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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電流測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20241217BHJP
   G01R 15/18 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G01R15/20 C
G01R15/18 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020133151
(22)【出願日】2020-08-05
(65)【公開番号】P2022029714
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2022-02-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】竹中 一馬
(72)【発明者】
【氏名】小河 晃太朗
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 美菜子
(72)【発明者】
【氏名】野口 直記
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】井口 猶二
【審判官】関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-258464(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212691(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/18
G01R 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定導体に流れる電流を測定する電流測定装置であって、
前記被測定導体に流れる電流によって生ずる直流磁界及び低周波の交流磁界を検出する第1センサと、
略直方体形状であって、前記被測定導体が挿通される切欠部を有し、内部に前記第1センサを収容する中空の磁気遮蔽部材と、
前記磁気遮蔽部材の前記切欠部に挿通された前記被測定導体の中心と前記第1センサとの距離が予め規定された基準距離となるよう前記被測定導体を固定する固定機構と、
前記第1センサの検出結果から前記被測定導体に流れる電流を求める第1演算部と、
を備え、
前記切欠部は、前記磁気遮蔽部材の第1方向における一方側において、前記第1方向に交差する第2方向の一方の端部から他方の端部に至るように形成され、
前記第1センサは、前記切欠部に挿通された前記被測定導体の中心から前記磁気遮蔽部材の前記第1方向における他方側に延びる、前記第1方向に平行な直線上に配置され、その感磁方向が、前記第1方向と直交する向きとなるように前記磁気遮蔽部材の内部に配置されている、
電流測定装置。
【請求項2】
前記固定機構は、前記第1方向及び前記第2方向に交差する第3方向に沿って互いに離れるよう又は互いに近づくよう移動可能に構成され、前記切欠部に挿通された前記被測定導体を前記第3方向に挟み込むことで固定する一対の固定用アームを有する、請求項1記載の電流測定装置。
【請求項3】
前記第1センサ、前記磁気遮蔽部材、及び前記固定機構を有するセンサヘッドと、
前記第1演算部を有する回路部と、
を備える請求項1又は請求項2記載の電流測定装置。
【請求項4】
前記センサヘッドは、前記被測定導体に流れる電流によって生ずる低周波から高周波の交流磁界を検出する第2センサを更に備え、
前記回路部は、前記第2センサの検出結果から前記被測定導体に流れる電流を求める第2演算部と、
前記第1演算部の演算結果と前記第2演算部の演算結果とを合成する合成部と、
を更に備える、請求項3記載の電流測定装置。
【請求項5】
前記第2センサは、前記磁気遮蔽部材の前記切欠部に挿通された前記被測定導体の周囲に巻回されるロゴスキーセンサを備える請求項4記載の電流測定装置。
【請求項6】
前記第2センサは、前記磁気遮蔽部材の内部に収容されたコイルを備える請求項4記載の電流測定装置。
【請求項7】
前記コイルは、感磁方向が、前記切欠部に挿通された前記被測定導体の接線方向となるように前記磁気遮蔽部材の内部に配置されている請求項6記載の電流測定装置。
【請求項8】
前記磁気遮蔽部材の内部には、前記切欠部と前記第1センサとの間に梁部材が形成されている、請求項1から請求項7の何れか一項に記載の電流測定装置。
【請求項9】
前記第1センサは、感磁方向が、前記切欠部に挿通された前記被測定導体の接線方向となるように前記磁気遮蔽部材の内部に配置されている請求項1から請求項8の何れか一項に記載の電流測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被測定導体に流れる電流を非接触で測定することが可能な様々な電流測定装置が開発されている。このような電流測定装置の代表的なものとしては、例えば、CT(Current Transformer:変流器)方式の電流測定装置、ゼロフラックス方式の電流測定装置、ロゴスキー方式の電流測定装置、ホール素子方式の電流測定装置等が挙げられる。
【0003】
例えば、CT方式及びゼロフラックス方式の電流測定装置は、巻線が巻回された磁気コアを被測定導体の周囲に設け、被測定導体(一次側)に流れる電流によって磁気コアに生ずる磁束を打ち消すように巻線(二次側)に流れる電流を検出することで、被測定導体に流れる電流を測定するものである。また、ロゴスキー方式の電流測定装置は、ロゴスキーコイル(空芯コイル)を被測定導体の周囲に設け、被測定導体に流れる交流電流によって生ずる磁界がロゴスキーコイルと鎖交することでロゴスキーコイルに誘起される電圧を検出することで、被測定導体に流れる電流を測定するものである。
【0004】
以下の特許文献1には、ゼロフラックス方式の電流測定装置の一例が開示されている。また、以下の特許文献2には、複数の磁気センサを用いた電流測定装置が開示されている。具体的に、以下の特許文献2に開示された電流測定装置は、被測定導体に対してそれぞれ異なる距離をとって2つの磁気センサを配置し、これら磁気センサの出力から磁気センサと被測定導体との距離を求め、求めた距離を用いて被測定導体に流れる電流の大きさを求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-55300号公報
【文献】特開2011-164019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、被測定導体に流れる電流を測定する際に、被測定導体に流れる電流によって生ずる磁界以外の磁界(外部磁界)の影響を受けると、電流の測定精度が悪化することが考えられる。また、被測定導体に流れる電流を非接触で測定することができれば、簡便且つ効率的に電流の測定を行うことができると考えられる。更に、小型であれば、微小空間への設置も可能になると考えられる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、小型で被測定導体に流れる電流を非接触で高精度に測定することができる電流測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による電流測定装置は、被測定導体(MC)に流れる電流(I)を測定する電流測定装置(1~3)であって、前記被測定導体に流れる電流によって生ずる直流磁界及び低周波の交流磁界を検出する第1センサ(SE1)と、前記被測定導体が挿通される切欠部(CP2)を有し、内部に前記第1センサを収容する中空の磁気遮蔽部材(12)と、前記磁気遮蔽部材の前記切欠部に挿通された前記被測定導体の中心と前記第1センサとの距離が予め規定された基準距離(r)となるよう前記被測定導体を固定する固定機構(13)と、前記第1センサの検出結果から前記被測定導体に流れる電流を求める第1演算部(21)と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様による電流測定装置は、前記第1センサ、前記磁気遮蔽部材、及び前記固定機構を有するセンサヘッド(10、10A、10B)と、前記第1演算部を有する回路部(20、20A)と、を備える。
【0010】
また、本発明の一態様による電流測定装置は、前記センサヘッドが、前記被測定導体に流れる電流によって生ずる低周波から高周波の交流磁界を検出する第2センサ(SE2、SE3)を更に備え、前記回路部が、前記第2センサの検出結果から前記被測定導体に流れる電流を求める第2演算部(23)と、前記第1演算部の演算結果と前記第2演算部の演算結果とを合成する合成部(24)と、を更に備える。
【0011】
また、本発明の一態様による電流測定装置は、前記第2センサが、前記磁気遮蔽部材の前記切欠部に挿通された前記被測定導体の周囲に巻回されるロゴスキーセンサ(SE2)を備える。
【0012】
或いは、本発明の一態様による電流測定装置は、前記第2センサが、前記磁気遮蔽部材の内部に収容されたコイル(SE3)を備える。
【0013】
ここで、本発明の一態様による電流測定装置において、前記コイルは、感磁方向が、前記切欠部に挿通された前記被測定導体の接線方向となるように前記磁気遮蔽部材の内部に配置されている。
【0014】
また、本発明の一態様による電流測定装置は、前記磁気遮蔽部材の内部には、前記切欠部と前記第1センサとの間に梁部材(BM)が形成されている。
【0015】
また、本発明の一態様による電流測定装置において、前記第1センサは、感磁方向が、前記切欠部に挿通された前記被測定導体の接線方向となるように前記磁気遮蔽部材の内部に配置されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、小型で被測定導体に流れる電流を非接触で高精度に測定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態による電流測定装置の外観斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態による電流測定装置が備えるセンサヘッドの斜視透視図である。
図3】本発明の第1実施形態による電流測定装置が備える磁気シールドを示す図である。
図4】本発明の第1実施形態におけるSN比のシミュレーション結果を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態による電流測定装置の要部構成を示すブロック図である。
図6】本発明の第2実施形態による電流測定装置の外観図である。
図7】本発明の第2実施形態による電流測定装置の要部構成を示すブロック図である。
図8】本発明の第2実施形態において、回路部の合成部で行われる処理を説明するための図である。
図9】本発明の第3実施形態による電流測定装置の外観図である。
図10】本発明の第3実施形態による電流測定装置が備えるセンサヘッドの磁気シールドの断面矢視図である。
図11】本発明の第4実施形態による電流測定装置のセンサヘッドに設けられる磁気シールドの構成を示す図である。
図12】本発明の第4実施形態における磁束密度分布のシミュレーション結果を示す図である。
図13】本発明の第4実施形態におけるSN比のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による電流測定装置について詳細に説明する。以下では、まず本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の各実施形態の詳細について説明する。
【0019】
〔概要〕
本発明の実施形態は、小型で被測定導体に流れる電流を非接触で高精度に測定することを可能とするものである。具体的には、電流測定時に微小空間への設置が可能であり、直流電流及び数十[MHz]程度までの交流電流を非接触で高精度に測定することを可能とするものである。
【0020】
近年、ハイブリッド自動車(HV:Hybrid Vehicle)や電気自動車(EV:Electric Vehicle)の開発工程において、バッテリとパワーユニットとの間、コンバータとインバータとの間に流れる大電流を測定したいという要求がある。また、近年においては、短時間での加速等を追求し、使用される電流の上限値が高くなっているため、配線が太くなる傾向にある。一方、乗車空間の拡大及び軽量化を実現するために、機器類の省スペース化、集積化、小型化が進められている。そのため、機器類及び接続配線が密集して、電流センサを配置する空間の確保が難しくなっている。このような状況の下、周辺のスペースが限られている配線に流れる直流電流及び交流電流を、非接触で高精度に測定することが可能な電流測定装置が望まれている。
【0021】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されたゼロフラックス方式の電流測定装置は、ある程度の大きさ(例えば、直径二十[cm]程度)を有する磁気コアを被測定導体の周囲に設ける必要があることから、狭い場所への設置が困難である。また、上述したロゴスキー方式の電流測定装置は、ロゴスキーコイルに誘起される電圧を検出していることから、原理的に直流電流の測定を行うことはできない。また低周波領域では、出力信号が微弱であるとともに位相がずれるため、測定精度が悪い。また、上述した特許文献1,2に開示された電流測定装置は、被測定導体に流れる電流によって生ずる磁界以外の磁界(外部磁界)の影響を受けるため測定精度が悪い。
【0022】
本発明の実施形態では、被測定導体に流れる電流によって生ずる直流磁界及び低周波の交流磁界を検出する第1センサと、被測定導体が挿通される切欠部を有し、内部に第1センサを収容する中空の磁気遮蔽部材と、磁気遮蔽部材の切欠部に挿通された被測定導体と第1センサとの距離が予め規定された基準距離となるよう被測定導体を固定する固定機構と、第1センサの検出結果から被測定導体に流れる電流を求める第1演算部とを設けている。これにより、小型で被測定導体に流れる電流を非接触で高精度に測定することができる。
【0023】
〔第1実施形態〕
〈電流測定装置の構成〉
図1は、本発明の第1実施形態による電流測定装置の外観斜視図である。図1に示す通り、本実施形態の電流測定装置1は、ケーブルCBによって接続されたセンサヘッド10及び回路部20を備えており、被測定導体MCに流れる電流Iを非接触で測定する。尚、被測定導体MCは、例えばパワー半導体のピンやバスバー等の任意の導体である。以下では、説明を簡単にするために、被測定導体MCは、円柱形状の導体であるとする。
【0024】
尚、以下の説明においては、図中に設定したXYZ直交座標系を必要に応じて参照しつつ各部材の位置関係について説明する。図1に示すXYZ直交座標系は、X軸が被測定導体MCの長手方向(電流Iの方向)に設定され、Y軸が水平方向に設定され、Z軸が鉛直方向にそれぞれ設定されているものとする。但し、説明の便宜のため、各図に示すXYZ直交座標系の原点は固定せずに、図毎にその位置を適宜変更するものとする。
【0025】
センサヘッド10は、被測定導体MCに流れる電流Iを非接触で測定するための部材である。このセンサヘッド10は、いわば被測定導体MCに流れる電流Iを非接触で測定するためのプローブとして用いられるものである。尚、センサヘッド10は、被測定導体MCの周辺のスペースが限られている状況においても、電流Iの測定を可能とするために、可能な限り小型化されているのが望ましい。
【0026】
センサヘッド10は、図1に示す通り、被測定導体MCに流れる電流Iの測定を行う場合には、被測定導体MCに対して固定配置される。つまり、センサヘッド10は、被測定導体MCに物理的に接触した状態にされる。但し、センサヘッド10は、被測定導体MCとは電気的に絶縁されており、被測定導体MCに流れる電流Iがセンサヘッド10に流れ込むことはない。このため、センサヘッド10は、被測定導体MCに流れる電流Iを非接触で測定するためのものということができる。
【0027】
図2は、本発明の第1実施形態による電流測定装置が備えるセンサヘッドの斜視透視図である。図2に示す通り、センサヘッド10は、筐体11、磁気シールド12(磁気遮蔽部材)、及び固定機構13を備える。筐体11は、第1筐体11aと第2筐体11bとが組み合わされてなり、-Z側に切欠部CP1が形成された直方体形状の中空の部材である。筐体11(第1筐体11a及び第2筐体11b)は、電流Iによって生成される磁界に影響を与えない材質(例えば、樹脂等の非磁性材料)によって形成されている。筐体11は、内部に磁気シールド12及び固定機構13を収容する。
【0028】
切欠部CP1は、筐体11の-Z側において、+X側の端部から-X側の端部に至るように形成されている。この切欠部CP1は、被測定導体MCの一部を筐体11の内部に配置可能とするためのものである。尚、図2に例示する切欠部CP1は、X軸方向に見た場合の形状が、概ね逆U字形状である。切欠部CP1は、筐体11の+X側の端部から-X側の端部に至るように形成されているため、被測定導体MCの一部を容易に筐体11の内部に配置することができる。つまり、切欠部CP1と被測定導体MCとが平行になるように、切欠部CP1を被測定導体MCに向けてセンサヘッド10を配置し、センサヘッド10を被測定導体MCに向けて移動させるだけで、被測定導体MCの一部を容易に筐体11の内部に配置することができる。
【0029】
図3は、本発明の第1実施形態による電流測定装置が備える磁気シールドを示す図である。尚、図3(a)は、磁気シールド12の外観斜視図であり、図3(b)は、図3(a)中のA-A線に沿う断面矢視図である。図3(a)に示す通り、磁気シールド12は、第1シールド部材12aと第2シールド部材12bとが組み合わされてなり、-Z側に切欠部CP2が形成された直方体形状の中空の部材である。磁気シールド12(第1シールド部材12a及び第2シールド部材12b)は、保持力が小さく透磁率が高い軟磁性体(例えば、パーマロイ等)によって形成されている。この磁気シールド12は、被測定導体MCに流れる電流Iによって生ずる磁界(信号磁界)以外の磁界(外部磁界)を遮蔽し、電流Iの測定精度を高めるために設けられる。
【0030】
切欠部CP2は、磁気シールド12の-Z側において、+X側の端部から-X側の端部に至るように形成されている。この切欠部CP2は、被測定導体MCに流れる電流Iの測定を行う際に、被測定導体MCの一部が磁気シールド12の内部に配置されるようにするために設けられる。つまり、切欠部CP2は、被測定導体MCの一部を、外部磁界が遮蔽される磁気シールド12の内部に配置するために設けられる。切欠部CP2は、X軸方向に見た場合の形状及び大きさが、筐体11に形成される切欠部CP1の形状及び大きさと同じ(或いは、ほぼ同じ)に設定されている。磁気シールド12は、X軸方向に見た場合に、切欠部CP2が筐体11の切欠部CP1と重なるように、筐体11内に収容される。
【0031】
磁気シールド12の厚みは、電流測定装置1で測定可能な最大電流(上限電流:例えば、実効値で1000[A])が被測定導体MCに流れても磁気飽和しないように設定されている。磁気シールド12は、例えば、上記の磁気飽和が生じない厚みを有する軟磁性体を用いて作成されても良く、厚みが薄い軟磁性体を複数重ねて上記の磁気飽和が生じない厚みとされた積層体を用いて作成されても良い。或いは、磁気シールド12は、上記の磁気飽和が生じない厚みを有する磁気シールド12を、鋳造や切削等によって作成されても良い。
【0032】
磁気シールド12は、図3(b)に示す通り、内部に磁気センサSE1(第1センサ)を収容する。磁気センサSE1を磁気シールド12の内部に設置するのは、外部磁界の影響が排除された状態で信号磁界を検出することで、電流Iの測定精度を高めるためである。磁気センサSE1は、被測定導体MCに流れる電流Iによって生ずる直流磁界及び低周波(例えば、数[kHz]程度まで)の交流磁界を検出する。例えば、被測定導体MCに流れる電流Iが直流電流である場合には、図2(b)中に示す磁界Hを検出する。
【0033】
磁気センサSE1は、被測定導体MCを流れる電流Iの測定に用いられるため応答性が求められる。磁気センサSE1は、例えば、遅延時間が1[msec]未満であることが好ましい。磁気センサSE1は、応答速度が十分速ければ、アナログセンサであっても良く、ディジタルセンサであっても良い。磁気センサSE1の検出軸は、三軸以上であることが望ましいが、一軸又は二軸であっても良い。磁気センサSE1の検出軸が二軸以下である場合には、磁気センサSE1は、センサヘッド10が固定機構13によって被測定導体MCに固定されたときに、検出軸(感磁方向)が電流Iによって生成される磁界の方向(被測定導体MCの接線方向)になるように磁気シールド12内に配置される。このように磁気センサSE1を配置することにより、切欠部CP2から磁気シールド12内に流入する外部磁界が、磁気センサSE1に及ぼす影響を小さくすることができる。
【0034】
磁気センサSE1は、電流測定装置1の測定精度を確保するために、雑音が小さいものが用いられる。例えば、磁気センサSE1は、磁気センサSE1の検出結果に含まれる雑音成分の大きさが、電流測定装置1の測定レンジの0.1%程度のものが用いられる。尚、磁気センサSE1としては、例えばホール素子、磁気抵抗効果素子等を用いることができる。
【0035】
磁気センサSE1は、磁気シールド12内において、信号磁界と外部磁界との強度比(SN比(信号対雑音比))が、100対1程度以上となる位置に設置される。図4は、本発明の第1実施形態におけるSN比のシミュレーション結果を示す図である。尚、図4に示すグラフは、横軸に被測定導体MCの中心からのZ方向の距離をとり、縦軸にSN比(対数)をとってある。
【0036】
尚、図4に示すシミュレーション結果は、三相交流のように、被測定導体MCに隣接して、被測定導体MCに流れる電流Iと同等の大きさの電流が流れる他の導体が存在する場合のものである。図4において、実線で示すグラフが、磁気シールド12が設けられている場合のシミュレーション結果であり、破線で示すグラフが、磁気シールド12が省略されている場合のシミュレーション結果である。また、図4に示す通り、シミュレーションにおいては、被測定導体MCの半径を5[mm]に設定してある。
【0037】
図4を参照すると、SN比は、磁気シールド12が省略されている場合よりも磁気シールド12が設けられている場合の方が遙かに高いことが分かる。また、SN比は、被測定導体MCからの距離(被測定導体MCの中心からの距離)が長くなるにつれて徐々に低下することが分かる。図4に示すシミュレーション結果では、被測定導体MCの中心からの距離が5~8[mm]以内であれば、SN比は100対1以上になる。磁気センサSE1は、例えば、磁気シールド12内において、被測定導体MCの中心からのZ方向の距離が、8[mm]となる位置に設置される。
【0038】
固定機構13は、被測定導体MCに対してセンサヘッド10を固定するための機構であり、図2に示す通り、磁気シールド12の+X側に配置される。この固定機構13は、被測定導体MCの径に拘わらず、被測定導体MCの中心と磁気センサSE1との距離が予め規定された基準距離rとなるように被測定導体MCを固定する。例えば、固定機構13は、被測定導体MCの中心と磁気センサSE1との距離が8[mm]となるように、被測定導体MCを固定する。
【0039】
固定機構13によって、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離を上記の基準距離rにするのは、磁気センサSE1の検出結果のみを用いて被測定導体MCを流れる電流Iを求めるためである。つまり、被測定導体MCを流れる電流Iは、磁気センサSE1の検出結果と、基準距離rから一意に決まる定数との積によって求められる。固定機構13によって、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離を基準距離rにすれば、被測定導体MCを流れる電流Iは、磁気センサSE1の測定結果のみを用いて求められることになる。
【0040】
固定機構13は、図2に示す通り、一対のガイド部材13a、一対の固定用アーム13b、左右ネジ13c、及びつまみ部材13dを備えるガイド付きのネジ機構である。尚、固定機構13を構成する部材(一対のガイド部材13a、一対の固定用アーム13b、左右ネジ13c、及びつまみ部材13d)は、例えば、樹脂等の非磁性材料によって形成されている。
【0041】
ガイド部材13aは、固定用アーム13bをY方向にガイドするための円柱形状の部材である。一対のガイド部材13aは、Z方向に一定の間隔を空けて、長手方向がY方向に沿うように配置される。固定用アーム13bは、V字溝状の把持部GR、ガイド部材13aが挿通されるガイド穴、及び左右ネジ13cが挿通されるネジ穴が形成された四角柱形状の部材である。一対の固定用アーム13bは、把持部GRが対向するよう配置され、ガイド穴にガイド部材13aが挿通さるとともに、ネジ穴に左右ネジ13cが螺合されている。
【0042】
左右ネジ13cは、例えば、中央部から右側(+Y側)に右ネジが設けられ、中央部から左側(-Y側)に左ネジが設けられた円柱形状のネジである。つまみ部材13dは、左右ネジ13cの一端部(+Y側の端部)に取り付けられた円柱形状の部材であり、ユーザの操作によって左右ネジ13cを軸周りに回転させるためのものである。つまみ部材13dの操作によって左右ネジ13cが軸周りの一方向に回転すると、一対の固定用アーム13bは互いに離れるようY方向に移動する。これに対し、つまみ部材13dの操作によって左右ネジ13cが軸周りの他方向に回転すると、一対の固定用アーム13bは互いに近づくようY方向に移動する。
【0043】
ここで、被測定導体MCがセンサヘッド10に固定される場合には、被測定導体MCは一対の固定用アーム13bに形成されたV溝状の把持部GRに挟まれた状態になる。被測定導体MCが把持部GRに挟まれると、Y方向の位置とZ方向の位置が規制され、被測定導体MCの中心のY方向の位置及びZ方向の位置は、被測定導体MCの径に拘わらず同じ位置になる。このように、被測定導体MCの径に拘わらず、被測定導体MCの中心と磁気センサSE1との距離が予め規定された基準距離rとなるように被測定導体MCがセンサヘッド10に固定される。
【0044】
図1に示す回路部20は、センサヘッド10から出力される検出結果(磁気センサSE1の検出結果)に基づいて、被測定導体MCに流れる電流Iを測定する。回路部20は、電流Iの測定結果を外部に出力し、或いは表示する。センサヘッド10と回路部20とを接続するケーブルCBとしては任意のものを用いることができるが、可撓性を有するものが望ましく、また、取り回しが容易なものが望ましく、また、断線が生じ難いものが望ましい。
【0045】
図5は、本発明の第1実施形態による電流測定装置の要部構成を示すブロック図である。尚、図5では、図1に示した構成に対応するブロックについては、同一の符号を付してある。以下では、主に、図5を参照して回路部20の内部構成の詳細について説明する。図2に示す通り、回路部20は、演算部21(第1演算部)及び出力部22を備える。
【0046】
演算部21は、磁気センサSE1の検出結果から、被測定導体MCに流れる電流Iを求める。ここで、磁気センサSE1は、前述の通り、直流磁界及び低周波の交流磁界を検出するものであるから、演算部21で求められる電流Iは、直流及び低周波の成分である。演算部21には、前述した基準距離rを示す距離情報が予め格納されている。演算部21は、磁気センサSE1の検出結果(磁界H)と基準距離rから一意に決まる定数との積を演算することによって、被測定導体MCに流れる電流Iを求める。
【0047】
出力部22は、演算部21で演算された電流Iの測定結果を外部に出力する。尚、出力部22は、例えば電流Iの測定結果を示す信号を外部に出力する出力端子を備えてもよく、電流Iの測定結果を外部に表示する表示装置(例えば、液晶表示装置)を備えていても良い。
【0048】
ここで、図1に示す通り、回路部20は、センサヘッド10と分離されており、ケーブルCBを介してセンサヘッド10に接続されている。このような構成にすることで、磁界検出機能(磁気センサSE1)と、演算機能(演算部21及び出力部22)とを分離することができる。これにより、センサヘッド10の取り回しが容易になり、例えば狭い場所へのセンサヘッド10の設置も容易に行うことができる。また、演算機能がセンサヘッド10内に設けられている場合に生ずる諸問題(例えば、温度特性、絶縁耐性)等を回避することができ、これにより電流測定装置1の用途を拡げることができる。
【0049】
〈電流測定装置の動作〉
次に、電流測定装置1を用いて被測定導体MCに流れる電流Iを測定する際の動作について説明する。まず、電流測定装置1のユーザは、被測定導体MCに流れる電流Iを測定するために、図1に示す通り、センサヘッド10を被測定導体MCに固定させる作業を行う。
【0050】
具体的に、電流測定装置1のユーザは、切欠部CP1と被測定導体MCとが平行になるように、切欠部CP1を被測定導体MCに向けてセンサヘッド10を配置し、センサヘッド10を被測定導体MCに向けて移動させる作業を行う。これにより、被測定導体MCの一部がセンサヘッド10の筐体11の内部に配置される。電流測定装置1のユーザは、固定機構13のつまみ部材13dを操作して一対の固定用アーム13bを互いに近づく方向に移動させ、一対の固定用アーム13bの把持部GRによって被測定導体MCが挟まれた状態にする作業を行う。
【0051】
以上の作業が行われると、被測定導体MCが、固定機構13によってセンサヘッド10に固定されるとともに、被測定導体MC部が、センサヘッド10に設けられた磁気シールド12の切欠部CP2に挿通された状態になる。尚、この状態において、磁気シールド12の切欠部CP2に挿通された被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離は、基準距離rに設定される。
【0052】
以上の作業が終了すると、被測定導体MCに流れる電流Iを測定する処理が行われる。具体的には、まず、磁気センサSE1によって、被測定導体MCに流れる電流Iによって形成される磁界を検出する処理が行われる。次に、磁気センサSE1の検出結果から、被測定導体MCに流れる電流Iを求める処理が、演算部21で行われる。具体的に、演算部21では、自身に格納されている定数(基準距離rから一意に決まる定数)と、磁気センサSE1の検出結果(磁界H)との積を演算することによって、被測定導体MCに流れる電流I(直流及び低周波の成分)を求める処理が行われる。以上の処理が終了すると、演算部21で求められた電流Iを示す情報を出力する処理が出力部22で行われる。以上の処理が、連続的に、或いは、一定周期(例えば、1秒)で繰り返し行われる。
【0053】
以上の通り、本実施形態では、被測定導体MCが挿通される切欠部CP2を有し、内部に磁気センサSE1を収容する中空の磁気シールド12と、被測定導体MCの中心と磁気シールド12との距離が予め規定された基準距離rとなるよう被測定導体MCを固定する固定機構13と、磁気センサSE1の検出結果から被測定導体MCに流れる電流を求める演算部21と、を備えている。このため、本実施形態では、小型で被測定導体MCに流れる電流I(直流及び低周波の成分)を非接触で高精度に測定することができる。
【0054】
〔第2実施形態〕
〈電流測定装置の構成〉
図6は、本発明の第2実施形態による電流測定装置の外観図である。図6に示す通り、本実施形態の電流測定装置2は、ケーブルCBによって接続されたセンサヘッド10A及び回路部20Aを備えており、被測定導体MCに流れる電流Iを非接触で測定する。尚、被測定導体MCは、例えばパワー半導体のピンやバスバー等の任意の導体であるが、本実施形態でも説明を簡単にするために、被測定導体MCは、円柱形状の導体であるとする。
【0055】
センサヘッド10Aは、第1実施形態のセンサヘッド10に、ロゴスキーセンサSE2(第2センサ)を追加した構成である。前述した第1実施形態の電流測定装置1は、被測定導体MCに流れる電流Iの直流及び低周波の成分を測定するものであった。これに対し、本実施形態の電流測定装置2は、被測定導体MCに流れる電流Iの直流及び低周波の成分に加え、低周波から高周波の成分を測定可能にしたものである。
【0056】
ロゴスキーセンサSE2は、被測定導体MCに流れる電流Iによって生ずる低周波(例えば、数[kHz])から高周波(例えば、数十[MHz])の交流磁界を検出する。ロゴスキーセンサSE2は、ロゴスキーコイル(空芯コイル)を用いたセンサであり、被測定導体MCの周囲を取り囲んだ状態に配置される。尚、ロゴスキーセンサSE2は、被測定導体MCの周囲への配置を容易にするために、その一端部E1がセンサヘッド10Aに対して着脱可能に構成されている。
【0057】
回路部20Aは、センサヘッド10Aから出力される検出結果(磁気センサSE1及びロゴスキーセンサSE2の検出結果)に基づいて、被測定導体MCに流れる電流Iを測定する。回路部20Aは、電流Iの測定結果を外部に出力し、或いは表示する。ケーブルCBは、第1実施形態と同様に、可撓性を有するものが望ましく、また、取り回しが容易なものが望ましく、また、断線が生じ難いものが望ましい。
【0058】
図7は、本発明の第2実施形態による電流測定装置の要部構成を示すブロック図である。尚、図7では、図5に示した構成に対応するブロックについては、同一の符号を付してある。以下では、主に、図7を参照して回路部20Aの内部構成の詳細について説明する。図7に示す通り、回路部20Aは、演算部21及び出力部22に加えて、演算部23(第2演算部)及び合成部24を備える。
【0059】
演算部23は、ロゴスキーセンサSE2の検出結果から、被測定導体MCに流れる電流Iを求める。ここで、ロゴスキーセンサSE2は、前述の通り、低周波から高周波の交流磁界を検出するものであるから、演算部23で求められる電流Iは、低周波から高周波の成分である。ロゴスキーセンサSE2の検出結果は、被測定導体MCに流れる電流I(交流電流)の周囲に生じる交流磁界によってロゴスキーコイルに誘起される電圧を示すものである。演算部23は、ロゴスキーセンサSE2の検出結果(電圧)を電流値に変換する演算を行うことによって被測定導体MCに流れる電流Iを求める。
【0060】
合成部24は、演算部21の演算結果と演算部23の演算結果を合成する。具体的に、合成部24は、低域通過フィルタ24a、高域通過フィルタ24b、信号レベル調整部24c、及び加算部24dを備える。低域通過フィルタ24aは、演算部21の演算結果から高周波成分を除去して低周波成分を通過させ、後述する合成処理に適した所望の周波数特性の信号とする。高域通過フィルタ24bは、演算部23の演算結果から低周波成分を除去して高周波成分を通過させ、後述する合成処理に適した所望の周波数特性の信号とする。
【0061】
信号レベル調整部24cは、低域通過フィルタ24aから出力される信号のレベルを調整する。例えば、信号レベル調整部24cは、実効値が同じ直流電流と交流電流とが被測定導体MCに流れている場合に、低域通過フィルタ24aから出力される信号の信号レベルが、高域通過フィルタ24bから出力される信号の信号レベルと同じになるように調整する。この信号レベル調整部24cとしては、例えば可変抵抗を用いることができる。
【0062】
尚、本実施形態においては、低域通過フィルタ24aから出力される信号のレベルのみを調整する信号レベル調整部24cを備えているが、本発明はこれに限定されない。例えば、高域通過フィルタ24bから出力される信号のレベルを調整する信号レベル調整部を、信号レベル調整部24cに代えて備えたものであっても良く、信号レベル調整部24cに加えて備えたものであっても良い。或いは、第1信号のレベルと第2信号のレベルとをそれぞれ調整可能な信号レベル調整部を備えてもよい。
【0063】
加算部24dは、信号レベル調整部24cによって信号レベルが調整された信号と、高域通過フィルタ24bから出力される信号とを加算する。信号レベル調整部24cによって信号レベルが調整された信号は、電流Iの直流及び低周波の成分を示す信号である。高域通過フィルタ24bから出力される信号は、電流Iの高周波の成分を示す信号である。このため、これらを加算することにより、直流及び高周波までの交流の成分を示す信号を得ることができる。
【0064】
図8は、本発明の第2実施形態において、回路部の合成部で行われる処理を説明するための図である。尚、図8(a)は、低域通過フィルタ24aのフィルタ特性の一例を示す図である。図8(b)は、高域通過フィルタ24bのフィルタ特性の一例を示す図である。図8(c)は、合成部の周波数特性の一例を示す図である。
【0065】
図8(a),(b)に示す通り、低域通過フィルタ24a及び高域通過フィルタ24bの遮断周波数は共にfcである。つまり、低域通過フィルタ24aは、概ね、遮断周波数fcよりも高い周波数成分を除去し、遮断周波数fcよりも低い周波数成分を通過させる特性を有する。また、高域通過フィルタ24bは、概ね、遮断周波数fcよりも低い周波数成分を除去し、遮断周波数fcよりも高い周波数成分を通過させる特性を有する。
【0066】
図8(c)に示す通り、合成部24の周波数特性は、いわば図8(a)に示す特性と図8(b)に示す特性とが、遮断周波数fc及びその付近において平坦となるように合成された特性となる。つまり、合成部24の周波数特性は、低周波から高周波までの交流電流の実効値が平坦とされたものになり、直流電流の実効値(電流値)は、この周波数特性において平坦とされた交流電流の実効値と略一致した値となる。
【0067】
ここで、合成部24で合成された信号(電流Iの測定結果)が、被測定導体MCを流れる電流Iを再現したものになるには、磁気センサSE1の遅延時間tdelayと、上記の遮断周波数fcとの関係が、tdelay<(1/fc)×(1/100)なる関係を満たす必要がある。尚、上記の遅延時間tdelayは、被測定導体MCに流れる電流が変化してから(つまり、磁気センサSE1に加わる磁界が変化してから)、磁気センサSE1が検出結果を出力するまでに要する時間である。
【0068】
出力部22は、合成部24で合成された信号(電流Iの測定結果)を外部に出力する。尚、出力部22は、第1実施形態と同様に、例えば電流Iの測定結果を示す信号を外部に出力する出力端子を備えてもよく、電流Iの測定結果を外部に表示する表示装置(例えば、液晶表示装置)を備えていても良い。
【0069】
ここで、図7に示す通り、回路部20Aは、センサヘッド10Aと分離されており、ケーブルCBを介してセンサヘッド10Aに接続されている。このような構成にすることで、磁界検出機能(磁気センサSE1、ロゴスキーセンサSE2)と、演算機能(演算部21,23、合成部24、及び出力部22)とを分離することができる。これにより、センサヘッド10Aの取り回しが容易になり、例えば狭い場所へのセンサヘッド10Aの設置も容易に行うことができる。また、演算機能がセンサヘッド10A内に設けられている場合に生ずる諸問題(例えば、温度特性、絶縁耐性)等を回避することができ、これにより電流測定装置2の用途を拡げることができる。
【0070】
〈電流測定装置の動作〉
次に、電流測定装置2を用いて被測定導体MCに流れる電流Iを測定する際の動作について説明する。まず、電流測定装置2のユーザは、被測定導体MCに流れる電流Iを測定するために、第1実施形態と同様に、固定機構13によって、センサヘッド10Aを被測定導体MCに固定させる作業を行う。以上の作業が行われると、第1実施形態と同様に、被測定導体MCが、固定機構13によってセンサヘッド10Aに固定され、被測定導体MCに対する磁気センサSE1の距離が基準距離rに設定される。
【0071】
また、電流測定装置2のユーザは、図6に示す通り、被測定導体MCの周囲を取り囲んだ状態にロゴスキーセンサSE2を配置する作業を行う。このとき、電流測定装置2のユーザは、必要であればロゴスキーセンサSE2の一端部E1をセンサヘッド10Aから取り外して、上述したセンサヘッド10Aを被測定導体MCに固定させる作業を行う。そして、作業終了後に、ロゴスキーセンサSE2を上記の状態に配置してから、ロゴスキーセンサSE2の一端部E1をセンサヘッド10Aに取り付けるようにしても良い。
【0072】
以上の作業が終了すると、被測定導体MCに流れる電流Iを測定する処理が行われる。具体的には、まず、磁気センサSE1及びロゴスキーセンサSE2によって、被測定導体MCに流れる電流Iによって形成される磁界を検出する処理が行われる。次に、磁気センサSE1及びロゴスキーセンサSE2の検出結果から、被測定導体MCに流れる電流Iを求める処理が、演算部21,23で行われる。具体的に、演算部21では、自身に格納されている定数(基準距離rから一意に決まる定数)と、磁気センサSE1の検出結果(磁界H)との積を演算することによって、被測定導体MCに流れる電流I(直流及び低周波の成分)を求める処理が行われる。また、演算部23では、ロゴスキーセンサSE2の検出結果(電圧)を電流値に変換する演算を行うことによって被測定導体MCに流れる電流I(低周波から高周波の成分)を求める処理が行われる。
【0073】
続いて、演算部21,23で演算された電流を合成する処理が、合成部24で行われる。具体的には、まず、演算部21の演算結果が低域通過フィルタ24aに入力されて高周波成分が除去され、演算部23の演算結果が高域通過フィルタ24bに入力されて低周波成分が除去される。次に、低域通過フィルタ24aから出力される信号(低域通過フィルタ24aを通過した低周波成分)と、高域通過フィルタ24bから出力される信号(高域通過フィルタ24bを通過した高周波成分)とのレベルを調整する処理が、信号レベル調整部24cで行われる。
【0074】
そして、信号レベル調整部24cによって信号レベルが調整された信号と、高域通過フィルタ24bから出力される信号とを加算する処理が加算部24dで行われる。このようにして、演算部21,23で演算された電流が合成される。以上の処理が終了すると、合成部24で合成された電流が出力部22から出力される。以上の処理が、連続的に、或いは、一定周期(例えば、1秒)で繰り返し行われる。
【0075】
以上の通り、本実施形態では、磁気シールド12に収容され、被測定導体MCに流れる電流によって生ずる直流磁界及び低周波の交流磁界を検出する磁気センサSE1と、被測定導体MCに流れる電流によって生ずる低周波から高周波の交流磁界を検出するロゴスキーセンサSE2とを設けている。そして、磁気センサSE1の検出結果から被測定導体MCに流れる電流(直流電流及び低周波の交流電流)を求め、ロゴスキーセンサSE2の検出結果から被測定導体MCに流れる電流(低周波から高周波)を求め、各々の演算結果を合成するようにしている。このため、本実施形態では、小型で被測定導体MCに流れる電流I(直流及び低周波の成分並びに低周波から高周波の成分)を非接触で高精度に測定することができる。
【0076】
〔第3実施形態〕
〈電流測定装置の構成〉
図9は、本発明の第3実施形態による電流測定装置の外観図である。図9に示す通り、本実施形態の電流測定装置3は、図6に示す電流測定装置2が備えるセンサヘッド10Aをセンサヘッド10Bに代えた構成である。本実施形態の電流測定装置3は、第2実施形態の電流測定装置2と同様に、被測定導体MCに流れる電流Iの直流及び低周波の成分に加え、低周波から高周波の成分を測定可能にしたものである。
【0077】
図10は、本発明の第3実施形態による電流測定装置が備えるセンサヘッドの磁気シールドの断面矢視図である。尚、図10は、図3(b)に示す断面矢視図に相当するものである。センサヘッド10Bは、第2実施形態のセンサヘッド10AのロゴスキーセンサSE2を省略し、代わりにコイルSE3(第2センサ)を設けた構成である。
【0078】
コイルSE3は、ロゴスキーセンサSE2と同様に、被測定導体MCに流れる電流Iによって生ずる低周波(例えば、数[kHz])から高周波(例えば、数十[MHz])の交流磁界を検出する。コイルSE3は、電流測定装置3で測定可能な最大電流(上限電流)と、電流測定装置3で測定可能な最大周波数とに応じて設計されており、図10に示す通り、磁気シールド12の内部に収容される。
【0079】
具体的に、コイルSE3は、センサヘッド10Bが固定機構13によって被測定導体MCに固定されたときに、検出軸(感磁方向)が電流Iによって生成される磁界の方向(被測定導体MCの接線方向)になるように磁気シールド12内に配置される。このようにコイルSE3を配置することにより、切欠部CP2から磁気シールド12内に流入する外部磁界が、コイルSE3に及ぼす影響を小さくすることができる。図10に示す例において、コイルSE3は、磁気シールド12の内部において、被測定導体MCの中心との距離が、磁気センサSE1と被測定導体MCの中心との距離よりも長くなる位置に配置される。尚、センサヘッド10Bの内部におけるコイルSE3の位置は、図10に例示される位置に制限される訳ではなく、図10に例示する位置とは異なる位置に設けられていても良い。
【0080】
回路部20Aは、第2実施形態による電流測定装置2が備える回路部20Aと同様の構成である。本実施形態の電流測定装置3の回路構成は、図7に示すロゴスキーセンサSE2をコイルSE3と読み替え、センサヘッド10Aをセンサヘッド10Bと読み替えれば良い。ケーブルCBは、第1,第2実施形態と同様に、可撓性を有するものが望ましく、また、取り回しが容易なものが望ましく、また、断線が生じ難いものが望ましい。
【0081】
〈電流測定装置の動作〉
本実施形態の電流測定装置3の動作は、基本的に、第2実施形態の電流測定装置2の動作と同様であるため、詳細な説明を省略する。尚、本実施形態では、第2実施形態の電流測定装置2が備えるロゴスキーセンサSE2が省略されているため、第2実施形態で行われるロゴスキーセンサSE2の配置作業(被測定導体MCの周囲を取り囲んだ状態にロゴスキーセンサSE2を配置する作業)は省略される。
【0082】
以上の通り、本実施形態では、被測定導体MCに流れる電流によって生ずる直流磁界及び低周波の交流磁界を検出する磁気センサSE1と、被測定導体MCに流れる電流によって生ずる低周波から高周波の交流磁界を検出するコイルSE3とを、磁気シールド12の内部に収容している。そして、磁気センサSE1の検出結果から被測定導体MCに流れる電流(直流電流及び低周波の交流電流)を求め、コイルSE3の検出結果から被測定導体MCに流れる電流(低周波から高周波)を求め、各々の演算結果を合成するようにしている。このため、本実施形態では、小型で被測定導体MCに流れる電流I(直流及び低周波の成分並びに低周波から高周波の成分)を非接触で高精度に測定することができる。
【0083】
また、本実施形態では、第2実施形態の電流測定装置2が備えるロゴスキーセンサSE2に代えて、磁気シールド12の内部に収容されたコイルSE3を備えている。このため、第2実施形態で必要であったロゴスキーセンサSE2の配置作業(被測定導体MCの周囲を取り囲んだ状態にロゴスキーセンサSE2を配置する作業)を省略することができるとともに、センサヘッドをより小型化することができる。
【0084】
〔第4実施形態〕
本発明の第4実施形態による電流測定装置は、前述した第1~3実施形態による電流測定装置1~3が備えるセンサヘッド10,10A,10Bの磁気シールド12の内部に梁部材BMを設けたものである。このような電流測定装置は、磁気シールド12内におけるSN比を向上させて、測定精度の向上を図るものである。尚、以下では、第1実施形態による電流測定装置1が備えるセンサヘッド10の磁気シールド12の内部に梁部材BMを設けたものを例に挙げて説明する。
【0085】
図11は、本発明の第4実施形態による電流測定装置のセンサヘッドに設けられる磁気シールドの構成を示す図である。図11(a)は、磁気シールド12の外観斜視図であり、図11(b)は、磁気シールド12の断面矢視図であり、図11(c),(d)は、磁気シールド12の内部に設けられる梁部材BMを例示する斜視図である。尚、図11(b)は、図3(b)に示す断面矢視図に相当するものである。
【0086】
梁部材BMは、例えば、磁気シールド12と同じ材質(例えば、パーマロイ等)によって形成されている。梁部材BMの太さは、電流測定装置1で測定可能な最大電流(上限電流)が被測定導体MCに流れても磁気飽和しないように、磁気シールド12の厚みと同等以上に設定される。尚、梁部材BMは、磁気シールド12と同様の製法によって作成されても良い。
【0087】
また、梁部材BMは、磁気シールド12と一体的に形成されても良く、磁気シールド12とは別体として形成されても良い。梁部材BMが、磁気シールド12とは別体として形成される場合には、例えば、図11(c)又は図11(d)に示す梁部材BMを用いることができる。図11(c)に示す梁部材BMは、四角柱状の梁部bmと、梁部bmの両端に設けられた一対の柱状の支持部spとからなる部材である。図11(d)に示す梁部材BMは、四角柱状の梁部bmと、梁部bmの両端に設けられた一対の柱状の支持部spと、支持部spの他端同士を接続する接続部cnとからなる部材である。
【0088】
梁部材BMは、例えば、四角柱状の梁部bmが、磁気センサSE1の-Z側(磁気センサSE1と切欠部CP2との間)においてX方向に延びるように、磁気シールド12の内部に配置されている。このとき、梁部材BMは、梁部bmの両端部(一対の柱状の支持部sp)が、第1シールド部材12a及び第2シールド部材12bの内壁とそれぞれ接するようにされる。尚、梁部材BMは、必ずしも梁部bmがX方向に延びるように配置される必要はない。例えば、梁部材BMは、梁部bmがY方向に延びるように配置されていても良い。
【0089】
図12は、本発明の第4実施形態における磁束密度分布のシミュレーション結果を示す図である。具体的に、図12に示すシミュレーション結果は、Z軸方向の外部磁界EMが存在する場合における磁気シールド12内の磁束密度をシミュレーションによって求めたものである。図12(a)は梁部材BMが設けられていない場合のものであり、図12(b)は、梁部材BMが設けられている場合のものである。
【0090】
図12(a)を参照すると、梁部材BMが設けられていない場合における磁気シールド12内の磁束密度分布は、おおよそ、被測定導体MCを中心とし、被測定導体MCから離れるにつれて磁束密度が徐々に低くなる楕円形状の分布となる。これに対し、図12(b)を参照すると、梁部材BMが設けられている場合における磁気シールド12内の磁束密度分布は、梁部材BMの+Z側において磁束密度が低下する領域R1が出現する。
【0091】
図13は、本発明の第4実施形態におけるSN比のシミュレーション結果を示す図である。尚、図13に示すグラフは、図4に示すグラフと同様に、横軸に被測定導体MCの中心からのZ方向の距離をとり、縦軸にSN比(対数)をとってある。尚、図13に示す通り、シミュレーションにおいては、被測定導体MCの半径を5[mm]に設定し、太さが2[mm]の梁部材BMが被測定導体MCの中心から6[mm]だけ離れた位置に設定してある。
【0092】
図13を参照すると、梁部材BMが省略されている場合には、SN比は、被測定導体MCからの距離(被測定導体MCの中心からの距離)が長くなるにつれて徐々に低下することが分かる。これに対し、梁部材BMが設けられている場合には、被測定導体MCの中心からの距離が11.5[mm]付近の位置において、SNが急激に上昇して100対1以上になる箇所が現れるのが分かる。よって、この箇所に磁気センサSE1を配置することで、測定精度の向上を図ることができる。
【0093】
以上、本発明の実施形態による電流測定装置について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上述した実施形態における電流測定装置は、センサヘッドと回路部とがケーブルCBによって接続されたものであったが、回路部の機能をセンサヘッドに設けて、センサヘッドと回路部とを一体化しても良い。
【0094】
また、上述した実施形態では、センサヘッドの固定機構13がガイド付きのネジ機構である場合を例に挙げて説明したが、固定機構13は、ガイド付きのネジ機構に制限される訳ではない。固定機構13は、被測定導体MCの径に拘わらず、被測定導体MCの中心と磁気センサSE1との距離が予め規定された基準距離rとなるように被測定導体MCを固定することができれば、任意の機構を採用することができる。例えば、被測定導体MCの側面を挟持するように構成された樹脂製の板バネ等を採用することができる。
【0095】
また、上述した実施形態では、センサヘッドの固定機構13が磁気シールド12の+X側に配置されている例について説明した。しかしながら、固定機構13は、磁気シールド12の-X側に配置されていても良く、或いは、磁気シールド12の内部に配置されていても良い。
【符号の説明】
【0096】
1~3 電流測定装置
10,10A,10B センサヘッド
12 磁気シールド
13 固定機構
20,20A 回路部
21,23 演算部
24 合成部
BM 梁部材
CP2 切欠部
I 電流
MC 被測定導体
r 基準距離
SE1 磁気センサ
SE2 ロゴスキーセンサ
SE3 コイル
図1
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図13