(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ひずみゲージ
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
G01B7/16 R
(21)【出願番号】P 2021144753
(22)【出願日】2021-09-06
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】浅川 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】北村 厚
(72)【発明者】
【氏名】小笠 洋介
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-160041(JP,A)
【文献】特開平03-191802(JP,A)
【文献】特開2019-132791(JP,A)
【文献】特開平10-311761(JP,A)
【文献】特開2020-079436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01L 1/00-1/26
25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された抵抗体と、を有し、
前記抵抗体は、
複数の検知部と、前記
複数の検知部
のうち少なくとも1つと直列に接続された
複数の接続部と、を含み、
前記接続部は、前記検知部よりも弾性率が低い材料から形成され、前記検知部に直接接するように配置され
、
前記抵抗体は、前記検知部を含む並置された複数の細長状部と、隣接する前記細長状部の端部同士を接続する折り返し部分と、を含み、
前記接続部は、各々の前記細長状部に1つ以上配置されている、ひずみゲージ。
【請求項2】
前記接続部は、隣接する前記検知部の間に配置されている、請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項3】
前記接続部は、各々の前記細長状部において、グリッド方向の同一位置に配置されている、請求項
2に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
前記接続部は、前記折り返し部分に配置されている、請求項
1乃至3
の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
前記基材上に形成され、配線を介して前記抵抗体と電気的に接続された一対の電極を有し、
前記接続部は、前記配線に1つ以上配置されている、請求項1乃至
4の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
前記接続部の弾性率は、前記検知部の弾性率の1/2倍以下である、請求項1乃至
5の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項7】
前記接続部の幅及び厚さは、前記検知部の幅及び厚さと等しい、請求項1乃至
6の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項8】
前記検知部は、Cr、CrN、及びCr
2Nを含む膜から形成されている、請求項1乃至
7の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物に貼り付けて、測定対象物のひずみを検出するひずみゲージが知られている。ひずみゲージは、ひずみを検出する抵抗体を備えており、抵抗体は、例えば、絶縁性樹脂上に形成されている。抵抗体は、例えば、配線を介して、電極と接続されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ひずみゲージは起歪体へ貼り付けられ、起歪体の動きに追従し伸び縮みすることで、起歪体のひずみ量を検出する。そのため、より大きなひずみ量を検出するためには、伸び縮みの過程でひずみゲージ自身が破損してはならず、より高い耐ひずみ性が求められている。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、耐ひずみ性を向上可能なひずみゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本ひずみゲージは、基材と、前記基材上に形成された抵抗体と、を有し、前記抵抗体は、複数の検知部と、前記複数の検知部のうち少なくとも1つと直列に接続された複数の接続部と、を含み、前記接続部は、前記検知部よりも弾性率が低い材料から形成され、前記検知部に直接接するように配置され、前記抵抗体は、前記検知部を含む並置された複数の細長状部と、隣接する前記細長状部の端部同士を接続する折り返し部分と、を含み、前記接続部は、各々の前記細長状部に1つ以上配置されている。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、耐ひずみ性を向上可能なひずみゲージを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図2】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
【
図3】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
【
図4】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その3)である。
【
図5】第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図6】第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【
図7】第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図8】第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【
図9】第1実施形態の変形例3に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図10】第1実施形態の変形例3に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
[ひずみゲージの構造]
図1は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)であり、
図1のA-A線に沿う断面を示している。
図3は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)であり、
図1のB-B線に沿う断面を示している。
【0011】
図1~
図3を参照すると、ひずみゲージ1は、基材10と、抵抗体30と、配線40と、電極50と、カバー層60とを有している。なお、
図1~
図3では、便宜上、カバー層60の外縁のみを破線で示している。なお、カバー層60は、必要に応じて設ければよい。
【0012】
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体30が設けられていない側を下側又は他方の側とする。また、各部位の抵抗体30が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体30が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。ただし、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。また、平面視とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0013】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材10の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材10の厚さが5μm~200μmであると、接着層等を介して基材10の下面に接合される起歪体表面からの歪の伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0014】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成できる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0015】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材10が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材10は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0016】
基材10の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO2、ZrO2(YSZも含む)、Si、Si2N3、Al2O3(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO3、BaTiO3)等の結晶性材料が挙げられ、更に、それ以外に非晶質のガラス等が挙げられる。また、基材10の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。この場合、金属製の基材10上に、例えば、絶縁膜が形成される。
【0017】
抵抗体30は、基材10上に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。抵抗体30は、検知部31と、検知部31と直列に接続された接続部32とを含む。
【0018】
抵抗体30は、複数の細長状部が長手方向を同一方向(
図1のA-A線の方向)に向けて所定間隔で配置され、隣接する細長状部の端部が互い違いに連結されて、全体としてジグザグに折り返す構造である。すなわち、抵抗体30は、並置された複数の細長状部と、隣接する細長状部の端部同士を接続する折り返し部分とを含む。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向(
図1のA-A線と垂直な方向)となる。
【0019】
グリッド幅方向の最も外側に位置する2つの細長状部の長手方向の一端部は、グリッド幅方向に屈曲し、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e1及び30e2を形成する。抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e1及び30e2は、配線40を介して、電極50と電気的に接続されている。言い換えれば、配線40は、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e1及び30e2と各々の電極50とを電気的に接続している。
【0020】
配線40は、基材10上に形成され、抵抗体30及び電極50と電気的に接続されている。配線40は直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。また、配線40は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。
【0021】
電極50は、基材10上に形成され、配線40を介して抵抗体30と電気的に接続されており、例えば、配線40よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極50は、抵抗体30の、ひずみにより生じる抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。
【0022】
電極50は、一対の金属層51と、各々の金属層51の上面に積層された金属層52とを有している。金属層51は、配線40を介して抵抗体30の終端30e1及び30e2と電気的に接続されている。金属層51は、平面視において、略矩形状に形成されている。金属層51は、配線40と同じ幅に形成しても構わない。
【0023】
なお、検知部31と配線40と金属層51とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により一体に形成できる。従って、検知部31と配線40と金属層51とは、厚さが略同一である。
【0024】
金属層52は、検知部31よりも低抵抗の材料から形成されている。金属層52の材料は、検知部31よりも低抵抗の材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。例えば、検知部31が後述のCr混相膜である場合、金属層52の材料として、Cu、Ni、Al、Ag、Au、Pt等、又は、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、あるいは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。金属層52の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、3μm~5μm程度とすることができる。
【0025】
金属層52の上面に、更に他の1層以上の金属層を積層してもよい。例えば、金属層52を銅層とし、銅層の上面に金層を積層してもよい。あるいは、金属層52を銅層とし、銅層の上面にパラジウム層と金層を順次積層してもよい。電極50の最上層を金層とすることで、電極50のはんだ濡れ性を向上できる。
【0026】
カバー層60は、基材10上に形成され、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出する。配線40の一部は、カバー層60から露出してもよい。抵抗体30及び配線40を被覆するカバー層60を設けることで、抵抗体30及び配線40に機械的な損傷等が生じることを防止できる。また、カバー層60を設けることで、抵抗体30及び配線40を湿気等から保護できる。なお、カバー層60は、電極50を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0027】
カバー層60は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成することができる。カバー層60は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層60の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm~30μm程度とすることができる。
【0028】
[抵抗体の詳細構造]
抵抗体30において、接続部32は、検知部31に直接接するように配置されている。1つの接続部32のグリッド方向の長さは、例えば、50μm程度である。抵抗体30において、ひずみの検知は、主に検知部31により行われる。
【0029】
接続部32は、例えば、抵抗体30を構成する各々の細長状部に1つずつ配置することができる。また、接続部32は、例えば、抵抗体30を構成する各々の細長状部において、グリッド方向の同一位置に配置することができる。ここで、グリッド方向の同一位置に配置するとは、各々の細長状部に配置された接続部32を通るように、グリッド方向に垂直な1本の直線を引ける状態を指す。
【0030】
接続部32は、例えば、隣接する検知部31の間に配置され、隣接する検知部31を導通させている。各検知部31と各接続部32とは直列に接続され、全体として1本の抵抗体30を形成している。なお、接続部32は、終端30e1及び/又は30e2と接する部分のみに配置することも可能である。この場合には、接続部32は、ジグザグ状の1本の検知部31の一端及び/又は両端と配線40とを導通させる。
【0031】
接続部32の幅及び厚さは、検知部31の幅及び厚さと等しいことが好ましい。これにより、隣接する検知部31を接続部32が確実に導通させて1本の抵抗体30を形成し、ひずみゲージ1を正常に機能させることができる。ここでは、接続部32の幅及び厚さが、検知部31の幅及び厚さに対して、それぞれ±10%以下である場合に、両者は等しいとする。
【0032】
検知部31は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成できる。すなわち、検知部31は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成できる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0033】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、Cr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0034】
検知部31の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm~2μm程度とすることができる。特に、検知部31の厚さが0.1μm以上であると、検知部31を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する点で好ましい。また、検知部31の厚さが1μm以下であると、検知部31を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材10からの反りを低減できる点で更に好ましい。検知部31の幅は、抵抗値や横感度等の要求仕様に対して最適化し、かつ断線対策も考慮して、例えば、10μm~100μm程度とすることができる。
【0035】
例えば、検知部31がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、検知部31がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、主成分とは、対象物質が検知部を構成する全物質の50重量%以上を占めることを意味するが、ゲージ特性を向上する観点から、検知部31はα-Crを80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことが更に好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0036】
また、検知部31がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nが20重量%以下であることで、ゲージ率の低下を抑制できる。
【0037】
また、CrN及びCr2N中のCr2Nの割合は80重量%以上90重量%未満であることが好ましく、90重量%以上95重量%未満であることが更に好ましい。CrN及びCr2N中のCr2Nの割合が90重量%以上95重量%未満であることで、半導体的な性質を有するCr2Nにより、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、セラミックス化を低減することで、脆性破壊の低減がなされる。
【0038】
一方で、膜中に微量のN2もしくは原子状のNが混入、存在した場合、外的環境(例えば高温環境下)によりそれらが膜外へ抜け出ることで、膜応力の変化を生ずる。化学的に安定なCrNの創出により上記不安定なNを発生させることがなく、安定なひずみゲージを得ることができる。
【0039】
接続部32は、検知部31よりも弾性率が低い材料から形成されている。接続部32の弾性率は、検知部31の弾性率の1/2倍以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましく、1/4倍以下であることが特に好ましい。
【0040】
接続部32は、検知部31よりも導電率が高い材料から形成されていることが好ましい。接続部32が、ひずみの検知に寄与しにくくするためである。接続部32の材料としては、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Fe等が挙げられる。これらの金属は、弾性率が比較的低く、導電率が比較的高い。なお、弾性率が低い材料は、延性が高く、断線しにくい。
【0041】
例えば、検知部31としてCr混相膜を用いる場合、弾性率は400GPa程度である。この場合、例えば、接続部32の材料として弾性率が200GPa程度のPtや170GPa程度のFeを用いることができる。また、検知部31としてニッケルクロムを用いる場合、弾性率は214GPa程度である。この場合、例えば、接続部32の材料として弾性率が80GPa程度のAuや70GPa程度のAlを用いることができる。
【0042】
このように、ひずみゲージ1において、抵抗体30は、検知部31と、検知部31と直列に接続された接続部32とを含む。そして、接続部32は、検知部31よりも弾性率が低い材料から形成され、検知部31に直接接するように配置されている。検知部31は弾性率が高いため、何らの対策も施さない場合、外的要因により強い力が加わると、脆性破壊を起こして亀裂等が発生する場合がある。しかし、ひずみゲージ1では、検知部31と直列に検知部31よりも弾性率が低い接続部32を配置することで、外的要因により強い力が加わっても、接続部32があたかもバネのように振舞うため、検知部31に亀裂が生じにくくなる。すなわち、検知部31と直列に検知部31よりも弾性率が低い接続部32を配置することで、ひずみ限界の向上(耐ひずみ性の向上)を実現可能となる。
【0043】
接続部32を設けることは、厚さ0.05μm以上2μm以下の検知部31を用いる場合に特に有効であり、厚さ0.05μm以上1μm以下の検知部31を用いる場合に極めて有効である。
【0044】
[ひずみゲージの製造方法]
ひずみゲージ1を製造するためには、まず、基材10を準備し、基材10の上面10aに金属層(便宜上、金属層A)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて検知部31、配線40、及び金属層51となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の検知部31、配線40、及び金属層51の材料や厚さと同様である。
【0045】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜できる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0046】
ゲージ特性を安定化する観点から、金属層Aを成膜する前に、下地層として、基材10の上面10aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により所定の膜厚の機能層を真空成膜することが好ましい。
【0047】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(検知部31)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能や、基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0048】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に金属層AがCrを含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層が金属層Aの酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0049】
機能層の材料は、少なくとも上層である金属層A(検知部31)の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0050】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。また、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si3N4、TiO2、Ta2O5、SiO2等が挙げられる。
【0051】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は検知部の膜厚の1/20以下であることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、検知部に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを防止できる。
【0052】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は検知部の膜厚の1/50以下であることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、検知部に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを更に防止できる。
【0053】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は検知部の膜厚の1/100以下であることが更に好ましい。このような範囲であると、検知部に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを一層防止できる。
【0054】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~1μmとすることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく容易に成膜できる。
【0055】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.8μmとすることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく更に容易に成膜できる。
【0056】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.5μmとすることが更に好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく一層容易に成膜できる。
【0057】
なお、機能層の平面形状は、例えば、
図1に示す検知部31、配線40、及び金属層51の平面形状と略同一にパターニングされている。しかし、機能層の平面形状は、検知部31、配線40、及び金属層51の平面形状と略同一である場合には限定されない。機能層が絶縁材料から形成される場合には、検知部31、配線40、及び金属層51の平面形状と同一形状にパターニングしなくてもよい。この場合、機能層は少なくとも検知部31が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。あるいは、機能層は、基材10の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0058】
また、機能層が絶縁材料から形成される場合に、機能層の厚さを50nm以上1μm以下となるように比較的厚く形成し、かつベタ状に形成することで、機能層の厚さと表面積が増加するため、抵抗体が発熱した際の熱を基材10側へ放熱できる。その結果、ひずみゲージ1において、抵抗体の自己発熱による測定精度の低下を抑制できる。
【0059】
機能層は、例えば、機能層を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜できる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材10の上面10aをArでエッチングしながら機能層が成膜されるため、機能層の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0060】
ただし、これは、機能層の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層を成膜してもよい。例えば、機能層の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材10の上面10aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0061】
機能層の材料と金属層Aの材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層としてTiを用い、金属層Aとしてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜可能である。
【0062】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、金属層Aを成膜できる。あるいは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、金属層Aを成膜してもよい。この際、窒素ガスの導入量や圧力(窒素分圧)を変えることや加熱工程を設けて加熱温度を調整することで、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nの割合、並びにCrN及びCr2N中のCr2Nの割合を調整できる。
【0063】
これらの方法では、Tiからなる機能層がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。また、機能層を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。なお、機能層がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0064】
なお、金属層AがCr混相膜である場合、Tiからなる機能層は、金属層Aの結晶成長を促進する機能、基材10に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能、及び基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0065】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製できる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性を向上できる。
【0066】
次に、フォトリソグラフィ法により、金属層Aを
図1の平面形状にパターニングし、検知部31、配線40、及び金属層51を形成する。そして、検知部31と直接接するように、検知部31と直列に接続部32を形成し、1本の抵抗体30とする。接続部32は、例えば、蒸着法、スパッタリング法等により形成できる。接続部32は、ゾルゲル法、インクジェット法等の塗布技術を用いて形成してもよい。
【0067】
次に、金属層51の上面に、金属層52を形成する。金属層52は、例えば、周知のセミアディティブ法により形成できる。金属層52の材料や厚さは、前述のとおりである。
【0068】
その後、必要に応じ、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するカバー層60を設けることで、ひずみゲージ1が完成する。カバー層60は、例えば、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製できる。カバー層60は、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
【0069】
なお、検知部31、配線40、及び金属層51の下地層として基材10の上面10aに機能層を設けた場合には、ひずみゲージ1は
図4に示す断面形状となる。符号20で示す層が機能層である。機能層20を設けた場合のひずみゲージ1の平面形状は、例えば、
図1の検知部31、配線40、及び金属層51と同様となる。ただし、前述のように、機能層20は、基材10の上面10aの一部又は全部にベタ状に形成される場合もある。
【0070】
〈第1実施形態の変形例1〉
第1実施形態の変形例1では、接続部を設ける領域が異なるひずみゲージの例を示す。なお、第1実施形態の変形例1において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0071】
図5は、第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図6は、第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する断面図であり、
図5のC-C線に沿う断面を示している。
図5及び
図6を参照すると、ひずみゲージ1Aは、接続部32が抵抗体30を構成する各々の細長状部に1つずつ配置されている点は、ひずみゲージ1と同様である。しかし、ひずみゲージ1Aは、接続部32が抵抗体30の折り返し部分にも配置されている点が、ひずみゲージ1と相違する。
【0072】
このように、接続部32は、抵抗体30を構成する各々の細長状部には限定されず、抵抗体30の折り返し部分にも配置することができる。これにより、外的要因により強い力が加わった際にバネのように振舞う部分が増えるため、検知部31の耐ひずみ性をさらに向上できる。
【0073】
〈第1実施形態の変形例2〉
第1実施形態の変形例2では、接続部を設ける領域が異なるひずみゲージの他の例を示す。なお、第1実施形態の変形例2において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0074】
図7は、第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図8は、第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージを例示する断面図であり、
図7のD-D線に沿う断面を示している。
図7及び
図8を参照すると、ひずみゲージ1Bは、配線40が配線40Bに置換された点が、ひずみゲージ1と相違する。
【0075】
配線40Bは、複数の導電部41と、導電部41と直列に接続された接続部42とを含む。接続部42は、導電部41に直接接するように形成されている。接続部42は、例えば、各々の配線40に1つずつ配置することができる。また、接続部42は、例えば、接続部32とグリッド方向の同一位置に配置することができる。また、接続部42は、抵抗体30の終端から折り返す部分に配置してもよい。
【0076】
接続部42は、隣接する導電部41の間に配置され、隣接する導電部41を導通させている。また、接続部42は、隣接する導電部41と検知部31の間に配置され、隣接する導電部41と検知部31を導通させている。抵抗体30と各導電部41と各接続部42とは直列に接続されている。
【0077】
接続部42の幅及び厚さは、導電部41の幅及び厚さと等しいことが好ましい。これにより、隣接する導電部41を接続部42が確実に導通させることができる。ここでは、接続部42の幅及び厚さが、導電部41の幅及び厚さに対して、それぞれ±10%以下である場合に、両者は等しいとする。
【0078】
ひずみゲージ1Bにおいて、断線するのは検知部31には限らず、検知部31と同一材料から形成された導電部41も断線するおそれがある。そこで、各々の配線40Bに接続部42を配置することで、接続部42が外的要因により強い力が加わった際にバネのように振舞うため、導電部41が断線するおそれを低減できる。
【0079】
〈第1実施形態の変形例3〉
第1実施形態の変形例3では、接続部を設ける領域が異なるひずみゲージの他の例を示す。なお、第1実施形態の変形例3において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0080】
図9は、第1実施形態の変形例3に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図10は、第1実施形態の変形例3に係るひずみゲージを例示する断面図であり、
図9のE-E線に沿う断面を示している。
図9及び
図10を参照すると、ひずみゲージ1Cは、抵抗体30における接続部32の個数が増えた点、及び配線40Bが配線40Cに置換された点が、ひずみゲージ1Bと相違する。配線40Cは、接続部42の個数が増えた点が、配線40Bと相違する。
【0081】
このように、抵抗体30において、各々の前記細長状部に1つ以上の接続部32を配置することができ、接続部32の個数は任意に決定できる。また、各々の配線40Cにおいて、1つ以上の接続部42を配置することができ、接続部42の個数は任意に決定できる。接続部32及び42の個数を増やすことにより、外的要因により強い力が加わった際にバネのように振舞う部分が増えるため、検知部31及び導電部41が断線するおそれをされに低減できる。ただし、接続部32及び42の個数は、ひずみゲージ1C全体の面積の増大を伴わない範囲で決定することが好ましい。
【0082】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0083】
1,1A,1B,1C ひずみゲージ、10 基材、10a 上面、20 機能層、30 抵抗体、30e1,30e2 終端、31 検知部、32,42 接続部、40,40B,40C 配線、41 導電部、51,52 金属層、50 電極、60 カバー層