(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】R-T-Q系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20241217BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241217BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241217BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241217BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01F41/02 G
B22F1/00 Y
B22F1/05
B22F3/00 F
H01F1/057 130
H01F1/057 170
(21)【出願番号】P 2024559717
(86)(22)【出願日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2024004870
【審査請求日】2024-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2023026978
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(72)【発明者】
【氏名】石井 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/139556(WO,A1)
【文献】特開2021-106271(JP,A)
【文献】特開2021-77868(JP,A)
【文献】特開2003-342601(JP,A)
【文献】特開2022-151483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 1/05
B22F 3/00
H01F 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-Q系磁石合金(Rは、希土類元素の少なくとも一つであり、NdおよびPrの少なくとも一方を必ず含む、TはFe、Co、Ni、Al、Mn、CrおよびVからなる元素の群から選択された少なくとも1つでありFeを必ず含む、QはBおよびCである)を粉砕して合金粉末を作製する粉砕工程と、
前記合金粉末の成形体を作製する粉末成形工程と、
前記成形体を焼結してR-T-Q系焼結磁石を作製する焼結工程と、
を含み、
前記R-T-Q系焼結磁石のR含有量は、前記R-T-Q系焼結磁石全体の30mass%以下であり、B含有量は、前記R-T-Q系焼結磁石全体の0.90mass%以下であり、BおよびCの合計含有量は0.99mass%以下であり、
前記粉砕工程は、水素粉砕工程と微粉砕工程とを含み、
前記水素粉砕工程は、
処理室内において200℃以下の温度で前記R-T-Q系磁石合金に水素を吸蔵させる水素吸蔵工程と、
前記処理室内から水素を排気し、前記合金を80℃以上350℃以下の範囲に加熱することによって脱水素処理を行い、水素含有量が1000ppm以上2000ppm以下の粗粉砕粉を作製する脱水素工程と、
を含み、
前記微粉砕工程は、前記粗粉砕粉を粉砕してメディアン径d50を3.5μm以下の微粉を得る工程を含む、R-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記水素含有量は1000ppm以上1800ppm以下である、請求項1に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記R-T-Q系焼結磁石におけるDyおよびTbの合計含有量は0.5mass%以下(0mass%を含む)であり、
B
r≧1.39T
H
cJ≧1640kA/m
である、請求項1に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記微粉砕工程は、前記粗粉砕粉を粉砕してメディアン径d50を3.3μm以下の微粉を得る工程を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記微粉砕工程は、前記粗粉砕粉に有機系の粉砕助剤を混合する工程を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記粉末成形工程は、湿式成形法によって行われる、請求項1から3のいずれか1項に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記微粉砕工程は、ジェットミル装置を用いて行われる、請求項1から3のいずれか1項に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-T-Q系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素のうちの少なくとも一種である。Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む。Bは硼素である)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。R-T-B系焼結磁石は、主としてR2T14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相(以下、単に「粒界」という場合がある)とから構成されている。R2T14B化合物は高い磁化を持つ強磁性相である。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「保磁力」又は「HcJ」という場合がある)が低下して不可逆熱減磁が起こるという問題がある。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR-T-Q系焼結磁石では、高温下でも高いHcJを有することが要求されている。
【0004】
R-T-B系焼結磁石において、R2T14B化合物中のRに含まれる軽希土類元素(主としてNd及び/又はPr)の一部を重希土類元素(主としてDy及び/又はTb)で置換すると、HcJが向上することが知られている。重希土類元素の置換量の増加に伴いHcJは向上する。
【0005】
しかし、R2T14B化合物中の軽希土類元素を重希土類元素で置換すると、R-T-B系焼結磁石のHcJが向上する一方、残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という場合がある)が低下する。また、重希土類元素、特にDyなどは資源存在量が少ないうえ、産出地が限定されている、などの理由から供給が安定しておらず、価格が大きく変動するなどの問題を有している。そのため、近年、ユーザーから重希土類元素をできるだけ使用することなくHcJを向上させることが求められている。
【0006】
特許文献1には、Dyの含有量を低減しつつ保磁力を高めたR-T-Q系希土類焼結磁石が開示されている。この焼結磁石の組成は、一般に用いられてきたR-T-Q系合金に比べてB量が相対的に少ない特定の範囲に限定され、かつ、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素を含有している。その結果、粒界にR2T17相が生成され、このR2T17相から粒界に形成される遷移金属リッチ相(R6T13M)の体積比率が増加することにより、HcJが向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
重希土類元素の含有量を低減しつつ、高いBr及び高いHcJを有するR-T-Q系焼結磁石の実現するため、B量(硼素濃度)を相対的に少なくすることによって二粒子粒界を厚く制御する技術が検討されている。しかし、二粒子粒界を厚くするには、B量だけではなく、C量も低減することが必要であることがわかった。Cは、主相においてBと部分的に置換し、Bと同様の働きをし得るからである。以下、BおよびCを合わせてQで表し、「R-T-B系焼結磁石」を「R-T-Q系焼結磁石」と称する場合がある。
【0009】
一方、粉末粒子の粒径(粉末粒度)を低下させると、製造工程中に磁石粉末に取り込まれる炭素)が増加し、焼結磁石のC量が増加することもがわかった。このため、粉末粒度を低下させた場合、製造工程におけるC量増加を抑制することが求められる。
【0010】
本開示のR-T-Q系焼結磁石の製造方法は、粉末粒度を低下させた場合でも、C量の増加を抑制することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のR-T-Q系焼結磁石の製造方法は、限定的ではない例示的な実施形態において、R-T-Q系磁石合金(Rは、希土類元素の少なくとも一つであり、NdおよびPrの少なくとも一方を必ず含む、TはFe、Co、Ni、Al、Mn、CrおよびVからなる群から選択された少なくとも1つであり、QはBおよびCである)を粉砕して合金粉末を作製する粉砕工程と、前記合金粉末の成形体を焼結してR-T-Q系焼結磁石を作製する工程とを含む。前記R-T-Q系焼結磁石のR含有量は、前記R-T-Q系焼結磁石全体の30mass%以下であり、QのB含有量は、前記R-T-Q系焼結磁石全体の0.90mass%以下であり、BおよびCの合計含有量は0.99mass%以下である。前記粉砕工程は、水素粉砕工程と微粉砕工程とを含み、前記水素粉砕工程は、処理室内において200℃以下の温度で前記合金に水素を吸蔵させる水素吸蔵工程と、前記処理室内から水素を排気し、前記合金を80℃以上350℃以下の範囲に加熱することによって脱水素処理を行い、水素含有量が1000ppm以上2000ppm以下の粗粉砕粉を作製する脱水素工程とを含む。前記微粉砕工程は、前記粗粉砕粉を粉砕してメディアン径d50が3.5μm以下の微粉を得る工程を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示の実施形態によると、粉末粒度を低下させた場合でもC量を低減することを可能にする。その結果、B量およびC量を所望の範囲に制御して二粒子粒界を改質したR-T-Q系焼結磁石を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】R-T-B系焼結磁石の主相と粒界相を示す模式図である。
【
図1B】
図1Aの破線矩形領域内を更に拡大した模式図である。
【
図2】本開示の実施形態におけるR-T-Q系焼結磁石の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【
図3】本開示の実験例におけるサンプル(試料No.1~28)の最終的に得られたR-T-Q系焼結磁石の組成を示す表である。
【
図4】本開示の実験例におけるサンプル(試料No.1~28)の製造条件および磁気特性を示す表である。
【
図5】本開示の実験例および参考例における粗粉水素量[ppm]のベーキング温度依存性を示すグラフである。
【
図6】本開示の実験例の各グループI~IVにおける試料のB
rとH
cJをとの関係を示すグラフである。
【
図7】本開示の実験例の各グループI~IVにおける試料のH
cJとB含有量との関係を示すグラフである。
【
図8】本開示の実験例の各グループI~IVにおける試料のH
cJと(B+C)含有量との関係を示すグラフである。
【
図9】本開示の実験例の各グループI~IVにおける試料のB
rとB含有量との関係を示すグラフである
【
図10】本開示の実験例におけるサンプル(試料No.29~38)の最終的に得られたR-T-Q系焼結磁石の組成を示す表である。
【
図11】本開示の実験例におけるサンプル(試料No.29~38)の製造条件および磁気特性を示す表である。
【
図12】本開示の実験例におけるサンプル(試料No.39~49)の最終的に得られたR-T-Q系焼結磁石の組成を示す表である。
【
図13】本開示の実験例におけるサンプル(試料No.39~49)の製造条件および磁気特性を示す表である。
【
図14】本開示の実験例の各グループVIII、IXにおける試料のB
rとH
cJをとの関係を示すグラフである。
【
図15】本開示の実験例の各グループVIII、IXにおける試料のH
cJとB含有量との関係を示すグラフである。
【
図16】本開示の実験例の各グループVIII、IXにおける試料のH
cJと(B+C)含有量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来、R-T-B系焼結磁石において、例えば、(1)R(希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含む)の含有量をR-T-B系焼結体全体の27mass%以上34mass%以下とし、(2)TがFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、Tが必ずFeを含有し、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上である場合において、(3)Bに対するTのmol比([T]/[B])が14.0超15.0以下であるとき、Gaなどの元素を添加することにより、二粒子粒界を厚くしてHcJの向上が可能になることが知られている。
【0015】
Bに対するTのmol比([T]/[B])は、Tを構成する各元素(Fe又はCo、Al、Mn、Siの少なくとも1つとFe)の濃度の分析値(mass%)をそれぞれの元素の原子量で除した値を求め、それらの値を合計したmol数(a)の、Bの濃度の分析値(mass%)をBの原子量で除したmol数(b)に対する比(a/b)である。
【0016】
Bに対するTのmol比([T]/[B])が14.0を超えることは、Bの含有比率がR2T14B化合物の化学量論組成比よりも低いことを意味している。この場合、R-T-B系焼結磁石において、主相(R2T14B化合物)の形成に使われるTの量に対して相対的にB量が少なくなる。
【0017】
次に、R-T-B系焼結磁石の基本構造を説明する。
【0018】
R-T-B系焼結磁石は、原料合金の粉末粒子が焼結によって結合した構造を有しており、主としてR2T14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
【0019】
図1Aは、R-T-B系焼結磁石の主相と粒界相を示す模式図であり、
図1Bは
図1Aの破線矩形領域内を更に拡大した模式図である。
図1Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。
図1A及び
図1Bに示されるように、R-T-B系焼結磁石は、主としてR
2T
14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、
図1Bに示されるように、2つのR
2T
14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つ以上のR
2T
14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。
【0020】
主相12であるR2T14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性相である。したがって、R-T-B系焼結磁石では、主相12であるR2T14B化合物の存在比率を高めることによってBrを向上させることができる。R2T14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R2T14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。R2T14B化合物を形成するためのB量又はR量が化学量論比を下回ると、一般的には、粒界相14にFe相又はR2T17相等のソフト磁性相が生成し、HcJが急激に低下する。しかし、B量をR2T14B化合物の化学量論比よりも少なくし、且つ、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mを含有させると、R2T17相から粒界に遷移金属リッチ相(例えばR-T-Ga相)が生成されるなどして、二粒子粒界が厚くなり、その結果、高いHcJを得ることができる。
【0021】
前述したように、R-T-B系焼結磁石においては、二粒子粒界を厚くするためにはB量だけでなく硼素(B)と類似した働きをする炭素(C)の量が重要である。本発明者の検討によると、原料となる磁石合金を粉砕して得られる粉末の成形体を製造工程中にR-T-B系焼結磁石に含まれる炭素(C)が増加することは、好ましくない。
【0022】
<実施形態>
次に、本開示のR-T-Q系焼結磁石の製造方法の実施形態を説明する。
【0023】
まず、
図2を参照しながら、本実施形態のR-T-Q系焼結磁石の製造方法の概略を説明する。
【0024】
本実施形態におけるR-T-Q系焼結磁石の製造方法は、
図2に示されるように、R-T-Q系磁石合金を粉砕して合金粉末を作製する粉砕工程S100と、合金粉末の成形体を作製する粉末成形工程S200と、成形体を焼結してR-T-Q系焼結磁石を作製する焼結工程S300とを含む。ここで、Rは、希土類元素の少なくとも一つであり、NdおよびPrの少なくとも一方を必ず含む。Tはe、Co、Ni、Al、Mn、CrおよびVからなる元素の群から選択された少なくとも1つであり、Feを必ず含む。QはBおよびCである。R-T-Q系焼結磁石のR含有量は、R-T-Q系焼結磁石全体の30mass%以下である。B含有量は、R-T-Q系焼結磁石全体の0.90mass%以下であり、BおよびCの合計含有量は0.99mass%以下である。好ましくは、B含有量は、R-T-Q系焼結磁石全体の0.80mass%以上0.90mass%以下であり、BおよびCの合計含有量は0.85mass%以上0.99mass%以下である。R-T-Q系焼結磁石のR含有量は、R-T-Q系焼結磁石全体の30mass%以下とした上で、B含有量やBおよびCの合計含有量を本開示の範囲にすることで、R-T-Q系焼結磁石の粒界にR
6T
13Gaが形成されて、二粒子粒界が厚くなり、1.39T以上のB
rおよび1640kA/mを超える高いH
cJが実現する。また、更に確実に二粒子粒界を厚くするためには、Tのmol比([T]/[B])が14.0超15.0以下であることが更に好ましい。原料合金は一例を挙げると、ストリップキャスト法などで作製される。このような組成を有することにより、前述した二粒子粒界を厚くして高いH
cJを実現する効果を得ることが可能になる。
【0025】
粉砕工程S100は、水素粉砕工程S10と微粉砕工程S20とを含む。
【0026】
水素粉砕工程S10は、処理室内において200℃以下の温度で上記の合金に水素を吸蔵させる水素吸蔵工程S12と、処理室内から水素を排気し、合金を80℃以上350℃以下の範囲に加熱することによって脱水素処理を行い、水素含有量が質量基準で1000ppm以上2000ppm以下の粗粉砕粉を作製する脱水素工程S14と、を含む。
【0027】
本開示の実施形態では、この水素粉砕工程S10において、水素吸蔵の温度を200℃以下にすることにより、粗粉砕粉の水素含有量を1000ppm以上2000ppm以下に調整することが重要である。後述する実施例に示されるように、粗粉砕粉の水素含有量が1000ppm以上2000ppm以下の範囲にある場合、次の微粉砕工程S20で得られる粉末(微粉砕粉)の粒度を低下させても、最終的に得られる焼結磁石中の炭素濃度増加を抑制する効果が得られる。水素含有量は1000ppm以上1800ppm以下であることが好ましい。
【0028】
微粉砕工程S20は、粗粉砕粉を粉砕してメディアン径d50を3.5μm以下の微粉を得る工程を含む。微粉砕工程は、前記粗粉砕粉に有機系の粉砕助剤を混合する工程を含んでもよい。有機系の粉砕助剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛が挙げられる。微粉のメディアン径d50は、2.0μm以上3.5μm以下であることが好ましく、2.0μm以上3.0μm以下であることが更に好ましい。ここで、メディアン径d50は、気流分散式レーザ回折法による測定で得られる体積頻度中心値である。より具体的には、本開示の実施形態におけるメディアン径d50は、Sympatec社製の粒度分布測定装置「HELOS&RODOS」において
分散圧:4bar
測定レンジ:R2
計算モード:HRLD
の条件にて測定されたd50のことを示す。微粉砕工程S20では、例えばジェットミル装置などを用いてメディアン径d50が3.5μm以下、好ましくは3.3μm以下(例えば3.0μm以下)に粉砕することができる。ただし、合金粉末のメディアン径d50を2.0μm未満にすることは非常に困難であり、生産効率が大幅に低下するため好ましくない。
【0029】
このようにしてメディアン径d50が3.5μm以下の粉末を得た後、粉末成形工程S200において、例えば、磁界中で配向させて合金粉末の成形体を作製する。焼結工程S300では、粉末の成形体を焼結してR-T-Q系焼結磁石を作製する。焼結温度は、例えば、成形体を900℃以上1100℃以下である。粉末成形工程S200および焼結工程S300の内容は特に限定されず、例えば公知の方法で実行される。
【0030】
粗粉砕粉の水素含有量を1000ppm以上2000ppm以下の範囲に調整することにより、最終的に得られるR-T-Q系焼結磁石の炭素濃度上昇を抑制できる理由は明確ではない。本発明者等は、焼結工程中に加熱された粉末粒子中の水素が、粉末の成形体に含まれる潤滑剤などの有機物中の炭素と結合して揮発成分を生成し、揮発しやすくなるからではないかと考えている。
【0031】
なお、従来、粉末粒子の水素含有量は低い方がよいと考えられてきた。粉末粒子に含まれる水素が多いと、焼結工程中に放出された水素が焼結体に再吸収されて焼結体が膨張し、その結果、焼結体が割れるという現象が観察されたからである。しかしながら、本発明の実験によれば、上記の組成範囲を有し、粒度が比較的小さな粉末粒子を用いる場合、粗粉砕粉の水素含有量が1000ppm以上2000ppm以下の範囲にある限り、そのような焼結体の割れは観察されなかった。また、水素含有量が1000ppmよりも少なくなると、最終的に得られる焼結磁石中の炭素含有量を低下させることができない。
【0032】
本開示の実施形態によれば、R-T-Q系焼結磁石におけるDyおよびTbの合計含有量が0.5mass%以下(0mass%を含む)であっても、Br≧1.39T、HcJ≧1640kA/mの優れた磁気特性を実現することが可能になる。
【0033】
上記の工程によって作製されるR-T-Q系焼結磁石に対して、その表面から内部に種々の元素を拡散してもよい。これにより磁石特性を高めることができる。この場合、拡散を行う前の「焼結体素材」と呼んでもよい。
【0034】
焼結体素材は、一種類の原料合金(単一原料合金)から作製してもよいし、二種類以上の原料合金を用いてそれらを混合する方法(ブレンド法)によって作製してもよい。また、得られた焼結体素材は、必要に応じて切断や切削など公知の機械加工を行った後、後述する第一の熱処理及び第二の熱処理を実施してもよい。
【0035】
本実施形態では、上記の方法によって得られた焼結体素材に対して、NdおよびPrの少なくとも一方を表面から内部に向けて拡散させてもよい。そのような拡散の結果として、R-T-Q系焼結磁石は、磁石表面から磁石内部に向かってNd濃度およびPr濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む。また、同様に、Tb濃度およびDy濃度の少なくとも一方を磁石表面から磁石内部に向けて拡散してもよい。そのような拡散の結果として、R-T-Q系焼結磁石は、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む。
【0036】
・拡散源を準備する工程
まず、拡散源を準備する工程における拡散源の組成を説明する。
【0037】
拡散源は、Dy、Tb、Gd、Hoなどの重希土類元素から構成されてもよい。好ましくは、希土類元素として、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む。希土類元素の50mass%以上がPrであることが好ましい。貴重な重希土類元素の含有量を抑制しつつ、より高いHcJを得ることができるからである。本開示によれば、重希土類元素を多量に用いずとも十分に高いHcJを得ることができる。そのため、重希土類元素の含有量は拡散源全体の10mass%以下であることが好ましく、5mass%以下であることがより好ましく、含有しない(実質的に0mass%)ことがさらに好ましい。拡散源が重希土類元素を含有する場合も、希土類元素の50%以上がPrであることが好ましく、重希土類元素を除いた希土類元素がPrのみ(不可避的不純物は含む)であることがより好ましい。
【0038】
希土類元素として、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む場合の含有量は、例えば、拡散源全体の35mass%以上85mass%未満であることが好ましい。希土類元素の含有量が35mass%未満では、後述する第一の熱処理で拡散が十分に進行しない可能性がある。一方、希土類元素の含有量が85mass%以上になると、拡散源の製造工程中における合金粉末が非常に活性になる。その結果、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じることがある。
【0039】
拡散源は、上記元素の他に、Ga、Fe、Cu、Co、Al、Ag、Zn、Si、In、Sn、Zr、Nb、Ti、Ni、Hf、Ta、W、Ge、Mo、V、Y、La、Ce、Sm、Ca、Mg、Mn、Cr、H、F、P、S、Cl、O、N、C等を含有してもよい。
【0040】
拡散源は、Nd-Fe-M系焼結磁石に代表される一般的な製造方法において採用されている原料合金の作製方法、例えば、金型鋳造法やストリップキャスト法や単ロール超急冷法(メルトスピニング法)やアトマイズ法などを用いて準備することができる。また、拡散源は、前記によって得られた合金をピンミルなどの公知の粉砕手段によって粉砕されたものであってもよい。また、前記によって得られた合金の粉砕性を向上させるために、水素雰囲気中で700℃以下の熱処理を行って水素を含有させてから粉砕を行っても良い。
【0041】
・焼結体の表面から拡散源に含まれる元素を内部に拡散させる工程
真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で熱処理をすることにより、焼結体の表面から拡散源に含まれる元素を内部に拡散させる。本開示において、この熱処理を第一の熱処理という。拡散のための熱処理温度が700℃未満であると、拡散が不十分となり、高いHcJを得ることができない可能性がある。一方、1100℃を超えると主相の異常粒成長が起こり、HcJの低下する可能性がある。拡散のための熱処理温度は、800℃以上1000℃以下が好ましい。より高いHcJを得ることができるからである。なお、熱処理時間は焼結体素材や拡散源の組成や寸法、熱処理温度などによって適正値を設定するが、5分以上30時間以下が好ましく、10分以上25時間以下がより好ましく、30分以上20時間以下がさらに好ましい。また、拡散源は、焼結体素材の重量に対し1mass%以上30mass%以下準備した方が好ましい。拡散源が焼結体素材の重量に対し1mass%未満であるとHcJが低下する可能性がある。一方、30mass%を超えるとBrが低下する可能性がある。
【0042】
拡散のための熱処理は、公知の熱処理方法を用いて行うことができる。例えば、焼結体素材表面を拡散源の粉末層で覆い、第一の熱処理を行うことができる。例えば、スパッタ法により、拡散源を焼結体素材表面にコーティングしたのちに、第一の熱処理を行ってもよい。例えば、拡散源を分散媒中に分散させたスラリーを焼結体素材表面に塗布した後、分散媒を蒸発させて拡散源と焼結体素材とを接触させてもよい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、NMP(N-メチルピロリドン)、アルデヒド及びケトンを例示できる。また、第一の熱処理が実施された焼結体素材に対して切断や切削など公知の機械加工を行ってもよい。
【0043】
拡散のための熱処理が実施された焼結体素材に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上600℃以下の温度で熱処理を行ってもよい。本開示において、この熱処理を第二の熱処理という。第二の熱処理を行うことにより、高いBrと高いHcJを得ることができる。第二の熱処理の温度が450℃以上600℃以下とすることにより、R6T13Ga相の生成が進行する。第二の熱処理温度は、480℃以上560℃以下が好ましい。より高いHcJを得ることができる。なお、熱処理時間は焼結体素材の組成や寸法、熱処理温度などによって適正値を設定するが、5分以上20時間以下が好ましく、10分以上15時間以下がより好ましく、30分以上10時間以下がさらに好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本開示を実験例(実施例および比較例を含む)により、さらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。
【0045】
図3の表は、本実験例におけるサンプル(試料No.1~28)の最終的に得られたR-T-Q系焼結磁石の組成を示している。
図3の表における「Sample」のカラムには、5つのグループI~Vに分けられた28個の試料No.が記載されている。各試料について、R-T-Q系焼結磁石の組成(mass%)が記載されている。組成は、後述する製造方法を実行して得られたR-T-Q系焼結磁石の試料について、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法によりFe、Nd、Pr、Dy、B、Co,Al、Cu、Ga、Zrの含有量を、堀場製作所製のガス分析装置、「EMGA-930」によりH量を、「EMGA-920」によりによりO量およびN量を、「EMIA-920V2/FA」によりC量をそれぞれ分析した。なお、
図3の表に示される「TRE」は、希土類合金の合計組成であり、「B+C」は硼素(B)と炭素(C)の合計組成である。
【0046】
各試料は、以下の工程により得られた。
【0047】
まず、ストリップキャスト法により、フレーク状のR-T-B系焼結磁石用合金を作製した。R-T-B系焼結磁石用合金は、
図3の表に示される組成を実現するように各種の原料合金を溶融してから冷却凝固することによって得られた。
【0048】
得られたフレーク状の合金を水素粉砕装置の処理室内にいれ、処理室内において水素加圧雰囲気で水素吸蔵工程を行った。水素吸蔵工程は合金を200℃以下の温度、具体的には80℃にて行った。水素吸蔵工程により、合金は水素を吸蔵して脆化した。
【0049】
次に、処理室内で水素を排気し、真空中で所定の温度に加熱(ベーキング)した後、冷却する脱水素処理を行い、粗粉砕粉を得た。脱水素処理のためのベーキング温度は、
図4の表に示されるように、グループI~IVのそれぞれで異なる値に設定した。具体的には、グループI、II、III、IVのベーキング温度は、それぞれ、550℃、350℃、190℃、150℃であった。グループVでは、脱水素処理のための加熱(ベーキング)を行わなかった。
【0050】
このようにして得られた各試料の粗粉砕粉に含まれる水素量(粗粉水素量)を堀場製作所製のガス分析装置「EMGA-930」で測定した。粗粉水素量の測定値を
図4の表に示す。本願における粗粉水素量の単位は、質量基準のppm(parts per million)で表すものとする。
【0051】
図5は、粗粉水素量[ppm]のベーキング温度依存性を示すグラフである。
図5のグラフには、希土類元素の合計組成TREが36mass%および32.9mass%の参考例についても、粗粉水素量[ppm]のベーキング温度依存性がそれぞれ点線および破線で示されている。
【0052】
図5からわかるように、ベーキング温度を低下させるほど、粗粉水素量は増加する。また、希土類元素の合計組成TREが30mass%以下の粗粉水素量は、希土類元素の合計組成TREが30mass%を超える場合には実現しない低い値を有することができる。本開示の実施例によれば、希土類元素の合計組成TREが30mass%以下であるため、ベーキング温度を80℃以上350℃以下の範囲で調整することにより、粗粉水素量を1000ppm以上200ppm以下の範囲に制御することができる。
【0053】
粗粉砕粉とステアリン酸亜鉛を混合し、気流式粉砕機(ジェットミル装置)に投入して微粉砕粉を得た。具体的には、メディアン径d50が3.5μmの微粉砕粉を得た。微粉砕粉にカプリル酸メチルを添加後、ノルマルドデカンに浸漬してスラリーを準備した。得られたスラリーを磁界中で成形(湿式成形)し、成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0054】
得られた成形体を真空中において
図4の表に示される焼結温度で約5時間保持する焼結工程を実行し、焼結体を得た。焼結体の密度は、
図4の表に示されるように、いずれも77.5×10
3kg/m
3(=7.5g/cm
3)以上であった。
【0055】
焼結体に対して真空中で800℃、2時間の熱処理を行なった後、一辺7.2mmの立方体に加工した。加工後の立方体試料に対して500℃、2時間の熱処理を行なった後、立方体試料の6面を研削して一辺7mmの立方体に加工し、パルスB-Hトレーサで残留磁束密度B
rおよび保磁力H
cJを測定した。なお、グループVの試料はすべて割れてしまったため、磁気特性は測定しなかった。測定よって得られた各種の磁気特性(B
r[T]、H
cJ[kA/m]、を
図4の表に示す。
【0056】
図3および
図4の表に示されるように、本発明例である、試料No.10~12、15~18、21~23では、C含有量が低く抑えられ、B含有量をR-T-Q系焼結磁石全体の0.90mass%以下、BおよびCの合計含有量を0.99mass%以下にすることができた。これらの試料No.10~12、15~18、21~23は、いずれも、R-T-Q系焼結磁石におけるDyおよびTbの合計含有量は0.5mass%以下(0mass%を含む)であり、かつ、B
r≧1.39T、H
cJ≧1640kA/mの優れた磁気特性を発揮することができた。
【0057】
図6は、各グループにおける試料のB
rとH
cJをとの関係を示すグラフである。
図7は、H
cJとB含有量との関係を示すグラフであり、
図8は、H
cJと(B+C)含有量との関係を示すグラフであり、
図9は、B
rとB含有量との関係を示すグラフである。これらのグラフにおいて、グループI(試料No.1~6)のデータは四角で示され、グループII(試料No.7~12)のデータは円で示され、グループIII(試料No.13~18)のデータは菱形で示され、グループIV(試料No.19~23)のデータは三角で示されている。
【0058】
図6からわかるように、ベーキング温度が500℃のグループIでは、相対的に高いB
rを得ることができるが、相対的に高いH
cJを得ることは難しい。また、
図7および
図8からわかるように、グループIでは、他のグループに比べて、C含有量が増加したため、BおよびCの合計含有量が増加する傾向にある。更に、
図9からわかるように、B含有量が同じ場合、ベーキング温度が低くなると、すなわち、粗粉水素量が増加すると、B
rは低下する傾向がある。このことから、ベーキング温度は例えば100℃以上であることが好ましい。
【0059】
次に、微粉砕粉(微粉)の粒度を変えて同様の実験例を作製した。前述の実験例との主な相違点は、ベーキング温度および微粉砕工程にある。
図10の表におけるグループVIの試料No.29~33は、ベーキング温度を150℃に設定し、微粉砕工程では、メディアン径d50が3.3μmとなるように粉砕を行った。これに対して、
図10の表におけるグループVIIの試料No.34~38は、ベーキング温度を150℃に設定し、微粉砕工程においてメディアン径d50が3.6μmとなるように粉砕を行った。
【0060】
図11からわかるように、メディアン径d50が3.5μmを超える3.6μmの場合(グループVII)、B
r≧1.39Tを達成したが、H
cJ≧1640kA/mを達成できなかった。
【0061】
次に、微粉砕粉(微粉)の粒度を更に小さくして同様の実験例を作製した。前述の実験例との主な相違点は、脱水素処理のためのベーキング温度、微粉砕工程で作成する微粉のメディアン径d50、および、R-T-Q系焼結磁石におけるDyが0.3mass%であることにある。R-T-B系焼結磁石用合金は、
図12の表に示される組成を実現するように各種の原料合金を溶融してから冷却凝固することによって得られた。
図12の表におけるグループVIIIの試料No.39~44は、ベーキング温度を100℃に設定し、微粉砕工程では、メディアン径d50が2.7μmとなるように粉砕を行った。これに対して、
図12の表におけるグループIXの試料No.45~49は、ベーキング温度を500℃に設定し、微粉砕工程においてメディアン径d50が2.7μmとなるように粉砕を行った。
【0062】
微粉のメディアン径d50が小さくなるほど、理論的には、HcJを高めることが可能になる。しかし、現実には、メディアン径d50が小さくなる程、微粉を構成する各粉末粒子の単位体積当たりの表面積が増加するため、粉末粒子表面の影響によりHcJ増加を実現することが難しい。また、微粉を構成する各粉末粒子の単位体積当たりの表面積が増加すると、製造工程中にCの含有量が増加しやすくなると考えられる。このため、微粉のメディアン径d50が例えば3.0μm以下になると、BおよびCの合計含有量を0.99mass%以下に調整することが難しくなると考えられる。
【0063】
本実験例の結果、ベーキング温度が100℃、メディアン径d50が2.7μmの場合(グループVIII)における試料No.41~44では、
図13からわかるように、Br≧1.30Tを維持しながら、1700kA/m以上の高い値H
cJを達成することができた。なお、
図12に示されるように、試料No.41~44におけるBおよびCの合計含有量は、0.99mass%以下であるのに対して、試料No.39~40におけるBおよびCの合計含有量は0.99mass%を超えていた。
【0064】
一方、ベーキング温度が500℃、メディアン径d50が2.7μmの場合(グループIX)における試料No.45~49では、
図13からわかるように、粗粉水素量が1000ppmよりも大幅に低く、H
cJは1500kA/m以下であった。R-T-Q系焼結磁石が0.3mass%のDyを含有していても、H
cJは低い値であった。グループIXのすべての試料No.45~49におけるBおよびCの合計含有量は、
図12に示されるように、いずれも0.99mass%を超えてしまっていた。
【0065】
図14は、グループVIIIおよびグループIXにおける試料のB
rとH
cJをとの関係を示すグラフである。
図15は、H
cJとB含有量との関係を示すグラフであり、
図16は、H
cJと(B+C)含有量との関係を示すグラフである。これらのグラフにおいて、グループVIII(試料No.39~44)のデータは白い菱形で示され、グループIX(試料No.45~49)のデータは白い円で示されている。
【0066】
図14からわかるように、メディアン径d50が2.7μmと小さく、かつ、ベーキング温度が100℃であるグループVIIIでは、高いH
cJを実現できた。具体的には、グループVIIIのうちでも、BおよびCの合計含有量が0.99mass%以下である試料No.41~44では、1700kA/mを超える高いH
cJを達成することができた。
【0067】
図15および
図16からわかるように、ベーキング温度が100℃のグループVIII(試料No.39~44)では、ベーキング温度が500℃のグループIX(試料No.45~49)に比べて、C含有量の増加が抑制され、BおよびCの合計含有量が0.99mass%以下の低い値が実現した。一般に、メディアン径d50が小さくなる程、微粉の表面積が増加するため、製造工程中にC含有量が増加しやすいと考えられる。このため、本発明によるC含有量の増加を抑制する効果は、特にメディアン径d50が3.0μm以下の微粉を用いてR-T-Q系焼結磁石を製造する場合に顕著であると言える。
【0068】
本実験例から、メディアン径d50が3.0μm以下(例えば2.6~2.8μm)の微粉を作製する場合でも、水素粉砕工程におけるベーキング温度を調整して水素含有量が1000ppm以上2000ppm以下の粗粉砕粉を作製することにより、BおよびCの合計含有量を所望の範囲に収めることが容易になるため、より高いHcJを達成できることがわかる。
【0069】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法を含む。
【0070】
[項目1]
R-T-Q系磁石合金(Rは、希土類元素の少なくとも一つであり、NdおよびPrの少なくとも一方を必ず含む、TはFe又はFeとCoであり、Fe、Co、Ni、Al、Mn、CrおよびVからなる元素の群から選択された少なくとも1つであり、QはBおよびCである)を粉砕して合金粉末を作製する粉砕工程と、
前記合金粉末の成形体を作製する粉末成形工程と、
前記成形体を焼結してR-T-Q系焼結磁石を作製する焼結工程と、
を含み、
前記R-T-Q系焼結磁石のR含有量は、前記R-T-Q系焼結磁石全体の30mass%以下であり、B含有量は、前記R-T-Q系焼結磁石全体の0.90mass%以下であり、BおよびCの合計含有量は0.99mass%以下であり、
前記粉砕工程は、水素粉砕工程と微粉砕工程とを含み、
前記水素粉砕工程は、
処理室内において200℃以下の温度で前記合金に水素を吸蔵させる水素吸蔵工程と、
前記処理室内から水素を排気し、前記合金を80℃以上350℃以下の範囲に加熱することによって脱水素処理を行い、水素含有量が1000ppm以上2000ppm以下の粗粉砕粉を作製する脱水素工程と、
を含み、
前記微粉砕工程は、前記粗粉砕粉を粉砕してメディアン径d50を3.5μm以下の微粉を得る工程を含む、R-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【0071】
[項目2]
前記水素含有量は1000ppm以上1800ppm以下である、項目1に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【0072】
[項目3]
前記R-T-Q系焼結磁石におけるDyおよびTbの合計含有量は0.5mass%以下(0mass%を含む)であり、
Br≧1.39T
HcJ≧1640kA/m
である、項目1または2に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法
【0073】
[項目4]
前記微粉砕工程は、前記粗粉砕粉を粉砕してメディアン径d50を3.3μm以下の微粉を得る工程を含む、項目1から3のいずれか1項に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【0074】
[項目5]
前記微粉砕工程は、前記粗粉砕粉に有機系の粉砕助剤を混合する工程を含む、項目1から4のいずれか1項に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【0075】
[項目6]
前記粉末成形工程は、湿式成形法によって行われる、項目1から5のいずれか1項に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【0076】
[項目7]
記微粉砕工程は、ジェットミル装置を用いて行われる、項目1から6のいずれか1項に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【0077】
[項目8]
前記R-T-Q系焼結磁石は、DyおよびTbの少なくとも一方を含有し、DyおよびTbの合計含有量は、0mass%超0.5質量%以下であり、
Br≧1.30T
HcJ≧1700kA/m
である、項目1から7のいずれか1項に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法
【0078】
[項目9]
前記微粉砕工程は、前記粗粉砕粉を粉砕してメディアン径d50を3.0μm以下の微粉を得る工程を含む、項目1から8のいずれか1項に記載のR-T-Q系焼結磁石の製造方法。
【符号の説明】
【0079】
12 主相
14 粒界相
14a 二粒子粒界相
14b 粒界三重点
【要約】
本開示のR-T-Q系焼結磁石の製造方法は、R-T-Q系磁石合金を粉砕して合金粉末を作製する粉砕工程と、合金粉末の成形体を焼結してR-T-Q系焼結磁石を作製する工程とを含む。R含有量は30mass%以下であり、B含有量は0.90mass%以下であり、BおよびCの合計含有量は0.99mass%以下である。粉砕工程は、水素粉砕工程と微粉砕工程とを含み、水素粉砕工程は、処理室内において200℃以下の温度で前記合金に水素を吸蔵させる水素吸蔵工程と、処理室内から水素を排気し、前記合金を80℃以上350℃以下の範囲に加熱することによって脱水素処理を行い、水素含有量が1000ppm以上2000ppm以下の粗粉砕粉を作製する脱水素工程とを含む。微粉砕工程は、粗粉砕粉を粉砕してメディアン径d50を3.5μm以下の微粉を得る。