(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法、及び金型の設計方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20241217BHJP
B21D 22/00 20060101ALI20241217BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20241217BHJP
B21D 5/01 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/00
B21D22/20 E
B21D22/26 D
B21D5/01 D
(21)【出願番号】P 2024515032
(86)(22)【出願日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2023042940
【審査請求日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2023021681
(32)【優先日】2023-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】飛田 隼佑
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/235152(WO,A1)
【文献】特開2023-016092(JP,A)
【文献】国際公開第2020/144995(WO,A1)
【文献】特開2004-195535(JP,A)
【文献】特許第5664810(JP,B1)
【文献】特開2011-206789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 22/00
B21D 22/20
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板部と上記天板部の幅方向端部に接続し該天板部とは異なる方向に延在する縦壁部とを有する断面を有し、上記断面に交差する方向である長手方向に沿って湾曲する湾曲部を1又は2以上有する目標部品形状に、金属板を成形するプレス成形品の製造方法であって、
上記断面における天板部と縦壁部の間の角度を縦壁角度と定義したとき、
上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい第1の縦壁角度の成形面を有する金型を用いて、金属板を上記天板部及び上記縦壁部を有する中間部品にプレス成形する第1の工程と、
上記中間部品を、上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度以上の第2の縦壁角度の成形面を有する金型でプレス成形する第2の工程と、を備え、
上記湾曲部となる位置において、上記第1の工程での離型後の上記中間部品での縦壁角度について、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい角度を有するように、上記第1の縦壁角度を設定
し、
上記湾曲部は、上記縦壁部の側へ凹若しくは凸となる湾曲を有し、
上記目標部品形状での縦壁角度をθ0、上記第1の縦壁角度をθ1、上記第1の工程で成形し離型後の上記中間部品での縦壁角度をθ1′、上記第2の縦壁角度をθ2、と定義した場合に、
上記第1の縦壁角度θ1と上記第2の縦壁角度θ2について、下記(1)式を満たす成形面を有する金型を用いてプレス成形を行う、
プレス成形品の製造方法。
θ1 < θ1′ < θ0 < θ2 ・・・(1)
【請求項2】
天板部と上記天板部の幅方向端部に接続し該天板部とは異なる方向に延在する縦壁部とを有する断面を有し、上記断面に交差する方向である長手方向に沿って湾曲する湾曲部を1又は2以上有する目標部品形状に、金属板を成形するプレス成形品の製造方法であって、
上記断面における天板部と縦壁部の間の角度を縦壁角度と定義したとき、
上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい第1の縦壁角度の成形面を有する金型を用いて、金属板を上記天板部及び上記縦壁部を有する中間部品にプレス成形する第1の工程と、
上記中間部品を、上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度以上の第2の縦壁角度の成形面を有する金型でプレス成形する第2の工程と、を備え、
上記湾曲部となる位置において、上記第1の工程での離型後の上記中間部品での縦壁角度について、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい角度を有するように、上記第1の縦壁角度を設定し、
上記湾曲部は、上記縦壁部の側へ凹若しくは凸となる湾曲を有し、
上記第1の縦壁角度をθ1、上記第2の縦壁角度をθ2と定義した場合に、
下記(2)式を満たすように、上記第1の縦壁角度θ1と上記第2の縦壁角度θ2を設定する、
プレス成形品の製造方法。
0.7 ≦ (θ1/θ2) ・・・(2)
【請求項3】
天板部と上記天板部の幅方向端部に接続し該天板部とは異なる方向に延在する縦壁部とを有する断面を有し、上記断面に交差する方向である長手方向に沿って湾曲する湾曲部を1又は2以上有する目標部品形状に、金属板を成形するプレス成形品の製造方法であって、
上記断面における天板部と縦壁部の間の角度を縦壁角度と定義したとき、
上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい第1の縦壁角度の成形面を有する金型を用いて、金属板を上記天板部及び上記縦壁部を有する中間部品にプレス成形する第1の工程と、
上記中間部品を、上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度以上の第2の縦壁角度の成形面を有する金型でプレス成形する第2の工程と、を備え、
上記湾曲部となる位置において、上記第1の工程での離型後の上記中間部品での縦壁角度について、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい角度を有するように、上記第1の縦壁角度を設定し、
上記湾曲部は、上記縦壁部の側へ凹若しくは凸となる湾曲を有し、
上記目標部品形状での縦壁角度をθ0、上記第1の縦壁角度をθ1と定義した場合に、
下記(3)式を満たす値となるように、上記第1の縦壁角度θ1を設定する、
プレス成形品の製造方法。
0.75 ≦ (θ1/θ0) ・・・(3)
【請求項4】
天板部と上記天板部の幅方向端部に接続し該天板部とは異なる方向に延在する縦壁部とを有する断面を有し、上記断面に交差する方向である長手方向に沿って湾曲する湾曲部を1又は2以上有する目標部品形状に、金属板を成形するプレス成形品の製造方法であって、
上記断面における天板部と縦壁部の間の角度を縦壁角度と定義したとき、
上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい第1の縦壁角度の成形面を有する金型を用いて、金属板を上記天板部及び上記縦壁部を有する中間部品にプレス成形する第1の工程と、
上記中間部品を、上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度以上の第2の縦壁角度の成形面を有する金型でプレス成形する第2の工程と、を備え、
上記湾曲部となる位置において、上記第1の工程での離型後の上記中間部品での縦壁角度について、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい角度を有するように、上記第1の縦壁角度を設定し、
上記湾曲部は、上記縦壁部の側へ凹若しくは凸となる湾曲を有し、
上記第2の縦壁角度をθ2、上記第1の工程で成形し離型後の上記中間部品での縦壁角度をθ1′と定義した場合に、
下記(4)式を満たす値となるように、上記第2の縦壁角度θ2を設定する、
プレス成形品の製造方法。
0.8 ≦ (θ1′/θ2) ・・・(4)
【請求項5】
天板部と上記天板部の幅方向端部に接続し該天板部とは異なる方向に延在する縦壁部とを有する断面を有し、上記断面に交差する方向である長手方向に沿って湾曲する湾曲部を1又は2以上有する目標部品形状に、金属板を成形するプレス成形品の製造方法であって、
上記断面における天板部と縦壁部の間の角度を縦壁角度と定義したとき、
上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい第1の縦壁角度の成形面を有する金型を用いて、金属板を上記天板部及び上記縦壁部を有する中間部品にプレス成形する第1の工程と、
上記中間部品を、上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度以上の第2の縦壁角度の成形面を有する金型でプレス成形する第2の工程と、を備え、
上記湾曲部となる位置において、上記第1の工程での離型後の上記中間部品での縦壁角度について、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい角度を有するように、上記第1の縦壁角度を設定し、
上記湾曲部は、上記縦壁部の側へ凹若しくは凸となる湾曲を有し、
上記目標部品形状での縦壁角度をθ0、上記第2の縦壁角度をθ2と定義した場合に、
下記(5)式を満たす値となるように、上記第2の縦壁角度θ2の値を設定する、
プレス成形品の製造方法。
(θ2/θ0) < 1.05 ・・・・(5)
【請求項6】
天板部と上記天板部の幅方向端部に接続し該天板部とは異なる方向に延在する縦壁部とを有する断面を有し、上記断面に交差する方向である長手方向に沿って湾曲する湾曲部を1又は2以上有する目標部品形状に、金属板を成形するプレス成形品の製造方法であって、
上記断面における天板部と縦壁部の間の角度を縦壁角度と定義したとき、
上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい第1の縦壁角度の成形面を有する金型を用いて、金属板を上記天板部及び上記縦壁部を有する中間部品にプレス成形する第1の工程と、
上記中間部品を、上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度以上の第2の縦壁角度の成形面を有する金型でプレス成形する第2の工程と、を備え、
上記湾曲部となる位置において、上記第1の工程での離型後の上記中間部品での縦壁角度について、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい角度を有するように、上記第1の縦壁角度を設定し、
上記湾曲部は、上記縦壁部の側へ凹若しくは凸となる湾曲を有し、
上記湾曲部が、上記縦壁部側へ凸となるように湾曲した目標部品形状を対象とし、
上記第2の工程のプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上面視で凸となる上記縦壁部の縦壁下半分のひずみの平均値をε2と定義し、
上記第1の工程のプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上面視で凸となる上記縦壁部の縦壁下半分のひずみの平均値をε1と定義した場合に、
下記(6)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度及び上記第2の縦壁角度を設定する、
プレス成形品の製造方法。
0.4×|ε1| ≦ |ε2| < 0.85×|ε1| ・・・(6)
【請求項7】
天板部と上記天板部の幅方向端部に接続し該天板部とは異なる方向に延在する縦壁部とを有する断面を有し、上記断面に交差する方向である長手方向に沿って湾曲する湾曲部を1又は2以上有する目標部品形状に、金属板を成形するプレス成形品の製造方法であって、
上記断面における天板部と縦壁部の間の角度を縦壁角度と定義したとき、
上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい第1の縦壁角度の成形面を有する金型を用いて、金属板を上記天板部及び上記縦壁部を有する中間部品にプレス成形する第1の工程と、
上記中間部品を、上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度以上の第2の縦壁角度の成形面を有する金型でプレス成形する第2の工程と、を備え、
上記湾曲部となる位置において、上記第1の工程での離型後の上記中間部品での縦壁角度について、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい角度を有するように、上記第1の縦壁角度を設定し、
上記湾曲部は、上記縦壁部の側へ凹若しくは凸となる湾曲を有し、
上記湾曲部が、上記縦壁部側へ凹となるように湾曲した目標部品形状を対象とし、
上記第2の工程のプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上面視で凹となる上記縦壁部の縦壁下半分のひずみの平均値をε2′と定義し、
上記第1の工程のプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上面視で凹となる上記縦壁部の縦壁下半分のひずみの平均値をε1′と定義した場合に、
下記(7)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度及び上記第2の縦壁角度を設定する、
プレス成形品の製造方法。
0.4×|ε1′| ≦ |ε2′| < 0.85×|ε1′| ・・・(7)
【請求項8】
天板部と上記天板部の幅方向端部に接続し該天板部とは異なる方向に延在する縦壁部とを有する断面を有し、上記断面に交差する方向である長手方向に沿って湾曲する湾曲部を1又は2以上有する目標部品形状に、金属板を成形するプレス成形品の製造方法であって、
上記断面における天板部と縦壁部の間の角度を縦壁角度と定義したとき、
上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい第1の縦壁角度の成形面を有する金型を用いて、金属板を上記天板部及び上記縦壁部を有する中間部品にプレス成形する第1の工程と、
上記中間部品を、上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度以上の第2の縦壁角度の成形面を有する金型でプレス成形する第2の工程と、を備え、
上記湾曲部となる位置において、上記第1の工程での離型後の上記中間部品での縦壁角度について、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい角度を有するように、上記第1の縦壁角度を設定し、
上記湾曲部は、上記天板部側へ凹若しくは凸となる湾曲を有する、
プレス成形品の製造方法。
【請求項9】
上記目標部品形状での縦壁角度をθ0、上記第1の縦壁角度をθ1、上記第1の工程で成形し離型後の上記中間部品での縦壁角度をθ1′、上記第2の縦壁角度をθ2、と定義した場合に、
上記第1の縦壁角度θ1と上記第2の縦壁角度θ2について、下記(1)式を満たす成形面を有する金型を用いてプレス成形を行う、
請求項
8に記載したプレス成形品の製造方法。
θ1 < θ1′ < θ0 < θ2 ・・・(1)
【請求項10】
上記第2の工程のプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上記天板部のひずみの平均値の絶対値をεt2と定義し、
上記第1の工程のプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上記天板部ひずみの平均値の絶対値をεt1と定義した場合に、
下記(8)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度及び上記第2の縦壁角度を設定する、
請求項
8又は請求項
9に記載したプレス成形品の製造方法。
0.4×εt1 ≦ εt2 < 0.9×εt1 ・・・(8)
【請求項11】
上記断面が、コ字形状、若しくはフランジ部を有するハット形状であり、
上記第2の工程のプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上記断面がコ字形状の場合は、縦壁部の下半分のひずみの平均値の絶対値をεb2と定義し、上記断面がフランジ部を有するハット形状の場合は、上記フランジ部のひずみの平均値の絶対値をεb2と定義し、
上記第1の工程のプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上記断面がコ字形状の場合は、縦壁部の下半分のひずみの平均値の絶対値をεb1と定義し、上記断面がフランジ部を有するハット形状の場合は、上記フランジ部のひずみの平均値の絶対値をεb1と定義した場合に、
下記(9)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度及び上記第2の縦壁角度を設定する、
請求項
8又は請求項
9に記載したプレス成形品の製造方法。
0.4×εb1 ≦ εb2 < 0.9×εb1 ・・・(9)
【請求項12】
上記第2の工程で用いる金型は、上型と下型のうちの一方を構成するダイと、上型と下型のうちの他方を構成するパンチとを備え、
上記第2の工程において、ダイの天板成形面とパンチの天板成形面から伸ばしたパッドとによって、中間部品の天板部を挟んだ状態で、プレス成形を行う、
請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載したプレス成形品の製造方法。
【請求項13】
請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載したプレス成形品の製造方法で使用する金型の設計方法であって、
上記第1の工程と第2の工程の各金型の縦壁角度を設計するにあたり、
まず第1の工程の金型の縦壁角度を製品の縦壁角度より小さい値でCAE解析若しくは実プレスを行って、第1の工程のスプリングバック後の縦壁角度が製品の縦壁角度より小さくなる条件を見出して、上記第1の縦壁角度を設定し、
その後、第2の工程に対して、目標部品形状の縦壁角度以上となる縦壁角度の成形面を有する金型形状でCAE解析若しくは実プレスを行って、第2の工程のスプリングバック後の部品形状が上記目標部品形状における縦壁角度とねじれの許容範囲を満たす条件を見出して、上記第2の縦壁角度を設定する、
金型の設計方法。
【請求項14】
請求項
8~請求項
9のいずれか1項に記載したプレス成形品の製造方法で使用する金型の設計方法であって、
上記第1の工程と第2の工程の各金型の縦壁角度を設計するにあたり、
まず第1の工程の金型の縦壁角度を製品の縦壁角度より小さい値でCAE解析若しくは実プレスを行って、第1の工程のスプリングバック後の縦壁角度が製品の縦壁角度より小さくなる条件を見出して、上記第1の縦壁角度を設定し、
その後、第2の工程に対して、目標部品形状の縦壁角度以上となる縦壁角度の成形面を有する金型形状でCAE解析若しくは実プレスを行って、第2の工程のスプリングバック後の部品形状が上記目標部品形状における縦壁角度の許容範囲を満たす条件を見出して、上記第2の縦壁角度を設定する、
金型の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形品の製造方法、及びその製造に使用する金型の設計方法に関する。本発明は、天板部と縦壁部とを有して断面の形状がコ字形状、L字形状、ハット形状などとなっている目標部品形状の部品を、プレス加工で製造する技術に関する。また、上記の目標部品形状は、上記断面に交差する方向である長手方向に沿って湾曲した湾曲部を1又は2以上有する形状となっている。
本明細書では、上記の湾曲部が上面視で縦壁部側へ凹若しくは凸となるように湾曲した目標部品形状を、「左右湾曲形状」とも呼ぶ。また、上記の湾曲部が天板部側へ凹若しくは凸となるように湾曲した目標部品形状を、「上下湾曲形状」とも呼ぶ。
【0002】
なお、目標部品形状が「左右湾曲形状」で、かつ天板部の幅方向左右両側に縦壁部を有する断面形状の場合、目標部品形状は次のような形状となっている。すなわち、湾曲部において、左右の縦壁部のうち、一方の縦壁部側が上面視で凹であれば、他方の縦壁部側が上面視で凸となっている。ただし、左右の縦壁部の縦壁角度が同じである必要は無い。
ここで、断面形状における、天板部と縦壁部の間の角度を縦壁角度と呼ぶ。なお、金型においては、成形面(金型形状)のうち、天板部を成形する天板成形面と、縦壁部を成形する縦壁成形面との間の角度(肩部の角度)が、縦壁角度となる。なお、縦壁角度は、180度未満の、曲げ内側での角度とする。
【背景技術】
【0003】
近年、自動車車体の衝突安全性向上と軽量化を両立させるために、車体構造部品への590MPa以上のハイテン材の適用が進んでいる。更に、近年、車体構造部品への980MPa以上の超ハイテン材の適用が進んでいる。ハイテン材や超ハイテン材は、降伏強度や引張強度が高い。このため、ハイテン材や超ハイテン材を車体構造部品の材料とした場合、プレス成形を行う上で、スプリングバックなどの成形不良が課題となる。
【0004】
車体構造部品に用いられるプレス成形品の一つとして、次の形状の部品が挙げられる。その部品は、天板部と縦壁部とが断面方向で連続し、上面視で長手方向の一部が天板部の幅方向に湾曲した断面形状となっている。発明者は、このような部品をプレス成形した場合、成形下死点において、縦壁部の湾曲外側(凸側)に圧縮応力、縦壁部の湾曲内側(凹側)に引張応力が発生する、との知見を得た。そして、発明者は、これらの応力により、離型後の部品にねじれを含むスプリングバックが発生する、との知見を得た。特に、部品の材料として超ハイテン材を適用した場合には、成形下死点での応力が大きくなり、スプリングバックが増加するといった課題が発生する。
【0005】
また、発明者は、目標部品形状が上下湾曲形状の部品においても、成形下死点において、天板部に引張応力、フランジ部に圧縮応力が発生し、これらの応力により離型後の部品にキャンバーバックを含むスプリングバックが発生する、という知見を得た。このため、目標部品形状が上下湾曲形状の部品においても、同様な知見を得た。そして、目標部品形状が上下湾曲形状の部品においても、同様な課題がある。
更に、超ハイテン材は、その材料を量産する際の強度変動も相対的に大きくなる。すなわち、超ハイテン材は、コイル間(製造ロット間)で材料強度が変動しやすい。そのため、超ハイテン材を用いた場合、スプリングバック量が変化して部品の寸法精度が特に変動しやすいといった課題もある。
【0006】
従来のプレス成形方法としては、例えば特許文献1~4に記載の技術がある。
特許文献1に記載のプレス成形方法では、素材板を長手方向に沿ってカーブした折り曲げ線で折り曲げる。その折り曲げの際に、所望の曲げ角度よりもオーバーベンドした後、所望の曲げ角度まで曲げ戻す。特許文献1には、これによって、ねじれ要因応力を0にし、ねじれを抑制すると記載されている。
【0007】
特許文献2に記載のプレス成形方法は、長手方向に湾曲する部品を成形する方法である。その際に、特許文献2では、縮みフランジ変形を受ける部位が、長手方向の線長が目標部品形状の線長よりも短くなるように成形する。また、特許文献2では、伸びフランジ変形を受ける部位が、長手方向の線長が目標部品形状の線長よりも長くなるように成形する。その成形後、特許文献2では、目標部品形状に成形する。この方法によって、特許文献2には、ねじれ要因応力を低減し、ねじれを低減すると記載されている。
【0008】
特許文献3に記載のプレス成形方法は、長手方向に湾曲した天板部と、天板部の長手方向に沿った両端から湾曲内側に向かって延在する二つの縦壁部とを有する成形品を対象とする。そして、特許文献3には、前工程の天板部の曲率と天板部と縦壁部とがなす角度を変更することが開示されている。これによって、特許文献3には、後工程で発生する応力を低減し、スプリングバックを抑制すると記載されている。
【0009】
また、特許文献4では、天板部とフランジ部が縦壁部を介して幅方向で連続していると共に、天板部とフランジ部が長手方向に沿って側面視で上下方向に湾曲したハット形断面を有する製品形状を対象とする。そして、特許文献4には、前工程で製品形状より小さい曲率半径に成形し、後工程で製品形状より大きい曲率半径に成形する。これによって、特許文献4では、後工程で発生する応力を低減し、スプリングバックを抑制すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2004-195535号公報
【文献】特許第5664810号公報
【文献】特開2011-206789号公報
【文献】特開2019-25533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載のプレス成形方法は、曲げ戻した後のねじれ要因応力を0にすることを目標としている。しかし、超ハイテン材で顕著な材料強度変動が発生した場合、材料強度が変化することでねじれ量が変化する。このため、製品の寸法許容公差に入らない可能性がある。また、特許文献1に記載の方法では、金型構造が非常に複雑となる。そのため、超ハイテン材を成形する場合に、金型が剛性不足になるおそれがある。このため、特許文献1の方法を採用した場合、設備の補修や修繕のコストが大きくなる可能性がある。
更に、対象としている上面視で左右に湾曲部を有する部品は、プレス成形でねじれと縦壁の角度変化が同時に発生するおそれがある。しかし、特許文献1では、目標となる製品の縦壁角度にするための方法が考慮されていない。
【0012】
また、特許文献2に記載のプレス成形方法は、縦壁部の一端に連続するフランジ部の無い部品には適用できない。また、特許文献2の方法は、1工程で実施する。このため、特許文献2の方法は、複雑な金型構造になり、生産性が悪い。
また、特許文献3に記載のプレス成形方法では、後工程の成形で、縦壁部がたるむような成形になる。このため、成形途中の板の挙動が不安定となる。このような理由から、特許文献3の方法では、量産で、安定した寸法精度を達成することが難しいおそれがある。
また、特許文献4に記載のプレス成形方法では、天板部とフランジ部それぞれの前工程での曲率半径を変更する。このため、フランジ部の無いコの字型断面の部品には適用できない。また、フランジ部を有する断面ハット形状の部品を対象とする場合も、プレス成形される部品の前工程の湾曲形状と後工程での金型の湾曲形状が異なることになる。このため、前工程成形品を後工程の金型に正しくセットできないおそれがある。
【0013】
本発明は、上記のような点に着目してなされたものである。本発明は、ハイテン材や超ハイテン材を使用した場合でも、簡単な金型構造で、ねじれやキャンバーバックあるいは縦壁角度の変化を低減することを目的の一つとする。また、材料強度変動が発生した場合の寸法精度変動を大きく低減することを目的の一つとする。また、本発明は、目標の部品形状(目標部品形状)に近い高精度な部品を得ることができる形状凍結性及び材料強度感受性に優れたプレス成形方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
課題解決のために、本発明の一態様は、天板部と上記天板部の幅方向端部に接続し該天板部とは異なる方向に延在する縦壁部とを有する断面を有し、上記断面に交差する方向である長手方向に沿って湾曲する湾曲部を1又は2以上有する目標部品形状に、金属板を成形するプレス成形品の製造方法であって、上記断面における天板部と縦壁部の間の角度を縦壁角度と定義したとき、上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい第1の縦壁角度の成形面を有する金型を用いて、金属板を上記天板部及び上記縦壁部を有する中間部品にプレス成形する第1の工程と、上記中間部品を、上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度以上の第2の縦壁角度の成形面を有する金型でプレス成形する第2の工程と、を備え、上記湾曲部となる位置において、上記第1の工程での離型後の上記中間部品での縦壁角度について、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい角度を有するように、上記第1の縦壁角度を設定する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の態様では、少なくとも湾曲部となる部分に対し、第1の工程で、目標部品形状のプレス成形品よりも縦壁角度が小さい中間部品を製造する。更に、少なくとも湾曲部となる部分に対し、第2の工程では、プレス成形品の縦壁角度以上の金型で、中間部品に対しプレス成形を行う。
これによって、本発明の態様によれば、例えば、目標部品形状が「左右湾曲形状」となるプレス成形品の製造の場合、第2の工程で湾曲部の縦壁に発生する応力を反転かつ低減させることが可能となる。
また、本発明の態様によれば、目標部品形状が「上下湾曲形状」となるプレス成形品の製造の場合も、プレス成形でのスプリングバックを低減し、プレス成形品の寸法精度を向上させることができる。
また、本発明の態様によれば、金型の縦壁角度を調整して対応するため、簡単な金型構造で実行することができる。
【0016】
以上のことから、本発明の態様によれば、材料として590MPa以上のハイテン材や980MPa以上の超ハイテン材を使用した場合でも、次のような効果を奏する。すなわち、「左右湾曲形状」となるプレス成形品の製造において、目標部品形状に対する、ねじれ若しくはキャンバーバックと縦壁角度の変化を好適に低減することが可能となる。
また、本発明の態様によれば、「左右湾曲形状」となるプレス成形品及び「上下湾曲形状」となるプレス成形品の両方を製造する場合において、材料強度が変化した場合でも、寸法精度の高い部品が得られる。このため、本発明の態様によれば、量産時における、歩留りの向上に繋がるようにすることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に基づく第1実施形態に係るプレス成形品の形状を示す図である。(a)は上面視の図、(b)は鳥瞰図、(c)は、(a)のX-X断面の図である。
【
図2】本発明に基づく第1実施形態に係るプレスの工程を示す図である。
【
図3】第1実施形態における、第1の工程の金型によるプレスを説明する模式図である。
【
図4】第1の工程の金型を説明する模式的断面図である。
【
図5】第1実施形態における、第2の工程の金型によるプレスを説明する模式図である。(a)は、プレスの際の、パンチ(下型)、パッド、中間部品の関係を示す図、(b)は、パンチ(下型)とダイ(上型)の関係を示す図である。
【
図6】第2の工程の金型と中間部品の関係を説明する模式的断面図である。
【
図8】比較の成形方法の課題を説明する図である。(a)は、製造したプレス成形品を、(b)は、そのA-A′断面図を示す。
【
図9】比較の成形方法での、プレス下死点での長手方向応力の分布を示す図である。(a)は、縦壁凸側からの図、(b)は縦壁凹側からの図である。
【
図10】比較の成形方法での、寸法精度変動を説明するための、プレス成形による応力-ひずみの関係を示す図である。
【
図11】第1の工程後の応力分布の例を示す図である。(a)は、縦壁凸側からの図、(b)は縦壁凹側からの図である。
【
図12】第2の工程後の応力分布の例を示す図である。(a)は、縦壁凸側からの図、(b)は縦壁凹側からの図である。
【
図13】本発明に基づく第1実施形態に係る、寸法精度変動を説明するための、プレス成形による応力-ひずみの関係を示す図である。
【
図14】第1の工程後のひずみ分布の例を示す図である。(a)は、縦壁凸側からの図、(b)は縦壁凹側からの図である。
【
図15】第2の工程後のひずみ分布の例を示す図である。(a)は、縦壁凸側からの図、(b)は縦壁凹側からの図である。
【
図16】ねじれ量と(θ1/θ2)の関係を示す図である。
【
図17】ねじれ量と(θ1/θ0)の関係を示す図である。
【
図18】ねじれ量と(θ1′/θ2)の関係を示す図である。
【
図19】ねじれ量と|ε2/ε1|の関係を示す図である。
【
図20】ねじれ量と|ε2′/ε1′|の関係を示す図である。
【
図21】本発明に基づく第2実施形態に係るプレス成形品の形状を示す図である。(a)は鳥瞰図、(b)は側面図、(c)幅方向の断面図である。
【
図22】第2実施形態における、第1の工程の金型によるプレスを説明する模式図である。
【
図23】第2実施形態における、第2の工程の金型によるプレスを説明する模式図である。(a)は、プレスの際の、パンチ(下型)、パッド、中間部品の関係を示す図、(b)は、パンチ(下型)とダイ(上型)の関係を示す図である。
【
図24】キャンバーバックの発生を説明する側面図である。
【
図25】比較の成形方法での、プレス下死点での長手方向応力の分布を示す図である。
【
図26】比較の成形方法での、寸法精度変動を説明するための、プレス成形による応力-ひずみの関係を示す図である。
【
図27】第2実施形態における、第1の工程及び第2の工程後の断面形状を示す図である。(a)は第1の工程後の断面形状を、(b)は第2の工程後の断面形状を示す。
【
図28】第1の工程後の応力分布の例を示す図である。
【
図29】第2の工程後の応力分布の例を示す図である。
【
図30】本発明に基づく第2実施形態に係る、寸法精度変動を説明するための、プレス成形による応力-ひずみの関係を示す図である。
【
図31】第1の工程後のひずみ分布の例を示す図である。
【
図32】第2の工程後のひずみ分布の例を示す図である。
【
図33】高さ乖離量とεt2/εt1の関係を示す図である。
【
図34】高さ乖離量とεb2/εb1の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態のプレス成形方法等の例を、図を参照しつつ説明する。
「第1実施形態」
(目標部品形状)
本実施形態は、目標部品形状が「左右湾曲形状」の場合を例示する。
本実施形態では、製造する部品(プレス成形品)の目標部品形状1が、
図1に示すように、天板部1Aと、左右両側の縦壁部1Bとを有する断面となっている。左右両側の縦壁部1Bは、それぞれ天板部1Aの幅方向の両端部に接続し、天板部1Aとは異なる方向に延在している。すなわち、本実施形態では、断面の形状が断面コ字形状の場合を例示する。もっとも、本発明は、目標部品形状1の断面が断面ハット形状や断面L字形状であっても適用可能である。ハット形状は、フランジ部を有する形状である。L字形状は、縦壁部1Bが天板部1Aの幅方向一方にのみ存在する形状である。
【0019】
また、本発明は、目標部品形状が「左右湾曲形状」かつ「上下湾曲形状」を有する形状であっても適用可能である。
なお、
図1には、実施例で用いた寸法(単位は[mm]である)も併記されている。しかし、本発明は、この寸法になんら制限を受けるものではない。他の図面についても同様である。
更に、本実施形態の目標部品形状1は、
図1(a)、
図1(b)に示すように、長手方向に沿って、上面視で、一方の縦壁部1B側へ湾曲した湾曲部2を有する形状を例示する。長手方向とは、上記の断面に交差する方向である。本実施形態で例示する目標部品形状1は、長手方向に沿って上面視で、天板部1Aが平らな2つの直線部と、2つの直線部間に介在する湾曲部2とからなるとする。ここで、符号2Aは、湾曲部2における天板部を、符号2Bは湾曲部2における縦壁部(凹側)を示す。
なお、本発明は、長手方向に沿って複数の湾曲部2を有した目標部品形状1も製造対象となる。この場合、隣り合う湾曲部2間に直線部が存在していなくてもよい。
【0020】
図1のように、天板部1Aの左右両側に縦壁部1Bを有する場合、次のような構成となっている。すなわち、1つの湾曲部2における左右2つの縦壁部1Bは、上面視において、一方の縦壁部1B側に凸となっていると同時に、他方の縦壁部1B側に凹となっている。なお、本明細書では、凸となっている縦壁部1B側を、上面視湾曲部2外側又は縦壁凸部とも記載する。また、凹となっている縦壁部1B側を、上面視湾曲部2内側又は縦壁凹部とも記載する。ただし、一方の縦壁部1B側の縦壁角度と他方の縦壁部1B側の縦壁角度とは、同じ角度でも良いし、互いに異なっていても良い。
【0021】
(製造方法)
本実施形態のプレス成形品の製造方法は、金属板3(ブランク材)を上記の目標部品形状1にプレス成形で製造する方法である。本発明は、金属板3の材料が、ハイテン材や超ハイテン材の場合に好適な発明である。ハイテン材は、引張強度が590MPa以上の鋼板である。また、本発明は、軟鋼板やアルミニウム板などの金属板3であっても適用可能である。
本実施形態は、目標部品形状1のプレス成形品を製造する際における、ねじれと縦壁角度変化によるスプリングバック、及び材料の強度変動(強度の違い)に伴う、部品の寸法精度の変動を低減することを目的の一つとする。
本実施形態のプレス成形品の製造方法は、
図2に示すように、第1の工程10Aと第2の工程10Bとを備える。
ここで、上述のように、断面における、天板部1Aと縦壁部1Bの間の角度を縦壁角度と呼ぶ。金型の成形面にあっては、天板部1Aを成形する天板成形面と縦壁部1Bを成形する縦壁成形面との間の角度(肩部の角度)が縦壁角度となる。
【0022】
(第1の工程10A)
第1の工程10Aでは、模式図である
図4のように、上型の金型11及び下型の金型12を用いる。上型の金型11及び下型の金型12の成形面は、目標部品形状1の縦壁角度θ0よりも小さい第1の縦壁角度θ1を有する。そして、第1の工程10Aは、その金型11、12を用いて、目標部品形状1に合わせた幅の天板部及び縦壁を有する中間部品4にプレス成形する工程である。なお、中間部品4には、後工程であるトリミング工程で切断する部分を有していてもよい。
【0023】
第1の工程10Aで使用する金型は、
図3及び
図4に示すように、ダイ11(上型)とパンチ12(下型)とを備える。第1の工程10Aで使用するダイ11とパンチ12の成形面11A、12Aは、少なくとも縦壁角度が目標とする目標部品形状1とは異なる成形面を有する。また第1の工程10Aで使用する金型は、パッド13を備える。パッド13は、パンチ12の天板成形面12Aaに金属板3の天板部1Aとなる部分を抑える金型の構成部品である。符号12Aa、11Aaは、天板成形面を、符号12Ab、11Abは縦壁成形面を示す。
【0024】
すなわち、第1の工程10Aでは、
図3及び
図4のように、パンチ12の天板成形面12Aaとパッド13で金属板3を押さえた状態で、ダイ11とパンチ12でプレスを実行する。
ただし、上述のように、第1の工程10Aで使用する金型11、12の成形面11A、12Aにおける第1の縦壁角度θ1が、目標部品形状1での縦壁角度θ0よりも小さい角度に設定されている。
【0025】
また、第1の縦壁角度θ1は、中間部品4の縦壁角度θ1′に応じて設定する。なお、縦壁角度θ1′は、第1の工程10Aで金属板3をプレス成形して製造し、離型後の中間部品4での縦壁角度である。すなわち、目標部品形状1での縦壁角度θ0よりも小さくなるように、第1の縦壁角度θ1を設定する。そして、中間部品4は、離型後の形状、すなわち、スプリングバック後の中間部品4の形状となる。
この第1の縦壁角度θ1は、例えば、CAE解析や実際のプレスによって評価して設定すれば良い。
なお、左右の縦壁部1B側の縦壁角度毎に個別に、上記のようにして第1の縦壁角度θ1の設定を行う。
【0026】
左右の縦壁部側の縦壁角度のうちの一方の縦壁部1B側だけ、上記のようにして第1の縦壁角度θ1に設定してもよい。この場合、他方の縦壁部1B側の縦壁角度は、目標部品形状1での縦壁角度θ0と等しい角度などに設定しても良い。一方の縦壁部1B側だけを本開示に基づき第1の縦壁角度を設定しても効果を奏する。もっとも、左右の縦壁部1B側の縦壁角度をともに、上記のようにして第1の縦壁角度θ1の設定を行うことが好ましい。
【0027】
(第2の工程10B)
第2の工程10Bでは、第1の工程10Aで製造した中間部品4をプレス成形して、目標部品形状1からなるプレス成形品を製造する工程である。
第2の工程10Bで使用する金型の成形面は、目標部品形状1の縦壁角度θ0以上の角度の第2の縦壁角度θ2を有する。また、第2の工程10Bで使用する金型14、15の成形面は、
図5及び模式図である
図6のように、縦壁角度以外が目標とする目標部品形状1に倣った成形面14A、15Aを有する。その金型14、15は、上型であるダイ14及び下型であるパンチ15である。
【0028】
第2の縦壁角度θ2は、目標部品形状1の縦壁角度θ0よりも大きいことが好ましい。すなわち、第2の工程10Bでは縦壁部1Bを曲げ戻す加工を行う。このため、第2の縦壁角度θ2は、目標部品形状1の縦壁角度θ0よりも大きくなるように、第2の工程10Bの金型の成形面形状を設計することが好ましい。
また、第2の工程10Bで使用する金型は、中間部品4の天板部を押さえるパッド16を備える。
【0029】
ここで、第2の縦壁角度θ2が縦壁角度θ0以上の角度に設定されている。このため、第2の縦壁角度θ2は、中間部品4の縦壁角度θ1′よりも大きい。したがって、第2の工程10Bでの成形の際に、次のような成形方法を採用すると問題がある。すなわち、ダイ14側からパッド16を伸ばして、パッド16とパンチ15で中間部品4の天板部を挟んで成形する場合を考える。この場合、中間部品4をパンチ16にセットする際に、中間部品4がパンチ16の所定の位置に載らずに、不安定な状態で成形されてしまう可能性が大きい、という問題がある。
このため、本実施形態の第2の工程10Bでは、成形前にパンチ15の天板成形面からパッド16を伸ばした状態で、中間部品4をパッド16の上にセットする。その後、パッド16で、ダイ14の天板成形面に中間部品4の天板部を押し付けた状態(
図6(a)参照)とする。その状態で、パッド16とダイ14とで中間部品4をプレス成形する。以上のような動作を、本実施形態の第2の工程10Bの構成とする。
【0030】
(各縦壁角度の相互の関係について)
ここで、目標部品形状1における縦壁角度をθ0と記載する。第1の工程10Aの金型11、12の成形面11A、12Aでの第1の縦壁角度をθ1と記載する。中間部品4における縦壁角度をθ1′と記載する。中間部品4は、第1の工程10Aで成形後、離型してスプリングバック後の角度が第1の縦壁角度θ1′となる。第2の工程10Bの金型14、15の成形面14A、15Aでの第2の縦壁角度をθ2と記載する。なお、本実施形態では、縦壁部1Bは左右に存在するが、左右それぞれについて個別に、以下の条件を満足するようにすることが好ましい。
下記(1)式を満たすように、第1の縦壁角度θ1と第2の縦壁角度θ2を設定することが好ましい。すなわち、第2の工程10Bの金型の第2の縦壁角度θ2は、目標部品形状1での縦壁角度θ0よりも大きく設定することが好ましい。
θ1 < θ1′ < θ0 < θ2 ・・・(1)
なお、第2の縦壁角度θ2は、縦壁角度θ0の1.05倍未満が好ましい。
【0031】
次に、第1の縦壁角度θ1と第2の縦壁角度θ2の設定に関する、好適な条件について説明する。
図16は、
図1に示したプレス成形品のプレス成形に対して、(θ1/θ2)とプレス成形後のねじれ量との関係を調査した結果である。ここで、「○」は、引張強度が980MPa級の鋼板を用いた場合の結果である。「△」は、引張強度が1180MPa級の鋼板を用いた場合の結果である。
なお、
図16における縦軸のねじれ量とは、
図8に示すように、目標部品形状1と金型離型後の形状との差を角度で表した値である。具体的には、長手中央位置で、目標部品形状1の天板部の傾きと、金型離型後の形状の天板部の傾きが一致するように角度合わせを行う。そして、
図8(a)に示す長手端部のAA′断面での天板部の傾き角度を、ねじれ量とした。
【0032】
本実施形態では、良好な形状とする、ねじれ量の目標範囲を±2°以内とする。この場合、
図16から、下記(2)式を満たすように、第1の縦壁角度θ1と第2の縦壁角度θ2の関係を設定することが好ましいことが分かる。
0.7 ≦ (θ1/θ2) ・・・・(2)
ここで、(θ1/θ2)が0.7未満の場合、2工程目(第2の工程10B)で曲げ戻しすぎてしまうおそれがある。曲げ戻しすぎると、逆にスプリングバック量(開きとねじれ)及び材料強度変動起因の寸法精度変動が大きくなる可能性がある。また、(θ1/θ2)は、より効果を得るには0.75以上0.95未満が好ましい。
【0033】
次に、第1の縦壁角度θ1と目標部品形状1での縦壁角度θ0の設定に関する、好適な条件について説明する。
図17は、
図1に示したプレス成形品のプレス成形に対して、(θ1/θ0)とプレス成形後のねじれ量との関係を調査した結果である。
本実施形態では、良好な形状とする、ねじれ量の目標範囲を±2°以内とする。この場合、
図17から、下記(3)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度θ1を設定することが好ましいことが分かる。
0.75 ≦ (θ1/θ0) ・・・・(3)
(θ1/θ0)が0.75未満の場合、θ0に対しθ1が過度に小さくなるため、2工程目(第2の工程10B)で曲げ戻しすぎてしまうおそれがある。曲げ戻しすぎると、逆にスプリングバック量(開きとねじれ)及び材料強度変動起因の寸法精度変動が大きくなる可能性がある。
本願発明では、θ1<θ0とするため、θ1/θ0は1未満となる。また、(θ1/θ0)は、より効果を得るには0.8以上0.97未満が好ましい。
【0034】
次に、第1の工程で離型してスプリングバックした時の縦壁角度θ1’と第2の縦壁角度θ2の設定に関する、好適な条件について説明する。
図18は、
図1に示したプレス成形品のプレス成形に対して、(θ1’/θ2)とプレス成形後のねじれ量との関係を調査した結果である。
本実施形態では、良好な形状とする、ねじれ量の目標範囲を±2°以内とする。この場合、
図18から、下記(4)式を満たす値となるように、第2の縦壁角度θ2を設定することが好ましいことが分かる。
0.8 ≦ (θ1′/θ2) ・・・・(4)
(θ1′/θ2)が0.8未満の場合、θ2に対しθ1′が過度に小さくなる。このため、2工程目(第2の工程10B)で曲げ戻しすぎてしまうおそれがある。曲げ戻しすぎてしまうと、逆にスプリングバック量(開きとねじれ)及び材料強度変動起因の寸法精度変動が大きくなる可能性がある。
本願発明では、θ1’<θ2とするため、θ1’/θ2は1未満となる。また、(θ1′/θ2)は、より効果を得るには0.85以上0.99未満が好ましい。
【0035】
次に、第2の縦壁角度θ2は、下記(5)式を満たす値となるように設定することが好ましい。
1.0 < (θ2/θ0) < 1.05 ・・・・(5)
(θ2/θ0)が1.05を超える場合、2工程目(第2の工程10B)のスプリングバック後に、目標とする目標部品形状1での縦壁角度θ0とすることができない可能性が大きくなる。
ここで、上記の各適正範囲(値)は部品形状や材料強度により変化する場合がある。このため、上述の各縦壁角度の条件は、部品ごとに検討することが好ましい。
また、上記の(1)式~(5)式の条件について、(1)式~(5)式のうちから選択した1又は2以上の式の条件を満足するようにして、各縦壁角度θ1、θ2の範囲を設定しても良い。これらの式は、主に発明者が実施した実施例その他の各検討に基づき設定している。
【0036】
(動作その他)
<比較の成形方法>
ここで、比較の成形方法として、
図7に示すような方法を考える。すなわち、金属板3の天板部1Aとなる面全域をパンチ20とパッド22で挟み込んだ状態とする。その状態で、パンチ20(下型)とダイ21(上型)で金属板3をプレス成形するとする。なお、比較の成形方法では、パンチ20とダイ21の成形面(金型形状)は、目標部品形状1に倣った形状とする。この比較の成形方法は、通常の、パッド付フォーム成形を適用したプレス成形方法である。このとき、目標部品形状1と金型離型後の形状を、長手中央断面の天板の傾きが一致するように位置合わせを実施する。
【0037】
図8(b)は、比較の成形方法による、プレス後の部品の断面形状6を示す。符号6Cは湾曲部を示す。この断面形状(
図8(b)参照)は、
図8(a)に示す上面視における、長手端部でのA-A′断面の形状である。比較の成形方法では、
図8(b)に示すように、スプリングバック前後(離型前後)で、天板部6Aに傾きが発生していた。つまり、比較の成形方法を用いた場合、スプリングバックにより部品がねじれていることが分かる。また、成形された部品の断面での縦壁角度も、スプリングバックにより、金型の縦壁角度よりも大きくなることが分かる。
【0038】
図9に、比較の成形方法での、プレス下死点における板厚中心における長手方向の応力分布を示す。
図9(a)から分かるように、上面視凸側の縦壁部1B側には圧縮応力が広範囲で発生している。また、
図9(b)から分かるように、上面視凹側の縦壁部1Bには引張応力が広範囲で発生している。この状態から、離型後の部品断面のねじれは、金型離型時にこれらの応力が解放されることにより発生すると考えられる。そして、材料強度の増加に伴い、この残留応力が増加し、スプリングバック量が大きくなる。更に、材料強度が高くなると、材料量産時の材料強度変動も相対的に大きくなる。このため、材料強度が高くなると、材料として用いるコイル間で材料強度が相対的に大きく変動する。その結果、スプリングバック量が変化することで発生する、寸法精度の変動課題も発生する。
【0039】
この寸法精度変動について、応力―ひずみ関係模式図で説明する。
図10に、比較の成形方法による成形時における、上面視凹側縦壁の応力とひずみの関係を示す。
図10では、材料強度の変動を想定し、強度高め材と強度低め材の2つの金属板3に対する模式図を示す。比較の成形方法では、プレスで目標部品形状1に成形すると、湾曲部2において、上面視凹側の材料は伸ばされる成形になる。このため、引張応力が発生する。
また、
図10に示すように、材料の強度高め材と強度低め材とで、成形下死点の応力値に差がある。この状態から、金型20、21を離型するとスプリングバックが発生し、その結果、プレスした部品にねじれが発生する。また、これに加えて強度高め材と強度低め材でスプリングバック量が異なることから、寸法精度変動が発生する。そして、材料強度が高くなるほど、この寸法精度変動が大きくなり、製品の寸法公差から外れる。これは、プレス成形時の重要な課題として挙げられる。
また、スプリングバックによる縦壁角度の変化は、主に、パンチ肩の板表裏の応力差を起因として発生する。そして、材料強度の増加に伴いスプリングバック量が大きくなる。更に、縦壁角度のスプリングバックによる変化も、寸法精度変動の課題の原因となる。
【0040】
<本実施形態の成形方法>
一方、本実施形態では、上記のように、第1の工程10Aの金型形状と第2の工程10Bの金型形状を設計する。これによって、第2の工程10Bでねじれの要因応力を反転させる。この結果、本実施形態では、ねじれ量及びねじれの寸法精度変動がともに低減する。
また、縦壁角度の変化の要因応力も、次の現象で抑制される。すなわち、第2の工程10Bで曲げ戻されることにより、パンチ肩の応力が反転、若しくはパンチ肩周囲に反対方向の応力が付与される。この結果、縦壁角度変化と、その寸法精度変動をともに低減することが可能となる。
ここで、例えば、第1の工程10Aには、ドロー成形又はフォーム成形を適用すればよい。第2の工程10Bでは、目標部品形状1に成形すればよい。
【0041】
本実施形態では、上述の通り、第2の工程10Bの際に、パッド16で中間部品4をダイ14側に押さえた状態でプレスを実行する。これによって、第2の工程10Bでのプレスの安定化を図っている。すなわち、
図5、
図6に示すように、第2の工程10Bでは、成形前にパンチ15の天板成形面からパッド16を伸ばした状態で、中間部品4をパッド16の上にセットする。その後、ダイ14とパッド16で中間部品4の天板部を挟んだ状態で成形を行う。これによって、安定した成形が可能となる。
【0042】
ここで、第2の工程10Bにおいて、通常成形(比較の成形方法)のように、ダイ14側からパッド16を伸ばして、パッド16とパンチ15で中間部品4を挟んで成形する場合を考える。このとき、中間部品4を下型(パッド16)にセットすると、中間部品4の縦壁角度θ1′が金型の縦壁角度θ2よりも小さい。このため、中間部品4が担がれて、部分的にしかパンチ15に接しない不安定な状態で成形される。この結果、部品に位置ずれなどが発生し、目標の形状が得られなくなってしまう。
【0043】
図11、
図12に、本実施形態の方法でプレス品を成形した場合の成形下死点における長手方向板厚中央の応力分布の例を示す。2工程で成形することと、縦壁角度の調整以外は、比較の成形方法と同じ条件で行った場合である。
図11のように、第1の工程10Aの成形下死点では、上面視凸側の縦壁部1B側には圧縮応力が広範囲で発生している。また、上面視凹側の縦壁部1B側には引張応力が広範囲で発生している。
【0044】
一方、
図12のように、第2の工程10Bの成形下死点では、上面視凸側2Aの縦壁部1Bには引張応力が発生している。また、上面視凹側2Bの縦壁部1Bには圧縮応力が発生している。このように、本実施形態では、通常工法(通常成形)と比べて応力が反転し、更に応力の値と応力が発生する領域とが低減することが分かる。
本実施形態では、第2の工程10Bで縦壁部1Bが広がるように成形される。この結果、上面視凸側2Aの縦壁部1Bは、線長が伸びる方向に成形されるため、引張応力が負荷される。一方、上面視凹側2Bの縦壁部1Bは、線長が縮む方向に成形されるため、圧縮応力が負荷される。
【0045】
本実施形態の方法で成形した場合における、材料強度変動による寸法精度変動について、応力―ひずみ関係の模式図を参照して説明する。
図13は、本実施形態における、上面視凹側縦壁の応力とひずみとの関係を示す図である。ここでは、材料強度の変動を想定し、強度高め材と強度低め材の模式図を示す。
本実施形態では、第1の工程10Aで、目標部品形状1よりも小さい縦壁角度の中間部品4に成形すると、通常工法よりも大きいひずみと引張応力が付与される。
【0046】
その後、第2の工程10Bで目標部品形状1の縦壁角度に成形すると、上面視凹側の材料は縮む方向に成形される。このため、引張応力が圧縮応力に反転する。ここで、応力反転すると材料の強度高め材と強度低め材の履歴のカーブ(それぞれの応力―ひずみ曲線)が低い応力領域で交わる点が現れる。その交わる点は、
図13では、第2の工程での下死点の位置である。ここを狙って、第1の工程10Aの縦壁角度を低減して成形する。これによって、材料の強度高め材と強度低め材の成形下死点の応力と応力差が低減する。その結果、ねじれとねじれの寸法精度変動がともに低減する。なお、応力がゼロの位置が、離型後の状態である。
なお、第1の工程10Aの縦壁角度の変更は、上面視湾曲凸側のみ、若しくは凹側のみでも適用可能である。したがって、湾曲部2のどちらか一方若しくは両側にフランジ部が付与されていても適用可能である。
【0047】
第2の工程10Bでは、第1の工程10Aで成形された中間部品4の縦壁部が、曲げ戻されるように成形される。すなわち、第1の工程10Aとは反対方向の応力が負荷される。すなわち、パンチ肩の断面方向の応力が反転、若しくはパンチ肩周囲に反対方向の応力が付与される。このため、縦壁角度変化とその寸法精度変動が低減する。このとき、上記ねじれ量及びねじれの寸法精度変動を低減する条件で成形した場合を考える。この場合、パンチ肩の応力若しくはパンチ肩周囲の応力が過度に反転する。このため、この場合、第2の工程10Bの金型の縦壁角度よりも小さくなる方向にスプリングバックが発生する。
【0048】
このようなことから、第2の工程10Bでのスプリングバック後の縦壁角度が目標部品形状1での縦壁角度θ0になるように、第1の縦壁角度θ1及び第2の縦壁角度θ2の設定を実行する。例えば、第1の工程10Aと第2の工程10Bでの金型の各縦壁角度が、上記の(1)~(5)式を満たすように設計すると良い。第1の工程10Aと第2の工程10Bでの金型の各縦壁角度とは、第1の縦壁角度θ1、及び第2の縦壁角度θ2である。
【0049】
ここで、
図14、
図15に、本実施形態の成形方法で部品を成形した場合の成形下死点における板厚中央部の長手方向ひずみの分布を示す。
図14に示すように、第1の工程10A後は、縦壁凸側に大きな圧縮ひずみが発生し、縦壁凹側に大きな引張ひずみが発生している。一方、第2の工程10B後では、
図15に示すように、凸側の圧縮ひずみが低減し、凹側の引張ひずみも低減している。
以上から、
図13に示すようなひずみの挙動となるように、第1の工程10A及び第2の工程10Bでの金型における縦壁角度θ1、θ2を設定することが好ましいことが分かる。なお、使用する材料の強度の範囲における、第2の工程10Bでのプレス下死点で負荷される応力が一致若しくは近似するように、第2の縦壁角度θ2を設定することが好ましい。
このような考えから、次のようにして、縦壁角度θ1、θ2を設定することが好ましい。
【0050】
[上面視凸側2A]
第2の工程10Bのプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、上面視で凸となる上記縦壁部1Bの縦壁下半分のひずみの平均値をε2と定義する。これは、少なくとも湾曲部2となる位置における定義とする。
また、第1の工程10Aのプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、上面視で凸となる上記縦壁部1Bの縦壁下半分のひずみの平均値をε1と定義する。これは、少なくとも湾曲部2となる位置における定義とする。
【0051】
図19は、
図1に示したプレス成形品のプレス成形に対して、|ε2/ε1|とプレス成形後のねじれ量との関係を調査した結果である。
本実施形態では、良好な形状とする、ねじれ量の目標範囲を±2°以内とする。この場合、
図19から、|ε2/ε1|は0.4~0.85の範囲が好ましいことが分かる。
したがって、下記(6)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度θ1及び上記第2の縦壁角度θ2を設定することが好ましい。
0.4×|ε1| ≦ |ε2| < 0.85×|ε1| ・・・(6)
ここでε2は、第1の工程10Aの前(成形前)の長手方向のひずみを基準値0とした、第2の工程10Bのプレス下死点における上記の平均値である。すなわち、ε2は、第1の工程10Aにより加えられた長手方向のひずみと、第2の工程10Bにより加えられた長手方向のひずみの合計となる。
【0052】
なお、|ε2|が0.4×|ε1|より小さいと、
図13に示したひずみの戻し量が大きくなりすぎるおそれがある。このとき、材料の強度差によるスプリングバック量の差を所望の値以下に吸収できない可能性がある。したがって、|ε2|は、0.4×|ε1|以上であることが好ましく、0.6×|ε1|以上であることがより好ましい。
一方、|ε2|を0.85×|ε1|よりも大きくすると、第2の工程10B後でのひずみの戻し量が不十分となるおそれがある。このとき、材料の強度差によるスプリングバック量の差を所望の値以下に低減できない可能性がある。したがって、|ε2|は、0.85×|ε1|未満であることが好ましく、0.8×|ε1|以下であることがより好ましい。
【0053】
[上面視凹側2B]
第2の工程10Bのプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、上面視で凹となる上記縦壁部1Bの縦壁下半分のひずみの平均値をε2′と定義する。これは、少なくとも湾曲部2となる位置における定義とする。
また、第1の工程10Aのプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、上面視で凹となる上記縦壁部1Bの縦壁下半分のひずみの平均値をε1′と定義する。これは、少なくとも湾曲部2となる位置における定義とする。
【0054】
図20は、
図1に示したプレス成形品のプレス成形に対して、|ε2’/ε1’|とプレス成形後のねじれ量との関係を調査した結果である。なお、プレス成形品の形状及び寸法として、
図1に記載した寸法の部品を想定した。なお寸法の単位は、[mm]である。
本実施形態では、良好な形状とする、ねじれ量の目標範囲を±2°以内とする。この場合、
図20から、|ε2’/ε1’|は0.4~0.85の範囲が好ましいことが分かる。
したがって、下記(7)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度θ1及び上記第2の縦壁角度θ2を設定することが好ましい。
0.4×|ε1′| ≦ |ε2′| < 0.85×|ε1′| ・・・(7)
ここで、ε2′は、第1の工程10Aの前(成形前)の長手方向のひずみを基準値0とした、第2の工程10Bのプレス下死点における上記の平均値である。すなわち、ε2′は、第1の工程10Aにより加えられた長手方向のひずみと、第2の工程10Bにより加えられた長手方向のひずみの合計となる。
【0055】
なお、|ε2′|が0.4×|ε1′|より小さいと、
図13に示したひずみの戻し量が大きくなりすぎるおそれがある。このとき、材料の強度差によるスプリングバック量の差を所望の値以下に吸収できない可能性がある。したがって、|ε2′|は、0.4×|ε1′|以上であることが好ましく、0.45×|ε1′|以上であることがより好ましい。
一方、|ε2′|を0.85×|ε1′|よりも大きくすると、第2の工程10B後でのひずみの戻し量が不十分となるおそれがある。このとき、材料の強度差によるスプリングバック量の差を所望の値以下に低減できない可能性がある。したがって、|ε2′|は、0.85×|ε1′|未満であることが好ましく、0.7×|ε1′|以下であることがより好ましい。
【0056】
ここで、上記の説明では、天板部1Aの長手方向全長に亘って、第1の縦壁角度θ1及び第2の縦壁角度θ2が(1)式などを満足するように第1の工程10A及び第2の工程10Bの各金型を設定する場合を例示した。しかし、これに限定されない。
例えば、上面視湾曲部2となる領域だけを、第1の縦壁角度θ1及び第2の縦壁角度θ2が(1)式などを満足するように設定する。そして、湾曲部2以外の直線部における、第1の工程10A及び第2の工程10Bの各金型の縦壁角度を、例えば目標部品形状1の縦壁角度に設定しても良い。
【0057】
(金型の設計について)
第1の工程10Aと第2の工程10Bの金型形状(成形面の形状)を設計する場合に、目標部品形状1の縦壁角度に対して何も考慮せずに設計をし始める場合を考える。また、第2の工程10Bの金型から設計する場合を考える。これらの場合、適切な金型形状が求まらない、若しくは求めるまでに非常に多くの時間を費やす可能性がある。
これに対し、本実施形態では、第1の工程10Aと第2の工程10Bの金型の縦壁角度を設計するにあたり、次のように実行する。
【0058】
まず第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1を、目標部品形状1の縦壁角度θ0より小さい値でCAE解析若しくは実プレスを行う。その実行による評価から、第1の工程10Aのスプリングバック後の中間部品4の縦壁角度θ1′が、目標部品形状1の縦壁角度θ0より小さくなる条件を見出す。
その後、第2の工程10Bにおいて、目標部品形状1の縦壁角度θ0以上の縦壁角度の金型形状でCAE解析若しくは実プレスを行う。その実行による評価から、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度が、目標部品形状1の縦壁角度θ0となり、かつ、ねじれが抑制される条件を見出す。
このような金型の設計によれば、短時間で金型形状の設計が可能となる。
【0059】
以上のように、本開示に基づく本実施形態では、引張強度が590PMa以上のハイテン材や、引張強度が980MPa以上の超ハイテン材を使用した場合でも、簡単な金型構造で、材料強度変動が発生した場合の寸法精度変動を大幅に低減することができる。したがって、目標の部品形状に近い高精度な部品を得ることができる。
【0060】
「第2実施形態」
次に、本発明に基づく第2実施形態について説明する。
本実施形態の基本の構成は、第1実施形態と同様である。第1実施形態と同様な構成等については、同一の符号を付して説明する。
【0061】
(目標部品形状)
本実施形態は、第1実施形態と同様に、断面がコ字形状、フランジ部を有するハット形状、又はL字形状の場合に適用可能な例である。なお、断面L字形状は、縦壁部1Bが天板部1Aの幅方向一方にのみ存在する形状である。
また、本実施形態は、第1実施形態と同様に、長手方向に沿って該長手方向に交差する方向に湾曲する湾曲部を1又は2以上有する目標部品形状を対象とする。ただし、本実施形態の目標部品形状1は、
図21に示すように、湾曲部2が、天板部1A側へ湾曲した「上下湾曲形状」の場合の例である。
なお、
図21の例は、湾曲部2が、天板部1A側へ凸となるように湾曲した例である。また、
図21には、実施例で用いた寸法も併記されている。しかし、本発明は、この寸法になんら制限を受けるものではない。なお、寸法の単位は[mm]である。
【0062】
図21の例は、断面がハット形状でかつ長手方向全長で一つの湾曲部2を形成する例である。もっとも、目標部品形状は、長手方向に沿った一部が湾曲部となっていればよい。目標部品形状は、例えば、側面視で、長手方向に沿って湾曲部の左右方向の少なくとも一方側に、天板部1Aが平らな部分(直線部)が接続した形状であってもよい。
しかし、本発明は、長手方向に沿って複数の湾曲部2を有した目標部品形状1も製造対象となる。この場合、隣り合う湾曲部2間に直線部が存在していなくてもよい。
【0063】
(製造方法)
本実施形態のプレス成形品の製造方法は、金属板3(ブランク材)を上記の目標部品形状1にプレス成形で製造する方法である。本発明は、金属板3の材料がハイテン材や超ハイテン材の場合に好適な発明である。ハイテン材は、引張強度が590MPa以上の鋼板である。本発明は、軟鋼板やアルミニウム板などの金属板3であっても適用可能である。
本実施形態のプレス成形品の製造方法は、第1実施形態と同様に、第1の工程10Aと第2の工程10Bとを備える(
図2参照)。
【0064】
(第1の工程10A)
第1の工程10Aでは、模式図である
図4と同様に、目標部品形状1の縦壁角度θ0よりも小さい第1の縦壁角度θ1となる上型の金型11及び下型の金型12を用いる。そして、第1の工程10Aは、その金型11、12を用いて金属板を中間部品4にプレス成形する工程である。その中間部品4は、目標部品形状1の幅に合わせるなど、該目標部品形状1に倣った幅の天板部及び縦壁部を有する。なお、中間部品4には、後工程であるトリミング工程で切断する部分を有していてもよい。
【0065】
第1の工程10Aで使用する金型は、
図22に示すように、ダイ11(上型)とパンチ12(下型)とを備える。第1の工程10Aで使用するダイ11とパンチ12の成形面は、少なくとも縦壁角度が目標とする目標部品形状1とは異なる成形面を有する。また第1の工程10Aで使用する金型は、パンチ12の天板成形面に金属板3の天板部1Aとなる部分を抑えるパッド13を備える。
すなわち、第1の工程10Aでは、
図22のように、パンチ12の天板成形面とパッド13で金属板3を押さえた状態で、ダイ11とパンチ12でプレスを実行する。
ただし、上述のように、第1の工程10Aで使用する金型11、12の成形面における第1の縦壁角度θ1が、目標部品形状1での縦壁角度θ0よりも小さい角度に設定されている。
【0066】
ただし、第1の縦壁角度θ1は、中間部品4の縦壁角度θ1′に応じて設定する。なお、縦壁角度θ1′は、第1の工程10Aで金属板3をプレス成形して製造し、離型後の中間部品4での縦壁角度である。すなわち、目標部品形状1での縦壁角度θ0よりも小さくなるように、第1の縦壁角度θ1を設定する。そして、中間部品4は、離型後の形状、すなわち、スプリングバック後の中間部品4の形状となる。
この第1の縦壁角度θ1は、例えば、CAE解析や実際のプレスによって評価して設定すれば良い。
なお、左右の縦壁部1B側の縦壁角度毎に個別に、上記のようにして第1の縦壁角度θ1の設定を行う。
【0067】
左右の縦壁部側の縦壁角度のうちの一方の縦壁部1B側だけ、上記のようにして第1の縦壁角度θ1に設定してもよい。この場合、他方の縦壁部1B側の縦壁角度は、目標部品形状1での縦壁角度θ0と等しい角度などに設定しても良い。一方の縦壁部1B側だけを本開示に基づき第1の縦壁角度を設定しても効果を奏する。もっとも、左右の縦壁部1B側の縦壁角度を共に、上記のようにして第1の縦壁角度θ1の設定を行うことが好ましい。
【0068】
(第2の工程10B)
第2の工程10Bでは、第1の工程10Aで製造した中間部品4をプレス成形して、目標部品形状1からなるプレス成形品を製造する工程である。
第2の工程10Bで使用する金型の成形面は、目標部品形状1の縦壁角度θ0以上の角度の第2の縦壁角度θ2を有する。また、第2の工程10Bで使用する金型14、15の成形面は、
図23(a)及び模式図である
図6と同様に、縦壁角度以外が目標とする目標部品形状1に倣った成形面14A、15Aを有する。その金型14、15は、上型であるダイ14及び下型であるパンチ15である。
【0069】
第2の縦壁角度θ2は、目標部品形状1の縦壁角度θ0よりも大きいことが好ましい。すなわち、第2の工程10Bでは縦壁部1Bを曲げ戻す加工を行う。このため、第2の縦壁角度θ2は、目標部品形状1の縦壁角度θ0よりも大きくなるように、第2の工程10Bの金型の成形面形状を設計することが好ましい。
また、第2の工程10Bで使用する金型は、中間部品4の天板部を押さえるパッド16を備える。
【0070】
ここで、第2の縦壁角度θ2が縦壁角度θ0以上の角度に設定されている。このため、第2の縦壁角度θ2は、中間部品4の縦壁角度θ1′よりも大きい。したがって、第2の工程10Bでの成形の際に、次のような成形方法を採用すると問題がある。すなわち、ダイ14側からパッド16を伸ばして、パッド16とパンチ15で中間部品4の天板部を挟んで成形する場合を考える。この場合、中間部品4をパンチ16にセットする際に、中間部品4がパンチ16の所定の位置に載らずに、不安定な状態で成形されてしまう可能性が大きい、という問題がある。
【0071】
このため、本実施形態の第2の工程10Bでは、成形前にパンチ16の天板成形面からパッド16を伸ばした状態で、中間部品4をパッド16の上にセットする。その後、パッド16で、ダイ14の天板成形面に中間部品4の天板部を押し付けた状態(
図6(a)参照)とする。その状態で、パッド16とダイ14とで中間部品4をプレス成形する。本実施形態では、第2の工程10Bを、以上のような動作を行う構成とする。
【0072】
(各縦壁角度の相互の関係について)
ここで、目標部品形状1における縦壁角度をθ0と記載する。第1の工程10Aの金型11、12の成形面での第1の縦壁角度をθ1と記載する。中間部品4における縦壁角度をθ1′と記載する。縦壁角度θ1′は、離型してスプリングバック後の角度である。第2の工程10Bの金型14、15の成形面での第2の縦壁角度をθ2と記載する。
なお、本実施形態では、縦壁部1Bは左右に存在するが、左右それぞれについて個別に、以下の条件を満足するようにすることが好ましい。
下記(1)式を満たすように、第1の縦壁角度θ1と第2の縦壁角度θ2を設定することが好ましい。すなわち、第2の工程10Bの金型の第2の縦壁角度θ2は、目標部品形状1での縦壁角度θ0よりも大きく設定することが好ましい。
θ1 < θ1′ < θ0 < θ2 ・・・(1)
なお、第2の縦壁角度θ2は、縦壁角度θ0の1.05倍未満が好ましい。
【0073】
また、下記(8)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度θ1及び上記第2の縦壁角度θ2を設定することが好ましい。
0.4×εt1 ≦ εt2 < 0.9×εt1 ・・・(8)
ここで、第2の工程10Bのプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、少なくとも湾曲部となる位置において、天板部のひずみの平均値の絶対値をεt2と定義する。また、第1の工程のプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、少なくとも上記湾曲部となる位置において、天板部のひずみの平均値の絶対値をεt1と定義する。
【0074】
また、断面形状がフランジ部を有するハット形状の場合には、下記(9)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度θ1及び上記第2の縦壁角度θ2を設定することが好ましい。
0.4×εb1 ≦ εb2 < 0.9×εb1 ・・・(9)
ここで、第2の工程のプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、少なくとも湾曲部となる位置において、フランジ部のひずみの平均値の絶対値をεb2と定義する。また、上記第1の工程のプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、少なくとも上記湾曲部となる位置において、フランジ部のひずみの平均値の絶対値をεb1と定義する。
【0075】
断面形状がフランジ部を有しないコ字形状の場合には、フランジ部のひずみの平均値の絶対値の代わりに、縦壁部の下半分のひずみの平均値の絶対値を、εb1、εb2としてもよい。
ここで、(8)式及び(9)式の条件の理由については、後述する。
また、上記の各適正範囲(値)は部品形状や材料強度により変化する場合がある。このため、部品ごとに各条件を検討することが好ましい。
【0076】
(動作その他)
<比較の成形方法>
ここで、比較の成形方法として、天板部の面全域を押えるパッドを用い、パッド付フォーム成形を適用した。
図24に、金型離型前後(スプリングバック前後)の形状を示す。ここで、目標部品形状を
図21に示す形状とし、1回のプレス成形で目標部品形状とした場合である。すなわち、金属板3の天板部1Aとなる面全域をパンチとパッドで挟み込んだ状態とする。その状態で、パンチ(下型)とダイ(上型)でプレス成形した。なお、パンチとダイの成形面(金型形状)は、目標部品形状1に倣った形状とした。
この場合、
図24から分かるように、スプリングバック前後で側面視の湾曲が変化している。具体的には、長手方向に沿って、スプリングバックにより側面視の曲率半径が大きくなることが分かる。
【0077】
図25に、比較の成形方法を採用した場合における、部品6のプレス下死点での板厚中心における長手方向の応力分布を示す。
図25に示すように、天板部には引張応力が広範囲で発生している。また、フランジ部には圧縮応力が広範囲で発生している。前述の長手方向のスプリングバックは、金型離型時にこれらの応力が解放されることにより発生すると考えられる。なお、長手方向のスプリングバックは、キャンバーバックと呼ばれる。そして、材料強度が高くなるほど、この残留応力が増加し、スプリングバック量が大きくなる傾向にある。更に、材料強度が高くなると材料量産時の材料強度変動も相対的に大きくなる。このため、前述のコイル間(板の製造ロット間)で材料強度が変動し、スプリングバック量が変化する寸法精度変動課題も発生する。
【0078】
この寸法精度変動について、応力―ひずみ関係模式図で説明する。
図26に、比較の成形方法を採用した、通常成形時のフランジ部の応力とひずみの関係を示す。ここでは、フランジ部の応力は、長手方向応力である。また、
図26では、材料強度の変動を想定し、強度高め材と強度低め材の2種類の材料の模式図を示した。本例では、材料を製品形状に成形すると、フランジ部の材料は縮む成形になる。このため、フランジ部に圧縮応力が発生するが、材料の強度高め材と強度低め材では、
図26に示すように、成形下死点の応力値に差がある。
図26において、製品形状となる位置が成形下死点となる。
【0079】
この成形下死点の状態から金型を離型すると、キャンバーバック(スプリングバック)が発生する。そして、このキャンバーバックにより、長手方向の曲率変化が発生する。更に、これに加えて、強度高め材と強度低め材とでキャンバーバック量が変化する。すなわち、材料間で寸法精度変動が発生する。材料強度が高くなると、この寸法精度変動が大きくなり製品の寸法公差から外れる。このため、材料強度が高い材料では、寸法精度変動が重要な課題として挙げられる。
【0080】
このキャンバーバック及び寸法精度変動を低減するために、本実施形態では、
図27に示す成形下死点での断面形状のように設定した。すなわち、本実施形態のプレス成形方法では、第1の工程10Aで、天板部と縦壁部の間の縦壁角度θ1を、目標部品形状の縦壁角度よりも小さく成形する(
図27(a)参照)。また、第2の工程10Bで、上記第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度よりも大きい縦壁角度θ2にプレス成形する(
図27(b)参照)。また、本実施形態では、
図27に示すように、第1の工程10Aで、一旦、縦壁部の線長L1を、目標部品形状の縦壁部の線長以上になるように成形することが好ましい。目標部品形状の縦壁部の線長は、線長L2相当である。その後、第2の工程10Bで、縦壁部の線長L2を、目標部品形状の縦壁部の線長に成形することが好ましい。
【0081】
ここで、第1の工程10Aにおいて、金型から離型した後の中間部品4を考える。その中間部品4の縦壁角度θ1′は、スプリングバックによって第1の工程の金型の縦壁角度θ1よりも若干大きくなっている。この第1の工程のスプリングバック後の縦壁角度θ1′が、目標部品形状の縦壁角度θ0よりも小さくなるように、第1の工程10Aの金型を設計することが好ましい。金属板3としては、本実施形態では、ハイテン材を基本的な対象とする。しかし、本発明は、ハイテン材に限定する必要はなく、軟鋼板やアルミニウム板などを用いてもよい。
また、第2の工程10Bでは縦壁部を曲げ戻す必要がある。このため、第2の工程10Bの縦壁角度θ2が目標部品形状の縦壁角度θ0以上の角度になるように、第2の工程10Bの金型を設計することが好ましい。
【0082】
本実施形態では、目標部品形状1は、天板部1Aの幅方向両側に対をなす左右の縦壁部1B及びフランジ部1Cを有して、断面ハット形状となっている。左右の縦壁部のうちの少なくとも一方の縦壁部側が、第1の縦壁角度θ1及び第2の縦壁角度θ2となっている金型で、第1の工程10Aと第2の工程10Bとを行っても良い。
本実施形態では、上記のように第1の工程10Aの金型形状と第2の工程10Bの金型形状を設計する。これによって、第2の工程10Bでキャンバーバックの要因となる応力が反転する。その結果、キャンバーバック量及びキャンバーバックの寸法精度変動が低減する。また、縦壁角度の変化部の要因応力も第2の工程10Bで曲げ戻される。このため、パンチ肩の応力が反転、若しくはパンチ肩周囲に反対方向の応力が付与される。その結果、本実施形態では、縦壁角度変化とその寸法精度変動がともに低減する。
【0083】
ここで、第1の工程10Aではドロー成形又はフォーム成形を適用すればよい。また、第2の工程10Bでは目標部品形状に成形すれば良い。ただし、第2の工程10Bで、通常成形のように、ダイ側からパッドを伸ばして、パッドとパンチで中間部品を挟んで成形しようした場合、次の問題が生じる可能性がある。すなわち、中間部品を下型にセットする際に、中間部品4の縦壁角度θ1′は、第2の工程の金型(製品)の縦壁角度θ2よりも小さい。このため、中間部品が下型(パンチ)に担がれた不安定な状態で成形されてしまう。これにより、位置ずれなどが発生し、目標の形状が得られなくなる恐れがある。
これを回避するために、本実施形態では、
図23に示すように、第2の工程10Bでは成形前に、パンチ15の天板成形面からパッド16を伸ばした状態で中間部品4をパッド16の上にセットする。そして、ダイ14とパッド16で中間部品4の天板部を挟んだ状態で、成形を行う。このような成形方法を採用することで、中間部品4が第2の工程のパンチ15に担がれた不安定な状態となることを回避し、安定した成形が可能となる。
【0084】
本実施形態の方法でプレス品を成形した場合の、成形下死点の長手方向板厚中央の応力分布を
図28、
図29に示す。ここでは、θ1=95°、θ2=130°に設定した。
図28は、第1の工程10A後の応力分布を、
図29は、第2の工程10B後の応力分布を示す。
図28に示すように、第1の工程10Aの成形下死点では、フランジ部に圧縮応力が広範囲で発生している。また、天板部には引張応力が広範囲で発生している。一方、
図29に示すように、第2の工程10Bの成形下死点では、フランジ部は引張応力に反転し、天板部は引張応力が低減している。したがって、本実施形態の方法を採用することで、通常工法と比べて応力が反転、若しくは低減する。
【0085】
これは次の理由による。すなわち、第2の工程10Bでフランジ部が長手方向に伸ばされるように成形される。これによって、フランジ部は線長が伸びる方向に成形されるため引張応力となる。そして、これに影響される形で、天板部は線長が縮む方向に成形される結果、引張応力が低減する。なお、フランジ部が無い断面コ字形状の場合には、縦壁部の下部側が、上記のフランジ部と同様な働きをする。
このように、本実施形態の方法で成形した場合の寸法精度変動について、応力―ひずみ関係模式図を参照して説明する。
図30が、本実施形態の方法によるフランジ部の応力とひずみの関係を示す図である。
図30には、材料強度の変動を想定し、強度高め材と強度低め材の2種類の材料の模式図が示されている。
【0086】
本実施形態では、第1の工程10Aで、目標部品形状1の縦壁角度θ0よりも小さい縦壁角度θ1に成形する。これによって、通常工法(比較の成形方法)よりも大きいひずみと応力が付与される。その後、本実施形態では、第2の工程10Bで、目標部品形状1の縦壁角度θ0以上の縦壁角度θ2に成形する。それによって、フランジ部の材料は伸ばされる方向に成形される。この結果、圧縮応力が引張応力に反転する。ここで、
図30に示すように、応力が反転すると、材料の強度高め材と強度低め材との履歴のカーブが、低い応力領域で交わる。その交わる点を狙って成形下死点を設定することで、第1の工程10Aの縦壁角度を低減して成形するとよい。この場合、特に、材料の強度高め材と強度低め材の成形下死点の応力と応力差がより低減し、キャンバーバックと寸法精度変動がより低減する。
なお、1つの湾曲部において、長手方向の湾曲が一定曲率でない場合は、第1の工程10Aの湾曲部の一部の縦壁角度のみ低減すれば良い。複数の湾曲部から成る部品形状では、第1の工程10Aの少なくとも一つ以上の湾曲部の縦壁角度を低減すれば良い。
【0087】
また、第2の工程10Bでは、第1の工程10Aで成形された中間部品4の縦壁部が曲げ戻されるように成形される。そのため、パンチ肩の断面方向の応力が反転、若しくはパンチ肩周囲に反対方向の応力が付与される。このため、縦壁角度変化とその寸法精度変動が低減する。ただし、上記キャンバーバック量及びキャンバーバックの寸法精度変動を低減する条件で成形した場合、次の現象が発生する場合がある。すなわち、パンチ肩の応力若しくはパンチ肩周囲の応力が過度に反転する。それによって、第2の工程の金型の縦壁角度よりも小さくなる方向にスプリングバックが発生する場合がある。
そのため、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度が目標部品形状になるように、設計することが好ましい。すなわち、第2の工程10Bでの金型の縦壁角度θ2は、製品の縦壁角度θ0以上の大きさに設計することが好ましい。
ここで、本実施形態では、天板部のひずみを、εt1、εt2のようにtを付して記載した。また、フランジ部のひずみを、εb1、εb2のようにbを付して記載した。
【0088】
また、本実施形態の製造方法でプレス品を成形した場合の、成形下死点での長手方向板厚中央のひずみ分布を
図31、
図32に示す。
図31は、第1の工程でのひずみ分布を示す。
図32は、第2の工程でのひずみ分布を示す。
図31に示すように、第1の工程10Aでは特にフランジ部に大きな圧縮ひずみが発生している。一方、
図32に示すように、第2の工程10Bでは、第1の工程10Aで発生したフランジ部の圧縮ひずみが低減している。
このように、本実施形態の方法は、
図30に示すようなひずみの挙動となっている。ここで、第2の工程10Bのプレス下死点で発生する長手方向のひずみ分布について、天板部のひずみの平均値の絶対値をεt2と定義する。また、第1の工程10Aのプレス下死点で発生する長手方向のひずみ分布について、天板部のひずみの平均値の絶対値をεt1と定義する。
【0089】
図33は、
図21に示したプレス成形品のプレス成形に対して、εt2/εt1と、プレス成形後の製品との高さ乖離量との関係を調査した結果である。
図33中、「□」は、引張強度が590MPa級の鋼板を用いた場合の結果である。「○」は、引張強度が980MPa級の鋼板を用いた場合の結果である。「△」は、引張強度が1180MPa級の鋼板を用いた場合の結果である。
なお、
図33における縦軸の製品との高さ乖離量とは、
図24に示すように、目標部品形状と金型離型後の部品形状との高さの差を表した値である。高さ乖離量は、次のようにして求める。まず、長手中央位置で、目標部品形状1の天板部の位置と、金型離型後の形状の天板部の位置が一致するように位置合わせを行う。その状態で、
図24に示す長手端部の高さの差を、本実施形態では、製品との高さ乖離量とした。
【0090】
本実施形態では、良好な形状とする、高さ乖離量の目標範囲を±2mm以内とする。この場合、
図33から、εt2/εt1は0.4~0.9の範囲が好ましいことがわかる。
すなわち、下記(11)式を満たす値となるように、第1の工程10A及び第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ1、θ2の値を設定することが好ましい。
0.4×εt1 ≦ εt2 < 0.9×εt1 ・・・・(11)
【0091】
図34は、
図21に示したプレス成形品のプレス成形に対して、εb2/εb1と、プレス成形後の製品との高さ乖離量との関係を調査した結果である。
図34中、「□」は、引張強度が590MPa級の鋼板を用いた場合の結果である。「○」は、引張強度が980MPa級の鋼板を用いた場合の結果である。「△」は引張強度が1180MPa級の鋼板を用いた場合の結果である。
ここで、第2の工程のプレス下死点で発生する長手方向のひずみ分布について、フランジ部のひずみの平均値の絶対値をεb2と定義した。また、第1の工程のプレス下死点で発生する長手方向のひずみ分布について、フランジ部のひずみの平均値の絶対値をεb1と定義した。
【0092】
本実施形態では、良好な形状とする、高さ乖離量の目標範囲を±2mm以内とする。この場合、
図34から、εb2/εb1は0.4~0.9の範囲が好ましいことがわかる。
すなわち、下記(12)式を満たす値となるように、第1の工程及び第2の工程の金型の縦壁角度の値を設定することが好ましい。
0.4×εb1 ≦ εb2 < 0.9×εb1 ・・・・(12)
ここで、本実施形態では、目標部品形状の断面がハット形状である場合で説明している。目標部品形状の断面がコ字形状の場合、第1の工程10A及び第2の工程10Bでフランジ部に発生する現象は、縦壁部の下部側部分で発生する。したがってプレス成形品が、フランジ部のないコの字形状の断面の場合は、次のように設定すれば良い。すなわち、縦壁部の下半分となる部位についてのひずみの平均値の絶対値を、第2の工程10Bに対してεb2、第1の工程10Aに対してεb1とすることが好ましい。そして、式(11)又は式(12)を満たすように、第1の工程10A及び第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ1、θ2の値を設定することが好ましい。
【0093】
ここで、εt2が、0.4×εt1より小さいと、
図30に示した第2の工程10Bでのひずみの戻し量が大きくなりすぎるおそれがある。この場合、材料の強度差によるスプリングバック量の差を所望の値以下に低減できない可能性がある。したがって、εt2は、0.4×εt1以上であることが好ましい。εt2は、0.5×εt1以上であることがより好ましい。
一方、εt2が、0.9×εt1より大きいと、第2の工程10Bでのひずみの戻し量が不十分となるおそれがある。この場合、材料の強度差によるスプリングバック量の差を所望の値以下に低減できない可能性がある。したがって、εt2は、0.9×εt1未満であることが好ましい。εt2は、0.8×εt1以下であることがより好ましい。
【0094】
また、εb2が、0.4×εb1より小さいと、
図30に示した第2の工程10Bでのひずみの戻し量が大きくなりすぎるおそれがある。この場合、材料の強度差によるスプリングバック量の差を所望の値以下に低減できない可能性がある。したがって、εb2は、0.4×εb1以上であることが好ましい。εb2は、0.6×εb1以上であることがより好ましい。
一方、εb2が、0.9×εb1より大きいと、第2の工程10Bでのひずみの戻し量が不十分となるおそれがある。この場合、材料の強度差によるスプリングバック量の差を所望の値以下に低減できない可能性がある。したがって、εb2は、0.9×εb1未満であることが好ましい。εb2は、0.8×εb1以下であることがより好ましい。
【0095】
更に、第1の工程10Aと第2の工程10Bの金型形状を設計する場合に、製品の縦壁角度θ0に対して何も考慮せずに設計をし始めたり、第2の工程10Bの金型から設計したりすると、次のことが発生する可能性がある。すなわち、適切な金型形状が求まらない、若しくは求めるまでに非常に多くの時間を費やす可能性がある。
そこで、本実施形態では、第1の工程10Aと第2の工程10Bの金型形状を設計するにあたり、次のように行うとよい。まず、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1を製品の縦壁角度θ0より小さい値として、CAE解析若しくは実プレスを行う。そして、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′が製品の縦壁角度θ0より小さくなる条件を見出す。その後、第2の工程10Bにおいて、目標部品形状の縦壁角度θ0以上の縦壁角度の成形面を有する金型形状でCAE解析若しくは実プレスを行う。そして、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度が目標部品形状になり、かつ寸法精度変動が抑制される条件を見出す。このような設計によって、短時間で金型形状の設計が可能となる。
【0096】
以上のようなことから、本実施形態の方法は、引張強度が590PMa以上のハイテン材や、引張強度が980MPa以上の超ハイテン材を使用した場合でも、好適に適用可能である。すなわち、本開示に従えば、簡単な金型構造で、材料強度変動が発生した場合の寸法精度変動を大幅に低減することができる。したがって、本開示によれば、目標の部品形状に近い高精度な部品を得ることができる。
【0097】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)開示1は、天板部と上記天板部の幅方向端部に接続し該天板部とは異なる方向に延在する縦壁部とを有する断面を有し、上記断面に交差する方向である長手方向に沿って湾曲する湾曲部を1又は2以上有する目標部品形状に、金属板を成形するプレス成形品の製造方法であって、
上記断面における天板部と縦壁部の間の角度を縦壁角度と定義したとき、
上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい第1の縦壁角度の成形面を有する金型を用いて、金属板を上記天板部及び上記縦壁部を有する中間部品にプレス成形する第1の工程と、
上記中間部品を、上記湾曲部となる位置において、上記目標部品形状の縦壁角度以上の第2の縦壁角度の成形面を有する金型でプレス成形する第2の工程と、を備え、
上記湾曲部となる位置において、上記第1の工程での離型後の上記中間部品での縦壁角度について、上記目標部品形状の縦壁角度よりも小さい角度を有するように、上記第1の縦壁角度を設定する、
プレス成形品の製造方法。
(2)開示2は、上記湾曲部は、上記縦壁部の側へ凹若しくは凸となる湾曲を有する。
(3)開示3は、上記目標部品形状での縦壁角度をθ0、上記第1の縦壁角度をθ1、上記第1の工程で成形し離型後の上記中間部品での縦壁角度をθ1′、上記第2の縦壁角度をθ2、と定義した場合に、
上記第1の縦壁角度θ1と上記第2の縦壁角度θ2について、下記(1)式を満たす成形面を有する金型を用いてプレス成形を行う。
θ1 < θ1′ < θ0 < θ2 ・・・(1)
(4)開示4は、上記第1の縦壁角度をθ1、上記第2の縦壁角度をθ2と定義した場合に、
下記(2)式を満たすように、上記第1の縦壁角度θ1と上記第2の縦壁角度θ2を設定する。
0.7 ≦ (θ1/θ2) ・・・・(2)
(5)開示5は、上記目標部品形状での縦壁角度をθ0、上記第1の縦壁角度をθ1と定義した場合に、
下記(3)式を満たす値となるように、上記第1の縦壁角度θ1を設定する。
0.75 ≦ (θ1/θ0) ・・・・(3)
(6)開示6は、上記第2の縦壁角度をθ2、上記第1の工程で成形し離型後の上記中間部品での縦壁角度をθ1′と定義した場合に、
下記(4)式を満たす値となるように、上記第2の縦壁角度θ2を設定する。
0.8 ≦ (θ1′/θ2) ・・・・(4)
(7)開示7は、上記目標部品形状での縦壁角度をθ0、上記第2の縦壁角度をθ2と定義した場合に、
下記(5)式を満たす値となるように、上記第2の縦壁角度θ2の値を設定する。
(θ2/θ0) < 1.05 ・・・・(5)
(8)開示8は、上記湾曲部が、上記縦壁部側へ凸となるように湾曲した目標部品形状を対象とし、
上記第2の工程のプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上面視で凸となる上記縦壁部の縦壁下半分のひずみの平均値をε2と定義し、
上記第1の工程のプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上面視で凸となる上記縦壁部の縦壁下半分のひずみの平均値をε1と定義した場合に、
下記(6)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度及び上記第2の縦壁角度を設定する。
0.4×|ε1| ≦ |ε2| < 0.85×|ε1| ・・・(6)
(9)開示9は、上記湾曲部が、上記縦壁部側へ凹となるように湾曲した目標部品形状を対象とし、
上記第2の工程のプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上面視で凹となる上記縦壁部の縦壁下半分のひずみの平均値をε2′と定義し、
上記第1の工程のプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上面視で凹となる上記縦壁部の縦壁下半分のひずみの平均値をε1′と定義した場合に、
下記(7)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度及び上記第2の縦壁角度を設定する。
0.4×|ε1′| ≦ |ε2′| < 0.85×|ε1′| ・・・(7)
(10)開示10は、上記湾曲部は、上記天板部側へ凹若しくは凸となる湾曲を有する。
(11)開示11は、上記目標部品形状での縦壁角度をθ0、上記第1の縦壁角度をθ1、上記第1の工程で成形し離型後の上記中間部品での縦壁角度をθ1′、上記第2の縦壁角度をθ2、と定義した場合に、
上記第1の縦壁角度θ1と上記第2の縦壁角度θ2について、下記(1)式を満たす成形面を有する金型を用いてプレス成形を行う。
θ1 < θ1′ < θ0 < θ2 ・・・(1)
(12)開示12は、上記第2の工程のプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上記天板部のひずみの平均値の絶対値をεt2と定義し、
上記第1の工程のプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上記天板部ひずみの平均値の絶対値をεt1と定義した場合に、
下記(8)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度及び上記第2の縦壁角度を設定する。
0.4×εt1 ≦ εt2 < 0.9×εt1 ・・・(8)
(13)開示13は、上記断面が、コ字形状、若しくはフランジ部を有するハット形状であり、
上記第2の工程のプレス成形におけるプレス下死点での長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上記断面がコ字形状の場合は、縦壁部の下半分のひずみの平均値の絶対値をεb2と定義し、上記断面がフランジ部を有するハット形状の場合は、上記フランジ部のひずみの平均値の絶対値をεb2と定義し、
上記第1の工程のプレス成形におけるプレス下死点における長手方向のひずみ分布について、上記湾曲部となる位置において、上記断面がコ字形状の場合は、縦壁部の下半分のひずみの平均値の絶対値をεb1と定義し、上記断面がフランジ部を有するハット形状の場合は、上記フランジ部のひずみの平均値の絶対値をεb1と定義した場合に、
下記(9)式を満たす値となるように、第1の縦壁角度及び上記第2の縦壁角度を設定する。
0.4×εb1 ≦ εb2 < 0.9×εb1 ・・・(9)
(14)開示14は、上記第2の工程で用いる金型は、上型と下型のうちの一方を構成するダイと、上型と下型のうちの他方を構成するパンチとを備え、
上記第2の工程において、ダイの天板成形面とパンチの天板成形面から伸ばしたパッドとによって、中間部品の天板部を挟んだ状態で、プレス成形を行う。
(15)開示15は、開示1~9のいずれか1項に記載したプレス成形品の製造方法で使用する金型の設計方法であって、
上記第1の工程と第2の工程の各金型の縦壁角度を設計するにあたり、
まず第1の工程の金型の縦壁角度を製品の縦壁角度より小さい値でCAE解析若しくは実プレスを行って、第1の工程のスプリングバック後の縦壁角度が製品の縦壁角度より小さくなる条件を見出して、上記第1の縦壁角度を設定し、
その後、第2の工程に対して、目標部品形状の縦壁角度以上となる縦壁角度の成形面を有する金型形状でCAE解析若しくは実プレスを行って、第2の工程のスプリングバック後の部品形状が上記目標部品形状における縦壁角度とねじれの許容範囲を満たす条件を見出して、上記第2の縦壁角度を設定する、
金型の設計方法。
(16)開示16は、開示10~13のいずれか1項に記載したプレス成形品の製造方法で使用する金型の設計方法であって、
上記第1の工程と第2の工程の各金型の縦壁角度を設計するにあたり、
まず第1の工程の金型の縦壁角度を製品の縦壁角度より小さい値でCAE解析若しくは実プレスを行って、第1の工程のスプリングバック後の縦壁角度が製品の縦壁角度より小さくなる条件を見出して、上記第1の縦壁角度を設定し、
その後、第2の工程に対して、目標部品形状の縦壁角度以上の縦壁角度の成形面を有する金型形状でCAE解析若しくは実プレスを行って、第2の工程のスプリングバック後の部品形状が上記目標部品形状における縦壁角度の許容範囲を満たす条件を見出して、上記第2の縦壁角度を設定する、
金型の設計方法。
【実施例】
【0098】
本発明に基づくプレス成形方法による、ねじれスプリングバックの低減効果を確認する。その確認のため、有限要素法(FEM)によるプレス成形解析及びスプリングバック解析を行った。その結果について以下に説明する。
【0099】
「第1実施形態に対する実施例」
(実施例1)
本実施例では、目標部品形状1を、
図1に示す、長手方向に沿った中央部で天板部の幅方向に湾曲した左右湾曲形状とした。このとき、プレス成形に使用する金属板3(ブランク材)は、引張強度が980MPa級及び1180MPa級の2種類の鋼板とした。これは、寸法精度変動も比較するために、2種類の材料強度で評価するためである。なお、2種類の鋼板の板厚tは、ともに1.4mmとした。
ブランク材3(金属板)をプレス成形する場合を対象とする。そして、第1の工程10Aの金型の第1の縦壁角度θ1を低減した。そして、この場合の、プレス成形解析とスプリングバック解析を実施し、スプリングバック前後の部品のねじれ量を測定した。
【0100】
ここで、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2は、105°、110°、115°から選択して設定した。そして、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1を90°~115°の間で変更して、評価のためのFEM解析を実施した。
なお、ねじれ量は、次のようにして求めた。まず、目標部品形状1と金型離型後の形状を、長手中央断面の天板の傾きが一致するように位置合わせを実施した。そして、
図8に示す長手端部のAA′断面の天板部の傾き角度で評価した。なお、反時計回りのねじれをプラス表示、時計回りのねじれをマイナス表示とした。
なお、本例では、ねじれ量が±2.0°以内を合格とした。また、980MPa材と1180MPa材とのねじれ量の差が±1.0°以内を合格とした。
【0101】
(第1の例)
第1の例では、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2を115°に固定した。そして、表1の評価は、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1を、90°、95°、115°から選択して設定した場合の結果である。
なお、第1の例では、目標部品形状1の縦壁角度θ0を110°とした。
第1の例の評価結果を表1に示す。
【0102】
【0103】
<No.1-5、No.1-6>
表1のNo.1-5、No.1-6は、第1の工程10Aの縦壁角度θ1を115°とした場合の、980MPa材と1180MPa材のねじれ量の評価である。
No.1-6から分かるように、1180MPa材では、第1の工程10A後のスプリングバック後の縦壁角度、つまり、中間部品4の縦壁角度θ1′が、120°以上となっている。この縦壁角度θ1′は、目標部品形状1の縦壁角度θ0:110°、及び第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:115°を大きく超えている。また、第1の工程10A及び第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は、それぞれ3.6°と大きく発生している。
【0104】
また、No.1-5から分かるように、980MPa材でも、第1の工程10A後のスプリングバック後の縦壁角度、つまり、中間部品4の縦壁角度θ1′が120°以上となっている。この縦壁角度θ1′は、目標部品形状1の縦壁角度θ0:110°、及び第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:115°を大きく超えている。また、第1の工程10A及び第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は、それぞれ2.0°発生している。
そして、No.1-5、No.1-6から、材料強度間の寸法精度変動は1.6°となった。
【0105】
更に、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:115°に対して、No.1-6の1180MPa材の第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度は約123°となった。すなわち、大きなスプリングバックが発生している。
またNo.1-5の980MPa材では、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度は122°となっていた。これから、No.1-5とNo.1-6との間で、1°以上の寸法精度変動が発生したことが分かる。
【0106】
<No.1-3、No.1-4>
No.1-3、No.1-4は、第1の工程10Aの縦壁角度θ1を95°とした場合の980MPa材と1180MPa材の結果である。
No.1-4から分かるように、1180MPa材では、第1の工程10A後のスプリングバック後の縦壁角度θ1′は105°程度となっていた。その縦壁角度θ1′は、目標部品形状1の縦壁角度θ0:110°、及び第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:115°より小さい角度になった。また、第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は0.0°と大幅に低減した。
【0107】
更に、No.1-3から分かるように、980MPa材でも第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は-0.1°と大幅に低減した。また、材料強度間の寸法精度変動も0.1°に低減した。
また、縦壁角度も、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:115°に対し、次のようになっていた。すなわち、1180MPa材でも980MPa材でも、第2の工程10Bのスプリングバック後で縦壁角度が約110°となり、スプリングバック量が低減した。また、No.1-4の1180MPa材とNo.1-3の980MPa材との差は、0.5°程度まで低減した。
【0108】
<No.1-1、No.1-2>
No.1-1、No.1-2は、第1の工程10Aの縦壁角度θ1を90°とした場合の980MPa材と1180MPa材の結果を示す。
No.1-2から分かるように、1180MPa材では、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は100°程度となっていた。その縦壁角度θ1′は、目標部品形状1の縦壁角度θ0:110°、及び第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:115°より小さい角度になった。
【0109】
また、第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は-1.0°と反対方向にねじれが発生した。
更に、No.1-1から分かるように、980MPa材でも第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は-0.7°と反対方向にねじれが発生した。しかし、通常工法のねじれ量よりは低減し、材料強度間の寸法精度変動も0.3°に低減した。このことから過度に第1の工程10Aの縦壁角度θ1を低減すると、応力が反転しすぎて反対方向にねじれることがわかる。
【0110】
以上のことから、No.1-3、No.1-4のように、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1:95°、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:115°で成形することにより、ねじれ量と縦壁の角度変化量及びこれらの寸法精度変動が大幅に低減した。また、この条件における第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度は約110°となり、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2よりも低減した。
このことから、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度を目標部品形状1にする場合、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1は目標部品形状1よりも小さく設計する必要があることが分かった。更に、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2は、目標部品形状1の縦壁角度θ0以上に設計する必要があることが分かった。
【0111】
(第2の例)
第2の例は、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2を110°に固定した。そして、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1を、90°、92°、95°、110°から選択して設定した場合の評価である。
なお、第2の例では、目標部品形状1の縦壁角度θ0を106°とした。
第2の例の評価結果を表2に示す。
【0112】
【0113】
<NO.2-7、No.2-8>
No.2-7、No.2-8は、第1の工程10Aの縦壁角度θ1を110°とした場合の、980MPa材と1180MPa材のねじれ量の結果である。
No.2-8から分かるように、1180MPa材では、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は約120°となっていた。その縦壁角度θ1′は、目標部品形状1の縦壁角度θ0:106°、及び第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:110°を大きく超えている。また、第1の工程10A及び第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は、それぞれ4.0°、3.9°と大きく発生している。
また、No.2-7から分かるように、980MPa材では、第1の工程10A及び第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量はそれぞれ2.3°、2.4°発生していた。したがって、材料強度間の寸法精度変動は、第2の工程10B後で1.5°となった。
【0114】
更に、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:110°に対して、No.2-8の1180MPa材の第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度は約118°となった。したがって、大きなスプリングバックが発生している。
またNo.2-7の980MPa材では、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度は約117°となった。したがって、1°以上の寸法精度変動が発生した。
【0115】
<No.2-5、No.2-6>
No.2-5、No.2-6は、第1の工程10Aの縦壁角度θ1を95°とした場合の、980MPa材と1180MPa材の結果を示す。
No.2-6から分かるように、1180MPa材では、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は105°程度となっていた。この角度は、第2の工程10Bの金型の110°より小さい角度になった。また、第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は1.0°と低減した。
【0116】
更に、No.2-5から分かるように、980MPa材でも第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は0.2°と低減し、材料強度間の寸法精度変動も0.8°に低減した。
縦壁角度も、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2が110°に対して、1180MPa材の第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度が約107°となり、スプリングバック量が低減した。
またNo.2-6の1180MPa材と、No.2-5の980MPa材との差は、0.5°程度まで低減した。
【0117】
<No.2-3、No.2-4>
No.2-3、No.2-4は、第1の工程10Aの縦壁角度θ1を92°とした場合の、980MPa材と1180MPa材の結果を示す。
No.2-4から分かるように、1180MPa材では、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は102°程度となっていた。その縦壁角度θ1′は、目標部品形状1の縦壁角度θ0:106°、及び第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:110°より小さい角度になった。また、第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は0.1°と大幅に低減した。
【0118】
No.2-3から分かるように、980MPa材でも第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は0.0°と大幅に低減した。
したがって、材料強度間の寸法精度変動も0.1°に低減した。
縦壁角度も、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2が110°に対して、1180MPa材の第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度が約106°となり、スプリングバック量が低減した。
また、No.2-4の1180MPa材とNo.2-3の980MPa材との差は、0.7°程度まで低減した。
【0119】
<No.2-1、No.2―2>
No.2-1、No.2-2は、第1の工程10Aの縦壁角度θ1を90°とした場合の、980MPa材と1180MPa材の結果を示す。
No.2-2から分かるように、1180MPa材では、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は100°程度となっていた。その縦壁角度θ1′は、目標部品形状1の縦壁角度θ0:106°、及び第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:110°より小さい角度になった。また、第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は-0.9°と反対方向にねじれが発生した。
更に、No.2-1から分かるように、980MPa材でも、第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は-0.4°と反対方向にねじれが発生した。しかし、通常工法のねじれ量よりは低減し、材料強度間の寸法精度変動も0.5°に低減した。
このことから、過度に第1の工程10Aの縦壁角度θ1を低減すると、応力が反転しすぎて反対方向にねじれることが分かる。
【0120】
以上のことから、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1を92°、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2を110°で成形することにより、ねじれ量と縦壁部の角度変化量及びこれらの寸法精度変動が大幅に低減した。更に、この条件における第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度は約106°となり、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2よりも低減した。
このことから、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度を目標部品形状1にする場合、次のように設計する必要があることが分かった。すなわち、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1は目標部品形状1よりも小さくし、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2は製品の縦壁角度以上の角度に設計する必要がある。
【0121】
(第3の例)
第3の例は、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2を105°に固定した。そして、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1を、90°、95°、100°、105°から選択して設定した場合の結果である。
なお、第3の例では、目標部品形状1の縦壁角度θ0を103°とした。
第3の例の評価結果を表3に示す。
【0122】
【0123】
<No.3-7、No.3-8>
No.3-7、No.3-8は、第1の工程10Aの縦壁角度を105°とした場合の、980MPa材と1180MPa材のねじれ量の結果である。
No.3-8から分かるように、1180MPa材では、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は約115°となっている。この縦壁角度θ1′は、目標部品形状1の縦壁角度θ0:103°、及び第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:105°を大きく超えている。また第1の工程10A及び第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は、それぞれ4.1°、3.7°と大きく発生している。
【0124】
また、No.3-7から分かるように、980MPa材では、第1の工程10A及び第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量はそれぞれ2.5°、2.3°発生していた。
したがって、材料強度間の寸法精度変動は第2の工程10B後で1.4°となった。
更に、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:105°に対して、No.3-8の1180MPa材の第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度は約113°となっている。そして、大きなスプリングバックが発生している。またNo.3-7の980MPa材は約112°となっていた。したがって、No.3-8の1180MPa材とNo.3-7の980MPa材との間で、1°以上の寸法精度変動が発生した。
【0125】
<No.3-5、No.3-6とNo.3-3、No.3-4>
No.3-5、No.3-6は、第1の工程10Aの縦壁角度θ1を100°とした場合の、980MPa材と1180MPa材の結果を示す。
No.3-3、No.3-4は、第1の工程10Aの縦壁角度θ1を95°とした場合の980MPa材と1180MPa材の結果を示す。
いずれの条件でも、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は、目標部品形状1の縦壁角度θ0:103°より大きい角度になった。また、第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量の寸法精度変動に大きな低減は見られなかった。
【0126】
<No.3-1、No.3-2>
No.3-1、No.3-2は、第1の工程10Aの縦壁角度θ1を90°とした場合の、980MPa材と1180MPa材の結果を示す。
No.3-2から分かるように、1180MPa材では、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ′は101°程度となっていた。その縦壁角度θ′は、目標部品形状1の縦壁角度θ0:103°、及び第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:105°より小さい角度になった。また、第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は-0.1°と大幅に低減した。
【0127】
また、No.3-1から分かるように、980MPa材でも、第2の工程10Bのスプリングバック後のねじれ量は0.0°と大幅に低減した。
したがって、No.3-1の980MPa材とNo.3-2の1180MPa材との間では、材料強度間の寸法精度変動も0.1°に低減した。
また、縦壁角度も第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:105°に対して、1180MPa材の第2の工程10Bのスプリングバック後で約103°となり、スプリングバック量が低減した。
また、No.3-2の1180MPa材とNo.3-1の980MPa材との差は、0.3°程度まで低減した。
【0128】
以上のことから、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1:90°、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2:105°で成形すると良いことが分かった。この場合、ねじれ量と縦壁部の角度変化量及びこれらの寸法精度変動が大幅に低減した。また、この条件における第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度は約103°となり、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2よりも低減した。
このことから、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度を目標部品形状1にする場合、次のように設計する必要があることが分かった。すなわち、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1は目標部品形状1の縦壁角度θ0よりも小さくし、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2は目標部品形状1の縦壁角度θ0以上に設計する必要がある。
【0129】
なお、590MPa材と780MPa材でも同様に、本発明に基づいて、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度を目標部品形状1にする場合に、次のことを確認した。すなわち、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1は目標部品形状1の縦壁角度θ0よりも小さくし、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2は目標部品形状1の縦壁角度θ0以上に設計する。これによって、目標部品形状1の縦壁角度θ0となり、かつ、ねじれが抑制されたことを確認した。更に、590MPa材と780MPa材とで寸法精度変動を大幅に低減したことを確認した。
以上のスプリングバックと第1の工程10A後縦壁角度の変更量の関係は、鋼種や形状によって変化すると考えられるため、それぞれにあった形状を設計する必要がある。
【0130】
<実施形態2に対する実施例>
本実施例では、目標部品形状1を、
図21に示す、長手方向に沿って天板部側に湾曲した上下湾曲形状とした。このとき、プレス成形に使用する金属板3(ブランク材)は、引張強度が590MPa級、980MPa級及び1180MPa級の3種類の鋼板とした。これは、寸法精度変動も比較するために、複数の材料強度で評価するためである。
また、プレス成形に使用する金属板の板厚tは、1.4mmとした。基準とする製品形状の寸法は、天板部の幅60mm、縦壁部の高さ30mm、天板部と縦壁部のなす縦壁角度130°、左右フランジ部間の最大間隔150mm、製品の長手方向長さ400mm、湾曲部の天板部曲率半径を1600mmとした。天板部と縦壁部のなす角度130°と湾曲部の天板部曲率半径1600mmは基準とする値であり、必ずしもプレス成形後の目標値であるとは限らない。
そして、第1の工程の縦壁角度を低減した場合の、プレス成形解析とスプリングバック解析を実施し、スプリングバック前後の曲率半径と縦壁角度を測定した。
【0131】
本実施例の第1の工程10A及び第2の工程10Bの各金型の側面視曲率半径はR1600[mm]とした。また、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1を90°~130°の範囲で変更し、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2を130°に統一して、FEM解析を実施した。表4に評価結果を示す。なお、キャンバーバック量は、第2の工程10Bのスプリングバック後について、その値が±2.0mm以内を合格とした。また、3鋼種間での高さの差は1.0mm以下となる場合を合格とした。
なお、表4で「金型縦壁角度」は、「金型の縦壁角度」を指す。
【0132】
【0133】
<No.4-1~4-3>
No.4-1~4-3は、第1の工程の金型の縦壁角度θ1を130°とした場合である。また、鋼板として、590MPa材、980MPa材及び1180MPa材を用いた。そして、No.4-1~4-3は、各材料での成形下死点の天板部とフランジ部それぞれの平均ひずみ、スプリングバック後の天板部の長手方向曲率半径と、縦壁角度との関係を求めた結果を示す。ここで、「天板部の長手方向曲率半径」を、「天板R」とも記載する。
No.4-1~4-3では、各材料の第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1は、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2である130°より大きい角度となる。1180MPa材でみると、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は138.3°となっている。また、1180MPa材での第2の工程10Bのスプリングバック後の天板Rは、R1964[mm]となっていた。そして、590MPa材~1180MPa材の最大変動量ΔRは、R221mmとなった。このように、鋼種間での高さの差は1.22mmと大きく、目標である高さの差1mm以下という条件を満たさなかった。
【0134】
<No.4-4~4-6>
これに対し、No.4-4~4-6は、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1を100°とした場合である。そして、No.4-4~4-6は、各材料の成形下死点での天板部とフランジ部それぞれの平均ひずみ、スプリングバック後の天板Rと、縦壁角度との関係を求めた結果を示す。
各材料の第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2である130°より小さい角度となっている。例えば、1180MPa材でみると、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は、111.7°となっている。また、1180MPa材での第2の工程10Bのスプリングバック後の天板Rは、R1611[mm]となっている。そして、590MPa材~1180MPa材の最大変動量ΔRはR102mmとなった。鋼種間での高さの差は0.93mmであり、目標である1mm以下という条件を満たしている。また、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度は1180MPa材で127.6°となった。また、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2の130°からのスプリングバック量と、590MPa材~1180MPa材の変動量がNo.4-1~No.4-3の比較例に比べて低減した。
【0135】
<No.4-7~4-9>
次に、No.4-7~4-9は、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1を95°とした場合である。No.4-7~4-9は、各材料の成形下死点での天板部とフランジ部それぞれの平均ひずみ、スプリングバック後の天板Rと、縦壁角度との関係を求めた結果を示す。
各材料の第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2である130°より小さい角度となっている。例えば、1180MPa材でみると、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ′は105.8°となっている。また、1180MPa材での第2の工程10Bのスプリングバック後の天板Rは、R1506[mm]となっている。そして、590MPa材~1180MPa材の最大変動量ΔRは、R52mmとなった。鋼種間での高さの差は0.46mmであり、目標である1mm以下という条件を満たしている。また、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度は、1180MPa材で127°となっている。そして、No.4-7~4-9では、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2の130°からのスプリングバック量と590MPa材~1180MPa材の変動量が、No.4-1~No.4-3の比較例に比べて低減した。
【0136】
<No.4-10~4-12>
次に、No.4-10~4-12は、第1の工程10Aの金型の縦壁角度θ1を90°とした場合である。No.4-10~4-12は、各材料の成形下死点での天板部とフランジ部それぞれの平均ひずみ、スプリングバック後の天板Rと、縦壁角度との関係を求めた結果を示す。
各材料の第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2である130°より小さい角度となっている。そして、例えば、1180MPa材でみると、第1の工程10Aのスプリングバック後の縦壁角度θ1′は、102.1°となっている。また、1180MPa材での第2の工程10Bのスプリングバック後の天板Rは、R1402[mm]となっている。そして、590MPa材~1180MPa材の最大変動量ΔRはR74mmとなった。鋼種間での高さの差は0.76mmであり、目標である1mm以下という条件を満たしている。また、第2の工程10Bのスプリングバック後の縦壁角度は、1180MPa材で125.8°となっている。そして、No.4-10~4-12は、第2の工程10Bの金型の縦壁角度θ2の130°からのスプリングバック量と590MPa材~1180MPa材の変動量がNo.4-1~No.4-3の比較例に比べて低減した。
【符号の説明】
【0137】
1 目標部品形状
1A 天板部
1B 縦壁部
1C フランジ部
2 湾曲部
3 金属板(ブランク材)
4 中間部品
10A 第1の工程
10B 第2の工程
11 第1の工程のダイ
12 第1の工程のパンチ
13 第1の工程のパッド
14 第2の工程のダイ
15 第2の工程のパンチ
16 第2の工程のパッド
θ0 目標部品形状の縦壁角度
θ1 第1の縦壁角度(第1の工程の金型の縦壁角度)
θ1′ 中間部品の縦壁角度
θ2 第2の縦壁角度(第2の工程の金型の縦壁角度)
【要約】
ハイテン材などを使用した場合でも、簡単な金型構造で、ねじれやキャンバーバックと壁開き及びその材料強度変動が発生した場合の寸法精度変動を低減する。天板部(1A)と縦壁部(1B)を有する断面で、長手方向に沿って湾曲する湾曲部(2)を有する目標部品形状(1)に、金属板(3)を成形するプレス成形品の製造方法である。天板部(1A)と縦壁部(1B)の間の角度を縦壁角度とする。目標部品形状(1)の縦壁角度よりも小さい第1の縦壁角度の成形面を有する金型を用いて中間部品(4)にプレス成形する第1の工程(10A)と、中間部品(4)を、目標部品形状(1)の縦壁角度以上の第2の縦壁角度の成形面を有する金型でプレス成形する第2の工程(10B)とを備える。離型後の中間部品(4)での縦壁角度が、目標部品形状(1)の縦壁角度よりも小さい角度を有する第1の縦壁角度に設定する。