(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】フラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/68 20060101AFI20241217BHJP
B01J 31/04 20060101ALI20241217BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C07D307/68
B01J31/04 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2024076436
(22)【出願日】2024-05-09
【審査請求日】2024-06-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 裕稀
(72)【発明者】
【氏名】松浦 由実
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/242152(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/242149(WO,A1)
【文献】特開2003-286221(JP,A)
【文献】特表2013-507359(JP,A)
【文献】米国特許第09321714(US,B1)
【文献】太田 暢人 他,“p-トリル酸およびp-キシレンの液相空気酸化における金属ハロゲン化触媒”,工業化学雑誌,1962年,第65巻, 第9号,pp. 1353-1357,DOI: 10.1246/nikkashi1898.65.9_1353
【文献】BAN, H. et al.,“Production of 2,5-Furandicarboxylic Acid by Optimization of Oxidation of 5-Methyl Furfuralover Homogeneous Co/Mn/Br Catalysts”,ACS Sustainable Chemistry & Engineering,2020年,Vol. 8, No. 21,pp. 8011-8023,DOI:10.1021/acssuschemeng.0c02574
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/00
B01J 31/00
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物及び金属触媒の存在下、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを、下記供給条件1又は下記供給条件2で反応容器に連続的に供給し、酸化反応を行う酸化工程1、及び酸化工程1の後に、酸素含有ガスの酸素濃度及び5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比のうち、少なくとも1つが酸化工程1より大きい供給条件で、前記反応容器に5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを連続的に供給し酸化反応を行う酸化工程2を含
み、前記臭素化合物が、臭化水素及び臭化物塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記金属触媒が、コバルト触媒及びマンガン触媒からなる群より選択される少なくとも1種である、フラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
供給条件1:酸素含有ガスの酸素濃度が10容量%以上15容量%未満、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が2.5~4.2
供給条件2:酸素含有ガスの酸素濃度が15~30容量%、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が1.0以上2.5未満
【請求項2】
酸化工程1の供給条件が供給条件1であり、酸化工程2の酸素含有ガスの酸素濃度が酸化工程1の酸素含有ガスの酸素濃度より5容量%以上大きいか、酸化工程1の供給条件が供給条件2であり、酸化工程2の5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が酸化工程1の5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比より1.5以上大きい、請求項1に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【請求項3】
酸化工程2の5-メチルフルフラールと酸素含有ガスの前記供給条件が、下記供給条件3である、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
供給条件3:酸素含有ガスの酸素濃度が15~30容量%、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が2.5~4.2
【請求項4】
酸化工程1の5-メチルフルフラールと酸素含有ガスの前記供給条件が、下記供給条件4である、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
供給条件4:酸素含有ガスの酸素濃度(容量)と、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比の積が、0.3~0.5
【請求項5】
酸化工程1における酸素含有ガスの供給時の酸素分圧が、0.05~0.2MPaである、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【請求項6】
酸化工程1の反応温度が、130~180℃である、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【請求項7】
酸化工程1における反応温度と酸素含有ガス供給時の酸素分圧が、下記条件5又は下記条件6である、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
条件5:反応温度が130℃以上160℃未満、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.10~0.2MPa
条件6:反応温度が160~180℃、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.05MPa以上0.10MPa未満
【請求項8】
酸化工程2における酸素含有ガス供給時の酸素分圧が、0.05~0.2MPaである、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【請求項9】
酸化工程2の反応温度が、130~180℃である、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【請求項10】
酸化工程2における反応温度と酸素含有ガス供給時の酸素分圧が、下記条件7又は下記条件8である、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
条件7:反応温度が130℃以上160℃未満、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.15~0.2MPa
条件8:反応温度が160~180℃、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.11MPa以上0.15MPa未満
【請求項11】
酸化工程1の反応時間が、3~200分間である、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【請求項12】
前記金属触媒が、コバルトの脂肪族カルボン酸塩及びマンガンの脂肪族カルボン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【請求項13】
前記低級脂肪族カルボン酸が、酢酸である、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【請求項14】
前記臭素化合物が、臭化水素、臭化ナトリウム、臭化カリウム及び臭化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【請求項15】
酸化工程1における酸素含有ガスに含有される酸素以外のガスが、窒素を95容量%以上含有する、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【請求項16】
酸化工程2における酸素含有ガスに含有される酸素以外のガスが、窒素を95容量%以上含有する、請求項1又は2に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラン-2,5-ジカルボン酸(FDCA)は、ポリエチレンフラノエート等の樹脂、塗料、繊維等の原料又は中間体として非常に有用な化合物である。
特にフラン-2,5-ジカルボン酸は、バイオマス原料であるセルロースから誘導されるフルフラール化合物から合成できるため、化石原料を代替するバイオマス由来の樹脂原料、繊維原料として有用である。
前記フルフラール化合物として、たとえば、5-ヒドロキシメチルフルフラールや5-メチルフルフラールといった5-置換フルフラールが挙げられる。これらのうち、5-メチルフルフラールは、グルコースやフルクトース等の可食原料からなる糖類から製造される5-ヒドロキシメチルフルフラールとは異なり、セルロースなどの非可食原料からも製造することが出来るため、環境への影響を低減できるバイオマス原料として期待されている。
【0003】
フラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法として、5-置換フルフラールを酸化する方法が行われている。なかでも、空気等の酸素含有ガスを用いた液相酸化による製造方法が開発されている。
たとえば、特許文献1には、臭素を含み、コバルト及びマンガンベースの酸化触媒の存在下、140~200℃、1~10バールの酸素分圧で、5-ヒドロキシメチルフルフラールとそのエステル等をフラン-2,5-ジカルボン酸へ酸化する方法が開示されている。
特許文献2には、FDCAの選択性と収率を向上させることを目的とした方法として、5-(アセトキシメチル)-2-フロ酸等である第一化合物と、5-置換フルフラール等である第二化合物を含むフラン組成物を触媒存在下、酸化させるフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法が開示されている。
また、特許文献3には、FDCAを高収率で得ることを目的とした方法として、コバルト、マンガン、臭素を含む触媒と、酢酸存在下、5-メチルフルフラールと酸化ガスと、更にアルコキシメチル-2,5-フルフラールを供給して、150~210℃で酸化し、粗生成物から固体の2,5-フランジカルボン酸を分離する、2,5-フランジカルボン酸の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2013-507359号公報
【文献】米国特許第9321744号明細書
【文献】国際公開第2023/242152号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2には、5-メチルフルフラールを原料としたFDCAの製造法が記載されている。しかし、FDCA収率は39.94~46.25%と低収率にとどまっている。
また、特許文献3には、アルコキシメチルフルフラールと5-メチルフルフラールの混合物を原料として用い、また、その比較例2~4には5-メチルフルフラールのみを原料として用いて、酸化剤(酸化ガス)として酸素濃度8%に希釈した空気を用いたFDCAの製造方法が記載されている。しかし、主たる酸化ガスとして酸素濃度が8%のガスを用いた場合には、工業的に生産する上でガスの回収や酸素濃度を低減するために使用する窒素のコストなど、工業的な課題が多い。また、基質であるフルフラール化合物に対する空気量に関する記載も無いため、特許文献3に記載の条件で、工業的に有利な空気のみで反応を行った場合には、オフガス酸素濃度の上昇を抑制することが出来ない。更に酸素転化率を上昇させてオフガス酸素濃度を抑制するために、空気供給量を低減しても、反応収率が悪化するという課題がある。
そのため、工業的にも安全でフラン-2,5-ジカルボン酸を高収率で得る方法が求められていた。
そこで、本発明は、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸が得られ、転化率にも優れ、工業的にも安全性の高い、フラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを特定の条件で供給する2つの酸化工程を有する方法によることで、前記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、下記の[1]~[16]に関する。
[1]低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物及び金属触媒の存在下、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを、下記供給条件1又は下記供給条件2で反応容器に連続的に供給し、酸化反応を行う酸化工程1、及び酸化工程1の後に、酸素含有ガスの酸素濃度及び5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比のうち、少なくとも1つが酸化工程1より大きい供給条件で、前記反応容器に5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを連続的に供給し酸化反応を行う酸化工程2を含む、フラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
供給条件1:酸素含有ガスの酸素濃度が10容量%以上15容量%未満、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が2.5~4.2
供給条件2:酸素含有ガスの酸素濃度が15~30容量%、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が1.0以上2.5未満
[2]酸化工程1の供給条件が供給条件1であり、酸化工程2の酸素含有ガスの酸素濃度が酸化工程1の酸素含有ガスの酸素濃度より5容量%以上大きいか、酸化工程1の供給条件が供給条件2であり、酸化工程2の5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が酸化工程1の5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比より1.5以上大きい、上記[1]に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
[3]酸化工程2の5-メチルフルフラールと酸素含有ガスの前記供給条件が、下記供給条件3である、上記[1]又は[2]に記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
供給条件3:酸素含有ガスの酸素濃度が15~30容量%、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が2.5~4.2
[4]酸化工程1の5-メチルフルフラールと酸素含有ガスの前記供給条件が、下記供給条件4である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
供給条件4:酸素含有ガスの酸素濃度(容量)と、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比の積が、0.3~0.4
[5]酸化工程1における酸素含有ガス供給時の酸素分圧が、0.05~0.2MPaである、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
[6]酸化工程1の反応温度が、130~180℃である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
[7]酸化工程1における反応温度と酸素含有ガス供給時の酸素分圧が、下記条件5又は下記条件6である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
条件5:反応温度が130℃以上160℃未満、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.10~0.2MPa
条件6:反応温度が160~180℃、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.05MPa以上0.10MPa未満
[8]酸化工程2における酸素含有ガス供給時の酸素分圧が、0.05~0.2MPaである、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
[9]酸化工程2の反応温度が、130~180℃である、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
[10]酸化工程2における反応温度と酸素含有ガス供給時の酸素分圧が、下記条件7又は下記条件8である、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
条件7:反応温度が130℃以上160℃未満、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.15~0.2MPa
条件8:反応温度が160~180℃、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.11MPa以上0.15MPa未満
[11]酸化工程1の反応時間が、3~200分間である、上記[1]~[10]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
[12]前記金属触媒が、コバルト触媒、マンガン触媒、ジルコニウム触媒、ニッケル触媒、及びセリウム触媒からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[1]~[11]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
[13]前記低級脂肪族カルボン酸が、酢酸である、上記[1]~[12]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
[14]前記臭素化合物が、臭化水素、臭化物塩及び有機臭素化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[1]~[13]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
[15]酸化工程1における酸素含有ガスに含有される酸素以外のガスが、窒素を95容量%以上含有する、上記[1]~[14]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
[16]酸化工程2における酸素含有ガスに含有される酸素以外のガスが、窒素を95容量%以上含有する、上記[1]~[15]のいずれか1つに記載のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸が得られ、転化率にも優れ、工業的にも安全性の高い、フラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法は、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物及び金属触媒の存在下、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを、下記供給条件1又は下記供給条件2で反応容器に連続的に供給し、酸化反応を行う酸化工程1、及び酸化工程1の後に、酸素含有ガスの酸素濃度及び5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比のうち、少なくとも1つが酸化工程1より大きい供給条件で、前記反応容器に5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを連続的に供給し酸化反応を行う酸化工程2を含む。
供給条件1:酸素含有ガスの酸素濃度が10容量%以上15容量%未満、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が2.5~4.2
供給条件2:酸素含有ガスの酸素濃度が15~30容量%、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が1.0以上2.5未満
以下に本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0009】
[酸化工程1]
本発明のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法においては、まず、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物及び金属触媒の存在下、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを、下記供給条件1又は下記供給条件2で反応容器に連続的に供給し、酸化反応を行う酸化工程1を行う。
供給条件1:酸素含有ガスの酸素濃度が10容量%以上15容量%未満、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が2.5~4.2
供給条件2:酸素含有ガスの酸素濃度が15~30容量%、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が1.0以上2.5未満
【0010】
なお、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物及び金属触媒は、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する前に、予め反応容器に収容することが好ましく、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物及び金属触媒が収容された反応容器に、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを、供給条件1又は供給条件2で連続的に供給することが好ましい。
予め反応容器に収容される低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物及び金属触媒の量は、反応容器の形状、容積等に応じて適宜調整すればよいが、本工程における酸化反応を円滑に開始することができるように、5-メチルフルフラール及び酸素含有ガスと十分に混合でき、初期の反応温度を目的の温度に調節できる量とすることが好ましい。
【0011】
また、本工程で供給する5-メチルフルフラールに、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物及び金属触媒を混合して供給することが好ましい。つまり、5-メチルフルフラール、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物、金属触媒及び酸素含有ガスを、供給条件1又は供給条件2で連続的に供給することが好ましい。
更に、酸化工程1の後に行う酸化工程2において、連続的に供給される5-メチルフルフラールにも、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物及び金属触媒を混合することが好ましい。つまり、酸化工程2は、酸化工程1の後に、前記反応容器に5-メチルフルフラール、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物、金属触媒及び酸素含有ガスを連続的に供給し酸化反応を行う工程であることが好ましい。
【0012】
低級脂肪族カルボン酸の量、臭素化合物の量及び金属触媒の量は、本製造方法で使用する全5-メチルフルフラールに対して定めることが好ましく、酸化工程2を連続して長期間行う場合には、連続して供給される5-メチルフルフラールに対して、以下に示す各成分の好ましい比率(量)と同様の比率(量)となるように、5-メチルフルフラールに混合して反応容器に供給することが好ましい。
【0013】
<低級脂肪族カルボン酸>
本製造方法で用いられる低級脂肪族カルボン酸は、好ましくは炭素数1~4の脂肪族カルボン酸であり、より好ましくは炭素数2~3の脂肪族カルボン酸であり、更に好ましくは炭素数2の脂肪族カルボン酸である。
具体的な低級脂肪族カルボン酸としては、好ましくは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸からなる群より選択される少なくとも1種であり、より好ましくは、酢酸及びプロピオン酸からなる群より選択される少なくとも1種であり、更に好ましくは酢酸である。酢酸を用いる場合には、後述の水と酢酸を混合して予め混合液を調製して用いてもよいし、酢酸のみを用いてもよい。臭素化合物及び金属触媒を溶解しやすくする観点から、水と酢酸の混合液である含水酢酸として用いることが好ましい。
上記の低級脂肪族カルボン酸を用いることで、触媒の活性を高めることができるため、好ましい。
【0014】
本製造方法に用いられる低級脂肪族カルボン酸の量は、全5-メチルフルフラール100質量部に対し、好ましくは100~1500質量部であり、より好ましくは200~800質量部であり、更に好ましくは300~700質量部であり、より更に好ましくは400~600質量部である。
低級脂肪族カルボン酸の量を上記の範囲とすることで、本工程及び続く酸化工程2において適切な粘性に調整することができるため、取り扱いが容易になる。また反応熱を制御することも可能となる。
なお、「全5-メチルフルフラール」とは、「酸化工程1から酸化工程2終了時までに反応容器に導入され、酸化反応に用いられる全ての5-メチルフルフラール」のことをいう。以下同様である。
低級脂肪族カルボン酸は1種でもよく、2種以上を用いてもよい。
【0015】
<臭素化合物>
本製造方法で用いられる臭素化合物は、好ましくは臭化水素、臭化物塩、及び有機臭素化合物が挙げられ、より好ましくは臭化水素及び臭化物塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、更に好ましくは臭化水素である。
臭化水素は、水溶液として用いることが好ましい。
具体的な臭化物塩としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム等が挙げられる。
【0016】
本製造方法に用いられる臭素化合物の量は、臭素換算で、全5-メチルフルフラール100質量部に対し、好ましくは1.0~6.0質量部であり、より好ましくは1.5~5.5質量部であり、更に好ましくは2.0~4.5質量部であり、より更に好ましくは3.0~3.5質量部である。
臭素化合物の量を上記の範囲とすることで反応容器等の腐食を抑制しつつ、本工程及び続く酸化工程2での反応速度が向上し、収率が向上するため、好ましい。
臭素化合物は1種でもよく、2種以上を用いてもよい。
【0017】
<金属触媒>
本製造方法で用いられる金属触媒は、好ましくは遷移金属触媒及び希土類金属触媒からなる群より選択される少なくとも1種であり、より好ましくは遷移金属触媒である。
具体的な遷移金属触媒としては、好ましくは、コバルト触媒、マンガン触媒、ジルコニウム触媒、ニッケル触媒、及びセリウム触媒からなる群より選択される少なくとも1種であり、より好ましくは、コバルト触媒、及びマンガン触媒からなる群より選択される少なくとも1種である。コバルト触媒及びマンガン触媒を両方用いることが更に好ましい。
以上のように、本工程で用いられる金属触媒としては、好ましくは、コバルト触媒、マンガン触媒、ジルコニウム触媒、ニッケル触媒、及びセリウム触媒からなる群より選択される少なくとも1種であり、より好ましくは、コバルト触媒、及びマンガン触媒からなる群より選択される少なくとも1種である。コバルト触媒及びマンガン触媒を両方用いることが更に好ましい。
金属触媒は、塩、金属単体、酸化物、水酸化物等の形態で使用することができるが、本工程で用いられる金属触媒は、好ましくは塩であり、より好ましくは脂肪族カルボン酸塩であり、更に好ましくは、低級脂肪族カルボン酸塩であり、より更に好ましくは、酢酸塩である。なかでも、より更に好ましくは酢酸コバルト及び酢酸マンガンからなる群より選択される少なくとも1種である。
上記の金属触媒を用いることでフラン-2,5-ジカルボン酸を高収率で得られるため、好ましい。
【0018】
本製造方法に用いられる金属触媒の量は、金属元素換算で、酸化反応に原料として使用する全5-メチルフルフラール100質量部に対し、好ましくは0.05~4.0質量部であり、より好ましくは0.1~3.5質量部であり、更に好しくは0.15~3.0質量部であり、より更に好ましくは0.2~2.5質量部である。
金属触媒の量を上記の範囲とすることで、副反応を抑制しつつ、本工程及び続く酸化工程2での反応速度が向上し、収率が向上するため、好ましい。
触媒濃度が前記下限値以上であると反応速度が向上し、収率も向上する。触媒濃度が前記上限値以下であると触媒費が安価となるとともに、反応への悪影響も生じない。
金属触媒は1種でもよく、2種以上を用いてもよい。
本酸化工程1を含む製造方法によって、5-メチルフルフラールを原料として、転化率にも優れ、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸が得られ、更に工業的にも安全性の高い生産ができる理由は定かではないが、次のように考えられる。
本酸化工程1で、特定の温和な条件で5-メチルフルフラールを酸化することにより、5-メチルフルフラールの一部が活性種となり、続く酸化工程2における酸化反応を円滑に進行させることができると考えられる。そのため、酸素の滞留も起きず、排出される気体(オフガス)中の酸素濃度を低く抑えることができ、安全性が高い生産ができるものと考えられる。更に反応中に原料が均等に消費されるため、副反応も抑制され、転化率も優れ、収率も高められるものと考えられる。
【0019】
<水>
本発明の製造方法では、水を用いてもよい。臭素化合物が易溶化するため、水を用いることが好ましい。
本製造方法に用いられる水の量は、酸化反応に原料として使用する全5-メチルフルフラール100質量部に対し、好ましくは10~200質量部であり、より好ましくは10~100質量部であり、更に好ましくは10~50質量部であり、より更に好ましくは10~40質量部である。
水分濃度が前記範囲であると、触媒活性の低下を防ぎつつ、臭素化合物を溶解することができるため、収率を向上させることができる。
【0020】
<酸素含有ガス>
本工程で用いられる酸素含有ガスは、酸素と酸素以外のガスとの混合ガスである。酸素と混合される酸素以外のガスは、好ましくは不活性ガスであり、より好ましくは窒素である。酸化工程1における酸素含有ガスに含有される酸素以外のガスは、窒素を95容量%以上含有することが好ましく、窒素を98容量%以上含有することが好ましい。
窒素と酸素を含有するガスとして、空気が好ましい。
また、酸素濃度を調整するために、酸素ガス、又は酸素濃度の高い酸素含有ガスに窒素等の不活性ガスを混合して用いてもよい。
たとえば、本工程の供給条件1における酸素濃度が10容量%以上15容量%未満のガスは、酸素濃度が20.9容量%の空気に窒素を混合することによって得ることができる。また、本工程の供給条件2における酸素濃度が15~30容量%のガスとして、酸素濃度が20.9容量%である空気をそのまま用いることができる。以上のように、本工程においては、空気及び窒素によって酸素濃度を調整して、酸素含有ガスを得ることが好ましい。酸素含有ガスとして、空気又は空気と窒素の混合ガスを用いることが安全性及び経済性の点から好ましい。
【0021】
<酸化工程1の条件等>
本工程は、前記反応容器に、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを、上記供給条件1又は上記供給条件2で連続的に供給し、酸化反応を行う酸化工程1を行うものである。
【0022】
ここで「5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを連続的に供給する」とは、反応容器中の5-メチルフルフラールの酸化反応と、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスの供給が並行して行われ、酸化反応開始より酸化反応終了までの反応時間中、少なくとも反応時間の50%を超える時間は、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスの供給が行われることをいう。5-メチルフルフラールの供給は、酸化工程1の反応時間に対して、反応時間の60%以上行われることが好ましく、80%以上行われることがより好ましく、90%以上行われることが更に好ましく、100%行われてもよい。酸素含有ガスの供給は、酸化工程1の反応時間に対して、反応時間の60%以上行われることが好ましく、80%以上行われることがより好ましく、90%以上行われることが更に好ましく、100%行われてもよい。
【0023】
上記供給条件1又は上記供給条件2は、比較的温和な条件で酸化反応を生じさせるための条件として適している。このような条件で行うことにより、5-メチルフルフラールの一部を活性種とすることができ、続く酸化工程2における酸化反応を円滑に進行させることができると考えられる。
【0024】
供給条件1は、酸素含有ガスの酸素濃度が10容量%以上15容量%未満であり、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が2.5~4.2である条件である。
供給条件1で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、用いる酸素含有ガスの酸素濃度は、10容量%以上15容量%未満であり、好ましくは10~14容量%であり、より好ましくは10~13容量%であり、更に好ましくは11~13容量%である。酸素含有ガスの酸素濃度が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0025】
供給条件1で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比は、2.5~4.2であり、好ましくは3.0~4.0であり、より好ましくは3.1~3.8であり、更に好ましくは3.2~3.5である。5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
供給条件1は、酸素濃度を低めに設定することによって、工業的に安全に、続く酸化反応のための活性種を調製することができるものと考えられる。
【0026】
供給条件2は、酸素含有ガスの酸素濃度が15~30容量%であり、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が1.0以上2.5未満である条件である。
供給条件2で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、用いる酸素含有ガスの酸素濃度は、15~30容量%であり、好ましくは18~28容量%であり、より好ましくは20~25容量%であり、更に好ましくは20~22容量%である。酸素含有ガスの酸素濃度が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0027】
供給条件2で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比は、1.0以上2.5未満であり、好ましくは1.0~2.3であり、より好ましくは1.3~2.1であり、更に好ましくは1.5~2.0である。5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
供給条件2は、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比を低めに設定することによって、工業的に安全に、続く酸化反応のための活性種を調製することができるものと考えられる。
【0028】
酸化工程1においては、上記供給条件1又は上記供給条件2で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給するが、いずれの供給条件であっても、酸化工程1の5-メチルフルフラールと酸素含有ガスの前記供給条件は、下記供給条件4であることが好ましい。
供給条件4:酸素含有ガスの酸素濃度(容量)と、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比の積が、0.3~0.5
【0029】
酸素含有ガスの酸素濃度(容量)と、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比の積は、好ましくは0.3~0.5であり、より好ましくは0.35~0.45であり、更に好ましくは0.37~0.45であり、より更に好ましくは0.40~0.44である。酸素含有ガスの酸素濃度(容量)と、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比の積が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0030】
酸化工程1においては、上記供給条件1又は上記供給条件2で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給するが、いずれの供給条件であっても、酸化工程1における酸素含有ガス供給時の酸素分圧は、好ましくは0.05~0.2MPaである。
酸化工程1においては、上記供給条件1又は上記供給条件2で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給するが、いずれの供給条件であっても、酸化工程1の反応温度は、好ましくは130~180℃である。
なお、酸素分圧と反応温度には好ましい組合せがある。以下に具体的に示す。
【0031】
酸化工程1においては、上記供給条件1又は上記供給条件2で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給するが、いずれの供給条件であっても、酸化工程1における反応温度と酸素含有ガスの供給時の酸素分圧は、下記条件5又は下記条件6であることが好ましい。
条件5:反応温度が130℃以上160℃未満、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.10~0.2MPa
条件6:反応温度が160~180℃、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.05MPa以上0.10MPa未満
【0032】
条件5は、反応温度が130℃以上160℃未満であり、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.10~0.2MPaである条件である。
条件5で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、反応温度は、好ましくは130℃以上160℃未満であり、より好ましくは135~155℃であり、更に好ましくは140~150℃である。反応温度が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0033】
条件5で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、酸素含有ガス供給時の酸素分圧は、好ましくは0.10~0.2MPaであり、より好ましくは0.12~0.2MPaであり、更に好ましくは0.15~0.2MPaである。酸素分圧が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
条件5は、酸素分圧を低めに設定することによって、工業的に安全に、続く酸化反応のための活性種を調製することができるものと考えられる。
【0034】
条件6は、反応温度が160~180℃であり、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.05MPa以上0.10MPa未満である条件である。
条件6で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、反応温度は、好ましくは160~180℃であり、より好ましくは165~180℃であり、更に好ましくは170~175℃である。反応温度が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0035】
条件6で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、酸素含有ガス供給時の酸素分圧は、好ましくは0.05MPa以上0.10MPa未満であり、より好ましくは0.05~0.09MPaであり、更に好ましくは0.05~0.08MPaである。酸素分圧が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
条件6は、反応温度を低めに設定することによって、工業的に安全に、続く酸化反応のための活性種を調製することができるものと考えられる。
【0036】
酸化工程1の反応時間には特に制限はないが、好ましくは3~200分間であり、より好ましくは3~100分間であり、更に好ましくは3~60分間であり、より更に好ましくは3~30分間であり、より更に好ましくは3~20分間であり、より更に好ましくは3~10分間である。反応時間が上記範囲であることによって、工業的に安全に、続く酸化反応のための活性種を調製することができるものと考えられる。
【0037】
[酸化工程2]
本発明のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法においては、前記酸化工程1の後に、酸素含有ガスの酸素濃度及び5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比のうち、少なくとも1つが酸化工程1より大きい供給条件で、前記反応容器に5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを連続的に供給し酸化反応を行う酸化工程2を含む。
酸化工程2によって、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0038】
酸化工程2において、連続的に供給される5-メチルフルフラールに、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物及び金属触媒を混合することが好ましい。つまり、酸化工程2は、酸化工程1の後に、前記反応容器に5-メチルフルフラール、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物、金属触媒及び酸素含有ガスを連続的に供給し酸化反応を行う工程であることが好ましい。
【0039】
低級脂肪族カルボン酸の量、臭素化合物の量及び金属触媒の量は、本製造方法で使用する全5-メチルフルフラールに対して定めることが好ましく、酸化工程2を連続して長期間行う場合には、連続して供給される5-メチルフルフラールに対して、好ましい比率と同様の比率となるように混合して反応容器に供給することが好ましい。
【0040】
酸化工程1では、比較的温和な条件で5-メチルフルフラールを酸化することによって、5-メチルフルフラールの一部を活性種とすることができると考えられ、続く本工程で、主たる酸化反応を行い、フラン-2,5-ジカルボン酸を得る。そこで、酸化工程2では、酸化工程1と比較して、酸素濃度及び/又は原料に対する酸素のモル比を高めることで、酸化反応を円滑に進行させることができると考えられる。そのため、酸素の滞留も起きず、安全性が高い生産ができるものと考えられる。更に反応中に原料が均等に消費されるため、副反応も抑制され、転化率も優れ、収率も高められるものと考えられる。
【0041】
<酸素含有ガス>
本工程で用いられる酸素含有ガスは、酸化工程1で説明した酸素含有ガスと同様であるが、その酸素濃度は、酸化工程1で用いた酸素含有ガスと同じか、より大きい。
具体的には、本工程で用いられる酸素含有ガスは、酸素と酸素以外のガスとの混合ガスである。酸素と混合される酸素以外のガスは、好ましくは不活性ガスであり、より好ましくは窒素である。酸化工程1における酸素含有ガスに含有される酸素以外のガスは、窒素を95容量%以上含有することが好ましく、窒素を98容量%以上含有することが好ましい。
窒素と酸素を含有するガスとして、空気が好ましい。
また、酸素濃度を調整するために、酸素ガス、又は酸素濃度の高い酸素含有ガスに窒素等の不活性ガスを混合して用いてもよい。
たとえば、酸素濃度が20.9容量%である空気をそのまま用いることができる。本工程においては、空気及び窒素によって酸素濃度を調整して、酸素含有ガスを得ることが好ましい。酸素含有ガスとして、空気又は空気と窒素の混合ガスを用いることが安全性及び経済性の点から好ましい。
【0042】
<酸化工程2の条件等>
本工程は、酸素含有ガスの酸素濃度及び5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比のうち、少なくとも1つが酸化工程1より大きい供給条件で、前記反応容器に5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを連続的に供給し酸化反応を行う工程である。
【0043】
ここで「5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを連続的に供給する」とは、反応容器中の5-メチルフルフラールの酸化反応と、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスの供給が並行して行われ、酸化反応開始より酸化反応終了までの反応時間中、すくなくとも反応時間の50%を超える時間は、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスの供給が行われることをいう。5-メチルフルフラールの供給は、酸化工程2の反応時間に対して、反応時間の60%以上行われることが好ましく、80%以上行われることがより好ましく、90%以上行われることが更に好ましく、100%行われてもよい。酸素含有ガスの供給は、酸化工程2の反応時間に対して、反応時間の60%以上行われることが好ましく、80%以上行われることがより好ましく、90%以上行われることが更に好ましく、100%行われてもよい。
【0044】
酸化工程1の供給条件が、上記供給条件1である場合、酸素濃度が低めに設定されていたため、本工程では酸素濃度を大きくすることが好ましい。また、酸化工程1の供給条件が、上記供給条件2である場合、原料に対する酸素のモル比が低めに設定されていたため、本工程では原料に対する酸素のモル比を大きくすることが好ましい。
たとえば、酸化工程1の供給条件が供給条件1であり、酸化工程2の酸素含有ガスの酸素濃度が酸化工程1の酸素含有ガスの酸素濃度より5容量%以上大きいか、酸化工程1の供給条件が供給条件2であり、酸化工程2の5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が酸化工程1の5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比より1.5以上大きいことが好ましい。
【0045】
酸化工程1の供給条件が供給条件1である場合、酸化工程2の酸素含有ガスの酸素濃度が酸化工程1の酸素含有ガスの酸素濃度より1容量%以上大きいことが好ましく、3容量%以上大きいことが好ましく、5容量%以上大きいことが好ましく、7容量%以上大きいことが好ましく、8容量%以上大きいことが好ましく、上限値としては、酸化工程1の酸素含有ガスの酸素濃度より20容量%以下大きいことが好ましく、15容量%以下大きいことが好ましく、10容量%以下大きいことが好ましい。酸素含有ガスの酸素濃度が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0046】
酸化工程1の供給条件が供給条件2である場合、酸化工程2の5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が酸化工程1の5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比より0.5以上大きいことが好ましく、1.0以上大きいことが好ましく、1.5以上大きいことが好ましく、1.6以上大きいことが好ましく、1.8以上大きいことが好ましく、上限値としては、酸化工程1の5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比より3.0以下大きいことが好ましく、2.5以下大きいことが好ましく、2.0以下大きいことが好ましい。5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0047】
酸化工程1においては、上記供給条件1又は上記供給条件2で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給するが、いずれの供給条件であっても、酸化工程2の5-メチルフルフラールと酸素含有ガスの前記供給条件は、好ましくは下記供給条件3である。
供給条件3:酸素含有ガスの酸素濃度が15~30容量%、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が2.5~4.2
【0048】
供給条件3で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、用いる酸素含有ガスの酸素濃度は、15~30容量%であり、好ましくは18~28容量%であり、より好ましくは20~25容量%であり、更に好ましくは20~22容量%である。酸素含有ガスの酸素濃度が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0049】
供給条件3で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比は、2.5~4.2であり、好ましくは3.0~4.0であり、より好ましくは3.1~3.8であり、更に好ましくは3.2~3.5である。5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0050】
酸化工程2における酸素含有ガス供給時の酸素分圧は、好ましくは0.05~0.2MPaである。
酸化工程2の反応温度は、好ましくは130~180℃である。
なお、酸素分圧と反応温度には好ましい組合せがある。以下に具体的に示す。
【0051】
酸化工程2における反応温度と酸素含有ガスの供給時の酸素分圧は、下記条件7又は下記条件8であることが好ましい。
条件7:反応温度が130℃以上160℃未満、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.15~0.2MPa
条件8:反応温度が160~180℃、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.11MPa以上0.15MPa未満
条件7は、反応温度が130℃以上160℃未満であり、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.10~0.2MPaである条件である。
条件7で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、反応温度は、好ましくは130℃以上160℃未満であり、より好ましくは135~155℃であり、更に好ましくは140~150℃である。反応温度が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0052】
条件7で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、酸素含有ガス供給時の酸素分圧は、好ましくは0.10~0.2MPaであり、より好ましくは0.12~0.2MPaであり、更に好ましくは0.15~0.2MPaである。酸素分圧が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0053】
条件8は、反応温度が160~180℃であり、酸素含有ガス供給時の酸素分圧が0.10~0.2MPaである条件である。
条件6で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、反応温度は、好ましくは160~180℃であり、より好ましくは165~180℃であり、更に好ましくは170~175℃である。反応温度が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0054】
条件8で5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給する場合、酸素含有ガス供給時の酸素分圧は、好ましくは0.11MPa以上0.15MPa未満であり、より好ましくは0.11~0.14MPaであり、更に好ましくは0.11~0.13MPaである。酸素分圧が上記範囲であることによって、工業的に安全性が高く、転化率も高く、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸を得ることができる。
【0055】
酸化工程2の反応時間には特に制限はなく、目的とする量(生産量)のフラン-2,5-ジカルボン酸が得られるまで反応を行えばよい。
特に、酸化反応が円滑に進行している状態であれば、5-メチルフルフラール及び低級脂肪族カルボン酸を長期間にわたり、連続して供給することで、大量のフラン-2,5-ジカルボン酸を効率的に得ることができる。そのため、工業的に好ましい。5-メチルフルフラール、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物、金属触媒及び酸素含有ガスを長期間にわたり、連続して供給することがより好ましい。
また、5-メチルフルフラール及び低級脂肪族カルボン酸を長期間にわたり、連続して供給することに伴い、得られるフラン-2,5-ジカルボン酸を適宜抜き出し、反応系から除去し、回収することがより好ましい。フラン-2,5-ジカルボン酸を抜き出すことで、より長期間の反応を行うことができ、工業的により好ましい。更に得られるフラン-2,5-ジカルボン酸を連続的に抜き出し、反応系から除去し、回収することが更に好ましい。5-メチルフルフラール及び低級脂肪族カルボン酸を連続して供給することと同時に、得られるフラン-2,5-ジカルボン酸を連続的に抜き出し、反応系から除去し、回収することがより更に好ましい。
【0056】
5-メチルフルフラール、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物、金属触媒及び酸素含有ガスを長期間にわたり、連続して供給し、得られるフラン-2,5-ジカルボン酸を抜き出すことがより更に好ましい。5-メチルフルフラール、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物、金属触媒及び酸素含有ガスを長期間にわたり、連続して供給し、得られるフラン-2,5-ジカルボン酸を連続的に抜き出すことがより更に好ましい。そして、5-メチルフルフラール、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物、金属触媒及び酸素含有ガスを長期間にわたり、連続して供給し、同時に得られるフラン-2,5-ジカルボン酸を連続的に抜き出すことがより更に好ましい。
ここで供給される低級脂肪族カルボン酸の量、臭素化合物の量及び金属触媒の量は、本製造方法で使用する全5-メチルフルフラールに対して定めることが好ましく、酸化工程2を連続して長期間行う場合には、連続して供給される5-メチルフルフラールに対して、以下に示す各成分の好ましい比率(量)と同様の比率(量)となるように、5-メチルフルフラールに混合して反応容器に供給することが好ましい。
【0057】
本工程においては、前記酸化工程1を行った反応混合物に対して、前記のように5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを連続的に供給する。好ましくは、前記酸化工程1を行った反応混合物に対して、前記のように5-メチルフルフラール、低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物、金属触媒及び酸素含有ガスを連続的に供給する。
本工程に用いられる前記各成分は、酸化工程1で使用したものをそのまま用いることが簡便であり、好ましい。
【0058】
[その他の工程]
本発明のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法においては、前記酸化工程1及び前記酸化工程2以外に任意の工程を有していてもよい。
本発明のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法に含まれる任意の工程としては、溶媒除去工程、精製工程等が挙げられる。
【0059】
溶媒除去工程は、本製造方法の目的物であるフラン-2,5-ジカルボン酸を含む生成物から、沸点の低い溶媒である低級脂肪族カルボン酸及び水を除去する工程である。次の精製工程によって、酸化反応で生じた副生成物や原料である5-メチルフルフラールを除去する前にこれら溶媒を除去しておくことで、続く精製工程を効率よく行うことができる。
溶媒除去工程では、溶媒を効率よく除去するために、減圧して溶媒を加熱蒸留して除去してもよいし、常圧で溶媒を加熱蒸留してもよい。また、次に述べる精製工程で溶媒を除去してもよい。
【0060】
精製工程は、目的物であるフラン-2,5-ジカルボン酸を高純度で分離回収することができれば、いかなる方法であってもよく、たとえば再沈殿、再結晶等を行うことができる。
また、酸化反応で副生する着色成分を除去するために水素添加を行ってもよい。
【実施例】
【0061】
以下に示す実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0062】
[評価]
<出口酸素濃度>
出口酸素濃度は、以下のようにして求めた。
装置:株式会社島津製作所製 ポータブル酸素計:POT-101
測定方法:オートクレーブのガス排出管を前記酸素計につなぎ込み、リアルタイムで出口酸素濃度を測定し、下記の基準で評価した。
なお、出口酸素濃度が、溶媒である酢酸の爆発限界である10容量%以下であることが、工業的に製造する際の安全性から好ましく、出口酸素濃度が、低いほど、安全性の面から反応条件の自由度が高まるため、好ましい。実施例及び比較例においては、急激な濃度の変動によっても上記爆発限界に到達しない濃度として8容量%を基準として評価した。
出口酸素濃度が8容量%を超えた比較例については、表1に、出口酸素濃度が8容量%を超えた時点として、酸化反応を開始してからの時間(分)を示した。
(評価基準)
〇:酸化反応中、常に出口酸素濃度が8容量%以下であった。
×:酸化反応中に出口酸素濃度が8容量%を超えた。
【0063】
<5-メチルフルフラール転化率>
酸化工程2後の酸化反応生成物に含まれる5-メチルフルフラールの量(モル)を、ガスクロマトグラフィーを用いた内標法(内標:トリフェニルメタン)により算出し、原料中の5-メチルフルフラール量(モル)から減じて、消費した5-メチルフルフラール量(モル)を求めた。
転化率は、前記の消費した5-メチルフルフラールの量と原料中の5-メチルフルフラールの量から下記式によって求めた。なお、転化率とは、原料転化率である。
5-メチルフルフラール転化率(%)=(消費した5-メチルフルフラールの量(モル))/(原料中の5-メチルフルフラールの量(モル))×100
5-メチルフルフラール転化率が高いほど、原料を生成物であるフラン-2,5-ジカルボン酸に効率よく変換させることができ、好ましい。
【0064】
<フラン-2,5-ジカルボン酸収率>
酸化工程2後の酸化反応生成物に含まれるフラン-2,5-ジカルボン酸の量(生成したフラン-2,5-ジカルボン酸の量)(モル)を、ガスクロマトグラフィーを用いた内標法(内標:トリフェニルメタン)により算出した。
フラン-2,5-ジカルボン酸選択率は、前記の生成したフラン-2,5-ジカルボン酸の量と原料中の5-メチルフルフラールの量(消費した5-メチルフルフラールの量)から下記式によって求めた。
フラン-2,5-ジカルボン酸選択率(%)=(生成したフラン-2,5-ジカルボン酸の量(モル))/(消費した5-メチルフルフラールの量(モル))×100
なお、フラン-2,5-ジカルボン酸収率は、前記転化率とフラン-2,5-ジカルボン酸選択率の積によって算出される値である。フラン-2,5-ジカルボン酸選択率及びフラン-2,5-ジカルボン酸収率が高いほど、高純度のフラン-2,5-ジカルボン酸を効率よく得ることができ、好ましい。
【0065】
<高分子量物の量>
オートクレーブのガス排出管をポータブルガス濃度測定装置(CGT-7100、株式会社島津製作所製)につなぎ込み、排出される炭素含有ガス(一酸化炭素及び二酸化炭素)の量を測定した。前記炭素含有ガスの量の測定値から、炭素含有ガスの炭素量を算出した。また、計算により原料の5-メチルフルフラールの炭素量と生成物中のフラン-2,5-ジカルボン酸の炭素量を求めた。
下記式により得られた割合を、生成物のうちの高分子量物の量とした。なお、下記炭素量は全てモル換算である。高分子量物の量が少ないほど、得られるフラン-2,5-ジカルボン酸の純度に優れ、好ましい。
高分子量物の量(モル%)=(原料の5-メチルフルフラールの炭素量-前記炭素含有ガスの炭素量-生成物中のフラン-2,5-ジカルボン酸の炭素量)/(原料の5-メチルフルフラールの炭素量)×100
【0066】
実施例1(フラン-2,5-ジカルボン酸の製造)
(1.酸化工程1)
コバルト金属原子濃度、マンガン金属原子濃度、臭素イオン濃度、酢酸濃度、水濃度が表1に示した値となるように、酢酸コバルト4水塩、酢酸マンガン4水塩、48質量%臭化水素水溶液、氷酢酸、水を混合し、触媒液を得た。
還流冷却器付きのガス排出管、ガス吹き込み管、原料連続送液ポンプ及び撹拌器を有する内容積500mLのチタン製オートクレーブに、前記触媒液を120g仕込み、窒素雰囲気下、温度140℃、圧力1.0MPaに昇温、昇圧した。
次に、前記触媒液と5-メチルフルフラールを質量比で触媒液/5-メチルフルフラール=13/5(72/28)の比率で混合し、原料液を得た。
原料液の反応器内への供給と、窒素で希釈した空気(酸素濃度12容量%)の反応器内への供給を同時に開始し、原料液と窒素で希釈した空気を42分間、連続的に供給し、酸化工程1を行った。酸化工程1における条件を表1に示す。5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比は、前記原料液に含まれる5-メチルフルフラールの量と、前記原料液と同時に供給される酸素含有ガス中の酸素の量から算出される値である。なお、酸素分圧は前記酸素含有ガスの酸素濃度と酢酸の蒸気圧から算出される値である。
【0067】
(2.酸化工程2)
酸化工程1終了後、窒素で希釈した空気(酸素濃度12容量%)にかえて、空気(酸素濃度20.9容量%)を用い、表1に示す条件で酸化工程2を行い、フラン-2,5-ジカルボン酸を含む生成物を得た。原料液と空気を129分間、連続的に供給した。なお、酸化工程1及び酸化工程2の間、出口酸素濃度が8容量%を超えることはなかった。得られた生成物の5-メチルフルフラール転化率、フラン-2,5-ジカルボン酸収率、高分子量物の量の結果を表1に示す。なお、最終的に供給された5-メチルフルフラールの量を「5-メチルフルフラール全量」として表1に示した。
【0068】
実施例2~3及び比較例1~7(フラン-2,5-ジカルボン酸の製造)
酸化工程の条件を表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、フラン-2,5-ジカルボン酸を含む生成物を得た。いずれも原料液と、空気又は窒素で希釈した空気を連続的に供給した。
実施例3は、酸化工程2の前半35分間は5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が3.4となるように供給を行い、その後空気の供給量を増やし、後半122分間は5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が4.0となるように供給を行った。比較例1~4及び6は、酸化工程の最初から最後まで単一の条件で行った。得られた生成物の5-メチルフルフラール転化率、フラン-2,5-ジカルボン酸収率、高分子量物の量の結果を表1に示す。
【0069】
【0070】
表1に示すように、実施例の製造方法によれば、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸が得られ、原料である5-メチルフルフラールからの転化率にも優れることがわかる。更に出口酸素濃度(オフガス中の酸素濃度)を抑制しつつ酸化反応を実施することができることがわかる。
したがって、本発明のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法によれば、高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸が得られ、転化率にも優れることがわかる。また、本発明のフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法は、工業的にも安全性が高いことがわかる。
【要約】
【課題】高収率でフラン-2,5-ジカルボン酸が得られ、転化率にも優れ、工業的にも安全性の高い、フラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】低級脂肪族カルボン酸、臭素化合物及び金属触媒の存在下、5-メチルフルフラールと酸素含有ガスを供給条件1又は2で連続的に供給し酸化反応を行う酸化工程1、及びその後に、酸素含有ガスの酸素濃度及び/又は5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が酸化工程1より大きい条件で供給し酸化反応を行う酸化工程2を含むフラン-2,5-ジカルボン酸の製造方法。供給条件1は酸素含有ガスの酸素濃度が10容量%以上15容量%未満、5-メチルフルフラールに対する酸素含有ガス中の酸素のモル比が2.5~4.2である。供給条件2は前記酸素濃度が15~30容量%、前記モル比が1.0以上2.5未満である。
【選択図】なし