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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】検出装置、管理装置及び検出方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20241217BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20241217BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20241217BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20241217BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/42 P
G01R31/392
G01R31/389
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023118784
(22)【出願日】2023-07-21
(62)【分割の表示】P 2021003692の分割
【原出願日】2021-01-13
(65)【公開番号】P2023139149
(43)【公開日】2023-10-03
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石垣 将紀
(72)【発明者】
【氏名】石川 敬祐
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-212513(JP,A)
【文献】特開2009-289757(JP,A)
【文献】特開2014-202754(JP,A)
【文献】特開2013-88148(JP,A)
【文献】国際公開第2017/179266(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H01M 10/42
G01R 31/392
G01R 31/389
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100kHz以上の範囲の周波数の信号を出力可能な信号発生器と、
前記信号発生器から出力された前記周波数の信号に対する電池からの電圧及び電流の応答のうち少なくとも1つを計測する計測部と、
前記応答に基づき交流インピーダンスを測定し、当該交流インピーダンスに基づいて前記電池における異物金属の存在及びリチウムの析出の少なくとも1つの状態を検出する制御部と、
を備えることを特徴とする計測装置
【請求項2】
請求項1に記載の計測装置であって、
前記制御部は、前記状態を表示させる表示部を備えることを特徴とする計測装置
【請求項3】
100kHz以上の範囲の周波数の信号に対する電池からの電圧及び電流の応答のうち少なくとも1つを計測するステップと、
前記応答に基づき交流インピーダンスを測定し、当該交流インピーダンスに基づいて前記電池における異物金属の存在及びリチウムの析出の少なくとも1つの状態を検出するステップと、
を備えることを特徴とする検出方法
【請求項4】
100kHz以上の範囲の周波数の信号を出力可能な信号発生器と、
前記信号発生器から出力された前記周波数の信号に対する電池からの電圧及び電流の応答のうち少なくとも1つを計測する計測部と、
前記応答に基づき交流インピーダンスを測定し、当該交流インピーダンスに基づいて前記電池をリサイクルに回すか、リユースが可能かを判定する制御部と、
を備えることを特徴とする計測装置
【請求項5】
請求項4に記載の計測装置であって、
前記制御部は、前記交流インピーダンスに基づいて、前記電池について、通常の用途にリユースが可能か、劣化に対するリユースが必要かを判定することを特徴とする計測装置
【請求項6】
100kHz以上の範囲の周波数の信号を出力可能な信号発生器と、
前記信号発生器から出力された前記周波数の信号に対する電池からの電圧及び電流の応答のうち少なくとも1つを計測する計測部と、
前記応答に基づき交流インピーダンスを測定し、当該交流インピーダンスに基づいて前記電池における異物金属の存在及びリチウムの析出の少なくとも1つの状態を検出する制御部と、
を備え、
前記状態の情報を用いて、前記電池の顧客への貸出を管理することを特徴とする電池管理システム。
【請求項7】
100kHz以上の範囲の周波数の信号を出力可能な信号発生器と、
前記信号発生器から出力された前記周波数の信号に対する電池からの電圧及び電流の応答のうち少なくとも1つを計測する計測部と、
前記応答に基づき交流インピーダンスを測定し、当該交流インピーダンスに基づいて前記電池における異物金属の存在及びリチウムの析出の少なくとも1つの状態を検出する制御部と、
を備え、
前記状態の情報を用いて、前記電池の顧客への販売を管理することを特徴とする電池管理システム。
【請求項8】
第1の周波数帯域の信号と、前記第1の周波数帯域より高い第2の周波数帯域の信号を出力可能な信号発生器と、
前記第1の周波数帯域の信号に対する電池からの電圧及び電流の応答のうち少なくとも1つを第1の応答として計測し、前記第2の周波数帯域の信号に対する前記電池からの電圧及び電流の応答のうち少なくとも1つを第2の応答として計測し、
前記第1の応答及び前記第2の応答に基づいて、前記電池について異物金属の存在及びリチウムの析出の少なくとも1つによる劣化か被膜生成による劣化かを判定する制御部と、
を備えることを特徴とする計測装置。
【請求項9】
請求項8に記載の計測装置であって、
前記制御部は、前記電池の劣化における前記異物金属の存在及び前記リチウムの析出の少なくとも1つによる劣化の割合を推定することを特徴とする計測装置。
【請求項10】
請求項8に記載の計測装置であって、
前記制御部は、前記電池の劣化における前記被膜生成による劣化の割合を推定することを特徴とする計測装置。
【請求項11】
請求項10に記載の計測装置であって、
前記制御部は、前記制御部における判定結果を表示させる表示部を備えることを特徴とする計測装置
【請求項12】
請求項3に記載の検出方法を用いて前記電池の状態を検出し、前記状態に応じて前記電池を生産する電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では検出装置、管理装置及び検出方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池の劣化判定方法としては、電池をSOC10%以下まで放電し、測定した電池のインピーダンスの測定値に基づいて電池の状態を検出するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この検出方法では、リチウム二次電池の状態を簡便かつ高精度に検出できるとしている。また、二次電池の拡散領域内の異なる少なくとも2つの周波数での複素インピーダンスを直線近似したときの傾き角度を求め、傾き角度が閾値以上であれば正常な容量バランスの電池と判定し、傾き角度が閾値未満であれば容量バランスがずれた異常な電池と判定するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この検出方法では、電池の複素インピーダンス解析により、高精度に電池の状態、特に電池の正常/ 異常や電池の劣化度を検出できるとしている。また、交流インピーダンスの測定結果に基づいて得られるナイキスト線図上で、円弧状に表れる周波帯の緩和時間のピークの変化に基づいて、電池の構成部材の状態変化を検出するものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この検出方法では、電池の内部の状態または状態変化を解析できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-212513号公報
【文献】国際公開2013/115038号パンフレット
【文献】国際公開2017/179266号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1~3では、リチウムイオン二次電池の劣化状態を検出することを目的としているが、電池の劣化状態には、例えば、リチウム金属の析出を伴う劣化や、リチウム金属の析出を伴わない劣化などがあるが、そのような詳しい状態を検出することはできなかった。例えば、特許文献1では、反応抵抗値から析出リチウム量を推定するものであるが、反応抵抗値は析出リチウム量だけでなく、被膜生成量にも影響するパラメータであり、正確に析出リチウムを診断できるとはいい難かった。また、特許文献2では、2以上の複素インピーダンスの周波数微分から容量バランスの正常、異常の判断をするものであるが、例えば、リチウム金属の析出を検出することは、考慮されていなかった。また、特許文献3では、交流インピーダンスのナイキストプロットからピーク緩和時間を求め、電極上に生成した被膜量を推定するものであるが、用いる周波数帯が10mHz~10kHz以下など低周波数であり、析出リチウム量と被膜生成量とを分離することは困難であった。このように、リチウムイオン二次電池の劣化状態を詳しく検出する技術が求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、リチウムイオン二次電池の状態をより詳しく検出することができる新規な検出装置、管理装置及び検出方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、リチウムイオン二次電池に特定の高周波数帯での交流インピーダンス特性から電池内部のリチウム金属や異物金属の存在、被膜生成などの状態をより詳しく取得することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する検出装置は、
リチウムイオン二次電池の状態を検出する検出装置であって、
1kHzの交流インピーダンスの実部に対して表皮効果により10倍以上を示す周波数での交流インピーダンスの実部を取得し、取得した交流インピーダンスの実部を用いて前記リチウムイオン二次電池内部のリチウムの析出及び/又は異物金属の存在を検出する制御部、
を備えたものである。
【0008】
本明細書で開示する管理装置は、
上述した検出装置から取得した情報に基づいて前記リチウムイオン二次電池を管理する管理装置であって、
前記制御部から出力された前記リチウムイオン二次電池内部のリチウムの析出の検出結果を用い、該リチウムイオン二次電池のリサイクル用途を設定する管理部、
を備えたものである。
【0009】
あるいは、本明細書で開示する管理装置は、
上述した検出装置から取得した情報に基づいて前記リチウムイオン二次電池を管理する管理装置であって、
前記制御部から出力された前記リチウムイオン二次電池内部の異物金属の存在の検出結果を用い、該リチウムイオン二次電池の出荷の可否を設定する管理部、
を備えたものである。
【0010】
本明細書で開示する検出方法は、
リチウムイオン二次電池の状態を検出する検出方法であって、
1kHzの交流インピーダンスの実部に対して表皮効果により10倍以上を示す周波数での交流インピーダンスの実部を用いて前記リチウムイオン二次電池内部のリチウムの析出及び/又は異物金属の存在を検出するステップ、
を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示では、リチウムイオン二次電池の状態をより詳しく検出することができる新規な検出装置、管理装置及び検出方法を提供することができる。本開示がこのような効果を奏する理由は、以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池の構成物であるリチウムイオンなどの拡散、反応、移動などが追従できないほど高い周波数で、且つ測定可能である周波数帯(例えば、100kHz以上の周波数帯)においては、リチウム析出による抵抗減少を捕捉可能であるためである。また、この高周波数帯ではリチウムイオン以外の拡散、反応、移動の劣化の影響を受けず、金属析出のみに感度を有するためであると推察される。なお、特許文献1~3では、実質的に検討されている交流インピーダンスの周波数は、10kHz以下の範囲であり、本開示の、表皮効果により10倍以上を示す周波数に比して1/1000以下であり、得られる情報が異なる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電池管理システム10の一例を示す説明図。
図2】周波数に対する交流インピーダンスの実部Zの一例を示す関係図。
図3】等価回路モデルの一例を示す説明図。
図4】劣化における周波数とインピーダンス実部との関係図。
図5】セルの状態を検出する演算処理の概要を示すフローチャート。
図6】状態検出処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
図7】出荷前検査処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
図8】回収判定処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
図9】セル貸し出し用のデータストレージの一例を示す説明図。
図10】セル販売用のデータストレージの一例を示す説明図。
図11】100kHzでの容量残存率とインピーダンス実部の変化量との関係図。
図12】1.5MHzでの容量残存率とインピーダンス実部の変化量との関係図。
図13】20MHzでの容量残存率とインピーダンス実部の変化量との関係図。
図14】容量残存率と推定容量率との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(電池管理システム10)
本明細書で開示する検出装置の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、電池管理システム10の一例を示す概略説明図である。電池管理システム10は、例えば、製造したリチウムイオン二次電池(セル30)の販売や使用管理を実行するシステムである。この電池管理システム10は、検出装置11と、管理装置20とを備えている。
【0014】
まず、測定対象であるセル30について説明する。セル30は、リチウムイオン二次電池として構成されている。セル30は、例えば、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えるものとしてもよい。正極は、正極活物質として、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを含むものとしてもよい。正極活物質は、例えば、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物などを用いることができる。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。負極は、負極活物質として炭素材料やリチウムを含む複合酸化物などを含むものとしてもよい。負極活物質は、例えば、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。イオン伝導媒体は、例えば、支持塩を溶解した電解液とすることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6やLiBF4、などのリチウム塩が挙がられる。電解液の溶媒は、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類等が挙げられる。また、イオン伝導媒体は、固体のイオン伝導性ポリマーや、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。固体電解質やこの蓄電デバイス13は、正極と負極との間にセパレータを配置してもよい。
【0015】
検出装置11は、リチウムイオン二次電池の劣化状態、例えば、セル30の内部に不活性なリチウム金属の析出物や異物金属が存在するか、被膜の生成状態などを検出する装置である。検出装置11は、制御部12と、記憶部13と、信号発生器14と、計測部15と、通信部16とを備えている。制御部12は、例えば、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、装置全体を制御する。制御部12は、記憶部13、信号発生器14及び通信部16に対して信号を出力すると共に、記憶部13、計測部15及び通信部16からの信号を入力する。この制御部12は、計測部15から取得した交流インピーダンスの実部の情報を用いてセル30内部における固体金属リチウムの析出状態及び異物金属の存在のうち少なくとも一方を検出する。記憶部13は、例えば、HDDなど、大容量の記憶装置として構成されており、測定結果の情報や、セル30を検査する各種プログラムを記憶している。信号発生器14は、1kHzの交流インピーダンスの実部に対して表皮効果により10倍以上を示す、所定の周波数帯の信号を発生する装置であり、発生した周波数の信号をセル30へ印加する。交流インピーダンスの実部を検出する所定の周波数帯は、例えば10kHzを超える範囲としてもよいし、100kHz以上の範囲としてもよい。図2は、低周波数から高周波数までの周波数に対する交流インピーダンスの実部Zの一例を示す関係図であり、図2Aが1Hz~100kHz、図2Bが100kHz~100MHzの関係図である。1kHz近傍で測定される交流インピーダンスは、オーミック抵抗成分を示す。検出装置11では、このオーミック抵抗に対して交流インピーダンスの実部がより高くなる、例えば2倍や5倍、10倍などを示す周波数、即ち高周波数帯で交流インピーダンスの実部を検出する。信号発生器14は、リチウムイオン二次電池の構成物であるリチウムイオンなどの拡散、反応、移動などが追従できないほど高い周波数帯の信号をセル30へ印加するものとしてもよい。信号発生器14は、例えば、100kHz以上の周波数帯、より好ましくは200kHz以上の周波数、更に好ましくは250kHz以上の周波数の信号を出力するものとしてもよい。この信号発生器14は、0.5MHz以上5MHz以下の範囲の信号や10MHz以上100MHz以下の範囲の信号を出力するものとしてもよい。例えば、0.5MHz以上5MHz以下の範囲の交流インピーダンスの実部によれば、セル30内部での不活性な固体金属リチウムの析出による劣化や、異物金属の存在などを判定することができる。また、10MHz以上100MHz以下の範囲の交流インピーダンスの実部によれば、被膜形成に基づく劣化を判定することができる。計測部15は、信号発生器14からセル30へ出力された信号に応じたセル30からの電圧及び電流の応答のうち少なくとも一方を計測するものである。制御部12は、計測部15からの応答を取得し、交流インピーダンスの実部及び虚部を求めることができる。通信部16は、外部機器との通信を行うインターフェイスである。通信部16は、インターネットなどの外部ネットワーク17やLANなどを介して、外部機器やローカル接続された管理装置20などとの通信を行う。
【0016】
管理装置20は、検出装置11で検出された情報に基づいてセル30の管理を行う装置である。管理装置20は、管理部21により、使用したセル30の回収や、交換、保守の内容を設定する処理を実行する。管理部21は、例えば、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、装置全体を制御する。この管理装置20は、例えば、検出装置11から出力された、セル30内部における固体金属リチウムの析出状態の検出結果を用い、活性リチウムの残容量から、このセル30のリサイクル用途を限定して利用するものとしてもよい。リサイクル用途としては、例えば、車載電池やモバイル電池のように予め定められた通常用途のリユースや、定点電源など高出力不要な劣化対応のリユース、解体リサイクルなどが挙げられる。また、管理装置20は、検出装置11から出力されたセル30内部における固体金属リチウムの析出状態の検出結果を用い、活性リチウムの残容量から、残利用時間を含むこのリチウムイオン二次電池の残存価値を定量化する処理を行うものとしてもよい。あるいは、管理装置20は、検出装置11から出力されたセル30内部における固体金属リチウムの析出状態の検出結果を用いて流通価値を算出し、算出された流通価値を出力するものとしてもよい。
【0017】
ここで、検出装置11の動作原理について説明する。図3は、リチウムイオン二次電池の等価回路モデルの一例を示す説明図であり、図3Aが機械構造モデル、図3Bが等価回路のフルモデル、図3Cが簡略した等価回路モデル、図3Dが高周波機能での等価回路モデルである。図3Dは、高周波機能ではほぼインピーダンスを0とみなすことのできるパラメータを排除したモデルである。図4は、劣化における周波数とインピーダンス実部との関係図である。表1に各要素に関する注記をまとめた。図4は、図3の等価回路モデルと、式(1)を用いて計算したインピーダンス特性結果を示す。リチウムイオン二次電池の劣化パターンの1つに電池内部でのリチウム金属の析出があり、金属析出が多いほど電池が不安全になることが懸念される。ここでは、リチウムイオン二次電池の状態として、初期電池、リチウム析出劣化電池、SEI(被膜)析出劣化電池の3つを検討した。図4の領域A1で示すように、0.5MHz以上の範囲、また、5MHz以下の範囲、特に1MHz前後でリチウム析出量に応じて交流インピーダンスの実部の減少を確認できる。一方、この周波数領域では、SEI析出劣化電池では、初期電池に比して交流インピーダンスの実部にほとんど変化がないことが確認できる。即ち、交流インピーダンス実部の減少など、実部の変化量に基づいて、電池劣化がリチウム析出と被膜生成とのいずれであるかを明確に区別することができる。また、10MHz以上の範囲、また、100MHz以下の範囲、特に20MHz前後の領域A2において、SEI析出量に応じたインピーダンスの増加が確認できる。即ち、この周波数領域では、リチウム析出劣化よりもSEI析出劣化の影響が大きく現れるものと推察される。なお、図4は、式(1)による計算結果を示しているが、18650型リチウムイオン二次電池を用いて計測した結果も図3に示す波形と同じ傾向を示した。このため、図4の計算結果が正しいことが確認されている。
【0018】
【表1】
【0019】
図3Dから高周波の交流インピーダンスの実部の値は、次式(1)で示すことができる。ここで、リチウム金属析出により変動するRLiを周波数依存性を明示するため、RLi(ω)とし、SEI析出により変動するRSEIを周波数依存性を明示するため、RSEI(ω)とする(ωは角周波数)。RLi(2πf)とRSEI(ω)とRLi(ω)と並列抵抗となるRS以外のパラメータは劣化によるインピーダンス変動がほとんどないためRetcとすると、式(1)は、RLi(ω)とRSEI(ω)とRSとRetcを用いて次式(2)のように書きなおすことができる。ここで金属リチウムの析出量をQLi、SEIの析出量をQSEIとすると、それぞれの析出量に応じたインピーダンスとの関係式は次式(3)となる。ここで、αLiはLiのインピーダンスを析出量に変換する係数、αSEIはSEIのインピーダンスを析出量に変換する係数、Rinit SEI(ω)は初期のSEIに対応するインピーダンス、Rdegr SEI(ω)は劣化後のSEIに対応するインピーダンスを示す。SEIの式で差分を示しているのは、SEIは初期の電池ですでに形成されており、インピーダンスとして観測されるためである。初期の電池では金属リチウムが析出しておらず、QLi=0となるため、Rinit SEI(ω)=∞(Rinit Li(ω)は初期のリチウムのインピーダンス)となる。また周波数が1MHz程度のとき、SEIは誘電飽和損がほとんど出ないため、RSEI(ω)=0とする。このとき、1MHz前後での初期インピーダンスZinit(ω)と劣化後インピーダンスZdegr(ω)は次式(4)、(5)で示すことができる。ここで劣化前後のインピーダンス変化からQLiを次式(6)から得ることができる。Zinit(ω)とZdegr(ω)とは計測により求めることができる値で、αLi、RSは電池の材料、形状に固有の値を持つことから、リチウム析出量を推定することができる。次に、20MHz前後での初期と劣化後のインピーダンスは次式(7)、(8)で示すことができる。同様に劣化前後のインピーダンス変化からQSEIは次式(9)から得ることができる。ここで、kはリチウム金属の表皮効果により周波数比に依存した定数であり、1MHz(=ω1)とすると20MHz(=ω2)と比較しているため、k=√(ω2/ω1)となる。電池の容量劣化量をΔCapとすると、不活性化したリチウムが金属リチウムとSEIとして生成しているため、次式(10)が成立する。ここで、式(10)のうち、1MHzのインピーダンスと20MHzのインピーダンスとを取得すれば、QLi+QSEIが得られるため、容量劣化量を計算することができる。同様に、ΔCapと20MHzのインピーダンスとを取得すれば、金属リチウム析出量を推定することができる。したがって、例えば、この2つの周波数帯域でのインピーダンス測定結果を用いて、劣化状態における金属析出の割合を推定することができる。
【0020】
【数1】
【0021】
(検出方法)
次に、こうして構成された本実施形態の検出装置11の動作、特に、検出装置11が実行する、リチウムイオン二次電池の状態を検出する検出方法について説明する。この検出方法は、1kHzの交流インピーダンスの実部に対して表皮効果により10倍以上を示す周波数での交流インピーダンスの実部を用いてリチウムイオン二次電池内部のリチウムの析出及び/又は異物金属の存在を検出する検出ステップを含むものとしてもよい。また、この検出方法において、検出ステップの前に、リチウムイオン二次電池に、1kHzの交流インピーダンスの実部に対して表皮効果により10倍以上を示す周波数を印加し交流インピーダンスの実部を取得する取得ステップを含むものとしてもよい。ここでは、検出ステップでは、説明の便宜のため、不活性な固体金属リチウムの析出を検出し、電池の劣化を検出する場合について主として説明する。
【0022】
図5は、制御部12に実装されたセルの状態を検出する演算処理の概要を示すフローチャートであり、図5Aが周波数領域A1での演算処理であり、図5Bが周波数領域A2を含む演算処理である。制御部12は、高周波数帯での交流インピーダンスの実部からセル30の劣化量、金属リチウム析出量の演算を行う。また、上述した金属リチウムの析出に関する原理を用いると、電池内部に異物金属が混入した際に生じる抵抗変化を検知することが可能であり、この情報を用いて出荷前の検査を行い、生産工程における品質を向上することが可能となる。制御部12は、図5Aに示すように、周波数領域A1においてセル30の交流インピーダンスの実部を測定し、初期からの実部の変化量を求め、事前に取得したMAPを用いて交流インピーダンスの実部の変化量からリチウム金属析出量を得る処理を実行する(S10)。MAPは、例えば、交流インピーダンスの実部の変化量とリチウム金属析出量との関係を予め実験などで経験的に得たものに基づいて設定することができる。そして、制御部12は、例えば、得られたリチウム金属析出量から該当するセル30の安全率などを提示する。あるいは、制御部12は、図5Bに示すように、S10の演算のあと、周波数領域A2においてセル30の交流インピーダンスを測定し、事前に取得したMAPを用いて交流インピーダンスの実部から残容量SOCを得る処理を実行する(S20)。MAPは、例えば、交流インピーダンスの実部の変化量と残容量SOCとの関係を予め実験などで経験的に得たものに基づいて設定することができる。そして、制御部12は、例えば、該当するセル30の安全率や残容量SOCなどを提示する。
【0023】
次に、より具体的な検出装置11の処理について説明する。図6は、検出装置11の制御部12が実行する状態検出処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、セル30の劣化状態を検出するタイミングで実行される。このタイミングは、例えば、作業者によるルーチンの開始指令の入力時としてもよいし、劣化を認識可能な所定期間経過後(例えば、1週間経過や1ヶ月経過など)のタイミングなどとしてもよい。制御部12は、信号発生器14や計測部15を利用してこのルーチンを実行する。このルーチンを開始すると、制御部12は、特定の周波数の信号を信号発生器14に発生させ(S100)、セル30への入力/出力/反射された電圧及び/又は電流を計測部15に計測させる(S110)。特定の周波数は、上述した1kHzの交流インピーダンスの実部に対して表皮効果により10倍以上を示す周波数や、リチウムイオン二次電池の構成物であるリチウムイオンなどの拡散、反応、移動などが追従できないほど高い周波数、100kHz以上の周波数としてもよい。
【0024】
次に、制御部12は、取得した電圧及び/又は電流から交流インピーダンスを計算によって求め(S120)、基準データと比較する(S130)。制御部は、交流インピーダンスの実部を求め、更に、求めた実部と、初期状態のセル30の実部との差分値を変化量として求める。基準データは、例えば、劣化状態のセル30において、充放電が安全に実行可能な固体金属リチウムの析出量として規定された規定範囲としてもよい(例えば図5AのS1の範囲など)。次に、制御部12は、求めた交流インピーダンスの実部の変化量が規定範囲内であるか否かを判定し(S140)、規定範囲内であるときには、このセル30を固体金属リチウムの析出量の少ない電池として記憶部13に記憶し(S150)、このルーチンを終了する。一方、S140で求めた交流インピーダンスの実部の変化量が規定範囲外であるときには、制御部12は、このセル30を固体金属リチウムの析出量が多い電池として記憶部13に記憶し(S160)、このルーチンを終了する。ここで、制御部12は、S140での判定結果を、図示しない表示部に表示出力するものとしてもよい。
【0025】
次に、状態検出処理ルーチンのセル30の検出結果を用いて実行するセル30の評価処理について説明する。図7は、検出装置11の制御部12が実行する出荷前検査処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、記憶部13に記憶され、セル30の製造後の出荷前検査時に実行される。なお、このルーチンは、管理装置20の管理部21が実行するものとしてもよい。このルーチンを開始すると、制御部12は、上述した状態検出処理を実行し(S200)、求めた交流インピーダンスの実部の変化量が規定範囲内であるか否かを判定する(S210)。求めた交流インピーダンスの実部の変化量が規定範囲内であるときには、セル30の内部に異物金属の存在はないものとして出荷可能の情報を出力し(S220)、このルーチンを終了する。一方、求めた交流インピーダンスの実部の変化量が規定範囲外であるときには、セル30の内部に異物金属の存在があるものとして、このセル30を解体リサイクルへ回す情報を出力し(S230)、このルーチンを終了する。制御部12は、この情報を記憶部13に記憶するよう出力してもよいし、表示部に表示するよう出力してもよい。製造直後のセル30の内部には、充放電によって生じる固体金属リチウムは存在しないことから、交流インピーダンスの実部の変化量が規定範囲外である場合は、セル30の内部に異物金属が存在していると判定できる。このようなセル30は、出荷可能でないため、例えば、解体リサイクルにより資源の活用を図るのである。
【0026】
次に、状態検出処理ルーチンのセル30の検出結果を用いて実行するセル30のリユース用途の選定処理について説明する。図8は、検出装置11の制御部12が実行する回収判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、記憶部13に記憶され、セル30が使用され回収されたあとに実行される。なお、このルーチンは、管理装置20の管理部21が実行するものとしてもよい。このルーチンを開始すると、制御部12は、上述した状態検出処理を実行し(S200)、求めた交流インピーダンスの実部から劣化度を取得する(S300)。劣化度は、例えば、上述したS20で求められる残容量SOCと劣化度との関係を予め経験的に取得しておき、この関係から求めることができる。
【0027】
次に、制御部12は、劣化度が所定の許容範囲内であるか否かを判定する(S310)。この所定の許容範囲は、例えば、劣化状態のセル30において、この許容範囲を超えると充放電が安全に実行可能ではなくなるような限界的な固体金属リチウムの析出量として経験的に規定されたものとしてもよい(例えば図5AのS2の範囲など)。劣化度が許容範囲外であるときには、制御部12は、該当するセル30を解体リサイクルへ回す情報を出力する(S320)。制御部12は、この情報を、記憶部13に記憶するよう記憶出力してもよいし、表示部に表示するよう表示出力してもよい。一方、S310で劣化度が許容範囲内であるときには、制御部12は、固体金属リチウムの析出量が規定範囲内であるか否かを判定する(S330)。この析出量は、上述したS10の処理で求めることができる。また、規定範囲は、例えば、劣化状態のセル30において、充放電が安全に実行可能な固体金属リチウムの析出量として規定された規定範囲としてもよい(例えば図5AのS1の範囲など)。この析出量が規定範囲内であるときには、制御部12は、セル30の通常の用途にリユースする情報を出力し(S340)、このルーチンを終了する。一方、この析出量が規定範囲外であるときには、制御部12は、セル30の劣化に対応する用途にリユースする情報を出力し(S350)、このルーチンを終了する。劣化に対応する用途とは、例えば、短時間での高出力が要求される車載用電池を、高レートが求められにくい住宅などの固定用電源にリユースすることなどが挙げられる。このように、検出装置11を用いると、セル30の劣化度を把握可能であり、且つその劣化が、電極上での被膜生成による劣化であるか、電極上に不活性な固体金属リチウムが析出した劣化であるか、など、より詳しい劣化状態を把握することができるのである。
【0028】
ここで、本実施形態の構成要素と本開示の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態のセル30が本開示のリチウムイオン二次電池に相当し、検出装置11が検出装置に相当し、管理装置20が管理装置に相当し、制御部12が制御部に相当する。なお、本実施形態では、検出装置11の動作を説明することにより本開示の検出方法の一例も明らかにしている。
【0029】
以上説明した本実施形態では、リチウムイオン二次電池の状態をより詳しく検出することができる新規な検出装置11、管理装置20及び検出方法を提供することができる。本開示がこのような効果を奏する理由は、以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池の構成物であるリチウムイオンなどの拡散、反応、移動などが追従できないほど高い周波数で、且つ測定可能な周波数帯(例えば、100kHz以上の周波数帯)においては、リチウム析出による抵抗減少を捕捉可能であるためである。また、この高周波数帯ではリチウムイオン以外の拡散、反応、移動の劣化の影響を受けず、金属析出のみに感度を持つためであると推察される。
【0030】
また、検出装置11は、100kHz以上の周波数帯の交流インピーダンスの実部を用いてリチウムイオン二次電池内部のリチウムの析出及び/又は異物金属の存在を検出する。特に、周波数が0.5MHz以上5MHz以下の範囲で得られた交流インピーダンスの実部の低下に基づいてリチウムイオン二次電池内部での不活性な固体金属リチウムの析出及び/又は異物金属の存在を検出する。また、検出装置11は、周波数が10MHz以上の範囲で得られた交流インピーダンスの実部の増加に基づいて電極上の被膜析出量を推定し、被膜形成に基づく劣化を検出する。このように、検出装置11では、複数の異なる周波数帯を用いて、固体金属リチウムの析出に基づく劣化状態と、被膜生成に基づく劣化状態とをより明確に区別することができる。これにより得られた情報を用いて、検査装置11は、セル30の再利用用途をより適切に選択することができる。
【0031】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
上述した実施形態では、セル30を1つ備えた電池管理システム10について説明したが、特にこれに限定されず、検出装置11は、セル30を直接に接続した電池管理システム10としてもよいし、セル30を並列に接続した電池管理システム10としてもよい。
【0033】
図9は、セル貸し出し用のデータストレージの一例を示す説明図である。図9、10は、管理者が提供可能なサービスの一例で、例えば、電池管理システム10をリース電池管理の管理アルゴリズムとすれば、安全利用を管理可能な貸出サービスが提供できる。図9に示すように、電池リースシステム500は、顧客から、顧客ID、利用目的、使用期日、サービスポイント、使用場所などの情報を取得する。また、電池リースシステム500は、使用された電池モジュールの電池ID、残容量SOC、蓄電量、リチウム析出状態、劣化状態、使用場所などの情報を取得する。そして、電池リースシステム500は、貸し出す電池モジュールの価格、顧客との適合、メンテナンスや利用安全管理などを実行し、顧客への適切な電池モジュールの貸し出しを行うことができる。
【0034】
図10は、セル販売用のデータストレージの一例を示す説明図である。例えば、電池管理システム10を劣化安全率管理のアルゴリズムとすれば、リユースに対する再販サービスを構築することができる。図10に示すように、電池リユースシステム510は、顧客から、顧客ID、利用目的、使用期日、サービスポイント、使用場所などの情報を取得する。また、電池リユースシステム510は、使用された電池モジュールの電池ID、残容量SOC、蓄電量、リチウム析出状態、劣化状態、使用場所などの情報を取得する。そして、電池リユースシステム510は、貸し出す電池モジュールの価格、顧客との適合、メンテナンスや利用安全管理などを実行し、顧客への適切な電池モジュールのリユース販売を行うことができる。
【0035】
上述した実施形態では、出荷前検査処理ルーチンを検出装置11が実行する、即ち本開示の管理装置の機能を検出装置11が有するものとして説明したが、特にこれに限定されず、管理装置20が出荷前検査処理ルーチンを実行するものとしてもよい。こうしても、異物金属の存在の有無を検出した結果を適正に利用することができる。
【0036】
上述した実施形態では、回収判定処理ルーチンを検出装置11が実行する、即ち本開示の管理装置の機能を検出装置11が有するものとして説明したが、特にこれに限定されず、管理装置20が回収判定処理ルーチンを実行するものとしてもよい。こうしても、固体金属リチウムの析出に関する情報を、適正にセル30のリユース、リサイクルに用いることができる。
【実施例
【0037】
以下には、本開示の検出装置及び検出方法を具体的に検討した例を実験例として説明する。
【0038】
(実験例1)
正極活物質がLiNi1/3Co1/3Mn1/32であり、負極活物質が黒鉛である市販の18650円筒型のリチウムイオン二次電池を2種の劣化方法を用い、2種の劣化状態を有する様々な劣化電池を用意した。1種目は、不活性な固体金属リチウムの析出が極めて少ない劣化条件であり、60℃、0.5Cでの充放電サイクルにて、初期容量に対する劣化度が92%~84%程度となるようサイクルを繰り返した電池を複数用意した。2種目は、不活性な固体金属リチウムが析出しやすい劣化条件であり、20℃、2Cでの充放電サイクルにて、初期容量に対する劣化度が92%~87%程度となるようサイクルを繰り返した電池を複数用意した。それぞれの電池に対して、初期条件と同じ周波数領域、同じ残容量SOCの条件で、交流インピーダンスを計測した。まず、初期の電池のインピーダンスをネットワークアナライザ(Keysight社製E5061B)を用いて100kHz~100MHzで計測したのち、上記作製した劣化電池のインピーダンスも同様に計測した。測定条件は、残容量SOC40%、計測温度20℃とした。計測して得られた初期の実部と劣化後の実部との差分を計算し、交流インピーダンスの実部の変化量ΔZre(mΩ)とした。
【0039】
(容量劣化量の算出)
上述した式(9)、(10)を用い、交流インピーダンスの測定値から上記の各劣化電池の推定容量率を算出した。使用したパラメータを表2にまとめた。
【0040】
【表2】
【0041】
(結果と考察)
図11は、実験例1における、100kHzでの容量残存率とインピーダンス実部の変化量との関係図である。図12は、実験例1における、1.5MHzでの容量残存率とインピーダンス実部の変化量との関係図である。図12には、金属リチウムの析出量の大きい電池と析出量がない電池との解体後の電極の写真を付記した。図13は、実験例1における、20MHzでの容量残存率とインピーダンス実部の変化量との関係図である。なお、図11~14では、金属リチウムの析出無しの劣化電池を「○」、金属リチウムの析出有りの劣化電池を「□」で表記した。図11に示すように、周波数100kHzでの交流インピーダンスの実部の変化量は、金属リチウムの析出の有無により抵抗に差がなく、抵抗変化を観測できないのに対して、図12に示すように、周波数1.5MHzでは金属リチウムが析出している劣化電池のみ、交流インピーダンスの実部の値が減少することがわかった。析出の有無を確認するため、それぞれの劣化電池の代表電池を解体してリチウム析出量を確認した。金属リチウムの析出のない条件での劣化電池にはリチウムが析出しておらず、金属リチウムの析出する条件での劣化電池では、金属リチウムが析出していることを確認できた。図11図4に示すように、例えば、0.5MHz以上5MHz以下の範囲の周波数帯での交流インピーダンスの実部の変化量では、金属リチウムの析出による劣化状態をSEI生成による劣化状態から分離検出することができることがわかった。また、図13に示すように、20MHzの交流インピーダンスの実部の初期に対する抵抗変化では、電極上の被膜(SEI)の生成量に応じて交流インピーダンスの実部の変化量が変動していることを表すことがわかった。即ち、図13図4に示すように、例えば、10MHz以上100MHz以下の範囲の周波数帯での交流インピーダンスの実部の初期に対する変化量から、SEIの形成による劣化を評価することができることがわかった。
【0042】
図14は、劣化電池を実測した容量残存率(%)と、交流インピーダンスから求めた推定容量率(%)との関係図である。推定容量率は、1MHz及び20MHzのインピーダンスの実部の値を用いて計算した劣化度の値である。図14に示すように、実測した容量残存率(%)と計算結果である推定容量率(%)とは、誤差±3%以内にあり、計算によっても信頼性が高い劣化度を得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本明細書で開示した検出装置、管理装置及び検出方法は、リチウムイオン二次電池の状態を検出する技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 電池管理システム、11 検出装置、12 制御部、13 記憶部、14 信号発生器、15 計測部、16 通信部、17 外部ネットワーク、20 管理装置、21 管理部、30 セル、500 電池リースシステム、510 電池リユースシステム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13
図14