(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】超音波流量計および受信強度信頼性判定方法
(51)【国際特許分類】
G01F 1/66 20220101AFI20241217BHJP
【FI】
G01F1/66 101
(21)【出願番号】P 2020123661
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】夏 園
(72)【発明者】
【氏名】小原 太輔
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-085545(JP,A)
【文献】特開2012-002515(JP,A)
【文献】特開2017-125727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/66-1/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の流体が流れるように構成された配管と、
この配管の上流と下流に配置された1対の超音波振動子と、
一方の前記超音波振動子から超音波を送信させるように構成された送信部と、
上流側の前記超音波振動子から超音波を送信して下流側の前記超音波振動子で受信する順方向の計測回のときの超音波の伝搬時間、および下流側の前記超音波振動子から超音波を送信して上流側の前記超音波振動子で受信する逆方向の計測回のときの超音波の伝搬時間を、計測回毎および順逆の方向毎に計測するように構成された伝搬時間計測部と、
一定時間当たり所定回数の順方向の計測で得られた順方向
の超音波の伝搬時間の平均値と
、前記一定時間当たり前記所定回数の逆方向の計測で得られた逆方向の超音波の
伝搬時間の平均値との差を伝搬時間差とし、前記伝搬時間差に基づいて前記流体の流量計測値を算出するように構成された流量算出部と、
前記一定時間当たり
前記所定回数の順方向の計測で得られた各超音波受信信号の最大値と最小値との差を順方向の受信強度として検出し、
前記一定時間当たり
前記所定回数の逆方向の計測で得られた各超音波受信信号の最大値と最小値との差を逆方向の受信強度として検出するように構成された受信強度検出部と、
前記順方向の受信強度と前記逆方向の受信強度との差に基づいて受信強度の信頼性を判定するように構成された信頼性判定部とを備えることを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
請求項1記載の超音波流量計において、
前記信頼性判定部に対して閾値を設定するように構成された閾値設定部をさらに備え、
前記信頼性判定部は、前記順方向の受信強度と前記逆方向の受信強度との差と、前記閾値とを比較することにより受信強度の信頼性を判定することを特徴とする超音波流量計。
【請求項3】
請求項2記載の超音波流量計において、
前記順方向の伝搬時間と前記逆方向の伝搬時間とに基づいて音速を算出して、この音速と前記流体の温度とに基づいて前記流体の種別を判定するように構成された流体種別判定部をさらに備え、
前記閾値設定部は、前記流体の種別に対応する前記閾値を前記信頼性判定部に対して設定することを特徴とする超音波流量計。
【請求項4】
請求項3記載の超音波流量計において、
前記閾値設定部は、前記流体の種別と前記流量算出部が算出した流量計測値とに対応する前記閾値を前記信頼性判定部に対して設定することを特徴とする超音波流量計。
【請求項5】
測定対象の流体が流れる配管の上流側の超音波振動子から超音波を送信して前記配管の下流側の超音波振動子で受信する順方向の計測回のときの超音波の伝搬時間、および前記下流側の超音波振動子から超音波を送信して前記上流側の超音波振動子で受信する逆方向の計測回のときの超音波の伝搬時間を、計測回毎および順逆の方向毎に計測する第1のステップと、
一定時間当たり所定回数の順方向の計測で得られた順方向
の超音波の伝搬時間の平均値と
、前記一定時間当たり前記所定回数の逆方向の計測で得られた逆方向の超音波の
伝搬時間の平均値との差を伝搬時間差とし、前記伝搬時間差に基づいて前記流体の流量計測値を算出する第2のステップと、
前記一定時間当たり
前記所定回数の順方向の計測で得られた各超音波受信信号の最大値と最小値との差を順方向の受信強度として検出し、
前記一定時間当たり
前記所定回数の逆方向の計測で得られた各超音波受信信号の最大値と最小値との差を逆方向の受信強度として検出する第3のステップと、
前記順方向の受信強度と前記逆方向の受信強度との差に基づいて受信強度の信頼性を判定する第4のステップとを含むことを特徴とする受信強度信頼性判定方法。
【請求項6】
請求項5記載の受信強度信頼性判定方法において、
前記第4のステップの前に、受信強度の信頼性判定のための閾値を設定する第5のステップをさらに含み、
前記第4のステップは、前記順方向の受信強度と前記逆方向の受信強度との差と、前記閾値とを比較することにより受信強度の信頼性を判定するステップを含むことを特徴とする受信強度信頼性判定方法。
【請求項7】
請求項6記載の受信強度信頼性判定方法において、
前記第5のステップの前に、前記順方向の伝搬時間と前記逆方向の伝搬時間とに基づいて音速を算出して、この音速と前記流体の温度とに基づいて前記流体の種別を判定する第6のステップをさらに含み、
前記第5のステップは、前記流体の種別に対応する前記閾値を設定するステップを含むことを特徴とする受信強度信頼性判定方法。
【請求項8】
請求項7記載の受信強度信頼性判定方法において、
前記第5のステップは、前記流体の種別と前記第2のステップで算出した流量計測値とに対応する前記閾値を設定するステップを含むことを特徴とする受信強度信頼性判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流量を、超音波を用いて計測する超音波流量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波を用いて流量を計測する超音波流量計が知られている(特許文献1参照)。超音波流量計は、
図12に示すように、測定対象の流体が流れる配管10に対し1対の超音波振動子11,12を配置する。上流側の超音波振動子11を例えば500kHzの共振周波数で駆動し、超音波振動子11から超音波を送信させる。
【0003】
超音波が配管10内の流体中を伝搬して下流側の超音波振動子12を励起する。この超音波振動子12の出力を増幅することで受信信号が得られる。超音波の送信タイミングから受信信号の到達タイミングの時間計測を行うことで、超音波の伝搬時間を計測できる。同様に、下流側の超音波振動子12から超音波を送信し、上流側の超音波振動子11で受信して、超音波の伝播時間を計測する。
【0004】
超音波振動子11から超音波振動子12までの順方向(流体が流れる方向)の超音波の伝搬時間と超音波振動子12から超音波振動子11までの逆方向の超音波の伝搬時間とを比較することで、伝搬時間差Δtが求められる。流体の流量がゼロの場合、原理的には伝搬時間差がゼロになるが、流体が流れている場合、流量に応じて伝搬時間差Δtが生じる。したがって、伝搬時間差Δtから流体の流量を算出することができる。
【0005】
このような超音波流量計では、超音波振動子の異常判定やガス種判定、流路異常判定(浸水、結露)などを行うとき、受信強度の変動が利用される。例えば特許文献1に開示された超音波流量計では、超音波受信信号が所定範囲の振幅になるように増幅手段の増幅度を調整しており、増幅手段で調整された増幅度が判定値を超えて変化した場合に流路内に結露が発生していると判定するようにしている。
【0006】
しかし、電気ノイズによって、一時的に受信強度が変わり、この受信強度の変化によって誤判定が発生する可能性がある。
図13は、ノイズによって異常が発生するときの超音波受信信号の例を示す波形図である。Vinは超音波受信信号、Nはノイズを示している。
図13の例では、T1の期間で超音波受信信号とノイズが重なり、T2の期間では超音波受信信号とノイズの重なりが無い正常な期間となっている。一定時間内の超音波受信信号の最大値と最小値との差が受信強度として検出されるため、ノイズと超音波受信信号とが重なると、受信強度が変わる。
【0007】
図14は、順方向と逆方向の受信強度を1秒毎に計測した結果の例を示す図である。Sは順方向の受信強度、S’は逆方向の受信強度である。
図14は、100の時間領域でノイズと超音波受信信号とが重なり、順方向の受信強度Sが変化した例を示している。
【0008】
誤判定を防ぐために、受信強度データを複数回計測して、受信強度のメジアン値や平均値を利用する方法がある。特許文献1に開示された超音波流量計では、複数回の計測値の平均値を利用している。
【0009】
図15は、伝搬時間と受信強度の計測タイミングを説明する図である。
図15のD#1,D#2,・・・・,D#Nは順方向の伝搬時間の計測タイミングを示し、D#1’,D#2’,・・・・,D#N’は逆方向の伝搬時間の計測タイミングを示している。S#1は順方向の受信強度の計測タイミングを示し、S#1’は逆方向の受信強度の計測タイミングを示している。
【0010】
従来の超音波流量計では、消費電流低減のために、例えば、順方向と逆方向の伝搬時間計測を交互に複数回行い、順方向の最終回の伝搬時間計測が終了したときに順方向の受信強度を1回取得し、逆方向の最終回の伝搬時間計測が終了したときに逆方向の受信強度を1回取得する。このような伝搬時間計測と受信強度計測とを1秒毎に行う。以下、1秒毎の計測期間をパケットと呼ぶ。順逆両方向のそれぞれについて受信強度を複数回計測する場合、数秒間かかることになる。
【0011】
このように、受信強度のメジアン値や平均値を利用する場合、受信強度を複数回計測する必要があるので、受信強度の変動の検出に遅延が発生し、結露などの検出に遅延が発生してしまうという課題があった。また、受信強度を複数回計測すると、電力やメモリの消費も増えるという課題があった。
一方、1回の計測で受信強度を取得しようとすると、受信強度の信頼性が低くなるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、受信強度の信頼性を高精度かつ迅速に判定することができる超音波流量計および受信強度信頼性判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の超音波流量計は、測定対象の流体が流れるように構成された配管と、この配管の上流と下流に配置された1対の超音波振動子と、一方の前記超音波振動子から超音波を送信させるように構成された送信部と、上流側の前記超音波振動子から超音波を送信して下流側の前記超音波振動子で受信する順方向の計測回のときの超音波の伝搬時間、および下流側の前記超音波振動子から超音波を送信して上流側の前記超音波振動子で受信する逆方向の計測回のときの超音波の伝搬時間を、計測回毎および順逆の方向毎に計測するように構成された伝搬時間計測部と、一定時間当たり所定回数の順方向の計測で得られた順方向の超音波の伝搬時間の平均値と、前記一定時間当たり前記所定回数の逆方向の計測で得られた逆方向の超音波の伝搬時間の平均値との差を伝搬時間差とし、前記伝搬時間差に基づいて前記流体の流量計測値を算出するように構成された流量算出部と、前記一定時間当たり前記所定回数の順方向の計測で得られた各超音波受信信号の最大値と最小値との差を順方向の受信強度として検出し、前記一定時間当たり前記所定回数の逆方向の計測で得られた各超音波受信信号の最大値と最小値との差を逆方向の受信強度として検出するように構成された受信強度検出部と、前記順方向の受信強度と前記逆方向の受信強度との差に基づいて受信強度の信頼性を判定するように構成された信頼性判定部とを備えることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の超音波流量計の1構成例は、前記信頼性判定部に対して閾値を設定するように構成された閾値設定部をさらに備え、前記信頼性判定部は、前記順方向の受信強度と前記逆方向の受信強度との差と、前記閾値とを比較することにより受信強度の信頼性を判定することを特徴とするものである。
また、本発明の超音波流量計の1構成例は、前記順方向の伝搬時間と前記逆方向の伝搬時間とに基づいて音速を算出して、この音速と前記流体の温度とに基づいて前記流体の種別を判定するように構成された流体種別判定部をさらに備え、前記閾値設定部は、前記流体の種別に対応する前記閾値を前記信頼性判定部に対して設定することを特徴とするものである。
また、本発明の超音波流量計の1構成例において、前記閾値設定部は、前記流体の種別と前記流量算出部が算出した流量計測値とに対応する前記閾値を前記信頼性判定部に対して設定することを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の受信強度信頼性判定方法は、測定対象の流体が流れる配管の上流側の超音波振動子から超音波を送信して前記配管の下流側の超音波振動子で受信する順方向の計測回のときの超音波の伝搬時間、および前記下流側の超音波振動子から超音波を送信して前記上流側の超音波振動子で受信する逆方向の計測回のときの超音波の伝搬時間を、計測回毎および順逆の方向毎に計測する第1のステップと、一定時間当たり所定回数の順方向の計測で得られた順方向の超音波の伝搬時間の平均値と、前記一定時間当たり前記所定回数の逆方向の計測で得られた逆方向の超音波の伝搬時間の平均値との差を伝搬時間差とし、前記伝搬時間差に基づいて前記流体の流量計測値を算出する第2のステップと、前記一定時間当たり前記所定回数の順方向の計測で得られた各超音波受信信号の最大値と最小値との差を順方向の受信強度として検出し、前記一定時間当たり前記所定回数の逆方向の計測で得られた各超音波受信信号の最大値と最小値との差を逆方向の受信強度として検出する第3のステップと、前記順方向の受信強度と前記逆方向の受信強度との差に基づいて受信強度の信頼性を判定する第4のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の受信強度信頼性判定方法の1構成例は、前記第4のステップの前に、受信強度の信頼性判定のための閾値を設定する第5のステップをさらに含み、前記第4のステップは、前記順方向の受信強度と前記逆方向の受信強度との差と、前記閾値とを比較することにより受信強度の信頼性を判定するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の受信強度信頼性判定方法の1構成例は、前記第5のステップの前に、前記順方向の伝搬時間と前記逆方向の伝搬時間とに基づいて音速を算出して、この音速と前記流体の温度とに基づいて前記流体の種別を判定する第6のステップをさらに含み、前記第5のステップは、前記流体の種別に対応する前記閾値を設定するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の受信強度信頼性判定方法の1構成例において、前記第5のステップは、前記流体の種別と前記第2のステップで算出した流量計測値とに対応する前記閾値を設定するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、受信強度検出部と信頼性判定部とを設けることにより、受信強度の信頼性を高精度かつ迅速に判定することができる。また、本発明では、計算回数を増やす必要がないので、従来よりも電力とメモリの消費量を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、電気ノイズなどによる一時的な変動が無い正常な状態で計測した受信強度の例を示す図である。
【
図2】
図2は、電気ノイズなどによって一時的に変動した受信強度の例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施例に係る超音波流量計の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施例に係る超音波流量計の動作を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差の実測例を示す図である。
【
図6】
図6は、順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差の別の実測例を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施例に係る超音波流量計の構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施例に係る超音波流量計の動作を説明するフローチャートである。
【
図9】
図9は、順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差と、流体の流量との関係の1例を示す図である。
【
図10】
図10は、順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差と、流体の流量との関係の別の例を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の第1、第2の実施例に係る超音波流量計を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、従来の超音波流量計の動作原理を説明する図である。
【
図13】
図13は、ノイズによって異常が発生するときの超音波受信信号の例を示す波形図である。
【
図14】
図14は、順方向と逆方向の受信強度を1秒毎に計測した結果の例を示す図である。
【
図15】
図15は、従来の超音波流量計の伝搬時間と受信強度の計測タイミングを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[発明の原理]
超音波流量計において、受信強度が変わる理由としては、以下の(I)、(II)の2つの理由が考えられる。
(I)温度、ガス種、水侵入などによる変動。
(II)電気ノイズによる一時的な変動。
【0021】
受信強度の計測結果を利用して、(I)の現象をできるだけ早く検出したいが、(II)の理由により誤検出が発生してしまう可能性がある。本発明は、(II)の現象が発生していないかどうかを早く判定し、受信強度の信頼性を向上させることを目的とする。
【0022】
本発明では、同じパケット内の順方向と逆方向の受信強度の差で判定する。
図1は、電気ノイズなどによる一時的な変動が無い正常な状態で1秒毎に計測した受信強度の例を示す図であり、
図2は、電気ノイズなどによって一時的に変動した受信強度の例を示す図である。Sは順方向の受信強度、S’は逆方向の受信強度である。
【0023】
正常な状態の場合、同じパケット内の順方向の受信強度と逆方向の受信強度の値が近く、受信強度の差が一定値以下になる。また、
図1の例では、温度、ガス種、水侵入などの理由によって途中で受信強度が低下しているが、このように受信強度が変わる場合でも、同じパケット内の順方向の受信強度と逆方向の受信強度とが共に変動する。
【0024】
一方、同じパケット内の順方向の受信強度と逆方向の受信強度のそれぞれを個別に計測するため、電気ノイズなどによって受信強度が瞬間的に変動する場合、順逆両方向共に影響を受けることは考え難く、
図2の100の時間領域の例で示すように同じパケット内の順方向と逆方向の受信強度の差が正常時よりも大きくなる。
本発明では、以上の特性を利用して受信強度の信頼性をリアルタイムで判定することができる。
【0025】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図3は、本発明の第1の実施例に係る超音波流量計の構成を示すブロック図である。超音波流量計は、測定対象の流体が流れる配管10と、配管10の上流と下流に配置された1対の超音波振動子11,12と、一方の超音波振動子から超音波を送信させる送信部13と、他方の超音波振動子で受信された超音波受信信号を増幅する受信部14と、超音波振動子11,12と送信部13と受信部14との接続を切り替える切替部15と、超音波振動子11から超音波を送信して超音波振動子12で受信する順方向の計測回のときの超音波の伝搬時間、および超音波振動子12から超音波を送信して超音波振動子11で受信する逆方向の計測回のときの超音波の伝搬時間を、計測回毎および順逆の方向毎に計測する伝搬時間計測部16と、順方向の伝搬時間と逆方向の伝搬時間とに基づいて順方向と逆方向の超音波の伝搬時間差を算出して、この伝搬時間差から流体の流量計測値を算出する流量算出部17と、流量計測値を上位装置へ送信する流量出力部18と、一定時間(パケット)当たり所定回数の順方向の計測回の各超音波受信信号に基づいて順方向の受信強度を検出し、一定時間当たり所定回数の逆方向の計測回の各超音波受信信号に基づいて逆方向の受信強度を検出する受信強度検出部19と、順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差に基づいて受信強度の信頼性を判定する信頼性判定部20と、受信強度の信頼性判定のための閾値を設定する閾値設定部21と、信頼性判定部20の判定結果を出力する判定結果出力部22とを備えている。
【0026】
本実施例では、1対の超音波振動子11,12を配管10の上流と下流に配置している。上流側の超音波振動子11から超音波を送信して、下流側の超音波振動子12で受信する順方向のとき、切替部15は、送信部13と超音波振動子11とを接続し、超音波振動子12と受信部14とを接続する。このとき、送信部13は、超音波振動子11に対して駆動用の送信パルスを供給する。これにより、超音波振動子11は、送信部13からの送信パルスに応じて、配管10内の流体に対して斜め方向に超音波を送信する。超音波振動子12は、超音波振動子11から送出され、配管10の内壁で反射した超音波を受信する。受信部14は、超音波振動子12の出力信号を増幅して超音波受信信号を出力する。
【0027】
反対に、下流側の超音波振動子12から超音波を送信して、上流側の超音波振動子11で受信する逆方向のとき、切替部15は、送信部13と超音波振動子12とを接続し、超音波振動子11と受信部14とを接続する。このとき、送信部13は、超音波振動子12に対して駆動用の送信パルスを供給する。これにより、超音波振動子12は、送信部13からの送信パルスに応じて、配管10内の流体に対して斜め方向に超音波を送信する。超音波振動子11は、超音波振動子12から送出され、配管10の内壁で反射した超音波を受信する。受信部14は、超音波振動子11の出力信号を増幅して超音波受信信号を出力する。
【0028】
図4は、本実施例の超音波流量計の動作を説明するフローチャートである。本実施例では、超音波を順逆両方向で送受信する、パケット(1秒)当たりの超音波送受繰返し回数をN(Nは2以上の整数)とする。
【0029】
最初に、伝搬時間計測部16は、計測回数i(iは1~Nの整数)を1に初期化する(
図4ステップS100)。
超音波振動子11または12は、送信部13からの送信パルスに応じて、配管10内を流れる流体に対して超音波を送信する(
図4ステップS101)。上記のとおり、順方向の場合は超音波振動子11から超音波を送信し、逆方向の場合は超音波振動子12から超音波を送信する。本実施例では、順方向から計測を開始するものとする。
【0030】
受信部14は、超音波振動子11または12の出力信号を増幅して、超音波受信信号を出力する(
図4ステップS102)。順方向の場合は、超音波振動子12が超音波振動子11から送出された超音波を受信して、受信部14が超音波振動子12の出力信号を増幅する。逆方向の場合は、超音波振動子11が超音波振動子12から送出された超音波を受信して、受信部14が超音波振動子11の出力信号を増幅する。
【0031】
伝搬時間計測部16は、超音波の伝搬時間を計測する(
図4ステップS103)。順方向の伝搬時間は、超音波振動子11が超音波を送信してから超音波振動子12が受信するまで時間である。逆方向の伝搬時間は、超音波振動子12が超音波を送信してから超音波振動子11が受信するまでの時間である。
【0032】
順逆両方向の計測が終了していない場合(
図4ステップS104においてNO)、切替部15は、方向の切り替えを行う(
図4ステップS105)。例えば順方向の計測が終了して、逆方向の計測が終了していない場合、切替部15は、逆方向への切り替えを行う。上記のとおり、逆方向の場合、切替部15は、送信部13と超音波振動子12とを接続し、超音波振動子11と受信部14とを接続する。
【0033】
こうして、逆方向についてステップS101~S103の処理が上記と同様に行われる。逆方向の計測が終了すると、順逆両方向の計測終了となるので、伝搬時間計測部16は、計測回数iを1増やす(
図4ステップS106)。
【0034】
計測回数iが超音波送受繰返し回数Nを超えておらず、順逆両方向N回の計測が終了していない場合(
図4ステップS107においてNO)、切替部15は、方向の切り替えを行う(ステップS105)。ここでは、切替部15は、順方向への切り替えを行う。上記のとおり、順方向の場合、切替部15は、送信部13と超音波振動子11とを接続し、超音波振動子12と受信部14とを接続する。
【0035】
こうして、順逆両方向についての伝搬時間の計測が繰り返し実行される。受信強度検出部19は、N回目の順方向の伝搬時間の計測が終了したとき(
図4ステップS108においてYES)、N回の順方向の計測で得られた各超音波受信信号の最大値と最小値との差を順方向の受信強度として検出する(
図4ステップS109)。
【0036】
また、受信強度検出部19は、N回目の逆方向の伝搬時間の計測が終了したとき(
図4ステップS110においてYES)、N回の逆方向の計測で得られた各超音波受信信号の最大値と最小値との差を逆方向の受信強度として検出する(
図4ステップS111)。
【0037】
計測回数iがNを超えたとき(ステップS107においてYES)、順逆両方向のN回の伝搬時間の計測と順逆両方向の受信強度の計測とが終了する。
本実施例においても、伝搬時間と受信強度の計測タイミングは
図15と同様になる。
【0038】
次に、流量算出部17は、N回の計測で得られた順方向の伝搬時間の平均値と逆方向の伝搬時間の平均値との差を伝搬時間差Δtとし、伝搬時間差Δtから流量計測値を算出する(
図4ステップS112)。流量計測値を求める演算手法については、一般的な超音波流量計で用いられている公知の計算式を用いればよく、詳細な説明は省略する。
【0039】
流量出力部18は、通信ネットワークを介して上位装置(不図示)と接続され、流量算出部17が算出した流量計測値を上位装置へ送信する(
図4ステップS113)。
【0040】
次に、信頼性判定部20は、受信強度の信頼性を判定する。具体的には、信頼性判定部20は、同一のパケットについて受信強度検出部19によって検出された順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差を算出する(
図14ステップS114)。
【0041】
そして、信頼性判定部20は、算出した受信強度の差が0を中心とする所定の閾値範囲(±TH)内であれば、受信強度の信頼性が高いと判定し、受信強度の差が閾値範囲外であれば、受信強度の信頼性が低いと判定する(
図14ステップS115)。
【0042】
本実施例では、閾値THは固定値であり、閾値設定部21によって設定される。
図5は、正常な状態における順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差の実測例を示す図である。
図5の例は、温度、流体の流量、流体の種類(ガス種)などの条件を変えたときの実測値を示している。超音波振動子11から配管10の内壁を経由して超音波振動子12に至るまでの伝搬距離は既知である。
図5の横軸は、伝搬距離を、順方向の伝搬時間と逆方向の伝搬時間の平均値で割ることにより算出した流体中の超音波の音速を示している。
【0043】
電気ノイズなどによる受信強度の一時的な変動が無い正常な状態では、温度、流量、流体の種類などが変化したとしても、順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差が例えば70mVを超えないので、
図5のように閾値THを実測データから予め決定することができる。
【0044】
図6は、電気ノイズなどによって受信強度が一時的に変動した場合の順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差の実測例を示す図である。電気ノイズなどによって受信強度が瞬間的に変動した場合、順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差は閾値THよりも大きくなる。
【0045】
したがって、信頼性判定部20は、受信強度の差が閾値範囲(±TH)外であれば、受信強度の変動がノイズによって発生した可能性が高く、受信強度の信頼性が低いと判定することができる。また、信頼性判定部20は、受信強度の差が閾値範囲(±TH)内であれば、受信強度の信頼性が高いと判定することができる。受信強度の差が閾値範囲(±TH)内の場合、受信強度が変動したとしても、この変動はノイズによる変動ではなく、温度、ガス種、水侵入などによる変動である可能性が高いと判断できる。
【0046】
判定結果出力部22は、信頼性判定部20の判定結果を出力する(
図4ステップS116)。出力方法の例としては、例えば上位装置への判定結果の送信などがある。
以上のような
図4の処理がパケット(本実施例では1秒)毎に行われる。
【0047】
本実施例と従来の超音波流量計との違いを
図15の例で説明すると、従来の超音波流量計では、複数パケットの同方向の受信強度の計測結果の平均値を利用するため、数秒間かかり、受信強度の変動の検出に遅延が発生する。また、受信強度を複数回計測すると、電力やメモリの消費も増える。
【0048】
一方、本実施例では、1パケットの計測で受信強度の信頼性を判定することができるので、従来よりも迅速に判定することができる。
【0049】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。
図7は、本発明の第2の実施例に係る超音波流量計の構成を示すブロック図であり、
図3と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施例の超音波流量計は、配管10と、超音波振動子11,12と、送信部13と、受信部14と、切替部15と、伝搬時間計測部16と、流量算出部17と、流量出力部18と、受信強度検出部19と、信頼性判定部20と、閾値設定部21aと、判定結果出力部22と、流体の種別を判定する流体種別判定部23とを備えている。
【0050】
本実施例では、受信強度の信頼性の判定精度を良くするために閾値THを以下のように設定する。
図8は、本実施例の超音波流量計の動作を説明するフローチャートである。
図8のステップS100~S113の処理は第1の実測例で説明したとおりである。
【0051】
流体種別判定部23は、配管10を流れる流体の種別を判定する(
図8ステップS117)。具体的には、流体種別判定部23は、既知の伝搬距離を、N回の計測で得られた順方向の伝搬時間と逆方向の伝搬時間の平均値で割ることにより、流体中の超音波の音速を算出し、算出した音速と配管10に設けられた温度センサ(不図示)によって計測された流体の温度とに基づいて流体の種別を判定する。音速と温度がわかれば、分子量が推定できるため、流体の種別の判定可能である。音速および温度と、流体の種別との関係は予め流体種別判定部23に登録されている。
【0052】
次に、閾値設定部21aは、流体の種別に対応する閾値TH、または流体の種別と流量算出部17が算出した流量計測値とに対応する閾値THを信頼性判定部20に対して設定する(
図8ステップS118)。
【0053】
流体の中には、
図9に示すように正常な状態で同じパケット内の順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差が流量に依存するものがある。そこで、このような特性の流体の場合には、流体の種別と流量計測値とに応じて閾値THを設定することが望ましい。
【0054】
また、流体の中には、
図10に示すように順方向の受信強度と逆方向の受信強度との差の、流量への依存性が低いものがある。そこで、このような特性の流体の場合には、流体の種別に応じて閾値THを設定すればよく、流体の種別と流量計測値とに応じて閾値THを設定しても構わない。
流体の種別と流量と閾値THとの関係は、予め閾値設定部21aに登録されている。流体の種別と流量と閾値THとの関係は、事前の流量試験で得られた実測データから決定することができる。
【0055】
図8のステップS114~S116の処理は第1の実測例で説明したとおりである。こうして、本実施例では、第1の実測例と比較して受信強度の信頼性の判定精度を更に向上させることができる。
【0056】
なお、本発明では、受信強度の信頼性の判定結果の利用方法は問わない。上記のとおり、受信強度を利用する例としては、超音波振動子の異常判定やガス種判定、流路異常判定などの例があるが、このような例のいずれに対しても本発明を適用することが可能である。
【0057】
第1、第2の実施例で説明した送信部13と受信部14と切替部15と伝搬時間計測部16とは、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)などのICによって実現することができる。流量算出部17と流量出力部18と受信強度検出部19と信頼性判定部20と閾値設定部21,21aと判定結果出力部22と流体種別判定部23とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインターフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図11に示す。
【0058】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インタフェース装置(I/F)202とを備えている。I/F202には、送信部13と受信部14と切替部15と伝搬時間計測部16等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の受信強度信頼性判定方法を実現させるためのプログラムは記憶装置201に格納される。CPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、超音波流量計に適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
10…配管、11,12…超音波振動子、13…送信部、14…受信部、15…切替部、16…伝搬時間計測部、17…流量算出部、18…流量出力部、19…受信強度検出部、20…信頼性判定部、21,21a…閾値設定部、22…判定結果出力部、23…流体種別判定部。