(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】超伝導線材および超伝導ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20241217BHJP
H01R 4/68 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01B12/06
H01R4/68
(21)【出願番号】P 2020166143
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、「低交流損失と高ロバスト性を両立させる高温超伝導技術」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 尚之
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-176524(JP,A)
【文献】特表2007-524198(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024528(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
H01R 4/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の長手方向に延伸し、前記基板の短手方向に並列に配置される複数の超伝導層と、
前記基板の前記長手方向に延伸し、前記複数の超伝導層間に配置され、前記複数の超伝導層を電気的に絶縁する絶縁部と、
前記基板の前記長手方向に沿って前記絶縁部に配置され、隣り合う前記複数の超伝導層を超伝導的に電気的に接続する複数の接続部と、
を備え、
前記基板は、前記絶縁部が設けられている部分において、前記短手方向に沿って連続しており、
螺旋状に巻かれると以下の条件
【数1】
を満足し、ここで、Dは螺旋の直径であり、Pは巻き軸方向に沿った螺旋ピッチの長さであり、Lは前記長手方向に沿った前記絶縁部の長さである、超伝導線材。
【請求項2】
以下の条件を満足する、請求項1に記載の超伝導線材。
【数2】
ここで、gは前記長手方向に沿った前記接続部の長さであり、nは1以上の自然数である。
【請求項3】
以下の条件を満足する、請求項1または2に記載の超伝導線材。
【数3】
ここで、gは前記長手方向に沿った前記接続部の長さであり、w
fは前記短手方向に沿った前記超伝導層の長さである。
【請求項4】
以下の条件を満足する、請求項3に記載の超伝導線材。
【数4】
ここで、w
tは前記短手方向に沿った前記超伝導線材の長さである。
【請求項5】
以下の条件を満足する、請求項1または2に記載の超伝導線材。
【数5】
ここで、gは前記長手方向に沿った前記接続部の長さであり、w
fは前記短手方向に沿った前記超伝導層の長さである。
【請求項6】
前記絶縁部を複数備え、それぞれの前記絶縁部は、並列に配置される前記複数の超伝導層間に配置される、請求項1から5のいずれか一項に記載の超伝導線材。
【請求項7】
並列に配置される前記複数の絶縁部にわたって、複数の前記接続部は前記短手方向に沿った線から離れた位置に配置されている、請求項6に記載の超伝導線材。
【請求項8】
前記絶縁部は、前記基板を露出させる溝である、請求項1から7のいずれか一項に記載の超伝導線材。
【請求項9】
前記超伝導層を覆う導電層をさらに備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の超伝導線材。
【請求項10】
前記導電層は、前記絶縁部および前記接続部をさらに覆う、請求項9に記載の超伝導線材。
【請求項11】
芯材と、
前記芯材の軸に沿って螺旋状に巻かれている請求項1~10のいずれか一項に記載の超伝導線材と、
を備える超伝導ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導線材および超伝導ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを効率的に生成、伝送、変換、使用および貯蔵するための技術として、高温超伝導(high-temperature superconductivity)が注目されている。例えば高温超伝導材料を用いて作製された線材(以下、高温超伝導線材と呼ぶ)や、それを集合化した超伝導ケーブルを、発電機や電動機(モータ)の電機子巻線に用いることにより、電機子巻線に大電流を流すことが可能となる。これにより、電機子鉄心を削減することが可能となり、発電機や電動機を軽量化することが期待されている。発電機や電動機を軽量化することが可能になると、例えば、航空機の電動化の実現や、大型の浮体式洋上風力発電の導入促進につながる。航空機の電動化が実現されたり、風力発電の導入が促進されたりすると、CO2排出量の削減が期待されることから、高温超伝導技術は、低炭素社会の実現に大きく寄与することが期待されている。
【0003】
一方で、超伝導線材を交流で用いるときには、交流の磁界によって交流損失が発生する。一般に、超伝導体に電流が流れる、または、磁界が加わっているときには、超伝導体中に磁束が磁束量子という形で侵入している。直流電流または直流磁界が印加されている運転条件下においては、磁束量子は移動せず静止しているが、交流電流または交流磁界が印加されている運転条件下においては、超伝導体の位置において磁束の分布が変化することにより、磁束量子が移動しなければならなくなる。磁束量子が移動する際にはいわば摩擦のようなものが生じ、この摩擦熱に相当するものが交流損失である。
【0004】
また、超伝導線材を超伝導状態において用いていると、何らかの原因によりクエンチと呼ばれる現象が発生することがある。クエンチが発生すると、超伝導線材は超伝導状態から抜けて常伝導状態に転移し、超伝導線材や超伝導ケーブルを用いた発電機、電動機等の機器は機能を停止し、最悪の場合、機器は損傷する。
【0005】
このような、超伝導線材や超伝導ケーブルに発生する交流損失の存在や、超伝導線材や超伝導ケーブルのクエンチに対するロバスト性の低さが、高温超伝導を用いた機器の社会実装に向けたボトルネックとなっている。超伝導線材や超伝導ケーブルに関するこのような技術的課題を解消するために、これまでに様々な手法が提案されている。例えば特許文献1には、交流損失を低減する高温超伝導体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図11および
図12は、従来技術に係る超伝導線材90が有する技術的な課題を説明するための模式的な図である。
【0008】
図11(A)に示す超伝導線材90A(90)では、基板91の表面に超伝導層92が一様に形成されている。交流損失とは磁束量子93を移動させるための仕事で、磁束量子93の移動距離が長いほど交流損失は大きくなる。超伝導線材90A(90)では、超伝導層92の幅w
tの半分を横切って磁束量子93が移動するので交流損失は大きくなる。符号94は磁束量子93の移動(侵入)を示している。これに対し、
図11(B)に示すように、超伝導層92を幅w
f(<幅w
t)の細いフィラメントに分割して磁束量子93の移動距離を短くすれば、交流損失を低減することができる。このような手法はマルチフィラメント化と呼ばれている。以下の説明では、細いフィラメントに分割した超伝導層92を、超伝導フィラメント92aまたは単にフィラメント92aとも呼ぶ。
【0009】
超伝導層92に垂直に印加される磁界H
e(厳密には、印加される磁界のうち、超伝導層92に垂直な成分H
eである。以下同様。)が時間的に変動すると、
図11(A),(B)に例示するように、超伝導層92,92aの幅にわたって渦電流99が流れる。ここで、渦電流99は符号99a,99bで示すように往復する向きに流れており、符号99a,99bで示す往復する渦電流を合わせた全体の幅w
eを渦電流の幅と呼ぶことにする。
【0010】
超伝導線材90A(90),90B(90)において、磁束量子93の移動の典型的な距離は渦電流の幅weの2分の1に等しい。したがって、渦電流の幅weが広いと交流損失も大きく、渦電流の幅weを狭くできれば、交流損失も小さくできる。
【0011】
ここで、
図11(C)に示すように、交流損失低減のためにマルチフィラメント化された超伝導層92aを備える超伝導線材90B(90)において、何らかの原因で、一部の超伝導フィラメント92aが、長手方向の或る位置において局所的に、その幅w
f全体にわたって超伝導状態から常伝導状態95に転移した場合を考える。フィラメント92aに電流96が流れ続けると、常伝導抵抗により大きな発熱が生じてしまう。このような状態において、常伝導転移したフィラメント92aから超伝導状態を保った他のフィラメント92aに電流96を分流(すなわち迂回)させることができなければ、常伝導転移したフィラメントにおける大きな発熱により超伝導線材90Bの全体がクエンチしてしまう。フィラメント92aがその幅w
f全体にわたって常伝導状態95に転移する可能性は、フィラメント92aの幅w
fが狭くなればなるほど高くなるであろうから、マルチフィラメント化はクエンチに対するロバスト性を低下させる。このように、交流損失を低減しようとしてフィラメント92aの幅w
fを細くすると、ロバスト性は低下する。特許文献1に記載の高温超伝導体はこれに該当する。
【0012】
これに対し、
図12(A)に示すように、マルチフィラメント化された超伝導層92aの表面に、導電体の分流層として例えば銅分流層97を組み合わせて形成すれば、常伝導状態95が局所的に発生した場合であっても分流が可能であり、ロバスト性の低下を防止できる可能性はある。しかしながら、
図12(B)に示すように、銅分流層97を備える超伝導線材90C(90)に垂直に印加される磁界H
eが時間的に変動すると、電磁誘導により銅分流層97を介して結合電流98が流れる。結合電流98は、まず、図中左側に位置する超伝導層92aを長手方向に手前側から奥側に向かって流れ、次に銅分流層97を短手方向右向きに流れる。引き続き、結合電流98は、図中右側に位置する超伝導層92aを長手方向に奥側から手前側に向かって流れ、その後銅分流層97を短手方向左向きに流れ、図中左側に位置する超伝導層92aに戻る。このような経路で流れる結合電流98は、
図11(B)で見られたような、マルチフィラメント化された超伝導層92aの間からの、磁束量子93の侵入を阻害する。すなわち、
図12(C)に示すように、この結合電流98の影響により、磁束量子93はそれぞれの超伝導フィラメント92aの短手方向の端からではなく、符号94で示すように超伝導線材90Cの端から侵入するようになり、磁束量子93の移動距離は短くならない。このように、ロバスト性の低下を防止しようとして銅分流層97を形成すると、銅分流層97を介してそれぞれの超伝導フィラメント92aが結合した状態となり、交流損失を低減することはできない。
【0013】
さらに、超伝導線材90Cの全体がクエンチした際には、ジュール損失によりホットスポット温度が上昇する。クエンチにより超伝導線材90Cが焼損に至ることを避けるためには、超伝導線材90Cの常伝導抵抗を下げることが重要である。しかしながら、常伝導抵抗を下げてホットスポット温度の上昇を抑制しようとして、銅分流層97を厚く形成すると、結合電流98の減衰が妨げられて交流損失の低減が阻害される。
【0014】
このように、交流損失の低減とロバスト性の向上とは本質的に相反する。高温超伝導を用いた機器の社会実装に向けて、超伝導線材において、交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させることが求められている。
【0015】
本発明は、交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させた超伝導線材および超伝導ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明は、例えば以下に示す態様を含む。
(項1)
基板の長手方向に延伸し、前記基板の短手方向に並列に配置される複数の超伝導層と、
前記基板の前記長手方向に延伸し、前記複数の超伝導層間に配置され、前記複数の超伝導層を電気的に絶縁する絶縁部と、
前記基板の前記長手方向に沿って前記絶縁部に配置され、隣り合う前記複数の超伝導層を超伝導的に電気的に接続する複数の接続部と、
を備え、
螺旋状に巻かれると以下の条件
【数1】
を満足し、ここで、Dは螺旋の直径であり、Pは巻き軸方向に沿った螺旋ピッチの長さであり、Lは前記長手方向に沿った前記絶縁部の長さである、超伝導線材。
(項2)
以下の条件を満足する、項1に記載の超伝導線材。
【数2】
ここで、gは前記長手方向に沿った前記接続部の長さであり、nは1以上の自然数である。
(項3)
以下の条件を満足する、項1または2に記載の超伝導線材。
【数3】
ここで、gは前記長手方向に沿った前記接続部の長さであり、w
fは前記短手方向に沿った前記超伝導層の長さである。
(項4)
以下の条件を満足する、項3に記載の超伝導線材。
【数4】
ここで、w
tは前記短手方向に沿った前記超伝導線材の長さである。
(項5)
以下の条件を満足する、項1または2に記載の超伝導線材。
【数5】
ここで、gは前記長手方向に沿った前記接続部の長さであり、w
fは前記短手方向に沿った前記超伝導層の長さである。
(項6)
前記絶縁部を複数備え、それぞれの前記絶縁部は、並列に配置される前記複数の超伝導層間に配置される、項1から5のいずれか一項に記載の超伝導線材。
(項7)
並列に配置される前記複数の絶縁部にわたって、複数の前記接続部は前記短手方向に沿った線から離れた位置に配置されている、項6に記載の超伝導線材。
(項8)
前記絶縁部は、前記基板を露出させる溝である、項1から7のいずれか一項に記載の超伝導線材。
(項9)
前記超伝導層を覆う導電層をさらに備える、項1から8のいずれか一項に記載の超伝導線材。
(項10)
前記導電層は、前記絶縁部および前記接続部をさらに覆う、項9に記載の超伝導線材。
(項11)
芯材と、
前記芯材の軸に沿って螺旋状に巻かれている項1~10のいずれか一項に記載の超伝導線材と、
を備える超伝導ケーブル。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させた超伝導線材および超伝導ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る超伝導線材10Aの構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る超伝導線材10Aを用いて構成した超伝導ケーブル20Aの構成を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る超伝導線材10Aを超伝導層2および接続部4を含む平面において切り出した平面図であり、超伝導線材10Aが交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるための条件を満足しない場合の例を示している。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る超伝導線材10Aを超伝導層2および接続部4を含む平面において切り出した平面図であり、超伝導線材10Aが交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるための条件を満足する場合の例を示している。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る超伝導ケーブル20Aの模式的な側面図であり、芯材9の軸に沿って超伝導線材10Aを螺旋状に巻くことにより、超伝導線材10Aが交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるための条件を実現した状態を示す。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る超伝導線材10Bの構成を模式的に示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る超伝導線材10Bを超伝導層2および接続部4を含む平面において切り出した平面図であり、超伝導線材10Bが交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるための条件を満足する場合の例を示している。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係る超伝導線材10Cの構成を模式的に示す図である。
【
図9】本発明の第1の実施形態の変形例に係る超伝導線材10Dの構成を模式的に示す図である。
【
図10】本明細書において用いる用語の意味を説明するための超伝導線材80の模式的な図である。
【
図11】従来技術に係る超伝導線材90が有する技術的な課題を説明するための模式的な図である。
【
図12】従来技術に係る超伝導線材90が有する技術的な課題を説明するための模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
[用語の意味]
【0020】
以下の説明において用いる用語の意味を説明する。なお、一部の既出用語は、初出箇所でも説明済みであるが、念のため繰り返して説明する。
【0021】
起電力とは、
図10に一点鎖線で示すように、超伝導線材80の超伝導層81に垂直に印加される磁界H
e(厳密には、印加される磁界のうち、超伝導層81に垂直な成分H
e)が時間的に変動したときに、電磁誘導により、超伝導線材80の中に渦電流82を流そうとループ状に作用する「力」である。起電力83のループの超伝導線材80長手方向に沿った最長部の長さL
i(以降、簡略化のため「起電力のループの長さL
i」と呼ぶ)は、磁界H
eが同じ向きである、より正確には磁界H
eの時間微分dH
e/dtが同じ向きである、超伝導線材80の長手方向の部分の長さに等しい。ただし、起電力が発生しても、導電体や超伝導体が存在しなければ渦電流は流れ得ない。特にことわりが無い限り、本明細書においては、起電力は一点鎖線を用いて図示する。
【0022】
渦電流82とは、電磁誘導による起電力83によって、導電体内または超伝導体内にループ状(渦状)に誘導される電流を意味する。渦電流82は、後述する持続的渦電流および結合電流の両方を含む概念である。特にことわりが無い限り、本明細書においては、渦電流は実線を用いて図示する。
【0023】
渦電流の長さとは、
図10に示すように、超伝導線材80に分布して流れる実線で示したような渦電流82の、超伝導線材80長手方向に沿った最長部の長さのことであり、符号L
eで表す。渦電流82は、起電力のループの長さL
iの内でしか流れ得ない。すなわち、渦電流の長さL
eは起電力のループの長さL
iを超えることはない。
【0024】
渦電流の幅とは、
図10に示すように、超伝導線材80に分布して流れる実線で示したような渦電流82の、超伝導線材80短手方向に沿った最長部の長さのことであり、符号w
eで表す。
図11(A),(B)を参照して説明すると、渦電流82は、符号99a,99bで示すように往復する向きに流れ、磁束量子93の移動の典型的な距離は渦電流の幅w
eの2分の1に等しく、したがって、渦電流の幅w
eを狭くできれば交流損失を低減できる。
【0025】
持続的渦電流とは、超伝導体内の中だけを流れる、実用的な時間スケール(例えば、数時間から数年)においては時間的に変化しない(減衰しない)とみなせる渦電流を意味する。特にことわりが無い限り、本明細書においては、持続的渦電流は実線を用いて図示する。
【0026】
結合電流とは、一種の渦電流である。例えば
図12(B)を参照して説明すると、銅分流層97を備える超伝導線材90Cを流れる結合電流98の経路は次の通りである。結合電流98は、まず、図中左側に位置する超伝導層92aを長手方向に手前側から奥側に向かって流れ、次に銅分流層97を短手方向右向きに流れる。引き続き、結合電流98は、図中右側に位置する超伝導層92aを長手方向に奥側から手前側に向かって流れ、その後銅分流層97を短手方向左向きに流れ、図中左側に位置する超伝導層92aに戻る。なお、結合電流98は、導電体である銅分流層97を経路に含むため、時間的に減衰する。別の見方をすれば、結合電流の減衰時定数である結合時定数に比べて、磁界の変動の周期が十分長ければ、結合電流はほとんど流れないとみなせる。特にことわりが無い限り、本明細書においては、結合電流は破線を用いて図示する。
[第1の実施形態]
【0027】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る超伝導線材10Aの構成を模式的に示す図である。(A)は超伝導線材の斜視図であり、(B)は超伝導線材の平面図であり、(C)は(B)に示す1B-1B線に沿う超伝導線材の断面図である。図示する態様では、Y軸の方向が超伝導線材10Aの長手方向であり、X軸の方向が超伝導線材10Aの短手方向であり、Z軸の方向が超伝導線材10Aの厚さ方向である。
【0028】
第1の実施形態に係る超伝導線材10A(10)は、基板1と、複数の超伝導層2と、絶縁部3と、複数の接続部4とを備え、螺旋状に巻かれると、以下において詳述する、交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるための条件を満足する。
【0029】
基板1は、例えばニッケル基合金やステンレス鋼等を用いてテープ形状に形成されている。例示的には、基板1の材料にはハステロイ(登録商標)を用いることができる。基板1は可撓性を有しており、超伝導線材10Aは螺旋状に巻かれて使用される。
【0030】
基板1の表面には、超伝導層2の下地となる中間層(図示せず)が必要に応じて形成される。中間層の材料としては、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が、基板1と超伝導層2を構成する超伝導体との中間的な値を示す材料を用いることができる。例示的には、中間層の材料にはLaMnO3を用いることができる。本実施形態では、基板1の表面には中間層が形成されており、本明細書における説明では、中間層が表面に形成されている基板1をまとめて基板1と呼ぶ。
【0031】
超伝導層2は、超伝導線材10Aにおいて超伝導的に電流を流す。交流損失を低減するために、超伝導層2はマルチフィラメント化されて基板1の表面に形成されている。超伝導層2は、基板1の長手方向に延伸し、複数の超伝導層2が基板1の短手方向に並列に配置されている。例示的には、超伝導層2は、セラミックスであるREBCO高温超伝導体を用いて形成されている。REBCOは、化学式REBa2Cu3O7-δ(REは、YやGd,Eu,Smなどの希土類元素)で表される組成式を有する銅酸化物超伝導体である。以下の説明では、マルチフィラメント化した超伝導層2を、超伝導フィラメント2と呼ぶか、または省略して単にフィラメント2若しくは単に超伝導層2とも呼ぶ。
【0032】
絶縁部3は、基板1の長手方向に延伸し、複数の超伝導層2,2間に配置され、複数の超伝導層2,2を電気的に絶縁する。例示的には、本実施形態では、絶縁部3は、例えば公知のフォトリソグラフィープロセスにより超伝導層2を三次元パターニングすることにより、基板1の表面を露出させる溝として形成されている。本実施形態では、超伝導線材10Aは複数の絶縁部3を備え、それぞれの絶縁部3は、並列に配置される複数の超伝導層2,2間に配置されている。
【0033】
接続部4は、基板1の長手方向に沿って絶縁部3に配置され、隣り合う複数の超伝導層2,2を超伝導的に電気的に接続する。超伝導線材10Aには、基板1の長手方向に沿って、絶縁部3に複数の接続部4が備えられている。本実施形態では、接続部4は、超伝導層2と同じ超伝導体材料を用いて、超伝導層2と一体化して形成されている。
【0034】
隣り合う複数の超伝導層2,2を接続部4が超伝導的に電気的に接続することにより、超伝導層2を流れる電流の超伝導的な分流性は向上し、超伝導線材10Aのロバスト性は向上する。すなわち、仮に何らかの原因で、或る超伝導層2において局所的に常伝導状態への転移が生じたとしても、隣り合う複数の超伝導層2,2間を接続部4が超伝導的にブリッジして、常伝導転移した超伝導層2から隣接する超伝導層2に電流を分流することにより、超伝導線材10A全体のクエンチは防止される。
【0035】
例示的には、超伝導線材10Aの短手方向に沿った長さ(幅)は、約2mmから約4mmであり、好ましくは約1mmから約4mmである。マルチフィラメント化された一本の超伝導層2の短手方向に沿った長さ(幅)は、好ましくは約0.4mmから約1mm程度であり、より好ましくは約0.1mmから約1mm程度である。例示的には、基板1および超伝導層2を含む超伝導線材10A全体の厚さは、約150μmから約50μmまでの範囲内であり、好ましくは約50μmから約30μmまでの範囲内である。超伝導線材10Aは螺旋状に巻かれて使用されることから、より好ましくは、基板1および超伝導層2を含む超伝導線材10A全体の厚さは、約30μm未満である。
【0036】
交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるために、超伝導線材10A(10)は、螺旋状に巻かれると、交流損失低減の要請から以下の条件を満足する。
【数6】
【0037】
Dは螺旋の直径であり、Pは巻き軸方向に沿った螺旋ピッチの長さであり、Lは長手方向に沿った絶縁部3の長さである。螺旋の直径Dおよび螺旋ピッチの長さPは、後述する
図2および
図5に例示する通りである。例示的には、螺旋の直径Dは約3mmであり、螺旋ピッチの長さPは約7.5mmであり、長手方向に沿った絶縁部3の長さLは約10mmである。
【0038】
好ましくは、超伝導線材10A(10)は、交流損失低減の要請から以下の条件を満足する。gは長手方向に沿った接続部4の長さであり、nは1以上の自然数である。例示的には、長手方向に沿った接続部4の長さgは約2mmである。
【数7】
【0039】
好ましくは、超伝導線材10A(10)は、交流損失低減の要請から以下の条件を満足する。w
fは短手方向に沿った超伝導層2の長さである。
【数8】
【0040】
好ましくは、超伝導線材10A(10)は、ロバスト性向上の要請から以下の条件を満足する。
【数9】
【0041】
好ましくは、超伝導線材10A(10)は、ロバスト性向上の要請から以下の条件を満足する。w
tは短手方向に沿った超伝導線材10A(10)の長さである。
【数10】
【0042】
交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるための原理については、
図3~
図5を参照して後述する。
【0043】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る超伝導線材10Aを用いて構成した超伝導ケーブル20Aの構成を模式的に示す図である。
【0044】
第1の実施形態に係る超伝導ケーブル20A(20)は、芯材9と、芯材9の軸に沿って螺旋状に巻かれている超伝導線材10Aとを備える。
【0045】
芯材9は、本実施形態では中実(solid)な円筒形の部材である。例示的には、芯材9にはステンレス鋼や銅を用いることができる。
【0046】
超伝導線材10A(10)は、螺旋状に巻かれることにより、超伝導線材10A(10)に生じる起電力のループの長さLiを短くすることができる。本実施形態では、超伝導線材10Aは、芯材9の外壁の周囲に、左ねじが進行する方向に巻かれており、巻き軸方向とはこの左ねじが進行する方向である。図示する態様では、一層の超伝導線材10A(10)が、芯材9の軸に沿って螺旋状に巻かれている。図示する態様では、3本の超伝導線材10A(10A1,10A2,10A3)が、芯材9の外壁の周囲に螺旋状に、3本並列にトリファイラ(Trifiler)巻きされている。なお、図示する3本の超伝導線材10A1,10A2,10A3のうち、超伝導線材10A1については詳細な構造を図示しているが、超伝導線材10A2,10A3については、詳細な構造の図示を省略している。
[原理]
【0047】
図3および
図4は、本発明の第1の実施形態に係る超伝導線材10Aを超伝導層2および接続部4を含む平面において切り出した平面図である。
図3は、超伝導線材10Aが交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるための条件を満足しない場合の例を示している。
図3(A)は、絶縁部3の長さLが短く、すなわち、接続部4の間隔が短く、ロバスト性の向上はできるが、超伝導線材10Aの幅w
tにわたって幅広の持続的渦電流11が流れ交流損失の低減はできない例である。
図3(B)は、持続的渦電流11はそれぞれの超伝導フィラメント2の幅w
f内に閉じ込められた幅狭のものとなり交流損失の低減はできるが、絶縁部3の長さLが長く、すなわち、接続部4の間隔が長く、ロバスト性の向上はできない例である。
図4は、超伝導線材10Aが交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるための条件を満足する場合の例を示している。
【0048】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る超伝導ケーブル20Aの模式的な側面図であり、芯材9の軸に沿って超伝導線材10Aを螺旋状に巻くことにより、超伝導線材10Aが交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるための条件を実現した状態を示している。
図5においては、図示および説明の簡略化のために、1本の超伝導線材10Aのみを図示している。
図5において、符号11aは、超伝導ケーブル20Aの側面視において芯材9の表側に位置する超伝導線材10Aの領域に発生している持続的渦電流11aを示しており、符号11bは、芯材9の裏側に位置する超伝導線材10Aの領域に発生している持続的渦電流11bを示している。
<交流損失の低減>
【0049】
以下、
図3~
図5を参照して、ロバスト性を向上させつつ、交流損失を低減する原理について説明する。
【0050】
超伝導層2のマルチフィラメント化による交流損失の低減を達成するためには、複数の超伝導フィラメント2,2にわたって流れる幅広(we大)の持続的渦電流11を絶縁部3において遮断して、一つの超伝導フィラメント2の幅wf内に閉じ込められた幅狭(we小)の持続的渦電流11にしなければならない。一方、後述するように、ロバスト性向上のために、接続部4の間隔すなわち絶縁部3の長さLは短い方が望ましい。
【0051】
超伝導線材10Aの超伝導層2に垂直に印加される磁界H
e(厳密には、印加される磁界のうち、超伝導層81に垂直な成分H
e)が時間的に変動したとき、電磁誘導により、超伝導線材10Aの中に渦電流を流そうとするループ状の起電力19が誘導される。起電力のループの長さL
iは、絶縁部3の長さLとは無関係に、超伝導線材10Aの長手方向に沿った、超伝導層2に垂直に印加される磁界H
eの分布で決まる。ここで、ロバスト性向上のために、接続部4が短い間隔で配置され、すなわち、絶縁部3の長さLが短く、かつ、絶縁部3の長さLが起電力のループの長さL
iに比べて短い場合を考える。このような場合、
図3(A)に実線で示すように、接続部4を介して複数の超伝導フィラメント2,2にわたって幅広の持続的渦電流11が流れ続け、超伝導層2のマルチフィラメント化による交流損失の低減効果は発揮されない。
【0052】
これに対して、
図3(B)に示すように、絶縁部3の長さLが起電力のループの長さL
iより長ければ、絶縁部3により遮断されて、フィラメント化された複数の超伝導層2,2にわたる、図中上下方向に幅広の持続的渦電流は流れ得ず、持続的渦電流11はそれぞれの超伝導フィラメント2の幅w
f内に閉じ込められた幅狭(w
e小)のものとなる。これにより、交流損失は小さくなる。
【0053】
起電力のループの長さLiは、超伝導線材や超伝導ケーブルを用いて形成したコイルの形状により決定されるが、コイルの形成に用いる巻線の全長(例えば数十~数百メートル)ないし数メートルに及ぶことが多い。したがって、幅広の持続的渦電流を遮断するために、このような大きな長さのLiよりも絶縁部3の長さLを大きくすると、接続部4の間隔が長すぎてロバスト性の向上は期待できない。
【0054】
ロバスト性を向上させるために接続部4を短い間隔で配置したうえで、絶縁部3により幅広の持続的渦電流を遮断して交流損失を低減するためには、何らかの手段で、
図4に示すように起電力のループの長さL
iを、ロバスト性向上の要請から短くした絶縁部3の長さLより、さらに短くする必要がある。
【0055】
本発明では、
図5に例示するように、超伝導線材10を芯材9の軸に沿って螺旋状に巻くことにより、
図4に例示するように、起電力のループの長さL
iを絶縁部3の長さLに比べて短くする。
【0056】
超伝導線材10A(10)を芯材9の軸に沿って螺旋状に巻くと、螺旋ピッチの長さPに相当する超伝導線材10Aの長さP
tは、螺旋の直径Dを用いると次の式(1)のように表現される。
【数11】
【0057】
超伝導線材10A(10)を芯材9の軸に沿って螺旋状に巻くことにより、超伝導線材10A(10)の超伝導層2に対して垂直に印加される磁界H
e(厳密には、印加される磁界のうち、超伝導層2に垂直な成分H
e)の向きは、式(1)で与えられる超伝導線材10Aの螺旋ピッチの長さP
tの2分の1ごとに反転する。その結果、式(2)のように、磁界が与えられると決定される起電力のループの長さL
iも、超伝導線材10Aの螺旋ピッチの長さP
tの2分の1となり格段に短くなる。
【数12】
【0058】
このように、超伝導線材10Aを螺旋状に巻くことにより、起電力のループの長さL
iを、ロバスト性向上のために短くした絶縁部3の長さLに比べて短くすることができ、これにより、
図4に例示した幅狭(w
e小)の持続的渦電流11(11a,11b)の状態を実現することができる。すなわち、超伝導線材10Aに流れる持続的渦電流11はそれぞれの超伝導フィラメント2の幅w
f内に閉じ込められ、持続的渦電流11(11a,11b)の幅w
eは狭くなる。このときの、それぞれの超伝導フィラメント2の幅w
f内に閉じ込められた幅狭の持続的渦電流11(11a,11b)の様子は、
図5にも例示されている。これにより、ロバスト性を向上しつつ、交流損失を低減できる。
【0059】
すなわち、螺旋ピッチの長さP、螺旋の直径Dが、絶縁部3の長さLに対して、式(3)を満足すれば、交流損失を低減できる。
【数13】
式(3)の条件は、螺旋1/2ピッチの中で持続的渦電流11が誘導されない条件と呼ぶこともできる。式(3)は絶縁部3の長さLの下限を示している。交流損失低減の観点からは、例示的には、絶縁部3の長さLの上限は、好ましくは超伝導線材10Aの幅w
tの10倍とすることができ、より好ましくは20倍とすることができ、より好ましくは50倍とすることができ、さらにより好ましくは100倍とすることができる。
【0060】
なお、ロバスト性向上の観点からは、この式(3)の条件を満たしたうえでさらに、長手方向に沿った絶縁部3の長さLは可能な限り短い方が好ましい。電流の迂回路として機能する接続部4の数が多くなるからである。
【0061】
或いは、絶縁部3の長さLの他の例示的な上限として、次の式(4)を規定することができる。
【数14】
超伝導線材10Aを芯材9の軸に沿って螺旋状に巻いた超伝導ケーブル20Aを、さらに例えばボビン等の巻き枠に巻き付けることによってコイルを形成した場合、超伝導線材10Aは、この上限値毎に巻き枠に接触して超伝導線材10Aの冷却状態が悪化する。超伝導線材10Aの冷却状態が悪化した部分は常伝導転移の芽となり、ロバスト性の観点で弱点となる。絶縁部3の長さLの上限値が式(4)によって規定されると、この上限値の間隔毎に接続部4が設けられ、接続部4を介した、超伝導層2を流れる電流の超伝導的な分流性を、この上限値の間隔毎に保つことが可能になる。
【0062】
さらに式(3)の条件に関連して、螺旋に対する平均的な横方向の磁界が一定であるという条件下において、螺旋1ピッチの中で、接続部4を介した、複数の超伝導フィラメント2,2にわたって流れる幅広の持続的渦電流11を流そうとするような起電力19が、そもそも誘導されない条件を規定することができる。この式(5)は、交流損失を低減するための、より好ましい条件である。式(5)において、gは長手方向に沿った接続部4の長さであり、nは1以上の自然数である。
【数15】
【0063】
式(5)は、起電力19のループが接続部4の長手方向の中心を通ることを想定した式である。接続部4は長手方向に長さgを有しており、長手方向に沿った絶縁部3の或る長さLに対して、螺旋ピッチの長さPおよび螺旋の直径Dが次の式(6)を満たせば、接続部4を介した、複数の超伝導フィラメント2,2にわたって流れる幅広の持続的渦電流11を流そうとするような起電力19が、そもそも誘導されない条件、を満たすことになる。式(6)において左辺および中辺を等号で結んだ状態では、接続部4の内縁を通るループについて起電力19が零となり、式(6)において中辺および右辺を等号で結んだ状態では、接続部4の外縁を通るループについて起電力19が零となる。このように、接続部4の長手方向の長さgを考慮すると、式(5)に示す交流損失を低減するための条件は、次の式(6)に示す条件として規定することができる。
【数16】
【0064】
接続部4の長さgを短くすれば、超伝導的に接続部4を流れる電流を制限できるので、幅広の持続的渦電流を制限することができる。長手方向に沿った接続部4の長さgは、短手方向に沿った超伝導層2の長さ(幅)w
f以下であることが望ましい。
【数17】
【0065】
式(7)の条件は、持続的渦電流11が、最も外側に位置する超伝導層2をちょうど飽和させるか、飽和させない条件と呼ぶこともできる。この条件を満たすと、超伝導線材10Aにおいて、少なくとも幅wt全体にわたる、接続部4を介した持続的渦電流は流れ得ない。式(7)は、交流損失の低減という観点において、1本の超伝導フィラメント2の幅wfとの関係によって決まる接続部4の長さgの上限を示している。なお、式(7)について、長さgの下限を仮に示すとするならば、0≦gであり、長さgの下限は零である。
<誤差磁界の低減原理>
【0066】
図11および
図4を参照して、誤差磁界の低減原理について説明する。
【0067】
図11(A)に例示するように、超伝導層92がマルチフィラメント化されていない超伝導線材90Aにおいて、超伝導層92に垂直に印加される磁界H
eが時間的に変動すると、レンツの法則により、超伝導層92の幅全体にわたって、磁界H
eの変動を妨げる向きに渦電流99が流れる。渦電流99は超伝導層92内に分布して流れる。すなわち、図中左側では、渦電流99aの束は、超伝導層92を長手方向に手前側から奥側に幅w
e/2で一方向に流れ、図中右側では、渦電流99bの束は、超伝導層92を長手方向に奥側から手前側に幅w
e/2で一方向に流れる。
【0068】
このような渦電流99(99a,99b)は、超伝導層92内を持続的渦電流として流れている。一方で、持続的渦電流は、電磁石などを設計する際に考慮されていない想定外の電流であるので、例えば核磁気共鳴(NMR)装置用の電磁石、核磁気共鳴画像法(MRI)用の電磁石、および粒子線加速器用の電磁石などの、高精度な磁界の発生が要求される電磁石においては、誤差磁界の原因となっている。
【0069】
これに対し、超伝導層2がマルチフィラメント化され、隣り合う複数の超伝導フィラメント2,2間を接続部4が超伝導的にブリッジしている本発明に係る超伝導線材10によると、以下に説明するように、ロバスト性を向上させつつ、誤差磁界は低減される。
【0070】
図4に例示するように、超伝導層2がマルチフィラメント化されている本発明に係る超伝導線材10においても、超伝導層92がマルチフィラメント化されていない超伝導線材90Aと同様に、超伝導フィラメント2に垂直に印加される磁界H
eが時間的に変動すると、レンツの法則により持続的渦電流11が流れる。このときの持続的渦電流はそれぞれの超伝導フィラメント2(2a,2b,2c,2d)内に閉じ込められた形で流れる。隣接する複数の超伝導フィラメント2,2間において持続的渦電流11の向きに着目すると、隣接する側の近い位置に存在する持続的渦電流11同士の向きが逆向きになっており、それらが作る磁界は互いに打ち消し合う。
【0071】
例えば、隣接するフィラメント2a,2b間において近接する持続的渦電流11aの向きを参照する。フィラメント2aにおいて、フィラメント2bに隣接する側の持続的渦電流11aの向きは図中左向きであり、フィラメント2bにおいて、フィラメント2aに隣接する側の持続的渦電流11aの向きは図中右向きである。このように、隣接する複数のフィラメント2a,2b間において、隣接する側の近い位置に存在する持続的渦電流11a同士の向きは逆向きになっている。
【0072】
隣接するフィラメント2b,2c間において近接する持続的渦電流11aの向きについても、上述したフィラメント2a,2bの場合と同様に、隣接する側の近い位置に存在する持続的渦電流11a同士の向きは逆向きになっている。フィラメント2c,2d間についても同様である。持続的渦電流11bについても、上述した持続的渦電流11aと同様である。この結果、
図4の例では、フィラメント2aにおける持続的渦電流11のループの図中上側の成分が作る磁界と、フィラメント2dにおける持続的渦電流11のループの図中下側の成分が作る磁界とが残る。
【0073】
このように、本発明に係る超伝導線材10においては、隣接する複数の超伝導フィラメント2,2間において、隣接する側の近い位置に存在する持続的渦電流11同士の向きが逆向きになっており、それらが作る磁界は互いに打ち消し合う。その結果、超伝導線材10の幅に関して最も外側の両側(図中最も上側および最も下側)に位置する超伝導フィラメント2a,2d内を流れるそれぞれの持続的渦電流11のループの、超伝導線材10の幅に関して外側の成分が作る磁界のみが残る。これにより、超伝導層2がマルチフィラメント化されている本発明に係る超伝導線材10によると、設計上は想定外の電流である持続的渦電流が発生する誤差磁界は低減される。
<ロバスト性の向上>
【0074】
ロバスト性を向上するためには、或る超伝導フィラメント2から隣接する超伝導フィラメント2への電流の分流を容易にしなければならない。そのためには、絶縁部3の長さLが短く、すなわち、接続部4の間隔が短く、また、接続部4の長さgが長い方が望ましい。
【0075】
或る超伝導層2において局所的に常伝導化が発生した場合に、常伝導部を迂回して流れる電流の最大値は、超伝導線材10A(10)の全体に流れている電流の半分である。したがって、次の式(8)に規定するように、電流を分流するための接続部4の長さgが、超伝導線材10A(10)の幅w
tの少なくとも半分以上であれば、一か所の接続部4において、考え得る最大値の電流の迂回は可能である。式(8)は、ロバスト性の向上という観点において、超伝導線材10A(10)の幅w
tとの関係によって決まる接続部4の長さgの下限を一例として示している。
【数18】
【0076】
また、長手方向に沿った接続部4の長さgが短すぎると、この長さgがボトルネックとなり、常伝導部を迂回して隣の超伝導層2から流れ込む電流をスムーズに流すことができない。1本の超伝導フィラメント2の内部に発生した欠陥や常伝導部を電流が、一か所の接続部4を介して迂回して流れるための条件は、次の式(9)のように規定することができる。式(9)は、ロバスト性の向上という観点において、1本の超伝導フィラメント2の幅w
fとの関係によって決まる接続部4の長さgの下限を一例として示している。
【数19】
【0077】
言うまでもなく、接続部4の長さgが長い方が電流を分流する点では望ましい。しかしながら、接続部4においては、超伝導層2,2間が絶縁部3により分割されておらず、その結果として、持続的渦電流11の幅w
eが広くなり、局所的に交流損失が増大する。仮に、ロバスト性の向上という観点において、接続部4の長さgについての上限を示すとするならば、分割による交流損失の低減効果が殆ど発生しなくなる限界である次の式(10)の条件が一例として考えられる。
【数20】
【0078】
なお、本発明に係る超伝導線材10においては、超伝導層2,2間には接続部4が存在し、分割されている隣り合う超伝導層2,2を超伝導的に電気的に接続する。このため、例えば或る超伝導層2に欠陥が存在したり、或る超伝導層2において局所的に常伝導部が発生したりして、超伝導層2が超伝導的に電流を流すことができない場合であっても、接続部4を通して超伝導的に電流を迂回させることができる。このため、接続部4を備えていない、超伝導層2を完全に電気的に分割した従来の超伝導線材90Bや、銅分流層97によって超伝導層2,2間を常伝導的に電気的に接続した従来の超伝導線材90Cとは異なり、接続部4を備える本発明に係る超伝導線材10においては、マルチフィラメント化による超伝導層2の分割がロバスト性を損なうことがない。
[効果]
【0079】
以上、本発明の第1の実施形態に係る超伝導線材10Aおよび超伝導ケーブル20Aによると、交流損失の低減ならびに誤差磁界の低減と、ロバスト性の向上とを両立させることができる。第1の実施形態に係る超伝導線材10Aは、隣り合う複数の超伝導層2,2を超伝導的に電気的に接続する複数の接続部4を備え、螺旋状に巻かれると、
図3~
図5を参照して説明した、交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるための条件を満足する。
【0080】
第1の実施形態に係る超伝導線材10Aでは、絶縁部3の長さLを短くすることにより、十分に短い間隔で、隣り合う複数の超伝導層2,2を接続部4が超伝導的に電気的に接続する。これにより、超伝導層2を流れる電流の超伝導的な分流性は向上し、超伝導線材10Aのロバスト性は向上する。すなわち、仮に何らかの原因で、或る超伝導層2において局所的に常伝導状態への転移が生じたとしても、隣り合う複数の超伝導層2,2間を接続部4が超伝導的にブリッジして、常伝導転移した超伝導層2から隣接する超伝導層2に電流を分流することにより、超伝導線材10A全体のクエンチは防止される。
【0081】
また、第1の実施形態に係る超伝導線材10Aは、芯材9の軸に沿って螺旋状に巻かれることにより、起電力のループの長さLiを、螺旋ピッチの長さPに相当する超伝導線材10Aの長さPtの半分に短くし、絶縁部3の長さLより短くする。これにより交流損失は低減され、誤差磁界も低減される。
[第2の実施形態]
【0082】
本発明の第2の実施形態に係る超伝導線材10B(10)は、超伝導層2、絶縁部3および接続部4を覆う導電層5a(5)をさらに備えている点において、第1の実施形態に係る超伝導線材10Aと異なっている。以下において説明する、第2の実施形態に係る超伝導線材10Bの構成は、特に言及しない限り、第1の実施形態に係る超伝導線材10Aと同様であるので、重複する説明は省略する。
【0083】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る超伝導線材10Bの構成を模式的に示す図である。(A)は超伝導線材の斜視図であり、(B)は超伝導線材の平面図であり、(C)は(B)に示す6B-6B線に沿う超伝導線材の断面図である。
【0084】
第2の実施形態では、超伝導線材10B(10)は、超伝導層2、絶縁部3および接続部4を覆う導電層5a(5)をさらに備えている。図示する態様では、導電層5aは、超伝導層2だけではなく、超伝導層2、絶縁部3および接続部4を覆って形成されている。導電層5aは、超伝導層2に異常が生じた際に、超伝導層2を流れる電流を迂回させる分流層として機能する。例示的には、導電層5aは銅で形成されている。なお、例示する態様では、絶縁部3は、底面が基板1の表面に到達する溝として形成されており、溝には導電層5aとして機能する銅が満たされている。
【0085】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る超伝導線材10Bを超伝導層2および接続部4を含む平面において切り出した平面図である。
図7は、超伝導線材10Bが交流損失の低減とロバスト性の向上とを両立させるための条件を満足する場合の例を示している。
【0086】
第2の実施形態に係る超伝導線材10Bは、導電層5aを備えることにより、第1の実施形態に係る超伝導線材10Aと比較してロバスト性が向上する。
【0087】
第2の実施形態に係る超伝導線材10Bによると、限定された、しかし、実用上十分な運転周波数領域にて、第1の実施形態に係る超伝導線材10Aと同じ交流損失低減効果を得ることができる。
【0088】
第1の実施形態に係る超伝導線材10Aと異なり、第2の実施形態に係る超伝導線材10Bにおいては、超伝導層2、絶縁部3および接続部4の上部に設けられている導電層5aを介して、
図7に破線で示すように、複数の超伝導層2(2a,2b,2c,2d)にわたって、図中上下方向に幅広の結合電流12が複数の超伝導層2,2にわたって流れる。この結合電流12が減衰しない限り、超伝導層2のマルチフィラメント化の効果は発揮されず交流損失は大きいままである。
【0089】
図7を参照して、超伝導線材10Bにおいて発生する結合電流の様子と、結合電流減衰後の持続的渦電流の様子とについて詳しく説明する。
図7に示す状態の超伝導線材10Bでは、結合電流12は絶縁部3の上部に設けられた導電層5bを横切って流れ、結合電流12についての渦電流の幅は、複数の超伝導層2(2a,2b,2c,2d)にわたって、図中上下方向に幅広く、結合電流12が減衰していない状態では交流損失は大きい。仮に、印加する磁界の変動の周期が結合電流の減衰時定数である結合時定数τ
cに比べて十分に長ければ、結合電流12は減衰し、それぞれの超伝導フィラメント2内に閉じ込められた持続的渦電流11が流れるようになる。この超伝導フィラメント2内に閉じ込められた持続的渦電流11についての渦電流の幅w
eは狭く交流損失は小さい。
【0090】
結合電流は、その経路で決まる自己インダクタンスLccと抵抗Rccの比である結合時定数τcで減衰する。自己インダクタンスLccは渦電流(結合電流)の長さLeに比例し、抵抗Rccは渦電流(結合電流)の長さLeに反比例する。したがって、結合時定数τcは渦電流(結合電流)の長さLeの2乗に比例する。よって、渦電流(結合電流)の長さLeが長いと、導電層5aは、超伝導層2のマルチフィラメント化による交流損失の低減効果を損なってしまう。
【0091】
本発明の第2の実施形態において、超伝導線材10Bが、第1の実施形態に係る超伝導ケーブル20Aのように螺旋状に巻かれると、結合電流12についての渦電流の長さLeを短くすることができる。これにより、結合時定数τcを短くすることができる。
【0092】
磁界の変動の周期は、運転周波数の逆数である。第2の実施形態では、運転周波数が特性周波数fc=1/(2πτc)よりも十分小さいという条件のもとで、交流損失は低減され、誤差磁界は小さくなる。
【0093】
第2の実施形態において、超伝導ケーブルの側面視において、芯材9の表側に位置する超伝導線材10Bの領域に持続的渦電流11aが発生し、芯材9の裏側に位置する超伝導線材10Bの領域に持続的渦電流11bが発生する点については、
図4および
図5を参照して説明する第1の実施形態と同様である。
【0094】
第1の実施形態と同様に、第2の実施形態に係る超伝導線材10Bは、芯材9の軸に沿って螺旋状に巻かれることにより、超伝導ケーブルを構成することができる。
<交流損失の低減効果が発揮される運転周波数に関する考察>
【0095】
図12に示す従来の超伝導線材90Cを螺旋状に巻いた場合に、銅分流層97を介して複数の超伝導層92a,92a間を流れる渦電流である結合電流98の減衰時定数(結合時定数)τ
c1は、以下の式(11)で与えられることが実験的に確かめられている(温度77Kの場合)。
【数21】
【0096】
ここでtCuは、マルチフィラメント化された超伝導層92a,92a間に導電性を与える、銅メッキによる銅分流層97の厚さである。
【0097】
本発明の第2の実施形態に係る超伝導線材10Bを螺旋状に巻いた場合に、結合電流12のループの片側が接続部4を通ると考えると、結合電流12のループの抵抗は半分になり、以下の式(12)に示すように、結合時定数τ
c2は式(11)の2倍になる。
【数22】
【0098】
結合時定数がτ
cであるとき、特性周波数f
c=1/(2πτ
c)として、運転周波数が特性周波数f
cの10分の1程度であれば、結合電流が減衰し、交流損失を低減し、誤差磁界を低減することができる。すなわち、接続部4が設けられている本発明の第2の実施形態に係る超伝導線材10Bにおいては、運転周波数が次の式(13)の値以下であれば、交流損失の低減効果と、持続的渦電流による誤差磁界の低減効果とが発揮される。
【数23】
【0099】
式(13)により計算される周波数は、例示的には500Hz以上であり、交流で運転される多くの電気機器の運転周波数よりも高い。すなわち多くの電気機器は、運転周波数が式(13)の値以下であり、本発明の超伝導線材10による交流損失の低減効果と誤差磁界の低減効果とが発揮される状態の運転周波数の条件を満たしている。よって、本発明の超伝導線材10や超伝導ケーブル20は、ロバスト性が向上された状態で、さらに、交流損失の低減効果と誤差磁界の低減効果とが発揮された状態で、交流で運転される電気機器に応用することができる。
[第3の実施形態]
【0100】
本発明の第3の実施形態に係る超伝導線材10C(10)は、超伝導層2を覆う導電層5b(5)をさらに備えている点において、第1の実施形態に係る超伝導線材10Aと異なっている。以下において説明する、第3の実施形態に係る超伝導線材10Cの構成は、特に言及しない限り、第1の実施形態に係る超伝導線材10Aと同様であるので、重複する説明は省略する。
【0101】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る超伝導線材10Cの構成を模式的に示す図である。(A)は超伝導線材の斜視図であり、(B)は超伝導線材の平面図であり、(C)は(B)に示す8B-8B線に沿う超伝導線材の断面図である。
【0102】
第3の実施形態では、超伝導線材10C(10)は、超伝導層2を覆う導電層5b(5)をさらに備えている。図示する態様では、導電層5bは、絶縁部3および接続部4を覆わず、超伝導層2だけを覆って形成されている。導電層5bは、超伝導層2に異常が生じた際に、超伝導層2を流れる電流を迂回させる分流層として機能する。例示的には、導電層5bは銅で形成されている。なお、例示する態様では、絶縁部3は、基板1の表面を露出させる溝として形成されているが、導電層5bは超伝導層2だけを覆って形成されており、溝には導電層5bとして機能する銅は満たされていない。
【0103】
第3の実施形態において、超伝導ケーブルの側面視において、芯材9の表側に位置する超伝導線材10Cの領域に持続的渦電流11aが発生し、芯材9の裏側に位置する超伝導線材10Bの領域に持続的渦電流11bが発生する点については、
図4および
図5を参照して説明する第1の実施形態と同様である。第3の実施形態に係る超伝導線材10Cによると、第1の実施形態に係る超伝導線材10Aと同じ交流損失低減効果を得ることができる。
【0104】
第3の実施形態に係る超伝導線材10Cは、導電層5bを備えることにより、第1の実施形態に係る超伝導線材10Aと比較してロバスト性が向上する。より具体的には、超伝導層2から、超伝導層2の上部に設けられている導電層5bへの電流の分流により、ホットスポット温度の上昇を抑制することができる。
【0105】
第1の実施形態と同様に、第3の実施形態に係る超伝導線材10Cは、芯材9の軸に沿って螺旋状に巻かれることにより、超伝導ケーブルを構成することができる。
[その他の形態]
【0106】
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0107】
上記した実施形態では、超伝導線材10はマルチフィラメント化された4つの超伝導層2を備えるが、超伝導層2の数は限定されない。超伝導線材10は、複数の超伝導層2,2間に絶縁部3を少なくとも1つ配置することができればよく、超伝導線材10は、超伝導層2を少なくとも2つ備えていればよい。同様に、図示する上記した実施形態では、超伝導線材10は3本の絶縁部3を備えるが、絶縁部3の数は限定されず、超伝導線材10は、絶縁部3を少なくとも1本備えていればよい。
【0108】
上記した実施形態では、超伝導層2はREBCO高温超伝導体を用いて形成されているが、超伝導層2の材料は限定されない。超伝導層2に用いる高温超伝導体として、例えば、化学式YBa2Cu3O7-y(yは酸素不定比量)で表されるイットリウム系高温超伝導体や、ビスマス系高温超伝導体を超伝導層2に用いることができる。また、超伝導層2に用いる超伝導体としても、転移温度が液体窒素温度(77K)を超える高温超伝導体に限定されず、転移温度が液体窒素温度未満の超伝導体を用いることができ、将来的には転移温度がより室温(約300K)に近い超伝導体を用いることもできる。すなわち超伝導層2には、超伝導現象を示す超伝導体を用いることができる。
【0109】
上記した実施形態では、絶縁部3は基板1の表面を露出させる溝として例示的に形成されているが、絶縁部3は溝に限定されない。絶縁部3は、例えば種々の絶縁材料を用いて構成された、実体を有する部材として構成することができる。絶縁部3は、複数の超伝導層2,2間に配置されて、これら超伝導層2,2を電気的に絶縁すること、すなわち導電性を分割することができればよい。絶縁部3は、複数の超伝導層2,2の超伝導的な導電性を分割する、導電分割部と表現することもできる。また、溝として形成されている絶縁部3は、複数の超伝導層2,2を電気的に絶縁することができればよく、基板1の表面に中間層(図示せず)が形成されている場合は、絶縁部3は中間層を露出させる溝であればよい。
【0110】
上記した実施形態では、接続部4は超伝導層2と一体化して形成されているが、接続部4は超伝導層2とは別の部材として形成されてもよい。また、上記した実施形態では、接続部4は超伝導層2と同じ超伝導体を用いて形成されているが、接続部4に用いる超伝導体と超伝導層2に用いる超伝導体とは異なっていてもよい。すなわち、接続部4は、隣り合う複数の超伝導層2,2を超伝導的に電気的に接続することができればよい。また、上記した実施形態では、接続部4は、並列に配置される複数の絶縁部3にわたって、短手方向に整列して配置されているが、
図9に例示するように、接続部4は、並列に配置される複数の絶縁部3にわたって、短手方向に沿った線から離れた位置に配置することもできる。
【0111】
上記した実施形態では、導電層5(5a,5b)は銅で形成されているが、導電層5の材料は銅に限定されない。導電層5は、例示する銅以外にも、電気的な配線に用いる例えば銀や金等の電気伝導率が高い材料を用いて形成することができる。
【0112】
上記した実施形態では、芯材9は中実(solid)の部材であるが、芯材9は中空(hollow)の部材とすることもできる。例えば芯材9が中実の部材である場合には、超伝導線材10は、芯材9の外壁の周囲に螺旋状に巻くことができる。例えば芯材9が中空の部材である場合には、超伝導線材10は、芯材9の外壁の周囲に螺旋状に巻くことができるし、芯材9の内壁に沿って螺旋状に巻くこともできる。すなわち芯材9は、芯材9の軸に沿って超伝導線材10を螺旋状に巻くことができればよい。また、芯材9は複数の素線を撚り合わせたより線で構成することができる。素線同士は、絶縁されていてもよいし、されていなくてもよい。素線には、例えば銅やステンレス鋼等の金属線を用いることができる。例示的には、芯材9や素線の断面形状は、銅ニッケル合金等の高抵抗材料で銅を区切ったハニカム形状とすることができる。
【0113】
上記した実施形態では、芯材9は円筒形の部材であるが、芯材9に用いる部材の断面形状は円形に限定されない。芯材9に用いる部材の断面形状は、例えば楕円形であってもよいし、例えば正六角形や正三角形等の正多角形でもよいし、矩形であってもよいし、角を丸めた正多角形や角を丸めた矩形であってもよい。また例えば正多角形の場合では、部材の断面形状を表す正多角形の角の数を増大させることにより、部材の断面形状はより円形に近似することができる。
【0114】
上記した実施形態では、超伝導線材10は、芯材9の軸に沿って左ねじが進行する方向に巻かれているが、超伝導線材10は右ねじが進行する方向に巻かれていてもよい。
【0115】
上記した実施形態では、一層の超伝導線材10が芯材9の軸に沿って螺旋状に巻かれているが、芯材9の軸に沿って螺旋状に巻く超伝導線材10の層の数は限定されない。超伝導線材10の層の数を増やして、ケーブルの作製に用いる超伝導線材10の本数を増やすことにより、電流の容量が増大された超伝導ケーブルを作製することができる。例えば、n本の超伝導線材10を同じ一層に並列に並べて(例えばn=3であればトリファイラ巻き)、芯材9の軸に沿って螺旋状に巻き、そのような層を複数積層することにより、電流の容量が増大された超伝導ケーブルを作製することができる。また例えば、複数の超伝導線材10を多層に積層した上で、芯材9の軸に沿って螺旋状に巻くことにより、電流の容量が増大された超伝導ケーブルを作製することができる。このように、芯材9の軸に沿って複数の超伝導線材10を螺旋状に巻くうえで、複数の超伝導線材10を同じ一層に並べて並列に巻いた層を複数積層することと、複数の超伝導線材10を多層に積層して巻くことと、を組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0116】
1 基板
2(2a,2b,2c,2d,) 超伝導層
3 絶縁部
4 接続部
5(5a,5b) 導電層
9 芯材
10(10A,10B,10C,10D) 超伝導線材
11(11a,11b) 持続的渦電流
12 結合電流
19 起電力
20(20A) 超伝導ケーブル
80 超伝導線材
81 超伝導層
82 渦電流
83 起電力
90(90A,90B,90C) 従来の超伝導線材
91 基板
92 超伝導層
92a マルチフィラメント化された超伝導層
93 磁束量子
95 常伝導状態
96 電流
97 銅分流層
98 結合電流
99(99a,99b) 渦電流