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特許7605543ワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法
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  • 特許-ワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/18 20060101AFI20241217BHJP
   B21B 38/08 20060101ALI20241217BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B21B37/18 110B
B21B38/08
B21C51/00 C
B21C51/00 N
【請求項の数】 6
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024093195
(22)【出願日】2024-06-07
(65)【公開番号】P2024167173
(43)【公開日】2024-12-03
【審査請求日】2024-09-02
(31)【優先権主張番号】202310497952.8
(32)【優先日】2023-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521158923
【氏名又は名称】燕山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】彭 艶
(72)【発明者】
【氏名】王 瑾
(72)【発明者】
【氏名】趙 向陽
(72)【発明者】
【氏名】向 小利
(72)【発明者】
【氏名】侯 新想
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲チェン▼
(72)【発明者】
【氏名】▲シン▼ 建康
(72)【発明者】
【氏名】費 佳鵬
(72)【発明者】
【氏名】姜 海秋
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-361814(JP,A)
【文献】特表2018-532597(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107983781(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第115625216(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延ワークロールの軸受台に配置された加速度センサにより、圧延工程における圧延ワークロールの原始振動加速度信号を取得することと、
前記圧延ワークロールの原始振動加速度信号をノイズ低減処理し、圧延ワークロールのノイズ低減後の振動加速度信号を取得することと、
前記ノイズ低減後の振動加速度信号を数値積分して、圧延ワークロールの振動変位信号を取得することと、
圧延ワークロールの振動変位信号と圧延機出口における帯板の板厚との関係に基づいて、圧延機出口における帯板の板厚の変動データを取得することと、
前のスタンドの前記圧延機出口における帯板の板厚の変動データに基づいて、次のスタンドのロールギャップ調整量を算出し、算出されたロールギャップ調整量に応じて圧延機の圧下制御システムによりロールギャップ調整を実施して、板厚制御を行うことと、を含み、
前記圧延ワークロールの振動変位信号と圧延機出口における帯板の板厚との関係に基づいて、圧延機出口における帯板の板厚の変動データを取得することは、以下のステップを含み、
圧延機の跳ね返り方程式により、圧延工程での圧延機出口における帯板の板厚値を得て、圧延工程での圧延機出口における帯板の板厚値が以下の式に従って算出され、
h=S +s(t)
ここで、hは、圧延工程での圧延機出口における帯板の板厚値であり、S は、圧延機の負荷時のロールギャップ値であり、s(t)は、圧延ワークロールの振動変位であり、
圧延機の負荷時のロールギャップは、以下の式により算出され、
=S′+P/C′
ここで、S′は、圧延機の無負荷時のロールギャップであり、Pは、圧延機の予め設定された圧延力であり、C′は、圧延機のベースの総剛性であり、
圧延機出口における帯板の板厚設定値と実際の圧延作動における板厚値に基づいて、以下の式に従って、実際の圧延工程における帯板の板厚の変動量を算出し、
Δh=h -h
ここで、Δhは、実際の圧延作動における帯板の板厚の変動量であり、h は、圧延機出口における帯板の板厚設定値であり、hは、実際の圧延作動における帯板の板厚値であり、
前記前のスタンドの前記圧延機出口における帯板の板厚の変動データに基づいて、次のスタンドのロールギャップ調整量を算出し、算出されたロールギャップ調整量に応じて圧延機の圧下制御システムによりロールギャップ調整を実施することは、以下のステップを含み、
圧延機の実際の圧延作動における帯板の板厚の変動量に基づいて、以下の式に従って、ロールギャップ調整量を算出し、
ΔS=Δh・Q/C′
ここで、ΔSは、ロールギャップ調整量であり、Δhは、帯板の板厚の変動値であり、Qは、帯板の塑性係数であり、C′は、圧延機のベースの総剛性であり、
連続圧延機ユニットの圧延機ロールギャップ間の距離と帯板の運動速度に基づいて、以下の式に従って、圧延機制御システムによるロールギャップ調整の時間遅延量を算出し、
Δt=L/V
ここで、Δtは、圧延機によるロールギャップ調整の時間遅延量であり、Lは、連続圧延機ユニットのロールギャップ間の距離であり、Vは、スタンド間の帯板の運動速度であり、
Δtの時間遅延後に、圧延機の圧下システムによりロールギャップ調整を実施する、ことを特徴とするワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【請求項2】
圧延工程における圧延ワークロールの原始振動加速度信号を取得することは、
圧延工程が開始される前に、磁気基盤付きの加速度センサを圧延ワークロールの垂直方向に取り付け、圧延工程が開始されると、前記加速度センサが圧延ワークロールの原始垂直方向振動加速度信号を収集することを含む、ことを特徴とする請求項1に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【請求項3】
前記加速度センサは、ICP一軸加速度センサであり、感度は250である、ことを特徴とする請求項1に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【請求項4】
前記圧延ワークロールの原始振動加速度信号をノイズ低減処理して、圧延ワークロールのノイズ低減後の振動加速度信号を取得することは、
ウェーブレット解析法を用いて、圧延ワークロールの振動加速度信号をノイズ低減処理することを含む、ことを特徴とする請求項1に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【請求項5】
ウェーブレット解析法を用いて、圧延ワークロールの振動加速度信号をノイズ低減処理することは、
前記圧延ワークロールの前記原始振動加速度信号について、1つのウェーブレット基底を選択して、1つのウェーブレット分解の階層Nを決定し、前記原始振動加速度信号をN層ウェーブレット分解してウェーブレット変換を行うことと、
高頻度のウェーブレット係数を閾値処理し、閾値を1つ保留し、前記ウェーブレット係数が前記閾値より大きい場合、圧延ワークロールの振動加速度信号により制御され、前記ウェーブレット係数が前記閾値より小さい場合、ノイズにより制御され、低頻度のウェーブレット係数を保留し、ハード閾値方法を用いて第1~第N層の高頻度係数ごとにノイズ低減処理を行うことと、
ウェーブレット分解により得られた低頻度係数と閾値ノイズ低減処理後の第1~第N層の高頻度係数を逆ウェーブレット変換して再構成して、ノイズ低減後の実際の圧延ワークロールの振動加速度信号を得ることと、を含む、ことを特徴とする請求項4に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【請求項6】
前記ノイズ低減後の振動加速度信号を数値積分して、圧延ワークロールの振動変位信号を取得することは、
台形積分法により前記ノイズ低減後の圧延ワークロールの振動加速度信号を一次積分処理して、圧延ワークロールの振動速度信号を得ることと、
前記圧延ワークロールの振動速度信号を一次積分処理して、圧延ワークロールの振動変位信号を得ることと、を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯圧延機の板厚自動制御の技術分野に関して、特にワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空宇宙、国防軍需、船舶、自働車、架橋工事等の産業の発展に伴って、金属帯板の板厚の精度は、帯板製品にとっての最も重要な品質指標の1つであり、下流生産ではその精度に対する要求がより厳しい。
【0003】
一般に、熱間連続圧延機の板厚自動制御システムには、フィードフォワード自動利得制御(Automatic Generation Control,AGC)、圧力AGC、モニタAGCの3つの板厚制御方法及びその他の補償方法が含まれる。そのうち、熱間連続圧延機ユニットの通常のフィードフォワードAGCの制御方法は主に塑性係数フィードフォワードAGCで、帯板の入口スタンドにおける硬度分布により測定し、下流スタンドのロールギャップを調整することで、供給された材料の硬度変化による板厚の偏差を補正し、板厚制御全体の精度を向上させる。
【0004】
ところで、フィードフォワードAGCには固有の欠陥があり、制御効果は帯板塑性係数の算出精度に依存するため、上流スタンド出口の帯鋼の厚さの変動を直接に反映できず、下流スタンドでのロールギャップ調整を行うことができない。帯板の圧延規格がますます薄くなり、帯板の強度が高くなるにつれて、帯板圧延機に深刻な振動問題が発生し、帯板の板厚精度に大きく影響しているため、既存の熱間連続圧延機ユニットのフィードフォワード厚さAGC制御方法では、各スタンド入口の帯板厚さが、圧延工程の予め設定された厚さ基準を満たすことができず、最終的に製品の板厚精度が要求を満たさなくなり、さらには生産の過程で鋼帯が切れたり、鋼が積上げられたりして、装備と人身の安全を損なう生産事故を引き起こす。
【0005】
従来技術では、入口板厚計や入口圧延速度センサなどの計測装置により、オンライン上で工程情報を測定することがあるが、この方法では、設置された設備によりスタンド間の帯板の板厚変動を測定することができない。また、各スタンドの間に板厚計を設置することによって、スタンド間の帯板の板厚変動を測定することもあるが、この方法で測定された板厚変動は、時間遅延があり、圧延ワークロールが振動する場合の板厚変動をタイムリーで正確に反映できないため、下流スタンドが板厚変動をタイムリーに調整することができなくなり、帯板製品の厚さ欠陥を引き起こす。また、板厚計は高価でメンテナンスが難しいため、製造メーカに高い使用コストやメンテナンスコストをもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術における低コストで熱間連続圧延機ユニットの圧延帯鋼の厚さの変動を制御することができないとの技術的課題に鑑みてなされたもので、ワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の技術的手段は、以下の通りである。
【0008】
本発明の一態様であるワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法は、
圧延ワークロールの軸受台に配置された加速度センサにより、圧延工程における圧延ワークロールの原始振動加速度信号を取得することと、
圧延ワークロールの原始振動加速度信号をノイズ低減処理し、圧延ワークロールのノイズ低減後の振動加速度信号を取得することと、
数値積分することで、圧延ワークロールの振動変位信号を取得することと、
圧延ワークロールの振動変位信号と圧延機出口における帯板の板厚との関係に基づいて、圧延機出口における帯板の板厚の変動信号を取得することと、
前のスタンドの帯板出口における帯板の板厚の変動データに基づいて、次のスタンドのロールギャップ調整量を算出し、算出されたロールギャップ調整量に基づいて、圧延機の圧下制御システムによりロールギャップの調整を実施して、板厚制御を行うことと、を含む。
【0009】
さらに、圧延工程における圧延ワークロールの振動加速度信号を取得することは、圧延工程が開始される前に、磁気基盤付きの加速度センサを圧延ワークロールの軸受台に垂直方向に取り付け、圧延工程が開始されると、圧延ワークロールの原始の垂直方向振動加速度信号を取得することを含む。
【0010】
さらに、圧延ワークロールの振動加速度信号をノイズ低減処理し、圧延ワークロールのノイズ低減後の振動加速度信号を取得することは、ウェーブレット解析法を用いて、圧延ワークロールの振動加速度信号をノイズ低減処理することを含む。具体的には、
圧延ワークロールの原始振動加速度信号をウェーブレット変換し、即ち、1つのウェーブレット基底を選択して一つのウェーブレット分解の階層Nを決定し、信号をN層ウェーブレット分解し、
高頻度部分のウェーブレット係数を閾値処理し、適当な閾値を1つ保留し、ウェーブレット係数が該閾値より大きい場合、圧延ワークロールの振動加速度信号により制御され、該閾値より小さい場合、ノイズにより制御されると判断し、低頻度のウェーブレット係数を保留し第1~第N層の高頻度係数ごとにハード閾値方法を用いてノイズ低減処理を行い、
逆変換を行い、実際の圧延ワークロールの振動加速度信号を再構成し、即ち、ウェーブレット分解により得られた低頻度係数と閾値のノイズ低減処理後の第1層~第N層の高頻度係数を逆ウェーブレット変換して再構成して、ノイズ低減後の実際の圧延ワークロールの振動加速度信号を得る。
【0011】
さらに、二次積分手法を用いて圧延ワークロールの振動変位信号を取得することは、以下のステップを含み、
台形積分法を用いて、以下の式に従って、ノイズ低減後の実際の圧延ワークロールの振動加速度信号を一次積分処理して、圧延ワークロールの振動速度信号を得て、
【数1】
ここで、a(t)は、ノイズ低減処理後の圧延ワークロールの実際の振動加速度信号であり、v(t)は、圧延ワークロールの振動速度信号であり、aは、振動加速度信号直流量であり、aは、振動速度信号直流量であり、
以下の式に従って、得られた圧延ワークロール振動速度信号を一次積分処理し、圧延ワークロールの振動変位信号を得て、
【数2】
ここで、v(t)は、圧延ワークロールの振動速度信号であり、s(t)は、圧延ワークロールの振動変位信号であり、aは、振動加速度信号直流量であり、aは、振動速度信号直流量であり、aは、振動変位信号直流量である。
【0012】
さらに、圧延ワークロールの振動変位信号と圧延機出口における帯板の板厚との関係に基づいて、圧延機出口における帯板の板厚の変動データを取得することは、以下のステップを含み、
圧延機の跳ね返り方程式により、以下の式に従って、圧延工程での圧延機出口における帯板の板厚値を算出し、
h=S+s(t)
ここで、hは、圧延工程での圧延機出口における帯板の板厚値であり、Sは、圧延機の負荷時のロールギャップ値であり、s(t)は、圧延ワークロールの振動変位であり、
圧延機の負荷時のロールギャップは、以下の式により、算出され、
=S′+P/C′
ここで、S′は、圧延機の無負荷時のロールギャップであり、Pは、圧延機の予め設定された圧延力であり、C′は、圧延機のベースの総剛性であり、
圧延機出口における帯板の板厚設定値と実際の圧延作動における帯板の板厚値に基づいて、以下の式に従って、実際の圧延工程における帯板の板厚の変動量を算出し、
Δh=h-h
ここで、Δhは、実際の圧延工程における帯板の板厚の変動量であり、hは、圧延機出口における帯板の板厚設定値であり、hは、実際の圧延作動における帯板の板厚値である。
【0013】
さらに、前のスタンドの帯板出口における帯板の板厚の変動信号に基づき、次のスタンドのロールギャップ調整量を算出し、算出されたロールギャップ調整量に応じて、圧延機の圧下制御システムにより、ロールギャップの調整を実施して、板厚制御を行うことは、以下のステップを含み、
圧延機の実際の圧延作動における帯板の板厚の変動量に基づいて、以下の式に従って、ロールギャップ調整量を算出し、
ΔS=Δh・Q/C′
ここで、ΔSは、ロールギャップ調整量であり、Δhは、帯板の板厚の変動値であり、Qは、帯板の塑性係数であり、C′は、圧延機のベースの総剛性であり、
連続圧延機ユニットの圧延機ロールギャップ間の距離と帯板の運動速度に基づいて、以下の式に従って、圧延機制御システムによるロールギャップ調整の時間遅延量を算出し、
Δt=L/V
ここで、Δtは、圧延機によるロールギャップ調整の時間遅延量であり、Lは、連続圧延機ユニットの圧延機のロールギャップ間の距離であり、Vは、スタンド間の帯板の運動速度であり、
Δtの時間遅延後に、圧延機の圧下システムにより、ロールギャップ調整を実施する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は従来技術と比べて以下のメリットを有する。
【0015】
本発明では、ワークロール振動試験分析の手法を用いて実際圧延作動での前のスタンド出口における帯板の板厚の変動値を算出し、算出された値を次のスタンドでのフィードフォワードAGCの算出に用いる。このようなワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワードの板厚制御方法により、圧延ワークロールの振動時の各スタンド間の帯板の板厚変動の数値を得て、その数値をフィードフォワードAGCの制御過程に用いることで、本発明は、圧延機が振動する場合の帯板の板厚変動が製品帯板の板厚の偏差に与える影響を大幅に取り除くことができ、設備を増設せずに帯板の製品の品質を確保し、全巻帯鋼の長手方向の製品厚さ精度向上と圧延安定性の確保に積極的な意義がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の実施例または従来技術の技術手段をより一層明らかに説明するために、以下、実施例または従来技術に対する説明における図面について、簡単に説明する。以下の図面は本発明の実施例に関したものであり、当業者にとって、創造的な労働を行うことなく、これらの図面に基づいて、他の図面が得られることは明らかである。
【0017】
図1】本発明の実施例におけるワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワードの板厚制御方法のフローチャートである。
図2】本発明の実施例におけるノイズ低減前の圧延ワークロールの原始振動加速度信号を示す模式図である。
図3】本発明の実施例におけるノイズ低減後の圧延ワークロールの実際振動加速度信号を示す模式図である。
図4】本発明の実施例における圧延ワークロールの振動変位信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る技術手段をより明らかにするために、以下、本発明の実施例における図面を参照しながら、本発明の実施例における技術手段を明らか且つ完全に説明し、説明される実施例が全ての実施例ではなく、本発明の一部の実施例に過ぎないことはいうまでもない。当業者が本発明における実施例に基づいて創造的労動を行うことなく得た他の実施例は、全て本発明が保護する範囲に含まれるものとする。
【0019】
なお、本発明の明細書および特許請求の範囲、および上述の図面における「第1」、「第2」等の用語は、類似の対象を区別するためのものであり、特定の順序または優先順位を説明するためのものではない。本明細書に記載された本発明の実施例が、本明細書に図示または記載された以外の順序で実施できるように、そのように使用されたデータは、適当な状況でお互いに交換できることが理解されるべきである。さらに、「含む」および「有する」の用語及びそれらの変形は、非排他的な包括をカバーすることを意図し、例えば、一連のステップまたはユニットを含むプロセス、方法、システム、製品または装置は、明らかに記載されたステップまたはユニットに限定される必要はなく、明らかに記載されていない、またはその他のプロセス、方法、製品または装置に固有の他のステップまたは装置を含むことができる。
【0020】
図1に示すように、本発明は、ワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法を提供し、以下のステップを含む。
【0021】
ステップ1:圧延ワークロールの軸受台に加速度センサが配置され、その加速度センサにより、圧延工程における圧延ワークロールの原始振動加速度信号を取得する。
【0022】
具体的には、磁気基盤付きの一軸加速度センサにより、圧延工程が開始される前にセンサを圧延ワークロールの軸受台の垂直位置に取り付ける。圧延工程が開始されると、加速度センサ及び振動信号取得部により、圧延ワークロールの原始振動加速度信号A(t)を取得し、加速度センサは、ICP一軸加速度センサで、感度は250である。振動信号取得部のサンプリング周波数は1000Hzである。原始振動加速度信号は、図2に示されている。
【0023】
ステップ2:圧延ワークロールの原始振動加速度信号をノイズ低減処理し、圧延ワークロールのノイズ低減後の実際の振動加速度信号a(t)を得る。
【0024】
ステップ2は、具体的に、以下のステップを含む。
【0025】
ステップ2.1:ウェーブレット解析法を用いて圧延ワークロールの原始振動加速度信号をウェーブレット分解し、「db4」ウェーブレット基底を選択し、分解階層を5層とし、即ち原始振動加速度信号を5層ウェーブレット分解する。
【0026】
ステップ2.2:高頻度部分のウェーブレット係数を閾値処理し、以下の式に従い、閾値を0.3として選択する。
【数3】
ここで、Nは、信号長であり、σは、ノイズ信号の標準偏差であり、ノイズ信号の標準偏差は、以下の式に従って算出され、
【数4】
ここで、Nは、信号長であり、Xは、信号における第n点であり、μは、信号サンプルの平均値である。
【0027】
ウェーブレット係数が該閾値より大きい場合、圧延ワークロールの振動加速度信号により制御され、該閾値より小さい場合、ノイズにより制御されると判断し、低頻度のウェーブレット係数を保留し、第1~第5層の高頻度係数ごとにハード閾値の方法を用いてノイズ低減処理を行う。
【0028】
ステップ2.3:逆変換を行い、圧延ワークロールの実際の振動加速度信号を再構成し、即ち、ウェーブレット分解により得られた低頻度係数とハード閾値のノイズ低減処理後の第1~第5層の高頻度係数を逆ウェーブレット変換して再構成して、ノイズ低減後の圧延ワークロールの実際の振動加速度信号を得る。図3に、実際の加速度信号が示されている。
【0029】
ステップ3:積分方法を用いて、圧延ワークロールの振動変位データを得る。
【0030】
ステップ3は、具体的に、以下のステップを含む。
【0031】
ステップ3.1:台形積分法を用いてノイズ低減後の実際の圧延ワークロールの振動加速度信号を一次積分処理し、図4に示すように、圧延ワークロールの振動速度信号を得て、計算式は、以下の通りである。
【数5】
ここで、a(t)は、ノイズ低減処理後の圧延ワークロールの実際の振動加速度信号であり、v(t)は、圧延ワークロールの振動速度信号であり、aは、振動加速度信号直流量であり、aは、振動速度信号直流量である。
【0032】
ステップ3.2:台形積分法を用いて、圧延ワークロールの振動速度信号を一次積分処理し、圧延ワークロール振動変位信号を得て、計算式は、以下の通りである。
【数6】
ここで、v(t)は、圧延ワークロールの振動速度信号であり、s(t)は、圧延ワークロールの振動変位信号であり、aは、振動加速度信号直流量であり、aは、振動速度信号直流量であり、aは、振動変位信号直流量である。
【0033】
ステップ4:圧延ワークロールの振動変位データと圧延機出口における帯板の板厚との関係に基づいて、圧延機出口における帯板の板厚変動データを得る。
【0034】
ステップ4は、具体的に、以下のステップを含む。
【0035】
ステップ4.1:圧延機跳ね返り方程式により、圧延ワークロールが振動する場合の帯板の板厚値を得て、計算式は、以下の通りである。
h=S+x(t)
ここで、hは、実際の圧延作動における帯板の板厚値であり、Sは、圧延機の負荷時のロールギャップ値であり、x(t)は、圧延ワークロールの振動変位である。
【0036】
そのうち、圧延機の負荷時のロールギャップSは、以下の式に従い、算出される。
=S′+P/C′
ここで、S′は、圧延機の無負荷時のロールギャップであり、Pは、圧延機の予め設定された圧延力であり、C′は、圧延機のベースの総剛性である。
【0037】
ステップ4.2:圧延機制御システムにより設定された帯板の板厚設定値hとステップ4.1で得られた実際の圧延作動における板厚hに基づいて、実際の圧延作動における帯板の板厚の変動値Δhを求め、計算式は、以下の通りである。
Δh=h-h
ここで、Δhは、実際の圧延作動における帯板の板厚の変動量であり、hは、圧延機出口における帯板の板厚設定値であり、hは、実際圧延作動における帯板の板厚値である。
【0038】
ステップ5:前のスタンドの帯板出口における帯板の板厚の変動データに基づいて、次のスタンドのロールギャップ調整量を算出し、算出されたロールギャップ調整量に応じて、圧延機の圧下制御システムによりロールギャップ調整を実施して、板厚制御を行う。
【0039】
ステップ5は、具体的に、以下のステップを含む。
【0040】
ステップ5.1:圧延機の実際作動における帯板の板厚の変動量に基づき、以下の式に従いロールギャップ調整量を算出する。
ΔS=Δh・Q/C′
ここで、ΔSは、ロールギャップ調整量であり、Δhは、帯板の板厚の変動量であり、Qは、帯板の塑性係数であり、C′は、圧延機のベースの総剛性である。
【0041】
ステップ5.2:圧延機ユニットの圧延機ロールギャップ間の距離及び帯板の運動速度に応じて、以下の式に従って、圧延機制御システムによるロールギャップ調整の時間遅延量を算出する。
Δt=L/V
ここで、Δtは、圧延機によるロールギャップ調整の時間遅延量であり、Lは、連続圧延機ユニットの圧延機ロールギャップ間の距離であり、Vは、スタンド間の帯板の運動速度である。
【0042】
ステップ5.3:Δtの時間遅延後に、圧延機の圧下システムによりロールギャップ調整を実施し、板厚差を取り除く。
【0043】
上記実施例では、ワークロール振動試験分析の手法を用いて実際圧延作動での前のスタンド出口における帯板の板厚の変動値を算出し、算出された該変動値を次のスタンドでのフィードフォワードAGCの算出に用いる。このようなワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワードの板厚制御方法により、圧延ワークロールの振動時の各スタンド間の帯板の板厚の変動値を得て、その変動値をフィードフォワードAGCの制御過程に用いることで、本発明は、圧延機が振動する場合の板厚変動が製品帯板の板厚の偏差に与える影響を大幅に取り除くことができ、設備を増設せずに帯板の製品の品質を確保し、全巻帯鋼の長手方向の製品厚さ精度向上と圧延安定性の確保に積極的な意義がある。
【0044】
最後に以下の通り、説明すべきである。上記の各実施例は、本発明の技術手段に対する説明にすぎなく、技術手段を限定するものではない。本発明について、上述した各実施例を参照して詳しく説明したが、上述した各実施例に記載の技術手段を修正し、またはその中の一部や全部の技術的特徴を同等切替してもよく、これら修正や切替を行っても、対応する技術手段の本質は本発明の実施例における技術手段の範囲から逸脱することはないとのことは、当業者に理解されよう。
【0045】
(付記)
(付記1)
圧延ワークロールの軸受台に配置された加速度センサにより、圧延工程における圧延ワークロールの原始振動加速度信号を取得することと、
前記圧延ワークロールの原始振動加速度信号をノイズ低減処理し、圧延ワークロールのノイズ低減後の振動加速度信号を取得することと、
前記ノイズ低減後の振動加速度信号を数値積分して、圧延ワークロールの振動変位信号を取得することと、
圧延ワークロールの振動変位信号と圧延機出口における帯板の板厚との関係に基づいて、圧延機出口における帯板の板厚の変動データを取得することと、
前のスタンドの前記圧延機出口における帯板の板厚の変動データに基づいて、次のスタンドのロールギャップ調整量を算出し、算出されたロールギャップ調整量に応じて圧延機の圧下制御システムによりロールギャップ調整を実施して、板厚制御を行うことと、を含む、ことを特徴とするワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【0046】
(付記2)
圧延工程における圧延ワークロールの原始振動加速度信号を取得することは、
圧延工程が開始される前に、磁気基盤付きの加速度センサを圧延ワークロールの垂直方向に取り付け、圧延工程が開始されると、前記加速度センサが圧延ワークロールの原始垂直方向振動加速度信号を収集することを含む、ことを特徴とする付記1に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【0047】
(付記3)
前記加速度センサは、ICP一軸加速度センサであり、感度は250である、ことを特徴とする付記1に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【0048】
(付記4)
前記圧延ワークロールの原始振動加速度信号をノイズ低減処理して、圧延ワークロールのノイズ低減後の振動加速度信号を取得することは、
ウェーブレット解析法を用いて、圧延ワークロールの振動加速度信号をノイズ低減処理することを含む、ことを特徴とする付記1に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【0049】
(付記5)
ウェーブレット解析法を用いて、圧延ワークロールの振動加速度信号をノイズ低減処理することは、
前記圧延ワークロールの前記原始振動加速度信号について、1つのウェーブレット基底を選択して、1つのウェーブレット分解の階層Nを決定し、前記原始振動加速度信号をN層ウェーブレット分解してウェーブレット変換を行うことと、
高頻度のウェーブレット係数を閾値処理し、閾値を1つ保留し、前記ウェーブレット係数が前記閾値より大きい場合、圧延ワークロールの振動加速度信号により制御され、前記ウェーブレット係数が前記閾値より小さい場合、ノイズにより制御され、低頻度のウェーブレット係数を保留し、ハード閾値方法を用いて第1~第N層の高頻度係数ごとにノイズ低減処理を行うことと、
ウェーブレット分解により得られた低頻度係数と閾値ノイズ低減処理後の第1~第N層の高頻度係数を逆ウェーブレット変換して再構成して、ノイズ低減後の実際の圧延ワークロールの振動加速度信号を得ることと、を含む、ことを特徴とする付記4に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【0050】
(付記6)
前記ノイズ低減後の振動加速度信号を数値積分して、圧延ワークロールの振動変位信号を取得することは、
台形積分法により前記ノイズ低減後の圧延ワークロールの振動加速度信号を一次積分処理して、圧延ワークロールの振動速度信号を得ることと、
前記圧延ワークロールの振動速度信号を一次積分処理して、圧延ワークロールの振動変位信号を得ることと、を含む、ことを特徴とする付記1に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【0051】
(付記7)
圧延ワークロールの振動変位信号と圧延機出口における帯板の板厚との関係に基づいて、圧延機出口における帯板の板厚の変動データを取得することは、以下のステップを含み、
圧延機の跳ね返り方程式により、圧延工程での圧延機出口における帯板の板厚値を得て、圧延工程での圧延機出口における帯板の板厚値が以下の式に従って算出され、
h=S+s(t)
ここで、hは、圧延工程での圧延機出口における帯板の板厚値であり、Sは、圧延機の負荷時のロールギャップ値であり、s(t)は、圧延ワークロールの振動変位であり、
圧延機の負荷時のロールギャップは、以下の式により算出され、
=S′+P/C′
ここで、S′は、圧延機の無負荷時のロールギャップであり、Pは、圧延機の予め設定された圧延力であり、C′は、圧延機のベースの総剛性であり、
圧延機出口における帯板の板厚設定値と実際の圧延作動における板厚値に基づいて、以下の式に従って、実際の圧延工程における帯板の板厚の変動量を算出し、
Δh=h-h
ここで、Δhは、実際の圧延作動における帯板の板厚の変動量であり、hは、圧延機出口における帯板の板厚設定値であり、hは、実際の圧延作動における帯板の板厚値である、ことを特徴とする付記1に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
【0052】
(付記8)
前のスタンドの前記圧延機出口における帯板の板厚の変動データに基づいて、次のスタンドのロールギャップ調整量を算出し、算出されたロールギャップ調整量に応じて圧延機の圧下制御システムによりロールギャップ調整を実施することは、以下のステップを含み、
圧延機の実際の圧延作動における帯板の板厚の変動量に基づいて、以下の式に従って、ロールギャップ調整量を算出し、
ΔS=Δh・Q/C′
ここで、ΔSは、ロールギャップ調整量であり、Δhは、帯板の板厚の変動値であり、Qは、帯板の塑性係数であり、C′は、圧延機のベースの総剛性であり、
連続圧延機ユニットの圧延機ロールギャップ間の距離と帯板の運動速度に基づいて、以下の式に従って、圧延機制御システムによるロールギャップ調整の時間遅延量を算出し、
Δt=L/V
ここで、Δtは、圧延機によるロールギャップ調整の時間遅延量であり、Lは、連続圧延機ユニットのロールギャップ間の距離であり、Vは、スタンド間の帯板の運動速度であり、
Δtの時間遅延後に、圧延機の圧下システムによりロールギャップ調整を実施する、ことを特徴とする付記1に記載のワークロール振動試験分析に基づく熱間連続圧延機のフィードフォワード板厚制御方法。
図1
図2
図3
図4