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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
B60H1/22 611D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020158534
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052264
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000152826
【氏名又は名称】株式会社日本クライメイトシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 次郎
(72)【発明者】
【氏名】西田 孝則
【審査官】安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-295776(JP,A)
【文献】特開2009-190541(JP,A)
【文献】特開2013-230021(JP,A)
【文献】特開2014-204514(JP,A)
【文献】米国特許第06262400(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00 - 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調用空気を加熱する電気式加熱器と、
前記電気式加熱器を制御する制御部とを備えた車両用空調装置において、
前記電気式加熱器に接続される電力供給用の電線の周囲の温度を推定する温度推定部を備え、
前記温度推定部は、車室内温度を検出する内気温度センサから出力された値に基づいて前記電線の周囲の温度を推定し、
前記制御部は、前記温度推定部で推定された前記電線の周囲の温度が所定温度よりも高いときには、前記所定温度以下のときに比べて前記電線に供給する電流値を低くすることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
請求項に記載の車両用空調装置において、
前記車両用空調装置は、車両に搭載されたエンジンの冷却水が循環するヒータコアを主暖房装置として備えており、
前記電気式加熱器は補助暖房装置であることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用空調装置において、
前記制御部は、前記温度推定部で推定された前記電線の周囲の温度が所定温度よりも高いときには、前記電線に供給する電流値を0にすることを特徴とする車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に搭載される車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用空調装置においては、空調用空気を冷却する冷却用熱交換器と、空調用空気を加熱する加熱用熱交換器と、冷却用熱交換器及び加熱用熱交換器を通過する空調用空気の量を変更するエアミックスダンパとが空調ケーシング内に収容されており、冷却用熱交換器及び加熱用熱交換器を通過した冷風及び温風を混合させて所望温度の調和空気が生成されるように構成されている。そして、空調ケーシング内で生成された調和空気は、デフロスタ通路、ベント通路、ヒート通路等から車室の各部に供給されるようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1~3に開示されている車両用空調装置では、上記空調ケーシング内に補助暖房装置として、PTCヒータで構成された電気式加熱器が設けられており、この電気式加熱器によって暖房の速効性を高めている。
【0004】
また、特許文献4、5には、車両用空調装置に設けられる電気式加熱器の具体構造が開示されている。電気式加熱器には、電力を供給するための電線が接続されており、その電線は、空調ケーシングの外部に設定された所定の経路を通して車両のハーネスに接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-114778号公報
【文献】特開2018-95074号公報
【文献】特開2018-95075号公報
【文献】特開2007-280902号公報
【文献】特開2009-190541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的に、電線には電線保護の観点から許容温度範囲が設定されており、太い電線ほど許容温度範囲の高温側の温度が高くなっている。車両用空調装置の電気式加熱器に使用される電線の場合、流れる電流値が大きいことと、安全性を十分に確保する必要があることとにより、許容温度範囲に余裕を持たせた太めの電線径の選定が行われる。一例を挙げると、電線の周囲温度を60℃とした場合、1000WのPTCヒータで80Aの電流を流そうとすると10sqの電線を選定することになる。
【0007】
しかしながら、電線を通す経路は、空調ケーシングの形状や車体の構造、他部品の存在等によって直線状に設定することは困難であり、複雑に屈曲している。このような経路に電線を通す際、電線が太いと経路に沿うように曲げることが困難であり、電線を通すためのスペースが拡大するおそれがある。
【0008】
また、電線を太くすると、その分、電線の重量が嵩み、車両の軽量化が達成できなくなるとともに、コスト高になることも考えられる。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、暖房時の快適性を阻害することなく、従来よりも細い電線を使用可能にして電線のレイアウトの自由度を向上させるとともに、車両の軽量化及び低コスト化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1の発明は、空調用空気を加熱する電気式加熱器と、前記電気式加熱器を制御する制御部とを備えた車両用空調装置において、前記電気式加熱器に接続される電力供給用の電線の周囲の温度を推定する温度推定部を備え、前記制御部は、前記温度推定部で推定された前記電線の周囲の温度が所定温度よりも高いときには、前記所定温度以下のときに比べて前記電線に供給する電流値を低くすることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、電気式加熱器に接続される電線の周囲の温度が温度推定部によって推定される。推定された温度が低い場合には電線に流すことが可能な電流値が高い状況にあるので、制御部が比較的高い電流を電線に流すことで必要な暖房性能が電気式加熱器により確保される。一方、推定された温度が高い場合には、低い場合に比べて電線に流せる電流値が低くなるが、この場合、電線に供給する電流値が制御部による制御によって低くなるので、細い電線を用いながら、電線の耐熱温度を超える電流が流れないようにすることができ、高い安全性が確保される。尚、推定された温度が高いということは、電気式加熱器による暖房能力が低くてもよいケースであると考えられるので、電線に流れる電流値が低くても暖房性能上は殆ど問題とならない。
【0012】
第2の発明は、前記温度推定部は、前記電気式加熱器に設けられた加熱器温度センサから出力された値に基づいて前記電線の周囲の温度を推定することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、電気式加熱器の温度が加熱器温度センサによって検出される。電線は電気式加熱器に接続されたものであることから、電気式加熱器と電線とは接近している。よって、加熱器温度センサによって検出された電気式加熱器の温度を用いて電線の周囲の温度を推定することで、推定結果が的確なものになる。
【0014】
第3の発明は、前記温度推定部は、車室内温度を検出する内気温度センサから出力された値に基づいて前記電線の周囲の温度を推定することを特徴とする。
【0015】
すなわち、内気温度センサは、一般的な車両用空調装置に設けられており、常時、車室内温度を検出している。電気式加熱器及び電線は車室内に設けられているので、内気温度センサは、電線の周囲の温度を間接的に検出することが可能である。したがって、内気温度センサによって検出された車室内の温度を用いて電線の周囲の温度を推定することで、推定結果が的確なものになる。
【0016】
第4の発明は、前記温度推定部は、車両に搭載されたエンジンの冷却水温度を検出する冷却水温度センサから出力された値に基づいて前記電線の周囲の温度を推定することを特徴とする。
【0017】
すなわち、冷却水温度センサは、エンジンを搭載した一般的な車両に設けられており、常時、冷却水温度を検出している。冷却水温度が低ければ車室内、即ち電線が設けられている空間の温度が低いと推定することができ、また、冷却水温度が高ければ電線が設けられている空間の温度が高いと推定することができる。したがって、冷却水温度センサによって検出された冷却水の温度を用いて電線の周囲の温度を推定することで、推定結果が的確なものになる。
【0018】
第5の発明は、前記温度推定部は、前記電気式加熱器への電力の供給開始時からの経過時間に基づいて前記電線の周囲の温度を推定することを特徴とする。
【0019】
すなわち、電気式加熱器へ電力を供給する前は、電気式加熱器による空調用空気の加熱が行われていないので、電線の周囲の温度は低いと推定できる。一方、電気式加熱器へ電力供給が開始されると、電気式加熱器による空調用空気の加熱が行われるので、電線の周囲の温度は加熱前に比べて高くなる。よって、電気式加熱器への電力の供給開始時から時間が経過するに従って電線の温度が上昇していくので、電気式加熱器への電力の供給開始時からの経過時間に基づいて電線の周囲の温度を推定することで、推定結果が的確なものになる。
【0020】
第6の発明は、前記温度推定部は、前記電気式加熱器へ供給する電流値が大きいほど前記電線の周囲の温度が高いと推定することを特徴とする。
【0021】
電気式加熱器へ供給する電流値が大きいほど電気式加熱器による空調用空気の加熱量が増加するので、電線の周囲の温度が高くなる。本構成では、電気式加熱器へ供給する電流値に基づくことで、電線の周囲の温度の推定結果が的確なものになる。
【0022】
第7の発明は、前記車両用空調装置は、車両に搭載されたエンジンの冷却水が循環するヒータコアを主暖房装置として備えており、前記電気式加熱器は補助暖房装置であることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、電気式加熱器が補助暖房装置であることから、主に低温時の暖房で使用されることになる。よって、電線の周囲の温度が高いときの電流値が低くても乗員の快適性を阻害することはない。
【0024】
第8の発明は、前記制御部は、前記温度推定部で推定された前記電線の周囲の温度が所定温度よりも高いときには、前記電線に供給する電流値を0にすることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、電線の周囲の温度が高いときには、電気式加熱器による暖房が不要な場合もあるので、電線に供給する電流値を0にして電線の発熱を抑制しても乗員の快適性を阻害することはない。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、電線の周囲の温度が所定温度よりも高いときには低いときに比べて電線に供給する電流値を低くすることができるので、暖房時の快適性を阻害することなく、従来よりも細い電線を使用可能にして電線のレイアウトの自由度を向上させるとともに、車両の軽量化及び低コスト化を図ることにある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の正面図である。
図2】車両用空調装置の背面図である。
図3】車両用空調装置の左側面図である。
図4】車両用空調装置の右側面図である。
図5図2におけるV-V線断面図である。
図6】補助暖房器を空気流れ方向下流側から見た斜視図である。
図7】補助暖房器を空気流れ方向下流側から見た図である。
図8】暖房系統のブロック図である。
図9】電流値と電線周囲温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用空調装置1を車両前側から見た図であり、図2は、車両用空調装置1を車両後側から見た図であり、図3は、車両用空調装置1を車両左側から見た図であり、図4は、車両用空調装置1を車両右側から見た図である。
【0030】
車両用空調装置1は、例えば自動車等の車両に搭載されて車室の空調を行うものであり、図5に示すように、空調ケーシング2と、冷却用熱交換器3と、加熱用熱交換器4と、補助暖房器(補助暖房装置)5と、上側エアミックスダンパ6と、下側エアミックスダンパ7と、デフロスタダンパ8と、前席用ベントダンパ9と、ヒートダンパ10とを備えている。
【0031】
また、図示しないが、車両用空調装置1は送風ユニットを備えている。送風ユニットは、送風ケーシングと、送風機とを有しており、車室の助手席側に配設されている。送風機は、シロッコファン及び該シロッコファンを回転駆動するためのモータで構成されている。送風ケーシングは、車室内の空気と車室外の空気のいずれかを選択して空調用空気として導入することができるように構成されており、送風ケーシングに導入された空調用空気は送風機によって空調ケーシング2に送られるようになっている。空調用空気の送風量は、モータに印加される電圧によって変更可能になっている。
【0032】
空調ケーシング2と送風ケーシングとは車幅方向(車両左右方向)に並ぶように配置されて車室の前端部に設けられているインストルメントパネル(図示せず)の内部に収容されている。空調ケーシング2と送風ケーシングとは一体に構成されていてもよいし、別体に構成されていてもよい。空調ケーシング2と送風ケーシングとが車幅方向に並ぶことなく、車幅方向中央部に配置されるように構成されていてもよい。また、空調ケーシング2と送風ケーシングとは接続されている。また、この実施形態の説明では、車両前側を単に「前」といい、車両後側を単に「後」といい、車両左側を単に「左」といい、車両右側を単に「右」というものとする。
【0033】
尚、図示しないが、車両の車室よりも前にはエンジンが搭載されるエンジンルームが設けられている。エンジンルームには、冷凍サイクルを構成する圧縮機や凝縮器等が配設されている。また、エンジンの代わりに車両走行用のモータが搭載されていてもよい。
【0034】
(車両用空調装置の構成)
空調ケーシング2は、例えば複数の樹脂製部材を組み合わせて構成されており、冷却用熱交換器3と、加熱用熱交換器4と、補助暖房器5と、上側エアミックスダンパ6と、下側エアミックスダンパ7と、デフロスタダンパ8と、前席用ベントダンパ9と、ヒートダンパ10とを収容する部材である。空調ケーシング2の分割構造は、特に限定されるものではないが、例えば、前後方向や上下方向とすることができる。この実施形態では、図1図4に示すように、空調ケーシング2が、前側ケーシング部材2Aと後側ケーシング部材2Bとに分割されるとともに、前側ケーシング部材2Aが上下方向に、後側ケーシング部材2Bが左右方向にそれぞれ分割されている。従って、4つの部材を組み合わせることによって空調ケーシング2が構成されている。
【0035】
図4に示すように、空調ケーシング2の前部の右側壁部には、送風ユニットから送られてきた空調用空気を空調ケーシング2の内部に導入するための空気導入口2aが形成されている。車両用空調装置1は、空気導入口2aから導入された空調用空気を、冷却用熱交換器3、加熱用熱交換器4及び補助暖房器5により温度調節可能に構成されている。詳細は後述するが、冷却用熱交換器3を通過した空気のうち、加熱用熱交換器4及び補助暖房器5を通過する空気量が、上側エアミックスダンパ6及び下側エアミックスダンパ7によって設定される。
【0036】
空調ケーシング2における空気導入口2aの周縁部には、中間ダクト部2Cが一体成形されている。図2に示すように、中間ダクト2Cは、右側へ突出するように形成されている。この中間ダクト2Cの右端部に送風ケーシングが接続されており、送風ケーシングから送風された空調用空気が中間ダクト2Cを介して空気導入口2aに流入するようになっている。尚、空気導入口2aは、送風ケーシングが配設されている側に形成されているが、空調ケーシング2の前部の左側壁部及び右側壁部のいずれに形成されていてもよい。
【0037】
図5に示すように、空調ケーシング2の上壁部の前側には、車両のフロントガラスの内面に向けて空調風を供給するためのデフロスタ吹出口2bが形成されている。このデフロスタ吹出口2bは左右方向に長い形状とされている。デフロスタ吹出口2bには図示しないデフロスタダクトが接続されている。デフロスタダクトの下流端部は、インストルメントパネルの前端部に形成されたデフロスタ口(図示せず)に接続されている。
【0038】
空調ケーシング2の上壁部におけるデフロスタ吹出口2bよりも後側には、前席に着座している乗員(前席乗員)の上半身に向けて空調風を供給するための前席用ベント吹出口2cが形成されている。前席用ベント吹出口2cには図示しないベントダクトが接続されている。ベントダクトの下流端部は、インストルメントパネルの車幅方向略中央部に形成されたセンタベント口(図示せず)及びインストルメントパネルの車幅方向両側にそれぞれ形成されたサイドベント口(図示せず)に接続されている。デフロスタ吹出口2bと前席用ベント吹出口2cとは前後方向に並ぶように配置されている。
【0039】
空調ケーシング2の後壁部の下側には、乗員の足下近傍に向けて空調風を供給するためのヒート吹出口2dが形成されている。ヒート吹出口2dには図示しないヒートダクトが接続されている。ヒートダクトは、前席乗員の足下近傍まで延びるフロントヒートダクトと、後席乗員の足下近傍まで延びるリヤヒートダクトとからなり、前席乗員及び後席乗員の足下近傍に空調風を供給することができるようになっている。尚、ヒートダクトはフロントヒートダクトのみで構成されていてもよい。また、ヒート吹出口2dは複数設けることができる。
【0040】
空調ケーシング2の内部には、空気導入通路R1と、上側温風生成通路R2aと、下側温風生成通路R2bと、デフロスタ通路R3と、前席用ベント通路R4と、ヒート通路R5と、上側通路R6aと、下側通路R6bとが形成されている。空気導入通路R1は、空調ケーシング2の内部において前側部分に形成されている。空気導入通路R1の上流端部は空気導入口2aに接続されている。空気導入通路R1は空気導入口2aから後側へ延びている。空気導入通路R1の下流端部に冷却用熱交換器3が配設されている。
【0041】
冷却用熱交換器3は、空気導入通路R1を流通する空調用空気を冷却するためのものである。冷却用熱交換器3は、空調ケーシング2の内部において前側に位置しており、その空気通過面が上下方向に延びる姿勢とされている。冷却用熱交換器3の上部及び下部が空調ケーシング2によって保持されている。
【0042】
この実施形態では冷却用熱交換器3が、ヘッダタンク、チューブ及びフィン(図示せず)を有するエバポレータ(冷媒蒸発器)で構成されている。エバポレータは、従来から周知の冷凍サイクル装置の構成要素である。冷却用熱交換器3の内部を流通する低温の冷媒と冷却用熱交換器3の外部を通過する空調用空気とが熱交換することによって空調用空気が冷却される。このときに冷却用熱交換器3の表面に発生した凝縮水は、図1図4に示すドレン管部2fから空調ケーシング2の外部に排出されるようになっている。空気導入通路R1は、冷風を生成する冷風生成通路でもある。
【0043】
加熱用熱交換器4は、冷却用熱交換器3の空気流れ方向下流側(後側)において空調ケーシング2の上下方向中間部に配置されている。従って、冷却用熱交換器3は、加熱用熱交換器4よりも前方に配置されることになる。加熱用熱交換器4は冷却用熱交換器3から後側に離れて配置されており、加熱用熱交換器4と冷却用熱交換器3との間には空間が設けられている。加熱用熱交換器4は、その空気通過面が上下方向に延びる姿勢とされている。
【0044】
加熱用熱交換器4と冷却用熱交換器3との間には、隔壁部21が上下方向に延びるように設けられている。隔壁部21よりも後側に、上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bが形成されている。上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bは、空調ケーシング2の内部において前後方向の中間部、かつ、上下方向の中間部に形成されることになり、上側温風生成通路R2aの下に下側温風生成通路R2bが位置することになる。上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bは、隔壁部21から後側へ延びるように形成される。図示しないが、上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bの間に前後方向に延びる区画板を配設するようにしてもよい。
【0045】
上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bには、加熱用熱交換器4が配設されている。加熱用熱交換器4の略上半部が上側温風生成通路R2aに配置され、加熱用熱交換器4の略下半部が下側温風生成通路R2bに配置される。加熱用熱交換器4は、ヘッダタンク、チューブ及びフィン(図示せず)を有するヒータコアで構成されており、このヒータコアにはエンジンの冷却水が循環する。加熱用熱交換器4は、主暖房装置である。
【0046】
加熱用熱交換器4には、車両に搭載されているエンジン(図示せず)を循環するエンジン冷却水が供給パイプ4a(図1及び図3に示す)を介して供給されるようになっている。加熱用熱交換器4に供給されたエンジン冷却水と、加熱用熱交換器4の外部を通過する空調用空気とが熱交換することによって空調用空気が加熱される。加熱用熱交換器4に供給されたエンジン冷却水は、排出パイプ4b(図1及び図3に示す)によってエンジンに戻されるようになっている。供給パイプ4a及び排出パイプ4bの前側は、空調ケーシング2の前部に設けられたブラケット2g(図1及び図3に示す)によって保持されている。加熱用熱交換器4の上部及び下部は、空調ケーシング2に保持されている。また、加熱用熱交換器4の前後方向の寸法(外部空気の通過方向の寸法)は、冷却用熱交換器3の前後方向の寸法よりも短く設定されている。尚、加熱用熱交換器4は冷凍サイクルの凝縮器で構成されていてもよい。
【0047】
また、補助暖房器5は、加熱用熱交換器4の空気流れ方向下流側(後側)において空調ケーシング2の上下方向中間部に配置されている。補助暖房器5は、加熱用熱交換器4のから後側に離れて配置されており、加熱用熱交換器4と補助暖房器5との間には僅かな空間が形成されている。加熱用熱交換器4と補助暖房器5との間は、加熱用熱交換器4と冷却用熱交換器3との間よりも狭く設定されている。
【0048】
補助暖房器5は上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bに位置している。補助暖房器5は、その空気通過面が上下方向に延びる姿勢とされている。補助暖房器5の略上半部が上側温風生成通路R2aに配置され、補助暖房器5の略下半部が下側温風生成通路R2bに配置される。補助暖房器5の上部は、加熱用熱交換器4の上部よりも下に位置している。また、補助暖房器5の前後方向の寸法(外部空気の通過方向の寸法)は、加熱用熱交換器4の前後方向の寸法よりも短く設定されている。補助暖房器5の詳細については後述する。
【0049】
加熱用熱交換器4及び補助暖房器5の上下方向の寸法は冷却用熱交換器3の上下方向の寸法よりも短く設定されており、空調ケーシング2の内部には、加熱用熱交換器4及び補助暖房器5の上方に空間が形成されるとともに、加熱用熱交換器4及び補助暖房器5の下方にも空間が形成される。これら空間は通路となるものであり、具体的には、空調ケーシング2の加熱用熱交換器4及び補助暖房器5の上方には、冷却用熱交換器3を通過した冷風が流通する上側通路R6aが形成されており、また、空調ケーシング2の加熱用熱交換器4及び補助暖房器5の下方には、冷却用熱交換器3を通過した冷風が流通する下側通路R6bが形成されている。
【0050】
上側通路R6aの上流端部は、冷却用熱交換器3における空気流れ方向下流側の面の上側と対向するように配置され、空気導入通路R1の下流端部の上側部分に連通している。上側通路R6aは、加熱用熱交換器4及び補助暖房器5の上部よりも上方へ向けて延びている。また、上側通路R6aの中途部は、上側温風生成通路R2aの上流端部に連通可能となっている。上側通路R6aの中途部と、上側温風生成通路R2aの上流端部との間に、上側エアミックスダンパ6が配設されている。
【0051】
上側エアミックスダンパ6は、上側温風生成通路R2aの上流端部の開度を変更することによって上側温風生成通路R2aを流通する空気量を調整するためのものである。上側エアミックスダンパ6は、左右方向に延びる回動軸6aと、回動軸6aから径方向に延出する閉塞板部6bとを備えている。回動軸6aの左右両端部が空調ケーシング2の左右両側壁部に対して回動可能に支持されている。回動軸6aは、加熱用熱交換器3の上部近傍に配置されている。閉塞板部6bは、上側温風生成通路R2aの上流端部を全閉にした状態(図5に示す)から上方へ回動して上側温風生成通路R2aの上流端部を全開にした状態(図示せず)に切り替えられるとともに、全閉状態と全開状態との間の任意の位置に停止させることができるようになっている。上側エアミックスダンパ6が上側温風生成通路R2aの上流端部を全開にすると、上側通路R6aの下流側が閉塞板部6bによって遮断されて上側通路R6aの冷風が上側温風生成通路R2aに流入することになる。これがフルホット状態である。また、上側エアミックスダンパ6が上側温風生成通路R2aの上流端部を全閉にすると、上側通路R6aの下流側が閉塞板部6bによって全開にされて上側通路R6aの冷風が上側温風生成通路R2aに流入しなくなる。これはフルコールド状態である。
【0052】
また、下側通路R6bの上流端部は、冷却用熱交換器3における空気流れ方向下流側の面の下側と対向するように配置され、空気導入通路R1の下流端部の下側部分に連通している。従って、空気導入通路R1から流出した冷風は、上側通路R6a及び下側通路R6bの両方に流入することになる。下側通路R6bは、冷却用熱交換器3の後側から加熱用熱交換器4及び補助暖房器5の下方を通って加熱用熱交換器4及び補助暖房器5よりも後側へ向けて延びており、空調ケーシング2の下部後側に達している。下側通路R6bは、空調ケーシング2の下部後側から上方へ湾曲しながら延び、空調ケーシング2の後壁部に沿って該空調ケーシング2の上部に達するまで延びている。
【0053】
下側通路R6bの中途部は、下側温風生成通路R2bの上流端部に連通可能となっている。下側通路R6bの中途部と、下側温風生成通路R2bの上流端部との間に、下側エアミックスダンパ7が配設されている。
【0054】
下側エアミックスダンパ7は、下側温風生成通路R2bの上流端部の開度を変更することによって下側温風生成通路R2bを流通する空気量を調整するためのものである。下側エアミックスダンパ7は、左右方向に延びる回動軸7aと、回動軸7aから径方向に延出する閉塞板部7bとを備えている。回動軸7aの左右両端部が、上側エアミックスダンパ6の回動軸6aから下方に離れており、空調ケーシング2の左右両側壁部に対して回動可能に支持されている。回動軸7aは、加熱用熱交換器3の下部近傍に配置されている。閉塞板部7bは、下側温風生成通路R2bの上流端部を全閉にした状態(図5に示す)から下方へ回動して下側温風生成通路R2bの上流端部を全開にした状態(図示せず)に切り替えられるとともに、全閉状態と全開状態との間の任意の位置に停止させることができるようになっている。下側エアミックスダンパ7が下側温風生成通路R2bの上流端部を全開にすると、下側通路R6bが閉塞板部7bによって遮断されて下側通路R6bの冷風が下側温風生成通路R2bに流入することになる。これがフルホット状態である。また、下側エアミックスダンパ7が下側温風生成通路R2bの上流端部を全閉にすると、下側通路R6bが閉塞板部7bによって全開にされて下側通路R6bの冷風が下側温風生成通路R2bに流入しなくなる。これがフルコールド状態である。
【0055】
上側エアミックスダンパ6と下側エアミックスダンパ7とは、周知のリンク機構を使用することで連動させることができ、例えばエアミックスアクチュエータ等によって駆動される。エアミックスアクチュエータは、図示しないが空調制御装置に接続されている。空調制御装置は、乗員による設定温度や車室外温度、車室内温度等に基づいて上側エアミックスダンパ6及び下側エアミックスダンパ7の開度を演算し、上側エアミックスダンパ6及び下側エアミックスダンパ7がその開度となるように、エアミックスアクチュエータを制御する。
【0056】
エアミックスアクチュエータによって上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bの開度が大きくされると、上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bへ流入する冷風量が増えるので、温風の生成量が増えることになり、調和空気の温度が上昇する。一方、エアミックスアクチュエータによって上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bの開度が小さくされると、上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bへ流入する冷風量が減るので、温風の生成量が減ることになり、調和空気の温度が低下していく。上側エアミックスダンパ6及び下側エアミックスダンパ7を回動させることによって調和空気の温度を狙いの温度とすることができるように構成されている。
【0057】
上述のようにして生成された調和空気によって空調ケーシング2の内部に空調風が形成される。空調風は、フルホット時には加熱用熱交換器4及び補助暖房器5で生成された温風のみとなり、また、フルコールド時には冷却用熱交換器3で生成された冷風のみとなり、また、フルホットとフルコールドの間の時には温風と冷風が混合したものになる。
【0058】
デフロスタ通路R3は、空調ケーシング2の内部において上側に形成されており、内部には空調風が流通するようになっている。デフロスタ通路R3の下流端部は、デフロスタ吹出口2bに接続されている。デフロスタ通路R3は、デフロスタ吹出口2bを介して車室に連通している。
【0059】
デフロスタダンパ8は、デフロスタ通路R3を開閉するためのものであり、左右方向に延びる回動軸8aと、回動軸8aから径方向に延出する閉塞板部8b、8bとを備えている。回動軸8aの左右両端部が空調ケーシング2の左右両側壁部に対して回動可能に支持されている。回動軸8aは、デフロスタ通路R3の前後方向中間部に配置されている。デフロスタダンパ8が回動軸8a回りに回動することにより、閉塞板部8b、8bによってデフロスタ通路R3が全閉状態(図5に示す)から全開状態(図示せず)、及びその反対にも切り替えられるとともに、その中間開度にも切り替えられるようになっている。
【0060】
空調ケーシング2の上側には、乗員の上半身に空調風を供給するための前席用ベント通路R4が上側通路R6aの下流側及び下側通路R6bの下流側に連通するように形成されている。すなわち、前席用ベント通路R4は、空調ケーシング2の内部の上側においてデフロスタ通路R3よりも後側に形成されており、内部には空調風が流通するようになっている。また、前席用ベント通路R4は、加熱用熱交換器4の上方において補助暖房器5よりも前側に形成されている。前席用ベント通路R4の下流端部は、前席用ベント吹出口2cに接続されている。前席用ベント通路R4は、前席用ベント吹出口2cを介して車室に連通している。
【0061】
前席用ベントダンパ9は、前席用ベント通路R4を開閉するためのものであり、左右方向に延びる回動軸9aと、回動軸9aと一体化された閉塞板部9bとを備えている。回動軸9aの左右両端部が空調ケーシング2の左右両側壁部に対して回動可能に支持されている。回動軸9aは、前側寄りに配置されている。前席用ベントダンパ9が回動軸9a回りに回動することにより、閉塞板部9bによって前席用ベント通路R4が全開状態(図5に示す)から全閉状態(図示せず)、及びその反対にも切り替えられるようになっている。
【0062】
ヒート通路R5は、空調ケーシング2の内部において前席用ベント通路R4よりも下側に形成されており、内部には空調風が流通するようになっている。ヒート通路R5の下流端部は、ヒート吹出口2dに接続されている。ヒート通路R5は、ヒート吹出口2dを介して車室に連通している。
【0063】
ヒートダンパ10は、ヒート通路R5を開閉するためのものであり、左右方向に延びる回動軸10aと、回動軸10aから径方向に延出する閉塞板部10b、10bとを備えている。回動軸10aの左右両端部が空調ケーシング2の左右両側壁部に対して回動可能に支持されている。回動軸10aは、ヒート通路R5の上流端部の上部近傍に配置されている。ヒートダンパ10が回動軸10a回りに回動することにより、回動軸10aよりも下に位置する閉塞板部10bによってヒート通路R5が全閉状態(図5に示す)になる。この全閉状態から閉塞板部10b、10bが前後方向に延びる姿勢となるまでヒートダンパ10を回動させると、全開状態(図示せず)に切り替えられる。ヒートダンパ10を反対方向に回動させることで全開状態から全閉状態にすることができる。図5に示すように、ヒートダンパ10が全閉状態にあるときには、閉塞板部10bは上下方向に延びることになる。一方、ヒートダンパ10が全開状態にあるときには、閉塞板部10bが前後方向に延びる姿勢となる。これにより、ヒートダンパ10よりも下側の空調用空気がヒートダンパ10の上方へ流れなくなる。
【0064】
また、デフロスタダンパ8、前席用ベントダンパ9及びヒートダンパ10は、周知のリンク機構を使用することで連動させることができ、例えば吹出方向切替用アクチュエータ等によって駆動される。吹出方向切替用アクチュエータは、図示しないが空調制御装置に接続されている。空調制御装置は、乗員による設定温度や車室外温度、車室内温度等に基づいてデフロスタダンパ8、前席用ベントダンパ9及びヒートダンパ10の開度を演算し、デフロスタダンパ8、前席用ベントダンパ9及びヒートダンパ10がその開度となるように、吹出方向切替用アクチュエータを制御する。これにより、例えば、ベントモード、デフロスタモード、ヒートモード、バイレベルモード、デフヒートモード等に切り替えることができる。
【0065】
(補助暖房器5の構成)
図6に示す補助暖房器5は外部からの電力の供給によって空調用空気を加熱する電気式加熱器であり、本例ではPTCヒータとなっている。すなわち、補助暖房器5は、通電によって発熱する発熱素子(図示せず)と、該発熱素子を収容する収容部材51と、発熱素子の熱が伝達する複数の放熱フィン52と、左側固定部材53と、右側固定部材54とを備えている。発熱素子は、PTC素子で構成されている。収容部材51は、左右方向に延びる金属製の筒状部材で構成することができ、この例では3つの収容部材51が上下方向に互いに間隔をあけて設けられている。1つの収容部材51の内部に複数の発熱素子が左右方向に並んで配設されている。図示しないが、各発熱素子には、電力を供給するための導体が接続されている。車両のバッテリ等から導体を介して各発熱素子50に電力が供給される。電力の供給量や、電力供給のON、OFFの切替は、図8に示す制御部70によって行われる。この制御部70は、車両用空調装置1の一部であり、補助暖房器5を制御する部分である。制御部70は、例えばマイクロコンピュータ等で構成されており、外部から入力された信号や各種値を所定のプログラムにしたがって処理して処理結果を出力する。
【0066】
収容部材51の左端部は、左側固定部材53に固定されている。また、収容部材51の右端部は、右側固定部材54に固定されている。左側固定部材53及び右側固定部材54が収容部材51によって連結された状態で一体化されている。右側固定部材54は、空調ケーシング2の右側壁部に対して固定される。また、左側固定部材53は、空調ケーシング2の左側壁部に対して固定される。
【0067】
各放熱フィン52は、上下方向に延びる金属製板材(例えばアルミニウム合金製板材)からなるものであり、この実施形態では全ての放熱フィン52が同じ部材で構成されている。放熱フィン52は、例えばプレス成形品とすることができる。
【0068】
図6及び図7に示すように、補助暖房器5には、当該補助暖房器5に電力を供給するための電力供給用の電線60、61が接続されている。電線60、61の一方がアース線である。図3に示すように、電線60、61は、空調ケーシング2の左側壁部から当該空調ケーシング2の外部へ向けて延びており、予め設定された所定の経路を通るように配設される。電線60、61の経路は、空調ケーシング2の形状、車体の構造、他の部品の位置や形状等によって設定されている。この実施形態では、電線60が空調ケーシング2の左側壁部から外部へ向けて延びた後、上方かつ前方へ向けて延びており、また、電線61が空調ケーシング2の左側壁部から外部へ向けて延びた後、下方かつ前方へ延びるとともに、先端側が後方へ延びている。このように電線60、61は複雑に屈曲している。電線60、61の先端部には、車体のハーネス(図示せず)が接続されるようになっている。
【0069】
図8に示すように、車両用空調装置1は、補助暖房器5に接続される電力供給用の電線60、61の周囲の温度を推定する温度推定部80を備えている。温度推定部80は、例えばマイクロコンピュータ等で構成されており、外部から入力された信号や各種値を所定のプログラムにしたがって処理して処理結果を出力する。制御部70と温度推定部80とは共通のマイクロコンピュータで構成されていてもよく、この場合、内部の処理手段を概念的に制御部70と温度推定部80とに分けることができる。
【0070】
図8に示すように、温度推定部80は、補助暖房器5に設けられた加熱器温度センサ71、車室内温度を検出する内気温度センサ72及び車両に搭載された上記エンジンを循環する冷却水温度を検出する冷却水温度センサ73のうち、いずれかから出力された値(出力値)に基づいて電線60、61の周囲の温度を推定する部分である。例えば、各センサ71~73からの出力値と、電線60、16の周囲の温度との関係を示すテーブルを予め実験によって得ておき、このテーブルを温度推定部80に記憶させておくことで、各センサ71~73からの出力値に基づいて電線60、16の周囲の温度の推定値を取得できる。
【0071】
加熱器温度センサ71は例えば補助暖房器5の表面等に取り付けることができる他、補助暖房器5の空気流れ方向下流側に取り付けることもできる。これにより、補助暖房器5の温度を加熱器温度センサ71によって検出することができる。電線60、61は補助暖房器5に接続されたものであることから、補助暖房器5と電線60、61とは接近しているとともに、両方が車室内に配設されている。よって、加熱器温度センサ71によって検出された補助暖房器5の温度が高ければ、電線60、16の周囲の温度が高く、一方、加熱器温度センサ71によって検出された補助暖房器5の温度が低ければ、電線60、16の周囲の温度が低いということであり、加熱器温度センサ71によって検出された補助暖房器5の温度を用いて温度推定部80が電線60、16の周囲の温度を推定することができる。電線60、16の周囲の温度が高いか、低いかの基準は、後述する所定温度とすることができる。
【0072】
また、内気温度センサ72は、車両用空調装置1に設けられている。内気温度センサ72の配設位置としては、例えば車室内のインストルメントパネル等である。この内気温度センサ72は、空調風の目標温度を設定するための情報として、常時、車室内温度を検出している。補助暖房器5及び電線60、61は車室内に設けられているので、内気温度センサ72は、電線60、61の周囲の温度を間接的に検出することが可能である。したがって、内気温度センサ72によって検出された車室内の温度を用いて温度推定部80が電線60、61の周囲の温度を推定することができる。内気温度センサ72と電線60、61とが共にインストルメントパネルの内部に設けられていることもあり、この場合、推定結果がより正確なものになる。
【0073】
また、冷却水温度センサ73は、上記車両に設けられており、常時、冷却水温度を検出している。冷却水温度は、エンジンの制御に用いられるとともに、空調風の目標温度を設定するための情報としても用いられる。例えば、冷却水温度センサ73で検出された冷却水温度が低ければ車室内、即ち電線60、61が設けられている空間の温度が低いので、電線60、61の周囲の温度が低いと推定できる。一方、冷却水温度センサ73で検出された冷却水温度が高ければ電線60、61が設けられている空間の温度が高いので、電線60、61の周囲の温度が高いと推定することができる。したがって、冷却水温度センサ73によって検出された冷却水の温度を用いて温度推定部80が電線60、61の周囲の温度を推定することができる。
【0074】
加熱器温度センサ71、内気温度センサ72及び冷却水温度センサ73は車両に設けられているECU74に接続されており、各センサ71、72、73からの出力値は全てECU74に入力されるようになっている。このECU74と温度推定部80とは通信線75を介して接続されている。加熱器温度センサ71、内気温度センサ72及び冷却水温度センサ73からECU74に入力された値は、通信線75を経由して温度推定部80に入力される。尚、加熱器温度センサ71、内気温度センサ72及び冷却水温度センサ73を温度推定部80に直接接続し、各センサ71、72、73からの出力値を、通信線75を介さずに温度推定部80に入力してもよい。また、加熱器温度センサ71、内気温度センサ72及び冷却水温度センサ73のうち、一部のみ温度推定部80に直接接続し、他をECU74に接続してもよい。また、その他の温度センサがECU74に接続されていてもよい。
【0075】
温度推定部80は、上述のようにして電線60、61の周囲の温度を推定し、推定した温度を制御部70に出力してもよいし、例えば、所定温度として30℃を設定しておき、電線60、61の周囲の温度が30℃よりも高いか、30℃以下であるかを推定して制御部70に出力してもよい。この所定温度は、例えば10℃~40℃の間で設定することができる。
【0076】
温度推定部80は、加熱器温度センサ71、内気温度センサ72及び冷却水温度センサ73の出力値を利用して電線60、61の周囲の温度を推定する手法以外にも、例えば、補助暖房器5への電力の供給開始時からの経過時間に基づいて電線60、61の周囲の温度を推定するように構成されていてもよい。
【0077】
すなわち、補助暖房器5へ電力を供給する前は、補助暖房器5による空調用空気の加熱が行われていないので、車室内に配設されている電線60、61の周囲の温度は低いと推定できる。一方、補助暖房器5へ電力供給が開始されると、補助暖房器5による空調用空気の加熱が行われるので、電線60、61の周囲の温度は加熱前に比べて高くなる。よって、補助暖房器5への電力の供給開始時から時間が経過するに従って電線60、61の温度が上昇していくので、このことを利用して温度推定部80が補助暖房器5への電力の供給開始時からの経過時間に基づいて電線60、61の周囲の温度を推定することで、推定結果が的確なものになる。この場合、例えば車室内温度が低ければ、電線60、61の周囲の温度が上昇しにくいので、車室内温度と、補助暖房器5への電力の供給開始時からの経過時間との両方に基づいて電線60、61の周囲の温度を推定してもよい。例えば、車室内温度と、補助暖房器5への電力の供給開始時からの経過時間と、電線60、61の周囲の温度との関係を規定したテーブルを温度推定部80に予め記憶させておき、検出された車室内温度と、経過時間とに基づいて電線60、61の周囲の温度を推定できる。
【0078】
また、温度推定部80は、補助暖房器5へ供給する電流値が大きいほど電線60、61の周囲の温度が高いと推定するように構成されていてもよい。
【0079】
すなわち、補助暖房器5へ供給する電流値が大きいほど補助暖房器5による空調用空気の加熱量が増加するので、車室内の温度の上昇速度が高くなり、一方、補助暖房器5へ供給する電流値が小さいほど補助暖房器5による空調用空気の加熱量が低くなるので、車室内の温度の上昇速度が低くなる。車室内の温度の上昇速度が高くなるということは、電線60、61の周囲の温度の上昇速度が高くなるということであり、補助暖房器5へ供給する電流値に基づいて電線60、61の周囲の温度を推定することで、推定結果が的確なものになる。
【0080】
制御部70は、MOS-FET等からなるスイッチ76を制御する。スイッチ76がON(閉状態)になると、バッテリ等の電源から供給される電流が電線60、61を介して補助暖房器5に流れて補助暖房器5が発熱する。スイッチ76を介して補助暖房器5に供給される電流値は、制御部70によって制御される。
【0081】
すなわち、制御部70は、温度推定部80で推定された電線の周囲の温度が所定温度よりも高いときには、所定温度よりも低いときに比べて前記電線60、61に供給する電流値を低くする。また、制御部70は、温度推定部80で推定された電線60、61の周囲の温度が所定温度よりも高いときには、電線60、61に供給する電流値を0にするようにスイッチ76を制御してもよい。
【0082】
図9は、制御部70により制御される電流値を示すグラフであり、縦軸は電流値、横軸は電線周囲温度を示している。グラフ中、破線は10sq電線の許容電流値を示し、また一点鎖線は8sq電線の許容電流値を示しており、各電線周囲温度が上昇するほど許容電流値が低下する。これは電線の規格として設定されている。
【0083】
一方、グラフ中の実線は、制御部70により制御される電流値を示している。具体的には、制御部70は、温度推定部80で推定された電線60、61の周囲の温度が40℃を超えると、8sq電線の許容電流値を超えないように、補助暖房器5に供給する電流を制限する。また、温度推定部80で推定された電線60、61の周囲の温度が40℃よりも低い温度領域では、電圧が13.5Vで1000W出力が可能となるように、74Aの電流を補助暖房器5に供給する。74Aは、40℃よりも低い温度領域における8sq電線の許容電流値よりも低い。
【0084】
(車両用空調装置1の動作)
次に、上記のように構成された車両用空調装置1の動作について説明する。まず、図5に示すベントモードについて説明すると、このベントモードは、デフロスタ通路R3とヒート通路R5とを閉じて、前席用ベント通路R4を開くモードである。図5では、上側エアミックスダンパ6及び下側エアミックスダンパ7が上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bを全閉状態にしているので、冷却用熱交換器3を通過した冷風が上側通路R6a及び下側通路R6bを流通する。このように、上側通路R6a及び下側通路R6bを設けていることで、通路断面積を増やすことができ、通気抵抗が低減される。
【0085】
前席用ベント通路R4が開いているので、冷風は前席用ベント通路R4に流入して前席用ベント吹出口2cから車室の各部に供給される。
【0086】
仮に、上側エアミックスダンパ6及び下側エアミックスダンパ7が上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bを半開状態にしていれば、上側温風生成通路R2aと下側温風生成通路R2bとで温風が生成され、この温風と冷風とが混合して調和空気となり、車室の各部に供給される。
【0087】
次に、ヒートモードについて説明する。このヒートモードは、前席用ベント通路R4を閉じて、デフロスタ通路R3とヒート通路R5とを開くモードである。上側エアミックスダンパ6及び下側エアミックスダンパ7が上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bを全開状態にすると、冷却用熱交換器3を通過した冷風が上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bを流通する間に加熱用熱交換器4によって加熱される。上側温風生成通路R2aを流通した温風は、主に上方へ向かって流れてデフロスタ通路R3に流入してデフロスタ吹出口2bから車室に供給される。下側温風生成通路R2bを流通した温風は、主にヒート通路R5へ向かって流れてヒート吹出口2dからから車室に供給される。
【0088】
次に、デフロスタモードについて説明すると、このデフロスタモードは、デフロスタ通路R3を開き、前席用ベント通路R4及びヒート通路R5を閉じるモードである。上側エアミックスダンパ6及び下側エアミックスダンパ7が上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bを全開状態にすると、冷却用熱交換器3を通過した冷風が上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bを流通する間に加熱用熱交換器4によって加熱される。上側温風生成通路R2a及び下側温風生成通路R2bを流通した温風は、主に上方へ向かって流れてデフロスタ通路R3に流入してデフロスタ吹出口2bから車室に供給される。
【0089】
(実施形態の作用効果)
この実施形態に係る車両用空調装置1によれば、制御部70は、温度推定部80で推定された電線60、61の周囲の温度が所定温度よりも高いときには、所定温度よりも低いときに比べて電線60、61に供給する電流値を低くする。すなわち、温度推定部80で推定された温度が低い場合には電線60、61に流すことが可能な電流値が高い状況にあるので、制御部70が比較的高い電流を電線60、61に流すことで必要な暖房性能を補助暖房器5によって確保できる。一方、温度推定部80で推定された温度が高い場合には、低い場合に比べて電線60、61に流せる電流値が低くなるが、この場合、電線60、61に供給する電流値が制御部70による制御によって低くなるので、細い電線(例えば8sq電線)を用いながら、電線60、61の耐熱温度を超える電流が流れないようにすることができ、高い安全性が確保される。このときに推定された温度が高いということは、補助暖房器5による暖房能力が低くてもよいということなので、電線60、61に流れる電流値が低くても暖房能力上、問題とならない。したがって、暖房時の快適性を阻害することなく、従来よりも細い電線60、61を使用可能にして電線60、61のレイアウトの自由度を向上させるとともに、車両の軽量化及び低コスト化を図ることができる。
【0090】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上説明したように、本発明に係る車両用空調装置は、例えば自動車等に搭載される空調装置として利用できる。
【符号の説明】
【0092】
1 車両用空調装置
2 空調ケーシング
5 補助暖房器(電気式加熱器、補助暖房装置)
70 制御部
71 加熱器温度センサ
72 内気温度センサ
73 冷却水温度センサ
80 温度推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9