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特許7605277金属板のせん断加工試験方法、金属板のせん断加工試験システム、及び金属板のせん断加工材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】金属板のせん断加工試験方法、金属板のせん断加工試験システム、及び金属板のせん断加工材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
G01L1/00 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023192042
(22)【出願日】2023-11-10
【審査請求日】2024-10-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】玉城 史彬
(72)【発明者】
【氏名】石渡 亮伸
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特許第6981521(JP,B1)
【文献】特開2013-036787(JP,A)
【文献】NETO, EA de Souza ほか著, 寺田賢二郎 監訳,非線形有限要素法 第1版 COMPUTATIONAL METHODS FOR PLASTICITY,森北出版株式会社,pp. 623-705
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00 ~ 5/28
G06F 30/00 ~ 30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板をせん断加工したせん断加工材のせん断端部における残留応力を算出する金属板のせん断加工試験方法であって、
前記せん断端部の形成過程を、前記金属板を供試材とした試験片のせん断加工により再現するせん断加工再現試験プロセスと、前記試験片に形成されたせん断端部のせん断端部側面における残留応力分布を算出する残留応力分布算出プロセスと、を含み、
前記せん断加工再現試験プロセスは、パンチと、ダイと、ホルダと、を有するせん断金型を用い、前記ダイと前記ホルダとの間に前記試験片を配置した状態で、前記パンチと前記ダイを相対的に移動させて前記試験片をせん断加工し、
前記残留応力分布算出プロセスは、変形履歴取得工程と、逐次応力更新工程と、残留応力分布算出工程と、を有し、
前記変形履歴取得工程は、
前記試験片に形成される前記せん断端部の前記せん断端部側面に複数の測定点を設定し、前記せん断加工再現試験プロセスでの前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程における前記複数の測定点それぞれの三次元座標を測定することにより、前記せん断端部の変形開始から変形終了までの前記せん断端部側面の表面変形履歴を取得する表面変形履歴取得ステップと、
前記取得した前記せん断端部側面の表面変形履歴から、前記せん断端部の変形過程における前記せん断端部側面のひずみ履歴を取得するひずみ履歴取得ステップと、
前記取得した前記せん断端部側面の表面変形履歴から、前記せん断端部の変形過程における前記せん断端部側面のスピン履歴を取得するスピン履歴取得ステップと、を有し、
前記逐次応力更新工程は、
前記ひずみ履歴取得ステップにおいて取得した前記せん断端部側面のひずみ履歴から取得ひずみ増分を算出する取得ひずみ増分算出ステップと、
前記ひずみ履歴取得ステップにおいて前記ひずみ履歴を取得したひずみ以外のひずみの増分であって前記せん断端部側面の変形状態を仮定して仮定ひずみ増分を算出する仮定ひずみ増分算出ステップと、
前記スピン履歴取得ステップにおいて取得した前記スピン履歴から取得スピン増分を算出する取得スピン増分算出ステップと、
前記取得ひずみ増分と、前記仮定ひずみ増分と、前記取得スピン増分と、を用いて、前記複数の測定点の応力増分を材料構成則に従って算出する応力増分算出ステップと、
前記複数の測定点それぞれについて算出した前記応力増分を用いて、前記複数の測定点それぞれの材料座標系における応力を、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形開始から変形終了まで逐次更新する逐次応力更新ステップと、を有し、
前記残留応力分布算出工程は、
前記逐次応力更新ステップにおいて逐次更新して求めた前記せん断端部の変形終了時における前記複数の測定点それぞれの材料座標系における応力をグローバル座標系における所定方向のグローバル応力値に変換し、該変換した前記複数の測定点それぞれのグローバル応力値を前記せん断端部側面の残留応力分布として求める応力座標系変換ステップを有する、ことを特徴とする金属板のせん断加工試験方法。
【請求項2】
前記残留応力分布算出工程は、前記応力座標系変換ステップにおいて求めた前記せん断端部側面の残留応力分布を表示する残留応力分布表示ステップをさらに有する、ことを特徴とする請求項1に記載の金属板のせん断加工試験方法。
【請求項3】
前記仮定ひずみ増分算出ステップは、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程から前記せん断端部側面の変形状態を仮定し、該仮定した変形状態での塑性力学理論に基づいて前記せん断端部側面における前記仮定ひずみ増分を算出する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属板のせん断加工試験方法。
【請求項4】
前記仮定ひずみ増分算出ステップは、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程の有限要素解析により前記せん断端部側面の変形状態を仮定し、該仮定した変形状態に基づいて前記せん断端部側面における前記仮定ひずみ増分を算出する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属板のせん断加工試験方法。
【請求項5】
金属板をせん断加工したせん断加工材のせん断端部における残留応力を算出する金属板のせん断加工試験システムであって、
前記せん断端部の形成過程を、前記金属板を供試材とした試験片のせん断加工により再現するせん断加工再現試験装置と、前記試験片に形成されたせん断端部のせん断端部側面における残留応力分布を算出する残留応力分布算出装置と、を備え、
前記せん断加工再現試験装置は、パンチと、ダイと、ホルダと、を有するせん断金型を備え、前記ダイと前記ホルダとの間に前記試験片を配置した状態で、前記パンチと前記ダイを相対的に移動させて前記試験片をせん断加工し、
前記残留応力分布算出装置は、変形履歴取得ユニットと、逐次応力更新ユニットと、残留応力分布算出ユニットと、を有し、
前記変形履歴取得ユニットは、
前記試験片に形成される前記せん断端部の前記せん断端部側面に設定された複数の測定点について、前記せん断加工再現試験装置を用いた前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程における三次元座標を測定し、前記せん断端部の変形開始から変形終了までの前記せん断端部側面の表面変形履歴を取得する表面変形履歴取得部と、
前記取得した前記せん断端部側面の表面変形履歴から、前記せん断端部の変形過程における前記せん断端部側面のひずみ履歴を取得するひずみ履歴取得部と、
前記取得した前記せん断端部側面の表面変形履歴から、前記せん断端部の変形過程における前記せん断端部側面のスピン履歴を取得するスピン履歴取得部と、を有し、
前記逐次応力更新ユニットは、
前記ひずみ履歴取得部により取得した前記せん断端部側面のひずみ履歴から取得ひずみ増分を算出する取得ひずみ増分算出部と、
前記ひずみ履歴取得部により前記ひずみ履歴を取得したひずみ以外のひずみの増分であって前記せん断端部側面の変形状態を仮定して仮定ひずみ増分を算出する仮定ひずみ増分算出部と、
前記スピン履歴取得部により取得した前記スピン履歴から取得スピン増分を算出する取得スピン増分算出部と、
前記取得ひずみ増分と、前記仮定ひずみ増分と、前記取得スピン増分と、を用いて、前記複数の測定点それぞれの応力増分を材料構成則に従って算出する応力増分算出部と、
前記複数の測定点それぞれについて算出した前記応力増分を用いて、前記複数の測定点それぞれの材料座標系における応力を、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形開始から変形終了まで逐次更新する逐次応力更新部と、を有し、
前記残留応力分布算出ユニットは、
前記逐次応力更新部により逐次更新して求めた前記せん断端部の変形終了時における前記複数の測定点それぞれの材料座標系における応力をグローバル座標系における所定方向のグローバル応力値に変換し、該変換した前記複数の測定点それぞれのグローバル応力値を前記せん断端部側面の残留応力分布として求める応力座標系変換部を有する、ことを特徴とする金属板のせん断加工試験システム。
【請求項6】
前記残留応力分布算出ユニットは、前記応力座標系変換部により求めた前記せん断端部側面の残留応力分布を表示する残留応力分布表示部をさらに有する、ことを特徴とする請求項5に記載の金属板のせん断加工試験システム。
【請求項7】
前記仮定ひずみ増分算出部は、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程から前記せん断端部側面の変形状態を仮定し、該仮定した変形状態での塑性力学理論に基づいて前記せん断端部側面における前記仮定ひずみ増分を算出する、ことを特徴とする請求項5又は6に記載の金属板のせん断加工試験システム。
【請求項8】
前記仮定ひずみ増分算出部は、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程の有限要素解析により前記せん断端部側面の変形状態を仮定し、該仮定した変形状態に基づいて前記せん断端部側面における前記仮定ひずみ増分を算出する、ことを特徴とする請求項5又は6に記載の金属板のせん断加工試験システム。
【請求項9】
金属板をせん断加工してせん断加工材を製造する金属板のせん断加工材の製造方法であって、
前記金属板をせん断加工する仮のせん断条件を設定する仮せん断条件設定工程と、
前記請求項1又は2に記載の金属板のせん断加工試験方法により、前記仮のせん断条件で前記試験片をせん断加工することにより前記金属板のせん断端部の形成過程を再現し、前記試験片に形成された前記せん断端部の前記せん断端部側面の表面変形履歴に基づき、前記せん断端部側面における残留応力分布を算出するせん断加工再現試験工程と、
前記せん断端部側面における引張残留応力が、予め定めた所定の範囲内であるか判定する引張残留応力量判定工程と、
前記引張残留応力が予め定めた所定の範囲外であると判定された場合、前記仮のせん断条件を変更する仮せん断条件変更工程と、
前記引張残留応力が予め定めた所定の範囲内と判定されるまで、前記仮せん断条件変更工程と、前記せん断加工再現試験工程と、前記引張残留応力量判定工程と、を繰り返し実行する繰り返し工程と、
前記引張残留応力量判定工程において前記引張残留応力が予め定めた所定の範囲内と判定された場合、その場合の前記仮のせん断条件をせん断条件として決定するせん断条件決定工程と、
該決定したせん断条件で前記金属板をせん断加工するせん断加工工程と、を含むことを特徴とする金属板のせん断加工材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板をせん断加工したせん断加工材におけるせん断端部の残留応力を算出する金属板のせん断加工試験方法、金属板のせん断加工試験システム、及び、金属板をせん断加工したせん断加工材を製造する金属板のせん断加工材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板のせん断加工により製造されたせん断加工材は、プレス成形品(例えば自動車用部品)のブランクとして用いられるが、せん断加工により生じるせん断加工材の残留応力は、プレス成形品の疲労寿命や遅れ破壊特性に影響を及ぼすことが知られている。そのため、せん断加工材の残留応力を把握することは、せん断加工材を使用したプレス成形品の疲労寿命等を保証する上で重要である。
【0003】
従来より、金属板の残留応力は、X線又は超音波を用いて測定されたり、金属板の変形過程におけるひずみの測定により算出されている。さらには、せん断加工過程の有限要素解析による予測が行われている。
特許文献1には、試料にX線を照射した際に当該試料から発する回折X線を検出し、その回折X線の情報に基づいて試料内部の応力を非破壊で測定する技術が開示されている。
また、特許文献2には、塑性変形した被検査体(例えば、金属板等)に超音波を発生させ、測定された超音波の音速情報に基づいて残留応力を非破壊で測定する技術が開示されている。
さらに、特許文献3には、金属板を塑性変形させる変形過程における変形部位のひずみを測定してひずみ履歴を取得し、取得したひずみ履歴に基づいて変形部位の変形開始から終了までの応力を逐次更新することにより、変形部位の残留応力を求める技術が開示されている。
【0004】
また、せん断加工過程の有限要素解析による残留応力の予測に関しては、一般的に広く使用されている有限要素解析ソフトにより行うことが可能であり、このような有限要素解析においては材料構成則の高精度化が進められている。例えば、非特許文献1に開示されている材料構成則(以下、「Y-Uモデル」という)は、プレス成形品の残留応力の予測に重要なスプリングバック解析の高精度化に寄与している。さらに、非特許文献2では、延性材料が破断に至る破断条件が提示され、破断に至るまでの材料の挙動をシミュレーションするモデル化がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-333409号公報
【文献】特開2011-196953号公報
【文献】特許6981521号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】F. Yoshida and T. Uemori, International Journal of Mechanical Sciences, 45(2003), 1687-1702.
【文献】F. X. C. Andrade, M. Feucht, A. Haufe and F. Neukamm, International Journal of Fracture, 200(2016),127-150.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたX線を利用した応力の測定や、特許文献2に開示された超音波による残留応力の測定は、X線が入射又は超音波が発生する領域内で試料(金属板等)が均一であることを仮定している。そのために、これらの測定技術は、2種類以上の相を持つ金属板(例えば、DP(Dual Phase)鋼板等)の残留応力を正確に測定することが困難であるという課題があった。
その上、特許文献1及び特許文献2の技術はいずれも変形後の残留応力を測定するものであって、変形中の応力履歴を測定することはできないという課題があった。
【0008】
さらに、特許文献1及び特許文献2の技術はいずれも、測定対象とする試料において特定の1点の応力を求める技術であり、残留応力の分布を得るためには、複数箇所の応力を繰り返し測定することが必要であるという課題があった。
【0009】
また、特許文献3の技術は、塑性変形を受けた金属板に生じる残留応力を金属板の各位置で定義された座標系に基づいて算出するものである。そのため、変形過程の途中で金属板自体の回転変形により座標系の向きが変化すると、残留応力の発生方向が不明瞭になるという課題があった。
【0010】
このような特許文献1~3の技術に対して、有限要素解析により残留応力を予測する方法によれば、残留応力の分布の算出は容易に行うことが可能であった。しかしながら、有限要素解析に用いる有限要素解析ソフトに与える入力値(形状、材料特性、変形特性、境界条件等)が残留応力の予測結果に大きく影響する。そのため、有限要素解析により残留応力を正確に予測するためには、金属板の材料特性だけではなく、塑性変形を加える工具の変形特性や金属板と工具の接触条件や摺動特性といった境界条件等の種々の入力値をより正確な値にする必要があった。
【0011】
さらに、金属板のせん断加工材における残留応力を有限要素解析により予測するには、金属板の破断の条件を有限要素解析に組み込む必要がある。そして、破断の条件として、これまでに、Cockcroft 等の延性破断条件、特許文献2に開示されているGISSMO等の応力三軸度に基づく破断条件等、種々の破断クライテリアが提案されている。しかしながら、せん断加工における破断を正確に予測可能な判定基準は未だ確立されていない。
また、有限要素解析における破断現象のモデル化については、有限要素解析モデルの要素毎に破断の条件を満たすか否かを判定し、破断の条件を満たした要素は有限要素解析モデルから削除することが一般的である。しかしながら、要素を削除してしまうと、金属板(せん断加工材)の質量やエネルギーが消滅することになり、実際の破断現象との乖離の原因となり得る。このため、せん断加工後の金属板のせん断端面に生じる残留応力を、有限要素解析により高精度に予測することは非常に困難であるという課題があった。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、金属板のせん断加工を再現して試験片に形成されるせん断端部における残留応力を正確にかつ容易に求めることができる金属板のせん断加工試験方法及びシステムを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、疲労寿命や遅れ破壊特性に影響を及ぼす引張残留応力の発生を抑制するための対策を適切に施した金属板のせん断加工材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明に係る金属板のせん断加工試験方法は、金属板をせん断加工したせん断加工材のせん断端部における残留応力を算出するものであって、
前記せん断端部の形成過程を、前記金属板を供試材とした試験片のせん断加工により再現するせん断加工再現試験プロセスと、前記試験片に形成されたせん断端部のせん断端部側面における残留応力分布を算出する残留応力分布算出プロセスと、を含み、
前記せん断加工再現試験プロセスは、パンチと、ダイと、ホルダと、を有するせん断金型を用い、前記ダイと前記ホルダとの間に前記試験片を配置した状態で、前記パンチと前記ダイを相対的に移動させて前記試験片をせん断加工し、
前記残留応力分布算出プロセスは、変形履歴取得工程と、逐次応力更新工程と、残留応力分布算出工程と、を有し、
前記変形履歴取得工程は、
前記試験片に形成される前記せん断端部の前記せん断端部側面に複数の測定点を設定し、前記せん断加工再現試験プロセスでの前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程における前記複数の測定点それぞれの三次元座標を測定することにより、前記せん断端部の変形開始から変形終了までの前記せん断端部側面の表面変形履歴を取得する表面変形履歴取得ステップと、
前記取得した前記せん断端部側面の表面変形履歴から、前記せん断端部の変形過程における前記せん断端部側面のひずみ履歴を取得するひずみ履歴取得ステップと、
前記取得した前記せん断端部側面の表面変形履歴から、前記せん断端部の変形過程における前記せん断端部側面のスピン履歴を取得するスピン履歴取得ステップと、を有し、
前記逐次応力更新工程は、
前記ひずみ履歴取得ステップにおいて取得した前記せん断端部側面のひずみ履歴から取得ひずみ増分を算出する取得ひずみ増分算出ステップと、
前記ひずみ履歴取得ステップにおいて前記ひずみ履歴を取得したひずみ以外のひずみの増分であって前記せん断端部側面の変形状態を仮定して仮定ひずみ増分を算出する仮定ひずみ増分算出ステップと、
前記スピン履歴取得ステップにおいて取得した前記スピン履歴から取得スピン増分を算出する取得スピン増分算出ステップと、
前記取得ひずみ増分と、前記仮定ひずみ増分と、前記取得スピン増分と、を用いて、前記複数の測定点の応力増分を材料構成則に従って算出する応力増分算出ステップと、
前記複数の測定点それぞれについて算出した前記応力増分を用いて、前記複数の測定点それぞれの材料座標系における応力を、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形開始から変形終了まで逐次更新する逐次応力更新ステップと、を有し、
前記残留応力分布算出工程は、
前記逐次応力更新ステップにおいて逐次更新して求めた前記せん断端部の変形終了時における前記複数の測定点それぞれの材料座標系における応力をグローバル座標系における所定方向のグローバル応力値に変換し、該変換した前記複数の測定点それぞれのグローバル応力値を前記せん断端部側面の残留応力分布として求める応力座標系変換ステップを有する、ことを特徴とするものである。
【0014】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記残留応力分布算出工程は、前記応力座標系変換ステップにおいて求めた前記せん断端部側面の残留応力分布を表示する残留応力分布表示ステップをさらに有する、ことを特徴とするものである。
【0015】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記仮定ひずみ増分算出ステップは、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程から前記せん断端部側面の変形状態を仮定し、該仮定した変形状態での塑性力学理論に基づいて前記せん断端部側面における前記仮定ひずみ増分を算出する、ことを特徴とするものである。
【0016】
(4)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記仮定ひずみ増分算出ステップは、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程の有限要素解析により前記せん断端部側面の変形状態を仮定し、該仮定した変形状態に基づいて前記せん断端部側面における前記仮定ひずみ増分を算出する、ことを特徴とするものである。
【0017】
(5)本発明に係る金属板のせん断加工試験システムは、金属板をせん断加工したせん断加工材のせん断端部における残留応力を算出するものであって、
前記せん断端部の形成過程を、前記金属板を供試材とした試験片のせん断加工により再現するせん断加工再現試験装置と、前記試験片に形成されたせん断端部のせん断端部側面における残留応力分布を算出する残留応力分布算出装置と、を備え、
前記せん断加工再現試験装置は、パンチと、ダイと、ホルダと、を有するせん断金型を備え、前記ダイと前記ホルダとの間に前記試験片を配置した状態で、前記パンチと前記ダイを相対的に移動させて前記試験片をせん断加工し、
前記残留応力分布算出装置は、変形履歴取得ユニットと、逐次応力更新ユニットと、残留応力分布算出ユニットと、を有し、
前記変形履歴取得ユニットは、
前記試験片に形成される前記せん断端部の前記せん断端部側面に設定された複数の測定点について、前記せん断加工再現試験装置を用いた前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程における三次元座標を測定し、前記せん断端部の変形開始から変形終了までの前記せん断端部側面の表面変形履歴を取得する表面変形履歴取得部と、
前記取得した前記せん断端部側面の表面変形履歴から、前記せん断端部の変形過程における前記せん断端部側面のひずみ履歴を取得するひずみ履歴取得部と、
前記取得した前記せん断端部側面の表面変形履歴から、前記せん断端部の変形過程における前記せん断端部側面のスピン履歴を取得するスピン履歴取得部と、を有し、
前記逐次応力更新ユニットは、
前記ひずみ履歴取得部により取得した前記せん断端部側面のひずみ履歴から取得ひずみ増分を算出する取得ひずみ増分算出部と、
前記ひずみ履歴取得部により前記ひずみ履歴を取得したひずみ以外のひずみの増分であって前記せん断端部側面の変形状態を仮定して仮定ひずみ増分を算出する仮定ひずみ増分算出部と、
前記スピン履歴取得部により取得した前記スピン履歴から取得スピン増分を算出する取得スピン増分算出部と、
前記取得ひずみ増分と、前記仮定ひずみ増分と、前記取得スピン増分と、を用いて、前記複数の測定点それぞれの応力増分を材料構成則に従って算出する応力増分算出部と、
前記複数の測定点それぞれについて算出した前記応力増分を用いて、前記複数の測定点それぞれの材料座標系における応力を、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形開始から変形終了まで逐次更新する逐次応力更新部と、を有し、
前記残留応力分布算出ユニットは、
前記逐次応力更新部により逐次更新して求めた前記せん断端部の変形終了時における前記複数の測定点それぞれの材料座標系における応力をグローバル座標系における所定方向のグローバル応力値に変換し、該変換した前記複数の測定点それぞれのグローバル応力値を前記せん断端部側面の残留応力分布として求める応力座標系変換部を有する、ことを特徴とするものである。
【0018】
(6)上記(5)に記載のものにおいて、
前記残留応力分布算出ユニットは、前記応力座標系変換部により求めた前記せん断端部側面の残留応力分布を表示する残留応力分布表示部をさらに有する、ことを特徴とするものである。
【0019】
(7)上記(5)又は(6)に記載のものにおいて、
前記仮定ひずみ増分算出部は、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程から前記せん断端部側面の変形状態を仮定し、該仮定した変形状態での塑性力学理論に基づいて前記せん断端部側面における前記仮定ひずみ増分を算出する、ことを特徴とするものである。
【0020】
(8)上記(5)又は(6)に記載のものにおいて、
前記仮定ひずみ増分算出部は、前記試験片のせん断加工による前記せん断端部の変形過程の有限要素解析により前記せん断端部側面の変形状態を仮定し、該仮定した変形状態に基づいて前記せん断端部側面における前記仮定ひずみ増分を算出する、ことを特徴とするものである。
【0021】
(9)本発明に係る金属板のせん断加工材の製造方法は、金属板をせん断加工してせん断加工材を製造するものであって、
前記金属板をせん断加工する仮のせん断条件を設定する仮せん断条件設定工程と、
前記上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の金属板のせん断加工試験方法により、前記仮のせん断条件で前記試験片をせん断加工することにより前記金属板のせん断端部の形成過程を再現し、前記試験片に形成された前記せん断端部の前記せん断端部側面の表面変形履歴に基づき、前記せん断端部側面における残留応力分布を算出するせん断加工再現試験工程と、
前記せん断端部側面における引張残留応力が、予め定めた所定の範囲内であるか判定する引張残留応力量判定工程と、
前記引張残留応力が予め定めた所定の範囲外であると判定された場合、前記仮のせん断条件を変更する仮せん断条件変更工程と、
前記引張残留応力が予め定めた所定の範囲内と判定されるまで、前記仮せん断条件変更工程と、前記せん断加工再現試験工程と、前記引張残留応力量判定工程と、を繰り返し実行する繰り返し工程と、
前記引張残留応力量判定工程において前記引張残留応力が予め定めた所定の範囲内と判定された場合、その場合の前記仮のせん断条件をせん断条件として決定するせん断条件決定工程と、
該決定したせん断条件で前記金属板をせん断加工するせん断加工工程と、を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、金属板をせん断加工したせん断加工材のせん断端部の形成過程を、金属板を供試材とした試験片のせん断加工により再現し、試験片に形成されるせん断端部の変形過程におけるせん断端部側面の表面変形履歴を取得する。そして、取得したせん断端部側面の表面変形履歴に基づいて、せん断端部の変形開始から変形終了までのせん断端部側面の応力を逐次更新して求める。これにより、試験片のせん断加工によりせん断端部側面における測定点の位置毎に材料座標系の向きが変化する場合であっても、応力の方向を揃えてせん断端部側面における残留応力分布を高精度かつ容易に求めることができる。
【0023】
また、本発明によれば、試験片のせん断端部側面について求めた残留応力分布から最大残留応力(最大の引張残留応力)を評価することで、せん断加工により生成されたせん断端面において遅れ破壊又は疲労破壊のき裂の起点となり得る部位の有無を判断することも可能である。
【0024】
さらに、本発明によれば、試験片のせん断加工によるせん断端部の変形中においても高精度な応力分布の履歴を取得することが可能である。その上、有限要素解析では予測困難な金属板の破壊を伴うせん断変形等についても、せん断端部に生じた残留応力分布を正確かつ容易に算出することができる。
【0025】
また、本発明においては、せん断加工した金属板のせん断端部側面における残留応力分布を求めることにより、疲労寿命や遅れ破壊特性に影響を及ぼす引張残留応力の発生を抑制するための対策を適切に施した金属板のせん断加工材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験方法における処理の流れを示すフロー図である((a)全体、(b)残留応力分布算出プロセス)。
図2】本発明で対象とするせん断加工材を説明する図である。
図3】せん断加工材のせん断端面における残留応力とせん断端部側面における最大残留応力との相関を示すグラフである((a)せん断端面及びせん断端部側面の位置、(b)残留応力の相関を示すグラフ)。
図4】金属板のせん断加工前後における材料座標系及びグローバル座標系の向きの変化を説明する図である((a)せん断加工前、(b)せん断加工後)。
図5】本発明の実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験システムの構成を説明する図である。
図6】本実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験方法において、試験片のせん断端部側面に設定した3つ測定点について測定したせん断加工による変形前後の三次元座標から、各測定点の表面変形履歴と、当該3つの測定点からなる領域に生じるひずみとスピンを説明する図である((a)せん断加工による変形前、(b)せん断加工による変形後)。
図7】本発明の実施の形態2に係る金属板のせん断加工材の製造方法における処理の流れを示すフロー図である。
図8】実施例1において、試験片のせん断加工によるせん断端部の変形過程におけるせん断端部側面の残留応力を求めるせん断加工試験装置と、試験片の形状を説明する図である((a)せん断加工試験装置の側面図、(b)せん断加工試験装置の正面図、(c)試験片)。
図9】実施例1において、せん断加工した試験片のせん断端部の残留応力分布を示すコンター図である。
図10】実施例1において、試験片のせん断端部におけるせん断端面からの距離と、板厚中央部における板厚方向残留応力と、の関係を示すグラフである。
図11】実施例2において、仮のせん断条件と、せん断端部側面における残留応力が所定の範囲となるように決定したせん断条件と、により形成した試験片のせん断端部側面における残留応力分布を示すコンター図である((a)仮のせん断条件、(b)残留応力が所定の範囲となるように決定したせん断条件)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態を説明するに先立ち、本発明に至った経緯について説明する。
<本発明に至った経緯>
図2に示すように、せん断刃110を用いて金属板100をせん断加工すると、製品に用いられるせん断加工材101と、廃棄されるスクラップ材111と、に切断され、せん断加工材101には、せん断加工により塑性変形が生じたせん断端部103が形成される。そして、せん断端部103は、せん断加工により新たに生成される表面であるせん断端面105と、金属板100の板側面109の一部であってせん断端部103の形成により変形を受けるせん断端部側面107と、を有する。なお、せん断端部103は、せん断端面105より1mm未満の範囲である。
【0028】
せん断加工材101を用いた部品(例えば、プレス成形品)の使用状態における疲労破壊や遅れ破壊のき裂は、せん断端面105から発生し、残留応力の高い部位が起点となることが知られている。
【0029】
そのため、せん断加工材101の疲労破壊や遅れ破壊の発生を抑制するためには、せん断加工材101のせん断端面105における残留応力を把握し、当該残留応力が低くなるようにせん断加工材101を製造することが重要になる。
しかしながら、前述したように、せん断端面105の残留応力を求めることは困難であった。そこで、発明者は、疲労破壊や遅れ破壊のき裂の起点となるせん断端面105の残留応力を把握する方法を鋭意検討した。
【0030】
当該検討において、せん断加工により生成されるせん断端面105における残留応力は、せん断端部の形成により変形を受けるせん断端部側面における残留応力と、関係するのではないかと考えた。そこで、図3(a)に示すように、金属板100をせん断加工したせん断加工材101のせん断端面105の板厚方向中央における残留応力をX線回折法(XRD)により測定し、せん断端部側面107における残留応力との関係を調査した。
【0031】
その結果、図3(b)に示すように、せん断端面105の板厚方向中央における残留応力は、せん断端部側面107における最大の引張残留応力(以下、「最大残留応力」という)。と相関することを見い出した。
【0032】
このことから、発明者は、せん断端部側面107における残留応力分布から最大残留応力を求めることができれば、せん断端面105において疲労破壊や遅れ破壊のき裂の起点となる部位の有無を判断できるのではないかと考えた。
【0033】
次に、発明者は、せん断端部側面107の残留応力分布を求める方法について検討した。
前述した特許文献3に開示された方法によれば、塑性変形を受ける金属板の変形部位の板側面におけるひずみ履歴を取得し、板側面の変形開始から終了までの応力を逐次更新することにより、変形部位の残留応力分布を求めることができる。しかしながら、当該方法は、塑性変形を受けた金属板の変形部位に生じる残留応力を、ひずみを測定する各測定点の位置で定義された座標系に基づいて算出するため、変形過程の途中で金属板自体の回転変形により座標系の向きが変化すると残留応力の発生方向が不明瞭になるという課題があった。
【0034】
塑性変形を受けた金属板の材料座標系の向きが変化する一例として、図4に示すような、せん断加工する金属板100について考える。図4において、(a)はせん断加工前の金属板100、(b)はせん断加工後の金属板100(せん断加工材101及びスクラップ材111)を示している。ここで、金属板100の各位置で定義される座標系を材料座標系と称す。これに対し、せん断加工により変形する金属板100を外部から見た時の座標系をグローバル座標系と称す。
【0035】
せん断加工前の金属板100においては、図4(a)に示すように、材料座標系の向きは金属板100における位置によらず一定であり、グローバル座標系の向きと一致している。
これに対し、せん断加工により変形した後のせん断加工材101においては、図4(b)に示すように、せん断加工材101における位置の違いによって材料座標系の向きは異なり、グローバル座標系の向きと乖離している。
【0036】
すなわち、材料座標系は、せん断加工材101に生じた変形に応じて向きが変化し、さらには、せん断加工材101における位置により向きが異なる。
これに対し、グローバル座標系は、材料座標系とは異なり、せん断加工によるせん断加工材101の変形によって向きは変化せず、せん断加工材101の位置によらず同一である。
【0037】
また、せん断加工により変形したせん断加工材における残留応力の分布を算出するためには、せん断加工材101における複数の位置について残留応力を算出する必要がある。しかしながら、特許文献3に開示された方法で算出される残留応力は、応力を算出する位置の材料座標系に従うものである。そのため、複数の位置における残留応力を算出する場合、位置によって残留応力の方向が異なるためにばらつきが生じて不揃いとなってしまう可能性があった。
【0038】
残留応力の方向を揃えるためには、残留応力を算出した測定点の位置毎に材料座標系の向きに基づいて残留応力の方向を一致させればよいと考えられる。しかしながら、特許文献3に開示された方法では、ひずみ履歴のみを用いて変形過程における応力を逐次計算している。そのため、変形過程においてせん断加工材101がどのような向きに変化しているかが分からず、応力を計算する測定点の位置毎の材料座標系の向きに関する情報を得ることはできなかった。
【0039】
そこで、発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した。その結果、金属板のせん断加工による変形過程におけるひずみの履歴だけでなく、ひずみの履歴を取得する各測定点において材料座標系の回転(以降、「スピン」と呼ぶ)の履歴についても取得することを想起した。
そして、各測定点におけるスピンの履歴を、金属板の変形過程において逐次更新される材料座標系のグローバル座標系に対する向きに関する情報、として取得する。さらに、金属板の各測定点において材料座標系に従って算出した残留応力をスピンの履歴に基づいてグローバル座標系における所定の方向の応力に変換することで、複数の測定点における残留応力の向きを揃えてその分布が得られることを見い出した。
【0040】
本発明は、上記検討の結果に基づいてなされたものであり、以下、具体的に説明する。
【0041】
[実施の形態1]
<金属板のせん断加工試験方法>
本発明の実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験方法は、せん断加工した金属板のせん断端部における残留応力を算出するものであり、図1(a)に示すように、せん断加工再現試験プロセスP1と、残留応力分布算出プロセスP3と、を含む。そして、残留応力分布算出プロセスP3は、図1(b)に示すように、変形履歴取得工程S10と、逐次応力更新工程S20と、残留応力分布算出工程S30と、を含むものである。
以下、図2に示すように、せん断加工した試験片121における変形部位であるせん断端部123のせん断端部側面127の残留応力分布を算出する場合について、上記の各プロセス及び各工程について説明する。
【0042】
[せん断加工再現試験プロセス]
せん断加工再現試験プロセスP1は、金属板100をせん断加工したせん断加工材101のせん断端部103の形成過程を、金属板を供試材とした試験片121のせん断加工により再現するプロセスである(図2参照)。
【0043】
せん断加工再現試験プロセスP1は、例えば図5に示すように、パンチ13と、ダイ15と、ホルダ17とを有するせん断金型11を用い、試験片121のせん断加工をすることができる。せん断金型11を用いたせん断加工は、ダイ15とホルダ17の間に試験片121を配置し、せん断加工中に試験片121がダイ15から浮き上がることを防止するためダイ15とホルダ17とをボルトで固定した状態で、パンチ13とダイ15を相対的に移動させる。
なお、試験片121がダイ15から浮き上がることを防止する方法は、ボルトによる固定に限らず、例えば、油圧等の動力源を用いてホルダ17に一定荷重を付与しても良い。
【0044】
[残留応力分布算出プロセス]
残留応力分布算出プロセスP3は、せん断加工再現試験プロセスP1において試験片121に形成されたせん断端部123のせん断端部側面127(図2参照)における残留応力分布を算出するプロセスである。
【0045】
残留応力分布算出プロセスP3は、図1(b)に示すように、変形履歴取得工程S10、逐次応力更新工程S20、及び残留応力分布算出工程S30を含む。
【0046】
≪変形履歴取得工程≫
変形履歴取得工程S10は、試験片121のせん断加工によるせん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127の変形履歴を取得する工程であり、図1(b)に示すように、表面変形履歴取得ステップS11と、ひずみ履歴取得ステップS13と、スピン履歴取得ステップS15と、を有する。
【0047】
(表面変形履歴取得ステップ)
表面変形履歴取得ステップS11は、試験片121におけるせん断端部側面127に複数の測定点を設定し、せん断加工再現試験プロセスP1において試験片121をせん断加工する過程における各測定点の三次元座標を測定することにより、せん断端部123の変形開始から変形終了までのせん断端部側面127の表面変形履歴を取得するステップである。
本実施の形態1では、図5に示すように、試験片121のせん断端部側面127を撮影可能な位置に2台のカメラ29を設置する。そして、各測定点の三次元座標をデジタル画像相関法(Digital Image Correlation、以下、「DIC」という)により測定する。
【0048】
DICにおいては、2台のカメラ29を用いて試験片121のせん断加工によるせん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127を所定の時間間隔で撮像し、各時間ステップにおいて撮像した画像(以下、「DIC画像」という)を画像解析する。これにより、せん断端部123の変形開始から変形終了までの各時間ステップにおける各測定点の三次元座標を測定することができる。
なお、2台のカメラ29による撮影範囲は、図2に示すように、試験片121のせん断端部側面127を含む板側面129aが、変形開始から変形終了まで常に撮影範囲外へ外れない範囲に決定すればよい。また、試験片121のせん断端部側面127を含む板側面129aが撮影できればよく、板側面129の全体を撮影する必要はない。
【0049】
(ひずみ履歴取得ステップ)
ひずみ履歴取得ステップS13は、表面変形履歴取得ステップS11において取得したせん断端部側面127の表面変形履歴から、試験片121のせん断加工におけるせん断端部側面127のひずみ履歴を取得するステップである。
【0050】
(スピン履歴取得ステップ)
スピン履歴取得ステップS15は、表面変形履歴取得ステップS11において取得したせん断端部側面127の表面変形履歴から、せん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127のスピン履歴を取得するステップである。
【0051】
変形履歴取得工程S10における具体的な処理について、図6に示すように、せん断端部側面127に3つの測定点を設定した場合を例として説明する。
【0052】
まず、図6に示すように、せん断端部側面127に複数の測定点を設定し、試験片のせん断加工によるせん断端部123の変形過程において所定の時間間隔で各測定点の三次元座標を測定する。
【0053】
図6において、変形過程のある時間ステップにおける各測定点の座標を変形前の座標Xiとし、当該時間ステップから所定の時間間隔が経過した後の時間ステップにおける各測定点の座標を変形後の座標xiとする(i=0,1,2)。
【0054】
そして、変形前の時間ステップにおいて3つの測定点からなる領域a1が、変形後の時間ステップにおいて領域a2へと変形した場合、3つの測定点からなる領域の変形により生じるひずみとスピンは次のように算出することができる。
【0055】
変形前の領域a1と変形後の領域a2のそれぞれについて座標X0及びx0の測定点を基準とする。そして、座標Xi、xi(i=1、2)の測定点の基準点(X0又はx0)からの相対的な位置を、それぞれ、dXi=Xi-X0(i=1、2)、dxi=xi-x0(i=1、2)と表す。この時、dxi=FdXiを満たすFを変形勾配テンソルと呼ぶ。
【0056】
一般に、複数の測定点からなる領域の変形は前述の3つの測定点の変位から求める必要はなく、以下の式(1)で表すことができる。
【数1】
【0057】
式(1)を変形勾配テンソルFについて解くと、式(2)となる。
【数2】
【0058】
さらに、変形勾配テンソルFを用いて、右コーシー・グリーン変形テンソルC及び右ストレッチテンソルUは、それぞれ、式(3)及び(4)で表される。
【数3】
【0059】
これらを用いて、対数ひずみテンソル(ヘンキーひずみテンソルE)及びスピンテンソルRは、それぞれ、式(5)及び式(6)で定義される。
【数4】
【0060】
式(5)において、ヘンキーひずみテンソルEは、変形開始から変形終了までの各時間ステップにおけるひずみである。
また、式(6)において、スピンテンソルRは、変形開始から変形終了までの各時間ステップにおけるスピンである。
【0061】
前述したように、DICによる変形履歴の取得においては、まず、変形過程における試験片121のせん断端部側面127を所定の時間間隔で撮像する。
次に、各時間ステップにおいて撮像したDIC画像を画像解析し、せん断端部側面127に設定した各測定点の三次元座標(Xi、xi)を測定する。
続いて、測定した各測定点の三次元座標から、せん断端部側面127の所定位置におけるヘンキーひずみテンソルEとスピンテンソルRを算出する(式(1)~式(6))。
【0062】
そして、変形開始から変形終了までの各時間ステップにおいて算出したヘンキーひずみテンソルEをひずみ履歴として取得する(S13)。
同様に、変形開始から変形終了までの各時間ステップにおいて算出したスピンテンソルRをスピン履歴として取得する(S15)。
【0063】
≪逐次応力更新工程≫
逐次応力更新工程S20は、試験片121のせん断端部側面127に設定した各測定点の材料座標系における応力(以下、「ローカル応力」ともいう)をせん断端部123の変形過程の変形開始から変形終了まで逐次更新する工程である。
そして、逐次応力更新工程S20は、図1(b)に示すように、取得ひずみ増分算出ステップS21と、仮定ひずみ増分算出ステップS23と、取得スピン増分算出ステップS25と、応力増分算出ステップS27と、逐次応力更新ステップS29と、を有する。
【0064】
(取得ひずみ増分算出ステップ)
まず、取得ひずみ増分算出ステップS21においては、ひずみ履歴取得ステップS13において取得したせん断端部側面127のひずみ履歴から取得ひずみ増分を算出する。
取得ひずみ増分とは、ひずみ履歴取得ステップS13においてひずみ履歴を取得したひずみの時間ステップごとのひずみの増分である。
表面変形履歴取得ステップS11においてせん断端部側面127に設定した各測定点の変形過程における三次元座標を表面変形履歴として取得した場合、ひずみ履歴取得ステップS13において取得するひずみ履歴は面内2方向のひずみと面内のせん断ひずみである。そのため、取得ひずみ増分算出ステップS21において算出される取得ひずみ増分は、面内2方向のひずみ及び面内のせん断ひずみのそれぞれのひずみ増分である。
【0065】
そして、取得ひずみ増分は、ひずみ履歴を取得した時間ステップごとに算出する。各時間ステップにおける取得ひずみ増分は、例えば、当該時間ステップにおけるひずみとその前後の時間ステップにおけるひずみから算出することができる。
【0066】
(仮定ひずみ増分算出ステップ)
次に、仮定ひずみ増分算出ステップS23においては、仮定ひずみ増分を算出する。
仮定ひずみ増分とは、ひずみ履歴取得ステップS13においてひずみ履歴を取得したひずみ以外の時間ステップごとのひずみの増分である。そして、ひずみ履歴を取得したひずみ以外のひずみは、試験片121のせん断加工によるせん断端部123の変形過程からせん断端部側面127の変形状態を仮定し、仮定した変形状態での塑性力学理論に基づいて求めることができる。
【0067】
前述したように、ひずみ履歴取得ステップS13においては、せん断端部側面127の面内2方向(x方向及びy方向)それぞれのひずみεx及びεyと、面内(xy平面)のせん断ひずみεxyと、の3成分のひずみが算出される。
【0068】
しかしながら、試験片121のせん断端部側面127には、面内方向のひずみ成分だけではなく、面外方向(z方向)のひずみ成分を含めた6成分のひずみ(εx、εy、εz、εxy、εyz、εzx)が生じている。
【0069】
一般的に、せん断加工による変形過程における試験片121の表面は自由表面となっているので、試験片121の表面の垂直方向には応力が生じない。すなわち、試験片121のせん断端部側面127の変形状態は、平面応力状態であると仮定することができる。
【0070】
そして、仮定した変形状態での塑性力学理論に基づいて、DICにより取得した表面変形履歴により取得されるひずみ(εx、εy及びεxy)と、未知の面外方向を含むひずみ(εz、εyz、εzx)と、により面外方向の応力増分を与える式が得られる。
【0071】
ここで、せん断端部側面127の変形状態を平面応力状態であると仮定すると、面外方向の応力増分は0となるので、塑性力学理論に基づくひずみと応力増分の式を用いて、面外方向のひずみ(εz)を一義に算出することができる。
【0072】
すなわち、試験片121のせん断加工によるせん断端部123の変形過程からせん断端部側面127の変形状態を仮定する。そして、仮定した変形状態における塑性力学理論に基づいて、ひずみ履歴取得ステップS13においてひずみ履歴を取得したひずみ以外のひずみを求めることができる。
【0073】
このように、仮定ひずみ増分算出ステップS23では、せん断端部123の変形過程の各時間ステップにおいてひずみ履歴を取得したひずみ以外のひずみをせん断端部側面127の変形状態を仮定して算出する。そして、前述した取得ひずみ増分と同様、せん断端部123の変形過程の各時間ステップにおいてせん断端部側面127の変形状態を仮定して算出したひずみ(仮定ひずみ)から仮定ひずみ増分を算出する。各時間ステップにおける仮定ひずみ増分は、前述した取得ひずみ増分と同様、当該時間ステップとその前後の時間ステップにおいて求めたひずみから算出することができる。
【0074】
(取得スピン増分算出ステップ)
続いて、取得スピン増分算出ステップS25においては、スピン履歴取得ステップS15で取得したスピン履歴から取得スピン増分を算出する。ここで、取得スピン増分とは、所定の時間間隔で取得したせん断端部側面127の時間ステップごとのスピンの増分である。
各時間ステップにおける取得スピン増分は、例えば、当該時間ステップにおけるスピンとその前後の時間ステップにおけるスピンから算出することができる。
【0075】
(応力増分算出ステップ)
続いて、応力増分算出ステップS27においては、取得ひずみ増分及び仮定ひずみ増分と取得スピン増分とを用いて、変形過程におけるせん断端部側面127の応力増分を算出する。
【0076】
応力増分の算出には弾塑性力学に基づく材料構成則を用いることができる。このとき、材料座標系における応力増分は、ひずみ増分(取得ひずみ増分及び仮定ひずみ増分)とスピン増分とにより式(7)に示す関係で表される。
【数5】
【0077】
式(7)において、ひずみ増分テンソルDは単位時間ステップでのひずみテンソルEの増加量であり、スピン増分テンソルWは単位時間ステップでのスピンテンソルRの増加量である。
【0078】
さらに、式(7)における弾塑性係数テンソルCepは、式(8)で与えることができる。
【数6】
【0079】
本実施の形態1では、材料構成則の一例として、バウシンガー効果を高精度に再現可能である非特許文献1に開示されているY-Uモデルに基づいて、ひずみ増分(取得ひずみ増分、仮定ひずみ増分)から応力増分を算出する。
【0080】
Y-Uモデルは、限界曲面内を降伏曲面が移動する二曲面モデルに分類することができ、限界曲面(中心β、半径R)及び降伏曲面(中心α、半径Y)の発展がひずみ増分により以下の式(9)で定義されている。
【0081】
【数7】
【0082】
このとき、式(8)は式(10)で表される。
【数8】
【0083】
このように、ひずみ増分とスピン増分が明らかとなれば材料構成則に従って応力増分が得られる。
【0084】
なお、材料構成則は、前述のY-Uモデルに限るものではなく、任意の材料構成則に従って弾塑性係数テンソルを計算してもよい。
例えば、Y-Uモデルではなく等方硬化を仮定した材料構成則を用いた場合、弾塑性係数テンソルCepは、式(11)で表される。
【数9】
【0085】
また、弾塑性係数テンソルCepを与えるのに用いる降伏関数fには、等方性であるvon Misesの降伏関数のみではなく、材料(金属板)の異方性を高精度に表現可能なHill’48やYld2000-2d等、任意の降伏関数を用いることが可能である。
【0086】
(逐次応力更新ステップ)
続いて、逐次応力更新ステップS29においては、各測定点について算出した応力増分を用いて、各測定点の材料座標系における応力をせん断端部の変形開始から変形終了まで逐次更新する。
【0087】
逐次応力更新ステップS29では、まず、変形過程のある時間ステップにおいて、各測定点について算出した応力増分を用いてローカル応力を更新する(S29a)。
そして、全ての測定点の応力更新が終了しているか否かを判定する(S29b)。
【0088】
全ての測定点の応力更新が終了していないと判定された場合(S29b)、図1(b)に示すように、応力更新が終了していない測定点について前述したS21、S23、S25、S27及びS29の各処理を実行し、ローカル応力を更新する(S29a)。
【0089】
全ての測定点について応力更新が終了していると判定された場合(S29b)、せん断端部の変形終了であるか否か、すなわち、せん断端部の変形終了まで次の時間ステップがあるか否かを判定する(S29c)。
【0090】
変形終了ではないと判定された場合、変形過程の次の時間ステップに進む。そして、全ての測定点について、取得ひずみ増分の算出(S21)、仮定ひずみ増分の算出(S23)と、取得スピン増分の算出(S25)と、応力増分の算出(S27)、ローカル応力の逐次更新(S29a)、応力更新の判定(S29b)と、を実行する。
このように、逐次応力更新ステップS29においては、S29a~S29cの処理を行うことで、変形開始から変形終了までの全ての測定点のローカル応力を逐次更新する。
【0091】
≪残留応力分布算出工程≫
残留応力分布算出工程S30は、せん断端部123の変形終了時における各測定点のローカル応力をグローバル座標系におけるグローバル応力値に変換し、せん断端部側面127の残留応力分布を算出する工程である。本実施の形態1において、残留応力分布算出工程S30は、応力座標系変換ステップS31と、残留応力分布表示ステップS33と、を有する。
【0092】
(応力座標系変換ステップ)
まず、応力座標系変換ステップS31においては、逐次応力更新工程S20においてせん断端部123の変形開始から変形終了まで逐次更新した各測定点のローカル応力のうち、変形終了時のローカル応力を、グローバル座標系における所定方向の応力の値(グローバル応力値)に変換する。そして、応力座標系変換ステップS31においては、変換した各測定点のグローバル応力値をせん断端部側面127の残留応力分布として求める。
【0093】
各測定点について求めたローカル応力をσとし、グローバル座標系における所定の方向のベクトルをnとすると、グローバル座標系でのグローバル応力値σgは、式(12)により算出することができる。
【数10】
【0094】
グローバル座標系における所定方向は、グローバル座標系で表される方向であれば特に限定されるものではなく、応力の方向を揃えて算出する方向を適宜設定すればよい。
【0095】
(残留応力分布表示ステップ)
続いて、残留応力分布表示ステップS33においては、応力座標系変換ステップS31で求めたせん断端部側面127の残留応力分布を表示する。
【0096】
残留応力分布を表示させるためには、例えば、グローバル応力値を求めた各測定点の座標をせん断端部側面127のDIC画像上での座標に変換するとよい。
【0097】
せん断端部側面127のDIC画像上での座標に変換にするためには、式(13)により、グローバル座標系における各測定点の座標(X,Y,Z)をDIC画像上の二次元平面における座標(u,v)に変換することができる。
【数11】
【0098】
なお、本実施の形態1において、残留応力分布算出工程S30は、逐次応力更新工程S20の終了後に行うものであった。もっとも、せん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127のひずみ分布を表示させるには、逐次応力更新ステップS29において、時間ステップ毎に全ての測定点の応力更新の終了後(S29b)に、残留応力分布算出工程S30を時間ステップ毎に実施してもよい。
【0099】
以上、本実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験方法においては、金属板100をせん断加工したせん断加工材101のせん断端部103の形成過程を、金属板100を供試材とした試験片121のせん断加工により再現する。そして、試験片121のせん断加工により形成されるせん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127の表面変形履歴を取得する。さらに、せん断端部側面127の表面変形履歴に基づいて、せん断端部123の変形開始から変形終了までのせん断端部側面127の応力を逐次更新して求める。これにより、試験片121のせん断加工によりせん断端部側面127における測定点の位置毎に材料座標系の向きが変化する場合であっても、応力の方向を揃えてせん断端部側面127における残留応力分布を高精度に求めることができる。
【0100】
また、前述した図3(b)に示したように、せん断端部側面127における最大残留応力は、せん断端面125の残留応力と相関する。このことから、本実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験方法によれば、試験片121のせん断端部側面127について求めた残留応力分布から最大残留応力を評価することで、せん断加工により生成されたせん断端面125において遅れ破壊又は疲労破壊のき裂の起点となり得る部位の有無を判断することも可能である。なお、当該判断は、例えば、せん断端部側面127における最大残留応力が所定の値を超えているか否かにより行うことができる。
【0101】
さらに、本実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験方法においては、試験片121のせん断加工によるせん断端部123の変形中においても、せん断端部側面127の応力分布の履歴を高精度に算出することが可能である。さらに、有限要素解析では予測困難な金属板の破壊を伴うせん断変形等についても、金属板のせん断端部側面に生じた残留応力分布を正確かつ容易に算出することができる。
【0102】
なお、本実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験方法において、仮定ひずみ増分算出ステップS23は、試験片121におけるせん断端部123の変形過程からせん断端部側面127の変形状態を仮定し、仮定した変形状態での塑性力学理論に基づいて仮定ひずみ増分を算出するものであった。
もっとも、本発明において、仮定ひずみ増分算出ステップは、試験片121のせん断加工によりせん断端部123が塑性変形する過程の有限要素解析を行い、その結果からせん断端部側面127の変形状態(例えば、ひずみ比)を仮定し、せん断端部側面127における仮定ひずみ増分を算出するものであってもよい。
【0103】
せん断端部123の変形過程の有限要素解析によりせん断端部側面127の変形状態を仮定して仮定ひずみ増分を算出する場合、試験片121全体を解析対象とする必要はなく、せん断端部123とその近傍のみをモデル化して有限要素解析を実施すればよい。これにより、試験片121全体を解析対象とした有限要素解析に比べると、より短時間でせん断端部側面127の変形状態を仮定することが可能となる。
【0104】
特に、板厚方向の応力が高精度に計算できるソリッド要素を用いた有限要素解析は、計算時間が大幅に増大するため、一般的な金属板のせん断加工を対象に用いられることは少ない。しかしながら、せん断加工により塑性変形するせん断端部を含む金属板の一部を解析対象とするものであれば、ソリッド要素を用いて有限要素解析を行ったとしても、短時間かつ高精度にせん断端部側面の変形状態を予測することができる。
したがって、本発明においては、ソリッド要素による有限要素解析による予測された変形状態を仮定し、せん断端部の変形過程におけるせん断端部側面127のひずみ履歴とスピン履歴の取得を組み合わせることにより、せん断端部側面における残留応力分布をさらに高精度に算出することが可能となる。
【0105】
[実施の形態2]
<金属板のせん断加工試験システム>
本発明の実施の形態2に係る金属板のせん断加工試験システム(以下、「せん断加工試験システム」という)は、金属板のせん断加工材のせん断端部に生じる残留応力の分布を算出するものである。
以下、図5に示すように、試験片121のせん断加工し、せん断端部側面127に生じる残留応力の分布を算出する場合について、せん断加工試験システム1の各構成を説明する。
【0106】
せん断加工試験システム1は、一例として図5に示すように、試験片121をせん断加工するせん断加工再現試験装置10と、せん断加工により試験片121に形成されたせん断端部123のせん断端部側面127(図2参照)における残留応力分布を算出する残留応力分布算出装置20と、を備えている。
【0107】
≪せん断加工再現試験装置≫
せん断加工再現試験装置10は、せん断加工した金属板のせん断端部の形成過程を、金属板を供試材とした試験片121のせん断加工により再現する装置である。そして、せん断加工再現試験装置10は、図5に例示するように、パンチ(上刃)13と、ダイ(下刃)15と、ホルダ17と、を有するせん断金型11を備え、ダイ15とホルダ17との間に試験片121を配置した状態で、パンチ13とダイ15を相対的に移動させて試験片121をせん断加工するものである。
【0108】
≪残留応力分布算出装置≫
残留応力分布算出装置20は、せん断加工再現試験装置10により試験片121に形成されたせん断端部123のせん断端部側面127における残留応力分布を算出する装置である。
【0109】
本実施の形態2において、残留応力分布算出装置20は、図5に示すように、表示装置21、入力装置23、主記憶装置25、補助記憶装置27、カメラ29、29、及び測定制御・演算処理部31を備えて構成される。
【0110】
残留応力分布算出装置20において、表示装置21、入力装置23、主記憶装置25、補助記憶装置27及び測定制御・演算処理部31は、PC(パーソナルコンピュータ)等によって構成されたものを適用することができる。この場合、表示装置21と、入力装置23と、主記憶装置25と、補助記憶装置27と、カメラ29、29は、測定制御・演算処理部31に接続され、測定制御・演算処理部31からの指令によってそれぞれの機能が実行される。
【0111】
表示装置21は、2台のカメラ29により撮像した試験片121のせん断端部123におけるせん断端部側面127の画像や、算出したせん断端部側面127における残留応力分布の表示等に用いられ、液晶モニター等で構成される。
【0112】
入力装置23は、せん断端部側面127の画像や残留応力分布の表示指示や、操作者による条件入力等に用いられ、キーボードやマウス等で構成される。
【0113】
主記憶装置25は、2台のカメラ29によりせん断端部側面127を撮像した画像や、残留応力分布を算出するためのプログラム等といった各種ファイルの記憶等に用いられ、ハードディスク等で構成される。
【0114】
補助記憶装置27は、測定制御・演算処理部31で使用するデータの一時保存や演算に用いられ、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0115】
カメラ29、29は、試験片121のせん断加工によるせん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127をステレオ撮影するものである。
【0116】
測定制御・演算処理部31は、せん断端部側面127の表面変形履歴の測定を制御する測定制御部33と、測定した表面変形履歴に基づいて残留応力分布を算出するための演算処理を行う演算処理部35と、を有する。
【0117】
測定制御部33は、画像撮影手段33aと、三次元座標算出手段33bと、を有する。
画像撮影手段33aは、2台のカメラ29により、試験片121のせん断加工によるせん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127の所定の時間間隔での撮像を制御するものである。
三次元座標算出手段33bは、撮像したせん断端部側面127の画像を画像解析することにより、せん断端部側面127に設定した複数の測定点について変形過程における三次元座標を算出するものである。
【0118】
本実施の形態2において、三次元座標算出手段33bは、2台のカメラ29により試験片121のせん断端部側面127をステレオ撮影した画像をDICにより画像処理し、せん断端部側面127に設定した複数の測定点の三次元座標を算出する。
【0119】
DICにおいては、試験片121のせん断端部123の変形過程においてせん断端部側面127を所定の時間間隔で撮像し、各時間ステップにおいて撮像した画像(以下、「DIC画像」という)を画像解析する。これにより、せん断端部123の変形開始から変形終了までの各時間ステップにおける各測定点の三次元座標で測定することができる。
≪変形履歴取得ユニット≫
変形履歴取得ユニット37は、試験片121のせん断加工によるせん断端部123の変形過程において、せん断端部側面127の表面変形履歴を取得し、取得した表面変形履歴からせん断端部側面127に生じるひずみ履歴とスピン履歴とを取得するものである。
変形履歴取得ユニット37は、図5に示すように、表面変形履歴取得部37aと、ひずみ履歴取得部37bと、スピン履歴取得部37cと、を有する。
【0120】
表面変形履歴取得部37aは、試験片121に形成されるせん断端部123のせん断端部側面127に設定された複数の測定点について、せん断加工再現試験装置10を用いた試験片121のせん断加工によるせん断端部123の変形過程における三次元座標を測定し、せん断端部123の変形開始から変形終了までのせん断端部側面127の表面変形履歴として取得するものである。
【0121】
ひずみ履歴取得部37bは、表面変形履歴取得部37aにより取得したせん断端部側面127の表面変形履歴から、せん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127のひずみ履歴を取得するものである。
【0122】
スピン履歴取得部37cは、表面変形履歴取得部37aにより取得したせん断端部側面127の表面変形履歴から、せん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127のスピン履歴を取得するものである。
【0123】
≪逐次応力更新ユニット≫
逐次応力更新ユニット39は、試験片121のせん断端部側面127に設定した各測定点の材料座標系における応力を、せん断端部123の変形過程の変形開始から変形終了まで逐次更新して求めるものである。
逐次応力更新ユニット39は、図5に示すように、取得ひずみ増分算出部39aと、仮定ひずみ増分算出部39bと、取得スピン増分算出部39cと、応力増分算出部39dと、逐次応力更新部39eと、を有する。
【0124】
(取得ひずみ増分算出部)
取得ひずみ増分算出部39aは、ひずみ履歴取得部37bにより取得したせん断端部側面127のひずみ履歴から取得ひずみ増分を算出するものである。
【0125】
取得ひずみ増分とは、ひずみ履歴取得部37bによりひずみ履歴を取得したひずみの時間ステップごとのひずみの増分である。
例えば、せん断端部側面127に設定した各測定点の変形過程における三次元座標を表面変形履歴として取得した場合、ひずみ履歴取得部37bにより取得するひずみ履歴は面内2方向のひずみ及び面内のせん断ひずみである。この場合、取得ひずみ増分算出部39aにより算出される取得ひずみ増分は、面内2方向のひずみ及び面内のせん断ひずみのそれぞれのひずみ増分である。
【0126】
そして、取得ひずみ増分は、せん断端部側面127のひずみ履歴を取得した時間ステップごとに算出する。各時間ステップにおける取得ひずみ増分は、例えば、当該時間ステップにおけるひずみとその前後の時間ステップにおけるひずみから算出することができる。
【0127】
(仮定ひずみ増分算出部)
仮定ひずみ増分算出部39bは、仮定ひずみ増分を算出するものである。
仮定ひずみ増分とは、ひずみ履歴取得部37bによりひずみ履歴を取得したひずみ以外のひずみの時間ステップごとのひずみ増分である。そして、ひずみ履歴を取得したひずみ以外のひずみは、せん断端部の変形過程からせん断端部側面127の変形状態を仮定し、仮定した変形状態における塑性力学理論に基づいて算出することができる。
【0128】
仮定ひずみ増分算出部39bによる仮定ひずみ増分の算出は、前述した本実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験方法の仮定ひずみ増分算出ステップS23と同様の手順により行うものとすればよい。
すなわち、まず、試験片121におけるせん断端部側面127の変形状態を平面応力状態と仮定する。そして、仮定した変形状態での塑性力学理論に基づいて、ひずみ履歴取得部37bによって取得した面内2方向のひずみ及び面内のせん断ひずみと、未知の面外方向を含むひずみと、により、面外方向の応力増分を与える式を得る。
【0129】
ここで、せん断端部側面127の変形状態を平面応力状態であると仮定すると、面外方向の応力増分は0となるので、塑性力学理論に基づくひずみと応力増分の式を用いることにより、面外方向のひずみを一義的に算出することができる。
【0130】
このように、仮定ひずみ増分算出部39bは、せん断端部123の変形過程の各時間ステップにおいてひずみ履歴を取得したひずみ以外のひずみをせん断端部側面127の変形状態を仮定して算出する。そして、前述した取得ひずみ増分と同様、せん断端部123の変形過程の各時間ステップにおいてせん断端部側面127の変形状態を仮定して算出したひずみから仮定ひずみ増分を算出する。各時間ステップにおける仮定ひずみ増分は、前述した取得ひずみ増分と同様、当該時間ステップとその前後の時間ステップにおいて求めたひずみから算出することができる。
【0131】
(取得スピン増分算出部)
取得スピン増分算出部39cは、スピン履歴取得部37cにより取得したスピン履歴から取得スピン増分を算出するものである。ここで、取得スピン増分とは、所定の時間間隔で求めたせん断端部側面127のスピンの増分である。
各時間ステップにおける取得スピン増分は、例えば、当該時間ステップにおけるスピンとその前後の時間ステップにおけるスピンから算出することができる。
【0132】
(応力増分算出部)
応力増分算出部39dは、取得ひずみ増分及び仮定ひずみ増分と取得スピン増分とを用いて、せん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127の応力増分を算出する。
応力増分算出部39dによる応力増分の算出は、前述した本実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験方法の応力増分算出ステップS27と同様の手順で行うものとすることができる。
【0133】
応力増分算出部39dによる応力増分の算出においては、材料構成則として、前述したように、バウシンガー効果を高精度に再現可能であるY-Uモデル(非特許文献1)を好適に適用することができる。
もっとも、応力増分算出部39dは、材料構成則としてY-Uモデルを適用するものに限らず、任意の材料構成則を適用するものであってもよい。
また、材料構成則により弾塑性係数テンソルCepを与えるのに用いる降伏関数fとしては、等方性であるvon Misesの降伏関数に限らず、材料(金属板)の異方性を高精度に表現可能なHill’48やYld2000-2d等、任意の降伏関数を用いてもよい。
【0134】
(逐次応力更新部)
逐次応力更新部39eは、応力増分算出部39dにより各測定点について算出した応力増分を用いて、各測定点の材料座標系における応力(ローカル応力)をせん断端部123の変形開始から変形終了まで逐次更新する。
【0135】
逐次応力更新部39eは、まず、変形過程のある時間ステップにおいて、各測定点について算出した応力増分を用いてローカル応力を更新する。
【0136】
次に、逐次応力更新部39eは、全ての測定点についてローカル応力の更新を終了したか否かを判定する。全ての測定点についてローカル応力の更新を終了していないと判定した場合、ローカル応力を更新していない測定点について、取得ひずみ増分算出部39a、仮定ひずみ増分算出部39b、取得スピン増分算出部39c、応力増分算出部39d、による処理を行う。そして、逐次応力更新部39eは、ローカル応力を更新していない測定点のローカル応力を更新する。
【0137】
全ての測定点についてローカル応力を更新したと判定した場合、逐次応力更新部39eは、せん断端部123の変形終了であるか否か、すなわち、せん断端部123の変形終了まで次の時間ステップがあるか否かを判定する。
【0138】
変形終了ではないと判定した場合、変形過程の次の時間ステップに進み、全ての測定点について、取得ひずみ増分算出部39a、仮定ひずみ増分算出部39b、取得スピン増分算出部39c、応力増分算出部39d、による処理を行う。そして、全ての測定点についてローカル応力を更新する。
変形終了であると判定した場合、逐次応力更新部39eによる処理は終了する。
【0139】
このように、逐次応力更新ユニット39は、せん断端部123の変形開始から変形終了までの全ての測定点の材料座標系の応力を逐次更新する。
【0140】
≪残留応力分布算出ユニット≫
残留応力分布算出ユニット41は、変形終了時における各測定点の材料座標系の応力を、グローバル座標系における応力に変換し、せん断端部側面127の残留応力分布を算出するものである。
本実施の形態2において、残留応力分布算出ユニット41は、応力座標系変換部41aと、残留応力分布表示部41bと、を有する。
【0141】
(応力座標系変換部)
応力座標系変換部41aは、逐次応力更新ユニット39によりせん断端部123の変形開始から変形終了まで逐次更新して求めた各測定点の材料座標系の応力のうち、せん断端部123の変形終了時における応力をグローバル座標系における所定の方向の応力の値(グローバル応力値)に変換する。そして、応力座標系変換部41aは、変換した各測定点のグローバル応力値をせん断端部側面127の残留応力分布として求める。
【0142】
各測定点について求めた材料座標系のローカル応力をσとし、グローバル座標系における所定の方向をベクトルnとすると、前述した式(12)によりグローバル座標系でのグローバル応力値σgを算出することができる。
【0143】
(残留応力分布表示部)
残留応力分布表示部41bは、応力座標系変換部41aにより求めたせん断端部側面127の残留応力分布を表示するものである。
残留応力分布表示部41bにより残留応力分布を表示するためには、前述した残留応力分布表示ステップS33と同様に、グローバル応力値を求めた各測定点の座標をせん断端部側面127のDIC画像上での座標に変換するとよい。
せん断端部側面127のDIC画像上での座標に変換にするためには、前述した式(13)により、グローバル座標系における各測定点の座標(X,Y,Z)をDIC画像上の二次元平面における座標(u,v)に変換することができる。
【0144】
以上、本実施の形態2に係るせん断加工試験システム1においては、金属板100をせん断加工したせん断加工材101のせん断端部103の形成過程を、金属板100を供試材とした試験片121のせん断加工により再現する。そして、試験片121のせん断加工により形成されるせん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127の表面変形履歴を取得する。さらに、せん断端部側面127の表面変形履歴に基づいて、せん断端部123の変形開始から変形終了までのせん断端部側面127の応力を逐次更新して求める。これにより、試験片121のせん断加工においてせん断端部123のせん断端部側面127の位置毎に材料座標系の向きが変化する場合であっても、応力の方向を揃えてせん断端部123のせん断端部側面127における残留応力分布を高精度に求めることができる。
【0145】
また、本実施の形態2に係る金属板のせん断加工試験システム1によれば、試験片121のせん断端部側面127について求めた残留応力分布から最大残留応力を評価することで、せん断加工により生成されたせん断端面125において遅れ破壊又は疲労破壊のき裂の起点となり得る部位の有無を判断することも可能である。
【0146】
さらに、本実施の形態2に係る金属板のせん断加工試験システム1においては、試験片のせん断加工によるせん断端部の変形中においても高精度な応力分布の履歴を取得することが可能である。さらに、有限要素解析では予測困難な金属板の破壊を伴うせん断変形等についても、金属板に生じた残留応力分布を正確かつ容易に算出することができる。
【0147】
なお、本実施の形態2に係る金属板のせん断加工試験システム1において、残留応力分布算出ユニット41は、各測定点の材料座標系のローカル応力をグローバル座標系の所定の方向の応力値に変換したグローバル応力値を表示する残留応力分布表示部41bを有するものであった。もっとも、本発明は、残留応力分布表示部41bを有するものに限るものではない。
【0148】
また、本実施の形態2に係るせん断加工試験システム1において、仮定ひずみ増分算出部39bは、試験片121におけるせん断端部123の変形過程から仮定したせん断端部側面127の変形状態での塑性力学理論に基づいて仮定ひずみ増分を算出するものであった。もっとも、本発明において、仮定ひずみ増分算出部は、金属板が塑性変形する過程の有限要素解析を行い、その結果からせん断端部側面127の変形状態(例えば、ひずみ比)を仮定するものであってもよい。
【0149】
金属板(試験片)のせん断加工による変形過程の有限要素解析によりせん断端部側面127の変形状態を仮定し、仮定ひずみ増分を算出する場合、前述したように、金属板全体を解析対象とする必要はなく、せん断端部123とその近傍のみをモデル化して有限要素解析を実施すればよい。これにより、金属板全体を解析対象とした有限要素解析に比べると、より短時間でせん断端部側面127の変形状態を仮定することが可能となる。さらに、有限要素解析において板厚方向の応力を高精度に計算できるソリッド要素を用いることも可能となり、より高精度に残留応力分布を算出することができる。
【0150】
なお、本発明に係る金属板のせん断加工試験方法及び金属板のせん断加工試験システムは、各測定点の三次元座標をDICにより測定することに限定するものではなく、変形開始から変形終了まで所定の時間間隔で各測定点の三次元座標を測定できるものであればよい。
また、本発明は、試験片のせん断加工によるせん断端部の変形開始から変形終了までの所定の時間間隔で測定した各測定点の三次元座標を表面変形履歴として取得するものであってもよい。
前述のとおり、本発明に係る金属板のせん断加工試験方法及び金属板のせん断加工試験システムは、試験片のせん断端部側面の表面変形履歴に基づいてひずみ履歴とスピン履歴を取得することで残留応力分布を算出するものである。そのため、従来技術のようにX線や超音波を用いた残留応力の測定で問題であった2種類以上の相を持つ均一でない金属板についても、正確に残留応力分布を算出することができる。
【0151】
また、前述したように、有限要素解析において残留応力分布を高精度に予測するためには大幅な計算時間を必要としたり、割れやせん断などの破断を伴う場合は解析が困難であった。
特に、せん断加工による塑性変形を受けた金属板は、当該金属板の端面から破壊することが多いため、疲労寿命や遅れ破壊特性を把握するために金属板端面の残留応力分布を正確に求めることが重要である。
これに対し、本発明に係る金属板のせん断加工試験方法、金属板のせん断加工試験システムによれば、試験片のせん断加工によりせん断端部が塑性変形する変形過程におけるせん断端部側面のひずみ履歴とスピン履歴を容易に測定することができるので、せん断端部側面の残留応力分布を正確に算出することができる。
【0152】
なお、上記の説明は、Y-Uモデルを用いて応力増分を算出する場合についてのものであったが、Y-Uモデルでは、応力-ひずみ関係が速度系で定義されているため、非線形変形の場合、ひずみ増分を十分に小さくしなければ応力増分に誤差を生じる。そのため、Y-Uモデルを用いて応力増分を算出する場合においては、ひずみ増分が10-6以下となるように、表面変形履歴として各測定点の三次元座標を取得する時間間隔を調整することが好ましい。
また、本発明において取得した表面変形履歴は測定ノイズを含むと考えられ、このような測定ノイズを含む表面変形履歴から取得されるひずみ履歴とスピン履歴もノイズを含むことが懸念される。
【0153】
そのため、ひずみ履歴から算出される微小なひずみ増分(取得ひずみ増分)を用いて応力増分を算出すると、ひずみ履歴のノイズが応力増分に及ぼす影響が大きくなり、逐次算出される応力の精度が低くなる場合がある。このような場合においては、ノイズ除去のためローパスフィルター等によりひずみ履歴をスムージングすることで、高精度な残留応力分布の算出をすることができて好ましい。
【0154】
さらに、本発明によれば、従来技術のように変形終了後の残留応力だけでなく、せん断加工材のせん断端部における変形中の応力を知ることができる。そのため、その変形体に生じた最大の応力を算出することが可能である。
【0155】
[実施の形3]
本発明の実施の形態3の一態様に係る金属板のせん断加工材の製造方法は、金属板をせん断加工してせん断加工材を製造するものである。そして、本実施の形態3に係る金属板のせん断加工材の製造方法は、図7に示すように、仮せん断条件設定工程S41と、せん断加工再現試験工程S43と、引張残留応力量判定工程S45と、仮せん断条件変更工程S47と、繰り返し工程S49と、せん断条件決定工程S51と、せん断加工工程S53と、を含む。以下、これらの各工程について説明する。
【0156】
≪仮せん断条件設定工程≫
仮せん断条件設定工程S41は、せん断加工材の仮のせん断条件を設定する工程である。
仮のせん断条件としては、例えば図5に示すせん断金型11を用いる場合においては、パンチ13とダイ15のクリアランスd、パンチ13とダイ15の開き角度(シャー角)、せん断速度(パンチ13とダイ15の相対移動速度)、パンチ13の刃先13a及びダイ15の刃先15aの曲率半径、切り代、等を設定すればよい。
【0157】
≪せん断加工再現試験工程≫
せん断加工再現試験工程S43は、前述した本実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験方法により、仮せん断条件設定工程S41で設定した仮のせん断条件で試験片121をせん断加工することにより、金属板のせん断端部の形成過程を再現する。そして、試験片121に形成されたせん断端部側面127の表面変形履歴に基づき、せん断端部側面127における残留応力分布を算出する。
【0158】
せん断加工再現試験工程S43においては、図6に示すように、試験片121のせん断加工によるせん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127を2台のカメラ29によりステレオ撮影し、せん断端部側面127に設定した各測定点の三次元座標をDICにより測定するとよい。
【0159】
≪引張残留応力量判定工程≫
引張残留応力量判定工程S45は、せん断加工再現試験工程S43で算出した試験片121のせん断端部側面127における引張残留応力が、予め定めた所定の範囲内であるか判定する工程である。
引張残留応力量判定工程S45において、せん断端部側面127における引張残留応力は、例えば、せん断端部側面127の残留応力分布における最大の引張残留応力(最大残留応力)とすればよい。また、予め定めた所定の範囲とは、引張残留応力を付与した試験片を水素侵入環境下(例えば、pH=4.0、濃度0.1%のチオシアン酸アンモニウムとマッキルベイン緩衝液に30時間浸漬)で、良好な耐水素脆化特性の得られる引張残留応力の範囲をいう。
【0160】
≪仮せん断条件変更工程≫
仮せん断条件変更工程S47は、引張残留応力量判定工程S45において、試験片121のせん断端部側面127における引張残留応力が、予め定めた所定の範囲外であると判定された場合、引張残留応力を緩和する方向に、仮のせん断条件を変更する工程である。仮のせん断条件の変更は、例えば、パンチ13とダイ15のクリアランスを狭めたり、せん断速度を上昇させる、等が挙げられる。
【0161】
≪繰り返し工程≫
繰り返し工程S49は、せん断端部側面127における引張残留応力が予め定めた所定の範囲内と判定されるまで、仮せん断条件変更工程S47と、せん断加工再現試験工程S43と、引張残留応力量判定工程S45と、を繰り返し実行する工程である。
【0162】
≪せん断条件決定工程≫
せん断条件決定工程S51は、引張残留応力量判定工程S45において、試験片121のせん断端部側面127における引張残留応力が予め定めた所定の範囲内と判定された場合、その場合の仮のせん断条件をせん断条件として決定する工程である。
【0163】
≪せん断加工工程≫
せん断加工工程S53は、せん断条件決定工程S51で決定したせん断条件で金属板をせん断加工し、せん断加工材を製造する工程である。
【0164】
このように、本実施の形態3に係る金属板のせん断加工材の製造方法によれば、せん断加工により形成されるせん断端部のせん断端部側面における残留応力分布を求めることにより、疲労寿命や遅れ破壊特性に影響を及ぼす引張残留応力の発生を抑制するための対策を適切に施した金属板のせん断加工材を製造することができる。
【実施例1】
【0165】
本発明の作用効果を検証する実験を行ったので、以下、これについて説明する。
実施例1では、前述した実施の形態1に係る金属板のせん断加工試験方法により、試験片121のせん断開始から破断までのひずみをDICにより測定し、試験片121のせん断加工により形成されたせん断端部123のせん断端部側面127における板厚方向の残留応力の分布を求めた。さらに、せん断加工を受けた試験片121の板厚方向の中央位置において、せん断端面125から試験片121の長手方向(せん断端面に直交する方向)にX線応力測定を行い(比較例)、本発明に係る方法により算出したせん断端部側面127における残留応力と比較した。
【0166】
図8(a)、(b)に、実施例1に用いたせん断加工再現試験装置10を示す。図8において、X軸方向はせん断端面に直交する方向、Y軸方向は試験片121の板厚方向、Z軸方向はせん断端部側面127に直交する方向、である。
【0167】
せん断加工装置は、パンチ13、ダイ15、及びホルダ17と、を有するせん断金型11を備えたものである。さらに、図8(a)、(b)に示すように、試験片121のせん断加工により形成されるせん断端部123のせん断端部側面127を撮影可能な位置に2台のカメラ29、29を設置した。そして、せん断端部側面127に複数の測定点を設定し、各測定点の三次元座標をDICにより測定した。
【0168】
図8(c)に、試験片121を上面視した図を示す。試験片121は、引張強度1470MPa級、板厚1.4mmの高強度鋼板より作成した。
【0169】
試験片121のせん断条件は、パンチ13とダイ15との間のクリアランスd(図8(a)参照)は、試験片121の板厚(=1.4mm)に対して20%とした。また試験片121のせん断速度(パンチ13とダイ15の相対速度)を30mm/min、パンチ13とダイ15の開き角度であるシャー角θ(図8(b)参照)を0°、パンチ13の刃先13a及びダイ15の刃先15aの曲率半径(刃先R)をいずれも0.05mm、試験片121の切り代(図8(a)において試験片121のダイ15上からパンチ13側に突き出した部分の長さ)を15mmとした。
【0170】
図9に、試験片121をせん断加工して破断した後のせん断端部123のせん断端部側面127における板厚方向残留応力の分布を示す。せん断端面125から数十μm程度内側に、板厚方向に圧縮(マイナス、黒色)の残留応力が確認される。また、その内側から試験片121の上面付近にかけて、板厚方向に引張(プラス、白色)の残留応力が生じている。
図10に、前述した実施の形態1に係る方法により算出したせん断端部側面127の残留応力分布から求めた残留応力(発明例)と、X線回折法(XRD)により測定した残留応力(比較例)と、を比較して示す。図10に示すグラフにおいて、横軸は、せん断端面125に直交する方向におけるせん断端面からの距離であり、縦軸は、板厚方向の中央における板厚方向残留応力である。
【0171】
発明例と比較例は、せん断端面125から0.1~0.4mmの範囲においては比較的一致している。これより、遅れ破壊等で問題となるせん断端面近傍での残留応力推定は本手法により予測可能であることが確認された。なお、発明例と比較例の乖離は、せん断端面からの距離0.8mm付近において最大200MPa程度ある。これは、比較例に係るX線回折法(XRD)では、1470MPa級鋼板のマルテンサイト相に由来する圧縮応力を測定していることに起因すると推察される。
【実施例2】
【0172】
次に、実施例2では、本発明の実施の形態3に係る金属板のせん断加工材の製造方法により、遅れ破壊特性に影響を及ぼす引張残留応力を所定の範囲に抑制可能なせん断条件を決定し、金属板のせん断加工材を製造した。
【0173】
実施例2では、前述した実施例1で用いたせん断加工装置(図8)を用い、試験片121のせん断加工により形成されるせん断端部123のせん断端部側面127における残留応力分布を測定した。そして、せん断端部側面127における残留応力分布が所定の引張残留応力以下、すなわち、せん断端部側面127における最大の引張残留応力(最大残留応力)が所定の引張残留応力以下となるようにせん断条件を決定し、せん断加工材を製造した。
【0174】
なお、引張残留応力量判定工程においてせん断端部側面の残留応力の判定基準とする引張残留応力の所定範囲は、4点曲げ遅れ破壊試験(例えば、特開2014-0927の図3、4参照)に用いる曲げ治具と4点曲げ試験片を用い、4点曲げ試験片に引張応力(負荷応力)を付与した状態で、水素侵入環境(例えば、pH=4.0、濃度3.0%の塩酸に96時間浸漬)で遅れ破壊の発生しない引張応力範囲として求めた1000MPa以下とした。
【0175】
そして、実際にせん断加工する金属板(ブランク)と同じ、引張強度1470MPa級の板厚1.4mmの鋼板より、図8(c)に示す試験片121を作成した。
試験片121は、せん断加工における切り代131と、ダイ15とホルダ17により試験片121を固定するためのボルトを貫通させる孔部133と、を有するものとした。
【0176】
表1に、実施例2において試験片121に用いた鋼板の板厚及び引張強度、試験片121のせん断条件等を示す。
【0177】
【表1】
【0178】
試験片121の仮のせん断条件は、表1の試験No.1の条件とし、せん断速度を30mm/min、パンチ13とダイ15のクリアランスdを板厚の20%、シャー角θを0°、パンチ13の刃先R及びダイ15の刃先Rをいずれも0.05mm、試験片121の切り代131を15mmとした(仮せん断条件設定工程S41)。
【0179】
仮のせん断条件で、試験片121をせん断加工してせん断端部の形成過程を再現し、せん断端部側面127の表面変形履歴を、2台のカメラ29(図8)を用いてせん断端部側面127のDIC画像を撮影することにより測定した。そして、測定したせん断端部側面127の表面変形履歴に基づき、せん断端部側面127における板厚方向の残留応力分布を算出した。このときの、せん断端部側面127における最大残留応力は1755MPaであった(せん断加工再現試験工程S43)。
図11(a)に、仮のせん断条件でせん断加工した試験片121のせん断端部側面127における残留応力分布を示す(図中、矢印の箇所が最大残留応力である箇所)。
【0180】
そして、試験片のせん断端部側面における最大残留応力1755MPaを、4点曲げ遅れ破壊試験により予め定めた遅れ破壊の発生しない所定の範囲(1000MPa以下)と比較し、範囲外と判定した(引張残留応力量判定工程S45)。
【0181】
そこで、試験片121のせん断端部側面127における引張残留応力が緩和されるように、仮のせん断条件を表1の試験No.1から試験No.2に変更した(仮せん断条件変更工程S47)。そして、変更した仮のせん断条件の下で、せん断加工再現試験工程S43と、引張残留応力量判定工程S45と、を行った。試験No.2の仮のせん断条件でせん断加工した試験片のせん断端部側面における最大残留応力は1548MPaであり、予め定めた遅れ破壊の発生しない所定の範囲外であった。
【0182】
そのため、せん断端部側面127における最大残留応力が、4点曲げ遅れ破壊試験により予め定めた遅れ破壊の発生しない所定の範囲内(1000MPa以下)と判定されるまで、表1の試験No.3~試験No.6に示すように仮のせん断条件(クリアランス、シャー角、パンチ刃先、ダイ刃先)を変更し、せん断加工再現試験工程S43及び引張残留応力量判定工程S45を繰り返し実行した(繰り返し工程S49)。
【0183】
試験No.6の仮のせん断条件において、試験片121のせん断端部側面127の最大残留応力が835MPaと、所定の範囲内(1000MPa以下)になった。そのため、試験No.6の仮のせん断条件を、金属板をせん断加工する際のせん断条件として決定した(せん断条件決定工程S51)。
【0184】
図11(b)に、決定したせん断条件でせん断加工した試験片121のせん断端部側面127における残留応力分布を示す(図中、矢印の箇所が最大残留応力を示す箇所)。
【0185】
前述した試験No.1の仮のせん断条件でせん断加工した場合(図11(a))と比較すると、試験No.6のせん断条件でのせん断加工により変形したせん断端部側面127においては、引張残留力が1000MPa以上の箇所(コンター図の白い部分)が見られなくなっていることが分かる。これにより、試験No.6のせん断条件によれば、せん断端部側面127における最大残留応力を所定の範囲を満たすようにせん断加工材を製造することができ、遅れ破壊を抑制することが可能となる。
【0186】
試験No.6は、試験No.5のせん断条件のうちシャー角θを変更したものであったが、表1の試験No.7~試験No.11に示すように、他のせん断条件を変更することにより、せん断端部側面107における最大残留応力が所定の範囲となるどうかを調査した。
ここで、試験No.7及び試験No.8はせん断速度(30mm/minから60mm/min又は1mm/min)、試験No.9はクリアランス(10%から5%)、試験No.10及び試験No.11は切り代(15mmから5mm又は25mm)を変更したものである。
【0187】
表1に、試験No.7~試験No.11におけるせん断条件と、せん断端部側面127における残留応力分布から求めた最大残留応力と、を示す。試験No.7~試験No.11のいずれにおいても、せん断端部側面127における最大残留応力は、4点曲げ遅れ破壊試験により予め定めた遅れ破壊の発生しない所定の範囲内(1000MPa以下)であることが分かる。このことから、シャー角以外のせん断条件を変更した場合であっても、せん断端部側面127における最大残留応力が所定の範囲となるようにせん断条件を決定できることが分かる。
【0188】
さらに、表1の試験No.12~No.14に示すように、試験No.1~試験No.11と鋼板の引張強度及び板厚を変更した場合についても、せん断端部側面127における最大残留応力が所定の範囲となるようにせん断条件を決定した。
ここで、試験No.12は鋼板の板厚を1.2mm、試験No.13は鋼板の板厚を2.0mm、引張強度を780MPa級、試験No.14は鋼板の板厚を1.2mm、引張強度を590MPa級としたものである。
【0189】
表1に、試験No.12~試験No.14のそれぞれについて、せん断端部側面127における残留応力分布から求めた最大残留応力を示す。鋼板の引張強度と板厚が異なる場合においても、せん断端部側面127における最大残留応力は、遅れ破壊の発生しない所定の範囲内であることが分かる。このことから、鋼板の引張強度と板厚によらず、せん断端部側面における最大残留応力が所定の範囲となるようにせん断条件を決定できることが分かる。
【0190】
以上、本発明の実施の形態3の金属板のせん断加工材の製造方法によれば、遅れ破壊特性に影響を及ぼす引張残留応力の発生を抑制するための対策を適切に施した金属板のせん断加工材の製造が可能であることが示された。
【符号の説明】
【0191】
1 せん断加工試験システム
10 せん断加工再現試験装置
11 せん断金型
13 パンチ
13a 刃先
15 ダイ
15a 刃先
17 ホルダ
20 残留応力分布算出装置
21 表示装置
23 入力装置
25 主記憶装置
27 補助記憶装置
29 カメラ
31 測定制御・演算処理部
33 測定制御部
33a 画像撮影手段
33b 三次元座標算出手段
35 演算処理部
37 変形履歴取得ユニット
37a 表面変形履歴取得部
37b ひずみ履歴取得部
37c スピン履歴取得部
39 逐次応力更新ユニット
39a 取得ひずみ増分算出部
39b 仮定ひずみ増分算出部
39c 取得スピン増分算出部
39d 応力増分算出部
39e 逐次応力更新部
41 残留応力分布算出ユニット
41a 応力座標系変換部
41b 残留応力分布表示部
100 金属板
101 せん断加工材
103 せん断端部
105 せん断端面
107 せん断端部側面
109 板側面
110 せん断刃
111 スクラップ材
121 試験片
123 せん断端部
125 せん断端面
127 せん断端部側面
129 板側面
129a 板側面(DICによる測定範囲)
131 切り代
133 孔部
【要約】
【課題】金属板のせん断加工材のせん断端部における残留応力を算出する金属板のせん断加工試験方法、システム、及び金属板のせん断加工材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る金属板のせん断加工試験方法は、せん断加工材101のせん断端部103の形成過程を試験片121のせん断加工により再現するプロセス(P1)と、試験片121のせん断加工により形成されたせん断端部123のせん断端部側面127における残留応力分布を算出するプロセス(P3)と、を含み、試験片121のせん断加工によるせん断端部123の変形過程におけるせん断端部側面127のひずみ履歴とスピン履歴を取得し(S10)、せん断端部123の変形開始から変形終了までせん断端部側面127における応力を逐次更新して算出し(S20)、変形終了時におけるせん断端部側面127の残留応力分布を算出する(S30)、ものである。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11