(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】超伝導磁気センサ用冷却装置及びその制御方法。
(51)【国際特許分類】
H10N 60/81 20230101AFI20241217BHJP
G01R 33/035 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H10N60/81
G01R33/035
(21)【出願番号】P 2020180848
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-09-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業A-STEP機能検証フェーズ「車載電池用超高感度微小金属異物検査技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】田中 三郎
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-205401(JP,A)
【文献】国際公開第1999/062127(WO,A1)
【文献】特開2021-105476(JP,A)
【文献】波頭 経裕、塚本 晃、田辺 圭一,高温超伝導SQUIDの高スルーレート化のための減圧制御液体窒素容器の検討,2018年 第79回 応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集] Extended Abstracts of The 79th JSAP Autumn Meeting, 2018,日本,公益社団法人応用物理学会,2018年09月18日,20a-212B-2,DOI:10.11470/jsapmeeting.2018.2.0_2254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/81
G01R 33/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空窓を有するキャップ部と本体部とを備える外容器と、
冷媒を内蔵する内容器と、
該内容器から突出して前記キャップ部の真空窓へ対向する第1の端部を有する棒状の熱伝導体であって、前記第1の端部に超伝導磁気センサの基板を配設可能な熱伝導体と、を備え、
前記内容器は更に膨出部を備え、前記膨出部へ前記熱伝導体の第2の端部が埋設される、超伝導磁気センサ用冷却装置であって、
前記内容器の圧力調整器、温度センサ及び制御部が更に備えられ、
前記温度センサは前記膨出部又は前記熱伝導体に取り付けられ、
該温度センサで測定された温度に基づき、前記制御部は前記圧力調整器を制御して、前記内容器の内圧を制御する、超伝導磁気センサ用冷却装置。
【請求項2】
前記温度センサは熱電対若しくは抵抗測温体である、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記熱伝導体に前記温度センサとして熱電対が取り付けられる、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記冷媒は液体窒素であり、前記圧力調整器は前記内容器に接続される減圧ポンプである、請求項1~3のいずれかに記載の冷却装置。
【請求項5】
前記制御部は前記温度センサが検出した温度を基準にして、
前記圧力調整器をPID制御する、請求項1~4のいずれかに記載の冷却装置。
【請求項6】
真空窓を有するキャップ部と本体部とを備える外容器と、
冷媒を内蔵する内容器と、
該内容器から突出して前記キャップ部の真空窓へ対向する第1の端部を有する棒状の熱伝導体であって、前記第1の端部に超伝導磁気センサの基板を配設可能な熱伝導体と、を備え、
前記内容器は更に膨出部を備え、前記膨出部へ前記熱伝導体の第2の端部が埋設される、超伝導磁気センサ用冷却装置であって、
前記内容器の圧力調整器、前記膨出部若しくは前記熱伝導体へ取り付けられる温度センサ及び制御部を更に備える冷却装置の制御方法であって、
前記温度センサに、前記膨出部若しくは前記熱伝導体の温度を測定させる測温ステップと、
前記制御部に、該測定された温度に基づき、前記圧力調整器を制御して、前記内容器の内圧を所望の圧力に維持する、超伝導磁気センサ用冷却装置の制御方法。
【請求項7】
前記温度センサは熱電対若しくは抵抗測温体である、請求項6に記載の制御方法。
【請求項8】
前記熱伝導体に前記温度センサとして熱電対が取り付けられる、請求項6に記載の制御方法。
【請求項9】
前記冷媒は液体窒素であり、前記圧力調整器は前記内容器に接続された減圧ポンプである、請求項6~8いずれかに記載の制御方法。
【請求項10】
前記内容器の内圧がデフォルト状態で減圧されている、請求項9に記載の制御方法。
【請求項11】
前記制御部に、前記温度センサが検出した温度を基準にして、
前記圧力調整器をPID制御させる、請求項6~10のいずれかに記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は超伝導磁気センサ用冷却装置及びその制御方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導磁気センサ(以下、「SQUID」ということがある)の感度を挙げるためには、センサと測定対象との距離をできる限り近くすることが好ましい。
そこで、冷媒を内蔵する内容器から熱伝導体としてのサファイア棒を突出させてその先端にセンサを配置することが行われている。サファイア棒の冷却効率や取付け安定性等を確保するため、サファイア棒と内容器との間に熱伝導性の高い材料からなる膨出部を介在させている(特許文献1、2)。
なお、本件発明に関連する技術を開示する文献として非特許文献1を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1 特開2000-258520号公報
特許文献2 特許5145552号公報
【非特許文献】
【0004】
非特許文献1 第79回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集20a-212B-2(SUSTERA)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
顕微鏡タイプの超伝導磁気センサ用冷却装置では、熱伝導体が外界温度の影響を受けるので、先端部に配置されるSQUIDの温度は必ずしも内容器の冷媒の温度と一致しない。本発明者の検討によれば、冷媒として液体窒素を用いたとき、SQUIDの温度は約2Kの高い温度となる。更には、外界温度の如何によって、SQUIDの温度が変化し、安定しないおそれもある。つまり、顕微鏡タイプの超伝導磁気センサ用冷却装置を用いて行うセンシングは熱伝導体の先端に配置されたSQUIDの実温度が不定のまま行われるおそれがあった。
そこで、SQUIDの近傍に温度センサを配置して、SQUIDの実温度を測定できるようにすることが望まれている。
【0006】
しかしながら、SQUIDの近傍に温度センサを配置すると、外界の温度変化に加えて、当該温度センサ自体もSQUIDの温度に影響を与えるおそれがある。
従って、SQUIDが取り付けられる熱伝導体や、熱伝導体を支持する膨出部に温度センサを取り付けることには躊躇があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、冷媒の温度を制御することで、温度センサがSQUIDの温度に影響することを相殺若しくは極めて小さくできるのではないかと考えた。
その前提として、顕微鏡タイプの超伝導磁気センサ用冷却装置の場合においても冷媒温度を低下すると、SQUIDの臨界電流が増加することが確かめられている。
図2には、冷媒温度と臨界電流との関係を示す。
図2において臨界電流は一つの並列ジョセフソン接合についての値である。
【0008】
SQUIDの臨界電流はその温度により変化することが知られているので、
図2の結果は、顕微鏡タイプにおいても、冷媒の温度が変化することでSQUIDの温度も変化していることを示唆している。
つまり、冷媒の温度を制御することで、熱伝導体や膨出部に取り付けられた温度センサで測定される温度を常に所定の温度に保つようにし、もって、熱伝導体の先端に取り付けられたSQUIDの温度も一定に保つようにできると考えた。このようして、SQUIDの温度が安定すると、当該SQUIDの温度はその近傍に配置された温度センサの測定温度と実質的に等しくなる。
【0009】
SQUIDの稼働に要求される温度は極めて低いので、いわゆる高温超伝導SQUIDであっても、冷媒自体を他の冷媒で冷却してその温度を制御することは現実的ではない。
そこで、冷媒が収容される内容器の圧力を制御することで冷媒の温度調整をすることとした。冷媒の環境を減圧することで冷媒を過冷却状態とすることができるからである。
【0010】
以上より、この発明の第1の局面は次のように規定される。即ち、
真空窓を有するキャップ部と本体部とを備える外容器と、
冷媒を内蔵する内容器と、
該内容器から突出して前記キャップ部の真空窓へ対向する第1の端部を有する棒状の熱伝導体であって、前記第1の端部に超伝導磁気センサの基板を配設可能な熱伝導体と、を備え、
前記内容器は更に膨出部を備え、前記膨出部へ前記熱伝導体の第2の端部が埋設される、超伝導磁気センサ用冷却装置であって、
前記内容器の圧力調整器、温度センサ及び制御部が更に備えられ、
前記温度センサは前記膨出部又は前記熱伝導体に取り付けられ、
該温度センサで測定された温度に基づき、前記制御部は前記圧力調整器を制御して、前記内容器の内圧を制御する、超伝導磁気センサ用冷却装置。
【0011】
このように規定される第1の局面に規定の超伝導時期センサ用冷却装置によれば、内容器の内圧を制御することで、冷媒の沸点が変動し、もって、冷媒の温度の制御が可能となる。
温度センサで測定される温度が所定の温度で安定するように、冷媒の温度をいわゆるフィードバック制御(例えばPID制御)する。冷媒の温度調整は、制御部で圧力調整器を制御し、もって内容器の内圧を制御することで行う。
温度センサの温度が安定することは、当該温度センサの近傍に位置するSQUIDの温度も安定していると強く推定され、かつその温度も温度センサが測定する温度と実質的に等しいと考えられる。換言すれば、SQUID顕微鏡タイプにおいても、熱伝導体の先端に取り付けられたSQUIDの温度が特定され、かつその温度を安定化することができる。
【0012】
上記において、温度センサとして熱電対式、若しくは抵抗測温体を用いることが好ましい(第2の局面)。温度センサからのSQUIDに与える熱影響を小さくできるからである。
SQUIDにより近づけるには熱電対式が好ましく(第3の局面)、これを熱伝導体へ取り付けることができる。熱電対式は電流を生じないからである。
SQUIDの動作温度を提供する冷媒は一般に液体窒素であり、この液体窒素が充填される内容器の内圧の制御は減圧ポンプで行うことができる(第4の局面)。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1はこの発明の実施形態の超伝導磁気センサ用冷却装置の構成を示す模式図である。
【
図2】顕微鏡タイプの超伝導磁気センサ用冷却装置における冷媒温度と臨界電流との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1はこの発明の実施の形態の超伝導磁気センサ用冷却装置1の構造を示す模式図である。
この冷却装置10は、外容器11、内容器30、温度センサ60、制御部70及び減圧ポンプ80を備える。
外容器11は本体部12とキャップ部20とを有し、キャップ部20の頂部21には透明なサファイアからなる真空窓23が取り付けられている。
本体部12はその内部を真空引きするため図示しない真空ポンプに連結される真空経路13を備える。
キャップ部20は本体部12へ、図示上下方向へ移動可能に取り付けられる。これによりSQUID1と真空窓23との距離が調整できる。
【0015】
内容器30は外容器11内に収納され、その内部には冷媒として液体窒素が充填されている。符号32は液体窒素の充填口であり、使用時には閉塞されている。符号31は減圧ポンプ80に接続される減圧口である。
内容器30の下壁には伝熱性の良好な材料で形成された膨出部33が接続されている。この例では、下壁に穴があけられて内容器内の液体窒素がこの膨出部33に接触している。膨出部33の上縁を内容器30内へ挿入して、膨出部33と液体窒素との接触面積を増大することができる。
この膨出部33内に液体窒素の流路を形成することもできる。
図中の符号50は支持脚、符号53は断熱シートである。
【0016】
膨出部33には、図示下側から、一対のサファイア棒5からなる熱伝導体が挿入されている。各サファイア棒5の下端にはSQUID1が取り付けられる。
サファイア棒5又は膨出部33に温度センサ60を取り付ける。
温度センサ60の取付け位置は、サファイア棒5では、SQUID1の取り付けられている先端側とすることが好ましい。膨出部33では、図示下面においてサファイア棒5の近くとすることが好ましい。
温度センサ60には大気中における液体窒素の温度を測定可能であって、かつそれ自体が極力温度を発生しない方式のものが好ましい。例えば、熱電対や抵抗測温体を用いることができる。抵抗測温体式の温度センサでは微弱な電流が流れるので、SQUIDの回路に対する影響をできる限り避けるため、もっぱら膨出部33に取り付けることが好ましい。電流が殆ど流れない熱電対式の温度センサをサファイア棒5に取り付けることができる。
【0017】
温度センサ60による測定結果は信号線72を介して制御部70に送られる。制御部70は、温度センサ60の測定した温度に基づき、信号線74を介して制御信号を減圧ポンプ80へ送る。この制御信号に従って減圧ポンプ80は内容器30内を減圧する。これにより、液体窒素の温度を低下することができる。
一般的に、SQUIDではその環境温度を低くすることで高出力、高性能を得やすい。従って、液体窒素の温度をできるだけ低下させ、サファイア棒5の先端に取り付けられたSQUID1の温度を低く保つようにすることが好ましい。
【0018】
ここに、液体窒素の温度が一定に保たれていても、温度センサ60の測定対象の温度は外界温度の影響を受けて変動する。
そこでこの冷却装置10では、温度センサ60の測定対象の温度が一定となるように、減圧ポンプ80を働かせて内容器30の内圧を制御し、もって液体窒素の温度を制御する。符号82は減圧ラインである。
内容器30の内圧を下げることで液体窒素の温度を低下させられることに鑑みれば、減圧ポンプ80を用いる場合、内容器30の内圧を、デフォルト状態で、大気圧より減圧状態としておくことが好ましい。
内容器30の内圧を任意に調整できる圧力調整装置を用いる場合は、デフォルト状態における内容器30の内圧は任意に選択できる。
【0019】
このように構成された冷却装置10では、温度センサ60の測定対象の温度を、所望の温度で安定させることができる。温度センサ60の測定対象の温度が安定化することは、サファイア棒5の先端、即ちSQUID1の温度も安定していることを意味し、かつその温度は温度センサ60が測定する温度に等しいといえる。
即ち、この冷却装置10によれば、顕微鏡タイプの超伝導磁気センサ用冷却装置において、熱伝導体の先端に取り付けられたSQUIDの実温度を確認しつつその測定を実行できる。
【0020】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0021】
1 超伝導磁気センサ用冷却装置
10 冷却装置
11 外容器
12 本体部
20 キャップ部
23 真空窓
30 内容器
33 膨出部
60 温度センサ
70 制御部
80 減圧ポンプ