(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20241217BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20241217BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B32B15/08 A
C09K3/18 104
C23C26/00 A
(21)【出願番号】P 2020158948
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019177847
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 伸明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】高坂 愛佳
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-094085(JP,A)
【文献】国際公開第88/008018(WO,A1)
【文献】特開2001-181509(JP,A)
【文献】特開平07-148879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
C09K 3/18
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層上にオイル含有層とを備えるフィルムであって、
前記オイル含有層が含有するオイル成分は、所定温度以下において前記オイル含有層の表面からブリードするものであり、
前記基材層は、
樹脂層上に金属層を有する積層体であり、前記金属層が、金属蒸着層であり、
前記
金属層は、前記オイル含有層と接している、
フィルム。
【請求項2】
前記金属蒸着層が、アルミニウムからなる、請求項
1に記載のフィルム。
【請求項3】
粘着層、前記基材層および前記オイル含有層がこの順で設けられてなる、請求項1
又は2のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項4】
前記基材層は、前記粘着層が設けられる側に、金属単体または
他の金属層
を有し、前記金属単体または
他の金属層は、前記粘着層と接している、請求項
3に記載のフィルム。
【請求項5】
対象物の表面への着雪、着氷または水生生物の付着を防止するために用いられる、請求項1~
4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のフィルムを製造する方法であって、
前記基材層上に、ポリマー成分とオイル成分とを含有する樹脂組成物を塗布し、得られた塗膜を硬化させてオイル含有層を形成する工程を有し、
前記オイル含有層が含有するオイル成分は、所定温度以下において前記オイル含有層の表面からブリードするものであり、
前記基材層は、
樹脂層上に金属層を有する積層体であり、前記金属層が、金属蒸着層であり、
前記
金属層が前記オイル含有層と接するように、前記基材層上に前記オイル含有層を形成する、フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体表面への氷の付着(着氷)や降雪による雪片の付着(着雪)は、様々な分野において被害や障害をもたらす原因となっている。例えば、航空機翼への着氷、機関車下部への雪・凍結、自動車のヘッドライトへの着雪、風力発電機のブレードへの着氷、信号機の灯器への着雪・凍結等は、これらの運行、運転、安全性に対する障害となり得る。また、住宅屋根や看板等への着雪・凍結は、これらの構造物の損傷や落雪による人等への被害の原因となり得る。
【0003】
このような被害や障害を避けるために、例えば、表面エネルギーの小さいフッ素樹脂を物体表面に適用することがなされている。しかしながら、この技術では長期間にわたる持続的効果が得られないという問題点があった。
【0004】
そこで、特許文献1には、基材としての化学反応形シリコーンゴムと、シリコーンオイルのような撥水性化合物と有機水溶性化合物とを混合して成る着氷雪防止塗料組成物が開示されている。特許文献1の技術は、具体的には、シリコーンゴムのマトリックス中にシリコーンオイルを含ませた層を形成し、該層からオイルをブリードさせる(オイルを表面に滲み出させる)ことにより、氷または雪を滑らせて除去しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、ブリードしたオイルが基材に再吸着され、着雪着氷防止機能が低減するという問題点があった。
【0007】
また、当業界では、従来の着雪着氷防止機能を有するフィルムについて、基材層とシリコーンオイルのような撥水性化合物を含むオイル含有層との密着性の改良が要求されている。
【0008】
一方、船舶などの水中構造物は、海水に接触する部分において、フジツボ、カキ、ムラサキイガイ、ヒドラ、セルプラ、ホヤ、コケムシ、アオサ、アオノリ、付着珪藻などの海洋生物が付着して繁殖する。これにより、流体抵抗の増加や熱伝導性の低下といった設備機械性能の低下や、付着した海洋生物の海外への拡散など、好ましくない状態が生じる。また、付着した海洋生物を除去する作業には大きな労力と膨大な時間が必要であり、経済的な損失を被っている。
【0009】
したがって本発明の目的は、ブリードしたオイルの基材への再吸着を防止し、基材層とオイル含有層との密着性に優れ、対象物の表面への着雪、着氷または水生生物の付着を防止するのに有効な、フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、オイル含有層と接する箇所に金属単体または金属層を設けることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記〔1〕~〔8〕のとおりである。
〔1〕
基材層と、前記基材層上にオイル含有層とを備えるフィルムであって、
前記オイル含有層が含有するオイル成分は、所定温度以下において前記オイル含有層の表面からブリードするものであり、
前記基材層は、金属単体または金属層を含む積層体であり、
前記金属単体または金属層は、前記オイル含有層と接している、
フィルム。
〔2〕
前記基材層が、アルミニウムである、〔1〕に記載のフィルム。
〔3〕
前記基材層が、樹脂層上に金属層を有する積層体であり、前記金属層が、金属蒸着層である、〔1〕に記載のフィルム。
〔4〕
前記金属蒸着層が、アルミニウムからなる、〔3〕に記載のフィルム。
〔5〕
粘着層、前記基材層および前記オイル含有層がこの順で設けられてなる、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のフィルム。
〔6〕
前記基材層は、前記粘着層が設けられる側に、金属単体または金属層を含む積層体を有し、前記金属単体または金属層は、前記粘着層と接している、〔5〕に記載のフィルム。
〔7〕
対象物の表面への着雪、着氷または水生生物の付着を防止するために用いられる、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のフィルム。
〔8〕
〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のフィルムを製造する方法であって、
前記基材層上に、ポリマー成分とオイル成分とを含有する樹脂組成物を塗布し、得られた塗膜を硬化させてオイル含有層を形成する工程を有し、
前記オイル含有層が含有するオイル成分は、所定温度以下において前記オイル含有層の表面からブリードするものであり、
前記基材層は、金属単体または金属層を含む積層体であり、
前記金属単体または金属層が前記オイル含有層と接するように、前記基材層上に前記オイル含有層を形成する、フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィルムは、基材層として金属単体または金属層を含む積層体を使用し、前記金属単体または金属層が前記オイル含有層と接するように形成されているので、ブリードしたオイルが基材に再吸着するのを防止できる。
【0013】
また、基材層として金属単体または金属層を含む積層体を使用していることから、基材層とオイル含有層との密着性を向上できる。
【0014】
また、基材層として金属単体または金属層を含む積層体を使用していることから、機械的強度、耐熱性および耐寒性も向上する。さらに、基材層とオイル含有層との密着性を長期間に亘り維持できることから、対象物の表面への着雪、着氷または水生生物の付着を防止するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明のフィルムの一実施形態を説明するための断面図である。
【
図2】
図2は、本発明のフィルムの別の実施形態を説明するための断面図である。
【
図3】
図3は、本発明のフィルムの別の実施形態を説明するための断面図である。
【
図4】
図4は、本発明のフィルムの別の実施形態を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施形態に何ら制限されるものではない。
【0017】
なお、本発明において、「フィルム」とは、JIS K 6900:1994の定義におけるフィルムとシートを含む意味である。JIS K 6900:1994での定義では、フィルムとは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通例ロールの形で供給されるものをいう。またシートとは、薄く、一般にその厚さが長さと幅の割には小さい平らな製品をいう。フィルムとシートの境界は定かではなく、本明細書においてフィルムにはシートの概念も含まれるものとする。
【0018】
図1は、本発明のフィルムの一実施形態を説明するための断面図である。
図1に示す実施形態のフィルム100は、基材層12と、基材層12上にオイル含有層14とを備える。
【0019】
オイル含有層14はオイル成分を含有し、これは所定温度以下においてオイル含有層14の表面からブリードする。
【0020】
また
図1に示す実施形態において、基材層12は金属単体であり、該金属単体は、オイル含有層14と接している。
【0021】
金属単体としては、例えばアルミニウム、銅、銀、鉄、ニッケル、スズ、ステンレス等が挙げられる。中でも、軟質アルミニウムや硬質アルミニウム等のアルミニウムが好ましく、特に軟質アルミニウムが好ましい。軟質アルミニウムは商業的に入手が可能であり、例えば、東洋アルミニウム(株)製商品名軟質アルミニウム(商品名:1N30)等が挙げられる。
【0022】
図2は、本発明のフィルムの別の実施形態を説明するための断面図である。
図2に示す実施形態のフィルム102は、基材層12が金属層124を有する積層体である。具体的には、該積層体は、樹脂層122上に金属層124を有するものであることができる。金属層124は、オイル含有層14と接している。
【0023】
金属層124における金属としては、前記金属単体と同じものが例示でき、好ましい範囲も同様である。
【0024】
基材層における金属単体または金属層の表面自由エネルギー(γs)は50mJ/m2以上が好ましく、55mJ/m2以上がより好ましい。基材層における金属単体または金属層の表面自由エネルギー(γs)が上記範囲であることにより、基材層とオイル含有層との密着性を向上できる。
【0025】
基材層における金属単体または金属層の表面自由エネルギー(γs)は、まず、表面張力が既知である純水、ジヨードメタン、及びエチレングリコールを試験液として用い、接触角計で金属単体または金属層に対する各試験液の接触角を測定する。そして、得られた接触角から、北崎・畑法(北崎寧昭他、日本接着協会誌、Vol.8,No.3,1972,pp.131-141参照)に従って求められる。
【0026】
基材層における金属単体または金属層に対する上記接触角は、例えば各試験液の液量を2μLとし、接触角計DM-701型(協和界面科学(株)製)により5点測定し、5点の測定値の最大値と最小値を除いた3点の測定値の平均値として算出される。
【0027】
樹脂層122を構成する樹脂としてはとくに制限されない。例えば、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンアクリル樹脂、ゴム系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エラストマー類、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、アイオノマー、ポリエチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。中でも対象物への貼り付け性の観点から、ポリエステル樹脂、アイオノマー、及びポリエチレンテレフタレート樹脂のいずれかを用いることが好ましい。樹脂層には、1種のみの樹脂を用いてもよいし、2種以上の樹脂を用いてもよい。
【0028】
金属層124は、本発明の効果向上の観点から、例えば公知の蒸着法により金属蒸着層として形成されることが好ましい。
【0029】
基材層12の厚みとしては、用途に応じて適宜決定すればよい。基材層12が金属単体から構成される場合、本発明の効果向上の観点から、20μm~200μmが好ましく、50μm~150μmがさらに好ましい。
【0030】
また、基材層12が上記積層体から構成される場合、本発明の効果向上の観点から、樹脂層122の厚みは50μm~1000μmが好ましく、100μm~800μmがさらに好ましい。また金属層124が金属蒸着層である場合、本発明の効果向上の観点から、その厚みは5nm~300nmが好ましく、10nm~200nmがさらに好ましい。
【0031】
次にオイル含有層14について説明する。
オイル含有層14が含有するオイル成分は所定温度以下においてオイル含有層14の表面からブリードし、フィルム表面を被覆する。本実施形態のフィルムがこのような構成を備えることで、フィルムの表面に付着した雪塊や氷はフィルムと直接接触しない部分ができる。そのため摩擦力が低下し、その自重により落下しやすくなるとともに、フィルム表面はブリードしたオイル成分によりさらに滑り性が向上する。よって、より短時間で雪塊や氷を自然落下させることができる。また、滑り性の向上により、対象物への水生生物の付着を抑制できる(以下、上記着氷雪防止効果および水生生物付着防止効果を本発明の所望の効果と呼ぶことがある)。
【0032】
オイル含有層14は、例えば、マトリックスとしてのポリマー成分中にオイル成分が含有されてなる層であることができる。
【0033】
(ポリマー成分)
ポリマー成分としては、特に制限されない。例えば、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンアクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、エラストマー類、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、アクリル樹脂等が挙げられる。中でもオイル成分のブリード効果並びに屋外曝露耐久性に優れるという観点から、シリコーン樹脂が好ましい。
【0034】
シリコーン樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なシリコーン樹脂を採用し得る。シリコーン樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。このようなシリコーン樹脂としては、縮合型のシリコーン樹脂であってもよいし、付加型のシリコーン樹脂であってもよい。また、このようなシリコーン樹脂としては、単独で乾燥させる1液型のシリコーン樹脂(例えば、1液型の室温硬化性(RTV)樹脂)であってもよいし、2液型のシリコーン樹脂(例えば、2液型の室温硬化性(RTV)樹脂)であってもよい。
【0035】
シリコーン樹脂としては、具体的には、例えば、信越化学工業(株)製の1液型RTVゴム(例えば、KE-3423、KE-347、KE-3475、KE-3495、KE-4895、KE-4896、KE-1830、KE-1884、KE-3479、KE-348、KE-4897、KE-4898、KE-1820、KE-1825、KE-1831、KE-1833、KE-1885、KE-1056、KE-1151、KE-1842、KE-1886、KE-3424G、KE-3494、KE-3490、KE-40RTV、KE-4890、KE-3497、KE-3498、KE-3493、KE-3466、KE-3467、KE-1862、KE-1867、KE-3491、KE-3492、KE-3417、KE-3418、KE-3427、KE-3428、KE-41、KE-42、KE-44、KE-45、KE-441、KE-445、KE-45S等)、信越化学工業(株)製の2液型RTVゴム(例えば、KE-1800T-A/B、KE-66、KE-1031-A/B、KE-200、KE-118、KE-103、KE-108、KE-119、KE-109E-A/B、KE-1051J-A/B、KE-1012-A/B、KE-106、KE-1282-A/B、KE-1283-A/B、KE-1800-A/B/C、KE-1801-A/B/C、KE-1802-A/B/C、KE-1281-A/B、KE-1204-A/B、KE-1204-AL/BL、KE-1280-A/B、KE-513-A/B、KE-521-A/B、KE-1285-A/B、KE-1861-A/B、KE-12、KE-14、KE-17、KE-113、KE-24、KE-26、KE-1414、KE-1415、KE-1416、KE-1417、KE-1300T、KE-1310ST、KE-1314-2、KE-1316、KE-1600、KE-1603-A/B、KE-1606、KE-1222-A/B、KE-1241等)、信越化学工業(株)製のシリコーンシーラント(例えば、KE-42AS、KE-420、KE-450等)、信越化学工業(株)製のゴムコンパウンド(例えば、KE-655-U、KE-675-U、KE-931-U、KE-941-U、KE-951-U、KE-961-U、KE-971-U、KE-981-U、KE-961T-U、KE-971T-U、KE-871C-U、KE-9410-U、KE-9510-U、KE-9610-U、KE-9710-U、KE-742-U、KE-752-U、KE-762-U、KE-772-U、KE-782-U、KE-850-U、KE-870-U、KE-880-U、KE-890-U、KE-9590-U、KE-5590-U、KE-552-U、KE-582-U、KE-552B-U、KE-555-U、KE-575-U、KE-541-U、KE-551-U、KE-561-U、KE-571-U、KE-581-U、KE-520-U、KE-530B-2-U、KE-540B-2-U、KE-1551-U、KE-1571-U、KE-152-U、KE-174-U、KE-3601SB-U、KE-3711-U、KE-3801M-U、KE-5612G-U、KE-5620BL-U、KE-5620W-U、KE-5634-U、KE-7511-U、KE-7611-U、KE-765-U、KE-785-U、KE-7008-U、KE-7005-U、KE-503-U、KE-5042-U、KE-505-U、KE-6801-U、KE-136Y-U等)、信越化学工業(株)製のLIMS(液状シリコーンゴム射出成形システム)(例えば、KEG-2000-40A/B、KEG-2000-50A/B、KEG-2000-60A/B、KEG-2000-70A/B、KEG-2001-40A/B、KEG-2001-50A/B、KE-1950-10A/B、KE-1950-20A/B、KE-1950-30A/B、KE-1950-35A/B、KE-1950-40A/B、KE-1950-50A/B、KE-1950-60A/B、KE-1950-70A/B、KE-1935A/B、KE-1987A/B、KE-1988A/B、KE-2019-40A/B、KE-2019-50A/B、KE-2019-60A/B、KE-2017-30A/B、KE-2017-40A/B、KE-2017-50A/B、KE-2090-40A/B、KE-2090-50A/B、KE-2090-60A/B、KE-2090-70A/B、KE-2096-40A/B、KE-2096-50A/B、KE-2096-60A/B等)、旭化成ワッカーシリコーン(株)製のLR7665シリーズ、旭化成ワッカーシリコーン(株)製のLR3033シリーズ、モメンティブ(株)製のTSE3032シリーズ、東レ・ダウコーニング(株)製のシルガード(登録商標)184等が挙げられる。
【0036】
これらの中でも、所定温度で表面にブリードするオイル成分との相分離性の観点から、2液型のシリコーン樹脂が好ましい。具体的には、KE-1950-10A/B、KE-1950-20A/B、KE-1950-30A/B、KE-1950-35A/B、KE-1950-40A/B、KE-1950-50A/B、KE-1950-60A/B、KE-1950-70A/B、KE-1935A/B等がより好ましい。
【0037】
(オイル成分)
オイル成分は、フィルムの表面にブリードアウトするものであればとくに制限されない。例えば、シリコーンオイル、フッ素オイル、炭化水素系オイル、ポリエーテル系オイル、エステル系オイル、リン化合物系オイル、鉱油系オイル等が挙げられる。中でも着雪着氷防止効果およびブリード効果の観点から、シリコーンオイルが好ましい。オイル成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0038】
シリコーンオイルとしては、例えば、一般式(1)で表されるシリコーンオイルが挙げられる。
【0039】
【0040】
一般式(1)中、R1は、各々独立に、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、フルオロアルキル基、ポリエーテル基、カルビノール基、アミノ基、エポキシ基、シラノール基、または水酸基を表し、nは0~150の整数を表す。複数あるnは、同一でも異なっていてもよい。
【0041】
一般式(1)中のR1としては、好ましくは、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、ポリエーテル基、カルビノール基、アミノ基、エポキシ基である。
【0042】
一般式(1)で表されるシリコーンオイルとしては、具体的には、例えば、R1の全てがメチル基であるジメチルシリコーンオイル、これらのジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部がフェニル基に置換されたフェニルメチルシリコーンオイル、ポリエーテル基に置換されたポリエーテル基含有シリコーンオイル、カルビノール基に置換されたカルビノール基含有シリコーンオイル、アミノ基に置換されたアミノ基含有シリコーンオイル、またはエポキシ基に置換されたエポキシ基含有シリコーンオイル等が挙げられる。なかでも、フェニルメチルシリコーンオイル、ポリエーテル基含有シリコーンオイル、カルビノール基含有シリコーンオイルは、ポリマー成分としてシリコーン樹脂を用いる場合にシリコーン樹脂との反応性や自己縮合性を有さないので好ましい。
【0043】
一般式(1)で表されるシリコーンオイルは、数平均分子量が、好ましくは100~40000、より好ましくは200~20000である。
【0044】
また、シリコーンオイルは、25℃における粘度が、好ましくは1~10000cStであり、より好ましくは5~5000cStであり、更に好ましくは8~1000cStであり、特に好ましくは10~500cStである。25℃における粘度が前記範囲であると滑雪・滑氷性に優れるので、優れた着雪着氷防止効果を得ることができる。
【0045】
シリコーンオイルとしては、具体的には、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のシリコーンオイル(例えば、TSF431、TSF433、TSF437、TSF451シリーズ等)、信越化学工業(株)製のシリコーンオイル(例えば、KF96Lシリーズ、KF96シリーズ、KF69シリーズ、KF99シリーズ、KF50シリーズ、KF54シリーズ、KF410シリーズ、KF412シリーズ、KF414シリーズ、FLシリーズ、KF-6000、KF-6001、KF-6002、KF-6003、X-22-4039、PAM-E、KF-8010、KF-8012、KF-8008、KF-4917、X-22-163等)、東レ・ダウコーニング(株)製のシリコーンオイル(例えば、BY16-846シリーズ、SF8416シリーズ、SH200シリーズ、SH203シリーズ、SH230シリーズ、SF8419シリーズ、FS1265シリーズ、SH510シリーズ、SH550シリーズ、SH710シリーズ、FZ-2110シリーズ、FZ-2203シリーズ、BY16-201等)旭化成ワッカーシリコーン(株)製(例えば、AKシリーズ、AKFシリーズ、Lシリーズ、Wシリーズ、APシリーズ、ARシリーズ、ASシリーズ)等が挙げられる。
【0046】
これらの中でも、ポリマー成分との相分離性の観点から、TSF437、KF50シリーズ、KF54シリーズ、KF-6000、KF-6001、KF-6002等を用いることが好ましい。また、これらオイル成分のポリマー成分との親和性を高めるために、KF96シリーズ、TSF451シリーズ等を併用することがより好ましい。
【0047】
また、フッ素オイルとしては、例えば、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカリン、パーフルオロオクタン等が挙げられる。化学的安定性の点でパーフルオロポリエーテルが好ましい。
【0048】
パーフルオロポリエーテルとしては、例えば、構造式:A-(C3F6O)x(CF2O)y(C2F4O)z-B(式中、末端基Aは、-F、-CF3、-C2F5、-C3F7、-CF(CF3)OCF3、-OF、-OCF3、-OC2F5、-OC3F7、-OCF(CF3)OCF3のいずれかであり、末端基Bは、-CF3、-C2F5、-C3F7、-CF(CF3)OCF3のいずれかであり、x、y、zは0または正の整数であり、x+y+z>1であって、25℃における粘度が50~500000cStである。)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
パーフルオロポリエーテルの具体例としては、例えば、CF3O-(CF2CF(CF3)O)x(CF2O)y-CF3(式中、x、yは上記の通りである。)、CF3O-(CF2O)y(C2F4O)z-CF3(式中、y、zは上記の通りである。)、CF3O-(CF2CF(CF3)O)x-CF3(式中、xは上記の通りである。)、及び、F-(CF2CF2CF2O)x-C2F5(式中、xは上記の通りである。)等が挙げられる。
【0050】
(その他の成分)
また、オイル含有層14には、本発明の効果を損なわない範囲で用途に応じてその他の成分を含有させてもよい。その他の成分としては、例えば、溶剤、流動パラフィン、界面活性剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、フィラー、架橋剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
溶剤としては、例えば、酢酸エチルや、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、1-テトラデセン等の液状炭化水素等が挙げられる。
【0052】
流動パラフィンとしては、例えば、MORESCO(株)製のP-40、P-55、P-60、P-70、P-80、P-100、P-120、P-150、P-200、P-260、P-350、和光純薬工業(株)製の炭化水素系流動パラフィン等が挙げられる。
【0053】
界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0054】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテル硫酸塩、アルキルまたはアルケニル硫酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸またはエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和または不飽和脂肪酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N-アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキルまたはアルケニルリン酸エステルまたはその塩等が挙げられる。
【0055】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルまたはアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸アルカノールアミドまたはそのアルキレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、脂肪酸グリセリンモノエステル、アルキルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0056】
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシ型またはスルホベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0057】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0058】
抗菌剤としては、例えば、アゾキシストロビン、ベナラキシル、ベノミル、ビテルタノール、ブロムコナゾール、キャプタホール、キャプタン、カルベンダジム、キノメチオネート、クロロタロニル、クロゾリナート、シプロジニル、ジクロフルアニド、ジクロフェン、ジクロメジン、ジクロラン、ジエトフェンカルブ、ジメトモルフ、ジニコナゾール、ジチアノン、エポキシコナゾール、ファモキサドン、フェナリモル、フェンブコナゾール、フェンフラム、フェンピクロニル、フェンチン、フルアジナム、フルジオキソニル、フルオルイミド、フルキンコナゾール、フルスルファミド、フルトラニル、ホルペット、ヘキサクロロベンゼン、ヘキサコナゾール、イミベンコナゾール、イポコナゾール、イプロジオン、クレソキシムメチル、マンゼブ、マンネブ、メパニピリム、メプロニル、メトコナゾール、メチラム、ニッケルビス(ジメチルジチオカルバメート)、ヌアリモル、オキシン銅、オキソリン酸、ペンシクロン、フタリド、プロシミドン、プロピネブ、キントゼン、硫黄、テブコナゾール、テクロフタラム、テクナゼン、チフルザミド、チオフェネートメチル、チラム、トルクロホスメチル、トリルフルアニド、トリアジメホン、トリアジメノール、トリアゾキシド、トリホリン、トリチコナゾール、ビンクロゾリン、ジネブ、ジラム等が挙げられる。
【0059】
また、天然物の抗菌剤として、例えば、孟宗竹抽出物、ヒノキチオール、ニンニクエキス、カンゾウ等の漢方成分が挙げられる。また、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、金等の無機抗菌剤が挙げられる。
【0060】
また、必要に応じて、これら無機抗菌剤の担体として、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、シリカゲル、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ポリシロキサン化合物、リン酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、イオン交換体、酸化亜鉛等が使用できる。
【0061】
合成物の抗菌剤としては、例えば、2-ピリジンチオール-1-オキサイド、p-クロロ-m-クレゾール、ポリヘキサメチレンヒグアナイド、ハイドロクロライド、塩化ベンゼトニウム、アルキルポリアミノエチルグリシン、ベンズイソチアゾリン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2,2’-ジチオ-ビス-(ピリジン-1-オキサイド)等が挙げられる。
【0062】
紫外線吸収剤としては、例えば、BASF社製のTINUVIN571、TINUVIN460、TINUVIN213、TINUVIN234、TINUVIN329、TINUVIN326等が挙げられる。
【0063】
フィラーとしては、例えば、シリカ粒子、珪藻土等が挙げられる。また、フィラーとしては、分散性の観点から、表面が疎水性処理された粒子が好ましい。このような表面処理方法としては、ジメチルポリシロキサン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチレンジシラザン、環状ジメチルシロキサン等で表面処理する方法が挙げられる。このような表面が疎水性処理された粒子の大きさとしては、好ましくは、平均粒径が5nm~300nmである。
【0064】
架橋剤としては、例えば、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、メラミン系化合物、金属キレート化合物、オキサゾリン系化合物、アジリジン系化合物、エチレンイミン等が挙げられる。
【0065】
オイル成分はポリマー成分により形成された樹脂中に含有される。ポリマー成分100質量部に対するオイル成分の含有割合は、例えば25~400質量部であり、好ましくは50~300質量部であり、更に好ましくは75~250質量部であり、特に好ましくは100~200質量部である。
【0066】
ポリマー成分100質量部に対してオイル成分を25質量部以上含有することでオイル成分のブリードアウトが十分になされ、本発明の所望の効果を発揮することができる。また、400質量部以下含有することで、オイル含有層の強度を低下させることがない。
【0067】
なお、本実施形態において、オイル含有層14全体に対するポリマー成分の含有割合は、下限は、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上である。また、上限は、90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。ポリマー成分の含有量が前記範囲であると、オイル成分のブリードアウトが十分になされ、本発明の所望の効果を発揮することができる。
【0068】
ポリマー成分からなる樹脂中にオイル成分を含有させるには、例えば、ポリマー成分とオイル成分、及び必要によりその他の成分を混合した樹脂組成物を加熱硬化する方法が挙げられる。前記樹脂組成物を加熱することで、ポリマー成分がマトリックスを形成し、その中にオイル成分が分散する。
【0069】
オイル含有層14の層厚は、用途に応じて適宜決定すればよいが、0.05~3mm(50~3000μm)であることが好ましい。オイル含有層14の層厚が0.05mm以上であることにより屋外曝露耐久性が向上し、また含有されるオイル成分の量を増やすことができるのでブリード効果が高まり、本発明の所望の効果を向上させることができる。また、オイル含有層の層厚が3mm以下であることにより、ハンドリング性が良好となる。
【0070】
オイル含有層14の層厚の下限は、より好ましくは0.075mm以上、更に好ましくは0.1mm以上である。また、オイル含有層14の層厚の上限は、より好ましくは2.5mm以下、更に好ましくは2mm以下である。
【0071】
なお、オイル含有層14は、所定温度以下でオイル成分がブリードするように、使用環境に応じてブリード温度を適宜設定することができる。例えば、0℃を所定温度に設定した場合は、0℃以下でブリードするオイル成分を適宜選択して使用することにより、外気が0℃以下になったときにフィルムからオイル成分をブリードさせることができる。
【0072】
このように構成された本実施形態のフィルムは、とくに、基材層12が金属単体または金属層124を含む積層体であり、かつ前記金属単体または金属層124は、オイル含有層14と接していることから、基材層12はオイル成分を透過しにくく、基材層12によるブリードしたオイル成分の再吸着を抑制できる。
【0073】
また、基材層12にプライマー処理やコロナ処理のような易接着処理を基材層12に施さずとも、基材層12とオイル含有層14との接着が強固となる。その理由としては、基材層12は金属単体または金属層が大気に触れることにより形成された極性基(例えば水酸基)をその表面に有し、該極性基によって基材層12とオイル含有層14との相互作用が高まるものであるからと推察される。
【0074】
また、基材層12が金属単体または金属層124を含む積層体であることから、対象物から剥離する際に求められる機械的強度;耐熱性;耐寒性等の物性が向上する。
【0075】
<フィルムの製造方法>
本実施形態のフィルムは、基材層12上に、(a)ポリマー成分とオイル成分とを含有する樹脂組成物を塗布し、(b)得られた塗膜を硬化させてオイル含有層14を形成する工程を含んで製造される。
【0076】
(工程(a))
工程(a)では、まず、ポリマー成分とオイル成分とを任意の割合で含有した樹脂組成物を作製する。樹脂組成物には、上記したようなその他の成分を含有していてもよい。樹脂組成物は、原料成分が均一になるまで撹拌することが好ましく、撹拌機を使用してもよい。
【0077】
樹脂組成物中に空気が含まれている場合、成形後のオイル含有層に気泡が含まれるおそれがあり、その場合はフィルム強度が低下したり製品外観が悪化したりする可能性があるので、ガス抜きを行うことが好ましい。ガス抜きの方法としては、例えば、遊星撹拌装置で数秒~5分程度脱泡する方法や、真空下で数秒~30分程度減圧処理する方法が挙げられる。
【0078】
上記のようにして得られた樹脂組成物を、基材層12上に、金属単体または金属層124がオイル含有層14と接するように塗布して塗膜(オイル含有層14)を形成する。その塗布方法は特に限定されず、例えば、アプリケーターを用いて流延塗布する方法、刷毛塗りする方法等が挙げられる。
【0079】
(工程(b))
工程(b)では、工程(a)で得られた塗膜を硬化させてオイル含有層14を形成する。硬化の方法は、従来公知の方法で行うことができ、例えば、加熱乾燥する方法、紫外線照射により硬化する方法、架橋剤を添加する方法等が挙げられる。
加熱乾燥する場合、100~160℃で1~300分加熱するのが好ましい。
【0080】
上記のようにして本実施形態のフィルムが得られる。
【0081】
本実施形態のフィルムの厚みとしては、フィルムの所望強度やフィルムを適用する対象物(構造物)の大きさ等を考慮して、0.06~3.5mmの範囲で適宜選択することができる。
【0082】
なお、本実施形態のフィルムは、別の実施形態として、粘着層、基材層12およびオイル含有層14がこの順で設けられていてもよい。
【0083】
図3は、このような本発明のフィルムの別の実施形態を説明するための断面図である。
図3に示す実施形態のフィルム104は、基材層12と、基材層12上にオイル含有層14とを備える。また基材層12のオイル含有層14が設けられる面とは反対面には、粘着層16が設けられている。
【0084】
粘着層16の材料としては、例えば、アクリル樹脂系粘着剤、エポキシ樹脂系粘着剤、アミノ樹脂系粘着剤、ビニル樹脂(酢酸ビニル系重合体など)系粘着剤、硬化型アクリル樹脂系粘着剤、シリコーン樹脂系粘着剤などが挙げられる。粘着層16の材料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0085】
粘着層16の厚みは、10μm~100μmが好ましく、25μm~75μmがさらに好ましい。また粘着層16は、例えば公知のコーティング法等により設けることができる。
【0086】
一方、
図4は、本発明のフィルムのさらに別の実施形態を説明するための断面図である。
図4に示す実施形態のフィルム106は、基材層12と、基材層12上にオイル含有層14とを備える。また基材層12のオイル含有層14が設けられる面とは反対面には、粘着層16が設けられている。
図4に示す実施形態では、基材層12が樹脂層122を有している。そのため、樹脂層122のオイル含有層14が設けられる面とは反対面には、金属層126が設けられている。金属層126の詳細は、先に説明した金属層124と同様であり、また好ましい範囲も同様である。
【0087】
図3および
図4に示す実施形態のフィルム104、106は、粘着層16が、金属単体からなる基材層12、あるいは、樹脂層122に設けられた金属層126と接しているため、基材層12との接着性が良好となる。その理由としては、上述のように、金属単体または金属層が大気に触れることにより形成された極性基(例えば水酸基)をその表面に有し、該極性基によって基材層12と粘着層16との相互作用が高まるものであるからと推察される。この接着性の向上によって、例えば本実施形態のフィルムを対象物から剥離する際に、対象物に対する粘着層16の残存(糊残り)を防止することが可能となる。
【0088】
本実施形態のフィルムは、表面被覆材として対象物(構造物)の表面に設けて使用される。対象物としては、降雪や風雨等の自然環境に晒される物体が挙げられ、例えば航空機、鉄道、自動車、風力発電機、住宅、信号機、看板等が挙げられる。一方、水生生物の付着が懸念される対象物に対しても、本実施形態のフィルムは有効であり、例えば水中構造物(船舶、ブイ、港湾設備、海上油田設備、発電所冷却水用の水路、工場冷却水用の水路、水上浮遊通路等)が挙げられる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例および比較例により更に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中、「部」とあるのは質量基準を意味する。
【0090】
(製造例1:樹脂組成物の作製)
KE-1950-50AとKE-1950-50Bを質量比1:1で混合したシリコーン樹脂(いずれも信越化学工業(株)製、2液型RTVゴム)50部、KF-96-50cs(信越化学工業(株)製シリコーンオイル)30部、TSF-437(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製シリコーンオイル)20部を、均一に撹拌混合して、樹脂組成物を作製した。
【0091】
(実施例1)
製造例1で作製した樹脂組成物を、軟質アルミニウム(アルミニウム箔、東洋アルミニウム(株)製、商品名「1N30」、厚み=80μm)上に、乾燥後のオイル含有層の厚さが150μmになるようにアプリケーターを用いて均一に塗布した。その後、150℃で10分乾燥させてオイル含有層を形成して、実施例1のフィルムを作製した。
【0092】
(実施例2)
実施例1において、軟質アルミニウムを、アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)(東レフィルム加工(株)製、商品名「メタルミーTS(#50)」、厚み=50μm)に変更し、オイル含有層とアルミニウム蒸着層とが接するようにフィルムを構成したこと以外は実施例1を繰り返し、実施例2のフィルムを作製した。
【0093】
(実施例3)
実施例1において、軟質アルミニウムを、銅箔(古川電工(株)製、商品名「C1020R」、厚み=50μm)に変更し、オイル含有層と該金属単体とが接するようにフィルムを構成したこと以外は実施例1を繰り返し、実施例3のフィルムを作製した。
【0094】
(実施例4)
実施例1において、軟質アルミニウムを、硬質アルミニウム(アルミニウム箔、東洋アルミニウム(株)製、厚み=50μm)に変更し、オイル含有層と該金属単体とが接するようにフィルムを構成したこと以外は実施例1を繰り返し、実施例4のフィルムを作製した。
【0095】
(実施例5)
実施例1において、軟質アルミニウムを、ステンレス箔(アズワン(株)製、品番「NI-100×300×0.1」、厚み=100μm)に変更し、オイル含有層と該金属単体とが接するようにフィルムを構成したこと以外は実施例1を繰り返し、実施例5のフィルムを作製した。
【0096】
(実施例6)
実施例1において、軟質アルミニウムを、ニッケル箔(アズワン(株)製品番「SUS-□100×0.1」、厚み=100μm)に変更し、オイル含有層と該金属単体とが接するようにフィルムを構成したこと以外は実施例1を繰り返し、実施例6のフィルムを作製した。
【0097】
(比較例1)~(比較例5)
実施例1において、軟質アルミニウムを下記表1に示す基材層に変更し、熱硬化温度を下記表1に示す温度に変更したこと以外は実施例1を繰り返し、比較例1~5の各種フィルムを作製した。
【0098】
なお、比較例1~5における基材層の材質は以下の通りである。
アイオノマー:倉敷紡績(株)製商品名:ハイミラン(登録商標)1855,ポリエチレン系アイオノマー
アクリル樹脂:三菱ケミカル(株)製商品名:アクリプレン(登録商標),アクリル樹脂フィルム
ポリカーボネート:三菱ガス(株)会社製商品名:ユーピロン(登録商標),ポリカーボネート
ウレタン:日本マタイ(株)製商品名:エスマー(登録商標)URS PX
PET:東レ(株)製商品名:ルミラー(登録商標)S10
【0099】
上記作製した実施例、比較例のフィルムについて、以下の試験実験を行った。
【0100】
接触角:
表面張力が既知の試験液として、純水、ジヨードメタン、及びエチレングリコールを用いて、基材層の接触角を求めた。なお、実施例1~6では各金属単体または金属層の接触角を求め、比較例1~5では各樹脂の接触角を求めた。接触角は、各試験液の液量を2μLとし、接触角計DM-701型(協和界面科学(株)社製)により5点測定し、5点の測定値の最大値と最小値を除いた3点の測定値の平均値として算出した。
【0101】
表面自由エネルギー(γs,γsd,γsp,γsh):
基材層の表面自由エネルギー(γs)および各成分(分散成分:γsd,極性成分:γsp,水素結合成分:γsh)は、上記で求めた接触角から、北崎・畑法(北崎寧昭他、日本接着協会誌、Vol.8,No.3,1972,pp.131-141参照)に従って求めた。なお、実施例1~6では各金属単体または金属層の表面自由エネルギーを求め、比較例1~5では各樹脂の表面自由エネルギーを求めた。
【0102】
オイルブリード量:
フィルムの中心付近において10cm×2cmのサイズにカットしたオイル含有層を-20℃の温度で16時間放置したときに、オイル含有層の表面にブリードしたオイルを-20℃の温度環境下においてセルスクレーパー(ケニス(株)製、商品名「CSS-10」)で採取し、そのオイルを油取り紙の重量(吸油量)変化が見られなくなるまで吸い取った。セルスクレーパーによるオイル採取と油取り紙の吸い取りは1分間に7回繰り返した。オイル吸い取り前後の油取り紙の重量差をオイルブリード量とした。試験は3回行い、その平均値を算出した。
【0103】
着氷力:
まず、円柱状の氷塊を作製した。氷塊は、スチロール角型ケース16型(アズワン(株)製)の底面にステンレスリング(内径25mm)を置き、そこに6gの純水を注ぎ込んで-20℃で16時間以上凍結させ、凍結後にステンレスリングを除去することによって作製した。
次いで、-20℃環境に16時間静置したフィルムを、床面に対し平行に設置したステンレス板に、オイル含有層が表面となるように貼着し、そこに付着面積4.9cm2とした上記円柱状の氷塊を着氷させた。
環境温度-20℃に設定し、円柱状の氷塊を着氷させてから3時間後に、-20℃の環境下において、床面に対して平行な方向から氷塊をロードセル(イマダ(株)製 DPU-50、アタッチメント治具 A型A-4)で速度0.1mm/秒で押し、40秒の間に加わった荷重をフォースゲージ(イマダ(株)製 ZTS-50N)で測定し、測定された最大荷重を付着面積4.9cm2で除算した値を着氷力として記録した。試験は3回行い、その平均値を求めた。
【0104】
ブリード温度:
ブリード温度は、光学顕微鏡と密閉型ペルチェ式冷却加熱ステージを用いてペルチェ素子の設定温度から調べた。ペルチェ式冷却加熱ステージの上に、オイル含有層が表面となるように貼着し、窒素ガスでパージを行い、ドライ環境にした。
ペルチェ素子の設定温度を、常温20℃から2℃ずつ下げ、オイル含有層を冷却させた。ペルチェ素子が各設定温度に達してから5分間保持し、ブリードの有無を調べた。ブリードの観察には光学倍率100倍のレンズを用いた。
【0105】
滑雪性:
作製したフィルムを縦10cm×横10cm(面積100cm2)の大きさにカットし、縦10cm×横10cm(面積100cm2)のアクリル板にオイル含有層が表面となるように貼着し、環境温度を1℃に設定した試験室内に設置した。
水平に設置したフィルム表面に対して湿り雪の雪塊を約20g付着させた。雪塊を付着させたアクリル板を床面に対し60°傾けて設置した。雪塊の落下の有無を目視で観察した。観察時間は傾けた後、1時間以内とした。雪塊の落下が観察された場合を「〇」、観察されなかった場合を「×」とした。
【0106】
密着性:
JIS K 5600に基づいてクロスカット法により基材層とオイル含有層の密着性を評価した。カッターナイフ等でオイル含有層面に1mm間隔の切り傷を縦と横に付け、碁盤目状の計25個のマス目を作り、その碁盤目状の上に約75mmの長さに切ったセロテープ(登録商標)(3M社製、商品名「610-1PK」)を貼り付け、その後テープの端をつかみ60度方向へ0.5~1.0秒の時間で引き剥がし、オイル含有層の剥離状態を目視確認して評価を行った。オイル含有層が残存するマス目が90%以上であった場合を「○」、90%未満であった場合を「×」として評価した。
【0107】
投錨力:
アルミニウム板へアクリル系両面テープ(日東電工(株)製 商品名:CS9862UA)を、貼り付けた。両面テープのセパレータを剥がし、両面テープの粘着面へフィルムをオイル含有層が上向きになるように貼り合わせた。フィルムを引張試験機にセットし、180度方向に300mm/分の速度で基材層と粘着層とを引き剥がし、そのときの剥離力[N/25mm]を投錨力とした。
【0108】
基材層のオイル吸着量:
JIS K 7114:2001(ISO 175:1999)に基づき、基材層のオイル吸着量を求めた。
所定サイズに切り取った基材層を容器に入ったオイル(ジメチルシリコーンオイル、品名「KF-96 50cs」)へ23℃で24時間浸漬させた後、表面に付着したオイルをウエスで拭き取った。浸漬前後での基材層の重量を天秤で測定した。
以下の式により、基材層のオイル吸着量を求めた。
オイル吸着量=W1-W0
W0は試験前の基材層の重量、W1は試験後の基材層の重量を意味する。
オイル液量は50g、フィルムサンプル面積は6cm2の条件とした。
【0109】
上記各試験結果を表1に示す。
【0110】
【0111】
表1の結果から、実施例のフィルムは、オイル含有層と接する箇所に金属単体または金属層を設けているので、この構成を有しない比較例のフィルムに比べて、ブリードしたオイルの基材への再吸着が防止され、基材層とオイル含有層との密着性に優れ、対象物の表面への着雪、着氷または水生生物の付着を良好に防止できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のフィルムは、表面被覆材として対象物(構造物)の表面に設けて使用され、対象物としては、降雪や風雨等の自然環境に晒される物体が挙げられ、例えば航空機、鉄道、自動車、風力発電機、住宅、信号機、看板等が挙げられ、着雪着氷防止機能が発現する。一方、水生生物の付着が懸念される対象物に対しても本発明のフィルムは有効であり、例えば水中構造物(船舶、ブイ、港湾設備、海上油田設備、発電所冷却水用の水路、工場冷却水用の水路、水上浮遊通路等が挙げられ、水生生物の付着防止機能が発現する。
【符号の説明】
【0113】
100、102、104、106 フィルム
12 基材層
14 オイル含有層
16 粘着層
122 樹脂層
124、126 金属層