(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】耐力階層化補強RC橋脚及びその設計方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/02 20060101AFI20241217BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
E01D19/02
E01D22/00 B
(21)【出願番号】P 2021155785
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2024-01-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「2020年9月28日、https://archive.iii.kyushu-u.ac.jp/public/dehEwA8IYw_AumcBob50-iW_fcJgzKzWCeD6fyh4ZPia、「20200924_USB概要集.zip」(公益社団法人土木学会第40回地震工学研究発表会、破壊尤度の制御による道路橋の崩壊シナリオデザイン設計法の提案)」 「一般財団法人土木研究センター、土木技術資料、第62巻、第12号、令和2年12月1日発行、pp.8-11、極大地震動に対する道路橋の崩壊シナリオデザイン設計法の提案~性能規定型設計法のエンパワーメント~」 「2021年7月16日、https://locker.cc.utsunomiya-u.ac.jp/public/zZHAQAWJUghAWs4B_Px66BmstSCesdPYq2gSlItg0Bug、講演論文集(公益社団法人土木学会第24回橋梁と耐震設計シンポジウム、既設RC橋脚への崩壊シナリオデザイン設計法適用に向けた検討)」 「2021年9月13日、https://drive.google.com/drive/folders/1U4caoaJOdXLxO3QwEtVr7NfSPD7gAcTt?usp=sharing(Google Drive用ダウンロードサイト)、https://scii-my.sharepoint.com/:f:/g/personal/harada_kenji_cii_shizuoka_ac_jp/EoEPS1qiHfJCrQ-iPMlxNZAB9AW-kRBqQcPYzKVmUh4Jxw?e=DcemqH(One Drive用ダウンロードサイト)、講演論文集(公益社団法人土木学会第41回地震工学研究発表会、崩壊シナリオデザイン設計法の実現に向けた耐力階層化鉄筋を用いたRC橋脚の載荷実験)」
(73)【特許権者】
【識別番号】301031392
【氏名又は名称】国立研究開発法人土木研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】大住 道生
(72)【発明者】
【氏名】中尾 尚史
(72)【発明者】
【氏名】石崎 覚史
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-336617(JP,A)
【文献】特開2000-096834(JP,A)
【文献】特開2004-190254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/02
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フーチング部と、前記フーチング部上に立設されるとともに前記フーチング部より直径が小径とされる柱部と、を有する既設RC橋脚と、
前記柱部の外周に巻き立てられる巻き立て鋼板と、上端側に前記柱部の高さ方向と直交する方向に張り出されたフランジを形成する支圧板が固着されるとともに前記支圧板から前記柱部の前記高さ方向に沿って垂下されて下端側が前記フーチング部に埋設される耐力階層化鉄筋と、前記巻き立て鋼板の外表面に定着され、前記巻き立て鋼板の側面部分が前記柱部の側面部分の変位に追従する形で上方に引っ張られたときに前記支圧板と当接して引張力に抵抗する引張抵抗板が形成されるとともに前記引張抵抗板に対して進退自在に前記耐力階層化鉄筋が挿通される定着鋼と、を有する橋脚補強部と、
前記既設RC橋脚上に配される橋の支承部と、を備え、
平常時において前記支圧板と前記引張抵抗板との間に遊間が形成され、かつ、前記支圧板と前記引張抵抗板との間の距離である遊間長dxが下記式(1)及び(2)を満足するように形成されることを特徴とする耐力階層化補強RC橋脚。
【数1】
ただし、前記式(1)、(2)中、φ
ls’は、レベル2地震動によって生ずる変位がもたらす前記柱部の塑性ヒンジ区間における曲率を示し、y
ls’は、前記曲率φ
ls’を示すときの前記塑性ヒンジ区間における前記柱部の中立軸の位置から前記柱部の中心軸を挟んで対向する前記耐力階層化鉄筋の配設位置までの最短距離を示し、Lpは、前記塑性ヒンジ区間の長さである塑性ヒンジ長を示し、φ
yは、道路橋示方書Vに示される橋脚の限界状態1とみなす変位における曲率を示し、φ
ls3は、前記道路橋示方書Vに示される前記橋脚の限界状態3とみなす変位における曲率を示す。
【請求項2】
支承部は、耐力階層化鉄筋が作動しないときの柱部の水平耐力に相当する水平力では損傷せず、前記耐力階層化鉄筋の作動により最大に増強される前記柱部の前記水平耐力未満の前記水平耐力に相当する水平力で破壊されるように破壊強度が設定される請求項1に記載の耐力階層化補強RC橋脚。
【請求項3】
請求項1から2のいずれかに記載の耐力階層化補強RC橋脚の設計方法であって、
少なくとも、耐力階層化鉄筋が作動しないときにレベル2地震動によって生ずる変位がもたらす柱部の塑性ヒンジ区間における曲率φ
ls
’を算出する曲率算出工程と、
前記曲率φ
ls
’を示すときの前記塑性ヒンジ区間における前記柱部の中立軸の位置から前記柱部の中心軸を挟んで対向する前記耐力階層化鉄筋の配設位置までの最短距離y
ls
’を算出する距離算出工程と、
前記塑性ヒンジ区間の長さである塑性ヒンジ長Lpを算出する塑性ヒンジ長算出工程と、
前記曲率φ
ls
’、前記最短距離y
ls
’及び前記塑性ヒンジ長Lpの算出結果に基づき、下記式(1)及び(2)を満足するように遊間長dxを設定する遊間設定工程と、
を含むことを特徴とする耐力階層化補強RC橋脚の設計方法。
【数2】
ただし、前記式(1)、(2)中、φ
ls
’は、レベル2地震動によって生ずる変位がもたらす前記柱部の塑性ヒンジ区間における曲率を示し、y
ls
’は、前記曲率φ
ls
’を示すときの前記塑性ヒンジ区間における前記柱部の前記中立軸の位置から前記柱部の前記中心軸を挟んで対向する前記耐力階層化鉄筋の配設位置までの最短距離を示し、Lpは、前記塑性ヒンジ区間の長さである塑性ヒンジ長を示し、φ
y
は、道路橋示方書Vに示される橋脚の限界状態1とみなす変位における曲率を示し、φ
ls3
は、前記道路橋示方書Vに示される前記橋脚の限界状態3とみなす変位における曲率を示す。
【請求項4】
更に、耐力階層化鉄筋が作動しないときの柱部の水平耐力に相当する水平力では損傷せず、前記耐力階層化鉄筋の作動により最大に増強される前記柱部の前記水平耐力未満の前記水平耐力に相当する水平力で破壊されるように支承部の破壊強度を設定する支承部設定工程を含む請求項3に記載の耐力階層化補強RC橋脚の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動の強度に応じて耐力が階層化された耐力階層化補強RC橋脚及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路橋示方書V(日本道路協会:道路橋示方書・同解説V耐震設計編,2017.)に規定される設計地震動は、過去の地震動特性等に基づき、橋の供用期間中に発生する確率が高い地震動(レベル1地震動)、前記橋の供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度を持つ地震動(レベル2地震動)の二段階の地震動を考慮することとし、レベル2地震動としてもプレート境界型の大規模な地震動を想定したタイプIの地震動や内陸直下型の地震を想定したタイプIIの地震動の2種類について考慮することとしている。
しかしながら、前記設計地震動を上回る極大地震動が発生する可能性は否定できない。
そのため、道路橋には、前記設計地震動に対する耐震性能を担保しつつ、前記極大地震動に対しても、できるだけ機能が損なわれないことが求められる。
【0003】
従来、二段階の地震動強度に応じた耐震設計手法として、コンクリート躯体内に外側主鉄筋と内側主鉄筋とを配したうえ、前記内側主鉄筋の端部を前記コンクリート躯体に軸方向間隙をあけて定着させることや、前記内側主鉄筋の下端に圧縮代又は引張代解消後に前記内側主鉄筋を作動させる可縮性部材を配することにより、強い地震動を受けて作動する鉄筋構造を橋脚に付与する手法が提案されている(特許文献1,2参照)。
しかしながら、これらの提案では、前記軸方向間隙及び前記可縮性部材の前記圧縮代及び前記引張代をどのように設定するかが不明であり、また、前記設計地震動を上回る前記極大地震動を想定していないため、前記極大地震動に対する耐震性能を満足させることができない問題がある。
即ち、前記軸方向間隙及び前記可縮性部材の前記圧縮代の設定が短い場合、前記極大地震動を受けたときに前記内側鉄筋が前記外側鉄筋とともに前記設計地震動未満の外力で作動し始めることで橋脚の変形能が十分に発揮されず、設計で想定した以外の部材が損傷し、橋として期待した性能が発揮されないおそれがある。また、前記軸方向間隙及び前記可縮性部材の前記引張代の設定が長い場合、前記内側鉄筋が作動する前に前記橋脚が倒壊するおそれがある。
また、前記極大地震動に対しては終局変位を超えるおそれがあり、橋脚が倒壊することが否定できない。
前記設計地震動までは、前記道路橋示方書Vの耐震設計で耐震性能が確保されるため、前記極大地震動に対する耐震設計こそが今まさに求められる。
【0004】
ところで、このような極大地震動に対する耐震設計を要する対象には、新設橋脚に加えて、当然ながら既設橋脚がある。
膨大な数で存在する前記既設橋脚を取り壊して前記新設橋脚に挿げ替えることは、現実的でなく、前記既設橋脚に対しては補強を行うことで、前記極大地震動に対する耐震設計を満足させる必要がある。
既設RC橋脚に対する耐震補強方法としては、鋼板巻き立て工法及びRC巻き立て工法が一般的に知られているが、これらの工法自体は、前記既設RC橋脚に対して前記極大地震動向けの耐震性能を付与するものではない。
一方で、前記鋼板巻き立て工法及び前記RC巻き立て工法で採用される施工技術や施工手順を利用して前記極大地震動に対する耐震設計を満足させる工法を確立することができれば、既存の施工設備を有効活用することができ、また、施工技術者へ特別な負担を与えることがないことから、前記既設RC橋脚に対して補強を通じた前記極大地震動向けの耐震性能付与が一気に現実的なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-295220号公報
【文献】特開2002-349011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、前記既設RC橋脚に対して、前記設計地震動に対する耐震性能を担保しつつ、前記極大地震動に対しても橋の機能が損なわれにくい、耐力が階層化された耐力階層化補強RC橋脚及びその設計方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> フーチング部と、前記フーチング部上に立設されるとともに前記フーチング部より直径が小径とされる柱部と、を有する既設RC橋脚と、前記柱部の外周に巻き立てられる巻き立て鋼板と、上端側に前記柱部の高さ方向と直交する方向に張り出されたフランジを形成する支圧板が固着されるとともに前記支圧板から前記柱部の前記高さ方向に沿って垂下されて下端側が前記フーチング部に埋設される耐力階層化鉄筋と、前記巻き立て鋼板の外表面に定着され、前記巻き立て鋼板の側面部分が前記柱部の側面部分の変位に追従する形で上方に引っ張られたときに前記支圧板と当接して引張力に抵抗する引張抵抗板が形成されるとともに前記引張抵抗板に対して進退自在に前記耐力階層化鉄筋が挿通される定着鋼と、を有する橋脚補強部と、前記既設RC橋脚上に配される橋の支承部と、を備え、平常時において前記支圧板と前記引張抵抗板との間に遊間が形成され、かつ、前記支圧板と前記引張抵抗板との間の距離である遊間長dxが下記式(1)及び(2)を満足するように形成されることを特徴とする耐力階層化補強RC橋脚。
【数1】
ただし、前記式(1)、(2)中、φ
ls’は、レベル2地震動によって生ずる変位がもたらす前記柱部の塑性ヒンジ区間における曲率を示し、y
ls’は、前記曲率φ
ls’を示すときの前記塑性ヒンジ区間における前記柱部の中立軸の位置から前記柱部の中心軸を挟んで対向する前記耐力階層化鉄筋の配設位置までの最短距離を示し、Lpは、前記塑性ヒンジ区間の長さである塑性ヒンジ長を示し、φ
yは、道路橋示方書Vに示される橋脚の限界状態1とみなす変位における曲率を示し、φ
ls3は、前記道路橋示方書Vに示される前記橋脚の限界状態3とみなす変位における曲率を示す
。
<
2> 支承部は、耐力階層化鉄筋が作動しないときの柱部の水平耐力に相当する水平力では損傷せず、前記耐力階層化鉄筋の作動により最大に増強される前記柱部の前記水平耐力未満の前記水平耐力に相当する水平力で破壊されるように破壊強度が設定される前記<1
>に記載の耐力階層化補強RC橋脚。
<
3> 前記<1>から<
2>のいずれかに記載の耐力階層化補強RC橋脚の設計方法であって、少なくとも、耐力階層化鉄筋が作動しないときにレベル2地震動によって生ずる変位がもたらす柱部の塑性ヒンジ区間における曲率φ
ls’を算出する曲率算出工程と、前記曲率φ
ls’を示すときの前記塑性ヒンジ区間における前記柱部の前記中立軸の位置から前記柱部の前記中心軸を挟んで対向する前記耐力階層化鉄筋の配設位置までの最短距離y
ls’を算出する距離算出工程と、前記塑性ヒンジ区間の長さである塑性ヒンジ長Lpを算出する塑性ヒンジ長算出工程と、前記曲率φ
ls’、前記最短距離y
ls’及び前記塑性ヒンジ長Lpの算出結果に基づき、下記式(1)及び(2)を満足するように遊間長dxを設定する遊間設定工程と、を含むことを特徴とする耐力階層化補強RC橋脚の設計方法。
【数2】
ただし、前記式(1)、(2)中、φ
ls’は、レベル2地震動によって生ずる変位がもたらす前記柱部の塑性ヒンジ区間における曲率を示し、y
ls’は、前記曲率φ
ls’を示すときの前記塑性ヒンジ区間における前記柱部の前記中立軸の位置から前記柱部の前記中心軸を挟んで対向する前記耐力階層化鉄筋の配設位置までの最短距離を示し、Lpは、前記塑性ヒンジ区間の長さである塑性ヒンジ長を示し、φ
yは、道路橋示方書Vに示される橋脚の限界状態1とみなす変位における曲率を示し、φ
ls3は、前記道路橋示方書Vに示される前記橋脚の限界状態3とみなす変位における曲率を示す。
<
4> 更に、耐力階層化鉄筋が作動しないときの柱部の水平耐力に相当する水平力では損傷せず、前記耐力階層化鉄筋の作動により最大に増強される前記柱部の前記水平耐力未満の前記水平耐力に相当する水平力で破壊されるように支承部の破壊強度を設定する支承部設定工程を含む前記<
3>に記載の耐力階層化補強RC橋脚の設計方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、前記既設RC橋脚に対して、前記設計地震動に対する耐震性能を担保しつつ、前記極大地震動に対しても橋の機能が損なわれにくい、耐力が階層化された耐力階層化補強RC橋脚及びその設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚の部分断面図である。
【
図3】道路橋示方書Vに準じたコンクリートの応力-ひずみ関係を示す図である。
【
図4】道路橋示方書Vに準じた軸方向鉄筋の応力-ひずみ関係を示す図である。
【
図5】地震動による引張力作用時の状態を示す、橋脚基部の部分拡大断面図である。
【
図6】設計地震動を超える極大地震動を受けたときの水平荷重-水平変位関係における耐力階層化補強RC橋脚1の想定挙動を説明するための説明図である。
【
図7(a)】状態1の段階における耐力階層化補強RC橋脚の状態を説明するための説明図である。
【
図7(b)】状態2の段階における耐力階層化補強RC橋脚の状態を説明するための説明図である。
【
図7(c)】状態3の段階における耐力階層化補強RC橋脚の状態を説明するための説明図である。
【
図7(d)】耐力階層化鉄筋を有さない場合等の橋脚の状態を説明するための説明図である。
【
図7(e)】状態4の段階における耐力階層化補強RC橋脚の状態を説明するための説明図である。
【
図8】第2実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚の部分断面図である。
【
図10】地震動による引張力作用時の状態を示す、橋脚基部の部分拡大断面図である。
【
図11】耐力階層化補強RC橋脚の設計方法の好適な実施形態の例を説明するフローチャート図である。
【
図12(a)】シミュレーション解析で想定するRC橋脚(単脚)の側面図である。
【
図12(b)】シミュレーション解析で想定するRC橋脚(4脚)の上部構造断面図である。
【
図13(a)】既設RC橋脚側の具体的な配筋構造を示す図である。
【
図13(b)】橋脚補強部の構造を加えた状態の具体的な配筋構造を示す図である。
【
図14】シミュレーション解析に用いる多質点骨組みモデルの説明図である。
【
図15】設計対象橋脚のモデル化を説明する断面図である。
【
図16】耐力階層化鉄筋に与える荷重-変位関係を示す図である。
【
図17】シミュレーション解析において設定されるコンクリートの応力-ひずみ関係を示す図である。
【
図18】遊間長を15mm,20mm,25mmとする条件で行った荷重漸増解析の解析結果を示す図である。
【
図19】ケース1~3に対して行った荷重漸増解析の解析結果を示す図である。
【
図20】ケース1について、水平耐力と支承部破断耐力との確率分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(耐力階層化補強RC橋脚)
本発明の耐力階層化補強RC橋脚を図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0011】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚の部分断面図を
図1に示す。
図1に示すように、耐力階層化補強RC橋脚1は、フーチング部2aと、フーチング部2a上に立設されるとともにフーチング部2aより直径が小径とされる柱部2bと、柱部2b上に配される梁部2cとを有する既設RC橋脚と、巻き立て鋼板3と、耐力階層化鉄筋4と、定着鋼5とを有する橋脚補強部と、橋の支承部10を備える。
なお、図示の例では、前記既設RC橋脚における柱部2bの上部に梁部2cが形成されるが、例えば、梁部2cが存在しない前記既設RC橋脚も、本発明の対象とされる。この場合、橋の支承部10は、柱部2b上に形成される。
【0012】
前記既設RC橋脚は、前記橋脚補強部による補強の対象となる既設のRC橋脚であり、自身又は自身と巻き立て鋼板3による補強とで前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動までの耐震性能が確保される。
この意味で、前記既設RC橋脚としては、自身又は自身と巻き立て鋼板3による補強とで前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動までの耐震性能を確保可能な一般的構造のRC橋脚であれば、特に制限はなく、既設の橋脚の多くが対象とされる。
なお、
図1中の符号6は、前記既設RC橋脚中に配される軸方向鉄筋を示し、符号7は、前記軸方向鉄筋を束ねる帯鉄筋を示している。これら前記軸方向鉄筋及び前記帯鉄筋は、図示しないものの、公知のRC橋脚構造にしたがって複数配される。後述の遊間長dxの設定を行う際、これら前記軸方向鉄筋及び前記帯鉄筋を含む前記既設RC橋脚の構造を把握する必要がある。
【0013】
巻き立て鋼板3は、前記既設RC橋脚に対する補強において、柱部2bの外周に巻き立てられて配される。
巻き立て鋼板3の構成材及び設置方法としては、特に制限はなく、一般的な鋼板巻き立て工法で用いられる公知の構成材及び設置方法から適宜選択することができる。
【0014】
図2に拡大して示すように、耐力階層化鉄筋4は、上端側に柱部2bの高さ方向(鉛直方向)と直交する方向(水平方向)に張り出されたフランジを形成する支圧板4aが固着されるとともに支圧板4aから柱部2bの前記高さ方向に沿って垂下されて下端側がフーチング部2aに埋設される。なお、
図2は、橋脚基部の部分拡大断面図である。
耐力階層化鉄筋4としては、特に制限はなく、基本的に前記鋼板巻き立て工法で用いられる公知の構成材及び設置方法から適宜選択することができ、例えば、前記鋼板巻き立て工法で用いられる一般的なアンカー鉄筋及びその設置方法が挙げられる。また、図示の例では、耐力階層化鉄筋4が一体成型されるタイプのものを示しているが、鉄筋としての作用と支圧板の構造とを持つものであれば、特に制限はなく、例えば、上部がボルト構造とされた鉄筋に対し支圧板を構成するナットが螺合されるタイプのものなどを用いてもよい。
【0015】
また、
図2に拡大して示すように、定着鋼5は、巻き立て鋼板3の外表面に定着され、巻き立て鋼板3の側面部分が柱部2bの側面部分の変位に追従する形で上方に引っ張られたときに支圧板4aと当接して引張力に抵抗する引張抵抗面を持つ引張抵抗板5aが形成されるとともに引張抵抗板5aに対して進退自在に耐力階層化鉄筋4が挿通される。
定着鋼5の構成材及び設置方法としては、特に制限はなく、基本的に前記鋼板巻き立て工法で用いられる公知の構成材及び設置方法から適宜選択することができ、例えば、前記鋼板巻き立て工法で用いられる一般的なH形鋼及びその設置方法が挙げられる。
なお、
図1において、耐力階層化鉄筋4及び定着鋼5に加え、同様の構造の耐力階層化鉄筋4及び定着鋼5が2箇所に示されているが、これら耐力階層化鉄筋及び定着鋼としては、柱部2bの周囲に一定間隔で複数形成されることが好ましい。
また、巻き立て鋼板3に対する定着鋼5の定着位置としては、特に制限はないが、前記鋼板巻き立て工法で用いられる一般的な前記H形鋼の定着位置に準じて定着させることが施工上合理的であることから、柱部2bの塑性ヒンジ区間内に相当する高さ位置であることが好ましい。
【0016】
これら耐力階層化鉄筋4及び定着鋼5の支圧板4aと引張抵抗板5aとの間には、後述の遊間が形成されるが、前記既設RC橋脚自身が、前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動までの耐震性能を満足していない場合には、従来の前記鋼板巻き立て工法による補強の通り、前記遊間が無い状態で耐力階層化鉄筋4及び定着鋼5を形成し、前記既設RC橋脚自身と巻き立て鋼板3による補強とで前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動までの耐震性能を確保すればよい。
【0017】
耐力階層化鉄筋4及び定着鋼5について、前記鋼板巻き立て工法で採用されない新規事項は、支圧板4aと引張抵抗板5aとの間に前記遊間が形成される点にあり、平常時における支圧板4aと引張抵抗板5aとの距離である遊間長dxが下記式(1)及び(2)を満足するように形成されることが本発明における技術の中核を成す。
なお、本明細書において、「平常時」とは、前記RC補強橋脚に地震動に基づく水平変位が生じていない状態を示す。
【0018】
【数4】
ただし、前記式(1)、(2)中、φ
ls’は、前記レベル2地震動によって生ずる変位がもたらす柱部2bの塑性ヒンジ区間における曲率を示し、y
ls’は、前記曲率φ
ls’を示すときの前記塑性ヒンジ区間における中立軸の位置から柱部2bの中心軸を挟んで対向する耐力階層化鉄筋4の配設位置までの最短距離を示し、Lpは、前記塑性ヒンジ区間の長さである塑性ヒンジ長を示し、φ
yは、前記道路橋示方書Vに示される前記橋脚の限界状態1とみなす変位における曲率を示し、φ
ls3は、前記道路橋示方書Vに示される前記橋脚の限界状態3とみなす変位における曲率を示す。
【0019】
前記式(1)における前記曲率φls’は、前記式(2)で表されるように、前記曲率φyと前記曲率φls3との間の範囲で設定される。前記曲率φy及び前記曲率φls3の概念について、以下、具体的に説明する。
先ず、前記式(2)における前記φyは、前記道路橋示方書Vに示される前記橋脚の前記限界状態1に達するときに生じる曲率であり、前記橋脚を前記耐力階層化鉄筋が配されていない状態の前記橋脚と仮定して、前記道路橋示方書Vに基づき、下記式(3)により与えられる。
【0020】
【数5】
ただし、前記式(3)中、M
ls2は、前記道路橋示方書Vに示される前記橋脚の限界状態2に相当する、橋脚基部断面(フーチング部2aと柱部2bとの接続面)に作用する曲げモーメント(N・mm)を示し、M
y0は、前記橋脚基部断面の最外縁にある前記軸方向鉄筋が降伏するときの前記橋脚基部断面に作用する曲げモーメント(N・mm)を示し、φ
y0は、前記橋脚基部断面の最外縁に位置する前記軸方向鉄筋が降伏するときの曲率(1/mm)を示す。
【0021】
前記式(3)における、前記曲げモーメントMls2、My0及びφy0は、平面保持の仮定が成立するとして求めた前記中立軸からの距離に比例する維ひずみ及び前記維ひずみに対応する応力度が各微小要素内では一定であるとの条件下で、断面の釣り合い条件を満たす前記中立軸を下記式(4)及び(5)により試算したうえ、下記式(6)及び(7)による手順で算出される。なお、nは、前記橋脚基部における断面内の分割数であり、iは、n分割された前記橋脚基部を表す断面番号であり、jは、前記橋脚基部断面内における荷重載荷方向の要素番号である。また、前記微小要素とは、前記橋脚基部においてn分割した断面要素を意味する。
【0022】
【数6】
ただし、前記式(4)中、N
iは、i番目の断面である前記橋脚基部断面に作用する軸力(N)を示し、σ
cjは、j番目の前記微小要素内のコンクリート躯体(柱部2bを構成するコンクリート躯体)の応力度(N/mm
2)を示し、σ
sjは、j番目の前記微小要素内の前記軸方向鉄筋の応力度(N/mm
2)を示し、ΔA
cjは、j番目の前記微小要素内の前記コンクリート躯体の断面積(mm
2)を示し、ΔA
sjは、j番目の前記微小要素内の前記軸方向鉄筋の断面積(mm
2)を示す。
なお、要素分割を行う際の柱部2bの要素分割数としては、例えば、50分割程度であり、例えば、前記軸方向鉄筋1本に相当する幅を1要素として要素分割すればよい。
【0023】
【数7】
ただし、前記式(5)中、M
iは、前記橋脚基部断面に作用する曲げモーメント(N・mm)を示し、x
jは、前記微小要素から断面の図心位置までの距離(mm)を示す。
前記橋脚基部断面において、σ
sj=σ
sy(σ
syにつき、下記式(7)参照)となるときにσ
cj=0とそれ以外との境界線が前記中立軸となる。なお、前記コンクリート躯体を構成するコンクリートの曲げ引張強度(σ
bt、N/mm
2)は、0と仮定する。
【0024】
【数8】
ただし、前記式(6)、(7)中、x
sは、前記軸方向鉄筋から前記橋脚基部断面の前記中立軸までの距離(mm)、ε
syは、前記軸方向鉄筋の降伏ひずみを示し、σ
syは、前記軸方向鉄筋の降伏応力度(N/mm
2)を示し、E
sは、前記軸方向鉄筋のヤング係数(N/mm
2)を示す。
【0025】
前記橋脚基部断面における最外縁側に配置された前記軸方向鉄筋に生じるひずみが前記降伏ひずみεsyに達したときの曲げモーメント及び曲率を求め、これらを初降伏曲げモ-メントMy0及び初降伏曲率φy0とする。最外縁側に配置された前記軸方向鉄筋の引張ひずみが前記限界状態2に相当する引張ひずみεst2に達するときの曲げモーメントをMls2とする。
ここで、εst2は、下記式(8)により与えられる。
【0026】
【数9】
ただし、前記式(8)中、φは、前記軸方向鉄筋の引張ひずみを算出するための前記軸方向鉄筋の直径(mm)を示し、β
sは、前記帯鉄筋の抵抗を表すばね定数(N/mm
2)を示し、β
scは、巻き立て鋼板3により補強された柱部2bにおけるかぶりコンクリートの抵抗を表すばね定数(N/mm
2)を示す。
ここで、塑性ヒンジ長Lp(mm)は、下記式(9)及び(10)により与えられる。
【0027】
【数10】
ただし、前記式(9),(10)中、β
nは、前記軸方向鉄筋のはらみ出しに対する抵抗を表すばね定数(N/mm
2)を示し、下記式(11)~(13)により与えられる。また、φ’は、前記軸方向鉄筋の直径(mm)(ただし40mm以上は40mmとする)を示し、hは、前記柱基部から橋脚天端までの距離(mm)を示す。
【0028】
【数11】
ただし、前記式(11)~(13)中、E
0は、前記帯鉄筋のヤング係数(N/mm
2)を示し、I
hは、前記帯鉄筋の断面二次モーメント(mm
4)を示し、d’は、前記塑性ヒンジ長Lpを算出するための前記帯鉄筋の有効長(mm)を示し、n
sは、前記塑性ヒンジ長Lpを算出するための前記帯鉄筋の有効長d’が最も大きい前記コンクリート躯体の部分に配置される圧縮側軸方向鉄筋の本数を示し、sは、前記帯鉄筋の橋脚高さ方向の配置間隔(mm)を示し、Ecは、前記かぶりコンクリートのヤング係数(N/mm
2)を示し、I
scは、前記かぶりコンクリートと巻き立て鋼板3との合成断面からなる断面2次モーメント(mm
4)を示す。
なお、この算出における前記コンクリート躯体及び前記軸方向鉄筋の各応力-ひずみ関係は、それぞれ、
図3,4のように設定される。
図3が前記道路橋示方書Vに準じた前記コンクリートの応力-ひずみ関係を示す図であり、
図4が前記道路橋示方書Vに準じた前記軸方向鉄筋の応力-ひずみ関係を示す図である。
【0029】
次に、前記式(2)における前記φls3は、前記道路橋示方書Vに示される前記橋脚の前記限界状態3に達するときに生じる曲率であり、耐力階層化鉄筋4が配されていない状態の前記RC補強橋脚を仮定して、前記道路橋示方書Vに基づき、下記式(14)~(17)により与えられる。
ここで、前記φls3は、(A)前記橋脚基部断面の最外縁の前記軸方向鉄筋の引張ひずみがεst3に達するとき、(B)前記橋脚基部断面の最外縁の前記コンクリート躯体の圧縮ひずみがεcclに達するときの2つの状態のうち、先に生じる方の状態における前記橋脚に生じる曲率が該当する。
【0030】
【数12】
ただし、前記式(14)~(17)中、ε
cclは、前記帯鉄筋で拘束された前記コンクリート躯体の限界圧縮ひずみを示し、ε
ccは、前記コンクリート躯体が最大圧縮応力度に達するときのひずみを示し、σ
ccは、前記帯鉄筋で拘束された前記コンクリートの最大圧縮応力度(N/mm
2)を示し、E
desは、下降勾配(N/mm
2)を示し、ε
st3は、前記限界状態3に相当する前記軸方向鉄筋の引張ひずみを示し、βは、断面補正係数を示し、矩形断面の場合においてβ=0.4であり、ρ
sは、前記帯鉄筋の体積比を示し、σ
ckは、前記コンクリートの設計基準強度(N/mm
2)を示す。
なお、前記式(3)~(17)による各算出対象が前記既設RC橋脚の既知データとして利用可能である場合には、算出を行うことなく前記既知データを利用してもよい。
【0031】
遊間長dxが前記式(1)及び(2)を満足すると、レベル2地震動(前記設計地震動)を超える地震動を受けて初めて耐力階層化鉄筋4が作動し、レベル2地震動に対する耐震性能を耐力階層化鉄筋4以外の構造で担保しつつ、前記極大地震動に対しても耐力階層化鉄筋4の作動により橋の機能が損なわれにくくなる耐力階層化の効果を得ることができる。
即ち、地震動による引張力作用時の状態を示す
図5から理解されるように、前記式(1)及び(2)に基づき遊間長dxを適切に設定することで、耐力階層化鉄筋4は、レベル2地震動以下の外力を受けたときには作動せず、レベル2地震動を超える地震動(
図5中の矢印A参照)を受けて初めて前記遊間が潰され(
図5中の矢印B参照)、荷重を負担する鉄筋として作動する。
【0032】
再び、
図1を参照して説明する。
耐力階層化補強RC橋脚1には、支承部10が形成される。
支承部10は、一端が前記既設RC橋脚上に接続される部材であり、他端が上部構造(不図示)と接続された状態で前記上部構造を支持可能とされる。
支承部10としては、耐力階層化鉄筋4が作動しないときの柱部2bの水平耐力に相当する水平力では損傷せず、耐力階層化鉄筋4の作動により最大に増強される柱部2bの前記水平耐力未満の前記水平耐力に相当する水平力で破壊されるように破壊強度が設定される。
例えば、支承部10は、図示の例で、梁部2cの天端上にベースプレート11とセットプレート12との間にゴム支承13が挟持されて構成され、ベースプレート11がアンカーボルト14により梁部2cの天端に固定されるが、アンカーボルト14の破壊強度を耐力階層化鉄筋4が作動しないときの前記柱部の水平耐力に相当する水平力では損傷せず、耐力階層化鉄筋4の作動により最大に増強される前記柱部の前記水平耐力未満の前記水平耐力に相当する水平力で破壊されるように設定すると、耐力階層化鉄筋4の降伏前に梁部2cと前記上部構造とが縁切れされ、耐力階層化鉄筋4の降伏後の橋脚倒壊に基づく落橋等の致命的な損傷を未然に防ぐことができる。
支承部10における破壊が誘導される部材としては、ゴム支承13やセットプレート12を介して前記橋に接続するセットボルト(不図示)であってもよいが、支承部10の構成部材の中でも、破壊後の供用性、復旧性に優れることから、アンカーボルト14が好ましい。
なお、こうした支承部10としては、前記破壊強度の設定を満足するものを公知の工法にしたがって設置することで、前記既設RC橋脚に形成することができる。
また、梁部2cが存在しない前記既設RC橋脚に対する支承部10の形成は、上記の説明において、「梁部2c」を「柱部2b」に置き換えた方法により行う。
【0033】
以上のように構成される耐力階層化補強RC橋脚1の作用について、図面を参照しつつ、より詳細に説明する。
図6に、前記設計地震動を超える前記極大地震動を受けたときの水平荷重-水平変位関係における耐力階層化補強RC橋脚1の想定挙動を示す。
また、
図7(a)~(e)に各段階における橋脚の状態を示す。なお、前記既設RC橋脚における柱部2bの状態を示すため、柱部2bを覆うように配される前記橋脚補強部(巻き立て鋼板3等)の描写を捨象する。
【0034】
前記極大地震動を受けると、先ず初めに柱部2b中の前記軸方向鉄筋が降伏する状態が生ずる(状態1)。
状態1の段階における耐力階層化補強RC橋脚1では、大きな損傷がない(
図7(a)参照)。
【0035】
次に、状態1を迎えた後、地震動のエネルギーが柱部2bの塑性化に伴って吸収される状態となる(状態2)。
状態2の段階における耐力階層化補強RC橋脚1では、柱部2bの塑性化に伴い水平抵抗力を失わない程度の損傷が生ずる(
図7(b)参照)。
【0036】
次に、状態2を迎えた後、地震動に基づく柱部2bの変位がレベル2地震動に相当する変位を超えると、前記遊間がなくなることで耐力階層化鉄筋4が作動し始め、耐荷力が上昇する状態となる(状態3)。
状態3の段階における耐力階層化補強RC橋脚1では、耐力階層化鉄筋4により支えられ、橋脚倒壊等の致命的な損傷が抑制される(
図7(c)、耐力階層化鉄筋4の作動状態について
図5参照)。
このとき、耐力階層化鉄筋4を有さない場合や耐力階層化鉄筋4が作動しない場合であると、柱部2bの変位が大きくなり、橋脚倒壊等の致命的な損傷に至る(
図7(d)参照)。
【0037】
次に、状態3を迎えた後、支承部10が破壊する状態が生ずる(状態4)。
状態4の段階における耐力階層化補強RC橋脚1では、耐力階層化鉄筋4が降伏する前に、支承部10の破壊による前記上部構造との縁切れが生じ、橋脚倒壊等の致命的な損傷が抑制される(
図7(e)参照)。また、同時に縁切れした前記上部構造は、耐力階層化補強RC橋脚1上から逸脱せず、落橋等の致命的な損傷に至らない(
図7(e)参照)。
即ち、支承部10の破壊により耐力階層化補強RC橋脚1と縁切れされた前記上部構造は、耐力階層化補強RC橋脚1に対し、ベースプレート11と梁部2c天端との間の摩擦力しか伝えず、耐力階層化補強RC橋脚1の倒壊等が抑制されると同時に、前記上部構造は、倒壊等を免れた耐力階層化補強RC橋脚1上に残り、致命的な損傷に至らない。
耐力階層化補強RC橋脚1では、想定し得ない前記極大地震動が生じたとしても、その後の崩壊シナリオを上記の通り設定し、前記極大地震動の影響を支承部10の破壊に誘導することで橋脚倒壊による落橋等の致命的な損傷を防ぐことができ、延いては、その後の機能回復に向けた補修を速やかに行うことを可能とする。
【0038】
なお、本明細書において、前記「状態1~4」の用語は、前記道路橋示方書Vにおける前記「限界状態1~3」と区別されることに留意されたい。
前記道路橋示方書Vでは、前記限界状態1~3を次のように定義している。
限界状態1:完全弾塑性型の骨格曲線における弾性限界点。
限界状態2:部材等の挙動が可逆性を失うものの、耐荷力が想定する範囲内で確保できる限界の状態。
限界状態3:地震時保有水平耐力を保持できる限界の状態。
【0039】
これに対し、前記状態1~4は、耐力階層化鉄筋4を配置したRC橋脚の挙動を示しており、前記限界状態1~3と関連付けて説明すると、次のように説明できる。
状態1:前記限界状態1と同様の状態である。ただし、支承部10は損傷しておらず、耐力階層化鉄筋4が作動していない状態である。
状態2:前記限界状態1~3の間の状態である。ただし、支承部10は損傷しておらず、耐力階層化鉄筋4が作動していない。
状態3:耐力階層化鉄筋4が作動し始める状態である。ただし、前記限界状態1を超えているが前記限界状態3を超えていない。前記限界状態2程度であることが望ましい。また、支承部10は損傷していない。
状態4:耐力階層化鉄筋4が作動したことにより前記橋脚の耐力が上昇し、支承部10が破壊する状態である。ただし、前記限界状態3には達していない。
【0040】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚の部分断面図を
図8に示す。
図8に示すように、耐力階層化補強RC橋脚20は、フーチング部2aと、フーチング部2a上に立設されるとともにフーチング部2aより直径が小径とされる柱部2bと、柱部2b上に配される梁部2cとを有する既設RC橋脚と、RC巻き立て補強部23と、耐力階層化鉄筋24と、中空部25とを有する橋脚補強部と、を備える。
なお、第1実施形態と同様、梁部2cが存在しない前記既設RC橋脚も、本発明の対象とされる。
【0041】
第2実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚20では、第1実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚1における巻き立て鋼板3、耐力階層化鉄筋4及び定着鋼5による前記橋脚補強部に代えて、RC巻き立て補強部23と、耐力階層化鉄筋24と、中空シース25とを有する前記橋脚補強部が配される点で、第1実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚1と相違する。
【0042】
RC巻き立て補強部23は、柱部2bとともに柱状体を成すように形成され、フーチング部2aより前記柱状体の直径が小径とされる厚みで柱部2bの外周に巻き立てられる。
RC巻き立て補強部23の構造及び設置方法としては、特に制限はなく、一般的なRC巻き立て工法で採用される公知の構造及び設置方法から適宜選択することができる。
前記RC巻き立て工法では、一般に柱部2bの外周に巻き立てられた補強用のコンクリート躯体中に補強用の軸方向鉄筋及び帯鉄筋を配筋し、前記既設RC橋脚を補強する。これら補強用の軸方向鉄筋及び帯鉄筋は、前記既設RC橋脚自身が前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動までの耐震性能を満足していない場合に、前記既設RC橋脚自身と前記橋脚補強部の補強とにより前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動までの耐震性能を確保するための任意部材として採用され得る。
【0043】
図9に拡大して示すように、耐力階層化鉄筋24は、上端側に柱部2bの高さ方向(鉛直方向)と直交する方向(水平方向)に張り出されたフランジを形成する支圧板4aが固着されるとともに支圧板4aから柱部2bの前記高さ方向に沿って垂下されて下端側がフーチング部2aに埋設される。なお、
図9は、橋脚基部の部分拡大断面図である。
耐力階層化鉄筋24としては、特に制限はなく、基本的に前記RC巻き立て工法で用いられる公知の構成材及び設置方法から適宜選択することができ、例えば、前記RC巻き立て工法で用いられる一般的なアンカー鉄筋及びその設置方法が挙げられる。また、図示の例では、耐力階層化鉄筋24が一体成型されるタイプのものを示しているが、鉄筋としての作用と支圧板の構造とを持つものであれば、特に制限はなく、例えば、上部がボルト構造とされた鉄筋に対し支圧板を構成するナットが螺合されるタイプのものなどを用いてもよい。
【0044】
また、
図9に拡大して示すように、中空シース25は、RC巻き立て補強部23内部にフーチング部2aに埋設される部分より上方側の耐力階層化鉄筋24を遊嵌させた状態で収容する中空部として形成され、前記中空部の上部側が支圧板24aを収容する、下方よりも開口径が大きな大中空部25aとされ、大中空部25aの下面部分が支圧板24a下面と対向してRC巻き立て補強部の側面部分が柱部2bの側面部分の変位に追従する形で上方に引っ張られたときに支圧板24a下面と当接して引張力に抵抗する引張抵抗面とされる。
また、中空シース25は、レベル2地震動(前記設計地震動)を超える地震動を受けて初めて耐力階層化鉄筋24が作動するように、大中空部25aが柱部2bの塑性ヒンジ区間(塑性ヒンジ長Lpの長さで律せられる区間)よりも上方の高さ位置に形成される。
即ち、中空シース25は、柱部2bの前記塑性ヒンジ区間において耐力階層化鉄筋24(支圧板24aを含む)がRC巻き立て補強部23と縁切りされるように形成される。
なお、
図8において、耐力階層化鉄筋24及び中空シース25による補強構造が1箇所示されているが、これら耐力階層化鉄筋24及び中空シース25による補強構造としては、柱部2bの周囲に一定間隔で複数形成されることが好ましい。
【0045】
これら耐力階層化鉄筋24及び中空シース25では、支圧板24a下面と大中空部25a下面との間に遊間が形成されるとともに、耐力階層化鉄筋24が中空シース25によりRC巻き立て補強部23と縁切りされるが、前記既設RC橋脚自身が、前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動までの耐震性能を満足していない場合には、従来の前記RC巻き立て工法による補強の通り、RC巻き立て補強部23とフーチング部2aとの間を掛け渡すように柱部2bの高さ方向に沿ってこれらの部材内に上方と下方とを埋設させる(中空シース25による遊間の設定を行わない)ことで、前記既設RC橋脚自身とRC巻き立て補強部23による補強とで前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動までの耐震性能を確保すればよい。
【0046】
第2実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚20において、前記設計地震動と前記極大地震動とで橋脚の耐力を階層化させるためには、前記遊間及び前記遊間長dxの設定を第1実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚1と同様に行えばよく、支圧板24aと前記引張抵抗面(大中空部25aの下面)との間に前記遊間が形成され、かつ、平常時における支圧板24aと前記引張抵抗面との距離である遊間長dxが前掲の式(1)及び(2)を満足するように形成されることが特徴となる。
【0047】
つまり、こうした前記遊間及び前記遊間長dxの設定を行うと、レベル2地震動(前記設計地震動)を超える地震動を受けて初めて耐力階層化鉄筋24が作動し、レベル2地震動に対する耐震性能を耐力階層化鉄筋24以外の構造で担保しつつ、前記極大地震動に対しても耐力階層化鉄筋24の作動により橋の機能が損なわれにくくなる耐力階層化の効果を得ることができる。
即ち、第2実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚20においても、地震動による引張力作用時の状態を示す
図10から理解されるように、前記式(1)、(2)に基づき遊間長dxを適切に設定することで、耐力階層化鉄筋24をレベル2地震動以下の外力を受けたときに作動させず、レベル2地震動を超える地震動(
図10中の矢印A参照)を受けて前記遊間が潰された(
図10中の矢印B参照)ときに初めて荷重を負担する鉄筋として作動させることができる。
ただし、第2実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚20では、巻き立て鋼板3に代えてRC巻き立て補強部23が適用されるため、前記式(8),(11),(15)を、前記式(8),(11),(15)中の“βsc”を“βco”に置き換えた下記式(18),(19),(21)に変更して遊間長dxの設定を行う。即ち、前記かぶりコンクリートの抵抗を表すばね定数を、巻き立て鋼板3を適用する場合の“βsc”に代えて、下記式(20)で表されるRC巻き立て補強部23を適用する場合の“βco”に置き換えて遊間長dxの設定を行う。
また、“βco”についての下記式(20)の適用に基づき、“βsc”についての前記式(13)を用いずに遊間長dxの設定を行う。即ち、第2実施形態に係る耐力階層化補強RC橋脚20では、“βsc”についての前記式(13)に代えて“βco”についての下記式(20)を用いて遊間長dxの設定を行う。
【0048】
【0049】
【0050】
ただし、前記式(20)中のc0は、前記塑性ヒンジ長Lpを算出するための前記帯鉄筋の有効長d’が最も大きい前記コンクリート躯体の部分の最外縁側に配置された前記軸方向鉄筋の最外位置から前記コンクリート躯体の最外縁までの最短距離(mm)を示す。
なお、前記式(20)に基づく算出に際し、「コンクリート躯体」には、既存橋脚の柱部2bとRC巻き立て補強部23とで構成される前記柱状体におけるコンクリート躯体を適用し、「軸方向鉄筋」には、柱部2bにおける軸方向鉄筋に加え、RC巻き立て補強部23における前記軸方向鉄筋を含めて適用する。つまり、柱部2bとRC巻き立て補強部23とで構成される前記柱状体を対象として前記式(20)に基づく算出を行う。
【0051】
【0052】
(耐力階層化補強RC橋脚の設計方法)
本発明の耐力階層化補強RC橋脚の設計方法は、本発明の前記耐力階層化補強RC橋脚を設計する方法であり、少なくとも、曲率算出工程、距離算出工程、塑性ヒンジ長算出工程及び遊間設定工程を含み、好適には、更に、支承部設定工程等の必要に応じて実施される任意の工程を含む。
【0053】
前記曲率算出工程は、前記耐力階層化鉄筋(2,24)が作動しないときにレベル2地震動によって生ずる変位がもたらす前記柱部(2b)の前記塑性ヒンジ区間における前記曲率φls’を算出する工程である。
前記曲率算出工程としては、前記道路橋示方書Vに基づき設定可能な前記耐力階層化鉄筋が存在しない状態の前記既設RC橋脚に対し、レベル2地震動によって生ずる前記変位と、前記塑性ヒンジ区間とを予め算出したうえ、前記変位がもたらす前記塑性ヒンジ区間における曲率φls’を算出することで実施することができる。
前記変位及び前記曲率φls’の算出方法としては、特に制限はなく、例えば、公知の多質点骨組みモデルに対する荷重漸増解析法において、前記塑性ヒンジ区間にファイバー要素を適用して解析する方法が挙げられる。また、前記塑性ヒンジ区間の算出方法としては、前記道路橋示方書Vに記載の方法が挙げられる。
なお、算出に必要なレベル2地震動としては、前記道路橋示方書Vに示される地震動が挙げられ、例えば、2-II-II-1,JR西日本鷹取駅構内地盤上NS成分等が挙げられる。
また、算出に際し、前記既設RC橋脚自身の耐震性能が不足し、前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動までの耐震性能が前記橋脚補強部の補強により確保されるケースでは、前記既設RC橋脚を前記橋脚補強部により補強された状態と同等の耐震性能を持つものに置き換えて各種算出を行う。つまり、耐震性能の不足が前記橋脚補強部により補われた前記既設RC橋脚として、前記既設RC橋脚自身で前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動までの耐震性能を満足する橋脚を想定し、この想定に係る橋脚に対して各種算出を行う。この想定は、公知の鋼板巻き立て工法又はRC巻き立て工法による過去の施工例で得られている補強後の前記既設RC橋脚が持つ耐震性能の既知データと、この既知データに相当する耐震性能を持つ前記既設RC橋脚とを勘案して行うことができる。また、この想定は、以降の工程でも同様とする。
【0054】
前記距離算出工程は、前記曲率φls’を示すときの前記塑性ヒンジ区間における前記柱部の中立軸の位置から前記柱部の中心軸を挟んで対向する前記耐力階層化鉄筋の配設位置までの最短距離yls’を算出する工程である。
前記距離算出工程としては、前記耐力階層化鉄筋が存在しない状態の前記既設RC橋脚に対し、前記曲率φls’を示すときの前記塑性ヒンジ区間における中立軸の位置を予め算出したうえで、この中立軸の位置を変えずに前記耐力階層化鉄筋を配した状態における前記耐力階層化補強RC橋脚において、前記中立軸の位置から前記柱部の前記中心軸を挟んで対向する前記耐力階層化鉄筋の配設位置までの前記最短距離yls’を算出することで、実施することができる。
前記中立軸の算出方法としては、特に制限はなく、例えば、公知の多質点骨組みモデルに対する荷重漸増解析法において、前記塑性ヒンジ区間にファイバー要素を適用して解析する方法が挙げられる。
【0055】
前記塑性ヒンジ長算出工程は、前記塑性ヒンジ区間の長さである塑性ヒンジ長Lpを算出する工程である。
前記塑性ヒンジ長算出工程としては、前記耐力階層化鉄筋が存在しない状態の前記既設RC橋脚に対し、レベル2地震動によって生ずる前記塑性ヒンジ区間の長さを算出することで実施することができる。
前記塑性ヒンジ区間の長さの算出方法としては、特に制限はなく、例えば、前記道路橋示方書Vに記載される方法が挙げられる。
【0056】
前記遊間設定工程は、前記曲率φls’、前記最短距離yls’及び前記塑性ヒンジ長Lpの算出結果に基づき、下記式(1)及び(2)を満足するように遊間長dxを設定する工程である。
【0057】
【数16】
ただし、前記式(1)、(2)中、φ
ls’は、レベル2地震動によって生ずる変位がもたらす前記柱部の前記塑性ヒンジ区間における曲率を示し、y
ls’は、前記曲率φ
ls’を示すときの前記塑性ヒンジ区間における前記柱部の中立軸の位置から前記中心軸を挟んで対向する前記耐力階層化鉄筋の配設位置までの最短距離を示し、Lpは、前記塑性ヒンジ区間の長さである塑性ヒンジ長を示し、φ
yは、前記道路橋示方書Vに示される前記橋脚の限界状態1とみなす変位における曲率を示し、φ
ls3は、前記道路橋示方書Vに示される前記橋脚の限界状態3とみなす変位における曲率を示す。
なお、前記式(2)における前記曲率φ
y及びφ
ls3の設定方法としては、前記既設RC橋脚を対象として前記道路橋示方書Vに基づく設定を行う方法が挙げられ、具体的には、本発明の前記耐力階層化補強RC橋脚について説明した前記曲率φ
y及びφ
ls3の設定方法を適用して設定することができる。
【0058】
前記支承部設定工程は、前記耐力階層化鉄筋が作動しないときの前記柱部の水平耐力に相当する水平力を超え、前記耐力階層化鉄筋の作動により最大に増強される前記柱部の前記水平耐力未満の前記水平耐力に相当する水平力で破壊されるように前記支承部の破壊強度を設定する工程である。
前記支承部設定工程としては、前記既設RC橋脚の前記水平耐力を算出し、その設定を変えないまま前記橋脚補強部を配した状態、つまり、前記耐力階層化鉄筋を配した状態における前記耐力階層化補強RC橋脚の前記耐力階層化鉄筋作動時の最大水平耐力を算出することで実施することができる。
前記既設RC橋脚の前記水平耐力の算出方法としては、特に制限はなく、例えば、前記ファイバー要素を用いた多質点骨組みモデルに対する荷重漸増解析法等の公知の方法が挙げられる。また、前記耐力階層化鉄筋作動時の最大水平耐力の算出方法としては、特に制限はなく、例えば、前記ファイバー要素を用いた多質点骨組みモデルに対する荷重漸増解析法において、前記耐力階層化鉄筋を圧縮側に抵抗しないように設定し、引張側で所定の変位が生じた後にのみ抵抗するよう設定されたトリリニアモデルの「ばね要素」に置き換えて算出する方法が挙げられる。
前記支承部設定工程により設計される前記耐力階層化補強RC橋脚では、前記耐力階層化鉄筋の降伏前に前記支承部と前記上部構造とが縁切れされ、前記耐力階層化鉄筋の降伏に伴う前記柱部の倒壊に基づく落橋等の致命的な損傷を未然に防ぐことができる。
なお、前記各工程において、各算出対象が前記既設RC橋脚の既知データとして利用可能である場合には、算出を行うことなく前記既知データを利用してもよく、本明細書における「算出」には、(既知データの)「取得」の概念を含む。
【0059】
以下に、前記耐力階層化補強RC橋脚の前記崩壊シナリオ(
図6,7等参照)を踏まえた、前記耐力階層化補強RC橋脚の設計方法の好適な実施形態の例を、
図11を参照しつつ、詳細に説明する。
【0060】
<1 崩壊シナリオの設定>
1.1 橋脚の断面決定
前記橋脚の断面を、前記道路橋示方書Vに示される永続作用、変動作用、偶発作用のそれぞれの支配状況に対して、照査を満足するように設計する。ここで、前記橋脚として、前記道路橋示方書Vに示される曲げ破壊型が先行する橋脚と想定する。
【0061】
1.2 支承部の設計
前記道路橋示方書Vに従い、前記支承部に作用する水平力を算出し、その水平力に対して、耐荷性能を満足するように前記支承部を設計する。
【0062】
1.3 支承部の破壊モードを設定
前記道路橋示方書Vに準じて、前記アンカーボルトの本数、径を決定したのち、前記アンカーボルトの破断強度の特性値を算出する。
前記支承部のアンカーボルトを前記破壊が誘導される部材とする場合には、前記支承部の前記ゴム支承、前記セットボルトなどの破壊が前記アンカーボルトの破断より先行しないよう、各部材の破壊強度のばらつきを踏まえて断面等を設定する。
【0063】
1.4 耐力階層化鉄筋作動後の橋脚耐力の設定
前記破壊が誘導される部材の破壊強度、前記橋脚の水平耐力のばらつきを考慮し、前記耐力階層化鉄筋作動後の前記橋脚の水平耐力を設定する。
【0064】
1.5 橋脚破壊モードの確認
前記破壊が誘導される部材よりも先に、他の破壊形態が先行しないことを確認する。
例として、前記橋脚のせん断破壊が挙げられる。前記破壊が誘導される部材の破壊強度を前記橋脚のせん断耐力の特性値が下回る場合には、前記破壊が誘導される部材が破壊する前に前記橋脚がせん断破壊に至るため、橋脚断面や配筋を見直す。
【0065】
<2 耐力階層化鉄筋の設計>
2.1 ファイバー要素を用いた荷重漸増解析の実施
前記耐力階層化鉄筋の遊間設定等を行うため、前記既設RC橋脚に対してファイバー要素を用いた解析を行う。この解析では、「1.1 橋脚の断面決定」により決定した前記橋脚の断面をモデル化する。
荷重漸増解析により、前記橋脚の荷重-変位関係、前記塑性ヒンジ区間の曲げモーメント-曲率関係等を算出する。
【0066】
2.2 耐力階層化鉄筋配置の設定
前記耐力階層化鉄筋の配筋位置を設定する。
前記耐力階層化鉄筋の配筋位置は、前記道路橋示方書Vに従い「1.1 橋脚の断面決定」で設定した前記軸方向鉄筋に対する、あきを考慮しつつ、前記柱部の外周位置に設定する。
【0067】
2.3 耐力階層化鉄筋の遊間長の目安値設定
前記耐力階層化鉄筋の前記遊間長dxの目安値を設定する。前記耐力階層化鉄筋を作動させる変位における前記塑性ヒンジ区間の前記曲率及び前記中立軸位置を「2.1 ファイバー要素を用いた荷重漸増解析の実施」の解析結果より抽出する。
抽出した前記曲率及び前記中立軸位置と、算出した塑性ヒンジ長とから、式(1)により、前記遊間長dxを算出する。
レベル2地震動によって生じる前記橋脚の変位以下で前記耐力階層化鉄筋による耐力上昇が生じると、塑性変形によるエネルギー吸収が期待できなくなるなど、「1.1 橋脚の断面決定」で行った設計が成り立たなくなるおそれがあるため、レベル2地震動によって生じる変位までは、前記耐力階層化鉄筋が作動しないよう、前記耐力階層化鉄筋の前記遊間を決定する。
【0068】
2.4 耐力階層化鉄筋の諸元設定
「1.4 耐力階層化鉄筋作動後の橋脚耐力の設定」にて設定した前記橋脚水平耐力を満足するように前記耐力階層化鉄筋の本数、径、規格等を設定する。
【0069】
<3 設計照査>
前記耐力階層化鉄筋をモデル化した荷重漸増解析を行う。解析モデルは、「2.1 ファイバー要素を用いた荷重漸増解析の実施」にて作成したモデルに、前記耐力階層化鉄筋を加えたものとする。前記耐力階層化鉄筋のモデルは、遊間を設けたばね要素としてモデル化する。
前記耐力階層化鉄筋を反映したモデルの荷重漸増解析結果より、下記3点について照査し、前記崩壊シナリオが成り立つか確認する。
1点目に、レベル2地震動によって生じる変位以下で、前記耐力階層化鉄筋が作動しないかを確認する。確認は、荷重漸増解析の荷重―変位曲線より判断することができる。目標とした変位以下で前記耐力階層化鉄筋が作動する場合には、前記耐力階層化鉄筋の前記遊間長dxを見直す。
2点目に、前記耐力階層化鉄筋が作動後の前記橋脚水平耐力を確認する。「1.4 橋脚耐力の設定」にて設定した前記水平耐力が得られていない場合には、前記耐力階層化鉄筋の本数、径、規格等の見直しを行う。
3点目に、必要とする前記破壊が誘導される部材の破壊耐力に到達する前に、前記橋脚が限界状態3を超えていないかを確認する。超えている場合には、前記耐力階層化鉄筋の本数、径、又は前記遊間長dxを見直す。
【0070】
以上のように構成される本発明の前記耐力階層化補強RC橋脚の設計方法によれば、前記設計地震動に対する耐震性能を担保しつつ、前記極大地震動に対しても機能全体が損なわれにくい、耐力が階層化された前記耐力階層化補強RC橋脚を設計することができる。
加えて、前記崩壊シナリオに基づき、前記破壊が誘導される部材に破壊を誘導することで前記橋脚倒壊による落橋等の致命的な損壊を防ぐことができ、その後の機能回復に向けた補修を速やかに行うことが可能な前記耐力階層化補強RC橋脚を設計することができる。
【実施例】
【0071】
本発明の前記耐力階層化補強RC橋脚及びその設計方法の有効性を確認するため、以下のシミュレーション解析を行った。
【0072】
<シミュレーション対象>
前記シミュレーション解析では、典型的な事例として、
図12(a),(b)に示す、既設RC橋脚を想定した。この既設RC橋脚としては、下記参考文献1に示される、耐荷性能を満たしていないRC橋脚とした。なお、
図12(a)は、シミュレーション解析で想定するRC橋脚(単脚)の側面図であり、
図12(b)は、シミュレーション解析で想定するRC橋脚(4脚)の上部構造断面図である。
前記シミュレーション解析では、前記既設RC橋脚を設計対象橋脚として抽出し、単脚の前記RC橋脚について解析を行う。
参考文献1:日本道路協会:既設道路橋の耐震補強に関する参考資料,1997.
【0073】
前記設計対象橋脚としては、実施形態1に係る耐力階層化補強RC橋脚の鋼板巻き立てによる補強を行う橋脚とし、前記既設RC橋脚側の具体的な配筋構造を
図13(a)に示す配筋構造とするとともに、前記橋脚補強部の構造を加えた状態の具体的な配筋構造を
図13(b)に示す配筋構造とした。
図13(a)に示すように、前記既設RC橋脚側では、レベル2地震動に対する耐荷性能を確保するうえで必要な軸方向鉄筋、帯鉄筋及び組立筋による配筋構造とされる。
また、13(b)に示すように、前記橋脚補強部側では、前記参考文献1に示される補強と同程度の水平耐力が確保できる補強量とするため、補強鉄筋(アンカー鉄筋、材質:SD345、鉄筋径:D41)が鋼材(巻き立て鋼板)及びH形鋼(不図示)を介して前記鋼材の周囲に配されるとともに、レベル2地震動に相当する変位を超えたときに作動する前記耐力階層化鉄筋が前記鋼材及び前記H形鋼を介して前記鋼材の周囲に配される。このとき、前記耐力階層化鉄筋のみ前記支圧板が前記H形鋼の前記引張抵抗板との間に前記遊間を与えられて配される。なお、前記耐力階層化鉄筋には、限られた配置スペースで十分な水平耐力を確保するためSD490鉄筋を用いることとし、鉄筋径をD51とした。
前記既設RC橋脚の使用材料の具体的な諸元を下記表1に示し、前記橋脚補強部の使用材料の諸元を下記表2に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
<シミュレーション条件>
前記シミュレーション解析は、TDAPIII(株式会社アーク情報システム社製,土木・建築向け汎用3次元動的解析プログラム)を用いて行った。
解析手法は、変位制御の荷重漸増解析を用いた。解析における載荷条件としては、補強後の前記既設RC橋脚について前記限界状態3とみなす変位以上まで載荷できる条件とし、荷重の載荷手法としては、慣性力作用位置である橋脚天端に0.01mm/stepで変位を与えることとした。
【0077】
解析モデルは、多質点骨組みモデルを採用した。具体的な前記多質点骨組みモデルを
図14に示す。
図14に示すように、前記設計対象橋脚に対する前記多質点骨組みモデルは、前記塑性ヒンジ区間を「ファイバー要素」とし、前記塑性ヒンジ区間より上方の前記柱部を「線形はり要素」とし、前記梁部を「線形はり要素(剛部材)」としてモデル化を行うものである。前記柱部の下端である柱基部を固定し、前記柱基部以下の高さ位置に存する前記フーチング部及び基礎については、モデル化していない。
【0078】
また、前記橋脚補強部における前記耐力階層化鉄筋を「ばね要素」としてモデル化した。即ち、前記耐力階層化鉄筋は、前記遊間により所定の変位に達して初めて軸方向の引張力に抵抗する作用を示すことから、軸方向の引張にのみ抵抗する非線形の「ばね要素」として設定した。
この際、前記耐力階層化鉄筋のモデル化は、
図15に示すように断面内の実際に配置する位置で、前記塑性ヒンジ区間のみで行った。前記補強鉄筋(アンカー鉄筋)と異なり、断面内の実際に配置する位置でモデル化する理由は、耐力上昇のタイミングが前記耐力階層化鉄筋から前記中立軸までの距離によって決まるためであり、前記塑性ヒンジ区間のみをモデル化する理由は、前記塑性ヒンジ区間より上側の「線形はり要素」の区間における変形量が、前記耐力階層化鉄筋が作動する変位に影響しないためである。こうしたモデル化を行うことで、前記耐力階層化鉄筋の応答変位を正確に把握することができる。
また、前記耐力階層化鉄筋は、「ばね要素」として
図16に示す荷重-変位関係を与えてモデル化した。
また、前記耐力階層化鉄筋が作用するまでの前記遊間及び前記耐力階層化鉄筋が降伏した後の荷重-変位関係は、解析上の安定性を確保するため、10
-5kN/m程度の微小勾配を与えて設定している。
【0079】
モデル化された「ファイバー要素」のコンクリートの応力-ひずみ関係は、前記参考文献1に基づき、前記鋼材(巻き立て鋼板)の補強効果として、前記鋼材の断面積を帯鉄筋換算して設定した。ただし、前記コンクリートの応力-ひずみ関係のうち、限界圧縮ひずみε
ccl以上のひずみ域では、ひずみε
cが最大圧縮応力度σ
ccに達するときのひずみε
ccから限界圧縮ひずみε
cclまで下降した後も、そのままの下降勾配で応力が0.0N/mm
2となるまで低下すると仮定して設定した。前記シミュレーション解析において設定される前記コンクリートの応力-ひずみ関係を
図17に示す。
【0080】
<シミュレーション結果>
前記耐力階層化鉄筋の遊間長dxを検証するために、遊間長dxを15mm,20mm,25mmとして前記荷重漸増解析を行った。
ここで、15mm,20mmとする条件が遊間長dxの設定に関する前記式(1)及び(2)を満足する条件であり、25mmとする条件(遊間長dxが長い)は、前記式(1)及び(2)を満足しない条件である。
【0081】
前記荷重漸増解析の解析結果を
図18に示す。なお、図中の縦軸が前記設計対象橋脚の水平耐力(荷重)を示し、横軸が前記設計対象橋脚の前記橋脚天端における変位を示している。また、図には、各遊間条件の解析結果に加え、前記設計対象橋脚における限界状態2及び3とみなす変位の制限値も併せて示している。
【0082】
遊間長dxを25mmとする条件では、前記耐力階層化鉄筋の作用する(水平耐力が上昇する)前記橋脚天端の変位が約135mmであり、限界状態3とみなす変位を超えてから前記耐力階層化鉄筋が荷重を負担する鉄筋として作動することが確認される。本シミュレーションでは、限界状態3とみなす変位を超えた後の水平耐力の低下をモデル化していないため、前記設計対象橋脚の水平耐力(荷重)の低下が示されていないが、実橋脚においては限界状態3を超えると水平耐力(荷重)が急落し倒壊に至ることが実験等で確認されている。そのため、レベル2地震動を超える地震動を受けたときに、前記支承部に破壊箇所が移行する前に前記設計対象橋脚が倒壊に至ることを示しており、前述の崩壊シナリオが成立しない。
【0083】
一方、遊間長dxを15mmとする条件では、前記耐力階層化鉄筋の作用する(水平耐力が上昇する)前記橋脚天端の変位が約90mmであり、限界状態2とみなす変位に到達する前から作動するとともに、限界状態3とみなす変位に到達する前に前記耐力階層化鉄筋が荷重を負担する鉄筋として作動することが確認される。なお、図示しないが、この条件における前記耐力階層化鉄筋は、限界状態1とみなす変位に到達後に作動する。
【0084】
また、遊間長dxを20mmとする条件では、前記耐力階層化鉄筋の作用する(水平耐力が上昇する)前記橋脚天端の変位が約110mmであり、限界状態2とみなす変位を超えた時点で作動し、限界状態3とみなす変位に到達する前に前記耐力階層化鉄筋が荷重を負担する鉄筋として作動することが確認される。
したがって、遊間長dxの設定に関する前記式(1)及び(2)を満足する条件では、限界状態3とみなす変位に到達する前にレベル2地震動を超える地震動の影響を前記支承部の破壊に誘導することができることを示しており、橋全体として崩壊に至りにくいシナリオに誘導できたことを意味している。
【0085】
遊間長dxを20mmとする条件とした前記設計対象橋脚(ケース1)に加え、前記荷重漸増解析は、無補強の前記既設RC橋脚(
図13(a)参照)そのものを条件とした設計対象橋脚(ケース0)と、補強はするが前記耐力階層化鉄筋をモデル化しない状態の橋脚(
図14における「ばね要素」なし)を条件とした設計対象橋脚(ケース2)に対しても行った。
【0086】
これらについての前記荷重漸増解析の解析結果を
図19に示す。なお、図中の縦軸が前記設計対象橋脚の水平耐力(荷重)を示し、横軸が前記設計対象橋脚の前記橋脚天端における変位を示している。また、図には、各遊間条件の解析結果に加え、前記設計対象橋脚における限界状態2及び3とみなす変位の制限値も併せて示している。
【0087】
ケース0では、限界状態2とみなす変位に到達する前から水平耐力(荷重)の低下が確認され、前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動に対する耐震性能を満足していないことが確認される。
ケース2では、このような水平耐力(荷重)の低下が確認されず、前記道路橋示方書Vの耐震設計による前記設計地震動までの耐震性能を満足することが確認される。
ケース1では、限界状態2までは、ケース2と同様の挙動を示す。その後は、
図18にも示したように、限界状態2を超え、限界状態3に至る前に水平耐力(荷重)が上昇することが確認される。
【0088】
続いて、ケース1について、橋脚の水平耐力のばらつきが、耐力上昇前と耐力上昇後とでともに超過確率5%とした場合の水平耐力(荷重)と、同じく超過確率5%とした場合の支承部(アンカーボルト)破断耐力との確率分布を
図20に示す。
図20に示すように、前記支承部(アンカーボルト)破断耐力を例えば3,620kNとすると、超過確率5%の設定範囲内で前記橋脚の耐力上昇前に前記支承部が破断されず、かつ、前記橋脚の耐力上昇後に前記支承部が破断されることとなる。
したがって、前記設計対象橋脚に対して超過確率5%までの信頼性を与えた状態で、意図した崩壊シナリオを実現することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 耐力階層化補強RC橋脚
2a フーチング部
2b 柱部
2c 梁部
3 巻き立て鋼板
4,24 耐力階層化鉄筋
4a,24a 支圧板
5 定着鋼
5a 引張抵抗板
6 軸方向鉄筋
7 帯鉄筋
8 帯鉄筋
10 支承部
11 ベースプレート
12 セットプレート
13 ゴム支承
14 アンカーボルト
23 RC巻き立て補強部
25 中空シース
25a 大中空部