(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01G4/30 516
(21)【出願番号】P 2023511322
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015244
(87)【国際公開番号】W WO2022210625
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2021058921
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】若松 徹
(72)【発明者】
【氏名】濱田 大介
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-234246(JP,A)
【文献】特開2002-75774(JP,A)
【文献】特開2017-5019(JP,A)
【文献】特開2010-232248(JP,A)
【文献】特開平10-12478(JP,A)
【文献】特開平11-162777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/224
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックからなる積層された複数の誘電体層と、前記誘電体層間の複数の界面に沿ってそれぞれ配置された複数の内部電極と、を有する、積層体と、
前記積層体の外表面に設けられ、前記内部電極と電気的に接続された、複数の外部電極と、
を備え、
前記内部電極は、前記積層体の積層方向に関して交互に配置された複数の第1内部電極と複数の第2内部電極とを備え、
前記外部電極は、前記第1内部電極と電気的に接続された第1外部電極と、前記第2内部電極と電気的に接続された第2外部電極と、を備え、
前記第1内部電極を正極とし、前記第2内部電極を負極とするように、前記第1外部電極および前記第2外部電極間に印加される電圧の印加方向に基づく極性が定められており、
前記第1内部電極は、Niを主成分とする第1金属組成を有し、
前記第2内部電極は、Niを主成分とし、Niより標準電極電位が高いAu、Pt、Ir、Pd、Os、Ag、Rh、RuおよびCuから選ばれる少なくとも1種の金属元素を添加成分とする、第2金属組成を有
し、
前記第1内部電極が有する前記第1金属組成は、Niより標準電極電位が高い金属元素を含まない、
積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層セラミックコンデンサに関するもので、特に、積層セラミックコンデンサに備える内部電極の金属組成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクス技術の進展に伴い、積層セラミックコンデンサには小型化かつ大容量化が要求されている。これらの要求を満たすため、積層セラミックコンデンサの誘電体層の薄層化が進められている。しかし、誘電体層を薄層化すると、1層あたりに加わる電界強度が相対的に高くなる。よって、電圧印加時における信頼性の向上が求められる。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、一般的に、積層されている複数の誘電体層と、誘電体層間の界面に沿って配置されている複数の内部電極と、を有する積層体と、積層体の外表面に設けられ、内部電極と電気的に接続されている複数の外部電極と、を備えている。ここで、内部電極は、たとえば特開平11-283867号公報(特許文献1)に記載されるように、Niを主成分とするものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内部電極の主成分をNiとした場合に、近年の小型化かつ大容量化の要請に応えるためには、電圧印加時における信頼性が未だ不十分であるという問題があった。
【0006】
この発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、誘電体層がより一層薄層化し、高電界強度の電圧が印加されても、優れた信頼性を示す積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る積層セラミックコンデンサは、セラミックからなる積層された複数の誘電体層と、誘電体層間の複数の界面に沿ってそれぞれ配置された複数の内部電極と、を有する、積層体と、積層体の外表面に設けられ、内部電極と電気的に接続された、複数の外部電極と、を備える。
【0008】
内部電極は、積層体の積層方向に関して交互に配置された複数の第1内部電極と複数の第2内部電極とを備え、外部電極は、第1内部電極と電気的に接続された第1外部電極と、第2内部電極と電気的に接続された第2外部電極と、を備える。
【0009】
上述した技術的課題を解決するため、この発明では、第1内部電極を正極とし、第2内部電極を負極とするように、第1外部電極および第2外部電極間に印加される電圧の印加方向に基づく極性が定められており、第1内部電極は、Niを主成分とする第1金属組成を有し、第2内部電極は、Niを主成分とし、Niより標準電極電位が高いAu、Pt、Ir、Pd、Os、Ag、Rh、RuおよびCuから選ばれる少なくとも1種の金属元素を添加成分とする、第2金属組成を有し、第1内部電極が有する第1金属組成は、Niより標準電極電位が高い金属元素を含まないことを特徴としている。
【0010】
なお、上記第1金属組成と上記第2金属組成とは異なるものであって、構成元素の種類および含有率の少なくとも一方について異なっている。
【0011】
また、内部電極の金属組成に関して、「主成分」とは、金属元素の中で、最も多い含有量を有するもの、より限定的には、50%以上の含有量を有するものを言う。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、積層セラミックコンデンサの電圧印加時における絶縁劣化を抑制でき、よって、信頼性の優れた積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0013】
また、第1内部電極が有する第1金属組成および第2内部電極が有する第2金属組成は、ともにNiを主成分としているので、たとえばCuを主成分とする場合に比べて、融点を高くすることができる。よって、第1内部電極および第2内部電極をより薄くすることができるので、積層セラミックコンデンサの外形寸法を維持しながら、積層数を増やすことができ、結果として、取得静電容量を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサ1を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示した積層セラミックコンデンサ1における第1内部電極(正極)4および第2内部電極(負極)5の各々に含まれる金属元素が有する標準電極電位を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1を参照して、この発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサ1の構造について説明する。
【0016】
積層セラミックコンデンサ1は、積層体2を備えている。積層体2は、セラミックからなる積層された複数の誘電体層3と、複数の誘電体層3間の界面に沿って配置された複数の内部電極4および5と、を備えている。内部電極4および5は、積層体3の積層方向に関して交互に配置された複数の第1内部電極4と複数の第2内部電極5とに分類される。積層体2の外表面、より具体的には、相対向する各端面には、外部電極6および7がそれぞれ設けられる。外部電極6および7は、第1内部電極4と電気的に接続された第1外部電極6と、第2内部電極5と電気的に接続された第2外部電極7と、に分類される。
【0017】
内部電極4および5の組成については後述する。外部電極6および7は、たとえばAgまたはCuを導電成分の主成分としている。誘電体層3は、BaおよびTiを含むペロブスカイト型化合物(ただし、Baの一部はCaで置換されてもよく、Tiの一部はZrで置換されてもよい。)を主成分として含む誘電体セラミックからなることが好ましい。特に、誘電体層3の主成分がBaTiO3である場合には高い誘電率を示し、積層セラミックコンデンサ1が優れた信頼性を示す。なお、誘電体層3には、上記主成分の他に、たとえば希土類元素や、Mn、Mg、Si等が副成分として含まれていてもよい。
【0018】
誘電体セラミックの原料粉末は、たとえば、固相合成法で作製される。具体的には、まず、主成分の構成元素を含む酸化物、炭酸塩等の化合物粉末を所定の割合で混合し、仮焼する。なお、固相合成法の他に、水熱法等を適用してもよい。なお、誘電体セラミックにおいて、アルカリ金属、遷移金属、Cl、S、P、Hf等が、本発明の効果を妨げない量の範囲で含まれていてもよい。
【0019】
積層セラミックコンデンサ1は、たとえば、以下のように作製される。上記のようにして得られた誘電体セラミックの原料粉末を用いてセラミックスラリーを作製する。次いで、シート成形法等でセラミックグリーンシートを成形する。次いで、複数のセラミックグリーンシートのうち所定のセラミックグリーンシート上に、内部電極4および5の各々となるべき導電性ペーストを印刷等で塗布する。次いで、複数のセラミックグリーンシートを積層した後に圧着して、生の積層体を得る。次いで、生の積層体を焼成する。この焼成する工程で、誘電体セラミックで構成される誘電体層3が得られる。その後、積層体3の端面に外部電極6および7を焼き付け等で形成する。
【0020】
積層セラミックコンデンサ1は、実使用時において、第1内部電極4を正極とし、第2内部電極5を負極とするように、第1外部電極6および第2外部電極7間に印加される電圧の印加方向に基づく極性が定められていることを第1の特徴としている。
【0021】
この点に関して、この発明の対象となる積層セラミックコンデンサは、
図1に示すような第1外部電極6および第2外部電極7を備える2端子型のものに限らず、3個以上の外部電極を備える多端子型のものであってもよい。この場合、第1内部電極が正極となり、第2内部電極が負極となるように、3個以上の外部電極から選ばれる特定の2組の外部電極の間、すなわち、少なくとも1個の第1外部電極と少なくとも1個の第2外部電極との間に電圧が印加されるように構成されればよい。
【0022】
積層セラミックコンデンサ1は、第1内部電極4および第2内部電極5の各々の金属組成に関して、以下のように選ばれることを第2の特徴としている。すなわち、正極となる第1内部電極4は、Niを主成分とする第1金属組成を有し、負極となる第2内部電極5は、Niを主成分とし、Niより標準電極電位が高いAu、Pt、Ir、Pd、Os、Ag、Rh、RuおよびCuから選ばれる少なくとも1種の金属元素を添加成分とする、第2金属組成を有する。第2金属組成に含まれるAu、Pt、Ir、Pd、Os、Ag、RhおよびRuは貴金属である。また、第1内部電極が有する第1金属組成は、Niより標準電極電位が高い金属元素を含まない。
【0023】
このような第1内部電極4および第2内部電極5の各々の金属組成についての選択は、以下のような知見に基づいている。
【0024】
一般的な積層セラミックコンデンサの絶縁劣化機構については未解明であるが、そのトリガーは、電圧印加に伴う酸素イオンの負極偏析(酸素空孔の正極偏析)であることが知られている。したがって、酸素イオンの負極偏析を抑制すれば、積層セラミックコンデンサの絶縁劣化を抑制できると予測される。そこで、酸化物が安定な元素を正極に含ませ、酸化物が不安定な元素を負極に含ませることが考えられる。この考えに基づけば、負極で還元反応(酸素イオンの放出)を生じさせることによって、負極偏析を抑制できることになる。
【0025】
より具体的には、第1内部電極4および第2内部電極5の各々の金属組成に関して、正極となる第1内部電極4側に価数が増加しやすい(標準電極電位が低い)金属元素が用いられ、負極となる第2内部電極5側に価数が減少しやすい(標準電極電位が高い)金属元素が用いられる。標準電極電位は、元素に固有の値であり、その値が低いほど酸化物が安定で、高いほど酸化物が不安定である。
【0026】
すなわち、負極側の第2内部電極5において、
図2に示すように、正極側の第1内部電極4の金属元素の標準電極電位より高い標準電極電位の金属元素を含むようにされる。
図2において、正極側の第1内部電極4の第1金属組成の標準電極電位は、Aの範囲に含まれていればよく、負極側の第2内部電極5の第2金属組成の標準電極電位は、Bの範囲に含まれていればよい。
【0027】
内部電極4および5の各々が有する金属組成に含まれ得る金属元素についての標準電極電位は、より低いものから順に列挙すると、
Niが-0.26V、
Cuが+0.34V、
Ruが+0.46V、
Rhが+0.76V、
Agが+0.8V、
Osが+0.9V、
Pdが+0.92V、
Irが+1.16V、
Ptが+1.19V、
Auが+1.52Vである。
【0028】
第1内部電極4の第1金属組成の主成分となるNiの標準電極電位が-0.26Vであるのに対し、第2内部電極5の第2金属組成に添加されるAu、Pt、Ir、Pd、Os、Ag、Rh、RuおよびCuは、いずれも、Niより高い標準電極電位を有している。
【0029】
したがって、負極である第2内部電極5の第2金属組成に添加される、Niより高い標準電極電位を有する、Au、Pt、Ir、Pd、Os、Ag、Rh、RuおよびCuの少なくとも1種の金属元素は、負極である第2内部電極5で還元反応(酸素イオンの放出)を生じさせ、酸素イオンの負極偏析を抑制することができる。
【0030】
なお、前述したように、標準電極電位が高いものほど、酸化物がより不安定であるので、上述した第2内部電極5の第2金属組成に含まれることのある金属元素は、標準電極電位のより高くなる順である、Cu、Ru、Rh、Ag、Os、Pd、Ir、Pt、Auの順で、酸素イオンの負極偏析を抑制する効果がより高くなる。
【0031】
このように、この実施形態によれば、内部電極4および5における酸化還元反応に着目し、この酸化還元反応を利用して、電圧印加に伴う酸素イオンの負極偏析(酸素空孔の正極偏析)が抑制され、その結果、積層セラミックコンデンサ1の電圧印加時における絶縁劣化を抑制でき、よって、信頼性の優れた積層セラミックコンデンサ1を得ることができる。
【0032】
前述したように、第1内部電極4が有する第1金属組成は、Niより標準電極電位が高い金属元素を含まないようにされる。第1金属組成が有する比較的低い標準電極電位を有利に維持できるからである。
【0033】
また、第2内部電極5が有する第2金属組成は、Niを主成分としており、第1内部電極4が有する第1金属組成についても、Niを主成分としているので、たとえばCuを主成分とする場合に比べて、融点を高くすることができる。よって、第1内部電極4および第2内部電極5をより薄くすることができるので、積層セラミックコンデンサ1の外形寸法を維持しながら、積層数を増やすことができ、結果として、取得静電容量を高くすることができる。
【0034】
なお、第2内部電極5が有する第2金属組成を構成する複数の金属元素は、積層セラミックコンデンサ1の製造途中のセラミックグリーンシート上に塗布される導電性ペースト中に含まれているが、予め複数の金属元素を含む合金または金属間化合物の形態で導電性ペースト中に含まれていても、別々の金属元素の形態で導電性ペースト中に含まれていてもよい。第1内部電極4が有する第1金属組成が複数の金属元素を含む場合にも、予め複数の金属元素を含む合金または金属間化合物の形態で導電性ペースト中に含まれていても、別々の金属元素の形態で導電性ペースト中に含まれていてもよい。
【0035】
また、第2内部電極5が有する第2金属組成に含まれる複数の金属元素は、製品としての積層セラミックコンデンサ1の段階では、合金化されていることが好ましい。第1内部電極4が有する第1金属組成が複数の金属元素を含む場合にも、これら複数の金属元素は、製品としての積層セラミックコンデンサ1の段階では、合金化されていることが好ましい。
【符号の説明】
【0036】
1 積層セラミックコンデンサ
2 積層体
3 誘電体層
4 第1内部電極
5 第2内部電極
6 第1外部電極
7 第2外部電極