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特許7605283未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F27D 21/00 20060101AFI20241217BHJP
   F27B 9/40 20060101ALI20241217BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20241217BHJP
   F27D 19/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
F27D21/00 A
F27B9/40
F27D17/00 A
F27D19/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023213682
(22)【出願日】2023-12-19
【審査請求日】2024-09-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】野島 佑介
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-014056(JP,A)
【文献】特開2012-002463(JP,A)
【文献】特開平9-263801(JP,A)
【文献】特開2015-068517(JP,A)
【文献】特開昭53-8361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 21/00
F27B 9/40
F27D 17/00
F27D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアと炭素含有燃料とを含む燃料ガスを用いてバーナ加熱を施す加熱炉から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニアの濃度を推定する未燃アンモニア濃度の推定方法であって、
前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する特定ステップと、
前記加熱炉の操業中に前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定する測定ステップと、
前記測定ステップで測定された一酸化炭素濃度と、前記特定ステップで特定された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、前記加熱炉の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する推定ステップと、
を含む、未燃アンモニア濃度の推定方法。
【請求項2】
前記特定ステップは、前記加熱炉の操業条件を複数種類に分類した区分ごとに、前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する、請求項1に記載の未燃アンモニア濃度の推定方法。
【請求項3】
前記加熱炉は、被加熱材を装入部から搬出部まで搬送しながら加熱する搬送式加熱炉であり、
前記測定ステップは、前記加熱炉から排ガスを排出する煙道、前記装入部、および前記搬出部の少なくとも一か所で、前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定する、請求項1または請求項2に記載の未燃アンモニア濃度の推定方法。
【請求項4】
アンモニアと炭素含有燃料とを含む燃料ガスを用いてバーナ加熱を施すバーナ設備から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニアの濃度を推定する未燃アンモニア濃度の推定方法であって、
前記バーナ設備の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する特定ステップと、
前記バーナ設備によりバーナ加熱を施すときに前記バーナ設備の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定する測定ステップと、
前記測定ステップで測定された一酸化炭素濃度と、前記特定ステップで特定された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、前記バーナ設備の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する推定ステップと、
を含む、未燃アンモニア濃度の推定方法。
【請求項5】
前記特定ステップは、前記バーナ設備の操業条件を複数種類に分類した区分ごとに、前記バーナ設備の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する、請求項4に記載の未燃アンモニア濃度の推定方法。
【請求項6】
請求項3に記載の未燃アンモニア濃度の推定方法により推定された未燃アンモニア濃度の推定値が所定値以上であるとき、前記加熱炉から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度が小さくなるように前記加熱炉の操業条件を操作する操作ステップを含む、加熱炉の操業方法。
【請求項7】
前記操作ステップで変更される前記加熱炉の操業条件は、前記バーナ加熱に用いる燃焼用空気の流量、前記燃料ガスの流量、前記燃料ガスの理論空気量に対する空気比、および前記アンモニアと炭素含有燃料との混合比率、のうち少なくとも一つを含む、請求項6に記載の加熱炉の操業方法。
【請求項8】
請求項4に記載の未燃アンモニア濃度の推定方法により推定された未燃アンモニア濃度の推定値が所定値以上であるとき、前記バーナ設備から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度が小さくなるように前記バーナ設備の操業条件を操作する操作ステップを含む、バーナ設備の操業方法。
【請求項9】
前記操作ステップで変更される前記バーナ設備の操業条件は、前記バーナ加熱に用いる燃焼用空気の流量、前記燃料ガスの流量、前記燃料ガスの理論空気量に対する空気比、および前記アンモニアと炭素含有燃料との混合比率、のうち少なくとも一つを含む、請求項8に記載のバーナ設備の操業方法。
【請求項10】
アンモニアと炭素含有燃料とを含む燃料ガスを用いてバーナ加熱を施す加熱炉の制御装置であって、
前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を記憶する記憶部と、
前記加熱炉の操業中に測定される前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を取得する取得部と、
前記取得部により取得された一酸化炭素濃度と、前記記憶部に記憶された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、前記加熱炉の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する推定部と、
前記推定部により推定された未燃アンモニア濃度の推定値が所定値以上であるとき、前記推定値が前記所定値よりも小さくなるようにするための前記加熱炉の操業条件の操作量を算出する操作量算出部と、
を含む、加熱炉の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銑鋼一貫製鉄所では、鉄鉱石を還元して溶銑を製造する高炉の炉頂から排出される高炉ガス、転炉で発生する転炉ガス、コークス炉で発生するコークス炉ガスなどの副生ガスを、燃料ガスとして有効利用している。しかし、近年では、二酸化炭素の排出量削減の要求が高まり、これらの副生ガスの使用量を低減するための燃焼技術が求められるようになってきている。銑鋼一貫製鉄所の熱間圧延ラインや厚板圧延ラインなどにおいて、圧延前のスラブを加熱する加熱炉においても、副生ガスの使用量を低減し、二酸化炭素の排出量を削減することが要求されるようになってきている。
【0003】
そこで、加熱炉の燃料ガスとして、アンモニアを使用する技術が着目されている。炭素元素を含まないアンモニアが燃焼すると、主として水および窒素のみが発生するため、二酸化炭素排出量の削減効果が大きく、加熱炉の燃料ガスとしてアンモニアを使用するための技術開発が望まれている。
【0004】
しかし、アンモニアは毒性を有するため、未燃焼のアンモニア(「未燃アンモニア」ともいう)が加熱炉の外部に排出されると、加熱炉の外部の環境を悪化させることになる。このため、加熱炉の燃料ガスとしてアンモニアを使用する場合には、未燃アンモニアが加熱炉の外部に排出されることを抑制するために、加熱炉の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を測定する必要がある。
【0005】
これに関して、特許文献1には、ボイラ排ガスを処理する脱硝装置の出口から排出される排ガス中のアンモニアガスを分析する方法が開示されている。具体的には、二酸化硫黄が共存するアンモニアガスをインドフェノール法により分析するに際して、吸収液を蒸留して液中のSO 2-イオンを除去することにより分析精度を向上させている。インドフェノール法は、インドフェノール青吸光光度法とも呼ばれ、ガス中のアンモニアをほう酸溶液に吸収させた後、フェノールペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウム溶液及び次亜塩素酸ナトリウム溶液を加えて、インドフェノール青を生成させ、吸光度(640nm)を測定することによりガス中のアンモニア濃度を算出する方法である。
【0006】
排ガス中のアンモニアを分析するための方法としては、インドフェノール法の他に、イオンクロマトグラフィ法も知られている。イオンクロマトグラフィ法は、ガス中のアンモニアをほう酸溶液に吸収させた後、分析用試料溶液をイオンクロマトグラフに注入し、アンモニウムイオンのクロマトグラムを得て、アンモニウムイオン濃度からガス中のアンモニア濃度を算出する方法である。
【0007】
また、特許文献2には、アンモニア態窒素および硝酸/亜硝酸態窒素ならびに全窒素の分析方法が開示されている。具体的には、アンモニアガスを加熱された反応管の燃焼部に設けた酸化触媒によってNOガスに酸化し、このNOガスを化学発光式NO検出器へ送ってアンモニア態窒素を分析する方法が記載されている。
【0008】
さらに、非特許文献1には、赤外分析計を用いてアンモニア濃度を測定するドライガス測定方法が開示されている。具体的には、測定対象のガスを赤外分析計に搬送する配管にクーラを設置して、これにより除湿されたガスを赤外分析計に供する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭61-17955号公報
【文献】特開2001-21546号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】宮本敏夫、“赤外ガス分析計の実施状況”、工業化学雑誌、社団法人日本化学会、1963年11月、第66巻、第11号、p.1561~1563
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上述の従来技術を、加熱炉の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度の測定に適用しようとすると、以下のような問題が生じる。
【0012】
まず、特許文献1に開示される方法でアンモニア濃度を測定するには、アンモニアガスの吸収液への吸収、試薬との反応および分析といった手順を踏む必要がある。つまり、アンモニア濃度の測定をバッチ処理により行う必要があり、測定結果を得るまでに一定の時間(例えば10分以上)を要する。よって、アンモニア濃度の測定を連続的に行うことが難しい。これは、イオンクロマトグラフィ法を用いてアンモニア濃度を測定する場合も同様である。
【0013】
また、特許文献2に開示される方法を、加熱炉の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度の測定に適用しようとすると、アンモニアを含有する排ガスを成分測定装置に搬送する配管が必要となる。しかし、アンモニアは非常に水に溶解しやすい性質を有するため、配管内の水分によって排ガス中のアンモニアが除去されないように、排ガスを搬送する配管内の温度を排ガスの露点以上に維持する必要がある。このため、アンモニア濃度を測定するための付帯設備が大型化し、設備コストが高くなる。また、アンモニアは腐食性を有するため、排ガスを搬送する配管やポンプの腐食が生じやすく、配管類の腐食によりアンモニアを含む排ガスが漏洩するリスクがある。このため、排ガス中のアンモニア濃度を測定する測定装置全体のメンテナンスに要する負荷が大きい。
【0014】
さらに、非特許文献1に開示される方法を、加熱炉の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度の測定に適用しようとすると、排ガスの成分分析の前処理として、排ガスを除湿する必要がある。しかし、アンモニアは非常に水に溶けやすい性質を有するため、前処理の除湿過程で凝集する水分にアンモニアが溶解する。よって、排ガスが成分分析装置に導入される前に、排ガス中のアンモニアの一部が除去されることとなり、アンモニア濃度の測定精度が低下してしまう。
【0015】
本発明は、従来技術が有する上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、燃料ガスとして二酸化炭素の排出を抑制し得るアンモニアを用いる加熱炉の排ガスに含まれるアンモニア濃度を、簡易な方法によりオンラインで測定できる未燃アンモニア濃度の推定方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、加熱炉の排ガスとして未燃アンモニアが炉外に排出されることを抑制できる加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有する。
【0017】
[1] アンモニアと炭素含有燃料とを含む燃料ガスを用いてバーナ加熱を施す加熱炉から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニアの濃度を推定する未燃アンモニア濃度の推定方法であって、前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する特定ステップと、前記加熱炉の操業中に前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定する測定ステップと、前記測定ステップで測定された一酸化炭素濃度と、前記特定ステップで特定された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、前記加熱炉の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する推定ステップと、を含む、未燃アンモニア濃度の推定方法。
【0018】
[2] 前記特定ステップは、前記加熱炉の操業条件を複数種類に分類した区分ごとに、前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する、[1]に記載の未燃アンモニア濃度の推定方法。
【0019】
[3] 前記加熱炉は、被加熱材を装入部から搬出部まで搬送しながら加熱する搬送式加熱炉であり、前記測定ステップは、前記加熱炉から排ガスを排出する煙道、前記装入部、および前記搬出部の少なくとも一か所で、前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定する、[1]または[2]に記載の未燃アンモニア濃度の推定方法。
【0020】
[4] アンモニアと炭素含有燃料とを含む燃料ガスを用いてバーナ加熱を施すバーナ設備から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニアの濃度を推定する未燃アンモニア濃度の推定方法であって、前記バーナ設備の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する特定ステップと、前記バーナ設備によりバーナ加熱を施すときに前記バーナ設備の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定する測定ステップと、前記測定ステップで測定された一酸化炭素濃度と、前記特定ステップで特定された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、前記バーナ設備の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する推定ステップと、を含む、未燃アンモニア濃度の推定方法。
【0021】
[5] 前記特定ステップは、前記バーナ設備の操業条件を複数種類に分類した区分ごとに、前記バーナ設備の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する、[4]に記載の未燃アンモニア濃度の推定方法。
【0022】
[6] [3]に記載の未燃アンモニア濃度の推定方法により推定された未燃アンモニア濃度の推定値が所定値以上であるとき、前記加熱炉から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度が小さくなるように前記加熱炉の操業条件を操作する操作ステップを含む、加熱炉の操業方法。
【0023】
[7] 前記操作ステップで変更される前記加熱炉の操業条件は、前記バーナ加熱に用いる燃焼用空気の流量、前記燃料ガスの流量、前記燃料ガスの理論空気量に対する空気比、および前記アンモニアと炭素含有燃料との混合比率、のうち少なくとも一つを含む、[6]に記載の加熱炉の操業方法。
【0024】
[8] [4]に記載の未燃アンモニア濃度の推定方法により推定された未燃アンモニア濃度の推定値が所定値以上であるとき、前記バーナ設備から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度が小さくなるように前記バーナ設備の操業条件を操作する操作ステップを含む、バーナ設備の操業方法。
【0025】
[9] 前記操作ステップで変更される前記バーナ設備の操業条件は、前記バーナ加熱に用いる燃焼用空気の流量、前記燃料ガスの流量、前記燃料ガスの理論空気量に対する空気比、および前記アンモニアと炭素含有燃料との混合比率、のうち少なくとも一つを含む、[8]に記載のバーナ設備の操業方法。
【0026】
[10] アンモニアと炭素含有燃料とを含む燃料ガスを用いてバーナ加熱を施す加熱炉の制御装置であって、前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を記憶する記憶部と、前記加熱炉の操業中に測定される前記加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を取得する取得部と、前記取得部により取得された一酸化炭素濃度と、前記記憶部に記憶された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、前記加熱炉の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する推定部と、前記推定部により推定された未燃アンモニア濃度の推定値が所定値以上であるとき、前記推定値が前記所定値よりも小さくなるようにするための前記加熱炉の操業条件の操作量を算出する操作量算出部と、を含む、加熱炉の制御装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明の未燃アンモニア濃度の推定方法によれば、燃料ガスとして二酸化炭素の排出を抑制し得るアンモニアを用いる加熱炉の排ガスに含まれるアンモニア濃度を簡易な方法によりオンラインで測定できる。また、本発明の加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置によれば、二酸化炭素の排出を抑制し得るアンモニアを用いるとともに、加熱炉の排ガスとして未燃アンモニアが炉外に排出されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明に係る未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置の一実施形態が適用される加熱炉を模式的に示す縦断面図である。
図2図2は、本発明に係る未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置の一実施形態が適用される加熱炉を模式的に示す横断面図である。
図3図3(a)および図3(b)は、燃料ガスとしてアンモニアを用いるバーナ設備の詳細を示す側面図、正面図である。
図4図4(a)および図4(b)は、燃料ガスとしてアンモニアを用いないバーナ設備の詳細を示す側面図、正面図である。
図5図5は、燃料ガスに含まれる炭素含有燃料の燃焼速度が、アンモニアの燃焼速度よりも速い場合における、バーナ設備からの排ガス中の一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を示すグラフである。
図6図6(a)および図6(b)は、それぞれ、燃料ガスに含まれるアンモニアと炭素含有燃料の燃焼速度が等しい場合、燃料ガスに含まれるアンモニアの燃焼速度が炭素含有燃料の燃焼速度よりも速い場合における、バーナ設備からの排ガス中の一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を示すグラフである。
図7図7は、本発明に係る未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置の一実施形態が適用される加熱炉内のCO濃度計の配置例を模式的に示す図である。
図8図8は、加熱炉の煙道から排出される排ガス中の一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を示すグラフである。
図9図9は、本発明に係る未燃アンモニア濃度の推定方法の他の態様が適用される加熱炉を模式的に示す図である。
図10図10は、本発明に係る加熱炉の制御装置の一例の構成を示すブロック図である。
図11図11は、本発明に係る未燃アンモニア濃度の推定方法において、加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定するための試験用加熱炉を模式的に示す図である。
図12図12は、本発明に係る未燃アンモニア濃度の推定方法において、加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する特定ステップの一例を説明するためのグラフである。
図13図13は、本発明に係る未燃アンモニア濃度の推定方法による未燃アンモニア濃度の推定値の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置の実施形態について、詳細に説明する。
<加熱炉>
図1に、本発明の一実施形態に係る未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置が適用される加熱炉1の縦断面図を模式的に示す。また、図2に、加熱炉1の横断面図を模式的に示す。
【0030】
加熱炉1は、燃料ガスを燃焼させる第一バーナ設備20a~20dおよび第二バーナ設備30a~30fを備え、これを加熱用熱源として、加熱炉1の内部に装入した被加熱材Sを所定の温度まで昇温させる設備である。第一バーナ設備20a~20dおよび第二バーナ設備30a~30fの詳細については後述する。加熱炉1の加熱対象となる被加熱材Sは主として金属であり、鉄系金属、非鉄系金属のいずれでもよい。加熱炉1による被加熱材Sの加熱温度は、例えば700~1400℃である。
【0031】
本実施形態では、鋼材の熱間圧延ラインや厚板圧延ラインなどに供給される圧延前のスラブを被加熱材Sとし、これを加熱炉1により加熱する場合を例に説明する。例えば、加熱炉1によって、鋼材の熱間圧延ラインに供給されるスラブを加熱する場合には、連続鋳造装置などで鋳造されたスラブを所定の加熱温度(例えば1100~1300℃程度)まで加熱する。
【0032】
図1および図2に示すように、加熱炉1は、被加熱材である鋼材(スラブ)Sを装入する装入部11と、加熱した鋼材Sを搬出(抽出)する搬出部12とを備えている。例えば、連続鋳造ラインで製造された鋼材Sは、加熱炉1の装入側のヤードに搬送され、熱間圧延ライン等の生産スケジュールに従って装入部11から加熱炉1に装入される。加熱炉1の内部は複数の帯域に区切られており、上流側の2~8個の帯域からなる加熱帯と、下流側の1~3個の帯域からなる均熱帯とから構成されることが多い。加熱炉1の内部には、鋼材Sを載置するための固定スキッド13fと、鋼材Sを搬送するための移動スキッド13mとが備えられるのが一般的である。固定スキッド13fおよび移動スキッド13mとを備える加熱炉1は、ウォーキングビーム式連続加熱炉と呼ばれる。ウォーキングビーム式連続加熱炉は、被加熱材を装入部から搬出部まで搬送しながら加熱する搬送式加熱炉に分類される。
【0033】
加熱炉1の操業では、加熱炉1の内部を、帯域ごとに異なる雰囲気温度に制御することにより、加熱炉1に装入された鋼材Sの平均温度を徐々に上げ、鋼材Sが所定の目標加熱温度(加熱炉1から搬出されるスラブの目標温度)になるように制御する。目標加熱温度まで加熱された鋼材Sは、搬出部12を通過して、熱間圧延ラインに供給される。
【0034】
図1に示すように、加熱炉1の内部には、鋼材Sの搬送方向TDに沿って複数の第一バーナ設備20a~20dおよび第二バーナ設備30a~30fが備えられている。第一バーナ設備20a~20dおよび第二バーナ設備30a~30fにより燃料ガスを燃焼させ、加熱炉1の内部が昇温すると、加熱炉1の炉壁からの輻射により鋼材Sの温度が上昇する。また、加熱炉1の内部で生じる雰囲気ガスの対流によっても、鋼材Sの温度が上昇する。あるいは、鋼材Sの温度の上昇が、第一バーナ設備20a~20dおよび第二バーナ設備30a~30fからの火炎が直接鋼材Sに接触することにより生じるようにしてもよい。
【0035】
加熱炉1の内部には、第一バーナ設備20a~20dおよび第二バーナ設備30a~30fから火炎が放出される空間の他に、鋼材Sを載置し搬送するための空間が必要である。このため、加熱炉は、内部で燃焼反応を生じさせることを目的とするタービン、ボイラ等に比べて、炉内に投入する燃焼エネルギーに対する炉内容積が大きいのが特徴である。
【0036】
単位燃焼エネルギーあたりの炉内容積(m/MW)の代表値は、例えば、ガスタービンで2m/MW、微粉炭ボイラで6m/MW、ガス・油ボイラで2m/MW程度であるのに対し、加熱炉では10~16m/MW程度と大きい。鋼材の熱間圧延ラインに用いられる加熱炉では、11~13m/MW程度である。
【0037】
加熱炉1の操業中には、装入部11と搬出部12の扉(開閉扉)は閉じられ、加熱炉1の内部圧力が大気圧よりも高くなる。そして、鋼材Sの装入時および搬出時に、装入部11と搬出部12の扉が一時的に開放されると、加熱炉1の中央部と扉付近との間で圧力差が生じ、加熱炉1の内部においてバーナ加熱により炉内で生成したガス(以下、排ガスという)は、圧力が高い場所から低い場所に向かって流動する。加熱炉1の扉が開放された状態では、開口部を通じて排ガスが加熱炉1の炉外に排出される方向に、排ガスの流動が生じることが多い。
【0038】
図1および図2に示すように、加熱炉1は、バーナ加熱により炉内で生成した排ガスを排気するための煙道14を備えている。煙道14は、排ガス中の窒素酸化物および未燃アンモニアを除去するための排ガス処理装置15に接続されている。排ガス処理装置15は、排ガス中の窒素酸化物や未燃アンモニアの濃度を低減させ、所定の排出基準を満たすように排ガスを処理する。これにより、排ガス中に窒素酸化物や未燃アンモニアが含まれていても、煙道14に接続された排ガス処理装置15により窒素酸化物や未燃アンモニアの濃度が低減され、加熱炉1の外部への窒素酸化物や未燃アンモニアの排出が抑制される。なお、以下の説明において「抑制される」とは、排ガス中の窒素酸化物や未燃アンモニアの濃度が、例えば法令等による規制値を上回らないように予め設定される窒素酸化物や未燃アンモニアの濃度の上限値以下まで低減されていることを意味するものとする。
【0039】
煙道14は、加熱炉1で生成する排ガスを炉外に排出できるものであれば、加熱炉1のどの位置に配置されていてもよいが、図1および図2に示すように、加熱炉1の装入部11に近い位置に配置されていることが好ましい。このようにすると、加熱炉1の装入側のヤードに搬送されるスラブが、加熱炉1からの排ガスにより予熱され、熱効率の点で有利となる。また、煙道14には、排ガスの顕熱を回収する熱回収装置(図示せず)を備えるようにしてもよい。
【0040】
図1および図2に示すように、加熱炉1では、鋼材Sの上面と下面との温度差が生じないように、第一バーナ設備20a~20dおよび第二バーナ設備30a~30fが、鋼材Sの上面側と下面側のそれぞれに配置されることが多い。また、図2に示すように、鋼材Sの先端S1と尾端S2との温度差が生じないように、鋼材Sの搬送方向TDの両側に配置されることが多い。
【0041】
図1に示すように、加熱炉1には、加熱炉1の操業状態を制御するための制御用計算機10が備えられている。制御用計算機10は、鋼材Sが所定の目標加熱温度まで加熱されるように、加熱炉1に備えられた第一バーナ設備20a~20dおよび第二バーナ設備30a~30fの操業条件を算出する。また、制御用計算機10は、鋼材Sの加熱炉1への装入、加熱炉1内での搬送、および加熱炉1からの搬出の各動作、すなわち、装入部11および搬出部12の扉の開閉、移動スキッド13mの動作等を制御する。
【0042】
本発明に係る未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置が適用される加熱炉は、アンモニアと炭素含有燃料とを含む燃料ガスF1を用いてバーナ加熱を施すバーナ設備を、加熱炉の内部に一つ以上備えている。また、本発明の未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置が適用される加熱炉は、アンモニアを含有しない燃料ガスF2を用いてバーナ加熱を施すバーナ設備をさらに備えることが好ましい。以下では、燃料ガスに含まれるアンモニアは、気化した状態のアンモニアガスを意味するものとする。
【0043】
本実施形態では、第一バーナ設備20a~20dおよび第二バーナ設備30a~30fのうち、第一バーナ設備20a~20dが、アンモニアF11と炭素含有燃料F12とを含む燃料ガスF1を用いてバーナ加熱を施すバーナ設備に該当する。また、第二バーナ設備30a~30fが、アンモニアを含有しない燃料ガスF2を用いてバーナ加熱を施すバーナ設備に該当する。
【0044】
図1および図2に示すように、加熱炉1には、4基の第一バーナ設備20a~20dのうち、2つの第一バーナ設備20a、20bは、加熱炉1の搬送方向TDの中央部の上側に備えられている。残り2つの第一バーナ設備20c、20dは、加熱炉1の搬送方向TDの中央部の下側に備えられている。また、6基の第二バーナ設備30a~30fのうち、2つの第二バーナ設備30a、30dは、加熱炉1の搬送方向TDの上流部の上側および下側に備えられている。残り4つの第二バーナ設備30b、30c、30e、30fは、加熱炉1の搬送方向TDの下流部の上側および下側に備えられている。
<第一バーナ設備>
図3(a)および図3(b)に、アンモニアF11と炭素含有燃料F12とを含む燃料ガスF1を用いてバーナ加熱を施すバーナ設備、すなわち第一バーナ設備20a~20dの詳細を示す。図3(a)は第一バーナ設備20a~20dの側面図、図3(b)は正面図である。
【0045】
図3(a)および図3(b)に示すように、第一バーナ設備20a~20dは、アンモニアF11と炭素含有燃料F12とを含む燃料ガスF1と、燃焼用空気Aとを用いて、加熱炉1の炉内に火炎を噴射するバーナ加熱を行う。第一バーナ設備20a~20dは、加熱炉1の炉内に火炎を噴射するためのバーナノズル21と、燃料ガスF1をバーナノズル21に供給する燃料ガス供給系統22と、燃焼用空気Aをバーナノズル21に供給する燃焼用空気供給系統26とを備えている。第一バーナ設備20a~20dは、バーナノズル21に供給される燃料ガスF1の理論空気量に対する空気比(単に、空気比とも呼ぶ)を制御する空気比制御部27を備えていることが好ましい。
【0046】
燃料ガス供給系統22は、バーナノズル21にアンモニアF11と炭素含有燃料F12とを含む燃料ガスF1を供給する配管である。燃焼用空気供給系統26は、バーナノズル21に燃焼用空気Aを供給する配管である。
【0047】
バーナノズル21は、例えば二重管のノズルで構成され、内側の管からは燃料ガスF1が、外側の管からは燃焼用空気Aが、炉内に向けて噴射される。これにより、バーナノズル21の前方で、燃料ガスF1と燃焼用空気Aとが混合した可燃性混合気体が形成され、バーナノズル21の先端部から加熱炉1の内部に向けて火炎が噴射される。
【0048】
第一の実施形態のように、加熱炉1に複数の第一バーナ設備20a~20dが備えられる場合には、その各々に供給されるアンモニアF11と炭素含有燃料F12との混合比率や、炭素含有燃料F12の種類が異なっていてもよいし、同一であってもよい。ただし、複数の第一バーナ設備20に供給される燃料ガスF1に用いる炭素含有燃料F12を同一種類としたほうが、加熱炉1への燃料ガスF1の供給設備が複雑になり設備コストが増加することを避けられるため、経済的である。
【0049】
アンモニアF11は、難燃性燃料であり、一般の燃料より着火しにくく燃焼速度も遅い。そこで、第一バーナ設備20a~20dでは、アンモニアF11に炭素含有燃料F12を混合した燃料ガスF1を用いることにより、アンモニアF11のみを用いる場合よりも、燃焼の安定性を向上させることができる。
【0050】
炭素含有燃料F12とは、炭素を構成元素に含む燃料をいう。炭素含有燃料F12は、炭素を構成元素に含むため、バーナ加熱により燃料を燃焼させることにより、一酸化炭素や二酸化炭素を生成する。炭素含有燃料F12は、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ベンゼン、一酸化炭素などであることが好ましい。炭素含有燃料F12としては、主として化石燃料を使用でき、都市ガス、天然ガス、プロパンガスなども含まれる。炭素含有燃料F12は、天然ガス等から採取されたものに限られず、人工的に合成されたものであることが好ましい。炭素含有燃料F12は、これらの燃料を適宜混合したものが用いられることが好ましい。
【0051】
第一の実施形態では、炭素含有燃料F12として、石炭ガスを用いている。石炭ガスとは、石炭から得られるガスである。石炭ガスは、製鉄所で生成する副生ガス、具体的には、コークス炉ガス、高炉ガス、転炉ガス、電気炉ガスのいずれかを含むことが好ましい。これらは、アンモニアF11の燃焼を安定化させる効果があるためである。
【0052】
コークス炉ガスは、コークスを製造するために石炭を高温乾留して生成される副生ガスである。高炉ガスは、高炉で鉄鉱石を還元して銑鉄を製造する際の副生ガスである。転炉ガスは、転炉における製鋼工程で生じる副生ガスである。電気炉ガスは、電気炉における補助燃料(加炭材)の不完全燃焼により生成されるガスである。
【0053】
また、石炭ガスとして、高炉ガス、コークス炉ガス、転炉ガスが混合されたガス(Mガスともいう)を用いることが好ましい。発熱量が異なる石炭ガスを混合することにより、鋼材Sの加熱に必要な熱量を供給でき、加熱炉1の操業を安定的に行えるためである。
【0054】
また、第一バーナ設備20に用いられる燃料ガスF1として、アンモニアF11および炭素含有燃料F12に加えて、第三の燃料ガスを含む燃料ガスを用いてもよい。第三の燃料ガスとは、アンモニアF11を含有せず、かつ炭素含有燃料F12を含まない燃料である。第三の燃料ガスとしては、例えば水素を用いることが好ましい。
【0055】
図3(a)および図3(b)では、第一バーナ設備20に用いる燃料ガスF1として、アンモニアF11と石炭ガスF12との混合ガスを用いる場合について図示している。
【0056】
燃料ガス供給系統22には、アンモニアガス供給系統23および石炭ガス供給系統24が接続されている。そして、アンモニアガス供給系統23から供給されるアンモニアF11と、石炭ガス供給系統24から供給される石炭ガスF12とが、混合部25で混合され、燃料ガス供給系統22を通じてバーナノズル21に供給される。
【0057】
アンモニアガス供給系統23には、例えばアンモニアF11を貯留するタンクからアンモニアF11が供給され、このアンモニアF11がバーナノズル21に送られる。石炭ガス供給系統24には、例えば石炭ガスを貯留するタンクから石炭ガスF12が供給され、この石炭ガスF12がバーナノズル21に送られる。
【0058】
アンモニアガス供給系統23と石炭ガス供給系統24の途中には、それぞれのガスの混合部25への供給量を調整する流量調整バルブ23v、24vと、供給流量を測定するための流量計23m、24mを備えられていることが好ましい。このようにすると、燃料ガスF1に含まれるアンモニアF11と石炭ガスF12との混合比率を調整できる。
【0059】
なお、流量計23m、24mは、アンモニアガス供給系統23または石炭ガス供給系統24により搬送されるガスの圧力を測定することにより、アンモニアF11または石炭ガスF12の流量を推定するようにしたものでもよい。このようにすると、圧力計を用いて簡易に流量を推定できる。
【0060】
混合部25は、石炭ガス供給系統24の供給配管とアンモニアガス供給系統23の供給配管とが合流する部分を指す。アンモニアF11と石炭ガスF12とが、それぞれの供給配管から供給され合流することにより、特別な攪拌機構を設けなくても混合が行われる。混合部25はこれらの供給配管が合流する位置に、適切な容積を有する空間として、構成すればよい。ただし、混合部25に、スタティックミキサなどの静的混合機器や、攪拌機能を備える動的混合器を備えるようにすると、さらに好ましい。このようにすると、石炭ガスF12とアンモニアF11とがより均一に混合された燃料ガスF1を生成できる。
【0061】
第一バーナ設備20の燃焼用空気供給系統26の途中には、バーナノズル21に供給する燃焼用空気Aの流量を調整する流量調整バルブ26vおよび供給流量を測定するための流量計26mを備えることが好ましい。これにより、第一バーナ設備20の燃焼用空気Aの量を調整して、第一バーナ設備20のバーナ加熱における空気比を調整できる。燃焼用空気供給系統26の流量計26mについても、搬送される燃焼用空気の圧力を測定することにより流量を推定することが好ましい。
【0062】
空気比制御部27は、第一バーナ設備20a~20dの燃料ガスF1の理論空気量に対する空気比を制御する。空気比制御部27は、第一バーナ設備20a~20dの各々について、燃料ガスF1に対する燃焼用空気Aの空気比を調整する機能を備えている。具体的には、空気比制御部27は、アンモニアガス供給系統23と石炭ガス供給系統24に備えられた流量計23m、24mを用いてバーナノズル21に供給される燃料ガスF1の流量を測定し、測定された燃料ガスF1の流量と、燃料ガスF1の燃料組成とから、燃料ガスF1を完全燃焼させるための理論空気量を算出する。そして、空気比制御部27は、燃焼用空気供給系統26に配置される流量調整バルブ26vの開度を調整して、第一バーナ設備20a~20dにおける燃料ガスF1に対する燃焼用空気Aの空気比が、制御用計算機10などにより設定される目標空気比になるように制御する。
<第二バーナ設備>
図4(a)および図4(b)に、アンモニアを含有しない燃料ガスF2を用いてバーナ加熱を施すバーナ設備、すなわち第二バーナ設備30a~30fの詳細を示す。図4(a)は第二バーナ設備30a~30fの側面図、図4(b)は正面図である。
【0063】
第二バーナ設備30a~30fは、図3(a)および図3(b)に示す第一バーナ設備20a~20dにおいて、アンモニアガス供給系統23、ならびにアンモニアガス供給系統23に配置される流量計23mおよび流量調整バルブ23vを省略した構成を有する。また、第二バーナ設備30a~30fでは、アンモニアF11と石炭ガスF12とを混合する混合部25を備える必要がない。その他の点については、第二バーナ設備30a~30fは、第一バーナ設備20a~20dと同様に構成できる。
【0064】
図4(a)および図4(b)に示すように、第二バーナ設備30a~30fは、石炭ガスからなる燃料ガスF2と、燃焼用空気Aとを用いて、加熱炉1の炉内に火炎を噴射するバーナ加熱を行う。第二バーナ設備30a~30fは、加熱炉1の炉内に火炎を噴射するためのバーナノズル31と、燃料ガスF2をバーナノズル31に供給する燃料ガス供給系統32と、燃焼用空気Aをバーナノズル31に供給する燃焼用空気供給系統36とを備えている。第二バーナ設備30a~30fは、バーナノズル31に供給される燃料ガスF2の理論空気量に対する空気比(単に、空気比とも呼ぶ)を制御する空気比制御部37を備えていることが好ましい。
【0065】
燃料ガス供給系統32は、バーナノズル31に燃料ガスF2を供給する配管である。燃焼用空気供給系統36は、バーナノズル31に燃焼用空気Aを供給する配管である。
【0066】
バーナノズル31は、例えば二重管のノズルで構成され、内側の管からは燃料ガスF2が、外側の管からは燃焼用空気Aが、炉内に向けて噴射される。これにより、バーナノズル31の前方で、燃料ガスF2と燃焼用空気Aとが混合した可燃性混合気体が形成され、バーナノズル31の先端部から加熱炉1の内部に向けて火炎が噴射される。
【0067】
第二バーナ設備30a~30fの燃料ガスF2として用いる石炭ガスは、第一バーナ設備20の燃料ガスF1に含まれる炭素含有ガスF11として用いる石炭ガスと同一であってもよく、異なっていてもよい。また、第二バーナ設備30a~30fの燃料ガスF2は、石炭ガスに限定されない。第二バーナ設備30a~30fの燃料ガスF2としては、都市ガス、天然ガス、プロパンガスのうち一以上を用いてもよく、これらの二以上を混合した燃料ガスを用いてもよい。また、第二バーナ設備30の燃料ガスF2として、一酸化炭素ガスやメタン(天然ガスから抽出されたメタン、人工的に合成されたメタンの両者を含む)を用いてもよい。
<排ガス中の一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関>
上述のとおり、第一バーナ設備20a~20dでは、アンモニアF11と炭素含有燃料F12とを含む燃料ガスF1と、燃焼用空気Aを用いて、炉内に火炎を噴射するバーナ加熱を行う。ここで、アンモニアF11と炭素含有燃料F12は、燃焼速度が異なることが知られている。燃焼速度とは、バーナ加熱において生成する火炎が伝搬する際に、燃料ガスF1が火炎面に直角に入る速度を意味する。燃焼速度は、未燃焼の燃料ガスF1と燃料用空気Aとの混合気体としての化学反応の速度や熱伝導率に依存する。
【0068】
表1に、アンモニアおよび代表的な炭素含有燃料の燃焼速度を示す。表1では、Weaverの燃焼速度係数(水素の最大燃焼速度を100としたときの、燃料ガスと燃焼用空気との混合気体における最大燃焼速度の相対値を示す指標)により、燃焼速度を示している。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、アンモニアと炭素含有燃料の燃焼速度には差がある。そのため、第一バーナ設備20a~20dのバーナノズル21から噴射される燃料ガスF1は、燃焼用空気Aとの混合気体を生成して燃焼反応が生じるものの、燃料ガスF1に含まれるアンモニアF11と炭素含有燃料F12との燃焼速度に差が生じる。
【0071】
例えば、燃料ガスF1に含まれる炭素含有燃料F12の燃焼速度が、アンモニアF11の燃焼速度よりも速い場合には、燃料ガスF1中の炭素含有燃料F12が燃焼用空気A中の酸素と結合することにより、炭素含有燃料F12の燃焼反応が先行する。そして、炭素含有燃料F12の燃焼により、燃焼用空気A中の酸素が先行して消費されるため、燃料ガスF1中のアンモニアF11が燃焼するときに、酸素が不足する。このとき、炭素含有燃料F12の燃焼反応により、炭素含有燃料F12に含まれる炭素原子が完全燃焼により酸化して二酸化炭素が生成されるため、不完全燃焼により生成されることになる一酸化炭素は生成し難くなる。これに対し、アンモニアF11が燃焼するときには、アンモニアF11の燃焼反応に必要な酸素が不足するため、未燃アンモニアが残留する。よって、第一バーナ設備20a~20dの排ガスには、未燃アンモニアが残留する一方で、一酸化炭素の生成が抑えられる。
【0072】
次に、燃料ガスF1の理論空気量に対する空気比が小さくなると、先行する炭素含有燃料F12の燃焼反応に対し、燃焼用空気A中の酸素の量が十分ではなくなる。そのため、炭素含有燃料F12の燃焼が不完全燃焼状態となり、二酸化炭素とともに一酸化炭素が生成する。
【0073】
これに対し、アンモニアF11の燃焼速度が炭素含有燃料F12の燃焼速度よりも遅い場合には、先行する炭素含有燃料F12の燃焼反応により、燃焼用空気A中の酸素が先に消費されるため、アンモニアF11の燃焼状態は一層不完全な燃焼となり、未燃アンモニアの生成が促進される。このように、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガス中に一酸化炭素が多く含まれるほど、未燃アンモニアも増加するという相関が生じる。
【0074】
上述のように、本発明は、アンモニアF11と炭素含有燃料F12とを含む燃料ガスF1を用いてバーナ加熱を施す際に、バーナ設備から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度と一酸化炭素濃度との間に相関がみられるという知見に基づいている。すなわち、本発明は、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度と一酸化炭素濃度との間の相関に基づき、排ガス中の一酸化炭素濃度の測定値から、排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する。
【0075】
図5に、燃料ガスF1に含まれる炭素含有燃料F12の燃焼速度が、アンモニアF11の燃焼速度よりも速い場合における、第一バーナ設備20a~20dからの排ガス中の一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を示す。
【0076】
図5に示すように、燃料ガスF1に含まれる炭素含有燃料F12の燃焼速度が、アンモニアF11の燃焼速度よりも速い場合には、炭素含有燃料F12が完全燃焼する速度が、アンモニアF11が完全燃焼する速度よりも速い。よって、炭素含有燃料F12が完全燃焼する条件(図5に示すグラフで「CO濃度」がゼロとなる条件)では、排ガス中に未燃アンモニアが含まれる。アンモニアF11の燃焼速度と炭素含有燃料F12の燃焼速度との差が大きいほど、CO濃度がゼロとなるときの未燃アンモニア濃度、すなわち、図5に示すグラフの縦軸の切片の値が大きくなる。
【0077】
そして、燃料ガスF1の理論空気量に対する空気比を1.0から小さくしていくと、排ガス中の一酸化炭素濃度が上昇するとともに、アンモニアF11の燃焼反応に必要な酸素がさらに不足して、未燃アンモニア濃度も上昇していく。このとき、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度と一酸化炭素濃度との相関は、線形またはほぼ線形になる。また、図5に示すグラフにおいて、一酸化炭素濃度に対する未燃アンモニア濃度の傾きは、燃料ガスF1に含まれるアンモニアF11および炭素含有燃料F12の燃焼速度に応じて変化する。具体的には、アンモニアF11の燃焼速度よりも炭素含有燃料F12の燃焼速度が大きく、その差が大きいほど、傾きが大きくなる。
【0078】
図6(a)に、燃料ガスF1に含まれるアンモニアF11の燃焼速度と、炭素含有燃料F12の燃焼速度とが等しい場合における、排ガス中の一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を示す。また、図6(b)に、燃料ガスF1に含まれるアンモニアF11の燃焼速度が、炭素含有燃料F12の燃焼速度よりも速い場合における、排ガス中の一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を示す。
【0079】
図6(a)に示すように、燃料ガスF1に含まれるアンモニアF11の燃焼速度と、炭素含有燃料F12の燃焼速度とが等しい場合には、アンモニアF11が完全燃焼する速度と、炭素含有燃料F12が完全燃焼する速度とが等しい。よって、炭素含有燃料F12が完全燃焼する条件(図6(a)に示すグラフで「CO濃度」がゼロとなる条件)では、排ガス中に未燃アンモニアが残留しない。つまり、アンモニアF11、炭素含有燃料F12のいずれも、完全燃焼する。
【0080】
そして、燃料ガスF1の理論空気量に対する空気比を1.0から小さくしていくと、アンモニアF11、炭素含有燃料F12のいずれも、燃焼反応において酸素不足の状態となり、排ガス中の一酸化炭素濃度が上昇するとともに、未燃アンモニア濃度も上昇していく。
【0081】
また、図6(b)に示すように、燃料ガスF1に含まれるアンモニアF11の燃焼速度が、炭素含有燃料F12の燃焼速度よりも速い場合には、アンモニアF11が完全燃焼する速度が、炭素含有燃料F12が完全燃焼する速度よりも速い。よって、アンモニアF11が完全燃焼する条件(図6(b)に示すグラフで「未燃アンモニア濃度」がゼロとなる条件)では、排ガス中に一酸化炭素が含まれる。
【0082】
そして、燃料ガスF1の理論空気量に対する空気比を1.0から小さくしていくと、排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度が上昇するとともに、炭素含有燃料F12の燃焼反応に必要な酸素がさらに不足して、一酸化炭素濃度も上昇していく。
【0083】
このように、アンモニアF11および炭素含有燃料F12を含む燃料ガスF1と、燃焼用空気Aとを用いて、炉内に火炎を噴射するバーナ加熱を行う第一バーナ設備20a~20dでは、アンモニアF11の燃焼速度と炭素含有燃料F12の燃焼速度との差に応じて、バーナ加熱を行う第一バーナ設備20から排出される排ガス中の一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との間に相関が存在する。
<未燃アンモニア濃度の推定方法-第一の態様>
本発明に係る未燃アンモニア濃度の推定方法の実施形態として、その第一の態様および第二の態様を、以下に説明する。
【0084】
第一の態様および第二の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法は、アンモニアと炭素含有燃料とを含む燃料ガスを用いてバーナ加熱を施すバーナ設備から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニアの濃度を推定するものである。
【0085】
第一の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法では、まず、加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を予め特定する特定ステップを行う。次に、加熱炉1の操業中に第一バーナ設備20a~20dによりバーナ加熱を行う際に、加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定する測定ステップを行う。さらに、測定ステップで測定された一酸化炭素濃度と、特定ステップで特定された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、加熱炉1の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する推定ステップを行う。
【0086】
これら特定ステップ、測定ステップ、推定ステップについて、その第一の態様および第二の態様を、以下に具体的に説明する。
【0087】
まず、特定ステップでは、第一バーナ設備20a~20dの排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を予め特定する。第一バーナ設備20a~20dの排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定するには、例えば次の方法を適用できる。
【0088】
図7に、第一バーナ設備20a~20dから噴射される火炎により生成される排ガスの加熱炉1内での流れ、およびCO濃度計18の配置例を示す。
【0089】
図7に示すように、加熱炉1内ではガス流れが生じているため、第一バーナ設備20a~20dから噴射される火炎により生成される排ガスは、炉内のガス流れにおける下流側に向けて流動する。そこで、第一の実施形態では、第一バーナ設備20a~20dの炉内のガス流れにおける下流側に、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定するCO濃度計18を設置する。これにより、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度をオンラインで測定できる。
【0090】
また、第一バーナ設備20a~20dの炉内のガス流れの下流側で、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスを採取し、ガス成分測定装置(図示せず)により、排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度の実績データを収集する。ガス成分測定装置は、ウェットガス中の未燃アンモニア濃度を測定できる装置であればよく、インドフェノール法、イオンクロマトグラフィ法などを用いた成分測定装置を使用できる。ガス成分測定装置による未燃アンモニア濃度の測定は、オフラインで行うことが好ましい。
【0091】
このようにして、CO濃度計18によりオンラインで測定される、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度の実測値と、排ガスをサンプリングすることによりオフラインで取得される未燃アンモニア濃度の実績値とを、実績データとして取得できる。そして、第一バーナ設備20a~20dにおける空気比を変更して実績データを複数組取得することにより、第一バーナ設備20a~20dの排ガス中の一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関が特定される。
【0092】
なお、上述の特定ステップは、必ずしも加熱炉1の操業中に行わなくてもよい。例えば、加熱炉1の停止中に、第一バーナ設備20a~20dから火炎を噴射して、これにより取得される一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度の実測値を用いて一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定してもよい。すなわち、特定ステップは、加熱炉1において鋼材Sを加熱していないときに行ってもよい。
【0093】
特定ステップでは、第一バーナ設備20a~20dの操業条件の区分ごとに、第一バーナ設備20の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定することが好ましい。ここで、操業条件の区分とは、第一バーナ設備20a~20dによるバーナ加熱の条件や燃焼状態を代表する指標を2種類以上に分けることをいう。そして、特定ステップでは、これら各区分ごとに、一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する。すなわち、第一バーナ設備20a~20dのバーナ加熱の操業条件として、バーナ加熱に用いる炭素含有燃料F12の組成や種別、アンモニアF11と炭素含有燃料F12との混合比率などを選択し、これらの操業条件を例えば2~10種類に分類して、分類した区分ごとに、第一バーナ設備20a~20dの排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定するようにすることが好ましい。
【0094】
特定ステップでは、一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を、操業条件の区分ごとに特定されたテーブルで構成できる。また、一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を、線形回帰式などの関数近似によって特定し、操業条件の区分ごとに関数式を取得するようにしてもよい。
【0095】
測定ステップでは、第一バーナ設備20a~20dによりバーナ加熱を施す際に、第一バーナ設備20a~20dの排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定する。
【0096】
図7に示すように、第一バーナ設備20a~20dでは、第一バーナ設備20a~20dの炉内のガス流れの下流側に配置されるCO濃度計18を用いて、排ガスに含まれる一酸化炭素濃度をオンラインで測定できる。第一バーナ設備20から排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度は、CO濃度計18を用いて、例えば1~60秒の周期で連続的に測定することが好ましい。
【0097】
推定ステップでは、測定ステップで測定された一酸化炭素濃度と、特定ステップで予め特定された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、第一バーナ設備20a~20dの排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する。このとき、第一バーナ設備20a~20dの排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関は特定ステップで予め特定されているため、これに加えてCO濃度計18により測定された一酸化炭素濃度を用いることで、第一バーナ設備20a~20dの排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定できる。一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関が関数式により特定されている場合には、CO濃度計18により測定された一酸化炭素濃度を関数式に入力することにより未燃アンモニア濃度を算出でき、これにより未燃アンモニア濃度をオンラインで連続的に推定できる。
<未燃アンモニア濃度の推定方法-第二の態様>
上述の未燃アンモニア濃度の推定方法の第一の態様では、特定ステップにおいて、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度と一酸化炭素濃度との間の相関を特定した。
【0098】
ここで、図1に示すように、加熱炉1が、第一バーナ設備20a~20dに加えて、第二バーナ設備30a~30fを備える場合には、加熱炉1の装入部11、搬出部12、煙道14から排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との間にも、一定の相関が成立する。
【0099】
例えば、第二バーナ設備30a~30fで燃料ガスF2として石炭ガスを用いる場合には、第二バーナ設備30a~30fによるバーナ加熱が酸素不足状態となると、第二バーナ設備30a~30fからの排ガスに含まれる一酸化炭素濃度が上昇する。しかし、第二バーナ設備30a~30fに用いられる燃料ガスF2にはアンモニアガスが含まれないため、第二バーナ設備30a~30fでは未燃アンモニアが生成することはない。石炭ガスF2にアンモニアが含まれることもあるが、その含有量は微量であるため、第二バーナ設備30a~30fから生成する未燃アンモニアの量は、第一バーナ設備20a~20dから排出される未燃アンモニアの量に比べて非常に少なく、第二バーナ設備30a~30fで生成する未燃アンモニアの濃度は無視できる。
【0100】
したがって、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスと第二バーナ設備30a~30fから排出される排ガスとが合流すると、合流した排ガスには、第一バーナ設備20a~20dで生成した未燃アンモニアと、第一バーナ設備20a~20dで生成した一酸化炭素と第二バーナ設備30a~30fで生成した一酸化炭素の合計量の一酸化炭素が含まれている。
【0101】
よって、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスと第二バーナ設備30a~30fから排出される排ガスとが合流すると、排ガス全体の体積が変化するためガス濃度の値は変化するものの、図8に示すように、第一バーナ設備20a~20dの排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関が維持される。
【0102】
このように、第二バーナ設備30a~30fを備える場合であっても、加熱炉1の装入部11、搬出部12、煙道14から排出される排ガスは、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスと第二バーナ設備30a~30fから排出される排ガスとが合流したものであるため、加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との間には一定の相関が成立する。
【0103】
このような原理に基づいて、未燃アンモニア濃度の推定方法の第二の態様では、第一の態様のうち、特定ステップにおいて、加熱炉1全体から排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を予め特定するようにしたものである。これについて、以下に説明する。
【0104】
図9に、未燃アンモニア濃度の推定方法の第二の態様が適用される加熱炉1の縦断面図を模式的に示す。
【0105】
加熱炉1の装入部11と搬出部12が開いている場合には、加熱炉1の内部で生成した排ガスは、加熱炉1内のガス流れに従って、加熱炉1の装入部11および搬出部12から排出される。また、加熱炉1の装入部11と搬出部12が閉じている場合には、煙道14から排出される。
【0106】
そこで、図9に示すように、加熱炉1の装入部11および搬出部12の開口部に、排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定するCO濃度計18a、18bがそれぞれ設置されている。また、煙道14から排出される排ガスについては、加熱炉1から排ガス処理装置15までのガス流れが生じる位置にCO濃度計18cが設置されている。さらに、排ガス処理装置15により処理された排ガスの未燃アンモニア濃度を推定するために、煙道14の排ガス処理装置15よりもガス流れ方向の下流側の位置に、CO濃度計18dをさらに設置してもよい。これにより、加熱炉1の装入部11および搬出部12、ならびに煙道14から排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度をオンラインで測定できる。
【0107】
上述のCO濃度計18a~18dは、これら全てを必ず設置しなくてもよいが、加熱炉1の装入部11のCO濃度計18a、搬出部12のCO濃度計18bの少なくとも一方は設置するようにすることが好ましい。煙道14を通過して加熱炉1の外部に排出される排ガスは、排ガス処理装置15により処理されるため、加熱炉1の外部に排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度は抑制されている。これに対し、加熱炉1の装入部11および搬出部12は、鋼材Sの加熱炉1への装入時、加熱炉1からの搬出時に一時的に開口するものであり、開口部から排出される排ガスを排ガス処理装置により処理するのが困難であるため、排ガスの未燃アンモニアを検出する必要性が生じ得るためである。
【0108】
第二の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法では、第一の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法のうち、特定ステップが、次のように変更される。
【0109】
すなわち、第二の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法では、特定ステップにおいて、CO濃度計18aが設けられる装入部11、CO濃度計18bが設けられる搬出部12、CO濃度計18c、18dが設けられる煙道14において、加熱炉1から排出される排ガスを採取し、ガス成分測定装置(図示せず)により、排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度の実績データを収集する。ガス成分測定装置は、ウェットガス中の未燃アンモニア濃度を測定できる装置であればよく、インドフェノール法、イオンクロマトグラフィ法などを用いた成分測定装置を使用できる。ガス成分測定装置による未燃アンモニア濃度の測定は、オフラインで行ってよい。
【0110】
このようにして、CO濃度計18a~18dによりオンラインで測定される、加熱炉1の装入部11および搬出部12、ならびに煙道14からから排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度の実測値と、排ガスをサンプリングすることによりオフラインで取得される未燃アンモニア濃度の実績値とを、実績データとして取得できる。そして、第一バーナ設備20a~20dにおける空気比を変更して実績データを複数組取得することにより、加熱炉1から排出される排ガス中の一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関が特定される。
【0111】
第二の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法では、特定ステップにおいて、加熱炉1の操業条件の区分ごとに、加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定することが好ましい。ここで、加熱炉1の操業条件の区分とは、加熱炉1に設けられる第一バーナ設備20a~20dによるバーナ加熱の条件や燃焼状態を代表する指標を二以上に分けることをいう。さらに、加熱炉1の操業条件の区分は、加熱炉1に設けられる第一バーナ設備20a~20dによるバーナ加熱の条件や燃焼状態と、第二バーナ設備30a~30fによるバーナ加熱の条件や燃焼状態と、を代表する指標を二以上に分けるようにしてよい。そして、特定ステップでは、各区分ごとに、一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する。具体的には、第一バーナ設備20a~20dのバーナ加熱の操業条件として、バーナ加熱に用いる炭素含有燃料F12の組成や種別、アンモニアF11と炭素含有燃料F12との混合比率などを選択し、これらの操業条件を例えば2~10種類に分類して、分類した区分ごとに、加熱炉1から排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定するようにすることが好ましい。さらに、第二バーナ設備30a~30fのバーナ加熱の操業条件として、燃料ガスF2の組成や種別、空気比などを選択し、これらの操業条件を例えば2~10種類に分類して、分類した区分ごとに、加熱炉1から排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定するとよい。
【0112】
第二の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法では、測定ステップは、加熱炉1の操業中に加熱炉1全体の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を、オンラインで測定することにより行われる。図9に示すように、加熱炉1では、CO濃度計18a~18dにより、排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を連続的に測定できる。加熱炉1から排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度は、CO濃度計18a~18dにより、例えば1~60秒の周期で連続的に測定することが好ましい。なお、加熱炉1の装入部11および搬出部12に設けられたCO濃度計18a、18bについては、少なくとも装入部11、搬出部12が開口している間は、排ガスに含まれる一酸化炭素濃度の測定を、連続的に行うことが好ましい。
【0113】
推定ステップでは、測定ステップで測定された一酸化炭素濃度と、特定ステップで特定された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、加熱炉1の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する。このとき、加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関は、特定ステップで予め特定されているため、これに加えて、CO濃度計18a~18dにより連続的に測定された一酸化炭素濃度を用いることにより、加熱炉1の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定できる。
【0114】
また、第二の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法では、図9に示すように、加熱炉1の煙道14に、アンモニア濃度を測定するアンモニア濃度計17を設けておく。そして、アンモニア濃度計17により、排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度の実測値を取得するとともに、煙道14に設けられたCO濃度計18cにより、排ガスに含まれる一酸化炭素濃度の実測値を取得する。そして、これらの実測値から、加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定することが好ましい。
【0115】
アンモニア濃度計17による未燃アンモニア濃度の測定は、連続的に行うのが困難な場合が多いため、アンモニア濃度計17による未燃アンモニア濃度の実測値の取得は、連続的に行わなくてもよい。この場合、例えば、アンモニア濃度計17により、排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度の実測値の取得を、例えば10~60分ごとに行い、煙道14に設置されたCO濃度計18cによる一酸化炭素濃度の実測値と対応付けることが好ましい。
【0116】
煙道14に設けられたアンモニア濃度計17およびCO濃度計18cにより取得される、加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関は、加熱炉1の内部でバーナ加熱を施す第一バーナ設備20a~20dおよび第二バーナ設備30a~30fの全てからの排ガスが混合された、加熱炉1全体についてのものとみることができる。つまり、特定ステップで特定された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関は、加熱炉1の煙道14から排出される排ガスだけでなく、加熱炉1の装入部11や搬出部12を通過して排出される排ガスに対しても適用できる。よって、上述のとおり、加熱炉1の煙道14にアンモニア濃度計17を設置して特定ステップを実行することで特定される、加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関は、加熱炉1の装入部11や搬出部12から排出される排ガスの未燃アンモニア濃度の推定にも用いることができ、アンモニア濃度計17を複数基設置する必要がない。
【0117】
上記以外の点については、第二の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法は、第一の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法と同様に行われる。
<加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法>
本発明に係る加熱炉の操業方法およびバーナ設備の操業方法の実施形態について、以下に説明する。
【0118】
本実施形態の加熱炉の操業方法は、上述の未燃アンモニア濃度の推定方法により推定された未燃アンモニア濃度の推定値が所定値以上であるとき、加熱炉1から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度が小さくなるように、加熱炉1の操業条件を操作する操作ステップを含んで構成されている。
【0119】
また、本実施形態のバーナ設備の操業方法は、上述の加熱炉の操業方法において、操作ステップの操作対象を、加熱炉1全体の操業条件でなく第一バーナ設備20a~20dの操業条件とすることにより、実現される。
【0120】
本実施形態の加熱炉の操業方法またはバーナ設備の操業方法を、上述の第一の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法に基づいて行う場合、その流れは、例えば次のとおりとなる。
【0121】
まず、上述の第一の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法により、加熱炉1に備えられる第一バーナ設備20a~20dのうちの少なくとも一つから排出される排ガスの未燃アンモニア濃度を推定する。そして、推定された未燃アンモニア濃度に基づいて、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度が小さくなるように、第一バーナ設備20a~20dの操業条件を操作する。
【0122】
第一バーナ設備20a~20dの操業条件を操作することによって、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスの未燃アンモニア濃度が小さくなると、加熱炉1全体から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度も小さくなる。このようにして、加熱炉1から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度が小さくなるように、加熱炉1の操業条件が操作されることになる。
【0123】
このとき、第一バーナ設備20a~20dから排出される排ガスの未燃アンモニア濃度が小さくなるように操作ステップで操作される第一バーナ設備20a~20dの操業条件として、第一バーナ設備20a~20dによるバーナ加熱に用いる燃焼用空気Aの流量、燃料ガスF1の流量、燃料ガスF1の理論空気量に対する空気比、およびアンモニアF11と炭素含有燃料F12との混合比率、のうち少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0124】
例えば、操作ステップで操作される第一バーナ設備20a~20dの操業条件として、燃焼用空気Aを増加させることにより、未燃アンモニアの燃焼が促進され、未燃アンモニアが残留しにくくなる。また、燃料ガスF1の流量を小さくすると、燃焼用空気Aの流量が相対的に増加することになるので、同様の効果が得られる。燃料ガスF1の理論空気量に対する空気比を大きくする場合も同様である。さらに、アンモニアF11と石炭ガスF12との混合比率を調整して、アンモニアF11の流量が小さくなるようにすると、未燃アンモニアも残留しにくくなる。
【0125】
また、本実施形態の加熱炉の操業方法またはバーナ設備の操業方法を、上述の第二の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法に基づいて行う場合、その流れは、例えば次のとおりとなる。
【0126】
まず、上述の第二の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法により、加熱炉1から排出される排ガスの未燃アンモニア濃度を推定する。そして、推定された未燃アンモニア濃度に基づいて、加熱炉1から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度が小さくなるように、加熱炉1の操業条件を操作する。
【0127】
このとき、加熱炉1から排出される排ガスの未燃アンモニア濃度が小さくなるように操作ステップで操作される加熱炉1の操業条件として、第一バーナ設備20a~20dによるバーナ加熱に用いる燃焼用空気Aの流量、燃料ガスF1の流量、燃料ガスF1の理論空気量に対する空気比、およびアンモニアF11と炭素含有燃料F12との混合比率、のうち少なくとも一つを含むことが好ましい。また、第二の態様の未燃アンモニア濃度の推定方法により、加熱炉1から排出される排ガスの未燃アンモニア濃度を推定する場合には、操作ステップで操作される加熱炉1の操業条件として、加熱炉1内の雰囲気温度を選択してもよい。加熱炉1内の雰囲気温度を上げることにより、アンモニアF11の燃焼が促進されるため、加熱炉1から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度が低下する。
<加熱炉の制御装置>
本発明に係る加熱炉の制御装置の実施形態について、以下に説明する。
【0128】
図10に、本実施形態の加熱炉の制御装置40の構成を示す。
【0129】
本実施形態の加熱炉の制御装置40は、上述の加熱炉の操業方法を実行するための装置である。図10に示すように、加熱炉の制御装置40は、記憶部41と、取得部42と、推定部43と、操作量算出部44と、出力部45と、を備えている。
【0130】
記憶部41は、予め特定された、加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を記憶する。具体的には、記憶部41には、例えば、上述の未燃アンモニア濃度の推定方法の特定ステップにより予め特定された、加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関が記憶されている。記憶部41に記憶される、一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関は、テーブル形式で記憶されていても、関数形式で記憶されていてもよい。また、記憶部41は、予め設定される未燃アンモニア濃度の上限値を加熱炉1の制御用計算機10から取得しておき、これを記憶することが好ましい。
【0131】
取得部42は、加熱炉1の操業中に測定される加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を取得する。具体的には、取得部42は、加熱炉1に配置されるCO濃度計18a~18dによって加熱炉1の操業中に測定された、加熱炉1の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を取得する。上述のように、CO濃度計18a~18dは、例えば、加熱炉1の装入部11(CO濃度計18a)、搬出部12(CO濃度計18b)、煙道14(CO濃度計18c、18d)に配置される。取得部42による一酸化炭素濃度の測定値の取得は、制御用計算機10やその他の操業データサーバを経由して行うようにすることが好ましい。
【0132】
推定部43は、取得部42により取得された一酸化炭素濃度と、記憶部41に記憶された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、加熱炉1の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する。記憶部41に記憶された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関がテーブル形式の場合には、推定部43は、取得部42により取得された一酸化炭素濃度に対応するテーブル値を参照することにより、未燃アンモニア濃度の推定値を算出する。また、記憶部41に記憶された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関が関数形式の場合には、推定部43は、取得部42により取得された一酸化炭素濃度の測定値を関数に入力することにより、未燃アンモニア濃度の推定値を算出する。
【0133】
操作量算出部44は、推定部43により推定された未燃アンモニア濃度の推定値が所定値以上、すなわち予め設定される未燃アンモニア濃度の上限値以上であるとき、推定値がこの所定値よりも小さくなるようにするための加熱炉1の操業条件の操作量を算出する。
【0134】
出力部45は、操作量算出部44により算出された加熱炉1の操業条件を、加熱炉1の制御用計算機10に出力するか、または、オペレータが加熱炉1の操業条件を操作するときに参照するガイダンス操作量として表示部46に出力する。出力部45からの加熱炉1の操業条件の操作量の出力先が制御用計算機10である場合には、制御用計算機10において加熱炉1の操業条件が自動的に更新されることが好ましい。また、出力部45からの加熱炉1の操業条件の操作量の出力先が表示部46である場合には、オペレータは、表示部46に示されたガイダンス操作量に基づいて、加熱炉1の操業条件を操作することが好ましい。
【0135】
加熱炉の制御装置40は、例えば、メモリ、ハードディスクドライブやソリッドステートドライブなどの補助記憶装置、CPU(中央演算処理装置)などを備える汎用コンピュータを用いて構成できる。補助記憶装置には、加熱炉の制御装置40による制御を実行するプログラムが格納され、CPUによりプログラムが実行される際には補助記憶装置からメモリに読み出される。また、CPUによる処理途中のデータは、随時メモリに格納され、必要に応じて補助記憶装置に格納される。
【0136】
記憶部41は、例えば、上述の補助記憶装置により実現されることが好ましい。また、取得部42、推定部43、操作量算出部44および出力部45は、上述のCPUがプログラムを読み込んで実行することにより実現されることが好ましい。表示部46は、液晶ディスプレイまたは有機ELパネルなどの表示装置により構成できる。または、表示部46は、スマートフォン又はタブレットなどの端末装置のディスプレイにより構成してもよい。この場合、表示部46を備える端末装置は、ネットワーク経由で加熱炉の制御装置40と通信可能となるようにする。
【0137】
以上、本発明の未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置の実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0138】
本発明の未燃アンモニア濃度の推定方法、加熱炉の操業方法、バーナ設備の操業方法、および加熱炉の制御装置による効果を検証するため、試験用加熱炉を用いて、加熱炉の排ガスに含まれるアンモニア濃度を推定する試験を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0139】
図11に、試験用加熱炉1Tの縦断面図を模式的に示す。
【0140】
図11に示すように、試験用加熱炉1Tは、煙道14および排ガス処理装置15を備えている。排ガス処理装置15は、酸化触媒、脱硝装置、およびアンモニア除去装置を含む構成とした。煙道14には、排ガス処理装置15よりも排ガス流れ方向の上流側の位置に、開閉可能な気体採取口14aを設け、必要に応じて煙道14を流れる排ガスのサンプルを採取できるようにした。
【0141】
また、図11に示すように、試験用加熱炉1Tには、加熱用熱源として、10基の第一バーナ設備20a~20jを備える構成とした。これら第一バーナ設備20a~20jは、アンモニアF11と炭素含有燃料F12とを含む燃料ガスF1を用いてバーナ加熱を施すバーナ設備である。10基の第一バーナ設備20a~20jのうち、5基の第一バーナ設備20a~20eは、炉内を搬送される鋼材Sの上側に配置され、残り5基の第一バーナ設備20f~20jは、炉内を搬送される鋼材Sの下側に配置される構成とした。試験用加熱炉1Tには、アンモニアを含有しない燃料ガスF2を用いてバーナ加熱を施す第二バーナ設備は備えない構成とした。第一バーナ設備20a~20jには、同一の形式のものを適用し、第一バーナ設備20a~20jの各々の定格容量は80万kcal/hrとした。
【0142】
試験用加熱炉1Tの煙道14から排出された排ガスは、排ガス処理装置15により処理することにより、排ガス中の窒素酸化物、未燃アンモニア、一酸化炭素の濃度を低減して、大気に放出した。
【0143】
第一バーナ設備20a~20jに供給する燃料ガスF1としては、アンモニアF11および石炭ガスF12であるMガスを用いた。具体的には、Mガスとして、高炉ガス、コークス炉および転炉ガスを混合し、低位発熱量が2000kcal/Nmになるように調整したものを用いた。表2に、使用したMガスの成分組成を予めガスクロマトグラフィ法により分析した結果を示す。
【0144】
【表2】
【0145】
本実施例では、図3に示す第一バーナ設備20のアンモニアガス供給系統23からアンモニアF11を供給し、石炭ガス供給系統24からMガスを供給した。そして、アンモニアガス供給系統23および石炭ガス供給系統24にそれぞれ備えられた流量調整バルブ23v、24vにより、アンモニアF11とMガスとの混合比率を調整した。なお、ここでいう混合比率とは、アンモニアF11とMガスの熱量比率を意味するものとする。アンモニアF11とMガスとの混合比率が50%:50%のときは、アンモニアF11の流量は119Nm/hr、Mガスの流量は200Nm/hrであった。
【0146】
また、燃焼用空気供給系統26に備えられる流量調整バルブ26vにより、燃料ガスF1の理論空気量に対する空気比を調整した。
【0147】
まず、特定ステップとして、試験用加熱炉1Tの排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を予め特定した。
【0148】
特定ステップでは、試験用加熱炉1Tのバーナ設備20a~20jのうち、試験用加熱炉1Tの上側かつ装入部11に最も近い位置に配置された第一バーナ設備20aのみを用いた燃焼を行った。第一バーナ設備20aによる燃焼は、アンモニアF11とMガスとの混合比率を50%:50%とし、燃焼用空気Aの流量を調整することにより空気比を調整して試験を行った。
【0149】
具体的には、第一バーナ設備20aにおける空気比が所定の設定値になるように、燃焼用空気Aの流量を調整した後、燃焼状態が安定し、試験用加熱炉1Tの炉内の雰囲気が均一になるように10分間待機した。その後、煙道14に配置したCO濃度計18cにより排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定するとともに、気体採取口14aから排ガスのサンプルを採取した。
【0150】
気体採取口14aから採取した排ガスのサンプルについて、オフラインの測定装置を用いて、排ガスの未燃アンモニア(NH)濃度、一酸化炭素(CO)濃度、および二酸化炭素(CO)濃度を測定した。排ガスの未燃アンモニア濃度は、日本産業規格 JIS K0099:2020「排ガス中のアンモニア分析方法」に規定されるホウ酸吸収・イオンクロマトグラフィ法によって測定した。具体的には、平均排ガス流量1.5L/minとなる条件で、20Lの排ガスを通過させたホウ酸吸収液を用いた。また、排ガスの一酸化炭素(CO)濃度は、低電位電解法を用いてオフラインで測定し、煙道14に配置したCO濃度計18cによる測定値とほぼ合致していることを確認した。さらに、排ガスの二酸化炭素濃度は、非分散型赤外線法によって測定した。
【0151】
図12に、上述の事前試験を、第一バーナ設備20aにおける空気比を変更して複数回行ったときの、排ガスの一酸化炭素(CO)濃度と未燃アンモニア(NH)濃度との相関を示す。
【0152】
図12に示すように、第一バーナ設備20aにより排出される排ガスの一酸化炭素(CO)濃度と未燃アンモニア(NH)濃度との間には相関がみられ、両者はほぼ線形関係にあることが分かる。また、両者の相関は、原点を通る直線で近似できており、燃料ガスF1に含まれるアンモニアF11とMガスの燃焼速度はおおむね等しい条件になっていることが分かる。図12に示す事前試験の結果に基づいて、一酸化炭素濃度φCO(ppm)と未燃アンモニア濃度φNH(ppm)との相関を、回帰式により表すと、下記(1)式のようになる。
【0153】
φNH=0.1436×φCO ……(1)
このようにして、特定ステップとして、試験用加熱炉1Tの排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との間の相関を特定できた。
【0154】
続いて、試験用加熱炉1Tの操業中に、試験用加熱炉1Tの排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定する測定ステップと、測定ステップで測定した一酸化炭素濃度と、特定ステップで特定した一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、試験用加熱炉1Tの排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する推定ステップについて、試験を行った。
【0155】
測定ステップでは、試験用加熱炉1Tの操業は、第一バーナ設備20a~20jの燃焼条件がすべて同一となる条件で行った。すなわち、第一バーナ設備20a~20jの燃料ガスF1の混合比率、燃料ガスF1の流量および空気比を同一の条件に設定して、試験用加熱炉1Tの操業を行った。なお、アンモニアF11とMガスとの混合比率は50%:50%とし、上述の事前試験における混合比率と同一とした。
【0156】
測定ステップは、煙道14に配置したCO濃度計18cを用いて、煙道14を通過する排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を連続的に測定することにより、オンラインで行った。
【0157】
次に、推定ステップとして、オンラインで測定された一酸化炭素濃度の測定値を、特定ステップにより特定した上記(1)式に入力することで、未燃アンモニア濃度の推定値を計算した。これにより、排ガスの未燃アンモニア濃度を連続的に推定した。
【0158】
図13に、本実施例の未燃アンモニア濃度の推定方法による未燃アンモニア濃度の推定値を示す。図13には、試験用加熱炉1Tの操業時間の経過に対する、第一バーナ設備20に対して設定した空気比、測定ステップにより測定された一酸化炭素濃度、および未燃アンモニア濃度の推定値の変化を示している。
【0159】
図13に示すように、空気比が1.0を超える条件では、一酸化炭素濃度の測定値は0ppmになっており、これに基づいて、(1)式を用いて推定される未燃アンモニア濃度の推定値も0ppmになった。これは、空気比が1.0を超える条件では、燃料ガスF1はほぼ完全燃焼しており、燃料ガスF1に含まれるMガスが完全燃焼したことを示している。このとき、燃料ガスF1に含まれるアンモニアF11も完全燃焼したものと推測される。
【0160】
これに対し、空気比が1.0以下の条件では、燃料ガスF1に含まれるMガスの一部は燃焼が不完全となり、一酸化炭素ガスが生成した。これに基づいて、(1)式を用いて推定される未燃アンモニア濃度の推定値も、0ppmより大きな値となった。
【0161】
以上のようにして推定した未燃アンモニア濃度の推定値の精度を確認するために、上述の操業中に、気体採取口14aから排ガスのサンプルを採取し、オフラインで未燃アンモニア濃度を測定した。気体採取口14aからの排ガスのサンプル採取は、試験用加熱炉1Tの操業中に4回行い、その各々について未燃アンモニア濃度を測定した。これらを、バッチ測定1~バッチ測定4と呼ぶこととする。
【0162】
図13に、気体採取口14aからの排ガスサンプルの採取タイミングを示す。そして、バッチ測定1~バッチ測定4の各々で採取された排ガスのサンプルを用いて、ホウ酸吸収・イオンクロマトグラフィ法による未燃アンモニア濃度の測定を行った。
【0163】
表3に、推定ステップによりオンラインで推定された未燃アンモニア濃度と、バッチ測定によりオフラインで測定された未燃アンモニア濃度の測定値との相関を示す。
【0164】
【表3】
【0165】
表3に示すように、本発明の未燃アンモニア濃度の推定方法によりオンラインで推定された未燃アンモニア濃度の値は、オフラインで測定された未燃アンモニア濃度に非常に近いことを確認できた。具体的には、未燃アンモニア濃度のオンライン推定値とオフライン測定値との差は、±7ppm以内に収まっていることを確認できた。
【符号の説明】
【0166】
1 加熱炉
1T 試験用加熱炉
10 制御用計算機
11 装入部
12 搬出部
13f 固定スキッド
13m 移動スキッド
14 煙道
14a 気体採取口
15 排ガス処理装置
16 NO濃度計
17 アンモニア濃度計
18、18a~18d CO濃度計
20、20a~20j 第一バーナ設備
30、30a~30f 第二バーナ設備
21、31 バーナノズル
22、32 燃料ガス供給系統
23 アンモニアガス供給系統
24 石炭ガス供給系統
25 混合部
26、36 燃焼用空気供給系統
23m、24m、26m、32m、36m 流量計
23v、24v、26v、32v、36v 流量調整バルブ
27、37 空気比制御部
40 加熱炉の制御装置
41 記憶部
42 取得部
43 推定部
44 操作量算出部
45 出力部
46 表示部
A 燃焼用空気
F1、F2 燃料ガス
F11 アンモニアガス
F12 石炭ガス(炭素含有燃料)
S 鋼材(被加熱材)
【要約】      (修正有)
【課題】燃料ガスとして二酸化炭素の排出を抑制し得るアンモニアを用いる加熱炉の排ガスに含まれるアンモニア濃度を、簡易な方法によりオンラインで測定できる未燃アンモニアの推定方法、加熱炉の操業方法、及び制御装置を提供する。
【解決手段】アンモニアと炭素含有燃料とを含む燃料ガスを用いてバーナ加熱を施す加熱炉から排出される排ガスに含まれる未燃アンモニアの濃度を推定する未燃アンモニア濃度の推定方法であって、加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関を特定する特定ステップと、加熱炉の操業中に加熱炉の排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定する測定ステップと、測定ステップで測定された一酸化炭素濃度と、特定ステップで特定された一酸化炭素濃度と未燃アンモニア濃度との相関に基づいて、加熱炉の排ガスに含まれる未燃アンモニア濃度を推定する推定ステップと、を含む、未燃アンモニア濃度の推定方法である。
【選択図】図5
図1
図2
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図4
図5
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図10
図11
図12
図13