(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】消火器具及び消火設備
(51)【国際特許分類】
A62C 31/00 20060101AFI20241217BHJP
A62C 35/58 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
A62C31/00
A62C35/58
(21)【出願番号】P 2020039039
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019211175
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】梅原 寛
(72)【発明者】
【氏名】松熊 秀成
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-166598(JP,U)
【文献】特開昭57-017666(JP,A)
【文献】実開平02-121052(JP,U)
【文献】実開昭56-114855(JP,U)
【文献】実開昭54-140598(JP,U)
【文献】特開2000-317005(JP,A)
【文献】特開2005-160985(JP,A)
【文献】登録実用新案第3119462(JP,U)
【文献】実開平05-007252(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 8/06
A62C 31/05
A62C 35/58
A62C 37/44
A62C 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非展開状態から展開可能なシートと、
前記シートに設け
られた消火剤流通経路と、
前記消火剤流通経路への消火剤の入口となる消火剤供給口と、
前記消火剤供給口から消火剤流通経路に供給された消火剤をシートの少なくとも片面側に放出する複数の放出口と、
を備え
、
防護区画の火災発生時に、前記シートを前記防護区画の側面に沿うように上方から下方へ展開し、展開した前記シートの前記消火剤流通経路に前記消火剤を供給して前記放出口から当該防護区画内へ放出することを特徴とする消火器具。
【請求項2】
請求項1記載の消火器具
であって、
前記放出口は、前記消火剤流通経路に設けられたことを特徴とする消火器具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の消火器具
であって、
前記シートは、通常時は防護区画の
上部の所定位置に
一端辺が固定された状態で非展開状態に保持
され、
前記火災発生時に
、前記保持
が解除
され、他端辺が自重により落下して、上方から下方へ展開
することを特徴とする消火器具。
【請求項4】
請求項1乃至3
の何れかに記載の消火器具
であって、
前記消火剤の供給を受けて前記シートの非展開状態の保持を解除して
前記シートを展開するシート展開手段を
備えたことを特徴とする消火器具。
【請求項5】
請求項1
乃至4の何れかに記載の消火器具
であって、
前記シート
は、展開状態で
前記防護区画の
少なくとも1側面の開口部を塞ぐように設置
されたことを特徴とする消火器具。
【請求項6】
請求項1乃至5
の何れかに記載の消火器具
であって、
前記シートは、前記消火剤流通経路を形成すると共に
前記消火剤供給口と前記放出口を
が配置
された潰し変形自在なシート配管を有し、
前記シート配管
は、2枚のカバーシートの間に配置
されたことを特徴とする消火器具。
【請求項7】
請求項1乃至5
の何れかに記載の消火器具
であって、
前記シートは、第1カバーシート
及び第2カバーシートで構成された前記2枚のカバーシートの間に第1防水シート
及び第2防水シート
が配置され、
前記第1防水シートと第2防水シートの間に、消火剤供給口と前記放出口を配置した前記消火剤流通経路
が形成
されるように、前記第1カバーシート、第1防水シート、第2防水シート及び第2カバーシート
が積層した状態で縫合
されたことを特徴とする消火器具。
【請求項8】
請求項6
又は7記載の消火器具
であって、前記カバーシートは、防火性、耐火性、耐熱性、遮熱性、遮炎性、遮煙性
又は難燃性を有する布状体
により形成されたことを特徴とする消火器具。
【請求項9】
請求項1乃至8
の何れかに記載の消火器具
であって、前記消火剤を前記シートの内部に流出して前記シートを濡らす湿潤手段を備えたことを特徴とする消火器具。
【請求項10】
請求項1乃至9
の何れかに記載の消火器具
であって、
複数の前記放出口を並べた放出口列要素に対し、前記放出口列要素の両端側から前記消火剤を供給するように前記消火剤流通経路
が配置
されたことを特徴とする消火器具。
【請求項11】
請求項
3乃至10
の何れかに記載の消火器具
であって、
前記防護区画の開口部、壁面
又は天井面の少なくとも何れかに設置
されたことを特徴とする消火器具。
【請求項12】
請求項1乃至11
の何れかに記載の消火器具
であって、
前記消火剤流通経路の所定位置に、前記消火剤流通経路に供給される消火剤を一時的に滞留して消火剤供給圧力の上昇を所定以下とする圧力緩衝手段を
備えたことを特徴とする消火器具。
【請求項13】
請求項12記載の消火器具
であって、
前記消火剤供給口に、消火剤供給圧力の上昇を所定以下とする第2の圧力緩衝手段を
備えたことを特徴とする消火器具。
【請求項14】
請求項1乃至13
の何れかに記載の消火器具を用いた消火設備
であって、
前記消火器具へ消火剤を供給する消火剤配管と、
前記消火剤配管へ水道水を供給する水道配管と、
を備え、
前記消火剤配管の一端側
が前記消火器具の前記消火剤供給口に接続
され、
前記消火剤配管の他端側
が遠隔制御または手動により配管流路を開閉する配管開閉手段を介して前記水道配管に接続
され、
前記火災発生時に
、前記水道配管からの水道水を前記消火剤供給口に供給して前記放出口から防護区画内へ放出することを特徴とする消火設備。
【請求項15】
請求項1乃至13
の何れかに記載の消火器具を用いた消火設備
であって、
前記消火器具へ消火剤を供給する消火剤配管と、
前記消火剤配管へ消火剤を供給する消火剤供給器具と、
を備え、
前記消火剤配管の一端側
が前記消火器具の前記消火剤供給口に接続
され、
前記消火剤配管の他端側
が前記消火剤供給器具に接続
され、
前記火災発生時に
、前記消火剤供給器具からの消火剤を前記消火剤供給口に供給して前記消火器具の前記放出口から防護区画内へ放出することを特徴とする消火設備。
【請求項16】
請求項1乃至13
の何れかに記載の消火器具を用いた消火設備
であって、
前記消火器具に消火剤を供給する消火剤配管と、
前記消火剤配管へ消火剤を供給する消火剤供給器具と、
前記消火剤配管へ水道水を供給する水道配管と、
を備え、
前記消火剤配管の一端側
が前記消火器具の前記消火剤供給口に接続
され、
前記消火剤配管の他端側
が遠隔制御または手動により配管流路を開閉する配管開閉手段を介して前記水道配管に接続
され、
前記消火剤配管の一端側と前記配管開閉手段との間から分岐した配管に、前記消火剤配管側から前記消火剤供給器具側への水道水の逆流を防止する逆流防止手段を介して消火剤供給器具
が接続
され、
前記火災発生時に
、前記消火剤供給器具からの消火剤または前記水道配管からの水道水を前記消火剤供給口に供給して前記消火器具の前記放出口から防護区画内へ放出することを特徴とする消火設備。
【請求項17】
請求項16記載の消火設備であって、
前記火災発生時に、前記配管開閉手段
が閉状態
で前記消火剤供給器具からの消火剤
が前記シートの前記放出口から放出
され、前記消火剤供給器具からの消火剤の放出後に、前記配管開閉手段が
手動により開状態とな
ることで前記水道水の放出に切り替え
可能であることを特徴とする消火設備。
【請求項18】
請求項14
又は16記載の消火設備
であって、前記配管開閉手段は、
前記防護区画の火災発生に伴う火災検出設備からの制御信号に基づく遠隔制御により開
放する遠隔開閉弁と、
前記遠隔開閉弁に並列接続
され、手動操作により開放する手動開閉弁と、
を備えたことを特徴とする消火設備。
【請求項19】
請求項15
又は16記載の消火設備
であって、
前記消火剤配管に対して前記消火剤供給器具を着脱自在に接続する連結手段を
備えたことを特徴とする消火設備。
【請求項20】
請求項19記載の消火設備
であって、
前記消火剤配管または前記連結手段の少なくとも何れかに、消火剤供給圧力の上昇を所定以下とする第2の圧力緩衝手段を
備えたことを特徴とする消火設備。
【請求項21】
請求項
4乃至13
の何れかに記載の消火器具を用いた倉庫の消火設備
であって、
前記倉庫は、
複数の収納部が配置された収納棚と、
物品を搬送して収納部に対して出し入れする搬送手段と、
を備え、
前記消火器具は、前記収納棚の火災発生場所を含む所定の対象区画を仕切って当該対象区画内に消火剤を放出するように設けられたことを特徴とする消火設備。
【請求項22】
請求項21記載の消火設備
であって、
前記収納棚は、前記複数の収納部が配置され、
前記所定の対象区画は、前記収納部または収納部列であり、
前記消火器具は、前記収納部または前記収納部列に対応して設けられ、前記収納部または前記収納部列で火災が発生したときに、前記収納部または前記収納部列を仕切って消火剤を放出することを特徴とする消火設備。
【請求項23】
請求項22記載の消火設備
であって、
前記収納部または前記収納部列は、閉鎖された構造面と開口された開口面を有し、
前記消火器具は、前記収納部または前記収納部列の前記開口面に対応して設けられたことを特徴とする消火設備。
【請求項24】
請求項4を引用する請求項21乃至23の何れかに記載の消火設備であって、
前記対象区画ごとに火災を検出する火災検出手段を備え、
前記火災検出手段で火災を検出したときに、火災を検出した前記対象区画に対応する前記消火器具の前記シート展開手段に消火剤を供給し、前記シートの非展開状態の保持を解除して展開させることを特徴とする消火設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般住宅、集合住宅、グループホーム等に設置して火災を抑制消火する消火器具及び消火設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般家庭、集合住宅、高齢者向けのグループホーム等では、消火器具として消火器を設置している。また、水道水を水源に使用し、火災発生時にスプリンクラーヘッドから水道水を放出して火災を抑制消火するスプリンクラー消火設備が知られている(特許文献1,2)。
【0003】
また、自動倉庫にあっては、スタッカクレーンにより、物品をラック棚(収納棚)に搬入して保管し、また保管している物品を搬出している。自動倉庫の消火設備としては、スタッカクレーンの昇降ゲージにスプリンクラーを設けてラック棚の火災発生場所に搬送して消火剤を放出する設備(特許文献3)、消火剤タンクとノズルを備えた消火ユニットをスタッカクレーンによりラック棚の火災発生場所に搬送して消火剤を放出する設備(特許文献4)、スタッカクレーンの昇降台に放水ノズルを設けて消火剤供給源からのホースを接続し、ラック棚の火災発生場所に搬送して消火剤を放出する設備(特許文献5)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-152261号公報
【文献】特開2012-179330号公報
【文献】特開平9-221201号公報
【文献】特開2012-111620号公報
【文献】特開2011-121771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、消火器を設置した場合には、火災発生時に消火器の設置場所がわからなかったり、消火器の使用に不慣れな人も多く、火災発生時に迅速且つ確実に消火作業を行うことが困難な場合がある。また、消火作業を行う間は、避難弱者を早期に又安全に避難させる人員を別に充当できなくなるおそれがあるため、避難誘導を優先しようとすると、有効にそして確実に消火器を使用できないことがある。
【0006】
また、水道水を用いたスプリンクラー消火設備は、熱気流による温度上昇が作動条件を充足したときに作動するものであり、火災規模がある程度大きくならないと作動しないため、早期の消火開始が必ずしも可能とはいえない問題がある。また、スプリンクラーヘッドは設置場所を放出点として消火用水を局所放出するものであり、水道水のように単位時間当りの放出量が制約される場合には、放出範囲や放出量を充分確保することが難しく、火災を十分に抑制消火できない可能性がある。
【0007】
また、従来の自動倉庫の消火装置にあっては、スタッカクレーンによりラック棚の火災発生場所へ例えばノズルを搬送して消火剤を放出しているが、一連の制御に時間がかかり、その間に火災が拡大し、初期消火が手遅れになる可能性がある。
【0008】
また、ラック棚の火災発生場所にノズルから消火剤を放出すると、周囲に飛散して保管している物品を濡らし、水損被害が大きくなる問題がある。
【0009】
本発明は、設置が容易であり、少ない放出量で効率良く火災を抑制消火する消火器具及び消火設備を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、収納棚に物品を搬入して保管し、また収納棚から保管されている物品を搬出して管理する自動倉庫等を対象に、水損を抑えつつ確実に火災の抑制消火を可能とする倉庫の消火設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(消火器具)
本発明は、消火器具であって、
非展開状態から展開可能なシートと、
シートに設けられた消火剤流通経路と、
消火剤流通経路への消火剤の入口となる消火剤供給口と、
消火剤供給口から消火剤流通経路に供給された消火剤をシートの少なくとも片面側に放出する複数の放出口と、
を備え、
防護区画の火災発生時に、シートを防護区画の側面に沿うように上方から下方へ展開し、展開したシートの消火剤流通経路に消火剤を供給して放出口から当該防護区画内へ放出することを特徴とする。
【0012】
(放出口の位置)
放出口は、消火剤流通経路に設けられる。
【0013】
(火災発生時のシート展開)
シートは、通常時は防護区画の上部の所定位置に一端辺が固定された状態で非展開状態に保持され、火災発生時に、保持が解除され、他端辺が自重により落下して、上方から下方へ展開する。
【0014】
(消火剤の供給によるシート展開動作)
消火剤の供給を受けてシートの非展開状態の保持を解除してシートを展開するシート展開手段を備える。
【0015】
(展開シートの固定設置)
シートは、展開状態で防護区画の少なくとも1側面の開口部を塞ぐように設置される。
【0016】
(シート構造1)
シートは、消火剤流通経路を形成すると共に消火剤供給口と放出口をが配置しされた潰し変形自在なシート配管を有し、
シート配管は、2枚のカバーシート(第1カバーシート、第2カバーシート)の間に配置される。
【0017】
(シート構造2)
シートは、第1カバーシート及び第2カバーシートで構成された前記2枚のカバーシートの間に第1防水シート及び第2防水シートが配置され、
第1防水シートと第2防水シートの間に、消火剤供給口と放出口を配置した消火剤流通経路が形成されるように、第1カバーシート、第1防水シート、第2防水シート及び第2カバーシートが積層した状態で縫合される。
【0018】
(カバーシート)
カバーシート(第1カバーシート、第2カバーシート)は、防火性、耐火性、耐熱性、遮熱性、遮炎性、遮煙性又は難燃性を有する布状体により形成される。
【0019】
(消火剤によるシートの湿潤)
消火剤をシートの内部に流出してシートを濡らす湿潤手段を備える。
【0020】
(放出口列に対する消火剤流通経路の配置)
複数の放出口を並べた放出口列要素に対し、放出口列要素の両端側から消火剤を供給するように消火剤流通経路が配置される。
【0021】
(消火器具の設置場所)
消火器具は、防護区画の開口部(例えば出入口や窓)、壁面又は天井面の少なくとも何れかに設置される。
【0022】
(圧力緩衝手段)
消火剤流通経路の所定位置に、消火剤流通経路に供給される消火剤を一時的に滞留して消火剤供給圧力の上昇を所定以下とする圧力緩衝手段を備える。
【0023】
(第2の圧力緩衝手段)
消火剤供給口に、消火剤供給圧力の上昇を所定以下とする第2の圧力緩衝手段を備る。
【0024】
(水道配管を用いた消火設備1)
前述した消火器具を用いた消火設備であって、
消火器具へ消火剤を供給する消火剤配管と、
消火剤配管へ水道水を供給する水道配管と、
を備え、
消火剤配管の一端側が消火器具の消火剤供給口に接続され、
消火剤配管の他端側が遠隔制御または手動により配管流路を開閉する配管開閉手段を介して水道配管に接続され、
火災発生時に、水道配管からの水道水を消火剤供給口に供給して放出口から防護区画内へ放出する。
【0025】
(消火器を用いた消火設備2)
前述した消火器具を用いた消火設備であって、
消火器具へ消火剤を供給する消火剤配管と、
消火剤配管へ消火剤を供給する消火剤供給器具(例えば消火器)と、
を備え、
消火剤配管の一端側が消火器具の消火剤供給口に接続され、
消火剤配管の他端側が消火剤供給器具に接続され、
火災発生時に、消火剤供給器具からの消火剤を消火剤供給口に供給して消火器具の放出口から防護区画内へ放出する。
【0026】
(消火器と水道配管を併用した消火設備3)
前述した消火器具を用いた消火設備であって、
消火器具へ消火剤を供給する消火剤配管と、
消火剤配管へ消火剤を供給する消火剤供給器具(例えば消火器)と、
消火剤配管へ水道水を供給する水道配管と、
を備え、
消火剤配管の一端側が消火器具の消火剤供給口に接続され、
消火剤配管の他端側が遠隔制御または手動により配管流路を開閉する配管開閉手段を介して水道配管に接続され、
消火剤配管の一端側と配管開閉手段との間から分岐した配管に、消火剤配管側から消火剤供給器具側への水道水の逆流を防止する逆流防止手段(例えば逆止弁)を介して消火剤供給器具が接続され、
火災発生時に、消火剤供給器具からの消火剤または水道配管からの水道水を消火剤供給口に供給して消火器具の放出口から防護区画内へ放出する。
【0027】
消火設備3において、火災発生時に、配管開閉手段が閉状態で消火剤供給器具からの消火剤がシートの放出口から放出され、消火剤供給器具からの消火剤の放出後に、配管開閉手段が手動により開状態となることで水道水の放出に切り替え可能である。
【0028】
(配管開閉手段の構成)
消火設備1または消火設備3において、配管開閉手段は、
防護区画の火災発生に伴う火災検出設備からの制御信号に基づく遠隔制御により開放する遠隔開閉弁と、
遠隔開閉弁に並列接続され、手動操作により開放する手動開閉弁と、
を備える。
【0029】
(消火器の連結手段)
消火設備2または消火設備3において、消火剤配管に対して消火剤供給器具を着脱自在に接続する連結手段を備える。
【0030】
(消火剤供給系統の第2の圧力緩衝手段)
消火設備2または消火設備3において、消火剤配管または連結手段の少なくとも何れかに、消火剤供給圧力の上昇を所定以下とする第2の圧力緩衝手段を備える。
【0031】
(倉庫の消火設備)
本発明は、前述した消火器具を用いた倉庫の消火設備に於いて、
倉庫は、
複数の収納部が配置された収納棚と、
物品を搬送して収納部に対して出し入れする搬送手段と、
を備え、
消火器具は、収納棚の火災発生場所を含む所定の対象区画を仕切って当該対象区画内に消火剤を放出するように設けられたことを特徴とする。
【0032】
(対象区画)
収納棚は、複数の収納部が配置され、
収納棚の所定の対象区画は、収納部(ラック)または収納部列(ラック列)であり、
消火器具は収納部または収納部列に対応して設けられ、収納部または収納部列で火災が発生したときに、収納部または収納部列を仕切って消火剤を放出する。
【0033】
(消火器具の配置)
収納部または収納部列は、閉鎖された構造面と開口された開口面を有し、
消火器具は、収納部または収納部列の開口面に対応して設けられる。
【0034】
(火災検出とシート展開)
対象区画ごとに、火災を検出する火災検出手段を備え、
火災検出手段で火災を検出したときに、火災を検出した対象区画に対応する消火器具のシート展開手段に消火剤を供給し、シートの非展開状態の保持を解除して展開させる。
【発明の効果】
【0035】
(消火器具の基本的な効果)
本発明の消火器具にあっては、防護区画となる部屋等に配置したシートの例えば防護区画内に面する片面側に位置する各所に複数の放出口を配置し、火災発生時に複数の放出口から消火剤を放出することで面放出を行い、設置場所を放出点とする従来のスプリンクラーベッドの点放出に比べて広い放出範囲を確保でき、且つ散水障害となる箇所を低減することで、少ない消火剤の放出量で火災の抑制消火を可能とする。
【0036】
ここで、「面放出」とは、複数の放出口(放出点)がシート面の各所に配置されることで、複数箇所から消火剤が面的に放出されること、即ち、シート面の各所に配置した放出口から消火剤が放出されることでシート面の広範囲から消火剤を放出することをいう。また、「点放出」とは、放出口(放出点)が1箇所(設置場所)に存在することで、消火剤が1点から放出されることをいう。また、一本の直線状に配列した複数の放出口から消火剤が線状に放出されることを「ライン放出」という。
【0037】
また、シートは防護区画の例えばドアなどの開口、壁面、天井面の大きさに対応する程度のサイズであり、例えば放出口のひとつひとつからの放出量を少なくすれば全体として例えばスプリンクラーヘッドからの散水量に比べ少量の消火剤で、また比較的小さい圧力で対象空間の隅々まで消火剤を放出することができ、効率的に、また短時間に所定範囲の火災を抑制消火することを可能とし、外部への影響が少なく、更に、防災装置は軽量且つ簡易なものとすることができる。
【0038】
また、シートを上方から下方へ展開し(防護区画の側面に沿うように展開し)、主としてシート面に対して垂直な方向に消火剤を放出する放出口とした場合、消火剤を横向きに(防護区画、例えば部屋の側方から部屋の中へ)放出し、部屋等に設置しているテーブルや机の下などの上から見て隠れた位置にも消火剤が届き、確実に火災を抑制消火可能とする。
【0039】
ここで、「火災の抑制消火」とは、火災を抑制する概念と火災を消火する別の概念を併せたものである。例えば、火災の抑制とは火災の延焼、火災の燃焼速度、または火災の規模を抑制する概念であり、火災の消火とは燃焼を鎮火させる概念である。勿論、どちらか一方となる場合も含む。
【0040】
(火災発生時のシート展開による効果)
また、消火剤流通経路と放出口を備えたシートは柔軟性を有することから、通常時は例えば、防護区画境界部の所定位置にシートを非展開状態例えばロール巻き状態にして部屋の壁面側上部に設置しており、設置スペースが少なくて済む。
【0041】
また、火災発生時にシートの保持を解除することで、一端辺を固定したシートの他端辺が下方へ落下しつつ上方から下方へ展開し、展開したシートの各所に配置した放出口から消火剤を面放出して火災の消火抑制を可能とする。
【0042】
(消火剤の供給によるシート展開動作の効果)
また、火災発生時に供給される消火剤の流通圧力を駆動源としてシートの非展開状態の保持を解除して展開することができる。また、電気的な保持解除動作を必要としないため停電時にも確実にシートを展開して消火剤を放出できる。
【0043】
(展開シートの固定設置の効果)
また、シートは最初から展開状態(広げた状態)で防護区画となる部屋の壁面等に設置しても良く、火災発生時にシートの各所に配置した複数の放出口から消火剤を面放出して火災の消火抑制を可能とする。
【0044】
(シート構造1の効果)
また、消火剤供給口と放出口を配置した潰し変形自在なシート配管を2枚のカバーシート(第1カバーシート、第2カバーシート)の間に配置するシートの構成により、消火剤流通経路と放出口を備えた柔軟性を有するシートを簡単且つ容易に低コストで製作可能とする。
【0045】
(シート構造2の効果)
また、消火剤供給口と放出口を配置した消火剤流通経路を形成するように、第1カバーシート、第1防水シート、第2防水シート及び第2カバーシートを積層した状態で縫合すれば良いことから、消火剤流通経路の形成と積層したシートの一体化が縫合により同時に実現し、消火剤流通経路と放出口を備えた柔軟性を有するシートを更に簡単且つ容易に作成でき、量産も容易であることから製造コストを更に低減可能とする。
【0046】
また、消火剤流通経路は、例えばミシンを用いた縫合や接着剤を用いた接着等により任意の経路パターンを簡単且つ容易に形成することが可能となる。
【0047】
(カバーシートの効果)
また、カバーシート(第1カバーシート、第2カバーシート)は、防火性、耐火性、耐熱性、遮熱性、遮炎性または遮煙性を有することから、火災による熱や炎を受けても焼損せずに消火剤の放出を継続することができ、また、防護区画の境界部となる出入口等の開口部に設置して展開した場合には、防護区画の外部に対する遮炎、遮熱、遮煙により延焼防止と避難経路の確保を可能とする。また、布状体の柔軟性により、シート展開後も防護区画内から外部への避難が可能となる。
【0048】
(消火剤によるシートの湿潤の効果)
また、例えば縫合や接着による消火剤流通経路の作成においては、消火剤流通経路外に消火剤を冷却剤として流出してシートを濡らすことで、シートの遮炎性、遮煙性、遮熱性を向上させることができる。
【0049】
(放出口列に対する消火剤流通経路の配置の効果)
また、シートの例えば横方向に沿って放出口を複数並べた放出口列要素の両端側から消火剤を供給することで、複数の放出口の放出圧力を略均一とし、消火剤の放出パターン(角度分布)と放出量を揃えることを可能とする。
【0050】
(消火器具の設置場所の効果)
また、消火器具は、防護区画の境界部となる例えば部屋の出入口、壁面、窓、または天井面等の必要に応じた任意の位置に、例えばシートの展開状態においてシート面が当該境界部の境界面に沿って位置するようにして、シートの非展開状態または展開状態で簡単且つ容易に設置して使用することができ、部屋の利用形態に適合した最適な消火器具の設置を可能とする。
【0051】
(圧力緩衝手段による効果)
また、消火器を開栓して消火剤流通経路に消火剤を供給する場合、消火器の蓄積圧力は例えば0.7MPa~0.98MPaと高圧であり、消火器の開栓時に消火器具の消火剤流通経路に高圧の消火剤が加わると破損等する可能性があることから、消火剤流通経路の入口側に圧力緩衝手段として例えば緩衝エリア(バッファエリア)を設けることにより、消火器からの消火剤供給圧力の上昇(または上昇率)を所定以下として消火剤流通経路や放出口の破損を防止する。また、消火剤供給口に、例えばタンク又オリフィス等の第2の圧力緩衝手段を設けることで、同様に、消火器からの消火剤供給圧力の上昇(または上昇率)を所定以下として消火剤流通経路や放出口の破損を防止する。
【0052】
(水道配管を用いた消火設備1の効果)
また、消火剤配管に水道配管を接続し、火災発生時に消火剤として水道水を消火器具の放出口から放出することで、専用のポンプ設備を不要とし、設置が容易でコストも低減可能とする。
【0053】
(消火器を用いた消火設備2の効果)
また、消火剤配管を介して消火剤供給口に消火剤供給器具、例えば消火器のノズルを接続し、火災発生時に消火器の開栓操作を行って所定の消火剤、例えば粉末消火剤や強化液消火剤を消火器具の放出口から防護区画内に放出することで、火災の抑制消火を効果的に行うことを可能とする。
【0054】
また、消火剤供給器具である消火器の取扱いに不慣れであっても、例えば防護区画となる部屋の外側等に配置している消火器の安全ピンを抜いてレバーを握る開栓操作を行うだけで、部屋に設置した消火器具に高圧の消火剤、例えば粉末消火剤を供給し、シートを展開すると同時に消火器具の放出口から粉末消火剤を広い範囲に放出し、火災の抑制消火を短時間で効果的に行うことを可能とする。
【0055】
(消火器と水道配管を併用する消火設備3の効果)
また、前述した水道配管を用いた消火設備1及び消火器を用いた消火設備2の効果に加え、火災発生時に消火剤供給器具、例えば消火器の開栓操作を行って、消火剤、例えば粉末消火剤や強化液消火剤を消火器具の放出口から防護区画内に放出することで、火災の初期消火を行い、消火器による消火剤の放出持続時間は、例えば十数秒といった短時間であるが、火災の抑制消火が不十分な場合には、配管開閉手段の開操作により放出口から水道水を防護区画内に放出して火災の抑制消火を継続し、水道水の放出には時間的な制約はないので、消火器からの消火剤の放出で抑制された火災を確実に消火することを可能とする。
【0056】
(配管開閉手段の構成による効果)
また、消火設備1または3において、防護区画の火災発生に伴う火災検出設備からの制御信号に基づく遠隔制御により遠隔開閉弁を開状態とすることで、火災検出に連動した消火器具の放出口からの消火剤の放出が可能となり、また、手動開閉弁の人的な開操作によっても消火器具からの消火剤の放出を可能とする。
【0057】
(消火器の連結手段の効果)
また、消火剤配管に対し連結手段により消火器を着脱自在に接続していることから、消火器を使い終わった場合は、必要に応じて未使用の消火器に交換することで、消火剤の放出を継続し、確実な抑制消火を可能とする。更に、逆止弁構造付きの連結手段を複数設けてそれぞれに消火器を接続していれば、消火器を着脱して交換する手間を省け、迅速に消火剤の放出を継続し、確実な抑制消火を可能とする。
【0058】
また、防護区画外の、消火器具を設置していない場所で火災が発生したときには、消火剤配管の連結手段により消火器を外して当該場所へ運んで使用することができ、通常設置している消火器と消火器具用の消火器が兼用可能であり、消火器の維持管理を容易とし、運用コストを低減可能とする。
【0059】
(消火剤供給系統の第2の圧力緩衝手段による効果)
また、消火設備2または3において、消火剤供給系統の連結手段または消火剤配管に第2の圧力緩衝手段を設け、消火器からの消火剤供給圧力の上昇(または上昇率)を所定以下として消火剤流通経路や放出口の破損を防止する。
【0060】
(倉庫の消火設備の効果)
本発明の倉庫の消火設備によれば、例えば、収納棚の任意の収納部に保管している物品が発火して火災になると、収納棚に設けた消火器具のシートを展開し、収納棚の火災発生場所を含む所定の対象区画の境界に対応する開口面を仕切って塞ぎ、展開したシートの各所に設けた複数の放出口から対象区画内へ消火剤を面放出し、設置場所を放出点とする従来のスプリンクラーベッドの点放出に比べて対象区画内の広い範囲に効率的に散布でき、且つ対象区画外の水損(消火剤がかかることによる損失被害)を低減することで、全体として、従来よりも少ない消火剤の放出量で火災の抑制消火を可能とする。
【0061】
また、収納棚に設けた消火器具のシートを展開し、収納棚の火災発生場所を含む所定の対象区画の開口面を仕切って塞ぐことで、対象区画内から周囲に対して遮炎、遮煙、遮熱することにより延焼防止、煙拡散防止の効果が期待でき、また、シートの各所に設けた開口から対象区画内に消火剤を放出する相乗効果により、抑制消火性能を更に高めることができ、更に、仕切区画内に放出する消火剤の周囲への散逸、放出を抑制し、例えば周囲に保管している物品の水損を低減することができる。
【0062】
また、収納棚に消火器具が設置されていることから、従来の倉庫の消火設備のように、スタッカクレーン等の搬送手段により消火ノズルを火災発生場所に搬送する必要がなく、火災発生から短時間で消火剤を放出して火災を抑制消火することができる。
【0063】
(対象区画の効果)
また、消火器具は、対象区画となる収納部(ラック)または複数の収納部からなる収納部列(ラック列)の、構造面を除く開口面に対応して設けられ、収納部または収納部列で火災が発生したときに、収納部または収納部列の開口面を仕切ることで、構造面とあわせて、火源から見た収納部または収納部列の全方位をほぼ隙間なく塞ぐことになり、この状態で内部へ消火剤を放出することで、効率的に火災の抑制消火を行うことを可能とする。
【0064】
(火災検出とシート展開の効果)
また、消火器具に設けたシート展開手段は、通常時は、シートを非展開状態に保持していることから、搬送手段による収納棚の収納部に対する物品の搬入または搬出を妨げることがなく、一方、火災発生時には、火災検出手段で火災を検出した対象区画の消火器具に消火剤を供給することで、シートの非展開状態の保持を解除して展開し、火災が発生している対象区画を仕切って塞いだ状態で消火剤を放出するため、迅速且つ確実に火災を抑制消火することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】防護区画に対する消火器具の設置を透視状態で示した説明図である。
【
図2】火災発生時にシートを展開して消火剤を放出する消火器具の動作を示した説明図である。
【
図3】消火器具の消火剤放出を側面から示した説明図である。
【
図4】グループホームにおける消火器具を用いた消火設備を示した説明図である。
【
図5】消火器具のシートを取り出して示した説明図である。
【
図6】シートの製作手順の実施形態を示した説明図である。
【
図7】シートに消火剤流通経路を形成するシート配管を示した説明図であり、
図7(A)に通常時の潰れたシート配管を示し、
図7(B)に消火剤流通時の膨らんだシート配管を示す。
【
図8】
図6のシートの放出口の構造を示した説明図であり、
図8(A)にシート配管と第1カバーシートを挟む取付け状態を示し、
図8(B)に組立分解図を示し、
図8(C)に断面で組立分解図を示す。
【
図9】シートの製作手順の他の実施形態を示した説明図である。
【
図10】
図9のシートの放出口の構造を示した説明図であり、
図10(A)に第1カバーシートと第1防水シートを挟む取付け状態を示し、
図10(B)に組立分解図を示し、
図10(C)に断面で組立分解図を示す。
【
図11】
図9の手順で製作したシートを示した説明図である。
【
図12】
図11の縫合により形成した消火剤流通経路を示した説明図であり、
図12(A)に通常時の潰れた消火剤流通経路を示し、
図12(B)に消火剤流通時の膨らんだ消火剤流通経路を示す。
【
図13】通常時にシートを非展開状態に保持し、火災発生時にシートを展開して放出する消火器具の実施形態を示した説明図であり、
図13(A)に通常時の正面を示し、
図13(B)に通常時の側面を示し、
図13(C)に火災発生時にシートを展開した正面を示し、
図13(D)に火災発生時にシートを展開した側面を示す。
【
図14】シートの保持を解除して展開するシート保持解除部を示した説明図であり、
図14(A)に本体片側の外観を示し、
図14(B)に本体片側の断面を示す。
【
図15】消火器からの消火剤を放出する消火器具の実施形態を示した説明図である。
【
図17】消火器からの消火剤の放出に使用するシートの実施形態を示した説明図である。
【
図18】消火器と水道設備を組み合わせた消火器具の実施形態を示した説明図である。
【
図19】防護区画に展開したシートを固定設置する消火器具の実施形態を示した説明図である。
【
図20】防護区画にラインシートを固定設置する消火器具の実施形態を示した説明図である。
【
図21】ラック列ごとに消火器具を設けた自動倉庫の消火設備の実施形態を示した説明図である。
【
図22】ラック棚の上部側を取り出してラック部分の構造を示した説明図あり、
図22(A)に天板を外した状態で平面を示し、
図22(B)に正面を示す。
【
図23】消火器具に対する消火剤配管と遠隔開閉弁の配置を示した説明図である。
【
図24】火災が発生したラック列をシートの展開により仕切った状態を示した説明図である。
【
図25】火災が発生したラック列内に、展開したシートから消火剤を放出した状態を断面で示した説明図である。
【
図26】ラックごとに消火器具を設けた自動倉庫の消火設備の他の実施形態を示した説明図である。
【
図27】火災が発生したラック内に、展開したシートから消火剤を放出した状態を断面で示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
[消火器具及び消火設備の実施形態]
以下に、本発明に係る消火器具及び消火設備の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。その内容は次のように分けて説明する。
a.実施の形態の基本的概念
b.実施の形態の具体的内容
b1.消火器具及び消火設備の構成
b2.グループホームの消火設備
c.消火器具のシート
c1.シートの構成
c2.シートの製作方法1
c3.シートの製作方法2
d.シート展開の構成
d1.シート展開構造
d2.シート展開部の構成
e.消火器を用いた消火器具及び消火設備
f.消火器と水道配管を組み合わせた消火設備
g.シートを固定設置した消火設備
h.倉庫の消火設備の基本的な概念
i.倉庫の消火設備の具体的内容
i1.自動倉庫の概要
i2.ラック列を対象区画とする消火設備
i3.ラックを対象区画とする倉庫の消火設備
j.本発明の変形例
【0067】
[a.実施の形態の基本的概念]
まず、実施の形態の基本的な概念について説明する。なお、以下の実施の形態により、この発明が限定されるものではない。
【0068】
実施の形態は、概略的に、消火器具及び消火設備に関するものである。「消火器具」とは、消火剤を放出または散布して火災を抑制消火するものである。ここで、「防護区画」とは、消火器具が設置される区画であり、例えば建物の外部区画、建物内の内部区画を含み、建物内の内部区画は、例えば、建物の部屋、廊下、階段等を含む概念である。
【0069】
実施の形態による消火器具は、シート、消火剤流通経路、消火剤供給口、及び放出口を備えるものである。「シート」とは、例えば、柔軟性を有する薄くて広いものであり、被せたり、覆ったりするために使用することができるものであり、例えば、非展開状態に保持したり、非展開状態の保持を解除して展開状態とすることのできる布状体等を含む概念である。
【0070】
また、「消火剤流通経路」とは、シートに設けられた消火剤が流れる通り道であり、例えば、布状体の間に配置されるシート配管を含む概念である。なお、「シート配管」とは、例えば、潰し変形自在であって、消火剤を流通させることで膨らむ可撓性の配管をいう。
【0071】
また、「消火剤供給口」とは、シートに設けられた消火剤流通経路へ消火剤を供給する入口であり、例えば、消火剤配管の接続口を含む概念である。
【0072】
また、「放出口」とは、消火剤供給口から消火剤流通経路に供給された消火剤の出口であり、消火剤をシートの少なくとも片面側の各所から放出するものであり、例えば、火災時にシートの片面側の各所に配置された複数の放出口から消火剤を放出する開口である。
【0073】
また、消火器具は、シート展開手段を備える。ここで、「シート展開手段」とは、通常時は防護区画境界の所定位置にシートを非展開状態に保持し、火災発生時にシートの保持を解除して展開する手段であり、例えば、通常時は、シートを巻き回した非展開状態として防護区画境界の開口部、例えば部屋の出入口の上部天井側に保持し、火災発生時にシートの保持を解除して展開することで、一端辺(上端辺)が固定された状態で、他端辺(下端辺)が自重により落下して、上方から下方へ展開することで、開口部を塞ぐものである。
【0074】
また、「消火設備」とは、消火器具を用いて火災を抑制消火する設備であり、例えば、人的な消火活動により消火器具を作動する設備、及び、受信機に感知器を接続した火災検出設備等により火災を検出して自動的に消火器具を作動する設備を含む概念である。
【0075】
消火器具を用いた消火設備は、消火剤配管と消火剤供給源を備える。ここで、「消火剤配管」とは、消火器具へ消火剤を供給する配管であり、例えば、消火器具に消火用水、液体消火剤、粉末消火剤等を供給する配管やホースを含む概念である。また、「消火剤供給源」とは、消火剤配管へ消火剤を供給する源となるものであり、例えば、水道水を供給する水道配管、消火用水を供給するポンプを備えた加圧送水装置、貯水タンク、高架水槽、また消火器等の消火剤供給器具を含む概念である。
【0076】
以下の説明では、まず「防護区画」が「建物の部屋」であり、「消火剤供給源」が「水道配管」及びまたは「消火器」である場合について、消火器具と消火設備の実施の形態の具体的内容を説明する。続いて、消火器具を用いた倉庫の消火設備について、実施の形態の基本的な概念と具体的内容を説明する。
【0077】
[b.実施の形態の具体的内容]
消火器具と消火設備について実施の形態の具体的内容について説明する。
【0078】
(b1.消火器具及び消火設備の構成)
図1に示すように、本実施形態の消火器具12は例えばグループホーム等で防護区画10となる部屋の境界部例えば出入口11の上部に設置する。消火器具12は、通常時、柔軟性を有する布状体を用いたシート28を例えばロール状に巻いた非展開状態で本体62に保持しており、シート28には消火剤流通経路と複数の放出口を設けている。ここで、
図1の防護区画10について、図示の如く、火災感知器14が設置されている天井面を上方とする上下方向を縦方向或いは高さ方向、上下方向に直行して部屋の境界となる出入口11(開口部)から見て左右の壁面を結ぶ方向を左右方向或いは横方向、また出入口11から部屋の内部に向かう方向を奥行方向と称する。
【0079】
防護区画10には火災検出設備として火災感知器14を受信機16に接続している。消火器具12に対しては水道設備の水道配管18から仕切弁25を介して消火剤配管20を接続する。消火剤配管20には遠隔制御または手動により配管流路を開閉する配管開閉手段として遠隔開閉弁24と手動開閉弁26を並列に接続している。ここで、本実施形態の消火設備は、消火器具12、消火剤配管20、遠隔開閉弁24、手動開閉弁26及び水道配管18で構成している。
【0080】
遠隔開閉弁24は電磁弁または電動弁であり、受信機16は防護区画10に設置した火災感知器14から火災信号を受信すると遠隔開閉弁24に制御信号(開制御信号)を出力して開放し、消火器具12に消火剤として水道水を供給する。
【0081】
遠隔開閉弁24を開放して水道水を消火器具12に供給すると、後述するシート展開部が動作してシート28の保持を解除し、
図2に示すように、防護区画10の出入口11を塞ぐようにシート28の一端辺を上方から下方(縦方向)へ展開し、同時にシート28の消火剤流通経路に水道水を供給し、複数の放出口30から防護区画10内に水道水を放出し、火災を抑制消火する。
【0082】
ここで、展開したシート28の上下方向(高さ方向)を縦方向、上下方向に直交する方向を横方向とすると、例えば縦3個×横3個の放出口30を配置した放出口列から防護区画10内となる奥行方向へ消火剤として水道水を放出し、火災を抑制消火する。このとき水道水は防護区画10内に側方から散水されることになる。
【0083】
図3に示すように、シート28の縦方向(上下方向)に例えば3段に配置した放出口30からの放出距離は、放出口30の位置が高いほど遠くまで届き、防護区画10の床面側の略全領域を放出範囲としてカバーする。また、防護区画10内にテーブル31等の家具が置かれていた場合、展開したシート28の放出口30からの放水はテーブル31の下側にも届く。なお、天井面への放水をしたい場合には、最上段の放出口30の一部の向きを上方とし、天井面が濡れるようにして延焼拡大の防止をしてもよい。
【0084】
展開したシート28の各所に配置した複数の放出口30からの消火剤(水道水)の放出は全体として面放出となり、従来の天井面にスプリンクラーヘッドを設置した場合に放出点が一点となる点放出に対し、同じ放出量であっても、広い放出範囲(散水範囲)をカバーでき、テーブル31や机の下などの上から見て隠れた位置に対しても消火剤が届き、結果的に少ない消火剤の放出量で火災を抑制消火することを可能とする。
【0085】
(b2.グループホームの消火設備)
図4に示すように、本実施形態の消火器具12を用いたグループホームの消火設備は、防護区画10(10-1,10-2・・・10-n)となる各部屋の例えば出入口の上部に消火器具12を設置し、消火剤配管20の一端側を消火器具12の消火剤供給口に接続し、消火剤配管20の他端側を並列接続した遠隔開閉弁24と手動開閉弁26を介して水道設備の水道配管18に接続している。なお、
図1に示した仕切弁25は省略している。
【0086】
防護区画10(10-1,10-2・・・10-n)に各々設置した火災感知器14は受信機16に接続し、受信機16は各防護区画(部屋)の火災を監視する。
【0087】
防護区画10(10-1,10-2・・・10-n)の何れかで火災が発生すると、対応する火災感知器14が発報して火災信号を受信機16に送信し、受信機16は火災信号に基づき火災が発生した防護区画に対応する遠隔開閉弁24に制御信号(開制御信号)を出力して開放し、火災が発生した防護区画に設置している消火器具12に消火剤(水道水)を供給し、
図2及び
図3に示したように、消火器具12のシート28を展開し、展開したシート28の各所に配置した複数の放出口30から消火剤(水道水)を面放出し、火災を抑制消火する。
【0088】
[c.消火器具のシート]
(c1.シートの構成)
図5に示す本実施形態のシート28(28a)は、展開状態で防護区画の設置場所例えば出入口の大きさに対応した縦横の長さをもつ矩形シートであり、布状体を用いることで柔軟性があり、ロール状に巻き回すなどして容易に非展開状態とすることができる。
【0089】
シート28の一端辺(上端辺)側に消火剤の入口となる消火剤供給口32を配置し、内部に点線で示す消火剤流通経路34を設け、消火剤流通経路34の各所に複数の放出口30を配置している。本実施形態では放出口30を、縦横3列の9箇所に配置している。
【0090】
また、消火剤流通経路34は、縦方向(消火剤の流下方向)に4段の梯子形に形成し、最上段となる1段目の中央に消火剤供給口32を設け、2段目から4段目に例えば3個所ずつ放出口30を配置している。
【0091】
2段目から4段目に配置した放出口30の横方向の放出口列(各段に横方向に並べた放出口列をひとつの放出口列要素とし、放出口列要素を2段目から4段目に3段並べて全体の放出口列としている)に対し、消火剤流通経路34は各放出口列要素の両端側から消火剤を供給するように形成している。これにより同列内の複数の放出口30に供給する消火剤の放出圧力を略均一とし、同列内の放出パターン(角度分布)と放出量を揃えることを可能とする。
【0092】
なお、複数の放出口30に消火剤を供給する消火剤流通経路34の形態は、図示の梯子形に限定されず、ツリー形、トーナメント形等の適宜の形態が含まれる。また、複数の放出口30の放出圧力を略均一とする場合には、消火剤流通経路34の太さ(断面積)を消火剤供給口32側で太くし、消火剤供給口32から離れるほど細くしても良い。また、消火剤流通経路34に対応して設ける放出口30の数及び配置形態は任意である。
【0093】
(c2.シートの製作方法1)
図5に示した本実施形態のシート28(28a)は例えば
図6に示す方法で製作する。まず所定サイズの第1カバーシート36と第2カバーシート38を準備する。第1カバーシート36と第2カバーシート38は、例えば防火性、耐火性、耐熱性または難燃性を有する布状体であり、例えば1200℃の高熱に耐えることができ、耐火シート、耐火カーテン、耐火幕等とも呼ばれるものが適用できるが、これに限定されない。また、第1カバーシート36と第2カバーシート38はそれぞれ遮熱性、遮炎性または遮煙性等も有する。なお、防護区画の内側に面するほうのカバーシートのみを防火性、耐火性、耐熱性、難燃性、遮熱性、または遮炎性を有するものとすることを妨げない。
【0094】
続いて、ここでは例えば4段の梯子形となるシート配管40を準備する。シート配管40は例えば傘張りに使用するポリエステル等の布状体をパイプ状に形成して梯子形に接続しており(接続部は流通可能となっている)、
図7(A)に示すように、潰し変形自在であり、押し潰すことで扁平となり、消火剤41を供給すると
図7(B)に示すように膨らみ、消火剤流通経路34を形成するものである。
【0095】
また、
図6に示すように、シート配管40には消火剤供給口32と放出口30を配置し、放出口30に対応して第1カバーシート36に通し穴56を開口している。
【0096】
放出口30は、例えば
図8に示す構造とする。放出口30はベース42と挟着リング44で構成する。ベース42には、ねじ軸46を起立し、ねじ軸46には放出孔50を貫通している。挟着リング44はねじ穴48を有し、ねじ軸46にねじ込み固定する。
【0097】
図8(A)に示すように、ベース42はシート配管40の中に配置して例えば
図8(C)に示すように接着部43で接着固定し、ねじ軸46を外部に取出している。シート配管40に設けた開口から取り出したねじ軸46は第1カバーシート36の通し穴56(
図6参照)を通して取出し、そこに挟着リング44をねじ込むことで、シート配管40を第1カバーシート36の裏面に配置した状態で挟み込み固定する。
【0098】
続いて、
図6に示すように、第1カバーシート36の裏側に、放出口30及び消火剤供給口32を設けたシート配管40を配置し、シート配管40を挟んで第1カバーシート36の反対側に第2カバーシート38を配置し、シート配管40を間に挟んで第1カバーシート36と第2カバーシート38を接着または防水糸を用いて縫合することで、
図5に示すシート28(28a)が完成する。
【0099】
ここで、放出口30のベース42に設けた放出孔50は、放出口30の開口径を決めるものであり、消火剤として供給する水道水の水圧は0.02MPa程度であることから、例えば3~4ミリメートル程度の孔径とする。
【0100】
3~4ミリメートル程度の孔径は、水道水を使用する一般的なシャワーヘッドに形成している複数の放水孔の1つの孔径に相当する。このため放出口30からはシャワーヘッドの孔の1つに相当する程度の水道水の放出パターンが得られ、この放出パターンをシート28の各所に配置した複数の放出口30から放出することで、全体として面放出となる。
【0101】
また放出孔50は消火剤の放出パターンを決めるノズルとして機能する。例えば、図示のストレートの放出孔50は比較的狭角の放出パターンとなり、放出孔50の出口開口部を円錐状に広げると、円錐状に広がる広角放出パターンとなり、必要とする放出パターンに応じて適宜の開口部形状とする。相互に異なる開口部形状の放出口30を適宜混在させても良い。
【0102】
なお、本実施形態では放出孔50の中心軸(図の一点鎖線)はシート面に対し垂直としているが、これに限定されない。例えば、中心軸のシート面に対する傾斜角度を調整することで、消火剤放出の指向性を調整することもできる。
【0103】
また、放出口30とは別に第1カバーシート36と第2カバーシート38を濡らして冷却するための湿潤手段(冷却手段)として、消火剤流通経路を構成するシート配管40に冷却剤放出口を設けても良いし、シート配管40とは別に、或いはシート配管40から分岐して冷却剤流通経路を構成する冷却剤シート配管を設け、これに冷却剤放出口を設けても良い。これにより第1カバーシート36と第2カバーシート38の耐火性、耐火性、耐熱性などを向上し、グレードの低いシートの使用を可能とすることで、コストダウンができる。
【0104】
(c3.シートの製作方法2)
図9はシート28の別の製作方法を示した説明図である。
図9のシート28(28b)は、所定サイズの第1カバーシート36、第1防水シート52、第2防水シート54及び第2カバーシート38を準備する。第1カバーシート36と第2カバーシート38は
図6の製作方法と同じものであり、第1防水シート52と第2防水シート54は、
図6の製作方法のシート配管40と同様、例えば傘張りに使用するポリエステル等の布状体とする。
【0105】
第1防水シート52には、形成する消火剤流通経路34に対応して消火剤供給口32を配置し、放出口30に対応して通し穴56,58を形成する。
【0106】
第1カバーシート36と第1防水シート52は、通し穴56,58を位置合わせして重ねた状態で、
図10に示すように、放出口30の取付けで固定する。放出口30の構造は
図8に示したと同じであり、放出孔50を貫通したねじ軸46を起立したベース42と、ねじ穴48を有する挟着リング44で構成する。
【0107】
第1カバーシート36と第1防水シート52を放出口30により固定した状態で、
図9に示すように、第2防水シート54と第2カバーシート38を重ね合わせ、この状態で
図11に示すように、例えば防水糸を用いたミシン等による縫合作業で縫合部60を形成し、消火剤流通経路34を作成する。また、各シート重ね合わせ状態でシート周縁を縫合した縫合部61によりシート28として一体化する。
【0108】
図12(A)は第1カバーシート36、第1防水シート52、第2防水シート54及び第2カバーシート38の重ね合わせ状態で、例えば防水糸を用いてミシンにより縫合した縫合部60で形成した消火剤流通経路34であり、通常時、消火剤流通経路34は押し潰した状態にあり、消火剤41を供給すると
図12(B)のように膨らんで消火剤を流通する。
【0109】
ここで、縫合部60を二重にすることで、消火剤流通経路34の密閉性を高めているが、消火剤として水道水を供給すると縫い目から少量漏れ出す場合がある。しかし、消火剤流通経路34から漏れ出した水道水はシート28を濡らすこととなり、これにより火災に対する防火性、耐火性、耐熱性、遮熱性、遮炎性または遮煙性が向上する。
【0110】
このように、放出口30とは別に第1カバーシート36と第2カバーシート38を濡らして冷却するための湿潤手段(冷却手段)として、縫合部60で形成した消火剤流通経路34に冷却剤放出口を設けるようにして良い。冷却剤放出口は、消火剤流通経路34を形成する縫合部60を例えば部分的に縫い目が大きくなるように調整し、或いは部分的に縫い目をとばして縫合し、または部分的に縫い目間隔を大きくしてこの隙間を冷却剤放出口としても良い。また、冷却剤放出口を設けた流通路(冷却用流通路)を消火剤流通路と別に設けても良い。なお、ここでは消火剤が冷却剤を兼ねているが、消火剤と冷却剤は異なっても良い。この場合、消火剤配管と別に冷却剤配管を、また消火剤供給口と別にこれと同様の構成の冷却剤供給口を設けて冷却剤配管に接続すれば良い。
【0111】
[d.シート展開の構成]
(d1.シート展開構造)
図13(A)(B)に示すように、本実施形態の消火器具12は、本体62にシート28の一端辺(展開時の上端辺)をシート固定部63で固定し、通常時、シート28はロール状に巻き回した非展開状態で本体62の下側にワイヤまたはロープを用いたシート保持部材64により複数箇所で吊下げ状態で保持している。
【0112】
シート保持部材64は一端を本体62に固定し、他端をシート28の巻き取り外周下側を通して本体62の反対側(固定しているのと反対側)のシート保持解除部66に着脱自在に保持している。シート保持解除部66は、消火剤配管20からの消火剤の供給を受けて動作し、シート保持部材64の保持を解除する。
【0113】
シート保持解除部66がシート保持部材64の一端の保持を解除すると、
図13(C)(D)に示すように、シート28の一端辺(上端辺)を本体62に固定した状態で反対側の他端辺(展開時の下端辺)側が自重により落下して上方から下方(縦方向)へ展開する。なお、シート28の下端辺側には所定の重り部材を設けても良く、このようにすれば、シート28の下端辺側の落下、またシート28の展開後の安定を補助することができる。
【0114】
(d2.シート展開部の構成)
図14に示すように、本実施形態のシート保持解除部66は、本体62内に、消火剤の供給を受けて動作するアクチュエータ68を設けている。アクチュエータ68は、シリンダ70にリターンばね76を介してピストン72を摺動自在に組込み、ピストン72の片側にシリンダ室70aを形成し、消火剤供給ポート78に消火剤配管20を分岐接続している。シリンダ室70aに対しては自動排水弁73を設けている。自動排水弁73は所定圧力を超える消火剤の供給を受けて閉鎖し、圧力が所定圧力以下に低下すると開放する。
【0115】
ピストン72は同軸にロッド74を備える。本体62の正面部に開口82を設け、ロッド74の一部が視認可能に、またロッド74に設けた操作スティック80が操作可能に露出している。
【0116】
ロッド74にシート保持部材64を保持するときには、操作スティック80によりロッド74を左側に移動した状態で、例えばワイヤを用いたシート保持部材64の先端をループ状に結んだ止め輪64aをロッド74に通し、ロール状に巻き回したシート28を保持する。
【0117】
火災発生時には、消火剤として水道水が消火剤配管20を介してシリンダ室70aに供給され、リターンばね76に抗してピストン72を左方向にストロークし、これによりロッド74が止め輪64aから抜け、シート保持部材64の保持を解除し、シート28が自重により落下して上方から下方へ展開する。
【0118】
シート保持解除部66は消火剤の供給を受けてシート保持部材64の保持を解除するアクチュエータ68を設けたことで、停電時にも、消火剤の供給に連動して非展開状態にあるシート28を展開して消火剤を放出することができる。
【0119】
なお、シート保持解除部66は、上記に限定されず、受信機16からの制御信号による電磁ソレノイド等の駆動により、シート保持部材64の保持を解除してシート28を展開しても良い。
【0120】
また、消火器具12のシート展開構造としては、他の適宜の構造を適用でき、シート28を回転軸に巻き、回転軸のラッチを解除してシート28を展開する構造としても良いし、モータ駆動により巻出し巻き取りする構造としても良い。また、シート28を蛇腹状に折り畳んだ状態で保持し、保持を解除して展開する構造としても良い。
【0121】
また、シート28の消火剤流通経路34としては、
図5及び
図11に示した梯子形の配置に加え、例えば梯子形の周囲を囲むように消火剤流通経路を矩形に配置し、消火剤として消火用水を供給したときにシート28の展開を補助し、また展開状態を安定させる補助手段となる重りとして機能させるようにしても良い。また、放出口30に至るまでの消火剤流通経路が長くなることで、後の説明で明らかにする消火器から消火剤を供給開始したときの圧力上昇(または上昇率)を所定以下(消火剤流通経路34及び放出口30が破損しない程度)に抑制する緩衝エリアとして機能させることができる。
【0122】
[e.消火器を用いた消火器具及び消火設備]
図15に示すように、本実施形態は、消火剤供給器具として消火器を例にとっており、防護区画10となる部屋の境界部、例えば出入口の上部に設置した消火器具12に消火器84から所定の消火剤例えば粉末消火剤や強化液消火剤を供給して放出することを特徴とする。
【0123】
消火器84は、本体容器に消火剤を蓄圧状態で充填しており、安全ピン90を抜いてレバー92を押し下げると開栓し、ホース86から消火剤を放出する。
【0124】
消火器具12に設けたシート28(28c)の消火剤供給口32に対しては消火剤配管20の一端側を接続し、消火剤配管20の他端側には連結手段として機能する消火器連結部94を介して消火器84のホース86先端の消火器ノズル94aを接続している。消火器連結部94は消火器ノズル94aと消火器接続口94bで構成され、例えば水道蛇口にホースをワンタッチ操作で着脱自在に接続するものと同様の公知の連結継手を使用する。
【0125】
ここで、本実施形態においては、消火器ノズル94aは、消火器84のホース先端に予め付属しているノズルを外し、別に用意した消火器ノズル94aを予め取り付けたものであるが、これに限定されない。
【0126】
図16は消火器連結部94の一例であり、消火器ノズル94aと消火器接続口94bを備え、消火器84のホース86の先端に別に用意した消火器ノズル94aを設け、消火剤配管20の他端に消火器接続口94bを設け、消火剤配管20に対し消火器84のホース86を着脱可能とする。
【0127】
消火器ノズル94aはOリングを装着したニップル95aを先端に備え、ニップル95aを消火器接続口94bの開口に差し込むことで接続固定する。消火器接続口94bはスライダ95bを備え、スライダ95bを図示矢印の向きへスライド操作すると接続した消火器ノズル94aを取り外すことができる。
【0128】
図17は消火器84からの消火剤の放出に使用するシート28(28c)の実施形態であり、シート28(28c)には消火剤供給口32に続いて緩衝エリア96を設け、緩衝エリア96を介して放出口30を各所に配置した消火剤流通経路34を設けている。
【0129】
消火器84を開栓してシート28(28c)に消火剤を供給する場合、消火器84の蓄積圧力は例えば0.7MPa~0.98MPaと高圧であり、消火器84の開栓時にシート28(28c)の消火剤流通経路34及び放出口30に高圧の消火剤が加わると破損する可能性がある。
【0130】
そこで、消火剤流通経路34の入口側に圧力緩衝手段として緩衝エリア96(バッファエリア)を設け、消火剤供給開始後の初期段階で消火器84からの消火剤を一時的に滞留して消火剤供給圧力の上昇(または上昇率)を所定以下とし、消火剤流通経路34及び放出口30の破損を防止する。それ以外の構成は
図5のシート28(28a)または
図11のシート28(28b)と同様となる。
【0131】
なお,緩衝エリア96(圧力緩衝手段)に代えて、またはこれに加えて消火器連結部94、消火剤配管20または消火剤供給口32等に、消火器84からの消火剤供給圧力の上昇(または上昇率)を所定以下(消火剤流通経路34及び放出口30が破損しない程度)に調整する、例えばオリフィスやタンク等の圧力緩衝装置(第2の圧力緩衝手段)を設けるようにしても良い。また、緩衝エリア96をシート28(28c)の下側に配置することで、シート28(28c)を展開するときの重り(補助手段)として機能するようにしても良い。このような圧力緩衝手段や第2の圧力緩衝手段は、
図1乃至
図14で説明した実施形態においても必要に応じ適宜設けて良い。
【0132】
図15に示す防護区画10には火災検出設備として火災感知器14を設置し、受信機16に接続している。また、本実施形態では、消火器84の設置場所の近傍に火災警報灯16aを設置し、受信機16で火災感知器14からの火災信号を受信して火災警報を出力したときに、これに連動した受信機16からの制御信号により火災警報灯16aを点灯または点滅し、消火操作(具体的には開栓操作)を必要とする、或いは消火操作可能な消火器84の設置場所を示すようにしている。ここで、本実施形態の消火設備は、消火器具12、消火剤配管20、消火器84及び消火器連結部94で構成される。
【0133】
本実施形態の消火器具12は、火災発生時に、利用者が防護区画10となる部屋の外側の所定位置に配置している消火器84の安全ピン90を抜いてレバー92を握る開栓操作を行うと、防護区画10となる部屋の境界部例えば出入口の上部に設置したシート28(28c)に消火剤が供給され、シート28(28c)を展開すると共にシート28(28c)の各所に配置した複数の放出口30から消火剤を面放出し、火災の抑制消火を短時間で効果的に行うことを可能とする。
【0134】
また、利用者が消火器84の取扱いに不慣れであっても、消火器84の設置場所は例えば防護区画10となる部屋の外側であり、火災発生場所から離れていることから、慌てることなく落ち着いて操作することが可能であり、迅速且つ確実に消火器84の開栓操作を行うことができる。
【0135】
また、消火器84による消火剤の放出は例えば十数秒程度といった短時間であり、消火器84を使い終わっても火災が鎮火していないときは、消火器連結部94の消火器接続口94bからの消火器ノズル94aを取外し、予め別に準備している未使用の消火器84(ホース86に別に用意した消火器ノズル94aを予め装着したもの)に交換することで、消火剤の放出を継続し、確実な抑制消火を可能とする。なお、消火器を複数接続可能な消火器連結部を設け、或いは消火剤配管の複数個所に消火器連結部を設け、複数の消火器を消火剤配管20に予め接続しておくことで、使い終わった消火器を交換せずに消火剤の放出を継続するようにしても良い。
【0136】
また、防護区画10とは別の場所(本実施形態の消火器具12を設置していない場所)の火災発生時には、消火剤配管20から消火器84を外して火災発生場所へ運んで使用することができるので、消火器の設置本数を増やす必要がなく、維持管理コストの上昇を低減する。
【0137】
[f.消火器と水道配管を組み合わせた消火設備]
図18に示すように、本実施形態は、防護区画10となる部屋の境界部例えば出入口の上部に設置した消火器具12の消火剤供給源を、消火剤として例えば粉末消火剤や強化液消火剤を供給する消火器84と、消火剤として水道水を供給する水道配管18の組み合わせとしたことを特徴とする。
【0138】
消火剤配管10の一端側はシート28(28c)の消火剤供給口32に接続し、他端側を遠隔制御または手動により配管流路を開閉する配管開閉手段である並列接続した遠隔開閉弁24と手動開閉弁26を介して水道配管18に接続している。
【0139】
また、消火剤配管20の一端側と遠隔開閉弁24及び手動開閉弁26の間(図示A点)から分岐した配管に、消火剤配管20側から消火器84側への水道水の逆流を防止する逆流防止手段となる逆止弁98を介して消火器84を接続し、さらに、消火器配管20に対し消火器84を着脱自在に接続する連結手段となる消火器連結部94を設けている。消火器連結部94は消火器ノズル94aと消火器接続口94bで構成され、例えば
図16に示したと同様の連結継手構造とする。
【0140】
防護区画10には火災検出設備として火災感知器14を設置し、受信機16に接続している。消火器84の設置場所の近傍には警報表示灯16aを設置し、受信機16に接続している。火災警報灯16aは受信機16で火災感知器14からの火災信号を受信して火災警報を出力したときに、これに連動した受信機16からの制御信号を受けて点灯または点滅し、消火操作を必要とする、或いは消火操作可能な消火器84の設置場所を示す表示をする表示手段である。また、受信機16には遠隔開閉弁24の制御線を接続している。ここで、本実施形態の消火設備は、消火器具12、消火剤配管20、消火器84、消火器連結部94、逆止弁98、遠隔開閉弁24、手動開閉弁26、及び水道配管18により構成される。
【0141】
受信機16は例えば自動消火モードと手動消火モードが設定できる。自動消火モードは、例えば夜間等の時間帯に設定し、火災感知器14の火災検出(受信機の火災警報)に連動した受信機16からの制御信号(開制御信号)に基づく遠隔開閉弁24の開制御により消火剤を放出する。手動消火モードは例えば昼間の時間帯に設定し消火器84の開栓操作または手動開閉弁26の開操作により消火剤を放出する。なお、このように昼間/夜間の時間帯で手動消火モード/自動消火モードを切り替える以外に、人の在/不在に応じて手動消火モード/自動消火モードを切り替えるようにしても良いし、これらを組み合わせても良い。
【0142】
受信機16に手動消火モードを設定していた場合、防護区画10で火災が発生すると火災感知器14からの火災信号を受信機16が受信して火災警報を出力し、また、火災が発生した防護区画10に対応して設置した警報表示灯16aを点灯または点滅する。
【0143】
火災発生を知った関係者は、火災が発生した防護区画10に出向き、火災を確認すると消火器84の安全ピン90を抜いてレバー92を押し下げて開栓し、消火器84から消火剤を消火器具12に供給し、これによりシート28(28c)を展開すると共にシート28(28c)の各所に配置した複数の放出口30から粉末消火剤等を面放出し、火災を抑制消火する。
【0144】
消火器84からの消火剤を放出し終わっても火災の鎮火が確認できない場合には、手動開閉弁26を開操作し、消火器具12に水道水を供給し、展開したシート28(28c)の各所に配置した複数の放出口30から水道水を面放出し、火災を抑制消火する。水道水の放出は、消火器84からの消火剤の放出で火災が抑制された後に行われ、また水道水の放出は時間的な制約がないことから、火災を確実に鎮火することを可能とする。
【0145】
一方、受信機16に自動消火モードを設定していた場合には、火災感知器14から火災信号を受信した受信機16は開制御信号を遠隔開閉弁24に送信して開放し、水道水を消火器具12に供給し、シート28(28c)を展開すると共にシート28(28c)の各所に配置した複数の放出口30から水道水を面放出し、火災を抑制消火する。
【0146】
なお、自動消火モードであっても、例えば、火災の通報を受けて駆け付けた関係者が火災の勢いが衰えていないことを知ったような場合等には、例えば受信機16で遠隔開閉弁24を閉鎖する所定の操作例えば自動消火モードを解除して手動消火モードとする操作を行った後、消火器84の安全ピン90を抜いてレバー92を押し下げることで開栓し、消火器84から消火剤を消火器具12に供給し、展開しているシート28(28c)の各所に配置した複数の放出口30から消火剤を面放出し、火災を抑制消火することが可能となる。
【0147】
このようにして消火器84からの消火剤の放出後に再度、手動開閉弁26を開操作し、再び水道水の放出に切り替えることもできる。
【0148】
[g.シートを固定設置した消火設備]
図19に示すように、本実施形態は、防護区画10に消火器具12のシート28を広げた状態で固定設置したことを特徴とする。
【0149】
本実施形態の消火器具12は取付部12aとシート28で構成し、シート28の一端辺を取付部12aに固定している。消火器具12は、例えば、防護区画10となる部屋の所定の壁面上部に取付部12aを固定し、取付部12aに一端辺を固定したシート28を壁面に沿って降ろし、シート28を鋲等で揺れ動かない程度に壁面に固定する。それ以外の構成は
図1の実施形態と同様となる。
【0150】
本実施形態によれば、
図13に示したシート展開構造が不要となることで構成が簡単となり、コストを低減できる。
【0151】
図20はシートを固定設置する消火器具12の他の実施形態であり、本実施形態の消火器具12は、取付部12aとシート28(ラインシート28d)で構成し、シート28(28d)は複数の放出口30をひとつの直線状に配列している。シート28(28d)は
図6または
図9に示したと同じ方法で製作することができる。シート28(28d)には消火剤配管20を接続し、火災発生時に受信機16により遠隔開閉弁24を開制御するかまたは手動開閉弁26を開操作することで、消火剤として水道水を供給し、シート28(28d)に設けた放出口30から消火剤を放出し、抑制消火する。
【0152】
本実施形態のシート28(28d)は、放出点となる放出口30を横方向の一本の直線上に並べて配置した放出口列要素のみで全体の放出口列を構成することで、消火剤のライン放出により火災を消火抑制する。なお、シート28(28d)は上下方向(縦向き)に配置しても良いし、斜め向きに配置しても良い。
【0153】
また
図19及び
図20の消火器具12は消火剤として水道水を例にとっているが、
図15に示した消火器84を消火剤供給源としても良いし、
図18に示したように消火器84と水道水を組み合わせても良い。この場合、消火器48からラインシート28(28d)までの間の消火器連結部94、消火剤配管20または消火剤供給口32等に、消火器48からの消火剤供給圧力の上昇を所定以下に調整する圧力緩衝装置(第2の圧力緩衝手段)を設けるようにしても良い。
【0154】
また、複数のシート28(28d)によって消火剤の面放出を得るようにしても良い。例えば同一面上に複数のシート28(28d)を平行に並べて配置することで、全体として消火剤を面放出することができる。
【0155】
[h.倉庫の消火設備の基本的な概念]
図5乃至
図14に示した消火器具を用いた倉庫の消火設備について、実施の形態の基本的な概念を説明する。
【0156】
消火設備を設置する倉庫は、収納棚と搬送手段を備える。「収納棚」とは、複数の収納部が配置された棚であり、例えば、複数のラックが縦方向及び横方向に並べて配置されたラック棚を含む概念である。
【0157】
また、「搬送手段」とは、対象となる物品を搬送して収納部に対して出し入れ(収納部へ搬入または収納部から搬出)する手段であり、例えば、所謂スタッカクレーン等を含む概念である。
【0158】
消火器具は、収納棚の火災発生場所を含む所定の対象区画を仕切って消火剤を対象区画内に放出するように配置される。ここで、以下の倉庫の消火設備の実施形態における「対象区画」とは、消火対象とする領域区画であり、即ち例えば、収納棚のうちの火災が発生している所定の区画であるが、収納棚は、棚板の有無により、縦方向(高さ方向)に仕切構造のない収納棚と仕切構造のある収納棚に分類される。ここでは、仕切構造のある収納棚の場合は収納部(収納部の内部空間)そのもの、例えば所定のラック(ラックの内部空間)を対象区画とし、一方、仕切構造のない収納棚の場合は、収納部が縦方向に複数配列された収納部列(収納列の内部空間)、例えば所定のラック列(ラック列の内部空間)を対象区画とする場合を説明する。
【0159】
また、ラックまたはラック列は閉鎖された上下の構造面と、開口された他の周囲(上下を除いた周囲)の開口面を境界として構成されており、開口面に対応して消火器具が設けられている。このような倉庫の消火設備の実施形態において対象区画を例えばラックまたはラック列とした場合、「対象区画を仕切る」とは、消火器具のシートを展開してラックまたはラック列の少なくとも開口面を塞ぐことで、開口面以外の構造面とあわせて、ラックまたはラック列の境界をなす面の全て(例えば直方形の場合は境界6面の全て)をほぼ隙間なく塞ぐ概念である(ただし、内部を完全に密閉しなくてもよい)。
【0160】
以下、「収納棚」を「ラック棚」とし、「収納部」を「ラック」とし、「収納部列」を縦方向にラックを複数並べた「ラック列」とし、「搬送手段」を「スタッカクレーン」とした自動倉庫の場合について、詳細に説明する。
【0161】
[i.倉庫の消火設備の具体的内容]
(i1.自動倉庫の概要)
図21に示すように、自動倉庫100にはラック棚110が設置され、本実施の形態は、棚板による仕切構造を持たないラック棚110を例にとっている。ラック棚110には縦方向及び横方向に複数のラック118が配置され、スタッカクレーン120により、物品を任意のラック118に搬入して保管し、また、保管中の物品を搬出する。ここで、ラック棚110について、図示の如く、天板114が配置されているほうを上方とする上下方向を縦方向或いは高さ方向、上下方向に直交する天板114の長手方向を左右方向或いは横方向、また短手方向を前後方向或いは奥行方向と称する。
【0162】
ラック棚110は、床面の奥行方向に所定間隔で起立した2本の支柱112の組を横方向に所定間隔で起立し、各支柱112の上端に天板114を配置している。ラック棚110には、相互に隣接する4本の支柱112を1単位として、縦方向に、ここでは4段のラック118を配置したラック列を形成している。
【0163】
つまり、
図21及び
図22に示すように、奥行方向に一対のラックレール116を平行に配置し、これを縦方向に所定間隔で設けることで、4段のラック118を形成している。ラック118には、スタッカクレーン120によりパレット(荷台)130に積載されて物品がラック118に搬入され、また、ラック118から搬出される。
【0164】
このようにして形成されたラック列は、縦方向を仕切る棚板がないことから、物品を保管してない状態では、縦方向に貫通するラック空間を形成している。
【0165】
スタッカクレーン120は、走行レール132に沿って左右に走行する走行台車122に門型のクレーン枠体124を載置しており、クレーン枠体124の上側は天井レール134により案内される。クレーン枠体124には昇降台126が設けられ、2組のフォーク移送装置128が搭載され、これにより昇降台126を上下に移送してパレット130を任意のラック118に対して物品の搬送を可能としている。
【0166】
ラック118に対する物品の搬入は次のようになる。まずスタッカクレーン120を走行レール132に沿って走行移動台136側に移動して停止する。また、走行移動台136を走行レール135に沿って搬入部138に位置付けし、搬入部138からパレット130に物品を積載する。続いて、物品を積載したパレット130を走行移動台136のフォーク装置141により昇降台126に設けているフォーク移送装置128に移し替える。最後に、スタッカクレーン120を走行レール132に沿って左右に移動し、更に昇降台126を上下に移送して目的のラック118へ物品を搬入する。
【0167】
また、ラック118からの物品の搬出は概ね搬入時と反対の動作で行われ、スタッカクレーン120により走行移動台136へ移し替えられたパレット130上の物品は搬出部140から倉庫外へ搬出する。
【0168】
(i2.ラック列を対象区画とする消火設備)
次に、ラック棚110の任意のラック列を対象区画とした消火設備を、詳細に説明する。
【0169】
ラック列は、上端部が構造面を形成する天板114で閉鎖され、また、下端部は構造面を形成する倉庫の床面で閉鎖され、残る4つの側面が開口面となっている。消火器具12は、ラック列の周囲の開口面に対応して設置されるものである。具体的には、
図22に示すように、ラック列に対応した4本の支柱112の上端部に、例えば矩形枠状を呈するように4台の消火器具12が各々枠辺部に設置されている。ここで、ラック列の左右の開口面に対応する消火器具12は、長手方向の両端をそれぞれ対向する前後の支柱112に略接するようにして支柱112の上端部に設置され、また、本実施形態においては、隣接するラック118に対応するため、前後一対の支柱112につき2台が並べて配置されている。なお、これらを1台で共用してもよく、この場合例えば、この消火器具12のシート28には、その両面各々に対し独立の消火剤流通経路34及び放出口30を設けてもよい。
【0170】
このように設置された消火器具12の各々には、
図23に示すように、ラック列ごとに消火ポンプ設備(不図示)からの消火剤配管20が遠隔開閉弁24を介して接続される。また、ラック118の各々には火災検出手段となる火災感知器(不図示)が設置されている。
【0171】
ラック118或いはラック列で火災が発生したときの動作は次のようになる。
図24に示すように、ラック棚110の例えば搬入部138(
図21参照)に最も近い側のラック列で火災が発生したとすると、そのラック列の上端部に配置されている4台の消火器具12が、例えば消火剤の供給を受けてシート28を展開し、火災発生場所となるラック列の開口面を仕切って塞ぎ、続いて、
図25に示すように、シート28の内側シート面(ラック列内に面する側のシート面)に配置している、三角形で略示する放出口30から消火剤を放出する。
【0172】
このため、火災発生場所を含むラック列の前後左右の開口面がシート28により仕切られ、シート28の各所に設けた放出口30から火災が発生しているラック列内に消火剤が放出されることで、火災の抑制消火が確実に行われる。また、火災発生場所を含むラック列の開口面を仕切ることで、仕切られたラック列の外側に対し遮炎、遮煙、遮熱されることにより延焼と煙拡散が防止され、更に、消火剤の外部への散逸、放出を抑制し、例えば、隣接するラック列に保管している物品に対する水損を低減することができる。
【0173】
(i3.ラックを対象区画とする倉庫の消火設備)
次に、ラック棚110の任意のラック118を対象区画とした倉庫の消火設備について、詳細に説明する。
【0174】
図26に示すように、本実施の形態による自動倉庫100は、棚板による仕切構造を持ったラック棚110を設置した場合を例にとっている。このラック棚110は、
図21のラック棚の各ラック列の各々に、縦方向に所定間隔で例えば4枚の棚板150を配置し、4段のラック118を形成している。
【0175】
このため、最上部のラック118は上面を天板114で閉鎖されると共に底面を棚板150で閉鎖され、上から2段目乃至4段目のラック
118は上面及び底面を棚板150により閉鎖されている。そして、各ラックは残る4側面を開口面としており、開口面の上端部、即ち各ラックの上面側に、
図21において設置したと同様にして、例えば矩形枠状を呈するように4台の消火器具12が各々枠辺部に設置されている。また、ラック118の各々には火災感知器(不図示)が設置されている。また、ラック118ごとに配置された4台の消火器具12に対しては、
図23に示したと同様に、遠隔開閉弁を介して消火剤配管が接続されている(図示省略)。
【0176】
ラック118で火災が発生したときの動作は次のようになる。
図26及び
図27に示すように、例えば搬入部138(
図21参照)に最も近い側の下から2段目のラック118で火災が発生したとすると、このラック118の上部に配置されている4台の消火器具12が、例えば消火剤の供給を受けてシート28を展開し、ラック118の周囲の開口面を仕切って塞ぎ、三角形で略示する複数の放出口30から仕切られたラック118内へ消火剤を放出する。
【0177】
このため、火災発生場所となるラック118の前後左右の開口面が仕切られ、展開したシート28の放出口30から火災が発生しているラック118内に消火剤が放出されることで、火災の抑制消火が確実に行われる。また、火災発生場所となるラック118の開口面が仕切られることで、仕切られたラック118の外側に対し遮炎、遮煙、遮熱されることにより延焼と煙拡散が防止され、更に、消火剤の外部への散逸、放出を抑制し、例えば、隣接するラックまたはラック列に保管している物品に対する水損を低減することができる。
【0178】
なお、任意のラック118で火災が発生した場合に、例えば当該ラック118が含まれるラック列の、他の一部または全部のラック118についても、あわせて消火器具12を作動してシート28と展開し、消火剤を散布するようにしてもよい。
【0179】
[j.本発明の変形例]
本発明の変形例について、詳細に説明する。
【0180】
(シートの放出口配置)
上記の実施形態は、シート28の片面の各所に複数の放出口30を配置しているが、これに限定されず、シート28の両面の各所に複数の放出口30を配置してもよい。両面の各所に複数の放出口30を配置したシート28は、消火器具12を防護区画10となる部屋の中央の天井部等に設置し、火災発生時にシート28を上方から下方へ展開し、シート両面各所の複数の放出口30から両側に消火剤を面放出して火災を消火抑制する。
【0181】
(防護区画)
上記の実施形態は、防護区画として高齢者向けのグループホームの部屋を例にとっているが、一般住宅や集合住宅の部屋等の場合、例えば、火災感知器14と受信機16に代えて無線連動型の住宅用火災警報器を使用し、遠隔開閉弁24は住宅用火災警報器からの火災連動信号を受信して接点信号を出力する無線連動型のアダプタに接続し、火災発生時に接点信号によって遠隔開閉弁24を開駆動してシート28の各所に配置した複数の放出口30から消火剤を面放出するように構成しても良い。
【0182】
また、本発明の消火器具の適用対象は更に、例えば工場、学校、役所、その他適宜の施設に適用し得る。勿論、防護区画も部屋に限定されるものでなく、適宜の区画として良い。
【0183】
(消火剤流通経路)
上記の実施形態は、シート配管或いは防水糸を用いたミシン等による縫合や接着等により消火剤流通経路34を形成しているが、これに限定されない。例えば樹脂製等のチューブを用いた消火剤流通経路としても良い。
【0184】
(シート)
また、シート28の形状は実施形態に限定されず、例えば矩形以外に円形や楕円形、多角形等適宜の形状とすることができる。また、上記の実施形態は、ひとつの防護区画にシート28を1枚設置した場合を例にとっているが、一つの防護区画に設置するシート28の数は任意である。
【0185】
また、消火剤供給口、圧力緩衝エリアはそれぞれ一つのシートにつき任意の数を設けることができる。このとき、消火剤供給口に対しては逆流防止のための逆流防止構造(例えば逆止弁等)を設けて、消火剤供給装置を接続しない消火剤供給口から外部への消火剤の流出を防止するようにしても良い。
【0186】
(水道配管)
上記実施形態の水道配管は例えば水道用ホースを含んで良い。また例えば、水道用ホースと消火剤配管を着脱自在に連結する連結部(第2の連結手段)を設けても良い。
【0187】
上記の本実施形態においては配管開閉手段として遠隔開閉弁24と手動開閉弁26を備え、これらを並列に接続する場合を例にとっているが、一方のみを備えるものとしても良い。即ち、遠隔制御によってのみ開閉するものとしても良く、また、
図28の実施形態のような自動モードの設定はできないが、手動によってのみ開閉するものとしても良い。勿論、並列接続以外の接続方式を妨げない。
【0188】
(自動倉庫)
上記の倉庫の消火設備の実施形態では、ラック棚にスタッカクレーンにより物品を自動搬送して管理する自動倉庫を例にとっているが、これに限定されず、適用対象となる倉庫の形態は任意であり、例えば、フォークリフトの運転操作によりラック棚に対し物品の搬入と搬出を行う所謂手動倉庫についても、適用することができる。また、本実施形態の消火設備は、倉庫に限定されず、ラック棚等の収納棚を使用して物品を保管する適宜の施設に適用することができる。
【0189】
(自動倉庫の消火器具)
上記の実施形態は、対象区画となるラック棚110のラック118またはラック列の前後左右の開口面に対応して4台の消火器具12を配置しているが、これに限定されず、前後左右の開口面の少なくとも何れか一つの開口面に対応して消火器具を設けてもよい。この場合、消火器具12を設けていない開口面はそのままとしても良いが、例えば、消火剤を放出しない構造のシートを備えた消火器具12を配置し、火災発生時にシートを展開し、消火剤は放水しないが開口面を塞ぐようにしてもよい。ここで、「消火剤を放水しない構造のシートを備えた消火器具12」とは、
図5乃至
図14に示したシート28(28a,28b)から消火剤供給口
32、消火剤流通経路34及び放出口30を除いた布状体のみで構成されたものとしてもよい。
【0190】
(火災検知手段)
また、上記の倉庫の消火設備の実施形態では、火災検出手段として、火災感知器により対象区画の火災を検知しているが、これに限定されず任意であり、火災発生場所となる対象区画を検出して特定できるものであれば、適宜の火災を検出する手段を含むものである。
【0191】
(その他)
また、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0192】
10:防護区画
11:出入口
12:消火器具
12a:取付部
14:火災感知器
16:受信機
16a:火災警報灯
18:水道配管
20:消火剤配管
24:遠隔開閉弁
25:仕切弁
26:手動開閉弁
28,28a,28b,28c,28d:シート
30:放出口
31:テーブル
32:消火剤供給口
34:消火剤流通経路
36:第1カバーシート
38:第2カバーシート
40:シート配管
41:消火剤
42:ベース
44:挟着リング
46:ねじ軸
48:ねじ穴
50:放出孔
52:第1防水シート
54:第2防水シート
56,58:通し穴
60,61:縫合部
62:本体
64:シート保持部材
64a:止め輪
66:シート保持解除部
68:アクチュエータ
70:シリンダ
70a:シリンダ室
72:ピストン
73:自動排水弁
74:ロッド
76:リターンばね
78:消火剤供給ポート
80:操作スティック
82:開口
84:消火器
86:ホース
90:安全ピン
92:レバー
94:消火器連結部
94a:消火器ノズル
94b:消火器接続口
96:緩衝エリア
98:逆止弁
100:自動倉庫
110:ラック棚
112:支柱
114:天板
116:ラックレール
118:ラック
120:スタッカクレーン
122:走行台車
124:クレーン枠体
126:昇降台
128:フォーク移送装置
130:パレット
132,135:走行レール
134:天井レール
136:走行移動台
138:搬入部
140:搬出部
141:フォーク装置
150:棚板