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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】薄膜固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/40 20060101AFI20241217BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20241217BHJP
   H01M 10/38 20060101ALI20241217BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241217BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241217BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C23C16/40
H01M10/36 A
H01M10/38
H01M4/48
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020094142
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021188090
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000153018
【氏名又は名称】株式会社日本マイクロニクス
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】津國 和之
(72)【発明者】
【氏名】久保 宏気
(72)【発明者】
【氏名】川原村 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔太
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-505312(JP,A)
【文献】特開平05-000819(JP,A)
【文献】特開2008-105935(JP,A)
【文献】特開2019-033142(JP,A)
【文献】特開2018-142637(JP,A)
【文献】特開2009-054655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205,21/31,21/365,21/469
H01M 10/36
H01M 10/38
H01M 4/48
H01B 13/00
H01B 1/06
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機タンタルを有機溶媒に溶解した原料溶液を作製する工程と、前記原料溶液をミスト発生容器内でミスト化して、前記有機タンタルのミストを形成する工程と、前記ミストをキャリアガスまたはキャリアガスと希釈ガスにより反応炉に導入し、酸化タンタル薄膜の成膜を行う基板の表面に輸送する工程と、前記基板の上に前記酸化タンタル薄膜を成膜する工程とを有し、前記酸化タンタル薄膜を成膜する工程は、前記基板の温度を調整する工程を含み、前記ミストを前記基板の表面に輸送する工程は、前記基板上における前記タンタルの酸化を支援するためのオゾンガスを前記基板表面に供給する工程をさらに含む、酸化タンタル薄膜の製造方法により酸化タンタル薄膜を形成して、固体電解質層として作製する工程と、
前記固体電解質層の上面に配置される正極活物質層であって、正極活物質として水酸化ニッケル(Ni(OH) 2 )を含む前記正極活物質層を作製する工程と、
前記正極活物質層に対向して、前記固体電解質層の下面に配置される負極活物質層であって、酸化チタン(TiO x )、又は酸化チタン(TiO x )と酸化シリコン(SiO x )の混合層を負極活物質として含む前記負極活物質層を作製する工程とを
備える、薄膜固体二次電池の製造方法
【請求項2】
前記有機タンタルは、タンタルアルコキシドを備える、請求項1に記載薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記タンタルアルコキシドは、タンタルペンタエトキシドを備える、請求項2に記載薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記正極活物質層を作製する工程において、前記正極活物質層は水酸化ニッケルの微結晶を有機溶液に分散し、塗布、乾燥することで作製する、請求項1に記載の薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記負極活物質層を作製する工程において、前記負極活物質層は脂肪酸チタンとシリコーンオイルを有機溶液で希釈した混合液を塗布、焼成し作製する、請求項4に記載の薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記形成された酸化タンタル薄膜中の水素濃度が5×1021(atoms/cm3)以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記ミストを前記基板の表面に輸送する工程は、前記キャリアガスの導入経路に設けられた第1の流量調節手段により、前記キャリアガスの導入量を調整して、前記ミストの輸送速度を所定の数値に設定する工程をさらに含む、請求項1に記載の薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記ミストを前記基板の表面に輸送する工程は、前記希釈ガスの導入経路に設けられた第2の流量調節手段により、前記希釈ガスの導入量を調整して、前記ミストの濃度を所定の数値に設定する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の薄膜固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施の形態は、薄膜固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質を備えるデバイスとして固体二次電池がある。酸化スズを含んだシリコン酸化物を用いた薄膜固体二次電池が提案されている。
【0003】
また、大気圧で薄膜を成膜する方法としてミストCVD(Chemical Vapor Deposition)法が報告されている。ミストCVD法は、主成分を含む溶液を霧化してミストとし、ミスト状態で基板へ供給し、基板上で反応させ成膜する方法である。ミストの供給条件の制御と反応炉の設計などにより、均一性の高い薄膜製造を実現可能である。またミストCVD法は、環境負荷が少なく、運用コストも安価である。
【0004】
一方、酸化タンタルは高誘電体材料として、キャパシタなどへの用途がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-140053号公報
【文献】特開2019-71479号公報
【文献】特開2019-33142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、薄膜固体二次電池として正極活物質に水酸化ニッケル、負極活物質に酸化チタン、固体電解質にスパッタリング法を用いて作製した酸化タンタル薄膜を適用した薄膜固体二次電池を作製し、充放電動作を確認した。この結果、スパッタリング法を用いて作製した酸化タンタル薄膜は正極活物質の水酸化ニッケルとの界面抵抗が高いという問題が生じた。また、スパッタリング法のように真空装置を用いて成膜する方法は、一般的にコストが高い。
【0007】
本実施の形態は、大気圧において膜厚が略均一で、かつミストの供給時間を調整することにより膜厚制御が容易で、かつ安価な薄膜固体二次電池の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施の形態の一態様によれば、有機タンタルを有機溶媒に溶解した原料溶液を作製する工程と、前記原料溶液をミスト発生容器内でミスト化して、前記有機タンタルのミストを形成する工程と、前記ミストをキャリアガスまたはキャリアガスと希釈ガスにより反応炉に導入し、酸化タンタル薄膜の成膜を行う基板の表面に輸送する工程と、前記基板の上に前記酸化タンタル薄膜を成膜する工程とを有し、前記酸化タンタル薄膜を成膜する工程は、前記基板の温度を調整する工程を含み、前記ミストを前記基板の表面に輸送する工程は、前記基板上における前記タンタルの酸化を支援するためのオゾンガスを前記基板表面に供給する工程をさらに含む、酸化タンタル薄膜の製造方法により酸化タンタル薄膜を形成して、固体電解質層として作製する工程と、
前記固体電解質層の上面に配置される正極活物質層であって、正極活物質として水酸化ニッケル(Ni(OH) 2 )を含む前記正極活物質層(22)を作製する工程と、
前記正極活物質層に対向して、前記固体電解質層の下面に配置される負極活物質層であって、酸化チタン(TiO x )、又は酸化チタン(TiO x )と酸化シリコン(SiO x )の混合層を負極活物質として含む前記負極活物質層を作製する工程とを
備える、薄膜固体二次電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本実施の形態によれば、大気圧において膜厚が略均一かつ、ミストの供給時間を調整することにより膜厚制御が容易かつ安価な薄膜固体二次電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法に適用可能な製造装置の模式的構成図。
図2】実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法を説明する工程フローチャート。
図3】実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜の断面の走査型電子顕微鏡像。
図4】実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜のX線光電子分光分析より算出した組成比X(酸化タンタル薄膜の組成をTa2XとしたときのXの値)。
図5】実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜の中の水素濃度分布を二次イオン質量分析法により求めた結果。
図6A】実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法を適用して成膜した酸化タンタル薄膜を固体電解質層に備える薄膜固体二次電池の模式的断面構造図。
図6B】実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法を適用して成膜した酸化タンタル薄膜を固体電解質層に備える薄膜固体二次電池の他の模式的断面構造図。
図7】実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜を固体電解質層に備える薄膜固体二次電池の放電特性例。
図8】実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜を固体電解質層に備える薄膜固体二次電池の内部抵抗の成膜温度依存性。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照して、本実施の形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、各構成部品の厚さと平面寸法との関係などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚さや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0014】
又、以下に示す実施の形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、各構成部品の材質、形状、構造、配置などを特定するものではない。この実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
又、以下の説明において、酸化タンタルという表現には、五酸化タンタル、及び酸素欠損した酸化タンタルTa2(4<x≦5)が含まれているものとする。
また、水素が含有されているものも含む。
【0016】
(酸化タンタル薄膜の製造装置)
本実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法に適用可能な製造装置101の模式的構成は、図1に示すように表される。本実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造装置101は、噴霧器(150、160)と、ミスト液滴を気化し気相反応を行う反応炉110とを備える。
【0017】
噴霧器(150、160)は、有機タンタルを有機溶媒に溶解させた原料溶液140を収容するミスト発生容器150と、ミスト化器160とを備え、有機タンタル溶解した原料溶液140をミスト化し、溶液ミストを作製する機能を有する。ミスト化器160は、例えば超音波発生装置などを適用可能である。
【0018】
噴霧器(150、160)には、図1に示すようにキャリアガスG1(第1不活性ガス)が導入され、経路L1(ミスト経路)を介して溶液ミスト(以下、ミストM1)が、反応炉110に輸送される。また、経路L1には、経路L1内のミストM1の流量を調整する希釈ガスG2(第2不活性ガス)が導入されていても良い。
ミストM1を搬送するキャリアガスG1には、窒素N2、アルゴンAr、などの、膜形成工程に対する活性を持たない不活性ガスが適している。また、キャリアG1の導入経路にはミストM1の輸送速度を、あらかじめ定める数値に設定するため、または適宜変更するため、さらには成膜時に変化させるため、キャリアG1の導入量を調節することが可能なフローメータ或いはマスフローコントローラなどの流量調節手段を設けることが望ましい。
【0019】
希釈ガスG2としては、窒素N2、アルゴンAr、などの、膜形成工程に対する活性を持たない不活性ガスが使用され、好ましくは、キャリアガスG1と同種のガスを使用する。
【0020】
また、希釈ガスG2の導入経路にはミストM1の濃度を、あらかじめ定める数値に設定するため、または適宜変更するため、さらには成膜時に変化させるため、希釈ガスG2の導入量を調節することが可能なフローメータ或いはマスフローコントローラなどの流量調節手段を設けることが望ましい。
【0021】
反応炉110は、ミストM1の導入部分と、ミストM1が基板40上を流れる部分からなり、反応炉を加熱するヒーター板130を内蔵し450℃まで加熱する機能を持つ。反応炉内に、酸化タンタル堆積するための基板40が配置される。
【0022】
噴霧器(150、160)から導入されるミストM1は、反応炉110に配置された基板40上へ輸送される。反応炉110はヒーター板130により一定温度に保たれるよう必要な熱容量を有している。尚、図1において、基板40の表面上でミスト気相反応した後の排気ガスが、G3で示されている。
【0023】
(酸化タンタル薄膜の製造方法)
実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法は、図2に示す工程フローチャートで表される。
【0024】
実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法は、図2に示すように、有機タンタルを有機溶媒に溶解した原料溶液140を作製する第1の工程(ステップS1)と、有機タンタルを有機溶媒に溶解した原料溶液140をミスト発生容器150内でミスト化して、酸化タンタル溶液のミストM1を製造するする第2の工程と、ミストM1をキャリアガスにより反応炉110に導入し、酸化タンタル薄膜の成膜を行う基板40の表面に輸送する第3の工程(ステップS3)と、基板40上に酸化タンタル薄膜を成膜する第4の工程(ステップS4)とを有する。第4の工程には、反応炉110を加熱することにより基板40の温度を調整する工程が含まれる。
【0025】
有機タンタルは、タンタル(V)アルコキシドを備える。ここで、タンタル(V)アルコキシドは、タンタル(V)ペンタエトキシドを備えていても良い。メチルアルコールを用いて希釈したタンタル(V)ペンタエトキシド溶液(原料溶液140)をミスト発生容器150に入れ、ミスト化器160によりミスト化する。ミスト発生容器150内のミストM1は窒素ガスなどの不活性ガスをキャリアガスG1として反応炉110に輸送される。ミスト発生容器150から輸送されるミストM1を希釈ガスG2により希釈することもできる。反応用の反応炉110は輸送されたミストM1の導入口と排出口を備え、他を密閉化する。基板40は所定の温度に加熱制御される。基板40上で導入されたミストM1が蒸発し、基板40上における気相反応で酸化タンタル薄膜が形成される。
【0026】
キャリアガスG1は窒素ガス、アルゴンガスなどの、膜形成工程に対する活性を持たない不活性ガスが使用される。
【0027】
希釈ガスG2も同様に窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスを用いる。キャリアガスG1と希釈ガスG2の流量を制御することで形成膜の成長速度、膜質、均一性を調整することができる。
【0028】
また、基板40上におけるタンタルの酸化を支援する目的で、希釈ガスG2に加えてオゾンガスを基板40表面に供給することができる。オゾンガスの供給により成膜速度の向上を図ることができる。
【0029】
基板40は200℃から450℃の範囲で設定できる。基板温度の制御により形成した酸化タンタル薄膜の膜特性を制御することができる。例えば、200℃~300℃の範囲ではイオン伝導性を持つ酸化タンタル薄膜を形成することができる。温度を上げることにより、イオン伝導性を低下させることができる。イオン伝導は水素イオン(プロトン)が移動しているものと考えられる。
【0030】
(酸化タンタル薄膜の成膜の実施例)
酸化タンタル薄膜の成膜には図1に示した製造装置101を用いた。原料溶液140は、タンタル(V)ペンタエトキシド(化学式Ta(C25O)5)を約9.3g(0.046 mol/l)500mlのメチルアルコールで希釈して作製した。
【0031】
なお、タンタル(V)ペンタエトキシドは加水分解を起こすため、原料溶液140の作製は窒素雰囲気で行った。また、原料溶液140は密閉容器に入れ、マグネチックスターラーを用いて攪拌した。
【0032】
次に、原料溶液140をミスト発生容器150に入れ、超音波振動子等のミスト化器160を用いてミストM1を生成した。生成したミストM1はキャリアガスG1を2.5slm(2.5×10-33/min)、流量調整用の希釈ガスG2を7.5slm(7.5×10-33/min)により、反応炉110に輸送した。使用した反応炉110はヒーター板130上に設置されており、基板40の温度は、約200℃-450℃程度の範囲で制御されるようになっている。なお、基板40の温度は基板40の裏面に設置した熱電対で測定した。
【0033】
(酸化タンタル薄膜の断面のSEM像)
実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法を用いて、前記条件で成膜した酸化タンタル薄膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)像は、図3に示すように表される。基板の温度は250℃である。
【0034】
酸化タンタル薄膜の断面のSEM像では、図3に示すように、グレインの見えない平坦な膜が形成されている。なお、成膜した酸化タンタル薄膜はX線回折(XRD:X‐ray diffraction)による分析において明確なピークは見られず、アモルファス状態であると考えられる。
【0035】
(酸化タンタル薄膜のXPS分析結果)
実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜のX線光電子分光(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)分析より算出した組成比Xは、図4に示すように表される。図4においては、XPS分析より算出した酸化タンタル薄膜表面近傍の組成Xを、成膜した酸化タンタル薄膜とスパッタリング法により成膜した酸化タンタル薄膜と比較して示されている。酸化タンタル薄膜の組成をTa2XとしたときのXの値が示されている。
【0036】
本成膜法による酸化タンタル薄膜のXPS分析結果は、図4の実施例で表される。一方、スパッタリング法により形成された酸化タンタル薄膜のXPS分析結果は、図4のSP1、SP2で表される。SP1とSP2は、スパッタリング法の成膜時の圧力が異なる。SP2に比べSP1の方が成膜時の圧力が高い。
【0037】
図4に示すように、本成膜法により成膜した酸化タンタル薄膜の組成比Xの値は最表面及び0.5nm内部でいずれも4.9であり、ほぼTa25の組成となっていることが確認された。一方、スパッタリング法により成膜した酸化タンタル薄膜(SP1)では最表面では5.0であるが、0.5nm内部では、4.6に低下している。スパッタリング法により成膜した酸化タンタル薄膜(SP2)では最表面では4.9であるが、0.5nm内部では、4.6に低下している。
【0038】
(SIMS分析結果)
実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜の中の水素濃度分布を二次イオン質量分析法(SIMS: Secondary Ion Mass Spectrometry)分析により求めた結果は、図5に示ように表される。本サンプルの成膜時の基板温度は250℃である。図5において、本成膜法による酸化タンタル薄膜のSIMS分析結果は、図5の実施例の曲線で表される。一方、図4に対応するスパッタリング法により形成された酸化タンタル薄膜のSIMS分析結果は、図5のSP1、SP2の曲線で表される。
【0039】
実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜は、図5の実施例の曲線に示すように、表面からの深さ約10nm以上では、水素濃度の値が約6×1021atoms/cm3以上である。スパッタリング法により成膜した酸化タンタル薄膜(SP1)では、表面からの深さ約10nm以上では、水素濃度の値が約4×1021atoms/cm3以下である。スパッタリング法により成膜した酸化タンタル薄膜(SP2)では、表面からの深さ約10nm以上では、水素濃度の値が約3×1021atoms/cm3以下である。
【0040】
以上より本成膜法により6×1021atoms/cm3と高水素濃度の酸化タンタル薄膜を成膜することができることが確認された。
【0041】
(薄膜固体二次電池作製の実施例)
図6Aに実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜(Ta2X)を固体電解質層18として適用した薄膜固体二次電池30の構造を示す。正極活物質層22は水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、負極活物質層16Sは酸化チタン(TiOx)、又は酸化チタン(TiOx)と酸化シリコン(SiOx)との混合層を負極活物質として含む。
【0042】
負極活物質層16Sの下の酸化チタン(TiO2)層14は電子輸送層であり、スパッタリング法を用いて成膜した。負極集電体12とチタン(TiO2) 層14との間には、Ti層15をスパッタリング法を用いて成膜した。
【0043】
負極活物質層16Sは脂肪酸チタンとシリコーンオイルを有機溶液で希釈した混合液を塗布、焼成し作製した。
【0044】
正極活物質層22は水酸化ニッケル(Ni(OH)2)の微結晶を有機溶液に分散し、塗布、乾燥することで作製した。
【0045】
正極集電体26は、アルミニウムをスパッタリング法で成膜した。
【0046】
負極集電体12は、タングステンをスパッタリング法で成膜した。
【0047】
図6Bに実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜を固体電解質層18として適用した薄膜固体二次電池30の別の構造を示す。図6Bにおいて、正極活物質層22と正極集電体26との間の酸化ニッケル(NiO)層24は電子(正孔)輸送層であり、スパッタリング法を用いて成膜した。その他の構成は、図6Aの構造と同様である。
【0048】
(放電特性)
図7図6Aの構造の薄膜固体二次電池の放電特性を示す。放電電圧は2V程度から1.5Vであり、実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜が固体電解質層として機能していることがわかる。
【0049】
(内部抵抗の温度依存性)
次に、薄膜固体二次電池の放電電圧から内部抵抗を計算した。つまり、開放電圧と放電電圧の差を放電電流で割った値を内部抵抗とした。実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法において、基板温度をパラメータとして、酸化タンタル薄膜を固体電解質層として作製した薄膜固体二次電池の内部抵抗を図8に示す。
【0050】
基板温度250℃と300℃の場合は内部抵抗が1kΩ程度であるが、350℃では4kΩに増加する。これは成膜時の基板温度が高くなるとイオン伝導度が減少してくることを示している。一方、スパッタリング法で成膜した酸化タンタル薄膜を固体電解質層とした薄膜固体二次電池の内部抵抗は8kΩ近くとなる。スパッタリング法の酸化タンタル薄膜は正極活物質層(水酸化ニッケル)22との界面抵抗が高いことが分かった。実施の形態に係る酸化タンタル薄膜の製造方法により成膜した酸化タンタル薄膜のほうが正極活物質層22との界面抵抗が低く、イオン伝導も高いと考えられる。なお、スパッタリング法の酸化タンタル薄膜は前述の高圧で成膜したものである。
【0051】
本実施の形態によれば、上記の酸化タンタル薄膜の製造方法で成膜することにより、水素(H)含有率の高いイオン伝導性のある酸化タンタル薄膜を得ることができる。
【0052】
本実施の形態によれば、大気圧において膜厚が略均一かつ、ミストの噴射時間を調整することにより膜厚制御が容易な酸化タンタル薄膜の製造方法、及び上記製造方法により作製された酸化タンタル薄膜を固体電解質に備える薄膜固体二次電池を提供することができる。
【0053】
真空を必要とするスパッタリング法を使用せず、成膜コストの低い酸化タンタル薄膜を成膜する。
【0054】
また、正極活物質に水酸化ニッケル、負極活物質に酸化チタンを備えた薄膜固体二次電池の固体電解質として、活物質との界面抵抗の低い酸化タンタル薄膜を成膜する。
【0055】
本実施の形態では、前記薄膜固体二次電池の固体電解質として使用可能なる。
【0056】
本実施の形態の他の態様によれば、上記の酸化タンタル薄膜の製造方法で成膜することにより、水素(H)含有率の高いイオン伝導性のある酸化タンタル薄膜が提供される。
【0057】
(酸化タンタル薄膜の応用)
本製造方法における酸化タンタル薄膜はより高温、例えば450℃の基板温度で成膜し、Arアニールなどを行うことで、リークの少ない高誘電率の薄膜としての活用も可能である。
【0058】
本製造方法における酸化タンタル薄膜は、200℃から300℃の低温の基板温度で成膜した場合はイオン伝導を示すことからエレクトロクロミックなどの薄膜としての活用も可能である。
【0059】
また、実施例として示した薄膜固体二次電池の構造は一例であり、HまたはOHイオンの伝導で機能する固体二次電池への適用も可能である。
【0060】
[その他の実施の形態]
上記のように、いくつかの実施の形態について記載したが、開示の一部をなす論述及び図面は例示的なものであり、限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0061】
このように、本実施の形態は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本実施の形態の二次電池は、様々な民生用機器、産業機器に利用することができ、通信端末、無線センサネットワーク向けの二次電池など、各種センサ情報を低消費電力伝送可能なシステム応用向けの二次電池など、幅広い応用分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
12…負極集電体
14…酸化チタン(TiO2)層
15…Ti層
16S…負極活物質層
18…固体電解質層
22…正極活物質層
24…酸化ニッケル(NiO)層
26…正極集電体
30…薄膜固体二次電池
40…基板
101…製造装置
110…反応炉
130…ヒーター板
140…原料溶液
150…ミスト発生容器
160…ミスト化器
L1…経路
M1…ミスト
G1…キャリアガス(第1不活性ガス)
G2…希釈ガス(第2不活性ガス)
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8