IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日精化工業株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】親水化膜の製造方法及び表面親水化基材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20241217BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241217BHJP
   C08J 7/056 20200101ALI20241217BHJP
【FI】
B32B27/30 A
C08J5/18 CEY
C08J7/056
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021156934
(22)【出願日】2021-09-27
(65)【公開番号】P2023047809
(43)【公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-12-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「濃厚ポリマーブラシ(CPB)付与による高性能摺動部品の開発と装置への応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】田儀 陽一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広賢
(72)【発明者】
【氏名】谷嶋 美保
(72)【発明者】
【氏名】荘司 拓海
(72)【発明者】
【氏名】辻井 敬亘
(72)【発明者】
【氏名】松川 公洋
【審査官】山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-508542(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0181861(US,A1)
【文献】国際公開第2017/171071(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0119596(US,A1)
【文献】井上祐貴,溶解性ポリマーブラシ型バイオメディカル表面の創製,高分子論文集,日本,高分子学会,2013年,70(8),419-431
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08J5/00-5/02;5/12-5/22,106
C08J7/04-7/06@Z
B29C71/04;C08J7/00-7/02@Z;7/12-7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、及びジメチルアミノプロピルメタクリルアミドからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーを重合して、下記一般式(1)で表される構造で基材の表面と結合したポリマー(i)を形成し、前記ポリマー(i)を含む前駆体ポリマー層を前記基材の表面に設ける工程と、
クロロ酢酸ナトリウム、2-クロロプロピオン酸ナトリウム、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、リン酸エチレンメチル、及びリン酸エチレンエチルからなる群より選択される少なくとも一種の反応剤を前記ポリマー(i)に反応させて双性イオン基を有するポリマー(ii)を形成し、前記ポリマー(ii)を含む親水化膜を前記基材の表面に設ける工程と、を有し、
前記ポリマー(i)の数平均分子量が50万~500万、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1~2.0であり、
前記前駆体ポリマー層の厚さが500~3,000nmであり、
前記基材の表面に結合した前記ポリマー(i)の量が、前記基材の表面1nm当たり0.2分子鎖以上である親水化膜の製造方法。
(前記一般式(1)中、Aは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、又はアシル基を示し、Rは、メチル基、エチル基、又はアシル基を示し、「Polymer(i)」はポリマー(i)を示し、「*」は基材表面との結合位置を示す)
【請求項2】
下記一般式(2)で表される重合開始基を起点とする表面ラジカル重合により前記ポリマー(i)を形成する請求項1に記載の親水化膜の製造方法。
(前記一般式(2)中、Aは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、アルキル基、アシル基、又はアリール基を示し、Rは、アルキル基又はアリール基を示し、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子示し、「*」は基材表面との結合位置を示す)
【請求項3】
前記一般式(2)で表される重合開始基が、2-ブロモ-2-メチルプロパノイルオキシ基及び2-ブロモ-2-メチルプロパノイルアミノ基の少なくともいずれかである請求項2に記載の親水化膜の製造方法。
【請求項4】
10~500MPaの圧力条件下で前記モノマーを表面開始リビングラジカル重合して前記ポリマー(i)を形成する請求項1~3のいずれか一項に記載の親水化膜の製造方法。
【請求項5】
基材と、前記基材の表面に設けられる、ポリマー(ii)を含む親水化膜と、を備え、
前記基材の表面及び前記ポリマー(ii)が、下記一般式(3)で表される構造で結合しており、
前記ポリマー(ii)が、下記親水性モノマー群より選択される少なくとも一種のモノマーの繰り返し単位を含み、
前記親水化膜の厚さが600~4,000nmであり、
前記基材の表面に結合した前記ポリマー(ii)の量が、前記基材の表面1nm当たり0.2分子鎖以上である表面親水化基材。
[親水性モノマー群]:
2-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]アセテート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロピオネート、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]ブタン-1-スルホネート、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチルアンモニオ]エチルメチルリン酸、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチルアンモニオ]エチルエチルリン酸、2-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]アセテート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]プロピオネート、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]ブタン-1-スルホネート、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジエチルアンモニオ]エチルメチルリン酸、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジエチルアンモニオ]エチルエチルリン酸、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]アセテート、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]プロピオネート、3-[(3-メタクリロイルアミノプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート、-[(3-メタクリロイルアミノプロピル)ジメチルアンモニオ]ブタン-1-スルホネート、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]エチルメチルリン酸、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]エチルエチルリン酸
(前記一般式(3)中、Aは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、又はアシル基を示し、Rは、メチル基、エチル基、又はアシル基を示し、「Polymer(ii)」はポリマー(ii)を示し、「*」は基材表面との結合位置を示す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水化膜の製造方法、及び、その親水化膜を有する基材に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の改質方法として、その末端に基材と吸着又は反応しうる基を有するポリマーを基材に作用させることで、物理的又は化学的に結合したポリマー層を基材表面に形成する方法が知られている。また、基材表面に付与した重合性基を起点としてモノマーを重合させることで、基材表面からグラフトしたポリマー層を形成する方法も知られている。
【0003】
近年、1990年代に発展したリビングラジカル重合の技術を利用して基板上に高密度にグラフトされる、いわゆる「濃厚ポリマーブラシ」が研究されている。この濃厚ポリマーブラシでは、高分子鎖が1~4nm間隔の高密度で基板上にグラフトされる。このような濃厚ポリマーブラシにより基材表面を改質し、低摩擦性、タンパク質吸着抑制、サイズ排除特性、親水性、撥水性等などの特徴を付与することができる(特許文献1及び2)。
【0004】
また、基材の表面を親水化すべく、ポリエチレングリコール鎖、スルホベタイン基、カルボキシベタイン基、ホスホリルコリン基等の親水性基又は親水性構造を有するモノマーを重合して形成したポリマーで基材をコーティングし、基材表面に親水性基等を導入する方法が提案されている(特許文献3~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-133434号公報
【文献】特開2010-261001号公報
【文献】特開2006-002147号公報
【文献】特開2003-213541号公報
【文献】特開2004-068174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3~5等で提案された方法で用いるベタイン基等の親水性基を有するモノマーは、水に溶解する一方で重合溶媒として汎用される有機溶剤には溶解しにくいため、重合方法に制約がある。また、親水性基を有する上記のモノマーの重合物であるポリマーで形成されるポリマー層は、耐水性等の耐久性がさほど良好であるとはいえなかった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、十分な厚さを有するとともに親水性に優れた親水化膜を基材の表面上に簡便に形成することが可能な親水化膜の製造方法を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、十分な厚さを有するとともに親水性に優れた親水化膜が基材の表面上に設けられた表面親水化基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す親水化膜の製造方法が提供される。
[1]ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、及びジメチルアミノプロピルメタクリルアミドからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーを重合して、下記一般式(1)で表される構造で基材の表面と結合したポリマー(i)を形成し、前記ポリマー(i)を含む前駆体ポリマー層を前記基材の表面に設ける工程と、クロロ酢酸ナトリウム、2-クロロプロピオン酸ナトリウム、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、リン酸エチレンメチル、及びリン酸エチレンエチルからなる群より選択される少なくとも一種の反応剤を前記ポリマー(i)に反応させて双性イオン基を有するポリマー(ii)を形成し、前記ポリマー(ii)を含む親水化膜を前記基材の表面に設ける工程と、を有し、前記ポリマー(i)の数平均分子量が50万~500万、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1~2.0であり、前記前駆体ポリマー層の厚さが500~3,000nmであり、前記基材の表面に結合した前記ポリマー(i)の量が、前記基材の表面1nm当たり0.2分子鎖以上である親水化膜の製造方法。
【0009】
(前記一般式(1)中、Aは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、又はアシル基を示し、Rは、メチル基、エチル基、又はアシル基を示し、「Polymer(i)」はポリマー(i)を示し、「*」は基材表面との結合位置を示す)
【0010】
[2]下記一般式(2)で表される重合開始基を起点とする表面ラジカル重合により前記ポリマー(i)を形成する前記[1]に記載の親水化膜の製造方法。
【0011】
(前記一般式(2)中、Aは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、アルキル基、アシル基、又はアリール基を示し、Rは、アルキル基又はアリール基を示し、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子示し、「*」は基材表面との結合位置を示す)
【0012】
[3]前記一般式(2)で表される重合開始基が、2-ブロモ-2-メチルプロパノイルオキシ基及び2-ブロモ-2-メチルプロパノイルアミノ基の少なくともいずれかである前記[2]に記載の親水化膜の製造方法。
[4]10~500MPaの圧力条件下で前記モノマーを表面開始リビングラジカル重合して前記ポリマー(i)を形成する前記[1]~[3]のいずれかに記載の親水化膜の製造方法。
【0013】
また、本発明によれば、以下に示す表面親水化基材が提供される。
[5]基材と、前記基材の表面に設けられる、ポリマー(ii)を含む親水化膜と、を備え、前記基材の表面及び前記ポリマー(ii)が、下記一般式(3)で表される構造で結合しており、前記ポリマー(ii)が、下記親水性モノマー群より選択される少なくとも一種のモノマーの繰り返し単位を50質量%以上含み、前記親水化膜の厚さが600~4,000nmであり、前記基材の表面に結合した前記ポリマー(ii)の量が、前記基材の表面1nm当たり0.2分子鎖以上である表面親水化基材。
【0014】
[親水性モノマー群]:
2-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]アセテート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロピオネート、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]ブタン-1-スルホネート、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチルアンモニオ]エチルメチルリン酸、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチルアンモニオ]エチルエチルリン酸、2-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]アセテート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]プロピオネート、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]ブタン-1-スルホネート、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジエチルアンモニオ]エチルメチルリン酸、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジエチルアンモニオ]エチルエチルリン酸、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]アセテート、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]プロピオネート、3-[(3-メタクリロイルアミノプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート、-[(3-メタクリロイルアミノプロピル)ジメチルアンモニオ]ブタン-1-スルホネート、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]エチルメチルリン酸、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]エチルエチルリン酸
【0015】
(前記一般式(3)中、Aは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、又はアシル基を示し、Rは、メチル基、エチル基、又はアシル基を示し、「Polymer(ii)」はポリマー(ii)を示し、「*」は基材表面との結合位置を示す)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、十分な厚さを有するとともに親水性に優れた親水化膜を基材の表面上に簡便に形成することが可能な親水化膜の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、十分な厚さを有するとともに親水性に優れた親水化膜が基材の表面上に設けられた表面親水化基材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<親水化膜の製造方法>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本発明の親水化膜の製造方法は、所定のモノマーを重合して、下記一般式(1)で表される構造で基材の表面と結合したポリマー(i)を形成し、ポリマー(i)を含む前駆体ポリマー層を基材の表面に設ける工程(工程(1))と、特定の反応剤をポリマー(i)に反応させて双性イオン基を有するポリマー(ii)を形成し、ポリマー(ii)を含む親水化膜を基材の表面に設ける工程(工程(2))と、を有する。
ポリマー(i)の数平均分子量は50万~500万であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.1~2.0である。また、前駆体ポリマー層の厚さは500~3,000nmである。そして、基材の表面に結合したポリマー(i)の量は、基材の表面1nm当たり0.2分子鎖以上である。以下、以下、本発明の親水化膜の製造方法(以下、単に「(本発明の)製造方法」とも記す)の詳細について説明する。
【0018】
(前記一般式(1)中、Aは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、又はアシル基を示し、Rは、メチル基、エチル基、又はアシル基を示し、「Polymer(i)」はポリマー(i)を示し、「*」は基材表面との結合位置を示す)
【0019】
(工程(1))
工程(1)では、一般式(1)で表される構造で基材の表面と結合したポリマー(i)を形成し、ポリマー(i)を含む前駆体ポリマー層を基材の表面に設ける。基材は、天然物、人工物、無機部材、有機部材のいずれであってもよい。基材の形状としては、塊状物、微粒子、粉末、シート、フィルム、ペレット、板等を挙げることができる。具体的には、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、セラミックス、木材、ケイ素化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、セルロース、ガラス等の機械部品、フィルム、繊維、シート等を挙げることができる。より具体的な基材としては、シリコン基板;ガラス基板;ステンレス等の金属板;アルミナ、炭化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックスで形成されたセラミックス板;ITO膜;プラスチック板やプラスチックフィルム等の板状又はフィルム状の基材;ガラス繊維、炭素繊維等の繊維状基材;等を挙げることができる。また、顔料、シリカ、磁性粉等のフィラー状の素材であってもよい。
【0020】
基材の表面には、一般式(1)で表される構造によってポリマー(i)が結合している。一般式(1)で表される構造(「Polymer(i)」を除く部分の構造)としては、エチレンカルボニルオキシ基、1-プロピレンカルボニルオキシ基、アセチルメチレンカルボニルオキシ基、2-プロピレンカルボニルオキシ基、2-ブチレンカルボニルオキシ基、1-フェニル-1-エチレンカルボニルオキシ基、1-フェニル-1-プロピレンカルボニルオキシ基、エチレンカルボニルアミノ基、1-プロピレンカルボニルアミノ基、アセチルメチレンカルボニルアミノ基、2-プロピレンカルボニルアミノ基、2-ブチレンカルボニルアミノ基、1-フェニル-1-エチレンカルボニルアミノ基、1-フェニル-1-プロピレンカルボニルアミノ基等を挙げることができる。なかでも、リビングラジカル重合の条件が温和で、開始効率が良好な重合開始基を導入しうる化合物である2-ブロモイソ酪酸ブロミド等から誘導される2-プロピレンカルボニルオキシ基や、2-プロピレンカルボニルアミノ基が好ましい。
【0021】
ポリマー(i)は、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、及びジメチルアミノプロピルメタクリルアミドからなる群より選択される少なくとも一種のモノマー(アミノ基含有モノマー)を重合して形成される、メタクリレート系ポリマー又はメタクリルアミド系ポリマーである。すなわち、ポリマー(i)は、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、及びジメチルアミノプロピルメタクリルアミドからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位を有するメタクリレート系ポリマー又はメタクリルアミド系ポリマーである。
【0022】
ポリマー(i)は、上記のアミノ基含有モノマーに由来する構成単位のみで実質的に構成されていることが好ましい。また、ポリマー(i)は、必要に応じて、その他のメタクリレート系モノマーやメタクリルアミド系モノマーに由来する構成単位をさらに有していてもよい。その他のメタクリレート系モノマーとしては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル、デシル、イソデシル、ドデシル、ステアリル、ベヘニル、シクロヘキシル、t-ブチルシクロヘキシル、トリメチルシクロヘキシル、トリシクロデシル、イソボルニル、アダマンチル、フェニル、ベンジル、テトラヒドロフルフリル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等の脂肪族アルキル、脂環族アルキル、芳香族、及びエーテル基含有メタクリレート等を挙げることができる。また、その他のメタクリルアミド系モノマーとしては、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、ジブチルメタクリルアミド等を挙げることができる。
【0023】
ポリマー(i)中、前述のアミノ基含有モノマーに由来する構成単位の割合は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。ポリマー(i)中のアミノ基含有モノマーに由来する構成単位の割合が50質量%未満であると、得られる親水化膜の親水性がやや低下する場合がある。
【0024】
下記一般式(2)で表される重合開始基を起点とする表面ラジカル重合、好ましくは表面リビングラジカル重合によって、一般式(1)で表される構造で基材の表面と結合したポリマー(i)を形成することができる。
【0025】
(前記一般式(2)中、Aは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、アルキル基、アシル基、又はアリール基を示し、Rは、アルキル基又はアリール基を示し、Xは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子示し、「*」は基材表面との結合位置を示す)
【0026】
一般式(2)で表される重合開始基としては、2-クロロプロパノイルオキシ基、2-ブロモプロパノイルオキシ基、3-アイオドプロパノイルオキシ基、2-クロロプロパノイルアミノ基、2-ブロモプロパノイルアミノ基、2-アイオドプロパノイルアミノ基、2-クロロ-2-メチルプロパノイルオキシ基、2-ブロモ-2-メチルプロパノイルオキシ基、2-アイオド-2-メチルプロパノイルオキシ基、2-クロロ-2-メチルプロパノイルアミノ基、2-ブロモ-2-メチルプロパノイルアミノ基、2-アイオド-2-メチル-プロパノイルアミノ基、2-クロロブタノイルオキシ基、2-ブロモブタノイルオキシ基、3-アイオドブタノイルオキシ基、2-クロロブタノルアミノ基、2-ブロモブタノイルアミノ基、2-アイオドブタノイルアミノ基、クロロフェニルアセチロイルオキシ基、ブロモフェニルアセチロイルオキシ基、アイオドフェニルアセチロイルオキシ基、クロロフェニルアセチロイルアミノ基、ブロモフェニルアセチロイルアミノ基、オイオドフェニルアセチロイルアミノ基、クロロメチルフェニルアセチロイルオキシ基、ブロモメチルフェニルアセチロイルオキシ基、アイオドメチルフェニルアセチロイルオキシ基、クロロメチルフェニルアセチロイルアミノ基、ブロモメチルフェニルアセチロイルアミノ基、オイオドメチルフェニルアセチロイルアミノ基、クロロジフェニルアセチロイルオキシ基、ブロモジフェニルアセチロイルオキシ基、アイオドジフェニルアセチロイルオキシ基、クロロジフェニルアセチロイルアミノ基、ブロモジフェニルアセチロイルアミノ基、アイオドジフェニルアセチロイルアミノ基、クロロアセトキシアセチロイルオキシ基、ブロモアセトキシアセチロイルオキシ基、アイオドアセトキシアセチロイルオキシ基、クロロアセトキシアセチロイルアミノ基、ブロモアセトキシアセチロイルアミノ基、アイオドアセトキシアセチロイルアミノ基等を挙げることができる。重合性及び入手容易性等の観点から、2-クロロプロパノイルオキシ基、2-クロロプロパノイルアミノ基、2-ブロモ-2-メチルプロパノイルオキシ基、2-ブロモ-2-メチルプロパノイルアミノ基が好ましく、2-ブロモ-2-メチルプロパノイルオキシ基及び2-ブロモ-2-メチルプロパノイルアミノ基の少なくともいずれかが特に好ましい。
【0027】
重合開始基及びトリメトキシシリル基やトリエチルシリル基等のシランカップリング基を有する化合物と、基材表面の水酸基等とを脱水縮合反応させたり、テトラエトキシシラン等のシランモノマーを用いて基材表面に予め付与しておいたシラノール基と脱水縮合反応させたりすることで、重合開始基を基材の表面に導入することができる。また、重合開始基を有するポリマーで基材をコーティングしてもよい。
【0028】
一般式(2)で表される重合開始基を起点とする表面ラジカル重合、好ましくは表面開始リビングラジカル重合により、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、及びジメチルアミノプロピルメタクリルアミドからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーを重合する。これにより、その片末端が所定の構造を介して基材に結合したポリマー(i)を形成し、形成したポリマー(i)を含む前駆体ポリマー層を基材の表面に設けることができる。
【0029】
表面開始リビングラジカル重合のなかでも、開始基の導入が容易な原子移動ラジカル重合法(ATRP法)が好ましい。ATRP法では、有機ハロゲン化物を開始基として用いるとともに、ポリアミンをリガンドとする銅イオンやルテニウムイオン等の金属イオンの錯体を触媒として用いる。この触媒が開始基からハロゲン原子をラジカルとして引き抜き、金属イオンの価数を変化させて金属ハロゲン化物塩の構造を安定化させる。ハロゲン原子が引き抜かれて生成した有機ハロゲン化物の残基は、有機ラジカルとなる。この有機ラジカルにモノマーが付加して重合が進行する。しかし、生成した有機ラジカルは不安定であるため、金属ハロゲン化物塩となった触媒からハロゲン原子をラジカルとして引き抜いて結合し、元の有機ハロゲン化物となって安定化する。これにより、有機ラジカルのカップリング等の停止反応が防止される。なお、ハロゲン原子が抜かれた金属イオンの触媒の価数は元に戻る。すなわち、ATRP法は酸化還元反応を利用した重合方法であり、酸化還元反応の繰り返しにより、有機ハロゲン化物を開始基としてモノマーが重合反応してポリマーが成長する。この重合反応ではラジカル濃度が低い状態であるため、1~数分子ずつモノマーが付加して成長し、分子量が比較的均一なポリマーが生成する。このようなATRP法を表面開始リビングラジカル重合に適用することで、濃厚ポリマーブラシを形成することができる。
【0030】
リビングラジカル重合法としては、従来公知の金属錯体を用いる上記のATRP法が好適である。金属錯体としては、周期律表第7族~第11族元素を中心金属とする金属錯体を用いることができる。具体的には、一価の銅、二価の銅、二価のルテニウム、二価の鉄、二価のニッケルを含む金属錯体を挙げることができる。なかでも、安価で入手の容易な一価の銅、二価の銅を含む金属錯体が好ましく、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅がさらに好ましい。
【0031】
銅の金属錯体を重合触媒として用いる場合には、錯体を形成させるリガンドとしてポリアミンを用いる。リガンドとして用いられるポリアミンとしては、2,2-ビピリジン、ジノニルビピリジン、フェナントロリン、トリジメチルアミノエチルアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン、トリス(2-ピコリル)アミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン等を挙げることができる。メタクリレート系モノマーに対する金属錯体(重合触媒)の量は、0.001~0.1質量%とすることが好ましい。
【0032】
重合時には、触媒の失活を防ぐために還元剤を用いてもよい。還元剤としては、ジラウリン酸スズ、アスコルビン酸などを挙げることができる。また、重合の活性化を促進等すべく、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤を添加してもよい。ATRP法は、バルク重合であってもよく、有機溶剤等を用いる溶液重合であってもよい。
【0033】
ATRP法は、バルク重合であってもよく、有機溶剤等を用いる溶液重合であってもよい。有機溶剤としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤、エーテル系溶剤、アミド系溶剤、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、尿素系溶剤、イオン液体等を用いることができる。極性の高い溶剤を用いることで、重合速度を上げて、高膜厚化することができるために好ましい。具体的には、イオン液体を用いることが好ましく、4級アンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、4級ホスホニウム塩、グアジニウム塩等のイオン液体を用いることがさらに好ましい。
【0034】
重金属を用いない汎用の有機化合物の存在下でメタクリレート系モノマーを重合することも好ましい。有機化合物の存在下で重合する方法としては、可逆的触媒媒介重合法(RCMP法)を挙げることができる。具体的には、ハロゲン化第4級アンモニウム塩、ハロゲン化第4級ホスホニウム塩、及びハロゲン化アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも一種の塩を含有する重合系に基材を浸漬して重合することが好ましい。これにより、市販の安価な有機材料や無機塩を用いて重合することができる。また、金属を除去する必要がないため、環境に対する負荷を低減することができるとともに、工程を簡略化することもできる。
【0035】
ハロゲン化第4級アンモニウム塩としては、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラオクチルアンモニウム、塩化ノニルピリジニウム、塩化コリン等を挙げることができる。ハロゲン化第4級ホスホニウム塩としては、塩化テトラフェニルホスホニウム、臭化メチルトリブチルホスホニウム、ヨウ化テトラブチルホスホニウム等を挙げることができる。ハロゲン化アルカリ金属塩としては、臭化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム等を挙げることができる。
【0036】
塩としては、ヨウ化物塩を用いることが好ましい。ヨウ化物塩を用いることで、リビングラジカル重合が進行し、分子量分布がより狭い前駆体ポリマーを形成することができる。また、ヨウ化第4級アンモニウム塩、ヨウ化第4級ホスホニウム塩、及びヨウ化アルカリ金属塩等の、重合溶液に溶解しうる塩を用いることが好ましく、ヨウ化第4級アンモニウム塩を用いることがさらに好ましい。ヨウ化第4級アンモニウム塩としては、ヨウ化ベンジルテトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラオクチルアンモニウム、ヨウ化デドシルトリメチルアンモニウム、ヨウ化オクタデシルトリメチルアンモニウム、ヨウ化トリオクダデシルメチルアンモニウム等を挙げることができる。これらの塩は触媒として用いられるものであり、前述の有機塩とは異なる。また、これらの塩は触媒として用いるため、前述の有機塩に比して添加量が極めて少ない。
【0037】
活性度を高めるとともに、より濃厚で高分子量のポリマー(i)を形成する観点から、重合開始基に対する塩の量を当モル以上とすることが好ましく、10倍モル以上とすることがさらに好ましく、100倍モル以上としてもよい。
【0038】
重合反応は、通常、常圧条件下で実施される。但し、高分子量のポリマー(i)を安定して形成するには、ラジカル重合由来の停止反応を抑制しつつ、重合時間を長くすることが好ましい。このため、好ましくは10~500MPa、さらに好ましくは50~400MPaの圧力(外圧)条件下でモノマーを表面開始リビングラジカル重合してポリマー(i)を形成することが好ましい。なお、500MPa超の圧力に耐えうる容器や装置を用意するのはやや困難であり、さほど実用的であるとはいえない。
【0039】
重合容器としては、密閉可能であるとともに、高圧に耐えうる容器を用いることが好ましい。また、容器の内部に圧力が伝達される必要があるため、プラスチック製の軟質部分や伸縮部分などの、圧力で変形する部分を有する容器を用いることが好ましい。具体的には、ポリエチレン製の瓶、ペットボトル、レトルトパウチ、ブリスター容器など様々な容器を用いることができる。また、重合時の温度で変形しにくい、耐熱性を有する素材からなる容器が好ましい。さらに、重合用の溶剤等で侵されにくい、耐薬品性や耐溶剤性などの特性を有する素材からなる容器が好ましい。重合容器を構成する素材としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エンジニアプラスチック等を挙げることができる。また、重合時には、可能な限り、重合容器内に気体が入りこまないようにすることが好ましい。例えば、重合容器の容量の90%以上に重合溶液を仕込むことが好ましい。
【0040】
ポリマー(i)の数平均分子量(Mn)は50万~500万であり、好ましくは80万~400万、さらに好ましくは100万~300万である。ポリマー(i)のMnが50万未満であると、形成される前駆体ポリマー層及び親水化膜の厚さが不足する。一方、Mnが500万超のポリマー(i)を重合することは困難であるとともに、副反応での停止反応が多く進行し、分子量分布(PDI)が過度に大きくなる場合がある。なお、本明細書におけるポリマー(i)のMn及びMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GC)により測定されるポリメチルメタクリレート換算の値である。
【0041】
ポリマー(i)の分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.1~2.0であり、好ましくは1.15~1.8、さらに好ましくは1.2~1.5である。PDIが1.1未満のポリマー(i)を形成することは実質的に困難である。一方、PDIが2.0超であると、濃厚ポリマーブラシの性能が十分に発揮されなくなる場合があるとともに、前駆体ポリマー層及び親水化膜の平滑性がやや低下することがある。分子量分布が比較的狭いポリマー(i)を形成することで、ポリマー(i)の成長末端が比較的揃っており、その表面がある程度平坦な前駆体ポリマー層及び親水化膜を設けることができる。また、ポリマー(i)のMn及びPDIを上記の範囲とすることで、基材に対するポリマー(i)の生成密度が高く、十分な厚さの濃厚ポリマーブラシである前駆体ポリマー層及び親水化膜とすることができる。
【0042】
ポリマー(i)のMn及びMwは、基材からポリマー(i)を脱離させて測定することができる。基材からポリマー(i)を脱離させる方法としては、フッ化水素酸や濃アルカリで処理する方法や、加水分解する方法等がある。また、重合開始基を有する化合物(いわゆるフリー開始化合物)を共存させた状態でメタクリレート系モノマーを重合し、基材の表面に結合していないフリーのポリマーを形成する。そして、そのフリー開始化合物から延伸したポリマーのMn及びMwを、ポリマー(i)のMn及びMwと見積もることができる。
【0043】
基材表面に設けられる前駆体ポリマー層の厚さは、500~3,000nmであり、好ましくは600~2,000nm、さらに好ましくは700~1,500nmである。前駆体ポリマー層の厚さが500nm未満であると、基材の表面を親水化するための親水化膜としての性能が発揮されにくくなるとともに、耐摩耗性等の耐久性等が不足する。一方、3,000nm超の厚さの前駆体ポリマー層を形成するには、ポリマー(i)の分子量を非常に大きくする必要があるので、重合時間が過剰に長くなるとともに、ポリマー(i)の分子量分布が広くなりすぎることがある。
【0044】
基材の表面に結合したポリマー(i)の量は、基材の表面1nm当たり0.2分子鎖以上であり、好ましくは0.2~1分子鎖、さらに好ましくは0.2~0.7分子鎖である。基材の表面1nm当たりに結合したポリマー(i)の量は、ポリマー(i)のグラフト密度σ(本/nm)に相当する。ポリマー(i)は、基材表面の重合開始基を起点とし、基材に対して垂直方向に延伸して前駆体ポリマー層を形成している。ポリマー(i)のグラフト密度σを上記の範囲とすることで、高弾性、超低摩擦、サイズ排除効果等の特性を発揮させることができる。グラフト密度σが0.2本/nm未満であると、上記の特性が十分に発揮されない。一方、1本/nm超のグラフト密度σにすることは、一般的には困難である。
【0045】
ポリマー(i)のグラフト密度σ(本/nm)は、下記式(A)により算出することができる。前駆体ポリマー層の厚さは、例えば、エリプソメータ、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を使用し、従来公知の方法にしたがって測定することができる。ポリマー(i)の密度は、従来公知の文献に記載された値や、JIS K 7112:1999等に記載された方法にしたがって測定した値を用いることができる。
σ=dLNAMn ・・・(A)
d:ポリマー(ポリマー(i))の密度
L:ポリマー層(前駆体ポリマー層)の厚さ
NA:アボガドロ数
Mn:ポリマー(ポリマー(i))の数平均分子量
【0046】
(工程(2))
工程(2)では、工程(1)で形成したポリマー(i)に特定の反応剤を反応させて双性イオン基を有するポリマー(ii)を形成する。これにより、ポリマー(ii)を含む親水化膜を基材の表面に設けることができる。
【0047】
ポリマー(i)に反応させる特定の反応剤としては、クロロ酢酸ナトリウム、2-クロロプロピオン酸ナトリウム、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、リン酸エチレンメチル、及びリン酸エチレンエチルからなる群より選択される少なくとも一種を用いる。これらの反応剤をポリマー(i)に反応させるには、例えば、その表面にポリマー(i)を含む前駆体ポリマー層を設けた基材(前駆体基材)を、水、低級アルコール、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒等の極性溶媒、又はこれらの混合溶媒に浸漬するとともに、上記の反応剤を添加すればよい。反応温度は室温(25℃)であってもよく、100℃以下に加熱してもよい。これにより、ポリマー(i)のアミノ基と反応剤が反応し、ポリマー(i)が、アニオン性及びカチオン性を示す双性イオン基を分子内に有するポリマー(ii)へと変換され、ポリマー(ii)を含む親水化膜が基材の表面に配設される。
【0048】
クロロ酢酸ナトリウム、2-クロロプロピオン酸ナトリウムをポリマー(i)に反応させると、塩化ナトリウムが生成し、カルボキシベタイン構造を形成することができる。1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトンをポリマー(i)に反応させるとこれらの反応剤が開環反応して、スルホベタイン構造を形成することができる。また、リン酸エチレンメチル、リン酸エチレンエチルをポリマー(i)に反応させるとこれらの反応剤が開環反応して、リン酸ベタイン構造を形成することができる。いずれの反応剤を用いた場合であっても、アニオン及びカチオンを分子内に有する双性イオン基が導入された親水性のポリマー(ii)が形成され、ポリマー(ii)を含む親水化膜を得ることができる。
【0049】
<表面親水化基材>
上述の製造方法によって、基材の表面上に親水化膜を配設した表面親水化基材を得ることができる。すなわち、本発明の表面親水化基材は、基材と、基材の表面に設けられる、ポリマー(ii)を含む親水化膜と、を備える。基材の表面と、ポリマー(ii)は、下記一般式(3)で表される構造で結合している。ポリマー(ii)は、下記の「親水性モノマー群」より選択される少なくとも一種のモノマーの繰り返し単位を50質量%以上含む。そして、親水化膜の厚さは600~4,000nmであり、基材の表面に結合したポリマー(ii)の量は、基材の表面1nm当たり0.2分子鎖以上である。以下、本発明の表面親水化基材の詳細について説明する。
【0050】
[親水性モノマー群]:
2-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]アセテート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロピオネート、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]ブタン-1-スルホネート、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチルアンモニオ]エチルメチルリン酸、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチルアンモニオ]エチルエチルリン酸、2-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]アセテート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]プロピオネート、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート、-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]ブタン-1-スルホネート、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジエチルアンモニオ]エチルメチルリン酸、2-[2-(メタクリロイルオキシ)エチルジエチルアンモニオ]エチルエチルリン酸、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]アセテート、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]プロピオネート、3-[(3-メタクリロイルアミノプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート、-[(3-メタクリロイルアミノプロピル)ジメチルアンモニオ]ブタン-1-スルホネート、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]エチルメチルリン酸、-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]エチルエチルリン酸
【0051】
(前記一般式(3)中、Aは、O又はNHを示し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、又はアシル基を示し、Rは、メチル基、エチル基、又はアシル基を示し、「Polymer(ii)」はポリマー(ii)を示し、「*」は基材表面との結合位置を示す)
【0052】
基材の表面上に設けられるポリマー(ii)を含む、好ましくはポリマー(ii)で実質的に構成される親水化膜は、前述の通り、前駆体基材の前駆体ポリマー層を構成するポリマー(i)に特定の反応剤を反応させることによって形成することができる。すなわち、特定の反応剤をポリマー(i)に反応させることで、ポリマー(i)が、上記親水性モノマー群より選択される少なくとも一種のモノマー(親水性モノマー)の繰り返し単位を含むポリマー(ii)へと変換され、このポリマー(ii)を含む親水化膜が基材の表面に設けられる。
【0053】
ポリマー(ii)中、上記の親水性モノマーに由来する構成単位の割合は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。ポリマー(ii)中の親水性モノマーに由来する構成単位の割合が50質量%未満であると、形成される親水化膜の親水性が低下する場合がある。
【0054】
基材表面に親水化膜を設ける一般的な方法としては、ベタイン系モノマーに由来する構成単位を有するポリマーを基材表面に塗工する方法等がある。しかし、ベタイン系モノマーに由来する構成単位を有する従来のポリマーを塗工して形成した親水化膜は、耐水性がさほど良好であるとはいえず、また、架橋しにくいために耐久性が低下することが多い。これに対して、表面親水化基材を構成する親水化膜は、ベタイン系モノマーに由来する構成単位を多く含むポリマーで形成されていながらも、その片末端が基材に結合しているため、耐摩耗性等の耐久性に優れている。さらに、親水化膜は十分な厚さを有しており、一般的なコーティング膜に比して耐久性及び親水性に優れている。
【0055】
ポリマー(i)に反応剤を反応させると、ポリマー(i)中のアミノ基がベタイン構造へと変換されるので、前駆体ポリマー層の厚さが増大して親水化膜が形成される。このため、親水化膜の厚さは600~4,000nmであり、好ましくは700~3,000nmである。親水化膜の厚さが600nm未満であると、耐久性及び親水性が不足する。一方、4,000nm超の厚さの親水化膜を形成するには、ポリマー(i)の分子量を非常に大きくする必要があるので、重合時間が過剰に長くなるとともに、ポリマー(i)の分子量分布が広くなりすぎることがあるので、さほど現実的であるとはいえない。
【0056】
基材の表面に結合したポリマー(ii)の量は、基材の表面1nm当たり0.2分子鎖以上であり、好ましくは0.2~1分子鎖、さらに好ましくは0.2~0.7分子鎖である。基材の表面1nm当たりに結合したポリマー(ii)の量は、ポリマー(ii)のグラフト密度σ(本/nm)に相当する。そして、ポリマー(ii)のグラフト密度σは、前駆体であるポリマー(i)のグラフト密度σから大きく変動することはない。したがって、ポリマー(ii)のグラフト密度σを上記の範囲とすることで、高弾性、超低摩擦、サイズ排除効果等の特性を発揮させることができる。
【0057】
本発明の表面親水化基材は、表面に配設した親水化膜が十分な厚さであるとともに、親水化膜を構成するポリマー(ii)が高分子量であり、かつ、ポリマー(ii)が濃密に生成しているため、表面の耐久性及び親水性が良好である。そして、本発明の表面親水化基材は、耐久性に優れた親水化膜を備えることから、屋外用途、摺動用途等の過酷な条件下での使用にも適している。さらに、本発明の表面親水化基材は、親水性に優れているとともに、水等の溶媒で膨潤しうる親水化膜を備えることから、防曇性、耐汚染性、サイズ排除特性、極低摩擦性等の性能を発揮することが期待される。本発明の表面親水化基材は、例えば、医療用部材、電子材料、ディスプレイ材料、半導体材料、機械部品、摺動部材、電池材料等の様々な分野で用いられる物品として好適である。
【実施例
【0058】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0059】
<前駆体基材の製造>
(製造例1)
3cm×7.5cmサイズのシリコン基板を用意した。シリコン基板の表面をイソプロピルアルコール(IPA)で超音波洗浄した後、チップクリーナー(バイオフォースナノサイエンス社製)を使用してUVオゾン照射し、シリコン基板の表面に水酸基を形成させて活性化した。エタノール100部、28%アンモニア水溶液10部、及び2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリメトキシシラン(BPM)1部を入れた容器に活性化したシリコン基板を12時間浸漬した。取り出したシリコン基板をエタノールで洗浄した後、80℃で10分間乾燥させて、その表面に重合開始基を有するシリコン基板(重合開始基付与基材)を得た。得られた重合開始基付与基材の表面の接触角(純水)は60°であった。
【0060】
その内部を窒素ガスで置換したガラス製のサンプル瓶に、臭化銅(II)0.0056部、臭化銅(I)0.0681部、2,2’-ビピリジン(byp)0.17部、メタクリル酸ジメチルアミノエチル(DMAEMA)47.2部、エタノール47.1部、及びブロモイソ酪酸エチル(EBIB、フリー開始化合物)の0.1%エタノール溶液0.2部を入れて撹拌し、茶褐色の重合溶液を得た。ネジ口を有するポリエチレン製の容器に重合溶液及び重合開始基付与基材を入れて密栓した。この容器をアルミラミネート袋に入れるとともに、重合溶液を充填した後、気体を抜きながらヒートシールした。加圧媒体として水を入れた高圧装置(商品名「PV-400」、シンコーポレーション社製)内にアルミラミネート袋を入れ、40℃、400MPaで4時間重合してポリマー(i)を形成した。
【0061】
冷却後、容器内の重合溶液の一部をサンプリングし、1mmol/L塩化リチウム(LiCl)/ジメチルホルムアミド(DMF)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、形成されたポリマー(i)のポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算の数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布(PDI=Mw/Mn)を算出した。形成されたポリマー(i)のMnは255万であり、PDIは1.33であった。
【0062】
容器から取り出した内容物をメタノールで十分に洗浄した後、送風乾燥機を使用して80℃で乾燥させて、虹色干渉を示す前駆体ポリマー層がシリコン基板の表面に設けられた前駆体基材-1を得た。膜厚測定器(商品名「F20-UV」、フィルメトリクス社製を使用して測定した前駆体ポリマー層の厚さは、1,080nmであった。前駆体ポリマー層の厚さ及びポリDMAEMAの密度(1.2)から算出したポリマー(i)のグラフト密度σは、0.29本/nmであった。表面赤外分光光度計(表面IR)を使用して分析し、ポリDMAEMAの特徴であるエステル結合(1,725cm-1)及びアミノ基(1,150cm-1)に由来する吸収を有することを確認した。
【0063】
(製造例2~4)
表1に示す種類のモノマーを用いたこと、並びに表1に示す圧力及び重合時間で重合したこと以外は、前述の製造例1と同様にして、前駆体ポリマー層がシリコン基板の表面に設けられた前駆体基材-2~4を得た。表1中の略号の意味を以下に示す。
・DEAEMA:メタクリル酸ジエチルアミノエチル
・DMPMAM:ジメチルプロピルメタクリルアミド
【0064】
【0065】
(製造例5)
その内部を窒素ガスで置換したガラス製のサンプル瓶に、製造例1で得た重合開始基付与基材、テトラブチルアンモニウムヨージド(TBAI)1.25部、DMAEMA40部、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(MDPA)40部、及びEBiB0.001部を入れて撹拌し、淡黄色の重合溶液を得た。次いで、前述の製造例1と同様に、80℃、400MPaで6時間重合してポリマー(i)を形成するとともに、前駆体ポリマー層がシリコン基板の表面に設けられた前駆体基材-5を得た。ポリマー(i)のMnは174万であり、PDIは1.45であった。また、前駆体ポリマー層の厚さは670nmであり、グラフト密度σは0.27本/nmであった。この製造例5は、前述の製造例1~4(原子移動ラジカル重合法(ATRP法))と異なり、ハロゲン交換を伴う可逆的触媒媒介重合法(RCMP法)によってポリマー(i)を形成した例である。
【0066】
<親水化膜の製造(表面親水化基材の製造)>
(実施例1)
ガラス製のサンプル管に、1,3-プロパンスルトン12.2部、アセトニトリル20部、及び水80部を加えて溶解させた。製造例1で製造した前駆体基材-1を浸漬し、60℃で12時間反応させて双性イオン基を有するポリマー(ii)を形成した。冷却後に取り出した内容物をメタノール及び純水で十分に洗浄した後、送風乾燥機を使用して80℃で乾燥させて、ポリマー(ii)で構成された親水化膜が基材の表面に設けられた表面親水化基材を得た。親水化膜の表面IRを測定し、スルホニル基に由来する1,030cm-1付近に吸収を有することを確認した。形成された親水化膜の厚さは1,670nmであり、前駆体ポリマー層よりも膜厚が増大したことを確認した。接触角計を使用して測定した親水化膜表面の接触角(水)は8°であり、十分な親水性を有していることを確認した。得られた表面親水化基材を構成する親水化膜は、ポリ[3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート]が基材表面に濃密にグラフトすることで形成された膜である。
【0067】
(実施例2)
ガラス製のサンプル管に、2-クロロ酢酸ナトリウム1.2部及び水100部を加えて溶解させた。製造例2で製造した前駆体基材-2を浸漬し、60℃で12時間反応させて双性イオン基を有するポリマー(ii)を形成した。冷却後に取り出した内容物を純水で十分に洗浄した後、送風乾燥機を使用して80℃で乾燥させて、ポリマー(ii)で構成された親水化膜が基材の表面に設けられた表面親水化基材を得た。親水化膜の表面IRを測定し、カルボキシレート基に由来する1,600cm-1付近に吸収を有することを確認した。形成された親水化膜の厚さは1,510nmであり、前駆体ポリマー層よりも膜厚が増大したことを確認した。親水化膜表面の接触角(水)は9°であり、十分な親水性を有していることを確認した。得られた表面親水化基材を構成する親水化膜は、ポリ[3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジエチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート]が基材表面に濃密にグラフトすることで形成された膜である。
【0068】
(実施例3)
ガラス製のサンプル管に、リン酸エチレンメチル1.2部、アセトニトリル20部、及び水80部を加えて溶解させた。製造例3で製造した前駆体基材-3を浸漬し、60℃で12時間反応させて双性イオン基を有するポリマー(ii)を形成した。冷却後に取り出した内容物を純水で十分に洗浄した後、送風乾燥機を使用して80℃で乾燥させて、ポリマー(ii)で構成された親水化膜が基材の表面に設けられた表面親水化基材を得た。親水化膜の表面IRを測定し、リン酸塩基に由来する1,050cm-1付近に吸収を有することを確認した。形成された親水化膜の厚さは1,260nmであり、前駆体ポリマー層よりも膜厚が増大したことを確認した。親水化膜表面の接触角(水)は10°であり、十分な親水性を有していることを確認した。得られた表面親水化基材を構成する親水化膜は、ポリ-[[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニオ]エチルメチルリン酸が基材表面に濃密にグラフトすることで形成された膜である。
【0069】
(実施例4及び5)
表2に示す種類の前駆体基材及び反応剤を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして双性イオン基を有するポリマー(ii)を形成し、ポリマー(ii)で構成された親水化膜が基材の表面に設けられた表面親水化基材を得た。実施例4で得た表面親水化基材を構成する親水化膜は、ポリ3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネートが基材表面に濃密にグラフトすることで形成された膜である。また、実施例4で得た表面親水化基材を構成する親水化膜は、ポリ-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロピオネートが基材表面に濃密にグラフトすることで形成された膜である。
【0070】
【0071】
(比較例1)
その内部を窒素ガスで置換したガラス製のサンプル瓶に、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート28部、メタノール140部、臭化銅(II)0.0028部、臭化銅(I)0.034部、byp0.086部、及びEBIBの0.1%メタノール溶液0.98部を入れて撹拌し、重合溶液を得た。ネジ口を有するポリエチレン製の容器に重合溶液及び重合開始基付与基材を入れて密栓した。この容器をアルミラミネート袋に入れるとともに、重合溶液を充填した後、気体を抜きながらヒートシールした。加圧媒体として水を入れた高圧装置内にアルミラミネート袋を入れ、40℃、400MPaで4時間重合してポリマーを形成した。冷却後、容器内の重合溶液の一部をサンプリングし、50mmol/Lトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩緩衝液を展開溶媒とするGPCにより、形成されたポリマーのポリエチレンオキシド換算のMnを測定し、PDIを算出した。形成されたポリマーのMnは32万であり、PDIは1.38であった。容器から取り出した内容物を純水で十分に洗浄した後、送風乾燥機を使用して80℃で乾燥させて、親水化膜がシリコン基板の表面に設けられた表面親水化基材を得た。親水化膜の厚さは75nmであり、ポリマーのグラフト密度σは0.17本/nmであった。
【0072】
(比較例2)
ガラス製のサンプル管に、2-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]アセテート(CBMA)32.3部及び純水32.3部を入れて、CBMA水溶液を調製した。一方、その内部を窒素ガスで置換したガラス製のサンプル瓶に、臭化銅(II)0.0042部、臭化銅(I)0.051部、byp0.13部、2-ブロモ-2-メチルプロパン酸2-ヒドロキシエチル(フリー開始化合物)の0.1%水溶液1.58部を入れて撹拌した。さらに、CBMA水溶液を添加して重合溶液を得た。ネジ口を有するポリエチレン製の容器に重合溶液及び重合開始基付与基材を入れて密栓した。この容器をアルミラミネート袋に入れるとともに、重合溶液を充填した後、気体を抜きながらヒートシールした。加圧媒体として水を入れた高圧装置内にアルミラミネート袋を入れ、40℃、400MPaで4時間重合してポリマーを形成した。冷却後、容器内の重合溶液の一部をサンプリングし、50mmol/Lトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩緩衝液を展開溶媒とするGPCにより、形成されたポリマーのポリエチレンオキシド換算のMnを測定し、PDIを算出しようとした。しかしながら、十分量のポリマーが存在していなかったことから、Mn及びPDIを測定及び算出することができなかった。容器から取り出した内容物を純水で十分に洗浄した後、送風乾燥機を使用して80℃で乾燥させて、親水化膜がシリコン基板の表面に設けられた表面親水化基材を得た。親水化膜の厚さは18nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製造方法によって製造される親水化膜は、超親水性の濃厚ポリマーブラシであり、高反発、親水性等の性質を基材の表面に付与することができる。さらに、膨潤させることで、極低摩擦性、サイズ排除特性、耐汚染性、高付着防止性等の特性を発揮させることができる。さらに、親水性が高いことから、防曇性、耐油性、耐汚染性等の性質を基材の表面に付与することができるため、例えば、自動車、航空機、電子機器、家電、電池部材、医療用材料、ディスプレイ材料等の部品に適用する材料として有用である。また、本発明の製造方法によれば、安価な装置及び安価な材料を用いることで親水性の濃厚ポリマーブラシを容易に製造することができるため、大量生産にも適している。