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特許7605337スイッチング制御方法及びスイッチング制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】スイッチング制御方法及びスイッチング制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20241217BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20241217BHJP
【FI】
B60L3/00 N
B60L3/00 J
B60L50/61
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023554194
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2021039016
(87)【国際公開番号】W WO2023067781
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2024-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 豪
(72)【発明者】
【氏名】川村 弘道
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-068038(JP,A)
【文献】特開2021-136738(JP,A)
【文献】特開2021-066238(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115019(WO,A1)
【文献】特開平10-322153(JP,A)
【文献】特開2014-107968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機及び該発電機の発電電力で動作する走行用の駆動モータを備える車両において、前記発電機の電力を調節するPWM制御に用いる搬送波のキャリア周波数を調節するスイッチング制御方法であって、
前記キャリア周波数を所定の基本値に維持する基本モード、及び該キャリア周波数を所定の切り替え周期で変化させる拡散モードの何れかを前記搬送波の制御モードとして設定し、
前記発電機の動作で生じる騒音に対する車両利用者の認識度の高低に相関する車両状況を示唆する騒音認識度示唆量を取得し、
前記騒音認識度示唆量に基づいて前記認識度が高いと推定される場合には、前記キャリア周波数を所定の切り替え周期で変化させる拡散モードを実行し、
前記認識度が低いと推定される場合には、前記キャリア周波数を所定の基本値に維持する基本モードを実行し、
前記騒音認識度示唆量は、停車時における前記車両利用者の降車可能性を示唆する降車可能性パラメータを含み、
前記降車可能性パラメータに基づいて前記降車可能性があると判断した場合には、前記認識度が高いと推定する、
スイッチング制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチング制御方法であって、
前記降車可能性パラメータは、前記車両において選択されているシフト位置、及び/又は前記車両のパーキングブレーキのオン/オフを含み、
前記シフト位置が前記車両の走行駆動源と駆動輪の間の駆動力伝達を遮断する伝達遮断レンジに選択されている場合、又は前記パーキングブレーキがオンである場合には、前記降車可能性があると判断する、
スイッチング制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスイッチング制御方法であって、
前記騒音認識度示唆量は、前記車両の走行に起因する車室内の暗騒音の大きさを示唆する暗騒音パラメータと、車室内への前記騒音の伝達に対する遮蔽性を示唆する第1遮蔽性パラメータと、をさらに含み、
前記降車可能性パラメータに基づいて前記降車可能性が無いと判断した場合には、
前記暗騒音パラメータ及び/又は前記第1遮蔽性パラメータに基づいて、前記認識度の高低を推定する、
スイッチング制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載のスイッチング制御方法であって、
前記暗騒音パラメータは、車速を含み、
前記第1遮蔽性パラメータは、前記車両の窓の開閉状態を含み、
前記車速が所定の車速閾値以下であり且つ前記窓が開放されている場合に、前記認識度が高いと推定し、そうでない場合には前記認識度が低いと推定する、
スイッチング制御方法。
【請求項5】
発電機及び該発電機の発電電力で動作する走行用の駆動モータを備える車両において、前記発電機の電力を調節するPWM制御に用いる搬送波のキャリア周波数を調節するスイッチング制御方法であって、
前記キャリア周波数を所定の基本値に維持する基本モード、及び該キャリア周波数を所定の切り替え周期で変化させる拡散モードの何れかを前記搬送波の制御モードとして設定し、
前記発電機の動作で生じる騒音に対する車両利用者の認識度の高低に相関する車両状況を示唆する騒音認識度示唆量を取得し、
前記騒音認識度示唆量に基づいて前記認識度が高いと推定される場合には、前記キャリア周波数を所定の切り替え周期で変化させる拡散モードを実行し、
前記認識度が低いと推定される場合には、前記キャリア周波数を所定の基本値に維持する基本モードを実行し、
前記騒音認識度示唆量は、停車時における前記発電機と前記車両の外部領域との間の前記騒音の伝達に対する遮蔽性を示唆する第2遮蔽性パラメータを含み、
前記第2遮蔽性パラメータに基づいて前記遮蔽性が一定以下であると判断した場合には、前記認識度が高いと推定する、
スイッチング制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載のスイッチング制御方法であって、
前記第2遮蔽性パラメータは、前記発電機が収容される車体内部の収容空間を前記外部領域に対して開閉する開閉部材の開閉状態を含む、
スイッチング制御方法。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載のスイッチング制御方法であって、
前記発電機の出力トルクの大きさが所定の閾値トルク未満の場合には、前記騒音認識度示唆量に基づく前記認識度の高低の推定結果にかかわらず、前記基本モードを実行する、
スイッチング制御方法。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載のスイッチング制御方法であって、
前記拡散モードでは、
前記発電機に印加すべき電圧の値として演算する電圧指令値の制御周期の2倍に略一致する第1周波数と、前記第1周波数の整数倍の第2周波数と、を交互に設定する、
スイッチング制御方法。
【請求項9】
発電機及び該発電機の発電電力で動作する走行用の駆動モータを備える車両に搭載され、前記発電機の電力を調節するPWM制御に用いる搬送波のキャリア周波数を調節するスイッチング制御装置であって、
前記キャリア周波数を所定の基本値に維持する基本モード、及び該キャリア周波数を所定の切り替え周期で変化させる拡散モードの何れかを前記搬送波の制御モードとして設定する設定部と、
前記発電機の動作で生じる騒音に対する車両利用者の認識度の高低に相関する車両状況を示唆する騒音認識度示唆量を取得する取得部と、
前記騒音認識度示唆量に基づいて前記認識度が高いと推定される場合には前記拡散モードを実行し、前記認識度が低いと推定される場合には前記基本モードを実行する制御モード決定部と、を有し、
前記騒音認識度示唆量は、停車時における前記車両利用者の降車可能性を示唆する降車可能性パラメータを含み、
前記制御モード決定部は、前記降車可能性パラメータに基づいて前記降車可能性があると判断した場合には、前記認識度が高いと推定する、
スイッチング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング制御方法及びスイッチング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2021-136738Aには、3相交流モータに供給する電力を調節するスイッチング装置としてのインバータに対するPWM(Pulse Width Modulation)制御の一態様が開示されている。
【0003】
特に、JP2021-136738Aでは、車両の走行駆動用に用いられる駆動モータの力行状態及び回生状態のそれぞれにおいて設定される運転点(トルク及び回転数等)に応じて、PWM制御に用いる搬送波の周波数(キャリア周波数)の制御モードを、当該キャリア周波数を所定周期で変化(拡散)させる拡散モードと、所定の基本周期に固定する基本モードと、の間で切り替えるスイッチング制御が提案されている。
【0004】
制御モードを拡散モードに設定することで、インバータのリプル電流の増大に起因するノイズが抑制される。一方、制御モードを基本モードに設定することで、スイッチング損失が低減されて最適なエネルギー効率が確保される。すなわち、JP2021-136738Aでは、駆動モータの運転点に応じてノイズ抑制を優先すべきシーンとエネルギー効率を優先すべきシーンを切り分けて、それぞれのシーンに適切なスイッチングの制御モードを設定している。
【発明の概要】
【0005】
近年、駆動モータの駆動電力を発電機の発電電力で賄うタイプの車両(いわゆるシリーズハイブリッド車両)が普及している。この種の車両においては、発電機の動作によっても騒音が発生するため、適宜騒音を抑制すべく、制御モードを拡散モードに設定することが望まれる。しかしながら、発電機の動作点は基本的に車両の走行状態とは独立に定められる。このため、発電機の動作点を参照しても、当該発電機の騒音が問題となるシーン(例えば、走行時の暗騒音が小さいシーンなど)を適切に判別することは難しい。すなわち、上述した従来の制御では、上記発電機を搭載したシリーズハイブリッド車両におけるスイッチング制御を想定した場合に、シーンに応じた適切な基本モードと拡散モードの切り分けを実現できないという問題がある。
【0006】
したがって、本発明は、上記シリーズハイブリッド車両への適用に際しても、拡散モードと基本モードの間の適切な切り分けを実現し得るスイッチング制御方法、及びスイッチング制御装置を提供することを目的とする。
【0007】
本発明のある態様によれば、発電機及び発電機の発電電力で動作する走行用の駆動モータを備える車両において、発電機の電力を調節するPWM制御に用いる搬送波のキャリア周波数を調節するスイッチング制御方法が提供される。このスイッチング制御方法では、キャリア周波数を所定の基本値に維持する基本モード、及び該キャリア周波数を所定の切り替え周期で変化させる拡散モードの何れかを搬送波の制御モードとして設定する。
【0008】
そして、発電機の動作で生じる騒音に対する車両利用者の認識度の高低に相関する車両状況を示唆する騒音認識度示唆量を取得する。そして、騒音認識度示唆量に基づいて認識度が高いと推定される場合には、拡散モードを実行し、認識度が低いと推定される場合には、基本モードを実行する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態によるスイッチング制御方法が実行される車両制御システムを説明する図である。
図2図2は、拡散モードにおけるキャリア周波数の設定態様の一例を説明する図である。
図3図3は、第1実施形態における実行決定処理を説明するフローチャートである。
図4A図4Aは、停車時における車両利用者の降車可能性と当該車両利用者の騒音の認識度の高低との相関関係を説明する図である。
図4B図4Bは、車両の窓の開閉状態と車両利用者の騒音の認識度の高低との相関関係を説明する図である。
図5図5は、第2実施形態における実行決定処理を説明するフローチャートである。
図6図6は、エンジンフードの開閉状態と車両利用者の騒音の認識度の高低との相関関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態のスイッチング制御方法が実行される車両制御システム100の構成を説明する図である。なお、本実施形態の車両制御システム100は、所定の駆動源(エンジン20)により駆動される発電用の第1の電動機(発電機10)と、第1の電動機の発電電力で動作する走行用の第2の電動機(駆動モータ12)と、を搭載するハイブリッド車両(例えばシリーズハイブリッド車両)に適用されることを想定している。
【0012】
図示のように、車両制御システム100は、主として、発電機10と、駆動モータ12と、インバータ13と、バッテリ18と、エンジン20と、コントローラ50と、により構成される。特に、図に示す車両制御システム100では、発電機10、駆動モータ12、及びインバータ13が一体化されて電動機ユニットMUを構成している。
【0013】
発電機10は、上記第1の電動機として機能する三相交流モータにより構成される。特に、発電機10は、インバータ13による制御の下、エンジン20が生成する駆動力を受けて駆動モータ12を駆動させるための電力を生成し、バッテリ18又は当該駆動モータ12に供給する。なお、発電機10は、適宜、バッテリ18からの電力を受けて、エンジン20を駆動するように構成されていても良い。これにより、発電機10を用いて、例えば、エンジン20の始動時等におけるクランキング(モータリング)を実行することができる。
【0014】
駆動モータ12は、上記第2の電動機として機能する三相交流モータにより構成される。特に、駆動モータ12は、インバータ13による制御の下、バッテリ18又は発電機10から所望の駆動力(制動力)を実現するための電力の供給を受けて動作(力行動作又は回生動作)し、図示しない所定の変速機構を介して車両の駆動輪に駆動力(制動力)を与える。
【0015】
インバータ13は、第1スイッチング装置14、第2スイッチング装置16、及び平滑コンデンサ22を含む。
【0016】
第1スイッチング装置14は、コントローラ50から入力されるPWM信号SPWM1に応じて、バッテリ18及び発電機10の間の電力調節(特に、直流と交流の相互変換)を行う。特に、第1スイッチング装置14は、各相に対応して設けられた半導体スイッチング素子と、上記PWM信号SPWM1に応じたスイッチングパターンで各スイッチング素子を操作するための制御部により構成される。
【0017】
第2スイッチング装置16は、コントローラ50から入力されるPWM信号SPWM2に応じて、バッテリ18及び駆動モータ12の間の電力調節(特に、直流と交流の相互変換)を行う。特に、第2スイッチング装置16は、各相に対応して設けられた半導体スイッチング素子と、上記PWM信号SPWM2に応じたスイッチングパターンで各スイッチング素子を操作するための制御部により構成される。
【0018】
平滑コンデンサ22は、第1スイッチング装置14又は第2スイッチング装置16の動作に起因して生じ得るリプル電流を平滑化する。すなわち、平滑コンデンサ22は、第1スイッチング装置14及び第2スイッチング装置16の共通の容量素子として機能する。
【0019】
バッテリ18は、リチウムイオン二次電池等により構成される車載用の直流電源である。
【0020】
エンジン20は、図示しないギヤなどの機械要素を介して発電機10と接続されており、発電のための動力を発電機10へ伝達する。すなわち、エンジン20は、発電機10による発電のための駆動源として用いられる。なお、エンジン20は、コントローラ50による制御の下、要求発電電力Pg_rに基づいて定められる動作点(エンジントルクT及びエンジン回数数N)で動作する。
【0021】
次に、コントローラ50の構成について説明する。コントローラ50は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備え、後述する各処理を実行可能となるようにプログラムされたコンピュータにより構成される。なお、コントローラ50を、各処理を分散して実行する複数のコンピュータハードウェアにより構成することも可能である。
【0022】
特に、コントローラ50は、所望の要求発電電力Pg_rに応じて、発電機10の運転点である発電機トルクT及び回転数Nを定める。なお、要求発電電力Pg_rは、バッテリ残充電電力、及びその他の車両状態(音振抑制の要求、又はエンジン20の触媒暖機の要求など)に基づいて適切な値に定められる。また、コントローラ50は、車両に対する要求駆動力Df_rに応じて、駆動モータ12の運転点である駆動モータトルクT及び回転数Nを定める。なお、要求駆動力Df_rは、車両に搭載されたアクセルペダルに対する操作量(アクセル開度)、又は図示しない自動運転制御装置などの上位コントローラによる指令などに基づいて定められる。
【0023】
ここで、コントローラ50は、駆動モータ12の運転点(T,N)に基づいて、PWM信号SPWM2を生成するために用いる搬送波のキャリア周波数fc2(一般に数kHz~10数kHz程度)を調節する。より詳細には、コントローラ50は、駆動モータ12の運転点(T,N)から、ノイズ抑制を優先すべきシーンとスイッチング効率を優先すべきシーンを特定し、それぞれのシーンに応じてキャリア周波数fc2を調節する。例えば、コントローラ50は、駆動モータ12の動作に起因する騒音が問題となるシーンを示す運転点(T,N)(走行時の暗騒音が小さくなる低回転域数など)をとる場合には、キャリア周波数fc2を変化させて音振を低減させ(拡散モード)、それ以外の場合にはキャリア周波数fc2を固定してスイッチング効率を高める(基本モード)。
【0024】
一方、コントローラ50は、発電機10の制御(第1スイッチング装置14のスイッチング制御)に係るPWM信号SPWM1を生成するために用いる搬送波のキャリア周波数fc1(一般に数kHz~10数kHz程度)を調節する制御モードを設定する。
【0025】
特に、本実施形態のコントローラ50は、後述する騒音認識度示唆量を入力として、第1スイッチング装置14の制御モードを拡散モード及び基本モードの何れに設定するかを決定するための処理(以下、「実行決定処理」とも称する)を行う。より詳細には、コントローラ50は、騒音認識度示唆量に基づいて、車両利用者O(特に、車両の乗員)にとっての発電機10の作動に起因する騒音に対する認識度が高いか、或いは低いかを推定し、当該推定結果に応じて最終的な制御モードを決定する。
【0026】
ここで、騒音認識度示唆量とは、発電機10の騒音に対する車両利用者Oの認識度、特に聴覚による認識の程度(聴こえやすさの程度)に相関する車両状況を示すパラメータである。すなわち、騒音認識度示唆量は、車室Cin又は車両外部の周辺領域(以下、「車外領域Cout」とも称する)に位置する車両利用者Oにとって発電機10の作動に伴う騒音の聴こえやすさに影響を与える車両状況(騒音の遮蔽物の有無や一定時間に亘る停車状態など)を規定するパラメータである。
【0027】
特に、本実施形態の騒音認識度示唆量には、停車時に車両利用者Oが降車する可能性を示唆する降車可能性パラメータ、走行時の車室Cin内における暗騒音(走行ノイズや風切り音など)の大きさを示唆する暗騒音パラメータ、及び車室Cin内と騒音源(電動機ユニットMU)との間の騒音伝達に対する遮蔽性の高低(物理的な遮断物の存在の有無)を示唆する第1遮蔽性パラメータが含まれる。
【0028】
より具体的に、コントローラ50は、シフト位置信号Ssh及びpb状態信号Spbを上記降車可能性パラメータとして、図示しないセンサ類により検出又は推定された車速vを上記暗騒音パラメータとして、並びに開閉状態信号Swinを第1遮蔽性パラメータとして取得する。
【0029】
なお、シフト位置信号Sshは、車両において選択されているシフト位置を示す信号であり、図示しないシフト位置センサの検出値に基づいて生成される。また、pb状態信号Spbはパーキングブレーキのオン/オフ状態を示す信号であり、図示しないパーキングブレーキセンサの検出値に基づいて生成される。さらに、開閉状態信号Swinは、車両の窓の開閉状態を示す信号であり、図示しないセンサの検出値又はパワーウインド用モータの電流から演算される窓位置演算値に基づいて生成される。
【0030】
また、本実施形態において、「発電機10の作動に起因する騒音に対する認識度が高い」とは、車室Cin又は車外領域Coutに位置する車両利用者Oが、一定基準以上に強く騒音を認識する状態(騒音に対して許容できない不快感を覚える状態)を意味する。一方、「発電機10の作動に起因する騒音に対する認識度が低い」とは、当該車両利用者Oの騒音に対する認識の強さが一定基準未満となる状態(騒音を認識できないか、認識できても不快感を覚えるまでに至らない状態)を意味する。特に、上記認識度の高低を切り分けるための基準としては、例えば、複数の車両利用者Oによる感応評価、又は車室Cin又は車外領域Cout内における全音成分(暗騒音などを含む)に対する発電機10由来の騒音成分の相対的な大きさの解析結果などに基づく実験又はシミュレーションによって、適宜、定量的又は定性的に定めることができる。
【0031】
そして、コントローラ50は、上記実行決定処理の結果に基づいて定まった基本モード及び拡散モードのいずれかを実行して、PWM信号SPWM1を生成する。
【0032】
より具体的に、コントローラ50は、上記実行決定処理により定められた制御モードに応じたキャリア周波数fc1の搬送波と、発電機10の運転点(T,N)に応じて定まる電圧指令値V と、の大小比較結果に基づいてPWM信号SPWM1を生成する。一方、コントローラ50は、上述した駆動モータ12の運転点(T,N)に応じて定めるキャリア周波数fc2の搬送波と、当該運転点(T,N)に応じて定まる電圧指令値V と、の大小比較結果に基づいてPWM信号SPWM2を生成する。
【0033】
より具体的に、コントローラ50は、電圧指令値(V ,V )と搬送波との大小関係を比較し、搬送波の瞬間値が電圧指令値以上であるときにオフ信号(またはオン信号)を出力し、当該瞬間値が電圧指令値よりも低くなるとオン信号(またはオフ信号)を出力することを繰り返すことによりPWM信号(SPWM1,SPWM2)を生成する。
【0034】
特に、上記基本モードでは、キャリア周波数(fc1,fc2)を、電圧指令値(V ,V )の制御周期tの2倍に相当する基本周波数F0に設定(固定)する。このように、キャリア周波数(fc1,fc2)を固定することで、スイッチングによる損失を低減してエネルギー効率(燃費)の低下が抑制される。一方で、単一のキャリア周波数(fc1,fc2)を設定する基本モードの場合、所定の周波数にリプル電流が集中して、当該周波数のリプル電圧レベルが大きくなる場合がある。このため、リプル電流を抑制すべきシーンにおいては、拡散モードを設定する。
【0035】
拡散モードでは、キャリア周波数(fc1,fc2)として、基本周波数F0(第1周波数)と当該基本周波数F0の整数倍の拡散周波数F1(第2周波数)と、を交互に設定する。
【0036】
図2は、拡散モードにおけるキャリア周波数(fc1,fc2)の設定態様の一例を説明する図である。図2で示す例では、拡散周波数F1が基本周波数F0の2倍に設定されている。また、拡散モードにおいて、基本周波数F0を設定する時間(第1切り替え時間t21)は制御周期tの2倍に設定されている。さらに、拡散周波数F1を設定する時間(第2切り替え時間t22)も制御周期tの2倍に設定されている。
【0037】
したがって、図2に示す例では、拡散モードにおいては、キャリア周波数(fc1,fc2)が制御周期tの2倍の時間ごとに基本周波数F0と拡散周波数F1の間で交互に繰り返すこととなる。
【0038】
なお、拡散周波数F1は基本周波数F0の2倍に限られない。すなわち、拡散周波数F1は基本周波数F0と異なる値(特に基本周波数F0よりも大きい値)であれば適宜任意の値に設定することができる。しかしながら、拡散周波数F1は基本周波数F0の2倍、3倍、又は4倍等の整数倍に設定されることが好ましい。このように搬送波の周期(基本周波数F0及び拡散周波数F1のそれぞれの逆数)が制御周期tの整数倍に設定されることで、キャリア周波数fの切り替えのタイミングと電圧指令値(V ,V )の更新のタイミングの差(位相差)の変化を抑制し、搬送波と電圧指令値(V ,V )とを好適に同期させることができる。したがって、第1スイッチング装置14において、キャリア周波数切り替え時のトルク精度の低下やトルクリプルの発生を抑制することができる。特に、搬送波と電圧指令値(V ,V )とを同期させることにより、両者の位相差をゼロにすることが好適である。
【0039】
また、第1切り替え時間t21及び第2切り替え時間t22図2に示したもの以外にも適宜設定することができる。特に、第1切り替え時間t21及び第2切り替え時間t22を相互に異なる値に設定しても良い。
【0040】
さらに、拡散モードにおけるキャリア周波数(fc1,fc2)の切り替えは、搬送波の瞬間値が搬送波の振幅の中間(ゼロ点)となる位置に来たときに行うことができるが、当該瞬間値が搬送波の振幅のピーク(最大値、又は最小値)となる位置に来たときに切り替えることも可能である。
【0041】
上述の拡散モードを実行することで、キャリア周波数(fc1,fc2)が特定の周波数に集中することに起因するリプル電圧の増加が抑制される。これにより、駆動モータ12及び発電機10の動作に起因するノイズを抑制することができる。
【0042】
次に、本実施形態における上述した実行決定処理のさらなる詳細について説明する。
【0043】
図3は、本実施形態における実行決定処理を説明するフローチャートである。なお、コントローラ50は、図3に示すルーチンを所定制御周期ごとに繰り返し実行する。
【0044】
先ず、コントローラ50は、シフト位置信号Ssh及びpb状態信号Spbに基づいて、車両において選択されているシフト位置がパーキング位置(いわゆる「P」の位置)及びニュートラル位置(いわゆる「N」の位置)の何れか一方であるか否かの判定(ステップS110)、及びパーキングブレーキが操作された状態であるか否かの判定(ステップS120)を実行する。
【0045】
そして、コントローラ50は、ステップS110及びステップS120の双方の判定結果が否定的である場合(車両利用者Oの降車可能性があると判断した場合)には、ステップS130の処理を実行する。一方、コントローラ50は、ステップS110及びステップS120の少なくとも一方の判定結果が肯定的である場合(車両利用者Oの降車可能性が無いと判断した場合)には、ステップS150の処理を実行する。
【0046】
上記ステップS110及びステップS120は、停車時に車室Cin内の車両利用者Oが降車する可能性があるか否かを推定する判定する趣旨で実行される。すなわち、本実施形態では、シフト位置信号Ssh及びpb状態信号Spbが、上述した降車可能性パラメータとして用いられる。特に、このシフト位置信号Ssh及びpb状態信号Spbは、車両の停車シーンの特定に加えて、特定した停車シーンにおいて車両利用者Oの降車可能性が低い停車状況(信号待ちなどの比較的短時間の停車)を排除して、降車可能性が高い停車状況(駐車時等の比較的長時間の停車)を抽出し得る好ましい指標として機能する。
【0047】
図4Aは、停車時における車両利用者Oの降車可能性と当該車両利用者Oの騒音の認識度の高低との関係を説明する図である。なお、図4Aでは、インバータ13を含む電動機ユニットMUが、エンジン20とともに車体内の同じ収容空間(エンジンルームER)において収容されるとともに、エンジンルームERがエンジンフード64により車外領域Coutに対して開閉可能に構成されている例を想定する。
【0048】
上述した降車可能性の高い停車状況では、図示のように、車室Cin内の車両利用者Oが車外領域Coutに移動することが想定される。この場合、車両利用者Oと騒音源である電動機ユニットMUとの間の物理的な距離が近づく上に、両ドア60及び窓62fによる遮蔽機能も失われた状態となる(遮断物が実質的にエンジンフード64のみとなる)。このため、上記ステップS110及びステップS120に基づく降車可能性に関する判定は、騒音の認識度の高低を適切に推定し得るロジックとなる。
【0049】
図3に戻り、ステップS130において、コントローラ50は、暗騒音パラメータとしての車速vと所定の車速閾値vthとの大小比較を行う。そして、コントローラ50は、車速vが車速閾値vthを超えると判断すると(暗騒音のレベルが一定以上であると)、制御モードを基本モードに設定して本ルーチンを終了する(ステップS160)。一方、コントローラ50は、車速vが車速閾値vth以下であると判断すると(暗騒音のレベルが一定以下であると)、ステップS140の処理を実行する。
【0050】
なお、車速閾値vthは、予め実験又はシミュレーションにより定められ、コントローラ50がアクセス可能な任意の記憶領域に記憶される。
【0051】
次に、ステップS140において、コントローラ50は、上記開閉状態信号Swinを参照して、車両の窓62が開放されているか否かを判定する。そして、コントローラ50は、窓62が開放されていないと判断すると、制御モードを基本モードに設定して本ルーチンを終了する(ステップS160)。一方、コントローラ50は、窓62が開放されていると判断すると、ステップS150の処理を実行する。
【0052】
ここで、ステップS140の判定は、走行時における暗騒音が一定以上のレベルであることを前提として、電動機ユニットMUから車室Cin内への騒音伝達に対する遮蔽性を参照して車両利用者Oの騒音に対する認識度の高低を推定する趣旨で実行される。すなわち、本実施形態では、車両の窓62の開閉状態を示す開閉状態信号Swinが、上述した第1遮蔽性パラメータとして用いられる。特に、この開閉状態信号Swinは、インバータ13から車室Cin内への騒音伝達に対する遮蔽性の高低を推定するための適切な指標として機能する。
【0053】
図4Bは、車両の窓62の開閉状態と車室Cin内における騒音の認識度との関係を説明する図である。
【0054】
図示のように、走行中に車両の窓62が開放している場合には、車室Cinとインバータ13の間において騒音伝達を遮蔽する遮蔽物が実質的にエンジンフード64のみとなる。すなわち、車室Cin内の車両利用者Oにとって、窓62が開放している状態は閉塞している状態と比べて上記騒音に対する認識度の高い状態であると言える。特に、暗騒音が一定以上のレベルであることを前提とした窓62の開閉状態は、車両利用者Oにとっての騒音の認識度の高低(騒音に不快感を覚えるか否か)に適切に相関することとなる。
【0055】
図3に戻り、ステップS150において、コントローラ50は、発電機トルクTと閾値トルクTg_thの大小比較を行う。そして、コントローラ50は、発電機トルクTが所定の閾値トルクTg_th以上である場合には、拡散モードを実行として本ルーチンを終了する(ステップS170)。一方、コントローラ50は、発電機トルクTが閾値トルクTg_th未満である場合には、制御モードを基本モードに設定して本ルーチンを終了する(ステップS160)。
【0056】
ここで、発電機トルクT(≒発電機10に流す電流)の大きさによっては、そもそも、騒音が車両利用者Oの不快感をもたらす程度のレベルに至らないシーンも想定される。ステップS150の判定は、このようなシーンを特定する趣旨で実行される。特に、ステップS150に係る判定ロジックであれば、このように騒音レベルが問題とならない程度に小さいシーンにおいて、騒音の認識度の高低の判定結果に関わらず、基本モードを実行することができる。
【0057】
また、閾値トルクTg_thは、上記シーンを特定する観点から適切な発電機トルクTとして、予め実験又はシミュレーションにより定められ、コントローラ50がアクセス可能な任意の記憶領域に記憶される。
【0058】
なお、発電機10の回生動作(T<0)も想定して、上記ステップS150の判定において、発電機トルクTの絶対値と閾値トルクTg_thの比較を行うなどの制御ロジックを採用しても良い。
【0059】
以上説明した本実施形態のスイッチング制御方法によれば、以下の作用効果を奏する。
【0060】
本実施形態によれば、発電機10及び発電機10の発電電力で動作する走行用の駆動モータ12を備える車両において、発電機10の電力を調節するPWM制御に用いる搬送波のキャリア周波数fc1を調節するスイッチング制御方法が提供される。
【0061】
このスイッチング制御方法では、キャリア周波数fc1を所定の基本値(基本周波数F0)に維持する基本モード、及び該キャリア周波数fc1を所定の切り替え周期で変化させる拡散モードの何れかを搬送波の制御モードとして設定する。そして、発電機10の動作で生じる騒音に対する車両利用者Oの認識度の高低に相関する車両状況を示唆する騒音認識度示唆量(Ssh,Spb,v,Swin)を取得する。そして、騒音認識度示唆量に基づいて上記認識度が高いと推定される場合(ステップS110及びステップS120の何れかがYes、又はステップS130及びステップS140の双方がYesである場合)には、拡散モードを実行する(ステップS170)。一方、上記認識度が低いと推定される場合(ステップS110及びステップS120の双方がNo、且つステップS130及びステップS140の何れかがNoである場合)には、基本モードを実行する(ステップS160)。
【0062】
これにより、発電機10の動作で生じる騒音が車両利用者Oにとって聴こえやすいか否かという判断基準によって、搬送波のキャリア周波数fc1に係る制御モードを定めることができる。より具体的には、騒音認識度示唆量に基づき現在の車両状況が車両利用者Oにとって発電機10の騒音を聴取し易い(騒音による不快感を覚えやすい)状況であると推定した場合には、拡散モードを実行してノイズを抑制することができる。一方で、騒音認識度示唆量に基づき現在の車両状況が車両利用者Oにとって騒音を聴取しにくい(騒音による不快感を覚えにくい)状況であると推定した場合には、基本モードを実行してスイッチング効率を高めることができる。すなわち、発電機10の動作に起因する騒音が問題とならない状況において拡散モードが実行される事態(損失が増大する事態)を抑制することができる。
【0063】
したがって、車両の走行状態とは独立して運転点(T,N)が定められる発電機10に適用されるスイッチング制御であっても、ノイズ抑制を優先すべきシーンと効率を優先すべきシーンを好適に切り分けることができ、騒音によって車両利用者Oに与える不快感の軽減及び燃費の悪化抑制の双方の適切なバランスを実現することができる。
【0064】
さらに、上記騒音認識度示唆量は、停車時における車両利用者Oの降車可能性を示唆する降車可能性パラメータ(シフト位置信号Ssh及びpb状態信号Spb)を含む。そして、降車可能性パラメータに基づいて、降車可能性があると判断した場合には、騒音に対する認識度が高いと推定する(ステップS110及びステップS120の何れかがYes)。
【0065】
これにより、降車可能性パラメータを参照して、車室Cin内にいる車両利用者Oが車外に出て騒音源である発電機10に近づく状況(車両利用者Oが騒音に対して不快感を覚え得る状況)を特定した上で、当該状況を認識度が高い状況と推定することができる。このため、当該状況においてはより確実に拡散モードが実行されることとなる。
【0066】
より詳細には、降車可能性パラメータは、車両において選択されているシフト位置、及び/又は車両のパーキングブレーキのオン/オフを含む。そして、シフト位置が車両の走行駆動源(駆動モータ12)と駆動輪の間の駆動力伝達を遮断する伝達遮断レンジ(Pレンジ又はNレンジ)に選択されている場合、及び/又はパーキングブレーキがオンである場合には、降車可能性があると判断する。
【0067】
これにより、より具体的な降車可能性パラメータの態様が実現される。特に、シフト位置が伝達遮断レンジに選択されている場合、又はパーキングブレーキがオンの場合は、車両の停車時であって且つ車両利用者Oの降車可能性が高くなる状況(駐車時などの一定時間以上の停車状況)と強く相関する。このため、かかる場合を車両利用者Oの騒音に対する認識度が高い状況と推定することで、制御モードの決定精度をより向上させることができる。
【0068】
また、上記騒音認識度示唆量は、車両の走行に起因する車室Cin内の暗騒音の大きさを示唆する暗騒音パラメータと、車室Cin内への騒音に対する伝達の遮蔽性を示唆する第1遮蔽性パラメータと、をさらに含む。そして、降車可能性パラメータに基づいて降車可能性が無いと判断した場合(ステップS110及びステップS120が何れもNoである場合)には、暗騒音パラメータ及び第1遮蔽性パラメータに基づいて、騒音に対する認識度の高低を推定する。
【0069】
これにより、上記降車可能性パラメータに基づいて降車可能性が無いと判断したことを前提として、車両の走行時における車室Cin内における車両利用者Oの騒音に対する認識度の高低を推定する観点からより好ましいパラメータの態様が提供される。すなわち、降車可能性が無いと判断した場合には、暗騒音パラメータ及び第1遮蔽性パラメータを通じて、車両の走行に起因する暗音の大きさ、及び騒音が車室Cin内にどの程度伝わるのかという観点により、騒音に対する認識度の高低を推定することが可能となる。
【0070】
より詳細には、上記暗騒音パラメータは、車速vを含む。また、第1遮蔽性パラメータは、車両の窓62の開閉状態(開閉状態信号Swi )を含む。そして、車速vが所定の車速閾値vth以下であり且つ窓が開放されている場合に、認識度が高いと推定する(ステップS130のYes及びステップS140のYes)。一方、そうでない場合(ステップS130のNo又はステップS140のNo)には、認識度が低いと推定する。
【0071】
これにより、より具体的な暗騒音パラメータ及び第1遮蔽性パラメータの態様が実現される。車速vの大きさは走行に起因する暗騒音(走行ノイズや風切り音など)の大きさと相関する。このため、車速vを暗騒音パラメータとして用いることで、車室Cin内の暗騒音の大きさを適切に推定することができる。また、窓62の開閉状態は、騒音源である発電機10と車室Cin内との間の騒音伝達の物理的な遮蔽性に相関する。このため、開閉状態信号Swi を第1遮蔽性パラメータとして用いることで、車室Cin内に伝達される騒音の実質的な大きさを適切にすることができる。
【0072】
したがって、上記のように降車可能性が無いことを前提としたシーン(走行開始直前又は走行中)においても、適切に認識度が高い状況と低い状況を判別することができる。結果として、当該シーンにおいても、拡散モードを実行すべき状況(発電機10の動作に起因するノイズを抑制すべき状況)と基本モードを実行すべき状況の切り分けをより適切に行うことができる。
【0073】
また、本実施形態では、発電機10の出力トルク(発電機トルクT)が所定の閾値トルクTg_th未満の場合には、上記騒音認識度示唆量に基づく認識度の高低の推定結果にかかわらず、基本モードを実行する(ステップS150のNo及びステップS160)。
【0074】
これにより、そもそも、発電機10の動作により生じる騒音のレベルが問題とならない程度に小さいシーンにおいて拡散モードが実行される事態の発生を抑制することができる。したがって、拡散モードを実行すべきシーンをより限定することができ(基本モードを実行する機会を増やすことができ)、さらなる燃費悪化の抑制効果を得ることができる。
【0075】
なお、本実施形態における拡散モードでは、発電機10に印加すべき電圧の値として演算する電圧指令値V の制御周期tの2倍と略一致する第1周波数としての基本周波数F0と、第1周波数の整数倍の第2周波数である拡散周波数F1と、を交互に設定する。
【0076】
これにより、キャリア周波数fの切り替えのタイミングと電圧指令値V の更新のタイミングの差(位相差)の変化を抑制し、搬送波と電圧指令値V とを好適に同期させることができる。したがって、第1スイッチング装置14において、キャリア周波数切り替え時のトルク精度の低下やトルクリプルの発生を抑制することができる。
【0077】
さらに、本実施形態では、発電機10及び発電機10の発電電力で動作する走行用の駆動モータ12を備える車両に搭載され、発電機10の電力を調節するPWM制御に用いる搬送波のキャリア周波数fc1を調節するスイッチング制御装置として機能するコントローラ50が提供される。
【0078】
特に、コントローラ50は、キャリア周波数fc1を所定の基本値(基本周波数F0)に維持する基本モード、及び該キャリア周波数fc1を所定の切り替え周期で変化させる拡散モードの何れかを搬送波の制御モードとして設定する設定部と、発電機10の動作で生じる騒音に対する車両利用者Oの認識度の高低に相関する車両状況を示唆する騒音認識度示唆量(Ssh,Spb,v,Swin)を取得する取得部と、制御モード決定部と、を有する。そして、制御モード決定部は、騒音認識度示唆量に基づいて上記認識度が高いと推定される場合(ステップS110及びステップS120の何れかがYes、又はステップS130及びステップS140の双方がYesである場合)には、拡散モードを実行する(ステップS170)。一方、上記認識度が低いと推定される場合(ステップS110及びステップS120の双方がNo、且つステップS130及びステップS140の何れかがNoである場合)には、基本モードを実行する(ステップS160)。
【0079】
これにより、本実施形態のスイッチング制御方法を実行するために好適な制御装置の構成が実現されることとなる。
【0080】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。特に、本実施形態では、騒音認識度示唆量として、インバータ13と車外領域Coutとの間の騒音伝達の遮蔽性の高さを示唆する第2遮蔽性パラメータを用いる例を説明する。
【0081】
図5は、本実施形態における実行決定処理を説明するフローチャートである。
【0082】
図示のように、ステップS210において、エンジンフード64の開閉状態を示す信号を参照して、エンジンフード64が開放されているか否かを判定する。なお、エンジンフード64の開閉状態は図示しない公知のセンサ類により検出することができる。
【0083】
ここで、ステップS210の判定は、車両の停車時を想定して、インバータ13から車外領域Coutとの間の騒音伝達の遮蔽性が、車外領域Coutの車両利用者Oおける認識度の高低を切り分けるための基準以上であるか否かを推定する趣旨で実行される。すなわち、本実施形態では、エンジンフード64の開閉情報を示す信号が、上述した第2遮蔽性パラメータとして用いられる。特に、このエンジンフード64の開閉情報を示す信号は、インバータ13から車外領域Coutへの騒音伝達に対する遮蔽性の高低を推定するための適切な指標として機能する。
【0084】
図6は、エンジンフード64の開閉情報と車外領域Coutにおける騒音の認識度との関係を説明する図である。
【0085】
図示のように、エンジンフード64が開放している場合には、車外領域CoutとエンジンルームER内の電動機ユニットMUとの間において騒音伝達を遮蔽する遮蔽物が実質的に無くなる。すなわち、図6に示す状態では、車両利用者Oに発電機10の作動により生じる騒音がエンジンフード64を介さず、ダイレクトに伝わることとなる。したがって、当該状態は、車外領域Coutにいる車両利用者Oにとって、エンジンフード64が開放している状態は閉塞している状態と比べて上記騒音に対する認識度の高い状態であると言える。すなわち、エンジンフード64の開閉状態は、車外領域Coutにおける騒音の認識度の高低に適切に相関する。
【0086】
以上説明した本実施形態のスイッチング制御方法では、騒音認識度示唆量は、電動機ユニットMU(発電機10)と車両の外部領域(車外領域Cout)との間の騒音の伝達に対する遮蔽性を示唆する第2遮蔽性パラメータを含む。そして、第2遮蔽性パラメータに基づいて遮蔽性が一定以下であると判断した場合には、騒音に対する認識度が高いと推定する(ステップS210のYes)。
【0087】
これにより、車外領域Coutにおける車両利用者Oの騒音に対する認識度の高低を推定する観点からより好ましいパラメータの態様が提供される。特に、第2遮蔽性パラメータを通じて、車外領域Coutにおける車両利用者Oが聴取する実質的な騒音の大きさがどの程度であるという観点により、騒音に対する認識度の高低を推定することが可能となる。
【0088】
より詳細には、上記第2遮蔽性パラメータは、発電機10及び第1スイッチング装置14が収容される車体内部の収容空間(エンジンルームER)を外部領域(車外領域Cout)に対して開閉する開閉部材(エンジンフード64)の開閉状態を含む。
【0089】
これにより、上記第2遮蔽性パラメータとして、車両利用者Oが車外領域Coutに位置することを前提として、騒音源である電動機ユニットMUと車外領域Coutの騒音伝達の程度(車両利用者Oが聴取する騒音の実質的な大きさ)に好適に相関する具体的な第2遮蔽性パラメータの一態様が実現される。特に、通常、エンジンフード64が開放している状態は、停車時が前提であって且つ車両利用者Oが何らかの作業や確認を行うべく車外領域Coutに位置する蓋然性が生じる状況である。
【0090】
このため、エンジンフード64の開閉状態を参照すれば、車両が停止しているか否か、車両利用者Oが車外領域Coutに位置するか否か、及び電動機ユニットMUと車外領域Coutの騒音伝達に対する遮蔽性の高低などを把握するための個別のパラメータの設定を省略することができる。すなわち、第2遮蔽性パラメータをエンジンフード64の開閉状態とすることで、簡素な制御ロジックによって、車両利用者Oの騒音に対する認識度の高低を推定することが可能となる。
【0091】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記各実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0092】
例えば、発電機10の作動状態を監視して、当該発電機10が作動している場合に実行決定処理を実行し、発電機10が動作していない場合には、実行決定処理を実行せずに、制御モードを基本モードに維持する構成を採用しても良い。また、車両利用者Oの騒音に対する認識度が高いと推定された場合(ステップS110及びステップS120の何れかがYes、又はステップS130及びステップS140の双方がYesである場合)を前提として、発電機10の作動状態を確認し、当該作動時にのみ拡散モードを実行する構成を採用しても良い。何れの制御構成によっても、ノイズ抑制の要求が低いシーン(発電機10の作動に起因する騒音のレベルが低いシーン)において、拡散モードが実行されることによる損失の増大(燃費の悪化)をより確実に抑制することができる。
【0093】
さらに、騒音に対する認識度の高低の推定にあたり、騒音認識度示唆量として機能する複数のパラメータを用い、当該各パラメータによる個別の認識度の高低の推定結果又はその組み合わせに応じて、発電機トルクTと比較すべく閾値トルクTg_th(ステップS150)を変化させる構成を採用しても良い。
【0094】
より具体的に、本願の出願当初における明細書の開示範囲には、
騒音認識度示唆量として機能する複数のパラメータ(シフト位置、パーキングブレーキのオン/オフ、車速v、窓の開閉、及び/又はエンジンフード64の開閉)に基づいて認識度が高いと推定されると、発電機トルクTと所定の閾値トルクTg_thとの大小比較を行い、
発電機トルクTが閾値トルクTg_th以上である場合には拡散モードを実行し、
発電機トルクTが閾値トルクTg_th未満である場合には認識度が高いと推定されていても基本モードを実行するスイッチング制御方法であって、
閾値トルクTg_thを各パラメータによる個別の認識度の高低の推定結果又はその組み合わせに応じて変化させるスイッチング制御方法も含まれる。
【0095】
これにより、例えば、各パラメータによる個別の認識度の高低を参照することで、同じく認識度が高いと推定される状況であっても、その中でも相対的に認識度が高い状況と相対的に認識度が低い状況とを切り分け、閾値トルクTg_thを増減させることができる。特に、相対的に認識度が高い状況では、閾値トルクTg_thを小さくすることで上記ステップS150の判定において基本モードが実行され難くして、騒音抑制を優先させることができる。逆に、相対的に認識度が低い状況では、閾値トルクTg_thを大きくすることで基本モードが実行され易くして、燃費を優先させることができる。
【0096】
例えば、走行中に窓の開閉に基づいて騒音に対する認識度が高いと推定される第1のシーン(ステップS140のYes)は、停車中に車両利用者Oがエンジンフード64を開放して騒音源に近づく第2のシーン(ステップS210のYes)と比べて騒音に対する認識度が相対的に低い状態と推測される。したがって、窓の開閉という第1のパラメータに基づいて認識度が高いと推定される第1のシーンよりも、エンジンフード64の開閉という第2のパラメータに基づいて認識度が高いと推定される第2のシーンにおいて閾値トルクTg_thを相対的に小さく設定することで、より好ましい騒音抑制と燃費の双方のバランスを実現することができる。
【0097】
また、騒音認識度示唆量の具体的な態様は、上記実施形態で説明したものに限られない。すなわち、騒音認識度示唆量としては、発電機10の動作に起因する騒音に対する車両利用者Oの認識度の高低に相関し得る車両状況の示唆量として機能する限りにおいて、任意のパラメータを採用することができる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6