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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】制御システム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20241217BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20241217BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B60W30/10
B62D101:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023210581
(22)【出願日】2023-12-13
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由多
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-232676(JP,A)
【文献】特開2008-273360(JP,A)
【文献】特開2023-140494(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0185304(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00- 6/10
B60W 10/00- 60/00
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の目標経路の経路点と前記車両との距離偏差、前記経路点の第一方位角と前記車両の第二方位角との方位角偏差、前記車両のヨーレート、前記車両の車速、及び前記車両の横滑り角を取得する取得部と、
前記距離偏差、前記方位角偏差、前記車速、前記横滑り角、前記ヨーレート及び前記第一方位角と、ヨーレートと横滑り角との関係を表す伝達関数とに基づいて、前記距離偏差、前記方位角偏差、前記横滑り角及び前記第二方位角の各々の変化を予測する予測モデルを生成する生成部と、
前記予測モデルから予測された推定距離偏差、推定方位角偏差及び目標ヨーレートをパラメータに含み、取得された前記距離偏差、前記方位角偏差及び前記ヨーレートが入力された評価関数の値を最小化する前記目標ヨーレートを目標ヨーレートに決定するヨーレート決定部と、
を有する制御システム。
【請求項2】
前記生成部は、
連続時間型の前記予測モデルを生成し、
生成した前記連続時間型の予測モデルを離散化することで、前記距離偏差、前記方位角偏差、前記横滑り角及び前記第二方位角の各々の単位時間先の変化を予測する離散時間型の予測モデルを生成する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
伝達関数は、前記ヨーレートと前記第二方位角との関係を表し、かつ前記ヨーレートを入力すると前記第二方位角の変化量を出力する規範応答モデルに対応する関数である、
請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記ヨーレートと、決定された前記目標ヨーレートとを入力すると前記車両の目標操舵角を決定する操舵角決定部を有し、
前記ヨーレート決定部は、前記目標ヨーレートを前記操舵角決定部に通知する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項5】
前記車両のステアリングホイールを操作して、前記車両の操舵角を前記目標操舵角にする操舵制御部を有し、
前記取得部は、前記操舵制御部が前記操舵角を前記目標操舵角にした後に、前記距離偏差、前記方位角偏差、前記車速、前記横滑り角、及び前記ヨーレートを取得する、
請求項4に記載の制御システム。
【請求項6】
前記取得部は、前記車両のヨー慣性モーメント、前記車両の重量、前記車両の重心から前記車両の前輪の軸までの第一距離、前記車両の重心点から前記車両の後輪の軸までの第二距離、前記車両の車長、後輪コーナリングスティフネス、及び前記車速として前記車両の進行方向の縦車速を取得し、
前記伝達関数は、
前記ヨー慣性モーメントと、
前記重量と前記縦車速及び前記第一距離の第一積と、
前記後輪コーナリングスティフネス、前記第二距離及び前記車長の積の前記縦車速に対する割合と、
前記重量と前記縦車速及び前記第一距離の第二積と、
前記後輪コーナリングスティフネス及び前記車長の第三積と、
を用いて表される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項7】
車両に搭載されたプロセッサが実行する、
前記車両の目標経路の経路点と前記車両との距離偏差、前記経路点の第一方位角と前記車両の第二方位角との方位角偏差、前記車両のヨーレート、前記車両の車速、及び前記車両の横滑り角を取得するステップと、
前記距離偏差、前記方位角偏差、前記車速、前記横滑り角、前記ヨーレート及び前記第一方位角と、ヨーレートと横滑り角との関係を表し、かつ前記ヨーレートを入力すると前記横滑り角を出力する伝達関数とに基づいて、前記距離偏差、前記方位角偏差、前記横滑り角及び前記第二方位角の各々の変化を予測する予測モデルを生成するステップと、
前記予測モデルから予測された推定距離偏差、推定方位角偏差及び目標ヨーレートをパラメータに含み、取得された前記距離偏差、前記方位角偏差及び前記ヨーレートが入力された評価関数の値を最小化する前記目標ヨーレートを目標ヨーレートに決定するステップと、
を有する制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の挙動を制御する制御システム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の挙動を制御する制御システムが知られている。特許文献1には、横偏差と、方位角偏差と、操舵角と、操舵角の変化量と、を含む評価関数の値を最小化する操舵角を決定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2023-140494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両が旋回する際には、車両の進行方向と車輪の向きとの間に横滑り角が生じることで旋回している。そのため、曲率が大きい目標経路に沿って車両を走行させる場合には、車両が目標経路に沿うような横滑り角を生じさせる必要がある。しかし、横滑り角を考慮しないで決定された車両の操舵角やヨーレートにより生じる横滑り角は、車両を目標経路に沿って旋回させる横滑り角と異なることがある。そのため、横滑り角が考慮されていない操舵角やヨーレートでは目標経路から外れるように車両が旋回し、目標経路に車両が追従できなくなっていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、車両の目標経路への追従性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、車両の目標経路の経路点と前記車両との距離偏差、前記経路点の第一方位角と前記車両の第二方位角との方位角偏差、前記車両のヨーレート、前記車両の車速、及び前記車両の横滑り角を取得する取得部と、前記距離偏差、前記方位角偏差、前記車速、前記横滑り角、前記ヨーレート及び前記第一方位角と、ヨーレートと横滑り角との関係を表す伝達関数とに基づいて、前記距離偏差、前記方位角偏差、前記横滑り角及び前記第二方位角の各々の変化を予測する予測モデルを生成する生成部と、前記予測モデルから予測された推定距離偏差、推定方位角偏差及び目標ヨーレートをパラメータに含み、取得された前記距離偏差、前記方位角偏差及び前記ヨーレートが入力された評価関数の値を最小化する前記目標ヨーレートを目標ヨーレートに決定するヨーレート決定部と、を有する制御システムを提供する。
【0007】
前記生成部は、連続時間型の前記予測モデルを生成し、生成した前記連続時間型の予測モデルを離散化することで、前記距離偏差、前記方位角偏差、前記横滑り角及び前記第二方位角の各々の単位時間先の変化を予測する離散時間型の予測モデルを生成してもよい。
【0008】
伝達関数は、前記ヨーレートと前記第二方位角との関係を表し、かつ前記ヨーレートを入力すると前記第二方位角の変化量を出力する規範応答モデルに対応する関数であってもよい。
【0009】
前記ヨーレートと、決定された前記目標ヨーレートとを入力すると前記車両の目標操舵角を決定する操舵角決定部を有し、前記ヨーレート決定部は、前記目標ヨーレートを前記操舵角決定部に通知してもよい。
【0010】
前記車両のステアリングホイールを操作して、前記車両の操舵角を前記目標操舵角にする操舵制御部を有し、前記取得部は、前記操舵制御部が前記操舵角を前記目標操舵角にした後に、前記距離偏差、前記方位角偏差、前記車速、前記横滑り角、及び前記ヨーレートを取得してもよい。
【0011】
前記取得部は、前記車両のヨー慣性モーメント、前記車両の重量、前記車両の重心から前記車両の前輪の軸までの第一距離、前記車両の重心点から前記車両の後輪の軸までの第二距離、前記車両の車長、後輪コーナリングスティフネス、及び前記車速として前記車両の進行方向の縦車速を取得し、前記伝達関数は、前記ヨー慣性モーメントと、前記重量と前記縦車速及び前記第一距離の第一積と、前記後輪コーナリングスティフネス、前記第二距離及び前記車長の積の前記縦車速に対する割合と、前記重量と前記縦車速及び前記第一距離の第二積と、前記後輪コーナリングスティフネス及び前記車長の第三積と、を用いて表されてもよい。
【0012】
本発明の第2の態様においては、車両に搭載されたプロセッサが実行する、前記車両の目標経路の経路点と前記車両との距離偏差、前記経路点の第一方位角と前記車両の第二方位角との方位角偏差、前記車両のヨーレート、前記車両の車速、及び前記車両の横滑り角を取得するステップと、前記距離偏差、前記方位角偏差、前記車速、前記横滑り角、前記ヨーレート及び前記第一方位角と、ヨーレートと横滑り角との関係を表し、かつ前記ヨーレートを入力すると前記横滑り角を出力する伝達関数とに基づいて、前記距離偏差、前記方位角偏差、前記横滑り角及び前記第二方位角の各々の変化を予測する予測モデルを生成するステップと、前記予測モデルから予測された推定距離偏差、推定方位角偏差及び目標ヨーレートをパラメータに含み、取得された前記距離偏差、前記方位角偏差及び前記ヨーレートが入力された評価関数の値を最小化する前記目標ヨーレートを目標ヨーレートに決定するステップと、を有する制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両の目標経路への追従性を向上できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】車両の運動を説明するための図である。
図2】制御システムの構成を説明するための図である。
図3】目標操舵角を決定する処理の一例を示すブロック線図である。
図4】目標経路の模式図である。
図5】比較例に係る車両の走行軌跡の模式図である。
図6】本実施の形態に係る制御システムの制御下で走行した車両の走行軌跡の模式図である。
図7】車両の走行を制御する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[制御システムSの構成]
図1及び図2を用いて制御システムSの構成を説明する。図1は、車両Aの運動を説明するための図である。図2は、制御システムSの構成を説明するための図である。制御システムSは、車両Aの操舵角を制御することにより、車両Aを目標経路Bに沿って走行させるためのシステムである。制御システムSは、車両制御装置1を含み、車両Aに搭載されている。目標経路Bは、予め定められた経路であり、車両Aが目標とする複数の走行位置を示す経路点と、各経路点における車両Aが目標とする向きとを含む。
【0016】
図1においては、絶対座標系を用いている。本実施の形態の絶対座標系は、例えば経度方向をX軸、緯度方向をY軸とするが、これに限定するものではない。以下、車両Aの車速Vのうちの車幅方向の速度成分は横速度Vyである。車速Vのうちの車幅方向に直交する進行方向の速度成分は縦速度Vxである。
【0017】
距離偏差zは、車両Aの位置を示す重心点Cと、車両Aの目標経路Bの経路点Dとの距離である。方位角偏差θは、目標経路Bの経路点Dの向きを示す第一方位角ψと、車両Aの向きを示す第二方位角φとの差である。第一方位角ψは、車両Aが目標とする向きである。第一方位角ψは、例えば経路点Dの接線の向きである。
【0018】
車両制御装置1は、例えばECU(Electronic Control Unit)である。車両制御装置1は、記憶部11及び制御部12を有する。記憶部11は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスク等を含む記憶媒体である。記憶部11は、制御部12が実行するプログラムを記憶する。
【0019】
制御部12は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む計算リソースである。制御部12は、記憶部11に記憶されたプログラムを実行することにより、取得部121、生成部122、ヨーレート決定部123、操舵角決定部124及び操舵制御部125としての機能を実現する。
【0020】
取得部121は、車両Aに関する複数の情報を取得する。例えば、取得部121は、衛星から出力される信号を用いて位置を測定する測位システムにより特定される車両Aの位置を示す座標と、目標経路の経路点Dの位置を示す座標とを用いて、距離偏差zを取得する。取得部121は、第一方位角ψ及び第二方位角φを取得し、第一方位角ψと第二方位角φの差を方位角偏差θとして取得する。
【0021】
取得部121は、車両Aの横滑り角βを取得する。例えば、取得部121は、車両Aに搭載された加速度センサにより検出される車両Aの進行方向の加速度及び車幅方向の加速度を用いて横滑り角βを算出する。なお、取得部121は、他の方法を用いて横滑り角βを取得してもよい。
【0022】
取得部121は、車両Aのヨーレート、車速V及び加速度を取得する。取得部121は、例えば車両Aのヨーレートを検出するヨーレートセンサから車両Aのヨーレートを取得する。取得部121は、加速度センサから加速度を取得し、取得した加速度に基づいて車速Vを取得する。取得部121は、車両Aの車輪の回転速度に比例したパルス信号に基づいて車速Vを取得してもよい。取得部121は、取得した車速Vに基づいて縦車速Vxを取得する。
【0023】
取得部121は、車両Aのヨー慣性モーメントl、重量m、車長l、及び後輪コーナリングスティフネスKを取得する。また、取得部121は、車両Aの重心から車両Aの前輪の軸までの第一距離l及び車両Aの重心点から車両Aの後輪の軸までの第二距離lを取得する。例えば、取得部121は、記憶部11に記憶された重量m、第一距離l、第二距離l及び車長lを取得する。取得部121は、ヨーレート及び加速度に基づいて、ヨー慣性モーメントl、後輪コーナリングスティフネスK及び縦車速を取得することができる。なお、取得部121が車両Aに関する情報を取得する方法はこれに限定するものではない。
【0024】
曲率半径Rの道路に沿った目標経路Bを走行する場合の、車両Aの望ましい方位角の変化率は、第一方位角ψを用いて以下の式(1)で表される。また、車両Aの望ましい車幅方向の加速度は、距離偏差zを用いて以下の式(2)で表される。
【数1】
式(2)において、ダブルドットを付したyは、実際の車幅方向の加速度(横加速度)である。また、ドットを付したφは、車両Aのヨーレートである。
【0025】
取得部121は、式(2)から距離偏差zの変化量(距離偏差zの一階微分)を表す関係式を取得する。具体的には、取得部121は、方位角偏差θを表す式(3)及び式(2)から、式(5)に示す距離偏差zの変化量を表す関係式を取得する。以下の式(3)で表される方位角偏差θは、車両Aの第二方位角φと、経路点Dの第一方位角ψとの差分である。式(4)は、式(3)の両辺を微分した式である。式(5)は、式(4)を式(2)に代入して、両辺を積分した式である。
【数2】
取得部121は、式(2)、式(3)及び式(4)から、式(5)を算出するが、記憶部11に記憶されている式(5)を取得してもよい。
【0026】
なお、図1において、車両Aの横滑り角βが微小な範囲(β<<1)の場合、以下の式(6)が成り立つ。
【数3】
【0027】
ここで、ヨーレートと横滑り角の関係を表す伝達関数を説明する。伝達関数は、ヨーレートを入力すると横滑り角を出力する関数である。例えば、伝達関数は、ヨー慣性モーメントlと、重量m、縦車速Vx及び第一距離lの第一積と、後輪コーナリングスティフネスK、第二距離l及び車長lの積の縦車速Vxに対する割合と、重量m、縦車速Vx及び第一距離lの第二積と、後輪コーナリングスティフネスK及び車長lの第三積と、を用いて表される。具体的には、伝達関数は、横滑り角β及び第二方位角φの変化量(ドットを付したφで表される第二方位角φの一階微分)を用いて以下の式(7)で表される。
【数4】
式(7)の伝達関数は、目標ヨーレートrと第二方位角φの変化量との関係を表す規範応答モデルTに対応している。規範応答モデルTは、第二方位角φの変化量を示す第二方位角φの一階微分及び目標ヨーレートrを用いて以下の式(8)で表される。
【数5】
【0028】
生成部122は、車両Aの状態を予測する予測モデルを生成する。具体的には、生成部122は、距離偏差z、方位角偏差θ、車速V、横滑り角β、目標ヨーレートr及び第一方位角ψと、伝達関数とに基づいて、距離偏差z、方位角偏差θ、横滑り角β及び第二方位角φの各々の変化を予測する連続時間型の予測モデルを生成する。より具体的には、生成部122は、以下の式(9)で表される連続時間状態方程式を予測モデルとして生成する。
【数6】
【0029】
なお、式(9)の係数行列A、Bcu及びBcvは、目標経路及び目標とする車速に応じて変化する。そのため、生成部122は、予測モデルを離散化して単位時間先(1ステップ先)の変化を予測する予測モデルを生成する。例えば、生成部122は、連続時間型の予測モデルを離散化することで離散時間型の予測モデルを生成する。具体的には、生成部122は、式(9)で表される連続時間状態方程式をオンラインで離散化することで、距離偏差z、方位角偏差、横滑り角及び第二方位角の各々の単位時間先の変化を予測する離散時間型状態方程式を生成する。以下、離散時間型状態方程式の導出方法を説明する。
【0030】
離散化後の状態方程式は、以下の式(10)から式(13)で示される。Tは、サンプリング周期である。
【数7】
【0031】
連続時間状態方程式の解は以下の式(14)であるため、式(14)を式(10)に代入することにより、以下の式(15)及び式(16)を導出することができる。
【数8】
【0032】
以下の式(17)のように0次ホールドを表すと、式(17)を式(16)に代入することにより、サンプリング周期ごとの状態変数は、以下の式(18)のように表すことができる。
【数9】
【0033】
さらに、式(18)から、以下の式(19)を導出することができる。
【数10】
【0034】
続いて、以下の式(20)及び式(21)を定義することにより、離散時間型状態方程式は、以下の式(22)のように表すことができる。
【数11】
【0035】
式(10)と式(22)の係数を比較することにより、状態方程式の係数行列は、以下の式(23)及び式(24)のように表すことができる。
【数12】
【0036】
このように、連続時間の予測モデルである連続時間状態方程式から離散時間型状態方程式を導出したが、式(24)は積分を含む方程式であるため、過去の周期における車両Aの運動を含む。その結果、現在の周期における予測モデルを精度高く生成できない。これに対して、生成部122は、AとBの行列指数関数において成り立つ以下の式(25)を用いることにより、以下の式(26)及び式(27)を導出する。
【数13】
【0037】
生成部122は、式(25)から式(27)を用いて離散時間型の予測モデルを生成する。このように、生成部122が動作することで、生成部122は、精度が高い離散時間型の予測モデルを生成できる。さらに、生成部122は、過去の周期における車両Aの運動を算出することを省略できるため、算出時間を短縮することができる。その結果、生成部122は、一定の周期で精度が高い予測モデルを生成することができる。
【0038】
ヨーレート決定部123は、車両Aの目標ヨーレートrを決定する。ヨーレート決定部123は、離散時間型の予測モデルに基づき、評価関数を最小化する目標ヨーレートrを決定する。具体的には、ヨーレート決定部123は、予測モデルから予測された推定距離偏差z、推定方位角偏差及び目標ヨーレートをパラメータに含み、取得された距離偏差z、方位角偏差及びヨーレートが入力された評価関数を最小化する目標ヨーレートrを決定する。より具体的には、ヨーレート決定部123は、横偏差の重みQと、方位角偏差の重みQθと、目標ヨーレートrの重みRと、横偏差の終端重みQzfinalと、方位角偏差の終端重みQθfinalと、以下の式(28)とを用いて目標ヨーレートrを決定する。なお、pは、現時刻から所定時間先の時刻までの予測ホライズンの長さである。
【数14】
【0039】
ヨーレート決定部123は、評価関数Jを最小化する、k=0からP-1までの各ステップの目標ヨーレートrを決定する。各ステップの目標ヨーレートrが決定される際には、目標ヨーレートrに応じた横滑り角が推定されている。言い換えると、各ステップの推定ヨーレートが決定される際には、1ステップ前の目標ヨーレートrに応じた横滑り角の影響が考慮されている。これにより、ヨーレート決定部123は、目標経路Bに沿って走行可能な横滑り角を生じさせることが可能な目標ヨーレートrを決定できる。そして、ヨーレート決定部123は、評価関数Jを最小化することにより決定した複数の目標ヨーレートrのうちの1ステップ先(k=1)の目標ヨーレートrを操舵角決定部124に通知する。
【0040】
操舵角決定部124は、ヨーレート決定部123が決定した目標ヨーレートrに基づいて車両Aの目標操舵角δを決定する。例えば、操舵角決定部124は、取得部121が取得したドットを付したφで表される車両Aのヨーレートと、ヨーレート決定部123が決定した目標ヨーレートrとが入力された場合、車両Aの目標操舵角δを決定する。図3は、目標操舵角δを決定する処理の一例を示すブロック線図である。ブロック線図は、車両Aのヨーレートと規範応答の差が小さくなるように設計されている。
【0041】
図3の規範応答モデルTは、式(8)で表される伝達関数に対応する規範応答モデルTである。図3のCffはフィードフォワード制御器である。Cfbはフィードバック制御器である。破線で囲った範囲Gは、リファレンスガバナである。リファレンスガバナは、入出力に関する制約条件を満たし、かつ良好な過渡応答を実現するように目標値信号を数値最適化によって整形する。制約条件は、実験などにより適宜定めればよい。
【0042】
なお、フィードフォワード制御器Cff、フィードバック制御器Cfb、及びプラントPは、以下の式で表される。K、K及びKは定数である。
【数15】
【0043】
操舵角決定部124は、式(29)、式(30)及び式(31)を用いて目標操舵角を決定する。そして、操舵角決定部124は、決定した目標操舵角を操舵制御部125に通知する。
【0044】
操舵制御部125は、車両Aのステアリングホイール2を操作して、車両Aの操舵角を操舵角決定部124が決定した目標操舵角にする。例えば、操舵制御部125は、ステアリングホイール2を回転させるアクチュエータを制御することで、操舵角が目標操舵角になるようにステアリングホイール2を回転させる。取得部121は、操舵制御部125が操舵角を目標操舵角にした後に、距離偏差z、方位角偏差θ、車速V、横滑り角β、及びヨーレートを再度取得する。
【0045】
このように、車両Aに搭載された車両制御装置1は、取得した車両Aに関する情報に基づいて目標ヨーレートr及び目標操舵角δを決定し、決定した目標操舵角δになるように車両Aのステアリングホイール2を回転させる。車両制御装置1は、車両Aが走行している間、車両Aに関する情報を取得する処理からステアリングホイール2の回転させる処理を繰り返し実行することで、車両Aを目標経路Bに沿って走行させることができる。
【0046】
本実施の形態に係る制御システムSの効果を図4図5及び図6を用いて説明する。図4は、目標経路Bの模式図である。図4に示すとおり、目標経路Bは、直線と曲線が混在する曲率が大きい経路である。
【0047】
図5は、比較例に係る車両の走行軌跡E1の模式図である。比較例に係る車両は、本実施の形態に係る制御システムSと異なる制御システム(以下「比較例システム」と言う)の制御下で走行した。比較例システムは、目標経路Bに沿って走行するように車両を制御した。走行軌跡E1において濃い灰色で塗りつぶした箇所は、車両と目標経路Bの距離偏差zの大きさが所定値以下箇所である。また、走行軌跡E1において薄い灰色で塗りつぶした箇所は、距離偏差zの大きさが所定値より大きい箇所である。所定値は、例えば10センチメートルである。図5に示すとおり、走行軌跡E1には、薄い灰色で塗りつぶされた箇所(破線で囲った箇所)がある。つまり、比較例システムの制御下で走行した車両は、特に、直線と曲路が切り替わる箇所や曲率が大きい曲路において、距離偏差zが10センチメートルよりも大きくなり、目標経路Bに追従できていない。
【0048】
図6は、本実施の形態に係る制御システムSの制御下で走行した車両Aの走行軌跡E2の模式図である。図6に示すとおり、走行軌跡E2は、全て濃い灰色で塗り潰されており、薄い灰色で塗り潰された箇所が無かった。言い換えると、制御システムSの制御下で走行した車両Aの距離偏差zは常に10センチメートル以下であった。
【0049】
制御システムSは、ヨーレートに対する横滑り角βの伝達関数に基づく予測モデルを用いることで、ヨーレートの変化に応じた横滑り角βを予測可能になる。言い換えると、予測モデルは、ヨーレート変えた場合の横滑り角βの変化を予測するモデルである。そして、予測モデルに基づく距離偏差z、方位角偏差θ及びヨーレートをパラメータに含む評価関数Jを最小化するヨーレートは、距離偏差z及び方位角偏差θを小さくするヨーレートであり、車両Aを目標経路Bに沿って旋回させる横滑り角を生じさせることが可能なヨーレートである。
【0050】
つまり、車両Aのヨーレートを制御システムSが決定した目標ヨーレートrにすることで、車両Aが目標経路Bに沿って旋回可能な横滑り角βが車両Aに生じるので、車両Aは、目標経路Bに沿って旋回するようになる。その結果、車両Aが目標経路Bに沿って走行するようになるので、制御システムSは、車両Aの曲率が大きい目標経路Bへの追従性を向上できる。
【0051】
[走行を制御する処理]
図7は、車両Aの走行を制御する処理の一例を示すフローチャートである。車両Aの走行を制御する処理は、車両Aの走行中に実行される。
【0052】
取得部121は、車両Aに関する情報を取得する(ステップS1)。具体的には、取得部121は、車両Aの目標経路Bの経路点Dと車両Aとの距離偏差zと、第一方位角ψ及び第二方位角φの方位角偏差θと、横滑り角βと、ヨーレートを取得する。また、取得部121は、車両Aのヨー慣性モーメントl、車両Aの重量m、車両Aの重心から車両Aの前輪の軸までの第一距離l、車両Aの重心点から車両Aの後輪の軸までの第二距離l、車両Aの車長l、及び後輪コーナリングスティフネスKを取得する。
【0053】
生成部122は、横滑り角βの変化を予測する予測モデルを生成する(ステップS2)。具体的には、生成部122は、距離偏差z、方位角偏差θ、車速V、横滑り角β、ヨーレート及び第一方位角ψと、式(8)で表される伝達関数とに基づいて、距離偏差z、方位角偏差θ、横滑り角β及び第二方位角φの各々の変化を予測する連続時間型の予測モデルを生成する。より具体的には、生成部122は、式(9)で表される連続時間型の状態方程式を予測モデルとして生成する。
【0054】
ヨーレート決定部123は、式(28)で表され、かつ予測モデルに対応する評価関数Jを最小化する目標ヨーレートを決定する(ステップS3)。具体的には、ヨーレート決定部123は、予測モデルから予測された推定距離偏差z、推定方位角偏差及び目標ヨーレートrをパラメータに含み、取得された距離偏差z、方位角偏差及びヨーレートが入力された評価関数を最小化する目標ヨーレートをを目標ヨーレートrに決定する。
【0055】
操舵角決定部124は、ヨーレート決定部123が決定した目標ヨーレートrに対応する目標操舵角δを出力する(ステップS4)。具体的には、操舵角決定部124は、取得部121が取得したヨーレートと、ヨーレート決定部123が決定した目標ヨーレートrとを、車両Aの目標操舵角を決定する関係式に代入することで、目標操舵角δを決定し、決定した目標操舵角δを操舵制御部125に出力する。
【0056】
取得部121は、目標操舵角δが出力された後、車両Aが停車した否かを判定する(ステップS5)。取得部121は、車両Aが停車した場合(ステップS5でYes)、車両Aの走行を制御する処理を終了する。取得部121は、車両Aが走行中の場合(ステップS5でNo)、ステップS1に戻り車両Aに関する情報を取得する。なお、取得部121は、停止中の車両Aが走行を開始した場合、車両Aの走行を制御する処理を開始する。
【0057】
[制御システムSの効果]
以上説明したとおり、制御システムSは、車両Aの目標経路Bの経路点Dと車両Aとの距離偏差z、経路点Dの第一方位角ψと車両Aの第二方位角φとの方位角偏差θ、車両Aのヨーレート、車速V、及び横滑り角βを取得する。次に、制御システムSは、ヨーレートと横滑り角βの関係を表し、かつヨーレートを入力すると横滑り角βを出力する伝達関数を生成する。続いて、制御システムSは、生成した伝達関数と、距離偏差z、方位角偏差θ、車速V、横滑り角β、ヨーレート及び第一方位角ψと、に基づいて、距離偏差z、方位角偏差θ、横滑り角β及び第二方位角φの各々の変化を予測する予測モデルを生成する。そして、制御システムSは、予測モデルから予測された推定距離偏差z、推定方位角偏差θ及び目標ヨーレートrをパラメータに含み、取得された距離偏差z、方位角偏差θ及びヨーレートが入力された評価関数Jの値を最小化する目標ヨーレートrを決定する。
【0058】
このように、制御システムSは、ヨーレートに対する横滑り角βの伝達関数に基づく予測モデルを用いることで、ヨーレートの変化に応じた横滑り角βの予測が可能になる。予測モデルから算出される距離偏差z、方位角偏差θ及びヨーレートをパラメータに含む評価関数Jにおいては、ヨーレートの変化による横滑り角βの変化が含まれている。したがって、評価関数Jを最小化するヨーレートは、横滑り角βによる車両Aの重心点Cと経路点Dの距離偏差zを低減するヨーレートになる。言い換えると、制御システムSは、車両Aを目標経路Bに沿って旋回させる横滑り角βが生じる目標ヨーレートrを決定できる。その結果、曲率の大きい目標経路Bに車両Aが沿って走行するようになるので、制御システムSは、車両Aの目標経路Bへの追従性を向上することができる。
【0059】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0060】
1 車両制御装置
11 記憶部
12 制御部
121 取得部
122 生成部
123 ヨーレート決定部
124 操舵角決定部
125 操舵制御部
A 車両
【要約】
【課題】車両の目標経路への追従性を向上する。
【解決手段】車両の目標経路と車両との距離偏差、目標経路の第一方位角と車両の第二方位角との方位角偏差、車両のヨーレート、車速及び横滑り角を取得する取得部121と、距離偏差、方位角偏差、車速、横滑り角、ヨーレート及び第一方位角と、ヨーレートと横滑り角との関係を表す伝達関数とに基づいて、距離偏差、方位角偏差、横滑り角及び第二方位角の各々の変化の予測モデルを生成する生成部122と、予測モデルから予測された推定距離偏差、推定方位角偏差及び目標ヨーレートをパラメータに含む評価関数の値を最小化する目標ヨーレートを決定するヨーレート決定部123と、を有する制御システム。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7