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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】チーズ様食品
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/09 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
A23C19/09
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020062875
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021158959
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】尼岡 大輝
(72)【発明者】
【氏名】大野 直
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-184687(JP,A)
【文献】特開2018-183064(JP,A)
【文献】特開2016-149991(JP,A)
【文献】特開2017-158454(JP,A)
【文献】特表2018-518159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チーズ原料と、加工デンプンと、植物油脂と、を含むチーズ様食品であって、前記加工デンプンを、前記チーズ様食品全体に対して10質量%を超えて含有し、
前記加工デンプンが、馬鈴薯由来の加工デンプンであり、
前記植物油脂が、パーム油及びヤシ油であり、
前記チーズ様食品の油脂及び水分含有量の総計に対する加工デンプン含有量の質量比が、0.10以上である、チーズ様食品。
【請求項2】
77~82℃の何れかの温度における前記チーズ様食品の粘度が、100,000cP以下である請求項1に記載のチーズ様食品。
【請求項3】
ホエイパウダーを含有する請求項1又は2に記載のチーズ様食品。
【請求項4】
前記チーズ様食品の水分含有量が、前記チーズ様食品全体に対して40質量%以上である請求項1~3の何れか一項に記載のチーズ様食品。
【請求項5】
前記植物油脂の含有量が、前記チーズ様食品全体に対して7~17質量%である、請求項1~4の何れか一項に記載のチーズ様食品。
【請求項6】
前記チーズ様食品の前記加工デンプンの含有量に対するチーズ原料の含有量の質量比が、1.00以上である、請求項1~5の何れか一項に記載のチーズ様食品。
【請求項7】
エイパウダーの含有量が、前記チーズ様食品全体に対して4質量%以上である、請求項1~6の何れか一項に記載のチーズ様食品。
【請求項8】
チーズ原料と加工デンプンと植物油脂とを含む原材料を加熱しながら乳化する工程1と、
前記工程1により得られた加熱乳化物を成形する工程2と、を有するチーズ様食品の製造方法であって、
前記加工デンプンを、前記原材料全体に対して10質量%を超えて含み、
前記加工デンプンが、馬鈴薯由来の加工デンプンであり、
前記植物油脂が、パーム油及びヤシ油であり、
前記チーズ様食品の油脂及び水分含有量の総計に対する加工デンプン含有量の質量比が、0.10以上であるチーズ様食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チーズ様食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チーズの使用量を低減させつつナチュラルチーズやプロセスチーズ等のチーズに類似した外観、加工特性、食感を有するチーズ様食品が求められている。例えば特許文献1~3には、原料チーズ類の含有率を低減したチーズ様食品において、一般的なプロセスチーズと遜色の無い、好ましい食感と加工適性を有するチーズ様食品が開示されている。
【0003】
ところで、チーズの使用量を低減させることでチーズ由来のタンパク質含量も低減する。そのため、製品の保形性が低下するという問題があった。
一方、これを補うためにカゼイン等のタンパク質を多く配合すると、製造工程における加熱乳化前の攪拌時の機械負荷が大きくなる、加熱乳化物の粘度が高くなり成形適性が悪化する等の製造適性に関する問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-22252号公報
【文献】特開2010-22257号公報
【文献】特開2010-22258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ナチュラルチーズやプロセスチーズ等のチーズに類似した新規のチーズ様食品を提供することを課題とする。また、本発明は、製造適性に優れるチーズ様食品の新規の製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明は、
チーズ原料と、加工デンプンと、を含むチーズ様食品であって、前記加工デンプンを、前記チーズ様食品全体に対して10質量%を超えて含有するチーズ様食品である。
加工デンプンを上記の含有量とすることで、チーズ様食品の外観、カット適性、及びフィルムの剥離性を向上することができる。
【0007】
本発明の好ましい形態では、77~82℃の何れかの温度における前記チーズ様食品の粘度が、100,000cP以下である。
上記の物性を満たすチーズ様食品は、外観及びカット適性に優れる。
【0008】
本発明のチーズ様食品は、ホエイパウダーを含有することが好ましい。
ホエイパウダーを加えることで、チーズ様食品の製造適性が向上し、良好な外観及びカット適性のチーズ様食品を得ることができる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記チーズ様食品の水分含有量が、前記チーズ様食品全体に対して40質量%以上である。
製品中の水分含有量を上記とすることで、滑らかで柔らかい食感のチーズ様食品を得ることができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記チーズ様食品の油脂及び水分含有量の総計に対する加工デンプン含有量の質量比が、0.10以上である。
加工デンプン/(油脂+製品水分)を上記とすることで、チーズ様食品の外観、カット適性、及びフィルムの剥離性を向上することができる。
【0011】
本発明のチーズ様食品は、前記加工デンプンが、馬鈴薯、タピオカ、及びワキシーコーンからなる群から選択される1種以上の原料由来の加工デンプンであることが好ましい。
【0012】
また、本発明のチーズ様食品は、ヤシ油、パーム油、パーム核油、コーン油、及び大豆油からなる群から選択される1種以上の植物油脂を含有することが好ましい。
【0013】
本発明は、
チーズ原料と加工デンプンとを含む原材料を加熱しながら乳化する工程1と、
前記工程1により得られた加熱乳化物を成形する工程2と、を有するチーズ様食品の製造方法であって、
前記加工デンプンを、前記原材料全体に対して10質量%を超えて含む、チーズ様食品の製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナチュラルチーズやプロセスチーズ等のチーズに類似した新規のチーズ様食品、及び製造適性に優れるチーズ様食品の新規の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0016】
[1.チーズ様食品]
本発明において「チーズ様食品」とは、その原料としてチーズを含有し、加工された食品であり、外観、香り、及び食味がチーズに類似した食品をいう。
【0017】
前記の「チーズ」には、乳等省令(「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」、昭和26年12月27日厚生省令52号)及び公正競争規約で定めるナチュラルチーズ及びプロセスチーズに該当するものの他、乳等省令で定義される乳のほかに、水牛の乳、ラクダの乳などを原料として得られるチーズも含む。
本発明において、チーズ様食品の原料として用いる「チーズ」を「チーズ原料」という。
【0018】
また、本発明のチーズ様食品は、従来のプロセスチーズに比してコレステロール値及び飽和脂肪酸量が基準値よりも所定量低減されたものであることが好ましい。本発明において、コレステロール値及び飽和脂肪酸量が「低減された」とする基準は、以下の定義に基づく。
【0019】
日本食品標準成分表2015年版(七訂)によれば、プロセスチーズのコレステロール基準値は可食部100g当たり78mgとされている。また、飽和脂肪酸量の基準値は可食部100g当たり16gとされている。そして、食品表示法(平成25年法律第70号)第4条第1項に基づく食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)別表第13(第7条関係)によれば、コレステロールが低減された旨の表示の基準値について、飽和脂肪酸量に関しては、飽和脂肪酸の量が他の食品に比べて低減された量が1.5g以上であるものに限るとされている。
【0020】
これらに基づき、本発明のチーズ様食品は、コレステロール値が39mg/100g未満であり、飽和脂肪酸量が14.5g/100g未満であることが好ましい。また、この基準を満たすチーズ様食品を、コレステロール値及び飽和脂肪酸量が「低減された」ものとする。なお、コレステロール値及び飽和脂肪酸量は、ガスクロマトグラフィー法により測定することができる。
【0021】
本発明のチーズ様食品は、77~82℃の何れかの温度におけるチーズ様食品の粘度が、100,000cP以下であることが好ましく、80,000cP以下であることがより好ましく、75,000cP以下であることがさらに好ましく、70,000cP以下であることがさらに好ましく、65,000cP以下であることがさらに好ましく、60,000cP以下であることがさらに好ましく、55,000cP以下であることがさらに好ましく、50,000cP以下であることがさらに好ましく、45,000cP以下であることがさらに好ましく、40,000cP以下であることがさらに好ましく、35,000cP以下であることがさらに好ましく、30,000cP以下であることがさらに好ましい。
77~82℃の何れかの温度における粘度が上記の上限値以下のチーズ様食品は、外観及びカット適性に優れるものである。
【0022】
また、本発明のチーズ様食品は、77~82℃の何れかの温度におけるチーズ様食品の粘度が、100cP以上であることが好ましく、200cP以上であることがより好ましく、500cP以上であることがさらに好ましく、1,000cP以上であることがさらに好ましく、1,500cP以上であることがさらに好ましく、2,000cP以上であることがさらに好ましく、2,500cP以上であることがさらに好ましく、3,000cP以上であることがさらに好ましい。
77~82℃の何れかの温度における粘度が上記の下限値以上のチーズ様食品は、外観及びカット適性に優れるものである。
【0023】
粘度の測定は、ビスコテスター粘度計(型番:VT-06、リオン株式会社)を用いて行うことができる。
【0024】
本発明のチーズ様食品は、製品中の水分含有量が、チーズ様食品全体に対して40質量%以上であることが好ましく、42質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましく、47質量%以上であることが特に好ましい。
製品中の水分含有量の下限値を上記とすることで、チーズ様食品を滑らかで柔らかい食感とすることができる。
【0025】
また、本発明のチーズ様食品は、製品中の水分含有量が、チーズ様食品全体に対して70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましく、52質量%以下であることが特に好ましい。
製品中の水分含有量の上限値を上記とすることで、チーズ様食品のコクや風味をよりチーズ本来のものに近づけることができる。
【0026】
水分含有量は、常圧加熱、乾燥助剤法により測定する。チーズ様食品から採取した試料1gを乾燥温度99±1℃で乾燥させ、乾燥後の試料の質量を得て、下記式により水分含有量(単位:質量%)を求める。
水分含有量={(乾燥前の試料の質量-乾燥後の試料の質量)/乾燥前の試料の質量}×100
【0027】
本発明のチーズ様食品は、チーズ様食品に含まれる油脂及び水分含有量の総計に対する加工デンプン含有量の質量比(加工デンプン/(油脂+製品水分))が、0.10以上であることが好ましく、0.12以上であることがより好ましく、0.16以上であることがさらに好ましい。
このような配合バランスとすることで、チーズ様食品の外観、カット適性、及びフィルムの剥離性を良好なものとすることができる。
【0028】
また、本発明のチーズ様食品は、チーズ様食品に含まれる油脂及び水分含有量の総計に対する加工デンプン含有量の質量比(加工デンプン/(油脂+製品水分))が、0.50以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましい。
このような配合バランスとすることで、チーズ様食品の外観、カット適性、及びフィルムの剥離性を良好なものとすることができる。
【0029】
本発明のチーズ様食品は、水分含有量に対する油脂含有量の質量比(油脂/製品水分)が、1.0以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましく、0.4以下であることが特に好ましい。
このような配合バランスとすることで、チーズ様食品のコクや風味をよりチーズ本来のものに近づけることができる。
【0030】
また、本発明のチーズ様食品は、水分含有量に対する油脂含有量の質量比(油脂/製品水分)が、0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.2以上であることがさらに好ましい。
このような配合バランスとすることで、チーズ様食品のコクや風味をよりチーズ本来のものに近づけることができる。
【0031】
本発明のチーズ様食品は、加工デンプンの含有量に対するチーズ原料の含有量の質量比(チーズ原料/加工デンプン)が、1.00以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましく、1.30以上であることがさらに好ましい。
このような配合バランスとすることで、チーズ様食品の食感や風味をよりチーズ本来のものに近づけることができる。
【0032】
また、本発明のチーズ様食品は、加工デンプンの含有量に対するチーズ原料の含有量の質量比(チーズ原料/加工デンプン)が、5.00以下であることが好ましく、4.00以下であることがより好ましく、3.00以下であることがさらに好ましい。
このような配合バランスとすることで、最終製品の外観やカット適性が良好となる。
【0033】
本発明のチーズ様食品は、スライスタイプ、ポーションタイプ、ダイスタイプ、及びシュレッドタイプ等の形態とすることができ、その中でも、スライスタイプが特に好ましい。
【0034】
[2.チーズ原料]
本発明において使用されるチーズ原料は、乳等省令及び公正競争規約において定められるナチュラルチーズ及びプロセスチーズに該当するものとすることが好ましい。
【0035】
チーズ原料としては、モッツァレラ、ストリング、エダム(ソフトエダム)、ステッペン、サムソー、マリボー、エグモント、ティルジット、ダンボー、ロックフォール、ブルー、クリームハバティ等の半硬質チーズ;エダム(ハードエダム)、ゴーダ、チェダー、エメンタール、グリュイエール、プロボローネ等の硬質チーズ;パルメザン、グラナ、パルミジャーノレッジャーノ、ペコリーノ・ロマーノ、スブリンツ等の特別硬質チーズ等を例示することができる。これらのナチュラルチーズの1種又は2種以上を原料とするプロセスチーズをチーズ原料とすることもできる。
【0036】
また、コーデックスのチーズの一般規格(Codex General Standard for Cheese(CODEX STAN 283-1978))の定義に準じて上記のナチュラルチーズを分類した場合、Soft、Firm/Semi-hard、Hard、Extra Hardの何れに該当するものをチーズ原料として使用しても構わない。
【0037】
チーズ原料として、上記のナチュラルチーズ又はプロセスチーズを、単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。好ましくは、上記に列挙した半硬質チーズから選ばれる1種以上、又は上記のコーデックスのチーズの一般規格の定義によるSoft又はFirm/Semi-hardに該当する1種以上のチーズを使用する。
【0038】
チーズ様食品におけるチーズ原料の含有量は、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下であり、特に好ましくは30質量%以下である。
チーズ様食品におけるチーズ原料の含有量は、好ましくは1~60質量%であり、より好ましくは10~40質量%であり、さらに好ましくは12~50質量%であり、特に好ましくは15~35質量%であり、特に好ましくは17~30質量%である。
チーズ原料の含有量を上記範囲とすることで、外観及びカット適性に優れるチーズ様食品とすることができる。また、本発明のチーズ様食品は、チーズ原料の含有量が少なくてもコクや風味がチーズ本来のものに近いものである。
【0039】
また、本発明のチーズ様食品は、チーズ原料として、上述のSoft又はFirm/Semi-hardに該当する少なくとも1種のチーズ原料を、好ましくは1~30質量%含有し、より好ましくは5~20質量%含有し、さらに好ましくは7~17質量%含有する。
これにより、外観及びカット適性に優れるチーズ様食品とすることができる。
【0040】
[3.加工デンプン]
本発明のチーズ様食品は、加工デンプンを、下限値としてチーズ様食品全体に対して10質量%を超えて含有することが好ましい。
【0041】
加工デンプンの含有量の上限値は、チーズ様食品の風味に過度の支障をきたさない限り特に制限されないが、チーズ様食品全体に対して30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
加工デンプンの含有量の上限値を上記とすることで、チーズ様食品のコクや風味をよりチーズ本来のものに近づけることができる。
【0042】
本発明のチーズ様食品に使用する加工デンプンは、架橋構造を有するもの、リン酸化されたもの、加熱処理されたもの、湿熱処理されたもの、酵素処理したものなど、種類を問わず種々の加工が施されたものを使用することができる。これらの加工が施されたものから1種を選択し又は複数を組み合わせて使用してもよい。なお、これらの加工デンプンは、それぞれ常法により加工したものを使用してもよいし、市販品を購入して使用してもよい。
【0043】
加工デンプンの原料は、馬鈴薯デンプン、ワキシーコーンスターチ、タピオカデンプン、コーンスターチ、小麦粉デンプン、ライススターチ、マイロスターチ、かんしょデンプン、サゴデンプン、葛デンプン、ワラビデンプン、レンコンデンプン、緑豆デンプン等を例示することができる。その中でも、馬鈴薯、タピオカ、ワキシーコーン由来の加工デンプンを使用することが好ましく、馬鈴薯由来の加工デンプンを使用することが特に好ましい。
【0044】
[4.ホエイパウダー]
本発明のチーズ様食品は、ホエイパウダーを含有することが好ましい。本発明において「ホエイパウダー」は、乳等省令に定めるホエイパウダーを使用する。
【0045】
このようなホエイパウダーは、食品として使用可能であればよく、常法により調製したものを使用してもよい。
【0046】
ホエイパウダーの含有量は、チーズ様食品全体に対して1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることがさらに好ましい。
また、ホエイパウダーの含有量は、20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
ホエイパウダーの含有量を上記範囲とすることで、チーズ様食品の粘度の低下に寄与し、製造適性を向上することができる。
【0047】
[5.油脂]
本発明のチーズ様食品は、好ましくは植物油脂を含む。植物油脂は、融点が-20℃以上のものを使用することが好ましく、-10℃以上のものを使用することがより好ましく、0℃以上のものを使用することがより好ましく、15℃以上のものを使用することがより好ましく、20℃以上のものを使用することがより好ましく、30℃以上のものを使用することがさらに好ましく、20℃以上30℃未満のものと30℃以上のものとを併用することが特に好ましい。
融点の高い植物油脂を使用することで、チーズ様食品の組織がより滑らかになり、外観やカット適性が向上する。
【0048】
植物油脂の種類は、ヤシ油、パーム油、パーム核油、コーン油、大豆油、オリーブ油、カポック油、キャノーラ油、米ぬか油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、菜種油、菜種白絞油、ひまわり油、ひまわり種子油、ハイオレイックひまわり油、綿花油、綿実油、落花生油等の植物性の油脂を例示することができ、これらの1種又は複数を用いることができる。
【0049】
その中でも、ヤシ油、パーム油、パーム核油、コーン油、及び大豆油からなる群から選択される1種以上の植物油脂を使用することが好ましく、ヤシ油及びパーム油を併用することが特に好ましい。また、これらの硬化油、エステル交換油、分別油等を使用しても構わない。
【0050】
本発明のチーズ様食品は、このような植物油脂を1~30質量%含むことが好ましく、5~20質量%含むことがより好ましく、7~17質量%含むことがさらに好ましい。
植物油脂の含有量を上記範囲とすることで、チーズ様食品のコクや風味をよりチーズ本来のものに近づけることができる。
【0051】
[6.その他の原材料]
本発明のチーズ様食品は、本発明の効果を妨げない範囲で、他の原材料を任意に含んでいてもよい。例えば、保存料、増粘剤、調味料、安定剤、酸化防止剤、pH調整剤、酸味料、香料、乳化剤等を例示することができる。
【0052】
本発明のチーズ様食品は、寒天又はゼラチンを含有してもよい。好ましくは、寒天を含有する。寒天を含有する場合、チーズ様食品中の含有量は、5質量%以下とすることが好ましく、3質量%以下とすることがより好ましく、1質量%以下とすることがさらに好ましい。
また、前記チーズ様食品の油脂及び水分含有量の総計に対する寒天含有量の質量比(寒天/油脂+製品水分)は、0.04質量%以下とすることが好ましく、0.03質量%以下とすることがより好ましく、0.02%以下とすることがさらに好ましい。
これにより、チーズ様食品中のチーズ様食品のコクや風味をよりチーズ本来のものに近づけることができる。
【0053】
本発明のチーズ様食品は、溶融塩を使用することができる。溶融塩は、イオン交換作用の強弱、解膠作用の強弱、抗菌作用の有無等にかかわらず一般的にプロセスチーズの製造に使用されるものであればよい。具体例としては、モノリン酸塩(オルトリン酸ナトリウム等)、ジリン酸塩(ピロリン酸ナトリウム等)、ポリリン酸塩(ポリリン酸ナトリウム等)等のリン酸塩;クエン酸塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等)等が挙げられる。また、これらの1種又は複数を用いることができる。
【0054】
溶融塩の含有量は、通常、チーズ様食品全体に対して1~3質量%、好ましくは1.5~2質量%である。これにより、チーズ様食品の加熱溶融性及び食感が良好となる。
【0055】
本発明のチーズ様食品は、寒天以外の増粘多糖類を使用することができる。増粘多糖類の種類は、カラギーナン、アラビアガム、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、タラガム、カラヤガム、グァーガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム等を例示することができ、これらの1種又は複数を用いることができる。
【0056】
増粘多糖類の含有量は、通常、チーズ様食品全体に対して0.1~1質量%、好ましくは0.1~0.5質量%である。
また、前記チーズ様食品の油脂及び水分含有量の総計に対する増粘多糖類(寒天を除く)の質量比(増粘多糖類/油脂+製品水分)は、0.001~0.007質量%とすることが好ましく、0.003~0.006質量%とすることがより好ましく、0.004~0.005%とすることがさらに好ましい。
これにより、チーズ様食品の製造適性及び食感が良好となる。
【0057】
[7.チーズ様食品の製造方法]
本発明のチーズ様食品の製造方法は、原材料を加熱しながら乳化する工程1と、前記工程1により得られた加熱乳化物を成形する工程2と、を有する。ここで、前記原材料は加工デンプンを、前記原材料全体に対して10質量%を超えて含む。
【0058】
(1)原材料
本発明の製造方法にかかる原材料は、上述した[1.チーズ原料]~[6.その他の原材料]に記載のものを使用する。
【0059】
(2)工程1
工程1は、原材料を加熱しながら乳化する工程である。具体的には、各原材料を乳化機に投入して加熱乳化する。加熱乳化は、原材料を撹拌しながら加熱処理を行う工程であり、殺菌工程も兼ねることができる。
【0060】
乳化機は、例えば、密閉式乳化釜、水平型チーズクッカー、高速乳化釜、直接加熱式連続乳化機(ショックステリライザー)、間接加熱式連続乳化機(コンビネーター、ボテーター)等の乳化機を用いることができる。また、加熱殺菌専用の装置と、乳化専用の装置を組み合わせた装置を使用してもよい。
【0061】
加熱乳化の条件は特に限定されない。例えば、回転数120~1500rpmで撹拌しながら加熱して乳化し、所定の加熱殺菌条件を満たした段階で、乳化を終了させる。加熱温度は70℃以上が好ましく、80~90℃がより好ましい。
【0062】
工程1における加熱乳化物の粘度は、最終製品のチーズ様食品の粘度と同様に、ビスコテスター粘度計を用いて行うことができる。
【0063】
(3)工程2
工程2は、工程1により得られた加熱乳化物を成形する工程である。成形は、プロセスチーズの製造に用いられている方法と同様の方法で、シュレッド状、スライス状(シート状)、ブロック状、ダイス状等、任意の形状に行うことが可能である。
【0064】
成形は、加熱乳化物を冷却する前、又は冷却の途中で行うことが好ましい。また、成形は公知の方法を用いて行うことができる。
例えば、シート状への成形は、工程1で得られた加熱乳化物を、例えば10cm×10cm×厚さ100cmのモールドに充填し、冷却後、モールドから取り出し、スライサーで厚さを2~5mm程度にスライスしてもよい。または、該乳化物をフィルムに挟んで所定の厚さのシート状に押圧した後にカットする方法でも、製造することができる。
【0065】
なお、工程1及び工程2にかかるその他の諸条件は、一般的なプロセスチーズの製造方法に準じて適宜調整し、本発明のチーズ様食品を製造することができる。
【実施例
【0066】
(1)チーズ様食品の調製
(工程1)
表1に示す配合に従い、高速せん断式乳化釜の乳化釜に2種のナチュラルチーズ(表中、チーズ原料A、チーズ原料Bと表す)を投入した後、ホエイパウダー(三井物産社製、タンパク含量15%)、馬鈴薯由来の加工デンプン(東海澱粉社製)、植物油脂、寒天、溶融塩、多糖類、及び常温の水を加えた。次いで、回転数600rpmで撹拌し、投入物が均一になるように撹拌を1分間行い、回転数600rpmで撹拌しながら乳化釜にスチームを吹き込み、約5分間で90℃に達するように加熱して加熱乳化を行った。90℃に達したら、スチームの吹込みを停止した。さらに1分間撹拌することにより加熱殺菌した後、撹拌を停止して加熱乳化物を得た。その後、約80℃における加熱乳化物の粘度を、ビスコテスター粘度計(レオン社製)を用いて測定した。
なお、比較例3で用いた乳タンパクは、カゼインを主体とした乳タンパクである。
【0067】
(工程2)
得られた加熱乳化物をビニールフィルム内で2mm厚さのシート状に伸ばして冷蔵し、目的のチーズ様食品とした。
【0068】
【表1】
【0069】
(2)チーズ様食品の評価
(2-1)製造適性(機械負荷・充填適性)
工程1及び工程2における、加熱開始前の撹拌工程から工程1の終了時までの乳化機への負荷、及び加熱乳化物をケーシングに充填する操作における適性に基づいて、下記の基準で製造適性を評価した。結果を表1に示す。なお、充填適性は、加熱乳化物の硬さ又は軟らかさに基づいて評価した。
◎:適性良好
○:適性ややあり(機械負荷やや大、又は、充填適性やや劣る)
△:適性やや低い(機械負荷大、又は、充填適性劣る)
×:適性低い(機械負荷大(モーターがトリップする等の不具合あり)、又は充填適性低い)
【0070】
(2-2)フィルムからの剥離性
剥離性の評価は、PET製フィルムから冷却されたチーズ様食品を取り出すことによって行った。評価の基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
◎:チーズ様食品がフィルムに付着することなく取り出せる
〇:チーズ様食品が僅かにフィルムに付着する
△:チーズ様食品が部分的にフィルムに付着する
×:チーズ様食品がフィルムのほぼ全面に付着する
【0071】
(2-3)カット適性
カット適性の評価は、冷却後のチーズ様食品を室温下、ナイフで切断した場合の切り出し易さについて以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
◎:チーズ様食品がナイフに付着することなく切り出せ、ナイフが汚れることがない
〇:チーズ様食品が僅かにナイフに付着するが、ナイフとチーズ様食品が容易に分離する
△:チーズ様食品が部分的にナイフに付着するが、ナイフとチーズ様食品の分離は可能である
×:チーズ様食品がナイフに付着し、ナイフとチーズ様食品が容易に分離しない
【0072】
(2-4)シート状の外観
シート状の外観の評価は、冷却後のチーズ様食品の外観を以下の基準で目視により評価した。結果を表1に示す。なお、ここでいう「均質」は、チーズ様食品の外観に凹凸やシワ、ムラが無く、表面が均一であることを意味する。
◎:チーズ様食品が均質なシート状に形成されている
〇:チーズ様食品がやや硬く又はやや軟らかく、僅かに均質ではない
△:チーズ様食品が硬く又は軟らかく、均質ではない
×:チーズ様食品がシート状に形成されていない
【0073】
表1に示すように、加工デンプンをチーズ様食品全体に対して10質量%を超えて含む実施例1~11のチーズ様食品は、剥離性、カット適性、製造適性、及び外観のいずれの評価項目においても許容される結果が得られることが確認された。特に、加工デンプンが馬鈴薯由来のものであり、植物油脂がパーム油及びヤシ油の併用である実施例1~6は、上記の評価が特に好ましいことが確認された。
【0074】
また、実施例1~11のチーズ様食品は、いずれもコレステロール値が39mg未満であり、かつ飽和脂肪酸量が14.5g未満である、コレステロールハーフの基準を満たすものであることが確認された。
【0075】
一方で、生デンプンを使用した比較例1及び2のチーズ様食品は、加熱乳化物の粘度が高く製造適性が低い又はやや低いものであり、いずれもシート状に形成することができなかった。
また、加工デンプンの含有量が10質量%を超えない比較例3のチーズ様食品は、加熱乳化物の粘度が高く製造適性が低かった。
【0076】
以上の結果より、本発明のチーズ様食品は、ナチュラルチーズやプロセスチーズ等のチーズに類似した物性、食感や食味を有するものであることがわかった。また、本発明の製造方法は、チーズ様食品の製造適性に優れるものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、チーズ様食品の製造に利用できる。