初に離型してから15分後では0.2mm、30分後では0.3mmであり、時間の経過ともに増加し、2日後では0.5mmで一定となった。そして、これらの変化量は、従来例における変化量Xk(=1.7mm)に比べて低減した。
【0088】
発明例1は、最初に離型してスプリングバックしたプレス成形品1を金型に戻し、炉にて6分間で150℃まで加熱した後、150℃で1分間保持し、その後に炉から取り出して強制空冷を8分間行って室温まで冷却してから再び離型し、さらに該プレス成形品1を金型に戻し、加熱、保持、冷却を繰り返したものである。縦壁部4の変化量Xkは、最初に離型してから15分後においては0.3mm、30分後においては0.5mmであり、ほぼ一定となった。
【0089】
このように、壁開きの変化量Xkが0.3mm及び0.5mmとなるまでの最初に離型してからの所要時間は、発明例1においてはそれぞれ15分間及び30分間と短いのに対し、比較例1においてはそれぞれ30分間及び2日間と長かった。このことから、離型してスプリングバックしたプレス成形品1を金型に戻して所定温度Aに加熱して30分間未満の所定時間保持することで、室温で保持する場合に比べて、時間経過に伴う形状変化を短時間で生じさせることが可能であることが示された。
【0090】
また、発明例1では、最初に離型してから2日後の変化量Xkは0.5mmであり、従来例に比べて低減した。
【0091】
表3に、成形下死点までプレス成形したプレス成形品1をそのまま金型内で所定時間保持してから離型した後における壁開きの変化量Xkを測定した結果を示す。ここで、表3に示す変化量Xkは、成形下死点からスプリングバックした後のプレス成形品1の形状を基準としたものである。
【0092】
【表3】
【0093】
比較例2は、プレス成形した後そのまま金型内で室温(25℃)にて保持してから離型したものである。変化量Xkは、金型で15分間保持してから離型した直後においては0.3mm、その後、再び金型に戻してから15分間経過後に再び離型した直後(金型内での保持時間の累計は30分)の変化量はXk=0.6mm、さらに再び金型に戻して2日間経過した後に離型した直後の変化量はXk=1.0mmであり、いずれも従来例における変化量Xk(=1.7mm)に比べて低下した。
【0094】
発明例2は、プレス成形後、6分間かけて150℃まで誘導加熱により加熱し、150℃で1分間保持した後、その後に炉から取り出して強制空冷を8分間行ってから離型したものである。変化量Xkを測定した後、さらに該プレス成形品1を金型に戻し、加熱、保持、冷却を繰り返したものである。
発明例2における変化量Xkは、金型内で15分間加熱、保持、冷却してから離型した直後においては0.6mm、その後再び金型に戻してさらに15分間加熱、保持、冷却(金型内での累計保持時間は30分間)してから離型した直後においては1.0mmとなり、さらに再び金型に戻して、最後は室温で金型内に2日間保持した後に離型した直後の変化量は1.0mmと変わらず一定であった。
【0095】
これより、発明例2においては、プレス成形してから2日間経過した後の変化量Xkは、従来例(1.7mm)に比べて大幅に低減した。さらに、発明例2において変化量Xk=0.6mm及び1.0mmとなるのに要する金型内での累計保持時間は、発明例2の場合それぞれ15分間及び30分間であり、比較例2の30分間及び2日間よりも金型内での累計保持時間を短縮できることが示された。
【符号の説明】
【0096】
1 プレス成形品
2 天板部
3 パンチ肩R部
4 縦壁部
5 ダイ肩R部
6 フランジ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9