(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】負圧被膜による凍結砂型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 9/02 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
B22C9/02 101B
(21)【出願番号】P 2023553430
(86)(22)【出願日】2022-09-05
(86)【国際出願番号】 CN2022117063
(87)【国際公開番号】W WO2023221341
(87)【国際公開日】2023-11-23
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】202210533241.7
(32)【優先日】2022-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519291342
【氏名又は名称】南京航空航天大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】楊 浩秦
(72)【発明者】
【氏名】単 忠徳
(72)【発明者】
【氏名】劉 親将
(72)【発明者】
【氏名】施 建培
(72)【発明者】
【氏名】▲えん▼ 丹丹
(72)【発明者】
【氏名】董 世杰
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105665637(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101823122(CN,A)
【文献】特開昭58-000349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 5/00 - 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負圧被膜による凍結砂型の製造方法であって、
当該方法は、
ステップ1であって、デジタル化された金型なしでの鋳造成形技術によって、
低温加工環境で冷凍された砂素体に対して、デジタル制御切削技術を適用し、凍結砂型を製造することにより、砂型の上、下箱を得ることと、
ステップ2であって、製造された凍結砂型を砂型の寸法に適応する抽気砂箱中に固定し、上、下箱砂型のキャビティの表面に断熱塗料を塗ることと、
ステップ3であって、フィルムを軟化するまで加熱した後、当該フィルムを断熱塗料が塗布された砂型のキャビティの表面に被覆することと、
ステップ4であって、砂型の外表面にバックフィルムを被覆して、砂箱を密閉させることと、
ステップ5であって、真空ポンプを起動し、真空吸引力でフィルムを砂型に密着させ、砂型上、下箱が、負圧被膜されて箱を閉じて全体の砂型を得ることとを含
み、
前記フィルムは、ヒータによって加熱軟化され、軟化温度は、65~75℃であり、前記フィルムは、降温した後、砂型のキャビティに敷設される、ことを特徴とする負圧被膜による凍結砂型の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ1において、凍結砂型に抽気孔を設ける必要があり、抽気孔の製造は、凍結砂素体中に金属針を予め埋め、砂素体が初期凝固した際に当該金属針を抜き出して抽気孔を得、或いは、デジタル制御加工を利用して直接砂型の側壁に抽気孔を穿孔する、ことを特徴とする請求項1に記載の負圧被膜による凍結砂型の製造方法。
【請求項3】
砂型の砂箱は、真空ガス室付きの抽気砂箱であり、真空ポンプによって抽気孔及び濾過抽気管を組み合わせて抽気を行う、ことを特徴とする請求項1に記載の負圧被膜による凍結砂型の製造方法。
【請求項4】
膜被覆及び保圧過程において、真空度を0.03~0.04MPaに制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の負圧被膜による凍結砂型の製造方法。
【請求項5】
前記断熱塗料は、遮断型の保温断熱塗料である、ことを特徴とする請求項1に記載の負圧被膜による凍結砂型の製造方法。
【請求項6】
前記上箱と下箱を合わせて、湯口、キャビティ及び抽気孔を有する全体の砂型を形成し、砂型の負圧状態を保ち、常温又は低温環境で直接注湯する、ことを特徴とする請求項1に記載の負圧被膜による凍結砂型の製造方法。
【請求項7】
前記フィルムは、EVAプラスチックフィルム、低密度ポリエチレンフィルム及びポリエステルアミン繊維のうちの1種である、ことを特徴とする請求項1に記載の負圧被膜による凍結砂型の製造方法。
【請求項8】
前記フィルムの厚さは、0.1mmである、ことを特徴とする請求項1に記載の負圧被膜による凍結砂型の製造方法。
【請求項9】
離型面とフィルムとの結合箇所に粘着テープで粘着する、ことを特徴とする請求項1に記載の負圧被膜による凍結砂型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結砂型の製造技術分野に関し、特に負圧被膜による凍結砂型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鋳造業界のエネルギー及び資源の消費が非常に大きく、木型/金型の型反転の製造は、鋳型の製造周期が長く、生産工程が多く、労働強度が大きく、製品の開発コストが高く、作業環境が悪いことなどの問題が存在する。伝統的な鋳造業界は、プロセスのグリーン化の突破及び変革が必要となり、製造業の省エネルギーと排出削減、及びクリーン化された持続可能な発展を促進する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
鋳造用凍結砂型とは、水を粘着剤として、各種の砂型の粒子を耐火骨材の1種とする新型の鋳型である。低温環境で水の凍結によって凍結砂素体を製造した後、切削成形原理に基づくデジタル化された金型なしでの鋳造成形技術によって凍結砂型の高速成形を実現する。しかし、注湯過程では、金属液の温度が高すぎると、凍結砂型中の水分が大量に蒸発し、砂型の強度が低下し、キャビティが変形しやすく、金属液の充填鋳型に不利であり、且つ凍結砂型のキャビティの表面が直接高温の金属液に接触し、瞬間的に発生した水蒸気が金属液に気泡を生成し、鋳物の表面品質を損ない、力学性能も影響され、深刻な場合、凍結砂型が注湯過程において早期に崩壊する。そのため、凍結砂型が注湯過程において崩壊しやすいという欠点を補い、高温の金属液が凍結砂型のキャビティ中に安定的に充填することを保証し、注湯過程で「触れるとすぐに崩壊する」という現象の発生を防止するとともに、鋳物の輪郭をはっきりさせ、寸法を正確にし、加工残量を少なくすることは、グリーンな鋳造業界の突破しようとする新たな方向である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するために、本発明は、負圧被膜による凍結砂型の製造方法を提供し、凍結砂型が注湯過程で崩壊しやすい欠点を補い、注湯過程で大量の水蒸気が発生することを防止する。また、砂型の側壁に予め抽気孔が確保され、造型及び注湯過程で連続的に真空引きすることにより、凍結砂型中の水蒸気を迅速に排出させることができ、鋳物に気孔を生じさせ、ピンホールの欠陥を減少させることが、グリーンな鋳造業界が突破しようとする新たな方向である。
【0005】
負圧被膜による凍結砂型の製造方法であって、以下のステップを含み、
ステップ1であって、デジタル化された金型なしでの鋳造成形技術によって、切削成形原理に基づき、低温加工環境で直接適量な水分が混入された凍結砂素体をデジタル化切削して凍結砂型を製造し、
ステップ2であって、製造された凍結砂型を砂型の寸法に適応する抽気砂箱中に固定し、キャビティの表面に1層の断熱塗料を塗り、
ステップ3であって、フィルムを軟化するまで加熱した後、断熱塗料が塗布された砂型キャビティの表面に被覆し、
ステップ4であって、砂型の外表面にバックフィルムを被覆して、砂箱を密閉させ、
ステップ5であって、真空ポンプを起動し、真空吸引力でフィルムを砂型に密着させ、砂型上、下箱が負圧被膜されて箱を閉じて全体の砂型を得る。
【0006】
さらに、凍結砂型に抽気孔が設けられ、抽気孔の製造は、凍結砂素体中に金属針を予め埋め、砂素体が初期凝固した際に当該金属針を抜き出して抽気孔を得、或いは、デジタル制御による穿孔技術を利用して凍結砂素体に抽気孔を加工する。
【0007】
さらに、砂型の砂箱は、真空ガス室付きの抽気砂箱であり、真空ポンプによって抽気孔及び濾過抽気管を組み合わせて抽気を行う。
【0008】
さらに、前記断熱塗料は、遮断型の保温断熱塗料であり、その主な材料は、エアロゲルなどである。
【0009】
さらに、膜被覆及び保圧過程において、真空度を0.03~0.04MPaに制御することができる。
【0010】
さらに、上記上箱と下箱を合わせて、湯口及びキャビティを有する全体の砂型を形成し、常温又は低温環境で直接注湯する時に、砂型を負圧状態(0.05~0.06MPaの真空度及び大きい抽気量)に保ち、抽気孔を通じて適時に注湯時に発生した水蒸気などのガスを抽出する。
【0011】
さらに、前記フィルムは、EVAプラスチックフィルム、LDPE(低密度ポリエチレンフィルム)及びポリエステルアミン繊維のうちの1種である。
【0012】
さらに、前記フィルムは、ヒータによって加熱軟化され、軟化温度は、70℃程度であり、その後、砂型のキャビティに敷設される。
【0013】
さらに、離型面とフィルムとの結合箇所に粘着テープで粘着し、落下した型砂が進入して砂が挟まれることなどの欠陥を防止する。
【0014】
さらに、本方法は、断熱塗料を塗ることで、凍結砂型のキャビティの表面が高温フィルムに破壊されないように保護することができるだけでなく、フィルムを粘着してそれを膜被覆の初期にキャビティの表面によく貼り合わせることができる。凍結砂型の注湯時に、主にフィルムが気化した後の残留物と砂型が一時的な遷移シェル層を形成して成形を維持する。
【0015】
好ましくは、塗料の代わりに、特殊砂(例えば、ブラウンコランダム)を用いる。100/200メッシュ程度のブラウンコランダム型の砂を選択し、70~100メッシュの普通型の砂に比べて、得られた砂型の硬度がより高く、且つ砂型の耐火性を向上させる。
【0016】
好ましくは、上型を製造するとき、湯口の周囲に少量の塗料を塗って、金属液による砂型へのフラッシング及び砂の接着欠陥を減少させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有益な効果は、以下の通りであり、
1.注湯過程で、フィルムは、瞬間的に高温の金属液と凍結砂型のキャビティの表面との直接的な接触を遮断する作用を果たし、フィルムが気化した後の残留物と砂型は、一時的な遷移シェル層を形成して成形を維持する。また、負圧注湯は、金属液の型充填の速度を加速し、金属液がキャビティの表面に急速に凝固して一定の強度を有する金属シェルを形成し、鋳物の密度、寸法の精度などを向上させる。
【0018】
2.フィルムは、高温の金属液と凍結砂型中の氷晶の接着橋との直接的な接触を遮断し、砂型の強度を保証し、注湯過程で大量の水蒸気が発生することを防止する。なお、砂型の側壁に抽気孔が予め確保し、造型及び注湯過程で連続的に真空引きすることにより、凍結砂型中の水蒸気は、急速に排出することができ、鋳物に気孔を生じさせ、ピンホールの欠陥を減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面及び具体的な実施形態を参照しながら,本発明をさらに説明するが,以下の具体的な実施形態は本発明を説明するためのものであって本発明の範囲を制限するものではないことを理解すべきである。なお、以下の説明において使用する「前」、「後」、「左」、「右」、「上」および「下」という用語は、図面の方向を指し、「内側」および「外側」という用語は、それぞれ特定の構成要素の幾何学的中心から離れる方向または離れる方向を指す。
【0021】
図1に示すように、本実施例に係る負圧被膜による凍結砂型の製造方法は、凍結砂素体に対してデジタル化加工成形を行うことにより、砂型の上、下箱を得、断熱塗料を塗ってフィルムを被覆し、抽気箱の真空引きにより、砂型のキャビティ及び外表面にそれぞれフィルム及びバックフィルムを被覆し、上下に箱を合わせて、湯口、キャビティ及び抽気孔を有する全体の砂型を形成し、砂型の負圧状態を保ち、常温又は低温環境で直接注湯する。
【0022】
具体的に以下のステップを含み、
ステップ1であって、デジタル化された金型なしでの鋳造成形技術により、切削成形原理に基づき、低温加工環境で直接適量の水分が混入された凍結砂素体をデジタル化切削して凍結砂型を製造する。本実施例では、100メッシュのブラウンコランダムを選択し、凍結砂素体は、質量分率4%の純水を含み、砂素体の側壁に金属針を予め埋め、―30℃の環境で凍結し、前記砂素体の初期凝固時に、前記金属針を抜き出す。
【0023】
ステップ2であって、製造された凍結砂型は、砂型の寸法に適応する抽気砂箱中に固定され、前記抽気砂箱に真空ガス室が付いており、真空ポンプにより抽気孔及び濾過抽気管を組み合わせて抽気し、キャビティの表面に1層の断熱塗料を塗り、前記断熱塗料の主な材料は、エアロゲルであり、それにより、キャビティが、熱による破壊及びフィルムの粘着を受けないように保護する。
【0024】
ステップ3であって、加熱軟化したフィルムを砂型キャビティに表面に被覆する。前記フィルムは、EVAプラスチックフィルムであり、EVAにおける酢酸ビニル(VA)の質量分率を14%~19%に制御する。
【0025】
前記フィルムは、ヒータによって加熱軟化され、軟化温度は、70℃程度であり、その後、砂型キャビティに敷設される。
【0026】
ステップ4であって、砂型の外表面にバックフィルムを被覆し、砂箱を密閉させる。離型面とEVAプラスチックフィルムとの結合箇所に粘着テープを用いて粘着し、操作が不適切であることで落下した砂によって砂が挟まれる欠陥及び箱間違いなどの問題を減少させる。
【0027】
ステップ5であって、真空ポンプを起動して、真空吸引力でフィルムを砂型に密着させ、砂型上、下箱を完成させる。膜被覆及び保圧過程で、真空度を0.03~0.04MPaに制御し、上、下箱を合わせた後、注湯過程で砂型の真空度を0.05~0.06MPaに制御する。
【0028】
以上の説明から分かるように、本発明の上記実施例は以下の技術的効果を奏することができる。本方法は、断熱塗料の代わりに特殊砂又は他の耐熱砂を用いることができる。その主な原理は、フィルムが気化した後の残留物と砂型が一時的な遷移シェル層を形成して成形を維持し、金属液がキャビティの表面に急速に凝固して一定の強度を有する1層の金属シェルを形成し、鋳物の密度、寸法の精度などを向上させる。なお、フィルムが高温の金属液と凍結砂型中の氷晶の接着橋の直接的な接触を遮断するため、砂型の強度を保護し、注湯過程で大量の水蒸気が発生することを防止するとともに、注湯過程で砂型を常に負圧を保つことを組み合わせて、生成した水蒸気は、迅速に排出することができ、金属液の型充填速度を加速し、鋳物の表面気孔などの欠陥を減少させる。
【0029】
本発明の解決手段に開示される技術的手段は上記実施形態に開示された技術的手段に限定されるものではなく,以上の技術的特徴を任意に組み合わせて構成される技術的解決手段を含む。