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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】移相器及びその移相方法
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/18 20060101AFI20241217BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01P1/18
B81B3/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023510567
(86)(22)【出願日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2022004275
(87)【国際公開番号】W WO2022209275
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2021056222
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】高田 紘也
(72)【発明者】
【氏名】若藤 健司
(72)【発明者】
【氏名】奥村 藤男
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-221692(JP,A)
【文献】特開2004-282150(JP,A)
【文献】特表2006-525642(JP,A)
【文献】特開平09-017300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/18
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端がアンテナ素子に接続され、ギャップが夫々形成された長さの異なる複数の伝送路と、
前記伝送路のギャップに夫々設けられ、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部に重なり該伝送路端部に電磁誘導結合するオン状態と、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部の少なくとも一方と重ならず、該伝送路端部の少なくとも一方が電磁誘導結合しないオフ状態と、に切り替わる複数の可動電極と、
前記可動電極を夫々移動させる複数のMEMS機構と、
を備え、
前記MEMS機構は、前記可動電極をオン状態及びオフ状態に切り替え伝送路の長さを切り替えることで、位相差を変化させる、移相器。
【請求項2】
アンテナ素子に接続された伝送路に形成されたギャップの両端の伝送路端部に設けられた一対の固定電極と、
該一対の固定電極の両方と両端が重なり電磁誘導結合しつつ、該固定電極に対し平行方向及び垂直方向のうちの少なくとも一方に移動する可動電極と、
前記可動電極を移動させるMEMS機構と、
を備え、
前記MEMS機構は、前記可動電極を平行方向に移動させて、前記可動電極の両端と一対の固定電極との重なり量を変化させる、及び、前記可動電極を垂直方向に移動させて、前記可動電極の両端と一対の固定電極との距離を変化させる、のうちの少なくとも一方を行うことで、位相差を変化させる、移相器。
【請求項3】
一端がアンテナ素子に接続され、ギャップが夫々形成された長さの異なる複数の伝送路と、
前記伝送路のギャップに夫々設けられ、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部に重なり該伝送路端部に電磁誘導結合するオン状態と、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部の少なくとも一方と重ならず、該伝送路端部の少なくとも一方が電磁誘導結合しないオフ状態と、に切り替わる複数の第1可動電極と、
前記伝送路のギャップの両端に設けられた一対の固定電極と、
該一対の固定電極の両方と両端が重なり電磁誘導結合しつつ、該固定電極に対し平行方向及び垂直方向のうちの少なくとも一方に移動する第2可動電極と、
前記第1及び第2可動電極を夫々移動させる複数のMEMS機構と、
を備え、
前記MEMS機構は、前記第1可動電極をオン状態及びオフ状態に切り替え伝送路の長さを切り替える、および、前記第2可動電極の両端と一対の固定電極との重なり量及び距離のうちの少なくとも一方を変化させ、前記第2可動電極及び固定電極の結合容量を変化させる、のうちの少なくとも一方により、位相差を変化させる、移相器。
【請求項4】
一端がアンテナ素子に接続され、ギャップが夫々形成された長さの異なる複数の伝送路と、
前記伝送路のギャップに夫々設けられ、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部に重なり該伝送路端部に電磁誘導結合するオン状態と、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部の少なくとも一方と重ならず、該伝送路端部の少なくとも一方が電磁誘導結合しないオフ状態と、に切り替わる複数の可動電極と、
前記可動電極を夫々移動させる複数のMEMS機構と、
を備える移相器の移相方法であって、
前記MEMS機構は、前記可動電極をオン状態及びオフ状態に切り替え伝送路の長さを切り替えることで、位相差を変化させる、移相器の移相方法。
【請求項5】
アンテナ素子に接続された伝送路に形成されたギャップの両端の伝送路端部に設けられた一対の固定電極と、
該一対の固定電極の両方と両端が重なり電磁誘導結合しつつ、該固定電極に対し平行方向及び垂直方向のうちの少なくとも一方に移動する可動電極と、
前記可動電極を移動させるMEMS機構と、
を備える移相器の移相方法であって、
前記MEMS機構は、前記可動電極を平行方向に移動させて、前記可動電極の両端と一対の固定電極との重なり量を変化させる、及び、前記可動電極を垂直方向に移動させて、前記可動電極の両端と一対の固定電極との距離を変化させる、のうちの少なくとも一方を行うことで、位相差を変化させる、移相器の移相方法。
【請求項6】
一端がアンテナ素子に接続され、ギャップが夫々形成された長さの異なる複数の伝送路と、
前記伝送路のギャップに夫々設けられ、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部に重なり該伝送路端部に電磁誘導結合するオン状態と、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部の少なくとも一方と重ならず、該伝送路端部の少なくとも一方が電磁誘導結合しないオフ状態と、に切り替わる複数の第1可動電極と、
前記ギャップの両端の伝送路端部に設けられた一対の固定電極と、
該一対の固定電極の両方と両端が重なり電磁誘導結合しつつ、該固定電極に対し平行方向及び垂直方向のうちの少なくとも一方に移動する第2可動電極と、
前記第1及び第2可動電極を夫々移動させる複数のMEMS機構と、
を備える移相器の移相方法であって、
前記MEMS機構は、前記第1可動電極をオン状態及びオフ状態に切り替え伝送路の長さを切り替える、および、前記第2可動電極の両端と一対の固定電極との重なり部の量及び距離のうちの少なくとも一方を変化させ、前記第2可動電極及び固定電極の結合容量を変化させる、のうちの少なくとも一方により、位相差を変化させる、移相器の移相方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナの移相器及びその移相方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶を用いて位相を制御する移相器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2014-531843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記移相器においては、液晶の動作速度が遅いため、アンテナの応答性が低下する虞がある。
本開示の目的は、上述した課題を解決する移相器及びその移相方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための一態様は、
一端がアンテナ素子に接続され、ギャップが夫々形成された長さの異なる複数の伝送路と、
前記伝送路のギャップに夫々設けられ、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部に重なり該伝送路端部に電磁誘導結合するオン状態と、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部の少なくとも一方と重ならず、該伝送路端部の少なくとも一方が電磁誘導結合しないオフ状態と、に切り替わる複数の可動電極と、
前記可動電極を夫々移動させる複数のMEMS機構と、
を備え、
前記MEMS機構は、前記可動電極をオン状態及びオフ状態に切り替え伝送路の長さを切り替えることで、位相差を変化させる、移相器
である。
上記目的を達成するための一態様は、
アンテナ素子に接続された伝送路に形成されたギャップの両端の伝送路端部に設けられた一対の固定電極と、
該一対の固定電極の両方と両端が重なり電磁誘導結合しつつ、該固定電極に対し平行方向及び垂直方向のうちの少なくとも一方に移動する可動電極と、
前記可動電極を移動させるMEMS機構と、
を備え、
前記MEMS機構は、前記可動電極を平行方向に移動させて、前記可動電極の両端と一対の固定電極との重なり量を変化させる、及び、前記可動電極を垂直方向に移動させて、前記可動電極の両端と一対の固定電極との距離を変化させる、のうちの少なくとも一方を行うことで、位相差を変化させる、移相器
であってもよい。
上記目的を達成するための一態様は、
一端がアンテナ素子に接続され、ギャップが夫々形成された長さの異なる複数の伝送路と、
前記伝送路のギャップに夫々設けられ、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部に重なり該伝送路端部に電磁誘導結合するオン状態と、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部の少なくとも一方と重ならず、該伝送路端部の少なくとも一方が電磁誘導結合しないオフ状態と、に切り替わる複数の第1可動電極と、
前記伝送路のギャップの両端に設けられた一対の固定電極と、
該一対の固定電極の両方と両端が重なり電磁誘導結合しつつ、該固定電極に対し平行方向及び垂直方向のうちの少なくとも一方に移動する第2可動電極と、
前記第1及び第2可動電極を夫々移動させる複数のMEMS機構と、
を備え、
前記MEMS機構は、前記第1可動電極をオン状態及びオフ状態に切り替え伝送路の長さを切り替える、および、前記第2可動電極の両端と一対の固定電極との重なり量及び距離のうちの少なくとも一方を変化させ、前記第2可動電極及び固定電極の結合容量を変化させる、のうちの少なくとも一方により、位相差を変化させる、移相器
であってもよい。
上記目的を達成するための一態様は、
一端がアンテナ素子に接続され、ギャップが夫々形成された長さの異なる複数の伝送路と、
前記伝送路のギャップに夫々設けられ、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部に重なり該伝送路端部に電磁誘導結合するオン状態と、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部の少なくとも一方と重ならず、該伝送路端部の少なくとも一方が電磁誘導結合しないオフ状態と、に切り替わる複数の可動電極と、
前記可動電極を夫々移動させる複数のMEMS機構と、
を備える移相器の移相方法であって、
前記MEMS機構は、前記可動電極をオン状態及びオフ状態に切り替え伝送路の長さを切り替えることで、位相差を変化させる、移相器の移相方法
であってもよい。
上記目的を達成するための一態様は、
アンテナ素子に接続された伝送路に形成されたギャップの両端の伝送路端部に設けられた一対の固定電極と、
該一対の固定電極の両方と両端が重なり電磁誘導結合しつつ、該固定電極に対し平行方向及び垂直方向のうちの少なくとも一方に移動する可動電極と、
前記可動電極を移動させるMEMS機構と、
を備える移相器の移相方法であって、
前記MEMS機構は、前記可動電極を平行方向に移動させて、前記可動電極の両端と一対の固定電極との重なり量を変化させる、及び、前記可動電極を垂直方向に移動させて、前記可動電極の両端と一対の固定電極との距離を変化させる、のうちの少なくとも一方を行うことで、位相差を変化させる、移相器の移相方法
であってもよい。
上記目的を達成するための一態様は、
一端がアンテナ素子に接続され、ギャップが夫々形成された長さの異なる複数の伝送路と、
前記伝送路のギャップに夫々設けられ、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部に重なり該伝送路端部に電磁誘導結合するオン状態と、前記伝送路に対し平行方向に移動し該ギャップの両端の伝送路端部の少なくとも一方と重ならず、該伝送路端部の少なくとも一方が電磁誘導結合しないオフ状態と、に切り替わる複数の第1可動電極と、
前記ギャップの両端の伝送路端部に設けられた一対の固定電極と、
該一対の固定電極の両方と両端が重なり電磁誘導結合しつつ、該固定電極に対し平行方向及び垂直方向のうちの少なくとも一方に移動する第2可動電極と、
前記第1及び第2可動電極を夫々移動させる複数のMEMS機構と、
を備える移相器の移相方法であって、
前記MEMS機構は、前記第1可動電極をオン状態及びオフ状態に切り替え伝送路の長さを切り替える、および、前記第2可動電極の両端と一対の固定電極との重なり部の量及び距離のうちの少なくとも一方を変化させ、前記第2可動電極及び固定電極の結合容量を変化させる、のうちの少なくとも一方により、位相差を変化させる、移相器の移相方法
であってもよい。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、上述した課題を解決する移相器及びその移相方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態に係る移相器の概略的な構成を示す図である。
図2】本実施形態に係る可動電極の動作を模式的に示した図である。
図3】本実施形態に係る移相器の概略的な構成を示すブロック図である。
図4】本実施形態に係る可動電極の動作を模式的に示した図である。
図5】本実施形態に係る移相器の概略的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態1
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る移相器の概略的な構成を示す図である。本実施形態に係る移相器1は、長さの異なる複数の伝送路2と、各伝送路2に設けられた複数の可動電極3と、各可動電極3に設けられた複数のMEMS機構4と、を備えている。
【0009】
伝送路2の一端には、アンテナ素子5が接続されている。アンテナ素子5は、例えば、パッチアンテナなどであり、信号供給窓51などが形成されている。
【0010】
各伝送路2には、一定間隔のギャップ21が設けられている。図1において左側から右側へ、例えば、第1伝送路2a、第2伝送路2b、第3伝送路2c、第4伝送路2dが設けられ、この順で長さが長く設定されている。伝送路2は、例えば、銅などの導電性の金属部材で構成されている。
【0011】
各伝送路2のギャップ21には、各伝送路2に対し平行方向に移動可能な可動電極3が設けられている。可動電極3は、例えば、銅などの導電性の金属部材で構成されている。図2は、本実施形態に係る可動電極の動作を模式的に示した図である。可動電極3は、伝送路2と一定の距離を維持しながら、非接触で平行方向に移動する。
【0012】
可動電極3は、伝送路2に対し平行方向に移動しギャップ21の両端の伝送路端部に重なり伝送路端部に電磁誘導結合するオン状態(図2左側)になる。可動電極3がオン状態になると、ギャップ21の両端の伝送路端部と可動電極3の両端とが、容量結合して通電する。
【0013】
また、可動電極3は、伝送路2に対し平行方向に移動しギャップ21の両端の伝送路端部の少なくとも一方と重ならず、伝送路端部の少なくとも一方が電磁誘導結合しないオフ状態(図2右側)になる。可動電極3がオフ状態になると、ギャップ21の両端の伝送路端部の一方と可動電極3の両端の一方とが、容量結合せず通電しない。このように、可動電極3は、上記平行方向に移動することでオン状態及びオフ状態に切り替わるスイッチング機能を有している。
【0014】
MEMS機構4は、可動電極3に設けられ、可動電極3を平行方向に移動させる。MEMS機構4は、絶縁体を介して可動電極3に接続されている。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)機構は、半導体のシリコン基板、ガラス基板、有機材料などに、機械要素部品のセンサ、アクチュエータ、電子回路などをひとまとめにしたミクロンレベル構造を持つデバイスである。MEMS機構4は、可動電極3を微小かつ高速に移動させることができる特徴を有している。
【0015】
MEMS機構4は、各可動電極3をオン状態及びオフ状態に切り替え伝送路2の長さを切り替えることで、位相差を変化させる。ここで、移相器1の移相方法の一例を具体的に説明する。
【0016】
例えば、図1に示す如く、MEMS機構4は、3番目に長い第3伝送路2cのギャップ21の可動電極3をオン状態に切り替え、その他の第1、第2及び第4伝送路2a、2b、2dのギャップ21の可動電極3をオフ状態に切り替える。また、MEMS機構4は、最も長い第1伝送路2aのギャップ21の可動電極3をオン状態に切り替え、その他の第2乃至第4伝送路2b、2c、2dのギャップ21の可動電極3をオフ状態に切り替える。
【0017】
同様に、MEMS機構4は、特定の長さの伝送路2のギャップ21の可動電極3をオン状態に切り替え、その他の伝送路2のギャップ21の可動電極3をオフ状態に切り替える。このように、信号が通過する伝送路2のパスの長さを変化させることで、位相差を自在に変化させることができる。
【0018】
なお、図1に示す伝送路2の数、ギャップ21の位置、および、伝送路2の形状は一例であり、これに限定されない。ギャップ21の可動電極3をオン状態及びオフ状態に切り替えることで、伝送路2の長さを切り替えることができれば、伝送路2の数、ギャップ21の位置、および、伝送路2の形状は任意でよい。
【0019】
ところで、関連する移相器においては、液晶の動作速度が遅いため、アンテナの応答性が低下するという問題が生じていた。
【0020】
これに対し、本実施形態に係る移相器1において、上述の如く、MEMS機構4は、可動電極3をオン状態及びオフ状態に切り替え伝送路2の長さを切り替えることで、位相差を変化させる。これにより、MEMS機構4の高速動作の特徴を用いて、可動電極3をオン状態及びオフ状態に高速に切り替え、位相差を高速に変化させることができ、アンテナの応答性を高速化することができる。例えば、液晶型のアンテナの応答速度が数ms~数十ms程度であるのに対し、本実施形態に係る移相器の応答速度は、10μs~100μs程度であり、非常に高速である。
【0021】
また、MEMS機構4は、静電力を利用するために、液晶と比較して温度変動の影響を受け難く、制御性に優れている。このため、位相差をより高精度に制御できる。さらに、MEMS機構4を大面積に形成可能であることから、所望の大きさのアンテナを安価に製造できる。さらに、周波数が増大するにしたがって細線化が進むため、本実施形態に係る微細なMEMS機構4を用いることは有利である。
【0022】
なお、可動電極3と、ギャップ21の両端の伝送路端部との間に誘電体を入れても良い。これにより、波長短縮効果が生まれて、移相器1をより小型化することができる。
【0023】
実施形態2
図3は、本実施形態に係る移相器の概略的な構成を示すブロック図である。本実施形態に係る移相器20は、一対の固定電極22と、一対の固定電極22に設けられた可動電極3と、可動電極3に設けられたMEMS機構4と、を備えている。
【0024】
一対の固定電極22は、伝送路2に形成されたギャップ21の両端の伝送路端部に夫々設けられている。固定電極22は、例えば、銅などの導電性の金属部材で構成されている。可動電極3は、伝送路2のギャップ21を跨ぐようにして設けられている。一対の固定電極22とギャップ21の両端の伝送路端部は、一体的に構成されていてもよい。伝送路2の一端にはアンテナ素子5が接続されている。
【0025】
図4は、本実施形態に係る可動電極の動作を模式的に示した図である。一対の固定電極22は、一定の距離で離間して配置されている。可動電極3は、各固定電極22と一定の距離を維持しながら、各固定電極22に対し非接触で平行方向に移動する。
【0026】
一対の固定電極22は、可動電極3の両端と、夫々、重なり電磁誘導結合している。例えば、図4に示す如く、左側の固定電極22と可動電極3の左端との結合容量はC1となっており、右側の固定電極22と可動電極3の右端との結合容量はC2となっている。そして、可動電極3の両端が、一対の固定電極22と重なり電磁誘導結合しつつ、平行方向に移動することで、C1及びC2の直列結合容量が変化する。
【0027】
MEMS機構4は、可動電極3を平行方向に移動させ、可動電極3の両端と一対の固定電極22との重なり量を変化させる。これにより、可動電極3及び固定電極22の結合容量を変化させ、位相差を変化させることができる。なお、MEMS機構4は、信号に影響を与えない位置に形成されている。
【0028】
図3において、可動電極3、ギャップ21及びMEMS機構4は伝送路2にそれぞれ1つずつ設けられる構成であるが、これに限定されない。伝送路2に設けられる可動電極3、ギャップ21及びMEMS機構4の数は任意でよい。
【0029】
本実施形態に係る移相器1において、上述の如く、MEMS機構4は、可動電極3を平行方向に移動させ、可動電極3と各固定電極22との重なり量を変化させる。これにより、MEMS機構4の高速動作の特徴を用いて、可動電極3と各固定電極22との重なり量を高速に変化させ、位相差を高速に変化させることができ、アンテナの応答性を高速化することができる。
【0030】
また、MEMS機構4は、可動電極3の両端と一対の固定電極22との重なり量を変化させ、可動電極3及び固定電極22の結合容量を連続的に変化させることができる。これにより、上記重なり量に応じた位相差の微小な調整が可能となり、位相差の微調整を高速に行うことができる。
【0031】
なお、MEMS機構4は、可動電極3を垂直方向に移動させ、可動電極3の両端と一対の固定電極22との距離を変化させ、可動電極3及び固定電極22の結合容量を変化させ、位相差を変化させてもよい。なお、MEMS機構4は、上述の如く、可動電極3を平行方向に移動させた方が、容量結合を強く維持できる点で、より好ましい。
【0032】
さらに、MEMS機構4は、可動電極3を平行方向に移動させて、可動電極3の両端と一対の固定電極22との重なり量を変化させつつ、可動電極3を垂直方向に移動させて、可動電極3の両端と一対の固定電極22との距離を変化させて、位相差を変化させてもよい。
【0033】
実施形態3
図5は、本実施形態に係る移相器の概略的な構成を示す図である。本実施形態に係る移相器30は、長さの異なる複数の伝送路2と、各伝送路2に設けられた複数の第1及び第2可動電極31、32と、第1及び第2可動電極31、32に設けられた複数のMEMS機構4と、を備えている。
【0034】
伝送路2の一端にはアンテナ素子5に接続されている。伝送路2には、複数のギャップ21が夫々形成されている。なお、ギャップ21の両端の伝送路端部には、固定電極22が設けられていてもよい。第1可動電極31は、伝送路2のギャップ21に設けられ、伝送路2に対し平行方向に移動し、ギャップ21の両端の伝送路端部に重なり伝送路端部に電磁誘導結合するオン状態になる。
【0035】
また、第1可動電極31は、伝送路2に対し平行方向に移動しギャップ21の両端の伝送路端部の少なくとも一方と重ならず、伝送路端部の少なくとも一方が電磁誘導結合しないオフ状態になる。第1可動電極31は、上記平行方向に移動することでオン状態及びオフ状態に切り替わるスイッチング機能を有している。
【0036】
ギャップ21の両端の伝送路端部には、一対の固定電極22が設けられている。固定電極22は、ギャップ21の両端の伝送路端部と一体的に構成されていてもよい。第2可動電極32は、一対の固定電極22の両方と両端が重なり電磁誘導結合しつつ、固定電極22に対し平行方向に移動する。
【0037】
なお、第2可動電極32は、一対の固定電極22の両方と両端が重なり電磁誘導結合しつつ、固定電極22に対し垂直方向に移動してもよい。MEMS機構4は、第1及び第2可動電極31、32を夫々移動させる。
【0038】
MEMS機構4は、第1可動電極31をオン状態及びオフ状態に切り替え伝送路2の長さを切り替える。これにより、予め設定された伝送路2の長さに応じた位相差の段階的な調整が可能となり、位相差の変調を幅広く行うことができる。
【0039】
さらに、MEMS機構4は、第2可動電極32の両端と一対の固定電極22との重なり量を変化させ、第2可動電極32及び固定電極22の結合容量を変化させる。これにより、上記重なり量に応じた位相差の微小な調整が可能となり、位相差の微調整を行うことができる。
【0040】
すなわち、第1可動電極31をオン状態及びオフ状態に切り替えで、信号が通過する伝送路2のパスの長さを変化させ、位相差の大凡の調整を行うことができる。さらに、第2可動電極32の重なり量を調整し第2可動電極32及び固定電極22の結合容量を変化させることで、位相差の微調整を行うことができる。これにより、容易かつ高精度な位相差調整が可能となる。
【0041】
なお、図5に示す伝送路2の数、第1及び第2可動電極31、32の数及び位置、ギャップ21の位置、並びに、伝送路2の形状は一例であり、これに限定されない。第1可動電極31をオン状態及びオフ状態に切り替えることで、伝送路2の長さを切り替えることができれば、伝送路2の数、ギャップ21の位置、および、伝送路2の形状は任意でよい。
【0042】
また、位相差の微調整を行うことができれば、第2可動電極32の数及び位置は任意でよい。例えば、図1に示す伝送路2に単数あるいは複数のギャップ21を新たに形成し、各ギャップ21に第2可動電極32を設けるようにしてもよい。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
この出願は、2021年3月29日に出願された日本出願特願2021-056222を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0044】
1 移相器
2 伝送路
3 可動電極
4 MEMS機構
5 アンテナ素子
20 移相器
21 ギャップ
22 固定電極
30 移相器
31 第1可動電極
32 第2可動電極
51 信号供給窓
図1
図2
図3
図4
図5