(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】張力測定デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20241217BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20241217BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
G01N33/483 A
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2020045693
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 穂高
(72)【発明者】
【氏名】小川 徹也
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-076046(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0219659(US,A1)
【文献】米国特許第05081035(US,A)
【文献】特開2020-010683(JP,A)
【文献】特開2009-136797(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0184024(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0176140(US,A1)
【文献】特開2006-174828(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0043918(US,A1)
【文献】特表2002-500004(JP,A)
【文献】米国特許第04911713(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
G01N 33/48-33/98
C12Q 1/00-3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋細胞を含む細胞構造体の張力測定デバイスであって、
ゲルおよび前記細胞構造体が保持されるゲルアダプタホルダ組立体と、
前記細胞構造体およびゲルアダプタホルダ組立体が配置され、前記細胞構造体が浸されるように培地が充填される第1の容器と、
前記第1の容器内に投与される薬剤が注入される第2の容器と、
前記第1の容器および前記第2の容器を液密に連結する第1チューブと、
前記第1チューブ上に配置され、前記第2の容器内の液体を前記第1の容器内に流入させるポンプと、を有し、
前記第1の容器を鉛直方向の上方から視たときに、前記第1チューブは、
前記第1の容器の前記鉛直方向と直交方向で前記第1の容器の中心を通る中心線からずれた位置において前記第1の容器の側面に連結される張力測定デバイス。
【請求項2】
前記第1チューブとは別系統で、前記第1の容器および前記第2の容器を液密に連結する第2チューブをさらに有する、請求項1に記載の張力測定デバイス。
【請求項3】
前記第1チューブは、前記第1の容器に連結される箇所において、鉛直方向に沿って複数分岐される請求項1
または2に記載の張力測定デバイス。
【請求項4】
前記第2の容器は、前記第1の容器に対して、表面積が小さい、請求項1~
3のいずれか1項に記載の張力測定デバイス。
【請求項5】
前記第2の容器には、液体の残量を示すメモリが記されている、請求項1~
4のいずれか1項に記載の張力測定デバイス。
【請求項6】
前記第2の容器に連結され、前記第2の容器内の液体を廃棄するための第3チューブをさらに有する、請求項2に記載の張力測定デバイス。
【請求項7】
前記第1チューブとは別系統で、前記第1の容器および前記第2の容器を液密に連結する第4チューブと、
前記第4チューブ上に配置され、前記第1の容器内の液体を前記第2の容器内に流入させる流入ポンプと、をさらに有する、請求項
6に記載の張力測定デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋細胞を含む細胞構造体の張力測定デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な機能細胞へ分化する能力を有するiPS細胞などの多能性幹細胞を利用した創薬スクリーニング方法が開発されている。しかしながら、従来用いられている評価系は、細胞単体を用いるものであり、生体組織の状態を反映していない。そのため、多能性幹細胞から分化誘導した体細胞から、生体組織を模倣する評価系を開発することが求められている。
【0003】
細胞を三次元的に構築する試みとしては、例えば、細胞をスキャフォールドと呼ばれる三次元構造体に播種する方法や、臓器・組織を脱細胞化し、残存したマトリックスに細胞を播種して三次元化する方法、シート状に剥離された細胞シートを三次元的に積層する方法などが開発されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1)。
【0004】
こうした技術を駆使し、創薬スクリーニングに利用するための評価系の研究開発が行われている。これに関連して、例えば下記の特許文献2には、心筋細胞を含むシート状組織の張力測定デバイス、システム、およびキットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平02-211865号公報
【文献】特開2019-76046号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Haraguchi Y.,et al.,Scaffold-free tissue engineering using cell sheet technology.RSC Adv.,2012;2:2184-2190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に係る張力測定デバイスには、心筋細胞の拍動に由来する微小な張力を測定するための高感度な張力検出手段が設けられている。また特許文献2に係る張力測定デバイスでは、心筋細胞が配置されている培地槽(第1の容器)に、薬剤が直接流入される。このため、薬剤の流入の際の振動が張力検出手段に影響して、正確に張力を測定できない虞がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために発明されたものであり、張力検出手段に影響を及ぼす振動を低減して、正確に張力を測定することのできる張力測定デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明に係る張力測定デバイスは、筋細胞を含む細胞構造体の張力測定デバイスである。張力測定デバイスは、ゲルおよび前記細胞構造体が保持されるゲルアダプタホルダ組立体と、前記細胞構造体およびゲルアダプタホルダ組立体が配置され、前記細胞構造体が浸されるように培地が充填される第1の容器と、前記第1の容器内に投与される薬剤が注入される第2の容器と、前記第1の容器および前記第2の容器を液密に連結する第1チューブと、前記第1チューブ上に配置され、前記第2の容器内の液体を前記第1の容器内に流入させるポンプと、を有する。前記第1の容器を鉛直方向の上方から視たときに、前記第1チューブは、前記第1の容器の前記鉛直方向と直交方向で前記第1の容器の中心を通る中心線からずれた位置において前記第1の容器の側面に連結される。
【発明の効果】
【0010】
上述した張力測定デバイスによれば、ポンプによって第1チューブを介して、第2の容器内の薬剤および培地が第1の容器内に流入される。このため、薬剤を直接第1の容器に流入させる場合と比較して、張力検出手段に影響を及ぼす振動を低減できる。したがって、張力検出手段に影響を及ぼす振動を低減して、正確に張力を測定することのできる張力測定デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る張力測定デバイスを示す概略斜視図である。
【
図2】ゲルアダプタホルダ組立体を示す概略図である。
【
図3】第1ゲルアダプタホルダを示す概略図である。
【
図4】第2ゲルアダプタホルダを示す概略図である。
【
図5】第1ゲルアダプタホルダおよび第2ゲルアダプタホルダにゲルおよび細胞構造体を配置する方法を説明するための図である。
【
図6】第1実施形態に係る張力測定デバイスの一部を示す概略図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る張力測定デバイスの一部を示す概略図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係る張力測定デバイスの一部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
図1は、本発明の第1実施形態に係る張力測定デバイス1を示す概略斜視図である。
図2は、ゲルアダプタホルダ組立体10を示す概略図である。
図3は、第1ゲルアダプタホルダ11を示す概略図である。
図4は、第2ゲルアダプタホルダ12を示す概略図である。
図5は、第1ゲルアダプタホルダ11および第2ゲルアダプタホルダ12にゲルGおよび細胞構造体CSを配置する方法を説明するための図である。
図6は、第1実施形態に係る張力測定デバイス1の一部を示す概略図である。
【0014】
以下、本実施形態に係る張力測定デバイス1の構成の説明を行う前に、張力測定デバイス1の測定対象である筋細胞を含む細胞構造体CSについて説明する。
【0015】
<筋細胞を含む細胞構造体>
本明細書において、「筋細胞を含む細胞構造体」とは、生体から採取した筋細胞を含む生体組織(例えば、心筋組織、骨格筋組織、平滑筋組織など)や、筋細胞を含む構造体をいう。本発明に適用し得る、筋細胞を含む細胞構造体は、生体から採取した生体組織そのものや、例えば、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた心筋組織等、生体から採取した生体組織を加工した生体組織であってもよい。また、本発明に適用し得る筋細胞を含む細胞構造体は、筋細胞を含む懸濁液とゲル溶液又はゲル化剤とを混合させて形成した細胞構造体であってもよく、細胞シートであってもよい。さらにまた、本発明に適用し得る筋細胞を含む細胞構造体とは、ゲルの上に、筋細胞を含む細胞群を直接播種し、培養することにより形成されるものであってもよい。
【0016】
一実施態様において、本発明に適用し得る、筋細胞を含む細胞構造体は、シート状、棒状及び紐状からなる群から少なくとも1つ選択されてもよく、好ましくはシート状の細胞構造体である。
【0017】
本明細書において、「シート状の細胞構造体」とは、例えば、約10μm(例えば、細胞1個分の厚さ)以上~約2mm以下の平均の厚さを有し、かつ、後述の第1ゲル保持部と第2ゲル保持部との間に適用し得る長さを有する、膜状の細胞構造体をいう。「シート状の細胞構造体」の幅は、第1ゲル保持部及び第2ゲル保持部に適用し得る幅であればよく、限定されない。1枚の「シート状の細胞構造体」が、張力測定デバイスに適用されてもよく、複数枚の「シート状の細胞構造体」が張力測定デバイスに適用されてもよい。複数枚の「シート状の細胞構造体」は、第1ゲル保持部と第2ゲル保持部の間に並列に適用されてもよく、積層されて適用されてもよい。
【0018】
本明細書において、「棒状の細胞構造体」とは、例えば、約100μm以上~約5mm以下の平均直径を有し、かつ、後述の第1ゲル保持部と第2ゲル保持部との間に適用し得る長さを有する細胞構造体をいう。1本の「棒状の細胞構造体」が、張力測定デバイスに適用されてもよく、複数本の「シート状の細胞構造体」が張力測定デバイスに適用されてもよい。複数本の「棒状の細胞構造体」は、第1ゲル保持部と第2ゲル保持部の間に並列に適用されてもよく、束ねられて適用されてもよい。
【0019】
本明細書において、「紐状の細胞構造体」とは、例えば、約10μm以上~約100μm未満の平均直径を有し、かつ、後述の第1ゲル保持部と第2ゲル保持部との間に適用し得る長さを有する三次元細胞構造体をいう。1本の「紐状の細胞構造体」が、張力測定デバイスに適用されてもよく、複数本の「紐状の細胞構造体」が張力測定デバイスに適用されてもよい。複数本の「紐状の細胞構造体」は、第1ゲル保持部と第2ゲル保持部の間に並列に適用されてもよく、束ねられて適用されてもよい。
【0020】
なお、「棒状の細胞構造体」と「紐状の細胞構造体」は、その直径によって便宜的に上記のように分けて表現しているが、いずれも細長い形状の細胞構造体を表すものであり、相互に用語を入れ替えて使用されてもよい。
【0021】
本発明に適用し得る「棒状の細胞構造体」又は「紐状の細胞構造体」は、例えば、シート状の細胞構造体を棒状又は紐状に形成(例えば、巻きとる、よじる、収縮させる、又は切断する等)してもよく、棒状又紐状のモールドに細胞と任意のゲルを含む懸濁液を流し込んで形成したものであってもよい(例えば、Zhao Y,Cell.2019 Feb 7;176(4):913-927参照)。
【0022】
本明細書において、「筋細胞を含む細胞構造体」とは、細胞構造体に含まれる筋細胞数のうち、少なくとも筋細胞が10%以上含まれるものをいい、例えば、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上含まれる。本明細書において、「筋細胞」とは、動物体の筋肉組織を形成する収縮性を有する細胞であり、例えば、心筋細胞、骨格筋細胞及び平滑筋細胞が挙げられる。一実施態様において、本発明において用いられる「筋細胞」は、心筋細胞、骨格筋細胞及び平滑筋細胞からなる群から少なくとも1つ選択される。本発明に用いることができる筋細胞は動物由来のものであればよく、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類の筋細胞を用いることができる。好ましくは、哺乳動物由来の筋細胞であり、例えば、マウス、ラット、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ネコ、ヤギなどの哺乳動物由来の筋細胞を用いることができる。
【0023】
本発明に利用可能な筋細胞は、生体組織から採取された初代細胞であってもよく、株化された細胞であってもよく、多能性幹細胞若しくは組織幹細胞から分化誘導された細胞であってもよい。
【0024】
本明細書において「多能性幹細胞」とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞の総称することを意図する。限定されるわけではないが、多能性幹細胞は胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、胚性癌腫細胞(embryonic carcinoma cell:EC細胞)、栄養芽幹細胞(trophoblast stem cell:TS細胞)、エビブラスト幹細胞(epiblast stem cell:EpiS細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cell:EG細胞)、多能性生殖細胞(multipotent germline stem cell:mGS細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、Muse細胞等を含む。好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。多能性幹細胞としては公知の任意のものを使用可能であるが、例えば、国際公開第2009/123349号(PCT/JP2009/057041)に記載の多能性幹細胞を使用することができる。
【0025】
本発明に用いることができる筋細胞は、多能性幹細胞から分化誘導された細胞であってもよい。多能性細胞から筋細胞へ分化させる方法は、公知の方法を用いることができる(例えば、Matsuura K.,et al.Creation of human cardiac cell sheets using pluripotent stem cells.Biochem.Biophys.Res.Commun.2012 Aug 24;425(2):321-327等を参照のこと)。
【0026】
筋細胞を含む細胞構造体には、筋細胞以外の細胞が含まれていてもよい。例えば、心筋芽細胞、筋芽細胞、間葉系幹細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞等が含まれていてもよい。
【0027】
以上、筋細胞を含む細胞構造体CSについて説明した。次に、本実施形態に係る張力測定デバイス1の構成について説明する。
【0028】
張力測定デバイス1は、
図1に示すように、ゲルGおよび細胞構造体CSが保持されるゲルアダプタホルダ組立体10と、細胞構造体CSの拍動に起因する張力を検出する張力検出手段20と、ゲルアダプタホルダ組立体10および張力検出手段20を連結する連結部材30と、細胞構造体CSおよびゲルアダプタホルダ組立体10が配置される第1の容器40と、第1の容器40内に投与される薬剤が注入される第2の容器50と、第1の容器40および第2の容器50を液密に連結する第1チューブ60と、第1チューブ60上に配置されるポンプ70と、第1の容器40および第2の容器50を液密に連結する第2チューブ80と、を有する。
【0029】
ゲルアダプタホルダ組立体10には、
図2~
図5に示すように、ゲルGおよび細胞構造体CSが保持される。
【0030】
本発明において適用され得るゲルとは、(1)筋細胞を含む細胞構造体が接着可能であり、(2)シート形状を維持できる強度を有し、(3)細胞の生育、機能発現等に悪影響を与えない、すなわち生体適合性のものであれば利用することができる。本発明に適用され得るゲルは、例えば、ハイドロゲルである。本発明に適応し得るハイドロゲルとしては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などの水溶性、水親和性、若しくは水吸収性合成高分子、多糖、タンパク質、核酸などを化学架橋したハイドロゲルが挙げられる。多糖としては、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチン、セルロース等が挙げられる。また、タンパク質としては、コラーゲン及びその加水分解物であるゼラチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、エンタクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン(例えば、フィブリノーゲンとトロンビンを反応させたフィブリンゲル)等が挙げられる。これらのハイドロゲルに対し、公知の方法を用いて架橋処理を行い、強度を上げて使用してもよい。本発明に適用され得るゲルとしては、好ましくは、フィブリンゲルである。本発明の一実施形態において、ゲルは、予め細胞と混合させて形成させたものであってもよい。
【0031】
以下、ゲルアダプタホルダ組立体10の構成の一例について説明するが、ゲルアダプタホルダ組立体10の構成は、ゲルGおよび細胞構造体CSを保持することができる限りにおいて、以下の構成に限定されない。
【0032】
ゲルアダプタホルダ組立体10は、特願2019-036677に記載されているものを用いることができる。このため、ここではゲルアダプタホルダ組立体10の詳細な説明は省略して、概略の構成についてのみ説明する。
【0033】
ゲルアダプタホルダ組立体10は、
図2~
図4に示すように、第1ゲルアダプタホルダ11および第2ゲルアダプタホルダ12を有する。
【0034】
第1ゲルアダプタホルダ11および第2ゲルアダプタホルダ12は、
図2に示すように、組み立てられることによって、ゲルアダプタホルダ組立体10を構成する。
【0035】
第1ゲルアダプタホルダ11は、
図2、
図3に示すように、枠部材110と、ゲルGの一端を固定するための第1ゲル保持部111と、第1の容器40の蓋体41に固定される一対の爪部117と、を有する。
【0036】
枠部材110が設けられることによって、ゲルGおよび細胞構造体CSの形状を維持したまま、ゲルアダプタホルダ組立体10を第1の容器40の蓋体41(後述)に取り付けることができる。
【0037】
第1ゲルアダプタホルダ11を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、セルロース、セルロース誘導体、ポリシリコーン、金属などが挙げられる。
【0038】
第2ゲルアダプタホルダ12は、
図2、
図4に示すように、連結部材30が接続される接続部120と、ゲルGの他端を固定するための第2ゲル保持部121と、接続部120および第2ゲル保持部121を連結する連結部124と、を有する。
【0039】
接続部120には、連結部材30と接続するための接続口126が設けられている。
【0040】
第2ゲルアダプタホルダ12を構成する材料は、第1ゲルアダプタホルダ11を構成する材料と同一のものを用いることができる。
【0041】
以下、
図5を参照して、第1ゲルアダプタホルダ11および第2ゲルアダプタホルダ12に、ゲルGおよび細胞構造体CSを配置する方法について説明する。なお、当該方法は、特願2019-036677に記載されている方法を用いることができる。このため、ここではゲルGおよび細胞構造体CSを配置する方法の詳細な説明は省略して、概略についてのみ説明する。
【0042】
まず、第1ゲルアダプタホルダ11および第2ゲルアダプタホルダ12を基板13にセットし、ピペットPを用いて、硬化前のゲル化剤(例えば、フィブリノーゲン(SIGMA ウシ血漿由来 Type I-S)、トロンビン(SIGMA ウシ血漿由来 T4648)、CaCl
2溶液(8mM)、およびFactor XIII(CSL Behring フィブロガミンP静注用)の混合液)を注入する(
図5(A))。
【0043】
次に、ゲル形成蓋体14で、第1ゲル保持部111および第2ゲル保持部121に蓋をする(
図5(B))。
【0044】
次に、ゲルが硬化後、第1ゲルアダプタホルダ11および第2ゲルアダプタホルダ12からゲル形成蓋体14および基板13を取り外す(
図5(C))。
【0045】
上記とは別に、温度応答性培養皿D1(例えば、UpCell(登録商標)(セルシード社、東京、日本))上に筋細胞を含む細胞群を播種してコンフルエントになるまで37℃で予め培養しておく。
【0046】
そして、温度応答性培養皿D1の筋細胞を含む細胞構造体CSの上に、上記で得られたゲルを備えた第1ゲルアダプタホルダ11および第2ゲルアダプタホルダ12を載せる(
図5(C))。
【0047】
そして、温度応答性培養皿D1の下限臨界溶液温度以下、例えば20℃に保ち、温度応答性培養皿D1から筋細胞を含む細胞構造体CSを剥離させると同時に、ゲルGの下面に筋細胞を含む細胞構造体CSを接着させる(
図5(D))。
【0048】
以下、張力測定デバイス1の構成の説明に戻る。
【0049】
張力検出手段20は、筋細胞を含む細胞構造体CSが拍動することによって生じる張力を測定する。張力検出手段20は、
図1に示すように、連結部材30を介してゲルアダプタホルダ組立体10に接続される。筋細胞を含む細胞構造体CSが収縮すると、第2ゲルアダプタホルダ12が鉛直方向の下方へ引っ張られ、連結部材30を介して、張力検出手段20により加重が検出される。張力検出手段20は、例えば、公知のロードセルを用いることができる。
【0050】
連結部材30は、
図1に示すように、ゲルアダプタホルダ組立体10および張力検出手段20を連結する。連結部材30は、フック31と、接続部32と、を有する。
【0051】
フック31は、第2ゲルアダプタホルダ12の接続口126に挿通される。接続部32は、張力検出手段20に接続される。
【0052】
連結部材30は、第2ゲルアダプタホルダ12および張力検出手段20を連結できる限りにおいて、上記の構成に限定されない。
【0053】
第1の容器40には、ゲルGおよび細胞構造体CSを備えたゲルアダプタホルダ組立体10が収容される。第1の容器40には蓋体41が取り付けられる。
【0054】
蓋体41には、第1ゲルアダプタホルダ11の一対の爪部117が嵌合する。
【0055】
第2の容器50は、第1の容器40と略同一の高さとなるように構成されている。第2の容器50には、第1の容器40内に投与される薬剤が注入される。第2の容器50は、第1の容器40に対して表面積が小さい。この構成によれば少量の薬剤および培地を用いて、第2の容器50から第1の容器40に薬剤および培地を送ることができる。以下の説明において、薬剤および/または培地を、液体と称する場合がある。
【0056】
第2の容器50の下方には、
図6に示すように、ヒーター51が設けられる。ここで、例えば第1の容器40の下方にヒーターが設けられている場合、局所的な温度上昇により、第1の容器40において培地蒸発が生じる。これに対して、本実施形態では、第2の容器50の下方にヒーター51が設けられているため、第1の容器40において局所的な温度上昇による培地蒸発が生じることを防止できる。なお、第1の容器40の下方にヒーターが設けられる構成も本発明に含まれるものとする。
【0057】
第1チューブ60は、第1の容器40および第2の容器50を液密に連結する。
図6に示すように、鉛直方向の上方から視たとき、第1チューブ60は、第1の容器40の鉛直方向と直交方向で第1の容器40の中心を通る中心線L1からオフセットするように第1の容器40に連結される。この構成によれば、第1の容器40内に回転流Fを発生させて、撹拌が促進される。このため、薬剤を培地に対してより早く撹拌することができる。さらに、第1の容器40内の上方において酸素濃度が高くなっている濃度勾配を平坦化することができる。
【0058】
第1チューブ60は、
図6に示すように、第1の容器40に連結される箇所61において、鉛直方向に沿って2つに分岐されている。この構成によれば、鉛直方向に沿って2つに分岐されず1本で連結されている構成と比較して、第1の容器40内に流入される液体の流速を下げつつ、より早く薬剤を混ぜることができる。
【0059】
ポンプ70は、
図6に示すように、第1チューブ60上に配置される。ポンプ70としては、特に限定されないが、チューブポンプ70を用いることができる。このようにポンプ70としてチューブポンプ70を用いることによって、第2の容器50から第1の容器40への液体の移動を容易に制御することができる。
【0060】
チューブポンプ70は、
図6に示すように、周方向に120度間隔で配置された3つのローラ71と、3つのローラ71を周方向に回転させる回転部72と、第1チューブ60と接続されるチューブ73と、を有する。
【0061】
チューブポンプ70の3つのローラ71が周方向に沿って回転する際に、チューブ73を押圧することによって、第2の容器50内の液体が第1の容器40内に移動される。
【0062】
第2チューブ80は、
図6に示すように、第1の容器40および第2の容器50を液密に連結する。第2チューブ80上にはポンプは配置されない。
【0063】
このように第2チューブ80が設けられることによって、チューブポンプ70によって、第2の容器50から第1の容器40に液体が移動して、第1の容器40内の液体の高さが第2の容器50内の液体の高さよりも高くなるときに、第2チューブ80を介して、第1の容器40内の液体が第2の容器50に移動する。これによって、第1の容器40内の液体および第2の容器50内の液体の高さを同一となるように、維持し続けることができる。
【0064】
次に、本実施形態に係る張力測定デバイス1の使用方法について説明する。
【0065】
まず、第1の容器40および第2の容器50を第1チューブ60および第2チューブ80によって連結して、第1チューブ60上にチューブポンプ70を設置する。第1の容器40に、ゲルGおよび細胞構造体CSが取り付けられたゲルアダプタホルダ組立体10をセットする。このとき、第1の容器40内に例えば45ml、第2の容器50内に5ml培地を入れる。
【0066】
そして、チューブポンプ70および第2チューブ80によって、第1の容器40および第2の容器50内の液体を循環させる。この状態において、任意のタイミングで第2の容器50に、例えば薬剤を5μlだけ投与する。
【0067】
ここで、チューブポンプ70は、第2の容器50内の液体を第1の容器40に移動させる。この結果、第2の容器50内の液体は減少するとともに、第1の容器40内の液体は増加する。ここで、第2チューブ80によって、第1の容器40および第2の容器50の高さが同一となるように、第1の容器40から第2の容器50に液体が移動する。
【0068】
以上説明したように、本実施形態に係る張力測定デバイス1は、筋細胞を含む細胞構造体CSの張力測定デバイス1である。張力測定デバイス1は、細胞構造体CSが配置され、細胞構造体CSが浸されるように培地が充填される第1の容器40と、第1の容器40内に投与される薬剤が注入される第2の容器50と、第1の容器40および第2の容器50を液密に連結する第1チューブ60と、第1チューブ60上に配置され、第2の容器50内の液体を第1の容器内に流入させるポンプ70と、を有する。このように構成された張力測定デバイス1によれば、ポンプ70によって第1チューブ60を介して、第2の容器50内の薬剤および培地が第1の容器40内に流入される。このため、薬剤を直接第1の容器40に流入させる場合と比較して、張力検出手段20に影響を及ぼす振動を低減できる。したがって、張力検出手段20に影響を及ぼす振動を低減して、正確に張力を測定することができる。
【0069】
また、チューブポンプ70が、第1の容器40から離間して、第1チューブ60上に配置されているため、チューブポンプ70の振動によって、張力の測定の精度が低下することを好適に抑制することができる。
【0070】
また、例えば、第1の容器40内に直接薬剤を投与する場合、筋細胞を含む細胞構造体CS近傍に薬剤を投与するため、急に高濃度の薬剤が細胞構造体CSに暴露される可能性がある。これに対して、本実施形態に係る張力測定デバイス1によれば、第2の容器50において培地によって希釈された薬剤が第1の容器40内に投与されるため、急に高濃度の薬剤が細胞構造体CSに暴露されることを防止することができる。
【0071】
また、張力測定デバイス1は、第1チューブ60とは別系統で、第1の容器40および第2の容器50を液密に連結する第2チューブ80をさらに有する。この構成によれば、チューブポンプ70を逆回転させることなく、第1の容器40から第2の容器50に向けて液体を移動させることができる。このため、容易に第1の容器40および第2の容器50内の液体を循環させることができる。
【0072】
また、第1の容器40を鉛直方向の上方から視たときに、第1チューブ60は、中心線L1からオフセットされた位置において第1の容器40に連結される。この構成によれば、第1の容器40内に回転流Fを発生させて、撹拌が可能となる。このため、薬剤を培地に対してより早く混ぜることができる。さらに、第1の容器40内の上方において酸素濃度が高くなっている濃度勾配を平坦化することができる。
【0073】
また、第1チューブ60は、第1の容器40に連結される箇所において、鉛直方向に沿って2つに分岐される。この構成によれば、鉛直方向に沿って2つに分岐されず1本で連結されている構成と比較して、第1の容器40内に流入される液体の流速を下げつつ、より早く薬剤を混ぜることができる。
【0074】
また、第2の容器50は、第1の容器40に対して、表面積が小さい。この構成によれば、少量の薬剤および培地を用いて、第2の容器50から第1の容器40に薬剤および培地を送ることができる。
【0075】
<第2実施形態>
次に、
図7を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態と共通する部分は説明を省略し、第2実施形態のみに特徴のある箇所について説明する。
【0076】
図7は、本発明の第2実施形態に係る張力測定デバイス2の一部を示す概略図である。
【0077】
第2実施形態に係る張力測定デバイス2は、
図7に示すように、第2の容器50にメモリMが記されている点、第2の容器50に第3チューブ190が連結されている点、および第2チューブ80上に開閉弁81が設けられている点等が異なる。
【0078】
第2実施形態に係る張力測定デバイス2において、第2の容器50には、
図7に示すように、メモリMが付されている。メモリMが付される間隔は特に限定されないが、例えば鉛直方向に沿って1mmである。
【0079】
開閉弁81は、第2チューブ80上に設けられている。開閉弁81は、張力測定時では常に開放している。
【0080】
第3チューブ190は、第2の容器50に液密に連結されている。第3チューブ190上には、開閉弁191が配置されている。
【0081】
第3チューブ190は、廃棄用のチューブである。第2実施形態に係る張力測定デバイス2において、開閉弁191を開放することによって、第1の容器40および第2の容器50内の培地を交換することができる。そして、第2の容器50から新鮮な培地を投入して、チューブポンプ70を駆動させることによって、第2の容器50から第1の容器40に新鮮な培地を投入することができる。
【0082】
張力測定デバイス2において、第1の容器40内の培地が蒸発した場合、蒸発した量と同量の培地を投入して、第1の容器40内の培地の量を一定にすることが求められている。
【0083】
第2実施形態に係る張力測定デバイス2において、第1の容器40内の培地が蒸発した場合、第2チューブ80の開閉弁81を閉鎖する。そして、チューブポンプ70によって、第1の容器40内が45mlになるように、第2の容器50から第1の容器40に液体を供給する。そして、第2の容器50における液体の減少分をメモリMから把握して、第2の容器50に培地を投入することで、第1の容器40内の培地の量を一定にすることができる。ここで、第2の容器50の表面積は第1の容器40の表面積より小さく設けられているため、第2の容器50において、第1の容器40内の培地の減少量を好適に把握することができる。
【0084】
なお、第1の容器40の培地が蒸発したとき、第1の容器40に45ml入るように、第1の容器40の高さを下げて、このときの第2の容器50における液体の減少分をメモリMから把握してもよい。
【0085】
<第3実施形態>
次に、
図8を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。第1実施形態と共通する部分は説明を省略し、第3実施形態のみに特徴のある箇所について説明する。
【0086】
図8は、本発明の第3実施形態に係る張力測定デバイス3の一部を示す概略図である。
【0087】
第3実施形態に係る張力測定デバイス3は、
図8に示すように、第1チューブ60および第2チューブ80とは別系統で、第4チューブ290が設けられている点が異なる。
【0088】
第3実施形態に係る張力測定デバイス3は、第1の容器40および第2の容器50を液密に連結する第4チューブ290を有する。第4チューブ290上には、チューブポンプ291(流入ポンプに相当)が配置されている。
【0089】
チューブポンプ291は、第1の容器40内の液体を第2の容器50に移動させる。チューブポンプ70によって、第2の容器50内の液体を第1の容器40に移動させるとともに、チューブポンプ291によって、第1の容器40内の液体を第2の容器50に移動させることによって、第1の容器40および第2の容器50内の液体を循環させる。
【0090】
また、チューブポンプ70およびチューブポンプ291の流速が異なる場合であっても、第2チューブ80によって、第1の容器40および第2の容器50内の液体の高さが同一とすることができる。
【0091】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で種々改変することができる。
【0092】
例えば上述した第1実施形態では、第2の容器50の下方にヒーター51が配置されていた。しかしながら、ヒーターは、第1チューブ60または第2チューブ80の外周に設けられる構成であってもよい。
【0093】
また、上述した第1実施形態では、張力測定デバイス1は、第2チューブ80を有した。しかしながら、張力測定デバイスは、第2チューブ80を有していなくてもよい。このとき、チューブポンプ70を順回転および逆回転することによって、第1の容器40および第2の容器50の間で液体を循環させる。
【0094】
また、上述した第1実施形態では、第1チューブ60は、中心線L1からオフセットされた位置において第1の容器40に連結された。しかしながら、例えば、ゲルアダプタホルダ組立体10に保持されるゲルGおよび細胞構造体CSが、第1の容器40の鉛直方向と直交方向で第1の容器40の中心を通る中心線L1からオフセットされていた場合、第1チューブは、中心線L1からオフセットされない位置において第1の容器40に連結されてもよい。
【0095】
また、上述した第1実施形態では、第1チューブ60は、第1の容器40に連結される箇所において、鉛直方向に沿って2つ分岐された。しかしながら、チューブ内径が細い場合等、チューブ内の流速が早くなる場合等は分岐される数は3つ以上であってもよい。また、第1チューブ60は、第1の容器40に連結される箇所において鉛直方向に限らず上下方向や左右方向等に沿って分岐させてもよい。また、第1チューブが、第1の容器40に連結される箇所において、分岐されていなくてもよい。
【0096】
また、上述した第1実施形態では、第2の容器50は、第1の容器40に対して表面積が小さく構成された。しかしながら、第2の容器は、第1の容器40に対して表面積が大きくまたは等しく構成されてもよい。
【0097】
また、上述した第1実施形態では、第1チューブ60上に配置されるチューブポンプ70は、周方向に120度間隔で配置された3つのローラ71を有する構成とされた。しかしながら、ローラ71の数は3つに限らず3つ以上あるいは、3つ以下と構成されてもよい。
【0098】
また、上述した第2実施形態では、第2の容器50には、メモリMが付されていると構成された。しかしながら、メモリMは、第2の容器50に限らず、第1の容器40に付されている構成とされてもよい。その際、メモリMが付される間隔は特に限定されないが、例えば鉛直方向に沿って1mmである。
【符号の説明】
【0099】
1、2、3 張力測定デバイス、
10 ゲルアダプタホルダ組立体、
11 第1ゲルアダプタホルダ、
12 第2ゲルアダプタホルダ、
40 第1の容器、
50 第2の容器、
51 ヒーター、
60 第1チューブ、
70 チューブポンプ(ポンプ)、
80 第2チューブ、
190 第3チューブ、
290 第4チューブ、
291 チューブポンプ(流入ポンプ)、
CS 細胞構造体、
G ゲル、
L1 中心線、
M メモリ。