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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】共振器、発振器、及び量子計算機
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/12 20230101AFI20241217BHJP
   H10N 60/00 20230101ALI20241217BHJP
   G06F 7/38 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H10N60/12 Z ZAA
H10N60/00 G
G06F7/38 510
G06F7/38 610
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023060624
(22)【出願日】2023-04-04
(62)【分割の表示】P 2021533884の分割
【原出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2023103206
(43)【公開日】2023-07-26
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019133814
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
(72)【発明者】
【氏名】山道 智博
(72)【発明者】
【氏名】橋本 義仁
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-011022(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0385673(US,A1)
【文献】米国特許第10354198(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/12
H10N 60/00
G06F 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の超伝導線路と第一のジョセフソン接合と第二の超伝導線路と第二のジョセフソン接合とが環状に接続されているループ回路と、
キャパシタンスが1pF以下のキャパシタと、
を有し、
前記キャパシタと前記ループ回路とが環状に接続されており
集中定数型の回路である
共振器。
【請求項2】
前記共振器の非線形係数の値が1MHz以上、10MHz以下である、
請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
さらに、線形インダクタを有し、
前記キャパシタ及び前記線形インダクタからなる回路と前記ループ回路とが環状に接続されている
請求項1又は2に記載の共振器。
【請求項4】
発振器であって、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の共振器と、
前記ループ回路に磁場を印加する磁場発生部と
を有し、
前記磁場発生部には、前記発振器を制御するための電流を前記磁場発生部へ供給する制御部が接続されている、
発振器。
【請求項5】
それぞれが請求項1乃至3のいずれか一項に記載の共振器を含む複数の発振器と、
前記複数の発振器を結合する少なくとも一つの結合回路と
を有する量子計算機。
【請求項6】
前記結合回路は、ジョセフソン接合を含む
請求項5に記載の量子計算機。
【請求項7】
前記結合回路は、前記発振器と接続されるキャパシタを含む
請求項5又は6に記載の量子計算機。
【請求項8】
前記発振器は、前記ループ回路に磁場を印加する磁場発生部を含み、
前記磁場発生部には、前記発振器を制御するための電流を前記磁場発生部へ供給する制御部が接続されている、
請求項5乃至7のいずれか一項に記載の量子計算機。
【請求項9】
前記複数の発振器のうち少なくとも一つが、複数の前記結合回路に接続されている
請求項5乃至8のいずれか一項に記載の量子計算機。
【請求項10】
前記複数の発振器は、4つの発振器であり、
前記4つの発振器のうち少なくとも一つが、4つの前記結合回路に接続されている
請求項9に記載の量子計算機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共振器、発振器、及び量子計算機に関し、特に超伝導回路を用いた共振器、発振器、及び量子計算機に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導素子を用いた回路についての研究が行なわれている。例えば、特許文献1は、超伝導素子を用いた高周波発振器について開示している。また、近年、超伝導素子を用いた量子計算機について研究が行なわれている。例えば特許文献2及び非特許文献1は、非線形発振器のネットワークを利用した量子計算機について提案している。これらの量子計算機に用いる非線形発振器には、適度な非線形性と可能な限り低い損失が要求される。ここで非線形発振器の非線形性は、非線形係数で定量づけられるものである。非線形係数とは、後述するように、非線形発振器のハミルトニアンの非線形項の係数により定義される係数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平09―139528号公報
【文献】特開2017―73106号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】S. Puri, et al., “Quantum annealing with all-to-all connected nonlinear oscillators,” Nature Comm., 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献2や非特許文献1には、非線形発振器として分布定数型のジョセフソンパラメトリック発振器を用いた量子計算機の構成が記載されている。分布定数型のジョセフソンパラメトリック発振器は、分布定数型の共振器とジョセフソン接合とから構成される。この分布定数型の共振器は、パラメトリック発振器の発振周波数に対応する電磁波の、回路基板上での波長と同程度の長さを有する。なお、ここで言う回路基板とは、ジョセフソンパラメトリック発振器がその上に形成されている基板のことを指す。一般にこの発振周波数は例えば10GHz程度であるため、この周波数に対応する分布定数型共振器の長さのオーダーはミリ程度である。このため、分布定数型共振器の長さは、非常に長くなる。
【0006】
一方、実用的な量子計算機を実現するためには、例えば数千個程度の非線形発振器を数ミリ角程度のチップに集積する必要がある。しかし、分布定数型のジョセフソンパラメトリック発振器は、共振器の占有面積が大きすぎるため、このような集積化には不向きであるという問題があった。
【0007】
本開示の目的は、回路の占有面積を抑制することができる共振器、発振器、及び量子計算機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態にかかる共振器は、
第一の超伝導線路と第一のジョセフソン接合と第二の超伝導線路と第二のジョセフソン接合とが環状に接続されているループ回路と、
キャパシタと、
を有し、
前記キャパシタと前記ループ回路とが環状に接続されている。
【発明の効果】
【0009】
上述の構成によれば、回路の占有面積を抑制することができる共振器、発振器、及び量子計算機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一の実施形態にかかる集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器の一例を示す模式図である。
図2】第二の実施形態にかかるジョセフソンパラメトリック発振器の構成を示す模式図である。
図3】第二の実施形態にかかる発振器の制御および読み出しを行うための構成を示した模式図である。
図4】第三の実施形態にかかるジョセフソンパラメトリック発振器の構成を示す模式図である。
図5】第三の実施形態にかかる発振器の制御および読み出しを行うための構成を示したものである。
図6】第二の実施形態又は第三の実施形態で示した発振器を用いた量子計算機の構成を示す模式図である。
図7】発振器を集積した量子計算機の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の詳細について説明する。なお、実施形態にかかる共振器は、例えば、シリコン基板上に超伝導体により形成した線路(配線)により実現される。例えば、この線路の材料として、例えばNb(ニオブ)又はAl(アルミニウム)が用いられるが、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)など、極低温に冷却すると超伝導状態となる他の任意の金属が用いられてもよい。また、超伝導状態を実現するため、冷凍機により実現される例えば10mK(ミリケルビン)程度の温度環境において、共振器の回路は利用される。
また、以下の説明において、ジョセフソン接合とは、第1の超伝導体と第2の超伝導体で薄い絶縁膜を挟んだ構造を有する素子をいう。
【0012】
<第一の実施形態>
上述した通り、分布定数型のジョセフソンパラメトリック発振器は、共振器の占有面積が大きすぎるため、集積化には不向きである。この問題を解決して実用的な量子計算機を実現するためには、集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器を実現する必要がある。集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器は、例えば、図1に示すような回路により実現できる。図1は、第一の実施形態にかかる集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器10の一例を示す模式図である。
【0013】
図1に示すように、ジョセフソンパラメトリック発振器10は、共振器100と、磁場発生部200とを有する。共振器100は、ループ回路110とキャパシタ120とを備えている。ループ回路110は、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第一の超伝導線路101と、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第二の超伝導線路102とを備えている。換言すると、共振器100は、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されているループ回路110と、キャパシタ120とを備えている。図1に示すように、第一の超伝導線路101と第一のジョセフソン接合103と第二の超伝導線路102と第二のジョセフソン接合104とが環状に接続されることによりループ回路110が構成されている。換言すると、ループ回路110において、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されることによりループを構成している。すなわち、ループ回路110は、DC-SQUID(superconducting quantum interference device)と言うこともできる。
【0014】
ループ回路110は、キャパシタ120によりシャントされている。すなわち、第一の超伝導線路101における第一の部分105と第二の超伝導線路102における第二の部分106が、キャパシタ120でシャントされている。換言すると、共振器100は、DC-SQUIDの入出力端部がキャパシタ120でシャントされている。つまり、キャパシタ120とループ回路110とを環状に接続することにより、ループ回路110をループの線路上に取り込んだループ回路が構成されているとも言える。なお、以下の説明においてシャントするための回路をシャント回路と称すことがある。ここで、第一の部分105は第一の超伝導線路101の任意の部分である。すなわち、第一の超伝導線路101における第一の部分105の位置は特に制限されない。同様に、第二の部分106は第二の超伝導線路102の任意の部分である。すなわち、第二の超伝導線路102における第二の部分106の位置は特に位置は制限されない。
【0015】
磁場発生部200は、交流磁場を発生させ、ループ回路110に交流磁場を印加する回路である。磁場発生部200は、交流電流が流れる回路であり、当該交流電流により交流磁場を発生させる。より詳細には、磁場発生部200は、直流電流と交流電流が重畳された電流が流れる。後述するように、直流電流の大きさにより、磁束及び発振周波数(共振周波数)の大きさが制御される。磁場発生部200は、図1では1本の配線で表現されているが、2本の配線で構成し、一方の配線には直流電流を流し、他方の配線には交流電流を流すという構成でもよい。
【0016】
磁場発生部200に交流電流を流すことによってループ回路110に共振器100の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)でジョセフソンパラメトリック発振器10は発振する。このような発振はパラメトリック発振と呼ばれる。
このように、図1に示した構成によれば、集中定数型の発振器を構成することができる。集中定数型の発振器であれば、発振周波数に対応する電磁波の波長と同程度の長さの共振器を用いる必要が無いため、回路の占有面積を抑制することができる。
【0017】
以上説明した通り、第一の実施形態によれば、回路の占有面積を抑制することができる共振器及び発振器を実現することができる。ここで、図1に示したジョセフソンパラメトリック発振器10は、上述の特許文献2や非特許文献1に記載の量子計算機に用いることも可能ではある。しかし、後述するように、損失を小さく保ちつつ非線形係数を下げることが容易ではないため、上述の特許文献2や非特許文献1に記載の量子計算機に用いた場合、所望の性能を得られない恐れがある。すなわち、損失を抑えつつ非線形係数を量子計算機に要求される適度な値まで低下させることができれば、より性能が優れた量子計算機を提供しうる。以下、図1に示したジョセフソンパラメトリック発振器10において、損失を小さく保ちつつ非線形係数を下げることが容易ではないことについて具体的に説明する。なお、以下の説明では、ジョセフソンパラメトリック発振器を非線形発振器と称すことがある。
【0018】
図1に示した集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器10のハミルトニアンHは下記の(1)式で表される。
【0019】
【数1】
【0020】
(1)式において、hはプランク定数であり、fJ0は非線形発振器の発振周波数である。aは生成演算子である。aは消滅演算子である。また、Eは下記の(2)式で表される。
【0021】
【数2】
【0022】
(2)式において、eは素電荷、Cはシャントに用いられるキャパシタ120のキャパシタンスである。
【0023】
また、(1)式のfJ0は、以下の(3)式で表される。
【0024】
【数3】
【0025】
(3)式において、Cは第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104のキャパシタンスである。一方、(3)式において、Lはループ回路110の等価インダクタンスであり、以下の(4)式で定義される。
【0026】
【数4】
【0027】
(4)式において、Iは第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104の臨界電流値、Φはループ回路110に印加される磁束、Φは磁束量子(約2.07×10-15 Wb)である。(4)式から分かるように、ループ回路110の等価インダクタンスLは、ループ回路110に印加する磁束Φを変えることによって変化させることができる。磁束Φは、磁場発生部200に流す電流の大きさを変えることによって変えることができる。より具体的には、磁場発生部200に流す交流電流に重畳される直流電流の大きさによって変えることができる。また、(3)式及び(4)式からわかるように、発振周波数は、磁場発生部200に流す電流の大きさにより制御できる。
【0028】
上述したように、非線形発振器の非線形係数は、非線形発振器のハミルトニアンの非線形項の係数により定義される。本開示では、非線形発振器の非線形係数Kを、非線形発振器のハミルトニアンの非線形項の係数の絶対値を12倍したものをプランク定数hで割った値として定義する。(1)式のハミルトニアンにおいては、第2項、すなわち、(a+a)の項が非線形項である。したがって、図1に示した非線形発振器の非線形係数Kは、以下の(5)式のようになる。
【0029】
【数5】
【0030】
(5)式から、図1に示した非線形発振器の非線形係数Kはキャパシタ120のキャパシタンスCの値で決まることが分かる。
【0031】
ところで、特許文献2や非特許文献1に記載の量子計算機を作製する場合、非線形発振器の発振周波数は5GHz以上、40GHz以下が好ましい。これは次のような理由による。5GHzより低い周波数の場合、熱雑音による量子計算機の誤動作確率が無視できないほど増大してしまうという問題がある。40GHzより高い周波数の場合、量子計算機を動作させるために必要な高周波電子機器や高周波電子部品が非常に高価なものになってしまう。このため、5GHz以上、40GHz以下の発振周波数を用いることが好ましい。
【0032】
また、非線形発振器を構成する第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104の臨界電流値Iの値は、10nA以上、0.1mA以下であることが好ましい。これは次のような理由による。10nAより小さい場合、非線形発振器の出力信号が小さすぎるため読み出しが困難になるという問題がある。また、0.1mAより大きい場合、ループ回路110の等価インダクタンスLが小さくなるため、所定の発振周波数fJ0を実現するためにはキャパシタ120のキャパシタンスCを大きくしなければならない。その結果、非線形発振器の損失が無視できないほど増大してしまうという問題がある。臨界電流値が大きくなるとループ回路110の等価インダクタンスLが小さくなることは、(4)式において、Iが大きいほどLが小さくなることからわかる。所定の発振周波数fJ0を実現するために、キャパシタンスCを大きくしなければならない理由は、(3)式において、Lを小さくする場合、Cを大きくしないと所定のfJ0を保てないことからわかる。キャパシタンスCが大きくなると損失が増大する理由は、次の通りである。すなわち、大きなキャパシタンスを集積回路に適した十分小さな面積で作製するには積層構造のキャパシタにする必要があるが、積層構造のキャパシタの場合、損失の小さな誘電層を作製することが現状の技術では困難だからである。ここで誘電層とは、キャパシタの2つの電極の間に形成される誘電体の層のことである。損失を十分低減するためには、キャパシタンスCは1pF以下であることが好ましい。
【0033】
一方、量子計算機においては、非線形係数Kは、1MHz以上、10MHz以下であることが好ましい。これは次のような理由による。非線形係数Kが1MHzより小さい場合、量子計算に要する時間が長くなりすぎてしまい、量子計算機が量子状態を維持している間に量子計算を完了することができなくなるという問題がある。また、非線形係数Kが10MHzより大きい場合、非線形発振器の出力信号が小さくなってしまい、出力信号の読み出しが困難になるという問題がある。
【0034】
ジョセフソン接合の臨界電流値Iを10nA以上、0.1mA以下とすると、ループ回路110の等価インダクタンスLは、(4)式から、1.85pH以上、18.5nH以下となる。なお、算出に当たっては、(4)式において、Φの値を0.3Φとして計算を行った。Φの値を0.3Φとしたのは、Φが小さすぎると非線形発振器の発振が起こりにくくなり、一方、Φが大きすぎると磁場ノイズに敏感になり発振周波数が不安定になるため、0.3Φ程度のΦで発振器を動作させることが好ましいからである。また、ジョセフソン接合のキャパシタンスCは、現在の素子作製技術においては、0.1fF以上1pF以下となる。これらのLとCの値の場合に、図1に示したジョセフソンパラメトリック発振器10の発振周波数fJ0を5GHz以上、40GHz以下とするようなキャパシタンスCは、(3)式を用いて計算できる。さらに、求められたCの場合の非線形係数Kは、(5)式を用いて計算できる。実際に計算すると、図1のジョセフソンパラメトリック発振器10は、非線形係数Kが1MHz以上、10MHz以下の範囲に入らない。あるいは、非線形係数Kが1MHz以上、10MHz以下の範囲に入ったとしてもキャパシタンスCが1pFより大きくなってしまう。
【0035】
以上のように、図1のジョセフソンパラメトリック発振器10は、好ましい臨界電流値のジョセフソン接合を用いて好ましい発振周波数を実現しようとすると、量子計算機に要求される適度な非線形性と低い損失とを両立することが必ずしも容易ではない。したがって、量子計算機に要求される適度な非線形性と可能な限り低い損失を両立できる新たな集中定数型のジョセフソンパラメトリック発振器を実現することが求められている。
【0036】
以下、適度な非線形性と低い損失とを両立しつつ、回路の占有面積を抑制することができる構成について具体的に説明する。なお、以下の説明では、既に説明した構成要素と同じ構成要素については同一の符号を用い、具体的な説明については適宜省略する。また、数式における変数の定義についても、適宜、重複する説明を省略する。
【0037】
以下で説明する第二の実施形態及び第三の実施形態は、ループ回路110がキャパシタ及び線形インダクタでシャントされている点で共通している。ただし、第二の実施形態では、シャントに用いられるキャパシタと線形インダクタが直列に接続されている。これに対し、第三の実施形態では、シャントに用いられるキャパシタと線形インダクタが並列に接続されている。
【0038】
<第二の実施形態>
図2は、第二の実施形態にかかる超伝導非線形発振器(ジョセフソンパラメトリック発振器)の構成を示す模式図である。図2に示すように、発振器20は、共振器300と、磁場発生部200とを有する。共振器300は、ループ回路110とキャパシタ120と線形インダクタ130とを備えている。ループ回路110は、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第一の超伝導線路101と、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第二の超伝導線路102とを備えている。換言すると、共振器300は、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されているループ回路110と、キャパシタ120と、線形インダクタ130とを備えている。
【0039】
共振器300において、ループ回路110は、キャパシタ120及び線形インダクタ130が直列に接続された回路によりシャントされている。すなわち、第一の超伝導線路101における第一の部分105と第二の超伝導線路102における第二の部分106が、直列に接続されたキャパシタ120及び線形インダクタ130でシャントされている。換言すると、共振器300は、DC-SQUIDの入出力端部が直列に接続されたキャパシタ120及び線形インダクタ130でシャントされている。つまり、キャパシタ120及び線形インダクタ130からなる直列回路とループ回路110とを環状に接続することにより、ループ回路110をループの線路上に取り込んだループ回路が構成されているとも言える。なお、図2に示されるように、ループ回路の一端は、接地されていてもよい。
【0040】
磁場発生部200と共振器300は相互インダクタンスを介して磁気的に結合している。言い換えれば、磁場発生部200と共振器300は誘導的に結合している。図2の構成においても、交流磁場の発生によりパラメトリック発振が実現される。すなわち、磁場発生部200に交流電流を流すことによってループ回路110に共振器300の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)で発振器20は発振する。なお、交流磁場の周波数は交流電流の周波数に等しい。また、本実施形態においても、(4)式及び後述する(8)式からわかるように、発振周波数は、磁場発生部200に流す電流の大きさにより制御できる。磁場発生部200は、図2では1本の配線で表現されているが、2本の配線で構成し、一方の配線には直流電流を流し、他方の線には交流電流を流すという構成でもよい。
【0041】
図2に示した発振器20のハミルトニアンH(共振器300のハミルトニアンH)は、以下の(6)式で表される。
【0042】
【数6】
【0043】
(6)式において、Lは線形インダクタ130のインダクタンスである。また、fは発振器20の発振周波数である。(6)式のハミルトニアンHにおいて、第2項、すなわち、(a+a)の項が非線形項である。したがって、本実施形態の発振器20の非線形係数Kは、以下の(7)式のようになる。
【0044】
【数7】
【0045】
(7)式においてL=0とすると、非線形係数Kは(5)式と同じ数式になる。これは、本実施形態の発振器20から線形インダクタ130を取り除くと図1に示した非線形発振器になることに対応する。言い換えれば、本実施形態の発振器20は、図1の非線形発振器に線形インダクタ130を挿入した発振器である。(7)式から分かるように、線形インダクタ130のインダクタンスLを大きくするほど、非線形係数Kを小さくすることができる。従って、本実施形態の発振器20は、シャントに用いられているキャパシタ120のキャパシタンスCを大きくしなくても、非線形係数Kを量子計算機に要求される適度な値まで下げることができる。そのため、非線形発振器の損失を増大させることなく、非線形係数を量子計算機に要求される適度な値まで低下させることができるという効果がある。
【0046】
なお、図2に示した本実施形態の発振器20の発振周波数fは、以下の(8)式で表される。なお、(8)式において、第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104のキャパシタンスCは無視した。図2の回路では、ジョセフソン接合のキャパシタンスの影響は無視できるほど小さいためである。
【0047】
【数8】
【0048】
本実施形態においても、発振器20の発振周波数fは、5GHz以上、40GHz以下が好ましい。また、発振器20を構成する第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104の臨界電流値Iの値は、10nA以上、0.1mA以下であることが好ましい。
【0049】
ジョセフソン接合の臨界電流値Iを10nA以上、0.1mA以下とすると、ループ回路110の等価インダクタンスLは、(4)式から、1.85pH以上、18.5nH以下となる。なお、算出に当たっては、(4)式において、Φの値を0.3Φとして計算を行った。等価インダクタンスが1.85pH以上、18.5nH以下の場合、発振器20の発振周波数fを5GHz以上、40GHz以下とできるようなインダクタンスLとキャパシタンスCの組み合わせは、(8)式に基づき様々な組み合わせが可能である。そのような組み合わせの中から、(7)式の非線形係数Kを1MHz以上、10MHz以下とできるようなLとCの組み合わせを用いることにより、量子計算機に要求される適度な非線形性を有する非線形発振器を実現することができる。
【0050】
例えば、発振周波数fを10GHz、ジョセフソン接合の臨界電流値Iを0.83μA、キャパシタンスCを0.57pF、インダクタンスLを225pHと選択すると、非線形係数Kは4.2MHzと計算される。すなわち、この場合、量子計算機に要求される適度な非線形性を実現できる。
【0051】
このように、線形インダクタ130のインダクタンスの値は、非線形係数Kの値が所定の値になるよう、等価インダクタンスLと、発振周波数fと、ジョセフソン接合の臨界電流値Iと、キャパシタンスCとに基づいて予め設定されている。すなわち、線形インダクタ130のインダクタンスは、浮遊インダクタンスではなく、所定の値となるように設計されている。換言すると、線形インダクタ130は、非浮遊成分として存在しているインダクタである。線形インダクタ130は、例えば、ミアンダ配線として実装されてもよいし、コイルとして実装されてもよいが、実装方法はこれらに限定されない。
【0052】
図3は、本実施形態の発振器20の制御および読み出しを行うための構成を示した模式図である。図3に示した構成は、後述するように、例えば、量子計算機用の量子ビット回路として利用される。
【0053】
図3に示された構成では、図2に示した構成に加え、制御部50と読み出し部51とが追加されている。制御部50は、発振器20の磁場発生部200に接続された回路であり、発振器20の発振周波数を制御するための直流電流と、発振器20を発振させるための交流電流を磁場発生部200に供給する。読み出し部51は、共振器300にキャパシタ52を介して接続された回路であり、発振器20の内部状態、すなわち発振状態を読み出す。なお、図3に示した構成では、読み出し部51は、キャパシタ52を介して、シャント回路(ループ回路110をシャントする、キャパシタ120及び線形インダクタ130からなる直列回路)に接続されている。
【0054】
<第三の実施形態>
次に、第三の実施形態について説明する。第二の実施形態では、シャントに用いられるキャパシタと線形インダクタが直列に接続されていたが、第三の実施形態では、シャントに用いられるキャパシタと線形インダクタが並列に接続されている。
【0055】
図4は、第三の実施形態にかかる超伝導非線形発振器(ジョセフソンパラメトリック発振器)の構成を示す模式図である。図4に示すように、発振器30は、共振器400と、磁場発生部200とを有する。共振器400は、ループ回路110とキャパシタ120と線形インダクタ130とを備えている。ループ回路110は、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第一の超伝導線路101と、第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104とを接続する第二の超伝導線路102とを備えている。換言すると、共振器400は、第一の超伝導線路101と第二の超伝導線路102とが第一のジョセフソン接合103と第二のジョセフソン接合104により接合されているループ回路110と、キャパシタ120と、線形インダクタ130とを備えている。
【0056】
共振器400において、ループ回路110は、キャパシタ120及び線形インダクタ130が並列に接続された回路によりシャントされている。すなわち、第一の超伝導線路101における第一の部分105と第二の超伝導線路102における第二の部分106が、並列に接続されたキャパシタ120及び線形インダクタ130でシャントされている。換言すると、共振器400は、DC-SQUIDの入出力端部が並列に接続されたキャパシタ120及び線形インダクタ130でシャントされている。つまり、キャパシタ120及び線形インダクタ130からなる並列回路とループ回路110とを環状に接続することにより、ループ回路110をループの線路上に取り込んだループ回路が構成されているとも言える。なお、図4に示されるように、ループ回路の一端は、接地されていてもよい。
【0057】
磁場発生部200と共振器400は相互インダクタンスを介して磁気的に結合している。言い換えれば、磁場発生部200と共振器400は誘導的に結合している。図4の構成においても、交流磁場の発生によりパラメトリック発振が実現される。すなわち、磁場発生部200に交流電流を流すことによってループ回路110に共振器400の共振周波数の2倍の交流磁場を印加すると、当該共振周波数(すなわち交流磁場の周波数の0.5倍の発振周波数)で発振器30は発振する。なお、交流磁場の周波数は交流電流の周波数に等しい。また、本実施形態においても、(4)式及び後述する(11)式からわかるように、発振周波数は、磁場発生部200に流す電流の大きさにより制御できる。磁場発生部200は、図4では1本の配線で表現されているが、2本の配線で構成し、一方の配線には直流電流を流し、他方の配線には交流電流を流すという構成でもよい。
【0058】
図4に示した発振器30のハミルトニアンH(共振器400のハミルトニアンH)は、以下の(9)式で表される。
【0059】
【数9】
【0060】
(9)式において、L図4の線形インダクタ130のインダクタンスである。また、fは発振器30の発振周波数である。(9)式のハミルトニアンHにおいて、第2項、すなわち、(a+a)の項が非線形項である。したがって、本実施形態の発振器30の非線形係数Kは、以下の(10)式のようになる。
【0061】
【数10】
【0062】
(10)式においてL=∞とすると、非線形係数Kは(5)式と同じ数式になる。これは、本実施形態の発振器30から線形インダクタ130を取り除くと図1に示した非線形発振器になることに対応する。言い換えれば、本実施形態の発振器30は、図1の非線形発振器に線形インダクタ130を挿入した発振器である。(10)式から分かるように、線形インダクタ130のインダクタンスLを小さくするほど、非線形係数Kを小さくすることができる。従って、本実施形態の発振器30は、シャントに用いられているキャパシタ120のキャパシタンスCを大きくしなくても、非線形係数Kを量子計算機に要求される適度な値まで下げることができる。そのため、非線形発振器の損失を増大させることなく、非線形係数を量子計算機に要求される適度な値まで低下させることができるという効果がある。
【0063】
なお、図4に示した本実施形態の発振器30の発振周波数fは、以下の(11)式で表される。
【0064】
【数11】
【0065】
本実施形態においても、発振器30の発振周波数fは、5GHz以上、40GHz以下が好ましい。また、発振器30を構成する第一のジョセフソン接合103及び第二のジョセフソン接合104の臨界電流値Iの値は、10nA以上、0.1mA以下であることが好ましい。
【0066】
ジョセフソン接合の臨界電流値Iを10nA以上、0.1mA以下とすると、ループ回路110の等価インダクタンスLは、(4)式から、1.85pH以上、18.5nH以下となる。なお、算出に当たっては、(4)式において、Φの値を0.3Φとして計算を行った。等価インダクタンスが1.85pH以上、18.5nH以下の場合、発振器30の発振周波数fを5GHz以上、40GHz以下とできるようなインダクタンスLとキャパシタンスCの組み合わせは、(11)式に基づき様々な組み合わせが可能である。そのような組み合わせの中から、(10)式の非線形係数Kを1MHz以上、10MHz以下とできるようなLとCの組み合わせを用いることにより、量子計算機に要求される適度な非線形性を有する非線形発振器を実現することができる。
【0067】
例えば、発振周波数fを10GHz、ジョセフソン接合の臨界電流値Iを0.83μA、キャパシタンスCを0.57pF、インダクタンスLを30pHと選択すると、非線形係数Kは4.0MHzと計算される。すなわち、この場合、量子計算機に要求される適度な非線形性を実現できる。
【0068】
このように、線形インダクタ130のインダクタンスの値は、非線形係数Kの値が所定の値になるよう、等価インダクタンスLと、発振周波数fと、ジョセフソン接合の臨界電流値Iと、キャパシタンスCとに基づいて予め設定されている。すなわち、線形インダクタ130のインダクタンスは、浮遊インダクタンスではなく、所定の値となるように設計されている。換言すると、線形インダクタ130は、非浮遊成分として存在しているインダクタである。
【0069】
図5は、本実施形態の発振器30の制御および読み出しを行うための構成を示したものである。図5に示した構成は、後述するように、例えば、量子計算機用の量子ビット回路として利用される。
【0070】
図5に示された構成では、図3に示した構成と同様、図4に示した構成に加え、制御部50と読み出し部51とが追加されている。なお、図5に示した構成では、読み出し部51は、キャパシタ52を介して、シャント回路(ループ回路110をシャントする、キャパシタ120及び線形インダクタ130からなる並列回路)に接続されている。
【0071】
<第四の実施形態>
次に、第二の実施形態又は第三の実施形態で示した発振器20、発振器30を量子計算機用の量子ビット回路として用いる実施形態について説明する。なお、ここでいう量子計算機は、イジングモデルにマッピング可能な任意の問題の解を計算する量子アニーリング型の計算機である。上述したように、発振器20、発振器30は、共振周波数の2倍の周波数の交流磁場をループ回路110に与えるとパラメトリック発振する。このとき、発振状態は、互いに位相がπだけ異なる第一の発振状態と第二の発振状態のいずれかの状態をとり得る。この第一の発振状態と第二の発振状態が量子ビットの0、1に対応する。
【0072】
図6は、第二の実施形態又は第三の実施形態で示した発振器を用いた量子計算機の構成を示す模式図である。図6に示した構成は、非特許文献1に記載されている分布定数型の超伝導パラメトリック発振器を用いた量子計算機の構成において、分布定数型の超伝導パラメトリック発振器ではなく上述した発振器20又は発振器30を適用したものである。より詳細には、図6に示した構成は、例えば、非特許文献1の図4に記載されている構成において、分布定数型の超伝導パラメトリック発振器の代わりに上述した発振器20又は発振器30を適用したものである。図6において、発振器40は、発振器20又は発振器30を表す。
【0073】
図6に示した量子計算機60では、4個の発振器40を1個の結合回路41で接続している。より詳細には、発振器40が発振器20である場合、結合回路41は、発振器20のシャント回路(ループ回路110をシャントする、キャパシタ120及び線形インダクタ130からなる直列回路)に接続されている。同様に、発振器40が発振器30である場合、結合回路41は、発振器30のシャント回路(ループ回路110をシャントする、キャパシタ120及び線形インダクタ130からなる並列回路)に接続されている。各発振器40には、図3又は図5で示したように、制御部50及び読み出し部51が接続されている。つまり、発振器40の磁場発生部200には、制御部50が接続されている。また、発振器40の上記シャント回路に、読み出し部51が、キャパシタ52を介して接続されている。結合回路41は、4個の発振器40を結合する回路であり、1個のジョセフソン接合410と4個のキャパシタ411で構成される。より詳細には、結合回路41は、各発振器における、キャパシタ120とループ回路110を有する環状の回路を結合する。結合回路41は、4個の発振器40のうち、2個の発振器40からなる第一組の発振器群と、他の2個の発振器40からなる第二組の発振器群とをジョセフソン接合410を介して結合している。ここで、第一組の発振器群はそれぞれ、超伝導体412_1に、キャパシタ411を介して接続している。また、第二組の発振器群はそれぞれ、超伝導体412_2に、キャパシタ411を介して接続している。ここで、超伝導体412_1は、ジョセフソン接合410の一方の端子に接続される配線であり、超伝導体412_2は、ジョセフソン接合410の他方の端子に接続される配線である。つまり、超伝導体412_1及び超伝導体412_2は、ジョセフソン接合410により接合されているとも言える。
つまり、第一組の発振器群のうちの第一の発振器40はジョセフソン接合410の一方の端子に、第一のキャパシタ411を介して接続している。また、第一組の発振器群のうちの第二の発振器40はジョセフソン接合410の一方の端子に、第二のキャパシタ411を介して接続している。同様に、第二組の発振器群のうちの第三の発振器40はジョセフソン接合410の他方の端子に、第三のキャパシタ411を介して接続している。また、第二組の発振器群のうちの第四の発振器40はジョセフソン接合410の他方の端子に、第四のキャパシタ411を介して接続している。
【0074】
制御部50は、4個の発振器40に対し互いに異なる周波数の交流電流を用いる。磁場発生部200を2本の配線で構成して一方の配線には直流電流を流し他方の配線には交流電流を流す場合、交流電流用の配線は、複数の発振器40において共有される配線であってもよい。すなわち、交流電流用の配線は、複数の発振器40を巡るように設けられてもよい。この場合、共有される交流電流用の配線には、複数の発振器40を制御するために複数の制御部50が接続され、これらの制御部50により異なる周波数の交流電流が重畳される。
なお、図6に示した構成において、制御部50は、各発振器40を制御するために分散的に配置されて設けられてもよいし、複数の制御部50がまとめて1箇所に集約されて設けられてもよい。また、図6に示した構成では読み出し部51が4個用いられているが、1個の読み出し部51が4個の発振器40の読み出しを行ってもよい。この場合、複数の発振器40に対して共通に設けられた読み出し部51は、各発振器40で用いられる周波数の違いにより、各発振器40を区別して読み出しを行なう。
【0075】
なお、図6に示した構成では、発振器40が4個の場合の量子計算機の構成を示しているが、図6に示した構成を単位構造として、複数の単位構造を並べて接続することにより、任意の個数の発振器40を集積した量子計算機を実現することができる。その構成例を図7に示す。図7は、発振器40を集積した量子計算機61の構成を示す模式図である。図7に示した構成では、各結合回路41は、図6に示したように、それぞれ4個の発振器40と接続している。そして、各発振器40が1乃至4個の結合回路41と接続され、発振器40を複数の単位構造で共有して並べられることにより、図6に示した単位構造が並べられた状態としている。量子計算機61において、少なくとも一個の発振器40は、複数の結合回路41に接続されている。特に図7に示した例では、少なくとも1個の発振器40は、4個の結合回路41に接続されている。また、量子計算機61について、次のように説明することもできる。量子計算機61は、複数の発振器40を有し、各発振器40は、1乃至4個の結合回路41に接続されている。各発振器40が接続する結合回路41の個数は、当該発振器40がいくつの単位構造において共有されているかに対応している。このように、図7で示した例では、量子計算機61は、単位構造を複数有し、発振器40が、複数の単位構造で共有されている。図7に示した例では13個の超伝導非線形発振器を集積しているが、任意の個数の発振器40を同様の方法で集積できる。
【0076】
なお、図7では、制御部50と読み出し部51は図面の理解を容易にするために、図示を省略しているが、実際には、制御部50と読み出し部51を用いて発振器40の制御と読み出しが行われる。また、量子計算機の動作原理と制御方法は非特許文献1に記載されており、図6及び図7に示した量子計算機においても、非特許文献1に記載されている動作原理及び制御方法が適用される。
本実施形態によれば、適度な非線形性と低い損失とを両立しつつ、回路の占有面積を抑制した量子計算機を実現することができる。
なお、本開示にかかる超伝導非線形発振器は、量子アニーリング回路だけではなく、ゲート型の量子コンピューティング回路にも適用できる。
また、第四の実施形態では、好ましい実施形態として、第二の実施形態又は第三の実施形態で示した発振器20、発振器30を量子計算機用の量子ビット回路として用いる実施形態について説明したが、第一の実施形態で示した発振器10が用いられてもよい。
【0077】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0078】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0079】
この出願は、2019年7月19日に出願された日本出願特願2019-133814を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0080】
10 発振器
20 発振器
30 発振器
40 発振器
41 結合回路
50 制御部
51 読み出し部
52 キャパシタ
60 量子計算機
61 量子計算機
100 共振器
101 第一の超伝導線路
102 第二の超伝導線路
103 第一のジョセフソン接合
104 第二のジョセフソン接合
105 第一の部分
106 第二の部分
110 ループ回路
120 キャパシタ
130 線形インダクタ
200 磁場発生部
300 共振器
400 共振器
410 ジョセフソン接合
411 キャパシタ
412_1 超伝導体
412_2 超伝導体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7