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特許7605378転写シート、加飾成形品、及び加飾成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】転写シート、加飾成形品、及び加飾成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20241217BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20241217BHJP
   B44C 1/17 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B7/06
B44C1/17 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024530885
(86)(22)【出願日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2023023824
(87)【国際公開番号】W WO2024005020
(87)【国際公開日】2024-01-04
【審査請求日】2024-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2022103004
(32)【優先日】2022-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】大田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】野田 明寿
(72)【発明者】
【氏名】峪中 一行
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-149383(JP,A)
【文献】特開平05-139095(JP,A)
【文献】特開2018-126984(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174044(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0003442(US,A1)
【文献】特開2019-006086(JP,A)
【文献】特開2017-159649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B29C 45/00-45/24;45/46-45/63;45/70-45/72;45/74-45/84
B44C 1/16-1/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型シート上に転写層を有する転写シートであって、
前記離型シートは、前記転写層側から順に、剥離層と、基材とを備え、
前記剥離層は、
バインダー樹脂及びマット剤を含み、前記転写層側に複数の凸部を有する凹凸部分と、
前記凹凸部分よりも前記転写層側の表面が相対的に平坦である平坦部分と、
を有しており、
前記剥離層の前記凹凸部分の前記複数の凸部が、前記転写層に接しており、
前記転写層の前記凹凸部分と接している表面は、前記凹凸部分と接することで凹凸形状を有しており、
前記転写層の前記凹凸形状に含まれる複数の凸部の先端は、前記転写層が前記平坦部分と接している表面よりも、前記基材側に位置しており、
前記剥離層の前記平坦部分を形成する樹脂組成物は、前記基材の表面に接している、転写シート。
【請求項2】
離型シート上に転写層を有する転写シートであって、
前記離型シートは、前記転写層側から順に、剥離層と、基材とを備え、
前記剥離層は、
バインダー樹脂及びマット剤を含み、前記転写層側に複数の凸部を有する凹凸部分と、
前記凹凸部分よりも前記転写層側の表面が相対的に平坦である平坦部分と、
を有しており、
前記剥離層の前記凹凸部分の前記複数の凸部が、前記転写層に接しており、
前記転写層の前記凹凸部分と接している表面は、前記凹凸部分と接することで凹凸形状を有しており、
前記転写層の前記凹凸形状に含まれる複数の凸部の先端は、前記転写層が前記平坦部分と接している表面よりも、前記基材側に位置しており、
前記剥離層と前記基材との間に他の層を備えており、
前記剥離層の前記平坦部分を形成する樹脂組成物は、前記他の層の表面に接している、
転写シート。
【請求項3】
前記凹凸部分に含まれる前記マット剤の吸油量が、150ml/100g以上である、
請求項1又は2に記載の転写シート。
【請求項4】
前記凹凸部分の前記複数の凸部の平均ピーク高さが、3.3μm以上である、請求項1又は2に記載の転写シート。
【請求項5】
前記平坦部分の厚みは、前記凹凸部分の平均高さの5%以上650%以下である、請求項1又は2に記載の転写シート。
【請求項6】
前記平坦部分は、マット剤を含む、請求項1又は2に記載の転写シート。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の転写シートの前記転写層が、被着体に積層されてなる、加飾成形品。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の転写シートの前記転写層を被着体と接着し、前記被着体上に前記転写シートを積層する工程と、
前記転写シートの前記離型シートを剥離して、前記被着体上に前記転写層を転写する工程と、を含む、加飾成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、転写シート、加飾成形品、及び加飾成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内外装、建材内装材、家電製品などに使用される樹脂成形品や、無機ガラス代替材料として用いられる有機ガラス等に用いられる樹脂成形品などにおいては、表面保護や意匠性の付与などを目的として、加飾シートを用いた積層技術が用いられている。このような技術に使用される加飾シートとしては、ラミネート型の加飾シートと、転写型の加飾シート(すなわち転写シート)とに大別することができる。
【0003】
ラミネート型の加飾シートは、支持基材上に保護層が最表面に位置するように積層されており、支持基材側に成形樹脂を積層することで、樹脂成形品中に支持基材が取り込まれるように用いられる。一方、転写型の加飾シートは、支持基材上に直接、または必要により設けられる平坦部分を介して保護層が積層されており、支持基材とは反対側に成形樹脂を積層後、支持基材を剥離することで、樹脂成形品に支持基材が残らないようにして用いられる。これら2種類の加飾シートは、樹脂成形品の形状や求める機能などに応じて使い分けがなされている。
【0004】
転写型の加飾シートの場合、保護層上には、意匠層や接着層などの他の層を積層することがあるという点、平坦部分を有する場合には、平坦部分の上に保護層を積層するという点、成形加工において保護層から転写用基材を剥離されなければならないという点、転写用基材を剥離することで表出した面が優れた物性を発現しなければならないという点などから、ラミネート型に比して、保護層を形成する樹脂組成物の設計がより難しいという問題がある。
【0005】
また、三次元曲面などの複雑な表面形状を有する樹脂成形体の加飾には、射出成形同時加飾方法が用いられてきた。射出成形同時加飾方法とは、射出成形の際にインモールド成形用金型内に挿入された加飾シートを、キャビティ内に射出注入された溶融した射出樹脂と一体化させて、樹脂成形体の表面に加飾を施す方法である。さらに、樹脂成形体と一体化される加飾シートの構成の違い(前述のラミネート型と転写型の加飾シート)によって、通常、射出成形同時ラミネート加飾法と、射出成形同時転写加飾法とに大別される。
【0006】
射出成形同時転写加飾法においては、転写シートの転写層側を金型の内側に向けて配し、転写層側から熱盤によって加熱し、該転写シートが金型内形状に沿うように成形する。次いで、キャビティ内に溶融した射出樹脂を射出して、該転写シートと射出樹脂とを一体化する。そして、樹脂成形体を冷却して金型から取り出した後、該転写シートの転写用基材を剥離することにより、転写層を転写した加飾層を有する加飾成形品が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4885281号
【文献】特許第6866963号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
意匠として艶消し感が求められる製品では、微細な凹凸を有するマット層を設けた転写シートを用いて装飾が行われる。特許文献1及び特許文献2には、基材上に部分的にマット層を設けた転写シートを用いて、表面で部分的に艶消し感が異なる成形品を製造する方法が開示されている。
【0009】
これらの転写シートにおいて、マット層は、平坦部分と基材の間に設けられる。また、平坦部分のマット層側とは反対面側には、保護層などを含む転写層が設けられている。転写シートを射出成形に供すると、成形時の熱と圧力によって、平坦部分が大きく圧縮される。一方、マット層は、平坦部分よりも硬いため変形が小さい。結果として、転写シートを射出成形に供すると、マット層の凹凸形状が転写層に賦形され、得られる加飾成形品表面には、凹凸形状の意匠が付与される。
【0010】
ところが、従来の転写シートを用いた場合、加飾成形品表面の凹凸形状の意匠は、加飾成形品表面に対して垂直方向から観察すると視認しやすい一方、加飾成形品表面に対して水平方向に近い方向から観察すると、視認しにくい場合がある。
【0011】
このような状況下、本開示は、加飾成形品の表面に対して、様々な角度から観察しても視認しやすい凹凸形状を付与し得る、転写シートを提供することを主な目的とする。さらに、本開示は、当該転写シートの製造方法、当該転写シートを利用した加飾成形品の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 離型シート上に転写層を有する転写シートであって、
前記離型シートは、前記転写層側から順に、剥離層と、基材とを備え、
前記剥離層は、
バインダー樹脂及びマット剤を含み、前記転写層側に複数の凸部を有する凹凸部分と、
前記凹凸部分よりも前記転写層側の表面が相対的に平坦である平坦部分と、
を有しており、
前記剥離層の前記凹凸部分の前記複数の凸部が、前記転写層に接している、転写シート。
項2. 前記転写層の前記凹凸部分と接している表面は、前記凹凸部分と接することで凹凸形状を有しており、
前記転写層の前記凹凸形状に含まれる複数の凸部の先端は、前記転写層が前記平坦部分と接している表面よりも、前記基材側に位置している、項1に記載の転写シート。
項3. 前記凹凸部分に含まれる前記マット剤の吸油量が、150ml/100g以上である、項1または2に記載の転写シート。
項4. 前記凹凸部分の前記複数の凸部の平均ピーク高さが、3.3μm以上である、項1~3のいずれか1項に記載の転写シート。
項5. 前記平坦部分の厚みは、前記凹凸部分の平均高さの5%以上650%以下である、項1~4のいずれか1項に記載の転写シート。
項6. 前記平坦部分は、前記マット剤を含む、項1~5のいずれか1項に記載の転写シート。
項7. 項1~6のいずれか1項に記載の転写シートの前記転写層が、被着体に積層されてなる、加飾成形品。
項8. 項1~6のいずれか1項に記載の転写シートの前記転写層を被着体と接着し、前記被着体上に前記転写シートを積層する工程と、
前記転写シートの前記離型シートを剥離して、前記被着体上に前記転写層を転写する工程と、を含む、加飾成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、加飾成形品の表面に対して、様々な角度から観察しても視認しやすい凹凸形状を付与し得る、転写シートを提供できる。また、本開示によれば、当該転写シートの製造方法、当該転写シートを利用した加飾成形品の製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の転写シートの一形態の断面構造の模式図である。
図2】本開示の転写シートの一形態の断面構造の模式図である。
図3】本開示の転写用基材付き加飾成形品の一形態の断面構造の模式図である。
図4】本開示の転写用基材付き加飾成形品の一形態の断面構造の模式図である。
図5】本開示の加飾成形品の一形態の断面構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の転写シートは、離型シート上に転写層を有する転写シートであって、離型シートは、転写層側から順に、剥離層と、基材とを備え、剥離層は、バインダー樹脂及びマット剤を含み、転写層側に複数の凸部を有する凹凸部分と、凹凸部分よりも転写層側の表面が相対的に平坦である平坦部分とを有しており、剥離層の凹凸部分の複数の凸部が、転写層に接していることを特徴とする。当該特徴を備える本開示の転写シートは、加飾成形品の表面に対して、様々な角度から観察しても視認しやすい凹凸形状を付与し得る。以下、本開示の転写シート、転写用基材付き加飾成形品、及び加飾成形品について詳述する。
【0016】
なお、本開示において、「~」で示される数値範囲は「以上」、「以下」を意味する。例えば、2~15mmとの表記は、2mm以上15mm以下を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、別個に記載された、上限値と上限値、上限値と下限値、又は下限値と下限値を組み合わせて、それぞれ、数値範囲としてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0017】
[転写シート10]
図1及び図2の模式図に示すように、本開示の転写シート10は、離型シート20上に転写層30を有する。離型シートは20、転写層30側から順に、剥離層23と、基材22とを備える。剥離層23は、凹凸部分24と平坦部分25とを備えている。凹凸部分24は、転写層30側に複数の凸部を有する。また、平坦部分25は、凹凸部分24よりも転写層30側の表面が相対的に平坦である。本開示の転写シート10を離型シート20側から平面視した場合、凹凸部分24と平坦部分25とは交互に形成されていることが好ましく、凹凸部分24と平坦部分25とは交互に形成されてパターンを形成していることが好ましい。凹凸部分24と平坦部分25とが形成するパターン形状については、後述のとおりである(例えば木目導管パターンなどである)。
【0018】
本開示の転写シート10においては、剥離層23の凹凸部分24の複数の凸部が、転写層30に接している。図1及び図2の模式図においては、それぞれ、剥離層23の凹凸部分24の複数の凸部が、転写層30の保護層32に接している。転写層30の離型シート20側の表面は、剥離層23の凹凸部分24及び平坦部分25と接しており、凹凸部分24の凹凸形状の隙間(凹部)を転写層30の離型シート20側の最表層(図1及び図2では保護層32)が埋めている。
【0019】
図1において、凹凸部分24の凹部には平坦部分25を形成する樹脂組成物が含浸されていない。すなわち、凹凸部分24と平坦部分25の形成において、平坦部分25を形成する樹脂組成物は、凹凸部分24を形成する位置とは異なる位置に塗布されている。一方、図2において、凹凸部分24の凹部の一部には、平坦部分25を形成する樹脂組成物が含まれている。すなわち、平坦部分25の形成において、平坦部分25を形成する樹脂組成物は、凹凸部分24の上から塗布されており、凹凸部分24の凹部に部分的に含浸されている。
【0020】
図1及び図2において、転写層30の凹凸部分24と接している表面は、凹凸部分24と接することで凹凸形状を有している。さらに、転写層30の凹凸形状に含まれる複数の凸部の先端は、転写層30が平坦部分25と接している表面よりも、基材22側に位置している。このため、離型シート20を転写層30から剥離した際、転写層30の表面の凹凸形状の凸部は、平坦部分が位置していた部分よりも突出することになり(図5参照)、様々な角度から観察した場合に凹凸形状がより一層視認しやすくなるため、特に好ましい。
【0021】
図1及び図2において、転写層30は、離型シート20側から順に、保護層32、プライマー層34、印刷層36、及び接着層38を備える。本開示の転写シート10において、転写層30は、保護層32を有することが好ましく、プライマー層34、印刷層36、及び接着層38は、それぞれ、必要に応じて設けられる層である。
【0022】
<基材22>
本開示において、基材は、転写層を被着体に転写するための転写用基材として機能する。本開示の転写シート(例えば図1,2参照)を被着体に転写することで、転写用基材付き加飾成形品(例えば図3,4参照)が得られる。さらに、転写用基材付き加飾成形品から、基材と剥離層を含む離型シートを剥離することにより、加飾成形品が得られる。
【0023】
基材の形態は、シート状及びフィルム状のいずれであっても良い。基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチルなどのアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ナイロン6又はナイロン66などで代表されるポリアミド系樹脂などの樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。これらのプラスチックフィルムの中では、耐熱性、寸法安定性に優れる2軸延伸ポリエステルフィルムが好適である。
【0024】
基材の厚みは、12~150μmであることが好ましく、25~100μmであることがより好ましい。また、基材の表面には、剥離層との接着性を高めるために、コロナ放電処理、酸化処理等の物理的な処理や、アンカー剤又はプライマーと呼ばれる塗料の塗布を予め行ってもよい。
【0025】
また、基材の剥離層側とは反対側には、帯電防止層が設けられていても良い。帯電防止層を設けることにより、転写シートの帯電を抑制できるため、異物付着等を抑制できる。このため、転写作業性を向上することができる。帯電防止層は、基材と接触していても良いし、帯電防止層と基材との間にブロッキング防止層やプライマー層などを設けても良い。
【0026】
<剥離層23>
剥離層は、凹凸部分と平坦部分とを備えている。凹凸部分は、転写層側に複数の凸部を有する。凹凸部分の基材側の表面は平坦である。また、平坦部分は、凹凸部分よりも転写層側の表面が相対的に平坦である。また、平坦部分の基材側の表面は平坦である。以下、剥離層の凹凸部分と平坦部分について、それぞれ説明する。
【0027】
(凹凸部分24)
凹凸部分は、基材の一方の面上の一部のみに設けられる。凹凸部分を部分的に形成することにより、転写層の表面(転写層と剥離層との界面)に凹凸部分の凹凸形状に対応した、凹凸形状を付与することができる。本開示の転写シートを用いることにより、例えば、保護層面内で艶差があるパターンの意匠が付与された加飾成形品を製造することができる。
【0028】
剥離層23の凹凸部分24は、基材の表面に接触していてもよいし、基材と凹凸部分24との間にプライマー層、易接着層などの他の層(例えば、基材と剥離層23との密着性を高める層)を備えており、凹凸部分24は当該他の層の表面に接触していてもよい。同様に、後述する剥離層23の平坦部分25は、基材の表面に接触していてもよいし、基材と平坦部分25との間にプライマー層、易接着層などの他の層(例えば、基材と剥離層23との密着性を高める層)を備えており、平坦部分25は当該他の層の表面に接触していてもよい。剥離層23の凹凸部分24は、基材の表面に接触していることが好ましい。また、剥離層23の平坦部分25は、基材の表面に接触していることが好ましい。
【0029】
また、剥離層23の凹凸部分24及び平坦部分25の基材側の表面は、同じ層の表面に接触するように形成されていることが望ましい。具体的には、凹凸部分24及び平坦部分25は、基材の表面又は前述した他の層(基材と剥離層23との間の層)の表面に接触するようにして形成されていることが好ましく、基材の表面に接触するようにして形成されていることがより好ましい。
【0030】
前記の通り、本開示の転写シートにおいては、剥離層の凹凸部分の複数の凸部が、転写層に接している。図1及び図2の模式図においては、それぞれ、剥離層23の凹凸部分24の複数の凸部が、転写層30の保護層32に接している。転写層30の離型シート20側の表面は、剥離層23の凹凸部分24及び平坦部分25と接しており、凹凸部分24の凹凸形状の隙間(凹部)を転写層30の離型シート20側の表面層(図1及び図2では保護層32)が埋めている。
【0031】
本開示において、凹凸部分は、バインダー樹脂及びマット剤を含む。バインダー樹脂は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。熱硬化性樹脂で凹凸部分を形成する場合、通常、凹凸部分を硬化させた後に後述する平坦部分を形成することになり、凹凸部分と平坦部分との密着が悪くなる。このため、本開示の転写シートを被着体に転写する際に、凹凸部分と平坦部分との間で剥離し、剥離層が加飾成形品に残存しやすくなる。また、硬化収縮により凹凸部分の形状が乱れ、加飾成形品としたときに艶消し部分の意匠性が悪くなる傾向がある。また、凹凸部分の形成時に熱硬化性樹脂を完全に硬化させないで、凹凸部分上に平坦部分を形成する場合に、硬化の程度によって平坦部分形成用塗布液に含まれる溶剤により凹凸部分が膨潤する可能性が有る。これにより、加飾成形品としたときに艶消し部分の意匠性が悪くなる恐れがある。本開示では熱可塑性樹脂をバインダー樹脂の主成分として凹凸部分を形成することにより、平坦部分と凹凸部分との密着性を良好にすることができる。この結果、本開示の転写シートを用いて転写する際に、平坦部分と転写層(保護層)との間の剥離強度の差を生じにくくすることができ、剥離性を良好にすることができる。また、熱可塑性樹脂を用いれば、硬化収縮や溶剤による膨潤の影響がないため凹凸形状が滑らかとなり、加飾成形品としたときの外観を良好にすることもできる。本開示において、バインダー樹脂は実質的に熱可塑性樹脂からなることが好ましい。
【0032】
なお、本開示において、バインダー樹脂の主成分が熱可塑性樹脂である場合の「主成分」とは、バインダー樹脂中の熱可塑性樹脂の割合が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であることを意味し、また、「実質的に」とは、バインダー樹脂中の熱可塑性樹脂の割合が95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは100%であることを意味する。
【0033】
また、本開示において、凹凸部分は、バインダー樹脂及びマット剤を主成分として形成されていることが好ましく、実質的にバインダー樹脂及びマット剤からなることが好ましい。この場合の「主成分」とは、凹凸部分中のバインダー樹脂及びマット剤の割合が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であることを意味し、また、「実質的に」とは、凹凸部分中のバインダー樹脂及びマット剤の割合が95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは100%であることを意味する。
【0034】
本開示の効果をより好適に発揮する観点から、凹凸部分の平均高さは、好ましくは約0.1μm以上、より好ましくは約0.5μm以上、さらに好ましくは約1.0μm以上であり、また、好ましくは約8μm以下、より好ましくは約6μm以下、さらに好ましくは約4μm以下であり、好ましい範囲としては、0.1~8μm程度、0.5~6μm程度などが挙げられる。当該平均高さの測定法は、後述する<剥離層の構造分析>の欄に記載の通りであり、具体的には実施例に記載の方法による。
【0035】
また、本開示の効果をより好適に発揮する観点から、凹凸部分の平均ピーク高さは、好ましくは約1.5μm以上、より好ましくは約2.0μm以上、さらに好ましくは約2.5μm以上であり、また、好ましくは約10μm以下、より好ましくは約8μm以下、さらに好ましくは約6μm以下であり、好ましい範囲としては、1.5~10μm程度、2~8μm程度などが挙げられる。凹凸部分の平均ピーク高さとは、凹凸部分に含まれる凸部の高さ(基準は、基材の転写層側の表面の位置)のうち、高さの高い凸部の上位10%についての高さの平均値を意味する。例えば、凹凸部分に凸部が50本含まれている場合であれば、高さの高い上位5本の高さの平均値である。当該平均ピーク高さの測定法は、後述する<剥離層の構造分析>の欄に記載の通りであり、具体的には実施例に記載の方法による。
【0036】
また、本開示の効果をより好適に発揮する観点から、凹凸部分の高さのばらつき(%)(変動変数=標準偏差/平均)は、好ましくは32~80%程度、より好ましくは35~75%程度、より好ましくは40~65%程度である。当該ピーク高さのばらつき(%)の測定法は、後述する<剥離層の構造分析>の欄に記載の通りであり、具体的には実施例に記載の方法による。
【0037】
<剥離層の構造分析>
剥離層の凹凸部分の構造分析については、基材上に凹凸部分が印刷され、且つ、平坦部分を印刷する前のシートが入手可能な場合は、当該シートを分析対象とする。市販の形状解析レーザー顕微鏡(例えばキーエンス社製のVK-X1000)を使用する。凹凸部分の任意の100um幅を測定エリアとして、合計3カ所を測定する。その際、剥離層が形成されている基材の表面を高さゼロ地点とする。一方、前記のシートが入手できない場合には、別の構造分析法として、転写シートを断面研磨したサンプルに対して、市販の走査電子顕微鏡(例えば日立ハイテク社製のFlexSEM1000II)を用いて断面観察を行い、50μm幅のエリアの凹凸部分の高さ6回測定する。なお、断面観察による構造分析法には、より多くの時間を要する。
【0038】
基材面内での凹凸部分の面積割合は、凹凸部分及び平坦部分によって形成するパターン形状などに応じて選択され、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、12%以上であることがさらに好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。また、該面積割合は、99%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましく、90%以下であることがさらに好ましく、88%以下であることがさらに好ましく、85%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(以下、「ABS樹脂」とも称する。)、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、セルロース系樹脂などが使用される。本開示においては、上記列挙した樹脂を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。これらの中で、マット剤の分散性、平坦部分との密着性の観点から、アクリル樹脂及びセルロース系樹脂であることが好ましい。また、後述する保護層などの形成の際に電離放射線を使用する場合でも、アクリル樹脂及びセルロース系樹脂は電離放射線に対する安定性を有するため好適に使用することができる。アクリル樹脂としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の異なる(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体、又は(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル樹脂として、より具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸エチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体等の(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。セルロース樹脂としては、ニトロセルロース樹脂などが挙げられる。
【0040】
熱可塑性樹脂は、重量平均分子量が10,000以上200,000以下であることが好ましく、30,000以上150,000以下であることがより好ましい。上記分子量範囲とすることにより、凹凸部分形成用塗工液の調整が容易であるとともに、凹凸部分の形状安定性を良好にすることができる。なお、ここでの「重量平均分子量」は、ゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0041】
凹凸部分に含有するマット剤は、平均粒径が0.5μm以上であることが好ましい。マット剤の平均粒径が0.5μm以上であることにより、凹凸部分に起因する凹凸形状が保護層に形成されやすくなる。保護層に十分な大きさの凹凸形状を付与するために、マット剤の平均粒径は1.0μm以上であることが好ましく、2.0μm以上であることがより好ましく、3.0μm以上であることが更に好ましい。また、加飾成形品としたときに、凹凸部分による凹凸形状が付与された領域での印刷層の視認性や、凹凸部分の形成のしやすさを考慮すると、マット剤の平均粒径は20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。
【0042】
凹凸部分の平均高さに対するマット剤の平均粒径の比率は、1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.4以上であることが更に好ましい。該比率が上記数値を満たすことにより、加飾成形品の十分な艶消し効果を付与することができる。一方、マット剤の平均粒径に対して凹凸部分が薄いと、マット剤が凹凸部分から脱落する場合があることから、マット剤の保持性を考慮すると該比率は10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることが更に好ましい。本明細書において、平均粒径は、層の厚み方向の断面を、加速電圧3.0kV、拡大倍率5万倍の条件にて走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、無作為に選択した100個の粒子の非凝集体について測定した粒子径の平均値(算術平均径)である。
【0043】
マット剤は、無機粒子であっても良く、有機粒子であっても良い。無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、珪藻土、ゼオライト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、ガラスビーズなどが挙げられる。また、有機粒子としては、各種の合成樹脂粒子、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルマリン縮合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂等が挙げられ、これらの1種又は2種を混合して用いることもできる。粒子の形状は球形であってもよいし、不定形であってもよい。特に、シリカ粒子は、加飾成形品の表面のマット感を良好にするとともに、生産コストが低いという利点があることから好ましい。
【0044】
本開示の効果をより好適に発揮する観点から、マット剤の吸油量は、好ましくは150ml/100g以上、より好ましく200ml/100g以上、さらに好ましくは250ml/100g以上であり、上限については例えば450ml/100g以下が挙げられ、好ましい範囲としては、150~450ml/100g、200~350ml/100gが挙げられる。凹凸部分に含まれるマット剤の吸油量が150ml/100g以上であると、例えば平坦部分を形成する樹脂組成物を凹凸部分の上から形成した場合(図2参照)に、当該樹脂組成物が凹凸部分(特に微細な凹部中)に吸収されやすく、凹凸部分の凹凸形状が平坦化することを好適に抑制することができる。
【0045】
マット剤の吸油量は、JIS K 5101-13-2 第13部:吸油量―第2節:煮あまに油法の規定に準拠して測定される値である。
【0046】
マット剤は、バインダー樹脂100質量部(固形分)に対し、50質量部以上180質量部以下(固形分)で含有していることが好ましい。50質量部以上とすることで、凹凸部分表面、及び、凹凸部分上の平坦部分の表面に、適度な微細凹凸形状を形成することができる。この結果、加飾成形品に所望の艶消し意匠を付与することが可能となる。熱硬化性樹脂とマット剤とを含む凹凸部分を形成する場合、層の柔軟性が低いため、加飾成形品の製造過程で凹凸部分にクラックが入り形状が乱れ、加飾成形品としたときの艶消し部分の意匠性が悪くなる恐れがある。このような事情から、熱硬化性樹脂を用いる場合はマット剤の添加量を多くすることができないという事情があった。本開示では、凹凸部分を熱可塑性樹脂で形成することにより、マット剤を上記配合量としても凹凸部分に柔軟性があり、加飾成形品の製造過程で凹凸部分の形状が保持されたと考えられる。凹凸形状の形成性を考慮すると、マット剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部(固形分)に対し、75質量部以上であることがより好ましく、90質量部以上であることが更に好ましい。180質量部以下とすることで、凹凸部分の膜強度の低下を抑制し、転写シート製造過程及び加飾成形品の製造過程で凹凸形状を維持することができる。また、離型シートを剥離する際に剥離強度を略均一として、転写不良を抑制することができる。更に、加飾成形品としたときに印刷層の視認性が良好となる。マット剤の含有量は、160質量部以下であることがより好ましく、140質量部以下であることが更に好ましい。
【0047】
凹凸部分と転写層の表面との接着力を低くし、剥離性を高める観点からは、凹凸部分は、シリコーン、フッ素などの剥離性を高める添加剤を含めることが好ましい。当該添加剤の含有量としては、バインダー樹脂100質量部(固形分)に対し、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下であり、好ましい範囲としては、0.3~5質量部程度、0.5~3質量部程度が挙げられる。なお、前述のように平坦部分を形成する樹脂組成物を凹凸部分の上から形成した場合、凹凸部分の凹部には平坦部分を形成する樹脂組成物が存在するため、凹凸部分と転写層との接着性は低くなり、剥離性が高くなるという利点がある。よって、この場合、剥離性を高める添加剤を凹凸部分に含める利点は小さくなる。
【0048】
凹凸部分の形成パターンは、後述する印刷層のパターンに応じて適宜選択されることが好ましい。パターンとしては、例えば、木目(木目導管)、石目、布目、砂目、円、四角形、多角形、幾何学模様、文字等がある。
【0049】
凹凸部分の形成では、まず、バインダー樹脂である熱可塑性樹脂及びマット剤に、必要に応じて、添加剤を加え、適当な溶媒を添加した凹凸部分形成用塗工液を調整する。この塗工液を、基材上にグラビア印刷法、スクリーン印刷法などの公知の手段により塗布し、乾燥させて、部分的に凹凸部分を形成する。
【0050】
(平坦部分25)
平坦部分は、基材上に部分的に設けられる。すなわち、基材上には、平坦部分が設けられている領域と、凹凸部分が設けられている領域とが存在している。さらに、凹凸部分の凹部には、平坦部分を形成する樹脂組成物が含浸されていてもよい。例えば基材の一方側の表面に凹凸部分を部分的に形成し、さらに、基材の全面(凹凸部分の上も含めて)に対して、平坦部分を形成する樹脂組成物を塗布、乾燥、硬化させると、基材の凹凸部分が形成されていない部分には平坦部分が形成され、さらに、凹凸部分の凹部に当該樹脂組成物が浸透し、当該凹部の一部を平坦部分を形成する樹脂組成物が埋めることになる。
【0051】
平坦部分は、転写層側の表面が凹凸部分よりも相対的に平坦である。例えば、平坦部分の平均ピーク高さは、好ましくは約4μm以下、より好ましくは約3μm以下、さらに好ましくは約2μm以下である。当該平均高さの測定法は、前述する<剥離層の構造分析>の欄に記載の方法で確認することができ、具体的には実施例に記載の方法によって確認することができる。
【0052】
パターン状に形成された凹凸部分の間に平坦部分を配置することにより、前記凹凸部分のパターンを維持することができる。
【0053】
前記の通り、本開示の転写シートにおいては、凹凸部分の凸部が転写層の表面に接しているが、平坦部分についても転写層の表面に接している。
【0054】
平坦部分の樹脂成分は、転写層の表面(例えば保護層)との接着力が低く、基材から転写層を容易に剥離し得る材料であれば特に限定されない。平坦部分を形成する樹脂成分の組成は、凹凸部分を形成する樹脂成分の組成とは異なることが好ましい。平坦部分を形成する樹脂成分としては、例えば、熱硬化性樹脂組成物の硬化物、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物が挙げられる。具体的には、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体樹脂等が挙げられる。これら樹脂成分の中でも、強度に優れるとともに、瞬時に硬化するため正確かつ精密な形状を付与できる電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物が好ましく、電子線硬化性樹脂組成物の硬化物がより好ましい。
【0055】
電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線を照射することにより、架橋、硬化する樹脂のことであり、電離放射線硬化性官能基を有するものである。ここで、電離放射線硬化性官能基とは、電離放射線の照射によって架橋硬化する基であり、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性二重結合を有する官能基等が好ましく挙げられる。また、電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も含まれる。これらの中でも、特に電子線硬化性樹脂組成物の硬化物がより好ましい。電離放射線硬化性樹脂としては、具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマーの中から適宜選択して用いることができる。
【0056】
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好ましく、中でも多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。耐熱性と成形性との観点から、官能基数は2以上8以下が好ましく、2以上6以下がより好ましく、2以上4以下が更に好ましく、特に2以上3以下が好ましい。これらの多官能性(メタ)アクリレートモノマーは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。また、これらの多官能性(メタ)アクリレートモノマー1種類以上と後述の重合性オリゴマー1種以上とを混合した組成物として用いても良い。両者を混合した組成物とすることにより硬化物の架橋密度、架橋間分子量等を調整し、硬化物の諸物性を調整することができる。
【0057】
重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。これらの重合性オリゴマーの官能基数は、耐熱性及び成形性の観点から、2以上8以下のものが好ましく、上限としては、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましく、特に3以下が好ましい。
【0058】
特に、凹凸部分との密着性を考慮すると、樹脂成分としてアクリル(メタ)アクリレート系化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましい。ここで「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。樹脂成分は、アクリル(メタ)アクリレート系化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物のいずれかであっても良く、これらの混合物であっても良い。アクリル(メタ)アクリレート系化合物及びウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、モノマーでも良いし、オリゴマーでも良いし、モノマー及びオリゴマーの混合物であっても良い。
【0059】
平坦部分に使用されるモノマー及びオリゴマーの重量平均分子量は、耐熱性及び成形性の観点から、250以上30,000以下が好ましく、250以上20,000以下がより好ましく、250以上15,000以下が更に好ましい。ここで、重量平均分子量は、GPC分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された平均分子量である。
【0060】
本開示において、平坦部分は、熱硬化性樹脂組成物の硬化物又は電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物を主成分として形成されていることが好ましく、実質的に熱硬化性樹脂組成物の硬化物又は電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなることが好ましい。この場合の「主成分」とは、平坦部分中の熱硬化性樹脂組成物の硬化物又は電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物の割合が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であることを意味し、また、「実質的に」とは、平坦部分中の熱硬化性樹脂組成物の硬化物又は電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物の割合が95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは100%であることを意味する。
【0061】
平坦部分を形成する樹脂組成物には、必要に応じて、硬化剤、重合開始剤などの添加剤が添加されていても良い。
【0062】
また、本開示の効果を好適に発揮する観点から、凹凸部分と平坦部分とは、共通するバインダー樹脂を含んでいても良い。ただし、前述の通り、平坦部分を形成する樹脂成分の組成は、凹凸部分を形成する樹脂成分の組成とは異なることが好ましい。バインダー樹脂(熱可塑性樹脂)の種類については、凹凸部分について説明した通りである。
【0063】
平坦部分は、保護層との離型性を向上するために離型剤を含有してもよい。離型剤としては、シリコーンの他、合成ワックスや天然ワックス等のワックス類が挙げられる。合成ワックスとしては、ポリエチレンワックスやポリプピレンワックス等のポリオレフィンワックスが挙げられる。また、平坦部分の硬度向上、離型剤のブリード抑制、粒子の分散性などの観点から、離型剤として、反応性シリコーン等の架橋硬化可能な離型成分を用いることが好ましい。平坦部分の全固形分に対する離型剤の質量割合は、0.3~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましい。
【0064】
平坦部分は、保護層の印刷性の観点から隣接する凹凸層の平均厚みとの差が大きすぎない厚みであることが好ましい。具体的に、平坦部分の厚みは、凹凸層の平均厚みとの差が10μm以下が望ましく、より好ましくは8μm以下m、さらには5μm以下が好ましい。平坦部分の厚みは、凹凸部分の平均高さの5~650%であることが好ましく、10~450%であることがより好ましく、15~200%であることがさらに好ましい。
【0065】
平坦部分は、更にマット剤を含んでいても良い。こうすることにより、加飾成形品としたときに、全体的に艶消し感を有しながら、更に領域ごとの艶差を明瞭にすることができる。マット剤としては、凹凸部分で使用したものと同じものを使用することができる。特にコストの観点から、シリカ粒子を含むことが好ましい。
【0066】
平坦部分がマット剤を含む場合、マット剤の添加量は、凹凸部分での添加量よりも少なくすることが好ましい。具体的に、マット剤の添加量は、平坦部分の樹脂成分100質量部(固形分)に対し、0.1質量部以上10質量部以下(固形分)、より好ましくは1.0質量部以上5質量部以下で含有していることが好ましい。添加量を上記範囲とすることにより、加飾成形品に所望の艶消し意匠を与えることができる。
【0067】
平坦部分に含まれるマット剤の平均粒径は、0.5μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であることがより好ましい。マット剤の平均粒径が0.5μm以上であることにより、平坦部分による凹凸形状が保護層に形成されやすくなる。平坦部分に含まれるマット剤の平均粒径は、加飾成形品としたときの印刷層の視認性などを考慮すると、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。また凹凸部分と平坦部分の艶差が大きい方が凹凸部分の視認性が良いため、平坦部分に含まれるマット剤の平均粒径は凹凸部分に含まれる平均粒径よりも0.2μm以上小さいことが好ましく、0.5μm以上小さいことがより好ましい。
【0068】
平坦部分の厚みに対するマット剤の平均粒径の比率は、1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.4以上であることが更に好ましい。該比率が上記数値を満たすことにより、加飾成形品の十分な艶消し効果を付与することができる。一方、マット剤の平均粒径に対して平坦部分が薄いと、マット剤が凹凸部分から脱落する場合があることから、マット剤の保持性を考慮すると該比率は10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることが更に好ましい。加飾成形品としたときに凹凸部分に対応する箇所とその周囲(凹凸部分が設けられていなかった箇所)とで艶差がある意匠とするために、凹凸部分及び平坦部分に含まれるマット剤の平均粒径、添加量、及び層厚みに対するマット剤平均粒径の比率は、互いに異ならせることが好ましく、凹凸部分が平坦部分に比してマットな意匠を示す態様がより好ましい。
【0069】
平坦部分は、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式、凸版印刷方式、シルクスクリーン印刷方式等の公知の印刷方式で形成することができる。
【0070】
〔転写層〕
<保護層>
保護層は、転写層の離型シート側に設けられる。保護層の離型シート側の表面形状は、凹凸部分上に形成された領域は、凹凸部分の凹凸形状に対応した形状となる。一方、保護層が平坦部分と接触している場合、保護層の平坦部分上に形成された領域は、平坦部分の表面形状に対応した形状となる。
【0071】
保護層は硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましい。硬化性樹脂組成物の硬化物としては、熱硬化性樹脂組成物の硬化物、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物、及び、これらの混合物の硬化物が挙げられ、これらの中でも、保護層の耐擦傷性の観点から電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物が好ましい。また、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物の中でも、保護層の形成時点で架橋硬化を完了させやすいとの観点から、電子線硬化性樹脂組成物の硬化物が好ましい。
【0072】
熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂を含む組成物であり、加熱により、硬化する樹脂組成物である。熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物には、これら硬化性樹脂に、必要に応じて硬化剤が添加される。
【0073】
電離放射線硬化性樹脂としては、具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマーの中から適宜選択して用いることができる。
【0074】
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好ましく、中でも多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられ、アクリロイル基を有するアクリレートモノマーが好ましい。これらの重合性オリゴマーは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。重合性モノマーの官能基数は2以上8以下が好ましく、2以上6以下がより好ましく、2以上4以下が更に好ましく、特に2以上3以下が好ましい。
【0075】
重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
【0076】
これらの重合性オリゴマーは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。重合性オリゴマーの中でもポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマーは、主鎖にカーボネート結合を有し、かつ末端または側鎖に(メタ)アクリレート基を有するものであれば特に制限されず、ポリカーボネート骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであるポリカーボネート系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであってもよい。これらの重合性オリゴマーの官能基数は、耐熱性及び成形性の観点から、2以上8以下のものが好ましく、上限としては、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましく、特に3以下が好ましい。
【0077】
電離放射線硬化性樹脂は、上記多官能性(メタ)アクリレート等とともに、その粘度を低下させる等の目的で、単官能性(メタ)アクリレートを適宜併用することができる。これらの単官能性(メタ)アクリレートは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
保護層に使用されるモノマー及びオリゴマーの重量平均分子量は、耐熱性及び成形性の観点から、250以上30,000以下が好ましく、250以上20,000以下がより好ましく、250以上15,000以下が更に好ましい。
【0079】
保護層中には、有機粒子及び無機粒子等の粒子を実質的に含有しないことが好ましい。保護層中に粒子を含有しないことにより、下層となる印刷層の絵柄を視認しやすくすることができる。保護層中に粒子を実質的に含有しないとは、保護層の全固形分の1質量%以下であることを意味し、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0質量%である。
【0080】
保護層は、硬化性樹脂組成物の硬化物以外の樹脂成分として、更に熱可塑性樹脂を含有していてもよい。保護層が熱可塑性樹脂を含むことにより、成形時のクラックを抑制し、成形性を良好にすることができる。熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂等の汎用の樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の含有量は、保護層の全固形分の0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましく、1~5質量%であることがさらに好ましい。
【0081】
保護層の厚みは、表面硬度及び成形性のバランスの観点から、0.5~30μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましく、1~10μmであることがさらに好ましい。
【0082】
保護層は、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式、凸版印刷方式、シルクスクリーン印刷方式等の公知の印刷方式で形成することができる。
【0083】
なお、保護層を形成する時点で熱硬化性樹脂組成物及び/又は電離放射線硬化性樹脂組成物を完全硬化させてもよいが、成形性の観点から、保護層を形成する時点では熱硬化性樹脂組成物及び/又は電離放射線硬化性樹脂組成物を未硬化又は半硬化の状態にしておき、被着体に転写した後に熱硬化性樹脂組成物及び/又は電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化を進行させ、完全硬化させてもよい。
【0084】
<印刷層>
印刷層は、加飾成形品に所望の意匠性を付与するための層である。印刷層のパターンは任意であり、例えば、木目、石目、布目、砂目、円、四角形、多角形、幾何学模様、文字、ベタ印刷等が挙げられる。
【0085】
印刷層は、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、セルロース系樹脂等のバインダー樹脂と、顔料及び/又は染料とを含むことが好ましい。印刷層の厚みは、意匠性の観点から0.5~40μmが好ましく、1~30μmがより好ましい。
【0086】
印刷層は、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式、凸版印刷方式、シルクスクリーン印刷方式等の公知の印刷方式で形成することができる。
【0087】
<接着層>
接着層は、樹脂成形体等である被着体と、転写層との接着性を良好にする役割を有する。なお、保護層と被着体との接着性が良好な場合は、接着層を設けなくてもよい。
【0088】
接着層は、被着体の素材に適した接着性を有する樹脂を使用することが好ましい。例えば、被着体の材質がアクリル系樹脂の場合は、アクリル系樹脂を用いることが好ましい。また、被着体の材質がポリフェニレンオキサイド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用することが好ましい。さらに、被着体の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂を使用することが好ましい。接着層には、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等の添加剤を配合してもよい。接着層の厚みは、0.1~10μmであることが好ましく、0.5~5μmであることがより好ましい。
【0089】
接着層は、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式、凸版印刷方式、シルクスクリーン印刷方式等の公知の印刷方式で形成することができる。
【0090】
<プライマー層>
プライマー層は、保護層と印刷層との密着性を向上するために、必要に応じて設けられる層である。
【0091】
プライマー層は、主に樹脂成分を含むことが好ましい。また、プライマー層の樹脂成分は、インモールド成形等の高温環境に置かれる場合において、耐熱性を付与することを考慮して、硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましい。硬化性樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂組成物、電離放射線硬化性樹脂組成物が挙げられる。プライマー層の熱硬化性樹脂組成物及び電離放射線硬化性樹脂組成物は、保護層の熱硬化性樹脂組成物及び電離放射線硬化性樹脂組成物として例示したものと同様のものを使用することができる。特に、プライマー層は、熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましい。熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等の各種ポリオール化合物と、イソシアネート化合物等の硬化剤とを含む2液硬化型ウレタン樹脂、が挙げられる。
【0092】
プライマー層の厚みは、0.1~6μmであることが好ましく、0.5~5μmであることがより好ましい。プライマー層は1層構成としても良いが、層間の密着性等を考慮して2つ以上の層を積層させた構成とすることもできる。
【0093】
プライマー層は、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式、凸版印刷方式、シルクスクリーン印刷方式等の公知の印刷方式で形成することができる。
【0094】
[加飾成形品]
本開示の転写シートを用いて製造される加飾成形品を、図1~5を用いて説明する。図3は、図1に示された転写用基材付き加飾成形品41の断面略図であり、図4は、図2に示された転写用基材付き加飾成形品41の断面略図である。また、図5は、図3の転写用基材付き加飾成形品41から離型シート20を剥離して得られる加飾成形品の断面概略図である。加飾成形品40は、被着体42と、被着体を被覆する転写層30とを有する。図5において、転写層30は、被着体側から順に、接着層38、印刷層36、プライマー層34及び保護層32を備える。保護層32が加飾成形品40の最表層に位置する。
【0095】
<被着体>
被着体は、樹脂からなる樹脂成型体である。被着体の形状は、平板状であってもよいし、曲面等を有する三次元形状であってもよい。また、被着体は有色であってもよい。
【0096】
樹脂成形体は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂から形成することができる。加飾成形品をインモールド成形により製造する場合には、樹脂成形体として熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂(耐熱ABS樹脂を含む)、AS樹脂、PC/ABS系樹脂、PC/AS系樹脂、AN樹脂、ポリフェニレンオキサイド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、およびポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。
【0097】
<加飾成形品の保護層>
本開示の加飾成形品における保護層は、離型シートの剥離層の表面形状と略相補的な凹凸形状を有する。また、保護層の平坦部分は、離型シートの剥離層の平坦部分と略相補的な凹凸形状を有することが好ましい。本開示の加飾成形品においては、例えば、保護層の表面の凹凸形状の凸部は、平坦部分よりも突出していることが好ましい。加飾成形品のこのような表面構造は、様々な角度から観察しても視認しやすい凹凸形状となる。
【0098】
[加飾成形品の製造方法]
本開示の加飾成形品は、(1)転写シートの転写層を被着体と接着し、被着体上に転写シートを積層する工程と、(2)転写シートの離型シートを剥離して、被着体上に転写層を転写する工程と、を含む。
【0099】
本開示の転写シートは、特にインモールド成形(射出成形同時転写加飾法)による加飾成形品の製造に好適に適用される。本開示によれば、三次元曲面などの複雑な表面形状を有する樹脂成型体の表面に、艶差があるパターンを転写することができる。
【0100】
インモールド成形による加飾成形品の製造方法の一実施態様は、以下の工程を有する。
(S1)転写シートの転写層側をインモールド成形用金型の内側に向けて配置する工程と、
(S2)上記インモールド成形用金型内に被着体用の樹脂を射出注入する工程と、
(S3)転写シートと、上記樹脂とを一体化させて、樹脂成形体(被着体)の表面上に転写シートを積層させた積層体を形成する工程と、
(S4)積層体を金型から取り出した後、または、樹脂成形体を金型から取り出すと同時に、転写シートの離型シートを剥離する工程。
【実施例
【0101】
以下に実施例及び比較例を示して本開示を詳細に説明する。但し本開示は実施例に限定されるものではない。
【0102】
[実施例及び比較例]
<転写シートの製造>
(実施例1)
離型シートの基材として、厚み75μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用意した。また、剥離層の凹凸部分を形成する凹凸部分用塗布液1と、剥離層の平坦部分を形成する平坦部分用塗布液を用意した。各塗布液の組成については後述の通りである。次に、グラビア印刷により、基材の一方面に、凹凸部分用塗布液1をパターン状(木目導管パターン)に塗布、乾燥させた。次に、平坦部分用塗布液を前記凹凸部分用塗布液1が塗布されていない箇所に塗布し、165KeV、7Mrad(70kGy)の条件で電子線を照射することで、凹凸部分と平坦部分とが隣接するようにして交互に形成された剥離層を形成し、離型シートを得た。凹凸部分の平均ピーク高さ(μm)、平均高さ(μm)、ピーク高さのばらつき(%)(変動変数=標準偏差/平均)及び平坦部分の厚み(μm)は、それぞれ、表1に記載のとおりである。次に、離型シートの剥離層上に、保護層用塗布液を塗布し、165KeV、5Mrad(50kGy)の条件で電子線を照射して、厚み3μmの保護層を形成した。次いで、保護層上に、プライマー層用塗布液1を塗布、乾燥し、厚み2μmのプライマー層を形成した。次いで、プライマー層上に、茶褐色インキ(アクリル系樹脂組成物)をグラビア印刷法で塗布し、乾燥し、厚み6μmの木目模様の印刷層を形成した。次いで、印刷層上に、熱可塑性樹脂(アクリル系樹脂)を溶剤で希釈した接着剤層用塗布液を塗布、乾燥し、厚み2μmのヒートシール性を有する接着層を形成した。上記の工程により、実施例1の転写シートを得た(図1参照)。
【0103】
(実施例2~5)
平坦部分の厚みを表1に記載の厚みに設定したこと以外は、実施例1と同様にして、それぞれ、実施例2~5の転写シートを得た(図1参照)。
【0104】
(実施例6)
離型シートの基材として、厚み75μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用意した。また、剥離層の凹凸部分を形成する凹凸部分用塗布液2と、剥離層の平坦部分を形成する平坦部分用塗布液を用意した。各塗布液の組成については後述の通りである。次に、グラビア印刷により、基材の一方面に、凹凸部分用塗布液2をパターン状(木目導管パターン)に塗布、乾燥させた。次に、平坦部分用塗布液を前記凹凸部分用塗布液2が塗布されていない箇所に塗布し、165KeV、7Mrad(70kGy)の条件で電子線を照射することで、凹凸部分と平坦部分とが隣接するようにして交互に形成された剥離層を形成し、離型シートを得た。凹凸部分の平均ピーク高さ(μm)、平均高さ(μm)、ピーク高さのばらつき(%)(変動変数=標準偏差/平均)及び平坦部分の厚み(μm)は、それぞれ、表1に記載のとおりである。得られた離型シートの剥離層上に、実施例1と同様にして、保護層、プライマー層、印刷層、及び接着層を順に形成して、実施例6の転写シートを得た(図1参照)。
【0105】
(実施例7)
離型シートの基材として、厚み75μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用意した。また、剥離層の凹凸部分を形成する凹凸部分用塗布液3と、剥離層の平坦部分を形成する平坦部分用塗布液を用意した。各塗布液の組成については後述の通りである。次に、グラビア印刷により、基材の一方面に、凹凸部分用塗布液3をパターン状(木目導管パターン)に塗布、乾燥させることで、凹凸部分を形成した。次に、凹凸部分の上も含めて基材上の全面に、平坦部分用塗布液を塗布し、165KeV、7Mrad(70kGy)の条件で電子線を照射することで、凹凸部分と平坦部分とが隣接するようにして交互に形成された剥離層を形成し、離型シートを得た。凹凸部分の平均ピーク高さ(μm)、平均高さ(μm)、ピーク高さのばらつき(%)(変動変数=標準偏差/平均)及び平坦部分の厚み(μm)は、それぞれ、表1に記載のとおりである。得られた離型シートの剥離層上に、実施例1と同様にして、保護層、プライマー層、印刷層、及び接着層を順に形成して、実施例7の転写シートを得た(図2参照)。
【0106】
(実施例8~9)
平坦部分の厚みを表1に記載の厚みに設定したこと以外は、実施例7と同様にして、それぞれ、実施例8~9の転写シートを得た(図2参照)。
【0107】
(実施例10~11及び比較例1)
離型シートの基材として、厚み75μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用意した。また、剥離層の凹凸部分を形成する凹凸部分用塗布液4と、剥離層の平坦部分を形成する平坦部分用塗布液を用意した。各塗布液の組成については後述の通りである。次に、グラビア印刷により、基材の一方面に、凹凸部分用塗布液4をパターン状(木目導管パターン)に塗布、乾燥させることで、凹凸部分を形成した。次に、凹凸部分の上も含めて基材上の全面に、平坦部分用塗布液を塗布し、165KeV、7Mrad(70kGy)の条件で電子線を照射することで、凹凸部分と平坦部分とが隣接するようにして交互に形成された剥離層を形成し、離型シートを得た。凹凸部分の平均ピーク高さ(μm)、平均高さ(μm)、ピーク高さのばらつき(%)(変動変数=標準偏差/平均)及び平坦部分の厚み(μm)は、それぞれ、表1に記載のとおりである。得られた離型シートの剥離層上に、実施例7と同様にして、保護層、プライマー層、印刷層、及び接着層を順に形成して、それぞれ、実施例10~11及び比較例1の転写シートを得た(図2参照)。
【0108】
(実施例12)
離型シートの基材として、厚み75μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用意した。また、剥離層の凹凸部分を形成する凹凸部分用塗布液5と、剥離層の平坦部分を形成する平坦部分用塗布液を用意した。各塗布液の組成については後述の通りである。次に、グラビア印刷により、基材の一方面に、凹凸部分用塗布液5をパターン状(木目導管パターン)に塗布、乾燥させることで、凹凸部分を形成した。次に、凹凸部分の上も含めて基材上の全面に、平坦部分用塗布液を塗布し、165KeV、7Mrad(70kGy)の条件で電子線を照射することで、凹凸部分と平坦部分とが隣接するようにして交互に形成された剥離層を形成し、離型シートを得た。凹凸部分の平均ピーク高さ(μm)、平均高さ(μm)、ピーク高さのばらつき(%)(変動変数=標準偏差/平均)及び平坦部分の厚み(μm)は、それぞれ、表1に記載のとおりである。得られた離型シートの剥離層上に、実施例7と同様にして、保護層、プライマー層、印刷層、及び接着層を順に形成して、それぞれ、実施例10~11の転写シートを得た(図2参照)。
【0109】
(比較例2)
離型シートの基材として、厚み75μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用意した。また、剥離層の凹凸部分を形成する凹凸部分用塗布液6と、剥離層の平坦部分を形成する平坦部分用塗布液を用意した。各塗布液の組成については後述の通りである。次に、グラビア印刷により、基材の一方面に、凹凸部分用塗布液6をパターン状(木目導管パターン)に塗布、乾燥させることで、凹凸部分を形成した。次に、凹凸部分の上も含めて基材上の全面に、平坦部分用塗布液を塗布し、165KeV、7Mrad(70kGy)の条件で電子線を照射することで、凹凸部分と平坦部分とが隣接するようにして交互に形成された剥離層を形成し、離型シートを得た。凹凸部分の平均ピーク高さ(μm)、平均高さ(μm)、ピーク高さのばらつき(%)(変動変数=標準偏差/平均)及び平坦部分の厚み(μm)は、それぞれ、表1に記載のとおりである。得られた離型シートの剥離層上に、実施例7と同様にして、保護層、プライマー層、印刷層、及び接着層を順に形成して、それぞれ、比較例2の転写シートを得た(図2参照)。
【0110】
(凹凸部分用塗布液)
それぞれ、下記処方の凹凸部分用塗布液1~6を調製した。
凹凸部分用塗布液1:
ニトロセルロース樹脂(熱可塑性樹脂、重量平均分子量:50,000) 100質量部
マット剤(不定形シリカ、平均粒径3μm、吸油量250ml/100g) 130質量部
シリコーン 2質量部
溶剤(酢酸エチル)適量
凹凸部分用塗布液2:
ニトロセルロース樹脂(熱可塑性樹脂、重量平均分子量:50,000) 100質量部
マット剤(球状シリカ、平均粒径3μm、吸油量30ml/100g) 130質量部
シリコーン 2質量部
溶剤(酢酸エチル)適量
凹凸部分用塗布液3:
ニトロセルロース樹脂(熱可塑性樹脂、重量平均分子量:50,000) 100質量部
マット剤(不定形シリカ、平均粒径3μm、吸油量250ml/100g) 130質量部
溶剤(酢酸エチル)適量
凹凸部分用塗布液4:
ニトロセルロース樹脂(熱可塑性樹脂、重量平均分子量:50,000) 100質量部
マット剤(不定形シリカ、平均粒径3μm、吸油量200ml/100g) 130質量部
溶剤(酢酸エチル)適量
凹凸部分用塗布液5:
ニトロセルロース樹脂(熱可塑性樹脂、重量平均分子量:50,000) 100質量部
マット剤(不定形シリカ、平均粒径3μm、吸油量150ml/100g) 130質量部
溶剤(酢酸エチル)適量
凹凸部分用塗布液6:
ニトロセルロース樹脂(熱可塑性樹脂、重量平均分子量:50,000) 100質量部
マット剤(球状及び不定形シリカの混合物、平均粒径3μm、吸油量100ml/100g) 130質量部
溶剤(酢酸エチル)適量
【0111】
(平坦部分用塗布液)
下記処方の平坦部分用塗布液を調製した。
平坦部分用塗布液:
2官能ポリカーボネートアクリレート(重量平均分子量:5,000) 84質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA) 14質量部
マット剤(不定形シリカ、平均粒径3μm、吸油量350ml/100g) 5質量部
反応性シリコーン 2質量部
溶剤(メチルエチルケトンとイソプロピルアルコール混合物) 適量
【0112】
(保護層用塗布液)
下記処方の保護層用塗布液を調製した。
4官能ウレタンアクリレート(重量平均分子量:10,000)95質量部
3官能アクリレートモノマー(重量平均分子量:300)5質量部
溶剤(メチルエチルケトンとイソプロピルアルコール混合物) 適量
【0113】
(プライマー層用塗布液)
下記処方のプライマー層用塗布液を作製した。
<プライマー層用塗布液>
アクリルポリオール(水酸基価:80mgKOH/g、Tg:90℃)100質量部
XDI(m-キシリレンジイソシアナート)10質量部
溶剤(メチルエチルケトン)適量
【0114】
<転写シートの剥離層の構造分析>
実施例及び比較例で得られた各転写シートについて、それぞれ、以下の方法により転写シートの剥離層の構造分析を行った。剥離層について測定された凹凸部分の平均ピーク高さ(μm)、平均高さ(μm)、ピーク高さのばらつき(%)(変動変数=標準偏差/平均)、及び平坦部分の厚み(μm)を表1に示す。
【0115】
剥離層の凹凸部分の断面構造分析については、基材上に凹凸部分が印刷され、且つ、平坦部分を印刷する前のシートを分析対象とした。形状解析レーザー顕微鏡(キーエンス社製のVK-X1000)を使用した。凹凸部分の任意の100um幅を測定エリアとして、合計3カ所を測定した。その際、剥離層が形成されている基材の表面を高さゼロ地点とした。なお、別の構造分析法として、転写シートを断面研磨したサンプルに対して、走査電子顕微鏡(日立ハイテク社製のFlexSEM1000II)を用いて断面観察を行い、50μm幅のエリアの凹凸部分の高さ6回測定することでも同様の測定結果が得られた。但し、断面観察による断面構造分析法には、より多くの時間を要する。
【0116】
<樹脂成形品の製造>
実施例及び比較例で得られた各転写シートを用い、以下の手順で加飾成形品を製造した。上下一組のインモールド成形用金型の一方の側に、実施例1~12及び比較例1~2の転写シートをそれぞれ配置した。このとき、接着層が金型の内側(射出樹脂と接する側)を向くように配置した。次いで、金型を締め、金型内に射出樹脂(PC/ABS樹脂)を注入し、転写シートと射出樹脂を含む射出樹脂層とを一体化させた積層体(10cm×16cm×厚さ2mmの板状体)を得た。次いで、金型を開けた後、積層体から転写シートの離型シート(基材~平坦部分)を剥がし、実施例1~12、比較例1~2の加飾成形品を得た。
【0117】
<加飾成形品の表面観察及び意匠性評価>
実施例及び比較例で得られた加飾成形品の表面を以下の方法で観察し、表面凹凸形状の凸部が平坦部よりも高い位置にあるか否かの確認(高い位置にあればOK、無ければNG)と、様々な角度からの表面凹凸形状の視認性(意匠性)を評価した。結果を表1に示す。
【0118】
実施例及び比較例で作製した加飾成形品について、60度±10度の確度から目視で観察し、凹凸部分がある領域と平坦部の領域との艶差の有無に基づき、視認性を以下の基準で評価した。20人の被験者が評価を行い、平均点を算出した。
(視認性の評価基準)
2点:艶差が明瞭であるもの
1点:艶差があるものの、「2点」の評価より艶差の明瞭性が劣るもの
0点:艶差が感じられないもの
【0119】
A:評価基準の平均点が1.8以上
B+:評価基準の平均点が1.4以上1.8未満
B:評価基準の平均点が1.0以上1.4未満
C:評価基準の平均点が1.0未満
【0120】
【表1】
【0121】
実施例1~12の転写シートは、離型シート上に転写層を有する転写シートであって、離型シートは、転写層側から順に、剥離層と、基材とを備え、剥離層は、バインダー樹脂及びマット剤を含み、転写層側に複数の凸部を有する凹凸部分と、凹凸部分よりも転写層側の表面が相対的に平坦である平坦部分とを有しており、剥離層の凹凸部分の複数の凸部が、転写層に接している。実施例1~12の転写シートは、加飾成形品の表面に対して、様々な角度から観察しても視認しやすい凹凸形状を付与できた。
【符号の説明】
【0122】
10転写シート
20離型シート
22基材
23剥離層
24凹凸部分
25平坦部分
30転写層
32保護層
34プライマー層
36印刷層
38接着層
40加飾成形品
41転写用基材付き加飾成形品
42被着体
図1
図2
図3
図4
図5