(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】臭気改善システム、臭気改善装置、及び臭気改善プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20241217BHJP
【FI】
G06Q50/02
(21)【出願番号】P 2020185407
(22)【出願日】2020-11-05
【審査請求日】2023-11-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年3月31日 日本型悪臭防止最適管理手法を用いた畜産悪臭苦情軽減技術開発普及事業成果報告書 にて公開 令和2年3月31日 畜産悪臭苦情軽減技術の手引きにて公開 令和2年2月14日 2019年度JPPA青年部会 生産経営セミナーにて公開 令和2年9月28日 令和2年度畜産環境シンポジウムにて公開 令和2年10月23日 日本農業新聞 令和2年10月23日付日刊、第11面にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池口 厚男
(72)【発明者】
【氏名】小堤 悠平
【審査官】塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-103533(JP,A)
【文献】特開2017-101996(JP,A)
【文献】特開平07-136238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭気環境を改善する効能剤を施設外へ噴霧するための噴霧装置と、
前記噴霧装置による前記効能剤の噴霧の実行を制御する制御装置と、を含み、
前記噴霧装置は、少なくとも、前記効能剤を蓄積するポンプと、前記ポンプに蓄積された前記効能剤を前記施設外へ噴霧可能とするように設置されたノズルとによって構成する
と共に、
噴霧条件に関係するデータとして、観測された気象データ、及び施設で行う作業に関する作業データを受け付ける受付部と、
前記データに係る条件に応じた噴霧条件を設定する設定部と、
受け付けた前記データを入力パラメータとして、前記噴霧条件を満たすように、前記施設外への前記効能剤の噴霧を実行する制御部と、を含み、
前記データに係る条件は、前記気象データに係る気象条件、及び前記作業データに係る作業条件を含み、
前記受付部は、更に、前記施設に係る立地条件及び気象予報の少なくとも一つを用いて、効能剤を噴霧した場合の拡散状況をシミュレーションした解析データを受け付け、
前記設定部は、前記解析データ、前記気象条件、及び前記作業条件に応じて前記噴霧条件を設定し、
前記噴霧条件の判定基準として、前記解析データ、前記気象条件、及び前記作業条件による複数の条件を組み合わせた、噴霧を実行するか否かを判定するための基準を設定し、
前記噴霧条件の実施要件として、前記作業条件として予め定めた作業種別及び作業時間の少なくとも一つに応じた必要な噴霧時間の長さ、及び前記作業条件として予め定めた停止時間帯に応じた噴霧の強制停止時刻を設定する、
臭気改善システム。
【請求項2】
前記ノズルを複数のノズルによって構成し、
前記設定部は、前記噴霧条件として、前記作業条件に応じた必要な噴霧量を定め、
前記制御部は、噴霧を行う前記ノズルの数を選択することにより噴霧量を制御する、請求項
1に記載の臭気改善システム。
【請求項3】
前記ノズルを開口サイズの異なる複数のノズルによって構成し、
前記設定部は、前記噴霧条件として、前記作業条件に応じた必要な噴霧量を定め、
前記制御部は、前記ノズルの開口サイズ及び前記必要な噴霧量に応じて、噴霧を行う前記ノズルを選択することにより噴霧量を制御する、請求項
1又は請求項2に記載の臭気改善システム。
【請求項4】
噴霧条件に関係するデータ
として、観測された気象データ、及び施設で行う作業に関する作業データを受け付ける受付部と、
前記データに係る条件に応じた噴霧条件を設定する設定部と、
受け付けた前記データを入力パラメータとして、前記噴霧条件を満たすように、施設外への臭気環境を改善する効能剤の噴霧を実行する制御部と、
を含
み、
前記データに係る条件は、前記気象データに係る気象条件、及び前記作業データに係る作業条件を含み、
前記受付部は、更に、前記施設に係る立地条件及び気象予報の少なくとも一つを用いて、効能剤を噴霧した場合の拡散状況をシミュレーションした解析データを受け付け、
前記設定部は、前記解析データ、前記気象条件、及び前記作業条件に応じて前記噴霧条件を設定し、
前記噴霧条件の判定基準として、前記解析データ、前記気象条件、及び前記作業条件による複数の条件を組み合わせた、噴霧を実行するか否かを判定するための基準を設定し、
前記噴霧条件の実施要件として、前記作業条件として予め定めた作業種別及び作業時間の少なくとも一つに応じた必要な噴霧時間の長さ、及び前記作業条件として予め定めた停止時間帯に応じた噴霧の強制停止時刻を設定する、
臭気改善装置。
【請求項5】
噴霧条件に関係するデータ
として、観測された気象データ、及び施設で行う作業に関する作業データを受け付け、
前記データに係る条件に応じた噴霧条件を設定し、
受け付けた前記データを入力パラメータとして、前記噴霧条件を満たすように、施設外への臭気環境を改善する効能剤の噴霧を実行する、
処理をコンピュータに実行させる臭気改善プログラム
であって、
前記データに係る条件は、前記気象データに係る気象条件、及び前記作業データに係る作業条件を含み、
前記受け付けるデータとして、更に、前記施設に係る立地条件及び気象予報の少なくとも一つを用いて、効能剤を噴霧した場合の拡散状況をシミュレーションした解析データを受け付け、
前記設定の処理においては、
前記解析データ、前記気象条件、及び前記作業条件に応じて前記噴霧条件を設定し、
前記噴霧条件の判定基準として、前記解析データ、前記気象条件、及び前記作業条件による複数の条件を組み合わせた、噴霧を実行するか否かを判定するための基準を設定し、
前記噴霧条件の実施要件として、前記作業条件として予め定めた作業種別及び作業時間の少なくとも一つに応じた必要な噴霧時間の長さ、及び前記作業条件として予め定めた停止時間帯に応じた噴霧の強制停止時刻を設定する、
臭気改善プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、臭気改善システム、臭気改善装置、及び臭気改善プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、畜産農業の分野においてはいわゆるスマート農業と呼ばれるICTの活用による高品質化、及び効率化等が行われている。一方で、畜産の重要な課題の一つに悪臭対策が挙げられる(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】小堤 悠平,重岡 久美子,畠中 哲哉,田中 康男,道宗 直昭,池口 厚男“養豚の開放型堆肥舎における散布型芳香消臭剤が畜産臭気の緩和に及ぼす効果”,においかおり環境学会誌 令和2年51巻5号 ページ314-318.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
畜産農場と居住区域の近接化、及び市民の環境問題意識の高まり等により、畜産農場への悪臭の苦情が深刻化していることが問題となっている。住民から寄せられる悪臭の苦情により、農場は、経営の継続が困難になる場合や、苦情対策にかける費用で経営が逼迫する場合もある。そのため悪臭対策は、畜産農場にとっての経営上の課題、及び住民にとっての生活上の課題として必要とされている。日本のいくつかの市町村では生産者、住民、及び行政の三者による協議会が設置される等、問題の解決に向けた取り組みが行われている。このような現状に対して、畜産経営の存続、及び地域住民の快適な生活の確保のため、畜産農場の周辺に拡散してしまう悪臭を低減させるための技術的なアプローチが必要とされている。
【0005】
開示の技術は、上記の点に鑑みてなされたものであり、施設周辺の臭気を効率的に改善することができる臭気改善システム、臭気改善装置、及び臭気改善プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1態様は、臭気改善システムであって、臭気環境を改善する効能剤を施設外へ噴霧するための噴霧装置と、前記噴霧装置による前記効能剤の噴霧の実行を制御する制御装置と、を含み、前記噴霧装置は、少なくとも、前記効能剤を蓄積するポンプと、前記ポンプに蓄積された前記効能剤を前記施設外へ噴霧可能とするように設置されたノズルとによって構成する。これにより、施設周辺の臭気を効率的に改善することができる。
【0007】
また、臭気改善システムについて、前記制御装置は、噴霧条件に関係するデータを受け付ける受付部と、前記データに係る条件に応じた噴霧条件を設定する設定部と、受け付けた前記データを入力パラメータとして、前記噴霧条件を満たすように、前記施設外への前記効能剤の噴霧を実行する制御部と、を含む、ようにすることもできる。これにより、条件に応じて噴霧を制御することができる。
【0008】
また、臭気改善システムについて、前記データは、観測された気象データ、及び施設で行う作業に関する作業データの少なくとも一つを含み、前記データに係る条件は、前記気象データに係る気象条件、及び前記作業データに係る作業条件の少なくとも一つを含む、ようにすることもできる。これにより、その時々に応じて変化が伴う気象データ及び作業データに応じて噴霧を制御することができる。
【0009】
また、臭気改善システムについて、前記受付部は、前記施設に係る立地条件及び気象予報の少なくとも一つを用いて拡散状況をシミュレーションした解析データを更に受け付け、前記設定部は、前記解析データ、前記気象条件、及び前記作業条件に応じて前記噴霧条件を設定する、ようにすることもできる。これにより、どのくらい施設周辺に拡散するのかを精度良く推定した解析データを用いて、臭気改善効果面及びコスト面の両面からより効率的な噴霧が可能な噴霧条件を設定することができる。
【0010】
また、臭気改善システムについて、前記設定部は、前記噴霧条件の判定基準として、前記解析データ、前記気象条件、及び前記作業条件による複数の条件を組み合わせた基準を設定し、前記噴霧条件の実施要件として、前記作業条件として予め定めた作業種別及び作業時間の少なくとも一つに応じた必要な噴霧時間の長さ、及び前記作業条件として予め定めた停止時間帯に応じた噴霧の停止時刻を設定する、ようにすることもできる。これにより、精緻な噴霧制御を可能とすることができる。
【0011】
また、臭気改善システムについて、前記ノズルを複数のノズルによって構成し、前記設定部は、前記噴霧条件として、前記作業条件に応じた必要な噴霧量を定め、前記制御部は、噴霧を行う前記ノズルの数を選択することにより噴霧量を制御する、ようにすることもできる。これにより、噴霧量を制御することができる。
【0012】
また、臭気改善システムについて、前記ノズルを開口サイズの異なる複数のノズルによって構成し、前記設定部は、前記噴霧条件として、前記作業条件に応じた必要な噴霧量を定め、前記制御部は、前記ノズルの開口サイズ及び前記必要な噴霧量に応じて、噴霧を行う前記ノズルを選択することにより噴霧量を制御する、ようにすることもできる。これにより、噴霧量を制御することができる。
【0013】
本開示の第2態様は、臭気改善装置であって、噴霧条件に関係するデータを受け付ける受付部と、前記データに係る条件に応じた噴霧条件を設定する設定部と、受け付けた前記データを入力パラメータとして、前記噴霧条件を満たすように、施設外への臭気環境を改善する効能剤の噴霧を実行する制御部と、を含む。これにより、その時々に応じて変化が伴う気象データ及び作業データに応じて噴霧を制御することができる。
【0014】
また、臭気改善装置について、前記データは、観測された気象データ、及び施設で行う作業に関する作業データの少なくとも一つを含み、前記データに係る条件は、前記気象データに係る気象条件、及び前記作業データに係る作業条件の少なくとも一つを含む、ようにしてもよい。これにより、その時々に応じて変化が伴う気象データ及び作業データに応じて噴霧を制御することができる。
【0015】
また、臭気改善装置について、前記受付部は、前記施設に係る立地条件及び気象条件の少なくとも一つを用いて拡散状況をシミュレーションした解析データを更に受け付け、前記設定部は、前記解析データ、前記気象条件、及び前記作業条件に応じて前記噴霧条件を設定する、ようにすることもできる。これにより、どのくらい施設周辺に拡散するのかを精度良く推定した解析データを用いて、臭気改善効果面及びコスト面の両面から効率的な噴霧が可能な噴霧条件を設定することができる。
【0016】
本開示の第3態様は、臭気改善プログラムであって、噴霧条件に関係するデータを受け付け、前記データに係る条件に応じた噴霧条件を設定し、受け付けた前記データを入力パラメータとして、前記噴霧条件を満たすように、施設外への臭気環境を改善する効能剤の噴霧を実行する、処理をコンピュータに実行させる。これにより、その時々に応じて変化が伴う気象データ及び作業データに応じて噴霧を制御することができる。
【0017】
また、臭気改善プログラムについて、前記データは、観測された気象データ、及び施設で行う作業に関する作業データの少なくとも一つを含み、前記データに係る条件は、前記気象データに係る気象条件、及び前記作業データに係る作業条件の少なくとも一つを含む、ようにしてもよい。これにより、その時々に応じて変化が伴う気象データ及び作業データに応じて噴霧を制御することができる。
【0018】
また、臭気改善プログラムについて、前記施設に係る立地条件及び気象条件の少なくとも一つを用いて拡散状況をシミュレーションした解析データを更に受け付け、前記解析データ、前記気象条件、及び前記作業条件に応じて前記噴霧条件を設定する、ようにすることもできる。これにより、どのくらい施設周辺に拡散するのかを精度良く推定した解析データを用いて、臭気改善効果面及びコスト面の両面から効率的な噴霧が可能な噴霧条件を設定することができる。
【発明の効果】
【0019】
開示の技術によれば、施設周辺の臭気を効率的に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】従来手法で施設内に効能剤を噴霧した場合と、本手法で施設外に効能剤を噴霧した場合とを比較したイメージ図である。
【
図2】本実施形態の臭気改善システムの構成の一例を示す図である。
【
図3】立地ごとの解析データのシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図4】制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】臭気改善システムによる処理の流れを示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、開示の技術の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一又は等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0022】
まず、本開示の概要について説明する。本開示の技術による臭気改善システムは、施設周辺の臭気を低減することを目的としている。本技術は、畜産農場だけでなく、何らかの臭気を発生させる施設全般に適用可能であり、例えば、他の農業施設、及び工業施設等にも適用してもよい。従来は施設内で散布することが想定されていたが(非特許文献1参照)、本技術の特徴は、施設外に、臭気環境を改善する効能剤を噴霧することによって、施設周辺の臭気を低減させることにある。効能剤としては、マスキング剤(芳香消臭剤)、脱臭剤、消臭剤、除菌剤、及び防臭剤等の臭気環境の改善が可能な薬剤を適宜用いることができる。非特許文献1では散布型の芳香消臭剤による臭気改善効果が確認されており、堆肥舎内及び風下の敷地境界の「6段階臭気強度表示法」と「9段階快・不快度表示法」による結果が示されている。
【0023】
図1は、従来手法で施設内に効能剤を噴霧した場合と、本手法で施設外に効能剤を噴霧した場合とを比較したイメージ図である。
図1の例では、従来手法では屋内の限定的な範囲でしか効能剤を散布できていなかった。一方、本手法のように施設外に噴霧する場合に、施設の屋上及び施設を囲う外壁にノズル144を設置し、ノズル144から外部に効能剤を噴霧している。この場合、外風によって施設周辺に効能剤が拡散されるため、屋内の限定的な範囲で効能剤を撒くよりも、施設周辺のより広範囲で臭気改善が期待できる。このように本実施形態の臭気改善システムでは、気象条件等を考慮して効能剤を施設外へ噴霧することで、効率的に臭気改善を図る。また、効能剤の購入には費用を要するため、効能剤の量を削減できれば、施設経営のコスト削減にも資することができる。
【0024】
(臭気改善システムの構成)
以下、本実施形態の構成について説明する。
【0025】
図2は臭気改善システムの構成の一例を示す図である。
図2に示すように、臭気改善システム100は、制御装置110と、気象観測装置120と、シミュレーション環境130と、噴霧装置140とがネットワークNを介して接続されている。
【0026】
制御装置110は、噴霧装置140による効能剤の噴霧の実行を制御する。制御装置110は、受付部112と、設定部114と、制御部116とを含む。なお、制御装置110が本開示の技術の臭気改善装置の一例である。
【0027】
気象観測装置120には、施設周辺の天候(雨が降っているか否か、及び雨量等)、風向及び風速を観測可能な装置を用いる。なお、気象観測装置120に代えて、施設周辺の天候状況をモニタリングする外部の気象情報サービスを利用するようにしてもよい。
【0028】
シミュレーション環境130は、施設に係る立地条件及び気象予報を用いて拡散状況を、CFD(Computational Fluid Dynamics)等によりシミュレーションした解析データを演算する環境である。例えば、クラウド環境等で解析ソフトを実行できる環境を用意し、施設に係る立地条件及び気象予報を解析ソフトに入力して演算することにより、解析データを出力すればよい。立地条件は施設周辺の所定範囲、及び標高を含む一般的な地図データであればよい。気象予報は外部の気象予報サービスから取得してもよいし、気象観測装置120から取得してもよい。
図3は、立地ごとの解析データのシミュレーション結果の一例を示す図である。
図3に示すように、立地及び標高の違いによって、拡散濃度の度合いが異なった結果でシミュレーションされていることがわかる。(a)は標高が26mと低く一部の範囲に溜まって拡散濃度が高くなってしまっているが、一方で(b)(c)(d)と標高が高くなれば広い範囲に拡散していることがわかる。広い範囲に拡散した方が、より臭気改善効果が見込めると想定される。立地条件及び気象予報を用いたシミュレーションを行うことで、施設がある場所の立地で効能剤を噴霧した場合に、どのくらい施設周辺に拡散するのかを精度良く推定した解析データを得ることができる。また、立地条件及び気象予報の少なくとも一つを用いてシミュレーションをおこなってもよい。このような解析データを用いれば、どの程度の時間で効能剤を噴霧すれば臭気改善効果が見込めるのかを容易に把握することができる。解析データを用いずに、作業者が任意に噴霧条件を定めた場合、作業者の想定で噴霧することになる。一方、シミュレーション結果の解析データを用いることで、臭気改善効果面及びコスト面の両面からより効率的な噴霧が可能な噴霧条件を設定することが可能となる。
【0029】
噴霧装置140は、臭気環境を改善する効能剤を施設外へ噴霧するための装置である。噴霧装置140は、ポンプ142と、複数のノズル144とを含む。ポンプ142には、効能剤が蓄積される。ポンプ142は、マイコン等が備えられており、制御装置110からの指示によって、効能剤をノズル144に噴出する機構となっていればよい(図示省略)。ノズル144は、ポンプ142に蓄積された効能剤を施設外へ噴霧可能とするように施設の所定位置に設置されている。ノズル144を設置する位置としては、例えば、施設の屋上、及び施設を囲う外壁等の施設の外部に噴霧可能とするようにノズル144が開口できる箇所であればよい。また、ノズル144は施設外(施設付近)に設置してもよい。噴霧装置140による噴霧は、ポンプ142から効能剤を吸い上げてノズル144の開口部分から施設外へ射出することにより行うことができる。なお、ポンプ142とノズル144を繋ぐホース類(図示省略)は適宜必要に応じて用いればよい。
【0030】
(制御装置110のハードウェア構成)
図4は、制御装置110のハードウェア構成を示すブロック図である。ハードウェアのコンピュータとしては、例えばRaspberry Piを採用することにより低コストで実現可能である。
【0031】
図4に示すように、制御装置110は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0032】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12又はストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12又はストレージ14に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12又はストレージ14には、制御プログラムが格納されている。
【0033】
ROM12は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0034】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0035】
表示部16は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能してもよい。
【0036】
通信インタフェース17は、端末等の他の機器と通信するためのインタフェースである。当該通信には、たとえば、イーサネット(登録商標)若しくはFDDI等の有線通信の規格、又は、4G、5G、若しくはWi-Fi(登録商標)等の無線通信の規格が用いられる。以上が制御装置110のハードウェア構成の説明である。
【0037】
次に、制御装置110の各機能構成について説明する。各機能構成は、CPU11がROM12又はストレージ14に記憶された制御プログラムを読み出し、RAM13に展開して実行することにより実現される。
【0038】
受付部112は、入力として、気象データ、作業データ、及び解析データを適宜必要なタイミングで受け付ける。気象データは、気象観測装置120で観測された天候並びに風向及び風速を含む気象情報である。作業データは、入力部15等から作業者が入力した施設で行う作業に関するデータである。作業データとしては、例えば、作業種別、及び作業時間を受け付ける。解析データは、シミュレーション環境130で解析された施設についてのシミュレーション結果である。気象データ及び作業データは、制御部116の条件判定の入力パラメータとして用いられる。解析データは、設定部114の噴霧条件の設定のために用いられる。なお、以下入力パラメータとして気象データ及び作業データを受け付ける態様について説明するが、これに限定されるものではない。例えば、気象データ及び作業データの少なくとも一つ、又は他の噴霧条件に関係するデータを受け付けて入力パラメータとしてもよい。他の噴霧条件に関係するデータとしては、施設又は施設周辺のイベントを用いてもよい。イベントのデータを用いることにより、イベント時の噴霧の有無、噴霧時間の調整等が可能である。
【0039】
設定部114は、解析データ、気象条件、及び作業条件に応じた噴霧条件を設定する。ここで、噴霧条件は、判定基準と、実施要件とに分けて定めることができる。判定基準は、時間帯ごとに噴霧を実行するか否かを判定するための基準である。実施要件は、噴霧を行う場合の各種設定である。各種設定は、噴霧する場合にいつからいつまでの時間噴霧を行うのか、どのノズル144で噴霧を行うのか、気象データが更新された際にどのような気象データの場合に噴霧を停止するのか等の設定である。気象条件、及び作業条件は、判定基準及び実施要件を設定するための基礎となる条件である(以下に例示を説明する)。気象条件、及び作業条件は、予め定めておいてもよいし、作業者が入力してもよく、適宜変更してよい。
【0040】
判定基準は、解析データ、気象条件、及び作業条件から、噴霧を実行可能とする複数の条件を適宜選択し、条件を組み合わせて定めることができる。例えば、作業条件として、予定されている作業が特定の作業種別の場合に噴霧対象とする、という条件を設けてもよい。組み合わせに用いる条件について説明する。解析データにおいて、施設の立地上の周辺施設の方向に向けて、ある程度広範囲に拡散している場合に噴霧を実行可能とする、という解析データによる条件を用いてもよい。また、気象データの風向きが周辺施設の方向であり、風速が一定速度以上の場合に噴霧を実行可能とする、という気象条件を用いてもよい。また、気象データの天候が雨以外の場合に噴霧を実行可能とする、という気象条件を用いてもよい。また、作業データで作業予定の作業種別が、臭気量が多く見込まれる場合(予め作業種別に対して臭気量のレベルを設定しておく)に、噴霧を実行可能とする、という作業条件を用いてもよい。この他にも、解析データ、気象条件、及び作業条件の組み合わせから設定できる他の条件を定めてもよい。また、そもそも作業種別により噴霧するかしないかを第1判定基準として判定を行った上で、上記の条件を組み合わせた基準を第2判定基準として、第1判定基準を満たす場合に第2判定基準による判定を行うように段階的な判定基準としてもよい。以上のように、設定部114では、噴霧条件の判定基準はこれらの条件を適宜組み合わせて設定すればよい。設定は自動でもよいし、自動生成した判定基準をベースにして作業者に設定させるようにしてもよい。作業者に設定させる場合には、表示部16に解析データのシミュレーション結果を表示する等してもよい。
【0041】
実施要件は、解析データ、気象条件、及び作業条件に応じて、設定及び調整することができる。例えば、作業条件として、予定される作業データの作業種別及び作業時間に応じて必要な噴霧時間の長さを設定する。ある作業種別(堆肥切り返しなど)の作業時間が1時間であれば、その作業の開始時点を基準に1時間の噴霧、又は2時間の噴霧等、必要な効能剤の噴霧量に応じた噴霧時間を設定する。また、作業種別及び作業時間の少なくとも一つから噴霧時間を定めてもよい。なお、噴霧量は噴霧時間によって調整可能とする。また、解析データでも立地条件及び気象予報のデータに応じて拡散度合いが異なってくるため、拡散度合いに応じて、噴霧時間を調整するようにしてもよい。例えば、拡散度合いが広い場合には短くし、拡散度合いが狭い場合には長くする等である。また、解析データを用いなくても、観測された気象データの風向及び風速により調整を行ってもよい。これにより効能剤を必要量だけ噴霧することができ、省コスト化を実現できる。
【0042】
また、実施要件には、噴霧時間と停止時間帯が重複する場合を考慮し、優先度を設定しておく。例えば、作業条件として夜間から早朝の21-6時の時間帯は停止する、というように停止時間帯が定められている場合には、停止時間帯は必ず停止するように優先度を設定する。停止時間帯の優先度を作業に係る噴霧時間よりも高く設定しておけば、作業がこの時間にも行われており噴霧時間と停止時間帯とが重複する場合に、21時には噴霧を停止することができる。このようにして停止時間帯に応じた噴霧の強制停止時刻を設定する。また、実施要件として、噴霧量の調整のため、噴霧を行うノズル144の選択的に設定してもよい。例えば、作業条件に応じた必要な噴霧量を定め、噴霧を行うノズル144の数を選択することにより噴霧量を制御するようにしてもよい。又は、開口サイズの異なる複数のノズル144によって構成して、ノズルの開口サイズ及び必要な噴霧量に応じて、噴霧を行うノズルを選択することにより噴霧量を制御するようにしてもよい。以上のように、設定部114では、噴霧条件の実施要件を、解析データ、気象条件、及び作業条件に応じて、適宜設定すればよい。
【0043】
制御部116は、受付部112で受け付けた気象データ及び作業データを入力パラメータとして、噴霧条件の判定基準を満たすか否かを判定する。判定基準を満たすと判定した場合には、噴霧条件の実施要件を満たすように、ノズル144から施設外への効能剤の噴霧を実行する。判定基準を満たさないと判定した場合には、入力パラメータ(解析データ、又は気象データ及び作業データ)を受け付けるごとに制御処理を繰り返す。
【0044】
(臭気改善システムの作用)
次に、臭気改善システム100の作用について説明する。
【0045】
図5は、臭気改善システム100による処理の流れを示すシーケンス図である。当該処理において、制御装置110は、CPU11がROM12又はストレージ14から制御プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、制御処理を行う。制御装置110のCPU11が各処理部として各処理を実行する。本処理は、一定時間経過のたびにルーチンして実行してもよい。また、シミュレーション環境130の解析の生成ごとに行うようにしてもよい。また、気象データ及び作業データの受け付けなど、途中のステップから実行してもよく、適宜変更して実行可能である。なお、制御プログラムが本開示の技術の臭気改善プログラムの一例である。
【0046】
ステップS100において、シミュレーション環境130が、施設に係る立地条件及び気象予報を用いて、施設の拡散状況のシミュレーションの実行し、解析データを生成する。
【0047】
ステップS102において、シミュレーション環境130が、生成した解析データを送信する。制御装置110に送信する。制御装置110の受付部112では解析データを受け付ける。
【0048】
ステップS104において、設定部114が、解析データ、気象条件、及び作業条件に応じた噴霧条件を設定する。噴霧条件は、上述した判定基準、及び実施要件である。なお、本処理において、適宜、作業者の入力を受け付け、設定を調整するようにしてもよい。
【0049】
ステップS106において、受付部112が、気象観測装置120が、観測した気象データを制御装置110に送信する。制御装置110の受付部112では気象データを受け付ける。
【0050】
ステップS108において、受付部112が、作業者からの作業データの入力を受け付ける。
【0051】
ステップS110において、制御部116が、ステップS106及びS108で受け付けた気象データ及び作業データを入力パラメータとして、ステップS104で設定した噴霧条件の判定基準を満たすか否かを判定する。判定基準を満たすと判定した場合には、ステップS112へ移行する。判定基準を満たさないと判定した場合には、噴霧を実行せずに処理を終了する。なお、このとき、判定基準として、上記第1判定基準及び第2判定基準の複数の判定基準を用いて判定を行うようにしてもよい。
【0052】
ステップS112において、制御部116が、ステップS106及びS108で受け付けた気象データ及び作業データを入力パラメータとして、ステップS104で設定した噴霧条件の実施要件を満たすように噴霧実行情報を作成する。噴霧実行情報は、噴霧の開始時刻と、停止時刻とを定めた情報である。
【0053】
ステップS114において、制御部116が、噴霧実行情報に基づいて噴霧の開始指示を噴霧装置140に送信する。
【0054】
ステップS116において、噴霧装置140が、受け付けた開始指示に基づいて、ポンプ142に蓄積された効能剤をノズル144から噴射する。
【0055】
ステップS118において、制御部116が、噴霧実行情報の噴霧の停止時刻であるか否かを判定する。停止時刻である場合にはステップS120へ移行し、停止時刻でない場合には一定時間おきに本ステップを繰り返す。
【0056】
ステップS120において、制御部116が、噴霧実行情報に基づいて噴霧の停止指示を噴霧装置140に送信する。
【0057】
ステップS122において、噴霧装置140が、受け付けた停止指示に基づいて、効能剤の噴射を停止する。以上により、臭気改善システム100における施設外への効能剤の噴霧が実行される。
【0058】
なお、解析データに応じてリアルタイムに噴霧条件を更新する場合には、制御装置110が定期的に上記処理シーケンスを実行し、解析データ、気象データ、及び作業データを受け付けて、噴霧条件、及び噴霧実行情報を適宜更新すればよい。また、入力データに応じて適宜、途中の処理ステップから実行するようにしてもよい。
【0059】
以上説明したように本実施形態の臭気改善システム100によれば、施設周辺の臭気を効率的に改善することができる。
【0060】
なお、上述した実施形態の説明では、制御装置110では、入力として、解析データ、気象条件、及び作業条件を受け付けて、設定部114において噴霧条件のパラメータを設定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、制御装置110は、入力により、噴霧のON又はOFFを制御するだけの単純な機能を持たせるようにしてもよい。この場合、臭気改善システム100の構成としては、制御部116のみの制御装置110、及び噴霧装置140があればよい。
【0061】
また、解析データを用いずに、作業者が入力した気象条件、及び作業条件を用いて噴霧条件を定めるようにしてもよい。この場合、臭気改善システム100の構成としては、制御装置110、気象観測装置120(又は外部の気象情報サービス)、及び噴霧装置140があればよい。
【0062】
なお、上記実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した制御処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、制御処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0063】
また、上記実施形態では、制御プログラムがストレージ14に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0064】
100 臭気改善システム
110 制御装置
112 受付部
114 設定部
116 制御部
120 気象観測装置
130 シミュレーション環境
140 噴霧装置
142 ポンプ
144 ノズル