(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】黒色化された針を洗浄するための無害の洗浄溶液及びプロセス
(51)【国際特許分類】
C23G 1/08 20060101AFI20241217BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20241217BHJP
B08B 3/12 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C23G1/08
B08B3/08 Z
B08B3/12 Z
(21)【出願番号】P 2021573480
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 IB2020055331
(87)【国際公開番号】W WO2020250099
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-05-16
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512080321
【氏名又は名称】エシコン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ethicon, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】オウ・デュアン・リ
(72)【発明者】
【氏名】バイレ・クリストフ
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-045745(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0114883(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104294292(CN,A)
【文献】特開2011-240318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00-5/06
B08B 3/00-3/14
C23C 22/00-22/86
A61B 17/06,90/00-90/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色化された外科用縫合針を処理する方法であって、
a.遊離した黒色酸化物粒子をその表面に有する少なくとも1つの黒色化された外科用縫合針を、浴に配置することであって、前記浴が、
i.
0.5重量%以上5重量%未満のクエン酸、及び
ii.超音波源、を含む、配置することと、
b.
0.25分以上10分未満、前記
超音波源からの超音波を前記浴に印加
して、前記黒色化された外科用縫合針の前記表面から前記遊離した黒色酸化物粒子を除去し、かつ前記黒色化された外科用縫合針の黒色を維持することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記クエン酸
が、
水性
溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クエン酸の濃度が、
0.75重量%
以上5重量%
未満(水性)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記クエン酸の濃度が、
1.0重量%(水性)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記超音波の周波数が、
40kHzである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記超音波の電力が、
80ワット~
320ワットの範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
超音波処理の時間が、5分未満である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
超音波処理の時間が、3分未満である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
超音波処理の時間が、1分未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
黒色化された外科用縫合針を処理するための
方法で使用されるシステム
であって、超音波源、およびクエン酸浴を含み、前記方法が、
a.遊離した黒色酸化物粒子をその表面に有する少なくとも1つの黒色化された外科用縫合針を、前記クエン酸浴に配置することであって、前記クエン酸浴が、0.5重量%以上5重量%未満のクエン酸を含む、配置することと、
b.前記超音波源から超音波を前記クエン酸浴に、0.25分以上10分未満、印加して、前記黒色化された外科用縫合針の前記表面から前記遊離した黒色酸化物粒子を除去し、かつ前記黒色化された外科用縫合針の黒色を維持することと、を含む、システム。
【請求項11】
前記クエン酸
が、
水性
溶液である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記クエン酸の濃度が、
0.75重量%
以上5重量%
未満(水性)である、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記クエン酸の濃度が、
1.0重量%(水性)である、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記超音波の周波数が、
40kHzである、請求項10~13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記超音波の電力が、
80ワット~
320ワットの範囲である、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
超音波処理の時間が、5分未満である、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
超音波処理の時間が、3分未満である、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
超音波処理の時間が、1分未満である、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記黒色化された外科用縫合針は、黒色酸化物コーティングを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記黒色化された外科用縫合針の黒色は、前記黒色酸化物コーティングに由来する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記黒色酸化物コーティングは、酸化鉄(Fe
3
O
4
)系層を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記黒色化された外科用縫合針は、黒色酸化物コーティングを有する、請求項10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関する技術分野は、外科用縫合針の製造プロセスであり、より具体的には、外科用縫合針からの金属酸化物残滓の除去のためのプロセスである。
【背景技術】
【0002】
外科用縫合針は、典型的には、外科用ステンレス鋼及び他の生体適合性金属合金等の従来の金属から作製される。針は、組織への通過を容易にし、かつ汚染物又は異物の付着を最小限にするために、平滑な外面を有することが望ましい。針表面は、典型的には、明るく、光沢があり、かつ反射性である、平滑な表面を提供するように研磨される。外科用縫合針は、典型的には、組織内を複数回通過する針の貫通を改善するため、シリコーンコーティングでコーティングされる。
【0003】
内視鏡及び腹腔鏡外科手術等の、ある一定のタイプの外科手術では、外科医は、手術野のカメラ及びスクリーン表示を介して遠隔で手術部位を表示する。このような外科手術では、外科チームは、光沢のある反射面のために従来の外科用縫合針を見ることを困難に感じ得ることが知られている。このことは、組織貫通点を有する針の遠位端に特に当てはまる。腹腔鏡縫合処置を行う際に、迅速かつ効率的に針及び針先の位置を特定できないことが、黒色化された表面を有する外科用縫合針の開発につながっている。黒色化された針は、手術野におけるより良好な可視性を有することが証明されており、多くの場合は、間接可視化を利用した最小侵襲性外科手術で好まれる。
【0004】
外科用縫合針の明るく光沢のある表面を黒色化するための黒色化プロセスは、当技術分野で既知である。プロセスは、化学浴、プラズマへの曝露、レーザーエネルギー、酸化フューム(oxidizing fumes)等を含み得る。黒色化プロセスの目的は、酸化鉄(Fe3O4)系層をステンレス鋼の針の表面上に形成して、黒色化された外観を提供することである。
【0005】
黒色化プロセスの一部に関する問題は、遊離した黒色酸化物残滓又は粒子が、黒色化プロセスの後に針に残る場合があることである。針のコーティング自体の付着完全性が損なわれ得るため、粒子が針の上の更なるコーティングの妨げになることが望ましくないことから、遊離した粒子の除去は重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、当技術分野において、環境にやさしく、安全で、かつ費用効率の良い、黒色化された外科用縫合針から金属酸化物残滓を除去するための新規の方法及びプロセスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
無害の洗浄溶液/プロセスが、黒色化された針の表面から酸化物残滓を除去するために開発されてきた。低濃度のクエン酸溶液を、黒色化された針と混合し、超音波槽中で短時間(5分未満)処理する。酸化物残渣は、実質的に除去される。驚くべきことに、また予想外に、洗浄された針の貫通性能は、最大50%大幅に改善される。
【0008】
本発明の一実施形態は、黒色化された外科用縫合針を処理する方法であって、
a.遊離した黒色酸化物粒子をその表面に有する少なくとも1つの黒色化された外科用縫合針を、浴に配置することであって、浴が、
i.有効量のクエン酸、及び
ii.超音波源、を含む、配置することと、
b.針の表面から遊離した黒色酸化物粒子を除去するのに十分な時間、超音波を浴に印加することと、を含む、方法に関する。
【0009】
本発明の別の実施形態は、超音波浴及びクエン酸を含む、遊離した黒色酸化物粒子を有する黒色化された外科用縫合針を処理するためのシステムに関する。
【0010】
本発明のこれら及び他の態様及び利点は、以下の説明からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
黒色化された針
本発明により黒色化及び処理され得る外科用縫合針は、従来の外科グレードのステンレス鋼合金から作製された従来の形状を有する従来の外科用縫合針を含む。ステンレス鋼合金としては、限定するものではないが、タイプ455、タイプ316、タイプ4310、タイプ420等が挙げられる。本発明のプロセスを使用して黒色化され得るステンレス鋼合金の別のタイプは、Ethicon,Inc.(Somerville,NJ 08876 USA)から入手可能な専有合金「ETHALLOY」である。ETHALLOY合金の組成物は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,000,912号に記載されている。本発明のプロセス、浴、及びシステムは、針に加え、このような合金から作製された、他の種類の医療デバイスの表面を黒色化するためにも使用され得る。
【0012】
針を黒色化するために有用な処理備品としては、開放型桶、槽、混合装置、及びバスケット等の従来の処理備品が挙げられる。備品としては、高速針製造プロセスを使用するときにストリップ上の針を受容するために特別に設計され、適合された槽が挙げられ得る。備品は、ナイロン、ガラス、PEEK、Teflon、PVDF等の従来の耐食性材料で作製されることになる。備品は、接触面をセラミック、PTFE、FEP等の従来の耐食性コーティングでコーティングされた接触面を有する、アルミニウム及びステンレス鋼等の従来の金属で作製されてもよい。
【0013】
針は、水性組成物を含有する浴中で前処理され得る。これらの前処理浴は、有効な前処理を提供するのに十分な量の浴原料を有することになる。前処理浴は、典型的には約8重量%~約20重量%、より典型的には約10重量%~約18重量%、好ましくは約15重量%~約17重量%の水溶性塩化物塩を含有することになる。前処理浴はまた、約5重量%~約15重量%、より典型的には約6重量%~約10重量%、好ましくは約7重量%~約8重量%の無機酸を含有することになる。また、前処理浴は、典型的には約60重量%~約90重量%、より典型的には約70重量%~約80重量%、好ましくは約75重量%~約78重量%の水を含有することになる。前処理浴に有用な水溶性塩化物塩としては、限定するものではないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等が挙げられる。前処理浴に有用な無機酸としては、限定するものではないが、リン酸、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。前処理浴のpHは、典型的には約0.1~約1.2、より典型的には約0.3~約1、好ましくは約0.5~約0.8の範囲となる。
【0014】
黒色化浴組成物は、水性組成物であることが望ましい。黒色化浴は、針の表面の有効な黒色化を提供するのに十分な量の浴原料を有することになる。黒色化浴は、典型的には約18重量%~約38重量%、より典型的には約20重量%~約35重量%、好ましくは約26重量%~約30重量%の強塩基を含有することになる。本発明の黒色化浴は、典型的には約3重量%~約20重量%、より典型的には約5重量%~約15重量%、好ましくは約11重量%~約13重量%の高可溶性硝酸塩を含有することになる。また、黒色化浴は、典型的には約50重量%~約75重量%、より典型的には約55重量%~約70重量%、好ましくは約58重量%~約65重量%の水を含有することになる。本発明の黒色化浴に有用な硝酸塩としては、限定するものではないが、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム等が挙げられる。本発明の黒色化浴に有用な強塩基としては、限定するものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。
【0015】
黒色化浴は、2つの異なる前駆体を含有する成分を含有して、遷移金属硫化物を形成し得る。第1の前駆体は、強酸の遷移金属塩である。このような前駆体としては、限定するものではないが、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硝酸鉄、過塩素酸銅、過塩素酸ニッケル、過塩素酸イオン、過塩素酸コバルト等が挙げられる。第2の前駆体は、イオウ含有還元剤である。このような第2の前駆体としては、限定するものではないが、N,N’-ジエチルチオ尿素、チオシアン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム等が挙げられる。形成される遷移金属硫化物化合物としては、限定するものではないが、NiS、CoS、Ag2S等が挙げられ得る。本発明の黒色化浴の本実施形態に含まれる強酸の遷移金属塩の量は、典型的には約0.1重量%~約3重量%、より典型的には約0.2重量%~約2重量%、好ましくは約0.3重量%~約1重量%である。本発明の黒色化浴の本実施形態に含まれるイオウ含有還元剤の量は、典型的には約0.1重量%~約3重量%、より典型的には約0.2重量%~約2重量%、好ましくは約0.3重量%~約1重量%である。
【0016】
代替の実施形態では、黒色化浴は、高溶解性過マンガン酸塩とも呼ばれるマンガン含有酸化剤も含有してもよく、限定するものではないが、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、及び過マンガン酸リチウム等が挙げられる。第2の実施形態の浴はまた、チオシアン酸塩を含有することになる。黒色化浴の本実施形態で有用なチオシアン酸塩としては、限定するものではないが、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム等が挙げられる。本発明の黒色化浴のこの第2の実施形態におけるマンガン含有酸化剤(高可溶性過マンガン酸塩)の量は、典型的には約0.1重量%~約5重量%、より典型的には約0.2重量%~約3重量%、好ましくは約0.3重量%~約1重量%である。本発明の黒色化浴の本実施形態に含まれるチオシアン酸塩の量は、典型的には約0.1重量%~約5重量%、より典型的には約0.2重量%~約3重量%、好ましくは約0.3重量%~約1重量%である。
【0017】
黒色化浴の代替の実施形態は、任意選択的に、黒色酸化物層の色を増強し、かつ黒色化浴の繰り返しの利用を可能にするためにいくつかの添加剤を含み得る。添加剤としては、限定するものではないが、1.モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウムを含むモリブデン酸塩と、2.塩化ナトリウムと、が挙げられる。本実施形態において任意選択的に提示されるモリブデン酸塩の量は、有効な黒色化の増強を提供するのに十分であり、典型的には0.1重量%~約3重量%の範囲となる。本実施形態において任意選択的に提示される塩化ナトリウムの量は、有効な黒色化の増強を提供するのに十分であり、典型的には0.3重量%~約1重量%の範囲となる。
【0018】
前処理浴組成物及び黒色化浴組成物は、従来のプロセス及び混合備品を使用した従来の方式で作製されてもよい。例えば、黒色化及び前処理浴組成物は、以下の方法で作製されてもよい。すなわち、全ての固体成分が水溶液に完全に溶解されるまで、最大約1時間の十分に有効な時間、機械式ミキサーを使用して全ての成分を混合する。
【0019】
外科用縫合針を黒色化するための望ましい方法は、2つの主要な工程からなる。初期工程は、針の黒色化工程の前に実行される前処理工程である。前処理工程では、表面酸化物が、針の表面から除去される。第2の工程は、針の黒色化工程である。黒色化工程では、黒色酸化物コーティングが、針の表面上に形成される。
【0020】
前処理工程は、表面酸化物を除去するために行われる。ステンレス鋼は、それらを耐食性にするクロム酸化物の層で覆われる。この酸化物層は、結果的に表面を不動態化し、更なる化学処理に耐える。活性化溶液は、酸化クロムと反応し、ステンレス鋼製の針の表面が、第2の黒色化工程で利用される様々な黒色化溶液に化学的に受容されることを可能にする。機械油及びグリース等の針表面に存在するあらゆる表面汚染物も、この工程で除去される。塩酸、リン酸、及び硫酸等の様々な酸が、この目的のために高温で一般に使用される。したがって、第1の工程は、典型的には約10分~約1時間持続する酸洗プロセス工程とも呼ばれる。以下の表1に列挙される前処理浴の配合物は、インラインプロセスに適合された30秒の活性化プロセスと、3分の大規模なバッチ式プロセスとのために開発された。この浴配合物に対するプロセス温度は、有害物質のヒュームの形成を防止するため、溶液の沸点よりかなり低い80℃である。
【0021】
前処理プロセスでは、上述の前処理浴溶液は、従来の混合備品及びプロセス備品を使用して調製される。溶液は、所望の寸法及び容積を有する従来の浴容器に移送される。前処理プロセス工程は、バッチ式プロセス又は連続プロセスとして行うことができる。浴構成が、前処理プロセスがバッチ式であるか連続的であるかによって異なることも理解されよう。バッチ式プロセスでは、針は、典型的には、バスケットに装填され、浴溶液の浴中に浸漬される。針は、針の表面を有効に前処理するのに十分な温度で十分な時間、浴中に維持される。時間は、バッチ内の針の量に応じて、典型的には約30秒~約1時間、より典型的には約1分~約30分、好ましくは約2分~約5分の範囲となる。前処理浴の温度は、典型的には、約60℃~約100℃、より典型的には約70℃~約90℃、好ましくは約75℃~約85℃の範囲となる。
【0022】
連続プロセスでは、針は、典型的には、高速針動作における製造ステーション間の急速移動のためのストリップに取り付けられる。このようなプロセスでは、ストリップに取り付けられた針は、ストリップに取り付けられる間、前処理浴中を移動する。針は、針の表面を有効に前処理するのに十分な温度で十分な時間、浴中に維持される。時間は、典型的には約20秒~約60秒、より典型的には約25秒~約45秒、好ましくは約30秒~約40秒の範囲となる。前処理浴の温度は、典型的には約60℃~約100℃、より典型的には約70℃~約80℃、好ましくは約75℃~約85℃の範囲となる。
【0023】
黒色化プロセスは、前処理プロセスと同様に実行される。黒色化プロセスでは、上述の黒色化浴溶液が、従来の混合備品及びプロセス備品を使用して調製される。溶液は、所望の寸法及び容積を有する従来の浴容器に移送される。黒色化プロセス工程は、バッチ式プロセス又は連続プロセスとして行うことができる。浴構成が、黒色化プロセスがバッチ式であるか連続的であるかに応じて異なることも理解されよう。いずれの場合も、浴は、従来の備品によって任意選択的に攪拌されてもよい。バッチ式プロセスでは、針は、典型的には、バスケットに装填され、浴溶液の浴中に浸漬される。バッチにおける針の量は、システムのサイズに応じて変更され得、例えば、10本未満~10,000本超の針の範囲であり得る。針は、針の表面を有効に処理して黒色化した表面を得るのに十分な温度で十分な時間、浴中に維持される。時間は、典型的には約1分~約60分、より典型的には約2分~約30分、好ましくは約2分~約4分の範囲となる。黒色化処理浴の温度は、典型的には約90℃~約140℃、より典型的には約95℃~約110℃、好ましくは約98℃~約105℃の範囲となる。連続プロセスでは、針は、典型的には、高速針動作における製造ステーション間の急速移動のためのストリップに取り付けられる。このようなプロセスでは、ストリップに取り付けられた針は、ストリップに取り付けられる間、黒色化浴中を移動する。針は、針の表面を有効に黒色化するのに十分な温度で十分な時間、浴中に維持される。処理浴における針の典型的な数は、例えば、一度に20本以下から100本以上の範囲であり得る。処理時間は、典型的には約5秒~約40秒、より典型的には約10秒~約30秒、好ましくは約15秒~約25秒の範囲となる。黒色化処理浴の温度は、典型的には約90℃~約140℃、より典型的には約95℃~約110℃、好ましくは約98℃~約105℃の範囲となる。
【0024】
無害の洗浄溶液及びプロセス
酸化物残滓洗浄プロセスのための方法が、黒色化された針の表面からの酸化物残滓の完全な又は実質的に完全な除去を確実にするために開発されてきた。新規の方法の独自の特徴は、その工程の各々についての、その短いプロセス時間(わずか30秒)である。これは、大規模な針黒色化プロセスの全自動のバッチ式プロセス及びロボット備品に理想的であり、この場合、15,000本の針のバッチが、2分で黒色になる。本発明の新規の方法及び組成物は、生産中にコーティング槽の内面及び黒色化された針上に形成及び堆積された大量の黒色酸化物副生成物の除去に対処する。
【0025】
更に、黒色化された針の表面上の遊離した酸化物層は、シリコーン潤滑層と針との間の付着に影響を及ぼす。新しい黒色針上のシリコーンコーティングは、同じ幾何学的形状を有する従来の針よりも容易にはがれる傾向にあり、貫通性能の不良をもたらす。
【0026】
この問題を克服するために、黒色化された針のバッチ全体を、黒色化プロセスの最後に、1%のクエン酸を含有する超音波バッチに配置した。針を、超音波条件で1分間処理して、水中で2回すすいだ。短い洗浄時間は、自動プロセスに重要である。
【0027】
好適な超音波浴に関し、任意の市販の超音波浴システムが好適であるが、但し、システムがクエン酸溶液中のキャビテーション(微小気泡を形成する)及び形成された微小気泡の爆縮を発生させることができることが条件である。浴のサイズは、処理される針の数に応じて変更してもよい。例えば、半ガロンのサイズの超音波浴は、300本の心針を処理するのに十分大きい。Branson Ultrasonics of Danbury,Connecticutにより提供される市販の超音波洗浄器は、半ガロン、4分の3ガロン、1.5ガロン、2.5ガロン、及び5.5ガロンサイズで利用可能であり、上述のサイズの単位において、それぞれ約80、130、130、185、及び320ワットの電力定格を用いて、約40kHzの周波数で動作する。
【実施例1】
【0028】
参照によりその開示全体が本明細書に組み込まれる米国特許公開第2017/0370004号の実施例5に記載の手順に従って、6000 6ミルのテーパーポイント心針(BV050606D01)を黒色化した。黒色化された針を、各々約300本のいくつかの組に分けた。各組の針を、半ガロン超音波浴Branson ultrasonic cleaner(モデル:1510R-MTH)において、表1に記載の様々な配合物の1%の水溶液中に、周囲温度で1分間配置した。超音波洗浄された針を、4.5%のNusil MED4162ヘプタン溶液でコーティングする前に、更に水中で2回すすいだ。シリコーンコーティングされた針を、200Cで4時間硬化させ、シリコーンコーティングプロセスを3回繰り返した。各組の針は、4層のシリコーンコーティングを受容した。
【0029】
針試験手順
医療デバイスのコーティング性能は、様々な摩擦又は付着試験で試験され得る。外科用縫合針の場合、コーティング性能及び完全性は、貫通試験デバイスを使用して評価される。コーティングされた外科用縫合針を、自動ロック式ピンセット、又は同様の保持デバイスを使用して保持する。その後、コーティングされた針を、一般的なヒト組織を表す媒体に通過させる。針の長さの約半分を媒体に通過させ、その後、次の通過前に引き抜く。試験媒体は、典型的には、合成ゴムの一種である(Duraflex(商標),Manufacture by Monmouth Rubber and Plastic Corporation,Monmouth,NJ)。典型的な試験は、個々に媒体に各10回通過した10本の針を使用することを含む。各通過における最大力を記録し、コーティング性能の指標として使用する。典型的には、貫通力は、コーティングが針から擦り減るにつれて、一連の各階の通過に伴って増加する。備品及び方法に関する更なる詳細は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,181,416号にも見られ得る。
【0030】
全5組のコーティングされた針を、2組の対照試料と共にこの手順で試験した。結果を表1にまとめる。
【0031】
【0032】
表1を参照すると、クエン酸は、最低の針貫通力によって示されるように、黒色化された針に最も有効な洗浄を提供することが示される。より低い貫通力によって証明されるように、クエン酸で洗浄された針において、シリコーンコーティングと黒色化された針の表面との間に最良の付着が観察された。潤滑剤の付着が不良である場合、針上のシリコーン潤滑層は最小限のものとなり、針上の潤滑剤の欠如に起因したより高い貫通力により示されるように、貫通試験中に容易にはがれる。
【実施例2】
【0033】
洗浄プロセスに異なる濃度のクエン酸を使用し、8つのバッチの針を、超音波浴中で異なる濃度のクエン酸で1分間洗浄した。更に2つの組の対照試料もこの実験に含めた。第1の組の対照試料を1%のクエン酸溶液に浸漬した(超音波浴中ではない、対照3)。もう一方の組の試料をTriton(商標)X-100界面活性剤中で洗浄した。(Triton(商標)X-100界面活性剤は、Dow Chemicalの市販の界面活性剤であり、0.06%のオクチルフェノールエトキシレートを水溶液中に含む)同様の実験を、上述の手順を使用して実行し、貫通性能に対するその有効性を評価し、結果を表2にまとめる。
【0034】
【0035】
表2を参照すると、0.75%以上のクエン酸濃度では、表2で概説された貫通試験結果により示されるように、黒色化された針の表面上の酸化物残滓の十分な除去が観察される。洗浄溶液の濃度が5%に到達すると、洗浄された針の色が消え始めることが観察された。これらの黒色化された針を、超音波条件下で1分間10%のクエン酸により洗浄すると薄茶色に変化した。既存の界面活性剤系洗浄プロセスはこの種類の黒色化された針には提供されないため、有効な洗浄を提供するためには超音波浴が必要とされる。
【0036】
1%のクエン酸溶液について様々な超音波処理時間を調査し、貫通性能に対するその有効性を評価した。結果を表3にまとめる。非超音波条件の対照実験もこの表に含めた。
【0037】
【0038】
表3を参照すると、表3に概説されたより低い貫通力によって証明されるように、0.5分以上の超音波処理時間では、黒色化された針の表面からの酸化物残滓の十分な除去が観察される。超音波浴の洗浄時間が10分に到達すると、洗浄された針の色が消え始めることも観察された。
【0039】
まとめると、低コストで無害の洗浄方法が、黒色化された針の表面上の酸化物残滓を除去するために開発された。クエン酸及び/又は超音波撹拌の組み合わせによって、遊離した酸化物粒子の制御された除去が提供されて、外科用縫合針に必要な色及び貫通性能の良好なバランスが提供される。洗浄溶液中のクエン酸の濃度は、ソフトドリンクのソーダにおけるものと同様に、作業者及び環境に安全である。
【0040】
以上、本発明をその詳細な実施形態について図示及び説明してきたが、当業者であれば、特許請求される発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく本発明の形態及び詳細に様々な変更を行い得る点が理解されるであろう。
【0041】
〔実施の態様〕
(1) 黒色化された外科用縫合針を処理する方法であって、
a.遊離した黒色酸化物粒子をその表面に有する少なくとも1つの黒色化された外科用縫合針を、浴に配置することであって、前記浴が、
i.有効量のクエン酸、及び
ii.超音波源、を含む、配置することと、
b.前記針の表面から遊離した黒色酸化物粒子を除去するのに十分な時間、前記超音波を前記浴に印加することと、を含む、方法。
(2) 前記クエン酸の濃度が、約0.5重量%~5重量%(水性)である、実施態様1に記載の方法。
(3) クエン酸の濃度が、約0.75重量%~5重量%(水性)である、実施態様2に記載の方法。
(4) クエン酸の濃度が、約1.0重量%(水性)である、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記超音波の周波数が、約40kHzである、実施態様1~4のいずれかに記載の方法。
【0042】
(6) 前記超音波の電力が、約80ワット~約320ワットの範囲である、実施態様5に記載の方法。
(7) 超音波処理の時間が、5分未満である、実施態様5に記載の方法。
(8) 超音波処理の時間が、3分未満である、実施態様7に記載の方法。
(9) 超音波処理の時間が、1分未満である、実施態様8に記載の方法。
(10) 超音波浴及びクエン酸を含む、黒色化された外科用縫合針を処理するためのシステム。
【0043】
(11) 前記クエン酸の濃度が、約0.5重量%~5重量%(水性)である、実施態様10に記載のシステム。
(12) クエン酸の濃度が、約0.75重量%~5重量%(水性)である、実施態様11に記載のシステム。
(13) クエン酸の濃度が、約1.0重量%(水性)である、実施態様12に記載のシステム。
(14) 前記超音波の周波数が、約40kHzである、実施態様10~13のいずれかに記載のシステム。
(15) 前記超音波の電力が、約80ワット~約320ワットの範囲である、実施態様14に記載のシステム。
【0044】
(16) 超音波処理の時間が、5分未満である、実施態様14に記載のシステム。
(17) 超音波処理の時間が、3分未満である、実施態様16に記載のシステム。
(18) 超音波処理の時間が、1分未満である、実施態様17に記載のシステム。