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特許7605484亜鉛ニッケルめっき浴及び該浴を用いるめっき方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】亜鉛ニッケルめっき浴及び該浴を用いるめっき方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/56 20060101AFI20241217BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C25D3/56 A
C25D17/00 H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021566885
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041350
(87)【国際公開番号】W WO2021131340
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019231533
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109657
【氏名又は名称】ディップソール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】三上 将義
(72)【発明者】
【氏名】橋本 悠司
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/055917(WO,A1)
【文献】特表2017-538032(JP,A)
【文献】特許第6582353(JP,B1)
【文献】特表2019-530800(JP,A)
【文献】特開2016-069725(JP,A)
【文献】特開2007-002274(JP,A)
【文献】国際公開第2016/075963(WO,A1)
【文献】米国特許第04285802(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00 - 3/66
C25D 9/00 - 9/12
C25D 13/00 - 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛ニッケルめっき浴であって、めっき浴のpHが3.5~6.9、亜鉛イオン、ニッケルイオン、塩化物イオン、クミルフェノール系アニオン界面活性剤及びアミン系キレート剤を含有することを特徴とする亜鉛ニッケルめっき浴。
【請求項2】
クミルフェノール系アニオン界面活性剤が、クミルフェノールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドまたはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体を付加したスルホン酸塩である請求項1記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
【請求項3】
アミン系キレート剤が、炭素数1~12のアルキレンアミン化合物、そのエチレンオキサイド付加物及びプロピレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
【請求項4】
めっき浴のpHが4.5~6.0である請求項1~3のいずれか1記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
【請求項5】
芳香族カルボン酸及び/又はその塩を含有する請求項1~4のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
【請求項6】
芳香族カルボン酸及び/又はその塩が、安息香酸、安息香酸塩又はこれらの組み合わせである請求項5記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
【請求項7】
芳香族アルデヒド及び/又は芳香族ケトンを含有する請求項1~6のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
【請求項8】
芳香族アルデヒド及び芳香族ケトンが、それぞれO-クロルベンズアルデヒド、ベンザールアセトンである請求項7記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
【請求項9】
アンモニア、アンモニウム塩、酢酸、酢酸塩、ホウ酸及びホウ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する請求項1~8のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
【請求項10】
硫酸イオンを含有しない請求項1~9のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
【請求項11】
被めっき体を陰極とし、亜鉛、ニッケル又はこれらの両方を陽極とし、請求項1~10のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴を用いて、被めっき体に亜鉛ニッケルめっきを施すことを特徴とするめっき方法。
【請求項12】
被めっき体を陰極とし、亜鉛とニッケルを陽極とし、亜鉛陽極の一部または全部をイオン交換隔膜で隔てた陽極室内に設置し、請求項1~10のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴を用いて、被めっき体に亜鉛ニッケルめっきを施すことを特徴とするめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛ニッケルめっき浴に関するものである。腐食防止のための一般的な表面処理として利用できる、こげにくくかつ水酸化ニッケルが陰極に析出しにくい電気亜鉛ニッケルめっき浴及び該浴を用いるめっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛ニッケル合金めっきが、優れた耐食性を有していることはよく知られている。この亜鉛ニッケル合金めっきは、通常、亜鉛イオン及びニッケルイオンを含むアルカリ性又は弱酸性のめっき液を用い、被めっき体を陰極として、陽極との間に通電して陰極の被めっき体表面に亜鉛ニッケル合金めっきを施すものである。
このうち、自動車部品などへの亜鉛ニッケル合金めっきには、アルカリ性のめっき液(浴)が使用されているが、電流効率が悪く、めっき速度が遅いとの問題がある。一方、弱酸性のめっき液(浴)を用いると、電流効率が良好で、めっき速度が速いとの利点があるものの、めっき時の電流密度が変化した場合、皮膜中のニッケルの割合が大きく変化してしまうとの問題点が指摘されている(特許文献1)。この問題の解決に、(1)亜鉛イオン;(2)ニッケルイオン;(3)導電性塩;(4)pH緩衝剤;並びに(5)H2N-R1-R2の式で表されるアミン化合物を含む酸性亜鉛ニッケル合金電気めっき液が提案されている(特許文献1)。
さらに、弱酸性のめっき液(浴)を用いると、次のような問題がある。例えば、塩化カリウムを導電性塩として含有する弱酸性のめっき液(塩化浴)を、静止浴として用いて高速めっきを行うと、こげ(めっき皮膜ががさがさになったり、粗くなったり、光沢もなくなる現象)が発生しやすくなる。また、pH緩衝剤の量が不足したり、撹拌が不均一になると、水酸化ニッケルが陰極に析出したり(通電不足になる)、被めっき体の表面に付着するとの問題が生じる。これに対して、塩化カリウム(導電性塩)と塩化アンモニウム(緩衝剤)を含有する弱酸性のめっき液(折衷浴)を、バレル浴(かごにいれた被めっき体をめっき液(折衷浴)に入れ、めっき処理中、回転させる)として用いてめっきを行うと、水酸化ニッケルが陰極に析出したり、被めっき体の表面に付着するとの問題が生じる。同時にこげが発生することがある。
一方、特許文献2には、30~50℃の高温時においても経時安定性が改善された酸性亜鉛めっき浴として、導電塩と、金属亜鉛と、光沢剤とを含み、前記光沢剤の成分として、クミルフェノール系アニオン性界面活性剤の少なくとも1種以上を含有する酸性亜鉛めっき浴が提案されている。しかしながら、特許文献2には、酸性亜鉛ニッケル合金電気めっき液について全く言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2014/157105A1
【文献】WO2010/055917A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、こげにくくかつ水酸化ニッケルが陰極に析出しにくい電気亜鉛ニッケルめっき浴を提供することを目的とする。
本発明は、また、電気亜鉛ニッケルめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、亜鉛ニッケルめっき浴のpHを3.5~6.9の範囲に調整し、亜鉛イオン、ニッケルイオン、塩化物イオンに、クミルフェノール系アニオン界面活性剤及びアミン系キレート剤を併用すると上記課題を効率的に解決できるとの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、以下の態様を有するものである。
1. 亜鉛ニッケルめっき浴であって、めっき浴のpHが3.5~6.9、亜鉛イオン、ニッケルイオン、塩化物イオン、クミルフェノール系アニオン界面活性剤及びアミン系キレート剤を含有することを特徴とする亜鉛ニッケルめっき浴。
2. クミルフェノール系アニオン界面活性剤が、クミルフェノールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドまたはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体を付加したスルホン酸塩である上記1記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
3. アミン系キレート剤が、炭素数1~12のアルキレンアミン化合物、そのエチレンオキサイド付加物及びプロピレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1又は2記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
4. めっき浴のpHが4.5~6.0である上記1~3のいずれか1記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
5. 芳香族カルボン酸及び/又はその塩を含有する上記1~4のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
6. 芳香族カルボン酸及び/又はその塩が、安息香酸、安息香酸塩又はこれらの組み合わせである上記5記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
【0006】
7. 芳香族アルデヒド及び/又は芳香族ケトンを含有する上記1~6のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
8. 芳香族アルデヒド及び芳香族ケトンが、それぞれO-クロルベンズアルデヒド、ベンザールアセトンである上記7記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
9. アンモニア、アンモニウム塩、酢酸、酢酸塩、ホウ酸及びホウ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する上記1~8のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
10. 硫酸イオンを含有しない上記1~9のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴。
11. 被めっき体を陰極とし、亜鉛、ニッケル又はこれらの両方を陽極とし、上記1~10のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴を用いて、被めっき体に亜鉛ニッケルめっきを施すことを特徴とするめっき方法。
12. 被めっき体を陰極とし、亜鉛とニッケルを陽極とし、亜鉛陽極の一部または全部をイオン交換隔膜で隔てた陽極室内に設置し、上記1~10のいずれか1項記載の亜鉛ニッケルめっき浴を用いて、被めっき体に亜鉛ニッケルめっきを施すことを特徴とするめっき方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のめっき浴は、弱酸性のめっき液(塩化浴)であるので高速めっきを行うことができるとの利点を維持しながら、得られる亜鉛ニッケル皮膜がこげにくくかつ電気めっき処理中に水酸化ニッケルが陰極に析出付着する現象を抑制できるとの優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の電気亜鉛ニッケルめっき浴は、弱酸性浴とする為に、浴のpHを3.5~6.9に設定する。このような弱酸性浴としては、塩化浴が最も好ましい。また、めっき浴のpHは、好ましくは4.5~6.0、最も好ましくは5.2~5.8である。尚、めっき浴のpHは、塩酸、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、酢酸、酢酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム水溶液などを用いて容易に調整できる。
本発明のめっき浴は、亜鉛イオン、ニッケルイオン、塩化物イオン(Cl-)及びクミルフェノール系アニオン界面活性剤とアミン系キレート剤を必須成分として含有する。
亜鉛イオンは水溶性亜鉛塩からもたらされ、水溶性亜鉛塩としては塩化亜鉛が好ましい。その濃度は40~130g/Lが好ましい。さらに好ましくは、60~110g/Lである。
ニッケルイオンは水溶性ニッケル塩からもたらされ、水溶性ニッケル塩としては塩化ニッケルが好ましい。その濃度は、塩化ニッケル6水和物換算で、70~150g/Lが好ましい。さらに好ましいのは、75~120g/Lである。
塩化物イオンは、上記塩化亜鉛や塩化ニッケルからもたらされるが、めっき浴に添加されたこれ以外の水溶性塩化物からももたらされる。塩化物イオンの量は、めっき浴中の水溶性塩化物からもたらされる塩化物イオンの合計量である。その濃度は100~300g/Lが好ましい。さらに好ましいのは、120~240g/Lである。
【0009】
クミルフェノール系アニオン界面活性剤としては、クミルフェノールにエチレンオキサイドまたは/およびプロピレンオキサイドを合計で3~65モル、好ましくは8~62モル付加したスルホン酸塩があげられる。スルホン酸塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アミン塩等が挙げられる。具体的には、ポリオキシエチレンp-クミルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(EO付加モル数3~65モル、好ましくは8~62モル)などがあげられる。
クミルフェノールにエチレンオキサイドまたは/及びプロピレンオキサイドを付加したスルホン酸塩のめっき浴中の濃度は、0.1~10g/Lが好ましく、さらに好ましくは0.2~5g/Lである。
これらのクミルフェノール系アニオン界面活性剤は、市場から、例えば、日本乳化剤株式会社のニューコールCMP-4-SN(EO付加モル4モル)、CMP-11-SN(EO付加モル11モル)、CMP-40-SN(EO付加モル40モル)、CMP-60-SN(EO付加モル60モル)などとして容易に入手することができる。
【0010】
アミン系キレート剤としては、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のアルキレンアミン化合物、前記アルキレンアミンのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物;N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、2-ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアミノアルコール;N-2(-ヒドロキシエチル)-N,N’,N’-トリエチルエチレンジアミン、N,N’-ジ(2-ヒドロキシエチル)-N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)プロピレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンなどのポリ(ヒドロキシアルキル)アルキレンジアミン;エチレンイミン、1,2-プロピレンイミンなどから得られるポリ(アルキレンイミン)、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、エタノールアミン、ジエタノールアミンなどから得られるポリ(アルキレンアミン)又はポリ(アミノアルコール)などが挙げられる。これらのうち、炭素数1~12(好ましくは炭素数2~10)で窒素原子数2~7(好ましくは窒素原子数2~6)のアルキレンアミン化合物、そのエチレンオキサイド付加物及びプロピレンオキサイド付加物が好ましい。これらのアミン系キレート剤は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。アミン系キレート剤のめっき浴中の濃度は、0.5~50g/Lが好ましく、さらに好ましくは1~5g/Lである。
【0011】
本発明のめっき浴は、一種以上の導電性塩を含んでいてもよい。導電性塩を用いることにより、通電時の電圧を低下させ、電流効率を向上させることができる。本発明に使用される導電性塩は、例えば、塩化物、硫酸塩、炭酸塩などがある。その中でも、塩化カリウム、塩化アンモニウム、及び塩化ナトリウムのうち、少なくとも一種以上の塩化物を用いるのが好ましい。特に塩化カリウム、塩化アンモニウムの単独もしくは併用が好ましい。塩化カリウムの濃度は、単独の場合150~250g/Lが好ましく、塩化アンモニウムの濃度は、単独の場合150~300g/Lが好ましい。塩化カリウムと塩化アンモニウム併用の場合は、塩化カリウム70~200g/Lが好ましく、塩化アンモニウム15~150g/Lが好ましい。塩化アンモニウムは緩衝剤としての効果もある。塩化アンモ二ウムを用いない場合は、緩衝剤として、アンモニア、アンモニウム塩、ホウ酸やホウ酸塩、酢酸や酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの酢酸塩を用いるのが好ましい。ホウ酸及び/又はホウ酸塩の合計濃度は15~90g/Lが好ましい。酢酸及び/又は酢酸塩の合計濃度は5~140g/Lが好ましく、より好ましくは7~140g/L、さらに好ましいのは、8~120g/Lである。また、塩化アンモニウムを用いる場合でも、これら緩衝剤を適宜用いることができる。
【0012】
めっき皮膜の緻密化と光沢が必要な場合は、本発明のめっき浴は、炭素数7~10の芳香族アルデヒドや炭素数8~14の芳香族ケトンを含有するのが好ましい。芳香族アルデヒドとしては、例えば、o-カルボキシベンズアルデヒド、ベンズアルデヒド、o-クロルベンズアルデヒド、p-トルアルデヒド、アニスアルデヒド、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどが挙げられる。芳香族ケトンとしては、例えば、ベンザールアセトン、ベンゾフェノン、アセトフェノン、塩化テレフタロイルベンジルなどが挙げられる。ここで、特に好ましい化合物は、ベンザールアセトンとo-クロルベンズアルデヒドである。それぞれの浴中濃度は、0.1~20mg/Lが好ましく、より好ましくは0.3~10mg/Lである。
本発明のめっき浴の残部は、水である。
【0013】
本発明の亜鉛ニッケルめっき浴を用いるめっき方法として電気めっきが用いられる。電気めっきは、直流もしくはパルス電流により行うことができる。
浴温は、通常、25~50℃の範囲、好ましくは30~45℃の範囲である。電流密度は、通常、0.1~15A/dm2の範囲、好ましくは0.5~10A/dm2の範囲の電解条件で行うのが良い。また、めっきを実施する場合は、エアーブローやジェット噴流により液撹拌をすることが好ましい。そうすることで電流密度をさらに高くすることができる。
陽極としては、亜鉛板、ニッケル板、亜鉛ボール、ニッケルチップ等が望ましい。
陰極には、本発明の亜鉛ニッケルめっき皮膜を施す金属物品を用いる。この金属物品としては、鉄、ニッケル、銅などの各種金属、及びこれらの合金、あるいは亜鉛置換処理を施したアルミニウムなどの金属や合金などの電気伝導性物品を用いるが、その形状は、プレ-トなどの平板状のものや複雑な外見を有する形状物品、例えばボルト、ナット等の締結部品やブレーキキャリパー等の各種鋳物部品など任意のものを用いることができる。
本発明では、さらに、被めっき体を陰極とし、亜鉛とニッケルを陽極とし、亜鉛陽極の一部または全部をイオン交換隔膜で隔てた陽極室内に設置し、上記亜鉛ニッケルめっき浴を用いて、被めっき体に亜鉛ニッケルめっきを施すことができる。この方法によると、稼働に伴うめっき液中の金属濃度(特に亜鉛濃度)の上昇を抑制・制御できるため、品質の安定しためっき皮膜が得られるという利点がある。
【0014】
本発明の電気亜鉛ニッケルめっき浴を用いて得られる亜鉛ニッケルめっき皮膜中のニッケル共析率は、好ましくは5~18重量%であり、より好ましくは10~18重量%であり、最も好ましくは12~15重量%である。ニッケル共析率が高い方が耐食性は良くなり、最も好ましいニッケル共析率のとき、最も耐食性が良い。尚、残部は亜鉛であるのが好ましい。
次に実施例により本発明を一層具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例
【0015】
実施例1
塩化亜鉛73g/L(亜鉛濃度として35g/L)、塩化ニッケル6水和物89g/L(ニッケル濃度として22g/L)、塩化カリウム180g/L(全塩素濃度170g/L)、塩化アンモニウム30g/L、ポリオキシエチレンp-クミルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(EO付加モル40モル:ニューコールCMP-40-SN)0.25g/L、ベンザールアセトン6mg/L、ジエチレントリアミン2.5g/L、安息香酸ナトリウム1.5g/L、酢酸カリウム90g/Lを水に混合溶解させ、塩酸を用いてpH5.4に調整してめっき浴(1リットル)を調製した。
次に、鉄製プレートに対し、アルカリ脱脂、水洗、酸洗、水洗、アルカリ電解洗浄、水洗、塩酸活性化、水洗の工程で前処理を行い、これを陰極として用いた。陽極としてニッケル板を用い、浴温を35℃、直流電源で陰極電流密度4A/dm2で10分間めっきを実施した。尚、めっき浴はφ8×30mmのレギュラー攪拌子およびマグネチックスターラーを用いて1200rpmの回転速度で攪拌した。
尚、鉄製プレートは、縦65mm、横200mm、厚さ0.5mmのハルセル試験用ロングパネルであり、ニッケル板は、縦65mm、横65mm、厚さ2mmのプレートである。
この実施例において、ハルセル試験に準ずるめっき試験を行い、亜鉛ニッケルめっき皮膜のニッケル共析率(%)、膜厚分布、水酸化ニッケルの陰極での析出、亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげと外観(ハルセル外観)を下記の方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0016】
(Ni共析率(%)及び厚さの測定方法)
めっき皮膜のニッケル共析率(%)及び膜厚は、蛍光X線分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、マイクロエレメントモニターSEA5120)を用いて測定した。
(水酸化ニッケルの陰極での析出)
亜鉛ニッケルめっき処理終了時の陰極表面を目視で観測し、下記の基準で水酸化ニッケルの陰極での析出を評価した。ハルセル試験での評価がA及びBであれば、実際に物品を用いてめっきをする場合、被めっき物やバレルめっき装置の陰極(ダングラー)に水酸化ニッケルは析出しない。
A:析出幅が、ハルセル試験パネル左端(高電流部側)から3mm未満(良好)
B:析出幅が、ハルセル試験パネル左端(高電流部側)から6mm未満(許容範囲)
C:析出幅が、ハルセル試験パネル左端(高電流部側)から6mm以上(使用不可)
(亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげ)
亜鉛ニッケルめっき処理終了時の亜鉛ニッケルめっき皮膜上のこげの発生を下記の基準で評価した。ハルセル試験での評価がA及びBであれば、実際に物品を用いてめっきをする場合、被めっき物にこげは発生しない。
A:こげ幅が、ハルセル試験パネル左端(高電流部側)から6mm未満(良好)
B:こげ幅が、ハルセル試験パネル左端(高電流部側)から9mm未満(許容範囲)
C:こげ幅が、ハルセル試験パネル左端(高電流部側)から9mm以上(使用不可)
(亜鉛ニッケルめっき皮膜の外観(ハルセル外観))
亜鉛ニッケルめっき処理終了時の亜鉛ニッケルめっき皮膜のハルセル外観を下記の基準で評価した。
A:ハルセル試験パネル左端(高電流部側)から3mmの位置より右側にこげやくもり、シミのない外観(とても良好)
B:ハルセル試験パネル左端(高電流部側)から6mmの位置より右側にこげやくもり、シミのない外観(良好)
C:ハルセル試験パネル左端(高電流部側)から9mmの位置より右側にこげやくもり、シミのない外観(許容範囲)
D:ハルセル試験パネル全体にくもりやシミが薄く発生している外観(使用不可)
E:ハルセル試験パネル全体にくもりやシミが濃く発生している外観(使用不可)
【0017】
実施例2
塩化亜鉛73g/L(亜鉛濃度として35g/L)、塩化ニッケル6水和物89g/L(ニッケル濃度として22g/L)、塩化カリウム180g/L(全塩素濃度170g/L)、塩化アンモニウム30g/L、ポリオキシエチレンp-クミルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(EO付加モル60モル:ニューコールCMP-60-SN)1g/L、ベンザールアセトン6mg/L、ジエチレントリアミン2.5g/L、安息香酸ナトリウム1.5g/L、酢酸カリウム90g/Lを水に混合溶解させ、塩酸を用いてpH5.4に調整してめっき浴(1リットル)を調製した。
次に、実施例1と同様の陰極及び陽極を用い、実施例1と同じ条件でめっきを行い、水酸化ニッケルの陰極での析出、亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげと外観(ハルセル外観)を実施例1と同様に評価した。その評価結果を表1に示す。
【0018】
実施例3
塩化亜鉛73g/L(亜鉛濃度として35g/L)、塩化ニッケル6水和物89g/L(ニッケル濃度として22g/L)、塩化カリウム180g/L(全塩素濃度170g/L)、塩化アンモニウム30g/L、ポリオキシエチレンp-クミルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(EO付加モル11モル:ニューコールCMP-11-SN)1g/L、ベンザールアセトン6mg/L、ジエチレントリアミン2.5g/L、安息香酸ナトリウム1.5g/L、酢酸カリウム90g/Lを水に混合溶解させ、塩酸を用いてpH5.4に調整してめっき浴(1リットル)を調製した。
次に、実施例1と同様の陰極及び陽極を用い、実施例1と同じ条件でめっきを行い、水酸化ニッケルの陰極での析出、亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげと外観(ハルセル外観)を実施例1と同様に評価した。その評価結果を表1に示す。
【0019】
実施例4
塩化亜鉛73g/L(亜鉛濃度として35g/L)、塩化ニッケル6水和物89g/L(ニッケル濃度として22g/L)、塩化カリウム180g/L(全塩素濃度170g/L)、塩化アンモニウム30g/L、ポリオキシエチレンp-クミルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(EO付加モル20モル:ニューコールCMP-20-SN)1g/L、ベンザールアセトン6mg/L、ジエチレントリアミン2.5g/L、安息香酸ナトリウム1.5g/L、酢酸カリウム90g/Lを水に混合溶解させ、塩酸を用いてpH5.4に調整してめっき浴(1リットル)を調製した。
次に、実施例1と同様の陰極及び陽極を用い、実施例1と同じ条件でめっきを行い、水酸化ニッケルの陰極での析出、亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげと外観(ハルセル外観)を実施例1と同様に評価した。その評価結果を表1に示す。
【0020】
実施例5
塩化亜鉛73g/L(亜鉛濃度として35g/L)、塩化ニッケル6水和物89g/L(ニッケル濃度として22g/L)、塩化カリウム220g/L(全塩素濃度170g/L)、ポリオキシエチレンp-クミルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(EO付加モル11モル:ニューコールCMP-11-SN)1g/L、ベンザールアセトン6mg/L、ジエチレントリアミン2.5g/L、安息香酸ナトリウム1.5g/L、酢酸カリウム90g/Lを水に混合溶解させ、塩酸を用いてpH5.4に調整してめっき浴(1リットル)を調製した。
次に、実施例1と同様の陰極及び陽極を用い、実施例1と同じ条件でめっきを行い、水酸化ニッケルの陰極での析出、亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげと外観(ハルセル外観)を実施例1と同様に評価した。その評価結果を表1に示す。
【0021】
比較例1
塩化亜鉛73g/L(亜鉛濃度として35g/L)、塩化ニッケル6水和物89g/L(ニッケル濃度として22g/L)、塩化カリウム180g/L(全塩素濃度170g/L)、塩化アンモニウム30g/L、ノニルフェノール系ノニオン界面活性剤(EO付加モル30モル付加)(ミヨシ油脂株式会社製のペレテックス1245S)4g/L、ベンザールアセトン6mg/L、ジエチレントリアミン2.5g/L、安息香酸ナトリウム1.5g/L、酢酸カリウム90g/Lを水に混合溶解させ、塩酸を用いてpH5.4に調整してめっき浴(1リットル)を調製した。
次に、実施例1と同様の陰極及び陽極を用い、実施例1と同じ条件でめっきを行い、水酸化ニッケルの陰極での析出、亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげと外観(ハルセル外観)を実施例1と同様に評価した。その評価結果を表1に示す。
【0022】
比較例2
塩化亜鉛73g/L(亜鉛濃度として35g/L)、塩化ニッケル6水和物89g/L(ニッケル濃度として22g/L)、塩化カリウム180g/L(全塩素濃度170g/L)、塩化アンモニウム30g/L、ポリオキシエチレンアルキルフェノール型ノニオン界面活性剤(EO付加モル10モル)(青木油脂工業株式会社製のブラウノンBEO-10)4g/L、ベンザールアセトン6mg/L、ジエチレントリアミン2.5g/L、安息香酸ナトリウム1.5g/L、酢酸カリウム90g/Lを水に混合溶解させ、塩酸を用いてpH5.4に調整してめっき浴(1リットル)を調製した。
次に、実施例1と同様の陰極及び陽極を用い、実施例1と同じ条件でめっきを行い、水酸化ニッケルの陰極での析出、亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげと外観(ハルセル外観)を実施例1と同様に評価した。その評価結果を表1に示す。
【0023】
比較例3
実施例1におけるポリオキシエチレンp-クミルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(EO付加モル40モル:ニューコールCMP-40-SN)0.25g/Lの代わりに、クミルフェノール系ノニオン界面活性剤(EO付加モル11モル:日本乳化剤株式会社製のNewcol CMP-11)4g/L、ポリオキシエチレンアルキルフェノール型ノニオン界面活性剤(EO付加モル16モル:青木油脂工業株式会社製のブラウノンKTSP-1604P)4g/L、又はポリオキシエチレンアルキルフェノール型ノニオン界面活性剤(EO付加モル2モル:青木油脂工業株式会社製のブラウノンN-502)4g/Lを用いた以外は実施例1と同じめっき浴(1リットル)を調製した。しかしながら、これらのノニオン系界面活性剤はめっき浴に溶解しなかったので、ハルセル試験に準ずるめっき試験を行わなかった。
【0024】
表1 亜鉛ニッケルめっき皮膜のNi共析率(%)、膜厚分布、水酸化ニッケルの陰極での析出、亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげと外観(ハルセル外観)の測定結果
【0025】
表1の結果から明らかなように、本発明によれば、水酸化ニッケルの陰極での析出を防止でき、亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげの発生を抑制し、かつ外観が優れた亜鉛ニッケルめっき皮膜を得ることができることがわかる(実施例1~5)。
これに対して、クミルフェノール系アニオン界面活性剤ではない従来の界面活性剤を用いた比較例1及び2では、水酸化ニッケルの陰極での析出防止、亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげ発生抑制、及び外観が優れた亜鉛ニッケルめっき皮膜の3つの要求を同時に達成することができないことがわかる。
【0026】
実施例6
塩化亜鉛73g/L(亜鉛濃度として35g/L)、塩化ニッケル6水和物89g/L(ニッケル濃度として22g/L)、塩化カリウム180g/L(全塩素濃度170g/L)、塩化アンモニウム30g/L、ポリオキシエチレンp-クミルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(EO付加モル11モル:ニューコールCMP-11-SN)1g/L、ベンザールアセトン6mg/L、ジエチレントリアミン2.5g/L、安息香酸ナトリウム1.5g/L、酢酸カリウム90g/Lを水に混合溶解させ、塩酸を用いてpH5.4に調整してめっき浴(15リットル)を調製した。
次に、鉄製ボルトに対し、アルカリ脱脂、水洗、酸洗、水洗、アルカリ電解洗浄、水洗、塩酸活性化、水洗の工程で前処理を行った。陽極として亜鉛板とニッケル板を用い、浴温を35℃、直流電源で陰極電流密度0.75A/dm2で45分間めっきを実施した。尚、めっきはオートギルダーを用いて、4~6rpmで回転させながらめっきした。
尚、鉄製ボルトはM8×55サイズの六角ボルト(半ねじタイプ)であり、亜鉛板とニッケル板は、亜鉛板が縦300mm、横100mm、厚さ20mm、ニッケル板が縦300mm、横150mm、厚さ15mmのプレートである。
この実施例において、亜鉛ニッケルめっき皮膜のニッケル共析率(%)、膜厚、六角ボルト及びオートギルダー陰極(ダングラー)での水酸化ニッケルの析出、亜鉛ニッケルめっき皮膜のこげとめっき外観を実施例1の方法により評価した。
評価 六角ボルト頭部の二面幅中央での測定結果で、ニッケル共析率14%、膜厚10μm、
六角ボルト及びオートギルダー陰極(ダングラー)での水酸化ニッケルの析出はなく、こげやくもり、シミの無い良好な亜鉛-ニッケル合金めっき皮膜外観であった。