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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】銅被覆鋼線および絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/02 20060101AFI20241217BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01B5/02
H01B7/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024550305
(86)(22)【出願日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2024018732
【審査請求日】2024-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2023152403
(32)【優先日】2023-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】松岡 健太
(72)【発明者】
【氏名】星間 昭人
(72)【発明者】
【氏名】金本 健吾
(72)【発明者】
【氏名】泉田 寛
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/001928(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/261564(WO,A1)
【文献】特許第7327716(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/02
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト系ステンレス鋼製の芯線と、
前記芯線の外周面を覆い、銅製または銅合金製の被覆層と、
前記芯線と前記被覆層との間に配置され、ニッケル製の中間層と、を備える銅被覆鋼線であって、
前記銅被覆鋼線の長手方向に垂直な断面における前記被覆層の厚みの最大値tmaxと最小値tminとの差が最大値tmaxに対して9%以下である、銅被覆鋼線。
【請求項2】
前記芯線のビッカース硬さをHVST、前記芯線の炭素含有量を質量%にて表示した値をCST、前記被覆層の厚みの最大値をtmax、前記銅被覆鋼線の線径をDとして、以下の式
450≦HVST≦1660×CST+2850×tmax/D
が満たされる、請求項1に記載の銅被覆鋼線。
【請求項3】
max/Dが0.25以下である、請求項2に記載の銅被覆鋼線。
【請求項4】
前記銅被覆鋼線の線径Dは200μm以上400μm以下である、請求項1に記載の銅被覆鋼線。
【請求項5】
前記芯線を構成するオーステナイト系ステンレス鋼は、JIS規格 SUS301、SUS304、SUS310SまたはSUS316である、請求項1に記載の銅被覆鋼線。
【請求項6】
前記被覆層の硬さが50HV以上140HV以下である、請求項1に記載の銅被覆鋼線。
【請求項7】
請求項1から請求項6いずれか1項に記載の銅被覆鋼線と、
前記銅被覆鋼線の外周面を被覆する絶縁層と、を備える、絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、銅被覆鋼線および絶縁電線に関するものである。
【0002】
本出願は、2023年9月20日出願の日本出願第2023-152403号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
電線においては、強度と導電性との両立が求められる場合がある。このような場合、鋼製の芯線と、芯線の外周面を覆い、銅製の被覆層と、を備える銅被覆鋼線を電線として採用することができる。また、銅被覆鋼線が、耐食性が求められる環境下で用いられる場合、芯線を構成する鋼としてオーステナイト系ステンレス鋼が採用される場合がある。
【0004】
電線には、その端部に端子が圧着により取り付けられる場合がある。銅被覆鋼線を含む電線の端部に圧着により端子が取り付けられる場合、圧着時に芯線が破断することで銅被覆鋼線と端子との接続強度(圧着強度)が低下し、接続部に引張荷重が負荷されると銅被覆鋼線が端子から抜けてしまうという問題が発生する場合がある。これに対し、芯線および被覆層の硬さ、ならびに芯線の引張強度を適切に設定することにより、上記問題に対応する方策が提案されている(たとえば、特開2022-157046号公報(特許文献1)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-157046号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示に従った銅被覆鋼線は、オーステナイト系ステンレス鋼製の芯線と、芯線の外周面を覆い、銅製または銅合金製の被覆層と、芯線と被覆層との間に配置され、ニッケル製の中間層と、を備える銅被覆鋼線である。この銅被覆鋼線は、銅被覆鋼線の長手方向に垂直な断面における被覆層の厚みの最大値tmaxと最小値tminとの差が最大値tmaxに対して9%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、銅被覆鋼線の構造を示す概略図である。
図2図2は、図1の芯線と被覆層との境界付近を拡大して示す概略断面図である。
図3図3は、絶縁電線の構造を示す概略図である。
図4図4は、銅被覆鋼線の構造を示す概略断面図である。
図5図5は、銅被覆鋼線および絶縁電線の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図6図6は、絶縁電線と圧着端子との接続状態を示す概略斜視図である。
図7図7は、引張試験の方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
しかしながら、芯線および被覆層の硬さ、ならびに芯線の引張強度を調整した場合でも、圧着時の芯線の破断に起因する圧着強度のさらなる改善が求められる場合がある。
【0009】
そこで、圧着強度の低下を抑制することが可能な銅被覆鋼線および銅被覆鋼線を含む絶縁電線を提供することを、本開示の目的の一つとする。
【0010】
[本開示の効果]
上記銅被覆鋼線によれば、圧着強度の低下を抑制することが可能な銅被覆鋼線を提供することができる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示の銅被覆鋼線は、
(1)オーステナイト系ステンレス鋼製の芯線と、芯線の外周面を覆い、銅製または銅合金製の被覆層と、芯線と被覆層との間に配置され、ニッケル製の中間層と、を備える銅被覆鋼線である。この銅被覆鋼線は、銅被覆鋼線の長手方向に垂直な断面における被覆層の厚みの最大値tmaxと最小値tminとの差が最大値tmaxに対して9%以下である。
【0012】
本発明者らは、芯線および被覆層の硬さ、ならびに芯線の引張強度を調整した場合でも、圧着時の芯線の破断に起因する圧着強度の低下が十分に抑制できない原因を調査するとともに、それによって得られた知見に基づいて圧着強度の低下を抑制するための方策を検討した。その結果、以下のような知見を得て、圧着強度の低下を抑制するための方策を見出した。
【0013】
本発明者らの検討によれば、圧着時の芯線の破断には、銅被覆鋼線の被覆層の厚みのばらつきが大きく影響する。そして、銅被覆鋼線の長手方向に垂直な断面における被覆層の厚みの最大値tmaxと最小値tminとの差を、最大値tmaxに対して特定の値以下の範囲、具体的には9%以下とすることにより、圧着強度の低下を有効に抑制できることを見出した。
【0014】
本開示の銅被覆鋼線においては、銅被覆鋼線の長手方向に垂直な断面における被覆層の厚みの最大値tmaxと最小値tminとの差が最大値tmaxに対して9%以下とされている。その結果、本開示の銅被覆鋼線によれば、圧着強度の低下を抑制することができる。なお、本願において、被覆層の厚みの最大値tmaxおよび最小値tminは、銅被覆鋼線の長手方向に垂直な断面を無作為に10か所調査し、各断面における被覆層の厚みの最大値および最小値を測定することで得られた10個の最大値の平均値および10個の最小値の平均値と定義される。
【0015】
(2)上記(1)において、芯線のビッカース硬さをHVST、芯線の炭素含有量を質量%にて表示した値をCST、被覆層の厚みの最大値をtmax、銅被覆鋼線の線径をDとして、以下の式(1)
450≦HVST≦1660×CST+2850×tmax/D・・・(1)
が満たされてもよい。
【0016】
芯線の硬さを450HV以上とすることにより、銅被覆鋼線に十分な強度を付与することが容易となる。一方、芯線の硬さを、芯線の炭素含有量と、銅被覆鋼線の線径に対する被覆層の厚みの割合とをパラメータとして特定の計算式(式(1))に従って算出される値以下とすることにより、圧着時における芯線の破断を抑制することができる。より具体的には、芯線を構成するオーステナイト系ステンレス鋼は、伸線加工により硬化することで所望の強度が得られる。このとき、オーステナイト系ステンレス鋼の炭素含有量が低くなるほど、所望の強度を得るために必要な加工量が大きくなる。そのため、炭素含有量が低くなるほど、加工限界に近い状態で使用されるため、圧着時における変形に対する許容量が小さく、芯線が破断しやすい。また、銅被覆鋼線の線径に対する被覆層の厚みの割合が大きいほど、変形能の大きい被覆層が圧着による変形を担うことで、芯線の破断が抑制される。本発明者らの検討によれば、芯線の硬さを、これらのパラメータに特定の係数を乗じた値の和以下とすることにより、圧着時における芯線の破断を抑制することができる。なお、本願において、銅被覆鋼線の線径Dは、銅被覆鋼線の線径(直径)を長手方向において10か所で測定した場合の、それらの平均値と定義される。また、芯線の硬さHVSTは、芯線の長手方向に垂直な断面に対して、マイクロビッカース硬度計を用い、たとえば荷重0.196Nの条件にて測定することができる。測定箇所は、当該断面の直径に対応する線分上において、線分の中点(断面の中心)と線分の両端との中点に対応する箇所とすることができる。
【0017】
(3)上記(2)において、上記tmax/Dが0.25以下であってもよい。この構成により、銅被覆鋼線に十分な強度を付与することが容易となる。上記tmax/Dは、0.23以下であってもよい。
【0018】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、銅被覆鋼線の線径Dは200μm以上400μm以下であってもよい。圧着強度の低下を抑制することが可能な本開示の銅被覆鋼線は、200μm以上400μm以下の線径を有する銅被覆鋼線に、特に好適である。
【0019】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、芯線を構成するオーステナイト系ステンレス鋼は、JIS規格 SUS301、SUS304、SUS310SまたはSUS316であってもよい。JIS規格 SUS301、SUS304、SUS310SおよびSUS316は、芯線を構成する材料として、特に好適である。
【0020】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、被覆層の硬さが50HV以上140HV以下であってもよい。この構成により、銅被覆鋼線の圧着強度の低下を抑制することが容易となる。なお、本願において、被覆層の硬さは、銅被覆鋼線の長手方向に垂直な断面において、被覆層の厚みの中央を4か所測定し、その平均値と定義することができる。
【0021】
(7)本開示の絶縁電線は、上記(1)から(6)のいずれかの銅被覆鋼線と、銅被覆鋼線の外周面を被覆する絶縁層と、を備える。本開示の絶縁電線は、上記本開示の銅被覆鋼線を含むことにより、圧着強度の低下を抑制することができる。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示にかかる銅被覆鋼線および絶縁電線の実施の形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、銅被覆鋼線の構造を示す概略図である。図2は、図1の芯線と被覆層との境界付近を拡大して示す概略断面図である。図1および図2を参照して、本実施の形態における銅被覆鋼線1は、芯線10と、被覆層20と、中間層40とを含んでいる。芯線10は、オーステナイト系ステンレス鋼製である。芯線10の外周面11を覆うように被覆層20が配置されている。芯線10と被覆層20との間には、中間層40が配置されている。被覆層20は、内周面21において中間層40に接触している。芯線10は、外周面11において中間層40に接触している。中間層40は、芯線10と被覆層20との間に介在している。被覆層20の外周面22が、銅被覆鋼線1の外周面を構成する。
【0024】
図3は、絶縁電線の構造を示す概略図である。図3を参照して、本実施の形態における絶縁電線100は、上記本実施の形態の銅被覆鋼線1と、絶縁層30とを含んでいる。銅被覆鋼線1の外周面1A(被覆層20の外周面22)を被覆するように絶縁層30が配置されている。絶縁層30は、銅被覆鋼線1の外周面1Aを全周にわたって覆っている。絶縁層30は、内周面31において銅被覆鋼線1の外周面1Aに接触している。絶縁層30の外周面32が、絶縁電線100の外周面を構成する。絶縁層30は、樹脂などの絶縁体製である。絶縁層30を構成する樹脂としては、たとえばポリエチレン、塩化ビニルなどを採用することができる。
【0025】
図4は、銅被覆鋼線の構造を示す概略断面図である。図4は、銅被覆鋼線1の長手方向に垂直な断面を示している。図4を参照して、銅被覆鋼線1の線径D(長手方向に垂直な断面の直径)は、特に限定されるものではないが、たとえば200μm以上400μm以下である。芯線10を構成するオーステナイト系ステンレス鋼としては、たとえばJIS規格 SUS301、SUS304、SUS310SまたはSUS316を採用することができる。芯線10の引張強さは、たとえば1500MPa以上3000MPa以下とすることができる。芯線10のビッカース硬さHVSTは、たとえば450HV以上840HV以下とすることができる。
【0026】
被覆層20は、銅(Cu)製または銅合金製である。被覆層20は、芯線10の外周面11(表面)を覆っている。被覆層20は、めっき層であってもよい。被覆層20は、めっきにより形成された層であってもよい。被覆層20の硬さは、たとえば50HV以上140HV以下である。銅被覆鋼線1の長手方向に垂直な断面における被覆層20の厚みの最大値tmaxと最小値tminとの差は、最大値tmaxに対して9%以下である。
【0027】
図2を参照して、中間層40は、ニッケル(Ni)製である。中間層40の厚みは特に限定されるものではないが、被覆層20の厚みよりも小さく設定することができる。中間層40の厚みは、たとえば0.0001μm以上、好ましくは0.005μm以上とすることができる。中間層40の厚みは、たとえば1μm以下、好ましくは0.8μm以下とすることができる。中間層40は、芯線10と被覆層20との密着性を向上させる機能を果たす。中間層40は、めっき層であってもよい。中間層40は、めっきにより形成された層であってもよい。
【0028】
本実施の形態の銅被覆鋼線1においては、上記の通り被覆層20の厚みの最大値tmaxと最小値tminとの差が、最大値tmaxに対して9%以下となるように、被覆層20の厚みのばらつきが抑制されている。その結果、本実施の形態の銅被覆鋼線1は、圧着強度の低下が抑制された銅被覆鋼線となっている。また、この銅被覆鋼線1を含む絶縁電線100は、圧着強度の低下が抑制された絶縁電線となっている。被覆層20の厚みの最大値tmaxと最小値tminとの差は、最大値tmaxに対して8%以下、7%以下、6%以下さらには5%以下とすることで、圧着強度の低下をさらに抑制することができる。
【0029】
本実施の形態の銅被覆鋼線1において、芯線10のビッカース硬さをHVST、芯線10の炭素含有量を質量%にて表示した値をCST、被覆層20の厚みの最大値を単位μmで表示した値をtmax、銅被覆鋼線1の線径を単位μmで表示した値をDとして、以下の式(1)
450≦HVST≦1660×CST+2850×tmax/D・・・(1)
が満たされていてもよい。芯線10の硬さを450HV以上とすることにより、銅被覆鋼線1に十分な強度を付与することが容易となる。一方、芯線10の硬さを、芯線10の炭素含有量と、銅被覆鋼線1の線径Dに対する被覆層20の厚みの最大値tmaxの割合とをパラメータとして式(1)に従って算出される値以下とすることにより、圧着時における芯線10の破断を抑制することができる。
【0030】
本実施の形態の銅被覆鋼線1において、上記tmax/Dが0.25以下であると、銅被覆鋼線1に十分な強度を付与することが容易となる。
【0031】
次に、本実施の形態における銅被覆鋼線1および絶縁電線100の製造方法について説明する。図5は、銅被覆鋼線および絶縁電線の製造方法の概略を示すフローチャートである。図5を参照して、本実施の形態における銅被覆鋼線1および絶縁電線100の製造方法では、まず工程S10として原料鋼線準備工程が実施される。この工程S10では、原料鋼線が準備される。具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼製、たとえば所望の炭素含有量を有するJIS規格 SUS301製、SUS304製、SUS310S製またはSUS316製の原料鋼線が準備される。原料鋼線の外径は、たとえば0.3mm以上1mm以下とすることができる。
【0032】
次に、工程S20として中間層形成工程が実施される。この工程S20では、工程S10において準備された原料鋼線の表面に中間層40が形成される。具体的には、たとえば芯線10に、ニッケル製の中間層40がめっきにより形成される。これにより、表面に中間層40が形成された原料鋼線が得られる。工程S20において形成される中間層40の厚みは、後述する伸線工程における加工によって厚みが小さくなることを考慮して、銅被覆鋼線1の完成状態で所望の厚みとなるように決定される。
【0033】
次に、工程S30として伸線工程が実施される。この工程S30では、工程S20において中間層40が形成された原料鋼線に対して伸線(引抜き加工)が実施される。工程S30の伸線における真歪みは、たとえば1.3以上2.6以下とすることができる。これにより、原料鋼線の外径が所望の値に調整されるとともに、原料鋼線に所望の硬さ、引張強さが付与され、原料鋼線が芯線10となる(図1参照)。伸線は、複数回に分けて実施されてもよい。
【0034】
次に、工程S40として被覆層形成工程が実施される。この工程S40では、工程S30までが実施されて得られた、中間層40を有する芯線10の表面に被覆層20が形成される。具体的には、たとえば中間層40を有する芯線10に、銅(純銅)製の被覆層20がめっきにより形成される。また、銅のほか、錫(Sn)、亜鉛(Zn)などの金属層がめっきにより形成され、これらが合金化されることにより銅合金製の被覆層20が形成されてもよい。これにより、芯線10と被覆層20とを含む銅被覆鋼線1が得られる。被覆層20の形成は、複数回に分けて実施されてもよい。
【0035】
次に、工程S50として被覆層厚均一化工程が実施される。この工程S50では、工程S40において被覆層20が形成されることにより得られた銅被覆鋼線1に対して、被覆層20の厚みのばらつきを低減するための加工量の小さい伸線が実施される。工程S50における伸線の真歪みは、たとえば0.1以上0.5以下とすることができる。
【0036】
次に、工程S60として熱処理工程が実施される。この工程S60では、工程S50までが実施されて得られた銅被覆鋼線1に対して、熱処理が実施される。具体的には、銅被覆鋼線1に対して、たとえば275℃以上450℃以下の温度域、好ましくは350℃以上450℃以下の温度域に30分間以上120分間以下保持した後、室温まで空冷する熱処理が実施される。これにより、被覆層20を構成する銅または銅合金が再結晶して適切な硬さに軟化するとともに、芯線10の内部応力が除去されることにより芯線10の硬さが適切な範囲に調整される。以上の手順により、本実施の形態の銅被覆鋼線1が得られる(図1参照)。
【0037】
さらに、工程S70として絶縁層形成工程が実施される。この工程S70では、工程S60までが実施されて得られた本実施の形態の銅被覆鋼線1の外周面を被覆するように絶縁層30が形成される。絶縁層30は、たとえば樹脂製であってもよい。以上の手順により、本実施の形態の絶縁電線100が得られる(図3参照)。
【実施例
【0038】
本開示の銅被覆鋼線および絶縁電線に関し、圧着端子との接続時における圧着強度の低下の抑制効果について確認する実験を行った。実験の手順は以下のとおりである。
【0039】
上記実施の形態において説明した製造方法に沿って絶縁電線100を準備した。工程S10において準備される原料鋼線の材料として、JIS規格SUS301およびSUS304を採用した。工程S20においては、完成状態(工程S70が完了した段階)における厚みが0.6μmとなるように中間層40を形成した。工程S40においては、めっきにより純銅製の被覆層20を形成した。また、比較のため、工程S50を省略することにより、被覆層20の厚みの均一化を行わなかった絶縁電線も準備した。このようにして、サンプルA~Qを得た。そして、得られたサンプルについて、圧着端子との接続時における圧着部の強度を以下のように測定した。
【0040】
図6は、絶縁電線と圧着端子との接続状態を示す概略斜視図である。図7は、引張試験の方法を説明するための概略図である。図6を参照して、圧着端子80は、本体部83と、本体部83に接続された導体バレル81と、導体バレル81の本体部83に接続される側とは反対側に接続されたインシュレーションバレル82とを含んでいる。絶縁電線100を圧着端子80に接続する場合、まず絶縁電線100の端部における絶縁層30を除去し、銅被覆鋼線1を露出させる。そして、導体バレル81を加締めることにより露出した銅被覆鋼線1を導体バレル81によって保持するとともに、絶縁層30をインシュレーションバレル82によって保持する。このとき、導体バレル81によって保持される銅被覆鋼線1の芯線10に割れが発生すると、導体バレル81と銅被覆鋼線1との接続部の強度(圧着強度)が低下する。
【0041】
本実験では、各サンプルについて上記の通り導体バレル81にて銅被覆鋼線1を保持する一方で、インシュレーションバレル82による絶縁層30の保持は行わない状態にて絶縁電線100と圧着端子80とを接続した。このとき、1-(圧着前の被覆層20の断面積)/(圧着後の被覆層20断面積)で表される圧縮率は、15%とした。これは、芯線10が破断しなかった場合に、十分な圧着強度が得られる条件である。そして、図12に示すように、圧着端子80の本体部83を引張試験機の第1チャック91で保持し、絶縁電線100を引張試験機の第2チャック92で保持した状態で引張試験を行い、破断時の荷重を調査した。得られた破断時の荷重が、圧着を実施しない状態における破断時の荷重に対して60%以上となった確率(合格率)を算出した。実験結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
表1を参照して、被覆層厚均一化工程(S50)を含むプロセスにて作製されたサンプルA~F、I、J、MおよびPにおいては、被覆層20の厚みの最大値tmaxと最小値tminとの差が最大値tmaxに対して9%以下となっている。一方、被覆層厚均一化工程(S50)を含まないプロセスにて作製されたサンプルG、H、K、L、N、OおよびQにおいては、被覆層20の厚みの最大値tmaxと最小値tminとの差が最大値tmaxに対して9%を超えている。そして、最大値tmaxと最小値tminとの差が最大値tmaxに対して9%以下であるサンプルA~F、I、J、MおよびPの合格率は90~100%であるのに対し、9%を超えるサンプルG、H、K、L、N、OおよびQの合格率は40%以下となっている。このことから、tmaxとtminとの差がtmaxに対して9%以下である本開示の銅被覆鋼線および絶縁電線によれば、圧着強度の低下を抑制できることが確認される。
【0043】
さらに、tmaxと最小値tminとの差がtmaxに対して9%以下であるサンプルのうち、上記式(1)の条件を満たすサンプルA~Fについては、合格率が100%となっている。このことから、式(1)を満たすように芯線の硬さHVST、芯線を構成するオーステナイト系ステンレス鋼の炭素含有量CSTおよび銅被覆鋼線の線径Dに対する被覆層の厚みの最大値tmaxの割合を調整することで、圧着強度の低下を一層抑制できることが確認される。
【0044】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0045】
1 銅被覆鋼線、1A 外周面、10 芯線、11 外周面、20 被覆層、21 内周面、22 外周面、30 絶縁層、31 内周面、32 外周面、40 中間層、80 圧着端子、81 導体バレル、82 インシュレーションバレル、83 本体部、91 第1チャック、92 第2チャック、100 絶縁電線、CST 芯線の炭素含有量、D 銅被覆鋼線の線径、HVST 芯線の硬さ、S10~S70 工程、tmax 被覆層の厚みの最大値、tmin 被覆層の厚みの最小値。
【要約】
銅被覆鋼線は、オーステナイト系ステンレス鋼製の芯線と、芯線の外周面を覆い、銅製または銅合金製の被覆層と、芯線と被覆層との間に配置され、ニッケル製の中間層と、を備える銅被覆鋼線である。この銅被覆鋼線は、銅被覆鋼線の長手方向に垂直な断面における被覆層の厚みの最大値tmaxと最小値tminとの差が最大値tmaxに対して9%以下である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7