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特許7605239めっき用熱可塑性樹脂組成物、樹脂成形品及びめっき部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】めっき用熱可塑性樹脂組成物、樹脂成形品及びめっき部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241217BHJP
   C08L 55/00 20060101ALI20241217BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20241217BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20241217BHJP
   C25D 5/56 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L55/00
C08L25/12
C08L69/00
C25D5/56 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023062220
(22)【出願日】2023-04-06
(65)【公開番号】P2024148782
(43)【公開日】2024-10-18
【審査請求日】2024-04-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山下 真司
(72)【発明者】
【氏名】木島 誠
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-256043(JP,A)
【文献】特開2019-006920(JP,A)
【文献】特開2019-026716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分100質量部中に、
ゴム質重合体(a1)30~80質量%に、芳香族ビニル系単量体と、シアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物(a2)20~70質量%(ただし、ゴム質重合体(a1)とビニル系単量体混合物(a2)の合計を100質量%とする。)をグラフト重合したゴム含有グラフト共重合体(A)10~50質量部と、
その他の樹脂50~90質量部とを含むめっき用熱可塑性樹脂組成物であって、
めっき用熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量が、全アセトン可溶分中の20~40質量%であり、
めっき用熱可塑性樹脂組成物中の金属酸化物(D)の含有量が0ppmを超えて4500ppm以下であることを特徴とするめっき用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記その他の樹脂として、AS系樹脂(B)および/又は芳香族ポリカーボネート樹脂(C)を含む請求項1に記載のめっき用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記その他の樹脂として、リサイクルされた樹脂(E)を含む請求項1に記載のめっき用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のめっき用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂成形品の一部または全体に、めっきが施されためっき部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき膜の厚さや形成箇所によらず、めっき膜の外観不良(特にブツ、めっきのムラ)がなく、めっき膜の形成性(本発明においてはこれをめっき性、電着性ないしはカバー性と称す場合がある。)に優れ、高い密着強度のめっき膜を形成し、冷熱サイクル後でも優れためっき外観を保持し得る熱可塑性樹脂組成物及びその樹脂成形品と、この樹脂成形品を用いためっき部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂からなる成形品は、耐衝撃性、機械強度、耐薬品性が優れていることから、事務機器、情報・通信機器、電子・電気機器、家庭電化機器、自動車、建築等の幅広い分野に使用されている。また、ABS樹脂からなる成形品は、めっき処理を施してめっき加工品としたときに、めっき外観に優れ、めっき膜の密着強度が高く、さら冷熱サイクル特性に優れる特徴を有していることから、プラスチックめっき部品としても多種多様な用途に使用されている。
【0003】
プラスチックめっき部品のめっき特性は、成形品を形成する樹脂組成物の特性や成形条件の因子による影響を受け易く、ABS樹脂を含む樹脂組成物を用いた場合でも、めっき外観不良が発生する可能性がある。
めっき膜の密着強度が高く、冷熱サイクルでのめっき膜の膨れ、密着強度の低下を抑制した熱可塑性樹脂組成物として、所定のグラフト共重合体とオリゴマー含有量によってめっき性を改善した熱可塑性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、この熱可塑性樹脂組成物であっても、めっき膜を必要箇所に形成できない;形成できても外観不良を生じる;初期のめっき膜の密着強度は高くても、冷熱サイクル後の密着強度が低下し、最終製品の品質、さらにはその機能まで損なうおそれがある;といった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-158706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、めっき膜の厚さや形成箇所によらず、めっき膜の外観不良(特にブツ、めっきのムラ)がなく、めっき性に優れ、高い密着強度のめっき膜を形成し、冷熱サイクル後でも優れためっき外観を保持し得る熱可塑性樹脂組成物とその樹脂成形品及びめっき部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂組成物中のアセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量を所定範囲とすると共に、金属酸化物の含有量を所定値以下とすることで、上記課題を解決することができることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0007】
[1] 樹脂成分100質量部中に、
ゴム質重合体(a1)30~80質量%に、芳香族ビニル系単量体と、シアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物(a2)20~70質量%(ただし、ゴム質重合体(a1)とビニル系単量体混合物(a2)の合計を100質量%とする。)をグラフト重合したゴム含有グラフト共重合体(A)10~50質量部と、
その他の樹脂50~90質量部とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
該熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量が、全アセトン可溶分中の20~40質量%であり、
該熱可塑性樹脂組成物中の金属酸化物(D)の含有量が4500ppm以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
[2] 前記その他の樹脂として、AS系樹脂(B)および/又は芳香族ポリカーボネート樹脂(C)を含む[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0008】
[3] 前記その他の樹脂として、リサイクルされた樹脂(E)を含む[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0009】
[4] [1]ないし[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。
【0010】
[5] [4]に記載の樹脂成形品の一部または全体に、めっきが施されためっき部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、この熱可塑性樹脂組成物よりなる樹脂成形品に対して、めっき膜の厚さや形成箇所によらず、めっき膜の外観不良(特にブツ、めっきのムラ)がなく、めっき性に優れ、冷熱サイクル後でも、優れた外観及び高い密着強度のめっき膜を形成することが可能となる。
このため、膜厚の薄いめっき膜でも、外観に優れ、密着強度及びその冷熱サイクル耐久性にも優れためっき膜とすることができることから、加飾性を損なわずに、めっき部品の軽量化を実現することができると共に、めっき処理時間の短縮、不良品の発生率の低減を図ることができる。
また、リサイクルされた樹脂の有効活用を図ることも可能であり、環境に配慮した製品設計を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明において、「樹脂成形品」とは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものである。
「めっき部品」とは、樹脂成形品にめっき処理してなるものであり、樹脂成形品の表面の少なくとも一部にめっき膜を有する。
また、本発明において、「めっき性」とは、「めっき膜の形成性」と「形成されためっき膜の特性」に基づく、電着性やカバー性を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0013】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、樹脂成分100質量部中に、ゴム質重合体(a1)30~80質量%に、芳香族ビニル系単量体と、シアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物(a2)20~70質量%(ただし、ゴム質重合体(a1)とビニル系単量体混合物(a2)の合計を100質量%とする。)をグラフト重合したゴム含有グラフト共重合体(A)(以下、「成分(A)」と称す場合がある。)10~50質量部と、その他の樹脂50~90質量部とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、該熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量が、全アセトン可溶分中の20~40質量%であり、該熱可塑性樹脂組成物中の金属酸化物(D)の含有量が4500ppm以下であることを特徴とする。
【0014】
[ゴム含有グラフト共重合体(A)]
ゴム含有グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(a1)の存在下に、ビニル系単量体混合物(a2)をグラフト重合してなるものである。
【0015】
<ゴム質重合体(a1)>
ゴム含有グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体(a1)(以下、「成分(a1)」と称す場合がある。)としては、特に制限はないが、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが例示され、具体的にはポリブタジエン、ポリ(ブタジエン-スチレン)、ポリ(ブタジエン-アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン-アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン-アクリル酸メチル)、ポリアクリル酸ブチル、ポリ(ブタジエン-メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン-アクリル酸エチル)、エチレン-プロピレンラバー、エチレン-プロピレン-ジエンラバー、ポリ(エチレン-イソブチレン)、ポリ(エチレン-アクリル酸メチル)、ポリ(エチレン-アクリル酸エチル)などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、1種又は2種以上の混合物で使用される。なかでもポリブタジエン、ポリ(ブタジエン-スチレン)、ポリ(ブタジエン-アクリロニトリル)、ポリ(ブタジエン-アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン-アクリル酸メチル)が好ましく、さらに、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン-スチレン)が、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、めっき性に優れる点から好ましく用いられる。
【0016】
ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径は、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性、めっき性の観点から、50~500nmであることが好ましく、より好ましくは150~400nm、さらに好ましくは250~340nm、最も好ましくは270~330nmの範囲である。
ここで、ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定された値である。
なお、ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径は、使用する際に測定してもよいし、樹脂組成物の電子顕微鏡写真を用いた画像解析などを用いることによっても確認できる。
【0017】
<ビニル系単量体混合物(a2)>
ビニル系単量体混合物(a2)(以下、「成分(a2)」と称す場合がある。)は、少なくとも芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物である。
【0018】
芳香族ビニル系単量体としてはスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、o-エチルスチレン、o-クロロスチレン、o,p-ジクロロスチレンが挙げられるが、特にスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。芳香族ビニル系単量体は1種のみで用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、エタアクリロニトリル等が挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましい。シアン化ビニル系単量体についても、1種のみで用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
ビニル系単量体混合物(a2)100質量%中の芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体との割合は、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形性、成形品外観の観点から、好ましくは芳香族ビニル系単量体/シアン化ビニル系単量体=60~80質量%/20~40質量%、より好ましくは65~80質量%/20~35質量%、さらに好ましくは67~76質量%/24~33質量%である。
【0021】
ビニル系単量体混合物(a2)は、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体以外に、これらと共重合可能な他のビニル系単量体を0~30質量%の範囲で含んでいてもよい。これらと共重合可能な他のビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル系単量体、N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物、アクリルアミド等の不飽和アミドなどの1種又は2種以上が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも(メタ)アクリル酸メチル、N-フェニルマレイミド、無水マレイン酸が好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸とメタクリル酸の一方又は双方を示す。
【0022】
<ゴム質重合体(a1)とビニル系単量体混合物(a2)の割合>
ゴム含有グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(a1)30~80質量%の存在下に、ビニル系単量体混合物(a2)20~70質量%をグラフト重合してなるものである。ただし、ゴム質重合体(a1)とビニル系単量体混合物(a2)との合計で100質量%である。
ゴム質重合体(a1)が、30質量%未満で、ビニル系単量体混合物(a2)が70質量%を超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性に劣る傾向があり、ゴム質重合体(a1)が80質量%を超え、ビニル系単量体混合物(a2)が20質量%未満では、耐衝撃性、成形性が低下する傾向がある。ゴム質重合体(a1)の割合は、好ましくは35~70質量%、より好ましくは40~65質量%であり、ビニル系単量体混合物(a2)の割合は好ましくは30~65質量%、より好ましくは35~60質量%である。
【0023】
ゴム含有グラフト共重合体(A)は、ビニル系単量体混合物(a2)の全量がグラフトしている必要はなく、通常はグラフトしていない共重合体との混合物として得られたものを使用する。この混合物は本来、組成物であるが、本発明においては、ゴム含有グラフト共重合体(A)に含まれる。なお、このグラフトしていない共重合体は、アセトン可溶分として抽出される成分となる。
【0024】
<グラフト率>
ゴム含有グラフト共重合体(A)のグラフト率に制限はないが、耐衝撃性の点から好ましくは10~150質量%、より好ましくは20~120質量%、さらに好ましくは30~90質量%である。
ゴム含有グラフト共重合体(A)のグラフト率は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0025】
<グラフトしていない共重合体の分子量>
ゴム含有グラフト共重合体(A)中のグラフトしていない共重合体、即ち、ゴム含有グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分については、その組成は単量体成分、即ち、ビニル系単量体混合物(a2)の配合割合の範囲に属する。
グラフトしていない共重合体の質量平均分子量(Mw)は、好ましくは20,000~400,000であり、より好ましくは30,000~200,000、さらに好ましくは40,000~100,000である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは2.0~4.0、より好ましくは2.5~3.5、さらに好ましくは2.7~3.2である。質量平均分子量(Mw)や分子量分布(Mw/Mn)が、上記範囲内にあることで、得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性や耐衝撃性がより優れる傾向がある。
ここで、グラフトしていない共重合体(アセトン可溶分)の質量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)は、GPCによるポリスチレン換算の値として測定することができる。その詳細は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
【0026】
<グラフト重合方法>
ゴム含有グラフト共重合体(A)のグラフト重合の方法としては特に制限はなく、ゴム含有グラフト共重合体(A)は、公知の乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法、連続溶液重合法等の任意の方法により製造することができる。特に、ゴム含有グラフト共重合体(A)のゴム含有量を調整しやすいこと、さらに、グラフトさせる単量体から派生するオリゴマーの生成が極端に少ないこと、また、トルエンやベンゼンなどの有機溶剤を使用しないため、これらが残存しないこと、および、ゴム含有量を調整しやすいというハンドリング性、製品安全性等の面からも乳化重合法が好ましい。
【0027】
なお、乳化重合法で製造する過程において、乳化状態から回収する際に用いる凝固剤は、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸などが挙げられる。このうち、無機酸によって回収したグラフト共重合体であることが好ましい。これによって、めっきの密着強度、熱可塑性樹脂組成物の劣化、変色の影響が小さく、最終部品としての性能維持を特に長くすることができる。
なお、凝固剤は、乳化剤によって選択することになるが、乳化剤として、脂肪酸石鹸やロジン酸石鹸等のカルボン酸石鹸が使用された場合は、どちらの凝固剤を用いても回収することができるので、特に、無機酸、中でも硫酸によって凝固・回収することが好ましい。ただし、硫酸によって凝固した後、水酸化ナトリウム等で中和操作すると、最終部品としての性能が得られにくいので、水洗だけで十分である。
なお、凝固剤の添加量は、ポリマーラテックス100質量部に対して通常1~5質量部であり、好ましい範囲は2~4質量部である。凝固剤は通常溶液として1%~20%に希釈したものを用いる。凝固する際の温度は適宜設定できるが、通常50~95℃の範囲である。
【0028】
ゴム含有グラフト共重合体(A)は、1種のみを用いてもよく、目的に応じて、ゴム質重合体の種類の異なるものや、ゴムの粒子径が異なるもの、グラフト共重合体成分の組成の異なるものなど別々に製造したゴム含有グラフト共重合体を複数種ブレンドして用いてもよい。
【0029】
<ゴム含有グラフト共重合体(A)の含有量>
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、成分(A)とその他の樹脂よりなる樹脂成分の合計100質量部中の成分(A)の含有量は、10~50質量部であり、好ましくは12~45質量部、より好ましくは15~40質量部、さらに好ましくは20~35質量部である。成分(A)の含有量が上記下限以上であれば、耐衝撃性やめっき性が良好となり、上記上限以下であれば、成形性、めっき膜の密着強度が良好となる。
【0030】
<ゴム質重合体(a1)の含有量>
本発明の熱可塑性樹脂組成物100質量%中のゴム質重合体(a1)の含有量は、好ましくは8~40質量%であり、より好ましくは10~30質量%、さらに好ましくは12~20質量%である。ゴム質重合体(a1)の含有量が、上記下限以上であれば、耐衝撃性が良好となり、上記上限以下であれば成形性に優れ、大型成形品などのめっき性も好適となる。
【0031】
[その他の樹脂]
本発明に用いられるその他の樹脂としては、熱可塑性樹脂であればよく、特に制限はないが、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、AS系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン共重合樹脂、メタクリル酸メチル-N-フェニルマレイミド共重合樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル-ポリスチレン複合樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などのオレフィン系樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリフェレン系樹脂、熱可塑性ポリウレタン、ポリ乳酸、植物由来のバイオプラスチックなどの1種または2種以上が挙げられる。これらのうち、特に、耐衝撃性、めっき用材料として後述するAS系樹脂(B)、芳香族ポリカーボネート樹脂(C)が好ましい。
また、その他の樹脂は、これらの熱可塑性樹脂を含む樹脂成形品からリサイクルされた樹脂(E)であってもよい。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、成分(A)とその他の樹脂よりなる樹脂成分の合計100質量部中のその他の樹脂の含有量は、50~90質量部であり、好ましくは55~88質量部、より好ましくは60~85質量部、さらに好ましくは65~80質量部である。その他の樹脂の含有量が上記上限以下であれば、耐衝撃性やめっき性が良好となり、上記下限以上であれば、冷熱サイクル後のめっき膜の密着強度が良好となる。
【0033】
[AS系樹脂(B)]
AS系樹脂(B)(以下、「成分(B)」と称す場合がある。)は、シアン化ビニル系単量体及び芳香族ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物(b1)を共重合してなる共重合体である。
【0034】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、エタアクリロニトリル等が挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましい。シアン化ビニル系単量体は、1種のみで用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
芳香族ビニル系単量体としてはスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、o-エチルスチレン、o-クロロスチレン、o,p-ジクロロスチレンが挙げられるが、特にスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。芳香族ビニル系単量体は1種のみで用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
ビニル系単量体混合物(b1)100質量%中のシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体との割合は、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形性、めっき性の観点から、シアン化ビニル系単量体/芳香族ビニル系単量体=20~40質量%/60~80質量%、好ましくは22~38質量%/62~78質量%、より好ましくは24~35質量%/65~76質量%、さらに好ましくは25~32質量%/68~75質量%、最も好ましくは25~29質量%/71~75質量%である。
【0036】
ビニル系単量体混合物(b1)は、シアン化ビニル系単量体及び芳香族ビニル系単量体以外に、これらと共重合可能な他のビニル系単量体単位を0~30質量%の範囲で含んでいてもよい。これらと共重合可能な他のビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル系単量体、N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物又はアクリルアミド等の不飽和アミドなどの1種又は2種以上が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも(メタ)アクリル酸メチル、N-フェニルマレイミド、無水マレイン酸が好ましい。
【0037】
AS系樹脂(B)の質量平均分子量(Mw)は、好ましくは50,000~300,000であり、より好ましくは65,000~200,000、さらに好ましくは80,000~150,000である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.3~2.8、より好ましくは1.8~2.6、さらに好ましくは1.7~2.4である。
ここで、AS系樹脂(B)の質量平均分子量、分子量分布(Mw/Mn)は、GPCによるポリスチレン換算の値として測定することができる。その詳細は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
【0038】
AS系樹脂(B)は1種のみを用いてもよく、単量体組成や分子量等の異なるものを2種類以上混合して用いてもよい。
【0039】
AS系樹脂(B)の製造方法は、特に制限は無いが、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。製造段階での揮発成分や、オリゴマーの生成が生じると、樹脂成形品を成形する際に、シルバー等の外観不良を起こしやすく、成形金型のガス抜き、金型を清掃することで、不良品が生じないような対応が必要となる。特に、塊状重合法、溶液重合法ではオリゴマーが生成しやすいことから、例えば、特開昭53-19397号公報によって、オリゴマーを低減することが記載されている。これによって、成形品のシルバーや汚れが出にくくなるので、その後の二次加工性のめっき工程などへの影響を低減することも可能であるが、もともとオリゴマー生成が検知されないくらい少ない懸濁重合法、乳化重合法であれば、オリゴマーによる不具合の現象は生じない。なお、配合量が多くなる場合には、乳化重合法では乳化剤の影響により熱安定性の悪化(熱による変色)などが生じるため、懸濁重合法が好ましい。
【0040】
[芳香族ポリカーボネート樹脂(C)]
芳香族ポリカーボネート樹脂(C)(以下、「成分(C)」と称す場合がある。)としては、特に制限は無いが、粘度平均分子量(Mv)が10,000~100,000、特に15,000~30,000のものが好適に使用される。芳香族ポリカーボネート樹脂(C)の粘度平均分子量(Mv)が上記範囲内であると、得られる成形品の耐衝撃性、成形性がより優れたものとなる。
【0041】
ここで、芳香族ポリカーボネート樹脂(C)の粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用いて塩化メチレンを溶媒とした溶液で測定し、下記Schnellの粘度式を用いて算出される。
[η]=1.23×10-4Mv0.83
(式中、ηは極限粘度を示し、Mvは粘度平均分子量を示す。)
【0042】
このような芳香族ポリカーボネート樹脂(C)は、通常、2価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法あるいは溶融法で反応させて製造される。ここで使用する2価フェノールとして、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を対象とするが、その一部又は全部を他の2価フェノールで置き換えてもよい。他の2価フェノールとしては、例えばビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシルフェニル)スルフォン等が例示される。また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル又はハロホルメート等が例示され、具体的には、例えば、ホスゲン、ジフェニルカーボーネート、2価フェノールのジハロホルメート及びこれらの混合物が挙げられる。
【0043】
芳香族ポリカーボネート樹脂(C)の製造に際しては、適当な分子量調整剤、分岐剤、反応を促進するための触媒等も使用できる。
【0044】
本発明では、このようにして製造される芳香族ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよく、例えば粘度平均分子量(Mv)が互いに異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して上記の好適な粘度平均分子量(Mv)に調整して用いることもできる。
【0045】
[金属酸化物(D)]
本発明における金属酸化物(D)としては、特に制限はなく、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化モリブデン、アンチモン化合物(三酸化アンチモン)、さらに、これらの複合酸化物、例えば、チタン/アンチモンの複合酸化物、ニッケル/チタン/アンチモンの複合酸化物等が挙げられる。後掲の実施例においては、酸化チタン、ニッケル/チタン/アンチモンの複合酸化物、酸化マグネシウムについて評価を行っているが、本発明に係る金属酸化物(D)は、金属の酸化物であればよく、これらに限定されない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、これらの金属酸化物(D)の1種のみを含むものであってよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0046】
これらの金属酸化物(D)は、着色剤や、樹脂の安定剤や改質剤に由来して熱可塑性樹脂組成物中に混入するものである。
【0047】
これらの金属酸化物(D)の平均一次粒子径は、小さ過ぎても大き過ぎてもめっき性に影響する可能性があることから、0.01~10μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.05~1μmであり、更により好ましくは0.1~0.5μmである。
なお、金属酸化物(D)の平均一次粒子径は、任意に選んだ50個の粒子について電子顕微鏡での観察を行い、拡大画像解析により各粒子について長径と短径とを測定したときの両者の平均として、算出することができる。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂組成物では、金属酸化物(D)の含有量を4500ppm以下に調整する必要がある。金属酸化物(D)の含有量が4500ppmを超えるとめっき膜の外観、めっき性が損なわれる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の金属酸化物(D)の含有量は、好ましくは4000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下、さらに好ましくは2000ppm以下、特に好ましくは1500ppm以下であり、1000ppm以下、600ppm以下、300ppm以下、200ppm以下の順でより好ましい。
熱可塑性樹脂組成物中の金属酸化物(D)の含有量の下限値には特に制限はなく、0ppm、即ち、金属酸化物(D)非含有であってもよい。特に少ない範囲の中でも、金属酸化物(D)が0ppmを超えて、0.01ppm以上、0.05ppm以上、0.1ppm以上、0.5ppm以上で含有されてもよいが、めっき性の観点からは、金属酸化物(D)の含有量は少ない程好ましいが、金属酸化物(D)の含有量が200ppm以下であれば、めっき性等に大きな差異は認められない。
【0049】
熱可塑性樹脂組成物中の金属酸化物(D)の含有量を上記上限以下とするには、ゴム含有グラフト共重合体(A)やその他の樹脂の製造工程における金属酸化物の混入を防止すること、金属酸化物を含む添加剤や、後述のリサイクルされた樹脂(E)として金属酸化物を含む樹脂を用いる場合、その配合量を調整して熱可塑性樹脂組成物中の金属酸化物(D)の含有量を制御する方法が挙げられる。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の金属酸化物(D)の含有量の測定方法は、後掲の実施例の項に記載される通りであるが、熱可塑性樹脂組成物の調製に用いた各成分の金属酸化物(D)含有量から計算により算出することもできる。
分析による測定方法としては、例えば、蛍光エックス線装置による分析において、予め含有量既知のサンプルから、金属酸化物の種類に応じて、その含有量と強度との検量線を作成しておき、熱可塑性樹脂組成物サンプルを蛍光エックス線装置により測定し、その測定強度から含有量を求めることができる。また、赤外分光分析装置(IR)によっても、金属酸化物の種類や含有量の検量線を作成しておくことで、金属酸化物の含有量を求めることができる。
特に、サンプルの金属酸化物含有量が少ない場合などは、サンプル中のポリマー成分と非ポリマー成分とを溶剤等を使用して分離し、ポリマー成分を可能な限り除去した成分について、蛍光エックス線装置、または赤外分光分析装置を用いて金属酸化物含有量を分析することもできる。
リサイクル材料等についても、これら測定方法を用いて金属酸化物の含有量を分析することができる。
【0051】
[リサイクルされた樹脂(E)]
本発明では、その他の樹脂として、リサイクルされた樹脂(E)(以下、「リサイクル樹脂(E)」又は「成分(E)」と称す場合がある。)、例えば、リサイクルABS樹脂、リサイクルAS樹脂、リサイクル芳香族ポリカーボネート樹脂を配合することができる。
なお、リサイクル樹脂(E)は、ポストコンシューマー品であってもよく、プレコンシューマー品であってもよく、その供給源は制限されるものではない。
【0052】
本発明では、その他の樹脂としてリサイクル樹脂(E)を用いる場合、最終的に、得られるリサイクル樹脂(E)を含んだ熱可塑性樹脂組成物について、金属酸化物(D)の含有量が上記上限以下となり、アセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量が以下の範囲内となるよう、原料の段階で確認しておくことが好ましい。
また、これらの範囲を外れる場合には、再度、ゴム含有グラフト共重合体(A)や、AS系樹脂(B)、芳香族ポリカーボネート樹脂(C)を配合して、制限内に入るように調整することができ、リサイクル樹脂(E)の無駄を発生させることなく、環境にも配慮した生産が可能となる。
【0053】
[アセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量が全アセトン可溶分中の20~40質量%であることを特徴とする。アセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量がこの範囲にあることで、めっき性に優れる熱可塑性樹脂組成物となる。
めっき性の観点から、全アセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量は、好ましくは21~35質量%、より好ましくは22~33質量%、さらに好ましくは24~30質量%である。
アセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量は、後掲の実施例の項に記載の方法のように、直接抽出測定する方法や、使用原料のアセトン可溶分から算出する方法で求めることができる。
【0054】
<アセトン可溶分の分子量>
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のアセトン可溶分の質量平均分子量(Mw)は、好ましくは20,000~400,000であり、より好ましくは30,000~200,000、さらに好ましくは40,000~180,000である。質量平均分子量(Mw)が上記範囲内にあることで、本発明の熱可塑性樹脂組成物の流動性や耐衝撃性がより優れる傾向がある。
ここで、熱可塑性樹脂組成物中のアセトン可溶分の質量平均分子量(Mw)は、GPCによるポリスチレン換算の値として測定することができる。その詳細は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
【0055】
[添加剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、通常の熱可塑性樹脂組成物に配合される添加剤が含まれていてもよい。
添加剤としては、例えば顔料、染料等の着色剤、充填剤(カーボンブラック、シリカ等)、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、安定剤、補強剤、加工助剤、耐熱剤、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
ただし、このような添加剤を配合した後の熱可塑性樹脂組成物において、金属酸化物(D)の含有量が上記上限以下となるように、金属酸化物を含まない或いは金属酸化物含有量の少ない添加剤を用いることが好ましい。
【0056】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)及びその他の樹脂としてのAS系樹脂(B)、芳香族ポリカーボネート樹脂(C)、リサイクルされた樹脂(E)等の熱可塑性樹脂と、必要に応じて用いられる各種添加剤とをV型ブレンダやヘンシェルミキサー等により混合分散させ、これにより得られた混合物を押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダ、ロール等の混練機等を用いて溶融混練した後ペレタイザー等で切断しペレット化する方法等により製造することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形して本発明の樹脂成形品とされる。
【0057】
[熱可塑性樹脂組成物の用途]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形性や物性にも優れており、さらに二次加工にも適した熱可塑性樹脂組成物である。二次加工としては、めっき、塗装、シルク印刷などがあり、特に、めっき用途に優れた効果を発現する。
【0058】
〔樹脂成形品〕
本発明の樹脂成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、衝撃強度や成形性に優れ、めっき膜の外観やめっき性に優れる。
また、ゴム含有グラフト共重合体(A)と共に併用するその他の樹脂の種類やその配合量等を調整することで、剛性等の機械特性、耐熱性に優れたものとすることもできる。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形機法、押出法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、カレンダー成形法およびインフレーション成形法、ガスインジェクション成形法等が挙げられる。これらのなかでも、量産性に優れ、高い寸法精度の成形品を得ることができるため、射出成形法が好ましい。
【0060】
〔めっき部品〕
本発明のめっき部品は、上述した本発明の樹脂成形品の一部または全部にめっきを施したものであり、本発明の樹脂成形品と該樹脂成形品の表面の少なくとも一部に形成されためっき膜とを有する。
【0061】
本発明のめっき部品は、本発明の樹脂成形品にめっき処理を施すことにより得られる。めっき処理方法は、何等限定されるものではない。めっき処理方法としては、例えば、無電解めっき工法、ダイレクトめっき工法、ノンクロムめっき工法等が挙げられる。
【0062】
本発明のめっき部品は、めっきの導体化工程において、十分な効果を発現し、外観に優れ、さらに、導電皮膜の形成性に優れ、めっき膜が薄くても効果を発現する優れた部品を提供することができるものである。
これによって、軽量化などにも貢献でき、また、めっきの処理時間の短縮、不良品の発生率の低減、リサイクル資源の有効活用などの環境への配慮した効果がある。
さらに、付加的効果として、本発明のめっき部品は、本発明の樹脂成形品を用いているため、めっき膜との密着強度が優れ、冷熱サイクル性にも優れ、冷熱サイクル後のめっき膜の密着性を保持し、めっき外観にも優れる。
【0063】
〔用途・利用の可能性〕
本発明のめっき部品の具体的な用途は多岐にわたり、例えば自動車、電気・電子・機械部品、情報・通信機器、水洗部品等の工業用品、スポーツ・レジャー・ゲーム・装飾品用品、事務用品、日用品等幅広い用途に好適である。
具体的には、自動車用途としては、ラジエターグリル、ドアハンドル、エンブレム、ランプハウジング、各種モール及びガーニッシュ、ホイールキャップなどが挙げられる。
電気(器)用途としては、各種スイッチ用ボタン、アームハンドル、冷蔵庫用ドアハンドル、携帯電話部品、各種ハウジングなどが挙げられる。
水洗部品用途としては各種水洗ハンドルシャワーヘッド、吐水口などが挙げられる。
スポーツ・レジャー・ゲーム・装飾品用品や日用品用途としては、パチンコ台、パチスロ台、時計枠、装飾ボタン、化粧品用キャップなどが挙げられる。
これらの中でも、本発明のめっき部品は、自動車の外装・内装品や水洗部品等に好ましく用いられる。
【実施例
【0064】
本発明をさらに具体的に説明するため、以下に実施例及び比較例を挙げて説明するが、以下の実施例は本発明を制限するものではない。なお、ここで特にことわりのない限り「%」は質量%を、「部」は質量部を表す。
また、略号として、アクリロニトリルを「AN」、スチレンを「ST」、ブタジエンを「BD」として表記している箇所もある。
【0065】
以下において、ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径については、下記(1)により測定した。また、ゴム含有グラフト共重合体(A)のグラフト率については下記(2)により測定した。
熱可塑性樹脂組成物中のアセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量については、下記(3)により測定した。また、ゴム含有グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分(グラフトしていない共重合体)、AS系樹脂(B)のアセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量についても(3)により測定した。
ゴム含有グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分(グラフトしていない共重合体)、AS系樹脂(B)、及びリサイクルされた樹脂(E)の質量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)については下記(4)により測定した。
芳香族ポリカーボネート樹脂(C)の粘度平均分子量(Mv)の測定方法は、前述の通りである。
また、金属酸化物(D)の含有量については、下記(5)により分析した。
【0066】
(1)体積平均粒子径
ゴム質重合体(a1)のラテックス中の体積平均粒子径を、HONEYWELL社製「マイクロトラックUPA150」(商品名)を用い、室温で測定した。単位はnmである。なお、ゴム質重合体(a1)のラテックス粒子径と、これを用いた樹脂組成物中のゴム質重合体(a1)のゴム粒径との間には、実質的な差異は無いことが知られており、前者は後者に符合する。
【0067】
(2)グラフト率
ゴム含有グラフト共重合体(A)のグラフト率は、下記式により算出される。
グラフト率(質量%)={[(n)-(m)×L]/[(m)×L]}×100
上記式中、nはゴム含有グラフト共重合体(A)を約1g〔秤量:m(g)〕をアセトン20mLに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、アセトン不溶分とアセトン可溶分とを分離して得られるアセトン不溶分の質量n(g)である。Lはゴム含有グラフト共重合体(A)に含まれるゴム質重合体(a1)の質量(g)である。このゴム質重合体(a1)の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトルにより求める方法等により求めることができる。
【0068】
(3)アセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量
実施例1~9及び比較例1~6については、得られた各々の熱可塑性樹脂組成物2gをアセトン40mLに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数:23,000rpm)で60分間延伸分離し、アセトン可溶分とアセトン不溶分とを分離した。得られたアセトン可溶分をメタノール中に滴下して、ポリマー成分を析出させ、その後、ろ過して取り出した固形分を真空乾燥機24時間乾燥したものを窒素元素分析:JM10 MICRO CORDER(株式会社J-SCIENCE-LAB製)を用いて窒素元素(N)を測定した。サンプル中に存在する窒素元素(N)の含有量から、シアン化ビニル系単量体単位の含有量を求め、これを熱可塑性樹脂組成物中のアセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量とした。
なお、成分(A)のグラフトしていない共重合体の測定用サンプルは、上記グラフト率のアセトン可溶分をメタノール中に滴下して、ポリマー成分を析出させ、その後、ろ過して取り出した固形分を真空乾燥機24時間乾燥したものを用いて窒素元素(N)を測定し、シアン化ビニル系単量体単位の含有量を求めた。
成分(B)では、製造した成分(B)をアセトンに溶解させた後、メタノール中にポリマー成分を析出させ、真空乾燥機で24時間乾燥させたものを用いて窒素元素(N)を測定し、シアン化ビニル系単量体単位の含有量を求めた。
実施例10~12、比較例7~9のように、芳香族ポリカーボネート樹脂を含む場合、樹脂組成物をジクロロメタンに溶解し、その後、メタノールを用いてポリマー成分を抽出し、そのポリマー成分をモノエタノールアミンで還流して、芳香族ポリカーボネート樹脂を分解する。その後、1/10N塩酸で洗浄し、再度、メタノールを用いて洗浄を繰り返して該分解物を除去する。残ったメタノール不溶分を取り出して乾燥し、その後、前述の実施例1などで行った操作と同様にて、アセトン可溶分と不溶分を分離して、アセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量を測定する方法もあるが、本例では、使用原料のアセトン可溶分について、各成分の配合割合に乗じてアセトン可溶分中のシアン化ビニル系単量体量などを算出した。
【0069】
(4)質量平均分子量(Mw)と分子量分布(Mw/Mn)
質量平均分子量(Mw)及び、分子量分布(Mw/Mn)は、GPC(GPC:Waters社製「GPC/V2000」、カラム:昭和電工株式会社製、「Shodex AT-G+AT-806MS」)を用い、o-ジクロロベンゼン(145℃)を溶媒として、ポリスチレン換算で測定して求めた。
グラフトしていない共重合体の測定用サンプルは、上記グラフト率のアセトン可溶分をメタノール中に滴下して、ポリマー成分を析出させ、その後、ろ過して取り出した固形分を真空乾燥機24時間乾燥したものをGPC測定に使用した。
その他、成分(B)や成分(E)のGPC測定では、成分(B)、成分(E)について、アセトンに溶解させた後、メタノール中にポリマー成分を析出させ、真空乾燥機で24時間乾燥させたものをそれぞれGPC測定に使用した。
【0070】
(5) 金属酸化物の含有量
SHIMADZU社製 蛍光X線エネルギー分散型(EDX-7000)を用いて、あらかじめ、金属酸化物の種類に応じて、その含有量の検量線を作成しておき、金属酸化物の含有量を測定した。
なお、リサイクル品(E-1)、(E-2)については、アセトン不溶分を抽出して、乾燥後に同装置を用いて、金属酸化物の含有量を測定した。
【0071】
[ゴム含有グラフト共重合体(A)]
<合成例1:ゴム含有グラフト共重合体(A-1)の製造>
窒素置換した反応器に、純水125部、ブドウ糖0.5部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄0.005部、ゴム質重合体(a1-1)とし、体積平均粒子径340nmのポリブタジエン(BR)ラテックス60部(固形分換算)を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始とし、成分(a2-1)として、スチレン(ST)30部、アクリロニトリル(AN)10部を用い、これと連鎖移動剤t-ドデシルメルカプタン混合物0.25部を5時間掛けて連続添加した。同時に並行して、重合開始剤であるクメンハイドロパーオキサイド(0.2部)及び不均化ロジン酸ナトリウム塩(0.4部)からなる水溶液を7時間かけて連続添加し、反応を完結させた。得られたラテックスに、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)をラテックス固形分100部に対して1部添加し、続いて、このラテックス(ポリマー成分100部)に対して、凝固剤2部の比率となるように5%硫酸を使用して凝固後、洗浄濾過後、乾燥させてパウダー状のゴム含有グラフト共重合体(A-1)を得た。
このゴム含有グラフト共重合体(A-1)は、ゴム(成分(a1-1))含有量は59.8%、グラフト率は45%であった。また、アセトン可溶分については、そのシアン化ビニル単量体成分は24.8%、質量平均分子量(Mw)は48,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.1であった。
【0072】
<合成例2:ゴム含有グラフト共重合体(A-2)の製造>
窒素置換した反応器に、純水125部、ブドウ糖0.5部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄0.005部、ゴム質重合体(a1-2)として、体積平均粒子径310nmのポリ(ブタジエン-スチレン)(SBR)ラテックス50部(固形分換算)を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、成分(a2-2)として、スチレン(ST)35.5部、アクリロニトリル(AN)14.5部を用い、これと連鎖移動剤t-ドデシルメルカプタン混合物0.20部を5時間掛けて連続添加した。同時に並行して、重合開始剤であるクメンハイドロパーオキサイド(0.2部)及び不均化ロジン酸ナトリウム塩(0.7部)からなる水溶液を7時間かけて連続添加し、反応を完結させた。得られたラテックスに、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)をラテックス固形分100部に対して1部添加し、合成例1と同様にして、パウダー状のゴム含有グラフト共重合体(A2)を得た。
このゴム含有グラフト共重合体(A-2)は、ゴム(成分(a1-2))含有量は49.8%、グラフト率は46%であった。また、アセトン可溶分については、そのシアン化ビニル単量体成分は28.7%、質量平均分子量(Mw)は68,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.8であった。
【0073】
<合成例3:ゴム含有グラフト共重合体(A-3)の製造>
窒素置換した反応器に、純水125部、ブドウ糖0.5部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄0.005部、ゴム質重合体(a1-3)として、体積平均粒子径290nmのポリブタジエン(BD)ラテックス50部(固形分換算)を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、成分(a2-3)として、スチレン(ST)37.5部、アクリロニトリル(AN)12.5部を用い、これと連鎖移動剤t-ドデシルメルカプタン混合物0.25部を5時間掛けて連続添加した。同時に並行して、重合開始剤であるクメンハイドロパーオキサイド(0.2部)及び不均化ロジン酸ナトリウム塩(0.7部)からなる水溶液を7時間かけて連続添加し、反応を完結させた。得られたラテックスに、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)をラテックス固形分100部に対して1部添加し、続いて、このラテックス(ポリマー成分100部)に対して、凝固剤2部の比率となるように5%塩化カルシウムで塩析させせた後、洗浄濾過後、乾燥させてパウダー状のゴム含有グラフト共重合体(A-3)を得た。
このゴム含有グラフト共重合体(A-3)は、ゴム(成分(a1-3))含有量は49.9%、グラフト率は80%であった。また、アセトン可溶分については、そのシアン化ビニル単量体成分は26.9%、質量平均分子量(Mw)は67,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.1であった。
【0074】
[AS系樹脂(B)]
<合成例4:AS系樹脂(B-1)の製造>
窒素置換した反応器に水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾイソブチルニトリル0.3部、t-ドデシルメルカプタン0.62部と、アクリロニトリル23部、スチレン77部からなる単量体混合物を使用し、スチレンの一部を逐次添加しながら開始温度60℃から5時間昇温加熱後、120℃に到達させた。更に、120℃で4時間反応した後、重合物を取り出し、アクリロニトリル/スチレン=23/77のAS系樹脂(B-1)を得た。
得られたAS系樹脂(B-1)のアセトン可溶分のシアン化ビニル単量体成分は23.1%、質量平均分子量(Mw)は154,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。
【0075】
<合成例5:AS系樹脂(B-2)の製造>
t-ドデシルメルカプタン0.55部とし、アクリロニトリル28部、スチレン72部からなる単量体混合物を使用した以外は合成例4と同様にして、アクリロニトリル/スチレン=27/73のAS系樹脂(B-2)を得た。
得られたAS系樹脂(B-2)のアセトン可溶分のシアン化ビニル単量体成分は28.2%、質量平均分子量(Mw)は116,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.0であった。
【0076】
<合成例6:AS系樹脂(B-3)の製造>
t-ドデシルメルカプタン0.65部とし、アクリロニトリル35部、スチレン65部からなる単量体混合物を使用した以外は合成例4と同様にして、アクリロニトリル/スチレン=35/65のAS系樹脂(B-3)を得た。
得られたAS系樹脂(B-3)のアセトン可溶分のシアン化ビニル単量体成分は34.8%、質量平均分子量(Mw)は91,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。
【0077】
[芳香族ポリカーボネート樹脂(C)]
芳香族ポリカーボネート樹脂(C)としては以下の市販品を用いた。
芳香族ポリカーボネート樹脂(C-1):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「S3000」(粘度平均分子量(Mv):22,000)
【0078】
[金属酸化物(D)]
金属酸化物(D)としては以下の市販品を用いた。
酸化マグネシウム(D-1):協和化学工業(株)製「キョーワマグ 150」
(平均一次粒子径:4.16μm)
Ti/Sb/Ni複合酸化物(D-2):TOMATEC(株)製「42-401A」
((Ti,Sb,Ni)O、平均一次粒子径:1μm)
酸化チタン(D-3):テイカ(株)製「TITANIX JR-405」
(二酸化チタン、平均一次粒子径:0.3μm)
【0079】
[リサイクルされた樹脂(E)]
<ABS樹脂のリサイクル品(E-1)>
市場から回収されてきたリサイクルABS樹脂(白色)について、分析したところ、金属酸化物含有量(酸化チタン)は30,000ppmであり、樹脂の組成については、ゴム含有量は13.1%、グラフト率は76%であった。また、アセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分は25.3%、質量平均分子量(Mw)は132,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.4であった。
これを、ABS樹脂のリサイクル品(E-1)として用いた。
【0080】
<ABS樹脂のリサイクル品(E-2)>
市場から回収されてきたリサイクルABS樹脂(黒色)について、分析したところ、金属酸化物含有量(チタン/アンチモン/ニッケル複合酸化物)は5,000ppmであり、樹脂の組成については、ゴム含有量は14.9%、グラフト率は68%であった。また、アセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分は23.4%、質量平均分子量(Mw)は158,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.6であった。
これを、ABS樹脂のリサイクル品(E-2)として用いた。
【0081】
<芳香族ポリカーボネート樹脂のリサイクル品(E-3)>
不要品の光学ディスクから芳香族ポリカーボネート樹脂を回収したものを使用した。
回収方法は以下の通りである。
回収した光学ディスク40枚をCD剥離液(日本マルセル社製)に入れ、棒でゆっくりと撹拌しながら15分間浸漬して金属部分を溶解除去した。その後、円盤型の芳香族ポリカーボネート樹脂を水洗、乾燥した。これらを合計200枚繰り返して実施した。
得られた円盤型の芳香族ポリカーボネート樹脂を破砕機にかけて約4mm×4mm程度の大きさにした。なお、このリサイクルした芳香族ポリカーボネート樹脂(E-3)の粘度平均分子量(Mv)は15000であった。
【0082】
[実施例1~12、比較例1~9]
表1、表2に示す成分(A)、(B)、(D)、(E)に該当するものについて、それぞれ表中の配合割合(部)で混合し、さらに、ADEKA社製アデカスタブ「A-60(商品名)」(テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン)を0.2部、花王株式会社製「カオーワックスEB-G(商品名)」(エチレン・ビスステアリン酸アマイド)を0.1部配合して混合し、スクリュー直径30mmの真空ベント付き2軸押出機(池貝社製「PCM30」)で、シリンダー温度200~260℃、93.325kPa真空にて溶融混練を行い、ストランドとして引き取りながら、ペレタイザー(創研社製「SH型ペレタイザー」)を用いてペレット化して各々熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物中のアセトン可溶分の質量平均分子量(Mw)を前述の方法で測定し、結果を「アセトン可溶分の質量平均分子量(Mw)」として表1に示した。
また、熱可塑性樹脂組成物中のアセトン可溶分のシアン化ビニル単量体成分の含有量を前述の方法で測定し、結果を「アセトン可溶分中のシアン化ビニル単量体成分の含有量」として表1に示した。
得られた熱可塑性樹脂組成物ペレットを用いて以下の試験を行い、結果を表1、表2に示した。
【0083】
[流動性の評価:メルトボリュームレート(MVR)の測定]
各熱可塑性樹脂組成物のペレットについて、ISO 1133規格に従い、温度220℃、荷重98N(10kg)の条件で、熱可塑性樹脂組成物のMVR(cm/10分)を測定した。MVRは熱可塑性樹脂組成物の流動性の指標となり、MVRが高いほど、流動性に優れる。
【0084】
[評価試験片の作成及び試験方法]
<試験片(イ)の作製>
射出成形機(芝浦機械株式会社製、商品名「IS55FP-1.5A」)を用い、シリンダー温度220~250℃、金型温度60℃の条件で、各熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形し、縦80mm、横10mm、厚さ4mmの試験片(イ)を得た。試験片(イ)をシャルピー衝撃強度の測定用として用いた。
【0085】
<耐衝撃性の評価:シャルピー衝撃強度の測定>
試験片(イ)について、ISO 179規格に従い、23℃の条件でシャルピー衝撃試験(ノッチ付)を行い、シャルピー衝撃強度を測定した。数値が高いほど耐衝撃性に優れる。
【0086】
<試験片(ロ)の作製>
各熱可塑性樹脂組成物のペレットについて、75トン射出成形機((株)日本製鋼所製「JSW-75EIIP)と、めっき密着強度評価用金型(縦90mm×横50mm×厚さ3mm)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度60℃、射出速度20mm/secの条件で射出成形して試験片(ロ)を得た。
【0087】
<めっき処理工程1>
試験片(ロ)について、反ゲート側(下側)1cm部分をマスキングし、その後、このめっき用平板を50℃のCRPクリーナー(奥野製薬工業社製)に5分間浸して脱脂した。脱脂後の平板を20℃の水で水洗した後、68℃のエッチング液(クロム酸;400g/L、硫酸;200cc/L)に10分間浸し、エッチングを行った。エッチング後の平板を20℃の水で水洗した後、25℃のCRPレデューサー(奥野製薬工業社製)に1分間浸し、中和を行った。中和後の平板を20℃の水で水洗した後、25℃の塩酸に1分間プリディップし、次いで、40℃のCRPキャタリスト(奥野製薬工業社製)に5分間浸し、Pd-Snコロイド触媒処理を行った。触媒化後の平板を20℃の水で水洗した後、45℃のCRPセレクターA,B(奥野製薬工業社製)に7分間浸して導体化処理を行い、導体化処理後の平板を20℃の水で水洗した。次いで、20℃で40分間、電気銅めっきを施して、膜厚30μmの電気銅めっきを平板に析出させた。電気銅めっき後の平板を20℃の水で水洗した後、電気銅めっきされた平板を80℃で2時間、乾燥させてめっき処理サンプル1を得た。
【0088】
<めっき性評価1>
[外観:目視]
めっき処理サンプル1について、表面に凹凸などのブツ不良がないか、ムラが発生していないかを目視で調べ、下記基準で判定した。
◎:全く問題無し(良品)
○:小さなブツ、ムラ等がある(その後のめっきを考慮して使用可能)
△:中程度のブツ、ムラ等がある(不良品となる可能性が高い)
×:広くブツやムラ等があり対処不可(不良品:使用不可)
【0089】
[電着性:カバー性]
めっき処理サンプル1の表面に、銅めっきの導電皮膜が密着性よく形成されているか、電着しているかを目視で調べ、下記基準で判定した。
◎:全く問題無し(良品)
〇:接点部位などに影響の小さい部位の未電着(使用可能)
△:10%未電着(未カバー、使用不可)
×:10%以上の未電着(未カバー、使用不可)
【0090】
[密着強度]
めっき処理サンプル1について、マスキングした箇所から、めっき膜に1cm幅の切込みを入れ、めっき加工されていない箇所からめっき膜を荷重測定器上で垂直方向に引き剥がしてその強度を測定し、下記基準でめっき密着強度を判定した。
◎:めっき密着強度が12N/cm以上で非常に優れている
○:めっき密着強度が9N/cm以上12N/cm未満で実用上問題ない
△:めっき密着強度が9N/cm以下で用途に応じて使用可能なレベル
【0091】
<めっき処理工程2>
試験片(ロ)について、反ゲート側(下側)1cm部分をマスキングし、その後、このめっき用平板を50℃のCRPクリーナー(奥野製薬工業社製)に5分間浸して、脱脂した。脱脂後の平板を20℃の水で水洗した後、68℃のエッチング液(クロム酸;400g/L、硫酸;200cc/L)に10分間浸し、エッチングを行った。エッチング後の平板を20℃の水で水洗した後、25℃のCRPレデューサー(奥野製薬工業社製)に1分間浸し、中和を行った。中和後の平板を20℃の水で水洗した後、25℃の塩酸に1分間プリディップし、次いで、40℃のCRPキャタリスト(奥野製薬工業社製)に5分間浸し、Pd-Snコロイド触媒処理を行った。触媒化後の平板を20℃の水で水洗した後、45℃のCRPセレクターA,B(奥野製薬工業社製)に7分間浸して導体化処理を行い、導体化処理後の平板を20℃の水で水洗した。次いで、20℃で15分間、電気銅めっきを施して、膜厚10μmの電気銅めっきを平板に析出させた。
電気銅めっき後の平板を20℃の水で水洗した後、55℃で8分間、電気ニッケルめっきを施して、膜厚5μmの電気ニッケルめっきをさらに析出させた。電気ニッケルめっき後の平板を20℃の水で水洗した後、45℃で2分間、電気クロムめっきを施して、膜厚0.3μmの電気クロムめっきをさらに析出させた。その後、この試験片を80℃で2時間、乾燥させた。併せて、マスキングを取り除き、めっき加工されない部分も同時に作成してめっき処理サンプル2を得た。
【0092】
<めっき性評価2>
[外観:目視]
めっき処理サンプル1について、表面に凹凸などのブツ不良がないか、ムラが発生していないかを目視で調べ、下記基準で判定した。
◎:全く問題無し(良品)
○:小さなブツ、ムラ等がある(その後のめっきを考慮して使用可能)
△:中程度のブツ、ムラ等がある(不良品となる可能性が高い)
×:広くブツやムラ等があり対処不可(不良品:使用不可)
【0093】
[冷熱サイクル後の外観]
めっき処理サンプル2に対して、-40℃×1時間の冷却および80℃×1時間の加熱を1サイクルとして8サイクルを行った。その後、サンプル2のめっき膜の状態を目視観察し、下記の基準で冷熱サイクル後の外観を判定した。
◎:変色など無し(良品)
○:ごくわずかな変色、膨れ等(を考慮して使用可能)
△:わずかな膨れ等(用途によって使用可能)
×:広くブツやムラ等があり対処不可(不良品、使用不可)
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
[考察]
実施例1~12の熱可塑性樹脂組成物は、めっき性の評価において、優れた効果を発現している。これに対して、比較例1~9は金属酸化物含有量が本発明の範囲を超えているので、ブツまたはムラによる外観不良の問題があり、めっきのための導電性も得られず、密着強度も得られていない。