(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/18 20060101AFI20241217BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20241217BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20241217BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20241217BHJP
B22F 7/06 20060101ALI20241217BHJP
B23P 15/28 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
B23B27/18
B23B27/20
B23B27/14 B
C22C1/05 P
B22F7/06 F
B23P15/28 Z
(21)【出願番号】P 2022102645
(22)【出願日】2022-06-27
(62)【分割の表示】P 2021563642の分割
【原出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富本 英輝
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 大継
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
(72)【発明者】
【氏名】原田 高志
(72)【発明者】
【氏名】渡部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】背川 真有香
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/109954(WO,A1)
【文献】特開2005-088178(JP,A)
【文献】特開2004-291126(JP,A)
【文献】特開2012-218083(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031348(WO,A1)
【文献】特開平10-182231(JP,A)
【文献】特開2017-202557(JP,A)
【文献】特開2000-326111(JP,A)
【文献】特開2006-255884(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179666(WO,A1)
【文献】特開2020-040170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34;
C22C 1/05;
B22F 7/06;
B23P 15/28-15/52;
B23K 26/361
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部が設けられている台金と、
多結晶ダイヤモンドとバインダーとを含む多結晶ダイヤモンド焼結体である刃先部材と、
前記刃先部材を前記台金の前記座部に固定するロウ材とを備え、
前記台金は、上面と、下面と、前記上面と前記下面とに接続されている側面とを含み、
前記座部は、座底面と、座壁とを含み、
前記座底面は、前記上面から前記下面に向かって後退しており、かつ、前記側面に接続されており、
前記座壁は、前記上面と前記座底面と前記側面とに接続されており、
前記刃先部材は、前記上面に沿って延在するすくい面と、前記すくい面とは反対側の刃先底面と、前記すくい面と前記刃先底面とに接続されている逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面との間に形成される切刃とを含み、
前記刃先部材の厚さは、0.3mm以上であり、
前記ロウ材は、前記刃先底面と前記座底面との間に配置されており、かつ、前記刃先底面と前記座底面とに接触しており、
前記逃げ面は、前記台金の前記側面に対して前記台金の外側に位置し、
前記多結晶ダイヤモンド焼結体は、前記逃げ面に、グラファイト
およびコバルト酸化
物を含み、
前記多結晶ダイヤモンドを構成する炭素を第1炭素とし、前記グラファイトを構成する炭素を第2炭素とし、
前記逃げ面においてラマン分光分析を行った場合、前記逃げ面における前記第1炭素の第1ピーク強度と前記逃げ面における前記第2炭素の第2ピーク強度との和に対する前記第2ピーク強度の比率は、0.01以上0.50以下であり、
前記多結晶ダイヤモンドの体積平均径は、10μm以上であり、
前記多結晶ダイヤモンド焼結体は、前記逃げ面において、25重量%以上の前記コバルト酸化物を含む、切削工具。
【請求項2】
前記第1ピーク強度と前記第2ピーク強度との和に対する前記第2ピーク強度の比率は、0.10以上0.48以下である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記刃先底面から前記台金の前記下面の側への前記逃げ面の第1延長面は、前記台金の前記側面から離間されている、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記刃先底面または前記座底面の少なくとも一つに、凹構造が形成されており、
前記ロウ材は、前記凹構造の少なくとも一部に充填されている、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記側面からの前記逃げ面の突出長さは、0.01mm以上である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記逃げ面の前記突出長さは、0.50mm以下である、請求項5に記載の切削工具。
【請求項7】
前記刃先部材の前記厚さは、2.0mm以下である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記多結晶ダイヤモンドの体積平均径は、10μmを超えるものである、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開平10-193203号公報)は、凹部が形成されている台金と、凹部にロウ付けされている切刃部材とを備えるスローアウェイチップを開示している。切刃部材は、超硬合金からなる裏打ち板と、ダイヤモンドまたは立方晶窒化ホウ素(CBN)を主成分とする超高硬度焼結体とが積層された層状焼結体である。裏打ち板が台金の凹部にロウ付けされることにより、切刃部材は台金の凹部に固着される。切刃部材は、すくい面と、逃げ面と、すくい面と逃げ面との交差稜線に形成されている切刃とを含む。切刃部材の逃げ面は、台金の逃げ面から突出している。切刃は、切刃部材の逃げ面を砥石で研削することによって、形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る切削工具は、座部が設けられている台金と、多結晶ダイヤモンドとバインダーとを含む多結晶ダイヤモンド焼結体である刃先部材と、刃先部材を台金の座部に固定するロウ材とを備える。台金は、上面と、下面と、上面と下面とに接続されている側面とを含む。座部は、座底面と、座壁とを含む。座底面は、上面から下面に向かって後退しており、かつ、側面に接続されている。座壁は、上面と座底面と側面とに接続されている。刃先部材は、上面に沿って延在するすくい面と、すくい面とは反対側の刃先底面と、すくい面と刃先底面とに接続されている逃げ面と、すくい面と逃げ面との間に形成される切刃とを含む。刃先部材の厚さは、0.3mm以上である。ロウ材は、刃先底面と座底面との間に配置されており、かつ、刃先底面と座底面とに接触している。逃げ面は、台金の側面に対して台金の外側に位置している。
【0005】
本開示の一態様に係る切削工具の製造方法は、ロウ材により、刃先焼結体を台金の座部に固定する工程を備える。刃先焼結体は、多結晶ダイヤモンドとバインダーとを含む多結晶ダイヤモンド焼結体であり、かつ、すくい面と刃先底面と逃げ面とを含む。本開示の一態様に係る切削工具の製造方法は、刃先焼結体の逃げ面に沿ってレーザビームを照射して、刃先焼結体の逃げ面をレーザ加工することにより、切刃を形成する工程を備える。
【0006】
本開示の一態様に係る切削工具の製造方法は、ロウ材により、刃先焼結体を台金の座部に固定する工程を備える。刃先焼結体は、多結晶ダイヤモンドとバインダーとを含む多結晶ダイヤモンド焼結体であり、かつ、すくい面と刃先底面と逃げ面とを含む。本開示の一態様に係る切削工具の製造方法は、刃先焼結体の逃げ面に沿ってレーザビームを照射して、刃先焼結体の逃げ面を第1レーザ照射条件の下でレーザ加工することにより、切刃を形成する工程を備える。本開示の一態様に係る切削工具の製造方法は、逃げ面に沿ってレーザビームを照射して、逃げ面を第1レーザ照射条件とは異なる第2レーザ照射条件の下でレーザ加工することにより、逃げ面にグラファイトまたはコバルト酸化物の少なくとも一つを生成する工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の切削工具の概略斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態の切削工具の概略正面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の切削工具の、
図2に示す領域IIIの概略部分拡大正面図である。
【
図4】
図4は、実施形態の切削工具の概略部分拡大背面図である。
【
図5】
図5は、実施形態の切削工具の、
図3に示す断面線V-Vにおける概略部分拡大断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態の別の局面の切削工具の概略部分拡大断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態の切削工具の製造方法の一例のフローチャートを示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態の切削工具の製造方法の一例の一工程を示す概略部分拡大断面図である。
【
図9】
図9は、実施形態の切削工具の再生産方法の一例のフローチャートを示す図である。
【
図10】
図10は、刃先部材に欠けが発生した実施形態の切削工具の概略部分拡大断面図である。
【
図11】
図11は、実施形態の切削工具の再生産方法の一工程を示す概略部分拡大断面図である。
【
図12】
図12は、実施形態の切削工具の別の例の製造方法のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に開示されたスローアウェイチップでは、切刃部材は、超高硬度焼結体と裏打ち板とを含む。また、切刃は、切刃部材の逃げ面を砥石で研削することによって、形成されている。そのため、切刃を形成するために、超高硬度焼結体だけでなく、切刃が形成されない裏打ち板も研削する必要がある。また、スローアウェイチップの製造に砥石が必要になる。その結果、スローアウェイチップの製造時間が長くなり、スローアウェイチップの製造コストが増加する。本開示の目的は、切削工具の寿命を短くすることなく、より低コストで切刃が形成され得る切削工具を提供することである。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の切削工具によれば、切削工具の寿命を短くすることなく、切刃がより低コストで形成され得る。
【0010】
[実施形態の概要]
本開示の実施形態を、列挙して説明する。
【0011】
(1)本開示に係る切削工具1は、座部15が設けられている台金10と、多結晶ダイヤモンドとバインダーとを含む多結晶ダイヤモンド焼結体である刃先部材20と、刃先部材20を台金10の座部15に固定するロウ材30とを備える。台金10は、上面11と、下面12と、上面11と下面12とに接続されている側面13とを含む。座部15は、座底面16と、座壁17とを含む。座底面16は、上面11から下面12に向かって後退しており、かつ、側面13に接続されている。座壁17は、上面11と座底面16と側面13とに接続されている。刃先部材20は、上面11に沿って延在するすくい面21と、すくい面21とは反対側の刃先底面22と、すくい面21と刃先底面22とに接続されている逃げ面23と、すくい面21と逃げ面23との間に形成される切刃25とを含む。刃先部材20の厚さhは、0.3mm以上である。ロウ材30は、刃先底面22と座底面16との間に配置されており、かつ、刃先底面22と座底面16とに接触している。逃げ面23は、台金10の側面13に対して台金10の外側に位置している。
【0012】
本開示の切削工具1では、刃先部材20は多結晶ダイヤモンドとバインダーとを含む多結晶ダイヤモンド焼結体であり、ロウ材30は、刃先底面22と座底面16との間に配置されており、かつ、刃先底面22と座底面16とに接触している。つまり、刃先部材20は、裏打ち板を含んでいない。また、逃げ面23は、台金10の側面13に対して台金10の外側に位置している。そのため、切刃25は、砥石無しに逃げ面23をレーザ加工することによって、より短時間で形成され得る。切刃25は、より低コストで形成され得る。
【0013】
切刃25は、裏打ち板をレーザ加工することなく、形成され得る。そのため、裏打ち板がレーザ加工されることに起因するロウ材30の融解が防止され得る。さらに、刃先部材20の厚さhは0.3mm以上であるため、切刃25とロウ材30との間の距離が増加する。切削工具1を用いて被削材を切削加工する際に切刃25に発生する熱に起因して、ロウ材30が融解することが防止され得る。こうして、切削工具1の寿命が短くなることが防止され得る。
【0014】
また、多結晶ダイヤモンド焼結体はバインダーを含む。バインダーは、多結晶ダイヤモンドを低コストで焼結させることを可能にする。そのため、切削工具1のコストが低減され得る。バインダーは、刃先部材20の耐摩耗性を向上させる。そのため、切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。バインダーは、レーザ加工をする際に、レーザビーム36に対する多結晶ダイヤモンド焼結体の吸収率を増加させる。そのため、レーザ加工によって、切刃25が容易に形成され得る。
【0015】
(2)上記(1)に係る切削工具1では、刃先底面22から台金10の下面12の側への逃げ面23の第1延長面23bは、台金10の側面13から離間されている。
【0016】
そのため、切刃25を形成するためのレーザビーム36は、台金10に照射されることなく、逃げ面23に照射される。切刃25は、より低コストで形成され得る。
【0017】
(3)上記(1)または(2)に係る切削工具1では、刃先底面22または座底面16の少なくとも一つに、凹構造28が形成されている。ロウ材30は、凹構造28の少なくとも一部に充填されている。
【0018】
そのため、台金10に対する刃先部材20の固定強度が増加する。切削工具1の寿命が増加する。
【0019】
(4)上記(1)から(3)のいずれかに係る切削工具1では、側面13からの逃げ面23の突出長さtは、0.01mm以上である。
【0020】
そのため、切刃25を形成するためのレーザビーム36が台金10に照射されることが、容易に回避され得る。切刃25は、より低コストで形成され得る。
【0021】
(5)上記(4)に係る切削工具1では、逃げ面23の突出長さtは、0.50mm以下である。
【0022】
そのため、刃先部材20の剛性が低下することが抑制される。切削工具1を用いて被削材を切削加工する際に、切刃25に欠けが発生することが抑制され得る。切削工具1を用いて被削材を切削加工する際に、切削工具1に損傷が突発的に発生することが防止され得る。切削工具1の寿命が短くなることが防止され得る。
【0023】
(6)上記(1)から(5)のいずれかに係る切削工具1では、刃先部材20の厚さhは、2.0mm以下である。
【0024】
そのため、刃先部材20を構成する多結晶ダイヤモンド焼結体の使用量を減少させることができる。切削工具1のコストが低減され得る。
【0025】
(7)上記(1)から(6)のいずれかに係る切削工具1では、多結晶ダイヤモンド焼結体は、逃げ面23に、グラファイトまたはコバルト酸化物の少なくとも一つを含む。
【0026】
グラファイトは潤滑性を有する。そのため、逃げ面23にグラファイトが含まれる場合には、切削工具1は、初期摩耗に対応可能な優れた潤滑性を有する。切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。コバルト酸化物は、逃げ面23の耐摩耗性を向上させる。そのため、逃げ面23にコバルト酸化物が含まれる場合には、切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。
【0027】
(8)上記(7)に係る切削工具1では、多結晶ダイヤモンドを構成する炭素を第1炭素とし、グラファイトを構成する炭素を第2炭素とし、逃げ面23においてラマン分光分析を行った場合、逃げ面23における第1炭素の第1ピーク強度と逃げ面23における第2炭素の第2ピーク強度との和に対する前記第2ピーク強度の比率は、0.01以上0.50以下である。多結晶ダイヤモンドの体積平均径は、10μm以上である。
【0028】
潤滑性を有するグラファイトの比率は、0.01以上である。そのため、切削工具1は初期摩耗に対応可能な優れた潤滑性を有する。切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。逃げ面23におけるグラファイトの比率が0.50以下であるため、逃げ面23において、グラファイトより高い硬度を有する多結晶ダイヤモンドの割合は、グラファイトの割合以上である。そのため、逃げ面23の硬度が過度に低下することが防止され得る。多結晶ダイヤモンドの体積平均径が10μm以上であるため、逃げ面23のレーザ加工の際に、多結晶ダイヤモンドが過剰にグラファイトに変わることが防止される。そのため、逃げ面23の硬度が過度に低下することが防止され得る。こうして、切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。
【0029】
(9)上記(7)または(8)に係る切削工具1では、多結晶ダイヤモンド焼結体は、逃げ面23において、25重量%以上のコバルト酸化物を含む。
【0030】
そのため、逃げ面23の耐摩耗性がさらに向上され得る。切削工具1の耐摩耗性がさらに向上され得る。
【0031】
(10)上記(1)から(9)のいずれかに係る本開示の第一局面の切削工具1の製造方法は、ロウ材30により、刃先焼結体20pを台金10の座部15に固定する工程(S2)を備える。刃先焼結体20pは、多結晶ダイヤモンドとバインダーとを含む多結晶ダイヤモンド焼結体であり、かつ、すくい面21と刃先底面22と逃げ面23とを含む。本開示の切削工具1の製造方法は、刃先焼結体20pの逃げ面23に沿ってレーザビーム36を照射して、刃先焼結体20pの逃げ面23をレーザ加工することにより、切刃25を形成する工程(S4)を備える。
【0032】
刃先焼結体20pは多結晶ダイヤモンド焼結体であり、ロウ材30は、刃先底面22と座底面16との間に配置されており、かつ、刃先底面22と座底面16とに接触している。つまり、刃先焼結体20pは、裏打ち板を含んでいない。また、逃げ面23は、台金10の側面13に対して台金10の外側に位置している。そのため、切刃25は、砥石無しに逃げ面23をレーザ加工することによって、より短時間で形成され得る。切刃25は、より低コストで形成され得る。
【0033】
切刃25は、裏打ち板をレーザ加工することなく、形成され得る。そのため、裏打ち板がレーザ加工されることに起因するロウ材30の融解が防止され得る。さらに、刃先部材20の厚さhは0.3mm以上であるため、切刃25とロウ材30との間の距離が増加する。切削工具1を用いて被削材を切削加工する際に切刃25に発生する熱に起因して、ロウ材30が融解することが防止され得る。こうして、切削工具1の寿命が短くなることが防止され得る。
【0034】
また、多結晶ダイヤモンド焼結体は、バインダーを含む。バインダーは、多結晶ダイヤモンドを低コストで焼結させることを可能にする。切削工具1のコストが低減され得る。バインダーは、刃先部材20の耐摩耗性を向上させる。そのため、切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。バインダーは、レーザ加工により切刃25を形成する際に、レーザビーム36に対する多結晶ダイヤモンド焼結体の吸収率を増加させる。そのため、レーザ加工によって、切刃25が容易に形成され得る。
【0035】
(11)上記(7)から(9)のいずれかに係る本開示の第二局面の切削工具1の製造方法は、ロウ材30により、刃先焼結体20pを台金10の座部15に固定する工程(S2)を備える。刃先焼結体20pは、多結晶ダイヤモンドとバインダーとを含む多結晶ダイヤモンド焼結体であり、かつ、すくい面21と刃先底面22と逃げ面23とを含む。本開示の切削工具1の製造方法は、刃先焼結体20pの逃げ面23に沿ってレーザビーム36を照射して、刃先焼結体20pの逃げ面23を第1レーザ照射条件の下でレーザ加工することにより、切刃25を形成する工程(S4)を備える。本開示の切削工具1の製造方法は、逃げ面23に沿ってレーザビーム36を照射して、逃げ面23を第1レーザ照射条件とは異なる第2レーザ照射条件の下でレーザ加工することにより、逃げ面23にグラファイトまたはコバルト酸化物の少なくとも一つを生成する工程(S5)を備える。
【0036】
本開示の第二局面の切削工具1の製造方法は、上記(10)に係る本開示の第一局面の切削工具1の製造方法の効果に加えて、以下の効果を奏する。グラファイトは潤滑性を有する。そのため、逃げ面23にグラファイトが生成される場合には、切削工具1は初期摩耗に対応可能な優れた潤滑性を有する。切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。コバルト酸化物は、逃げ面23の耐摩耗性を向上させる。そのため、逃げ面23にコバルト酸化物が生成される場合には、切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。
【0037】
また、多結晶ダイヤモンド焼結体はバインダーを含む。バインダーは、レーザ加工によりグラファイトまたはコバルト酸化物の少なくとも一つを生成する際に、レーザビーム36に対する多結晶ダイヤモンド焼結体の吸収率を増加させる。そのため、第2レーザ照射条件の下でのレーザ加工によって、逃げ面23にグラファイトまたはコバルト酸化物の少なくとも一つがより多く生成され得る。
【0038】
[実施形態の詳細]
図面に基づいて、実施形態の詳細を以下説明する。なお、図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0039】
図1から
図6を参照して、本実施形態の切削工具1を説明する。
【0040】
切削工具1は、台金10と、刃先部材20と、ロウ材30とを備える。
【0041】
台金10は、例えば、超硬合金製である。台金10は、例えば、炭化タングステン(WC)粉末のような超硬合金粉末とコバルト粉末のようなバインダー粉末とを混合して焼結することによって得られる。台金10は、上面11と、下面12と、上面11と下面12とに接続されている側面13とを含む。
図1から
図5に示されるように、下面12に対する側面13の角度αは90°より大きくてもよく、側面13はポジ型の側面であってもよい。
図6に示されるように、下面12に対する側面13の角度αは90°以下であってもよく、側面13はネガ型の側面であってもよい。
【0042】
台金10の上面11からの平面視における台金10の形状は、例えば、正三角形である。台金10の上面11からの平面視における台金10の形状は、特に限定されず、菱形、正五角形または正六角形のような多角形であってもよい。台金10には、上面11から下面12まで延在する貫通孔19が設けられてもよい。台金10をホルダで保持するために、貫通孔19には、切削工具1を切削加工に用いる際、切削工具1を固定するホルダ(図示せず)の係止部材(図示せず)が係止される。
【0043】
台金10には、座部15が設けられている。座部15は、座底面16と、座壁17とを含む。座底面16は、上面11から下面12に向かって後退しており、かつ、側面13に接続されている。座壁17は、上面11と座底面16と側面13とに接続されている。座部15は、例えば、台金10の複数の角部の少なくとも一つに設けられている。座部15は、例えば、台金10の複数の角部のうちの二つ以上に設けられてもよいし、台金10の複数の角部の全てに設けられてもよい。
【0044】
刃先部材20は、多結晶ダイヤモンドとバインダーとを含む多結晶ダイヤモンド(PCD)焼結体である。バインダーは、例えば、コバルトを含む。バインダーは、多結晶ダイヤモンドを低コストで焼結させることを可能にする。そのため、切削工具1のコストが低減され得る。バインダーは、刃先部材20の耐摩耗性を向上させる。そのため、切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。PCD焼結体は、例えば、ダイヤモンド結晶粉末と、コバルト粉末を含むバインダー粉末とを混合して焼結することによって得られる。刃先部材20は、裏打ち板を含んでいない。
【0045】
多結晶ダイヤモンドの体積平均径は、例えば、10μm以上である。多結晶ダイヤモンドの体積平均径は、次のようにして得られる。
【0046】
逃げ面23を研磨加工して、逃げ面23から100μm離れている面を露出させる。この露出面は、逃げ面23に平行である。この露出面には、後述するグラファイト及びコバルト酸化物は生成されていない。走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、露出面の複数の視野(例えば、五つ以上の視野)の反射電子像を得る。反射電子像における黒色領域は、多結晶ダイヤモンド粒子が存在する領域である。黒色領域の各々は、多結晶ダイヤモンド粒子の各々に対応している。反射電子像における白色領域または灰色領域は、バインダーが存在する領域である。画像解析ソフトを用いて、複数の視野の各々の反射電子像中の黒色領域の各々の円相当径を算出する。円相当径は、黒色領域の各々の面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。黒色領域の各々は、円相当径を直径とする球の体積を有すると見なして、黒色領域の各々の体積を算出する。複数の視野の各々について、黒色領域の円相当径と体積とから体積平均径を算出する。複数の視野の体積平均径の平均値を、多結晶ダイヤモンドの体積平均径として算出する。
【0047】
刃先部材20は、すくい面21と、すくい面21とは反対側の刃先底面22と、すくい面21と刃先底面22とに接続されている逃げ面23と、刃先側面24とを含む。
【0048】
すくい面21は、上面11に沿って延在している。本明細書において、すくい面21が上面11に沿って延在することは、すくい面21の主な延在方向が上面11の主な延在方向と同じであることを意味する。具体的には、すくい面21の主な延在方向及び上面11の主な延在方向は、いずれも紙面内方向である。すくい面21が上面11に沿って延在することは、すくい面21が上面11と面一であることも、すくい面21が上面11と面一でないことも含む。すくい面21が上面11に沿って延在することは、すくい面21が上面11に平行であることも平行でないことも含む。
【0049】
図1から
図5に示されるように、刃先底面22に対する逃げ面23の角度βは90°より大きくてもよく、逃げ面23はポジ型の逃げ面23であってもよい。
図6に示されるように、刃先底面22に対する逃げ面23の角度βは90°以下であってもよく、逃げ面23はネガ型の逃げ面23であってもよい。刃先側面24は、座壁17に対向しており、かつ、すくい面21と刃先底面22とに接続されている。刃先側面24は、逃げ面23にさらに接続されてもよい。
【0050】
刃先部材20は、すくい面21と逃げ面23との間に形成される切刃25をさらに含む。切刃25は、特に限定されないが、例えば、すくい面21と逃げ面23とによって規定される稜線である。切刃25は、例えば、すくい面21と逃げ面23とによって規定される稜線が面取りされることによって形成されてもよい。
【0051】
刃先部材20の厚さhは、0.3mm以上である。刃先部材20の厚さhは、刃先底面22の法線方向における、切刃25と刃先底面22との間の最短距離として定義される。刃先部材20の厚さhは0.3mm以上であるため、切刃25とロウ材30との間の距離が増加する。切削工具1を用いて被削材を切削加工する際に切刃25に発生する熱に起因して、ロウ材30が融解することが防止され得る。切削工具1の寿命が短くなることが防止され得る。刃先部材20の厚さhは、0.4mm以上であってもよく、0.5mm以上であってもよい。刃先部材20の厚さhは、2.0mm以下であってもよい。そのため、刃先部材20を構成する多結晶ダイヤモンド焼結体の使用量を減少させることができる。切削工具1のコストが低減され得る。刃先部材20の厚さhは、1.5mm以下であってもよい。
【0052】
逃げ面23は、台金10の側面13に対して台金10の外側に位置している。そのため、切刃25も、台金10の側面13に対して台金10の外側に位置している。
図5及び
図6を参照して、刃先底面22から台金10の下面12の側への逃げ面23の第1延長面23bは、台金10の側面13から離間されている。そのため、切刃25を形成または再生するためのレーザビーム36(
図8及び
図11を参照)は、台金10に照射されることなく、逃げ面23に照射される。
【0053】
図5及び
図6を参照して、側面13からの逃げ面23の突出長さtは、0.01mm以上である。逃げ面23の突出長さtは、側面13または座底面16から台金10の上面11の側への側面13の第2延長面13bと、刃先底面22と逃げ面23とによって規定される刃先部材20の稜線27との間の最短距離として定義される。すなわち、逃げ面23の突出長さtは、刃先部材20の稜線27から側面13または側面13の第2延長面13bに下ろした垂線13cの長さとして定義される。そのため、切刃25を形成または再生するためのレーザビーム36(
図8及び
図11を参照)が台金10に照射されることが、容易に回避され得る。逃げ面23の突出長さtは、0.05mm以上であってもよく、0.10mm以上であってもよい。逃げ面23の突出長さtは、0.50mm以下であってもよい。そのため、刃先部材20の剛性が低下することが抑制される。切削工具1を用いて被削材を切削加工する際に、切刃25に欠けが発生することが抑制され得る。切削工具1を用いて被削材を切削加工する際に、切削工具1に損傷が突発的に発生することが防止され得る。切削工具1の寿命が短くなることが防止され得る。
【0054】
凹構造28が、刃先底面22に形成されている。そのため、台金10に対する刃先部材20の固定強度が増加する。凹構造28は、例えば、刃先底面22に沿って延在する線状溝であってもよいし、ドット状の溝であってもよい。溝の深さは、例えば、約10μmである。特定的には、凹構造28は、格子状に配置されている複数の線状溝であってもよい。複数の線状溝は、例えば、約0.1mmのピッチで形成されている。なお、凹構造28は、台金10の座底面16に形成されてもよいし、刃先底面22及び座底面16の両方に形成されてもよい。
【0055】
凹構造28は、刃先側面24にさらに形成されてもよい。そのため、台金10に対する刃先部材20の固定強度が増加する。凹構造28は、例えば、刃先側面24に沿って延在する線状溝であってもよいし、ドット状の溝であってもよい。なお、凹構造28は、台金10の座壁17にさらに形成されてもよいし、刃先側面24及び座壁17の両方にさらに形成されてもよい。
【0056】
多結晶ダイヤモンド焼結体は、逃げ面23に、グラファイトまたはコバルト酸化物の少なくとも一つを含んでもよい。本明細書において、グラファイトまたはコバルト酸化物の少なくとも一つは、グラファイト、コバルト酸化物、または、グラファイト及びコバルト酸化物を意味する。刃先部材20は、例えば、多結晶ダイヤモンドとバインダーとグラファイトとを含む多結晶ダイヤモンド(PCD)焼結体であってもよい。刃先部材20は、例えば、多結晶ダイヤモンドと、コバルト酸化物と、バインダーとを含むPCD焼結体であってもよい。刃先部材20は、例えば、多結晶ダイヤモンドと、コバルト酸化物と、グラファイトと、バインダーとを含むPCD焼結体であってもよい。
【0057】
グラファイトは、潤滑性を有する。そのため、逃げ面23にグラファイトが含まれる場合には、切削工具1は、初期摩耗に対応可能な優れた潤滑性を有する。切削工具1(逃げ面23)の耐摩耗性が向上され得る。
【0058】
逃げ面23におけるグラファイトの比率は、例えば、0.01以上0.50以下である。潤滑性を有するグラファイトの比率が0.01以上であるため、初期摩耗に対応可能な優れた潤滑性を有する切削工具1が提供され得る。グラファイトの比率は、0.05以上0.50未満であってもよく、0.10以上0.48以下であってもよい。本明細書において、逃げ面23におけるグラファイトの比率は、逃げ面23における、PCDとグラファイトの和に対するグラファイトの比率として定義される。逃げ面23におけるグラファイトの比率は、以下の方法によって得られる。
【0059】
逃げ面23に対し、室温で、波長532nmのレーザを励起光として照射することにより、ラマン分光分析を実行する。このラマン分光分析では、0.25cm-1以下の波数分解能を有する分光器(商品名LabRAM HR UV-VIS NIR、株式会社堀場製作所製)を用いてラマンスペクトルを解析することにより、フォノンピークが得られる。このフォノンピークを、最小二乗法で、ローレンツ関数とガウス関数との複合関数によりフィッティングして、多結晶ダイヤモンドを構成する第1炭素の第1ピーク強度(Id)と、グラファイトを構成する第2炭素の第2ピーク強度(Ig)とを求める。多結晶ダイヤモンドを構成する第1炭素の第1ピークは、例えば、1333cm-1付近に表れる。グラファイトを構成する第2炭素の第2ピークは、例えば、1400~1700cm-1付近に表れる。
【0060】
測定されたId及びIgから、Ig/(Ig+Id)を算出する。露出面の任意の5箇所の各々において、Id及びIgを測定して、Ig/(Ig+Id)を算出する。当該5箇所におけるIg/(Ig+Id)の平均値を、逃げ面23におけるグラファイトの比率として算出する。
【0061】
特定的には、多結晶ダイヤモンド焼結体は、逃げ面23から1μmの深さまで、グラファイトを含んでもよい。多結晶ダイヤモンド焼結体である刃先部材20を備える切削工具1は、難削性の被削材の加工に適用される。難削性の被削材の加工は、鏡面加工などと呼ばれ、被削材の表面を、非常に小さな表面粗さに仕上げることが要請されることが多い。このような切削加工では、逃げ面23から1μmの深さに位置する面が露出する程度まで切削工具1が使用されたときに、切削工具1は寿命に達したと判断されることが一般的である。刃先部材20は、逃げ面23から1μmの深さまでグラファイトを含む多結晶ダイヤモンド焼結体であるため、切削工具1が寿命に達したと判断されるまで、この潤滑性が持続する。
【0062】
コバルト酸化物は、逃げ面23の耐摩耗性を向上させる。そのため、逃げ面23にコバルト酸化物が含まれる場合には、切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。多結晶ダイヤモンド焼結体は、逃げ面23において、例えば、25重量%以上のコバルト酸化物を含んでもよい。そのため、切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。多結晶ダイヤモンド焼結体は、逃げ面23において、30重量%以上のコバルト酸化物を含んでもよく、40重量%以上のコバルト酸化物を含んでもよい。多結晶ダイヤモンド焼結体は、逃げ面23において、例えば、60重量%以下のコバルト酸化物を含んでもよい。そのため、コバルト酸化物が逃げ面23に過剰に存在することによって、逃げ面23の硬度が過度に低下することが防止され得る。切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。
【0063】
なお、逃げ面23におけるコバルト酸化物の重量比は、以下のようにして得られる。多結晶ダイヤモンド焼結体である刃先部材20の逃げ面23のX線回折(XRD)パターンを得る。XRDパターンのうちコバルト酸化物に対応するピークの強度比から、参照強度比(RIR)法によって、逃げ面23におけるコバルト酸化物の重量比を算出する。
【0064】
刃先部材20は、ロウ材30を用いて、台金10の座部15に固定される。具体的には、ロウ材30は、刃先底面22と座底面16との間に配置されており、かつ、刃先底面22と座底面16とに接触している。ロウ材30は、刃先側面24と座壁17との間にさらに配置されてもよく、刃先側面24と座壁17とに接触してもよい。ロウ材30は、例えば、Ag-Cu-In-Ti系のロウ材である。ロウ材30は、凹構造28の少なくとも一部に充填されている。ロウ材30は、凹構造28の全てに充填されてもよい。
【0065】
図7及び
図8を参照して、本実施形態の切削工具1の製造方法の一例を説明する。
【0066】
本実施形態の切削工具1の製造方法は、刃先焼結体20pを準備する工程(S1)を備える。刃先焼結体20pは、刃先部材20と同様の構成を備えているが、主に刃先焼結体20pに切刃25が形成されていない点において、刃先部材20と異なっている。そのため、刃先焼結体20pは、多結晶ダイヤモンドとバインダーとを含む多結晶ダイヤモンド(PCD)焼結体である。刃先焼結体20pは、すくい面21と、刃先底面22と、逃げ面23と、刃先側面24とを含む。刃先焼結体20pの厚さhは、0.3mm以上である。
【0067】
刃先焼結体20pは、以下のようにして得られる。超硬合金製の裏打ち層(図示せず)上に、多結晶ダイヤモンド層を形成して、裏打ち層と多結晶ダイヤモンド層との積層体を得る。多結晶ダイヤモンド層は、例えば、ダイヤモンド結晶粉末と、コバルト粉末のようなバインダー粉末とを含む。裏打ち層は、超硬合金粉末とコバルト粉末のようなバインダー粉末とを含む。この積層体を焼結して、超硬合金焼結体層である裏打ち板と多結晶ダイヤモンド焼結体層との積層焼結体を得る。裏打ち板を砥石を用いて研削して、積層焼結体から裏打ち板を取り除く。凹構造28が、例えばレーザ加工によって、刃先底面22に形成される。このレーザ加工に用いるレーザ光源は、例えば、Nd:YAGパルスレーザまたはYVO4パルスレーザである。こうして、多結晶ダイヤモンドとバインダーとを含む多結晶ダイヤモンド(PCD)焼結体である刃先焼結体20pが得られる。
【0068】
本実施形態の切削工具1の製造方法は、ロウ材30により、刃先焼結体20pを台金10の座部15に固定する工程(S2)を備える。ロウ材30は、刃先底面22と座底面16との間に配置されており、かつ、刃先底面22と座底面16とに接触している。ロウ材30は、刃先側面24と座壁17との間にさらに配置されてもよく、かつ、刃先側面24と座壁17とに接触してもよい。ロウ材30は、凹構造28の少なくとも一部に充填されている。ロウ材30は、凹構造28の全てに充填されてもよい。逃げ面23は、台金10の側面13に対して台金10の外側に位置している。
【0069】
本実施形態の切削工具1の製造方法は、台金10をホルダで保持する工程(S3)を備える。例えば、ホルダ(図示せず)の係止部材(図示せず)が、台金10の貫通孔19に係止される。こうして、台金10は、ホルダによって保持される。
【0070】
本実施形態の切削工具1の製造方法は、刃先焼結体20pの逃げ面23をレーザ加工することにより、切刃25を形成する工程(S4)を備える。
【0071】
具体的には、
図8を参照して、レーザ光源35は、レーザビーム36を出射する。レーザ光源35は、例えば、Nd:YAGパルスレーザまたはYVO
4パルスレーザである。レーザビーム36は、例えば、Nd:YAGパルスレーザもしくはYVO
4パルスレーザのレーザ波長、当該レーザ波長の第二高調波(SHG)の波長、または、当該レーザ波長の第三高調波(THG)の波長を有している。レーザビーム36は、レンズを含む集光光学系37によって集束される。刃先焼結体20pの逃げ面23に沿ってレーザビーム36を照射する。レーザビーム36は、刃先底面22の側から刃先焼結体20pに入射してもよいし、すくい面21の側から刃先焼結体20pに入射してもよい。刃先焼結体20pの逃げ面23がレーザ加工されて、切刃25を含む刃先部材20が形成される。こうして、切削工具1が得られる。
【0072】
工程(S4)のレーザ加工における第1レーザ照射条件は、例えば、レーザ波長が532nm以上1064nm以下であり、レーザスポット径が半値幅として5μm以上70μm以下であり、レーザ焦点深度が0.5mm以上20mm以下であり、レーザ出力がレーザ加工点において1W以上20W以下であり、レーザ走査速度が5mm/秒以上100mm/秒以下である。
【0073】
刃先底面22から台金10の下面12の側への逃げ面23の第1延長面23bは、台金10の側面13から離間されている。切刃25を形成するためのレーザビーム36は、台金10に照射されることなく、逃げ面23に照射される。逃げ面23の突出長さtは、0.01mm以上である。そのため、切刃25を形成するためのレーザビーム36が台金10に照射されることが、容易に回避され得る。
【0074】
バインダーは、レーザ加工により切刃25を形成する際に、レーザビーム36に対する多結晶ダイヤモンド焼結体の吸収率を増加させる。そのため、レーザ加工によって、切刃25が容易に形成され得る。
【0075】
工程(S4)において、逃げ面23がレーザ加工されることによって、逃げ面23にグラファイトまたはコバルト酸化物の少なくとも一つが生成されてもよい。具体的には、工程(S4)において、逃げ面23がレーザ加工されて、多結晶ダイヤモンドの一部がグラファイトに変わる。こうして、逃げ面23にグラファイトが生成される。工程(S4)において、逃げ面23がレーザ加工されて、バインダーに含まれるコバルトの一部がコバルト酸化物に変わる。こうして、逃げ面23にコバルト酸化物が生成される。逃げ面23にグラファイトまたはコバルト酸化物の少なくとも一つが生成される場合には、刃先焼結体20pは、逃げ面23におけるグラファイトまたはコバルト酸化物の少なくとも一つの量において、刃先部材20と異なっている。
【0076】
図12を参照して、切削工具1の製造方法の別の例は、逃げ面23に沿ってレーザビーム36を照射して、逃げ面23を第1レーザ照射条件とは異なる第2レーザ照射条件の下でレーザ加工することにより、逃げ面23にグラファイトまたはコバルト酸化物の少なくとも一つを生成する工程(S5)をさらに備えてもよい。工程(S5)において逃げ面23がレーザ加工されて、多結晶ダイヤモンドの一部がグラファイトに変わる。こうして、逃げ面23にグラファイトが生成される。工程(S5)において逃げ面23がレーザ加工されて、バインダーに含まれるコバルトの一部がコバルト酸化物に変わる。こうして、逃げ面23にコバルト酸化物が生成される。
【0077】
工程(S5)において逃げ面23に生成されるグラファイトの量は、工程(S4)において逃げ面23に生成されるグラファイトの量より多い。工程(S4)において逃げ面23に生成されるグラファイトの量は、ゼロであってもよい。工程(S5)において逃げ面23に生成されるコバルト酸化物の量は、工程(S4)において逃げ面23に生成されるコバルト酸化物の量より多い。工程(S4)において逃げ面23に生成されるコバルト酸化物の量は、ゼロであってもよい。
【0078】
図8を参照して、工程(S5)では、レーザ光源35は、レーザビーム36を出射する。レーザ光源35は、例えば、Nd:YAGパルスレーザまたはYVO
4パルスレーザである。レーザビーム36は、例えば、Nd:YAGパルスレーザもしくはYVO
4パルスレーザのレーザ波長、当該レーザ波長の第二高調波(SHG)の波長、または、当該レーザ波長の第三高調波(THG)の波長を有している。レーザビーム36は、集光光学系37によって集束される。逃げ面23に沿ってレーザビーム36を照射する。レーザビーム36は、刃先底面22の側から逃げ面23に入射してもよいし、すくい面21の側から逃げ面23に入射してもよい。
【0079】
工程(S5)のレーザ加工が施された逃げ面23におけるグラファイトの比率は、0.01以上0.50以下である。多結晶ダイヤモンドの体積平均径が10μm以上であるとき、レーザ加工によって多結晶ダイヤモンドが過剰にグラファイトに変わることが防止されて、逃げ面23におけるグラファイトの比率は0.50以下となり得る。逃げ面23の硬度が過度に低下することが防止されて、切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。これに対し、多結晶ダイヤモンドの体積平均径が10μm未満であるとき、レーザ加工によって多結晶ダイヤモンドが過剰にグラファイトに変わって、逃げ面23におけるグラファイトの比率は0.50を超える。逃げ面23の硬度が過度に低下して、切削工具の耐摩耗性が低下する。
【0080】
例えば、多結晶ダイヤモンドの体積平均径が10μm以上である時、300加工パス後の逃げ面23の摩耗幅は65μmであった。これに対し、多結晶ダイヤモンドの体積平均径が1μm超10μm未満である時、300加工パス後の逃げ面23の摩耗幅は77μmであった。多結晶ダイヤモンドの体積平均径が1μm以下である時、300加工パス後の逃げ面23の摩耗幅は83μmであった。
【0081】
多結晶ダイヤモンド焼結体は、工程(S5)のレーザ加工が施された逃げ面23において、25重量%以上のコバルト酸化物を含む。そのため、逃げ面23の耐摩耗性が向上され得る。切削工具1の耐摩耗性が向上され得る。
【0082】
工程(S5)における第2レーザ照射条件は、工程(S4)における第1レーザ照射条件と異なっている。工程(S5)における第2レーザ照射条件の一例を、以下に示す。
【0083】
工程(S5)におけるレーザビーム36の光強度分布は、工程(S4)におけるレーザビーム36の光強度分布よりなだらかである。レーザビーム36の光強度分布は、レーザビーム36の進行方向に垂直な断面におけるレーザビーム36の光強度分布を意味する。例えば、工程(S5)におけるレーザビーム36は、工程(S4)におけるレーザビーム36よりデフォーカスされている。例えば、工程(S4)と工程(S5)との間で、集光光学系37の焦点距離を変更することによって、工程(S5)におけるレーザビーム36の光強度分布は、工程(S4)におけるレーザビーム36の光強度分布よりなだらかにされ得る。
【0084】
第2レーザ照射条件は、例えば、レーザ波長が532nm以上1064nm以下であり、レーザスポット径が半値幅として5μm以上70μm以下であり、レーザ焦点深度が1.0mm以上であり、レーザ出力がレーザ加工点において1W以上20W以下であり、レーザ走査速度が5mm/秒以上100mm/秒以下である。第2レーザ照射条件は、例えば、レーザ波長が532nmまたは1064nmであり、レーザスポット径が半値幅として10~50μmであり、レーザ焦点深度が1.5mm以上であり、レーザ出力が2~10Wであり、レーザ走査速度が30~100mm/minであることが好ましい。
【0085】
第2レーザ照射条件におけるレーザ焦点深度は、特に制限されないが、20mm以下であってもよい。レーザパルス幅は、例えば、1f(フェムト)秒以上1μ秒以下である。レーザ繰り返し周波数は、例えば、10Hz以上1MHz以下である。
【0086】
図9から
図11を参照して、本実施形態の切削工具1の再生産方法の一例を説明する。
【0087】
本実施形態の切削工具1の再生産方法の一例は、切削工具1をホルダで保持する工程(S11)を備える。
図10を参照して、被削材(図示せず)を切削加工する間に、切刃25に欠け38が発生することがある。切刃25に欠け38が発生している切削工具1は、ホルダによって保持される。例えば、切削工具1の台金10がホルダ(図示せず)で保持される。具体的には、ホルダ(図示せず)の係止部材(図示せず)が、台金10の貫通孔19に係止される。
【0088】
本実施形態の切削工具1の再生産方法の一例は、刃先部材20の逃げ面23をレーザ加工することにより、切刃25を再生する工程(S12)を備える。
図11を参照して、刃先部材20の逃げ面23に沿ってレーザビーム36を照射する。刃先部材20の逃げ面23がレーザ加工されて、欠け38が除去される。レーザビーム36は、刃先底面22の側から刃先部材20に入射してもよいし、すくい面21の側から刃先部材20に入射してもよい。こうして、切刃25は再生される。
【0089】
刃先底面22から台金10の下面12の側への逃げ面23の第1延長面23bは、台金10の側面13から離間されている。切刃25を再生するためのレーザビーム36は、台金10に照射されることなく、逃げ面23に照射される。逃げ面23の突出長さtは、0.01mm以上である。そのため、切刃25を再生するためのレーザビーム36が台金10に照射されることが、容易に回避され得る。
【0090】
<実施例>
以下、実施例を挙げて本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、実施例に限定されない。
【0091】
上述のようにして作製した試料No.1から試料No.16の切削工具について、以下の切削加工試験を行い、切削工具の寿命を評価した。
【0092】
切削工具を用いて、直径100mmの円柱形状を有しかつAl合金(A390)製の被削材を加工する。切削加工条件は、以下のとおりである。切削速度は、3000mm/minである。送り速度は、5730mm/minである。切込み量(ap)は、0.50mmである。加工パス数は、最大で300である。切削工具を用いて被削材を切削加工し始めてから、切削工具の逃げ面の摩耗幅が100μmに達するまでの加工パス数を切削工具の寿命とした。なお、加工パス数が300である時に切削工具の逃げ面の摩耗幅が100μmに達しない場合であっても、切削工具の寿命は300であるとした。
【0093】
試料No.1から試料No.13の切削工具は、本実施形態の実施例である。これに対し、試料No.14から試料No.16の切削工具は、比較例である。
【0094】
具体的には、試料No.14及び試料No.15の切削工具の各々の刃先部材の厚さは、1.0mmであって、試料No.1及び試料No.8から試料No.13の切削工具の各々の刃先部材の厚さと同じである。しかし、試料No.14及び試料No.15の切削工具の各々の刃先部材は、多結晶ダイヤモンド焼結体層と、超硬合金焼結体層である裏打ち板との積層体である。多結晶ダイヤモンド焼結体層は0.5mmの厚さを有しており、裏打ち板も0.5mmの厚さを有している。試料No.14の切削工具では、切刃は、刃先部材の逃げ面を砥石を用いて研削加工することによって形成されている。試料No.16の切削工具は、試料No.1の切削工具と同様の構成を備えているが、試料No.1の切削工具のよりも刃先部材の厚さが小さい点で、試料No.1の切削工具と異なっている。切削加工試験の結果を、表1に示す。
【0095】
【0096】
表1に示される切削加工試験の結果から、試料No.1から試料No.13の切削工具は、試料No.14の切削工具と同じく、長い寿命を有している。
【0097】
これに対し、試料No.15の切削工具の寿命は、試料No.1から試料No.13の切削工具の寿命より短い。試料No.15の切削工具では、レーザ加工によって切刃を形成する際に、ロウ材が融解していることが確認された。試料No.15の切削工具において切刃を形成するためには、多結晶ダイヤモンド焼結体層に加えて、超硬合金焼結体層である裏打ち板もレーザ加工する必要がある。レーザ加工に要する時間が増加して、刃先部材により多くの熱が発生する。そのため、試料No.15の切削工具では、レーザ加工によって切刃を形成する際に、ロウ材が融解していると考えられる。その結果、試料No.15の切削工具では、台金への刃先部材の固定強度が減少して、より少ない加工パス数で刃先部材が台金から脱落してしまう。以上の理由により、試料No.15の切削工具の寿命は、試料No.1から試料No.13の切削工具の寿命より短くなっている。
【0098】
試料No.16の切削工具の寿命は、試料No.1から試料No.13の切削工具の寿命より短い。切削工具を用いて被削材を切削加工する際に、切刃に熱が発生する。試料No.16の切削工具の刃先部材の厚さは、試料No.1から試料No.13の切削工具の各々の刃先部材の厚さより小さい。試料No.16の切削工具における切刃とロウ材との間の距離は、試料No.1から試料No.13の切削工具の各々における切刃とロウ材との間の距離よりも短い。熱の影響によって、試料No.16の切削工具のロウ材は、試料No.1から試料No.13の切削工具の各々のロウ材より融解しやすい。そのため、試料No.16の切削工具の寿命は、試料No.1から試料No.13の切削工具の寿命より短くなっていると考えられる。
【0099】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0100】
1 切削工具、10 台金、11 上面、12 下面、13 側面、13b 第2延長面、13c 垂線、15 座部、16 座底面、17 座壁、19 貫通孔、20 刃先部材、20p 刃先焼結体、21 すくい面、22 刃先底面、23 逃げ面、23b 第1延長面、24 刃先側面、25 切刃、27 稜線、28 凹構造、30 ロウ材、35 レーザ光源、36 レーザビーム、37 集光光学系、38 欠け。