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特許7605305試料気化ユニット及びガスクロマトグラフ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】試料気化ユニット及びガスクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/12 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
G01N30/12 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023525169
(86)(22)【出願日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2021020686
(87)【国際公開番号】W WO2022254523
(87)【国際公開日】2022-12-08
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】古賀 聖規
(72)【発明者】
【氏名】奥村 健一
(72)【発明者】
【氏名】中間 勇二
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-504804(JP,A)
【文献】特開2000-314731(JP,A)
【文献】特開平05-180816(JP,A)
【文献】特開平09-43215(JP,A)
【文献】米国特許第5808178(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00- 30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラム内にキャリアガスを供給しながら、シリンジの針から注入される試料を気化させるための試料気化ユニットであって、
前記カラムが内部に挿入される配管と、
前記配管の外周に沿って設けられる伝熱部材と、
前記伝熱部材の外周に沿って設けられるヒータとを備え、
前記伝熱部材は、前記配管の外周面における周方向の複数箇所で、前記カラムが延びる軸線方向に沿って前記配管と線接触し、
前記伝熱部材は、当該伝熱部材の切断部分である少なくとも1つのスリットを有しており、前記スリットの幅が小さくなる方向に押圧された状態で、前記配管に対して固定される、試料気化ユニット。
【請求項2】
前記伝熱部材は、前記スリットにより少なくとも第1伝熱部及び第2伝熱部に分離されており、前記第1伝熱部と前記第2伝熱部との間の前記スリットの幅が小さくなる方向に押圧された状態で、前記配管に対して固定される、請求項に記載の試料気化ユニット。
【請求項3】
前記伝熱部材は、1つの前記スリットを有する断面C字状に形成されている、請求項に記載の試料気化ユニット。
【請求項4】
前記伝熱部材の外周に巻回された前記ヒータからの押圧力により、前記伝熱部材が前記配管に対して固定される、請求項のいずれか一項に記載の試料気化ユニット。
【請求項5】
前記スリットは、前記軸線方向に沿って真っ直ぐ延びている、請求項のいずれか一項に記載の試料気化ユニット。
【請求項6】
前記スリットは、前記軸線方向に対して交差する方向に屈曲又は湾曲するように延びている、請求項のいずれか一項に記載の試料気化ユニット。
【請求項7】
前記スリットは、前記軸線方向に対して交差する方向に真っ直ぐ延びている、請求項のいずれか一項に記載の試料気化ユニット。
【請求項8】
前記試料気化ユニットは、前記カラム内にキャリアガスを供給しながら、前記カラムの先端部に挿入される前記シリンジの針から試料を注入し、前記カラム内で試料を気化させる、請求項1~のいずれか一項に記載の試料気化ユニット。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の試料気化ユニットと、
前記試料気化ユニットに取り付けられるカラムと、
前記カラム内で分離された試料中の成分を検出する検出器とを備える、ガスクロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラム内にキャリアガスを供給しながら、シリンジの針から注入される試料を気化させるための試料気化ユニット、及び、これを備えたガスクロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばガスクロマトグラフなどの分析装置には、試料中の成分を分離するためのカラムと、当該カラム内に試料を導入するための試料導入部とが備えられている。カラムには、試料導入部を介してキャリアガスが導入される。試料導入部では、カラムに導入される前のキャリアガスに試料が注入される。キャリアガス中の試料は、試料導入部で加熱されることにより気化された後、カラムに導入される(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-314731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昇温分析などに用いられる試料導入部の中には、カラムの先端部にシリンジの針を挿入し、カラム内に試料を直接注入するような構成を有しているものがある。この種の試料導入部では、外径が極めて小さく細長いカラムを、外側から効率よく加熱する必要がある。しかしながら、従来、この種の試料導入部においてカラム及びカラム内の試料を効率よく加熱するための構成として、有効な技術は提案されていない。そのため、カラムを高速で加熱することが困難であり、その結果、加熱されるカラムの温度分布が不均一になる場合があった。また、試料を効率よく加熱することができるような技術的思想は、カラム内に試料を直接注入するような構成に限らず、試料導入部の内部で試料を気化させてからカラム内に導入するような構成においても同様に望まれている。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、試料を効率よく加熱することができる試料気化ユニット及びガスクロマトグラフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、カラム内にキャリアガスを供給しながら、シリンジの針から注入される試料を気化させるための試料気化ユニットであって、配管と、伝熱部材と、ヒータとを備える。前記配管は、前記カラムが内部に挿入される。前記伝熱部材は、前記配管の外周に沿って設けられる。前記ヒータは、前記伝熱部材の外周に沿って設けられる。前記伝熱部材は、前記配管の外周面における周方向の複数箇所で、前記カラムが延びる軸線方向に沿って前記配管と線接触する。
【0007】
本発明の第2の態様は、前記試料気化ユニットと、カラムと、検出器とを備える、ガスクロマトグラフである。前記カラムは、前記試料気化ユニットに取り付けられる。前記検出器は、前記カラム内で分離された試料中の成分を検出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、試料を効率よく加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態のガスクロマトグラフの一例を示す概略図である。
図2】第1実施形態の試料気化ユニットの一例を示す斜視図である。
図3】第1実施形態の試料気化ユニットの一例を示す断面図である。
図4】第1実施形態の試料気化ユニットの一例におけるカラムの下流側周辺を示す断面図である。
図5】第1実施形態の試料気化ユニットの一例におけるカラムの上流側周辺を示す断面図である。
図6】第1実施形態のスリットの一例を示す概略側面図である。
図7】第1実施形態のスリットの他の例を示す概略側面図である。
図8】第1実施形態のスリットのさらに他の例を示す概略側面図である。
図9】第2実施形態の伝熱部材の一例を軸線方向から見た場合の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.ガスクロマトグラフの全体構成
図1は、第1実施形態のガスクロマトグラフ10の一例を示す概略図である。ガスクロマトグラフ10は、キャリアガスとともに試料をカラム12内に供給することにより分析を行うためのものであり、上記カラム12以外に、カラムオーブン14、試料気化ユニット16及び検出器18等を備えている。このガスクロマトグラフ10では、昇温分析を行うことができる。
【0011】
カラム12は、たとえば、キャピラリカラムからなる。カラム12は、ヒータ及びファンなど(図示は省略)とともにカラムオーブン14内に収容されている。カラムオーブン14は、カラム12を加熱するためのものであり、分析時にはヒータ及びファン(図示は省略)を適宜駆動させる。
【0012】
試料気化ユニット16は、カラム12内にキャリアガス及び試料を供給するためのものであり、その内部にカラム12が貫通して延びるように取り付けられている。カラム12の上流には、キャリガスともに液体試料が供給され、カラム12内で液体試料が気化される。
【0013】
また、試料気化ユニット16には、ガス供給流路22及びパージ流路24が連通している。ガス供給流路22は、試料気化ユニット16にキャリアガスを供給するための流路である。キャリアガスとしては、ヘリウムガス又はアルゴンガスなどの不活性ガスを例示することができる。
【0014】
パージ流路24は、カラム12内にキャリアガス及び試料を供給する際に、キャリアガスの一部を外部に排出することで、後述するセプタム38(図3参照)などから生じる所望しない成分を外部に排出するための流路である。
【0015】
検出器18は、例えば、水素炎イオン化検出器(FID)により構成される。検出器18は、カラム12から導入されるキャリアガスに含まれる試料中の各成分を順次検出する。ただし、検出器18は、FIDに限られるものではなく、他の任意の検出器を用いることができる。
【0016】
このようなガスクロマトグラフ10において、分析処理が実施される際、ガス供給流路22からキャリアガスが試料気化ユニット16に供給される。また、分析対象となる試料がカラム12内に供給されると、カラム12の上流で試料が気化される。試料中の各成分は、カラム12内を通過する過程で分離される。検出器18では、カラム12から導入されるキャリアガスに含まれる試料中の各成分が順次検出され、その検出器18における検出結果に基づいて、クロマトグラムが生成される。
【0017】
2.試料気化ユニットの構成
図2は、第1実施形態の試料気化ユニット16の一例を示す斜視図である。図3は、第1実施形態の試料気化ユニット16の一例を示す断面図である。図4は、第1実施形態の試料気化ユニット16の一例におけるカラム12の下流側周辺を示す断面図である。図5は、第1実施形態の試料気化ユニット16の一例におけるカラム12の上流側周辺を示す断面図である。なお、図3では、カラム12を一点鎖線で表す。また、図5では、シリンジの針50を二点鎖線で表す。
【0018】
試料気化ユニット16は、配管30、保持部32、筒部34、インサート36、セプタム38、セプタムキャップ40、伝熱部材42及びヒータ44等を備えている。
【0019】
配管30は、たとえば、ステンレス鋼により形成された長尺な円筒状の部材であり、配管30の内部をカラム12が貫通している。なお、配管30の内径は、カラム12の外径よりも大きいため、配管30の内周面とカラム12の外周面との間には隙間がある。配管30は、たとえば、外径2mm、内径1mm程度とされ、カラム12については、たとえば、外径0.7mm、内径0.5mm程度とされる。すなわち、配管30の内周面とカラム12の外周面との間には、0.3mm程度の隙間が形成されている。ただし、カラム12及び配管30の寸法は、上記値に限定されるものではなく、カラム12の外径に応じて、配管30の内径を任意に設定することができる。たとえば、カラム12の外径が0.5~1.0mmの場合、配管30の内径は0.7~1.5mmであってもよい。配管30の厚みは、たとえば、0.3~0.7mmであってもよい。配管30の長さは、たとえば、5~10cmであり、具体的には6cm程度である。
【0020】
保持部32は、円筒状に形成され、配管30の下端部を保持する。なお、配管30の下端部は、試料気化ユニット16内でのカラム12の下流側に対応する端部を指す。
【0021】
図3及び図4に示す例では、保持部32の内周面は、少なくとも配管30の外径と同等の内径を有する第1領域と、配管30の内径と同等の内径を有する第2領域とを含む。すなわち、保持部32の内径は、第1領域から第2領域へと段階的に変化している。図3及び図4に示すように、配管30の下端部が保持部32の第1領域に挿入された状態で保持されている場合、保持部32の第2領域と配管30の内部空間が連通する。
【0022】
筒部34は、保持部32と同様に円筒状に形成され、配管30の上端部を保持する。なお、配管30の上端部は、試料気化ユニット16内でのカラム12の上流側に対応する端部を指す。
【0023】
図3及び図5に示す例では、筒部34の内周面は、少なくとも配管30の外径と同等の内径を有する第1領域と、配管30の内径と同等の内径を有する第2領域とを含む。すなわち、筒部34の内径は、第1領域から第2領域へと段階的に変化している。図3及び図5に示すように、配管30の上端部が筒部34の第1領域に挿入された状態で保持されている場合、筒部34の第2領域と配管30の内部空間が連通する。
【0024】
また、筒部34の内部空間(第1領域及び第2領域よりも上側の空間)は、カラム12の上流側の端部が挿入される空間(挿入空間)を含み、挿入空間には、インサート36が配置されている。インサート36は、内周面に内径が他の部分よりも小さいくびれを有する円筒状に形成され、そのインサート36のくびれ部分の内径は、カラム12の外径よりも小さい。すなわち、カラム12の上流側の端部は、インサート36を貫通せず、インサート36のくびれ部分付近まで延びる。
【0025】
インサート36によれば、カラム12の中心軸及びそのカラム12に試料を注入するためのシリンジの針50の中心軸を、カラム12が延びる方向である軸線方向において略同一に配置することができる。
【0026】
セプタム38は、インサート36と対向する位置で、筒部34の挿入空間を封止するように筒部34に取り付けられる。セプタムキャップ40は、セプタム38を覆うように、筒部34に取り付けられている。
【0027】
また、セプタムキャップ40は、内面にねじ山が形成された円筒状のナットにより構成されている。したがって、セプタムキャップ40が締め付けられると、セプタム38は、セプタムキャップ40及び筒部34に保持される。シリンジの針50の先端部は、セプタム38を貫通して筒部34の挿入空間に挿入され、インサート36を貫通してカラム12の先端部に挿入される。これにより、シリンジの針50の先端部からカラム12内に試料を注入することができる。
【0028】
ガス供給流路22は、試料気化ユニット16内で配管30内に連通する。具体的には、ガス供給流路22は、配管30の内周面とカラム12の外周面との間の隙間に連通する。図3及び図4に示す例では、ガス供給流路22は、保持部32の内部空間を介して、配管30内に連通する。
【0029】
パージ流路24は、筒部34の挿入空間と連通する。図3及び図5に示す例では、パージ流路24は、試料気化ユニット16外で軸線方向と直交する方向に沿って筒部34の挿入空間と連通する。
【0030】
伝熱部材42は、配管30の外周に沿って設けられ、配管30を覆っている。伝熱部材42は、たとえば、外径5mm、内径2mm程度とされる。ただし、伝熱部材42の寸法は、上記値に限定されるものではなく、配管30の外径に応じて、伝熱部材42の内径を任意に設定することができる。たとえば、配管30の外径が1.5~3.0mmの場合、伝熱部材42の内径も配管30の外径に対応するように1.5~3.0mmであってもよい。伝熱部材42の厚みは、たとえば、1.0~2.0mmであってもよい。また、後述するが、伝熱部材42は、配管30の外周面における周方向の複数箇所で、軸線方向に沿って配管30と線接触する。
【0031】
第1実施形態では、伝熱部材42として金属を用いる。また、伝熱部材42としては、高い熱伝導性を有し、かつ、柔らかい(加工が容易である)金属を用いるのが好ましい。したがって、伝熱部材42としては、たとえば、アルミニウム、銅及び真鍮等を用いるのが好ましい。なお、伝熱部材42は、伝熱性を有する部材であれば特に限定されない。
【0032】
ヒータ44は、伝熱部材42の外周に沿って設けられている。第1実施形態では、ヒータ44として、シースヒータのような、曲げ加工が容易な棒状のヒータ(曲げヒータ)を用いる。図3~5に示す例では、ヒータ44が伝熱部材42だけでなく、保持部32の一部及び筒部34の一部の外周にも巻回されている。なお、ヒータ44として、他の汎用のヒータが用いられてもよい。
【0033】
このような試料気化ユニット16では、ガス供給流路22、保持部32の内部空間、配管30の内部空間、筒部34の内部空間等が一体となっている。したがって、ガス供給流路22から試料気化ユニット16内に供給されるキャリアガスは、配管30の内周面とカラム12の外周面との間の隙間を通って上方に流れ、カラム12の上端部からカラム12内に流入する。この状態で、図5に示すように、セプタム38を貫通するシリンジの針50をカラム12内に挿入し、針50の先端からカラム12内に試料を注入することにより、キャリアガスとともに試料をカラム12内に供給することができる。このとき、セプタム38などから生じる所望しない成分は、キャリアガスとともにパージ流路24に排出される。また、第1実施形態では、カラム12が、配管30及び伝熱部材42を介してヒータ44によって加熱されるため、配管30を貫通するカラム12内では、試料が加熱されて気化される。すなわち、カラム12における配管30内に挿入されている部分の内部が、液体試料を気化させるための試料気化領域20を構成している。
【0034】
さらに、第1実施形態では、伝熱部材42が配管30の外周面における周方向の複数箇所で、軸線方向に沿って配管30と線接触するため、伝熱部材42と配管30との接触箇所を多くすることができる。したがって、第1実施形態の試料気化ユニット16によれば、配管30、伝熱部材42及びヒータ44で、カラム12及びカラム12内の試料を効率よく加熱することができる。
【0035】
3.伝熱部材の構成
伝熱部材42は、少なくとも1つのスリット45を有する。スリット45は、伝熱部材42の軸線方向の一端部から他端部まで連続的に延びる切断部分であって、スリット45を介して伝熱部材42が部分的に分断される。また、伝熱部材42は、スリット45の幅が小さくなる方向に押圧された状態で、配管30に対して固定される。ここで、スリット45の幅が小さくなる方向とは、スリット45に対して交差する方向であればよく、スリット45に対して直交方向に限られるものではない。
【0036】
図6は、第1実施形態のスリット45の一例を示す概略側面図である。スリット45は、図6に示すように、軸線方向に沿って真っ直ぐ延びていてもよい。この場合、スリット45により分断された伝熱部材42の各端面451、452が、互いに間隔を空けて軸線方向に対して平行に延びる。したがって、軸線方向に対して交差する方向に向かって伝熱部材42に力を加えれば、各端面451、452が互いに近づき、スリット45の幅(各端面451、452の間の距離)が小さくなる方向に伝熱部材42が押圧される。
【0037】
図7は、第1実施形態のスリット45の他の例を示す概略側面図である。スリット45は、図7に示すように、軸線方向に対して交差する方向に屈曲又は湾曲しつつ延びてもよい。すなわち、スリット45により分断された伝熱部材42の各端面451、452が、屈曲又は湾曲した面により構成されていてもよい。各端面451、452は、軸線方向の一端部から他端部まで連続的に屈曲又は湾曲していてもよいし、軸線方向の一部分のみにおいて屈曲又は湾曲していてもよい。この図7の例では、各端面451、452が屈曲した面で構成されることにより、複数の屈曲部(凸部及び凹部)を有しているが、各屈曲部を湾曲形状とすれば、各端面451、452を複数の湾曲部(凸部及び凹部)を有する面で構成することができる。
【0038】
図7において、伝熱部材42の各端面451、452は、互いに間隔を空けて対向する。したがって、軸線方向に対して交差する方向に向かって伝熱部材42に力を加えれば、各端面451、452が互いに近づき、スリット45の幅(各端面451、452の間の距離)が小さくなる方向に伝熱部材42が押圧される。この場合、一方の端面451に形成された複数の凸部が、他方の端面452に形成された複数の凹部に入り込み、他方の端面452に形成された複数の凸部が、一方の端面451に形成された複数の凹部に入り込む。
【0039】
図8は、第1実施形態のスリット45のさらに他の例を示す概略側面図である。スリット45は、図8に示すように、軸線方向に対して交差する方向に真っ直ぐ延びていてもよい。すなわち、伝熱部材42を側面視で見た場合に、図6のようにスリット45が軸線方向に真っ直ぐ延びるのではなく、軸線方向に対して交差する方向に斜めに真っ直ぐ延びていてもよい。この場合、軸線方向に対するスリット45の傾斜角度は、特に限定されるものではない。すなわち、スリット45の軸線方向の一端部から他端部までの間に、スリット45が伝熱部材42の外周を1周以上するような大きい傾斜角度でスリット45が傾斜していてもよいし、1周未満に収まるような小さい傾斜角度でスリット45が傾斜していてもよい。たとえば、スリット45の軸線方向の一端部から他端部までの間に、スリット45が伝熱部材42の外周を1周以上する場合、その伝熱部材42は、螺旋状のスリット45を有することになる。
【0040】
このように、軸線方向に対して交差する方向に斜めにスリット45を形成した場合、軸線方向及びスリットに対して交差する方向に向かって伝熱部材42に力を加えたときに、各端面451、452を互いに当接させ、各端面451、452同士を摺接させながら伝熱部材42を配管30に固定することも可能である。この場合、各端面451、452の間のスリット45が埋まり、配管30の外周面の全体に沿って伝熱部材42が設けられる。したがって、カラム12及びカラム12内の試料を効率よく加熱することができる。
【0041】
伝熱部材42が上述したようなスリット45を1つだけ有する場合、軸線方向から見た場合の伝熱部材42の断面は、C字状に形成される。なお、これらは、あくまでスリット45の一例であり、他の種々の形状でスリット45を形成することが可能である。
【0042】
また、伝熱部材42がスリット45を2つ以上有する場合、その伝熱部材42は、スリット45の数と同じ数に分離されることになる。図9は、第2実施形態の伝熱部材42の一例を軸線方向から見た場合の断面図である。図9に示す例では、伝熱部材42は、2つのスリット45を有し、各スリット45は、図6に示す例のように軸線方向に沿って真っ直ぐ延びる。ただし、複数のスリット45の形状は、特に限定されるものではなく、たとえば、図7又は図8に示すような形状であってもよい。なお、図9では、カラム12の図示は省略する。
【0043】
図9に示す伝熱部材42は、2つのスリット45を有するため、その伝熱部材42は、第1伝熱部42a及び第2伝熱部42bに分離されている。スリット45は、周方向に等間隔で形成されていてもよいし、異なる間隔で形成されていてもよい。図9に示す例では、2つのスリット45が周方向に等間隔で形成されることにより、同一形状からなる断面半円弧状の第1伝熱部42a及び第2伝熱部42bに分離されている。この場合、2つのスリット45は、配管30を挟んで対称配置される。図9に示す例では、伝熱部材42は、第1伝熱部42aと第2伝熱部42bとの間の2つのスリット45の幅がそれぞれ小さくなる方向に押圧された状態で、配管30に対して固定される。
【0044】
伝熱部材42(図9に示す例では第1伝熱部42a及び第2伝熱部42b)は、内周面の曲率半径が、配管30の外周面の曲率半径と一致していることが好ましい。しかしながら、配管30は非常に細いため、伝熱部材42の内周面の曲率半径と配管30の外周面の曲率半径とを一致させることは困難である。そのため、図9に示すように、通常、伝熱部材42は、配管30の外周面における周方向の複数箇所で、軸線方向に沿って配管30と線接触する。
【0045】
図9に示す例では、伝熱部材42(第1伝熱部42a及び第2伝熱部42b)の内周面の曲率半径が配管30の外周面の曲率半径よりも小さい。この場合、第1伝熱部42a及び第2伝熱部42bが、それぞれ配管30の外周面における周方向の少なくとも2箇所で、軸線方向に沿って配管30と線接触する。一方、伝熱部材42(第1伝熱部42a及び第2伝熱部42b)の内周面の曲率半径が配管30の外周面の曲率半径よりも大きい場合には、第1伝熱部42a及び第2伝熱部42bが、それぞれ配管30の外周面における周方向の1箇所で、軸線方向に沿って配管30と線接触する場合がある。この場合でも、第1伝熱部42a及び第2伝熱部42bが、それぞれ1箇所で配管30の外周面に線接触するため、伝熱部材42全体では2箇所で配管30の外周面に線接触する。スリット45の数が多いほど、伝熱部材42の内周面と配管30の外周面との接触箇所は多くなる。なお、スリット45が1つだけ設けられた構成であっても、スリット45が設けられていない場合よりも、伝熱部材42の内周面と配管30の外周面との接触箇所は多くなる。
【0046】
また、カラム12及びカラム12内の試料を加熱する際の効率の低下を抑制するために、スリット45の幅は小さいことが好ましい。たとえば、伝熱部材42が複数のスリット45を有し、各スリット45の幅が小さくなるように設定されているのであれば、カラム12及びカラム12内の試料を加熱する際の効率の低下を抑制しつつ、伝熱部材42の内周面と配管30の外周面との接触箇所を多くすることができる。
【0047】
また、第1実施形態では、伝熱部材42の外周に巻回されたヒータ44からの押圧力を用いて、その伝熱部材42を配管30に対して固定する。すなわち、ヒータ44は、伝熱部材42の外周面に対して締め付けられるようにして取り付けられる。この場合、ヒータ44が、発熱源としての役割だけでなく、伝熱部材42を押圧して固定する役割を担うため、別途、伝熱部材42を押圧しつつ配管30に固定するための部材を設ける必要がない。第1実施形態では、伝熱部材42の外周に巻回されたヒータ44の互いに隣接する部分に間隔が設けられていないが、間隔を設けることにより軸線方向に沿って温度分布を形成してもよい。
【0048】
なお、ヒータとは別の耐熱性を有する固定部材を用いて、伝熱部材42が配管30に対して固定されてもよい。たとえば、紐状の固定部材を伝熱部材42の周囲に巻回することで、伝熱部材42を配管30に対して固定してもよい。この場合、固定部材は、伝熱部材42の軸線方向の少なくとも両端部に巻回されることが好ましく、軸線方向の中央部にも巻回されていればより好ましい。また、伝熱部材42の外周面には、固定部材が入り込むための溝が形成されていてもよい。
【0049】
伝熱部材42及び配管30が線接触する位置は、伝熱部材42のスリット45の数、スリット45の形状及び配管30への伝熱部材42の固定方法等の様々な要素に起因して、変化する場合がある。つまり、伝熱部材42及び配管30は、幅を有する線で接触する場合がある。この場合、線接触には、面接触が含まれていてもよい。
【0050】
4.変形例
以上の実施形態では、カラム12の先端部に挿入されるシリンジの針50から試料を注入し、カラム12内で試料を気化させるような構成について説明した。しかし、本発明は、カラム12内に試料を直接注入するような構成に限らず、配管30の内部で試料を気化させてからカラム12内に導入するような構成にも適用することができる。すなわち、カラム12は、配管30の内部を貫通するような構成に限らず、カラム12の先端部のみが配管30の内部に挿入された構成であってもよい。この場合、配管30の内部に形成される試料気化領域20で試料が気化された後、気化された試料がキャリアガスとともにカラム12内に導入される。配管30は、試料気化ユニット16に対して着脱可能なインサートとして構成されてもよい。
【0051】
5.態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0052】
(第1項)一態様に係る試料気化ユニットは、
カラム内にキャリアガスを供給しながら、シリンジの針から注入される試料を気化させるための試料気化ユニットであって、
前記カラムが内部に挿入される配管と、
前記配管の外周に沿って設けられる伝熱部材と、
前記伝熱部材の外周に沿って設けられるヒータとを備え、
前記伝熱部材は、前記配管の外周面における周方向の複数箇所で、前記カラムが延びる軸線方向に沿って前記配管と線接触してもよい。
【0053】
第1項に記載の試料気化ユニットによれば、伝熱部材が配管の外周面における周方向の複数箇所で、軸線方向に沿って配管と線接触するため、伝熱部材と配管との接触箇所を多くすることができる。したがって、配管、伝熱部材及びヒータで、試料を効率よく加熱することができる。
【0054】
(第2項)第1項に記載の試料気化ユニットにおいて、
前記伝熱部材は、少なくとも1つのスリットを有しており、前記スリットの幅が小さくなる方向に押圧された状態で、前記配管に対して固定されてもよい。
【0055】
第2項に記載の試料気化ユニットによれば、少なくとも1つのスリットを形成することにより、スリットが形成されていない場合よりも、伝熱部材の内周面と配管の外周面との接触箇所を多くすることができる。
【0056】
(第3項)第2項に記載の試料気化ユニットにおいて、
前記伝熱部材は、前記スリットにより少なくとも第1伝熱部及び第2伝熱部に分離されており、前記第1伝熱部と前記第2伝熱部との間の前記スリットの幅が小さくなる方向に押圧された状態で、前記配管に対して固定されてもよい。
【0057】
第3項に記載の試料気化ユニットによれば、分離された第1伝熱部及び第2伝熱部が、それぞれ少なくとも1箇所で配管の外周面に線接触するため、伝熱部材全体で少なくとも2箇所で配管の外周面に線接触させることができる。したがって、伝熱部材の内周面と配管の外周面との接触箇所をより多くすることができる。
【0058】
(第4項)第2項に記載の試料気化ユニットにおいて、
前記伝熱部材は、1つの前記スリットを有する断面C字状に形成されてもよい。
【0059】
第4項に記載の試料気化ユニットによれば、スリットを形成することにより伝熱部材の内周面と配管の外周面との接触箇所を多くすることができ、かつ、伝熱部材を1つの部材として扱うことができるため、組立作業が容易である。
【0060】
(第5項)第2項~第4項のいずれか一項に記載の試料気化ユニットにおいて、
前記伝熱部材の外周に巻回された前記ヒータからの押圧力により、前記伝熱部材が前記配管に対して固定されてもよい。
【0061】
第5項に記載の試料気化ユニットによれば、ヒータが、伝熱部材を押圧して固定する役割を担うため、別途、伝熱部材を押圧しつつ配管に固定するための部材を設ける必要がない。
【0062】
(第6項)第2項~第5項のいずれか一項に記載の試料気化ユニットにおいて、
前記スリットは、前記軸線方向に沿って真っ直ぐ延びていてもよい。
【0063】
第6項に記載の試料気化ユニットによれば、軸線方向に沿って真っ直ぐ延びる簡単な形状のスリットを形成するだけで、伝熱部材の内周面と配管の外周面との接触箇所を多くすることができる。
【0064】
(第7項)第2項~第5項のいずれか一項に記載の試料気化ユニットにおいて、
前記スリットは、前記軸線方向に対して交差する方向に屈曲又は湾曲するように延びていてもよい。
【0065】
第7項に記載の試料気化ユニットによれば、スリットにより分断された伝熱部材の各端面に複数の凸部及び凹部が形成される。したがって、一方の端面に形成された複数の凸部が、他方の端面に形成された複数の凹部に入り込み、他方の端面に形成された複数の凸部が、一方の端面に形成された複数の凹部に入り込むように構成にすることができる。これにより、軸線方向に沿って各端面がずれるのを防止することができる。
【0066】
(第8項)第2項~第5項のいずれか一項に記載の試料気化ユニットにおいて、
前記スリットは、前記軸線方向に対して交差する方向に真っ直ぐ延びていてもよい。
【0067】
第8項に記載の試料気化ユニットによれば、スリットにより分断された伝熱部材の各端面を互いに当接させ、各端面同士を摺接させながら伝熱部材を配管に固定することが可能である。
【0068】
(第9項)第1項~第8項のいずれか一項に記載の試料気化ユニットにおいて、
前記試料気化ユニットは、前記カラム内にキャリアガスを供給しながら、前記カラムの先端部に挿入される前記シリンジの針から試料を注入し、前記カラム内で試料を気化させてもよい。
【0069】
第9項に記載の試料気化ユニットによれば、配管、伝熱部材及びヒータで、カラム及びカラム内の試料を効率よく加熱することができる。
【0070】
(第10項)一態様に係るガスクロマトグラフは、
第1項~第9項のいずれか一項に記載の試料気化ユニットと、
前記試料気化ユニットに取り付けられるカラムと、
前記カラム内で分離された試料中の成分を検出する検出器とを備えてもよい。
【0071】
第10項に記載のガスクロマトグラフによれば、試料を効率よく加熱して分析を行うことができる。
【符号の説明】
【0072】
10 ガスクロマトグラフ
12 カラム
16 試料気化ユニット
18 検出器
30 配管
42 伝熱部材
42a 第1伝熱部
42b 第2伝熱部
44 ヒータ
45 スリット
50 針
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9