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特許7605432酸素濃度測定装置および基質濃度測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】酸素濃度測定装置および基質濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/404 20060101AFI20241217BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20241217BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G01N27/404 341Z
G01N27/416 321
G01N27/416 338
G01N27/26 381B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021033004
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022134001
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2024-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】591258484
【氏名又は名称】株式会社エイアンドティー
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 啓史
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-281937(JP,A)
【文献】特開平11-248670(JP,A)
【文献】特開2006-217485(JP,A)
【文献】実公昭58-017252(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポーラログラフ式酸素濃度測定センサと、
前記ポーラログラフ式酸素濃度測定センサを一定温度で保持可能な恒温装置と、
前記ポーラログラフ式酸素濃度測定センサに接続した電源部と、
前記ポーラログラフ式酸素濃度測定センサに印加する電圧を制御する制御部と、
前記ポーラログラフ式酸素濃度測定センサに流れる電流を測定する測定部と、
前記測定部からの信号を解析する解析部と、
を有する酸素濃度測定装置であり、
装置の使用者が測定開始希望時刻を入力する事が可能な入力部を備え、
前記制御部は、前記使用者が測定開始希望時刻の入力を行った後に前記ポーラログラフ式酸素濃度測定センサへの通電を解除し、さらに、
前記測定開始希望時刻より所定の時間遡及した時刻に、再び前記ポーラログラフ式酸素濃度測定センサに対して-0.9~-0.6Vの電圧を印加することを特徴とする酸素濃度測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、電圧の前記再印加後に、キャリブレーションを実施することを特徴とする請求項1に記載の酸素濃度測定装置。
【請求項3】
ポーラログラフ式酸素濃度測定センサの酸素透過膜表面に、酸素の増減を伴う反応に関与する酵素が固定化された、固定化酵素層を配置した、基質濃度測定センサと、
前記基質濃度測定センサを一定温度で保持可能な恒温装置と、
前記基質濃度測定センサに接続した電源部と、
前記基質濃度測定センサに印加する電圧を制御する制御部と、
前記基質濃度測定センサに流れる電流を測定する測定部と、
前記測定部からの信号を解析する解析部と、
を有する基質濃度測定装置であり、
装置の使用者が測定開始希望時刻を入力する事が可能な入力部を備え、
前記制御部は、前記使用者が測定開始希望時刻の入力を行った後に前記基質濃度測定センサへの通電を解除し、さらに、
前記測定開始希望時刻より所定の時間遡及した時刻に、再び前記基質濃度測定センサに対して-0.9~-0.6Vの電圧を印加することを特徴とする基質濃度測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、電圧の前記再印加後に、キャリブレーションを実施することを特徴とする請求項3に記載の基質濃度測定装置。
【請求項5】
酸素の増減を伴う反応に関与する酵素が、グルコースオキシダーゼであることを特徴とする請求項3乃至請求項4に記載の基質濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポーラログラフ式酸素濃度測定センサを用いた酸素濃度測定装置、およびポーラログラフ式酸素濃度測定センサと酵素反応を組み合わせた基質濃度測定装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素透過膜を透過する酸素の量を、酸素濃度測定センサで測定する技術は、発酵プロセスの制御、水質用の環境計測、医療分野における計測など非常に多岐にわたる利用がなされている。また、酸素濃度測定センサの酸素透過膜の表面上に、酸素の増減に関わる酵素を固定化酵素層として配置すると、その酵素の基質となりうる物質の濃度を測定することができるため、酵素センサとして様々な産業において活用されている。
【0003】
酸素濃度測定センサは、使用する原理によって分類することができる。ポーラログラフ式、ガルバニ電池式、濃淡電池式等があり、用途に応じて使い分けられている。これらのうちポーラログラフ式のものは、検知部となる一部の壁が酸素透過膜により構成された電極ハウジング内に、電極としてカソードとなる検知極とアノードとなる対極と、電解質溶液としてハロゲン化アルカリ金属塩の水溶液を有し、検知極に特定の電位を印加した場合に、酸素透過膜を透過する酸素の量に応じて流れる電流を測定することにより、気体または液体中の酸素分圧を求める形式のものである。
【0004】
ポーラログラフ式酸素濃度測定センサは、測定状態にあるかどうかに関わらず、待機状態にあるだけで劣化するという、動作原理に由来した欠点を持っている。ポーラログラフ式酸素濃度測定センサを正常に機能する状態(-0.9~-0.6V前後)で酸素が存在する環境に置くと、検知極(カソード)表面上で酸素が消費される一方、対極(アノード)上では電解質溶液中のハロゲンイオンが不溶性のハロゲン化銀となる。反応は、下記の式(1)、(2)に示す通りである。
【0005】
2+2H2O+4e-→4OH- …(1)
4Ag+4X-→4AgX+4e- …(2)
【0006】
図7は、ポーラログラフ式酸素濃度測定センサの検知極とその周辺の画像である。図7(a)はポーラログラフ式酸素濃度測定センサの使用前の電極の代表例を示す。通電量に従って電解質溶液のpHは徐々に高くなる一方、ハロゲン化イオンの濃度は低下する(以下、この現象を「電解質溶液の変質」と表現する)。電解質溶液が変質すると、ポーラログラフ式酸素濃度測定センサの応答速度が低下したり、正常に機能する電圧の領域が狭くなって不安定なセンサとなったりする。また、電解質溶液の変質以外にも通電によって引き起こされるセンサの劣化は存在する。
【0007】
これら劣化の理由は明確でないが、図7(b),(c)に示すように、通電量が多くなると検知極701や、検知極701を包埋する樹脂(包埋樹脂)702上に無機物または有機物の堆積が生じ、センサの応答速度を低下させたり、異常な電気化学反応を引き起こしたりする場合がある。これらの劣化が生じると最終的には正確な酸素濃度の測定ができなくなり、センサを交換しなければならなくなる。
【0008】
劣化したポーラログラフ式酸素濃度測定センサは、解体したうえで検知極表面の堆積物を除去し、変質した電解質溶液を正常な電解質溶液に入れ替えることによって、正常なセンサに再生することができる。しかし、この作業は熟練を要するためユーザーで簡単にできるものではなく、センサをメーカーに返送し、メーカーが実施する場合が多い。再生後のセンサがユーザーに届くまで、ある程度の日数を要するため、ユーザーは、あらかじめ正常なセンサを予備として複数持っておく必要がある。
【0009】
また、センサの再生も無限に行えるわけではない。検知極とその周辺の形状は、電極性能に大きな影響を及ぼすため、良好な性能を発揮できるように精密かつ高価な加工を施すのが一般的である(下記特許文献1等参照。)。
【0010】
しかし、再生時に行う、検知極や検知極周辺の堆積物の除去(研磨)によって、許容できる寸法精度の範囲を超えてしまうことがある。そのため、数回の再生で使用できなくなり、新しいセンサボディと交換せざるを得ないこともしばしば生じている。さらに近年では、センサが医療用途に使われることも多くなり、再生を行う作業者への感染対策を万全にせねばならないという問題も大きくなっている。これらの事情から、ポーラログラフ式酸素濃度測定センサおよびそれを応用した酵素センサを、良好な状態で長期間使用することができ、センサの交換頻度を下げることが可能な技術が、ユーザーからもメーカーからも望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平11-183424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したポーラログラフ式酸素濃度測定センサの劣化を防ぐためには、測定対象物の濃度測定に用いない期間の積算通電量を、可能な限り小さくすることが必要である。
【0013】
図8は、代表的なポーラログラフ式酸素濃度測定センサの電流電圧曲線である。測定対象物の濃度測定に用いない期間の積算通電量を、可能な限り小さくするための手法として、図8に示すように、(1)センサ周辺の環境温度を下げる、(2)酸素の供給を絶つ、(3)通電を解除する、等の方法が挙げられる。
【0014】
しかし、センサ周辺の環境温度を下げる方法は、測定前に指定温度まで再加温する必要があり、指定温度に達し安定するまでの時間が非常に長くかかるという難点がある。また、冷却手段と加熱手段を搭載しなければならず、安価かつ小型の装置を作りにくい。酸素の供給を絶つ方法は、酸素透過膜近傍を、酸素を含まない気体で置換する、非酸素透過素材でできた型状のパーツを酸素透過膜に密着させる、酸素透過膜近傍を密閉したうえで脱酸素剤を使用する等の方法を用いる必要があり、精密な加工を施した高価な装置になりがちである。
【0015】
また、酸素透過膜近傍を、亜硫酸ナトリウム水溶液で満たす方法も考えられるが、酵素を組み合わせたセンサである場合は、酵素への影響が無視できないため、利用しにくいという難点がある。さらに、通電を解除する方法も、再通電の仕方によっては、正確を期する測定ができないことがある。これは、一度通電を解除してしまうと、検知極や対極周辺の微小な範囲における電気化学的平衡が崩れ、定常状態に至るまで時間がかかることによるものと考えらえる。
【0016】
これらの課題があり、ポーラログラフ式酸素濃度測定センサまたはそれを応用した酵素センサの劣化を防いで交換頻度を下げ、かつ適時の測定ができるような、実務上の使用に耐える酸素濃度測定機器または基質濃度測定機器は、従来存在していなかった。
【0017】
本発明は、上記課題を解決し、ポーラログラフ式酸素濃度測定センサまたはそれを応用した酵素センサの劣化を防ぐことにより、長期にわたって良好な状態でセンサを使用でき、かつ適時に効率的な測定ができるような酸素濃度測定機器または基質濃度測定機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明において、「通電を解除する」とは、必ずしもポーラログラフ式酸素濃度測定センサに印加する電圧を0Vにすることを意味しない。図8に記したように、ポーラログラフ型酸素濃度測定センサに付与する電圧と流れる電流量の関係については、比例関係ではない特徴がある。-0.2V前後よりも大きい(0Vに近い)電圧では、電圧が0Vでなくても電流が流れない領域がある。そのため本発明においては、電流が流れていない状態であれば、電圧が0Vでなくとも、「通電していない状態」と定義する。さらに、「通電を解除する」とは、センサに電流を流していた状態から前述の「通電していない状態」にすることと定義する。なお、電圧がかかっていてもポーラログラフ式酸素濃度測定センサに電流が流れない電圧の領域(図8の領域イ)は、センサの素材や形状、環境条件、個体差等により多少相違する場合がある。
【0019】
請求項1に記載の発明は、ポーラログラフ式酸素濃度測定センサと、前記ポーラログラフ式酸素濃度測定センサを一定温度で保持可能な恒温装置と、前記ポーラログラフ式酸素濃度測定センサに接続した電源部と、前記ポーラログラフ式酸素濃度測定センサに印加する電圧を制御する制御部と、前記ポーラログラフ式酸素濃度測定センサに流れる電流を測定する測定部と、前記測定部からの信号を解析する解析部と、を有する酸素濃度測定装置であり、装置の使用者が測定開始希望時刻を入力する事が可能な入力部を備え、前記使用者が測定開始希望時刻の入力を行った後にポーラログラフ式酸素濃度測定センサへの通電を解除し、さらに、前記測定開始希望時刻より所定の時間遡及した時刻に、再び前記ポーラログラフ式濃度測定センサに対して-0.9~-0.6Vの電圧を印加することを特徴とする酸素濃度測定装置である。所定の時間とは、5分~240分が望ましく、より望ましくは10~120分である。望ましい範囲よりも短い場合は、検知極や対極周辺の微小な範囲が電気化学的平衡状態に至らず、正確な測定に支障をきたす場合がある。また、望ましい範囲よりも長い場合は、積算通電量を可能な限り小さくしセンサの劣化を防ぐという効果が損なわれる。
【0020】
請求項2に記載の発明は、センサに再び必要な電圧を印加した後、キャリブレーションを実施することを特徴とする請求項1に記載の酸素濃度測定装置である。自動的にキャリブレーションを実施することにより、ユーザーは、測定開始希望時刻に、すぐに濃度測定を開始することができる。また、万が一センサ内の電気化学的平衡が得られておらず正確な濃度測定に支障をきたす場合は、キャリブレーションがエラーとなることにより、ユーザーに異常が知らされ、センサおよび/または装置に不具合が存在したまま測定が行われることを防ぐことができる。
【0021】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の酸素濃度測定装置のセンサの酸素透過膜上に、酸素の増減を伴う反応に関与する酵素を固定化酵素層として配置したものである。酸素の増減を伴う反応に関与する酵素であれば、目的に合致する限りにおいて自由に選択することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、センサに再び必要な電圧を印加した後、キャリブレーションを実施することを特徴とする請求項3に記載の基質濃度測定装置である。
【0023】
請求項5に記載の発明は、請求項3乃至請求項4に記載の発明において、酸素の増減を伴う反応に関与する酵素として、グルコースオキシダーゼを採用したものである。この請求項に係る発明は、グルコース濃度(基質濃度)測定装置として用いることが可能である。なお、グルコースオキシダーゼは、生物学的な由来や分離方法、処理方法においても、目的に合致する限りにおいて自由に選択することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ポーラログラフ式酸素濃度測定センサまたはそれを応用した酵素センサの劣化を防ぐことにより、長期にわたって良好な状態でセンサを使用でき、かつ適時に効率的な測定ができるような酸素濃度測定機器または基質濃度測定機器を提供することができる。また、センサの交換頻度を低くすることができるため、精密な加工を施した高価なボディの入れ替えを減らすことが可能となる。これはコスト面に寄与するだけでなく、廃プラスチックの量やボディ成型時に必要なエネルギーを減らすことにもつながり、持続可能な開発目標に沿った企業活動の一助となりうる。さらに、再生のために医療現場から返送されるセンサの絶対数を減らすことができるため、センサメーカーの従業員の感染リスクを下げることにもプラスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明において採用されるポーラログラフ式酸素濃度測定センサの代表的な構造を示す断面図である。
図2図2は、本実施の形態に係る基質濃度測定装置のシステム構成を示す説明図である。
図3図3は、本実施の形態に係る基質濃度測定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4図4は、本実施の形態に係る基質濃度測定装置の動作フロー図である。
図5図5は、実施例および比較例の内容を補説するための図である。
図6図6は、実施例および比較例の結果を示す図である。
図7図7は、ポーラログラフ式酸素濃度測定センサの検知極とその周辺の画像である。
図8図8は、代表的なポーラログラフ式酸素濃度測定センサの電流電圧曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態を詳述するが、本発明はこれに限定したものではない。
【0027】
(ポーラログラフ式酸素濃度測定センサ)
図1は、本発明において採用されるポーラログラフ式酸素濃度測定センサの代表的な構造を示す断面図である。図1において符号1は検知極(カソード)、2は検知極1を包埋する樹脂、3は検知極周辺の微細加工部、4は電極ハウジング、8は電解質溶液である。
【0028】
本発明における電極ハウジング4は、検知部の壁が酸素透過膜7で構成された容器であれば特に限定されるものではないが、図1に示すように、筒状の容器の先端部を酸素透過膜7で構成した構造が一般的である。
【0029】
上記電極ハウジング4を構成する、酸素透過膜7以外の部分の材質としては、内蔵する電解質溶液に対して耐性を有する公知の材質の中から適宜選択することができる。このような材質としては、たとえば、ガラス、セラミックス等の無機物、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂等の合成樹脂等が挙げられる。
【0030】
また酸素透過膜7の材質としては、液体を透過せず且つ酸素を透過し得る能力を有するものであれば特に制限されないが、好ましくは酸素の気体透過係数が1×10-12(cm3・cm・cm-2・S-1・cmHg-1)以上、さらに好ましくは1×10-10以上のものが好適である。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル等が一般的に挙げられる。これらのうち、特に酸素透過性の高いフッ素樹脂が好適である。
【0031】
上記酸素透過膜の厚さには特に制限はないが、透過した酸素を定電位電解電流で検知する上から1~100μmとすることが好ましく、膜の取り扱いやすさも加味すると特に10~50μmとすることが好ましい。
【0032】
本発明において、酸素透過膜を透過する酸素量の測定のためには、図1に示すように、少なくとも検知極1及び対極6の2つの電極が必要である。即ち、検知極1は、その表面における電気化学反応により酸素を電気分解するための電極であり、対極6は上記電気化学反応を進行させるための回路を構成するための電極である。かかる検知極1は、公知の電極の中から選択して適宜使用することができるが、特に白金、金などの不活性金属からなる電極が好ましい。また、かかる対極6は、一般に銀、鉛、水銀などの過電圧の高い金属が適宜用いられる。近年では、測定の簡便性や生成する化合物の有害性などの見地から、対極6に銀電極を用いることが多くなっている。
【0033】
本発明の酸素電極において、応答速度、即ち、酸素が電極ハウジング4の酸素透過膜7の表面に接触してから検知極1表面で電極反応が起こるまでの速さを迅速化するために、一般に該検知極1を酸素透過膜7に近接させた構造が採用される。かかる「近接」なる用語は、検知極1と酸素透過膜7とを可及的に近づけることを意味する。
【0034】
本発明のポーラログラフ式酸素濃度測定センサの他の構造及び使用の態様は公知の態様が特に制限なく採用される。例えば、図1に示すように、検知極1と対極6をもつ場合、検知極1は電源9及び電流計10を介して対極6と電気的に接続される。上記した電極ハウジング4内には電解質溶液として、化合物自身の安定性が高い、ハロゲン化アルカリ金属塩を含む水溶液が封入される。具体的には塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウムなどを含む水溶液が挙げられる。
【0035】
ポーラログラフ式酸素濃度測定センサには、複数の検知極1が備えられていても良い。複数の検知極1を備えている場合は、同時に異なる条件または異なる測定対象物の酸素濃度を測定したり、それぞれのデータを比較・分析したりすることが可能である。
【0036】
(ポーラログラフ式酸素濃度測定センサと酵素を組み合わせた基質濃度測定用センサ)
例えば、複数の検知極の上に固定化酵素層を設けたうえで、一つの検知極上の固定化酵素を失活させて基準検知極(以下Ref極と記載する)とし、他の検知極(以下Sig極と記載する)からの情報との差分を算出すれば、単一の検知極で測定したときよりも、その酵素の基質濃度を正確に測定することが可能である。また、これらの信号をそのまま使用して濃度測定に用いても良く、さらに、信号を微分して最大酸素消費速度を求めたり、信号を二次微分して最大酸素消費加速度を求めたりして、濃度測定に用いてもかまわない。信号を微分処理したうえで用いると、応答の変化量を早く検知できるため、処理速度の速い装置を構成することが可能となる。
【0037】
なお、固定化酵素層の形成は、既知の手法から目的に合致したものを自由に選ぶことができる。例えば、架橋法、格子型包括法、マイクロカプセル型包括法、担体結合法の一種である共有結合法やイオン結合法、物理的吸着法などから、いずれか一つまたは複数の方法を組み合わせて使用することができる。
【0038】
(基質濃度測定装置)
本実施の形態に係る基質濃度測定装置のシステム構成について説明する。図2は、本実施の形態に係る基質濃度測定装置のシステム構成を示す説明図である。この発明では、基質濃度としてグルコース濃度の測定を例に説明する。
【0039】
図2において、基質濃度測定装置200は、試料供給手段201と、緩衝液供給手段202と、試料希釈・測定手段203と、緩衝液排液手段204とを備えて構成されている。
【0040】
試料供給手段201は、図中X,Y方向に移動自在な可動式クレーン211と、試料を分注する試料分注ノズル212とを備える。
【0041】
可動式クレーン211の移動方向上には、反応セル230が設けられている。反応セル230には、たとえば血液等の試料が収容される。試料としては血液に限らず、血漿、血清、尿等も扱うことができる。可動式クレーン211を移動させた後、試料分注ノズル212内の試料が反応セル230に所定量供給される。
【0042】
試料希釈・測定手段203を構成する反応セル230には、緩衝液供給手段202により試料を希釈する緩衝液が注入可能である。緩衝液は、緩衝液ボトル220に収容されており、緩衝液には、たとえばトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン水溶液、モノメタノールアミン水溶液、ジエタノールアミン水溶液、トリエタノールアミン水溶液の、酢酸、クエン酸、炭酸、リン酸、硼酸緩衝液等などや、MOPS、HEPES等のグッド緩衝液が用いられる。緩衝液は、緩衝液ポンプ221により吸引され、給液マニホールド222を介し、気泡検知センサ223にて気泡発生していないか監視されて温度調整機能を有するプレチャンバー205に注入され、同時にプレチャンバー内の緩衝液が緩衝液注入口231を介して反応セル230へ送られる。
【0043】
反応セル230は、試料が注入される試料注入口232と、緩衝液が注入される緩衝液注入口231と、試料を緩衝液にて希釈するための攪拌空間233と、回転により希釈を行う攪拌子(スターラー)234と、緩衝液で希釈された試料を検出する酸素濃度測定センサ235と、排液口236とが設けられている。緩衝液ポンプ221の電磁弁の切り替えにより、検出後の排液は排液口236~緩衝液ポンプ221~ウォッシュボトル237の経路を介して排液される。
【0044】
サンプルポンプ224は洗浄液の供給を行う。洗浄液は、洗浄液ボトル238に収容されている。洗浄液は、給液マニホールド222~サンプルポンプ224を介して試料分注ノズル212に供給される。
【0045】
(基質濃度測定装置200のハードウェア構成)
つぎに、基質濃度測定装置200のハードウェア構成について説明する。図3は、本実施の形態に係る基質濃度測定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0046】
図3に示すように、基質濃度測定装置200は、制御部として機能するCPU301と、ROM302と、RAM303と、ディスプレイ304と、ネットワークI/F(インターフェイス)305とを備える。各構成部301~305のそれぞれは、バス300に接続される。
【0047】
CPU301は、基質濃度測定装置200の全体の制御を司る。ROM302は、基質濃度測定装置200を起動させるブートプログラムや、測定処理プログラムなどの各種データを記憶する。RAM303は、CPU301のワークエリアとして使用される。
【0048】
ディスプレイ304は、各種データを表示する。また、本発明においてディスプレイ304は、使用者に装置の状態を認知させるだけでなく、使用開始希望時刻を入力するためのヒューマンインターフェイスとしての機能も併せ持つ。ネットワークI/F305は、基質濃度測定装置200と他の情報処理装置とのデータ通信を制御する。
【0049】
(基質濃度測定装置200の本発明における動作のフロー)
図4は、本実施の形態に係る基質濃度測定装置の動作フロー図である。図4の処理は、基質濃度測定装置200の制御部(CPU)301が実行する。装置使用者は、入力部より、次に使用開始する任意の時刻を入力することができる(以下、測定開始希望時刻と記載する)。使用開始希望時刻が入力されると、制御部301は、測定開始希望時刻に向けてカウントダウンを開始し、センサへの通電を解除する(ステップS401)。なお、センサへの通電解除は、装置が自動で行うようにしても良いし、装置使用者がその都度行っても良い。
【0050】
制御部301は、測定開始希望時刻から所定の時間をさかのぼった時刻に、再び-0.9~―0.6Vの印加を行う(ステップ402、待機時間の開始)。制御部301は、待機時間が終了したのち(=測定開始希望時刻、ステップS403)、キャリブレーションを開始する(ステップS404)。キャリブレーションでは、既知の濃度のグルコース標準液を用い、検量線を取得する。そして、制御部301は、キャリブレーションの状態が良好であるか否かを判定する(ステップS405)。キャリブレーションの状態が良好であれば(ステップS405:Yes)、その後、基質濃度の測定に供することができ、測定まで待機する(ステップS406)。
【0051】
一方、キャリブレーションの状態が良好でない場合は(ステップS405:No)、制御部301は、エラーを発し、装置の使用者はその事実を知ることができる。例えば、制御部301は、キャリブレーションの状態が良好でない回数を判定し(ステップS407)、1回目のエラー時には(ステップS407:1回目)、ステップS404の処理に戻り、2回目のエラー時には(ステップS407:2回目)、装置外部にエラーを発する(ステップS408)。ステップS406、あるいはステップS408の処理後、制御部301は、以上の一連の処理を終了する。
【0052】
なお、上述の実施の形態および以下に記載する実施例、比較例では、固定化酵素層にグルコースオキシダーゼを固定化し、グルコース濃度測定センサを構成しているが、酸素の増減反応に関与する他の酵素に置き換えることにより、他の基質の濃度測定センサや濃度測定装置を構成することが可能である。
【0053】
(実施例と比較例の対比)
図5は、実施例および比較例の内容を補説するための図であり、図5(a)は比較例、図5(b)は本発明の実施例である。図5の横軸は時間(24時間)、縦軸は曜日である。
【0054】
本発明の実施例について、株式会社エイアンドティー製のグルコース分析装置GA09IIαに搭載し、図5(b)に記載のパターンで約2週間運用した。具体的には下記の通りである。測定開始希望時刻を月曜日から金曜日までの09:30、通電解除時刻を20:00とし、測定開始希望時刻の90分前に、グルコース測定用センサに-0.9~-0.6V範囲の一定の電圧を印加して待機時間とした。待機時間を経た後、既知の濃度のグルコース水溶液(0mg/dLおよび200mg/dL)を用いてキャリブレーションを実施した。キャリブレーション時のグルコース濃度200mg/dL水溶液の出力値の変化をプロットした。センサの個体間差を考慮し、3本のセンサについて同様のデータを取得した。
【0055】
また、比較例について、図5(a)に示すように、株式会社エイアンドティー製のグルコース分析装置GA09IIに、実施例で用いたものと同じ種類のグルコース測定用センサを装着し、2週間通電し続けること以外は実施例と同一になるようにしてデータを取得した。
【0056】
(実施例と比較例の相違)
図6は、実施例および比較例の結果を示す図である。図6(a)に示すように、通電し続けた比較例においては、グルコース200mg/dL水溶液に対する出力値が低下する傾向にあった。これは、対象物質への応答性が低下する傾向にあることを示している。
【0057】
一方、図6(b)に示すように、適宜通電を解除し、積算通電量を少なくした実施例においては、比較例のような出力の低下は特に認められなかった。また、実施例において、再印加後のキャリブレーションがエラーとなる現象も認められなかった。通電解除と再印加の繰り返しによってセンサ内部の電気化学的安定性を欠き、適時の測定に利用できなくなる不具合も生じないことが確認された。
【0058】
なお、本実施の形態で説明した測定方法は、予め用意されたプログラムをコンピュータで実行することにより実現することができる。このプログラムは、RAM、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD-ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記録され、コンピュータによって記憶媒体から読み出されることによって実行される。またこのプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することが可能な伝送媒体であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る酸素濃度測定装置および基質濃度測定装置は、発酵プロセスの制御、水質用の環境計測、医療分野における計測など、多岐に渡る分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 検知極(カソード)
2 検知極を包埋する樹脂
3 検知極周辺の微細加工部
4 電極ハウジング
5 貴金属電極
6 対極(アノード)
7 酸素透過性膜
8 電解質溶液
9 電源
10 電流計
200 基質濃度測定装置
201 試料供給手段
202 緩衝液供給手段
203 試料希釈・測定手段
204 緩衝液排液手段
205 プレチャンバー
211 可動式クレーン
212 試料分注ノズル
221 緩衝液ポンプ
222 給液マニホールド
223 気泡検知センサ
224 サンプルポンプ
230 反応セル
231 緩衝液注入口
232 試料注入口
233 攪拌空間
234 攪拌子
235 酸素電極
236 排液口
237 ウォッシュボトル
238 洗浄液ボトル
301 CPU(制御部)
302 ROM
303 RAM
304 ディスプレイ
305 ネットワークI/F
図1
図2
図3
図4
図5
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図8