(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】触媒、触媒の製造方法、空気極、および空気電池
(51)【国際特許分類】
B01J 23/745 20060101AFI20241217BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20241217BHJP
B01J 35/53 20240101ALI20241217BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241217BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20241217BHJP
B01J 35/80 20240101ALN20241217BHJP
【FI】
B01J23/745 M
B01J37/06
B01J35/53
B01J37/08
H01M4/90 X
B01J35/80
(21)【出願番号】P 2020146028
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 忍
(72)【発明者】
【氏名】吉田 章人
(72)【発明者】
【氏名】水畑 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】丸山 純
(72)【発明者】
【氏名】丸山 翔平
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-183743(JP,A)
【文献】国際公開第2019/132281(WO,A1)
【文献】特開2014-028360(JP,A)
【文献】特表2016-527075(JP,A)
【文献】特開2007-026746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
H01M 4/86-4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料と、
前記炭素材料の表面に担持され、金属を含む微粒子と、
前記微粒子の表面を覆うシェル層と、を有し、
電池の空気極に用いて酸素還元触媒および/または酸素発生触媒として機能する触媒の製造方法であって、
前記炭素材料と第1の含窒素遷移金属錯体とを、第1の不活性ガス雰囲気中で加熱して前記微粒子を形成する第1熱処理工程と、
前記第1熱処理工程を経た前記炭素材料と、第2の含窒素遷移金属錯体とを、第2の不活性ガス雰囲気中で加熱して前記シェル層を形成する第2熱処理工程とを含み、
前記第1の含窒素遷移金属錯体および前記第2の含窒素遷移金属錯体は、中心金属がFeである鉄フタロシアニンであり、
前記第1熱処理工程における焼成温度は800~1200℃であり、前記第2熱処理工程における焼成温度は600~1200℃であり、
前記第2熱処理工程では、前記第1熱処理工程を経た前記炭素材料に対する前記第2の含窒素遷移金属錯体の重量が、前記第1熱処理工程での前記炭素材料に対する前記第1の含窒素遷移金属錯体の重量よりも大きいことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒の製造方法において、
前記第2熱処理工程の後に、酸洗浄工程をさらに含むことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の触媒の製造方法において、
前記第1熱処理工程における焼成温度が、前記第2熱処理工程における焼成温度よりも高いことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つの請求項に記載の触媒の製造方法において、
前記第1熱処理工程における焼成時間は40~80分間であり、前記第2熱処理工程における焼成時間は40~80分間であり、
前記第1熱処理工程における焼成時間が、前記第2熱処理工程における焼成時間よりも長いことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つの請求項に記載の触媒の製造方法において、
前記第1熱処理工程と前記第2熱処理工程との間に、温度を下げる工程をさらに含むことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つの請求項に記載の触媒の製造方法において、
前記第1熱処理工程での前記炭素材料に対する前記第1の含窒素遷移金属錯体の重量は、重量比で0.01~100であり、
前記第2熱処理工程における前記第1熱処理工程を経た前記炭素材料に対する前記第2の含窒素遷移金属錯体の重量は、重量比で0.1~100であることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つの請求項に記載の触媒の製造方法において、
前記第1熱処理工程で用いる前記炭素材料はカーボンペーパーであることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1つの請求項に記載の触媒の製造方法において、
前記第1熱処理工程で用いる前記炭素材料はカーボンブラックであることを特徴とする触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、触媒の製造方法、その触媒を含む空気極、およびその空気極を含む空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池に用いられる電極触媒には、従来、白金等の貴金属粒子や、カーボンブラック等の炭素材料単体上に白金等の貴金属微粒子を担持したものが用いられている。白金等の貴金属は、高い触媒活性と活性安定性とを示す。
【0003】
一方で、白金等の貴金属は、非常に高価であり、資源的にも限られている。近年では、貴金属使用量を低減した、もしくは貴金属を使用しない代替触媒が提案されており、安価な材料系で構成される電極触媒も各種提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1および2では、貴金属元素を含有しないフタロシアニンやポリフィン等の大環状化合物から選ばれる有機色素の1種以上を熱処理して得られる炭素触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-158674号公報
【文献】特開2012-110811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に開示された炭素触媒は、これを金属空気二次電池の空気極に用いた場合、酸素発生触媒としての触媒活性が十分に得られず、空気極を充電用の正極に用いることができなかった。
【0007】
本発明は、前記課題にかんがみてなされたものであり、白金等の貴金属を使用しない触媒において、優れた酸素還元と酸素発生との両方の触媒能が付与される触媒とその触媒の製造方法を提供するとともに、その触媒を含む空気極および空気電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本開示における触媒の製造方法では、炭素材料と第1の含窒素遷移金属錯体とを、第1の不活性ガス雰囲気中で加熱する第1熱処理工程と、前記第1熱処理工程を経た前記炭素材料と、第2の含窒素遷移金属錯体とを、第2の不活性ガス雰囲気中で加熱する第2熱処理工程とを含むことを特徴としている。
【0009】
前記構成の触媒の製造方法において、第2熱処理工程の後には、酸洗浄工程をさらに含むことが好ましい。また、前記第1熱処理工程と前記第2熱処理工程との間には、さらに、温度を下げる工程を含むことが好ましい。
【0010】
前記触媒の製造方法において、より具体的には、前記第1熱処理工程における焼成温度を800~1200℃とし、前記第2熱処理工程における焼成温度を600~1200℃とすることが好ましい。
【0011】
また、前記第1熱処理工程における焼成温度は、前記第2熱処理工程における焼成温度よりも高いことが好ましい。
【0012】
前記の特定事項を具備する構成により、優れた酸素還元と酸素発生との両方の触媒能が付与される触媒を製造できる。製造された触媒は、金属空気二次電池の正極(空気極)に好適に使用することができる。
【0013】
前記構成の製造方法により製造される触媒も本発明の技術的思想の範疇である。すなわち、本開示における触媒は、炭素材料と、前記炭素材料の表面に担持され、金属または金属炭化物を含む微粒子と、前記微粒子の表面を覆うシェル層とを有することを特徴としている。また、前記触媒を含む空気極、およびその空気極を備える空気電池も本発明の技術的思想の範疇である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、優れた酸素還元と酸素発生との両方の触媒能が付与される触媒を製造することが可能となり、その触媒を用いて電池性能を向上させた空気極および空気電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の一実施形態を示すものであり、触媒の製造方法の大略的な工程を示すフローチャートである。
【
図2】本開示の実施の形態1に係る触媒の製造方法において、第1熱処理工程前の状態を示す説明図である。
【
図3】前記触媒の製造方法における第1熱処理工程後を示す説明図である。
【
図4】前記触媒の製造方法における第1熱処理工程後であって第2熱処理工程前の状態を示す説明図である。
【
図5】前記触媒の製造方法における第2熱処理工程後であって、得られた触媒の一例を示す説明図である。
【
図6】前記触媒の製造方法における第2熱処理工程後であって、得られた触媒の他の例を示す説明図である。
【
図7】本開示の実施の形態2に係る触媒の製造方法における第2熱処理工程後であって、得られた触媒の一例を示す説明図である。
【
図8】前記触媒の製造方法における第2熱処理工程後であって、得られた触媒の他の例を示す説明図である。
【
図9】本開示の実施の形態における実施例と比較例とにおいて、酸素還元電流と電極電位との関係を示すグラフである。
【
図10】本開示の実施の形態における実施例と比較例とにおいて、酸素発生電流と電極電位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
金属空気電池は、空気極、燃料極、および電解液等から構成され、燃料として使用される金属(以下、燃料金属と称する)が電気化学的な反応によって金属酸化物に変化する過程で得られる電気エネルギーを取り出す電池である。例えば、燃料金属が亜鉛である場合、放電時の燃料極では、亜鉛と水酸化物イオンが反応し、水酸化亜鉛が生成されるとともに、電子が放出される。放出された電子は空気極へ流れるが、これによって生じる電流が電池の出力となる。水酸化亜鉛は、さらに酸化亜鉛と水に分解され、水は電解液内にもどる。
【0017】
また、放電時の空気極では、空気中に含まれる酸素と燃料極より受け取った電子とが、空気極の触媒により水と反応(酸素還元反応)し、水酸化物イオンに変化する。この水酸化物イオンは、電解液中をイオン伝導し、燃料極へ到達する。前記サイクルにより、空気極から取り込んだ酸素を利用し、亜鉛を燃料とすることで、酸化亜鉛を形成する中で連続的な電力取り出しを実現している。
【0018】
このような金属空気電池において、空気極には酸素還元反応をより活性化させるための触媒(酸素還元触媒)が用いられている。
【0019】
また、金属空気二次電池において、空気極を充電時の正極として用いようとすれば、充電時の空気極では、放電時と逆の反応(水酸化物イオンから酸素と水と電子とを生成する反応:酸素発生反応)が生じる。この場合、空気極に用いられる触媒には、放電時に必要な酸素還元触媒としての機能だけでなく、充電時に必要な酸素発生触媒としての機能も要求される。
【0020】
(触媒の製造方法)
本開示における触媒(炭素触媒)の製造方法は、金属空気二次電池の正極(空気極)に使用される触媒の製造に適用されるものであり、製造される触媒に酸素発生触媒としての機能を付与できるものである。また、本開示における触媒の製造方法は、
図1に示すように、大略的には以下の工程を含んでいる。
【0021】
第1熱処理工程(S1):第1の含窒素遷移金属錯体と、炭素材料とを、第1の不活性ガス雰囲気中で加熱する。この工程での好適な焼成温度(加熱温度)は、800~1200℃である。
【0022】
第2熱処理工程(S2):第1熱処理工程で得られた炭素材料と、第2の含窒素遷移金属錯体とを、第2の不活性ガス雰囲気中で加熱する。この工程での好適な焼成温度(加熱温度)は、600~1200℃である。
【0023】
酸洗浄工程(S3):第2熱処理工程で得られた炭素材料を酸洗浄する。
【0024】
本製造方法では、第1熱処理工程と第2熱処理工程との2段階の熱処理工程を含む。これらの第1および第2熱処理工程は、コアシェル構造を有する触媒を形成する工程であり、より具体的には第1熱処理工程でコアを形成し、第2熱処理工程でシェル層を形成する工程である。また、酸洗浄工程は、第2熱処理工程を経た炭素材料に対して、シェル層に被覆されていない金属分を除去する工程である。
【0025】
第1熱処理工程から酸洗浄工程までの各工程は順序を入れ替えることはできない。ただし、本開示に係る触媒の製造方法は、第1熱処理工程、第2熱処理工程、および酸洗浄工程だけを実施する方法に限定されるものではない。例えば、第1熱処理工程と第2熱処理工程との間には、温度を下げる工程等の他の工程が含まれていてもよい。
【0026】
第1の含窒素遷移金属錯体および第2の含窒素遷移金属錯体の少なくとも一方は、大環状化合物(環を構成する原子数が概ね10以上である環状分子構造を有する有機化合物の総称)であることが好ましい。第1の含窒素遷移金属錯体および第2の含窒素遷移金属錯体の両方が大環状化合物であってもよい。
【0027】
第1の含窒素遷移金属錯体としては、中心金属種と錯体種との組み合わせによる種々のバリエーションが考えられる。第1の含窒素遷移金属錯体は、以下の一般式(I)で表される。
【0028】
M1・L1 …(I)
一般式(I)において、M1は第1の含有窒素遷移金属錯体の第1の中心金属を示し、L1は第1の中心金属M1に配位し、第1の含有遷移金属錯体の含有窒素環状配位子構造を有する第1の環状配位子を示す。なお、第1の環状配位子L1が第1の中心金属M1に配位しているとは、第1の環状配位子L1の環を構成する一部の原子が第1の中心金属M1に対して電子対を供与し、第1の環状配位子L1の環を構成する一部の原子と第1の中心金属M1との間に配位結合が形成されている状態を指す。
【0029】
第1の中心金属M1は、周期律表の第3~11族に属する元素を示し、例えば、Sc、Y、La、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pd、Cu、AgおよびAuからなる群から選択される少なくとも1つの元素が好適なものとして挙げられる。中でも、Nb、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、PdおよびCuからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがさらに好ましく、FeおよびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。第1の中心金属M1がFeである場合に、本開示の触媒の製造方法で製造された触媒の酸素還元反応、および酸素発生反応に対して最も活性が高い結果を得た。
【0030】
第1の環状配位子L1は、第1の環状配位子L1の環を構成する1つの原子が第1の中心金属M1に配位する単座配位子であってもよく、第1の環状配位子L1の環を構成する2以上の原子が第1の中心金属M1に配位する多座配位子であってもよい。第1の環状配位子L1の配位座の数は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、4以上であることがさらに好ましい。
【0031】
第1の環状配位子L1は、具体的には、以下の一般式(II)~(IX)で表される骨格から選択される少なくとも1種を含む化学構造を有することが好ましい。
【0032】
【0033】
上記一般式(II)は、ポルフィリン骨格を示す。上記一般式(II)中、A1~A4は、同一または異なって、窒素原子または炭素原子を表し、該炭素原子は1価の置換基と結合していてもよい。中でもA1~A4の少なくとも1つが窒素原子であることが好ましく、A1~A4のそれぞれが窒素原子を表すことがより好ましい。
【0034】
【0035】
上記一般式(III)は、フタロシアニン骨格を示す。上記一般式(IV)は、ポルフィセン骨格を示す。上記一般式(V)は、コルフィセン骨格を示す。上記一般式(VI)は、ヘミポルフィセン骨格を示す。上記一般式(VII)は、コロール骨格を示す。上記一般式(VIII)は、アザコロール骨格を示す。上記一般式(IX)は、サイクラム骨格を示す。
【0036】
さらに具体的には、第1の含有窒素遷移金属錯体が上記一般式(III)に示されたフタロシアニン骨格を有する場合、下記の一般式(X)で表されることがさらに好ましい。
【0037】
【0038】
上記一般式(X)中、X1~X8は、同一または異なって、水素原子または1価の置換基を表す。D1~D8は、同一または異なって、窒素原子または炭素原子を表し、該炭素原子には、水素原子または1価の置換基が結合している。窒素原子と鉄原子との間の実線は、窒素原子と鉄原子とが共有結合していることを表す。窒素原子と鉄原子との間の破線は、窒素原子が鉄原子へ配位していることを表す。上記D1~D8は、それぞれ、炭素原子を表すことがさらに好ましい。また、上記X1~X8が、それぞれ水素原子である場合に、本開示における触媒(炭素触媒)の製造方法により製造された触媒は、酸素還元と酸素発生との両方の触媒能をより顕著に発揮することができる。
【0039】
第2の含窒素遷移金属錯体としては、中心金属種と錯体種との組み合わせによる種々のバリエーションが考えられる。第2の含有窒素遷移金属錯体は、以下の一般式(XI)で表される。
【0040】
M2・L2 …(XI)
一般式(XI)において、M2は第2の含有窒素遷移金属錯体の第2の中心金属を示し、L2は第2の中心金属M2に配位し、第2の含有遷移金属錯体の含有窒素環状配位子構造を有する第2の環状配位子を示す。なお、第2の環状配位子L2が第2の中心金属M2に配位しているとは、第2の環状配位子L2の環を構成する一部の原子が第2の中心金属M2に対して電子対を供与し、第2の環状配位子L2の環を構成する一部の原子と第2の中心金属M2との間に配位結合が形成されている状態を指す。
【0041】
第2の中心金属M2は、第1の中心金属M1と同様に、周期律表の第3~11族に属する元素を示し、例えば、Sc、Y、La、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pd、Cu、AgおよびAuからなる群から選択される少なくとも1つの元素が好適なものとして挙げられる。第2の中心金属M2は、さらに第1の中心金属M1と同種の元素であることがより好ましい。
【0042】
第2の環状配位子L2は、第1の環状配位子L1と同様の環状配位子から選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。第2の環状配位子L2は、第1の環状配位子L1と同様に、上記の一般式(II)~(IX)で表される骨格から選択される少なくとも1種を含む化学構造を有することが好ましい。
【0043】
酸洗浄工程では、第2熱処理工程で得られた炭素材料を酸洗浄する。触媒を電極化して空気電池を構成した際に、シェル層に被覆されていない金属分が空気電池内に溶けて、負極で水素発生源となって電極反応を阻害するおそれがある。本製造方法では、第2熱処理工程の後に酸洗浄工程をさらに含むことで、そのような問題の発生を防ぐことが可能となる。
〔実施の形態1〕
実施の形態1では、本開示の触媒の製造方法において、第1の含窒素遷移金属錯体および第2の含窒素遷移金属錯体がともに鉄フタロシアニンである場合を例に挙げて、各工程について詳細に説明する。
【0044】
図2~
図5は、実施の形態1に係る触媒の製造方法を示し、
図2は第1熱処理工程前の状態を示す説明図、
図3は第1熱処理工程後を示す説明図、
図4は第1熱処理工程後で第2熱処理工程前の状態を示す説明図、
図5は第2熱処理工程後を示す説明図である。
【0045】
図2に示すように、本製造方法における第1熱処理工程では、第1の含窒素遷移金属錯体11と、炭素材料12とを、第1の不活性ガス雰囲気中で加熱する。第1の含窒素遷移金属錯体11は、中心金属がFeの鉄フタロシアニンとされている。第1の不活性ガスは、例えばAr(アルゴン)やXe(キセノン)が好ましい。第1熱処理工程における焼成温度は800~1200℃であることが好ましい。
【0046】
第1熱処理工程では第1の含窒素遷移金属錯体11を昇華させる。そして、
図3に示すように、第1の含窒素遷移金属錯体11の中心金属の主にFeを含んだ粒子(鉄含有粒子)のコア13を形成する(凝集Fe、コア形成)。炭素材料12の表面にはコア(凝集したFe)13が添着される。
【0047】
この第1熱処理工程での焼成温度は、低すぎるとFeの凝集が進まず、第2熱処理工程でシェル形成する足場を形成することができない。また、第1熱処理工程の焼成温度は高すぎるとFeの凝集が進みすぎ、後述するコア13上に形成されるシェル層15の表面積が低下して、反応活性点が減少する。そのため、第1熱処理工程での焼成温度としては、800~1200℃とされることが好ましい。
【0048】
図4に示すように、本製造方法における第2熱処理工程では、第2の含窒素遷移金属錯体14と、第1熱処理工程で得られたコア13を備える炭素材料12とを、第2の不活性ガス雰囲気中で加熱する。第2の含窒素遷移金属錯体14は、中心金属がFeの鉄フタロシアニンとされている。第2の不活性ガスは、例えばAr(アルゴン)が好ましい。
【0049】
これにより、
図5に示すように、コア13の表面にシェル層15を形成(シェル形成)することができる。第2の含窒素遷移金属錯体14は、第1の含窒素遷移金属錯体11と共通するものであっても異なるものであってもよい。
【0050】
本製造方法における第2熱処理工程での焼成温度は、第2の含窒素遷移金属錯体14のフタロシアニンが昇華しさえすればよく、比較的低めの温度の600~1200℃の焼成温度とすることができる。第1熱処理工程は、例えば鉄フタロシアニンを昇華させて鉄含有粒子であるコア13を形成する工程であり、第2熱処理工程に比べ高温の焼成温度が必要となる。一方、第2熱処理工程は、コア(凝集したFe)13に鉄含有炭素薄膜であるシェル層15を形成(シェル形成)する工程である。そのため、第2熱処理工程ではフタロシアニンが昇華しさえすればよく、第2熱処理工程における焼成温度は、第1熱処理工程における焼成温度よりも低くすることができる。すなわち、第1熱処理工程における焼成温度が、第2熱処理工程における焼成温度よりも高いことが好ましい。
【0051】
また、第1熱処理工程における焼成時間は40~80分間であることが好ましい。第1の含窒素遷移金属錯体11が鉄フタロシアニンである場合には、第1熱処理工程は、鉄フタロシアニンを昇華させてFeを凝集させる工程となる。この第1熱処理工程における焼成時間が短いと、原料である鉄フタロシアニンが原料のまま残り不安定性が増すおそれがある。また、焼成時間が長いとFeの凝集が進みすぎて、コア上に形成されるシェル層の表面積が低下して、反応活性点が減少する問題がある。
【0052】
一方、第2熱処理工程は、凝集したFeに炭素薄膜を形成させる工程であって、焼成時間は40~80分間とすることが好ましく、より好ましくは40~60分間とすることである。第2熱処理工程の焼成時間は、第1熱処理工程の焼成時間より短くすることができる。すなわち、第1熱処理工程における焼成時間は、第2熱処理工程における焼成時間よりも長いことが好ましい。第2熱処理工程での焼成時間が短すぎると、原料である鉄フタロシアニンが原料のまま残り不安定性が増す問題がある。また、焼成時間が長いと凝集が進みすぎて、反応活性点が減少する問題がある。
【0053】
第1熱処理工程と前記第2熱処理工程との間には、温度を下げる工程をさらに含む構成であってもよい。第1熱処理工程と、第2熱処理工程とは、連続して行われないことが好ましい。第1熱処理工程と第2熱処理工程との間に、温度を下げる工程を含むことで、第2熱処理工程で投入される鉄フタロシアニンが高温で分解してしまうことを抑制できる。
【0054】
そこで、本開示の触媒の製造方法では、第1熱処理工程と第2熱処理工程との間に、温度を下げる工程を設けている。温度を下げる本工程での温度範囲は、好ましくは第2の含窒素遷移金属錯体が分解しない温度未満とすることである。
【0055】
第2の含窒素遷移金属錯体が分解する温度より高い温度で第2熱処理工程を行うと、第2の含窒素遷移金属錯体が分解してしまい、シェル形成されないこととなる。また、分解しない温度であっても、例えば30℃未満まで温度を下げる工程としてしまうと、触媒製造コストが高くなるため好ましくない。
【0056】
(炭素材料)
第2熱処理工程における第1熱処理工程で得られた炭素材料に対する第2の含窒素遷移金属錯体の重量は、第1熱処理工程における炭素材料に対する第1の含窒素遷移金属錯体の重量よりも大きいことが好ましい。したがって、第2熱処理工程での鉄フタロシアニンの投入量は、第1熱処理工程での鉄フタロシアニン投入量よりも多いことが好ましい。第2熱処理工程での鉄フタロシアニンの投入量が多いのは、第1熱処理工程で凝集したFeに、第2熱処理工程で炭素薄膜を十分に被覆させるためである。
【0057】
さらに、第1熱処理工程における炭素材料に対する第1の含窒素遷移金属錯体の重量は、重量比で0.01~100であることが好ましい。また、第2熱処理工程における第1熱処理工程で得られた炭素材料に対する第2の含窒素遷移金属錯体の重量は、重量比で0.1~100であることが好ましい。
【0058】
第1熱処理工程の炭素材料に対する第1の含窒素遷移金属錯体の重量が重量比で0.01未満であると、コア(凝集したFe)の形成される量が少なくなる。また、当該重量比が100より大きいと、Feの凝集が進みすぎて、Fe上に形成されるシェル層の表面積が低下し、反応活性点が減少する。
【0059】
第2熱処理工程における第1熱処理工程で得られた炭素材料に対する第2の含窒素遷移金属錯体の重量は、重量比で0.1未満であると、シェル層(炭素薄膜)がコア上に十分形成されないおそれがある。また、当該重量比が100より大きいと、凝集が進みすぎて、反応活性点が減少する。
【0060】
例えば、このような炭素材料の例として、カーボンペーパー等の炭素繊維を含むシート状体(または板状体)と、カーボンブラック等の炭素粉末とが挙げられる。炭素材料としてカーボンペーパーを用いる場合の一例としては、後述するTGPを例示できる(実施例1参照)。この場合に、第1熱処理工程における炭素材料に対する第1の含窒素遷移金属錯体の重量は、重量比で0.1であり、第2熱処理工程における第1熱処理工程で得られた炭素材料に対する第2の含窒素遷移金属錯体の重量は、重量比で40であり、前記重量比の範囲内にある。
【0061】
炭素材料がカーボンペーパーである場合の利点は、得られた試料を加工することなくそのまま電極化できる点にある。また、炭素材料がカーボンペーパーであれば積層することも容易であり、必要な出力に対応して得られた試料を積層して調整することもできる。
【0062】
炭素材料としてカーボンブラック等の炭素粉末を用いる場合には、カーボンペーパー等の炭素繊維のシート状体における比表面積が0.1~10m2/gであるのに比べて、炭素粉末の比表面積は100~1000m2/gと高い。このため、第1の含窒素遷移金属錯体および第2の含窒素遷移金属錯体の重量は、炭素粉末を用いる場合に、カーボンペーパー等の炭素繊維のシート状体を用いる場合よりも、10倍~100倍多くなる。
【0063】
炭素材料がカーボンブラックである場合の利点は、カーボンペーパーに比べて圧倒的に比表面積が高いために、本触媒をたくさん担持できる点にある。その結果、電極化した際に、炭素材料がカーボンペーパーである場合に比べて、電極単位面積(または体積)あたりの触媒量が圧倒的に多くなり、電池性能を向上させることができる。
【0064】
また、炭素材料がカーボンブラック等の炭素粉末である場合、バインダー(代表的にはPTFE)と混合し、塗布またはロール圧延で電極化(空気極化)することができる。
【0065】
炭素材料がカーボンペーパー等の炭素繊維の場合、第1熱処理工程では重量比で0.01~1.0の範囲であり、第2熱処理工程では重量比で0.1~50.0の範囲である。また、カーボンブラック等の炭素粉末の場合には、第1熱処理工程の重量比で0.1~100の範囲であり、第2熱処理工程の重量比で1~100の範囲に該当する。
【0066】
(触媒)
実施の形態1に係る製造方法によって、
図5に示すように、炭素材料12と、炭素材料12の表面に担持されて金属を含むコア(微粒子)13と、コア13の表面を覆うシェル層15とを有する触媒1が得られる。
図6に示すように、触媒1は、その変形例として、シェル層15がコア13の表面と炭素材料12の表面の両方を被覆した構成であってもよい。
【0067】
触媒1において、コア13は金属を含む微粒子である。コア13に含まれる金属には、少なくとも第1遷移金属が含まれる。第1遷移金属としては、Fe(鉄)、またはCo(コバルト)などが挙げられる。シェル層15は、第2金属、C(炭素)、N(窒素)を含むことが好ましい。シェル層15の表面は、Fe、N、およびCからなることが好ましい。
【0068】
より好ましくは、前記第1遷移金属は、FeまたはCoから選択される少なくとも1種の金属であり、中でもFeが特に好ましい。コア13は、さらに炭素を含むことが好ましく、より好ましくはFe3Cを含むことである。これにより、熱力学的に安定な構造が得られる。また、シェル層15は、FeまたはCoから選択される、少なくとも1種の第2遷移金属を含むことが好ましい。さらに、シェル層15はアモルファス層であることが好ましい。コア13に含まれるFe3Cを特定する方法は、例えば、第1熱処理後工程で得られたコア13を含む炭素材料に対して、EXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)スペクトルを測定し、Fe3Cに由来するピークの有無を確認する方法がある。また、シェル層15がアモルファス層であることを特定する方法は、例えば、第2熱処理工程で得られた表面にシェル層15を含む炭素材料に対して、ラマンスペクトルを測定し、アモルファス炭素に由来するピークの有無を確認する方法がある。
【0069】
(空気極)
得られた触媒1は空気電池の空気極に用いることができる。すなわち、空気極は、触媒1と、少なくとも導電性材料とを含有して電極化される。触媒1を構成する炭素材料12がカーボンペーパー等のシート状体の炭素繊維である場合には、触媒1を1枚または複数枚重ねて、電極化(空気極化)することができる。また、炭素材料がカーボンブラック等の炭素粉末である場合には、触媒1とバインダー(代表的にはPTFE)とを混合して、塗布またはロール圧延により電極化(空気極化)することができる。
〔実施の形態2〕
前記触媒の製造方法において、炭素材料には、炭素繊維を含むカーボンペーパー等のシート状体または板状体を用いる例と、カーボンブラック等の炭素粉末を用いる例とを示した。本開示の触媒の製造方法において用いる炭素材料は、必ずしもシート状体または板状体であるに限られず、例えば粒子状であってもよい。
【0070】
図7は、実施の形態2に係る触媒の製造方法により製造した触媒10を示す説明図であり、
図8は、その変形例をそれぞれ示す説明図である。実施の形態2に係る製造方法では、炭素材料16を実施の形態1のものとは異なる構成とした他は、各工程での処理は共通とされている。
【0071】
第1熱処理工程(S1)で、第1の含窒素遷移金属錯体とともに加熱する炭素材料16は、
図7に示すように粒子状とされている。第1熱処理工程では、粒子状の炭素材料16の表面に、第1の含窒素遷移金属の中心金属の主にFeを含んだ粒子(鉄含有粒子)のコア13を形成(凝集Fe、コア形成)する。次いで、温度を下げる工程を経て、第2熱処理工程(S2)で、コア13を備える炭素材料16と、第2の含窒素遷移金属錯体とを、第2の不活性ガス雰囲気中で加熱する。これにより、コア13の表面にシェル層17を形成し、酸洗浄工程(S3)を経て触媒10を得る。
【0072】
図7に示すように、実施の形態2に係る触媒10は、粒子状の炭素材料16の表面に、シェル層17を備えるコア13が添着されている。粒子状の炭素材料16は、その粒径が、コア13の粒径よりも大きく、またシェル層17を含むコア13の全体径よりも大きいものとされている。
【0073】
また、
図8に示すように、第2熱処理工程(S2)で、シェル層17はコア13の表面と炭素材料16の表面との両方を覆うように形成してもよい。このように、実施の形態2に係る触媒10は、変形例として、シェル層17がコア13の表面と炭素材料16の表面の両方を被覆して形成されてもよい。
【0074】
得られた触媒10は、空気電池の空気極に用いることができる。例えば、触媒10と、結着剤と、導電助剤とを混合したペーストを作成し、集電極に塗布することで空気極を形成することができる。
【0075】
〔実施例1〕
本開示における触媒の製造方法およびその製造方法で製造された触媒(炭素触媒)の実施例1について、検証実験結果とともに説明する。
【0076】
(材料)
第1の熱処理工程に供される炭素材料として、黒鉛質カーボンペーパー(TGP-H-090(以下、TGPという)、東レ製)を用いた。第1の含窒素遷移金属錯体および第2の含窒素遷移金属錯体としては、鉄フタロシアニン(FePc、東京化成製)を用いた。
【0077】
(処理A:遷移金属含有粒子形成工程(第1熱処理工程))
第1熱処理工程として、10mgの鉄フタロシアニンと1cm2のTGP8枚(1cm2=12.5mg/1枚)とを、15cm3のるつぼに入れて蓋をした上で、Ar雰囲気中で5℃/minで昇温後、焼成温度1000℃で1時間熱処理した。第1熱処理工程では、鉄フタロシアニンの昇華、TGP内の炭素繊維上への析出、熱分解によりFe含有粒子が作製され、TGP内の炭素繊維表面上にFeが均一に分散される。得られた試料をTGP-10CFePc1000Bとする。
【0078】
(処理B:遷移金属含有炭素薄膜形成工程)
(第2熱処理工程)
第2熱処理工程として、1000mgの鉄フタロシアニンと処理Aで得られた試料(TGP-10CFePc1000B)2枚とを、15cm3のるつぼに入れて蓋をした上で、Ar雰囲気中で1℃/minで昇温後、焼成温度1000℃で1時間熱処理した。第2熱処理工程では、鉄フタロシアニンの昇華、析出、熱分解によりFe含有炭素薄膜を作製した。
【0079】
(酸洗浄工程)
第2熱処理工程後の炭素材料を6M HClで洗浄(酸洗浄)し、シェル層に覆われていないFe種を除去した。その後、真空乾燥した。
【0080】
第2熱処理工程および酸洗浄工程の一連の遷移金属含有炭素薄膜形成処理を処理Bとし、得られた試料をTGP-10CFePc1000-1000CFePc1000とする。
【0081】
(比較例1)
後述する検証実験での比較のため、比較例1として、炭素材料であるTGPに対し、処理Bを行わずに処理Aと酸洗浄を行った試料も作製した。この試料をTGP-10CFePc1000とする。
【0082】
(検証実験結果)
本実施の形態1で作製した試料に対する検証実験として、酸素発生反応時および酸素還元反応時の電流を測定した。以下の検証実験では、試料TGP-10CFePc1000を比較例1、試料TGP-10CFePc1000-1000CFePc1000を実施例1とする。
【0083】
表1は、実施例1および比較例1における試料と、処理A、処理Bの実施の有無をそれぞれ示している。また、本実施の形態1では、参考例1としてPt板を、参考例2としてIr線を、それぞれ触媒とした場合についても実験を行った。
【0084】
【0085】
実施例1および比較例1では、得られたカーボンペーパー試料にNi線を結んでリードをとり作用極とした。参考例1であるPt板については、フッ素樹脂粘着テープ(ニトフロン、日東電工製)を用いてマスキングして直径6mmの電極とし、作用極とした。参考例2であるIr線については、フッ素樹脂粘着テープ(ニトフロン、日東電工製)を用いてマスキングして直径0.5mm、長さ1cmの電極とし、作用極とした。対極にPt線、参照極にHg/HgO電極を用いて、テフロン(登録商標)製容器に1M KOH水溶液を入れ、3電極式セルとし、電気化学測定装置(ALS、660B)を用いて電気化学測定を行った。
【0086】
電解液のKOH水溶液は、超純水製造装置(Barnstead、D7403)から得られた超純水を用いてKOH(Alfa Aesar(登録商標)、99.99%)から調整した。電解液温度は25℃とした。
【0087】
前処理としてAr雰囲気中において-0.9V~0.3Vの範囲を50mV/sで10サイクル電位走査を行い、その後、-0.9Vから0.3Vまで10mV/sで電位走査を行い、酸素還元反応のバックグラウンド電流を測定した。酸素還元電流および酸素発生電流の測定は、O2雰囲気中で行った。酸素還元電流は、-0.9Vから0.3Vまで、また、酸素発生電流は、0.3Vから0.8Vまで10mV/sで電位走査を行いながら測定した。
【0088】
図9に酸素還元電流と電極電位との関係を示す。酸素還元電流はO
2雰囲気での測定電流からバックグラウンド電流を差引したものを示しており、還元電流の符号をマイナスとしている。TGPに鉄含有粒子形成(処理A)および鉄含有炭素薄膜形成(処理B)の両方を施した実施例1と、TGPに鉄含有粒子形成(処理A)を施した比較例1を比較すると、150mVもの過電圧の低減が見られ、ピーク電流も大きく向上している確認された。すなわち、実施例1において、酸素還元活性の大幅な促進が達成された。
【0089】
なお、実施例1と参考例1(Pt板)と比較すると、実施例1の方がピーク電流値は低いものの、-0.4mA/cm2までは過電圧が低いことから、実施例1の触媒は、低電流密度での運転にはPt板触媒よりも優れている可能性があると言える。
【0090】
図10に酸素発生電流と電極電位との関係を示す。この実験結果において、比較例1と参考例2を比較すると、酸素発生電流の増加が確認された。処理Aを施しただけで、Ir線触媒よりも優れた性能を示した。さらに、TGPに鉄含有粒子形成(処理A)および鉄含有炭素薄膜形成(処理B)の両方を施した実施例1と、TGPに鉄含有粒子形成(処理A)を施した比較例1とを比較すると、200mVもの過電圧の低減が見られ、高電位での電流も向上していることが確認された。すなわち、実施例1において、酸素発生活性の大幅な促進が達成された。
【0091】
〔実施例2〕
本開示における触媒の製造方法およびその製造方法で製造された触媒(炭素触媒)の実施例2について、検証実験結果とともに説明する。
【0092】
(材料)
第1の熱処理工程に供される炭素材料として、黒鉛質カーボンペーパー(TGP-H-090(TGP)、東レ製)を用いた。第1の含窒素遷移金属錯体および第2の含窒素遷移金属錯体としては、鉄フタロシアニン(FePc、東京化成製)を用いた。これらの材料は実施例1と共通とした。
【0093】
(処理C:遷移金属含有粒子形成工程(第1熱処理工程))
処理Cとしての第1熱処理工程は、実施例1の処理Aの第1熱処理工程と共通とした。すなわち、10mgの鉄フタロシアニンと1cm2のTGP8枚(1cm2=12.5mg/1枚)とを、15cm3のるつぼに入れて蓋をした上で、Ar雰囲気中で5℃/minで昇温後、焼成温度1000℃で1時間熱処理した。第1熱処理工程では、鉄フタロシアニンの昇華、TGP内の炭素繊維上への析出、熱分解によりFe含有粒子が作製され、TGP内の炭素繊維表面上にFeが均一に分散される。得られた試料をTGP-10CFePc1000Bとする。
【0094】
(処理D:遷移金属含有炭素薄膜形成工程)
(第2熱処理工程)
処理Dでは、第2熱処理工程に用いる鉄フタロシアニンの量において、実施例1の処理Bとは異なる構成とした。すなわち、第2熱処理工程として、100mgの鉄フタロシアニンと処理Cで得られた試料(TGP-10CFePc1000B)1枚とを、15cm3のるつぼに入れて蓋をした上で、Ar雰囲気中で1℃/minで昇温後、1000℃で1時間熱処理した。第2熱処理工程では、鉄フタロシアニンを昇華させ、析出、および熱分解によりFe含有炭素薄膜を作製した。
【0095】
(酸洗浄工程)
第2熱処理工程後の炭素材料を6M HClで洗浄(酸洗浄)し、シェル層に覆われていないFe種を除去した。その後、真空乾燥した。
【0096】
第2熱処理工程および酸洗浄工程の一連のこの一連の遷移金属含有炭素薄膜形成処理を処理Dとし、得られた試料をTGP-10CFePc1000-100CFePc1000とする。
【0097】
(比較例2)
後述する検証実験での比較のため、比較例2として、炭素材料であるTGPに対し、処理Cで用いる鉄フタロシアニンを100mgとし、処理Dで用いる鉄フタロシアニンを100mgとした試料も作製した。この試料をTGP-100CFePc1000-100CFePc1000とする。
【0098】
(検証実験結果)
実施例2で作製した試料に対する検証実験として、酸素発生反応時および酸素還元反応時の電流を測定した。以下の検証実験では、試料TGP-100CFePc1000-100CFePc1000を比較例2、試料TGP-10CFePc1000-100CFePc1000を実施例2とする。
【0099】
表2は、比較例2および実施例2における試料と、処理C、処理Dの実施の有無をそれぞれ示している。また、本実施の形態2では、参考例1としてPt板を、参考例2としてIr線を触媒とした場合についても実験を行った。
【0100】
【0101】
実施例2および比較例2では、得られたカーボンペーパー試料にNi線を結んでリードをとり作用極とした。参考例1であるPt板については、フッ素樹脂粘着テープ(ニトフロン:日東電工製)を用いてマスキングして直径6mmの電極とし、作用極とした。参考例2であるIr線については、フッ素樹脂粘着テープ(ニトフロン:日東電工製)を用いてマスキングして直径0.5mm、長さ1cmの電極とし、作用極とした。対極にPt線、参照極にHg/HgO電極を用いて、テフロン(登録商標)製容器に1M KOH水溶液を入れ、3電極式セルとし、電気化学測定装置(ALS、660B)を用いて電気化学測定を行った。
【0102】
電解液のKOH水溶液は、超純水製造装置(Barnstead、D7403)から得られた超純水を用いてKOH(Alfa Aesar(登録商標)、99.99%)から調整した。電解液温度は25℃とした。
【0103】
前処理としてAr雰囲気中において-0.9V~0.3Vの範囲を50mV/sで10サイクル電位走査を行い、その後、-0.9Vから0.3Vまで10mV/sで電位走査を行い酸素還元反応のバックグラウンド電流を測定した。酸素還元電流および酸素発生電流の測定は、O2雰囲気中で行った。酸素還元電流は、-0.9Vから0.3Vまで、また、酸素発生電流は、0.3Vから0.8Vまで10mV/sで電位走査を行いながら測定した。
【0104】
図9に酸素還元電流と電極電位との関係を示すように、処理Cおよび処理Dの両方を施し、かつ処理Cよりも処理Dの鉄フタロシアニン重量が多い実施例2では、比較例2と比較すると、50mVもの過電圧の低減が確認された。すなわち、処理Cよりも処理Dの鉄フタロシアニン重量が多い実施例2において、酸素還元活性の促進が達成された。なお、実施例2と参考例1(Pt板)とを比較すると、実施例2の方がピーク電流値は低いものの、-0.3mA/cm
2までは、ほぼ同じ過電圧であることから、実施例2の触媒は、低電流密度での運転にはPt板触媒に匹敵する可能性があると言える。
【0105】
また、
図10に酸素発生電流と電極電位との関係を示すように、処理Cおよび処理Dの両方を施し、かつ処理Cよりも処理Dの鉄フタロシアニン重量が多い実施例2では、比較例2と比較すると、酸素発生電流の増加が確認された。また、実施例2と参考例2を比較すると、200mVもの過電圧の低減が見られ、ピーク電流も向上している確認された。すなわち、実施例2において、Ir線触媒よりも酸素発生活性の大幅な促進が達成された。
【0106】
以上説明したように、本開示に係る触媒の製造方法によれば白金等の貴金属を使用することなく、優れた酸素還元と酸素発生との両方の触媒能を有する触媒を製造することが可能となる。そのようにして得られた酸素還元と酸素発生との両方の触媒能を有する触媒を、空気極に適用することで、空気電池の電池特性を向上させることが可能となる。また、本開示に係る触媒を含む空気極を、金属空気電池に適用することで、空気極では酸素還元反応をより活性化させることができる。金属空気二次電池において、本開示に係る触媒を含む空気極を充電時の正極として用いることで、空気極に用いた触媒に、放電時に必要な酸素還元触媒および充電時に必要な酸素発生触媒としての十分な機能を備えさせることができる。
【0107】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0108】
1、10 触媒
11 第1の含窒素遷移金属錯体
12、16 炭素材料
13 コア
14 第2の含窒素遷移金属錯体
15、17 シェル層