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特許7605426多電極カテーテルによって測定された局所興奮時間(LAT)の誤差推定
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】多電極カテーテルによって測定された局所興奮時間(LAT)の誤差推定
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/346 20210101AFI20241217BHJP
   A61B 5/339 20210101ALI20241217BHJP
   A61B 18/12 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
A61B5/346
A61B5/339
A61B18/12
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020141630
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2021030085
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】16/550,734
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ロイ・ウルマン
(72)【発明者】
【氏名】ヤリブ・アブラハム・アモス
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-035483(JP,A)
【文献】特表平11-503644(JP,A)
【文献】特開2017-185223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538、5/24-5/398、
A61M 25/00-25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所興奮時間の誤差推定のためのシステム作動方法であって、
インターフェースが、
心臓内の複数の電極を介して、捕捉内容の集合を受信することであって、各捕捉内容は、前記電極によって測定された電気生理学的(EP)信号のセットを含む、受信することと、
プロセッサが、
前記捕捉内容のうちの少なくともいくつかについて、焦点源から伝搬されたEP波に基づいて前記複数の電極において捕捉されたEP信号のそれぞれの到着方向(DOA)及びそれぞれの距離を推定することと、
推定された前記DOA及び距離に基づいて、前記EP信号のうちの少なくとも1つのEP信号においてタイミング誤差を推定することと、
前記EP信号における最初のアノテーションを選択することと、前記推定されたDOA及び距離に基づいて、前記最初のアノテーションに対応する補正されたアノテーションを決定することと、前記補正されたアノテーションが既定の条件を満たすことを確認すると、前記補正されたアノテーションによって前記最初のアノテーションを置き換えることと、によって、前記推定されたDOA及び距離に適合するように、前記タイミング誤差を補正することと、
前記タイミング誤差が補正された前記EP信号を含むEP信号の前記セットを使用して、前記心臓の少なくとも一部分のEPマップを生成することと、を含む、作動方法。
【請求項2】
前記EPマップを生成することは、局所興奮時間(LAT)マップを生成することを含む、請求項1に記載の作動方法。
【請求項3】
前記DOA及び距離を推定することは、費用関数を最小化する前記DOA及び前記距離を導出することを含む、請求項1に記載の作動方法。
【請求項4】
前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認することは、前記補正されたアノテーションが前記EP信号の隣接するピーク間のくぼみに入ることを確認することを含む、請求項に記載の作動方法。
【請求項5】
前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認することは、前記補正されたアノテーションと前記最初のアノテーションが前記EP信号の同じ単調減少区間にあることを確認することを含む、請求項に記載の作動方法。
【請求項6】
前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認することは、前記補正されたアノテーションと前記最初のアノテーションが前記EP信号の同じ単調区間にあることと、前記区間の勾配が既定の閾値勾配よりも低いことと、を確認することを含む、請求項に記載の作動方法。
【請求項7】
局所興奮時間の誤差推定のためのシステムであって、
心臓内の複数の電極によって捕捉された捕捉内容の集合を受信するように構成されたインターフェースであって、各捕捉内容は、電気生理学的(EP)信号のセットを含む、インターフェースと、
プロセッサであって、
前記捕捉内容のうちの少なくともいくつかについて、焦点源から伝搬されたEP波に基づいて前記複数の電極において捕捉されたEP信号のそれぞれの到着方向(DOA)及びそれぞれの距離を推定し、
推定された前記DOA及び距離に基づいて、前記EP信号のうちの少なくとも1つのEP信号においてタイミング誤差を推定し、
前記EP信号における最初のアノテーションを選択することと、前記推定されたDOA及び距離に基づいて、前記最初のアノテーションに対応する補正されたアノテーションを決定することと、前記補正されたアノテーションが既定の条件を満たすことを確認すると、前記補正されたアノテーションによって前記最初のアノテーションを置き換えることと、によって、前記推定されたDOA及び距離に適合するように、前記タイミング誤差を補正し
前記タイミング誤差が補正された前記EP信号を含むEP信号の前記セットを使用して、前記心臓の少なくとも一部分のEPマップを生成するように構成されたプロセッサと、を含む、システム。
【請求項8】
前記EPマップは局所興奮時間(LAT)マップを含む、請求項に記載のシステム。
【請求項9】
前記プロセッサは、費用関数を最小化する前記DOA及び前記距離を導出することによって前記DOA及び前記距離を推定するように構成されている、請求項に記載のシステム。
【請求項10】
前記プロセッサは、前記補正されたアノテーションが前記EP信号の隣接するピーク間のくぼみに入ることを確認することによって、前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認するように構成されている、請求項に記載のシステム。
【請求項11】
前記プロセッサは、前記補正されたアノテーションと前記最初のアノテーションが前記EP信号の同じ単調減少区間にあることを確認することによって、前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認するように構成されている、請求項に記載のシステム。
【請求項12】
前記プロセッサは、前記補正されたアノテーションと前記最初のアノテーションが前記EP信号の同じ単調区間にあることと、前記区間の勾配が既定の閾値勾配よりも低いことと、を確認することによって、前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認するように構成されている、請求項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、その開示が参照により本明細書に援用される、「Automatic Identification of a Location of Focal Source in Atrial Fibrillation (AF)」と題する代理人整理番号1002-1729の同日付け出願の米国特許出願に関連するものである。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、広義には、電気生理学的マッピングに関するものであり、具体的には心臓の電気生理学的マッピングに関するものである。
【背景技術】
【0003】
心臓組織の電気生理学的(EP)特性をマッピングするための侵襲的心臓技術は、特許文献においてこれまでにも提案されている。例えば、米国特許出願公開第2017/0042449号には、多電極カテーテルを使用した心臓基質の局所的EP特性評価のためのシステム及び方法が記載されている。そのシステムは、複数の電極から電極の少なくとも1つの小集団を選択して、電位図信号の重み付けされた部分に対応する情報コンテンツから、少なくとも1つの配向独立信号を電極の少なくとも1つの小集団から導出する。システムは、カテーテル配向独立性の電気生理学的情報をユーザー又はプロセスに表示又は出力する。
【0004】
別の例として、米国特許公開公報第2015/0366476号には、心臓の電気的活動をマッピングするためのシステム及び方法が記載されている。システムは、複数の電極を備えたカテーテルシャフトを含んでもよい。システムのプロセッサは、複数の電極のうちの少なくとも1つから信号のセットを収集することが可能であってよい。信号のセットは、ある期間にわたって収集されてもよい。プロセッサはまた、信号のセットから少なくとも1つの伝播ベクトルを算出すること、少なくとも1つの伝播ベクトルからデータセットを生成すること、データセットから統計的分布を生成すること、並びに、角度の円形ヒストグラムなどの統計的分布の視覚的表現を生成することが可能であってよい。伝搬ベクトルが決定される標的電極と隣接する電極によって感知された興奮時間を比較することによって、細胞波面伝播の方向(例えば伝搬角度)及び速度が決定され得る。
【0005】
米国特許出願公開第2017/0202470号には、焦点源を識別するシステム及び方法が記載されている。この方法は、センサを介して経時的に心電図(ECG)信号を検出することであって、各ECG信号は、心臓における位置を有し、心臓の電気活動を指示するセンサのうちの1つを介して検出され、各信号は少なくともR波S波を含む、ことと、ECG信号の各々のRS比を比較するR-Sマップを作成することであって、RS比はR波の絶対マグニチュードとS波の絶対マグニチュードとの比を含む、ことと、ECG信号の各々に対して、局所興奮到着時間(LAT)を識別することと、R-Sマップ上におけるECG信号のRS比と、識別されたLATとを相関させ、その相関を用いて焦点源を特定することと、を含み得る。
【0006】
米国特許出願公開第2017/0281031号には、マルチ電極プローブを生体被験者の心臓内に挿入することと、心臓のそれぞれの位置において同時に、電極からの電位図を記録することと、電位図中のそれぞれの各興奮時間間隔の範囲を定めることと、興奮時間間隔から、電気的伝播波のマップを生成することと、電位図の興奮時間内の局所興奮時間を調整することにより波のコヒーレンスを最大化することと、調整された局所興奮時間を報告することと、によって実行される電気解剖学的マッピングが記載されている。
【0007】
米国特許出願公開第2004/0243012号には、洞律動中の被験者の心臓内のリエントリ回路頻拍起源(isthmus)を特定及び局所化するための方法及びシステムが記載されている。この方法は、(a)電極を介して洞律動中に心臓から電位図信号を受信することと、(b)電位図信号に基づいたマップを作成することと、(c)このマップに基づいて、心臓内のリエントリ回路頻拍起源の場所を決定することと、(d)リエントリ回路頻拍起源の位置を表示することと、を含んでよい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態が、心臓内の複数の電極を介して、捕捉内容の集合を受信することであって、各捕捉内容は、電極によって測定された電気生理学的(EP)信号のセットを含む、受信することを含む方法を提供する。EP信号のセットが発せられた電極に対するそれぞれの到着方向(DOA)及びそれぞれの距離が、捕捉内容の各々に対して推定される。捕捉内容は、推定されたDOA及び距離の関数として捕捉内容の統計的分布を形成するために集計される。統計的検定を使用して、既定の一貫性基準に従い、捕捉内容の統計的分布が一貫性のあるものかどうかがチェックされる。捕捉内容の統計的分布が一貫性のあるものと判明した場合、統計的分布から、受信されたEP信号を生成した催不整脈作用の焦点源の心臓内における推定位置が導出される。焦点源の推定位置は、心臓の少なくとも一部分の解剖学的マップ上にオーバーレイされる。
【0009】
いくつかの例示的な実施形態では、所与の捕捉内容に関して、DOA及び距離を推定することは、所与の捕捉内容におけるEP信号のセットから、相対到着時間のそれぞれのセットを抽出し、抽出されたその相対到着時間を使用してDOA及び距離を推定することを含む。
【0010】
いくつかの例示的な実施形態では、捕捉内容を集計することは、各捕捉内容から抽出された相対到着時間のそれぞれのセットに従って捕捉内容を事前にフィルタ処理し、捕捉内容の統計的分布に、事前にフィルタ処理されたその捕捉内容のみを含めることを含む。
【0011】
ある例示的な実施形態において、相対到着時間の抽出されたセットに従って捕捉内容を事前にフィルタ処理することは、(a)推定されたDOA及び距離を使用して、各捕捉内容ごとに、推定されたDOA及び距離において焦点源からEP波が発せられた結果として生じた、相対到着時間のモデル化されたセットを算出する工程と、(b)各捕捉内容ごとに、既定の幾何学的検定を適用することによって、相対到着時間の抽出されたセットとモデル化されたセットとの間の類似度を決定する工程と、を含む。
【0012】
いくつかの例示的実施形態では、類似度を推定することは、2つのセット間で余弦類似度の幾何学的検定を算出することを含む。他の例示的な実施形態において、類似度を推定することは、各相対到着時間ごとに推定誤差を算出し、その推定誤差を所与の閾値と比較することを含む。
【0013】
ある例示的な実施形態において、本方法は、相対到着時間のモデル化されたセットを使用して、EP信号の電圧-時間勾配が予め規定された勾配よりも緩やかなEP信号の全体に対してアノテーションの時間値を調節することを更に含む。
【0014】
別の例示的な実施形態において、捕捉内容を事前にフィルタ処理することは、類似していない到着時間のセットを有すると判定された1つ以上の捕捉内容を破棄することを含む。
【0015】
いくつかの例示的な実施形態において、推定位置を導出することは、統計的分布に曲線を当てはめ、推定されたDOA及び距離の関数としてその曲線の最大値を発見することを含む。
【0016】
いくつかの例示的な実施形態において、DOA及び距離を推定することは、費用関数を最小化することを含む。他の例示的な実施形態において、費用関数を最小化することは、重み付き費用関数を最小化することを含む。更なる例示的な実施形態において、費用関数を最小化することは、各反復において、最大推定誤差を有するEP信号値を除去することによって、費用関数を反復的に最小化することを含む。
【0017】
ある例示的な実施形態において、推定位置を導出することは、k平均分析を統計的分布に適用し、解剖学的構造上に推定位置を投影し、所与の値よりも小さい投影距離を有する位置を選択することを含む。
【0018】
本発明の例示的な実施形態によれば、インターフェースとプロセッサとを含むシステムが更に提供される。インターフェースは、心臓内の複数の電極によって捕捉された捕捉内容の集合を受信するように構成され、各捕捉内容は、電気生理学的(EP)信号のセットを含む。プロセッサは、(a)捕捉内容の各々について、EP信号のセットが発せられた電極に対するそれぞれの到着方向(DOA)及びそれぞれの距離を推定し、(b)推定されたDOA及び距離の関数として捕捉内容の統計的分布を形成するために、捕捉内容を集計し、(c)統計的検定を使用して、既定の一貫性基準に従って、捕捉内容の統計的分布が一貫性のあるものかどうかをチェックし、(d)捕捉内容の統計的分布が一貫性のあるものと判明した場合、統計的分布から、受信されたEP信号を生成した催不整脈作用の焦点源の心臓内における推定位置を導出し、(e)心臓の少なくとも一部分の解剖学的マップ上に、焦点源の推定位置をオーバーレイするように構成される。
【0019】
本発明の別の例示的な実施形態は、心臓内の複数の電極を介して、捕捉内容の集合を受信することであって、各捕捉内容は、電極によって測定された電気生理学的(EP)信号のセットを含む、受信することを含む方法を提供する。EP信号のセットが発せられた電極に対するそれぞれの到着方向(DOA)及びそれぞれの距離が、捕捉内容のうちの少なくともいくつかに対して推定される。推定されたDOA及び距離に基づいて、タイミング誤差が、それらのEP信号のうちの少なくとも1つのEP信号において推定される。推定されたDOA及び距離に適合し、誤差を補正するように、EP信号のタイミングが調節される。心臓の少なくとも一部分のEPマップが、調節されたEP信号を含むEP信号のセットを使用して生成される。
【0020】
いくつかの例示的な実施形態において、EPマップを生成することは、局所的興奮時間(LAT)マップを生成することを含む。
【0021】
いくつかの例示的な実施形態において、DOA及び距離を推定することは、費用関数を最小化するDOA及び距離を導出することを含む。
【0022】
ある例示的な実施形態では、EP信号のタイミングを調節することは、(a)EP信号内の最初のアノテーションを選択することと、(b)推定されたDOA及び距離に基づいて、最初のアノテーションに対応する補正されたアノテーションを決定することと、(c)補正されたアノテーションが既定の条件を満たすことを確認するとEP信号のタイミングを調節することと、を含む。
【0023】
別の例示的な実施形態において、補正されたアノテーションが既定の条件を満たすことを確認することは、補正されたアノテーションがEP信号の隣接するピーク間のくぼみに入ることを確認することを含む。更に別の例示的な実施形態において、補正されたアノテーションが既定の条件を満たすことを確認することは、補正されたアノテーションと最初のアノテーションがEP信号の同じ単調減少区間にあることを確認することを含む。
【0024】
いくつかの例示的な実施形態において、補正されたアノテーションが既定の条件を満たすことを確認することは、補正されたアノテーションと最初のアノテーションがEP信号の同じ単調区間にあることと、その区間の勾配が既定の閾値勾配よりも低いことと、を確認することを含む。
【0025】
本発明の例示的な実施形態によれば、インターフェースとプロセッサとを含むシステムが更に提供される。インターフェースは、心臓内の複数の電極によって捕捉された捕捉内容の集合を受信するように構成され、各捕捉内容は、電気生理学的(EP)信号のセットを含む。このプロセッサは、(a)捕捉内容のうちの少なくともいくつかについて、EP信号のセットが発せられた電極に対するそれぞれの到着方向(DOA)及びそれぞれの距離を推定し、(b)推定されたDOA及び距離に基づいて、EP信号のうちの少なくとも1つのEP信号におけるタイミング誤差を推定し、(c)推定されたDOA及び距離に適合し、誤差を補正するように、EP信号のタイミングを調節し、(d)調節されたEP信号を含むEP信号のセットを使用して、心臓の少なくとも一部分のEPマップを生成するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明は、以下の本発明の例示的な実施形態の詳細な説明を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
図1】本発明の例示的な実施形態による、電気生理学的(EP)マッピングシステムの概略的な描写図である。
図2】本発明の例示的な実施形態による、不整脈の焦点源の位置の自動特定のための方法を概略的に例示しているフローチャートである。
図3A】本発明の例示的な実施形態による、図1のシステムによって捕捉されたEP信号のグラフを示す2つのプロットである。
図3B】本発明の例示的な実施形態による、図1のシステムによって捕捉されたEP信号のグラフを示す2つのプロットである。
図4A】本発明の例示的な実施形態による、それぞれ図3A及び図3BのグラフのEP信号を用いて抽出及びモデル化された相対的な到着時間を示すプロットである。
図4B】本発明の例示的な実施形態による、それぞれ図3A及び図3BのグラフのEP信号を用いて抽出及びモデル化された相対的な到着時間を示すプロットである。
図5】本発明の例示的な実施形態による、図4A及び図4Bに示される工程に従って到着方向(DOA)及び距離を導出するための方法を概略的に示すフローチャートである。
図6】本発明の別の例示的な実施形態による、焦点源からの到着方向(DOA)を導出するための方法を概略的に示すフローチャートである。
図7A】それぞれ、本発明の例示的な実施形態による、(a)図1のシステムによって捕捉された単極EP信号のグラフを示すプロット、(b)カテーテルの位置、及び(c)抽出されたEP値におけるそれぞれの推定誤差を示す等時マップである。
図7B】それぞれ、本発明の例示的な実施形態による、(a)図1のシステムによって捕捉された単極EP信号のグラフを示すプロット、(b)カテーテルの位置、及び(c)抽出されたEP値におけるそれぞれの推定誤差を示す等時マップである。
図7C】それぞれ、本発明の例示的な実施形態による、(a)図1のシステムによって捕捉された単極EP信号のグラフを示すプロット、(b)カテーテルの位置、及び(c)抽出されたEP値におけるそれぞれの推定誤差を示す等時マップである。
図8A】それぞれ、本発明の例示的な実施形態による、図1のシステムによって捕捉された単極EP信号のグラフを示すプロット、及び抽出されたEP値におけるそれぞれの推定誤差を示す等時マップである。
図8B】それぞれ、本発明の例示的な実施形態による、図1のシステムによって捕捉された単極EP信号のグラフを示すプロット、及び抽出されたEP値におけるそれぞれの推定誤差を示す等時マップである。
図9A】それぞれ、本発明の例示的な実施形態による、所与の閾値よりも高い推定誤差を含む単極EP信号のグラフ、及びX-Y空間における焦点源の最初に推定された位置のグラフを示すプロットである。
図9B】それぞれ、本発明の例示的な実施形態による、所与の閾値よりも高い推定誤差を含む単極EP信号のグラフ、及びX-Y空間における焦点源の最初に推定された位置のグラフを示すプロットである。
図10】本発明の例示的な実施形態による、反復DOAモデルの9回の反復における、図9Bの焦点源の推定位置を示すグラフである。
図11A】本発明の例示的な実施形態による、焦点源からの到着方向(DOA)及び距離のヒストグラムである。
図11B】本発明の例示的な実施形態による、焦点源からの到着方向(DOA)及び距離のヒストグラムである。
図12】本発明の例示的な実施形態による、k平均クラスタリングモデルによって解析されたDOAクラスタを示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
概論
焦点型の不整脈の場合、異常な電気生理学的(EP)波インパルスは、心臓内の異所性焦点から異常に伝播される。焦点型の不整脈は、異常なEP波をトリガする局在的な異常心組織が原因で、あるいは、既存のEP波の誤った伝播を引き起こす小さなリエントリ経路を形成する局在的な異常心組織によって発生し得る。一部の患者においては、焦点型の不整脈を排除するために、局在的な催不整脈組織がアブレーションされ得る。したがって、焦点型の催不整脈組織の位置を特定することは、臨床的に有用であり得る。
【0028】
以下に記載される本発明の例示的な実施形態は、心臓内の焦点型の催不整脈作用の位置を自動的に特定するEPマッピングシステム及び方法を提供する。追加的にあるいは代替的に、いくつかの例示的な実施形態は、測定されたEP値におけるアノテーション誤差を推定し、その原因に従ってアノテーション誤差を補正するための方法を提供する。いくつかの例示的実施形態では、補正されたアノテーションを含むアノテーションのセットに基づいて、プロセッサが、心臓の少なくとも一部分のEPマップ(例えば、LATマップ)を生成する。
【0029】
EPマッピングシステムは、Pentaray(登録商標)カテーテル(Biosent-Webster(Irvine,California)製)などの多電極カテーテルを使用して、電極によって覆われた心臓領域から複数の捕捉内容を取得するものである。各捕捉内容は、電極によって測定されたEP信号のセットを含み、このセットは、電極の数に従ってサイズ決めされる。しかしながら、開示された技術を用いて、必要に応じて他の多電極カテーテルが使用されてもよい。
【0030】
いくつかの例示的な実施形態では、プロセッサは次いで、捕捉されたEP信号のセットが発せられた電極に対する到着方向(DOA)及び距離RDOAを、各捕捉内容ごとに推定する。プロセッサは、捕捉内容を集計して、推定されたDOA及び距離の関数として捕捉内容の統計的分布(例えば、ヒストグラム又はX-Y空間におけるクラスタマップ)を形成し、統計的検定を用いて、捕捉内容の統計的分布が一貫性のあるものか否かをチェックする。
【0031】
一貫性は既定の一貫性基準に従ってチェックされる。関連する一貫性試験の例としては、定常性の推定値又は信頼区間の利用が挙げられるが、これらに限定されない。別の例として、X-Y空間におけるクラスタマップは、以下に記載されるように、マップ内の1つ以上のクラスタがそれぞれ、データポイントの少なくとも所与の割合(例えば、10%)を含む場合に、一貫性を有し得る。
【0032】
捕捉内容の統計的分布が一貫性のあるものと判明した場合、プロセッサは、統計的分布から、受信されたEP信号を生成した催不整脈作用の焦点源の心臓内における推定位置を導出する。最後に、プロセッサは、心臓の少なくとも一部分の解剖学的マップ上に、焦点源の推定位置をオーバーレイする。
【0033】
いくつかの例示的な実施形態では、DOA及び距離を推定するために、プロセッサは、以下では最初のアノテーションとも呼ばれるEP波面の到着時間を各EP信号にアノテーションする。プロセッサは、最初にアノテーションされた信号のセットから(すなわち、所与の捕捉内容から)、相対到着時間のそれぞれのセットを抽出する。幾何学的モデルを使用して、プロセッサは、抽出された相対時間セットを分析して、以下に記載されるように、問題のEP波の性質を指示する。このモデルは、各捕捉内容が、EP信号が捕捉される領域の全体にわたって一定速度を有する、単一の移動する広範なEP波面に一意に関連付けられると仮定したものである。
【0034】
いくつかの例示的な実施形態では、捕捉内容を集計するとき、プロセッサは捕捉内容を事前にフィルタ処理し、その事前にフィルタ処理された捕捉内容のみを捕捉内容の統計的分布に含める。プロセッサは、(a)推定されたDOA及び距離を使用して、各捕捉内容ごとに、EP波がカテーテルに対する推定されたDOA及び距離を有する焦点源において発生した結果として生じる相対到着時間のモデル化されたセットを、算出する工程と、(b)各捕捉内容ごとに、相対到着時間の抽出されたセットとモデル化されたセットとが類似する程度を判定するための検定を適用し、タイミングの類似しないセットを生じる捕捉内容を破棄する工程と、を適用することによって捕捉内容を事前にフィルタ処理する。該当する検定の例としては、幾何学的類似度の検定、及び推定誤差と所与の閾値との比較(以下、タイミング誤差とも呼ばれる)が挙げられる。
【0035】
いくつかの例示的な実施形態では、幾何学的類似度の検定は、相対到着時間の抽出されたセットとモデル化されたセットとの間に余弦類似度の幾何学的検定を適用することを含む。類似度は、完全相違性を表すゼロと、完全類似度を表す1との間の範囲に及び得る。代替の例示的な実施形態では、最小二乗法が幾何学的検定として用いられる。
【0036】
異常なEP波は必ずしも、類似度チェックによって指示され得る焦点起源の性質のものであるとは限らない。例示的な実施形態では、EP波の性質、すなわち焦点型又は異常性に関係なく、導出されたモデル化された相対時間は、輪郭が明確でない、すなわち、波面の電位-時間の勾配が予め定められた勾配よりも緩やかな、最初のアノテーションの時間値を調整するために使用されてもよい。調整されたアノテーションは、以下で、補正されたアノテーションとも称される。
【0037】
典型的には、プロセッサは、プロセッサが、上で概略を述べたプロセッサ関連工程及び機能の各々を実行することを可能にする、特定のアルゴリズムを含むソフトウェアにプログラム化されている。
【0038】
心臓内の催不整脈作用の焦点源を自動的に特定するための開示される技術は、関連するカテーテルベースの不整脈の治療の臨床転帰を改善し得る。
【0039】
システムの説明
図1は、本発明の例示的な実施形態による、電気生理学的(EP)マッピングシステム10の概略的な描写図である。システム10はカテーテル14を含み、このカテーテルは、患者の脈管系を通じて心臓12の房又は脈管構造の中へと医師32によって挿入されるものである。医師32は、カテーテルの遠位先端部18を、例えば、EPマッピング標的部位において、心臓壁と接触させる。カテーテル14は典型的には、医師32がEPマッピングのために所望によりカテーテル14の遠位端部を操縦、位置付け、及び配向することを可能にする好適なコントロールを有するハンドル20を含む。
【0040】
カテーテル14は、挿入図37に示される前述のPentaray(登録商標)カテーテルなどの多電極カテーテルである。Pentarayカテーテル14は5つの可撓性アーム15を含み、各アームは4つの電極16を担持する。したがって、図2に更に記載されるように、EP信号捕捉の各インスタンスにおいて、システム10によって合計20個のEP信号が取得される。
【0041】
カテーテル14はコンソール24に接続されており、これによって、医師32はカテーテル14の機能を観察及び調整することが可能となる。医師32を補助するために、カテーテル14の遠位部分は、コンソール24内に位置するプロセッサ22に位置、方向、及び配向信号を提供する接触力センサ(図示せず)及び磁気センサ33などの様々なセンサを含んでもよい。プロセッサ22は、後述のような幾つかの処理機能を果たすことができる。具体的に言えば、カテーテル14の遠位先端部18に若しくはその近くに位置する電極16からケーブル31を介してコンソール24へと、電気信号が心臓12へと、また心臓12から伝達され得る。ペーシング信号及び他の制御信号が、コンソール24からケーブル31及び電極16を通じて心臓12へと伝達されてもよい。
【0042】
コンソール24は、プロセッサ22によって駆動されるモニタ29を含む。電気的インターフェース34における信号処理回路は典型的には、上述のセンサ及び複数の感知電極16によって発生された信号を含めて、カテーテル14からの信号を受信、増幅、フィルタ処理、デジタル化する。デジタル化された信号は、カテーテル14の位置及び配向を算出するために、また以下で更に詳細に記載されるように電極16からのEP信号を解析するために、コンソール24及び位置決めシステムによって受信及び使用される。
【0043】
開示される手技の間、電極16のそれぞれの位置が追跡される。この追跡は、例えば、Biosense Webster製のCARTO(登録商標)3システムを使用して実行されてもよい。このようなシステムは、電極16と、患者の身体に連結された複数の外部電極30との間のインピーダンスを測定するものである。例えば、3つの外部電極30が患者の胸部に連結されてもよく、別の3つの外部電極が患者の背中に連結されてもよい。(説明を容易にするために、胸部の電極のみが図1に示されている。)。ワイヤ接続部35は、カテーテル14の位置及び配向の座標を測定するために、身体表面電極30及び位置決めサブシステムの他の構成要素にコンソール24をリンクする。興奮電流ロケーション(ACL)と名付けられた、電気信号に基づいて電極16の位置を追跡する方法は、例えば、前述のCARTO(登録商標)3システムのように、様々な医療用途において実現されている。ACLサブシステム及びプロセスの詳細は、本特許出願の譲受人に譲渡され、その開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第8,456,182号に提示されている。
【0044】
いくつかの例示的な実施形態では、システム10は、ACL追跡サブシステムに加えて、あるいはそれに代わって、磁気位置追跡サブシステムを含むが、その磁気位置追跡サブシステムは、磁場発生コイル28を使用して、既定の作用量で磁場を発生させ、そのカテーテルにおいてこれらの磁場を感知することによって、カテーテル14の遠位端部における磁気センサ33の位置及び配向を決定するものである。電極16はアーム15上の位置を把握しており、また互いとの関係を把握しているため、カテーテル14が心臓内で磁気的に追跡されると、心臓内の電極16の各々の位置が知られることになる。好適な磁気位置追跡サブシステムが、本特許出願の譲受人に譲渡され、その開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第7,756,576号及び同第7,536,218号に記載されている。
【0045】
位置を追跡された電極16からのEP信号に基づいて、電気的活性化マップが、本特許出願の譲受人に譲渡され、その開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第6,226,542号及び同第6,301,496号及び同第6,892,091号に開示されている方法に従って作成され得る。
【0046】
プロセッサ22は、メモリ25内に記憶されたソフトウェアを用いてシステム10を操作する。そのソフトウェアは、例えば、ネットワークを介して電子形式でプロセッサ22にダウンロードされてもよく、あるいは、それに代わって若しくはそれに加えて、磁気的、光学的、又は電子的メモリなどの非一時的な有形の媒体上に提供及び/又は記憶されてもよい。具体的には、プロセッサ22は、以下で更に説明するように、本開示の工程をプロセッサ22が行うことを可能にする、図2を含む本明細書に開示される専用アルゴリズムを実行する。
【0047】
図1に示す例示的な図は、純粋に、概念を分かりやすくするために選択されたものである。Lasso(登録商標)カテーテル(Biosense Webster,Inc.により製造されている)など、他のタイプの感知用の幾何学的形状も採用され得る。
【0048】
心房細動(AF)における焦点源の位置の自動識別
図2は、本発明の例示的な実施形態による、不整脈の焦点源の位置の自動特定のための方法を概略的に例示しているフローチャートである。このアルゴリズムは、提示される例示的な実施形態によると、カテーテル挿入工程100において、複数の感知電極16を有するカテーテル14を医師32が患者の心臓12内に挿入することで始まるプロセスを実行する。
【0049】
次に、システム10は、EP信号捕捉工程102において、医師32によって心臓組織と接触された電極16からのEP信号のセットの捕捉内容の集合を受信する。開示される例示的な実施形態のうちのいくつかによって利用される30秒の典型的な診断間隔において、システムは、100~200ミリ秒の典型的な持続時間をそれぞれ有するECGセグメントを含む100~200の捕捉内容を収集する。いくつかの例示的な実施形態では、100~200ミリ秒のセグメントを生成するために、30秒の窓の自動分割がプロセッサ22によって実行され、各セグメントは心房を通じて伝播する単一の興奮に対応する。
【0050】
次に、プロセッサ22は、DOA導出工程104において、DOAの推定値及び推定される焦点源の距離を各捕捉内容から導出する。次いで、プロセッサ22は、事前フィルタ処理工程106において、後続の統計分析に含めるのに適していない捕捉内容を破棄するために、各捕捉内容を事前にフィルタ処理する。いくつかの例示的な実施形態では、プロセッサ22は、抽出されたEP値とモデル化されたEP値との間の推定された相対時間における誤差を比較することによって、捕捉内容を事前にフィルタ処理する。この段階は、以下に記載されるように、DOA推定を改善し、それによって推定誤差を低減するために、反復的な計算を含めることなど、更なる処理を試行することを含んでもよい。
【0051】
他の例示的な実施形態では、プロセッサは、モデル化されたEP値と抽出されたEP値(例えば、余弦類似度検定)の一貫性の幾何学的検定を実行することによって、捕捉内容を事前にフィルタ処理する。
【0052】
いずれにしても、集計工程108において、プロセッサ22は、検証されたDOA及び距離値を集計する。次にプロセッサ22は、統計分析工程110において、DOA及び距離(すなわち、候補となる焦点位置)の1つ以上の候補をそれらが存在する場合に発見するために、統計的検定を実行する。
【0053】
プロセッサは、投影検証工程112において、解剖学的構造上の位置を投影することによって、候補位置が有効であるかどうか、及び候補位置のうちのどれが有効な位置であるかを確認する。
【0054】
更に、プロセッサは、直接検証工程114において、以下で記載される少なくとも最小数の焦点指示ECG信号が検証済みの位置で捕捉されたことを、検証済みの候補位置に対して確認する。
【0055】
最後に、焦点源提示工程116において、プロセッサ22は、催不整脈作用の焦点源の1つ以上の特定済みの位置を、心臓12の少なくとも一部分の解剖学的マップに重ね合わせる。
【0056】
図2に示される例示的なフローチャートは、単に概念を明確化する目的で選択されたものである。上記で簡潔に説明された工程の更なる詳細及び具体的な例示的な実施形態が、図5及び図6のフローチャートを含めて、以下に示されている。
【0057】
第1の方法による到着方向(DOA)及び距離の導出及び検証
図3A及び図3Bは、本発明の例示的な実施形態による、図1のシステムによって捕捉されたEP信号のグラフ42を示す2つのプロットである。図示されたEP信号は、例えば、図1のEPマッピングシステムによって、カテーテル14を使用して捕捉されたものである。2つの捕捉内容は、数十~数百個の間で番号付けされた複数の捕捉内容の一部である。そのような集合は、カテーテルの異なる心内配置において取得された捕捉内容及び/又は同じ配置の間に取得された反復的捕捉内容を含み得る。追跡システムを使用して、複数の電極の各々は、心臓内の位置を有する。
【0058】
このグラフは、EP波がカテーテル14の20個の電極の各々を「叩いた」、最初にアノテーションされた時間44を示している。これらのアノテーションは、本特許出願の譲受人に譲渡され、その開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第8,700,136号に記載されている方法など、当該技術分野において知られている方法によって作成されたものである。
【0059】
図3Aでは、EP波は最初に、電極「13」及び「14」を叩き、次いで電極「15」及び「7」を叩き、その他も同様に叩く。図3Bでは、EP波は最初に、電極「5」及び「6」を叩き、次いで電極「7」及び「8」を叩き、その他も同様に叩く。
【0060】
図3A及び図3Bに見られるように、最初にアノテーションされたEP信号の電位時間勾配の一部は、(例えば、図3Bのグラフ10及びグラフ11において)輪郭が明確ではなく、すなわち緩やかなものとなっている。例示的な実施形態では、開示される技術は、催不整脈作用の焦点源がその技術によって特定されない場合でも、図7A図8A及び図9Aに示されるように、補正されたアノテーションを導出することによって、そのようなアノテーションの精度を改善する。例示的な実施形態では、以下に導出されるモデル化された時間は、カテーテル14の既知の幾何学的形状に基づいたものであり、輪郭が明確でない、すなわち、図3A及び図3Bに見られる電位-時間の傾斜が指定された傾斜よりも緩やかである最初のアノテーションの時間値を調節するために用いられる。
【0061】
図3A及び図3Bは例として示されたものである。バスケット又はラッソカテーテルなど、複数の電極を有する別のカテーテルが使用される場合、捕捉内容のサイズ(例えば、セット内のグラフの数)及びアノテーションされる回数は、所与のカテーテルの幾何学的形状を反映するが、開示される技術によって同様に使用される。
【0062】
図4A及び図4Bは、本発明の例示的な実施形態による、それぞれ図3A及び図3BのグラフのEP信号を用いて抽出及びモデル化された相対的な到着時間を示すプロットである。プロセッサ22は、以下に記載される工程を実行することによって、それぞれの抽出された到着時間のセットに従って捕捉内容を事前にフィルタ処理する。
【0063】
図4A及び図4Bにおける抽出時間66は、それぞれ図3A及び図3Bの最初のアノテーションされた時間44の差をプロセッサ22が計算することによって導出される。図4A及び図4Bのそれぞれのモデル化された相対時間68は、以下に記載されるように、補正されたアノテーション付き時間(図示せず)を使用してプロセッサ22によって導出される。
【0064】
図4A及び図4Bの上部にあるカラースケール48は、カテーテル14の図示された20個の電極16の各々をカラー符号化することによって、相対到着時間を符号化している。図4A及び図4Bの上部は更に、電極がEP信号を捕捉した2つの例における電極16の追跡位置を(Pentarayカテーテル14の概略的に境界を画されたアーム15の上に)示している。3D空間における各電極16の位置は、例えば前述のACL追跡技術を利用して追跡される。X-Y-Z軸(Zは図示せず)は、ACL法を適用する位置追跡システム20などの固定基準軸線システムに属する。
【0065】
抽出された相対到着時間66に基づいて、プロセッサ22は、矢印40a及び40bがカテーテル14の遠位先端部18から発生する共通位置を接続する線60によって示される距離で更にマークされるように、EP波が出現すると思われる推定焦点源50を幾何学的に(例えば、矢印40a及び40bによって示されるように)推定する。
【0066】
図4A及び図4Bの下部は、抽出された到着時間66のセットと、それぞれのモデル化された到着時間68のセットを同じグラフ上に示している。相対到着時間66は、実際のEP波が電極を「叩く」、最初にアノテーションされた時間から、プロセッサ22によって導出される。モデル化された時間68は、シミュレートされるEP波が、電極16に対する推定されたDOA及び距離を有する焦点源50において生じると仮定して、その推定されたDOA55及び距離60を用いてプロセッサ22によって算出される。
【0067】
ある例示的な実施形態において、捕捉内容から導出された余弦類似度のタイミング一致度が0.9の値を超える場合にのみ、捕捉内容が焦点源を指示するものとしてプロセッサによって判定される。ハミング距離など、抽出及びモデル化されたセットが類似している程度をチェックする余弦類似度以外の幾何学的検定(例えば、メトリクス)が利用されてもよい。
【0068】
プロセッサは、本明細書においてベクトルSEX及びSMDとして記される、捕捉内容ごとのそのようなセットの各対が類似している程度を、余弦類似度の式を利用して推定する。
【0069】
【数1】
【0070】
余弦類似度は、2つの順序付けられたセットの正規化された内積が計算されるものであり、-1~1の任意の値を与え得る。実際には、余弦類似度は、結果が[0,1)内に収まる正の空間で特に使用される。例えば、1の値は完全類似度に対応し、ゼロの値又は任意の負の値は、完全な相違度を示す。ある例示的な実施形態において、算出された余弦類似度が、0.9超など、既定の最小値を上回る値を与える場合、プロセッサは、セットが類似していると判定する。
【0071】
プロセッサ22は、捕捉内容の集合から導出された全てのセットにわたって類似度チェックを実行し、既定の最小値(例えば、<0.9)を下回る余弦類似度を有する捕捉内容を破棄する。
【0072】
次に、プロセッサ22は、余弦類似度検定に合格した捕捉内容に対してのみ、ベクトルの位相(r50-r18)として定義される到着方向(DOA)55、及び信号のセットが発せられた距離60を、式2及び3を用いて算出する。
【0073】
【数2】
式中、r50及びr18はそれぞれ、推定される焦点源50及びカテーテル14の遠位先端部18のベクトル座標である。いくつかの例示的な実施形態では、システム座標を3Dから2Dに変換するとき、カテーテルの中心がXY空間の原点に置かれるため、r18はゼロベクトルとなる。
【0074】
図5は、本発明の例示的な実施形態による、図4A及び図4Bに示される工程に沿った到着方向(DOA)及び距離を導出するための方法を概略的に示すフローチャートである。このプロセスは、相対時間抽出工程200において、プロセッサ22が、最初にアノテーションされたEP信号から相対到着時間66を抽出することで開始される。
【0075】
次に、EP信号が、(a)広い波面を有する単一のEP波であって、(b)その波面が一定速度で伝播するEP波、によって生成されたという仮定に基づいて、また、カテーテル14の既知の幾何学的形状に基づいて、プロセッサ22は、DOA及び距離推定工程202において、捕捉内容ごとに、DOA55の推定値及びEP波の距離60を導出する。
【0076】
次に、相対時間モデル化工程204において、推定されたDOA55及び距離60の値に基づいて、プロセッサ22は、工程106からの暫定的なDOA及び距離を有する焦点波が発生させる相対時間を算出する。プロセッサ22は次いで、類似度チェック工程206において、抽出及びモデル化された相対時間のセットが類似する程度を、例えば余弦類似度検定を用いてチェックする。
【0077】
セットが類似していないと判明した場合、捕捉内容破棄工程208において、プロセッサ22は、不良DOA及び距離値を示唆的でないものとして記憶又は破棄する。集計工程210において、類似していると判明した(すなわち、事前のフィルタ処理を通過した)抽出及びモデル化された相対時間のセットを有する全ての捕捉内容が、DOA及び距離の関数として別の分布へと(例えば、以下の図11A及び図11Bのヒストグラム70及び72へと)プロセッサ22によって集計される。以下の図11A及び図11Bに示されるように、集計されたDOA及び距離は、焦点源が存在するとヒストグラムから考えられる場合、その焦点源の位置を発見するために統計的に分析される。
【0078】
図5に示される例示的なフローチャートは、単に概念を明確化する目的で選択されたものである。典型的には、医師32が最初に(例えば、高速解剖学的マッピング(FAM)手順を使用して)心臓12の関連部分を解剖学的にマッピングし、解剖学的マップを取得するなど追加の工程を実行することができる。その基準は、使用される統計的ツールの種類によって異なり得る。例示的な実施形態において、モデル化されたタイミングの破棄されたセットは依然として、以下の「LAT改善」で説明されるように、輪郭が明確でないそれぞれの最初にアノテーションされた時間を調節するために使用されてもよい。
【0079】
第2の方法による到着方向(DOA)及び距離の導出及び検証
図6は、本発明の別の例示的な実施形態による、焦点源からの到着方向(DOA)を導出するための方法を概略的に示すフローチャートである。
【0080】
図6に示されるプロセスは、相対時間抽出工程300において、プロセッサ22が、最初にアノテーションされたEP信号から相対到着時間66を抽出することで開始される。次に、アルゴリズムは、投影チェック工程304において、以下に記載されるように、カテーテルを2D空間へと投影すること(すなわち、投影工程302)が有効であるかどうかをチェックすることによって、3D又は2D重み付きDOAモデル推定を適用すべきかどうかをチェックする。
【0081】
次に、投影工程304が無効な工程であると判明したか、あるいは有効な工程であると判明したかに応じて、プロセッサ22はそれぞれ、3Dモデル化工程306において3D重み付きDOA発見モデルを実行するか、あるいは2Dモデル化工程308において2D重み付きDOA発見モデルを実行する。
【0082】
3Dモデルかあるいは2Dモデルのいずれかを使用して、プロセッサ22は次いで、推定誤差工程310において、モデル化された相対時間と抽出された相対時間との間の推定誤差が所与の閾値よりも小さいかどうかをチェックする。
【0083】
推定誤差が所与の閾値内にある場合、プロセッサ22は、LAT改善工程312において、DOA推定をより正確にするために、LAT改善計算を適用する。LAT改善については、以下に更に記載される。
【0084】
他方で、推定誤差が所与の閾値よりも高い場合、プロセッサ22は、DOA反復推定工程314において、DOA反復モデルを実行する。
【0085】
フォローアップ誤差工程316において、プロセッサ22は、反復モデルを使用して再計算された推定誤差が所与の閾値よりも低いかどうかをチェックする。そうでない場合、プロセッサ22は、捕捉内容破棄工程318において、不良DOA及び距離値を示唆的でないものとして記憶又は破棄する。しかしながら、反復モデルが成功した場合、プロセッサ22は、LAT改善工程312をその結果に適用する。
【0086】
いずれにしても、集計工程320において、正常に事前フィルタ処理されたDOA及び距離のLAT改善推定値がプロセッサ22によって集計される。以下に示されるように、集計されたDOA値は、焦点源が存在すると統計モデルから見なされた場合、その焦点源の1つ以上の位置を発見するために統計的に分析される。
【0087】
例示的な実施形態では、DOA及び方向を導出するための図6に記載された開示される方法は、図7A図7Cに記載されるように、3D空間における費用関数を利用する。
【0088】
図7A図7Cは、それぞれ、本発明の例示的な実施形態による、(a)図1のシステムによって捕捉された単極EP信号のグラフを示すプロット、(b)カテーテル14の位置、及び(c)抽出されたEP値におけるそれぞれの推定誤差を示す等時マップである。具体的に言えば、図7Bは、X-Y空間におけるカテーテル14のカテーテル14の遠位先端部18の位置、及び左心房340の解剖学的構造上におけるカテーテルの実際の位置338を示す。
【0089】
推定誤差550(すなわち、タイミング誤差550)が、最初のアノテーションと補正されたアノテーションとの間の時間差として、図7A図8A及び図9Aに示されている。
【0090】
図7Aは、測定され最初にアノテーションされた局所的興奮時間332(t-円形)と、以下に説明する費用関数モデルを使用して導出された、対応する推定局所興奮時間334(
【0091】
【数3】
-正方形)、すなわち、補正されたアノテーションを伴った単極信号330のセットを示す。以下で更に詳細に記載されるように、興奮時間の測定されたEP値とモデル化されたEP値との間の推定誤差550が、時間差
【0092】
【数4】
として各電極ごとに算出される。
【0093】
DOAの費用関数ベースのモデルは、少なくとも10の局所的心房興奮と、i=1,...,m 10≦m≦Nとしたi番目の電極の局所的心房興奮の時間であるtとを含む各捕捉内容ごとに適用され、Nは、カテーテルの有効な電極の個数であり、例えば、PentaRay(登録商標)カテーテルの場合はN=20である。単一のEP波が3D空間内の任意の点から始まり、一定の伝導速度(CV)でカテーテルに向かって移動すると仮定される場合、費用関数J(θ)は、モデルの「総費用」について定義することができる:
【0094】
【数5】
【0095】
方程式4において、
【0096】
【数6】
は、(x0,y0,z0)に位置し、tにおいて、(x,y,z)に位置するi番目の電極に到着するDOA点からの距離として定義される。時間t間は、全ての電極に対するバイアス到着時間として定義され、vは波の1/CVである。J(θ)における項
【0097】
【数7】
は、正規化のための項であり、カテーテルの遠位先端部18により近い解に対する優先度を効果的に与え、したがって、心房の解剖学的構造内に解を見出す確率を高める。本出願人らのモデルの目的は、費用J(θ)を最小化する「最良の」θ=(x,y,z,t,v)を発見することによって、費用J(θ)を最小化することであり、これは、vがゼロよりも大きいという制約付きで勾配降下推定手順を用いることで行われ得る。勾配降下は、k番目の反復における多変数関数J(θ)が定義されており、点θの近傍で微分可能であれば、J(θ)は、θからJ(θ)の負の勾配の方向に進む場合に最も急速に減少し、したがって、θk+1=θ-γ・∇J(θ)であり、∇は微分演算を表し、γは学習率計数である。γは、変換を確実にするために小さくなければならないが、J(θ)の局所的最小値への緩慢な変換又は収束を克服するためには小さすぎてはならない。勾配降下アルゴリズムの正式な説明のために、本出願人らは、パラメータ(x,y,z,t,v)のそれぞれに対するJ(θ)の微分方程式を導出する。
【0098】
【数8】
【0099】
図7Bの上部の説明図は、得られた推定の焦点興奮を示す。図7Bにおいて、カラースケール(図4A及び図4Bのスケール48と同じ)は、カテーテル14の図示された20個の電極16の各々をカラー符号化することによって、相対到着時間を符号化している。図7Bは更に、電極がEP信号を捕捉した2つの別個の例における電極16の追跡位置を(Pentarayカテーテル14の概略的に境界を画されたアーム15の上に)示している。3D空間における各電極16の位置は、例えば前述のACL追跡技術を利用して追跡される。X-Y-Z軸(Zは図示せず)は、ACL法を適用する位置追跡システム20などの固定基準軸線システムに属する。
【0100】
最後に、信号330のセットが発せられた、費用関数モデルから導出されたDOA55及び距離がまた示されている。
【0101】
図7C(等時マップ)は、分析されたEP波が、図7Cの右側のカラーバーに従って到着時間をミリ秒単位で表す円形ライン344内の焦点源の位置336から伝搬していることを示す。円形350は電極の位置を表し、円形内の数は、図7Aの費用関数から導出された個々の(すなわち、電極ごとの)推定誤差550をミリ秒単位で表している。
【0102】
LATの改善
本発明のいくつかの例示的実施形態では、プロセッサは、EP信号内の最初のアノテーションを選択し、推定されたDOA及び距離に基づいて、最初のアノテーションに対応する補正されたアノテーションを決定し、補正されたアノテーションが既定の条件を満たすことを確認するとEP信号のタイミングを調節することによって、EP信号の最初にアノテーションされた時間を調節する。
【0103】
推定誤差550は、(a)位置及び伝導速度の費用関数最小化セット、θ=(x,y,z,t,v)を使用して衝突時間
【0104】
【数9】
を算出すること、並びに(b)電極ごとに差
【0105】
【数10】
を算出することによって、プロセッサ22により導出される(例えば、算出される)。
【0106】
ある例示的な実施形態では、LAT値tは、既定の条件1~3のうちの1つが満たされる場合、LAT推定を改善するために、
【0107】
【数11】
によって置き換えられる。
【0108】
1.
【0109】
【数12】
は、細分化信号(図示せず)又は二重電位LAT(図9Aの電極15のEP信号の値333など)内に見出される。
【0110】
2.
【0111】
【数13】
はアンカーではなく、すなわち、以下の重み付きモデル(式6)に記載されるように、LATの重みが0.3未満であることを意味する。小さい重みを有するLATは、電圧において「緩やかな」偏向を有する(すなわち、EP信号の電圧-時間勾配が予め規定された傾きよりも緩やかな)LATであり、したがって、図9Aにおける最初のアノテーション525など、それらの最初にアノテーションされた時間は「信頼性が低い」。
【0112】
3.t
【0113】
【数14】
は共に、単極の負の偏向の開始点と終了点との間にある(図9Aにおける電極16のEP信号の負の偏向555など)。
【0114】
この説明は、費用関数の簡略化された実装について記述する別の対象に続く。
【0115】
いくつかの例示的な実施形態では、2D空間における費用関数が適用され得る。2Dモデルでは、カテーテルは表面に投影されるが、これは、最も高い固有値を有する2つの固有ベクトルを取ることによって実行される。2つの固有ベクトルによって保存されたエネルギーが、モデルが仮定する95%を超える場合、3D空間から表面への投影は有効であり、式のセットは、zの次元を伴わないより単純な、θ=(x,y,t,v)である。
【0116】
いくつかの例示的な実施形態において、重み付き費用関数を使用してDOAを推定することを含む代替的なDOA推定工程がアルゴリズムによって使用され、図8A及び図8Bに記載される。
【0117】
図8A及び図8Bは、それぞれ、本発明の例示的な実施形態による、図1のシステムによって捕捉された単極EP信号440のグラフを示すプロット、及び抽出されたEP値におけるそれぞれの推定誤差を示す等時マップである。以下に記載される重み付き費用関数DOAモデルの背景にある主要な概念は、「鋭い」興奮は浅い興奮よりも「信頼性が高い」ということであり、鮮明度のレベルは、tにおける単極信号のdv/dtに基づいて定義される。各tは、そのdv/dtに基づいて0~1の重みwにマッピングされる。図8Aにおいて、各円形の近くの数値は、傾斜の重みを表す。
【0118】
図8Aにおいても留意されたいこととして、いくつかのEP信号は、電極E19及びE20によって感知される信号444(共に448)などの中に最も早いS波パターンを含む。EP波が電極に接近するときの信号振幅の最初の上昇を伴わないそのような負勾配パターンは、異常な焦点EP波が電極から離れる方向に伝播することを示唆するものである。この状態は、カテーテル14が「ぴったり標的上にある」ことを示し、電極のいくつかは、不整脈の焦点源の近くにある(例えば、距離60はアーム15の長さよりも短い)ことを示す。
【0119】
図8Bが示すように、重み付き費用関数を使用して導出された焦点源の推定位置446は、電極16の測定された位置によって少なくとも部分的に囲まれている。
【0120】
2Dの費用関数モデルに対する式のセットにおける必要な書き換え(すなわち、z依存性を除いた式5)は、以下の通りである。
【0121】
【数15】
【0122】
いくつかの例示的実施形態では、相対時間の推定誤差が所与の閾値よりも大きい場合、反復的なDOA推定プロセスが適用され、それについては図9A及び図9B図10A及び図10B、並びに図11A及び図11Bに記載されている。
【0123】
図9A及び図9Bは、それぞれ、本発明の例示的な実施形態による、所与の閾値よりも高い推定誤差550を有する単極EP信号のグラフを示すプロット、及びX-Y空間における焦点源の最初に推定された各位置560である。更に、いくつかのEP値は、ダブルポテンシャルLAT(図9Aにおける電極15のEP信号の補正されたアノテーション値333など)内に見出される。また、いくつかのEP値(両方とも推定値を測定)は、単極の負の偏向の開始点と終了点との間に見出される(図9Aにおける電極16のEP信号の負の偏向555内など)。
【0124】
図9Bに見られるように、位置560はカテーテルの遠位先端部の位置に非常に近いが、上記の観察結果を考慮すると、この位置はおそらく誤っている。
【0125】
例示的な実施形態では、平均推定誤差が所与の閾値(例えば、7ミリ秒)を上回る場合、プロセッサ22は、反復計算を実行してDOAを推定する。図9Aにおける平均推定誤差は、12.4ミリ秒である。各反復において、最も高い推定誤差を有する局所的興奮時間がDOA推定から排除される。このプロセスは、10を超える有効な局所的興奮時間値が存在する限り繰り返される。
【0126】
図10は、本発明の例示的な実施形態による、反復DOAモデルの9回の反復における、図9Bの焦点源560の推定位置を示すグラフである。ゼロ回目及び1回目の反復では、焦点源の位置560は、カテーテルの遠位先端部18の位置とほぼ一致するが、しかしながら、2回目の反復から9回目の反復にかけて、焦点興奮の位置がシフトされ、最終的には電極「1」の近くに配置される(570)。図10において、塗りつぶされた円はDOA推定のための有効な電極を表し、リング状の円は無効な電極を表している。リング電極の横のタグ付け「反復x回目」は、特定の電極が、反復x回目においてDOA推定から排除されたことを通知するものである。無効セグメントの割合は、この対象におけるAFの「複雑さ」の良好な尺度となる。
【0127】
ゼロ回の反復と9回目の反復との間で、最大推定誤差は、約25ミリ秒から5ミリ秒未満に低下する。伝導速度CVはまた、式4における費用の推定値としても機能するものであり、100mm/ミリ秒超から最小値の0.5mm/ミリ秒まで低下する。
【0128】
開示された反復モデルは、ノイズの多い波形を有する捕捉内容を取り扱う際、又は複数の波がカテーテルに向かって伝播する場合に使用される。
【0129】
統計的検定の第1の方法及び第2の方法
典型的な捕捉の持続時間は100~200ミリ秒である。典型的な記録は、30秒の単極信号を有し、したがって、約120~200の捕捉内容を含有する。全ての捕捉内容が処理されるまで、およそ120~200の捕捉内容からの全ての有効なDOA推定が記憶され、次いで、統計的方法が、有効なDOA推定のコーパスに適用される。
【0130】
第1の統計的方法
上述のように、またこの節で説明されるように、プロセッサ22は、集計されたDOA及び距離値をヒストグラムにし、そのヒストグラムを統計的に分析する。ある例示的な実施形態において、プロセッサは、ヒストグラムに曲線を当てはめ、その曲線の最大値を、推定されたDOA及び距離の関数として発見することによって、ヒストグラムから推定位置を導出するように構成される。
【0131】
図11A及び11Bはそれぞれ、本発明の例示的な実施形態による、焦点源からの到着方向(DOA)のヒストグラム70A及び70B、並びに距離のヒストグラム72A及び72Bである。図示のように、DOA分布はDOA値当たりの捕捉数からなり、距離分布は、距離値当たりの捕捉数からなる。典型的には、プロセッサ22は、図2に示され、図3に分析されているように、事前フィルタ処理段階を通過した数十~数百の範囲に及ぶ数の捕捉内容から、ヒストグラム70A及び70B、並びにヒストグラム72A及び72Bを編集する(すなわち、集計する)。
【0132】
統計的検定を使用して、プロセッサ22は、図11A及び図11BのDOAヒストグラムに例として示されるように、DOA分布が一貫したDOA値を生じているかどうかを最初にチェックする。一貫性試験のツールの例としては、定常性の推定値及び信頼区間の使用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
例えば、2つ以上の持続性の異なるDOA値を示す分布によって、DOAが一貫性を持たないと判明した場合、プロセッサ22は、開示された焦点源の特定プロセスを終了する。ある例示的な実施形態において、プロセッサ22は、プロセスが催不整脈作用の焦点源を特定しなかったという通知をユーザーに提示する。
【0134】
プロセッサ22が、捕捉内容分布からDOAの関数として一貫したDOA値を導出した場合、プロセッサ22は、問題の焦点源に対するDOA及びs距離を分布から最良に推定する。プロセッサ22は次いで、推定された最良のDOA及び距離を使用して、受信されたEP信号を生成した心臓12内の催不整脈作用の焦点源の位置を特定する。
【0135】
図11Aに見られるように、図11Aのヒストグラム70Aによって分析された臨床ケースの最も優勢なDOA値は、0.85πのDOA付近にある。ヒストグラム72Aによって示されるそれぞれの最も一般的な距離は、約300mmである。したがって、プロセッサ22は、その患者に関して、X軸に対して0.85πの角度をなす、遠位先端部18の位置から約300mmの距離のところに、焦点型不整脈の位置の存在を特定することができる。
【0136】
図11Bは、図11Bのヒストグラム70Bによって分析された臨床ケースの最も優勢なDOA値が0.5のDOAπ付近にあることを示す。ヒストグラム72Bによって示されるそれぞれの最も一般的な距離は、約300mmである。したがって、プロセッサ22は、その患者に関して、X軸に対して0.5πの角度をなす、遠位先端部18の位置から約300mmの距離のところに、焦点型不整脈の位置の存在を特定することができる。
【0137】
第2の統計的方法
図12は、本発明の例示的な実施形態による、k平均クラスタリングモデルによって解析されたDOAクラスタを示すプロットである。事前フィルタ処理を通過し、X-Y空間において集計されたDOA値のセットに、K平均クラスタリングモデルがプロセッサ22によって適用された。
【0138】
図12において、円形は、単一の記録セッションに含められた多数の捕捉内容のうちのLAT値の捕捉内容からのDOA推定を表す。図示の記録結果では、データを「説明する」DOAの2つのクラスタが存在する。第1のクラスタ80((-3.7mm、-0.2mm)の赤色円形)は、DOAの80.5%を含有し、第2のクラスタ88は、記録中にDOAの19.5%を含有する。
【0139】
優勢なクラスタのうちの1つの推定位置(10%を超えるDOAセグメント)が解剖学的構造に投影され得る場合、すなわち、推定位置84などの推定位置から解剖学的構造までの距離が、所与の値、例えば、6mm未満である場合(構成可能)、焦点源が特定される。図12に見られるように、矢印85の長さによって与えられる、k平均クラスタリング推定位置84から解剖学的位置90までの距離は、約3mmであり、6mmの上限よりも十分に短い。したがって、位置90は、開示された技術によって焦点源として確認された。
【0140】
焦点源はまた、焦点から6mmの半径内に位置する電極に、最早のS波パターンの少なくとも10の兆候(構成可能)が見出される場合に確認され得る。焦点検出ベースのDOAは、焦点興奮の領域内にカテーテルを配置することなく、解剖学的構造上の位置に現れ得ることに留意することが重要であるため、確認プロセスは任意である。
【0141】
本明細書に記述される例示的な実施形態は、主として心臓での用途に関するものであるが、本明細書に記載される方法及びシステムは例えば神経学などの他の用途で用いることもできる。開示される方法はまた、焦点興奮の時空間的「手掛かり」を伴う任意のデータセットに適用されてよく、またプロセッサは、例えば、EEG/MEGを使用するてんかん患者の焦点推定のために、この焦点興奮を発見する必要がある。
【0142】
したがって、上記に述べた例示的な実施形態は、例として引用したものであり、また本発明は、上記に具体的に示し説明したものに限定されないことが理解されよう。むしろ本発明の範囲は、上述の様々な特徴の組み合わせ及びその一部の組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者により想到されるであろう、また従来技術において開示されていないそれらの変形及び修正を含むものである。参照により本特許出願に援用される文献は、これらの援用文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾して定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部と見なすものとする。
【0143】
〔実施の態様〕
(1) 局所興奮時間の誤差推定のための方法であって、
心臓内の複数の電極を介して、捕捉内容の集合を受信することであって、各捕捉内容は、前記電極によって測定された電気生理学的(EP)信号のセットを含む、受信することと、
前記捕捉内容のうちの少なくともいくつかについて、EP信号の前記セットが発せられた前記電極に対するそれぞれの到着方向(DOA)及びそれぞれの距離を推定することと、
推定された前記DOA及び距離に基づいて、前記EP信号のうちの少なくとも1つのEP信号においてタイミング誤差を推定することと、
前記推定されたDOA及び距離に適合し、前記誤差を補正するように、前記EP信号のタイミングを調節することと、
調節された前記EP信号を含むEP信号の前記セットを使用して、前記心臓の少なくとも一部分のEPマップを生成することと、を含む、方法。
(2) 前記EPマップを生成することは、局所興奮時間(LAT)マップを生成することを含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記DOA及び距離を推定することは、費用関数を最小化する前記DOA及び前記距離を導出することを含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記EP信号の前記タイミングを調節することは、
前記EP信号における最初のアノテーションを選択することと、
前記推定されたDOA及び距離に基づいて、前記最初のアノテーションに対応する補正されたアノテーションを決定することと、
前記補正されたアノテーションが既定の条件を満たすことを確認すると、前記EP信号の前記タイミングを調節することと、を含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認することは、前記補正されたアノテーションが前記EP信号の隣接するピーク間のくぼみに入ることを確認することを含む、実施態様4に記載の方法。
【0144】
(6) 前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認することは、前記補正されたアノテーションと前記最初のアノテーションが前記EP信号の同じ単調減少区間にあることを確認することを含む、実施態様4に記載の方法。
(7) 前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認することは、前記補正されたアノテーションと前記最初のアノテーションが前記EP信号の同じ単調区間にあることと、前記区間の勾配が既定の閾値勾配よりも低いことと、を確認することを含む、実施態様4に記載の方法。
(8) 局所興奮時間の誤差推定のためのシステムであって、
心臓内の複数の電極によって捕捉された捕捉内容の集合を受信するように構成されたインターフェースであって、各捕捉内容は、電気生理学的(EP)信号のセットを含む、インターフェースと、
プロセッサであって、
前記捕捉内容のうちの少なくともいくつかについて、EP信号の前記セットが発せられた前記電極に対するそれぞれの到着方向(DOA)及びそれぞれの距離を推定し、
推定された前記DOA及び距離に基づいて、前記EP信号のうちの少なくとも1つのEP信号においてタイミング誤差を推定し、
前記推定されたDOA及び距離に適合し、前記誤差を補正するように、前記EP信号のタイミングを調節し、
調節された前記EP信号を含むEP信号の前記セットを使用して、前記心臓の少なくとも一部分のEPマップを生成するように構成されたプロセッサと、を含む、システム。
(9) 前記EPマップは局所興奮時間(LAT)マップを含む、実施態様8に記載のシステム。
(10) 前記プロセッサは、費用関数を最小化する前記DOA及び前記距離を導出することによって前記DOA及び前記距離を推定するように構成されている、実施態様8に記載のシステム。
【0145】
(11) 前記プロセッサは、
前記EP信号における最初のアノテーションを選択することと、
前記推定されたDOA及び距離に基づいて、前記最初のアノテーションに対応する補正されたアノテーションを決定することと、
前記補正されたアノテーションが既定の条件を満たすことを確認すると、前記EP信号の前記タイミングを調節することと、
によって前記EP信号の前記タイミングを調節するように構成されている、実施態様8に記載のシステム。
(12) 前記プロセッサは、前記補正されたアノテーションが前記EP信号の隣接するピーク間のくぼみに入ることを確認することによって、前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認するように構成されている、実施態様11に記載のシステム。
(13) 前記プロセッサは、前記補正されたアノテーションと前記最初のアノテーションが前記EP信号の同じ単調減少区間にあることを確認することによって、前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認するように構成されている、実施態様11に記載のシステム。
(14) 前記プロセッサは、前記補正されたアノテーションと前記最初のアノテーションが前記EP信号の同じ単調区間にあることと、前記区間の勾配が既定の閾値勾配よりも低いことと、を確認することによって、前記補正されたアノテーションが前記既定の条件を満たすことを確認するように構成されている、実施態様11に記載のシステム。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12