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特許7605598ソフピロニウム臭化物の結晶形態及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ソフピロニウム臭化物の結晶形態及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 207/12 20060101AFI20241217BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20241217BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241217BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20241217BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C07D207/12
A61K31/40
A61P17/00
A61P25/02
A61P43/00 111
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020133620
(22)【出願日】2020-08-06
(62)【分割の表示】P 2020089283の分割
【原出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2020189856
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】62/851,880
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000124269
【氏名又は名称】科研製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518327420
【氏名又は名称】ブリッケル バイオテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】丸林 千能
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将仁
(72)【発明者】
【氏名】ハーバート ブリンクマン
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/026869(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/059021(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/058971(WO,A2)
【文献】JI, F. et al.,Synthesis and pharmacological effects of new, N-substituted soft anticholinergics based on glycopyrr,Journal of Pharmacy and Pharmacology,2005年,57(11),pp. 1427-1435,DOI:10.1211/jpp.57.11.0008
【文献】TOTH-SARUDY, E. et al.,Preparation and biological effects of pure stereoisomeric novel soft anticholinergics,Pharmazie,2006年,61(2),pp. 90-96,ISSN: 0031-7144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 207/12
A61K 31/40
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I-a):
【化1】
で表される化合物(I-a)、及び
式(I-b):
【化2】
で表される化合物(I-b)を1:3の割合で含む共結晶である、
式(I):
【化3】
で表される化合物(I)(ソフピロニウム臭化物)の結晶形態の製造方法であって、下記の工程:
工程C:酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む溶媒中で、化合物(I)の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する調製する工程、及び
工程D:化合物(I)の前記懸濁液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
を含む製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の式(I-a)で表される化合物(I-a)及び式(I-b)で表される化合物(I-b)を1:3の割合で含む共結晶である式(I)で表される化合物(I)の結晶形態の製造方法であって、下記の工程:
工程A:溶媒中で、
式(II):
【化4】
で表される化合物(II)とブロモ酢酸エチルとを反応させ、化合物(I)を含む反応液を調製する工程、
工程B:前記反応液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
工程C':酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む溶媒中で、化合物(I)の前記結晶形態の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する工程、及び
工程D:化合物(I)の前記懸濁液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
を含む製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の式(I-a)で表される化合物(I-a)及び式(I-b)で表される化合物(I-b)を1:3の割合で含む共結晶である式(I)で表される化合物(I)の結晶形態を含む化合物(I)の含有量に対して、下記式(III):
【化5】
で示される化合物(III)の含有量が0.5w/w%以下である、化合物(I)の結晶形態。
【請求項4】
請求項1に記載の式(I-a)で表される化合物(I-a)及び式(I-b)で表される化合物(I-b)を1:3の割合で含む共結晶である式(I)で表される化合物(I)の結晶形態を含む化合物(I)の含有量に対して、下記式(IV):
【化6】
で示される化合物(IV)の含有量が0.5w/w%以下である、化合物(I)の結晶形態。
【請求項5】
請求項1に記載の式(I-a)で表される化合物(I-a)及び式(I-b)で表される化合物(I-b)を1:3の割合で含む共結晶である式(I)で表される化合物(I)の結晶形態を含む化合物(I)の含有量に対して、下記式(V):
【化7】
で示される化合物(V)の含有量が0.5w/w%以下である、化合物(I)の結晶形態。
【請求項6】
請求項1に記載の式(I-a)で表される化合物(I-a)及び式(I-b)で表される化合物(I-b)を1:3の割合で含む共結晶である式(I)で表される化合物(I)の結晶形態を含む化合物(I)の含有量に対して、下記式(III):
【化8】
で示される化合物(III)、下記式(IV):
【化9】
で示される化合物(IV)、及び、下記式(V):
【化10】
で示される化合物(V)の各含有量が各々0.5w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が98.0w/w%以上である、化合物(I)の結晶形態。
【請求項7】
請求項1に記載の式(I-a)で表される化合物(I-a)及び式(I-b)で表される化合物(I-b)を1:3の割合で含む共結晶である式(I)で表される化合物(I)の結晶形態を含む化合物(I)の含有量に対して、下記式(III):
【化11】
で示される化合物(III)、下記式(IV):
【化12】
で示される化合物(IV)、及び、下記式(V):
【化13】
で示される化合物(V)の各含有量が各々0.5w/w%以下であり、不純物の総含有量が2.0w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が98.0w/w%以上である、化合物(I)の結晶形態。
【請求項8】
請求項1に記載の式(I-a)で表される化合物(I-a)及び式(I-b)で表される化合物(I-b)を1:3の割合で含む共結晶である式(I)で表される化合物(I)の結晶形態を含む化合物(I)の含有量に対して、下記式(III):
【化14】
で示される化合物(III)、下記式(IV):
【化15】
で示される化合物(IV)、及び、下記式(V):
【化16】
で示される化合物(V)の各含有量が各々0.15w/w%以下であり、不純物の総含有量が1.0w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が99.0w/w%以上である、化合物(I)の結晶形態。
【請求項9】
請求項3から8のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合する工程を含む方法により製造された、アセチルコリンの作用に関連した疾患の治療及び/又は予防のための医薬組成物。
【請求項10】
請求項3から8のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合する工程を含む方法により製造された、多汗症の治療及び/又は予防のための医薬組成物。
【請求項11】
請求項3から8のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合する工程を含む方法により製造された、原発性腋下多汗症又は原発性手掌多汗症の治療及び/又は予防のための医薬組成物。
【請求項12】
アセチルコリンの作用に関連した疾患の治療及び/又は予防のための医薬組成物を製造する方法であって、請求項3から8のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合する工程を含む方法。
【請求項13】
多汗症の治療及び/又は予防のための医薬組成物を製造する方法であって、請求項3から8のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合する工程を含む方法。
【請求項14】
原発性腋下多汗症又は原発性手掌多汗症の治療及び/又は予防のための医薬組成物を製造する方法であって、請求項3から8のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフピロニウム臭化物の結晶形態、高純度のソフピロニウム臭化物、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の原薬は、高純度で物理化学的に安定な形態として、工業的に得られることが好ましい。また、取り扱いや保管の観点から、物理化学的に安定な結晶形態で得られることが特に好ましい。
【0003】
ところで、アセチルコリンは、生体の主要な神経伝達物質として知られ、多様な作用を有しており、汗腺の活性化による発汗作用もその一つである。抗コリン剤は、アセチルコリンの作用を阻害するため、多汗症の治療剤として有用である。多汗症の治療に有用な抗コリン剤としては、BBI-4000(ソフピロニウム臭化物)が知られている(特許文献1)。
【0004】
ソフピロニウム臭化物は、下記式(I):
【化1】
で表される第四級アンモニウム塩の化合物(BBI-4000、(2R,3'R)-3'-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)-1'-(エトキシカルボニルメチル)-1'-メチルピロリジニウム ブロミド)である。
ソフピロニウム臭化物において、2-位及び3'-位の立体はそれぞれR配置として特定されるが、1'-位の四級窒素部位の立体は特定されない。
【0005】
より具体的には、ソフピロニウム臭化物は、下記式(I-a):
【化2】
で示される(2R,3'R,1'R)-3'-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)-1'-(エトキシカルボニルメチル)-1'-メチルピロリジニウム ブロミド(以下、本明細書において、上記の1'R-ジアステレオマーを「化合物(I-a)」とも言う。)と、
下記式(I-b):
【化3】
で表される(2R,3'R,1'S)- 3'-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)-1'-(エトキシカルボニルメチル)-1'-メチルピロリジニウム ブロミド(以下、本明細書において、上記の1'S-ジアステレオマーを「化合物(I-b)」とも言う。)との混合物である。
【0006】
非特許文献1及び特許文献2には、化合物(I)、化合物(I-a)、及び化合物(I-b)の製造方法が記載されており、下記式(II):
【化4】
で表されるアミン化合物((2R,3'R)-3'-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトキシ)-1'-メチルピロリジン(以下、本明細書において、上記のアミン化合物を「化合物(II)」又は「(2R,3'R)-CPMA-MP」とも言う。)とブロモ酢酸エチルとを、アセトニトリル中でN-アルキル化反応を行い、化合物(I)の粗生成物を得た後、カラムクロマトグラフィー(クロロホルム-メタノール)を用いて、化合物(I-a)と化合物(I-b)とを分取する方法が開示されている。
【0007】
本製造方法で得られた化合物(I)は粗生成物であり、非特許文献1において粗化合物(I)における化合物(I-a)及び化合物(I-b)の含有比は言及されていないが、カラムクロマトグラフィーにより、化合物(I-a)が収率19%(単離収率)で得られ、化合物(I-b)が収率28%(単離収率)で得られている。しかしながら、カラムクロマトグラフィーで精製しているにもかかわらず、本製造方法で得られた化合物(I-a)と化合物(I-b)の純度は低く、かつ、その性状や結晶形態に関する記載がない。そのため、本製造方法で得られた化合物(I)、化合物(I-a)及び化合物(I-b)は、医薬品の原薬として適切なプロファイルを有していないと考えられる。
【0008】
特許文献3には、化合物(II)とブロモ酢酸メチルとをアセトニトリル中でN-アルキル化反応を行った後、生成した粗化合物(I)のメチレンクロリド溶液をジエチルエーテル中に加えて沈殿物を得る方法が記載されている。しかしながら、化合物(II)に対してブロモ酢酸メチルを反応させることにより化合物(I)を製造できるかは疑わしい。また、仮に、化合物(I)を製造できたとしても、特許文献3には、化合物(I)の上記沈殿物の性状に関する記載がなく、化合物(I)の結晶形態や純度に関する記載も一切ない。更に、特許文献3に記載された製造方法では、沈殿物を得る工程を3回繰り返しているが、このような操作を必要とする方法は工業的に適用可能ではなく、使用しているメチレンクロリド及びジエチルエーテルも工業的に適した溶媒ではない。これらの点から、特許文献3に記載された化合物(I)の上記沈殿物は、医薬品の原薬として適した物理化学的な性状・特徴を有しているとは言い難く、本製造方法で化合物(I)を工業的に製造することは困難である。
【0009】
上記の各先行技術文献において、ソフピロニウム臭化物は、化合物(I)、すなわちジアステレオマー(エピマー)の混合物として生成しているが、この理由は、N-アルキル化反応において、1’位の立体化学が制御できないためである。また、いずれの文献にも、ソフピロニウム臭化物の結晶形態、高純度のソフピロニウム臭化物、及びそれらの製造方法について開示も示唆もない。
【0010】
一般に、医薬品の原薬がジアステレオマーの混合物である例は少なく、医薬品の原薬として適切なプロファイルを有する結晶形態を得るための一般的な手法や事例等は殆ど知られていない。上述の先行技術文献において、ソフピロニウム臭化物は、ジアステレオマーの混合物として製造されているが、その結晶形態についての開示や示唆はない。ましてや、これらの文献には、医薬品の原薬として適切なプロファイルを有するソフピロニウム臭化物の結晶形態やそれを得るための製造方法についての開示や示唆は全くない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Pharmazie (2006), 61(2), 90-96
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2015/138776号
【文献】国際公開第2007/058971号
【文献】国際公開第2018/026869号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
医薬品の原薬は安定な結晶形態で供給されることが好ましいが、併せて、簡便かつ工業的に適用可能な方法で供給される必要がある。上記の先行技術文献にはソフピロニウム臭化物の結晶形態が全く開示されておらず、その存在も示唆されていない。従って、ソフピロニム臭化物の結晶形態が、単一の結晶として得られるのか、それとも、数種の結晶形態の混合物として得られるのか全く予想できない。
【0014】
以上の背景に鑑み、本発明が解決しようとする課題の一つは、医薬品の原薬として最適なプロファイルを有するソフピロニウム臭化物を提供することにある。
本発明が解決しようとする別の課題は、医薬品の原薬として最適なプロファイルを有するソフピロニウム臭化物の結晶形態を提供することにある。
【0015】
本発明が解決しようとする別の課題は、高純度のソフピロニウム臭化物を提供することにあり、特に、物理化学的に安定な高純度のソフピロニウム臭化物の結晶形態を提供することである。
本発明が解決しようとするさらに別の課題は、上記のソフピロニウム臭化物(その結晶形態を含む。)の工業的に適用可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題に鑑み、医薬品の原薬として最適なプロファイルを有するソフピロニウム臭化物の結晶形態を提供すべく、様々に鋭意検討した。
【0017】
本発明者らは、ソフピロニウム臭化物の製造において、N-アルキル化反応の条件を種々変更しても、得られるソフピロニウム臭化物は、化合物(I-a)及び化合物(I-b)を必ず含有し、その含有比は、一定の範囲内であることを確認した。例えば、本発明の一実施態様において、N-アルキル化反応によって得られる化合物(I)中の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は50:50~10:90であり、本発明の典型的な実施態様において、40:60~25:75である。
【0018】
上記のように、化合物(II)とブロモ酢酸エチルとを反応させる方法(N-アルキル化反応)では、製造条件によらず、常に化合物(I-a)及び化合物(I-b)を含むソフピロニウム臭化物が得られる。そこで、本発明者らは、化合物(I)を医薬品の原薬として供給するにあたり、化合物(I-a)及び化合物(I-b)を分離して供給することは工業的に現実的ではなく、ジアステレオマー(エピマー)の混合物である化合物(I)の結晶形態として原薬を得て、それを医薬品の原料として利用することが、製造コストや医薬品の安定供給の観点から必要不可欠であると考えた。
【0019】
本発明者らは、ソフピロニウム臭化物の安定な結晶形態を提供し、その結晶形態を工業的に適用可能な手段で製造する方法を鋭意検討するうち、少なくとも酢酸エチルを溶媒として含む化合物(II)の溶液に、いかなる溶媒でも希釈されていないブロモ酢酸エチルを加えることにより、結晶形態である化合物(I)を得ることに初めて成功した(以下、この製造方法により得られた化合物(I)の結晶形態を「Form A」と呼ぶ。)。
【0020】
次に、本発明者らは、Form Aのプロファイルを詳細に検討した。
本発明者らは、化合物(I)から化合物(I-a)及び化合物(I-b)をシリカゲルクロマトグラフィーで分離した後に、メチルt-ブチルエーテル及び酢酸エチルの混合溶媒を用いてそれぞれを結晶形態として得ることに成功した(以下、上記の方法により得られた化合物(I-a)の結晶を「Form MN」と呼び、上記の方法により得られた化合物(I-b)の結晶を「Form MJ」と呼ぶ。)。
【0021】
詳細な検討の結果、本発明者らは、Form MNは、極めて安定に存在する結晶形態であり、医薬品の原薬として適切なプロファイルを有する反面、Form MJは、加湿条件で結晶転移が生じることを明らかにした。
そして、本発明者らは、Form Aは、化合物(I-a)及び化合物(I-b)を含むものであり、それと同時に、Form Aは、Form MNとForm MJの結晶混合物であることを明らかにした。
【0022】
しかしながら、Form Aは、加湿条件により結晶転移を生じ、医薬品の原薬として最適であるとは言い難い。そのため、本発明者らは、医薬品の原薬としてより適切なプロファイルを有する結晶形態を探索するべく、更に研究を進めた。
【0023】
ところで、化合物(I)は、化合物(I-a)及び化合物(I-b)を任意の割合で含むものであるが、化合物(I)の結晶化において、化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比や製造方法(晶析法)が、生成物である化合物(I)の結晶形態にどのような影響を与えるか全く予想できなかった。
【0024】
そこで、本発明者らは、化合物(I-a)及び化合物(I-b)を種々の含有比で含む化合物(I)を多数調製し、その含有比が化合物(I)の結晶形態に及ぼす影響を検討した。
その結果、驚くべきことに、一定の製造条件下(晶析条件)において、Form MNでもForm MJでもない、新たな結晶形態が生成することを見出した。検討の結果、当該結晶形態が、化合物(I-a)及び化合物(I-b)を1:3の割合で含む共結晶構造(以下、当該共結晶を「Form CO」と呼ぶ。)を有していることを確認した。そして、更に驚くべきことに、Form COが、医薬品の原薬として極めて優れた性質を有することを確認した。
【0025】
本発明者らは、Form COの製造方法を詳細に検討し、Form COの製造においては、メチルt-ブチルエーテルを長時間かけて滴下する工程、及び/又は、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む溶媒中で化合物(I)の結晶形態の懸濁液を長時間かけて撹拌する工程が極めて重要であることを明らかにした。
【0026】
本発明者らは、Form COを含む化合物(I)の結晶形態は、医薬品の原薬として優れたものになると考え、その製造方法を更に検討した。
その結果、本発明者らは、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む溶媒と、化合物(I)の結晶形態を含む懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する工程を経ることにより、Form COを含む化合物(I)の結晶形態を得ることに成功した(以下、この方法により得られた化合物(I)の結晶形態を「Form B」と呼ぶ。)。
【0027】
本発明者らは、Form Bの性状を解明すべく鋭意研究を行い、固体13C核磁気共鳴スペクトル及び粉末X線結晶構造分析による解析等を行った。その結果、Form Bは、Form MNとForm COの結晶混合物であることを明らかにした。更に精査した結果、本発明者らは、Form Bは医薬品の原薬として最適なプロファイルを有する結晶形態であることを明らかにした。
【0028】
更に、本発明の製造方法により、高純度のソフピロニウム臭化物(ソフピロニウム臭化物の結晶形態を含む。)を提供できることが明らかとなり、本発明が完成した。
【0029】
上記の通り、本発明者らは、単に化合物(I)を処理する方法では単一の結晶形態として得ることができないForm CO(化合物(I-a)及び化合物(I-b)を1:3の割合で含む共結晶)を新たに創り出し、Form COが安定で吸湿性が無く医薬品の原薬として優良なプロファイルを有することを明らかにした。そして、このForm COを含む結晶混合物である化合物(I)の結晶形態(例えば、Form B)は、安定性が高く、医薬品の原薬として極めて優秀なプロファイルを有していることが明らかとなった。
また、本発明の製造方法により、高い安定性を有するソフピロニウム臭化物の結晶形態を、高純度で、かつ工業的スケールで得ることができた。
【0030】
即ち、本発明者らは、以下の発明を完成した。
[1]式(I-a):
【化5】
で表される化合物(I-a)、及び
式(I-b):
【化6】
で表される化合物(I-b)を1:3の割合で含む共結晶である、
式(I):
【化7】
で表される化合物(I)(ソフピロニウム臭化物)の結晶形態。
【0031】
[2] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.2°、7.6±0.2°、11.0±0.2°、及び22.2±0.2°にピークを有することを特徴とする、[1]に記載の結晶形態(Form CO)。
[3] [1]又は[2]に記載の結晶形態を含有し、化合物(I-a)と化合物(I-b)とを任意の割合で含むことを特徴とする化合物(I)の結晶形態。
【0032】
[4] [1]又は[2]に記載の結晶形態を含有し、かつ、化合物(I-a)の結晶形態を含む結晶混合物である、化合物(I)の結晶形態。
[5] [1]又は[2]に記載の結晶形態を含有し、かつ、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、7.1±0.2°、21.4±0.2°、22.3±0.2°、及び24.5±0.2°にピークを有することを特徴とする化合物(I-a)の結晶形態(Form MN)とを含む結晶混合物である、化合物(I)の結晶形態。
【0033】
[6] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.2°、7.2±0.2°、7.7±0.2°、11.1±0.2°、22.3±0.2°、及び24.6±0.2°にピークを有することを特徴とする、化合物(I)の結晶形態(Form B)。
【0034】
[7] [1]から[6]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態の製造方法であって、下記の工程:
工程C:酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む溶媒中で、化合物(I)の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する調製する工程、及び
工程D:化合物(I)の前記懸濁液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
を含む製造方法。
【0035】
[8] [1]から[6]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態の製造方法であって、下記の工程:
工程A:溶媒中で、
式(II):
【化8】
で表される化合物(II)とブロモ酢酸エチルとを反応させ、化合物(I)を含む反応液を調製する工程、
工程B:前記反応液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
工程C':酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む溶媒中で、化合物(I)の前記結晶形態の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する工程、及び
工程D:化合物(I)の前記懸濁液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
を含む製造方法。
【0036】
[9] 化合物(I)の含有量に対して、下記式(III):
【化9】
で示される化合物(III)の含有量が0.5w/w%以下である、化合物(I)の結晶形態。
【0037】
[10] 化合物(I)の含有量に対して、下記式(IV):
【化10】
で示される化合物(IV)の含有量が0.5w/w%以下である、化合物(I)の結晶形態。
【0038】
[11] 化合物(I)の含有量に対して、下記式(V):
【化11】
で示される化合物(V)の含有量が0.5w/w%以下である、化合物(I)の結晶形態。
【0039】
[12] 化合物(I)の含有量に対して、化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)の各含有量が各々0.5w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が98.0w/w%以上である、化合物(I)の結晶形態。
[13] 化合物(I)の含有量に対して、化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)の各含有量が各々0.5w/w%以下であり、不純物の総含有量が2.0w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が98.0w/w%以上である、化合物(I)の結晶形態。
[14]化合物(I)の含有量に対して、化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)の各含有量が各々0.15w/w%以下であり、不純物の総含有量が1.0w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が99.0w/w%以上である、化合物(I)の結晶形態。
[15] 化合物(I-a)及び化合物(I-b)が40:60~20:80の含有比で含まれる、[9]から[14]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
【0040】
[16] [1]から[6]のいずれか1つ、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合することで製造された、アセチルコリンの作用に関連した疾患の治療及び/又は予防のための医薬組成物。
[17] [1]から[6]のいずれか1つ、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合することで製造された、多汗症の治療及び/又は予防のための医薬組成物。
[18] [1]から[6]のいずれか1つ、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合することで製造された、原発性腋下多汗症又は原発性手掌多汗症の治療及び/又は予防のための医薬組成物。
【0041】
[19] [1]から[6]のいずれか1つ、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合することで製造された、抗コリン剤。
[20] [1]から[6]のいずれか1つ、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合することで製造された医薬組成物を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む、アセチルコリンの作用に関連した疾患の治療及び/又は予防方法。
[21] [1]から[6]のいずれか1つ、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合することで製造された医薬組成物を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む、多汗症の治療及び/又は予防方法。
[22] [1]から[6]のいずれか1つ、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態と薬学的に許容できる担体とを混合することで製造された医薬組成物を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む、原発性腋下多汗症又は原発性手掌多汗症の治療及び/又は予防方法。
【0042】
[23] 抗コリン剤の製造のための、[1]から[6]のいずれか1つ、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態の使用。
[24] アセチルコリンの作用に関連した疾患の処置に用いる医薬組成物の製造のための、[1]から[6]のいずれか1つ、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態の使用。
[25] 多汗症の処置に用いる医薬組成物の製造のための、[1]から[6]のいずれか1つ、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態の使用。
[26] 原発性腋下多汗症又は原発性手掌多汗症の処置に用いる医薬組成物の製造のための、[1]から[6]のいずれか1つ、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載された化合物(I)の結晶形態の使用。
【0043】
また、本発明は、以下の発明も包含する。
[2a]粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.1°、7.6±0.1°、11.0±0.1°、及び22.2±0.1°にピークを有することを特徴とする、[1]に記載の結晶形態(Form CO)。
【0044】
[3a] [2a]に記載の結晶形態(Form CO)を含有し、化合物(I-a)と化合物(I-b)とを任意の割合で含むことを特徴とする化合物(I)の結晶形態。
[3b]化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、99:1~1:99の含有比で含まれる、[3]又は[3a]に記載の結晶形態。
[3c]化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、90:10~10:90の含有比で含まれる、[3]又は[3a]に記載の結晶形態。
[3d]化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、50:50~10:90の含有比で含まれる、[3]又は[3a]に記載の結晶形態。
[3e]化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、40:60~20:80の含有比で含まれる、[3]又は[3a]に記載の結晶形態。
[3f]化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、40:60~25:75の含有比で含まれる、[3]又は[3a]に記載の結晶形態。
[3g]化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、40:60~30:70の含有比で含まれる、[3]又は[3a]に記載の結晶形態。
【0045】
[4a] [3a]から[3g]のいずれか1つに記載の結晶形態であって、かつ、少なくとも化合物(I-a)の結晶形態を含む結晶混合物である、化合物(I)の結晶形態。
[4b] 少なくとも[1]、[2]又は[2a]に記載の結晶形態を含有し、かつ、化合物(I-b)のみからなる結晶形態を含有しない、化合物(I)の結晶形態。
[4c] [3a]から[3g]のいずれか1つに記載の結晶形態であって、かつ、化合物(I-b)のみからなる結晶形態を含有しない、化合物(I)の結晶形態。
[4d] [1]、[2]又は[2a]に記載の結晶形態及び化合物(I-a)の結晶形態を含む結晶混合物であり、かつ、化合物(I-b)のみからなる結晶形態を含有しない、化合物(I)の結晶形態。
[4e] [3a]から[3g]のいずれか1つに記載の結晶形態であって、化合物(I-a)の結晶形態を含む結晶混合物であり、かつ、化合物(I-b)のみからなる結晶形態を含有しない、化合物(I)の結晶形態。
[4f] [3a]から[3g]のいずれか1つに記載の結晶形態であって、[1]、[2]又は[2a]に記載の結晶形態及び化合物(I-a)の結晶形態を含む結晶混合物であり、かつ、化合物(I-b)のみからなる結晶形態を含有しない、化合物(I)の結晶形態。
【0046】
[5a] [1]、[2]又は[2a]に記載の結晶形態を含有し、かつ、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、7.1±0.1°、21.4±0.1°、22.3±0.1°、及び24.5±0.1°にピークを有することを特徴とする化合物(I-a)の結晶形態(Form MN)とを含む結晶混合物である、化合物(I)の結晶形態。
[5b] [3a]から[3g]のいずれか1つに記載の結晶形態であって、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、7.1±0.1°、21.4±0.1°、22.3±0.1°、及び24.5±0.1°にピークを有することを特徴とする化合物(I-a)の結晶形態(Form MN)とを含む結晶混合物である、化合物(I)の結晶形態。
【0047】
[6a] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.2°、7.2±0.2°、7.7±0.2°、11.1±0.2°、22.3±0.2°、及び24.6±0.2°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、99:1~1:99の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
[6b] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.2°、7.2±0.2°、7.7±0.2°、11.1±0.2°、22.3±0.2°、及び24.6±0.2°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、90:10~10:90の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
[6c] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.2°、7.2±0.2°、7.7±0.2°、11.1±0.2°、22.3±0.2°、及び24.6±0.2°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、50:50~10:90の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
【0048】
[6d] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.2°、7.2±0.2°、7.7±0.2°、11.1±0.2°、22.3±0.2°、及び24.6±0.2°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、40:60~20:80の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
[6e] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.2°、7.2±0.2°、7.7±0.2°、11.1±0.2°、22.3±0.2°、及び24.6±0.2°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、40:60~25:75の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
[6f] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.2°、7.2±0.2°、7.7±0.2°、11.1±0.2°、22.3±0.2°、及び24.6±0.2°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、40:60~30:70の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
【0049】
[6g] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.1°、7.2±0.1°、7.7±0.1°、11.1±0.1°、22.3±0.1°、及び24.6±0.1°にピークを有することを特徴とする、化合物(I)の結晶形態(Form B)
[6h] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.1°、7.2±0.1°、7.7±0.1°、11.1±0.1°、22.3±0.1°、及び24.6±0.1°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、99:1~1:99の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
[6i] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.1°、7.2±0.1°、7.7±0.1°、11.1±0.1°、22.3±0.1°、及び24.6±0.1°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、90:10~10:90の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
【0050】
[6j] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.1°、7.2±0.1°、7.7±0.1°、11.1±0.1°、22.3±0.1°、及び24.6±0.1°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、50:50~10:90の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
[6k] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.1°、7.2±0.1°、7.7±0.1°、11.1±0.1°、22.3±0.1°、及び24.6±0.1°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、40:60~20:80の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
[6l] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.1°、7.2±0.1°、7.7±0.1°、11.1±0.1°、22.3±0.1°、及び24.6±0.1°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、40:60~25:75の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
[6m] 粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.1°、7.2±0.1°、7.7±0.1°、11.1±0.1°、22.3±0.1°、及び24.6±0.1°にピークを有することを特徴とし、化合物(I-a)及び化合物(I-b)が、40:60~30:70の含有比で含まれる、化合物(I)の結晶形態。
[6o] [1]に記載の結晶形態を含有し、かつ、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.2°、7.2±0.2°、7.7±0.2°、11.1±0.2°、22.3±0.2°、及び24.6±0.2°にピークを有することを特徴とする、化合物(I)の結晶形態。
[6p] [1]に記載の結晶形態を含有し、かつ、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.1°、7.2±0.1°、7.7±0.1°、11.1±0.1°、22.3±0.1°、及び24.6±0.1°にピークを有することを特徴とする、化合物(I)の結晶形態。
【0051】
[7a] [1]から[6]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態、[2a]から[6p]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載の化合物(I)を製造する方法であって、
工程C'':少なくとも酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルを含む溶媒中で、化合物(I)の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する調製する工程、及び
工程D:化合物(I)の前記懸濁液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
を含む製造方法。
[8a] [9]から[15]のいずれか1つに記載の化合物(I)を製造する方法であって、
工程A':酢酸エチルを含む溶媒中で、
式(II):
【化12】
で表される化合物(II)とブロモ酢酸エチルとを反応させ、化合物(I)を含む反応液を調製する工程、
工程B:前記反応液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
を含む製造方法。
【0052】
[8b] [1]から[6]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態、[2a]から[6p]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態、又は[9]から[15]のいずれか1つに記載の化合物(I)を製造する方法であって、
下記の工程:
工程A':酢酸エチルを含む溶媒中で、
式(II):
【化13】
で表される化合物(II)とブロモ酢酸エチルとを反応させ、化合物(I)を含む反応液を調製する工程、
工程B:前記反応液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
工程C''':少なくとも酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルを含む溶媒中で、化合物(I)の前記結晶形態の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する工程、及び、
工程D:化合物(I)の前記懸濁液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
を含む製造方法。
【0053】
[9a] 化合物(I)の含有量に対して、下記式(III):
【化14】
で示される化合物(III)の含有量が0.5w/w%以下である、化合物(I)。
【0054】
[10a] 化合物(I)の含有量に対して、下記式(IV):
【化15】
で示される化合物(IV)の含有量が0.5w/w%以下である、化合物(I)。
【0055】
[11a] 化合物(I)の含有量に対して、下記式(V):
【化16】
で示される化合物(V)の含有量が0.5w/w%以下である、化合物(I)。
【0056】
[12a] 化合物(I)の含有量に対して、化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)の各含有量が各々0.5w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が98.0w/w%以上である、化合物(I)。
[13a] 化合物(I)の含有量に対して、化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)の各含有量が各々0.5w/w%以下であり、不純物の総含有量が2.0 w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が98.0w/w%以上である、化合物(I)。
[14a]化合物(I)の含有量に対して、化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)の各含有量が各々0.15w/w%以下であり、不純物の総含有量が1.0 w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が99.0w/w%以上である、化合物(I)。
[15a] 化合物(I-a)及び化合物(I-b)が40:60~20:80の含有比で含まれる、[9a]から[14a]のいずれか1つに記載の化合物(I)。
【0057】
[16a] [9a]から[15a]のいずれか1つに記載された化合物(I)を有効成分として含む、アセチルコリンの作用に関連した疾患の治療及び/又は予防のための医薬組成物。
[17a] [9a]から[15a]のいずれか1つに記載された化合物(I)を有効成分として含む、多汗症の治療及び/又は予防のための医薬組成物。
[18a] [9a]から[15a]のいずれか1つに記載された化合物(I)を有効成分として含む、原発性腋下多汗症又は原発性手掌多汗症の治療及び/又は予防のための医薬組成物。
【0058】
[19a] [9a]から[15a]のいずれか1つに記載された化合物(I)を有効成分として含む、抗コリン剤。
[20a] [9a]から[15a]のいずれか1つに記載された化合物(I)の治療及び/又は予防有効量を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む、アセチルコリンの作用に関連した疾患の治療及び/又は予防方法。
[21a] [9a]から[15a]のいずれか1つに記載された化合物(I)の治療及び/又は予防有効量を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む、多汗症の治療及び/又は予防方法。
[22a] [9a]から[15a]のいずれか1つに記載された化合物(I)の治療及び/又は予防有効量を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む、原発性腋下多汗症又は原発性手掌多汗症の治療及び/又は予防方法。
【0059】
[23a] 抗コリン剤の製造のための、[9a]から[15a]のいずれか1つに記載された化合物(I)の使用。
[24a] アセチルコリンの作用に関連した疾患の処置に用いる医薬組成物の製造のための、[9a]から[15a]のいずれか1つに記載された化合物(I)の使用。
[25a] 多汗症の処置に用いる医薬組成物の製造のための、[9a]から[15a]のいずれか1つに記載された化合物(I)の使用。
[26a] 原発性腋下多汗症又は原発性手掌多汗症の処置に用いる医薬組成物の製造のための、[9a]から[15a]のいずれか1つに記載された化合物(I)の使用。
【0060】
さらに、本発明は、以下の発明も包含する。
[9b] 化合物(I)の含有量に対して、下記式(III):
【化17】
で示される化合物(III)の含有量が0.5w/w%以下である、[1]から[6]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
【0061】
[10b] 化合物(I)の含有量に対して、下記式(IV):
【化18】
で示される化合物(IV)の含有量が0.5w/w%以下である、[1]から[6]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
【0062】
[11b] 化合物(I)の含有量に対して、下記式(V):
【化19】
で示される化合物(V)の含有量が0.5w/w%以下である、[1]から[6]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
【0063】
[12b] 化合物(I)の含有量に対して、化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)の各含有量が各々0.5w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が98.0w/w%以上である、[1]から[6]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
[13b] 化合物(I)の含有量に対して、化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)の各含有量が各々0.5w/w%以下であり、不純物の総含有量が2.0w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が98.0w/w%以上である、[1]から[6]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
[14b]化合物(I)の含有量に対して、化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)の各含有量が各々0.15w/w%以下であり、不純物の総含有量が1.0w/w%以下であり、かつ、化合物(I)の純度が99.0w/w%以上である、[1]から[6]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
[15b] 化合物(I-a)及び化合物(I-b)が99:1~1:99の含有比で含まれる、[9b]から[14b]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
【0064】
[15c] 化合物(I-a)及び化合物(I-b)が50:50~10:90の含有比で含まれる、[9b]から[14b]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
[15d] 化合物(I-a)及び化合物(I-b)が40:60~20:80の含有比で含まれる、[9b]から[14b]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
[15e] 化合物(I-a)及び化合物(I-b)が40:60~25:75の含有比で含まれる、[9b]から[14b]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
[15f] 化合物(I-a)及び化合物(I-b)が40:60~30:70の含有比で含まれる、[9b]から[14b]のいずれか1つに記載の化合物(I)の結晶形態。
【発明の効果】
【0065】
本発明のソフピロニウム臭化物の結晶形態の一つの実施態様であるForm COは、吸湿性がなく、安定性が高いため、医薬品の原薬として用いることができる。
本発明のソフピロニウム臭化物の結晶形態の別の実施態様であるForm Bは、Form COとForm MNを含む結晶形態であり、吸湿性がなく、安定性が高いため、医薬品の原薬として好適である。
本発明のソフピロニウム臭化物の結晶混合物(例えば、Form B)の製造方法は、工業的規模に適した簡便な操作で行うことができ、高純度のソフピロニウム臭化物の結晶混合物を高収率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】製造例4で製造した化合物(I-a)の結晶形態(Form MN)の粉末X線回折スペクトルである。
図2】製造例5で製造した化合物(I-b)の結晶形態(Form MJ)の粉末X線回折スペクトルである。
図3】実施例6で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form CO)の粉末X線回折スペクトルである。
図4】実施例3で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B)の固体13C核磁気共鳴スペクトルである。
図5】製造例4で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form MN)の固体13C核磁気共鳴スペクトルである。
図6】製造例5で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form MJ)の固体13C核磁気共鳴スペクトルである。
図7】実施例6で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form CO)の固体13C核磁気共鳴スペクトルである。
図8図4で示した固体13C核磁気共鳴スペクトルの110~190ppmを拡大表示した図である。
図9】実施例1で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form A)の粉末X線回折スペクトルである。
図10】実施例3で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B)の粉末X線回折スペクトルである。
図11】実施例5で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B)の粉末X線回折スペクトルである。
図12】実施例1で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form A)の示差走査熱量分析(DSC)のチャートである。
図13】実施例3で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B)の示差走査熱量分析(DSC)のチャートである。
図14】製造例4で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form MN)の示差走査熱量分析(DSC)のチャートである。
図15】製造例5で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form MJ)の示差走査熱量分析(DSC)のチャートである。
図16】実施例6で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form CO)の示差走査熱量分析(DSC)のチャートである。
図17】実施例1で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form A)の赤外線吸収スペクトルである。
図18】実施例3で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B)の赤外線吸収スペクトルである。
図19】製造例4で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form MN)の赤外線吸収スペクトルである。
図20】製造例5で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form MJ)の赤外線吸収スペクトルである。
図21】実施例6で製造したソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form CO)の赤外線吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、本発明の詳細を説明する。
本明細書中で化合物(I)とは、化合物(I-a)と化合物(I-b)との混合物を指す。化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比(以下、特に記載が無い限り、含有比とは重量比を指す。)は特に限定されず、含有比は、例えば、99:1~1:99の範囲で取りえる。
【0068】
本明細書中、化合物(I)の原薬、溶液、懸濁液、製剤、又は結晶形態に含まれる化合物(I-a)と化合物(I-b)の好ましい含有比は、50:50~10:90であり、より好ましくは45:55~20:80であり、更に好ましくは40:60~20:80である。
本発明の別の実施態様において、化合物(I)に含まれる化合物(I-a)と化合物(I-b)の好ましい含有比は、40:60~25:75である。
本発明の別の実施態様において、化合物(I)に含まれる化合物(I-a)と化合物(I-b)の別の好ましい含有比は、40:60~30:70である。
なお、本明細書中、特に記載がない限り、数値範囲はその最大値及び最小値としての範囲で定義される値を含む。例えば、「1~99」とは、1以上かつ99以下の範囲を意味する。
【0069】
本明細書中で「結晶形態」とは、構成成分(分子)が結晶格子と呼ばれる三次元的な繰り返し構造を形成する固体、及びそれらの固体の混合物を指し、そのような繰り返し構造を有さないアモルファス(無定型固体)とは区別される。
【0070】
本明細書中において、「結晶形態」とは、単一の結晶格子中に複数の構成成分(好ましくは数種、更に好ましくは2種の有機化合物分子)が存在する共結晶や、複数の単結晶の混合物も含む。従って、2種以上の化合物を含む混合物から結晶形態を調製する場合は、その結晶形態は、例えば、単一化合物のみからなる単結晶、単一化合物の複数の結晶多形の混合物、複数の化合物によって構成される単一の共結晶、及びそれらの結晶が複数含まれる結晶の混合物等でありうる。
本明細書中で「結晶混合物」とは、結晶形態の一つであり、複数の結晶の混合物を指す。
【0071】
一般に、ソフピロニウム臭化物等の低分子化合物の結晶形態は、多くの場合、粉末X線回折スペクトルにおいて特定の回折角(2θ)付近にピークを有し、固体13C核磁気共鳴スペクトル(固体13C-NMR)測定において特定の化学シフト値でピークを有し、示差走査熱量測定(DSC)測定において特定の吸熱ピークを有し、赤外線吸収スペクトル(IR)測定において特定の波長に吸収帯を有する。しかし、各結晶形態の性状又は品質によっては、これらの機器分析が適切に行えない場合がある。
【0072】
本明細書中における、X線回折による分析は、特に記載がなければ、粉末X線回折スペクトルを指し、例えば、日本薬局方(第十七改正)に記載されている「粉末X線回折測定法」などの常法に従って行うことができる。なお、通常、同一の結晶形態であれば、回折角2θは、±0.2°又は±0.1°の範囲内で一致する。
本明細書中、記載された回折角2θのピーク値は、少なくとも当該ピークを有することを意味する。例えば、「粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで表される回折角度として、5.9±0.2°、7.6±0.2°、11.0±0.2°、及び22.2±0.2°にピークを有する」とは、少なくとも5.9±0.2°、7.6±0.2°、11.0±0.2°、及び22.2±0.2°にピークを有することを意味し、他のピークが観測されてもよい。また、5.9±0.2°、7.6±0.2°、11.0±0.2°、及び22.2±0.2°のピーク強度は、他と識別できる程度であれば、特に限定されない。
【0073】
本明細書の粉末X線回折スペクトルにおいては、製造工程により得られたサンプルを、粉砕や篩過等の前処理することなく、粉末化のみを施して直接測定した。しかし、必要に応じてサンプルに前処理を施してもよい。
【0074】
本明細書中における、固体13C核磁気共鳴スペクトル(固体13C-NMR)測定は、特に記載がなければ、CP/MAS法で実施される。CP/MAS法は、13C、15Nなどの天然存在比の低い核を測定する際に広く用いられおり、交差分極(交差緩和)(CP:Cross Polarization)法とマジック角回転(MAS:Magic Angle Spinning)を利用し、溶液のスペクトルと同様に化学シフトが観測できる。
【0075】
本明細書中における、示差走査熱量分析(DSC)による分析は、例えば日本薬局方(第十七改正)に記載されている「熱分析法」などの常法に従って行うことができる。本明細書中において、「吸熱ピーク」とは、ピーク頂点の温度を示し、測定条件によって、多少変動しうる。生じうる測定誤差の範囲は、測定条件や被検物質によって多少変動するが、例えば±5℃の範囲が考えられ、あるいは、±2℃の範囲が考えられる。すなわち、同一の結晶形態であれば、「吸熱ピーク」が±5℃、あるいは、±2℃の範囲内で一致する。
【0076】
本明細書中における、赤外吸収スペクトルによる分析は、例えば日本薬局方(第十七改正)に記載されている「赤外吸収スペクトル測定法」などの常法に従って行うことができる。なお、吸収が認められる波数や強度は、測定条件等によって多少変動しうる。吸収帯(cm-1)について、生じうる測定誤差の範囲としては、通常は、±0.5%の範囲、あるいは、±5cm-1の範囲が考えられる。この場合、同一の結晶形態であれば、吸収帯(cm-1)は±0.5%の範囲、あるいは、±5cm-1の範囲内で一致する。
【0077】
次に、本明細書中に記載される、化合物(I)、化合物(I-a)、及び化合物(I-b)の各結晶形態について、その詳細を記載する。
【0078】
化合物(I)は、化合物(I-a)と化合物(I-b)の混合物である。更に、後述の試験例で示されるように、その含有比と製造方法(例えば、晶析法)に依存して化合物(I)の結晶形態に差異が生じる。
【0079】
Form COは、化合物(I)の結晶形態の1つであり、化合物(I-a)と化合物(I-b)が1:3の含有比で存在する共結晶である。化合物(I-a)と化合物(I-b)は互いにエピマーの関係であり、一般に、このような2種のエピマーが一つの共結晶を形成するという例は極めて稀であり、ほとんど報告例がない。
【0080】
Form COは、熱的に安定であり、特に加湿下で結晶転移が見られず、極めて安定な結晶形態である。Form COは、白色固体状であり、非吸湿性であり、懸濁液からのろ取など取扱いが容易である。
以上の性状を有するため、Form COは、化合物(I)の好ましい結晶形態の一つである。
【0081】
Form COは、例えば、化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比が1:3の化合物(I)を原料として用いて、下記の工程:
工程C:酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む溶媒中で、化合物(I)の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する調製する工程、及び
工程D:化合物(I)の前記懸濁液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
を含む方法により製造することができる。しかしながら、Form COの製造方法は上記の特定の方法に限定されるわけではない。
【0082】
化合物(I)は、化合物(I-a)と化合物(I-b)が任意の比率で混合した混合物であることから、通常、化合物(I)を原料として用いて、上記の製造方法で結晶形態を製造しても、Form COのみを得ることは困難であり、Form COと他の結晶形態との結晶混合物として得られる。
【0083】
Form COは、医薬品の原薬として極めて優良なプロファイルを有しているため、Form COを多く含む化合物(I)の結晶形態は、医薬品の原薬として適切なプロファイルを有する。例えば、化合物(I)中の重量比で50%以上のForm COを含む化合物(I)の結晶形態は好ましく、60%以上のForm COを含む化合物(I)の結晶形態はより好ましく、80%以上のForm COを含む化合物(I)の結晶形態は更に好ましい。
【0084】
Form MNは、化合物(I-a)の結晶形態である。Form MNは、熱的に安定であり、特に加湿下で結晶転移が見られず、極めて安定な結晶形態である。Form MNは、非吸湿性であり、白色固体状であり、懸濁液からのろ取など取扱いが容易である。
以上の性状を有するため、Form MNは、医薬品の原薬として、優良なプロファイルを有する。
【0085】
Form MJは、化合物(I-b)の結晶形態である。Form MJは、白色固体状であり、懸濁液からのろ取など取扱いが容易な結晶形態である。しかし、Form MJは、加湿下で結晶転移が見られ、結晶多形が数多く存在する。
以上の性状を有するため、Form MJは、医薬品の原薬として最適なプロファイルを有するとは言い難い。
【0086】
Form Aは、化合物(I)の結晶形態の一つである。Form Aは、Form MN及びForm MJからなる結晶混合物である。化合物(I)中の化合物(I-a)がForm MNを形成し、化合物(I)中の化合物(I-b)がForm MJを形成するため、Form Aを構成するForm MN及びForm MJの含有比は化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比に依存する。例えば、化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比が1:2の場合、Form MN及びForm MJの含有比も約1:2となる。
Form Aは、Form MJが混在する結晶形態である。そのため、Form Aは、加湿条件で結晶転移が観察され、医薬品の原薬として最適なプロファイルであるとは言い難い。
【0087】
Form Bは、化合物(I)の結晶形態の一つである。Form Bは、Form CO及びForm MNからなる結晶混合物である。
Form B を構成するForm COとForm MNの含有比(重量比)は、99:1~50:50であり、好ましくは96:4~60:40、更に好ましくは92:8~80:20である。
Form B を構成するForm COとForm MNの含有比は、原料として用いる化合物(I)に含まれる化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比に依存して決定される。例えば、化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比が1:2である場合、Form B に含まれるForm COとForm MNの含有比は、およそ89:11となる。
【0088】
上述の通り、Form COとForm MNは、医薬品の原薬として優良なプロファイルを有することから、それらの混合物であるForm Bは、医薬品の原薬として最適なプロファイルを有する。即ち、Form Bは、熱的に安定であり、特に加湿下で結晶転移が見られず、極めて安定な結晶形態である。更に、Form Bは、非吸湿性であり、白色固体状であり、懸濁液からのろ取など取扱いが容易である。
Form MJを含まないForm Bは特に好ましい態様である。
【0089】
Form Bは、上述のForm COを製造する方法を適用することで製造される。また、実質的にForm MJを含まないForm Bは、化合物(I-a)の含有率が25%以上の化合物(I)を原料として、上述のForm COを製造する方法を適用することで製造される。
また、本発明の製造方法を適用すれば、工業的スケールで高純度のForm Bを製造することができる。
【0090】
以上の特徴及び性状を有するため、ソフピロニウム臭化物の結晶形態を工業的に製造し、提供するにあたり、Form Bは好ましい結晶形態であり、Form MJを含まないForm Bは特に好ましい結晶形態である。
【0091】
本明細書中で「化合物(I)の結晶形態」とは、上記の結晶形態、及びこれらの混合物の場合を含み、例えば、Form MJとForm MNの混合物(例えば、Form A)や、Form COとForm MNの混合物(例えば、Form B)や、Form COとForm MJの混合物を含む。
本明細書中で「化合物(I-a)の結晶形態」とは、実質的に化合物(I-a)のみからなる結晶形態を指す(例えば、Form MN)。
本明細書中で「化合物(I-b)の結晶形態」とは、実質的に化合物(I-b)のみからなる結晶形態を指す(例えば、Form MJ)。
本明細書中で「本発明の結晶形態」とは、化合物(I)の結晶形態のうち、Form COを含む結晶形態を指し、例えば、Form Bを指す。
本発明において、好ましい化合物(I)の結晶形態は、Form COを含む結晶形態であり、より好ましい化合物(I)の結晶形態は、Form COとForm MNを含む結晶混合物であり、更に好ましい化合物(I)の結晶形態は、Form COとForm MNを含む結晶混合物であり、かつ、Form MJを実質的に含まない結晶形態である。
【0092】
次に、本発明の一実施態様であるソフピロニウム臭化物の製造方法について、上記[7]等で記載した各工程についてその詳細を説明する。本発明の製造方法を適用することで、本発明の結晶形態(例えば、Form B)を高純度で得ることができる。また、本製造方法は、工業的規模で適用することができる。
【0093】
本発明の一実施態様において、本発明の製造方法は、
工程C:酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む溶媒中で、化合物(I)の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する工程、及び
工程D:化合物(I)の前記懸濁液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
を含む。
【0094】
上記工程Cにおいて、原料として用いられる化合物(I)は、好ましくは、ソフピロニウム臭化物の結晶形態であるが、これに限られるものではない。
また、工程Cは、再結晶工程と懸濁洗浄工程の両方を含む。化合物(I)の溶液を製造した後、再結晶を行ってもよいし、単に懸濁洗浄を行ってもよい。
【0095】
工程Cにおける「酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも1つを含む溶媒」とは、酢酸エチルのみを含む溶媒、メチルt-ブチルエーテルのみを含む溶媒、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルの混合溶媒、酢酸エチル又はメチルt-ブチルエーテルと他の溶媒との混合溶媒、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルと他の溶媒との混合溶媒などのいずれかである。
【0096】
工程Cの好ましい溶媒は、酢酸エチルのみを含む溶媒、酢酸エチル及びアセトニトリルの混合溶媒、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルの混合溶媒、酢酸エチル、アセトニトリル及びメチルt-ブチルエーテルの混合溶媒のいずれかである。より好ましい溶媒は、酢酸エチル、メチルt-ブチルエーテル、及びアセトニトリルの混合溶媒である。
【0097】
上述の酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒を少なくとも1つを含む溶媒の量は、特に限定されないが、化合物(I)の重量(Kg)に対して、好ましくは3倍から40倍の容量(L)である、より好ましくは5倍から30倍の容量(L)であり、更に好ましくは8倍から20倍の容量(L)であり、より一層好ましくは10倍から15倍の容量(L)である。
【0098】
本明細書中、「懸濁液」又は「スラリー」とは、液体中に固体粒子が存在する分散系を指し、両者は同義語として用いられる。
工程Cにおいて、撹拌時間は、化合物(I)の懸濁液が撹拌される時間を指し、具体的には、溶液中に化合物(I)の固体粒子が生じてから、撹拌終了までの時間を指す。例えば、化合物(I)の溶液中に種晶を添加する場合は、上記の撹拌時間は、その種晶を添加した時点から撹拌終了までの時間を指す。また、種晶を添加せずに、化合物(I)の溶液中に酢酸エチル又はメチルt-ブチルエーテルが添加される場合(滴下する場合を含む)、工程Cの撹拌時間は、溶液中に化合物(I)の固体粒子が生じてから撹拌終了までの時間を指す。また、工程Cにおいて、化合物(I)の溶液を経ない場合(即ち、懸濁洗浄のみを行う場合)、工程Cの撹拌時間は、化合物(I)と酢酸エチル又はメチルt-ブチルエーテルを含む溶媒を混和してから、撹拌終了までの時間を指す。
【0099】
工程Cにおける撹拌時間は1時間以上であり、好ましい撹拌時間は2時間以上であり、より好ましい撹拌時間は3時間以上であり、更に好ましい撹拌時間は4時間以上である。
本発明の別の実施態様において、工程Cにおける好ましい撹拌時間は1時間以上72時間以下であり、より好ましい撹拌時間は1時間以上48時間以下であり、更に好ましい撹拌時間は1時間以上24時間以下である。
酢酸エチル又はメチルt-ブチルエーテルを滴下する場合、滴下時間は特に限定されないが、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、3時間以上が更に好ましく、4時間以上72時間以下がより一層好ましい。
【0100】
また、本発明の別の実施態様では、本発明の製造方法は、工程Cの代わりに、
工程C-1:化合物(I)を、アセトニトリルを含む溶媒に溶解させ、化合物(I)の溶液を得る工程、及び
工程C-2:前記化合物(I)の溶液と、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む貧溶媒を混和して、化合物(I)の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する工程、
を含みうる。
【0101】
上記、工程C-1において、化合物(I)は、好ましくは、アセトニトリルを含む溶媒に完全に溶解する。「完全に溶解する」とは、化合物(I)が目視で観察できない程度に溶解するという意味であり、通常、化合物(I)の無色又は有色の澄明な液が得られる。
【0102】
工程C-1において、「アセトニトリルを含む溶媒」とは、アセトニトリルのみの溶媒と、アセトニトリルと他の溶媒との混合溶媒とを含む。好ましい「アセトニトリルを含む溶媒」は、アセトニトリルと酢酸エチルの混合溶媒である。アセトニトリルと酢酸エチルの混合溶媒を用いる場合、その比率は、99:1~1:99の範囲で適宜変更できるが、好ましくは90:10~10:90の範囲であり、より好ましくは60:40~40:60の範囲である。また、アセトニトリルと酢酸エチルの混合溶媒に、適宜他の溶媒を加えてもよい。
【0103】
また、「アセトニトリルを含む溶媒」として、アセトニトリルと酢酸エチルの混合溶媒を用いる場合、必要に応じて、段階的に酢酸エチルを加えることによって、化合物(I)のアセトニトリル溶液を得てもよい。例えば、化合物(I)をアセトニトリルで溶解させ、その後、酢酸エチルを添加してもよいし、化合物(I)をアセトニトリルと酢酸エチルの混合溶媒で溶解させ、その後、更に酢酸エチルを添加してもよい。
【0104】
工程C-1において、化合物(I)を「アセトニトリルを含む溶媒」に完全に溶解させるために、適宜、化合物(I)の溶液を加温してもよい。例えば、化合物(I)をアセトニトリルと酢酸エチルの混合溶媒で懸濁させ、その後、加温することで、化合物(I)を完全に溶解させてもよい。
【0105】
工程C-1において、「アセトニトリルを含む溶媒」の容量は、化合物(I)を溶解させることができれば特に限定されないが、原料として用いられる化合物(I)の結晶形態(kg)に対して、例えば、2倍から10倍の容量(L)の溶媒を用いることができる。好ましい溶媒量(L)は、化合物(I)の結晶形態(kg)に対して、3倍から8倍であり、より好ましくは4倍から5倍である。
【0106】
工程C-2は、前記化合物(I)の溶液と、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む貧溶媒を混和して、化合物(I)の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する工程である。
工程C-2における撹拌時間の始点及び終点は、前述の工程Cにおける撹拌時間の始点及び終点と同一である。
【0107】
本発明の一実施態様において、工程C-2は、
工程C-2(a): 前記化合物(I)の溶液に、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む貧溶媒を加えて、化合物(I)の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する工程、又は、
工程C-2(b): 酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む貧溶媒に、前記化合物(I)の溶液を加えて、化合物(I)の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する工程、
でもよい。
【0108】
工程C-2(以下、工程C-2(a)又は工程C-2(b)である場合も含む。)における貧溶媒とは、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む溶媒である。酢酸エチルのみを含む溶媒、メチルt-ブチルエーテルのみを含む溶媒、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルの混合溶媒、酢酸エチル又はメチルt-ブチルエーテルと他の溶媒との混合溶媒、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルと他の溶媒との混合溶媒のいずれかが好ましい。より好ましい貧溶媒は、酢酸エチルのみを含む溶媒、メチルt-ブチルエーテルのみを含む溶媒及び、酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルの混合溶媒のいずれかである。
【0109】
工程C-2において、用いられる貧溶媒の容量としては、特に限定されないが、工程C-1で加えたアセトニトリルを含む溶媒の容量(L)と比較して、例えば、1.0倍から2.5倍の容量(L)の溶媒を用いることができる。好ましい貧溶媒の容量(L)は、1.0倍から2.0倍であり、より好ましくは1.0倍から1.5倍である。
【0110】
工程C-2は、好ましくは、工程C-2(a)である。即ち、前記化合物(I)の溶液に、前記貧溶媒を加えることにより、両者を混和する。この場合、貧溶媒は、段階的あるいは滴下して加えられることが好ましい。例えば、工程C-1で加えたアセトニトリルを含む溶媒の容量の0.1倍~0.25倍の貧溶媒を滴下した後に、残りの貧溶媒を追加して加えてもよい。貧溶媒を滴下する場合は、一定時間以上の時間をかけて滴下することが好ましい。貧溶媒を滴下する場合、滴下時間は特に限定されないが、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、3時間以上が更に好ましく、4時間以上72時間以下がより一層好ましい。また、この場合、前記化合物(I)の溶液を加温した後で、貧溶媒を加えてもよい。また、貧溶媒を加えた後、必要に応じて、溶液を徐冷してもよい。
【0111】
工程Dは、工程Cで製造した化合物(I)の懸濁液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程である。
工程Dで得られる化合物(I)の結晶形態は、例えばForm Bであり、Form COを含む結晶形態である。
【0112】
本発明の一実施態様において、工程C及び工程Dを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、99:1~1:99である。
本発明の別の実施態様において、工程C及び工程Dを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、90:10~10:90である。本発明の別の実施態様において、工程C及び工程Dを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、50:50~10:90である。
本発明の別の実施態様において、工程C及び工程Dを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~20:80である。
本発明の別の実施態様において、工程C及び工程Dを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~25:75である。
本発明の別の実施態様において、工程C及び工程Dを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~30:70である。
【0113】
次に、本発明の別の実施態様であるソフピロニウム臭化物の製造方法について、上記[8]等で記載した各工程についてその詳細を説明する。本発明の製造方法を適用することで、ソフピロニウム臭化物の結晶形態(例えば、Form A)を経て、本発明の結晶形態(例えば、Form B)を高純度で得ることができる。また、本製造方法は、工業的規模で適用することができる。
【0114】
本発明の別の実施態様において、本発明の製造方法は、
工程A:溶媒中で、
式(II):
【化20】
で表される化合物(II)とブロモ酢酸エチルとを反応させ、化合物(I)を含む反応液を調製する工程、
工程B:前記反応液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
工程C':酢酸エチル及びメチルt-ブチルエーテルから選択される溶媒の少なくとも一つを含む溶媒中で、化合物(I)の前記結晶形態の懸濁液を調製し、当該懸濁液を1時間以上撹拌する工程、及び
工程D:化合物(I)の前記懸濁液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程、
を含む。
【0115】
化合物(I)は、化合物(II)とブロモ酢酸エチルとを反応させることで製造できる。しかしながら、非特許文献1等で示される製造方法は、溶媒としてアセトニトリルのみを用いており、上述のとおり工業的製造に適用することができない。
【0116】
工程Aにおいて、適切な溶媒を用いることで、生成するソフピロニウム臭化物を反応溶液中で結晶形態として析出させることができる。従って、次の工程Bにおいて、反応液をろ過するだけで、ソフピロニム臭化物の結晶形態が得られるため、本発明の製造方法は、工業的に適している。
なお、本明細書中、単に「工程A」と記載したときは、工程Aに準じる工程や工程Aに類する工程も含まれ、例えば工程A'等が含まれる。以下、同様に、工程Cは工程C'等を包含する。
【0117】
工程Aで用いられる「溶媒」は、生成するソフピロニウム臭化物を反応溶液中で結晶形態として析出させることができれば特に限定されない。
工程Aで用いられる好ましい溶媒は、酢酸エチルを含む溶媒であり、より好ましい溶媒は、酢酸エチルのみを含む溶媒である。
【0118】
工程Aの溶媒の量は、反応が進行すれば特に限定されないが、好ましい溶媒量は、化合物(II)の重量(Kg)に対して、3倍から40倍の容量(L)であり、より好ましくは5倍から20倍の容量(L)であり、更に好ましくは8倍から16倍の容量(L)であり、より一層好ましくは11倍から13倍の容量(L)である。
【0119】
工程Aにおける反応温度は、反応が進行すれば特に限定されない。例えば、工程Aにおける反応温度は、室温から80℃以下でもよい。本発明の一実施態様によれば、工程Aにおける反応温度は、50℃以上60℃以下が好ましい。
工程Aにおける反応時間は、反応が進行すれば特に限定されないが、好ましくは0.5時間から72時間の範囲で適用でき、より好ましくは1時間から24時間の範囲で適用できる。
【0120】
工程Aで用いられるブロモ酢酸エチルの当量は、反応が進行すれば特に限定されないが、好ましくは化合物(II)に対して1.0当量から30当量であり、より好ましくは1.0当量から5.0当量であり、更に好ましくは1.0当量から2.0当量であり、より一層好ましくは、1.0当量から1.5当量であり、特に好ましくは、1.0当量から1.1当量である。
工程Aの一実施態様として、ブロモ酢酸エチルをあらかじめ何らかの溶媒に溶解させたブロモ酢酸エチル溶液を用いてもよい。例えば、ブロモ酢酸エチルの酢酸エチル溶液を、別途調製した化合物(II)溶液に添加してもよい。本実施態様における溶媒の量、反応温度、反応時間及びブロモ酢酸エチルの当量は、反応が進行すれば特に限定されないが、好ましくは上記の数値に従う。
【0121】
工程Aの後、工程Bを行う前に、反応液を加温又は冷却し、ソフピロニム臭化物の結晶形態を析出させてもよい。例えば、反応液を40℃以上80℃以下に加温し、その後一定時間撹拌した後、室温まで徐冷してもよい。冷却に要する時間は、収率よく、かつ、高純度に結晶形態が得られれば、特に限定されないが、例えば、1時間以上かけて、反応液を室温にまで徐冷することが好ましい。
【0122】
工程Bは、工程Aで得られた反応液をろ過し、化合物(I)の結晶形態を得る工程である。工程Bで得られる化合物(I)の結晶形態としては、例えば、Form Aが挙げられるがこれに限定されない。工程A及び工程Bを経て得られた化合物(I)の結晶形態は高純度である。
【0123】
本発明の一実施態様において、工程A及び工程Bを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、99:1~1:99である。
本発明の別の実施態様において、工程A及び工程Bを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、90:10~10:90である。
本発明の別の実施態様において、工程A及び工程Bを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、50:50~10:90である。
本発明の別の実施態様において、工程A及び工程Bを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~20:80である。
本発明の別の実施態様において、工程A及び工程Bを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~25:75である。
本発明の別の実施態様において、工程A及び工程Bを経て得られた本発明の化合物(I)の化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~30:70である。
【0124】
Form Aは、Form MNとForm MJとの結晶の混合物であるが、結晶転移が生じうる。そのため、医薬品の原薬としてより適切なプロファイルを有する結晶形態(例えば、Form B)を得ることが望ましい。
【0125】
本発明の別の実施態様において、医薬品の原薬としてより適切なプロファイルを有するソフピロニウム臭化物の結晶形態(例えば、Form B)は、工程A及び工程Bに続いて、工程C'及び工程Dを経て得られる。
[8]等に記載された本発明の製造方法の工程C'に用いられる用語の定義は、[7]に記載された工程Cと同義である。
[8]等に記載された本発明の製造方法の工程Dに用いられる用語の定義は、[7]に記載された工程Dと同義である。
【0126】
次に、本発明の化合物(I)の純度及び不純物について説明する。
本発明の化合物(I)(本発明の結晶形態を含む。)は、不純物が極めて少なく、高純度であることから、医薬品の原薬として適切な品質を有する。
本明細書中、「不純物」とは、原薬もしくは製剤に含まれる物質のうち、原薬又は医薬品添加物として定義される化学物質以外の物質の総称であり、類縁物質、反応生成物、分解生成物等を含む。
【0127】
本明細書中、「本発明の化合物(I)」とは、上記の本発明の結晶形態の製造方法(例えば、[8a]、[8b]。)で得られる高純度の化合物(I)を指し、本発明の結晶形態が包含される。
本明細書中、「高純度の化合物(I)」とは、純度が98.0w/w%以上である化合物(I)を指す。例えば、本発明の一実施態様において、「高純度の化合物(I)」とは、純度が99.0w/w%以上である化合物(I)であり、本発明の別の実施態様において、「高純度の化合物(I)」とは、純度が99.5w/w%以上である化合物(I)である。
【0128】
本発明の化合物(I)に含まれる各不純物の各含有量は、化合物(I)の含有量に対して各々0.5w/w%以下であり、好ましくは各々0.15w/w%以下である。従って、本発明の化合物(I)を用いた医薬組成物中に含まれる各不純物の含有量は、化合物(I)の含有量に対して各々0.5w/w%以下であり、好ましくは各々0.15w/w%以下である。
【0129】
本発明の化合物(I)に含まれる不純物の総含有量は、化合物(I)の含有量に対して4.0w/w%以下であり、好ましくは2.0w/w%以下であり、より好ましくは1.0w/w%以下である。従って、本発明の化合物(I)を用いた医薬組成物中に含まれる不純物の総含有量は、化合物(I)の含有量に対して4.0w/w%以下であり、好ましくは2.0w/w%以下であり、より好ましくは1.0w/w%以下である。
【0130】
本明細書中、「不純物」とは、以下の化合物を含むが、これらに限定されない。
1)下記式(III):
【化21】
で示される化合物(III)。
【0131】
化合物(III)は、化合物(I)のエチルエステルが加水分解された化合物であり、1'位のエピマーの混合物である。
本発明の化合物(I)に含まれる化合物(III)の含有量は、0.5w/w%以下であり、好ましくは0.15w/w%以下である。従って、本発明の化合物(I)を用いた医薬組成物中に含まれる化合物(III)の含有量は、化合物(I)の含有量に対して0.5w/w%以下であり、好ましくは0.15w/w%以下である。
【0132】
2)下記式(IV):
【化22】
で示される化合物(IV)。
【0133】
化合物(IV)は、上述の工程Aで用いられるブロモ酢酸エチル中にブロモ酢酸が夾雑物として含まれる場合に生じうる。
本発明の化合物(I)に含まれる化合物(IV)の含有量は0.5w/w%以下であり、好ましくは0.15w/w%以下である。従って、本発明の化合物(I)を用いた医薬組成物中に含まれる化合物(IV)の含有量は、化合物(I)の含有量に対して0.5w/w%以下であり、好ましくは0.15w/w%以下である。
【0134】
3)下記式(V):
【化23】
で示される化合物(V)。
【0135】
化合物(V)は、化合物(I)のシクロペンチルマンデル酸エステルが加水分解された化合物である。
本発明の化合物(I)に含まれる化合物(V)の含有量は0.5w/w%以下であり、好ましくは0.15w/w%以下である。従って、本発明の化合物(I)を用いた医薬組成物中に含まれる化合物(V)の含有量は、化合物(I)の含有量に対して0.5w/w%以下であり、好ましくは0.15w/w%以下である。
【0136】
本発明の化合物(I)に含まれる化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)の総含有量は、4.0w/w%以下であり、好ましくは2.0w/w%以下であり、より好ましくは1.0w/w%以下である。従って、本発明の化合物(I)を用いた医薬組成物中に含まれる化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)の総含有量は、化合物(I)の含有量に対して4.0w/w%以下であり、好ましくは2.0w/w%以下であり、より好ましくは1.0w/w%以下である。
【0137】
上記で示した、本発明の化合物(I)(即ち、高純度の化合物(I)である。)は、[8a]で記載した通り、工程A及び工程Bを含む製造方法で製造することができる。また、[8b]に記載した通り、工程A及び工程Bに続いて、工程C'及び工程Dを行ってもよい。
【0138】
上記で示した不純物である化合物(III)、化合物(IV)、及び、化合物(V)は、高純度の化合物(I)(本発明の化合物(I)の結晶形態を包含する。)を製造するうえで、指標として有用な化合物である。
【0139】
本発明は、有効成分として本発明の化合物(I)(本発明の結晶形態を含む。)を用いた医薬組成物(以下、本発明の医薬組成物とも言う。)を包含する。本発明の医薬組成物は、特に限定されないが、好ましくは外用塗布製剤である。
本発明の医薬組成物が外用塗布製剤の場合は、例えば、特許文献1に記載の製剤に準じて、定法に従って製造することができる。
【0140】
本発明の医薬組成物は、特に限定されないが、好ましくは多汗症の処置に用いる医薬であり、より好ましくは原発性腋下多汗症又は原発性手掌多汗症の処置に用いる医薬である。ただし、化合物(I)は抗コリン作用を有しているため、本発明の医薬組成物は、アセチルコリンの作用に関連した様々な疾患の処置のための医薬として用いることができる。
【実施例
【0141】
以下、本発明について、実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0142】
本明細書中の各結晶形態における、固体13C核磁気共鳴スペクトルの化学シフト値、粉末X線回折による特徴的な回折角、DSC測定による特徴的な吸熱ピーク及びIR測定による特徴的な吸収帯は、測定条件によって変動することがある。そのため、本明細書中の結晶形態の測定値には誤差が生じうる。
【0143】
製造例1 <粗(R)-シクロペンチルマンデル酸(化合物(V)、(R)-CPMA)の製造方法>
DL-シクロペンチルマンデル酸(CPMA)(66.0 g、0.30 mol)をアセトニトリル(1300 mL)に50℃で溶解した。L-チロシンメチルエステル(70.2 g、0.36 mol)を添加した。アセトニトリル(66 mL)で投入口を洗い込み、還流下、撹拌後、室温まで徐冷しながら撹拌した後、析出物をろ過した。ろ過物をアセトニトリルで洗浄し、得られたろ液と洗液を合わせて濃縮後、残渣に水(292 mL)を加え溶解した。得られた水溶液を水冷し、水層のpHが1程度になるまで希硫酸を加えた後、メチルt-ブチルエーテルで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別後、溶媒を留去し、得られた固体を乾燥して、粗(R)-CPMA(収量:32.3 g、収率:49%、光学純度:96.8%e.e.)を淡黄色固体として得た。
【0144】
粗(R)-CPMAの光学純度は、以下の条件で、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。
<(R)-CPMAの光学純度測定>
1)分析条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220 nm)
カラム:AD-RH(内径4.6 mm、長さ15 cm、粒径5.0 μm)
カラム温度:30℃付近の一定温度
流量:0.9 mL/min
注入量:10 μL
移動相:水/アセトニトリル/ギ酸混液(600:400:1)
2)試料溶液の調製
各試料を約10 mg秤量し、アセトニトリルを10 mL加えて、試料溶液とした。
【0145】
製造例2 <(R)-シクロペンチルマンデル酸(化合物(V)、(R)-CPMA)の製造方法>
製造例1で製造した粗(R)-CPMA(31.9 g、145 mmol)をトルエン(140 mL)に懸濁し、(R)-フェニルエチルアミン(20.7 g、171 mmol)を添加した。反応液を還流下、撹拌した後、n-ヘプタン(140 mL)を反応液に加えた。更に、還流下、反応液を撹拌した。反応液を室温まで徐冷しながら撹拌した後、析出物をろ過した。析出物をn-ヘプタンで洗浄後、乾燥した。乾燥した析出物をトルエン(127 mL)とn-ヘプタン(127 mL)の混液に懸濁した。懸濁液を還流下、溶液としたのち、室温まで徐冷しながら撹拌した。析出物をろ過し、n-ヘプタンで洗浄後、析出物を乾燥した。乾燥した析出物にメチルt-ブチルエーテル(171 mL)と水(79 mL)を加えて撹拌し、固体が溶解するまで希硫酸を加え、得られた溶液を撹拌後、有機層を分取し、水層をメチルt-ブチルエーテルで抽出した。有機層を合わせて炭酸水素ナトリウム溶液で抽出した。洗浄のために水層をメチルt-ブチルエーテルで抽出した後、水層が酸性になるまで希硫酸を加えて懸濁液とした。得られた懸濁液をメチルt-ブチルエーテルで抽出し、有機層を水洗後、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別後、溶媒を留去し、得られた固体を乾燥して、(R)-CPMA(収量:22.7 g、収率:71%、光学純度:>99.9%e.e.)を淡黄色固体として得た。光学純度は、製造例1と同様の方法で測定した。
【0146】
製造例3 <(2R,3'R)-3'-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトキシ)-1'-メチルピロリジン(化合物(II)、(2R,3'R)-CPMA-MP)の製造方法>
製造例2で製造した(R)-CPMA(5.0 g、23 mmol)及び1,1'-カルボニルジイミダゾール(CDI)(4.8 g、30 mmol)のトルエン(60 mL)溶液を5℃で撹拌後、減圧下、反応液を脱気し、アルゴンで置換した。室温下、別の容器でナトリウムt-ブトキシド(0.4 g、5 mmol)及び(R)-1-メチル-3-ピロリジノール((R)-MP)(2.5 g、25 mmol)をトルエン(30 mL)に懸濁し、、40℃とした。得られた溶液に、上記の(R)-CPMAとCDIの反応液を滴下し、得られた溶液を撹拌した。反応液を室温まで徐冷しながら撹拌後、水を加え、水層を除去した。有機層を再度水洗し、水層のpHが2になるまで希硫酸を加え、有機層を除去した。得られた水層を洗浄のためにトルエンで抽出し、水層のpHが9になるまで炭酸カリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。水層を酢酸エチルで再抽出し、有機層を集めて水洗後、有機層を濃縮して、(2R,3'R)-CPMA-MP(収量:6.4 g、収率:93%)を無色油状物として得た。
【0147】
製造例4 <化合物(I-a)の結晶形態(Form MN)の製造方法>
ソフピロニウム臭化物(約900 mg)のジアステレオマーを、2chパラレル精製装置Purif-Rp2を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分取した。プレセップ(登録商標)(ルアーロック)シリカゲル(HC-N)タイプLを2連結して、Table 1で表される移動相を用いた。
【0148】
Table 1 分取条件
【表1】
【0149】
ファーストピークが化合物(I-a)であった。当該ファーストピークの分画濃縮物(g)に対し、2倍の容量(mL)のアセトニトリルに40℃で溶かし、10倍の容量(mL)のメチルt-ブチルエーテル/酢酸エチル混液(3/2)を加えて撹拌し、化合物(I-a)を晶析させた。更に、8倍の容量(mL)のメチルt-ブチルエーテル/酢酸エチル混液(3/2)を加え、懸濁液を調製した。前記懸濁液を室温まで徐冷しながら撹拌した。析出物をろ取し、2倍の容量(mL)のメチルt-ブチルエーテル/酢酸エチル混液(3/2)で2回洗浄した。得られた固体を、乾燥して、化合物(I-a)の結晶形態(Form MN)を白色固体として得た(回収率90%)。回収率とは、得られた結晶形態の固体の重量を、分画濃縮物の重量で除したものを表す。
【0150】
製造例5 <化合物(I-b)の結晶形態(Form MJ)の製造方法>
製造例4の分取によって得られるセカンドピークが化合物(I-b)であった。当該セカンドピークの分画濃縮物(g)に対し、2倍の容量(mL)のアセトニトリルに40℃で溶かし、10倍の容量(mL)のメチルt-ブチルエーテル/酢酸エチル混液(3/2)を加えて撹拌し、化合物(I-b)を晶析させた。更に、8倍の容量(mL)のメチルt-ブチルエーテル/酢酸エチル混液(3/2)を加え、懸濁液を調製した。前記懸濁液を室温まで徐冷しながら4時間撹拌した。析出物をろ取し、2倍の容量(mL)のメチルt-ブチルエーテル/酢酸エチル混液(3/2)で2回洗浄した。得られた固体を、減圧下、40℃で11時間乾燥して化合物(I-b)の結晶形態(Form MJ)を白色固体として得た(回収率88%)。回収率の定義は、製造例4と同義である。
【0151】
製造例6 <化合物(I-a)と化合物(I-b)の様々な含有比のソフピロニウム臭化物を用いた晶析法1による結晶形態の検討>
化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比が1:2であるソフピロニウム臭化物(3.7 g)及び化合物(I-a)(0.3 g)を、アセトニトリル(11.6 mL)及び酢酸エチル(6.6 mL)に懸濁し、加熱し溶液とした。酢酸エチル(11.0 mL)を加え、40℃に冷却した後、メチルt-ブチルエーテル(1.2 mL)及び種晶(Form A、 2.0 mg)を加えた。懸濁液にメチルt-ブチルエーテル(25.2 mL)を一括で添加し、室温で撹拌し、更に5℃で撹拌した後、固体をろ取し、酢酸エチルで洗浄後、乾燥して、化合物(I-b)の含有率が60%(HPLCによる面積百分率の実測値:58.9%)であるソフピロニウム臭化物(3.8 g)を白色固体として得た。
【0152】
同様の製造方法(晶析法1)により、化合物(I-b)の含有率が80%(HPLCによる面積百分率の実測値:80.8%)であるソフピロニウム臭化物を調製した(製造例6-2)。
【0153】
製造例7 <化合物(I-a)と化合物(I-b)の様々な含有比のソフピロニウム臭化物を用いた晶析法2による結晶形態の検討>
化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比が1:2であるソフピロニウム臭化物(3.7 g)及び化合物(I-a)(0.3 g)を、アセトニトリル(11.6 mL)及び酢酸エチル(6.6 mL)に懸濁し、加熱し溶液とした。酢酸エチル(11.0 mL)を加え、40℃に冷却した後、メチルt-ブチルエーテル(1.2 mL)及び種晶(Form A、2.0 mg)を加え、撹拌した。メチルt-ブチルエーテル(25.2 mL)を5時間かけて滴下し、室温で撹拌した。5℃で撹拌した後、固体をろ取し、酢酸エチルで洗浄後、乾燥して化合物(I-b)の含有率が60%(HPLCによる面積百分率の実測値:59.3%)であるソフピロニウム臭化物(3.2 g)を白色固体として得た。
【0154】
同様に、化合物(I-b)の含有率が70%、75%、80%であるソフピロニウム臭化物をそれぞれ調製した(製造例7-2(HPLCによる面積百分率の実測値:70.3%)、製造例7-3(HPLCによる面積百分率の実測値:75.3%)、製造例7-4(HPLCによる面積百分率の実測値:79.6%))。
【0155】
実施例1 <ソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form A)の製造方法>
室温下、(2R,3'R)-CPMA-MP(2.7 g、9 mmol)を酢酸エチル(33 mL)に溶かし、ブロモ酢酸エチル(0.08 g、0.5 mmol)を添加して、ソフピロニウム臭化物の析出を確認後、更にブロモ酢酸エチル(1.5 g、9 mmol)を加えて撹拌した。その後、52℃まで加熱して撹拌し、室温まで徐冷後、固体をろ取した。得られた固体を酢酸エチルで洗浄後、乾燥して、ソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form A、収量:4.1 g、収率:86.6%)を白色固体として得た。
【0156】
実施例2 <ソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B)の製造方法>
室温下、Form Aのソフピロニウム臭化物(5.0 g、11 mmol)をアセトニトリル(14.5 mL)と酢酸エチル(8.3 mL)の混合液に懸濁し、50℃に加熱して溶液を得た。酢酸エチル(13.8 mL)を追加し、得られた溶液にメチルt-ブチルエーテル(33.0 mL)を5時間かけて滴下した。得られた懸濁液を撹拌し、5℃まで徐冷後、更に撹拌した。固体をろ取し、得られた固体を酢酸エチルで洗浄後、乾燥して、ソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B、収量:4.8 g、回収率:97%)を白色固体として得た。
なお、結晶形態については、粉末X線回折スペクトルにより、Form Bであることを確認した。
【0157】
実施例3 <ソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B)の別の製造方法>
室温下、Form Aのソフピロニウム臭化物(5.6 g、12 mmol)をアセトニトリル(16.3 mL)と酢酸エチル(9.2 mL)の混合液に懸濁し、50℃に加熱して溶液を得た。酢酸エチル(15.4 mL)を追加し40℃に冷却後、得られた溶液にメチルt-ブチルエーテル(1.7 mL)、Form Bのソフピロニウム臭化物を種晶(2.8 mg、0.006 mmol)として添加して、ソフピロニウム臭化物の結晶形態の析出を確認後、メチルt-ブチルエーテル(35.3 mL)を5時間かけて滴下し、室温まで徐冷しながら撹拌した。反応液を5℃まで冷却して更に撹拌した。得られた固体をろ取し、酢酸エチルで洗浄後、減圧下、40℃で11時間乾燥して、ソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B、収量:5.4 g、回収率:96%)を白色固体として得た。
なお、結晶形態については、粉末X線回折スペクトル及びその他スペクトルにより、Form Bであることを確認した。
【0158】
実施例4 <ソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B)の別の製造方法>
ブロモ酢酸エチル(92 kg)及び酢酸エチル(29 kg)を混合し、ブロモ酢酸エチル溶液を得た。別途、(2R,3'R)-CPMA-MP(159 kg)を酢酸エチル(1722 kg)に溶かしたのち、ブロモ酢酸エチル溶液(6 kg)を添加して、ソフピロニウム臭化物の析出を確認した。更にブロモ酢酸エチル溶液(115 kg)を加えて撹拌した。その後、50℃まで加熱して撹拌し、室温まで徐冷後、固体をろ取した。得られた固体を酢酸エチルで洗浄後、乾燥して、ソフピロニウム臭化物の結晶形態(222 kg)を白色固体として得た。
【0159】
得られたソフピロニウム臭化物(222 kg)を室温下、アセトニトリル(443 kg)と酢酸エチル(290 kg)の混合液に懸濁し、55℃に加熱したのち、活性炭(7 kg)を加え、撹拌した。ろ過により固形物を除去したのち、固形物をアセトニトリル(61 kg)/酢酸エチル(40 kg)混液で洗浄した。洗液とろ液を合わせたのち、酢酸エチル(550 kg)を追加し40℃に冷却後、得られた溶液にメチルt-ブチルエーテル(49 kg)と種晶としてForm Bのソフピロニウム臭化物(1.1 kg)を添加した。
【0160】
得られた懸濁液を50℃に加温したのち、メチルt-ブチルエーテル(1035 kg)を5時間かけて滴下し、得られた懸濁液を5℃まで徐冷しながら撹拌した。懸濁液にアセトニトリル(17 kg)、酢酸エチル(32 kg)及びメチルt-ブチルエーテル(39 kg)を加え、固体をろ取した。得られた固体を酢酸エチルで洗浄後、乾燥して、ソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B、収量:200 kg、2工程収率:90.1%)を白色固体として得た。
なお、結晶形態については、粉末X線回折スペクトルにより、Form Bであることを確認した。
【0161】
実施例5 <ソフピロニウム臭化物の結晶形態(Form B)の別の製造方法>
工程1:α-シクロペンチルマンデル酸の分割
α-シクロペンチルマンデル酸(22.8 kg, 103.5 mol)を80℃のアセトニトリルに溶解した。L-チロシンメチルエステル(22.2 kg)を溶液に加え、混合物を70分間、加熱還流した。混合物を室温まで冷却し、析出物((S)-α-シクロペンチルマンデル酸とL-チロシンメチルエステルの塩)を回収し廃棄した。母液を減圧下およそ46Lに濃縮し、(R)-α-シクロペンチルマンデル酸とL-チロシンメチルエステルの塩が濃スラリーとして析出した。その後、スラリーを水で希釈し、濃塩酸を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄し、75℃でヘプタンに溶媒置換した。種晶を添加し0℃に冷却した後、固体をろ過で回収した。最後に、析出物をヘプタン洗浄および乾燥を行い、8.5 kg、収率37%で望む(R)-α-シクロペンチルマンデル酸を、黄色を帯びた白色の固体として得た。
工程2:光延反応およびN-アルキル化
攪拌された(R)-α-シクロペンチルマンデル酸(8.5 kg, 38.6 mol)、トリフェニルホスフィン(10.1 kg)、及び(S)-1-メチル-3-ピロリジノール (3.7 kg)の無水2-メチルテトラヒドロフラン(2-Me THF)溶液にジイソプロピルアゾジカルボキシレート(DIAD)(7.8kg)を5℃で1-1.5時間かけて加えた。常温で1時間攪拌し、混合物をメチルt-ブチルエーテル(MTBE)で希釈し、0℃に冷却し、トリフェニルホスフィンの析出物を得て、ろ過した。
生成物を含むろ液をアセトニトリル(40 kg、およそ50.9 L)に溶媒置換し、ブロモ酢酸エチル(9.7 kg)を加え20℃で4時間攪拌し、粗BBI-4000溶液を得た。この溶液をCunoカーボンカートリッジで処理し、炭素処理後のソフピロニウム臭化物溶液にMTBEを加え、接種することで、ろ過及び乾燥後に、ソフピロニウム臭化物の固体を13.95 kg(収率77%)を得た。
【0162】
ソフピロニウム臭化物(13.9 kg)をアセトニトリル(33.4 kg、およそ42.7 L)中に60℃で溶解し、30℃に冷却した。澄明な液をCunoカーボンカートリッジで処理し、フィルター処理し、MTBE(80 kg、およそ108 L)と種晶を加え、7時間攪拌した。ろ過により析出物を回収し、アセトニトリル(7 kg、およそ8.91 L)およびMTBE(25 kg、およそ33.7 L)の混合溶媒で洗浄し、減圧下乾燥することで、白色固体を11.6 kg得た(融点 144-146°C, HPLC純度 99.8%)。
なお、結晶形態については、粉末X線回折スペクトルにより、Form Bであることを確認した。
【0163】
実施例6 <化合物(I)の結晶形態(Form CO)の製造方法>
製造例4及び5で得た化合物(I-a)(50 mg)及び化合物(I-b)(150 mg)を併せて、アセトニトリル(0.58 mL)、酢酸エチル(0.88 mL)及びメチルt-ブチルエーテル(0.06 mL)の混合液に懸濁させ、50℃に加熱した。前記懸濁液を50℃で15時間撹拌した後、室温まで徐冷しながら撹拌した。析出物をろ取し、得られた析出物を酢酸エチル(2 mL)で2回洗浄後、乾燥して化合物(I)の結晶形態(Form CO、収量:121 mg、回収率:61%)を白色固体として得た。得られた化合物(I)の結晶形態は、化合物(I-a)と化合物(I-b)とを1:3の割合で含んだ。
なお、結晶形態については、粉末X線回折スペクトル及びその他スペクトルにより、Form COであることを確認した。
【0164】
参考例1 <(2R,3'R)-3'-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)-1'-メチル-1'-カルボシキメチルピロリジニウム分子内塩(化合物(III))の製造方法>
【化24】
【0165】
ソフピロニウム臭化物(15 g、3.2 mmol)を水酸化ナトリウム水溶液(0.1 mol/L、318 mL)に溶かし、室温で3.5時間撹拌した。得られた溶液を凍結乾燥後、残渣をジクロロメタンで抽出した。得られたジクロロメタン溶液を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ジクロロメタン/メタノール=90/10)で精製することで、化合物(III)の白色固体を得た(収量:5.4 g、収率:47%)。
【0166】
参考例2 <(2R,3'R)-3'-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)-1'-メチル-1'-エトキシカルボニルメトキシカルボニルメチル-ピロリジニウム ブロミド (化合物(IV))の製造方法>
【化25】
【0167】
室温下、(2R,3'R)-CPMA-MP(4.3 g、14 mol)を酢酸エチル(50 mL)に溶かし、2-エトキシ-2-オキシエチル 2-ブロモアセテート(3.7 g、16.4 mmol)を加えた。反応液を16時間撹拌し、反応液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ジクロロメタン/エタノール)で精製することで、化合物(IV)粗体の粘性白色固体を得た(収量:6.3 g)。得られた化合物(IV)粗体をアセトニトリル(10 mL)に溶かし、酢酸エチル(15 mL)を加え、50℃に加熱した。前記溶液を40℃へ冷却してメチルt-ブチルエーテル(100 mL)を加え、懸濁液を得た。前記懸濁液を室温まで徐冷後、析出物をろ取し、得られた析出物をメチルt-ブチルエーテルで洗浄後、減圧下、50℃で5時間乾燥して化合物(IV)(白色固体)を得た(収量:5.8 g、2工程収率:78%)。
1H-NMR(400 MHz,CDCl3)δ:1.25-1.73(9H,m),2.11-2.27(1H,m),2.43(2H,s),2.80-3.08(2H,m),3.15(1H,s),3.69(2H,s),3.91-4.02(1H,m),4.12-4.56(6H,m),4.65-4.77(2H,m),4.77-4.96(1.33H,m),5.28-5.45(0.67H,m),5.52-5.61(1H,m),7.20-7.30(1H,m),7.30-7.39(2H,m),7.54-7.62(2H,m).
【0168】
試験例1-1 <晶析法1によって製造されたソフピロニウム臭化物の結晶形態の粉末X線回折測定>
ソフピロニウム臭化物は、ジアステレオマーの混合物(化合物(I-a)と化合物(I-b))であるが、その含有比が、混合物の結晶形態の特徴や物理化学的性質にどのように影響を与えるか不明であった。
そこで、それぞれのジアステレオマー、及び、化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比が異なる様々なソフピロニウム臭化物(化合物(I-b)の含有率が、60%、70%、75%又は80%であるソフピロニウム臭化物)について、アセトニトリル/酢酸エチル/メチルt-ブチルエーテル混合溶媒を用いた再結晶(晶析法1又は晶析法2)を実施し、各種機器分析を実施した。
【0169】
試験例1-1においては、上記の製造例4(Form MN)、製造例5(Form MJ)、製造例6、製造例6-2で得られたそれぞれの結晶形態を、下記の方法に従って、粉末X線回折を測定した。なお、通常、同一の結晶形態であれば、回折角2θは±0.2°又は±0.1°の範囲内で一致する。
【0170】
各試料約0.1gをガラス製試料板に充填した。この試料板を標準試料ホルダーに取り付け、粉末X線回折測定装置((株)リガク: RINT2200Ultima II/PC)により、下記の条件で回折パターンを測定した。別に、角度標準シリコン粉末を測定した。
【0171】
【表2】
【0172】
図1は、化合物(I-a)の結晶形態(Form MN)の回折パターンである。特徴的な回折角を下表に示す。
【0173】
【表3】
【0174】
図2は、化合物(I-b)の結晶形態(Form MJ)の回折パターンである。特徴的な回折角を下表に示す。
【0175】
【表4】
【0176】
Form MNの回折角2θ=7.1°のピークとForm MJの回折角2θ=6.7°のピークは、強度が強く、各結晶形態において特徴的なピークであった。従って、2θ=7.1±0.1°と2θ=6.7±0.1°のピークを観測すれば、様々なソフピロニウム臭化物の結晶形態において、Form MN とForm MJの存在を確認することができることが明らかとなった。
【0177】
次に、上記試験例1-1で実施した各結晶形態における、特徴的なピークを、表5に示す。
【表5】
*:該当する回折角にピークが観測された場合「あり」を記す。空欄は、当該ピークが明確には観測されなかったことを示す。
【0178】
化合物(I-b)の含有率が、60%及び80%のソフピロニウム臭化物のいずれにおいても、Form MNに特徴的な回折角2θ=7.1±0.1°及びForm MJに特徴的な回折角2θ=6.7±0.1°のピークが観測された。それそれのピーク強度は、ジアステレオマー比に従い、相対的に変動したことから、上記の晶析法1によって作られたソフピロニウム臭化物(製造例6及び製造例6-2)は、Form MNとForm MJの混合物であると考えられる。
【0179】
試験例1-2 <晶析法2によって製造されたソフピロニウム臭化物の結晶形態の粉末X線回折測定>
試験例1-2においては、上記の製造例4(Form MN)、製造例5(Form MJ)、製造例7、製造例7-2、製造例7-3、製造例7-4で得られたそれぞれの結晶形態を、試験例1-1と同様に、粉末X線回折を測定した。各測定における、特徴的なピークを表6に示す。
【0180】
【表6】
*:該当する回折角にピークが観測された場合「あり」を記す。空欄は、当該ピークが明確には観測されなかったことを示す。
【0181】
製造例7及び製造例7-2のソフピロニウム臭化物には、化合物(I-a)の結晶形態(Form MN)に特徴的な2θ=7.1±0.1°のピークが確認された。2θ=7.1±0.1°のピークは、Form MNに特徴的なピークであることから、製造例7及び製造例7-2のソフピロニウム臭化物には、Form MNが含有されている。一方、製造例7及び製造例7-2のソフピロニウム臭化物には、2θ=5.9±0.1°のピークと2θ=7.6±0.1°のピークが観測された。これらのピークは、Form MN及びForm MJのいずれの結晶形態でも強く検出されるピークではないことから、製造例7及び製造例7-2のソフピロニウム臭化物は、Form MN及びForm MJではない他の結晶形態を含有していると考えられる。
【0182】
製造例7-3(化合物(I-b)の含有率が75%)のソフピロニウム臭化物には、Form MNを特徴付けるピーク(2θ=7.1±0.1°)、及びForm MJを特徴付けるピーク(2θ=6.7±0.1°)が観測されなかった。一方、2θ=5.8±0.1°のピークと2θ=7.6±0.1°のピークは観測された。このことから、製造例7-3のソフピロニウム臭化物は、ソフピロニウム臭化物の新たな結晶形態であり、化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比が1:3である新規の共結晶(Form CO)であると考えられた。
【0183】
製造例7-4(化合物(I-b)の含有率が80%)のソフピロニウム臭化物には、Form COのピークと、化合物(I-b)の結晶形態に由来すると考えられるピークが観測されたが、Form MNを特徴付けるピーク(2θ=7.1±0.1°)は観測されなかった(表中にデータの記載なし)。
【0184】
次に、実施例6で調製したソフピロニウム臭化物の結晶形態と、製造例7-3で調製したソフピロニウム臭化物の結晶形態の粉末X線回折パターンを比較した。
図3は、実施例6で調製したForm COの回折パターンである。特徴的な回折角を表7に示す。
【0185】
【表7】
【0186】
実施例6の結晶形態と、製造例7-3の結晶形態を粉末X線回折で比較した結果、両者の回折パターンは同一であった。即ち、化合物(I-a)が25%、化合物(I-b)が75%で構成される共結晶(Form CO)の存在が確認された。
【0187】
製造例7、製造例7-2のソフピロニウム臭化物は、Form COに由来するピークとForm MNに由来するピークが混在していることから、Form COとForm MNの結晶の混合物であると考えられる。
一方、試験例1-1(製造例6、製造例6-2)では、Form COが観測されなかったことから、Form COの製造では、製造方法(例えば、再結晶方法)の条件選択が極めて重要であることが示された。
具体的には、Form COの製造では、メチルt-ブチルエーテルの長時間の滴下(例えば、4時間以上の滴下)を行う工程、及び/又は、ソフピロニウム臭化物の結晶形態のメチルt-ブチルエーテルを含む溶媒の懸濁液を長時間(例えば、13時間)撹拌する工程が重要であることが明らかとなった。
【0188】
試験例2 <各結晶形態の固体13C核磁気共鳴スペクトル(固体13C-NMR)測定>
Form B、Form MN、Form MJ及びForm COの各試料を4 mmφジルコニアロータに充てんし、基準物質としてポリジメチルシロキサンを使用し、下記の条件で固体13C核磁気共鳴スペクトルを測定した。
【0189】
<固体13C核磁気共鳴スペクトルの測定条件>
【表8】
【0190】
結果を図4図8に示す。
図4は、化合物(I)の結晶形態(Form B)の固体13C核磁気共鳴スペクトルである。特徴的なピークを表9に示す。
【0191】
【表9】
【0192】
なお、本試験で用いたForm Bは、化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比が33:67である。
【0193】
図5は、化合物(I-a)の結晶形態(Form MN)の固体13C核磁気共鳴スペクトルである。特徴的なピークを表10に示す。
【0194】
【表10】
【0195】
図6は、化合物(I-b)の結晶形態(Form MJ)の固体13C核磁気共鳴スペクトルである。特徴的なピークを表11に示す。
【0196】
【表11】
【0197】
図7は、化合物(I)の結晶形態(Form CO)の固体13C核磁気共鳴スペクトルである。特徴的なピークを表12に示す。
【0198】
【表12】
【0199】
図4が示すForm Bの固体13C核磁気共鳴スペクトルは、非常に複雑で、多数のピークが観測された。しかしながら、表13に示すように、140ppm付近に観測されるForm Bに特徴的なスペクトルは、Form CO及びForm MNに特徴的なスペクトルと一致していることから、Form Bの結晶形態は、Form CO及びForm MNの混合物であることを確認した。
【0200】
【表13】
*:該当する化学シフト値にピークが観測された場合「あり」を記す。空欄は、当該ピークが観測されなかったことを示す。
【0201】
固体13C核磁気共鳴スペクトル(CP/MAS法)は、交差分極により、1H核の磁化を13C核に移して測定する。1H核の磁化が13C核に移る効率は、13C核と1H核の位置や分子運動性等によって異なる。固体13C核磁気共鳴スペクトル(CP/MAS法)における積分データは、定量性がなく、ピークの積分強度比から化合物の存在比を直接求めることはできない。
しかしながら、類似の環境にある13C核間でCP効率はあまり変わらないと考えられ、目安として、シグナル強度から結晶形態の存在比を見積もることができる。
【0202】
試験例1より、Form COは化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比が1:3の共結晶であることから、化合物(I-b)の含有率が67%であるForm BにおけるForm COとForm MNの含有比は、理論上、89:11である。
図8が示すForm Bの固体13C核磁気共鳴スペクトルの拡大図では、Form COに由来するピークとForm MNに由来するピークの両方の積分データを示しており、例えば、140ppm付近において、Form COに由来するピーク面積とForm MNに由来するピーク面積の比は、4.6:0.6(およそ88:12)であった。
以上の結果から、Form Bの結晶形態は、Form COとForm MNの結晶混合物であることが明らかとなった。
【0203】
試験例3 <各結晶形態の純度試験(類縁物質)>
以下の条件で、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、上記の実施例で得られた結晶形態の純度測定を実施した。
【0204】
1)分析条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220 nm)
カラム:Luna(2)C18(内径4.6 mm、長さ15 cm、粒径3.0 μm)
カラム温度:50℃付近の一定温度
流量:1.2 mL/min
注入量:15 μL
移動相A:水:メタノール:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=700:200:100:1
移動相B:メタノール:アセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸=6500:2500:1000:7
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配制御した。
【0205】
【表14】
【0206】
2)試料溶液の調製
各試料を約30 mg秤量し、水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸混液(500:500:1)を10 mL加えて、試料溶液とした。
【0207】
化合物(I-b)の相対保持時間を1としたとき、化合物(I-a)の相対保持時間は0.9であり、不純物である化合物(III)の相対保持時間は0.6及び0.7、化合物(IV)の相対保持時間は1.2、化合物(V)の相対保持時間は1.3であった。
【0208】
実施例1(Form A)、実施例3(Form B)及び実施例6(Form CO)で得られた各結晶形態はいずれも純度が99.5w/w%以上であり、かつ、不純物である化合物(III)、化合物(IV)、化合物(V)のいずれもが0.5w/w%以下であった。また、化合物(III)、化合物(IV)、化合物(V)以外の不純物ピークについては、定量限界以下であった。
従って、上記の製造方法で製造された本発明の化合物(I)(化合物(I)の結晶形態を含む。)は高純度であることが明らかとなった。
【0209】
試験例4 <Form AとForm Bの粉末X線回折パターン解析>
試験例1-1に記載の方法に従い、Form AとForm Bの粉末X線回折パターンを測定した。通常、同一の結晶形態であれば、回折角2θは±0.2°又は±0.1°の範囲内で一致する。結果を図9図11に示す。
【0210】
図9は、化合物(I)(Form A)の結晶形態の回折パターンである。特徴的な回折角を表15に示す。
【0211】
【表15】
【0212】
Form Aの結晶形態の粉末X線回折パターン解析では、Form MNに特徴的な回折角2θ=7.1±0.1°と、Form MJに特徴的な回折角2θ=6.7±0.1°のピークが観測された。したがって、Form Aは、Form MNとForm MJの結晶の混合物である。
なお、本試験で用いたForm Aに含まれる化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~25:75の範囲内にある。
【0213】
図10は、化合物(I)の結晶形態(Form B)の回折パターンである。特徴的な回折角を表16に示す。
【0214】
【表16】
【0215】
Form Bの結晶形態の粉末X線回折パターン解析では、Form MNに特徴的な回折角2θ=7.1±0.1°のピークと、Form COに特徴的な回折角2θ=5.9±0.1°及び2θ=7.6 ±0.1°の両方が観測された。したがって、Form Bは、Form MNとForm COの結晶の混合物である。
なお、本試験で用いたForm Bに含まれる化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~25:75の範囲内にある。
【0216】
試験例5 <各結晶形態の熱分析(DSC)>
日本薬局方(第十七改正)の熱分析法に準拠して、各試料約5~6 mg をアルミニウム製パン(落し蓋)に量り、加熱速度毎分2℃、30℃~230℃の範囲において、窒素気流(毎分50 mL)下で測定した。基準物質として、α-アルミナを用いた。
別法として、日本薬局方(第十七改正)の熱分析法に準拠して、各試料約1~2 mg をアルミニウム製パン(簡易密閉式)に量り、加熱速度毎分2℃、30℃~165℃の範囲において、窒素気流(毎分50 mL)下で測定した。基準物質として、α-アルミナを用いた。
結果を図12図16に示す。
【0217】
【表17】
【0218】
Form Aの吸熱ピークは、Form MN及びForm MJの吸熱ピークよりも低値を示した。また、Form Bの吸熱ピークは、Form MN及びForm COの吸熱ピークよりも低値を示した。
一般に、不純物が含まれる化合物の融点は、純物質の融点よりも低くなる。Form A及びForm Bにおいても、Form MN、Form MJ及びForm COが互いに不純物のように振る舞うため、Form A及びForm B の吸熱ピークがForm MN、Form MJ及びForm COよりも低値になったと考えられる。
なお、本試験で用いたForm A及びForm Bに含まれる化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~25:75の範囲内にある。
【0219】
試験例6 <各結晶形態の赤外吸収スペクトル(IR)測定>
日本薬局方(第十七改正)の赤外吸収スペクトル測定法の臭化カリウム錠剤法に準拠して、各試料を分析した。
結果を図17図21に示す。
【0220】
図17は、化合物(I)の結晶形態(Form A)のIRチャートである。特徴的なピークを表18に示す。
【0221】
【表18】
【0222】
図18は、化合物(I)の結晶形態(Form B)のIRチャートである。特徴的なピークを表19に示す。
【0223】
【表19】
【0224】
図19は、化合物(I-a)の結晶形態(Form MN)のIRチャートである。特徴的なピークを表20に示す。
【0225】
【表20】
【0226】
図20は、化合物(I-b)の結晶形態(Form MJ)のIRチャートである。特徴的なピークを表21に示す。
【0227】
【表21】
【0228】
図21は、化合物(I)の結晶形態(Form CO)のIRチャートである。特徴的なピークを表22に示す。
【0229】
【表22】
【0230】
本試験で用いたForm A及びForm Bに含まれる化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~25:75の範囲内にある。
【0231】
試験例7 <各結晶形態の吸湿性並びに安定性試験(動的水蒸気吸着:DVS)>
各試料を減圧下乾燥し(シリカゲル存在下、40℃、1時間)、約20 mgをサンプルパンに秤量し、動的水蒸気吸着測定装置を用いて、下記の条件で収着-脱着等温線(0~95%RH)を測定した。
【0232】
<機器の前乾燥条件>
【表23】
【0233】
<収着-脱着等温線の測定条件>
【表24】
【0234】
【表25】
*:吸湿性の列において、「あり」とは、試験後の重量増加が3%を超える場合を示し、「なし」とは、試験後の重量増加が3%以下である場合を示す。
**:結晶転移の列において、「あり」とは、試験後に結晶形態の変化が生じていることを示し、「なし」とは試験後も試験前と同一の結晶形態を保持していることを示す。
【0235】
試験例7の結果から、いずれの結晶形態も吸湿性は無かった。しかし、Form A及びForm MJは、湿度を0%RHから95%RHまで上げて0%RHに戻すサイクルを行うと、結晶転移が観測された。一方、Form B、Form MN及びForm COは、同様の加湿条件で結晶転移が見られなかった。
この結果から、Form MN及びForm COには、加湿条件で結晶転移が見られず、安定な結晶形態であることが判明した。Form Bは、Form MN及びForm COを含有する結晶形態であるため、医薬品の原薬として、より適切なプロファイルを有する結晶形態であることが判明した。
なお、本試験で用いたForm A及びForm Bに含まれる化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~25:75の範囲内にある。
【0236】
試験例8 <Form Bの湿度安定性試験>
Form Bについて、25℃±2℃/93%RHで4週間保存し、開始時からの性状、純度、結晶形態を観測した。その結果を下表に示す。
なお、純度試験は、試験例3と同様の方法で実施した。本試験で「不純物」は、上記の化合物(III)、化合物(IV)、化合物(V)を含む文言であり、それ以外の類縁物質、分解物、不純物や夾雑物も含む文言である。結晶形態については、粉末X線回折パターンにより判定した。
【0237】
【表26】
*:定量限界未満(<0.03%)
【0238】
試験例8の結果から、Form Bは25℃±2℃/93%RHで4週間保存しても、性状、純度及び結晶形態に変化はなかった。従って、Form Bは、加湿条件下で安定な結晶形態であり、医薬品の原体として優秀な結晶形態であることが明らかとなった。同様に、 Form Bを構成するForm MNとForm COも医薬品の原体として優秀な結晶形態であることが明らかとなった。
なお、本試験で用いたForm Bに含まれる化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~25:75の範囲内にある。
【0239】
試験例9 <Form A及びForm Bの安定性に関する相対比較(60℃)>
Form AとForm Bの安定性を相対的に比較した。 Form A及びForm Bを60±2℃、暗所の条件下、各試料を4週間保管した。結果を下表に示す。表中、純度試験の各値は化合物(I)に含まれる不純物の割合(%)を表す。具体的には、各値は、試験例3の分析条件で分析した場合の、化合物(I-a)と化合物(I-b)のピーク以外のすべてのピーク面積の割合(%)を表す。
【0240】
試験例7で示したように、Form Aは、加湿条件で結晶転移を生じる。結晶転移後の結晶形態を"Form A(結晶転移後)"と表記し、同様に安定性を測定した。
なお、本試験で「不純物」は、上記の化合物(III)、化合物(IV)、化合物(V)を含む文言であり、それ以外の類縁物質、分解物、不純物や夾雑物も含む文言である。また、異性体比の数値は、試験例3の分析条件で分析した場合の、化合物(I-a)のピーク面積を、化合物(I-a)と化合物(I-b)のピーク面積の和で除した値を表す。
本試験で用いたForm A及びForm Bに含まれる化合物(I-a)と化合物(I-b)の含有比は、40:60~25:75の範囲内にある。
【0241】
【表27】
*:定量限界未満(<0.03%)
【0242】
上表で示すように、Form A及びForm Bのいずれも、開始時及び4週間経過時点での純度は、99.9%以上であり、4週間経過しても不純物は増加しなかった。また、試験期間中、化合物(I-a)と化合物(I-b)の異性体比に有意な変化は認められなかった。
一方、Form A(結晶転移後)は、不純物増加は見られなかったが、当初より0.03%の不純物(化合物(III))が確認された。
試験例7~試験例9の結果、Form A及びForm Bのいずれも安定な結晶であるものの、Form Aは、加湿条件で結晶転移して、若干の不純物が混入することが明らかとなった。一方、Form Bは、その様な現象がなく、安定であり、医薬品の原薬としてより適切なプロファイルを有することが明らかとなった。
【0243】
以上の結果から、Form COを包含する本発明のソフピロニウム臭化物の結晶形態(例えば、Form B)は、吸湿性がなく、高純度であり、物理化学的に安定な結晶形態であることから、医薬品の原薬として最適なプロファイルを有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0244】
本発明のソフピロニウム臭化物の結晶形態は物理化学的に安定であり医薬品の原薬として適切なプロファイルを有している。
また、本発明の製造方法により得られるソフピロニウム臭化物は高純度であり、簡便かつ工業的規模で製造することができる。
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