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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及び液体吐出システム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241217BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/18
B41J2/14 305
B41J2/14 605
B41J2/14 501
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023066219
(22)【出願日】2023-04-14
(62)【分割の表示】P 2019069640の分割
【原出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2023089172
(43)【公開日】2023-06-27
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 啓太
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-158552(JP,A)
【文献】特開平07-148921(JP,A)
【文献】特開2012-158170(JP,A)
【文献】特開2015-193163(JP,A)
【文献】特開2009-179049(JP,A)
【文献】特開2020-168749(JP,A)
【文献】特開2018-154121(JP,A)
【文献】特開2011-051155(JP,A)
【文献】特開2018-153920(JP,A)
【文献】特開2018-167476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出ヘッドであって、
ノズルが開口する下面を有し、前記ノズルと連通する圧力室が形成された第1基板と、
前記第1基板の上面に、前記圧力室と対向するように配置された圧電素子とを備え、
前記圧力室は、前記第1基板の下面に平行な第1方向に延在し、前記第1方向の一端側に液体の流入口を有し、前記第1方向の他端側に前記液体の流出口を有し、
前記ノズルは、前記第1方向において、前記流入口と前記流出口の間に配置されており、
前記第1基板の下面に平行かつ第1方向と直交する第2方向から見たとき、前記圧力室の上壁は、前記圧電素子に電圧が印加されていない状態において、下方に凸となるように湾曲しており、
前記圧電素子は、前記第1基板の上面に配置された第1電極と、前記第1電極の上面に前記圧力室と対向するように配置された1枚の圧電層と、前記圧電層の上面に前記圧力室と対向するように配置された第2電極とを有し、
前記圧力室の上壁の最も下方に突出した最下部分の、圧力室の上壁の湾曲していない部分からの鉛直方向の変位は、200~800nmであることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記流入口及び前記流出口は、前記圧力室の上壁に形成されている請求項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記圧力室に供給される前記液体が流れる供給流路と、前記供給流路と前記流入口とを連結する第1連結流路と、前記圧力室から流出した前記液体が流れる帰還流路と、前記帰還流路と前記流出口とを連結する第2連結流路と、凹部とが形成された第2基板をさらに備え、
前記第2基板は、前記圧電素子が前記第2基板の前記凹部に収容されるように、前記第1基板の上面に積層されている請求項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記圧力室は、前記一端側の第1側壁及び前記他端側の第2側壁を有し、
前記流入口は、前記第1側壁の上端部に形成され、
前記流出口は、前記第2側壁の上端部に形成されている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1基板にはさらに、前記流入口に接続され、前記圧力室に供給される前記液体が流れる供給流路と、前記流出口に接続され、前記圧力室から流出した前記液体が流れる帰還流路とが形成されている請求項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第2方向から見たとき、前記圧力室の上壁は、前記圧電素子に電圧が印加された場合、前記圧電素子に電圧が印加されていない場合よりもさらに下方に凸となるように変形する請求項1~のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第2方向から見たとき、前記ノズルは、前記第1方向において、前記圧力室の上壁の最も下方に突出した部分と同じ位置、又は、前記圧力室の上壁の最も下方に突出した部分と前記流出口の間に配置されている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第2方向から見たとき、前記ノズルは、前記第1方向において、前記圧力室の上壁の最も下方に突出した部分と同じ位置に配置されている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第2方向から見たとき、前記圧力室の下面から上面までの高さは、前記圧力室の上壁の最も下方に突出した部分から前記流出口に向かって連続的に高くなる請求項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記圧電素子は、前記第1基板の上面に配置された第1電極と、前記第1電極の上面に前記圧力室と対向するように配置された圧電層と、前記圧電層の上面に前記圧力室と対向するように配置された第2電極とを有し、
前記圧電素子に電圧が印加されていない状態において、前記圧電層には引張応力が生じており、前記圧力室の上壁には、圧縮応力が生じている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
液体吐出システムであって、
ノズルが開口する下面を有し、前記ノズルと連通する圧力室が形成された第1基板と、
前記第1基板の上面に、前記圧力室と対向するように配置された圧電素子と、
前記圧力室に供給される液体が流れる供給流路と、前記圧力室から流出した前記液体が流れる帰還流路と、凹部とが形成され、前記圧電素子が前記凹部に収容されるように、前記第1基板の上面に積層された第2基板と、
前記液体を貯留するタンクと、
前記タンク及び前記供給流路に連結された正圧ポンプと、
前記帰還流路及び前記タンクに連結された負圧ポンプとを備え、
前記圧力室は、前記第1基板の下面に平行な第1方向に延在し、前記第1方向の一端側に前記液体の流入口を有し、前記第1方向の他端側に前記液体の流出口を有し、
前記ノズルは、前記第1方向において、前記流入口と前記流出口の間に配置されており、
前記第1基板の下面に平行かつ第1方向と直交する第2方向から見たとき、前記圧力室の上壁は、前記圧電素子に電圧が印加されていない状態において、下方に凸となるように湾曲しており、
前記圧力室の上壁の最も下方に突出した最下部分の、圧力室の上壁の湾曲していない部分からの鉛直方向の変位は、200~800nmであり、
前記圧電素子は、前記第1基板の上面に配置された第1電極と、前記第1電極の上面に前記圧力室と対向するように配置された1枚の圧電層と、前記圧電層の上面に前記圧力室と対向するように配置された第2電極とを有し、
前記流入口及び前記流出口は、前記圧力室の上壁に形成されており、
前記第2基板には、前記供給流路と前記流入口とを連結する第1連結流路と、前記帰還流路と前記流出口とを連結する第2連結流路とがさらに形成されており、
前記圧電素子に電圧が印加されていない状態において、前記圧力室は負圧に維持されている前記液体吐出システム。
【請求項12】
液体吐出システムであって、
ノズルが開口する下面を有し、前記ノズルと連通する圧力室と、前記圧力室に供給される液体が流れる供給流路と、前記圧力室から流出した前記液体が流れる帰還流路とが形成された第1基板と、
前記第1基板の上面に、前記圧力室と対向するように配置された圧電素子と、
前記液体を貯留するタンクと、
前記タンク及び前記供給流路に連結された正圧ポンプと、
前記帰還流路及び前記タンクに連結された負圧ポンプとを備え、
前記圧力室は、前記第1基板の下面に平行な第1方向に延在し、前記第1方向の一端側の第1側壁及び前記第1方向の他端側の第2側壁を有し、
前記圧力室の前記第1側壁の上端部には前記液体の流入口が形成されており、
前記圧力室の前記第2側壁の上端部には前記液体の流出口が形成されており、
前記ノズルは、前記第1方向において、前記流入口と前記流出口の間に配置されており、
前記第1基板の下面に平行かつ第1方向と直交する第2方向から見たとき、前記圧力室の上壁は、前記圧電素子に電圧が印加されていない状態において、下方に凸となるように湾曲しており、
前記圧力室の上壁の最も下方に突出した最下部分の、圧力室の上壁の湾曲していない部分からの鉛直方向の変位は、200~800nmであり、
前記圧電素子は、前記第1基板の上面に配置された第1電極と、前記第1電極の上面に前記圧力室と対向するように配置された1枚の圧電層と、前記圧電層の上面に前記圧力室と対向するように配置された第2電極とを有し、
前記第1基板には、前記供給流路と前記流入口とを連結する第1連結流路と、前記帰還流路と前記流出口とを連結する第2連結流路とがさらに形成されており、
前記圧電素子に電圧が印加されていない状態において、前記圧力室は負圧に維持されている前記液体吐出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッド、及び液体吐出ヘッドを備える液
体吐出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドとして、ノズルと、ノズルに連通する圧力室と、圧力室の一端に接続さ
れたインク供給路と、圧力室の他端に接続されたインク排出路とを備えるインクジェット
式記録ヘッド(特許文献1参照)が知られている。このインクジェット式記録ヘッドでは
、インク供給路、圧力室、及びインク排出路を介してインクが循環される。これにより、
インク流路内でのインク成分の沈降や、ノズル近傍のインクの乾燥を防ぐことができる。
また、インク流路内のインクに混入した気泡を排出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-158552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記構成を有するインクジェット式記録ヘッドにおいて、圧力室内のインク
の流量を増加させると、ノズルから吐出されるインク滴の吐出方向が、所望の方向から一
定の方向に傾く場合がある。具体的には、インク滴の吐出方向が、所望の方向(例えば鉛
直方向)から、圧力室においてインクが流れる方向(圧力室の上記一端から上記他端に向
かう方向)に傾く場合がある。このため、圧力室内のインクの流量を増加させることは好
ましくない。しかしながら、圧力室内のインクの流量を増加させない場合、圧力室内のイ
ンクに混入した気泡を効率よく排出することが困難になる。
【0005】
本発明は、圧力室内の液体を循環させる構成を備えた液体吐出ヘッドにおいて、圧力室
を流れる液体の流量を増加させることなく、圧力室内の液体に混入した気泡の排出性を向
上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、液体吐出ヘッドであって、ノズルが開口する下面を有し、前記
ノズルと連通する圧力室が形成された第1基板と、前記第1基板の上面に、前記圧力室と
対向するように配置された圧電素子とを備え、前記圧力室は、前記第1基板の下面に平行
な第1方向に延在し、前記第1方向の一端側に液体の流入口を有し、前記第1方向の他端
側に前記液体の流出口を有し、前記ノズルは、前記第1方向において、前記流入口と前記
流出口の間に配置されており、前記第1基板の下面に平行かつ第1方向と直交する第2方
向から見たとき、前記圧力室の上壁は、前記圧電素子に電圧が印加されていない状態にお
いて、下方に凸となるように湾曲している液体吐出ヘッドが提供される。
【0007】
本発明の態様に従う液体吐出ヘッドにおいて、前記圧力室の上壁は、前記第2方向から
見たとき、前記圧電素子に電圧が印加されていない状態において、下方に凸となるように
湾曲している。そして、圧力室内において、液体は流入口から流出口に向かって流れる。
このため、ノズルから圧力室内の液体に気泡が混入したとしても、その気泡を圧力室の上
壁に沿って流出口まで容易に移動させることができる。つまり、圧力室内の液体を循環さ
せる構成を有する液体吐出ヘッドにおいて、圧力室を流れる液体の流量を増加させること
なく、圧力室内の液体に混入した気泡の排出性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液体吐出ヘッドによれば、圧力室を流れる液体の流量を増加させることなく、
圧力室内の液体に混入した気泡の排出性を向上させるができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るヘッドを備えたプリンタの平面図である。
図2】ヘッドの平面図である。
図3図2のIII-III線に沿ったヘッドの断面図である。
図4】プリンタの電気的構成を示すブロック図である。
図5】変形例に係るヘッドの図3に相当する断面図である。
図6】別の変形例に係るヘッドの図3に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1を参照し、本発明の実施形態に係るヘッド1を備えたプリンタ100の概略構成に
ついて説明する。
【0011】
プリンタ100(液体吐出システムの一例)は、4つのヘッド1(液体吐出ヘッドの一
例)を含むヘッドユニット1x、プラテン3、搬送機構4及びコントローラ5を備えてい
る。
【0012】
プラテン3の上面に、用紙9が載置される。
【0013】
搬送機構4は、2つのローラ対4a,4bを備える。コントローラ5の制御により搬送
モータ4mが駆動されると、ローラ対4a,4bが用紙9を挟持した状態で回転し、用紙
9が搬送方向(第1方向の一例)に搬送される。2つのローラ対4a,4bは、プラテン
3を搬送方向に挟むように配置されている。
【0014】
ヘッドユニット1xは、ライン式(位置が固定された状態でノズル21(図2及び図3
参照)から用紙9に対してインクを吐出する方式)であって、紙幅方向(第2方向の一例
)に長尺である。4つのヘッド1は、紙幅方向に千鳥状に配置されている。
【0015】
ここで、紙幅方向は、搬送方向と直交する。紙幅方向及び搬送方向は、共に、鉛直方向
と直交する。
【0016】
コントローラ5は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory
)及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)を有する。ASICは
、ROMに格納されたプログラムに従い、記録処理等を実行する。記録処理において、コ
ントローラ5は、PC等の外部装置から入力された記録指令(画像データを含む。)に基
づき、各ヘッド1のドライバIC1d(図4参照)及び搬送モータ4mを制御し、用紙9
上に画像を記録する。さらに、コントローラ5は、正圧ポンプ7P及び負圧ポンプ7Q(
図2図4参照)を制御し、後述するようにインクタンク7と各ヘッド1との間でインク
を循環させる。
【0017】
次に、図2及び図3を参照し、ヘッド1の構成について説明する。
【0018】
ヘッド1は、流路基板11及び複数の圧電素子12を有する。
【0019】
流路基板11は、図3に示すように、互いに接着された4枚のプレート11a~11d
を有する。プレート11a~11dはいずれも、シリコンで形成されているが、プレート
11cの上面側は、後述する圧電層12bを形成する際の焼成により、酸化シリコンとな
っている。プレート11aには、共通流路30が形成されている。プレート11b~11
dには、複数の個別流路20が形成されている。複数の個別流路20は、共通流路30の
下方に位置している。互いに接着されたプレート11c及び11dは、第1基板の一例で
ある。互いに接着されたプレート11a及び11bは、第2基板の一例である。
【0020】
共通流路30は、図2に示すように、搬送方向に配列された帰還流路31,32及び供
給流路33を含む。帰還流路31,32及び供給流路33は、それぞれ紙幅方向に延びて
いる。搬送方向において帰還流路31と帰還流路32との間に供給流路33が配置されて
いる。
【0021】
供給流路33は、供給口33xを介してインクタンク7と連通している。帰還流路31
,32は、それぞれ、排出口31y,32yを介してインクタンク7と連通している。供
給口33xは、供給流路33の、紙幅方向の一方(図2の上方)の端部に形成されている
。排出口31y,32yは、それぞれ、帰還流路31,32の、紙幅方向の他方(図2
下方)の端部に形成されている。供給口33x及び排出口31y,32yは、プレート1
1aの上面に開口している。
【0022】
インクタンク7には、ヘッド1に供給されるインクが貯留されている。
【0023】
個別流路20は、帰還流路31と供給流路33とを結ぶ複数の第1個別流路20a、及
び、帰還流路32と供給流路33とを結ぶ複数の第2個別流路20bを含む。複数の第1
個別流路20aは紙幅方向に等間隔で配置されている。同様に、複数の第2個別流路20
bも紙幅方向に等間隔で配置されている。複数の第1個別流路20aは、複数の第2個別
流路20bに対して、紙幅方向に半ピッチシフトしている。各第1個別流路20aは、搬
送方向において帰還流路31と供給流路33とに跨っている。各第2個別流路20bは、
搬送方向において帰還流路32と供給流路33とに跨っている。
【0024】
図2に示すように、インクタンク7内のインクは、コントローラ5の制御により正圧ポ
ンプ7Pが駆動されることで、供給口33xから供給流路33に供給される。供給流路3
3に供給されたインクは、供給流路33内を紙幅方向の一方から他方に向かって移動しつ
つ、複数の第1個別流路20a及び複数の第2個別流路20bのそれぞれに供給される。
複数の第1個別流路20aに供給されたインクは、帰還流路31に流出し、帰還流路31
内を紙幅方向の一方から他方に向かって移動する。そして当該インクは、コントローラ5
の制御により負圧ポンプ7Qが駆動されることで、排出口31yを介して帰還流路31か
ら排出され、インクタンク7に戻される。複数の第2個別流路20bに供給されたインク
は、帰還流路32に流出し、帰還流路32内を紙幅方向の一方から他方に向かって移動す
る。そして当該インクは、コントローラ5の制御により負圧ポンプ7Qが駆動されること
で、排出口32yを介して帰還流路32から排出され、インクタンク7に戻される。この
ようにヘッド1とインクタンク7との間でインクを循環させることで、インク内の気泡が
除去され、インクの増粘が防止される。なお、図2における太矢印は、インクの流れを示
す。
【0025】
各個別流路20は、ノズル21、圧力室23、及び2つの連結流路25を含む。図3
示すように、ノズル21は、プレート11dに形成された貫通孔で構成されており、プレ
ート11dの下面に開口している。図2に示すように、圧力室23は、搬送方向に長い略
矩形の平面形状を有している。また、図3に示すように、圧力室23は、搬送方向に長い
略矩形の断面形状を有している。プレート11cの下面には、ノズル21と対向する位置
に凹部11cxが形成されており、圧力室23は、凹部11cxと、プレート11cの下
面に接着されたプレート11dとにより画定されている。つまり、圧力室23の上壁23
aは、プレート11cの薄肉部(凹部11cxにより厚みが薄くなった部分)によって形
成されている。一方、圧力室23の下壁23bは、プレート11dによって形成されてい
る。また、圧力室23の側壁23c、23dは、プレート11cの厚肉部(凹部11cx
が形成されていない部分)によって形成されている。図3に示すように、連結流路25は
、プレート11b及び圧力室23の上壁23aに形成された貫通孔で構成されている。プ
レート11bの下面には、各圧力室23と対向する位置に凹部11bxが形成されている
。プレート11bは、凹部11bx内に、後述する複数の圧電素子12が収容されるよう
に、プレート11cの上面に接着されている。
【0026】
図2及び図3に示されるように、第2個別流路20bを構成する圧力室23の、搬送方
向の一端231及び他端232はそれぞれ、供給流路33及び帰還流路32と鉛直方向に
重なっている。そして、第2個別流路20bを構成する圧力室23の上壁23aには、流
入口23x及び流出口23yが形成されている。具体的には、流入口23xは、圧力室2
3の搬送方向の一端231側に配置されており、流出口23yは、圧力室23の搬送方向
の他端232側に配置されている。第2個別流路20bを構成する圧力室23の、流入口
23x及び流出口23yはそれぞれ、連結流路25を介して供給流路33及び帰還流路3
2と連結されている。同様に、第1個別流路20aを構成する圧力室23の、搬送方向の
他端及び一端はそれぞれ、供給流路33及び帰還流路31と鉛直方向に重なっている。そ
して、第1個別流路20aを構成する圧力室23の、流入口23x及び流出口23yはそ
れぞれ、連結流路25を介して供給流路33及び帰還流路31と連結されている。
【0027】
各個別流路20において、2つの連結流路25の一方は、圧力室23から上方に延び、
供給流路33に接続されている。2つの連結流路25の他方は、圧力室23から上方に延
び、帰還流路31又は帰還流路32に接続されている。各個別流路20において、ノズル
21は、圧力室23の搬送方向の一端及び他端の間に配置されている。
【0028】
供給流路33に供給されたインクは、一方の連結流路25を通って下方に移動し、圧力
室23に供給される。圧力室23に供給されたインクは、水平に移動し、一部がノズル2
1から吐出され、残りが他方の連結流路25を通って上方に移動し、帰還流路31又は帰
還流路32に流入する。なお、図3における矢印はそれぞれ、インクの流れを示す。
【0029】
複数の圧電素子12は、プレート11cに形成された複数の圧力室23にそれぞれ対向
するように、プレート11cの上面に配置されている。
【0030】
各圧電素子12は、図3に示すように、下から順に、共通電極12a、圧電層12b及
び個別電極12cを含む。共通電極12aは、金属材料により形成されており、複数の圧
力室23に共通にするように設けられている。圧電層12bは、例えばチタン酸ジルコン
酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料を焼成(アニール)することによって形成されて
いる。圧電層12bは、複数の圧力室23に共通するように設けられており、共通電極1
2aの上面及び側面を覆っている。個別電極12cは、金属材料により形成されており、
搬送方向に長い略矩形の平面形状を有している。個別電極12cは、圧力室23毎に設け
られており、圧力室23と対向するように圧電層12bの上面に形成されている。
【0031】
各個別電極12cは、個別配線13を介してドライバIC1d(図4参照)と電気的に
接続されている。また、共通電極12aも、共通配線(不図示)を介してドライバIC1
dと電気的に接続されている。ドライバIC1dは、共通電極12aの電位をグランド電
位に維持する一方、個別電極12cの電位を変化させる。
【0032】
ここで、個別電極12cに電圧が印加されていない状態では、圧電層12bは、図3
示すように、焼成時の残留応力により下方に凸となるように変形している。これにより、
圧力室23の上壁23a及び共通電極12aは、紙幅方向から見たとき、圧力室23の搬
送方向の中央付近において最も下方に位置するように湾曲している。このため、圧力室2
3の上面23a1も、搬送方向の中央付近において最も下方に位置するように湾曲してい
る。具体的には、紙幅方向から見たとき、圧力室23の下面23b1から上面23a1ま
での高さは、流入口23xから圧力室の上壁23aの最も下方に突出した部分23z(以
下、最下部分23zという)までは、搬送方向に沿って連続的に低くなっており、最下部
分23zから流出口23yまでは、搬送方向に沿って連続的に高くなっている。
【0033】
最下部分23zの、圧力室23の上壁23aの湾曲していない部分(圧電素子12が形
成されていない部分)からの鉛直方向の変位Dは、例えば200~800nm程度である
。なお、圧電層12bには引張応力が生じており、振動板12aには圧縮応力が生じてい
る。
【0034】
ノズル21は、最下部分23zと、搬送方向の位置が同じである。換言すると、紙幅方
向から見たとき、ノズル21は、最下部分23zの直下に配置されている。
【0035】
次に、特定のノズル21からインクを吐出する際の、圧電素子12の動作について説明
する。まず、当該ノズル21からインクを吐出させない状態(待機状態)では、共通電極
12aはグランド電位に維持され、当該ノズル21に連通する圧力室23に対応する個別
電極12cには所定の電圧が印加される。このとき、当該個別電極12cと共通電極12
aとの間の圧電層12bには、分極方向と平行な電界が発生する。これにより、当該圧電
層12bは分極方向と直交する水平方向に収縮し、圧力室23側に凸となるように変形す
る。この結果、共通電極12a及び圧力室23の上壁23aは、当該個別電極12cに所
定の電圧が印加されていない状態と比べて、さらに下方に凸となるように湾曲する。具体
的には、最下部分23zは、圧力室23の上壁23aの湾曲していない部分(圧電素子1
2が形成されていない部分)よりも下方に、例えば0.5~1.5μm程度変位する。こ
こで、図3に示すように、配線13は、個別電極12cを起点として、流出口23yから
流入口23xに向かう方向に延びている。このため、圧電層12bの、流入口23x側の
端部は、その他の部分と比べて変形しにくくなっている。この結果、圧力室23の上壁2
3aの下方への変位量は、流出口23y付近の方が流入口23x付近よりも大きくなって
いる。これにより、最下部分23zは、搬送方向において、圧力室23の中央から流出口
23y側にシフトする。換言すれば、最下部分23zは、搬送方向において、圧力室23
の中央と流出口23yとの間に位置している。なお、待機状態では、上述したように、コ
ントローラ5は正圧ポンプ7P及び負圧ポンプ7Qを駆動して、ヘッド1とインクタンク
7との間でインクを循環させている。このため、圧力室23内では、流入口23xから流
出口23yに向かうインクの流れが生じている。
【0036】
そして、当該ノズル21からインクを吐出させるときには、当該ノズル21と連通する
圧力室23に対応する個別電極12cの電位が、まず、グランド電位に切り換えられる。
これにより、当該個別電極12cと共通電極12aとの間の圧電層12bは、当該個別電
極12cに所定の電圧が印加されていないときの状態に回復する。この結果、圧力室23
の上壁23aの下方への変位量は、当該個別電極12cに所定の電圧が印加されていると
きよりも小さくなり、圧力室23の容積が増加する。次に、当該個別電極12cに、所定
の電圧を再び印加する。このとき、当該個別電極12cと共通電極12aとの間の圧電層
12bは、再び圧力室23側に凸となるように変形する。この結果、圧力室23の上壁2
3aの下方への変位量は、当該個別電極12cに所定の電圧が印加されていないときより
も大きくなり、圧力室23の容積が減少する。これにより、圧力室23内のインクの圧力
が上昇し、当該ノズル21からインクが吐出される。なお、インクを吐出させる際も、コ
ントローラ5は正圧ポンプ7P及び負圧ポンプ7Qを駆動して、ヘッド1とインクタンク
7との間でインクを循環させている。このため、圧力室23内では、流入口23xから流
出口23yに向かうインクの流れが生じている。
【0037】
以上に説明したように、圧力室23の上壁23aは、個別電極12cに所定の電圧が印
加されていない状態において、紙幅方向から見たとき、下方に凸となるように湾曲してい
る。圧力室23内のインクに混入した気泡は、圧力室23の上面23a1に向かって移動
する。本実施形態によれば、圧力室23の上面23a1は、最下部分23zから流出口2
3yに向かって上方に傾斜している。このため、圧力室23の上面23a1に到達した気
泡を、上面23a1に沿って流出口23yまでスムーズに移動させることができる。以上
のことから、圧力室23を流れるインクの流量を増加させることなく、圧力室23内のイ
ンクに混入した気泡を効率よく排出できる。
【0038】
本実施形態において、流入口23x及び流出口23yは、圧力室23の上壁23aに形
成されている。このため、圧力室23内のインクに混入し、圧力室23の上面23a1に
向かって移動する気泡を、流出口23yから効率よく排出できる。
【0039】
また、本実施形態において、各圧力室23に接続された2本の連結流路25はそれぞれ
、流入口23x及び流出口23yから上方に延びている。そして、2本の連結流路25は
それぞれ、さらに上方の共通流路30に接続されている。このため、圧力室23内のイン
クに混入した気泡を、流出口23y及び連結流路25を介して、共通流路30に効率よく
排出できる。
【0040】
本実施形態では、個別電極12cに電圧が印加されている状態において、圧力室23の
上壁23aは、個別電極12cに電圧が印加されていない状態よりもさらに下方に凸とな
るように変形している。このため、圧力室23を流れるインクの流量を増加させることな
く、圧力室23内のインクに混入した気泡を、流出口23yに向かって効率よく移動させ
ることができる。この結果、圧力室23内のインクに混入した気泡を効率よく排出できる
【0041】
本実施形態において、圧力室23の上壁23aの最下部分23zは、ノズル21と、搬
送方向の位置が同じである。ノズル21から圧力室23内のインクに混入した気泡は、ノ
ズル21から直上の最下部分23zに向かって移動するが、圧力室23内のインクの流れ
により、最下部分23zよりも流出口23y側に流される。このため、本実施形態によれ
ば、ノズル21から圧力室23内のインクに混入した気泡を、最下部分23zよりも流出
口23y側に確実に移動させることができ、流出口23yから効率よく排出できる。
【0042】
本実施形態において、紙幅方向から見たとき、圧力室23の下面23bから上面23a
までの高さは、最下部分23zから流出口23yまでは、搬送方向に沿って連続的に高く
なっている。このため、圧力室23内のノズルに混入した気泡を、流出口23yに向かっ
て効率よく移動させることができる。この結果、圧力室23内のインクに混入した気泡を
効率よく排出できる。
【0043】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるもので
はなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能である。
【0044】
上記実施形態において、最下部分23zは、ノズル21と、搬送方向の位置が同じであ
ったが、これには限られない。例えば、搬送方向において、最下部分23zと流出口23
yとの間に、ノズル21が配置されてもよい。上記実施形態では、図3に示すように、配
線13は、個別電極12cを起点として、流出口23yから流入口23xに向かう方向に
延び、連結流路25を迂回して、さらに搬送方向に沿って延びている。このため、圧電層
12bの、流入口23x側の端部は、その他の部分と比べて変形しにくくなっている。こ
の結果、個別電極12cに所定の電圧が印加された状態では、圧力室23の上壁23aの
下方への変位量は、流出口23y付近の方が流入口23x付近よりも若干大きくなってい
る。つまり、最下部分23zは、搬送方向において、圧力室23の中央から流出口23y
側にシフトしている。このため、ノズル21の搬送方向の位置は、個別電極12cに所定
の電圧が印加された状態における最下部分23zと同じか、又は、図5に示されるヘッド
1Aのように、個別電極12cに所定の電圧が印加された状態における最下部分23zと
流出口23yとの間であってもよい。これにより、個別電極12cに所定の電圧が印加さ
れているか否かに関わらず、ノズル21から圧力室23内のインクに混入した気泡を流出
口23yまで容易に移動させることができる。
【0045】
上記実施形態において、流入口23x及び流出口23yは、圧力室23の上壁23aに
形成されていたが、これには限られない。例えば、図6に示されるヘッド1Bのように、
流入口23x及び流出口23yはそれぞれ、圧力室23の、搬送方向一方側の側壁23c
の上端部及び他方側の側壁23dの上端部に形成されてもよい。この場合も、圧力室23
内のインクに混入した気泡を効率よく排出することができる。また、この場合、流入口2
3xに接続される連結流路25及び連結流路25を介して圧力室23と連通する供給流路
33、並びに、流出口23yに接続される連結流路25及び連結流路25を介して圧力室
23と連通する帰還流路31,32は、プレート11cに形成されていてもよい。
【0046】
上記実施形態において、正圧ポンプ7Pによる正圧の絶対値が、負圧ポンプ7Qによる
負圧の絶対値よりも小さくなるように、正圧ポンプ7P及び負圧ポンプ7Qを設定しても
よい。これにより、圧力室23内を負圧に維持し、圧力室23の上壁23aを下方に凸と
なるように容易に湾曲させることができる。
【0047】
上記実施形態では、1本の供給流路33が、2本の帰還流路31,32によって搬送方
向に挟まれていたが、これには限られない。例えば、1本の帰還流路が、2本の供給流路
によって搬送方向に挟まれていてもよい。
【0048】
ヘッドユニット1xは、ライン式に限定されず、シリアル式(紙幅方向と平行な走査方
向に移動しつつノズルから吐出対象に対して液体を吐出する方式)であってもよい。
【0049】
吐出対象は、用紙に限定されず、例えば布、基板等であってもよい。
【0050】
ノズルから吐出される液体は、インクに限定されず、任意の液体(例えば、インク中の
成分を凝集又は析出させる処理液等)であってよい。
【0051】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機、複合機等にも適用可能で
ある。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液体吐出ヘッド(例えば、基
板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液体吐出ヘッド)にも適用可能であ
る。
【符号の説明】
【0052】
1 ヘッド
5 コントローラ
7 インクタンク
7P 正圧ポンプ
7Q 負圧ポンプ
12 圧電素子
20 個別流路
21 ノズル
23 圧力室
23x 流入口
23y 流出口
25 連結流路
30 共通流路
31,32 帰還流路
31y,32y 排出口
33 供給流路
33x 供給口
100 プリンタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6